ある日の詩
(2004/08/16)
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作者
U-1
登場キャラクター
アル
客の求めに応じて詩を奏でる。
それが吟遊詩人としての仕事だ。
その日の依頼は恋歌である。
よく来る船乗りが給仕の女性を口説こうと依頼したのだ。
自分が如何に彼女を思っているか。
それが伝わるような詩をという依頼である。
微笑ましく思いながら竪琴の調子を合わせた。
恋する者の想いを奏でる。
それもいいだろう。最近は冒険譚ばかりだったから。
朝露に想うは 貴女の瞳 煌き潤む貴重な宝石
午後に想うは 貴女の声 活気を齎す至極の調
黄昏に想うは 貴女の唇 儚く濡れる優しい花
星空に想うは 貴女の心 知り得ぬ遥かなる地
夢間に願うは 貴女だけ 貴女に逢いたいだけ
心静かに想いを紡ぐ いつか貴女に届くように
瞳確かに貴女を想う いつか貴女が振り向くように
一途に貴女だけを いつでも貴女だけを 全てを貴女だけに
願いと誓いと想い そのすべてを捧げる 貴女だけに捧げる
貴女が求めるのなら どんな苦難すら乗り越えてみせよう
貴女が願うのならば どんな場所からでも側へと馳せ参じ
貴女が請うのならば 私の全てをこの身さえも差し出そう
貴女に嫌われるなら 私はこの身を棄てることも厭わない
貴女を想う ただその為だけに私は命さえ惜しみはしない
貴女に願う どうか私の想いに気付いてくれるだけでいい
貴女を求む この私の想いに願いに気付いて下さいとだけ
店内からは疎らに拍手が起こる。
詩を捧げた給仕の女性は熱っぽい視線を向けていた。
依頼を齎した船乗りにではなく、奏で終えたボクに。
見ると船乗りは恨みがましい目でこちらを睨んでいる。
やれやれ、どうやら依頼人のご機嫌を損ねてしまったようだ。
想いを乗せて唄うのも良し悪しだと苦笑した夕べである。
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陽気な詩をと依頼を受ける。
日々の鬱屈を吹き飛ばすような馬鹿騒ぎに合う詩をと。
そんな時もあるだろう。人生色々だ。頼まれたからには精一杯陽気な詩を唄おう。
歌を唄おう 春の詩
蝶を追おう 春の道
風に踊ろう 春の山
草妖精唄いだす 大きな声で唄いだす
わ〜い お日様 雲さんもこんにちは
は〜い 蝶さん 草花達もご機嫌よう
やほ〜 シルフ 見えないけどご挨拶
だって ぼくら 草妖精 お気楽 ご気楽 元気よく
歌を唄おう 酒の詩
夜に呷ろう 酒の杯
昼も良いぞ 酒の味
土妖精唄いだす ジョッキ片手に唄いだす
やあやあ ご同輩 今日も一緒に 酒盛りだ
やあやあ ご主人 今夜も酒盛り 大繁盛
やあやあ ご婦人 腹が邪魔して 踊れない
だって わしら 土妖精 酒好き 飯好き 笑い好き
歌を唄おう 街の詩
仕事終えて 街の夜
女房忘れて 街の酒
俺達船乗り 陽気な船乗 今日も今日とて酒を飲む
わたし商人 明るい商人 明日も明日とて酒を飲む
将官衛視だ 非番の衛視 昨日もやっぱり酒を飲み
僕は農夫さ 元気な農夫 明後日だって飲むだろう
だって 僕らは 街の人 嫌な事 仕事 辛い事
みんな忘れて楽しく飲もう いまを楽しく明るく飲もう
だって みんな 酒好き 歌好き 祭り好き 楽しければそれで良い
拍手はなかった。
みんな陽気に踊ってしまってるから。
ボクも楽しくなって頼まれもせずに奏でだす。明るく元気に威勢良く。
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時には旅愁を誘う詩を頼まれる事もある。
しんみりと故郷を思いながら酒を飲みたい夜だってあるだろう。
得意とは良い難いジャンルだが、頼まれたからには奏でよう。
遠く遠く 遥かに遠く
同じ空の下にあるというのに かくも遠く離れし我が家よ
夕焼け色の空 匂いたつ夕餉の香り
長閑な街並み 通い慣れた家路へと
川のせせらぎ 野の緑愛すべき故郷
親兄弟も待つ 恋人も待つ我が故郷
遠く遠く 果てしもなく
この道の先に続くというのに 影さえ見えぬ遠き我が家よ
風渡る野の原 香り舞う森森の花花
心深く忘れぬ 過ぎ去りし日の数々
温かく愛しい 優しき寝床の我が家
いつか帰ると 心に誓い夢見る故郷
遠く遠く なれども近く
心の中に常に色鮮やかにある 幻想となりし遠き我が家よ
短く奏で、竪琴を置く。
聴衆からの反応は鈍かった。皆それぞれの故郷を思っているのだろうか。
ボクには帰るべき場所がない。故郷を、我が家を棄ててしまったから。
「この街に帰ってくれば良いさ」そんな声を聞いた気がした。
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