東 方にて(2004/08/16)
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作者
U-1
登場キャラクター
某盗賊



「くだらねぇな」

ダーツを構えながら吐き捨てるかのように呟く。視線はあくまでダーツボードだ。

「く、くだらねぇってのは、ど、どいう意味だ!?」
「そのまんまさ。実にくだらんよ」

言いつつダーツを放る。狙い過たず20のトリプルに刺さったダーツ。
ともにゲームに興じていた男が呻き声を上げ、俺を脅しにきたはずの背後の男も「おっ」と短く感心したような声を漏らす。間抜けな事だ。

「さて、これで俺の勝ちだな」
「チッついてやがるな」
「実力さ。お前さんには悪いがね」

相手は不承不承といった感じで賭け金を支払う。
俺はそのまま背後の男を無視し、儲けた金でエールを買おうとカウンターに近寄る。
男は慌てて自分の役目を思い出した。

「おい、オレを無視すんじゃねぇよ! お前ぇの女を預かってるって言ってんだぞ!? 分かってんのか!」
「うるせぇな。知らねぇって答えたろ」
「なっ……テメエ女がどうなってもいいのかよ」

精一杯凄んでそれだとしたら、滑稽を通り越して憐憫の情さえわいてくる。

「好きにしな。そう言ったろ。そんな女の一人や二人で俺を脅そうってのが甘いんだよ」
「な、なにを!? お前ぇが女と離れらんねぇ事は調べがついてんだ。強がったって無駄だぜ」
「やれやれ、どこを勘違いしたのやら。残念ながら、追って来たのは、その女の勝手だ。俺がついて来てくれと頼んだわけじゃ ねぇんだよ。分かったら、とっとと帰って嬲るなり殺すなりしろよ」
「なっ……」

絶句した男の反応から仕掛けの底が浅い事を理解した。
女が弱みにならない場合の算段は出来てない。つまり女は俺の返事が届くまでは無事だって事だ。でなかったら、取引にならない。
視線も合わせずに俺は続けた。

「まあ、ちょっと歳はとってるが、そう多くの男を知ってる女でもねぇしな。具合は中々悪くねぇぞ。好きなように仕込むんだ な。客を取らせてもある程度なら稼ぐだろうよ」

男は狼狽したまま店を出て行った。
恐らく仲間に相談するのだろう。計画が失敗だと。
そして、そこに彼女もいるはずだ。

「いいのかい? あんな事を言っちまって?」

状況を静観していた馴染みのバーテンが声をかけてくる。
預けてあった俺の竪琴をカウンターから出しながら。

「ああする以外にどうしろってんだよ?」
「そりゃそうかもしれんが、知られたら事だぞ」
「なぁにアンタが黙ってりゃアイツには知られんさ」

そう言いつつ俺は男の後を尾行するために店を出た。
見捨てる気なんかサラサラない。間抜けな案内人についていって、不意をついて急襲し、必ず助け出して見せる。

“静寂を奏でし”ダリル様を甘くみた報いは存分にくれてやらんとな。




  


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