西 方にて
(2004/08/16)
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作者
U-1
登場キャラクター
某神官
「結局ね、人の縁って分からないものよ」
私は若い入信者に諭すように伝える。
まだ幼さの残る若い少女だ。
不安そうな眼差しでこちらを見返すその表情は、若かりし頃の自分を思い出す。
「そりゃあ、そうよ。だって神様のお決めになる事よ。私たちには分からないわね」
「でも……親の決めた会ったこともない殿方と結婚だなんて……」
「そうね。確かに抵抗はあるでしょうね。でもそれが生涯の伴侶じゃないなんて誰に分かるっていうの? とりあえず結婚して みるのも悪くないんじゃない」
「そ、そんな、とりあえずだなんて」
狼狽する少女を前に苦笑を禁じえない。
そりゃ交流を司る神の神官が口にするのは乱暴過ぎる言葉かもしれないわね。
でも……。
「でも考えて御覧なさい。チャ・ザ様は“より良き交流を”と教えてはいらっしゃるけど、“悪い交流でも交流は交流。けして 捨てる事なかれ”とは仰ってないじゃない」
絶句する少女。
まだまだ若いわね。
「私だって結婚してた事があるのよ。もう十年も前になってしまうけどね」
「か、過去形なんですか」
「そう。過去の話よ。だって仕事一辺倒で、ろくすっぽ会話もない夫なんて交流の対象にすらならないじゃない? だから『店 は差し上げます。私は神殿でチャ・ザ神の花嫁になります』って言って出てきちゃったの」
「そんな……そんな事が許されるんですか?」
「さあ? 神の御声は残念ながら私の耳には届かないもの。でも罰せられてないんだから、許されているんじゃない?」
良家の子女にとっては信じがたい話なのかしら。
彼女は胸の前で聖印を強く握り締めている。
その指先が白くなるほど強く、強く。
「それにね。私は親の決めた結婚をするために折角得た交流を邪魔されたのよ。だったら、正統な交流を取り戻す為に自分のし たいようにしたって良いじゃない?」
「はあ……」
曖昧に頷いてはいるけど、彼女の中では否定的な意思の方が強いのだろう。
眉間に寄った皺がそれを如実に語っているのだ。
私は苦笑をかみ殺しながら続ける。
「だからね。とりあえず結婚なさい。それだって交流の一つでしょ。交わってみて自分に合わない交流だったなら、“より良き 交流”を求めて別れれば良いのよ。そうやって多くの人と知り合い、様々な経験を積み、人間的に大きくなるのならば、チャ・ザ神もお許しになるはずよ」
「はあ……」
先ほどより幾分か納得したような返事。
まだ、生返事な感じは残るものの、とりあえずは理解したようね。
帰宅する少女を見送りながら私は敬愛するチャ・ザ神に祈りを捧げた。
「交流を司る我らがチャ・ザよ。今日も一人の少女と良き交流が持てた事を感謝致します。忘れてた交流を思い出し、さらなる 交流を求む心を賜ったことを……」
アル、貴方は今、どんな出会いをしてるのかしら……。
私は遠い子供時代の思い出を胸に礼拝場を後にしたのだった。
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