北 方にて(2004/08/18)
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作者
U-1
登場キャラクター
某戦士



私は今、死の床にある。
といっても硬い石畳の通路だ。

「しっかりしろ」
「今、癒しを」

仲間の悲痛な叫びが彼岸より届く。そちらが現世だという認識はあるのに、私は戻ることが出来そうにないほど力を失っている。すでに彼岸と此岸の基準が逆に なっているのだ。もう助からないだろう。

「私……より、か…レ……を……」

荒れる息の合間になんとかそれだけを伝える。
最愛の相棒だ。彼を救えなかったとしたら私が無茶をした意味がない。

誰にも荒らされていない遺跡。
それを見つけた私たちは幸運だったのだろうと思う。
けれど、そういう遺跡に守護者が残っている可能性を忘れ、軽はずみにも単独行動をとるような仲間がいた事は十分不幸な事だ。

それが私の相棒。

そう思って苦笑する。未盗掘の遺跡を見つけ喜び勇んで中に駆け込む彼を見た時は、純粋さを可愛いとさえ思っていたというのに。
彼との日々が急速に色褪せる。
よりにもよって今この時にと自分でも可笑しくなるが、止まらない。

結局、その時の感情次第ということなのかしら。

私は、今ここで人生を終えるのだとしても悔いはないように思う。
でも彼の為に死ぬという事に少なからず不満を抱いているのかもしれなかった。

正直なところ、どう思っているのかさえ分からない。
彼と過ごした日々が私にとって幸せな時間だったのは確かなのに。
けれど、それとこれとは別だと思う自分も確かに存在する。

どう思ってるのかしら?

好きなの?
ええ。だから一緒に冒険してきたんじゃない。

嫌いなの?
ええ。だって自分勝手だもの。

自分勝手だから嫌いなの?
いいえ。自由奔放だから惹かれたのよ。

自由奔放だから好きなの?
いいえ。だって周りのことを考えないだけだもの。

子供なのね?
純粋だから率直だから好きなの。

子供なのね?
自信家だから将来を見据えないから嫌いなの。

嫌いだから好きで、好きだから嫌いなの。
素直で子供だから頼りないの。

思考がまとまらない。

彼を選ばなかったら手にしてたのだろう幻想の日々が頭を過る。

商家の若奥様として何不自由ない生活をしている私。
剣を捨て安寧の中で生きながら、やっぱりどこか納得していない自分。

「意識を確り持つんだ」

仲間の声。

「死ぬな! 死なないでくれ!」

相棒の声。

良かった。
助かったのね。

「癒しを! 彼女に癒しを!」

良かったと思える。
分かって安心した。

「……もう手遅れだ……」

自分だけが死ぬ。
そう思ってしまう。

「駄目だ! 目を! 目を開けてくれ!」

闇が迫る。

私を抱きしめる温もりが遠のいていくのを感じた。
その瞬間、彼が浮かべてるであろう泣き出しそうな顔に誰かが重なる。

でも、それが誰かさえ理解することなく、私は私で無くなってしまった。




  


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