憧 れの人 後編
(2004/09/14)
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作者
執筆:霧牙 原案、加筆:高迫
登場キャラクター
アルファーンズ、ミトゥ、ディーナ、ユーニス他
ディーナから「見捨てるんですか!?」などといわれたが、ここヘ当初の依頼を先決させることに した。あれくらいでは死なない、信用してるからこそ仕事を優先するんだとアルファーンズがディーナを説得して、回り道を地図から探し上流のほうへ向かい、 比較的安全な橋を見つけてそこから対岸に渡る。
渡ってから次は下流のほうへ走り、先ほどの落ちた橋の対岸で投げた槍を回収する。
あとはしばらく続いた足跡を追跡して、念入りに気配を探しながら進むとあっさり見つけることが出来た。随分と興奮していて、すぐに猿たちの声が聞こえて きたからだった。
数はボスを含めて残りたったの四匹までに減っていた。気力が限界近いディーナをその場に残し、アルファーンズとユーニスで電撃的な強襲。
不意を突かれた一匹は後ろからアルファーンズの槍に串刺しにされた。それに驚いたボスと残りの二匹は、即座に転進して逃げ出す。だが、空手だったユーニ スが素早く精霊語を紡ぎ、《闇霊》を二匹呼び出してそれぞれにぶつけてやる。
残ったボスはすでに逃走していたが、容赦なくアルファーンズが槍をぶん投げる。命中することはなかったが、足をかすったその一撃でボスは地面に転倒して しまった。止めとばかりにユーニスが傍に突き立てておいた弓を手に取り、矢を番え素早く引き絞り、放つ。
「ギャアアア!」
断末魔が響く。矢は狙い違わずボスの背中に命中し、胴体を貫いて地面にその亡骸を繋ぎとめてしまうほどだった。
「はー………終わった」
「それにしても、アルが依頼を優先させるなんてちょっと意外だったかな」
ユーニスが不意にそう言った。
「まぁ……場所が場所だからな。こんな広い森じゃ、助けに行ってる間に奴らがどこまで行くかなんてわかったもんじゃないし」
ある特定の巣を持った敵ならともかく、森中を移動する相手だとそれが厄介だ、とアルファーンズが続ける。
「逃がしたままだとしばらくは悪さはしないでしょうけど。群れが再構築されて、邪魔者がいなくなったらまた荒らし始めるでしょうしね……懸命な判断だった かもしれませんね」
最初は二人を助けに行こうと主張していたディーナも、真剣に考えながらそう呟く。
「仲間か、仕事か。難しい問題ですね」
ユーニスが言って、短い沈黙。
「それより、次は早く二人を助けにいきましょう!」
誰かが口を開くよりも早く、ユーニスは話題を変えるかのように声を張り上げた。
「そうだな。大丈夫だと思ってるとはいえ、やっぱ心配だ」
「そうですね。あの二人ならきっと岸とか洞窟とかにたどり着いて、火を起こして………」
「そして………」
と、今回はミトゥとカミュの関係を疑問視している勘違い娘二人が、なにやら顎に手を添えて真剣に悩みだした。
その視線が不意にアルファーンズに向けられる。
「…………………」
するとまぁ、普段なら突っ込むところであるのだが、アルファーンズまで変な妄想をはじめてしまった。
川に押し流された二人。どうにか力を振り絞り岸にたどりつく。そこでどうにか薪を集めて火を焚くが、服がびっしょりでこのままでは風邪を引く。仕方な く、背を向け合いながら服を乾かす二人。くしゃみをするミトゥ。心配して自分のマントを貸すカミュ(ここで、マントもぬれているのではないか?という考え すら抱くこともしなかった)。それじゃあカミュが寒いだろうと、二人でひとつのマントを使うことにする。見つめ合う二人…………以下自粛。
おおよそ、勘違い娘二人が考えていることと、アルファーンズの妄想はこんなものだろう。
「………………ダッシュだぁっ!」
『はいっ!』
今回は妙にカミュに対抗意識燃やしているアルファーンズの声に、アルファーンズとミトゥの仲を大げさに応援している二人は、一も二もなくその後に続い た。
一方、《落下制御》で川面に叩きつけられることもなく済んだ二人は、そのままゆっくりと着水して流れに身を任せていた。こういうとき下手に泳いでは、無 駄な体力を使ってしまうことをよく知っていた。
しばらく二人で流されていると、這い上がれそうな岸を発見した。都合のいいことに崖の一部に口を開けた洞窟もある。あの中でなら例え雨が降ったとしても しのげるだろう。
二人は頷きあい、その岸目指して泳ぎ始めた。
岸に這い上がり、洞窟に入る。洞窟までの途中にあった大きな枯れ木の周りに落ちていた枝を拾っておく。量的に足りなさそうだったので、剣で枯れ木に残っ たままだった枝を全て切り落として、それらを薪にして火を焚いた。
濡れた服は体温を奪う事を、二人はよく知っていた。だから早く乾かさないと、とミトゥが服を脱ぎ始める。カミュの前で、それはもう堂々と。
「……ミトゥ、それ何?」
上の服を脱ぎだしたミトゥを見て、顔を背けようとしかカミュが、思わず訪ねた。ミトゥは胸から腰の下あたりまで少しきつめに布を巻いていたのだ。
「これ? この前マイリー神殿の訓練場で知り合った女性剣士に教えて貰ったの。背筋が伸びていい感じだよ、カミュも試してみたら?」
「……今度ね」
色気も、へったくれもなかったが、この方がミトゥらしいと、カミュは思わず笑みを浮かべ、自分も上着を脱ぎ去って、乾かすことにした。さすがに下はお互 い履いたまま、火にあたりながら乾かす。
「ねぇ、ミトゥ。今、楽しい?」
どれぐらい経ったのだろう。しばし火を見つめ無言でいたのだが、不意にカミュが沈黙を破った。
「うん、楽しいよ……そりゃ大変なことも辛いこともあるけど、楽しい」
「そっか……じゃあ、幸せ?」
「んー、あんまり考えたことないや。でもきっと、今の生活から足を洗って、結婚でもして家庭にでも入ったら、あぁ幸せだったんだなぁ、ぐらいには思うか も」
「結婚する気……いやその前に、誰かと付き合う気、あるの?」
「今んとこないし、相手もいない」
きっぱりと言い切るミトゥの姿に、カミュはアルファーンズをほんの少し哀れんだ。最初は解らなかったが、何度も顔を合わせているうちに、さすがに気がつ いてくる。
「ねぇミトゥ、知っていた? 君は僕たちにとって憧れの人だった。自分達よりも小さいのに負けん気が強くって、真っ直ぐで、それに振り回されることもよく あったけど、僕たちは君と一緒にいるのが楽しかった」
突然の、昔話のような告白。それを隣で聞きながら、炎でてらされるカミュの横顔をミトゥは眺める。
「昔ね、僕はミトゥのようになりたかった。こういうのを恋なんだって思ってた。大きくなってから、それは全く違うものだって、ちゃんと気がついたんだけど ね。でも、恋とは別の意味で、ミトゥは大好きだよ」
「そりゃ、ボクだってカミュは大好きだよ」
「うん、ミトゥなら、そういってくれると思った。そういってくれるって解ってたから、そしてきっと一番に喜んでくれると思ったから、真っ先にミトゥに教え たかったんだ…………僕、再来月結婚するんだよ」
「へ? 結婚!? 相手誰!?」
いきなりの結婚宣言に、素っ頓狂な声を上げて、ミトゥはカミュを見た。カミュは変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「ミトゥの知ってる人、僕の家の三軒隣に住んでいるカレア」
「カレアかぁ。案外お似合いかも、おめでと。驚いたけれどカミュが幸せになることはすっごいうれしい!」
「ありがと、ミトゥ。ミトゥも、結婚することになったら真っ先に僕に教えてよ、ミトゥが何処にいても絶対いくから」
「うん! 絶対教える、もう真っ先に!」
はしゃいで約束を取り交わすと、ミトゥはカミュにぎゅっと抱きついた。
「結婚おめでとう、カミュ。幸せにね」
自分を抱きしめ、幸せを祈ってくれる一番の幼なじみを、カミュも抱きしめ返す。
「ミトゥこそ、きっと幸せにね」
間の悪いことに、アルファーンズたちが洞窟から煙がでていることに気がついて、助けに来たのは、ちょうどそんな時だった。
半裸の男女が、目に涙を浮かべてうっとりと(三人にはそう見えた)抱き合っている。
『…………』
そんな場面を目の当たりにして、洞窟の入り口で金魚や鯉のように口をパクパクさせている三人。
「あ。やっと来たんだー。ありがとー、ディーナ。助かったよ」
先ほどの《落下制御》のことを言っているんだろう。この状況をなんとも思っていないミトゥが、にぱっと笑いながらそう言った。
「い、いえ……役立ったようで何よりです」
逆にディーナはその状況に激しく混乱しながら、どうにかそう言い返すことが出来た。
「み、ミトゥさん、そのカッコは……」
ユーニスも、どうにか声を絞り出す。
「服乾かしてたんだよ、もうぐっしょり」
「ご、ごめんなさい。さすがに服を乾かす魔法は知りません」
ついにはパニックのあまり、わけのわからないことを言い出すディーナ。
アルファーンズも、これ以上ないほどの凶悪な目つきになって、がたがたと震えながらカミュを見続けていた。さすがにミトゥほどこの状況を甘く思っていな いカミュは、慌てて言い訳しようとするが――自分の結婚を祝ってくれただけだと、いくら本当の話をしようとも、無駄なのは目に見えて分かる。
「……俺、お前はそこまで深いところまで行ってないとは思ってたんだが………負けた」
なにやら、本当にわけのわからないことをほざき、アルファーンズはがっくりと崩れ落ちる。
「だ、だから違うんですってば………話聞いてくださいよ!」
いつも誤解を受けて同じようなセリフを吐いているアルファーンズだったが、このときはじめてこのような言い訳めいたセリフに説得力がないということが分 かった。「違うんです」ほど、必死に言い逃れしようとしているセリフはない、とまで思ったほどだ(無論、実際は違うのだが)。
「…………もう帰ろう。敵は殲滅したんだし」
「………そうですね」
「……村長さんたちに報告にいきましょう」
もうユーニスもディーナも、この関係を修復させるのは無理だと悟ったのだろうか。とぼとぼと、背中に影を背負って、三人は洞窟から出て行った。
「ちょ、ちょっと待ってってば!」
ミトゥとカミュは、慌てて生乾きの服を着て、着ている暇の無い鎧と武器を手で掴み、火の始末をしてその後を追っていった。
数日後。
村長から報酬とキノコを受け取り、感謝されて村を送り出された一行は、そのまま何事もなく無事に流星亭に帰ってきていた。
そして、またもやミトゥが仕事の打ち上げをやろうと言い出したのだ。
報酬としてもらったキノコをセシルに調理してもらい、エールやら秋に入って収穫されたばかりの葡萄で作られたワインやらの酒も用意された。
「ほらー、あんたいつまでそんな馬鹿みたいな暗い顔してんのさー。楽しみにしてたキノコだよ?」
ミトゥは机に突っ伏すアルファーンズに、串に刺して焼いただけのキノコや、薄く切ってライスに混ぜたもの、スープに入れたものなどを勧めるが、まったく 関心がなさそうにうじうじしている。
「……そっとしておきましょう」
「………さすがに、私たちでもかける言葉が見つかりませんよ」
遠い目をして、アルファーンズを気遣う二人。
「………? もういいよ、じゃあ四人で楽しもう」
と、アルファーンズを席に引っ張ってくることを放棄して、エールのジョッキを手に取るミトゥ。
「え、ええ」
「ちょっと気が引けますけど……」
とはいったものの、事前に二人はアルファーンズから「俺のことはほっといて楽しんでくれ」と言われている。ついでに「二人であいつらのことを祝ってやっ てくれ」とまで言われていた。
後ろ髪を引かれつつも、再びアルファーンズが「いいから」と言いつつ手をぱたぱた振ったところで、励ますのを諦めて宴会の席に混じっていった。
宴会が進み、キノコ料理も酒も半分ほどなくなったころに、ふと思い出したようにミトゥが一同に報告した。
「そうそう、カミュがねー、再来月にカレア……ああ、ローラ村にいる幼馴染の女の子ね。彼女と結婚するんだって。それも祝ってあげようよ!」
『………え?』
ユーニスとディーナの目が点になる。今の今まで、カミュとミトゥがアルファーンズを捨ててまでくっついていたと思っていたのに、この発言である。
「………え。あれ? カミュさんはミトゥさんとじゃ」
「へ? だから、結婚するのは、カミュと幼馴染のカレア。気立てのいい女の子だよ」
「じゃ、じゃああの洞窟で抱き合ってたのは?」
「カミュが結婚するって聞いたのそのときなんだよ。それで、おめでとうってお祝いしてたの」
その質問を不思議とも思わず、けろっと答えるミトゥ。その横で、ようやく誤解が解けたか、と言わんばかりにカミュがほっと一息ついている。
「………ふっふっふっふっふ」
ふと、そんな笑い声が聞こえてきた。テーブルにうじうじと突っ伏していたアルファーンズがその声の主だった。
「………なーっはっはっはっは! そーか、そーか、そーゆーことか!」
「なんなんだよ、元気ないと思ったらいきなり変に笑い出して」
ミトゥのつっこみも無視して、アルファーンズはどかどかといつもの傍若無人な足取りで宴会の行われている席へ向かっていく。
「どーりでおかしいと思ったぜ! お前にそんな度胸があるとは思えないしな! わーっはっはっは!」
ばしばしとカミュの背中をたたきながら、アルファーンズはその横にどっかと腰を下ろした。苦笑しながら「大きなお世話ですよ」というカミュの言葉も無視 して、その手にジョッキを持たせる。
「やー、めでたいめでたい。そーかそーか、幼馴染のカレアちゃんと結婚、いいじゃないか、幸せになれよー、このこの! さぁ、飲め!」
ジョッキに並々とエールを注ぎ、それを勧める。ユーニスやディーナまでも、呆れ返るほどの態度の変わりようだ。
煮え切らないような目でぢーっと視線攻撃してくる二人を無視して、さらに自分もエールを一気飲みする。
「………不機嫌だったり沈んでたりしたと思ったら、馬鹿みたいに騒ぎ出すし。君ってよくわかんない性格してるよね、まったく」
ミトゥも不審げにしながらも、機嫌が治ったことで幾分安心しているようだった。
「わはははは! 気にするな、気にしたら負けだ! ほれ。お前も飲め!」
「言われなくても飲むってば」
ミトゥも押し付けられたジョッキにラキスを注ぎ、くーっと一気に飲み干す。
その様子を見て、ディーナとユーニスは互いに顔を見合わせる。
「……私たちの気苦労って、いったいなんだったんでしょう」
「……さぁ……。でもよかったです、これで二人は元通りなんですから」
「そうですねっ。じゃあ私たちも楽しみましょう!」
「にゃはははは! おいこらっ、俺の苦労の成果のキノコが、なんでもう半分しかないんだ!?」
「私たちの、ですよっ!」
「自分ひとりの手柄じゃないんだから!」
アルファーンズのそのセリフに、二人で猛然と反論して、自分たちもたっぷり楽しむべく、再び宴会の輪に戻っていった。
「うにゅー……もう飲めません」
「すぴー………」
すっかり夜も更け、宴会の場もすっかり静かになっていた。ユーニスがエールの樽を抱えて眠りこけ、ディーナは椅子ふたつをベッド代わりに横になって眠っ ている。カミュも机に突っ伏し寝息を立てていて、おきているのはアルファーンズとミトゥだけになっていた。
「みんな寝ちゃったね。そろそろお開きにしよっか」
「うー。そーだな………さすがに飲みすぎた」
「君はちょっとは限度を考えなさい」
軽くお説教じみたことを言って、席から立ち上がる。ミトゥはまだ千鳥足にはなっていなかったが、アルファーンズはかなりふらついていた。
「ほら、しっかり。みんなを部屋に運ばないとダメなんだから」
「わーってるって………あー。それよか、ちょっといいか?」
「何さ?」
「ちょっと外出よう、酔い覚まし」
適当に理由を付けて、ふらふらと外へ向かって歩いていくアルファーンズ。
「こら、待ちなってば!」
慌ててそのあとを追って、ミトゥも外へ出て行く。
からん。
むく。むく。むく。
二人が外へ出たところで、寝ていたはずの三人が起き上がった。
「みんな、静かにね」
「わかってますわかってます……てゆいうか、カミュさんまで寝たふりしてたんですね」
「ええ。僕からみても、ミトゥはアルさんに少なからず好意を持っているように見えますから。応援くらい、したくなりますよ」
「やですねぇ、カミュさん気付いてないんですか?」
「少なからず、じゃなくてもうラブラブなんですよー」
二人の断定しきった言葉に、カミュは苦笑を浮かべながらも、揃ってすすすっと入り口の扉に近づいていく。
「涼しいねー」
「ああ、そーだな」
懐の霧の箱を確かめつつ、頷く。うだうだ悩んでいても仕方ない。再び決意しなおし、ようやく懐から箱を取り出した。
「おい、ミトゥ。これ、世話になってる礼だ」
何度もシミュレートしたとおりのセリフを言って、箱を渡した。
「ん? なにこれ、あけていいの?」
「いいぞ」
箱を包んであるリボンを解き、蓋をぱかっと開ける。すると、中には美しい銀細工の髪飾りが入っていた。
「わー、可愛いね。しかも高そー。でも、いいの?」
「いいんだってば、礼だから」
一方そのころ。
「おー、アルってばなかなか気の利いたところもあるじゃない」
「そうですねぇ、遠目に見てもなかなか素敵な髪飾りです」
「その調子その調子」
「でも、唐突だね」
「前にまとまった金が入ったっていっただろ。せっかくだからな。それに、最近、前の大祭んときに買ってやったやつ、付けてなかったし」
飽きたのか? と続けるアルファーンズ。
「やだなー。違うよ。前に母さんの形見が届いたでしょ? あの箱のなかに、大切な思い出ってことで一緒にしまってあるんだよ」
「……そ、そーか」
思わず、顔が赤くなるアルファーンズ。夜でよかった、とつくづく思う。
一方そのころ。
「いい雰囲気じゃないですかっ」
「なんかすごいドキドキしてきました」
「思ってたよりも、なんとまぁこれは」
「貸してみ、つけてやる」
「悪いねー」
箱の中の髪飾りをアルファーンズに手渡し、頭を少し下げるミトゥ。襟足はつんつん外側にはねてはいるが、サラサラの銀髪を手に取り、その感覚にらしくな くどぎまぎしつつ髪飾りを付けてやる。
「んー、イイカンジ。さんきゅ、大切にするよ」
にっこりと微笑むミトゥ。
「お、おう………」
くるっとそっぽを向いて、赤くなった顔を隠そうとするアルファーンズ。
一方。
「あー……そこで最後まで告白すればいいのに」
「大丈夫ですよ、今更何度も言わなくても、ラブラブなんですから」
「そうですよ、もうラブラブな………あぁ!」
思わず大きな声を上げそうになって、ユーニスはあわてて自分の口を塞いだ。
「大変、一番最初の問題が解決してません!」
「最初の問題って………あっ」
ユーニスに言われて、ディーナも思い出す。
「ミトゥさんの会いたい人!あぁ、せっかく二人の前には、もう何の問題もないと思っていたのに」
「アル、このままやっぱり片思いで終わるのかしら………」
「あぁ、それなら………」
二人ががっくりと肩を落としたところで、カミュが笑顔で何かを言いかける。その瞬間、二人は思いっきりカミュに詰め寄った。
「何か知ってるんですか!?」
「相手の人は、いったい誰なんですか!?」
「ミトゥの会いたい人ですよね? ミトゥが冒険者になるきっかけになった、昔うちの村に依頼でやってきた女冒険者さんだと思いますよ。確か……名前はウル フィーナ、だったかな?」
「女………冒険者?」
「ウル………フィーナさん?」
「えぇ、ミトゥの憧れの人です」
かつてのカミュにとって、ミトゥが憧れの人であったように、その冒険者はミトゥにとっての憧れの人だった。
カミュはその人のことをまだ忘れていない事実を知って、アルファーンズと一緒にいるミトゥに視線を移し微笑みを浮かべた。
「じゃあわたし達の気苦労は」
「本当に取り越し苦労だったんですねぇ……」
カミュとは正反対に、再度肩を落とす二人。
カミュはそんなユーニスとディーナに苦笑しながら、そろそろ戻りましょう、といって二人の背中を押して、二階のそれぞれの部屋に引き下がっていった。。
「それじゃ、そろそろ皆を運ぶ?」
「………あー、もーちょっとだけ。まだ酔いがさめてないみたいだし」
店の壁を背に、星を見上げるように天を仰いでアルファーンズが言った。
「……そだね。じゃ、もうちょっとだけ」
ミトゥも頷き、アルファーンズの横に寄り添って、同じように星を見上げた。
秋の夜空に、様々な想いを乗せてひとつの星が流れていた。
おわり
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