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巨人の死んだ日
リヴァース [ 2002/01/02 2:18:06 ]
 12の月の終わり。年が変わるときは、はじめの巨人が死んだ時間だ。過ぎ越しの瞬間、詩人達は大陸の各地で、鎮魂歌を奏でながら、孤独のままに滅び、世界の祖となった、巨人を悼む。
今年の過ぎ越しの祭りはどこで過ごそうかと思っていたら、「暁梟の詩人」という二つ名の有名な者が、その時間にオランの門で奏するという噂を、街道で聞いた。昔、ムディールで詩吟の手ほどきをしてもらった行方不明の老婆に名が似ていた。なにか縁があるのかしれないと思い、ミラルゴの処女雪を足跡で汚した後、早々に、オランにとんぼ返りをしてきた。

刻限ぎりぎりで入城したときに、ヴェイラとアイリーンにいあわせる。彼女らから聞いた話では、「暁梟の詩人」は、裏声の得意な太った中年であるうえ、場所がかわったということで、結局、聞きそびれてしまった。

そうでなくても、門の前の広場は、詩人達の唄が冴え渡っている。その中で、アイリーンと、初めて触れた精霊について、話題になった。
母の奏でた唄が、彼女に、風の精霊たちに引き合わせてくれたという。すでに彼女の母は亡いことが伺われたが、氷乙女と絡み合って悪戯をしようとする風乙女たちを見るアイリーンの目は、透明で、穏やかなものだった。

最初に触れた精霊…子供の頃、常に共にあった、悪戯者の禿げ小人、レプラコーンのことを思い出していたら、どこかしらソレに似た風体の奴、"形見屋" が現れた。

すれ違った子供が泣き出しそうな強面の"形見屋"の、文字通り頭の先からつま先まで、いかにも突っ込んでほしそうな風体。それは、かまって欲しがり屋だからか?などとからかっていると、アイリーンがいきなり、「お友達になってください!」などと言い始めた。ブーレイが及び腰になる。ナチュラルにやっているから、余計に恐ろしい。

一陣、門から飛びこんでくる風。
「ほら、風霊も心配している。あんな奴と友達になりたいなどと言い出したおまえを心配する母がやってきたのかもしれん。」
最初は、単に冗談のつもりだった。
ヒトに宿っていた数多の精霊の力は、そのヒトが死ぬと、拡散して精霊界に帰る。風も、水も、火も、土も、感情たちも、みな。

通常、精霊は、物質界のモノなどに構いなどしない。 我らの呼びかけに答えた彼らを、友だとみなしているのは、我々の側が彼らに押しつけた主観に過ぎない。彼らは、我々が彼らをどう思っているのかなど、どうでもいいことなのだ。石が我々をどう思っているのかに、我々が構わず、ただ勝手に石がある、と認識しているのと同じことだ。
「意思ある力」はただそこに存在し、時たま働きかけてくる強い意思に従うだけだ。それを我々が、勝手に解釈し、翻訳しているだけにすぎない。

ただ、精霊にも個性がある。物質界に精霊使いがいるのと同様に、精霊界にも物質界に親和性の高い、いわば「人間使い」のような精霊が居るのかもしれない。
そして、それは、もしかして、かつて「ヒト」や生物の一部だったモノだったりするのかもしれない…。
我々の周囲に集う精霊たちは、かつて我々に親しかったものの一部で、我々に会いにやってきた。
それはあまりに勝手な、我々の思い込みに過ぎないだろう。しかし…

なぁ、いいじゃないか。その思いこみが、真実として、我々の心を漱いでくれるのなら

母親の想い出を語るアイリーンの声が心に響き、共鳴してくるように、一つの風景を思い起こさせる。
白い雪を下から抱きしめる、とねりこの樹。故郷のエルフの森には、子供が産まれたとき、その分身として一本の樹を挿し木する。…それは、顔も知らなかった、母の分身の樹。

編み出した意味が、解釈が、善きものとして心に響いていくのなら。
なぁ、いいじゃないか。ゆきずりの風霊に、懐かしさを感じてみても。

言われてみれば、精霊がなんであるのか、本質を考えることばかりに固執していて、自分の思いがどこにあるのかを見失っていた。その主観こそが、精霊との親和になるのかもしれないのに。
そのことに、アイリーンの言葉が気付かせてくれた。

あの精霊は、かつて、懐かしき者の一部だったのかもしれない。
なぁ、今だけは、いいじゃないか。過ぎ去る風霊のなかに、憧憬する影を重ねても。

…おかあさん…と。

今夜は、孤独に耐えきれず滅んだ巨人を、悼む時。
巨人の意志を皆が受け取り、寂しく思う心を癒す為、家族と共に過ごす時間なのだから…。

 
この、風の精が踊る夜
アイリーン [ 2002/01/11 2:34:56 ]
 1年が終わる時、そして始まる時。…年の境目の日。
街のあちこちで響く、詩人が紡ぐ歌。
殊更に風が強く吹く、歌を街中へそして巨人の下へ届けるかのように。


宿のおじさんに、暁梟の詩人さんの事を教えていただいて、あたしは門前広場に向かいました。
結局、その詩人さんの歌は場所が変わったとかで聴けなかったですけど。代わりに、出会った方達と…お友達になれたです。

素敵な方達…そこで会ったのは、リヴァースさんと、ヴェイラさんと、形見屋さん。

リヴァースさんに自己紹介した時、言われました。
リィン、という名の響きが…シルフが、氷窟に埋もれた水晶の鐘と遊ぶ音のようだと。
…響きが鈴の音みたいだろ、っておとーさんがよく言ってくれたのを思いだしました。忘れてた訳じゃないですけど、とても懐かしくて…嬉しかったです。
鈴の音、その名前に込められた思いを…その中にある願いが、リヴァースさんが言われたように、「慰め」だというのなら。叶えられるような人になりたいと、そう思いました。

悪戯好きの小人さんに似た方、形見屋さんとも出会ったです。
…精霊さんと似ている方という事もあって、お友達になってください、と言ったですけど…何か悪い事を言ったでしょうか…。あまり、話せなかった気がします。
「似てる」からお友達になって欲しいと思ったですけど…。それがきっかけでも、お友達になって、相手の事を知ることはできるですよね。
…頑張るです(謎)

街に響く、詩人さん達が紡ぐ歌。巨人の死を悼む詩…それが重なり合って、不思議な音色に聞こえます。
リヴァースさんが…詩を歌ってくださいました。
澄んだ声が、ライアの弦の音と共に風に乗ります。


巨人さんの死を悼み、体に掛ける為に織られたもの…人が紡ぐ時で織られた、布。
その折り重なった布の…人が関わり合う事で現れる色と模様。

今宵の布はまた変わっていると、そうリヴァースさんはおっしゃいました。
でも…どんなものでも糸は…その人の紡がれた時が再び来る事はない。
でも戻らないからこそ、二度と無い時だからこそ素敵なのだと…生まれた街を出て1年経って、ようやくそう思えるようになりました。


その後…精霊さんと、人との関わりの話をして…
リヴァースさんは言っておられました。
自分は「混ざりモノ」だけれど、と。混ざっている事が、混ざっているものが嫌いだったけれど。
…いずれ、"混ぜる者"と呼ばれるようなれればいいと…願っていると。

リヴァースさんは…きっと、橋渡しを…この世界や…精霊界や。そこに住まう者達の間の橋渡しをする事を、目指されているんだろうな、って思いました。
だから、あたしも…同じように、願いを…今のあたしが、心から思う願いを言ったです。
おとーさんが付けてくれた名前…その名前に込められているかもしれない願いを。叶えられるような人になりたいと…。
ずっと、強くなりたいと、一人でも生きていけるように強くなりたいと思っていたですけど。
それは本当は、失った時に寂しいからで…。一人なら、もうそんな思いはしなくていいと、そんな理由だったかもしれなくて。
でも今は、思うです…周りに居てくださる人に、その方に少しでも…あたしと出会えてよかったな、って思ってもらえるような人になれたら…と。

風の強い年の変わり目に…。
リヴァースさんと出会えてよかったと…思いました。

今年は去年に増して、いい年になりそうです。