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強くなるということ
フォーン [ 2002/01/22 10:36:41 ]
 
…誰かを守る為に強くなりたい。
そんなものは後付けの理由だったのかも知れないし。
やっぱり自分のためにだったのかも知れないし。

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…随分前の話だ。深夜の自由人の街道外れ。

オレは寒さに負けてあと数十分の距離で面倒くさくなって、野宿するか
迷って、やっぱり宿まで走ろう、と思った時に、ウェスター、というオレより
でかい身長の男に会った。

焚き火の前で、話はお互いの体格の話から、続いて武術のことになった。

「うーん、そうだな、武芸じゃ足りない、って感じたのは成人する前ぐらいかな?
瓦が割れても人は救えないだろ?」
そう軽い調子で言うオレに、ウェスターが笑って頷いた。

それで、武術、がやりたいって思ったんだ、と続けた。
いつものオレの理由だ。誰かを守る力が欲しいって。

「うん、人を救うには、やっぱり、いい師匠について、武術の技や理念を学ぶのがいいね。
 あと、精神まで鍛えられるっていうしね!やっぱり、心が鍛えられてこそ、はじめて強い
 力を振るう資格があるんだろうしね。」

ウェスターがそう言いながら、白い歯でにこやかに笑う。
「いまは、いい師匠はみつかったかい?」

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そのとき思い出したのは、冒険初めの頃に出合った男のことだ。
あの人はオレを弟子にはしなかった。でもオレはあの人を師だと思っている。
あの人がオレを認めない理由も、ちゃんと聞かずに別れた人のことを。

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強くなるということ・2
フォーン [ 2002/01/22 10:38:06 ]
 師匠だと言われて、思い当たる人は一人だけだった。
「…オレが勝手に師匠だと思っている人はいるよ」
けど、その人はオレを弟子とは思ってないだろう。
…だからここで言葉を切った。
ウェスターの質問に、なんとなく煮え切らなかったオレだ。

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その人に会ったのは2年前の今頃だった。

武芸しか知らないオレに、その人は格闘武術の理論や理念を教えてくれた。
実直で冷静で、それでいて激しい、そんな自分なりの武術を持つ人だった。
ほんの数ヶ月、オレはその人に武術を学び、その教えに傾倒していった。
名前も教えて貰えなかったし、下手をするともう会えないかも知れない。

…見せるための派手な動きも何もない。
ただ真っ直ぐに拳で打倒するために動き、攻撃がすべてだった。
防御はありながらにして攻撃への布石で、盾となり防ぐという概念がない。
受け流し攻撃に転じ、敵の真っ向に詰め入って、弱点を打倒して破壊する。

真っ直ぐで飾りのない、自分の拳を伝わって実感される明快な力。
真っ直ぐなもの。確かなもの。偽らないもの。自分を証明できるもの。
今まで武芸では得られなかった、欲しかった実感がこの力だった。

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でもその人はオレを弟子にはしなかった。
別れの日まで、オレはその人にこれ以上の関わりを求めたけど、
あの人はオレにそれ以上を教えてはくれなかった。

「…どうして強くなりたいと思ったんだ?」
別れの日、その人はオレに聞いたんだ。
オレはいつもの理由を口にする。
いつか誰かを守る力が欲しいって。

「迷いのあるうちは何も求めることはできない」
言っている意味がわからなかった。
「迷いがあるうちは、これ以上を教えられない」
それ以上の理由は聞かれなかった。
ただ言葉を濁された気がして、それ以上は深く考えなかった。
そうして、オレはその人と別れたんだ。

 
強くなるということ・3
フォーン [ 2002/01/22 10:39:41 ]
 
「迷いがあるうちは、何も求められない」
あの言葉だけがずっと耳のどこかに残っている。
迷いなんかない。そう思っていたのに。
ただ強くなりたいだけだって、そう思っていた。
ただ誰かを守れるぐらい強くなりたいんだって。

あれは先日の酒場でだったか。
「じゃあ誰を守るんだ?」ってリックに聞かれたときに、
「今はいないけど、誰かそのうち守りたくなった時に」
そう答えた自分の適当さが、なんだか恥ずかしかった。

酒場でリックに言われた台詞…「随分と曖昧だな」、って台詞が
わかっているから、頭から離れないんだ。耳の裏から離れない。