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カーナ [ 2002/03/15 7:40:37 ]
  時にして三月ほど前、あたしは泣いた。
 泣いた事を認めなかった、誰にも。
 悔しかったから。

 そして決めた。
 無理に二兎を追うより、本職に専念しようと。
 目的もぼやけたまま精霊を追って、見えた筈の罠に命を落とさぬよう。
 少なくとも、その事で他人に笑われたくなかった。

 きっかけは唐突にやってくる。
 結果は何時だって鮮明だ。

 あの時も泣いた。
 あの時も飲んだ。
 あの時もラスがいた。

 あの時は悔し涙だった。今夜は嬉し涙だった。
 あの時は古代亭だった。今夜はきままに亭だった。
 あの時はジントがいた。今夜は冒険者の大先輩と、相棒がいた。

 あの時のあたしと、今夜のあたし。
 何がどれだけ違うのか。

 そんなことはどうだっていいんだ。
 お化けだと思っていた音がただの雨漏りだったと気付いた時ぐらい馬鹿馬鹿しい。
 怖がっていたものは、怖いものじゃなかった。それだけ。
 それだけの事で、これだけ気分が違う。

 ラスに「ありがとう」と言った。
 打算でも礼儀でもなく、ただ純粋にありがたいと思ったから。
 それは、意外と少なくて、珍しくて、自然なこと。
 普段から歳より若く見られる顔が、さらに幼く見えたに違いない。

 ま、たまにはそれもいいかな、なんて思う・・・そんな夜。