| 錆びた黄金 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/21 23:43:02 ] |
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| | 年が明けてからこっち、ずーっと追いかけてるヤマがあった。ふん、クソみてぇなヤマさ。 ちょっとした、やべぇ薬を……まぁ、有り体に言やぁ麻薬だわな。 それを扱ってるルートを見っけろってぇのがオレの仕事だ。 潰す? オレが? ヘヘッ! 馬鹿言っちゃいけねぇ。オレ程度でそんなこたぁ出来ねえさ。
もともと、そっち関係の薬なんてぇのは、ギルドで仕切ってる。 けどなぁ、時々いるんだよ。ギルドの目ぇ盗もうってぇ馬鹿な奴らがな。 以前から、少しは匂ってきてた奴らだ。 そろそろ尻尾の切れっぱしでも掴めるかってんで、オレが路地裏を這いずり回ってるってこった。 ま、オレが見つけたって、オレが潰すわけじゃねえ。 ギルドの上役に報告するだけさ。そうすりゃ、そのルートは3日と経たずに木っ端微塵ってぇ寸法だ。
ま、そんなワケで、オレぁマジメに働いてたわけよ。こつこつとなぁ。 オレが目を付けてんのぁ、イエメンってぇ野郎だ。 前に、どう見てもカタギの奴ぁ来ねぇだろってぇ屋台で飲んでた時に隣に座った兄さんだ。 どうにも素振りが怪しい。口調も怪しい。 オレが騙ったのぁ、「鍵屋を生業にしてる普通の親父」さぁ。 そんな振りして、ちぃとばかり探り入れりゃぁ、案の定アタリだぁ。 “錆びた黄金”ってぇ店の名前だしやがった。
“錆びた黄金”は、もともとギルドの管轄下だ。店主に合い言葉言って地下に行けば薬が買える。 けど、そっから繋がる別ルートは、ギルドの目からは逃れてやがる。 ちょろちょろと尻尾は見え隠れするもんの、決定的な証拠っつーのがねえんだ。もちろんアタマもわかんねぇ。 “錆びた黄金”の経営者引っ張ってきて、優しぃく聞いてやったんだが、それでもわかんねぇ。 こうなりゃ客かと思えば……別ルートに流れてった客のほとんどが、薬で頭ん中ぁヤられっちまってるとくらぁ。
ふん…イエメンさんよぉ。教えてもらうぜぇ? あんたぁ知ってるはずだ。 オレぁ、あんたと会ったあと、あんたのこたぁ調べさせてもらったんだ。 ……ただなぁ…オレのツラぁ見てあの兄さんビビりやがるからなぁ。こないだなんか、危うく殺されっちまうとこだった。 ツラぁ割れてねぇ奴を回すか……にしても、ことがことだけに、そこらの若造使うわけにもいかねえしなぁ。 女鼠まわして、油断させるってぇのも悪くねえか……。
とりあえず、鐚一文横丁にでも行ってくっか。 “皮剥ぎ”の野郎が何か知ってっといいんだがなぁ…(はだけた胸のあたりをぼりぼり) |
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| ガデュリンの息子と”鍵”の娘 |
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| イエメン [ 2002/05/23 0:50:08 ] |
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| | 何から話すのがいいのかな。むろん、あんたが誰かなんて謎のままだが…。そこから見てることは疑いねえ……。HA、今日は話を聞いてもらうかな。 なにせ、ずっとなかったように、頭ん中の霧が晴れてんだ。今なら少しは昔のことまで思い出せるからね。
おれはドゥーバヤジットに騙されようとしてる人を助けるため、情報を欲しがっていた。その話に関心を示してくれたのが、カーナという姉さんだ。おれの宿まで来てくれたよ。彼女はおれのことを知りたがった。そして……
今、彼女はおれのそばで寝顔を見せている。 静かな……鏡の割れたあとのような時間。 林の中に建てたこの小屋。迷い犬の吠え声も、今日は聞こえない。
そう…名前はガデュリンだ。おれはガデュリンの息子のイエメンで、こんな骨のふくれる前、今となっては昔のことだが、彼はおれのパパだった。そして「壁の無い家」には、おれと同じ親子づれが集まってたんだ♪ 気持ちよい。そう、俺たちはみんな、親の元にいるだけで何してても、気持ち良かったのさ。逃げ出すつもりがあったなんて、とんでもない。
あッ、やめよう。やっぱりあんたに話していても、自分が惨めになるだけだ。あんたもそれを判って、出ていかねえで聞いてんだからな。
カーナ姉さん。この人は…話してて安心できる、いい人だ。 でも…。この小屋の壁に描かれたおれの絵を見て、微妙に表情が変わって…おれはもうその時に、全てを話す勇気をなくしちまった。 だから薬を飲ませた……。サンドマンはあっていうまに、呼ばれたよ。やっぱり、ろくに何もさらすことができなかった。服の下も、心の中もな、見られて怖がられるのが嫌なんだよ。彼女の安らかな寝顔をみれるだけで充分、幸せさ……。気分が晴れるさ。
今…? 寝顔に化粧をしてる。絵の具でな、指を擦りつけてな。 この人の肌は柔らかい…。どこまでも綺麗だ。
死んでいたら、もっと完璧? もっと永遠? 駄目だ、そんな言葉に惑わされるわけにいかねえ。あの人の教えてくれた事は、みんな嘘の皮なんだから。 |
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| 白銀の鍵と黄金の箱 |
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| カーナ [ 2002/05/23 1:53:28 ] |
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| | ある神官さん曰く、『物事に偶然はない。また、必然もない』らしい。 “縁”とは常に流動的であって、自分と相手のとった選択一つで変わるもの。基づく理由が存在するため、偶然とは言えない。しかしそれが起こす結果はまた小さなキッカケで変わりやすいものなので、必然でもない。 チャ・ザの神さまは、そんな“縁”を、互いに幸せになれるように少しだけ導いてくれる、そんな存在なのだと。 まあ、神さまってのにあまり興味のないあたしは、頭の片隅に置いておく程度の記憶でしかなかったんだけど。
古代王国への扉亭。そこであたしは、ひとりの……退治屋さんに会った。 言うのを躊躇った理由? もちろん、ある。彼を何と呼べば良いのか、未だにはっきりしないのだから。 話を聞けば聞く程、印象がばらばらになって行くんだ。イエメンと言う人は。
未だ『精霊使い』とは言えない、そっちの道では駆け出しにも満たない程度のあたしだけど、何故か人の感情を司る精霊…いわゆる精神の精霊には好かれている(?)らしく、最近では『姿』を感じる――上手く言い表せないけど、以前よりハッキリと形になるような感じ――こともたまにある。と言っても相手が極度におかしな状態でないと無理だけど(ラス曰く、精神の精霊を人の中に見ようとするのは、森の中で特定の木々だけを見ようとすることと同じくらい難しいらしい)。 そして、イエメンさんの中にはそれが見えた。少しの間だけど、レプラコーンだと思われる精霊と……それとは別の、あたしは余り好きじゃない、何かの感じ。
相手の家まで同行したのは、当然、気になったからだ。(無論、退路は常に考えつつ歩いたけど) ドゥーバの名が彼の口から出た事、そして、あのオッサンの大切な人とやらを教えて欲しいと言う、依頼。 それを口にする事自体が明らかに何かおかしいと言う事を、彼は気付いていないのだろうか。 ……つーか、ドゥーバのオッサンに『大切な人』なんているのかねぇ……と、個人的には思うのだけど。
そして、一夜、話を聞いて。(その間に幾分かの酒と干し肉が消費されたのは必要経費にしておこう) あたしはまた、何か不味い事に片足を突っ込んでいることに気が付いた。
まだ推測に過ぎないから、なんとも言えない。 なんとも言えないだけに、オッサンの情報をイエメンさんに伝えるのも、その逆も、今はしない。してはならないように思えるから。 どうせ、予感が正しければ、勝手に話は動くだろうし。 あたしが彼と会っていたと言う情報は、既に周りの“鼠”――少なくとも、古代亭の隅で一番安い酒をちびちび飲んでいた、“逆巻髪の”バソバと“三つ指”バンクロウ――に、知られている筈だし。 くそっ。思わず心の中で悪態をつく。どうしてこうも悪い条件ばかり重な
不意に、視界が揺らいだ。
しまったと思う暇もなく――― あたしの意識は闇の中に落ちた。
次に目覚めた時、そこは彼の『家』ではなかった。 あたしの服装も、変わっていた。肌に塗られているのは、白粉だろうか。 そして目前には、………
もう一度言ってもいいかな。 どうしてこうも悪い条件ばかり……ッ! |
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| “鍵”たちの事情 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/23 2:43:28 ] |
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| | ちぃ、どうにもイヤァなニオイがしやがるぜぇ。 鐚一文横丁に行ってみりゃ、“皮剥ぎ”がいねぇ。 冗談だろぉ? アイツぁこの横丁の門番の1人じゃねえか。よそぉ歩き回るってぇのか?
ちくしょ、こうなりゃ駄目モトで“錆びた黄金”にでも行って…… んぁ? なんだ、てめぇ。“三つ指”じゃねえか。どうしたってんだい、ンなに慌ててよぉ。 “白指”が帰ってこねえだぁ? おおかた、どこぞでいいオトコでも引っかけて、今頃ぁ毛布ん中で乳繰り合ってんじゃねえのかい? ヒャッハァ!(笑) (イエメンの似顔絵を出されて)………ん? こいつぁ…おい、あの小娘、この男と出てったんかい?
(思案)
……んで? (胸倉掴み)てめぇすっとぼけてんじゃねぇよぉ。ちったぁマトモに働きなぁっ! そうさ、オレみてぇにこつこつと、マジメになぁ? おうよ、聞いてんのぁ“白指”の行き先だ。 わからねぇ…だぁ? …………。 おら、クソガキ。その間抜けヅラ、二度とオレに見せんな。 ふん、“逆巻髪”が追ってった…か。早く言やぁ、痛い目ぇ見ないで済んだのにな。気の毒なこった(にか)>“三つ指”
“逆巻髪”が裏切らなきゃ…ネタは届くな。ただし、“逆巻髪”ってぇのは、近頃ヤクに手ぇ出してるらしいってぇ噂があったはずだ。ふん、売人が商品に手ぇ出しゃぁおしめえよ。ガセかもしんねえがな。ガセじゃなかったら……ネタは届かねぇ。 おい、クソガキ(“三つ指”)、上に知らせてきな。……何を、だぁ? 「“白指”がこの件に関わることの事後承諾と、いざってぇ時には“逆巻髪”は土の下で暮らすことになるってぇことへの了承だよぉっ! 寝ぼけてんじゃねえっ! ……おう、それと。“皮剥ぎ”探してきな! 今すぐだ。オレぁ気ぃ短いぜ」
ちぃっ!(乞食に八つ当たり)結局、動けねぇじゃねえかよぉっ! ああ……まぁた、ラジェットの旦那に、「そっちはまだ終わんねえのかい」とか何とか、ねちねち言われんだろなぁ(溜息) |
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| あの頃のまま |
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| イエメン [ 2002/05/23 16:12:01 ] |
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| | 彼女の両の手首の上で、金属の錠前がちゃらりと鳴った。鎖で床から生えた柱と繋がってる。 ここは、小屋の前の持ち主が使ってた、地下のワイン蔵…。 せめてこの暗やみなら、カーナさんに素肌の自分を見せられるかと思って、こっちにご案内したわけさ。何もかもあの頃のまま…。全ては幻だったのが、ここでは現実として続けられんだ。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
目が覚めた時のこわばった表情で、彼女がどういう気分だったのかわかった。 この部屋は四方に壁があるけど、それでもカーナさんは逃げ出そうとするような気がした。 なぜだろう、しつらえたドレスが気に入らなかったのだろうか? くそッ、あの黄色な乱杭歯の仕立て屋め、あとでひどいぞ。
だからこうした。 また眠らせるのは簡単だった、椅子を砕く音だけでもう身をすくませたからな。その脚で首筋に。棍棒の扱いなら手慣れたもんだ。 母の胎のような穏やかな闇のなかで、安心はいよいよ確実なものとなった。この人といられる安心。逃げられないという安心。
一瞬だけど、暗やみの中にあの人が笑っている顔が見えるような気がした。
手にした松明の灯が揺れる。 あー……。それでおれは、何をしようとしてたんだっけ? そう、ドゥーバヤジット。あいつとその一味を、消さねえと。あの怪物どもを残らずハントだ。これ以上可哀想な思いをする子を増やすわけにはいかない、たくさんなんだからな。
そうだ、出かけねえと。服を着直す。 じゃあ……いい子にしてるんだよ、カーナ。 |
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| 予兆 |
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| カーナ [ 2002/05/24 0:11:09 ] |
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| | 世の中にはどうにもならない状況ってのはない。 どうにかしようとしている限り、どうにもならない筈がないからだ。 そう、あたしは教わっていた。まあ心構えの問題と言うやつ。
目を開ける。坂道を転がる岩のような振動が頭の中で響いているけど、無事ではあるようだ。 現状は変わらず。部屋がもともと光の射すような構造でない以上、刻限は分からない。肌寒く感じるのは地下であるせいか。酒蔵は暗くて寒い所でないといけないと聞いたことがある。 音はしない。この家を使っているのは彼以外にいないと思うので(少なくとも現在は)、彼は何処かに出掛けているのだろう。
限りある体力の半分以上を使って、柱を倒す事に成功。 支えと言うよりは何か(おそらくは薫製肉など)を引っ掛けるための調度品のようなモノであり、割と細かったと言うのも幸いした。家と同じく古いもののようで、あたしを昏倒させた一撃は柱にも過分に伝わっていたらしい(もしくは一緒に当っていたのかも)。 足は元から自由だったし、これで移動は出来るようになった。条件付きで。
手錠はついたまま。鎖も頑丈だ。錠を開けない限り外れないだろう。おまけに鎖は割と短い。 そして、服はドレス。
梯子を登る。部屋の中は先日のままだ。御丁寧にあたしの着ていた服と装備一式は置いてあるが、当然服は着替えられない。 針金で錠を開こうと何度か試みたが、構造の関係で上手く穴に入らない。そりゃそうだ、両手の位置がある程度束縛されているんだから。口でも試してみたけど、無理だった。 仕方なく、ダガーとポーチだけベルトで無理に腰に巻き付け、家を出る。道は行きで把握している筈だ。
にもかかわらず、三回道を間違えた。 ここに至って、嫌な考えが脳裏に浮かぶ。 初めに飲まされた、薬。あれはただの睡眠薬だったのだろうか。 彼は「気持ちを落ち着ける薬」としか言わなかった。
薬を飲まされて、ちょうど一日くらい経つ。 ……気持ち悪い。
ハザード河の南側の橋で、歩けなくなる。橋にもたれ掛かり、立つのがやっと。 誰かが近寄って来るのが見える。でも、「誰か」が分からない。認知できない。 まあ……この状況だったら、誰でもおかしくはない……と、思ってしまう。明らかに怪しいよな……。
“白指”と、呼ばれたような気がするけど…………。 |
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| 役立たず |
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| "皮剥ぎ” [ 2002/05/24 3:53:03 ] |
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| | ”手長”の旦那、この老いぼれとて場所を変える事は多いんですよ。 一つ決まり処で皆が集まりをしてくれるわけじゃありませんからねぇ・・・。 神への祈り(PL注:此処では盗賊の合言葉)を口にする人間は案外いるもんでして。
呟いているうちにわたしの前に羊皮紙がぺらり。 普段は盲目のフリをしている目をほんの微か、すかすようにして 羊皮紙を眺める。 はて、どこかで見かけたことのあるようなないような男ですわいな。 わ、わ、そ、そう血気に昇った顔をなさってくれないで下さいよ? 知らない物は致し方ないはずじゃありませんか。 もちろん、わたしの仲間は存じ上げて居るかもしれませんがね・・。 物乞いの長の場所へはもう行ってみられたのかしらん?
はて、そういえば旦那は随分と”薬”をおっかけてらしたんですっけね。 ご存知かしらん?”薬”は飲む物と限らぬそうですよ。 塗り薬にして肌にすり込む代物が一時出回ったとかで・・・ひふから染み通るんですわいな。 ああ、化粧や紅にも混ぜられたんだそうで。それを続けると一時の恍惚感の代償に、 まぁ、その場所がわたしの呼び名のようになってしまうとか。 果ては、心に大層な不安定を呼ぶとか。 紅なんぞに混ぜられたぐらいだから、きっと他にもあれこれ使い道が考えられたのでしょうけどねぇ。 ・・・・・・・・・・・・・・・! ら、乱暴はおよしなさい、老人の襟首を掴み上げてなんになりますやら! 背の"瘤”も、苦しみますで・・・・・(汗)。 わたしは、この男に関しては何も知りません。 旦那がわたしの欠け茶碗を鳴らす事があっても、何もあげられんのですよ。 哀れな乞食、ましてや老人には穏やかに接しなさい・・・。 |
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| 増えた手足 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/25 2:36:30 ] |
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| | ヘッ! “皮剥ぎ”の野郎…役ぅ立たねぇにも程があるってぇんだ。 タたねぇのはテメェのナニだけで十分じゃねえか。 ああ? そんかわり、“恋人”が何か嗅ぎまわってる、だぁ? うるせ、知ったこっちゃねえ。
しっかし……。カーナとかいう小娘がどうなろうと、オレの知ったこっちゃねんだけどな。 小娘が勝手に巻き込まれて勝手に行方不明。オレが探す義理ぃあるかい?(にっ)
そう言ったら、見殺しにする気かとわめいたのが三つ指だ。 ちぃ。青くせぇモン振り回してんじゃねえよ。そりゃぁ…アレかい? ヒューマニズムってぇヤツかい? ヒヤッハァ! こいつぁ、いいぜ! わかってんのかい? こいつぁ戦だぜ? 安っぽいヒューマニズムとやらで、まぁるく納まるってぇんなら、そもそも戦になんざぁならねえんだよ。そのクソ汚ねぇツラぁ洗って出直してきな。
そんでも…と、食い下がってきたのは……三つ指の後ろにいたガキだ。 ……んぁ? ガキじゃねえ、草妖精かよ。……セキレイっつーたか。あ? ピルカ? ンな名前知るか。 カーナが薬漬けにされて利用されたらどうする、だってぇ? ああ、そりゃそうだわな。ヤク中の奴らぁ、ヤクの為なら何でもやる。 使う側にとっちゃ、これ以上使いやすい手駒もねえさ。 けどよ。ヤクってぇのはタダじゃねんだぜぇ? 使うだけの利益がなきゃ使えねぇ。 1回や2回なら、そりゃ使えるさ。動けねぇようにしたり、少しの間だけ正気ぃ失わせたり、な(にっ) けど、それっくれぇで中毒んなるってんなら、クスリの売り買いシステムそのものがヤバくなるんだよ。 1度や2度でヤバくなるクスリ、誰が使いたがる?(笑) まだ大丈夫…まだイケる。その繰り返しだよぉ。……商売するほうの気になって考えやがれ。
ああ、賭けてもいい。今の時点で、例の小娘(カーナ)を薬漬けにする利点はねえはずだ。 ……ったく、イエメンの野郎……なぁに考えてんだか。 こっちゃぁ、アイツをツテに、ルート摘発してぇだけだっつのによ。 打ちゃぁ響く…っつーのは、響く何かがそこにあるからだっつのが相場だな。……敏感になる何かがあるっつーこったぃ。 ………なんかめんどくせぇことになってきやがったぜ。へへっ。
んぁ? おう、気になるってぇんなら勝手に探ってきな。 面白そうなネタぁ拾ってきたら、おいちゃんが買い上げてやるさぁ(にか) |
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| トーマスのトマト |
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| ピルカ [ 2002/05/25 23:28:04 ] |
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| | 「カーナって言ったっけ?あの子、変わった男の趣味してるよねぇ?」
古代亭の店員のお姉さんの、その一言が始まりだったの。 うん、足取りはちょっと調べればすぐに分かったよ。いかつい顔の大男について行ったって。 カーナはいつも肝心な事をあたし達に言おうとしないから、その人についてった理由も何となくだけど、わかる。 きっと、何か考えがあっての事なんだって、心配はいらないって。 でも……
「いかつい顔の?そうねぇ。前にも何回か来てたかな。あの人、ちょっと……何て言うか、「変」なのよね。 ボーっとしてると思ったらサ、急にうめきだして、挙句に『トーマスのトマト』なんて妙な歌唄い出してさぁ。」
トーマスの、トマト。 その言葉を聞いた時、あたしはものすごく不安になったの。
え?何でかって?…その言葉を知ってたからだよ。あれは何年くらい前だったかなぁ…。 一緒に仕事してた仲間に、ジェーコフっていう槍使いの人がいたの。 ジェーコフは背が高くてひょろっとしてて、いつも静かに笑ってた。 でもね、戦いの時になると、まるで別の人になったみたいに、もう死んでる魔物に槍を突き刺すの。何度も、何度も。 それで、戦いが終わるといつもこう言ってたわ。
喉が渇いた。トーマスのトマトが食べたい…って。すごく甘い、甘いトマトなんだって。 ………子供の頃、お母さんに食べさせてもらったって。
ジェーコフ?……うん、死んじゃった。身体中に黒い痣が出来てね。 その頃裏で出回ってた「ブラウンケーキ」って薬、ずっと使ってたらしいの。
……これで分かったでしょ?"三つ指"さん。あたしがここに来たワケ。 もうトモダチが薬のせいで悲しい目に会うのは見たくないの。だから、あたしはあんたと一緒に行動してる。
さ、早く行こう?いつまでも「巣穴」に閉じこもってたら、カーナがどんどん遠くに行っちゃう。 この事を一番最初に知らせてあげたい子もいるしね。 もしかしたらその子、今頃「相棒」のこと心配して、街中走り回ってるかも知れないし。
それにあたし達も早く動かなきゃ、「手長」のおじさんの手の方が先に届いちゃうよ? |
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| 妙な姿の相棒 |
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| エルメス [ 2002/05/26 0:04:06 ] |
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| | 相棒が宿に戻ってこない。
・・・正直。心配した。ここまで足を使って人探しをしたのは初めてだというくらい、散々走りまわった。 巣穴で得た情報があまりにも少なかったから、見つけるのは正直難しいと思っていた。 だから0に近い可能性を信じ、街中を走り回った。
どれくらい走りまわったか想像もつかない。 体力も限界だと感じたその時、ハザード河の南側の橋近くにある小さな空き地に座りこんでいる相棒を見つけた。 遠目だからよく分からないが、あれはドレス姿・・・。おまけに白粉までして・・・・・・。アタシをなめてんのか!?
予定通り、心配させた代償として一発殴ることにした。
・・・が、近づいてみるとカーナの様子がおかしいことに気づく。 よく見れば手には鎖。ドレスは小汚い。 そして妙にぐったりしている。 イエメンという男に監禁されていたというアタシの予想は当たりだったのだろうか・・・・・・?
声をかけても虚ろにしか返事をしない。 恐らくアタシだってことも今一つ分かっていないんだろう。
とりあえずこのままでいるのもなんなので、鎖の鍵を外し、宿へと運ぶことにした。 このドレス姿はとりあえず目立つので、上着を相棒にかける。 そのまま背負い、早足で宿・・・古代亭へと急いだ。
しっかりしろよ、相棒!
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| 喪失 |
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| イエメン [ 2002/05/26 1:56:51 ] |
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| | 「あっ、ちくしょー」 そう呟いたあとの記憶が無い。
呼吸を再開して、ワイン蔵の冷たい床の上を見渡せば、おれの落とした、乾パンや腸詰め、果物などの食料品や、ランプとか縄や、バンダナ、絵本、先細りのナイフに皺取りの薬とか、エレミア産のワインや、少しの衣類、裁縫道具、ヌイグルミ、そういったものが散乱していた。
傍目から見れば、おれは伏せ目がちの目つきで、平静に立っているように見えたと思う。でも実際はただ硬直していた。 …もう判らない、どうすればいいのかなんて。それまで身体の中にみなぎっていた力は、もう影もない。やがて膝が笑い出し、立っているのもやっとの状態になる。
唯一、心を支えていたのは、カーナさんに飲ました薬が、再びおれと彼女とを引き合わせてくれる可能性は高いということだ。思いきって使ってみて、本当に良かったなぁ。
「愛を完成させる薬さ。愛の完成とは何だ? そこに盲従があってのみ、得られるものだ。一方がそれを捧げれば、二人は疑心暗鬼というものから開放され、永遠の安心をすすることができる。気持ちの相互作用による安定などはあり得ない。イエメン、愛に裏切りはあってはならないよ」
「ブギーマン叔父さんのことを怖がってはいけない。そう、彼の鋏が振るわれるたびに暖かい液体が流れる。男の子なら白、女の子なら赤。でも、去勢は哀しいことじゃない、それもまた愛の実現のために必要な過程の一つなんだ」
頭はまだぼんやりしていたが、ようやく気付いた。上階で、物音がしている。 続いて耳に届く、囁き声。 おれのアトリエに誰かが侵入している? 壁の絵を見られちまう。 注意深く、耳をすませた。声は二つ、低いようだが女の子の……。 「錆びた黄金」の店でそれを聴いたんだ、と理解した頃には、先ほどまでの膝の奮えは止まっていた。 |
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| 霞の見せる夢 |
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| カーナ [ 2002/05/26 2:11:49 ] |
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| | 奇妙な感覚。身体は鉛のように重いのに、心ははっきりしてる。 それが疲れと空腹によるものなのか、何らかの薬の効果なのかは分からない。 分かるのは、手の縛めが解かれたことと、誰かにおぶられている事。そしてその『誰か』が、走っていると言う事だ。
考えてみる。当面はそれしか出来そうに無いから。 確証の持てる情報は全然ないけど、仕方がない。いつものことだし。 早くしないと、また意識がサンドマンに導かれてしまう。
“逆巻髪”と“三つ指”。普段は特に仲が良い訳でも、まして同じテーブルで酒を雑談混じりに酒を飲むような間柄でもなかった筈。 となれば、考えられるのは情報収集及び交換。尾行。仕事の算段。別に、珍しい事じゃないけど……。 大体、“三つ指”ってのは単に仕事にしくじった時に指を切って、今じゃ右手の指が三本しかないからって話だし。事情がない限り、“逆巻髪”が組むとは思えない。 何か、あるんだろうか。
敵意と悪意は似ているようで全く違うものだ、と学んだことがある。 敵意がある相手に対して向けられる感情であるのに対し、悪意はある行為に対して向けられる感情だと。それは互いに結びつく事もあるし、そうでない時もある。 例えば剣闘士は悪意無しで剣を交えるし、殺人鬼は敵意無しで人を殺める(それ自体を快楽としているから)。 悪意は欲の変質したものだ、とも言われた。……まあ、全部正しいかどうかは知らないけどさ。
イエメン。彼は、少なくともあたしには敵意を向けなかった、ように思う。 他の誰か、ねぐらの傭兵仲間(と彼は呼んでいた)やドゥーバのオッサンの話が出た時は、明らかに敵意を…もしかしたら悪意も…抱いていたようだけど。 あたしに薬を飲ませたのも、単に……いや、早合点はよそう。
彼がドゥーバを追っている理由は、あたしには分からない。ただ言えるのは、金とか薬とか、そう言うのとは違うと言う事。
あたしをおぶっている『誰か』が、不意に足を止めた。 …どうにか目を開ける。聞き慣れた声。頬に触れる程近くに見える、赤褐色の髪。そして、その向こうに――。
でも、そんな時でさえ、あたしは妙な事を考えていたんだ。 イエメン……彼に、もう一度会いたい、と。 |
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| 追跡 |
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| "恋人”チェリオ [ 2002/05/26 3:25:04 ] |
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| | 歩いている間、俺はやっぱりむくれたままだったらしい。 ――歩いている間、だ。俺が、いや俺たちが追っている間、相手はこちら側に 気が付いている様子は無かった。姿を隠そうとしている此方が馬鹿のようだ。 『違う。そんな問題じゃない。関係無いんだ。何も』 ますます顔を顰めていたらしい。連れ立って歩いているクーナが「不細工」とつぶやく。 数回眉間を解した。周りの景色が少し変わってきていた。
「錆びた黄金」に居たその男は、あからさまだった。 あからさまなぐらい、幸せそうな顔していた。 できれば、あんな顔をするのは母親に抱かれている幼児だけにして欲しいと強く思う。 俺が声を出すまで、男の顔は愉悦を浮かべ続けていた。 ほんの僅かの間言葉を交わした後、男はまた新しい顔を一つ残していったが、 多分、どんな優れた蝋人形であってもあれだけ張り付いた無意味な笑顔は作れないんじゃ無いだろうか? 男は、明らかにこの「錆びた黄金」を、その店主を探られる事を忌避していたようだった。 男の行く先と、この店どちらを先に選ぶかで瞬間、迷う。 クーナが俺の服の裾を引き、その膠着を解いてくれた。
「別荘街?」 男を追った先は予想もしない所だった。ハザードの流れの美しい通りを 数本中に入った貴族や豪商の別荘が立ち込んだ区画だ。目的地に近づいたのか、男の歩調が 僅かに早まった。玩具を買いに連れて行ってもらう子供のようなものだ。 男は、そのまま一つの屋敷に入っていった。 「変な煉瓦・・・トマトの色だ・・・普通よりよっぽど赤い。サテが見たら喜ぶかもな」 屋敷の外壁をなぞってクーナが呟いた。俺の目には飛沫いたばかりの血の色に見えたが 感覚の違いだろう。 人の気配の感じられないその屋敷に躊躇う事なしに足を踏み入れる。 いやに部屋数が多い。屋敷が広すぎるという訳じゃ無い。小さく分けられた 小部屋が常識外に多いのだ。 「ああ、子供部屋だ。玩具がたくさんだよ!」 クーナが、場所を忘れたのか嬉しそうな声をだした。 直後、足下が騒がしくなった。足下・・・地下室か食料倉か・・・!?
目線で促すと、クーナは一つ頷いて外へ走りだした。 それと同じく、俺は地下へと駆け下りる。 その場所に踏み込んだとたん、感じたのは恐怖と違和感を同時にだった。 ――壁一面の”妊婦”の絵。 目に飛び込んだのは、それと・・・ 店で浮かべていたのと全く同じ、酷く幸せそうな顔を浮かべた巨漢を前にして 生理的な嫌悪が背筋を駆け上る。
『人間が求める物は何だと思う?”絶対の安心”さ。何にも震わされない・・・』
それを与えてくれる薬があるんだと、聞いたのはどれぐらい前だったろうか。 その時は只の噂話でしかなかったが、俺は一も二も無く信じる事にした。 それから、代わりに何を奪われるのかを訪ねたかった。 目の前の男は多分、答えを知らないだろう。与えられているかもしれないが。
嫌な汗が滲んで数粒下に落ちたが、静寂だけがまだ続いていた。 |
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| 鉢合わせ |
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| “絡繰り”リッチィ [ 2002/05/26 21:35:51 ] |
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| | 物音がしたのさ。ようやくお帰りかと俺ぁ部屋ん中から覗いた訳だぁな。 そこにあった後ろ姿は俺の目的のものじゃあ、なかった。 何故か? んなこたぁ考えてる暇ねぇ。この状況じゃあ、こっちから声掛けるのが得策ってぇもんだ。 部屋に戻ってやり過ごせりゃあ、それがいいんだけどよぉ。期待できそうにないわなぁ……。
へへっ、お客さんですかぃ? 困りますねぇ、扉ぁ叩いてから入ってきてもらわねぇとよぅ。 あっしですかい? 此処の一つを間借りさせてもらってるモンでさぁ。 ……おぉっと、そんな怖い顔を人に向けるもんじゃあ、ねぇですぜ。
まったく嫌な時に居合わせちまったぜぃ……イエメンの坊もこっちを睨んでやがるしよぅ。 こっちは“親父”からの伝言持ってきただけだってぇのに。
さてぇ、どうすっかねぇ。荒事にならなきゃいいんだけどよぅ。俺ぁ“親父”に目玉喰らうのは御免だぜぇ……。 |
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| 知ってること知りたいこと |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/27 0:27:59 ] |
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| | 「アンタみてぇな人が聞きに来るなんて…アイツ、何かやったのかい? ああ、『アイツがンなことするわけない』なんて言えないよ、俺にはね(笑)」 「そうさねぇ。ひと言で言ってしまえば、“わかんないヤツ”だったよ。あたしの迷惑にならないならどうでもいいさ」 「…ふん。その名前は僕の前で出さないでくれないか。不愉快だ。…『不愉快の原因』だって? あいつの目を貴方は見てないとでも言うのかい?」 「何て言うか…そう、こういう表現が彼に対して正しいのかどうか知らないけどね。…うん、ピュアな奴…って言ったら笑う?(笑)」 「あいつの“やりかた”はハンパじゃねぇよ。…そうさ、戦場には珍しくないけどね。妖魔相手にあそこまで…(首を振る)。しかも、ヤってる間は無表情か、無意味な笑いが張り付いてるかのどっちかだ。わかるかい? “無意味な笑い”だ」
以前の仕事で組んでたっていう『退治屋』の奴らに聞いた、イエメンってぇ兄さんの評判だ。 いろいろな奴らと組んでるみたいだが、今現在、組んでる奴らに直で話聞きゃぁ、イエメンまで話が伝わっちまう。 だからまぁ、ちょい昔の仲間に聞くしかねんだがな。
ルート摘発に協力させようとして、以前、『人気のないところ』で話そうと持ちかけた。 イエメンが指定してよこしたのが、工房“魔神の舌”の裏手。 ああ、ヤバい場所さぁ。クスリでラリった店主が人間の生き血で剣を鍛えたとか何とか。 その店主はもう死んでるし、店も潰れた。今は、店の名前も店主も代替わりしてるがな。だから、“「元」魔神の舌”だぁな。
よりによって、その元店主がラリった原因が“ブラウンケーキ”だ。 体力のある奴ぁ、頭ん中が腐る。体力のない奴ぁ、体が腐る。……どっちにしろ、死ぬしかねぇクスリだよぉ。 ……まぁブラウンケーキ自体は、もうルートが潰れっちまってるけどよ。 それを改良して後を継いだ奴がいる。……はずなんだ。そしてオレぁそれを追っかけてるってぇ寸法よ。 イエメンは、それを知ってて、あの場所を指定したってぇのか? もしそうなら、ギルドん中に内通者がいるってぇことにならねぇか? ………クスリに手ぇ出してるってぇ噂の“逆巻髪”か、それとも別の………。 偶然? ヒャハッ! 『偶然』ってぇ言葉で片づけるのぁ、思考てぇのを放棄した証拠だぜぇ?(にっ)
ともかく…“魔神の舌”の裏手で、奴ぁオレをヤろうとした。あん時の目は……ふん、確かにな。 むしゃくしゃしやがる。ンな時ぁ、馴染みの娼婦んとこでも転がりこんで、じっくりひと晩かけて慰めてもらうとするかい。
………はぁ!? “錆びた黄金”でイエメンを見たぁ? ぅるせえな、オレぁ別にイエメン本人の居所を知りてぇワケじゃねえよ。 イエメンが、オレの追っかけてるルートを本当に知ってるかどうか…んでもって、奴をオレに協力させるのに手っ取り早い弱みは何か…それが知りてぇんだよ。 “恋人”が追いかけてっただぁ? ………ったく…『好奇心、術師と使い魔を殺す』ってぇありがてぇ文句を知らないのかね、そいつぁ…。 |
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| 魔法の粉 |
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| トレル [ 2002/05/27 14:19:48 ] |
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| | 「・・・それで?」 取り乱し、話もままならない人間から事情を聞きだすのは非常に疲れるものだ。 結局、話を要約すると、手料理を食べた彼が突然こうなってしまい。びっくりして医者を呼んだ。ということだった。 そして、その彼はといえば・・・麻薬中毒に近い症状なのだ。 問題の料理に指をひたし、少しだけ舐めてみる。 ごく微かだが・・・ 「手料理の中に何か入れたのかい?」 なだめるような口調で、彼女の方にたずねてみる。 彼女はえと。としばし考え、何も入れていないと答えた。 「いつも料理を作る時には入れないけれど、今日だけ特別に入れたものは? 本当にないのかい?」 もう一度、たずねてみる。すると、彼女は耳まで赤くなってこう答えた。 「魔法の粉を入れたんです。え、永遠のあ・・・愛が手に入るって・・・言われたから」 魔法の粉に永遠の愛・・・半ばあきれつつ入手先の名前を聞いておく。 占い小屋“月の雫”。ギルドはかかわってない場所なはずだが・・・。 そのあたりは自分で探すわけにはいかないだろう、何人か盗賊の心当たりをあたってみることにするか。 「とりあえず、彼はうちに入院だな。馬車を用意するから、少し待っていなさい」
入院させたとしてもたいした治療は出来ない。どんな麻薬か判らない以上、薬を与えることによってさらに悪化する可能性すらあるのだから。 麻薬が抜けるまで病室内で大人しくしてもらうのが一番だろう・・・ |
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| 目的 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/28 4:04:32 ] |
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| | 常闇通り。その奥。…ま、言ってみりゃヤベぇ通りさ。 常闇ってぇだけで、あんまり普通の人間が喜んで近づくようなとこじゃねえ。 「光は満ちても闇は残る。凝縮された闇がいつでも満ちているのが常闇通りだ」なぁんて、カッコつけた野郎がいたなぁ。誰だか忘れっちまったけどよぉ。
ま、とにかく、そんな通りのもっともっとヤベぇとこで、オレぁ人と会ってた。 いや、「人」と言っちまうと、違ってるのかもしれねぇ。 目の前にいるコイツは、「人」であることをもう、やめっちまったのかもなぁ。
「トーマスのトマト? 馬鹿言っちゃいけない。トマトを育ててるのは、俺の爺さんだ。ああ、爺さんは死んじまった。そう、俺が生まれる前だ。でも爺さんのトマトは甘かったなぁ。時々青いのが混ざっててね。それはがりがりしてて食えないから、石の下に埋めるんだよ。わかるかい? 石の下だ。出来るならそれは黒い石の下がいいんだけど」
「ブラウンケーキは大好きさ。蜂蜜がイケる。たまに、ケーキの中に芋虫が混ざってたりして、それが困ることだけどね。ああ……また食いたいなぁ。今はモールドレなんてもんに変わってるけどね。そっちは木イチゴのジャムがイケるんだよ」
………参った。全部が全部、こんな調子だ。 目の焦点は合ってねえ。開いたままの口からは涎が流れ続けてる。 ……まともな受け答えぇ期待したオレが馬鹿だったかい。 けどよぉ。その『モールドレ』ってぇのは何だよ? クスリの名前かい? おいこら、答えやがれ。へらへら笑ってんじゃねえよ。 …ちぃ。駄目か。ラリってやがる。
んぁ? どうした? そんなに慌てて走ってきてよ。 トレルっつー医者の話なら昼に聞いたぜぇ? ああ? 小娘(カーナ)が? ふん、あの小娘がイエメンの居場所ぉ知ってるってぇんなら教えてもらうとするかい。 オレぁ、目の前のイカれた爺を引っ張っていくさ。ギルドにな。 そろそろ、医者が教えてくれた“月の雫”とかいう占い小屋の調べもついてるはずだ。
おっとぉ。勘違いすんなよぉ? イエメンの兄さんをとっ捕まえて終わりってんじゃねえぜぃ? それで終わるくれぇなら、1ヶ月も前にヤマぁ終わってるさ(笑) オレの目的ぁ“ブラウンケーキ”の後釜のクスリのルートだ。それ以外は、どうでもいいのさ。 オレが“黒爪の”バルバロ旦那に頼まれたのはそれだけだからなぁ。他に手ぇ伸ばして自滅するような青くせぇ真似はしねえよぉ。 ブラウンケーキってぇクスリで死ななかったのがイエメンだ。奴ぁそれをやってたはずなんだ。 だから、後釜のルートも知ってる。…と、オレぁ睨んでるけどな。 |
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| もたらされた報せ |
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| イエメン [ 2002/05/29 0:48:25 ] |
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| | 下着の脇に椅子の足を差し込んで備えていたが、それを振るう機会は訪れて来なさそうだった。おれのアトリエに居たのは、「錆びた黄金」で出逢った男と、草原妖精の娘、だけではなかったからだ。この小屋の離れに居候しているリッチィも、何の用だか、無遠慮に踏み込んで来ていた。これじゃぁ、あんまり無茶は出来ねえ。 首だけ地下から出したままで、三人の招かざる客にウインクして挨拶する。おれはずるりと身体を床から引き抜き、立ち上がった。
「んん、あんたたちぃ、どういうことかなあ。おれあの店で、まだなんか落とし物でもしてた?」 そうではないという。「おれのことをカモだと見て、盗みに来た」 なるほどなあ。 すんなりとそんなこと、認められるからには。それよりもっと、おれにとっては都合の悪い「何か」の用事で来たんだろうな、と察せられるぐらいに、頭のキレが戻ってきていた。 この人たちを前にして、興奮している証拠だった。
この一件を許すかわりに、彼らの名前と自宅の場所を教えて貰った。嘘があるかもしれないが、彼らを呼ぶ名前があるのとないのとでは、テンションが違ってくる。
チェリオと名乗った、浅黒く逞しい身体の男の人が、ずっと黙っていて、様子がおかしい。何か聞きたそうな目。 「ああ、これ」だから先に答えることにした。背後の壁にひしめく、何十人もの妊婦の絵を顎で差す。赤い絵の具で、何時かの晩に描き散らした絵。 「おれが描いたんだ。愛されている証拠をその身に感じられて、彼女らは本当に安心してるだろうなぁ。そんな妊婦さんの幸せな状態を表現した、作品なんだ」
「女の人じゃないのが混じってるな」 クーナって草原妖精の女の子が、そういって妊婦の一人の顔を指さした。 苦笑が漏れたね…下手な絵でも判るもんだ。本当にやりにくかった。 そもそも、居候のリッチィさえ居合わせてなければ、さっさと片をつけられたのに。それにこの子の利発さは、これまた、胸の中の愛情の虫を強くくすぐるものだった。 「芸術だからね、現実そのままを描くって限った事じゃないんだ。それ以外の要素を含むのも普通だ。幻想とか、願望とかね」
そんな事を話しているうちに、リッチィがこちらを見る視線に気付いた。やつはヤニで黄ばんだ歯を見せ、申し訳なさそうに笑う。そして、近寄って来んだ。 こいつはズルいやつだから、彼女たちが居る間に要件をすますつもりだろう。おれがお仕置きを食らわせる前に、今日から一週間ほど雲隠れするだろう。おれがすっかりと忘れちまうまでってわけだ。
「イエメン坊。ブギーマンの親父さんから伝言だぜ。もういい加減、トマト作りは止めるってよ」 「あー…? この野郎」思わず声を荒らげていた。 |
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| クチビル |
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| カーナ [ 2002/05/29 3:16:22 ] |
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| | 妙に醒めていた気分も今は消え、酷い二日酔いのような感覚だけが残ってる。 代わりに、身体は何とか動かせるようになった。
『星の巡り』亭。昔あたしが使ってた宿で、宿としては最悪、料理も酷い、唯一の取り柄は値段の安さと言う典型的な安宿。 寝ていたのは半日だろうか。傍にはエルメス、ピルカがいる。 良くは覚えていないが、あたしを見つけて宿へと運ぼうとしたエルメスと、あたしらを探していた二人が、ちょうどぶつかり会う形になったらしい。 “三つ指”は連絡の為に離れたと言う事。連絡ってなんだ。……ああ、後でいいや。
エルメスが用意してくれた服を難儀しながら着込み(この際文句は言えないが)、状況を確認。 ……んが、多分半分も聞き取れなかった。頭痛が理性の邪魔をする。
ふと、気付く。唇が痒い。 普段とは違う感覚が気になり、舌で舐める。
あっ。 ふぅっと浮く感じ。 そうだ、素敵な夢を見ていた、あの時。甘酸っぱい、嬉しい。
「おい、カーナ? 何してるんだよ」 気が付くと、唇は唾液でびちゃびちゃに湿っていた。 にもかかわらず、一昨日よりひび割れているような……気のせいか。
綺麗な夕日が見える。極彩色で、気持ち良い。 昨日まであくせくしていた自分が馬鹿みたい。走り出したい気分。
「馬鹿、口紅なんて舐めるもんじゃないだろ……おいってば!」 「うわッ、カーナってば。舌がすごいよ!?」 ピルカが姿見であたしの顔を見せる。柘榴を食べた後のような色の舌。 いや……むしろ、あれか。トマト。熟れ過ぎて地面に落ちたような。
そう言えば、あのアトリエで飲んだ物って、葡萄酒と、水と、真っ赤な―― ああ、どうでもいいや、そんなこと。
さあ、行こう。 何処へって? 決まっているじゃないか。アトリエだよ。 あそこに、彼がいるんだから……当然でしょ? ほら、外はもう真っ暗だ。彼はきっと戻っているはずさ。
頭痛は何時の間にか、消えていた。 |
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| アトリエで |
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| “絡繰り”リッチィ [ 2002/05/29 3:23:18 ] |
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| | 人が居る、予測しなかった事態だったけどよぅ。 表情は変えないまま、俺ぁちょいと考えてみた訳さぁ。幸い、イエメンの坊は“客”を警戒すんのに夢中になってるようだったしなぁ。 ……考えようによっちゃぁ、こりゃあ利用できるんじゃねぇか? 俺ぁ、そう思った。 てのも、イエメン坊が“客”と俺の前で強硬な手段にゃあ出れねぇ様だったからなぁ。
……俺の伝言ってのはよぅ、イエメンの坊にとっちゃあ、間違いなく嬉しくない事でよぅ。 正直、“親父”から聞いた時も気乗りしなかったんだわなぁ……。言ったら、坊は呆然とするか暴れるかのどっちかだ、予想できたからよぉ。 が、今なら、坊も無茶ぁできねぇだろうなぁ。 何せ、今暴れりゃあ、たちまち“客”の疑いは確信に変わる訳だからよぅ? そうなりゃあ、言い逃れどころじゃあ、ねぇわなぁ。
へへっ。これも天の巡り合わせってぇやつかねぇ。 俺ぁ、絵を指して話してる坊に近づいて、伝言を伝えたのさぁ。 ……案の定だぁな、イエメンの坊の目つきが変わったのは。 「へへっ、そう睨むモンじゃねぇぜぇ? 俺ぁ、ただ伝言を貰っただけなんだからよぉ」 おお怖い。今にも飛びかかってきそうなぁ、気がするねぇ。兆候さぁ、坊の視線がふらふらと動かなくなったらヤバい、ってねぇ? とっとと退散しねぇとなぁ、八つ当たりを喰らうのは御免ってもんだぜぃ。 いくら、“こっち”と坊で“取り決め”があるつってもよぅ、何も起こらねぇ、そう無条件に信じられるんは余程頭ン中ぁ目出度い奴だけさぁ。“親父”も“甘味屋の爺”もちょいとした火傷なら見過ごすしよぉ……俺ぁ待遇の改善を要求したいねぇ、全くよぅ。
さぁ、俺の仕事は差し当たり終わりさぁ、裏口を通って……“常闇”にでも潜るとするかねぇ。あそこなら、俺が手塩に掛けて仕掛けたからくりがあるからよぅ、ちったぁ安心ってもんさぁ。 ま、後は、そっち三人で好きにやってくんなぁ? |
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| 交差 |
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| "恋人”チェリオ [ 2002/05/29 3:42:46 ] |
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| | ある時、俺がギルドから与えられた”相手”はとびっきりの兎だった。 一晩で普通の兎の数十倍にも及ぶ餌を飼い主へ請求することの出来る毛並みのいい奴だ。 勿論、相手もとびっきりの飼い主達で、その間に交わされる話をその長い耳に止め、運ぶ役目も担っている。 そういう彼女達の側らに配置され、運搬と護衛のを果たす事も”恋人”のように”相手”を護るべき役の俺にとって別段変わった話ではなかった。 「兎の餌のお零れで生きていくなんて、とってもいい身分ね」 その兎は、それまでの似たような”相手”のうちでも本当にとびっきりだった。だからかもしれない。 兎には贔屓にしていた飼い主がいて、俺は何度もその屋敷前まで彼女を送っていた。 「私は・・・黄土しか産めないんだわ」 それが両手足の数を通り越し、俺が、彼女の口ぶりを浴びるのになれてきた頃合だった。 そんな時であったから、出迎えるなりしおらしい態度で小声で呟いた彼女には相当面食らった。 だから、その時はその言葉にはとても気が回らなかったんだろうと今になって思う。 もっと俺の気が利いていたら?・・・次があったのかもしれない。 彼女はそれきり俺の前にも現れず、仕事をする事もなく行方を眩ました。 貴重な”兎”をギルドが放っておくはずも無く、彼女はあっさり見つかった。 但し、生きている時の姿を殆ど失っていつも見につけていたアンクレットが無ければ判断することも出来ない程に変わり果てた姿だった。 後々になって知った事だが、彼女はその”得意先”以外には仕事を持って居らず、かなり前に ”性器”を失った痕があったと言う。つまり・・・俺が運んでいる間も”兎”の役目は果たせなかった筈だと言うのだ。 しばらくの間いぶかしみ噂が立ち上ったが、やがてあっさりと静まった。何かしらの力が働いたのはあまりにも明らかだった。 それよりも、俺にとっては彼女の最期の顔が忘れられないものだった。 苦痛や疲労の皺が刻まれているのに、顔にはべったりと笑顔が刻まれていたのだった。 美しい彼女を余りにも見慣れていた俺は、喉にこみ上げてきた吐き気か涙気か良く判らないものを顎を思い切り引いてやり過ごしたのをはっきりと覚えている。
だから、今こみ上げてきている物がその時と全く同じものだという事も克明に判るのだ。 最初に、この巨漢の笑みを見たときからずっと続いているものだった。 それから、俺がこの巨漢を追う理由になったものだった。 相手が何か言い出してくる。 相手が表情を浮かべたので恐怖は薄れたものの口を開くのに随分時間がかかった。 名前と住みかを聞き出そうとしてくる相手にはっきりと理性と知性がある事を認識できると気がずいぶん治まった。 変わりに名を聞こうとする前に、「礼儀だからね」といって巨漢はイエメンと名乗った。
それから、俺の視線を辿り殆ど赤一色で描かれた妊婦達の絵を指し説明を始める。 クーナが指摘した処に視線を持っていくと確かに「幻想」としかいいようの無い物が描かれていた。 ――男が、孕んでいる・・・。 それから、また背筋が泡立つのを感じた。確か、今この男は「願望」と。そう言った。
背後でから聞こえた突然の声にびくんとクーナが身を震わせた。 それがなけば多分それをしたのは俺だったんだろう。クーナがとってくれた”恐怖”を表す行動は俺を何時もの”恋人”の役目を果たさせてくれるものだったから。その身を背後から手前へと移動させる。
イエメンと背後の男が言葉を交わしたあと、その男の方は慌てるように場を後にした。
「ブギーマン?トーマス・ブギーマンか?・・・行方不明の医者だったな。おまけに塔の魔術師だったはずだ」
呟くと共に壁が鳴った。イエメンの目が血走っている。 しかし、握り締めた家具の足で壁を殴りつけた手は本当に血走っていた。 自分の身を傷つけることを厭わない相手がどれほど恐ろしい物か。精神的にも。 クーナは既に走り出していた。草原妖精の足なら間違いなく逃げ切れる。
「クーナ!今の男を!」
俺も考えるまでもなくその後を追いかけた。 |
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| 調査報告 |
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| エルウッド [ 2002/05/29 3:48:12 ] |
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| | 「月の雫」 占い小屋の一つですが、ここの女主人に星を詠む能力は認められません。 件の”永遠の愛を約束する”という魔法の薬については、ただの麻薬でした。 カラクリは、通常より強いクスリの中毒性です。 男が求めるのは女ではなく、本当は料理に混ぜられたクスリだけだという、ハハッ! ・・・失礼。
中毒性が強められた分、体の拒否反応が起こる可能性も高くなっています。 このようなクスリをギルドは流通させたりしません。 結論を申しますと・・・そういうことです。
入手経路については、路傍の物売り、または酒場の客が、 何らかの形である”しるし”を持っているそうです。 彼らも恐らくは仲介だけでしょうから、調査はまだ行っていません。 ”しるし”を変えられては困りますしね。
”しるし”ですか? ハハッ! ・・・真っ赤なトマトですよ。 |
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| ブラウンケーキの後釜は? |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/05/30 0:45:19 ] |
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| | おう、ご苦労だったな、エルウッド。 しっかし……トマトが“しるし”ねぇ……へん、夢見がちな野郎どもが多いなぁ? んん?(笑) んで、その……ほれ、カタギの野郎どもに売られたっつー「魔法の粉」の名前は? 魔法の粉としか言われてねぇ? ちぃ、役に立たねぇな、こら。
けど……待てよ(思案) おい、何か聞いたことねぇかい? そこまで強ぇクスリだ。裏じゃ有名だろに。 あぁ? ブラウンケーキ? ばっか、アレじゃこんなに優しくねぇよぉ。 ありゃぁ粗悪品だ。体中、真っ黒になって死んじまうってよ?
そうなると……ブラウンケーキの後釜か。……モールドレ、とか言ってたな、あのヤク中は。 モールドレ…それが後釜の名前か? …はん、名前なんざぁどうでもいいわな。要はルートがわかりゃいいんだよ、ルートがな。 しっかし、“黒爪”の旦那も人が悪ぃやな。名前もろくすっぽわかんねぇルート探ってこいだなんてよぉ。 わかってんのは、それがブラウンケーキの後釜で、ブラウンケーキ中毒者の生き残りが使ってるらしいってこった。 んでもって、かなりキツイ薬だってぇことだな。質は悪くねぇ。ただし、キョーリョクだ。 “錆びた黄金”の客が何人かそっちの客と重なってるらしいってこととかよ。 あとは……(短い指を折りつつ数え)…ち。そんだけかい。
……んぁ? おう、ピルカ。なぁに慌ててんだよぉ。ちったぁ落ち着いて喋りやがれってんだ。 なにぃ? 小娘(カーナ)の件ならさっき三つ指に聞い………はぁ? 様子がおかしかっただぁ? 口紅を舐めて? ……はーん、化粧に混ぜやがったか。その使い方…ブラウンケーキと同じだぁな。 そうさ、昔はよぉく娼婦…わかりやすく言うなら、兎だぁな。そいつらが、化粧に混ぜて使ってたのがブラウンケーキさ。 まぁ、使い方をまずった奴らぁ、キレイんなる前にどす黒くなって死んじまったけどな(にぃっ) ああ、そこらのことなら、“恋人”の野郎のが詳しいだろ。 あいつぁ、その2つ名の通り、娼婦の守り役を本業にしてっからなぁ。
………んん? “恋人”っていやぁ…むかぁしアイツが守り役してた兎の1人が笑ってたな。 「どうせ金無垢になんざなれやしないからねぇ」とか何とか。 そのあとのこたぁオレぁ聞いてねえが…“恋人”なら知ってんのか? 確かその娼婦は、そのすぐあとに死んだ。去年の夏だったか? まるでブラウンケーキみたいな症状…なのに、皮膚は黒くなっちゃいなかった。 あの娼婦…名前も覚えちゃいねえあの兎が死んだのが、後釜のクスリのせいだとしたら? “恋人”の野郎…なんか知ってんじゃねえのかい。
おう、チビ(ピルカ)、カーナを追いたいなら勝手に追いな。 ただし。ただーし、だ。カーナの行き先にゃ、イエメンがいる。……へへっ。気ぃつけな。ありゃぁマズイ男だぜぇ?(笑) オレかい? オレぁ“恋人”を探すさ。 クスリに狂ったイエメンよっか、“恋人”が知ってる娼婦からのほうが確実にルートを追えるかもしんねぇんだからな。 |
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| 手土産と危険な賭け |
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| ピルカ [ 2002/05/30 1:27:33 ] |
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| | 分かってる、言われなくたって分かってるよドゥーバ。 今思えば、あの時カーナの様子がおかしい事に、もっとちゃんと気付いておくべきだったって。
「アトリエに行かなきゃ…。彼がいるんだよ。」 「……アトリエって?おい、“彼”って一体誰だよ!?」 エルメスの問い掛けに、ただにこりと微笑を浮かべて立ち上がるカーナ。 そう、まるで「母親」みたいな笑顔で。 そのまま、もう行き先が分かってるみたいに歩き出すカーナを、頭を掻きながらやれやれと言う顔でエルメスが追いかける。 立て掛けてあった剣を腰に差して、まだふらついてるカーナの肩を支えながら、エルメスはあたしに言ったの。 「なぁ、こいつの言ってる事、良くは分からないけど、そのアトリエに行けば全部はっきりするって事…だよな?」 あたしは頷く。
とりあえずカーナにはエルメスがついてるんだし、ずっと3人でまとまって行動してても進展はしないと思ったあたしは、 カーナをエルメスに任せる事にして、「鍵爪通り」に向かう事にしたの。 あんたが掘った穴を今さらほじくり返してもしょうがないし、あたしはあたしで「穴」を見つける必要があったから。 カーナが見つかった以上、あたしが今するべきことはもう決まってたし…。最初からそう言う約束だったしね。 ここには途中で寄っただけよ。カーナの事も話しとかなきゃ、って思って。
でも、さっき一人で街を走りながら考えてたんだ。さっきのカーナ、誰かと同じ匂いがしたって…。 …ううん、きっと気のせいだよね。あたしの考えすぎだ。 じゃあ、ちょっと遊んでくるね。 分かってる。ちゃあんとあんたが喜びそうな「手土産」を用意してくるって、ドゥーバおじちゃん。
その酒場は「巣穴」からそう遠くない場所にあって、何人かのお客がたむろしてた。 あたしはきょろきょろしながら「相手」を探したの。前に聞いた事がある、「ちょっと特殊な性癖がある」薬に詳しい情報屋。 その…つまりアレよアレ。「大人の女を愛せない」ってやつ。あんまりいい噂は聞かないんだけど…。
髪を下ろして羽根飾りを外して、目印の銀のイヤリングを左耳に付け直しながらテーブルを見回してたら、 にやにやしながら品定めするみたいにあたしを見てる男の人が一人。
あれだ。絶対あれだ。
………嫌だけど、すっごく嫌だけどしょうがないよね。 あたしは「彼」に近付いて、精一杯の笑顔でこう言ったの。
「ねぇ、あたしとお茶飲まない?美味しいケーキでも食べながらさ。」
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| 僕がきっと君たちを救ってあげる |
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| 逆巻髪 [ 2002/05/30 4:37:24 ] |
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| | ちぇ。助けられちゃったか。 ……と思ったら、ふらふらと出てきたねぇ(にっこり) なんか赤毛の女戦士が一緒にくっついてるけど、そういう細かいことは全然…うん、全然かまわないしね。
ああ……喉が渇く。なんだか眼が熱いなぁ。さっきまではすごくいい気分だったのに。 これだから、安いクスリは効き目が短くて駄目なんだ。 僕には高くて買えないけど、あの新しいクスリはいいよなぁ。アレは今までのより全然効き目が長いんだ。そりゃもううっとりするほどにね。
あれは…そう、いつだっけ。去年の夏。イケないことを口走りそうだったから、僕はあの女を殺した。 あの女。あの女はいい女だった。兎だった。“恋人”がお守りをしていた。 僕もギルドの一員だから、同じくギルドの一員のあの兎を殺すのはヤバイって言ったんだけど、うまいこと殺したらクスリをたくさんくれるって。思ってたよりカンタンだったよ。“恋人”がいない時を狙ったから。これはオシオキなんだから、当人だってわかるようにしておけよって言われたから、アンクレットはそのままにしておいた。アレを盗んで売ればクスリが5回分は買えたと思うのに。砕いた頭は熟れたトマトみたいだった。赤い。血は赤い。頭蓋骨の中身は赤いよりも灰色でちょっとがっかりしたけど。それに臭かった。あまりいいニオイじゃなかった。僕、ああいうニオイは嫌いだな。
……いけない。考え事してる場合じゃなかった。追わなくちゃ。きっとカーナはイエメンのアトリエに行く。 カーナは「お化粧」されてたから。化粧は効くんだ。すごく。 でも、何時間かすれば正気に戻っちゃう。だってまだ1回めだもの。「ジュース」を飲んでても…まだまだ駄目だ。 虜にするには、もっともっと沢山使わなきゃ。 カーナの傍にいる戦士…なんだっけ。会ったことある。ああ…そう、思い出した。エルメス。 ……エルメス。ああ……思いだしたよ。ねぇ、知ってるかい? エルメス。僕は君がすごく気に入ってる。 君の赤い髪は、トマトみたいなんだもの。 僕はまだ下っ端だから、青いトマトしかもらえないんだ。 でも、そのかわり君が手に入るなら、僕も赤いトマトの味が分かるかな。
もっともっともっともっともっと…カーナはイエメンのお気に入り。エルメスは僕のお気に入り。 僕には、前にはもっとお気に入りがいた。恋人がいた。 でも、仕事で失敗した時に、僕の恋人が捕まった。何人もの男が僕の彼女の上に乗った。僕は見てるしか出来なかった。縛られてたから。 僕のあの娘は自殺しちゃった。辛くて辛くて辛くて…耐えきれなくて自殺しちゃった。 でも僕は救われた。これを飲めば楽になるよって教えてくれたのは…ブギーマンおじさん。おじさんがくれたクスリで僕は救われた。 僕は今シアワセなんだ。だから、僕のあの娘は自殺しちゃったけど、今、僕にクスリをくれている人が僕の彼女の服を破いた人と同じだってことも気にしないんだ。だって、クスリを吸ってれば僕はシアワセなんだもの。 だから、カーナ。だから、エルメス。 僕はブギーマンおじさんの代わりになって君たちを救ってあげる。僕がシアワセにしてあげる。
イエメンのアトリエ。素敵な素敵なアトリエ。ここの絵はすごく好きだ。 カーナとエルメスの後ろから僕は入っていったよ。おっかしいの。2人ともイエメンと絵に夢中で僕に気づかないんだもの。 ああ…カーナ、やっぱりもうクスリの効き目は切れちゃったね。頭が痛い? 吐き気がする? 大丈夫。すぐに治るよ。 正気に戻ったからって、そんなに怯えなくてもいい。 エルメス、剣なんかいらないよ。危ないから僕が預かっていてあげるね。 ………ねぇ、イエメン。カーナを僕みたいに救ってあげるといいよ。
コツ? うん、コツはね。誰かを愛することさ。カーナとエルメスはきっと愛し合ってる。 それならどっちかをヒドイ目に遭わせれば、どっちかは言うこと聞くかな。心が引き裂かれちゃうかな。 引き裂かれた傷の上にクスリを塗り込めれば、クスリのすばらしさがきっと分かる。痛みも何もかも忘れられるから。シアワセになれるから。だって僕がそうだった。 ……ねぇ。イエメン。どっちをどうしようか(にっこり) |
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| 再会 |
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| イエメン [ 2002/05/30 14:19:01 ] |
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| | おれの質問を待つこともなく、リッチィの野郎が逃げ去ってしまい、チェリオとクーナの二人も後に続いたが、おれは目をやってる余裕がなかった。突きつけられた事実に、頭の中がわんわんと鳴っていた。もうトマトを食べられなくなる……。
ブギーマンの親父、いやトーマス。二度目の裏切りじゃねえか。今度はなんかで償えることじゃねえぜ。それとも友達やめたいのか。お、おおれなんかとはもうお終いだってのか?
混乱する頭の中で、引き戸を乱暴に開け、目的のものを探して、中のものを床にうっちゃらかしていく。赤い液体の薬瓶を腕に溜め、その本数を数える。 「たった七本かよう。それだけしかねえ、キ、キヒーッ!」
目の前が眩むのを感じて、どうと床に、大の字に倒れた。 絶望感がそれを惹起したらしい。久しぶりに、ジャーコフの言葉を借りれば、魔神の玩具にされる時間のはじまりか。 部屋の床がゆっくりと回転をはじめ、それにしたがって頭の中身が振り落とされていく気がする。どんどん、記憶が曖昧になる。 忘れるのは仕方ねえ、でも彼女のことだけは…。
よせ。 右手のつま先から、何匹もの蛇が侵入してくるのを感じた。蛇はくねり絡まりあいながら、肉を食い器官を潰していく。両目を内側から破られて、視界は暗黒に染まった。 反射的に腹部をかばい、ごろりと横になる。 トーマスのトマト… 助けてくれ。パパ。カーナ……
…… 名前を呼ばれてゆっくり目を開ける。 ああ……戻って来てくれたんだね。 そんなに汗みずくで、呼吸も荒くて。瞳孔も少し開いている。 それでもカーナさんは変わらず綺麗で、穏やかで優しい微笑みを向けてくれている。 指を伸ばし、一層美しいそれに触れる。なんて紅い唇なんだ。彼女の頭を抱え込み、口づけした。 あるいはこれも幻想かもしれねえ。それでも構うもんか。
視界の隅で、「モールドレ」の瓶が一つ空になって転がってるのが見えたが、そんなこと、少しも気にならなかった。 あいつ、逆巻髪が、赤毛の女の子を羽交い締めにしている光景だって、おなじだ。 |
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| (無題) |
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| イベント管理者 [ 2002/05/30 21:12:03 ] |
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| | 人物や単語など、現在までで登場したものを、項目別にまとめてみました。 アドリブを繋いで進められることを旨としているイベントですが、決定事項として認識してもよいものが増えてきたと考えての一覧作成です。記述の間違いにはご一報下さい。 勿論、曖昧な部分も多いので、ここに書かれたことでも、各PL氏の判断のもと、さらに変えていって構いません。 因みに現在もっとも曖昧模糊としているのは、麻薬モールドレの生まれた歴史、現在それを販売する仕組みの全容になるでしょうか。
イベント掲示板でなくここに載せるのは、より目に付くこともありますが、展開は常に流動的なので、途中経過の報告の形でこちらに載せる方がわかり易いと思ったからです。
○人物
1,盗賊ギルド側ー──認知されていない麻薬ルートの摘発に力を注ぐ人々
”手長”ドゥーバヤジット……見かけは冴えないがベテランの盗賊。数年前から、裏で流れる麻薬を追っていた。イエメンに接触したことから、ルートの現存を 確信し、摘発のための行動を開始する。 ”恋人”チェリオ…………黒髪、浅黒い肌のシーフ。以前にギルドからの依頼で護衛していた娼婦を、麻薬漬けにされ殺された経験を持つ。クーナとは友人関係。 クーナ……草原妖精の女の子。ギルド員ではあるが、麻薬の摘発にはあまり関心がない様子で、のんびりしている。チェリオと共に、イエメンのアトリエに行く。 ピルカ……彼女も草原妖精。エルメス、カーナとは友達であり、彼女らのことを気遣っている。情報集めのため、”鈎爪通り”に向かう。 エルメス……カーナ、ピルカと友達関係の、赤髪の女戦士。イエメンの元に向かったカーナを追った所、”逆巻髪”バルバに囚われる。 エルウッド……ギルドメンバー。ギルドの目が届かない所で流通する麻薬の正体に迫り、報告を持ち帰る。 ”三つ指”バンクロウ……まだ若いシーフ。過去、ギルドに失態の責任を取らされ、片手の指が三本しかない。 ”皮剥”……鐚一文横町で、乞食をしながら情報を集めている老人。背中に大きな瘤がある。 ”黒爪の”バルバロ……ドゥーバヤジットに、ウラの麻薬摘発の指令をくだした、盗賊ギルド幹部。 大人の女を愛せない情報屋……薬関係に詳しいという情報屋。特殊な性癖を持つ。
2.麻薬組織側──裏ルートで麻薬を捌いている一味に関わっていると見られる人々
”絡繰り”リッチィ……イエメンと、彼に麻薬を提供する側との仲立ちをつとめる男。現在は、常闇通りに潜伏中と見られる。 ガデュリン……イエメンがパパと呼ぶ人物。詳細不明、過去の人か。 トーマス・ブギーマン……「錆びた黄金」店主。イエメンやバルバに麻薬を渡す。過去、医者であり魔術師でもあったという、謎の多い人物。 ”路傍の”ガフ……”売人一味の人物と思われる。彼らは”財布”を後ろ盾に持っているらしい。 ”財布”……”路傍の”ガフたちにこの名前で呼ばれる人物。現在、新麻薬(モールドレ)の売買のスポンサーであるらしい。 クレンツ男爵……”財布”と呼ばれる貴族と同一人物か。 甘味屋の親父……リッチィの知人らしい。詳細は不明。
3.分類不能な人々
イエメン……麻薬モールドレの中毒者だが、発症は少な目らしい。ガデュリンの息子と自称し、過去にどういう体験をしたのか、謎が多い。麻薬の売人一味から通称で「強面」と呼ばれる。 カーナ……ギルドのメンバーには”白指”と呼ばれる女シーフ。イエメンにモールドレを嗅がされ、中毒症状が出始めている。 ”逆巻髪”バルバ……ギルドメンバーだったが、摘発すべき麻薬の虜になる。恋人をブギーマンに犯されている。現在、エルメスを捉え、イエメンのアトリエを訪れている。 ”形見屋”ブーレイ……自ら受けた依頼の遂行のための戦略として、クレンツ男爵を調べている。 ”風上”ネイ……パダを根城にする腕利き情報屋。ブーレイの調査に協力するためオランに呼ばれた。 ジェーコフ……過去、ブラウンケーキの中毒症状で死亡したとされる人物。 チェリオが護衛していた娼婦……彼女も麻薬中毒者だったらしい。その身体には去勢された痕があった。”逆巻髪”バルバに殺されている。 |
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| 経過報告 |
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| イベント管理者 [ 2002/05/30 21:14:28 ] |
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| | ○場所
錆びた黄金……トーマス・ブギーマンが経営する、生活雑貨の店。ギルド直轄店で、怪しい薬も売るが、認知されない麻薬を販売しているとの噂もある。 イエメンのアトリエ……イエメンの住む部屋。貴族が住むような屋敷の中にある。屋敷には彼の他にリッチィが間借りしている。他の住人、持ち主など、不明。 鐚一文横町……”皮剥ぎ””三つ指”たちが根城にしている通り。 月の雫……店構えは占い店だが、正体は情報屋と思われる。 巣穴……ピルカ、エルメス、カーナたちの根城。 魔神の舌……以前の主人がブラウンケーキの中毒で死んだと言う鍛冶工房。 鈎爪通り……裏通りの一つ。
○単語 モールドレ……今回の元凶、現在裏ルートで蔓延っている麻薬の呼称と目される。 トーマスのトーマト……真っ赤に熟れているトマト。新麻薬の隠語であるらしい。売買の際に、符ちょうとしても使われるという。 青いトマト……固くて不味いので、黒い石の下に埋められるという。 ブラウンケーキ……新しい麻薬の登場以前に、裏で流されていた麻薬。摘発ずみ。致死率が高く、服用者は身体に黒い斑点が出来て死ぬという。 ”お菓子”……ブラウンケーキを差した隠語の一つと思われるが…。 ”壁の無い家”……イエメンが口走った。詳細不明。 ”化粧”……麻薬を皮膚に塗布して服用することの隠語。 ”ジュース”……麻薬を飲んで服用することの隠語か。 ”妊婦の絵”……アトリエの壁に描かれていた絵。
○現在の主な状況、 ・イエメンと”逆巻髪”バルバが、カーナとエルメスとともに、アトリエにいる。 ・ドゥーバが、情報を確認しあうため”恋人”チェリオと接触しようとしている。 ・ピルカが、薬関係の詳しい情報を探るべく"鈎爪通り”へ |
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| 時間稼ぎ |
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| 幹部 [ 2002/05/30 22:31:52 ] |
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| | ギルドがいろいろ嗅ぎ回っている。そんなことは予測済みのことだ。操作を攪乱するために、偽情報も流した。ルートを調べている輩がいるのを見越して、いくつかの店を取引場所として臭わせたのだ。もちろん買うときの暗号やら、印やら適当に織り交ぜてな。 「じゃ、頼んだぜ」 「判った、行ってくる」
オレの大事な弟分は、元気よく返事をして出ていった。この裏世界には不似合いな元気さと純な心を持っている奴だ。だが、奴の演技は伊達じゃねぇ。独自で判断することにはめっぽう弱いが、こと指示を与えれば忠実にそれをこなしてくれる頼もしい奴だ。そんなかわいい弟にもしものことがないよう、見張り(護衛)もつけさせる。
ひょんなことから命を助けて今の関係ができあがったわけだが、今更普通の生活に戻せるものじゃねぇ。純な奴だがあいつも“世捨て人”だ。いや“捨てられ人”と言うべきか。世間はあいつを受け入れてくれやしない。 ギルドに縛られて生きるのもごめんだ。オレたちはオレたちの力で生きていくだけだ。 弟に行かせた場所は“ロックフィールド医院”って診療所だ。オレはあそこの医者が嫌いだ。薄汚れたオレたちを見て、冷笑したんだからな。 悪いがちょいと役に立ってもらおう。神官や医者って奴は口が堅いって評判だからな。薬の出所の一つに医院を含ませて、弟がそれを買い付けに行く振りをする。一見素人には自然な振りだが、鼠が見れば不自然さは目に付くって寸法だ。これに踊らされてギルドが動けばしばめっけもの。薬に関して問われても「知らぬ存ぜぬ」を通してくれれば最高だ。白と判るまで拘束でもされれば十分だ。その間にやれることもあるでな……。
このクソ面白くない世界に、多少は楽しみってのが出てきたかな(にやり)。 |
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| イカれた医者 |
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| エルウッド [ 2002/05/31 2:45:28 ] |
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| | かつて、一人のイカれた医者がいました。 彼は患者の肉体的苦痛だけでなく、精神的苦痛をも癒したいと考えたそうです。
ええ、ここまでなら別にイカれてなんかいません。 その医者がイカれていたのは、ハハッ! その手段に麻薬を選んだことです!
ハハッハハハ! それはそうだ! 麻薬の快楽で全てを忘れてしまえば精神的苦痛なんてなくなる! だたし、同時に人間も続けられなくなりましたがね、ハハッ!
医者はクスリの研究と同時に精神の病んだ患者を集めていました。 もちろん、そのまま人体実験ですよ。 彼の実験室の通称は”壁の無い家”! ハハッ! まるで、なかったのは壁だけだったようじゃないですか! ”檻”に何か必要な物があったとでも言うのでしょうか!
この医者が、かの”ブラウンケーキ”の製作者だった男・・・名前? 忘れました。 なぜですって? ハハッ! 必要ないからに決まっているじゃないですか! 彼は死にました! ”ブラウンケーキ”摘発の際に! 何者かに頭を叩き割られて!
それをしたのは我々ではありません。 摘発騒ぎのどさくさに、クスリに頭をやられた”患者”にやられたのでしょう。 なんのための檻だったのだか・・・ハハッハハハ! |
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| 火中に飛び込む |
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| バリオネス [ 2002/05/31 4:37:55 ] |
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| | 旅に出る前、使い魔のはしぶとカラスをオランの街に残していったのは正解だった。 使い魔の視覚を通して、小さな空き地に座りこんでいるドレス姿のカーナを拝むことが出来た。 そのまましばらく観察していると、白鷺のエルメスと思われる女性がカーナを殴り、それから心配そうに背中におぶり連れていった。 何かトラブルに巻き込まれていると言うことは一目で分かったが、恋人同士何とかするだろうと自分を納得させ、使い魔を見張りに立てる。 『全然納得して無いじゃないか』と、使い魔に言われつつ魔導書を開くが、気になってしょうがない。 時折使い魔の視覚を確認し、会いに行くべきか行かざるべきかをぐるぐると何回も考えている。
ええい、ぐだぐだ考えても無駄だ、会いに行く! カーナのことをまかせられる人物ならそれでよし。だが、そうでなかった場合、白鷺を切り捨ててでも連れ戻す!例え女であろうともだ。 そこまで決心するころには辺りは闇に包まれていた。 駆け足でカーナ達がいる宿屋に向かい、丁度宿から出てくる彼女たちの後を隠れてつけていく。 なにとっさに隠れているんだ自分! カーナに気がつかれないように使い魔に追わせる。 無理は承知だ、方向さえ分かれば今までの行き先から見当はつくだろ。 先回りして暗がりで待っていると、カーナ達は建物の中に入っていき、その後を追うように見知らぬ人間が建物に入っていく。 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。いざ討ち入りに!使い魔に違うとツッコミをいれられたが気にしない。
建物の扉には鍵がかかっていた。 こんなのも・・・鼻で笑うようにアンロックの呪文で開ける。 薄暗い室内を明るくするため、適当なところにライトの呪文をかける。 部屋の中には羽交い締めにされている女と、その奥で男と戯れているカーナの姿が・・・ 「白鷺しゅ〜ご〜!」 敵陣の懐深くまで攻め入ることは包囲されることを意味する。 まずはエルメスを羽交い締めにしているヤツに蹴りを加えて、戦力の確保をする。 この後、横から攻撃をかけるのが基本だが、使い魔には無理だ。 さてどうする。とりあえず現状を説明させようとエルメスに問いかける。 「この状況はどういうことだ?」 返答しだいでキサマも叩き切る!そう心の中でつぶやいた。 |
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| 虚空に溶ける愚痴 |
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| ジェイコブ・ブギーマン [ 2002/05/31 18:49:11 ] |
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| | ”甘味屋”ァ、リッチィの野郎は、イエメンの奴になんて伝言したんだ? 少しは教えてくれよ。 ギルドが嗅ぎ廻っているだろ…。トマトの受け渡しの注意を、あのイエメンにか。それとも、もっと別なことかい。…チェ、どうせ儂にはわからねぇこったよ。
ああ、ちゃんと、見張りはつけてくれているんだろうな。あの真っ白小便のいかれ野郎が、間違えて日にちを守らないでこっち来るようなら、早く教えてくれよ、逃げるから。
最近、こうやって胃が縮み上がる思いばかりだ。スープしか食えねぇ…。 ギルドにまた睨まれるのも勘弁してほしいぜ。前に虐められた時は、忍耐の限界だったからな。でもあんた達に逆らうのはさらに怖ぇし、そんな時のためにあんたは肝心なこと、何も教えてくれないんだろうがな…。なぁ”甘味屋”
ト、トーマス? あんたまで、そんな名で呼ぶのか、甘味屋ァ。ジェイコブと、ちゃんと本名で呼んでくれ! ……すまねえ、忘れてくれ。そうだな、今のおれは弟のトーマス、あいつなんだ。代役を拒否して、また息苦しい仮面を被せられて、地下に閉じこめられるよりは、ましだもんな…。
くそくそう…。若い頃から、お互いへの殺意をみぬいて、牽制しあってきたのに…。元は同じなのになんでこう、差が出来ちまったんだ。競争に負けちまった…。 あのクスリだ。あいつがその力を背景にしたのが、決定的だった…。あれで、儂ぁ弟に逆らう気がなくなったんだ。ぶるりら…。奴の影武者となることを受け容れるしかなかった。
弟が店先に立つのは、四のつく日。”妖精隠しの日”…。その時ぁ、儂も一日、あの頃のように地下でお勤めになる。今からそれが、怖くて怖くてな…。嫌な汗がどんどん出てくるんだ…。 |
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| 愛の宴 |
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| イエメン [ 2002/05/31 23:59:59 ] |
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| | 口を開けられた「モールドレ」の瓶が床に転がる。 おれは口に含んだ赤い液体を、トマト欲しさに乾いて震えるカーナさんの唇の上に、とろりと零してやる。 「もっと…頂戴……」三日月の形の艶めかしい目をしておれを見上げ、カーナさんは言う。おれも、脳が痺れるほどの歓喜を味わう。その一方で、何か判らないが、痛みのような感覚が胸にあった。 あげるよ全部。カーナさん。
今、おれの目の前に、赤毛の女の子を捕らえて立つ、”逆巻髪”バルバ。いけすかない野郎だけど、楽しい遊びを考えることにかけちゃ、ほんと一目置かざるを得ないんだ。 やつはそしておれに告げた。カーナさんと、その赤毛の女の子、エルメスは愛し合っている、と。ざわりと肌を撫でるものを感じた。 その気持ちを見透かすかのように、バルバは続ける。二人のどちらかを酷い目に遭わせれば、もう一方は絶望する。そこを愛の手を差し伸べれば、さらにトマトの効きはよくなり、おれたちの愛はもっと完成に近づく、と。 天才かぁバルバ。素敵な思いつきだ。 じゃあ、バルバ、一緒にその赤毛の女の子をやろう。今、カーナさんは夢見心地だけど、まだその心には固い無用な壁を残している。今、その子をやれば、その光景を目にしたカーナさんは、残している壁も自分から崩してしまうだろうね。笑みが滴り落ちた。
振り返ると、横臥しながら口からトマトの液体をこぼして、カーナさんはおれたちが赤毛の女の子に向かうのを見つめてた。その口は、声にならない叫びをあげようとしてるようだった。
どこからか白い鴉が迷い込んで来ていた。なんだろう、これは初めてお目にかかるなあ。そのうちどうせ溶けて消えちまうんだろうが、それはさかんに赤毛の女の子を抱えたバルバの腕を蹴っていた。おかしくなって笑うと、叩かれているバルバも、なんだか面白いみたいで、一緒になって笑った。ハハハハハハハハ。 軽くはたいて、その鳥が消えやすいようにしてやる。
噛む。おれとバルバは床に膝をついて、赤毛の女の子の、その白い肉体を噛む。腕や…背中や。気絶している身体がびくりと脈打った。 突然バルバ。胸から腹にかけて撫でていたが、途端に唸り声をあげ、針のような細さの刃物を抜いた。 おれは制止の声を上げる。やめろ、待ってくれ! それをするのは… そりゃ最後だ。言いながらちょっと想像してしまって、その甘美さに、目元とほおげたが歪む。
そう、落ち着けよ。まだまだ楽しみ方は沢山あるんだ。壊してしまう前に、カーナさんにやるように、愛してあげるのもいいだろう。ハハァ、どうだ、そっちの方がいいだろ? 地下の蔵には色々と遊びに使える面白いものを買って来てるんだから……。手始めに、そうだな。
地下に降りるとバンダナを手に取り、パン、とそれを張って感触を確かめる。HA、と笑みをこぼしながら、悠々と梯子を登って部屋に戻った。 すると状況が変化していて、おれはぴくりと片眉を上げた。 |
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| イヤなヤツ |
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| 逆巻髪 [ 2002/06/01 1:29:22 ] |
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| | イエメンが考えついた遊びはきっといつものアレだ。 僕たちのお気に入りの遊びは、粉のまんまのトマトを皮膚に振りかけて、それを上から炎で炙ること。 トマト……そう、モールドレは粉のまんまじゃ「お化粧」できやしない。 でも、火で炙ればとろとろになる。そうしたら「お化粧」に使えるんだ。 ホントはスプーンに載せて蝋燭の上で炙ったりするけど。肌の上で、さらさらの粉がどろどろの液に変わっていくのは、なんだかとても楽しいんだ。ほら、まるで愛みたいだよね。最初はさらさら。少しそっけない。でも熱くなればなるほど、それはとろとろになっていく。全部、溶けていく。 素敵なイエメン。芸術家のイエメン。 とろとろになったモールドレで、エルメスの肌に赤い絵を描いておくれよ。
ごつん。 ……あれ? なんだか今、目の前が揺れたよ。 おかしいな。いつも僕が見る夢はそんなんじゃない。 ごつんごつん。痛みは感じない。でも、目の前にイエメンじゃない腕が現れてエルメスを奪っちゃった。 返せよ、それは僕の玩具だよ。 腕なんかどうせ夢なのに。さっきまでうろうろしていた鴉と一緒なのに。 なんで、僕の夢が僕の玩具を取り上げるのさ。そんなのないよ。そんなのヒドイよ。
振り向いた僕の目に、見たことのない男(バリオネス)の顔。……イヤだな。男の顔なんかが僕の夢に現れるなんて。どうせなら可愛い女の子がいいのに。エルメスとかカーナとか。
「目を覚まさんか!」 男がエルメスに聞いてるけど、でも無駄だよね。だってエルメスはさっき僕が気絶させたから。 モールドレを使うのはこれから先のオタノシミだから、まだ使ってないけどさ。 「君も一緒に遊びたいのかい?」 どうやら現れた男は現実みたいだから、そう聞いてみる。そうしたら、殴られた。 ひどいな。クスリが効いてなければきっと痛みで気絶しちゃってたよ。 「一緒に遊ばないなら返してよ、僕の玩具だ!」 掴みかかった僕に、その男からなんか光るものが飛んできた。ダガーかと思ったら…なんか違ったみたい。 そうか、これがきっと魔法だ。イヤなやつ。魔法使うなんて。
さすがに、びりびりさせられたんじゃ、なんだかいろいろ限界だ。 ああ…クスリが切れかけてるのかもしれない。寒気がする。なのに殴られたところとか魔法でやられたところは妙に熱い。 「リッフィ………?」 カーナの声。とろけるような声。 男の名前なんか知らない。でも今、カーナを見て驚いていた男。 …ねぇ、君。もう遅いよ。カーナはきっと君よりモールドレを選ぶ。 ああ……頭が痛い。一度眠ろう。一度眠って…起きたらクスリをキメるんだ。そうしたら今まで見ていた夢をもう一度最初から見られる。 |
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| オサマリがつかねえよ |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/01 1:59:48 ] |
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| | 「ミスタ・ブギーマンが、助けてくれるよ。本当はドクター・ブギーマンなんだ。でもドクターは、別のドクターがもういるから、私のことはそう呼んじゃいけないよって言ってた。だからおれはミスタ・ブギーマンって呼ぶんだ。青いトマトはお子さま用さ。いつか赤いトマトが食べられるようにみんな頑張る。みんなそうやってミスタ・ブギーマンにお願いする」
常闇通りのヤク中がそんなことぉほざいてやがった。 クソもわかんねぇ妄想のなかでちらっと言った言葉。 “恋人”を探すついでに、ちぃとばかり聞き込みした結果だ。 ブギーマンってなぁ確か………そう、“錆びた黄金”の店主がそんな名前じゃぁなかったかい? いやぁ〜〜…いやいや。待て待て。 あそこの店主なら調べた。アレぁシロだ。オレが直々に問いつめた。やさしぃく、な。 あいつにゃぁギルドに逆らうなんて真似は出来やしねぇ。……なのに、なんでそれがこんなに気にかかる?
ブギーマン。トーマス・ブギーマン。“錆びた黄金”の店主だ。 シロ……のはずだ。………ああ、もやもやするなぁ。 まるで、ブギーマンが2人いなきゃオサマリがつかねえみてぇじゃねえか。
あ〜…ちくしょ。書類調べなんざぁオレの得意ごとじゃねんだけどもなぁ(溜息) “恋人”には、稲穂亭にくるように伝言しておいて、オレぁギルドに戻った。 そして、何年も前の資料をひっくり返す。そうさ、ブラウンケーキだ。 エルウッドが言ってた。ブラウンケーキを作ったイカレ医者は摘発の時に死んでると。 ギルドで摘発したんなら、資料が残ってるはずだ。
………ガデュリン? そうか、それがそのイカレ医者の名前かい。 ドクター・ガデュリン? それが……「別のドクター」か? “壁のない家”で麻薬の実験を繰り返していたガデュリン。 家族構成やら何やらは…っと……………なんでぇ、この資料は。肝心なとこが抜けてんじゃねえか。 ………いや、違う。綴じられてたはずの羊皮紙が抜き取られてる。誰だ? ギルド関係者にやっぱり裏切りものがいるってぇのか? かぁ〜〜〜っっ! ちきしょうめっ! おいっ! そこらでクダまいてやがる若造どもっ!! 裏切り者を捜せっ! 生きたまんま、オレの目の前に引きずってこいっっ!!
うろうろしてんじゃねえよ、とっとと行ってこいやぁっ! ……んぁ? なんだってぇ? “魔法の粉”を見つけた医者んとこに妙なヤツが…? ふーん……そうか、あいつも“ドクター”だったなぁ? よっしゃ、トレルっつー医者だったか? そいつも引っ張ってこいや。 医者ならクスリにゃ詳しいはずだ。薬草を仕入れたりするルートもある。……麻薬ってぇのも、もとをただせば薬草だよなぁ? てめぇで作ったクスリを陰で売っておいて、オレらが調べ始めてることがわかったもんだから、自分から疑いの目をそらすために、患者をでっち上げたってぇこともあるぜぇ? だとしたら、親切ごかしたその医者に「協力感謝」なんぞほざいてたオレらがコケにされてるってこった。 |
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| 報告 |
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| "恋人”チェリオ [ 2002/06/01 2:46:44 ] |
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| | 屋敷を飛び出した後、男を追って走っていったクーナが十字路で立ち止まっていたのに追いついた。 見回すと、閑静だが大きな家が連なり、さらに路地も綺麗に舗装されたものが幾つも通っている。 クーナと顔を見合わせると、肩をすくめていた。地の利は完全に向こうにあったらしい。 別荘街が賑やかになるシーズンには少し早く、辺りに男の行方を訪ねられるような人影も無かった。 男の追跡を一時あきらめ、「錆びた黄金」に足を向けようと、ハザードの橋を通り越しかけた所だった。 「御呼びだよ。結構お急ぎみたいでね」 橋の入り口を背もたれに休んでいた老人が声をかけてきた。黒ずんだガメル銀貨で爪を磨いている。”黒爪”から話が回ってきたことなど一度も無い。受け持つ仕事の種類が全く違うからだ。ギルドの中はかなり住み分けがされている。”黒爪”は情報畑の纏め役の一人だ。
「おっ死んでんじゃねぇかとも思ってたがぁね」 ”黒爪”から事の子細を、その場にいた男から伝言を聞くと直に”手長”のドゥーバヤジットの元に足を向けた。今回の件は全て手長が一手に請け負っているらしい。捜していたという割には随分な台詞を軽く飛ばしてくる。ようするに、俺という糸口がなくともどうとでもツテがあるという事だろう。名の通り、何処までも手を伸ばせる男だ。 「アデンの事だろう?」 「そう、そうだ。確かそんな名前だったっけな。いい女はあんまり減らすもんじゃねぇよなぁ」 手長はそういうと彼女が身につけていたアンクレットを差し出してきた。誰かの手によって回収されていたらしい。女の足を飾っていたそれは、俺にしてみたら手首になんとか嵌るかどうか怪しい所と言った華奢なものだった。 「彼女についたのは22回。だいたい3日〜7日おきに得意先に足を運んでいた。行き先はサヌアトール家だがその後良く馬車が出ていたから別の所に出向いていた可能性もある。もう知っていると思うが、”兎”としては、役に立ってなかったと思う」 なにせ、性器を失っていたんだ。 それから、知りうる全てを手長に渡した。「錆びた黄金」からその先知りえた事もだ。 隠すべき事など一つも無かったからだ。あんなもの(薬も、それによって進んで狂った者もだ)一切無くなってしまえばいい。・・・アデンは望んで受け入れたのだろうか?彼女は、おおよそ考え得る必要なもの全て持っていたし、不満の影など見えなかった。もしも、彼女がそれでも薬を欲したとすれば何か目的があったのじゃないだろうか。そう言うと、手長も身を乗り出してきた。 「それよ。お前、女から何も聞いちゃいねぇのか?ほれ、金がどうのこうのって奴だ」 「茶色から黄土。黄金には程遠い。まだ黄金は腐ったまま」 彼女の口癖(高慢な何時もの軽口を除いて、だ)を連ねて言った台詞の途中で、居合わせた情報屋(エルウッドと名乗った)が口を挟んだ。 「そうだハハッ!モールドレってな≪腐った金≫≪死んだ黄金≫ってんだよ、ハハッ!気取った芸術家とかがこきたねぇ黄土の色をそう呼んでやがるのよ。確か、確かそうだった」 手長が小さく口笛を鳴らした。歯が抜けているので何処か隙間の空いた音だった。 「どうやら間違い無さそうだな、オレが追いまわしてるのと同じモンだ」 にやりと笑うと、手長は指先で軽く回していたアンクレットをこちらに向けて弾き飛ばす。 「駄賃だよ」 筒状になった銀が小さな赤い宝石を合間に連ねられたものだった。 「できた!なかなかの上出来だよ。知り合いにはちょっと負けるけどね」 屈み込んで作業に没頭していたクーナが目の前に羊皮紙を広げて見せた。例の、見失った男が描かれている。 「”絡繰り”の野郎じゃねぇか。奴の塒なら・・・・・・ハハッ常闇のカラクリハウスさ」 エルウッドは口を開く前に手を差し出す。手長が銀貨を数枚放り投げる。 それを横目に見ながら俺も”駄賃”と言われたそれを手の中でひっくり返していた。アデンの仕草を思い出す。 彼女を倣って、オレが留め金に手をかけ僅かに捻った所だった。蓋になっていたらしい金具が外れ筒になった銀から赤い液体が滲み出、下に垂れた。オレの仕草に気が付いた手長が口を歪める。 「手につかなくて良かったな、”それ”ァ口に入れるだけのモノじゃねぇんだとよ・・・・・・・・・・・・!!」 言うなり、手長はオレの手からアンクレットを引っ手繰ると手を服の裾で守りながらそれから何かを引っ張り出した。 「死者からの伝言ってやつだ。気が効く女じゃぁねぇか・・・多分な」 赤く染まり、几帳面にたたみ込まれた小さな紙切れを手長が広げている間に、オレは放り出されたアンクレットを拾い、袖口で液体をふき取ってから左腕につけた。右腕では金具が届かなかったからだ。 |
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| 幸せの澱 |
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| カーナ [ 2002/06/01 2:47:55 ] |
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| | あたしには母さんがいない。 母さんは、昔々、あたしが幼い頃に亡くなった。 だからあたしには、母さんの記憶は殆どない。
そう、夕日だ。あの時、あたしは母さんの胸元に甘えたり、母さんの膝枕で寝かせてもらったりした。壁に開けられた採光穴から注がれる、真っ赤な光が、あたしの顔を照らす。 何も考えずに幸せを感じられたあの頃。ああ、幸せだったなぁ。それだけは覚えてる。
その幸せが、今は目の前にある。赤い液体となって。 認識は、それだけで充分だったんだ。
次に意識がはっきりと輪郭を取り戻した時。 あたしは、腰に差してあった短剣を、投げた直後だった。 まっすぐに飛ばず、くるくる回転する短剣だけど、上手くあいつの背中に当った。何だか焦げて黒ずんでる服が、赤く染まる。
あたしは幸せだ。 トマトがあたしの喉を鳴らす度に、快感が映像となって浮かび上がる。それが何とは言えないけど、凄く素敵なもの。 今は姿が見えないけれど、イエメンも凄く優しい。それに、あたしを縛った時に見せたあんな顔も、見せない。嬉しいな。幸せは分け合うものだから。 エルメスもいる。何所から入って来たのか知らないけど、リッフィルまで。うふふ。あたしを好きなひとが、そしてあたしが好きなひとが、いっぱいいるんだ。これが幸せじゃなかったらなんだろう?
だけど。 それに雑音を入れるひとがいる。 そうだ、あいつだ。エルメスに酷い事をしてた、あいつ。イエメンに色々と吹き込んでいた、あいつ。
許さない。 許さない。許さない。許さない。
イエメンはあたしのもの。だけど、エルメスもあたしのものだ。 そうさ、あんたなんかにくれてやるもんかよ。バ、バル、あぁー、名前なんてどうでもいい! 母さんは優しかった。あたしだけでなく、隣のジャニスやブレンクとか、悪ガキどもにも平等に優しかった。 でも『おいた』をしたら怒る。そうだよ? 決まってるじゃないか。ふふっ。短剣は投げてしまったけれど、まだ手矢があるんだ。 ああエルメス、可哀相に。そんなに痕をつけられて。大丈夫、あたしが助けてあげる。あたしにはそれが出来るんだ。あはははっ。
ふと、取り乱しているイエメンを見て、手を差し出す。 かわいそうなイエメン。悪ガキに騙されて、最後においてきぼりにされる。必ず集団にひとりはいる、割の悪い扱いを受けるひと。きっとそう。 ほら……そんな顔をしないで。あたしは近くの瓶を手に取ると、中身を口に含み、そのまま唇を重ね、彼の喉に流し込む。 悪い子にはお仕置きが必要。だけどあたしは知っているよ。君は良い子。だから手を上げたりはしない。 でも、あの子は悪い子。悪い子は許さない。ねえイエメン、あたしを手伝ってくれるよね……? その代わり、ほら、肌に触れても良いよ。真っ白な肌に。ひとは、肌に触れてる時が一番落ち着くものだから。
ああリッフィル、そんな顔しないで。大丈夫、君のことも覚えてるし、好きだよ。 ふふ。ほら、一緒に飲む? 幸せは分かち合うものだからねぇ。 ……なんだってそんな顔するんさ。それとも、ああ、君も悪い子、なのかなぁ……? |
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| ぼやきと… |
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| “絡繰り”リッチィ [ 2002/06/01 3:01:09 ] |
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| | ち、なんてこったい。考えてみりゃあ、この状況ってのはよくねぇ……むしろ悪いくらいだってなぁ? イエメン坊からの八つ当たりを逃れられてもよぅ、ギルドに目ぇ着けられたんは痛ぇ。それは間違いねぇさなぁ。 へへっ、頭ん中ぁイカレた野郎共の相手してる内に、俺まで鈍ちまったてぇのかぁ? 冗談じゃあねぇぜぇ。 ……ひとつはっきりしてんのは、俺らぁそれぞれ“誰か”の駒って事だぁな。しくじったら切り捨てられるのが駒だ、証拠に俺ぁ詳しい内情は知らされてねぇ。 知らなけりゃあ、責められねぇ? 冗談も休み休み言うもんだぜぇ? “巣穴”がんな言葉で見逃してくれるもんかよぅ。 一度足をつっこんだら抜けられねぇ沼さぁ、今更鞍替えしようなんて思ってねぇ。……役立たずの烙印を押されるなんざ御免だぜぇ、テメェの尻拭いはテメェでしねぇとなぁ? そっち片づけてから“甘味屋の爺”の所に繋ぎ取るかぁ。
考えてる間に俺のいくつかある家の一つに来たなぁ。 さっきの“客”は付いてきてるのかねぇ? 坊のとこで手間ぁ喰ってりゃあ楽なんだけどよぅ。ま、用心しとくに越したことはねぇさなぁ。 |
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| 教訓 |
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| “路傍の”ガフ [ 2002/06/01 3:53:31 ] |
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| | “自然であること” それが教訓だ。
俺が長い間、ギルドの影に隠れつつヤバい橋を渡ってこられたのは、この教訓のお陰だ。 目を付けられる奴ってのは、どこかしらに不自然な行動ってのがでてきちまうもんだ。そして、一度目を付けた相手をみすみす見逃すほど、ここのギルドは甘くない。要するに、目を付けられないよう、表面上はごく自然に「薬に詳しい情報屋」を装っていればいい。それが、長年、ギルド管轄外のルートでの麻薬売買に関わってきた俺の得た教訓だった。
だが、神様ってのは、実に上手く人間ってモノをお作りなさった。表面上、ごく普通の人間ほど、その内面には人には言えないような異常性を隠し持っているもんだ。そうやって、バランスを取るように、神様がお作りになったんだろう。 俺も、そんな中の一人だった。俺の場合、普通の女に対して、性的な興奮を全く覚えなかった。むしろ、恐怖すら感じていたと言ってもいい。 そんな俺が、唯一、性的な興奮を覚える対象。それは、まだ蕾も膨らみきっていないような幼い少女を前にしたときだ。薬の仲介人をしつつも、薬には一切、手を出さなかった俺だったが、幼女を前にしたときの俺は、重度の中毒患者のように、頭がぼーっとしてきて、胸が早鐘のように高鳴ってくる。
ああ、分かってるとも。俺は異常さ。だが、しょうがねぇ。気が付いたときには、これが俺の「普通」になっちまってたんだ。それに、後悔はしちゃいねぇ。まだ、誰にも触れられた事のない可憐な蕾を、この手で摘み取ったときの興奮は、他じゃ絶対味わえない。その味を知っている俺は、きっと幸福に違いないという自負すらある。 まぁ、長生きはできないだろうがな。
そして、そんな俺にとって、絶好の場が向こうからやってきた。 「ねぇ、あたしとお茶飲まない? 美味しいケーキでも食べながらさ」 とろけそうなほど甘く心地よい声が俺の耳朶を打った。 その禁断の蜜に誘われて振り返った先には、可憐な少女が俺を見上げていた。 その少女は、目印である銀のイヤリングをした。 こんな少女が薬を? そんな疑問が浮かぶ余地すらないほど、俺はこのとき、この可憐な花の蕾をどのようにして摘み取ろうかということばかりを考えていた。
興奮でのどが渇き、指先が小刻みに震える。だが、なんとか、とびっきりの優しい笑顔を浮かべることができた。 そして、できるだけ“自然”に少女に声をかける。 「いいよ。とびっきりのケーキがある。お兄さんが、そのケーキのあるところに案内して上げよう」 無邪気な笑顔を浮かべ、俺についてくる少女。 その笑顔を摘み取る瞬間を想像しただけで、気を失いそうになるほど興奮した。
俺は隠れ家への道を急ぐことにした。幼い少女の手を引き、足早に通りを歩み去っていく青年。 ……教訓のことなど、綺麗さっぱり忘れてしまっていた。それが、俺の破滅への第一歩だった。 |
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| 王子様は石人形 |
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| バリオネス [ 2002/06/01 19:09:50 ] |
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| | エルメスを羽交い締めにしていた男は、ライトニングの魔法とカーナの投げたナイフによって床に崩れ落ちるように倒れた。 エルメスに問いかけても気絶したままで、私にこの状況を伝えるものはいない。 この男(バルバ)にとどめを刺すのは時期尚早ときめるが、女性を乱暴に扱うようなヤツは万死に値する。 私がトドメを刺さないのは、目の前で楽しげに戯れるカーナにとまどいを感じているからだ。 突然カーナと戯れていた男(イエメン)が笑い出す。 カーナは何かの液体を口に含み、私が見ているのにもかかわらず堂々とキスを交わしている。 その幸せそうな顔を見て、私のとまどいはさらに加速する。 そしてカーナは私に近づき、その赤い赤い唇で私を誘惑する。
『パチンッ!』
次の瞬間、私はカーナに平手をうった。 カーナは赤い液体を吐きながら床に座り込む。 なぜそんなことをしたのか自分でも分からなかった。 『男たるもの人生に一度はハーレムを持つことを志せ』と、いう考えのある自分が、いざハーレムの一員にいれられて嫉妬しているのか? あらゆる可能性が頭に浮かんでは消える。 そしてふと、指の先に付いた赤い液体に目が止まる。 血か?!いや、さっきカーナが吐き出した赤い液体・・・・ なんだろうと思った瞬間、空腹時においしい食べ物を食べたときの様な感覚が、指先の液体から伝わってきた。 これは!と思い指先の液体を色々といじってみる・・・間違いない。どんな種類かまでは分からなかったが、とにかくコレは麻薬だ。 それでこの異常とも思える状況に納得出来た。 それと同時に、カーナが冒険者の誇りを放棄したことに愕然とした・・・。
私はカーナに向けて、精一杯の微笑み(ニヤリ)を浮かべた。 私は座り込んでいるカーナの頬を優しく掴み、空いた手で頭をなでる。 なでていた手はそのまま下に下げていき、カーナの赤い赤い唇を愛撫する。 つぼみが花開くように、徐々にその唇が開いていく。 そしてそのまま・・・。
「吐け!!」
指をカーナの喉の奥に突き入れ、胃の中の麻薬を吐き出させる。 あの男(イエメン)は私がとまどっている間に地下に消えた。 今が引き時! 素早くストーンサーバントを作りだし、エルメスをだっこさせる。 カーナを左肩にかつぎ、素早く撤収する。 開いている右手は、目の前に見えるカーナのお尻を撫でるためではなく、不測の事態に対応するためである。 アトリエを出たところで、カーナがイエメンがどうのこうのと喚き始めた。 「うるさい、黙っていろ。」 イエメンが追ってこないことを祈りながら我々はマーファ神殿に向かった。 あそこなら、昔世話になった神官がいる。その神官が何とかしてくれることを願いながら神殿に急いだ。 |
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| なぁ、トーマス。 |
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| 甘味屋 [ 2002/06/01 20:14:42 ] |
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| | 青いトマト? あ〜〜…あれね、そうそう、あれ。ああ、ガキどもに言うこときかせるのにたまぁに使うよ。 マリファナに毛が生えたようなモンだよな。なんたって、モールドレの材料の残りカスで出来てんだからさ(笑)
モールドレ……そうさ、ブラウンケーキの時にゃぁまだ『ブラウン』だったよな。 けど、ブラウンから『死んだ黄金の色』になった。 次は黄金だ。ああ、そうさ。混じりっけなしの金色さ。
けどよ。ブラウンがモールドレを生み出した。モールドレは……もう黄金を生み出してると思わないか?(笑) ブラウンは…ありゃぁ駄目だったなぁ。アレを使うと人間はすぐ死んじまう。 人間なんて脆いモンだなぁってのが、アレでよぉくわかったね。 でも、モールドレは違う。…だろ? そうさ。あんたの傑作さ。 なかなか死なない…でも、なかなか抜けない。 ぎりぎりの正気を保ったまんま、それでもやめられないのがモールドレだ。 使い続ける奴らがいるかぎり…俺たちの懐には「黄金」が転がり込む(笑)
……なぁ? ところでさ。あんたがイエメン坊に甘いのはどうしてだい? なんか、イエメン坊に負い目でもあるみたいだ。 まさか、ドクター・ガデュリンのことに責任を感じてるなんて言わないだろ? あんたがそんなスイートな人間じゃねえことは知ってるよ。……俺は甘味屋だぜ?(笑) 甘いモンには詳しいさ。
おーっととと。わかったよ。わかったから、人をそんなヤバイ目で見るモンじゃねえ。 俺は味方だ。そう、味方。悪かったよ、もう聞かねえよ。そのことは。
ところでよ、どうする? あのゲロ野郎。そうさリッチィのことさ。あいつ、そろそろ尻尾だしそうだぜ? ってか、あのガキ、イエメンに嫌われてっからねぇ(苦笑) ギルドがリッチィを見つけりゃいろいろ面倒だ。その前に……片づけるとするかい。……なぁ。トーマス? |
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| 茶色いケーキと赤いパイ |
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| ピルカ [ 2002/06/02 1:49:13 ] |
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| | 「もう一度聞くよ?君はケーキを食べに来たんじゃない。違うかい?」 “彼”路傍のガフは紅茶を入れる用意をしながら、あたしに聞いてきた。もう一度、っていうのは最初に質問した時にあたしが黙ってうつむいてたからだと思う。
この家に、ガフが言う「落ち着いて話せる場所」に来るまで、あたしはずっと手を引かれて歩きながら、周りに何があるか確かめてたの。 鈎爪通りはあんまり良く知らなかったから、注意してキョロキョロしてたんだけど、ガフにはあたしが怖がってるように見えてたみたい。 建物の壁がだんだん古めかしい色に変わってきて、あちこちにいた露天商や物乞いがいなくなってきた頃、「この家」が見えてきたんだ。
ガフに促されて中に入ってみて、あたしは自分の目を疑ったの。外から見ると二階建てのはずなのに、どこにも階段がないんだもん。 ……ううん、ないのは階段だけじゃなかった。この建物には部屋と部屋の仕切り……『壁』がなかったの。 結構広い家の筈なんだけど、入り口のドアと外壁以外、中と外を遮るものがなくて、そう、まるでこの家のどこにいても誰かに見られてるみたいな……そんな感じ。 どうしてこの家には壁がないのって、ガフに聞いてみた。 壁があると、皆秘密を持ってしまうから。秘密が人と人の心に壁を作ってしまうから…だから壁は必要ないんだって。そういうものなのかな……。
「君は、本当はどうして俺に話し掛けてくれたんだい?」 三度目に同じ質問をされて、我に帰った。ガフは相変わらず後ろを向きながら、なんだか楽しそうに紅茶の支度をしてる。 あたしは用心のために、さっきテーブルに置かれた二つのティーカップを静かにすり替えながら、答えを考える。 「別に隠さなくたっていいよ。君はケーキのレシピを知りたくて、ここに来たんだろう?」 ぴくり、と体が堅くなるのを感じた。この人、あたしの知りたい事を知ってるの……?
「残念だけど、今はもうケーキはないよ。全部、木苺のパイに変わっちまったから。」 紅茶をカップに注ぎながら、ガフが続ける。 「木苺のパイに……ああ、ケーキでもいいや。あのお菓子に病み付きになった人たちが、どうしてケンカをするか分かるかい?」 優しそうな声でそう言いながら、ガフがあたしの目の前のカップに紅茶を注ぐ。あたしは答えずに、黙って首を横に振る。 「それはね、真っ赤な真っ赤な血の色がパイのソースに似てるからなんだ。おかしな話だろ?血はソースじゃないのに、舐めてもちっとも甘くないのに、だ。」 ガフの声がどことなく上擦ってる。何でかな?薬を調べる人が薬漬けになるのは、良くある話だけど…。それとはちょっと違うみたい。 乾いた喉を潤すように、ガフが紅茶を飲む。それを確認してから、怪しまれないようにあたしもカップに口をつける。 「でもね、ケンカに強くなきゃパイは食べられない。分かるかい?そうじゃないと自分がパイに食べられちまうんだ。」 この人は、本当に薬に詳しいだけの情報屋なのかな…?どうしてそこまで…。 あたしは思い切って聞いてみたの。ガフもその木苺のパイを食べた事があるのかって。
「俺かい?俺はそんなに間抜けじゃないよ。品物に手を出した事はない。」 ……品物……?いま、品物って言ったよね? 「……ああ。お嬢ちゃんにだけこっそり教えてあげるけど、俺はお菓子職人なんだ。売るだけは誰にでも出来る。でも少し、味付けを変えてあるのさ。」 また上擦った声で笑いながらガフが言った。味付け…って何だろう?薬の効き目の事なのかな? 「俺がパイをつまみ食いしない訳が分かるかい?」 立ち上がって、さっきよりもっと上擦った声で言いながらガフがあたしの頭を撫でようとする。……頭を撫でるくらいなら、まあいいけど……。 あたしは念の為に、後ろに手を回して、腰のダークをいつでも抜けるようにしながら、わからないって答えたわ。
「それはね、お嬢ちゃん、俺はお菓子よりもっと甘くって、美味しいものを知ってるからさ。」 そう言ったガフの顔が見覚えのあるものになる。あの顔……妖魔を刺し続けてたジェーコフと同じ顔! そう思ってあたしはとっさに椅子から跳び降りると、距離を取って腰のダークをガフに向けて投げつけたの。 …ううん、投げつけたはず、だった。
「……あ……れ…?」 それしか言えなかった。あたしの腕なら、ダークは間違いなくガフの腕に刺さってたはずなのに。どうして、足元に落ちてるの? がくり、と膝が落ちる。ガフがゆっくりこっちに近付いて来るけど、体が痺れて動かない。 どうして?あんたさっきあたしと同じ紅茶飲んでたでしょ?どうして動けるの?それにカップはすり替えたはずなのに…。 そう聞きたかったけど、もう声も出ない。膝立ちしてたあたしは、うつぶせに倒れないようにするのが精一杯だった。 まるで熱病にでもかかったみたいな顔をしたガフが前にしゃがみ込んで来て、仰向けになったあたしの足を触ってくる。
……ねぇ……だれか、誰か助けてよ。 |
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| 老魔術師と二人の弟子 |
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| エルウッド [ 2002/06/02 4:26:21 ] |
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| | 老いた魔術師というものはどうして隠遁するのでしょう? 探し出すのになかなか骨が折れました。 田舎に引き篭もられるよりは遥かにマシでしたが。
こんな苦労をさせられたのも、私の資料室を荒らした鼠がいたからです。 ええ、目星は付いてます。だから似顔絵を見ただけですぐに名前が出ました。 ”絡繰り”! あの男のカラクリハウスならとっくに私の手の中で丸裸・・・ハハッ! 証拠がなくて手を下せずにいましたが、あなたが捕らえてみますか?
ガデュリン・・・あのイカれ医者の名前、覚える必要がありました。 彼の造った”ブラウンケーキ”が元になっているとなると、 現在のクスリを造っている人物が彼に深く関わりがあることは明らかです。 それも、知識の上でです。
知っていますか? 魔術師同士の縁というものは、学院の外では生まれることが稀なのですよ。 なぜなら、魔術師は嫌われる・・・ハハッ! 自分自身すら棚に上げてね!
さて、私が見つけた老魔術師には二人の弟子がいたそうです。
もちろん一人はイカれ医者ガデュリン。 もっとも彼自身は自分の行いが正しいと信じて疑わなかったそうですがね。 なんでも、どうしても助けたかった相手がいたらしく・・・。
そしてもう一人の名はトーマス、トーマス・ブギーマン! 黒い右目と青い左目を持つ男です。 |
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| 4のつく日に |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/02 4:49:05 ] |
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| | まったく…魔術師ってぇのはロクなのがいねぇ……とか言っちまっちゃぁ、杖からカミナリが飛んでくっかぁ?(にっ) 世間一般の話じゃぁねえよ。 そうさ、エルウッド。おめぇが調べたジジィ。トーマス・ブギーマンとガデュリンの師匠も魔術師。 そんでもって、オレが調べたのぁ、もっとガキだ。今はまだ学院とやらに通ってる。 そぅら、チェリオの野郎が言ってたろう。サヌアトール家を中継ぎにして、兎のアデンが通ってたところがあると。 どうやら、アデンはそこでヤクをもらってた。餌の代わりになぁ。
ああ、調べてきたさ。サヌアトールってのぁ下級貴族だが、その息子が学院に通ってる。 そして…まぁガキの遊びだな。「青いトマト」ってぇヤクに手ぇ出してるらしい。 それをネタにちょいとばかり……おいおい、人聞きのわりぃこと言うない。強請りじゃねぇよぉ(にっ) まぁ、それで聞き出してきたわけだ。アデンの通い先はカーフェントス家ってぇ貴族だ。こりゃ一流だな。 ただし、どうやら、カーフェントスの当主がってんじゃねえ。そこの名代として取り仕切ってる親戚。クレンツ男爵ってのが噛んでるらしい。 ……へへ、そうさ、おめえの言うとおりさ。これ以上はそっちにゃ手出しできねえ、少なくともオレらは。 だからオレはこれを“黒爪”の旦那に届けるだけさ。資金源のひとつがこれだ、とな。
おめぇが調べたトーマス・ブギーマン。今頃ぁ“恋人”が調べてんだろ。アデンつながりでなぁ。 “錆びた黄金”の店主。それがトーマス・ブギーマンだぁ。オレが調べてシロだと思ったあの男。 ……けどな。オレが調べたブギーマンは魔術なんざ、これっぱかしも知っちゃいねえ。 しかも、あいつの目は、どっちも青よ。ヘテロクロミアなんぞじゃありゃしねぇ。 どう思う? このことをよ。 ヒャハッ! そうさ、ブギーマンが2人いなきゃなんねえ。おさまらねぇ。
けどな。オレの2つ名の由来、知ってるかい?(にや) “手長”なのは見た目じゃねえ。こんな短けぇ手足なんざ、お世辞にも長いなんて言えねえさ。 のびるんだよ、オレの手はよ。そうさ、いろんな隅々になぁ。 “錆びた黄金”の店員が教えてくれたさ。 「4のつく日には絶対に店に来てはいけない」って、そう言われてんだとよ。 ああ? その店員? ハッハァ! そうさな、アイツも爪をあれ以上剥がされるのはイヤだったらしいぜぇ?(にやり) どうだい。4のつく日に、別のブギーマンが……そう、“錆びた黄金”に現れるとは思わねぇかい? きっとそいつの目は、片方が黒い。この残り少ねぇ貴重な髪の毛を賭けてもいいぜ、ヒャッハァ!
“絡繰り”リッチィの始末は、てめぇにまかせるよ。エルウッド。 ただ、“路傍の”ガフってぇ野郎を見かけなかったかい? あいつぁクスリに詳しいってぇ話だ。聴ける話もあんだろ。 ああ、オレは、とっ捕まえたトレルってぇ医者の様子でも見てくるさ。 |
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| 些細なガセネタ |
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| ミニアス [ 2002/06/02 11:40:33 ] |
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| | それは2.3日前。いつものように潜っている闇神官の話を色々な所から聞き込んでいる時だった。 その時聞き込んでいた場所が冒険者の宿だと言うこともあったのだろう。 その子・・・まあいいや。彼女は『ピルカ』と名乗り、昨日あの辺りに・・・と情報をくれた。情報に対して請求した額は多めではあったものの、私はあっさりとその額で払った。
なにせ情報が混乱&氾濫している。
麻薬の情報が入り乱れているだけならばいいけれど、他の闇市場もそれに便乗して色々とやっているらしい。まあ小規模陣取り合戦みたいな感じ。 おかけで欲しい情報なんて入りはしない。
情報を得た翌日。装備を調えてその場所に行ってみたのだが、ファリスの神官が事後調査と言うことでうろついていた。どうも昨日・・・まあつまりは、情報をもらった日に依頼された冒険者達がやっつけた・・・って事だ。
同じ宿にいた他の客とかに聞いていればわかった事だった。
異様にむかついたため(八つ当たり、逆恨み&言ってもしょうがないヤツラだと十分承知)その足で彼女にあった宿に行き色々と聞き込む。が、ここではわからないと言う事がわかったため、ギルドへ。 すると彼女は麻薬の事を追っていて、その麻薬についての情報屋の場所を聞き出した事までわかる。 一気に聞き出したため、それなりの額がかかったが・・・いいや、彼女に請求しよう。
足早にその場所へと歩く。ある程度近づくと周りの人間に合うくらいにまでスピードを落とす。そのまま一度その店を通り過ぎようとした時だった。 店から飛び出してきた2人は、そのまま裏通り・・・色々と歪んだのが隠れ家等で入り浸る地区へと歩いていった。 いや、あの変装は見事だけれど、わかるよ。あれピルカだ。 男の方はなんだか目が血走っていたような気がする。おかげで後ろから付いて来ている事に気づいてないようだし。時々振り返るピルカにちょっと気をつけていればいい。
2人はそのままある一件の家へと入っていった。 私はその家と隣の家の細い路地に滑り込み壁に耳をつけた。もちろん、周囲の気配は確認ずみ。私に付いてきている、いや私に敵意を持っているような気配は感じない。というか、歩いている人がいない。 それにこんな所だ。例え見つかったとしても、よくある事として終わるだろう。後日「誰かがお前の家の様子をうかがっていた」と聞く程度で。 そのまま家の中の話を聞いていた。男の方が興奮しているように感じる。緊張とかすると口数が多くなったり、聞いても無いことを話す・・・よくある現象。 しばらくして男が言った。 「菓子よりもっと甘くって、美味しいものを知ってる」 その言葉を聞いた途端に体が動いた。直後に聞こえた何かが落ちる音は無視。顔を簡単に布で隠すと何事も無かったように細い路地から出て、そのまま家の扉の鍵を手早く開ける。 乱暴に扉を開ける。相手の動きを一瞬でも止めるため。 「誰だ!!」と振り返る男の影に、ピルカが横たわっているのが見えた。彼女の着ていた上着をナイフで切り終えた所だと分かる。
多分、自分は無表情だったと思う。
ナイフを腰ためで構えて突っ込んで来た男の腕を掴んで、そのままうつぶせになるように床へと引き倒す。背中に乗り、まだナイフを握っている手の甲にダガーを突き立てる。細い悲鳴を上げてナイフを離す。それから追ってこないようにと、両太股の裏に同じように突き立てる。 悲鳴と痛みと涎と涙と血で、のたうちまわる男のそばにあるナイフを拾うと、ピルカをそのまま肩抱きして立ち去る。もちろんナイフは適度にしまっておく。
ちょっと離れてはいるが、行きつけのじじいの所で彼女の身なりをなんとかしたら、自分の宿に連れていくか。薬でぐったりしているだけならば、時間がたてばなんとかなるし。ヤバイようならば、以前世話になった医者の所に運び込むし。
事情? そんなものは聞きたくないし。
彼女がうにゃうにゃ何か言っているような気がするが、薄暗い路地でも今は昼間だ。誰ががつけている様な気配はしてないけれども、人目に付く前に移動しなきゃな。 |
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| “路傍” から消えた男 |
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| ピルカ [ 2002/06/02 14:11:57 ] |
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| | 体全体が上下に揺れてるみたいな感覚であたしは目を覚ました。まだ足と指先に痺れを感じる。 やっと開く目で状況を確認すると、どうも誰かにおぶられてるみたい…。
あ……声が出る。ねぇ、とあたしはその背中に話しかける。
「ん?気がついたかよ、オヒメサマ?」 聞き覚えのある声。しっかりあたしを背負ってくれてる手。その先の右手の三本指。
……バンクロウ…?あんたが助けてくれたの……? 「…いや、残念ながらそれは俺じゃねえ。あーあ、もうちょっとで王子さまになれたのによ。」 え?じゃあ……誰が? 「お前、あの酒場に符丁残してったろ?もしかしてと思ってな、ちょいと尾けさせてもらった。」 あ…そう言えば羽根飾り、分かるようにあの酒場に置いて来たんだっけ…。 それで、あたしを助けてくれたのは誰? 「ははっ、情けねえ。情報屋に手ぇ引かれてるお前を、途中で見失っちまってな。もう必死で探したぜ。 三日分は走ったね。そしたら、ひょこっと別の奴に抱えられて出て来るんだもんよ。二度ビックリだよ。」 ふうん…その人が助けてくれたのかな……?
「らしいな。お前、もう少しで危ないトコだったんだってなぁ。」 ヒヒヒ、とバンクロウが悪戯っぽく笑う。あたしの背中には見慣れない上着。誰のだろう…? 「確か…ミニアスっつったかな。ありゃ出来る女だぜ。俺がお前の羽根飾りとギルドの証をあいつに見せてなけりゃ、危うく『あっち側の人間』と間違えられちまうとこだった。」 ……もう、そんな危なっかしいことばっかりしてるから、指二本も無くなっちゃうんだからね。
あたしは左手でかけられた上着の襟をぎゅっと抑える。……ミニアス……か。 「厄介事には関わりたくないとか言ってな。それに気になる事があるとかで、お前を俺に預けてすぐどっかに行っちまった。今度会ったら礼の一つも言っとけよ?」 …………分かってるよ。
相変わらずまだ手足は痺れたままだったけど、頭はかなりはっきりして来た。それと同時に、『あの出来事を』思い出して身震いする。 …あ!そうだバンクロウ!!気になる事って言えば!!あの壁の無い家は!? 「ああ?壁の無い家ぇ?何だそりゃ?」 ………もう!あたしを追いかけてたんじゃなかったの?しょうがないなぁ……。 案内するから、あたしの言うとおりに進んで!
幸い、今引き返して来た路地には見覚えがあった。あたしはバンクロウに背負われながら、『壁の無い家』に戻ってみたの。
……誰もいなかった。中には倒れたテーブル、散乱したティーセット、あたしが落としたダーク。それと、血。 血の跡は入り口辺りまで続いてたけど、そこから先は分からなかった。 家の中を見回しながら、バンクロウが嬉しそうな声であたしに言う。 「……へぇ、こりゃ……。『手長』の親父が見たら喜ぶかもな。お手柄だぜ、ピルカ。とりあえずは巣穴に戻って報告…だな!」 そうやってはしゃぐバンクロウに頭を撫でられながら、あたしはもっと別のことを考えてたの。
ガフは、どこに消えたの……? |
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| 訪問者 |
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| トレル [ 2002/06/02 21:36:01 ] |
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| | 口の中に広がっているのは胃液と、そしてかすかに鉄の…血の味。 繰り返される問いと、繰り返しの答え。そして、腹部への打撃。 意識が薄れると容赦なく水をかけられ、無理矢理覚醒させられる。目隠しをされたままで、時間感覚も危うい。 あれから、約一日か・・・
* * *
真夜中に人の気配を感じて目を覚ました。ちょうど、窓を開けて入って来ようとしていたところだった。 すばやく起き上がり、枕の下から短剣をつかむ。 「ととと・・・先生、待ってくださいや。あっしゃ、伝令役なんでさぁ」 「・・・ドアがあるのに、ドアではなくて窓からはいるのは盗賊の流儀かね?」 「へへへ。まぁ、習慣ってやつですかねぇ」 今すぐどうこう、という状況ではないらしい。警戒はしたままだが、攻撃する気はないということを示す為に柄から手を離した。 「で? なんのようだ?」 盗賊は意図に気がついたのかニヤッと笑う。そして、言った。 「『魔法の粉』についてで」 予想通り、というか、"最悪の"予想通りとでも言えば良いのか。自然と溜息が出る。 「『話』がしたいんですよ。ここじゃちょっとまずいんで、御足労願えますかねぇ」 話とはどういことかも、半ばわかってしまった。『魔法の粉』と聞いた時点で達観といか・・・なるようになるしかない。 「書き置きを書く時間くらいはあるだろうな?」 「ま。内容によりまさぁ」 羊皮紙の切れ端に手早く書き残す。
『しばらく留守にする。あとは任せた。 トレル』
「これなら構わんだろう?」 「へぇ。んじゃ、ついてきてくだせぇ」 窓からの訪問は受けた事はあるが、まさか自分が窓から出て行くことになるとは。 そう思うと苦笑するしかない。窓に罠でも仕掛けておくべきだったか・・・ 先導され、大通りまで出ると、馬車が待ち構えていた。乗ってすぐ、目隠しをされ、複雑に道を曲がり進む。 距離がつかめなくなった頃ようやく馬車が止まった。目隠しをされたまま降ろされ、石の階段を下っていった・・・
* * *
もう、何度目かわからない同じ口調で問い掛けられる。 「薬の仕入れ先は?」 「教えられん。調べればわかるだろう? 問題のある所からは仕入れてない。すべて『真っ当』な所からだ」 「昼間来た患者は誰だ?」 「患者の事はなにも言わん」 胃液が逆流して胸を焼くが、もうどうでも良かった。
「あの薬はどうやって手にいれた?」 いつもとは違う問いを聞いた気がする。 ・・・そうか、あの薬の出所に繋がっていると思われたのか・・・・・・ だが、思考が飛び飛びでまとまらない。水をかけられたが、もうどうにもならなかった。 ゆっくりと闇の中に沈んでいった。
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| イメージ |
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| 1参加者 [ 2002/06/03 0:58:28 ] |
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| | http://www.redbreak.com/image/sabitaougon.jpg <> <><>”錆びた黄金”イメージイラストです。よろしければ。 |
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| 真夜中の出航 |
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| 年老いた漁師 [ 2002/06/03 1:35:46 ] |
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| | (今にも沈みそうなオンボロな小舟が、闇夜に包まれたオランの港から沖へとゆらゆら進んで行く。やせ細った老人が、ぎぃぎぃと耳障りな音を立てながら櫓を漕いでいる)
……あんたと会うのは、これで4度目だぁねぇ。 1度目は、ギルドの裏切り者の死体を始末するとき。2度目と3度目は、麻薬患者の死体を始末するとき。そして、今回だぁ。 ……まさか、今まで捨てる側だったあんたが、捨てられる側に回るとは思ってもみなかったぁよ(そう言って、手足を縛られ足下に転がっている青年を見る)
わしゃぁ、今までいろんな盗賊と会うてきたけんどもな。あんたほど、印象の薄い盗賊は見たことなかっただぁよ。あんたとは4度会うたが、あんたを海に捨てて岸に戻る頃には、もうあんたの顔を思い出せるかどうか……。 “路傍の”っちゅうたかいのぉ。あんたのその才能……天性のモノなのか、意識してのことなのかは知らんがぁ、町の盗賊として、これほど恵まれた才能を持ってたあんたが、生きたまま海に沈められることになるなんてぇなぁ……いったいどんなヘマをやらかしたんかいのぉ……。 あ〜、いやいや、これは質問じゃねぇよぉ。ただの独り言じゃからのぅ。余計なことは詮索しないのが、長生きの秘訣じゃと、他ならぬあんたから教えてもろうたんじゃからのぉ。もっとも、質問に答えようにも、猿ぐつわを噛まされとる今のあんたじゃぁ、答えようもないがのぉ、ふえっふえっふぇ。
……そろそろじゃのぉ(櫓を漕ぐのをやめ、船を止める) おぉ、船を止めると、あんたの体の震えがよぉ〜分かるのぉ。誰だって死ぬのは怖いからのぉ、ふえっふえっふぇ。 大丈夫じゃぁ、浮いたり沈んだりして苦しまぬよぉ、ちゃあんと、大きめの石を積んできたでのぉ…………こいつをあんたのロープに縛り付けてぇ…………これでええ。
さぁて……あんたとは、これでお別れじゃぁ。 ふぇっふぇっふぇ、これこれ、あばれるでぇないわぁ。あんたが、これまでしてきたことがぁ、自分に返ってきただけのことじゃけぇのぅ。恨みっこはなしじゃぁ。ええかげん、諦めなせぇて。 よぃこらぁせぇっとぉ……ふぅ、いつものことじゃが、これは老体には重労働じゃのぉ……(震える青年の体を船縁に押し上げる)
ほぃではのぉ……
(静かなさざ波の音に紛れて、どぼむっという鈍い音が響き渡った) |
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| お願いだよイエメン |
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| 逆巻き [ 2002/06/03 2:23:02 ] |
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| | どん。
耳の横で、重い音。僕を目覚めさせるのに十分な音。
……あれぇ?………痛い……痛いよぉ。 おかしいな。そうだ、クスリだ。クスリが切れてるからだよ。 魔法とか、流れてる血とか。……痛いよ。こんなのイヤだよ。 ああ…イエメン。 僕の顔の横で、何だか足踏みしているイエメン。 どこを見てるんだよ。僕を助けてくれよ。そう、トマト……トマトがあれば痛くなくなる。
イエメンは、しばらくきょろきょろして、僕に視線を合わせると急に怒り始めた。 馬鹿言わないでくれよぉ。 カーナを隠したのは僕じゃない。エルメスを逃がしたのも僕じゃない。変な男(バリオネス)も僕には関係ないよ。 ああ……目が霞む。どうして、イエメンは僕の顔に棍棒を振り上げてるんだろう。 どうして、イエメンの目はあんなに透き通ってて無表情なんだろう。 どうして、イエメンは僕の血を見てこんな顔をするんだろう。
頼むよ。最後に……トマトを一口……喉が渇いてるんだ………。 痛いよ、血が止まらない。体が痺れてる。 お願いだよ、イエメン。お願いだよおねがいオネガ……。
どん。 |
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| 箱の中で |
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| “絡繰り”リッチィ [ 2002/06/03 3:43:42 ] |
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| | 人が来る。 俺のからくりを解きに人がやってくる。
……それぁ……よく分からねぇがよぅ、何処か甘美な響きさえ持ってたんだぁな。
からくり。罠。罠の先にあるのは――宝。
宝? 奴らにとっちゃあ、情報。つまりこの俺って事かぁ? へへっ、大した情報も此処(頭)にゃあ入ってねぇってのによぅ、骨折り損たぁこのこったぜぇ? 宝……ふと机に置かれた箱に目が行った。埃の被った頑丈な奴さぁ。余興にこれに俺の頭ン中の情報、書き留めて入れとくってぇのも悪くねぇなぁ。
符丁を使って、洋皮紙に文字を書き付ける。それを入れようと、箱を開けようとして……俺ぁ、何かを忘れてる気ぃがしたのさぁ……。 くそぉ、何だってんだぁ? 指先が震えやがった。箱を開けることを、拒むみたいによぉ。その俺の感覚は、正しかったのかもしれねぇ。 は……その箱は開けちゃあ、なんねぇもんだったのさぁ。少なくとも今の俺にとっちゃあなぁ。 箱ん中ぁ入ってたんは、宝石とオルゴールと……一人の女の似顔絵。 宝石ぁよぉ、確かこの“屋敷”作った時の残りだぁな。えれぇ金がかかってるんだぜぇ? 此処にゃあよぅ。 金、何の為の? ……この屋敷作る為に決まって……、いや、俺ぁ何の為に金を貯めてた? からくりを、罠作りの技術を得たのは金が貯まってからだったぁな。その前俺がやってたんは、何だぁ? オルゴール。 そうだ、俺ぁ、それ作る為によ、ある楽器職人んとこに弟子入りしたんだっけか。やりてぇ事があったからなぁ。 オルゴールの音と……女。 下手な、ひでぇ歌を紡ぐ女だった……。いや、違う、そうじゃねぇ。派手さはねぇが澄んだ声を持つ歌姫だった。俺ぁ、あいつに惚れてた。あいつの歌声と合わせられる音を作りたかった。それを伝えたら、あいつはとびきりの笑顔を浮かべたっけか。 宝石……あぁそうか、俺ぁあいつを買う金を貯めてたんだな……。 そう、不運だったのは、いや不運なんて言葉で片づけてたまるかよ――ともかく、あいつが娼婦だったってぇ事だ。あ? 先は言わなくても分かるだろうがよぅ、薬の出来を試すのに使われたのさぁ。 彼女は、声を失って、死んだ。 俺ぁ……あいつを失って、目的も見失った。 ……は、麻薬を売ってる奴らも、広まるのを止められなかった奴らも、誰も、何もかも無くなればいいと思った。何でも良かったのさぁ……ギルドに入ったのも、売人との繋ぎやんのも。奴らの邪魔をしてやれるならなぁ。は、潰しあやぁいいのさぁ。 人を陥れる、そういう意味を持つ罠。俺ぁそれを作る技術を得て……貯めた金の使い所を求めたのかもしれねぇなぁ? この屋敷がその成果って訳だぁな。 へへっ、狂ってたんは俺だって事かよぅ? 忘れる為に泥沼にのめり込んで――格好悪すぎだぁな。
……シーリィ……すまねぇな……。今頃ようやく、お前の事を思い出すなんてよぉ……。
この屋敷の扉。それを開けりゃあ、部屋が炎に包まれる仕掛けにした。俺ぁここで、入ってきた奴らのよぅ、目の前で燃える。……ついでに、麻薬に関わった奴らが一人でも減りゃあ俺ぁ……へへっ今更どうでもいいんだけどよぅ、そんな事ぁ。
シーリィ。笑ってくれて構わねぇ。俺ぁお前と同じ所には行けないからよぉ、せめてお前と同じようにいかせてくせねぇか……。
宝箱は、俺が書いた紙を加えて机の上にでも戻しとくとするかぁ。……この箱はよぅ、金属で出来てるからよぉ? 火に晒された位じゃあ壊れねぇ。俺の……最後の作品さぁ……。 さぁて……誰が来てくれるのかぁねぇ? でもって、炎を潜ってこの“宝”を手に入れるのは誰だぁ? へへっ、俺にゃあどうでもいいけどなぁ……。 |
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| 海岸にて |
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| “風上の”ネイ [ 2002/06/03 4:08:06 ] |
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| | (水に濡れ、おでこに張り付いた黒髪をかきあげながら)気が付いたようね……人工呼吸が無駄にならなくて良かったわ……。
(喉にずりおろしていた覆面を目元まで引き上げつつ)何故、自分が生きているのか不思議そうな顔してるわね? 簡単なことよ。あなたには、いろいろと聞きたいことがあった。だから私が助けたの。知り合いの精霊使いに、水の精霊の加護を頼んでね。 私? 私はネイ。“風上の”ネイよ。“形見屋”に頼まれて、クレンツ男爵のことを探っている情報屋、と言えば分かるかしら? もっとも、まさか真夜中の海に潜らされることになるとは思わなかったけど……あとで“形見屋”に別料金を請求しないと、ね。
……礼には及ばないわ。必要だったから助けたまでのこと。 もちろん、貴方にクレンツ男爵のことを聞き出すためよ。今、ギルドを騒がせている新種の麻薬のこととの関連性を、ね。 1度の失敗で、貴方を殺そうとした奴ですもの。殺されそうになってまで、クレンツ男爵に義理立てるほど、借りがあるわけでもないでしょ?
ああ、それは心配しなくていいわ。アフターケアも、もちろんするわよ。貴方さえその気なら、貴方に新しい名と、立場を用意して上げる。お望みなら新しい顔も与えて上げられるわ。パダにシャフトというエルフの闇医者がいるの。変人だし、金にうるさいけど、腕は確か。あいつに頼めば、貴方を別人の顔に仕立て上げることができる。……もっとも、“路傍”と呼ばれた貴方には、それは必要のないことかもしれないけどね(クスリと笑みをこぼす) パダほどじゃないけど、ここオランにも私の『耳』が何人かいるの。どれも優秀で信頼の置ける『耳』よ。貴方一人を匿うくらい、どうとでもなるわ。それに……あなたはついさっき、『死んだ』ばかりだしね。死んだと思われてる人間を匿うなんて、雑作もないことよ。 しばらくの間、今回の麻薬事件とカーフェントス家の騒動が収まるまで、私の『耳』の所で身を潜めていれば、貴方は再び“路傍”に立つ事が出来る。その気があるのなら……私の新たな『耳』としてね。 貴方の命を助けた上に、隠れ家を提供し、事件解決後の仕事まで斡旋してあげる。 どう? 悪い話じゃないと思うけど?
ふふ、話が早くて助かるわ。ええ、もちろん、タダじゃないわよ。 この話は、貴方が洗いざらい話してくれればの話。貴方が話してくれなければ、クレンツ男爵と麻薬組織の関係を暴くことはできない。 そうなると、困るのよ。私も、私の依頼主である“形見屋”も、ね。 すでに、クレンツ男爵の手の者が“形見屋”を終始、監視してるわ。ギルドの方にも圧力をかけて、『蛇』を“形見屋”に差し向けようとしたくらいだもの。さすがにそれはギルドの方も断ったようだけど、“形見屋”が命を狙われてるのは間違いないわ。 “形見屋”が殺されれば、カーフェントス家の長男の生死は不明のまま。アネット夫人が動けないうちに、クレンツ男爵は力をつけ、その地位を不動のものとしてしまう。そうなれば、あなたが再び“路傍”に立つことはできないでしょうね。 でも、逆に貴方が話してくれるなら、貴方の情報と“形見屋”が持ち帰ってくる情報を元に、アネット夫人はクレンツ男爵を失脚させることができる。そうなれば、貴方の安全も保障されるわ。
その目……決心がついたようね。まぁ、最初から、貴方がこの話を断るとは思ってなかったけど(クスリと微笑む) あら、もう立ってだいじょうぶなの? なんなら、肩を貸すけど…………ああ、そうね。貴方、女性恐怖症だったわね。 わかったわ、じゃあゆっくりでいいから私についてきて。すぐそこに荷馬車を止めてあるから、そこの荷台でとりあえず休むといいわ。詳しいことは、隠れ家に戻ってからにしましょう。
(足取りのおぼつかない青年を馬車まで連れていき、荷台に乗せる。自らも荷台に上がり、布や荷物で自分たちの姿を隠し終えたところで御者台に合図を送る。合図と同時に、御者台で待機していた商人風の男がゆっくりとオランの町中へと馬車を走らせ始めた)
(再び眠りについた青年を見、毛布を掛けてやる。その後、荷台の壁に背を預け、覆面を喉元にずりおろし、大きな溜息を一つ) ……ホントに…………あなたと組むと、ろくなことにならないわね……ブーレイ…… |
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| ”絡繰り”の残したもの |
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| エルウッド [ 2002/06/03 5:51:06 ] |
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| | 3人! 3人もですよ! ええ、あらかじめ分かってる罠に引っかかるマヌケなんかいません。 ただし、それは平時に限る。 炎に包まれた屋敷から逃げ出す時に、誰がカラクリにかまっていられますか!
ハハッ! 何が丸裸だ! カラクリは全て見抜けても、あの男、”絡繰り”の自殺願望までは見抜けなかった! あの男の狂った頭の中までは・・・ハハッハハハハハッ!
ハッハハハハッハハハハハハハハッハハッ・・・!
私はしばらく動けなくなります。 これだけ無残に部下を殺しておいて、地位を追われないわけがない。
焼け跡から出てきた物? あの男の死体が出てきたなら、切り刻んで犬の餌にしてやったところですよ。
出てきたのは書付けられたあの男の頭の中身、つまり必要なものは回収できたわけです。 ハハッ! 一緒に残ってた”ゴミ”は、そこらの乞食にばら撒いてやりましたがね!
”絡繰り”が資料室から抜き取ったのは、ガデュリンとトーマスの関係だけではありませんでした。 イエメン・・・あなたが最初に目を付けた、あのデカブツに関することです。
ご存知のように、イエメンはかつて、あの”ブラウンケーキ”の常用者でした。 元々か麻薬のせいか知りませんが、あの頭の鈍い男がどこでそんなものに出会ったと思いますか? 答えは、患者だったからですよ。あの”壁の無い家”の。
いえ、それだけではありません。 イエメンが”ブラウンケーキ”に出会った最大の理由、それは! やつがガデュリンの息子だったからです。 ハハッ! あのイカれ医者は自分の息子に麻薬を与えていたのですよ!
これが、私が”絡繰り”と心中して手に入れた最後の情報です。
いや・・・、もう一つありました。 ”絡繰り”がブギーマンから受け取り、イエメンに伝えたという最後の伝言。
「トマト造りはやめた」
言葉通りの意味なら、連中は我々を恐れて雲隠れするつもりかもしれません。 ただ、中毒者にそれをわざわざ伝えたというのが解せないところです。
麻薬なしでは生きていられない連中に、わざわざそれを取り上げると宣言する・・・、 連中は頭でも割られたいのでしょうか、あのイカれ医者のように・・・ハハッ! |
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| 面倒は続く |
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| ミニアス [ 2002/06/03 10:45:08 ] |
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| | 途中でピルカのお迎えが来た。 これ以上関わりたくないと思っていたので、引き渡してやる。 ただ。もっと信用の出来るような言葉を使えよ。あれじゃ、だめだって(ため息)
その後、行き付けの店でぼけ〜っとしている所にギルドからの呼び出しがあったので、行ってみた。 そこでなんやかんや聞かれたが、基本的に無視。っていうか、向こうも一応聞いておくみたいなので、無視されている事は承知。 そして最後に言った。
「あと、これを運んでくれないか。」
差し出された紙は裏返っている。 でもギルドのお願いってのは強制って意味だから断れない。でもすっごく断りたい。 重要なヤツじゃなくて、なんかめんどくさそうなのヤツのような気もするし。
なんで、私が、こんな、めんどうな・・・・いや、面倒だからか(がくり) コレを元の場所に戻してこいか・・・馬車が出たからまあ、マシか。 でも、意識戻られるとやばかったりするんだよね。世話になった事あるし。 だもんで、馬車の中からポイってのが出来なかったりするんだよな。おかげで御者のヤツからは馬鹿にされるし、運んでもらう予定が置いてきぼりになるし。 色々と思いつつ、ズルズルと裏口まで引きずって置いておく。まあ、ここなら馬車にひかれる事はないだろう(笑)んで、渡されていた色つきの札を一枚ポイとす・・・裏に何か書いてあるので見て苦笑。 こんな面白い事を言うヤツもギルドにはいるんだな。
面倒事・・・・ 目の前で起きている事もきっと面倒事なんだよな。 こんな裏路地歩いている自分も不味かったんだろうけれど、目の前で原型ない肉をうれしそうに棍棒で殴り続けているのに会っちゃったんだからさ。 しかもこっちに気がつくし。 かーなぁ?えるめすぅ?私違うよ。って、聞いてないよね。全く(ぶうんと空振りの音&壁の一部を破壊した音) ここで相手した方が有利そうだけれども、なんだか目がどっかイッちゃってるんだよな。・・・・・なんだか力もありそうだし(壊れた壁をちらっと見た感想)
しばらく逃げていたら、横路地から飛び出てきたネコに目標が移っていた。もちろん、かーなぁ&かえるめすぅ・・・あとは邪魔するなとか嫌いだとかどこに隠したぁとか隠れるなぁ出でこぉいとか。
背中向けているし、やっちゃた方がなんとなくいいかな。幸いまだ人来てないし。 それに闇の住人って、光にあたると消えるって相場は決まっているし(謎) |
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| 奪回を誓う |
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| イエメン [ 2002/06/03 18:15:44 ] |
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| | 地下にいる時にすでに、上の騒動には気がついていた。 眉をしかめる。次の遊びのための用意をやめ、アトリエに戻った。
床じゃ焦げ臭い匂いをさせて、”逆巻髪”バルバの野郎が倒れている。そして視界に入ったのは、頬に傷のあるローブ姿の男と石人形が、おれの大事なものをさらって、部屋から飛び出るところ。悪い夢だ。両目が充血するのを感じながら、その光景を焼き付けた。
床に倒れている”逆巻髪”と口を聞きだして、どのタイミングで一撃を食らわせたのか、自分でも覚えてない。目が合ってすぐだったかもしれない。何しろ頭が混乱してる。
あー、そっか。おれは思いだした。目の前に倒れているのは、ガデュリンパパだ。お菓子の名前はなんだっけ…。カーナだったか。欲しいんだから、隠さないでくれよ。おれには必要なんだ。頼むからあ。 パパは、床を血で汚しながら、なおもぶつぶつ、何か言っていた。しゃがみこんで、耳を澄ませる。トマトをくれ、か……。ヘッあんたは自分では、お菓子もトマトも、食べないんだろう。欲しがるのはいつもおれだった。だから、なんでだ、そんな意地悪ばっかりよう。我慢して、不味くて苦いお薬も飲んでるよ。おれは、愛情さえ貰えれば文句は一言もないんだ。いろいろな痛いことでも気持ちいいぐらいだった。あんたも、この関係が嬉しくて満足で、続けてくれていたんだろ。 退屈? たたた、退屈? それって何なんだい。てめえ、こん畜生。 ウウー、駄目だよ、話している時間もないんだ。早くしてほしい、奴らを呼んだんだろ。全てお終いでもいい。それまでの時間でいいから、一口僕にください。
床の上のパパは身体を痙攣させて笑っているみたいだった。 ──ふざけんな、いいから、よこせってんだよ。
棍棒を持ったまま、屋敷を飛び出し往来に躍り出たが、通りに人影はなく、夕刻の涼しい風が吹いているだけだった。 カーナァ……。 今度は、二度と逃げられない身体にしてやんぜ。 HA、あの野郎の顔は見ているんだ。両頬には傷、長髪でローブ姿。妙な石の人形も連れてたっけな。見かけた奴の一人ぐらいはいるだろう。逃がすもんかよ、あーハハハハハァ。 棍棒の先に付着したものを舐めたら、極上のトマトを口にした時みたいに堪えられないものが、ビクビクと背筋を伝った。 |
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| 理由を知る意味 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/03 20:38:33 ] |
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| | いくら、うさんくせぇとは言え、カタギのシロートをいつまでも閉じこめておくわけにゃいかねえ。だから、トレルってぇ医者は解放した。ただし、見張りは付けさせてもらう。 <>見張り用の手下ぁ連れて、オレぁ医者に会いに行った。手下は外に待たせておいて、とりあえずオレだけ入ってく。まぁ…あれだ。あれ。報告待ちで暇だったからってぇだけさ。 <> <> <>ぃよう、トレル先生よ。こっちも仕事だ。悪く思うなたぁ言わねぇ。けど、骨ぁ折れてねえだろ? 手加減はさせたはずだぁ。 <>……なぁ、先生よ。あんたがもしマトモな医者だってぇんなら、クスリの怖さぁ知ってるはずだな? <>滅多にあるこっちゃねえが、あんたが報告してきたみてぇに、患者が運び込まれることだってあんだろ。 <>ギルドだって麻薬と無関係じゃねえくせに、ってかい? へへっ! そりゃぁそうだ。今更、正義ヅラぶるつもりぁねえよ。 <> <>けどよ。だったら、もしギルドがなかったらどうでえ? 麻薬がなくなると思うかい? <>ヒャハッ! 賭けてもいいぜ。もしギルドが麻薬を管理してなかったら、もっとひでぇことになってるさ。…なんでかって? オレぁ知ってっからよ。 <> <>オレぁ、オラン産まれオラン育ちだぁ。ここじゃ、随分前からきっちりギルドが仕切ってる。 <>けど、随分とむかぁし…そうさな、あんたもオレも産まれるずっとずっと前さ。ギルドが麻薬への手ぇ緩めた時期があったんだな。 ちょうど、オレのばあ様が若かった時代によ。 <>オレの婆さんは娼婦だった。体売るのが辛くてクスリに手ぇ出したのか、それともクスリを買う金欲しくて体売ったのか。そりゃ知らねえよぉ。鶏と卵の例えと一緒さ。そのうちどっちが先かもわかんねえで、ただ、どっちもやめらんなくなってた。…らしいんだな。オレぁお袋から聞いた話だ。 <>……ま、よくある話でね。ガキが出来ちまった婆さんは、クスリ欲しさにてめえのガキも売り飛ばしたよ。 <>てめぇの腹痛めたガキよっかクスリのほうが大事なんだ。……それがヤク中さ(にっ) <> <>売られたのぁオレのお袋だ。ひと買いから逃げたって、行き着く先なんざたかがしれてるわな。そうさ、娼婦だ。 <>その頃ぁ、ギルドの力が弱かったのか何なのか…娼婦の扱いなんざひでぇモンだったらしい。 <>あたしゃあのババァにとっちゃクスリより下の存在だった、なんて。恨み続けて、言い続けて、結局は性病でおっ死んだよぉ。 <> <>おっとと、泣き落とししてるわけじゃねえよぉ(にや) <>ま、オッサンの戯言だと思って聞き流してもいい。酒の肴にすらなんねぇ話だぁ(笑) <> <>なぁ。人間ってなぁ、負けっちまうんだよ。そりゃ、強いヤツもいるさ。でも、全部が全部、強いわけじゃねえ。クスリに逃げる奴もいるんだよ。国やギルドがどんなに強く規制したって、結局裏で、クスリは流れる。 <>………だとしたらよ。……そう、だとしたら、だ。 <>せめて、それが、取り返しのつかねえことにならない程度にコントロールする存在があってもいいんじゃねえのかい。 <>ギルドがクスリを管理するようになって、クスリで死ぬヤツぁ減った。死ぬようなクスリはギルドが許さねえからな。ギルドが娼婦連中を管理するようになって、性病で死ぬ娼婦が減ったのとおんなじさぁ。うちらの管轄下にある店は、娼婦の定期検診とやらをやらせてっからな。 <> <>だからよ。ギルドってなぁ必要なんだよ。組織がでかくなりゃ、いろいろと弊害もあるがな。けど、組織には力が必要だ。 <>あんたも、こんなとこで治療院なんざやってると、冒険者の知り合い多いだろ。そん中にゃ盗賊だっていんだろ。そいつらぁ、おおっぴらに自分が盗賊だっていうかい? ギルドに属してるって言うかい?(にか) 言わねえさなぁ。言えねえんだよ。……それでもなんで、ギルドになんか属してると思う? <>抜けるのがコワイってんなら、最初から入らなきゃいい。そうじゃなくたって、駆け出し程度なら抜けたって見逃すさ。追っかけて制裁加えるほど、オレたちゃ人手が余ってるわけでもねえし、駆け出しに制裁が必要なほどの情報が渡ってるわけもねえ。 <>抜けねぇのは…知ってるからさ。他人におおっぴらに言えなくたって、ギルドが確かに必要なんだとな。 <> <>……つまんねぇ話聞かせたなぁ(にかっ) あんたが盗賊じゃねえから…だからかもしんねぇな。話す気になったのぁよ。 <>なぁ、ところで…知ってっかい? どっかで聞いたんだけどよ。純粋な金属ってなぁ錆びねぇモンらしいぜ。 <>金属が錆びるのは当たり前…ってんじゃない。何かがその中に混じってっから、錆びるんだとよ。 <>国もおんなしだぁ。こんだけ人が集まりゃ、純粋になんぞなれやしねえ。だとしたら、錆びる部分をコントロールできたほうが良くねえかい?(笑) <>だから、オレらの知らねぇところで、錆びる要素ってぇのを作られちゃマズイのさ。 <>若い盗賊どもが、ンなことをどこまでわかってて、こんな商売やってんのかぁ知らねぇ。けどせめて、オレぁそいつらをうまく使ってやらにゃならんだろ。 <>衛視どもは『違法だから』ヤクを取り締まる。けど、オレたちゃ、理由を知っててルートを潰す。…最低でも、今回関わったヤツらにだきゃ教えられりゃいいがね(にっ) <> <>さぁて。オレぁそろそろ帰るよ。先生サマの体に障っちゃいけねぇからなぁ。ま、その傷作ったのもオレらなんだけどよ(笑) <>…っと、忘れるとこだった。これ。もしあんたが、麻薬組織の仲間ならとっくに知ってっかもしんねぇけどな。 <>ギルド御用達の薬師に調べさせたモールドレの効果だ。どうせ、調べりゃわかることだ。隠すほどのネタじゃぁねえ。 <>今日からしばらく、あんたにゃ見張りをつけさせてもらう。表向きは住み込みの雑用だ。好きに使いな。ホントに雑用やらせっちまって構わねぇからよぉ。ヒャハッ! <> <>……さぁてと、帰ったらエルウッドの首尾を聞かなきゃならねえな。 |
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| “助手”と医者 |
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| トレル [ 2002/06/03 21:53:08 ] |
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| | つぅ・・・ここはどこだ? ああ。自宅か・・・ 壁に寄りかかりつつ立ち上がる。足元に紙切れが一枚。 えらく長い時間をかけてゆっくりと拾い上げる。 だいぶ派手にやられたな・・・ 拾ったそれは灰色の紙。 灰色・・・疑われているまま、ということか。
庭の井戸で水を使い、体裁を整える。裏口から部屋に戻って着替えれば、まぁ、なんとか見られる恰好か・・・ 弟にもうしばらく治療院を任せたと言っておく。それから、“助手”が来るかもしれないということも。 心配そうな顔をしていたが今は言わない方が良いだろう。
自室に戻って戸棚からあるものを取り出す。手入れだけはしていたが、また使う事になるとは。 いろいろな思いが湧き上がるが、今は抑え込んでおく。“助手”が来るまで一休みするか・・・
* * *
夕方、“助手”とその“斡旋元”がやってきた。 先に入ってきた“斡旋元”と話をする。 たしかに、あんたの言っていることは事実だ。悔しいが、紛れもないね・・・
だからといって、仕方がないと諦めるわけにはいかないのだよ。 医者も、衛視も後手にしかまわれない。病気になってから、事件が起きてから必要になる職業だ。だからと言って病気になるのを、事件が起きるのを仕方がないと諦めれば良いのか? 違うだろう? 私達は病気の知識を教え、予防をし、あるいは、事件が起こらないよう防犯をしていく。そして、すこしでも病気が、事件が減れば意味があるだろう?
少なくとも、私は諦めるつもりがない。目の前で起きている出来事が過ぎ去っていくのを待っている気もない。
* * *
あとに残った“助手”を自室に迎え入れ、仕度の間待ってもらう。しばらくの間机の上などを物色していたが、長剣を佩き、小手をつけ始めた私を見て怪訝そうな顔をする“助手”。 無視して仕度を終える。 街中だからこんなものだろう・・・ さて、と出かけようとして白衣を着ている自分に気がつく。 くくく、と自嘲気味に笑うとまたもや怪訝そうな顔をする“助手”。これもまったく無視して、白衣を脱ぎ捨てる。
「出かけるぞ。ついて来い」 |
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| 芝居の再演 |
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| 甘味屋 [ 2002/06/04 0:07:50 ] |
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| | ちぃ、ギルドに先越されたようだな。 “絡繰り”の野郎…最後の最後に、とんでもねぇ絡繰り残していったもんだ。
なぁ…トーマス。“絡繰り”の野郎、何を残したと思う? ああ…そう、確かにあんたの言う通りさ。何も残してなきゃ一番いい。 けど、そんな楽観主義者ばかりじゃ生き残れないってのは、ブラウンケーキの時でわかってるだろうに。
まったく…めんどくせぇなぁ。 “路傍の”ガフのことなら、今頃は沖でサメにでも食われてるさ。だからそっちは心配いらないよ。 けど、“絡繰り”リッチィは違う。最後の瞬間に、ヤツは盗賊どもを道連れにした。 後ろで様子を見てたヤツが、火の手がおさまったあとに何かを持って出た。 ………少なくとも、「何か」知られてることは確かだ。
面倒だ。畳むかい? にしても、オランの街なかから、綺麗に逃げるのは大変さ。 そういえば、クレンツ男爵のほうはどうだい? ………ギルドの手が? まぁ、あの旦那ならそらっとぼけて逃げられねぇこともねえだろうが……ま、そうだな。手を切ってくるのは当然だな。なら、資金源の1つは絶たれちまうことになるだろうが。 探られるよりマシか。幸い、ガフの野郎は海に沈めた。その点だけは安心していいさ。
資金源を探られて…んで、“絡繰り”まで遺言残しやがった。 こりゃあ……ブラウンケーキの時みたいじゃないか。あの面白くもない芝居の再演だ。 俺はあの時は裏方だった。そしてトーマス。あんたは舞台の上にいたよな。 もちろん、うまいこと逃げたが……あんたがあん時の俳優の1人だったことは確かだ。
……ふん、今更隠すことでもないだろうに。 あんたがイエメン坊にこだわるわけも、そして妙に甘いわけも……そして、トマトはやめろと忠告するかのような伝言を届けたことも。 あの頃、ブラウンケーキを作ってた俺らには、公然の秘密ってヤツだった。 …何が、って…? くくっ…わざわざ確認か、あんたらしくもない。 そうだろ? ガデュリンが去勢してたことは知ってる。だったら、イエメンは……? くくっ(笑)
なぁ…今更だろ。確かにイエメンにヤクを与えたのガデュリンだ。自分こそがパパだと教え込んでね。 あんたが、ブラウンケーキのことをギルドにチクったのは…復讐かい…? イエメン坊にクスリを与えて…そして救おうとした。ガデュリンは心を。あんたは体を。
……今更そんな顔するくらいなら、もっとちゃんと治療してやりゃよかったんだよ。 今になってトマトを取り上げるほうがよほど残酷だろうに。 ああ…いいよ、悪かったよ、それこそ今更だったな。
とりあえず、リッチィがどこまで遺言したかはわかんねえが、“錆びた黄金”のほうは、店員がギルドに問いつめられたらしい。 だったら…そっちへの始末が先だ。 店を畳んで…トーマス……いや、あれはあんたのニセ者だったな。そう、ジェイコブだ。あんたの身代わりの店主。 ジェイコブ・ブギーマン。血の繋がったあんたの兄貴。あれを……そろそろ始末したほうが良くはないかい?(笑) 自分の兄貴と自分の息子と……どっちがより甘い味がするかね…くくっ。 |
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| 動きと考え |
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| ミニアス [ 2002/06/04 11:52:48 ] |
|---|
| | 路地のあちらこちらに血が飛び散っている。
見渡せば、明らかに誰かの手で散らかされた様子がある。
そんな状況が人が歩けば30歩程度続いている。
その途中では木で塞がれていた家の窓に突き刺さっている。
そして、終着点でやっとおおきな体がある。
今は、昼間のぬくもりが微かに残っているオランの石畳の上に仰向けになっている。
目はすでに濁り、どこか遠くを見ているようだった。口が動いている。それだけが男が生きているという証だった。とはいえ、男の声は口よりも先に切られた喉から出て、音とならずに周囲と溶ける。
あとは相手の動かなくなるのを見届ける・・・これだけの状況で、相手の動きをさっさと止めて逃げ出さない自分はなんだろうと考える。 血に濡れたソードブレイカーを持ったままだが、もうすでに見えていないであろう目を閉じようと、額に手を置いた。
すると唯一動いていた口が止まり、笑ったような気がした。
口が動いた。喉から漏れる空気のせいで、やっぱり声にはなっていない。
そして口が動かなくなると、膝の上にある頭の重みが増した。
剣をしまい、目を閉じてやってからその場を後にする。 途中で男が落とした小ビン・・・手のひらに収まる程度の小さな瓶も拾う。 ・・・・赤いから、血って可能性が一番高いかなぁ。 ちょっと迷ってから、地面に叩きつけて割る。 そんな事をしたおかげか、棍棒の一撃を食らった左腕が悲鳴を上げた。 突然の大きな痛みに思わず地面に膝をつく。手も付いて倒れないようにしたのだが、手袋をするのを忘れていた。 さっき叩き割ったビンの破片が手に刺さる。見ると、自分と男の血と混ざってよくわからないものの、中身も手に付いてしまったようだった。口で大きい破片だけを取ると、上から手袋をした。 そして額から流れる血を拭いながら、その場を立ち去った。
立ち去った、でも。
頭がクラクラする。気持ち悪いし、痛みも酷い。痛みは他の所にも広がる。 目の前も微妙にかすむ。大きいを食らったけど、そこまでって感じはしなかったんだけれどなぁ。
何かが進行方向に立っている。
あ、人なのかどうかも識別出来ないや・・・・まっずいなぁ・・・・
グルンと視界が回って、倒れたであろう痛みを感じた。
ありゃ?オランの石畳みは以外と冷たくて気持ちいいや。
何かに声をかけられた。
何を聞かれたのかわからなかったが、返事をしようとした。 けれど、ここまでだった。 |
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| 愛の奇跡 |
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| バリオネス [ 2002/06/04 20:33:01 ] |
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| | 予想していた追撃はなく、無事にマーファ神殿にたどり着いた。 我々は2階の一室に通され、世間から『鉄拳愛』と呼ばれている神官を待つ。 エルメスが目をさますと同時期に『鉄拳愛』が部屋にやってきた。 セミロングの黒髪、たれ目の泣きぼくろ。それが『鉄拳愛』と呼ばれるおばさんの特徴だ。 私は彼女に今まであったことを手短に話し、カーナに奇跡の行使を懇願する。 「本当に、あなたは困ったときにしか私を頼らないのね。」 『鉄拳愛』は苦笑しながら、快く奇跡を行使することに応じてくれた。 私は安心して大きくため息をついた。 その瞬間。 目を覚ましたカーナは何を思ったのか窓の方に走り、窓枠を破壊して外に飛び出した。 一瞬の隙だった。 すぐに取り押さえようとしたが、一瞬だけ服の裾を掴んだだけで捕まえることは出来なかった。 私は落ちてなお走り去るカーナを、2階の窓から呆然と眺めることしかできなかった。 エルメスがすぐさま追おうとしたが私はそれを制止した。 「やめておけ!アイツは我々よりもあの男を選んだのだ。放っておけ。」 イエメンと戯れるカーナはとても幸せそうな表情をしていた。 「人の恋路は邪魔する物じゃない。我々はカーナに振られたのだよ。」 エルメスにそう告げ、その辺の椅子に座る。 「私は疲れた・・・」 私が目をつむろうとした瞬間、『鉄拳愛』の拳が私の顎を捕らえ、天井付近まで浮き上がる。 「この馬鹿者が!!!麻薬を使った愛など、真の愛にあらず!」 遠のきかけた意識が、落下の衝撃で取り戻される。 「立て!」 その殺気に圧倒され、なかば条件反射で立ち上がり、手を後ろに組んだ状態できをつけをして『鉄拳愛』の前に立つ。 左、右と往復びんたをくらい、『鉄拳愛』は私を抱きしめた。 「その二人はウチの神殿で更生させる、君はその二人をここに連れて来るんだ。いいね。」 耳元でささやかれる。首元にナイフを突きつけられている状況と言えば理解していただけるだろうか。 もうろうとする意識の中、殺気だけを感じ「はい」と返事をする。 部屋の隅でおびえていたエルメスを連れて部屋を出ようとした瞬間、重要な事を思い出した。 「おばさま、奇跡をカーナに・・・」 こうして『鉄拳愛』とエルメスを連れ、情報収集に向かう。
カーナが走り去ったと思われる方向に、全力疾走で駆けているとエルメスが何かに気がつき足を止めた。 血の匂いがすると言って横道に入っていく。 確かに血の匂いがするのでエルメスについていくと、なぜかミニアスが倒れていた。 ミニアスを抱き起こし何事かと聞いたが、「大丈夫だ、触るな!」と、言い残してフラフラと歩いていった。 ミニアスを追いかけようとしたが、エルメスが近くに倒れていたイエメンを見つけたので、杖を取り出しそちらに向かった。 そこには首を切られて倒れているイエメンの姿と、奇跡を行使している『鉄拳愛』の姿が・・・ 傷は塞がったが息が戻らない。 「バリオネス、人工呼吸。」 逆らえないのでそれに従いイエメンに人工呼吸・・・ そのかいあって息を吹き返したが、意識は戻らない。 手足をしっかりと縛り、石人形を作りだし、イエメンを『鉄拳愛』にまかせ、私とエルメスは再びカーナを探しに走り出した。 路地の向こうで再び倒れたミニアスに気づかずに・・・。 |
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| 向かう先 |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/05 0:06:07 ] |
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| | ふん…3人か。リッチィも入れりゃ、この件では4人…いや5人か。 ああ、あのウスノロのヤサで、顔もわかんねえ死体が転がってたって、さっき報告受けたとこだ。 エルウッド。てめぇの部下は気の毒だったな。この件が終わり次第、てめぇもどっかにまわされる。サセンってぇヤツだな。 ヘヘッ(苦笑) そんな顔するなよぉ。サセンされるほうがまだマシってぇこともあるぜぇ?
裏でつながってるらしい貴族ってぇのは特定しても、証拠がねぇな。 仮にも相手はお貴族サマだぁ。生半可な証拠でどうにかするわけにゃいかねえ。 ……ま、そこらこたぁ、“黒爪”の旦那に任せるさ。“ずぶ濡れ”の旦那も1枚噛んでるようだ。向こうは向こうでどうにかすんだろ。
とりあえず、“壁のない家”とやらでも行くか。おう、エルウッド。てめぇも一緒に来るかい?(にっ) ピルカっつーチビが見つけたとこだ。 そうさ、ブラウンケーキを作っていた台所も、壁のない家って呼ばれてたよな。 それが、モールドレを作る…赤いトマトの新しい畑だとしたら? そうさ、2つ目の“壁のない家”だ。 ブギーマンも2人。壁のない家も2つ。
ただ、気になるのは、チビ(ピルカ)が会ったガフってぇ野郎だ。 引きずった血のあと…ってぇことは、その時の状況から考えても、1人で出ていけたとは思えねぇ。 そうさ、協力者がいる。チビが聞いた話の内容から察するに……まぁ、モールドレの組織の一員と考えてもいいだろうなぁ。
オレがイエメンを放っておいたんは、泳がせて、組織と接触する瞬間を狙ってたわけよ。 まぁ、監視が薄けりゃ油断すっかなと……ねぇ知恵絞ってな。 けどまぁ……なかなかどうして。ヤク中ってなぁ理解できねぇ。 見張りの手下の話だと、ラリった様子でどっか飛び出してったとよ。
オレらの他に別働隊がいる。そいつらぁ、今頃は“錆びた黄金”を押さえてるはずだ。 今日は4のつく日だ。………もう1人のブギーマンがいるかもなぁ?(にっ) どっちにしろ、トマト作りをやめるってぇ伝言のせいで、イエメンが飛び出していったのか、それとも関係ねえのかはわかんねえ。 けどよ。もし伝言が本当だとしたら、そろそろモールドレは畳みにかかってるのかもしんねぇよ。 利口なやりかたさ。一度にがっぽり稼いで、足がつく前に全てを畳む。 ただし、畳む時には……大抵は取りこぼしが出るもんさ(笑)
別働隊が“錆びた黄金”とその店主を…そうさ、裏までな。押さえてる間に、オレたちゃ“壁のない家”に行く。 ……なんでかって? ブラウンケーキ摘発ん時。イカレ医者ガデュリンが頭割られた現場は“壁のない家”だ。ひとつ目のな。 どうして、ガデュリンはそこで死んだと思う? その場所に固執したと思う? 何があるのかなんてわかんねぇ。けど、何かあんだよ。“壁がない”かわりに、何か他のモンがな。
ガフがチビをそこに連れてったことからも推測くれぇ出来んだろ。 “壁のない家”は、組織にとっちゃ“集会室”みてぇなモンじゃねえかと思うわけだ。 “錆びた黄金”を玄関にしてな。“集会室”では、中を監視できる…じゃなきゃ中から極秘に連絡できる手段があるんじゃねえかと思うんだ。だからこそ、ガフは血の筋だけを残すハメになった。 なんでそうなる前にガフを助けなかったかって?(笑) 赤ん坊ならともかく……オトナのケツ拭いてやるヤツはいねえよ。麻薬組織にも……そしてギルドにもな。 アタマが集会室に顔出すとは限らねぇ。けど、何らかの連絡方法くれぇはあるだろさ。 それにな。………イエメンが向かったのもどうやらそっちの方角らしいんだよ(にっ)
ついてきたいヤツはついてきな。“錆びた黄金”のほうに行きたいヤツはそっちに行ってもいい。 ケツまくって逃げてもいいぜぇ?(笑) どうやれば生き残れるのかを考えな。 |
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| 古い抽斗 |
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| トレル [ 2002/06/05 0:06:08 ] |
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| | 夕闇の大通りを抜け常闇通りにほど近い雑然とした裏通り。その中の一軒の雑貨屋に足を踏み入れる。 と、同じに店主が驚いたように声をかけてくる。 「やぁ、"ドク"。あんたホンモノの医者になったって聞いたよ? こんな所に来るなんていったいどうしたんだい?」 「まぁ、ちょっといろいろあってな」 ふ〜ん。と後ろの"助手"を見やる。 「で? 今日はなんの用だい?」 「"目薬の調合書"を頼む。まだ、あるかい?」 店主は恐ろしく真面目な顔をした。 「そりゃ。また厄介な事に巻き込まれたようだなぁ。 少し時間がかかるがいいかね? 後ろの人も、もちろん・・・」 「一緒だ」 「判った、少し待ってな」
* * *
幸いな事に情報屋の"薬師"と会うことが出来た。昔・・・繋ぎを取らなくなって10年近く経つのに、だ。 今の状況を話し始めようとすると遮ってこう言う。 「わかっているよ。昨日の君の状態だって知っていたから」 なぜ助けてくれなかったのか。と問うと、僕が疑われたら君くらいじゃ済まないからね。と返される。 それに・・・ 「昨日は実験で忙しかったんだ。ブラウンケーキを単純に精製しただけじゃ、モールドレは出来ないんだよ。なにか他に混ざってると思うんだけどまだわからないのさ」 モールドレと聞いて思い出す。そういえば、症状が書いてあるものを置いていったな。 「これはお前が書いたのか?」 「あたり☆」 「・・・じゃ、引き続き実験頑張れ。判ったら教えろ」 「ほ〜い」 「ああ。あと、"本屋"は健在か?」 にかっと笑って"薬師"こう言った。 「まだ生きてる。行ったら喜ぶよ」 懐かしさが込み上がって来る。ふ・・・と思わず笑みがもれる。 じゃあな。と言って去ろうとしたその時。 「でも、今は"本屋"じゃなくてマーファ神殿の方が面白いと思うな」
マーファ神殿ね・・・
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| 昔語りも交えながら |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/05 3:40:57 ] |
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| | そう…。リッチィも、ガフも、死んだ…。彼らはこころが不安定だから、そのままならきっといつか我々に害をなすと思っていた。一安心だ。心配は必要なかったね。 いつも報告してくれてたすかるよ、”かんみや”。
だがそうだね、詮索は止してもらいたいねぇ。伝言の事とか。 必要ないというものだ、気になるなら、今から順を追って話すよ。 今日は日が長そうだしねぇ…。
何故、イエメン坊やを贔屓するかって。そりゃぁ、だって。今じゃ想像しにくいだろうけど、彼は、とてもかわいいこだったんだよ。”壁の無い家”に私が集めてきた子供達の中でも、ピカイチのね。だから余計に愛するようになっただけのこと。そもそものはじまりは。 今あんなに大きな身体になってしまってるのは、色々な薬の実験のせいかもしれないな。私ぁ、両親に死に別れて傷心していたあの子に、いい思いをさせてやろうと必死だったのさ。
わたしとガデュリンのことだがね。確かに、イエメンをどう愛するかでしょっちゅう議論とか喧嘩をしてたから、傍目からは仲良く見えなかったかもしれないね。二人で色々試しながら、そのやり方は違う、必要ないだろうって相手を非難してさ。 でも、わたしが復讐のつもりで、ブラウンケーキがアゲられるように密告したなんて、それは誤解だよ。……製造ったガデュリン自身が、それをやったのさ。全て無に帰すつもりで。
あの男は、ブラウンケーキを作りながらも、最後には、麻薬で愛情を作り出すことに疑問を感じたようだった。これは退屈、とまで言い放って。 でもわたしのほうは、その頃、とにかく肉体的な快楽を与えてあげることが愛だと信じ切っていたから、反発を感じたんだ。そうすることが自分でも楽しかったからね、奴の言うことが理解できなかった。置いていかれたような気になった事だけ覚えている。 そう、ちょうどブラウンケーキ漬けにして沢山の男や女を犯すことに夢中だった頃の話しだ。事が終わったら去勢するのが楽しみだったっけ。シーリィって娼婦や、逆巻髪の女なんか、いい塩梅だったなぁ…くつくつくつ。まあ、それはいい、次だな。
その後の私が、ブラウンケーキを改良してモールドレを製造った事は、”かんみや”。おまえも、知ってる事と思うが……。この事は話してなかったと思う。 ガデュリンの生前に、計画を話した時にね。彼は、「自分はすでに”黄金”を完成している」と答えてるんだ。 どういうことだろうね? 考えるに、今となってはその言葉の真の意味を知ってるのは、イエメンだけだ。私ぁ、今でも、何のことか知りたくて、やきもきしてるんだ。だから今でも、あの子からは目が離せないのさ。
もちろん、今までにも、彼にそのことを喋らせようとは考えた。でも、簡単に言うことを聞かせられる相手じゃない。下手に刺激して喧嘩になれば、こっちが死ぬか、坊が死ぬかという事になりかねんのだからね。 でも、大事を取ってずっと様子を見てたけど、もうそれも必要ない。そろそろ賭けに出ようかと思ったんだよ。私も小銭を稼ぐだけの、今のこの生活が退屈になってきたのかもしれないな。 モールドレを取り上げて、イエメンの坊やを脅すんだ。その頭の中から、秘密を引っぱり出したいんだ。
なあ、”かんみや”。わたしは、もとが魔術師だ。カーフェントスの”さいふ”のような、俗な目的を持って、麻薬に関わってるのではない。本当は、金もチカラも、必要ないのだよ。ものごとを、探求したいだけさ。麻薬による愛情を詰まらないと放言したガデュリンが、最後に目指し、完成させたものを、見てみたいんだ。 ”黄金”がどんなものか判らないが、うまくいけば”かんみや”お前にもまた、甘い汁を吸わせてやれるよ。モールドレが潰れてしまった後にも、だ。
おう。そうそう、ジェイコブか……。”かんみや”おまえの言う通り、もう私には、影というものも必要ないね、くつくつくつ。 今日は、四のつく日。でも、うん、私は、もう出ないことにするよ。すでにギルドに目をつけられてる。これからは、集会所を使うから、この店も、必要ないね。 あれは、最後まで番に立たせような。店ごと火でも点けるのがいい。リッチィの後を追わせるんだ。影らしく、真っ黒になってもらうさ、くつくつくつ。 |
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| 大地母神のお膝元で |
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| カーナ [ 2002/06/05 17:07:39 ] |
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| | 『ここにいたら、あたしは酷い目に遭う』 結論は最初に出た。理由は、結局最後まで出てこなかったけど。
神殿の庭を守る樫の木の枝に助けられ、酷い怪我は負わずに外に出られた。 状況を把握する間も無く、外に向かって走り出す。
あの幸せな気分は、愛の夢は、何処へ行ったのだろう。 あるのはただ、さざなみのように小さく波打つ不安。夕日を見て、『夜が来る』と怯える子供のように。
身を隠す場所は、最初から決まっていたよ。 身体に染み付いた経験が、あたしを動かしたのさ。
マーファ神殿。 そこにいないと思われている場所が一番安全なんだから。
ある程度大通りを走り、細い路地へ入る。神殿を、大回りにぐるっと回りこむように。 身体の調子が最悪なので、途中からゆっくりと歩き出す。追いつかれる事を考えると怖いが、こればかりは仕方がない。 大分時間がかかったけど、上手く目当ての路地に出られた。なるべく自然に、神殿へ向かう人の中に紛れる。
そのまま何食わぬ顔で敷地内に入り、建物の陰、先程飛び出した側とは逆の庭の隅に身を隠す。 はずだった。
誤算は3つあった。 ひとつは、神殿から出てきた人。 もうひとつは、相棒。 最後のひとつは、あたしの中。
「先生、ありゃあ……“白指”ですぜ。行方の知れなかった」 二人いる男の内、顔を見たことのあるほうが、もう片方にそっと告げる。 背の高い金髪の男はあたしに視線を向け、小さく呟いた。 「確かに、異常があるようだな」
不味い。くそっ。隠れる場所を変えなければ。 とっさに身を翻したあたしの視界に、見覚えのある赤褐色の髪。射貫くような視線。 エルメス!? ああっ、そうか。君も巣穴で訓練を受けているんだから、行動を予想するコトだって出来ない筈は無いんだ。 リッフィルの姿が無い所を見ると、別行動を取っていると見たほうが――
得体の知れない寒気が身体を縦に走る。 『夕日』は落ちてしまった。次に来るのは闇。それが、来る。 嫌だ。いやだ。あんなのは嫌だ。そうだ。トマト。何処にある? 分からない。『畑』の場所なんて知らない。ああ、そうだ。アトリエに行けば、まだ。 もしかしたらイエメンもいるかもしれない。彼ならきっと知ってる。きっと。
まずは……この現状から抜け出さなければ……。 あたしは腰に差してある手矢(ダーツ)に、そっと手を伸ばした。 |
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| 黄色 |
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| "恋人”チェリオ [ 2002/06/05 23:20:51 ] |
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| | 死者から言伝られた場所に足を運んだ俺が見たのは、一見には何処から見ても非の打ち所の無い 幸せに満ちた家族だった。中年をまわってしばらくといった頃合の優しげな夫婦とその孫だろうか? その女性の方に小さな女の子が抱かれている。金の巻き毛の可愛い子だった。――似ているかもしれない。
「アデンは、あの子は確かに私達の娘です」 その夫妻は、遠い日を思い出しながら少しだけ話してくれた。彼女が15の時に家を飛び出して いった事、それからつい最近までまったく音沙汰が無かった事。それから、突然現れて 自分の娘だと言ってその子を自分たちに託していったということ。そのまま、理由も告げぬまま また姿をくらましてしまったこと。
「あの子は、15になってもまだ女性の兆しが訪れなかったんです。きっとおなかの病気だったのね。 だから、子供を授かるなんてとても信じられなかった。幸せだわ。あの子の子を抱けるなんて。 ・・・ただ、あの子と、この子のパパさえ来てくれれば、もっと何倍も幸せなのに・・・」
待つわ。仕方ないもの。そういって話してくれた女性の顔は、穏やかで、とても彼女の顛末を話す事は 出来なかった。後ろ手につけていたアンクレットを外し、彼女に託す。母親からと。 「カナリアが大きくなったらきっとぴったりになるわね。この子は、美人になるわ。請け合いよ」 立ち去る時、くれぐれも宜しくと何度も繰り返された。彼女はどうして此処を立ち去ってしまったんだろうか。 結局、帰ってきたのに。それに、カナリアは黄金ではない・・・綺麗な黄色には違いないが。
――私の最愛の黄金 そう、書かれていたアデンの書置き。 あて先は・・・・・・ガデュリン。 届く事は無いと、おそらく解っていたのだろうが。
アデンの通い先をトーマスの元だと思い込んでいた俺は少なからず驚いた。俺があてがわれる前にも おそらく交流があったのだろう。ガデュリンの事を調べるのは、そう難しい事ではなかった。 噂に絶えない男だったらしく、集まる話のうち何処までが真実なのか危ぶまれはしたものの。
ガデュリンは、もう何年も前に妻と死に別れていた事。 それ以前に彼自身が酷い流行熱にやられ、不能になっていた事。子を望んでいた彼は酷いショックを 受け、自ら去勢を受けた事。 その後、やっきになったようにおかしな家でおかしな治療を始めた事。 麻薬に手を出したというのも、その頃が最初だったのじゃないか・・・これは相手も推察にすぎないようだった。
・・・ただの、無いもの強請りだったんだろうか。 それだけで、あまりにも手広い人体実験を繰り返したのだろうか?
「だれにだって、あのトーマスにだって与えられた事を何故俺が拒否されねばならないんだ!」
叫びとも怒鳴りともつかない彼の声を聞いた人間もいた。 |
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| 捕獲完了 |
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| エルメス [ 2002/06/05 23:39:24 ] |
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| | バリオネスに無理を言って一人ででもマーファ神殿に戻って来てよかった。今はそれを思うばかり。 誰にも見つからずに潜める場所といえば・・・? ・・・そう考えた答えの場所が、ここだったから。
今、目の前にいるアタシの相棒は普段のそれとは全くの別人のようだった。 まるでアタシを憎んでいるかのような視線で構えている。 ごたごた言ってもラチがあかない。 さっさととッ捕まえて治療させないと・・・と、掴みかかろうと思った瞬間、カーナはアタシがいる方向とは逆の方向に素早くダーツを投げ、すばやくその場を走り去った。 その方向には、先ほど合流したトレルが・・・まさか、当たったか? ちらりとその方向を見るが・・・。 「早く追うんだ!!」 怒鳴るように言われる。 当たったかどうかは確認できなかった。姿が見えるうちに追いかけないと・・・! トレルと、一緒に居た男も後から続いているようだったが、アタシは前ばかり見ていた。
カーナは元々の体質から持久力がない。逆にアタシは普段から鍛えているから自信がある。 加えて今のカーナの状態はよくないはず。このまま走りつづけていれば絶対に捕まえられる!
追いつくのは予想通り安易だった。 ただ向こうだって大人しくしているわけじゃない。 人に抱かれた野良猫のように暴れる。・・・何かに怯えるように。
だがこちらは3人。向こうは1人。 アタシたちがカーナをがっちりと抑え、トレルがカーナに思いきり当身を食らわす。カーナはぐったりと倒れる・・・。 ・・・捕獲成功、といったところか。長い溜息が出た。
そのままトレルのロックフィールド医院に戻る。 トレルは、「当身を食らわせ、強制入院させるのは二回目だ・・・」と笑う。 おい・・・それ、笑い事かよ。それよりも先生よ。これからどうやって治療していくんだ?本当にこいつ、よくなるのかよ・・・。 とりあえずアタシの役目は終わった・・・ような気がした。 途端に力が抜けた。急激に今までの疲れがどっとでた感じだった。 |
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| 4度目の不良患者? |
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| トレル [ 2002/06/06 21:42:02 ] |
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| | シュッ・・・ 空をさく音にほとんど反射だけで避ける。 鋭いものが左頬をかする。・・・投矢か。 身を翻し逃げ出した“白指”を相棒の“白鷺”に先に追わせる。 頬ににじみ出た血を指でなぞり、ぺろりとなめる。・・・しびれ薬だな。 “白指”を追いかけ走り出しながらポーチから薬粉を取り出し、傷にすり込む。
薬でふらふらの“白指”はほどなく捕まえる事が出来た。 「カーナ!!」 「エルメスぅ・・・ヤだぁ。放してよぉ。アトリエに行かなきゃ・・・」 じたばたと暴れる“白指”に当身を食らわせ、治療院に運び込む。
前もこんな事があった。あれは・・・黒のイメージの半妖精・・・ああ、そうか。 懐かしさに笑みがこぼれる。 「二回目だな・・・」 “白鷺”が奇妙な顔をする。誤解されているだろうが、まぁ、放っておくか・・・
と。“白鷺”、お前はここに残って“白指”を見ていてくれ。弟もいることだし、大丈夫だ。心配しなくても、ちゃんと治療するさ。だが、その為にはモールドレが必要なのだよ。 いいね?
さて、“助手”くん。キミの“斡旋元”まで案内してくれたまえ。もちろん場所はわかっているのだろう?(微笑) |
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| 休息 |
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| バリオネス [ 2002/06/06 21:58:09 ] |
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| | ただ闇雲に探し回るよりも、専門家に頼った方が確実なので、私は盗賊ギルドに行った。 しかし、エルメスに別行動を取らしたのは失敗だった。 彼らは話しの途中に盗賊達にしか分からない暗号を混ぜるので、私の場合2割から3割り増しの情報料となる。 いつもなら悔しいのでハイエンシェントとローエンシェントを織り交ぜて質問したりする。 だが、本日はよけいな出費を抑えるために『イエメンと麻薬にかかわる責任者を出せ、それと私は寝るから部屋も用意してくれ。』と、その辺にいた若者に告げた。 へやに通されるなり、私は寝ころんだ。 そしてカーナの居所、そして今回の麻薬事件の事を、どう聞き出そうかと考えながら眠りに落ちた。 |
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| ガネードの“恵み” |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/06 22:57:33 ] |
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| | チビ(ピルカ)と三つ指との案内で、オレらは“壁のない家”に向かったってわけだ。 チビが、紅茶を飲んだら痺れたってんで、ギルドに置いてあった解毒薬を飲ませた。 『普通にヤバイ』盗賊連中が使うような痺れ薬なら、これで事足りるはずだぁ。 予想通り、ギルドに来る時ぁ三つ指に背負われてきたってぇのに、案内する時ぁ走ってやがった(苦笑) 使われた薬がモールドレでなくて、良かったなぁ? んん? チビ?(にや)
“壁のない家”に行く途中。妙なモンを拾った。こりゃ…多分、同業だな。 「あっ!! ドゥーバ、この人、あたしを助けてくれた人!」 叫んだのぁチビだ。怪我ぁしてるようだが……大怪我ってぇほどでもねえやな。 ぺちぺちと頬っぺたひっぱたいても、ぼんやりとした視線。……ヤク中か? ふと、気が付いた。赤い指先。………ちぃっ。こいつぁ血じゃなくてモールドレかよ。 にしても、この程度の量じゃ中毒になんぞならねえはずだ。 っつーか、誰と何をやりあってこんなとこでこんなことしてやがる。とりあえず、ギルドに運んで医者呼んでやるか。
…と、そう思った。 そうさ、オレぁこう見えても優しい男だ。 だから、世の中ってぇヤツも、もうちぃとばかり、オレに優しくたっていいと思うんだな。
まず、ギルドに残してあった草原妖精のクーナが走ってきやがった。 「ギルドに変な魔術師がきた。顔に傷があって、偉く横柄な男。イエメンって名前出したり、麻薬の話を聞かせろなんて言うし、休ませろなんて偉そうな口を叩くから、休憩用の控え室だって騙して、閉じこめてあるけど……どうする? とりあえず、あたしは伝令だけなんだ」 …………って、誰だ、そりゃ?
そして、医者センセイに“雑用”につけたはずの野郎までやってきやがった。 「あのぉ……」 と言ったっきり黙りこむ。そのすっとぼけた横っツラぁはり倒してやろうかと思ったが…その直後に用件はわかったんで……まぁ許してやるとすっか。 その“雑用”の後ろから、現れたのは背の高い金髪の男。……しばらく動けねぇかと思ってたのはオレだけかい? 「カーナのことは…知ってるな? カーナは保護…というより、捕獲といった雰囲気ではあったがね。とりあえず保護したよ。……この件で、相談がある」 …………医者センセイ。“雑用”を付けたのぁ、余計な真似すんなってぇ意味合いだったんだがねぇ?(苦笑)
そこに“恋人”チェリオがやってきた。ヤなツラぁ下げてやがる。なんでぇ、そのしみったれたツラは。 けど、そのツラを見てたら、わかる。いっくらオレが鈍感でもなぁ。 賭けてもいい。今までの知らせの中で最悪のヤツだ。 「……“錆びた黄金”が火事だ」 ……普通の、火事かい? 「違うだろうな、おそらくは“絡繰り”リッチィの仕掛けと同じだ。店の屋台骨が崩れるのと火の手があがるのとが同時だった。俺は裏手で見張りをやってたから逃げられたが、正面から突っ込んだ奴らが2人ほど……」 手を振って黙らせっちまいたかった。これ以上、ンな知らせなんぞ聞きたかねぇ。 けど…聞かねぇわけにもいかねんだろな……。 「トーマス・ブギーマンの死体はあったかい」 半ば諦めで聞いた。“恋人”の野郎…頷きやがった。 「あった。ただし…目の色はもうわからない」
………とりあえず、チビを助けた女盗賊に必要だった医者は現れた。んでもって、医者センセイはそいつと顔見知りだった。おかげで、ミニアスってぇ名前が知れた。 ガネードさんよぉ。あんたのお恵みってぇのはこれっぱかしのモンなのかい? |
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| 落ち着くまでの経緯 |
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| イエメン [ 2002/06/06 23:46:10 ] |
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| | 両頬に傷のある男に、大事なものをさらわれちまった。 おれはその姿を探して、咆哮を上げながら、近くの路地や道をかけずり回る。 道行く人に尋ねる、などという発想は、気の済むまで自分で探してからのことだった。というより喋れる状態じゃなかった。行き会った人間は全員、道を開けてきたが、ハハァ、賢明だったぜ。この時になんか声を掛けられたら、誰であろうと即座に一撃を見舞っていただろう。実際、そうしたかもしれねえが、覚えちゃない。
「冗談じゃないわよ、あんた」 後ろを振り向いたら、レンガの垣の上に皮鎧に身を包んだ黒髪の女が立っている。おれは怒鳴ろうとしたが、喉がぐるぐると鳴るだけだったので、それも中途半端に、相手に襲いかかった。
気が付いたら、ずだ袋を逆さに、頭にかぶせられてた。興奮しながらそれを脱ごうとしたが、その口が紐を引っ張られて締められたので、出来なかった。
なんも見えねえ。 トマトが身体に残っているせいか、身体のあちこちに走る痛みが、ある意味気持ち良い。肩や、胸や、腿や。でも、ハハァ、そんなとこ、刺されたっていい…。 闇雲に棍棒を振り回しては、相手がいる気配のする所に突進していった。 「あれ?」呟きが漏れる。 喉元から、どんどんと熱いものが吹きこぼれて来る。苦笑した。そのまま、意識が途切れていくのが判った。
おれは、茫洋たる夜の海の上に浮かんでいた。仰向けになった身体をささえているのは、湿って半ば腐った板きれだけで、四肢はすでに水に浸かっている。暗い海面は小さい波を作っては、おれの腹の上を洗っていく。 空も闇だ。混沌の海、この暗い水の中に、どんな怪物が棲んでいるかなんて、想像もつかない。おれを襲っているのは、強い不安だった。 そんなおれの所へ、櫂を軋む音をさせて、小舟がゆっくり近づいて来るのだった。漕ぎ手は懐かしい人だ。
胸から水を吐き出させた後、口づけして、呼吸を楽にしてくれる。 そして彼は、おれに顔を近づけて告げた。 「お菓子はもう上げられないが、代わりにもっといいものを上げよう、わが息子よ。大事にするんだぞ」
あるいは、おれは英雄と呼ばれた戦士で、戦いが生き甲斐だった。だが今は無人の野を歩いて、長い距離を旅している。道程は苦難の連続だったが、どうしても辿り着きたい場所があった。必要なものはそこにあると、思いだしたからだ。 先に一軒家。そこから漏れる黄金色の光…近づいて、最愛の女性の名を呼ぶ。 扉が開くと、眩しいぐらいの光景が現出した。
マーファ神殿の寝台の上で目が覚めた。 かすかに聞こえる喧噪に誘われるように窓に近づいて、外の景色を眺めたが、 道行く人が集まって、何事か囁き合っているだけだった。 |
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| 壁の無い家 |
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| エルウッド [ 2002/06/07 4:35:31 ] |
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| | ・・・ものけの空です。 これだけの人手で捜したのですから確かでしょう。 ここにはもう、誰もいません。
見たくもないものはありましたがね。 ここが”壁の無い家”だったとすると、当然、”患者”もいたわけですから。
彼らは本当にモールドレを手放す気になったのかもしれません。 資料が残ったままになっています・・・ああ、ここには医者もいましたね。 ぜひ有効利用してください。 モールドレがなくなれば・・・、ハハッ! あなたの仕事場はさぞ忙しくなるでしょうからね。
供給元は断てたのだから仕事はこれで終わり、で済ませますか? ハハッ! 当然ですね! ギルドをないがしろにしてこれだけ好き勝手やったんだ。逃がせるわけがない!
ところで”恋人”、錆びた黄金の焼け跡に”猫”を見ませんでしたか? もしくは、アトリエに足を運んだときでもいい。
何かって? 私も”猫”を見たのですよ。“絡繰り”の屋敷の焼け跡で。
恐らく、トーマスの私室と思われる部屋なのですが・・・、 床に皿と水飲みが置いてありました。ちょうど”猫”が使うような。 そして、トーマスは魔術師だったことを思い出したのですよ。 |
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| 総仕上げ |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/07 23:55:21 ] |
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| | ……それで私は店じまいしようと思うわけですよ。 故郷のベルダインにでもねぇ、逃げますよ。さんざこの地で楽しみましたし。 全て終わった暁には、えぇ。製法を含め、”もーるどれ”の全部を、ちゃんとそちらに、お渡ししますよ。ご心配は必要なく。 秘密は処分してもよいし、さらに地下に潜る仕組みを作り、貴方がたの上役は”さいふ”を続けられるのも良いでしょう。そちらのご自由です。 しかし、くれぐれも妙な考えを起こさぬようにお願いしますよ。 貴方がたは、スキャンダルが漏れるのを何より警戒してるはず。我々を襲えばそれが防げるなどとは、努々お思い下さいますな、くく。
相手方との交渉は終わったよ”かんみや”。 え、何だって、ふん…そうかね。”壁の無い家”あんなところにまで奴らの手が延びていたかよ…。 ペットの目を通して、うまく足取りを消したのは確認しているが、敵もさるもの、油断はできんものだなあ。
さて、少々急ぎで”かんみや”配下の者たちを使って、イエメンの坊を見つけてくれんかね。ま…その時の様子次第で、どう振る舞うか考えなければならんなぁ。 その間に私は、オラン脱出の算段をつけておく…。期日までに”黄金”を手に入れられなかったら、その時は仕方がないな。
嗚呼そういえば、出国の前にもう一つ、やり残している事があった。
私がガデュリンの実験のために、子供達をさらっていた当時ね…、その子供達の中に、ほんの五つぐらいにしかならない娘がいたんだけど。 今まで手を出さずに来たが、そろそろ、その子を摘み取ろうと思ってね。 その時ぁ、被験体になるまえに彼女を、アデンって娘がこっそり連れ出したみたいでな。ガデュリンに麻薬で愛されていた女だ。私にはちゃぁんとお見通しだったんだがね。 ガフではないけど、歳端もいかないに関わらず、彼女は可愛くてね…成長したらきっと手に入れてやると、気を揉んでいたものさ。 今まで待つのが楽しかったよ。必要ないと思っていたが、愛を自制し我慢することが、こんなに胸躍るものだったとはね……。
私は、もう二度とオランには戻らんつもりだ。心残りは全部無くしておくよ。長年の成功の総仕上げだ、羽目を外してもよかろ。くつくつくつ、これで黄金も手にいられたら、本当に言うことがないね、人生の華、再びの気分だ。 え、お前さんはそういうつもりじゃないのかね、”かんみや”。ひとつ、愉しみなさいよ。 |
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| カナリア |
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| 甘味屋 [ 2002/06/08 1:28:46 ] |
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| | アデンの娘…ああ、カナリアかい? まったく……あんたたちときたら……ああ、そうだね、今更だ。
俺は、あんたたちほど夢見がちじゃあない。 俺の愉しみと言えば、例えば宝石を敷き詰めた寝床。その上に侍らせる美女。 カナリアは、見事な黄金の巻き毛を持ってるらしいが、俺のお気に入りの女だって相当なものだ。 ああ……髪じゃない、髪じゃないよ。彼女の髪は漆黒だ。 ただ、目玉をくりぬいて、その代わりに、黄金で縁取った琥珀を入れてあるのさ(笑) そう、透き通る黄金の瞳だ。
オラン脱出は…そうだね、遅くとも10日後ってぇところだろう? 大丈夫。オランは広い街だが、俺だってそこそこ手広いのさ。 イエメン坊はきっと見つけてみせるよ。 坊は、頭の中身の割には、図体がでかい。きっと見付かるさ。 ……おっと、怒らないでくれよ? 坊の頭の中をけなしてなんかいない。どっちかっていうと……そうさね、羨ましいくらいさ。 イエメン坊は純粋だ。 ガデュリンが救って、あんたが癒した。
けどね。もう一つ…いや、もう1人。坊を救った人間がいたよ。 あんたは気づいてたかい? ああ、気づいてるだろうね。あんたと坊は同じ人間を見ていたんだから。 籠の中で囀るカナリアの別名は…金糸雀だったねぇ。
ところで……大事な見張り役を追えたあんたの猫は、今どこだい? なんだかさっきから、姿が見えないような気がするんだがね。 |
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| 無題 |
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| イベント管理者 [ 2002/06/08 23:14:35 ] |
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| | ”錆びた黄金”イベント 現在の概況
トマトと呼ばれる麻薬モールドレを作っていたのは、トーマス・ブギーマンと”甘味屋”達であった。しかし彼らは、ドゥーバ達ギルド側の調査によって足がついてきたのを見て、密売は潮時だと判断し、オラン出国を図りだす。 その際に彼らは。モールドレの秘密を、売買を任せていた者たちやその後ろ盾の”財布”に全て譲ることを明言している。もし譲与が行われれば、モールドレの秘密は闇に潜り、オランの今後に禍根を残すことになるだろう。
一方、トーマス達の足取りを追っているドゥーバヤジットは、”錆びた黄金””壁のない家”などの怪しい場所を探すも、麻薬とトーマスらを繋げる証拠や、彼らの足取りの手がかりを得ることができない。頼れるものは、彼の元に集まった面々の力と、彼らがそれぞれ手に入れている情報のみである。
トーマスはまた、医師ガデュリンの残した遺産”黄金”を手に入れようと企てている。ブラウンケーキ、モールドレに続く何か──ガデュリンはそれが二つの麻薬に勝る魅力を持つと言っていた。その”黄金”について知っているのは、中毒者のイエメンだけという。現在の彼は、カーナの姿を追い求めてさまよい続ける。 トーマスのオラン出国まで、残りわずかな日数── それぞれの思いが交錯をはじめる。
各PCの現在の行動 ○ドゥーバヤジット 捜査状況は煮詰まったかに見えるが、仲間のもたらした情報を元に、次の一手を考えている。 ○ピルカ 路傍の”ガフ”と接触中に彼にしびれ薬を盛られて昏睡。ミニアスに助けられたあと、ドゥーバと合流。 ○トレル モールドレの精製方法を洗っている。ドゥーバの手の者”助手”に見張られつつ行動していた。現在、ドゥーバと会見中。 ○チェリオ かつて護衛していた娼婦のアデンのことを調べるうちに、ガデュリンの人物像に迫った。ドゥーバと合流している。 ○クーナ ドゥーバの元で、情報集め、暗号の解読、伝令役などにいそしんでいる。 ○ミニアス イエメンを襲撃した後、モールドレに触れて路地に昏倒していたところを、ドゥーバに助けられる。症状の進行程度は不明。 ○バリオネス 今回の事件の全容を知るため盗賊ギルドに向かった。現在は、ギルドの元で軟禁状態にある。 ○エルウッド ”絡繰り”リッチィの罠によって部下を失い、ギルドでの立場を危うくしつつも、偵察役として、ドゥーバヤジットに協力し続けている。
○カーナ エルメス、トレルらによって、ロックフィールド治療院に運び込まれた。麻薬の症状は強く現れている。現在、療養中。 ○エルメス 相棒のカーナに付いて、その病状を見守っている。
○トーマス・ブギーマン モールドレの売買を畳みにかかり、オラン出国を図る。娼婦のアデンとガデュリンの娘と言われる、カナリアを捉えにゆく。 ○甘味屋 トーマス・ブギーマンに依頼され、イエメンを探しに行く。
○イエメン マーファ神殿にて、負った傷の治療中。麻薬症状の進行程度については不明。 ○”路傍”ガフ ピルカにちょっかいを出そうとするが、その行動が上役の怒りを買ったらしい。ハザード河に沈められるも、”風上”ネイに助けられた。以後、彼女に協力を誓っている。 ○”風上”ネイ モールドレの売買とクレンツ伯爵との繋がりを調査している。 ○”皮剥” 現在も鐚一文横町にて平常の仕事を続ける。 |
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| 経過報告 |
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| イベント管理者 [ 2002/06/08 23:51:48 ] |
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| | 以下は未だPCが存在していません。 ○”三つ指”バンクロウ ピルカと共に、ドゥーバに合流中。 ○”財布” モールドレ売買の後ろ盾をしている人物。未登場。 ○カナリア アデンの遺児とされる娘。トーマスがつけ狙っている。 ○”助手” トレルが呼んだ名。彼の行動を監視していた、ギルド員。 ○リッフィル 麻薬で夢うつつのカーナが呼んだ名前。未登場。 ○”薬師” トレルの知り合いの情報屋。 ○”本屋” トレルと”薬師”の知人。
アドリブ用単語 ○黄金 ガデュリンの遺産と言われる、謎の宝。 ○畑・夕日 カーナが夢に見たもの。 ○”目薬の調合書” トレルが常闇通りの雑貨屋の主人に依頼した。 ○猫 トーマス・ブギーマンの使い魔と思われる。 |
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| 愛と孤独と口紅と |
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| カーナ [ 2002/06/09 1:18:42 ] |
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| | そこは小さな部屋だった。 そこは暗い部屋だった。 小さな採光窓と、ベッドと、簡易便器と、机がひとつ。 窓には格子がはめられ、そして扉は頑強だった。
牢屋では無いけれど、牢屋と大して変わらない。そんな場所。 ロックフィールド治療院。そこの、『特別な患者』の為の部屋。
一日そこにいただけで、あたしは気が狂いそうになった。
目を覚ました時には頭痛が再発していた。 それだけじゃない。何か、そう、目に見えない七つ首の蛇があたしの身体に絡み絞めているような感覚。 そして、渇き。堪え難い渇き。忘れられるもんか。あの夕日を。あの甘さを。
それが一日中続いた。 きっと明日も続くだろう。 明後日も、明々後日も、その先も!
そして、苦痛を紛らわせる方法は、この部屋には何一つないんだ!
何度も唸った。ついには叫んだ。このままあたしはひとり。それは嫌だ。 ひとりは嫌なんだよ。ああ、ああ。誰か来て、あたしに触れて、ぎゅっと抱いて。そしてトマトを口に―――
「随分と苦しそうじゃねぇかい」 声に気付いたのは、親指の爪がぎざぎざになるまで噛み終えた、そのときだった。
刻限は分からない。日は落ちていた、と思う。 食事を部屋に入れるための、小さな窓から、声は聞こえた。 「誰に会いたい? 伝えてやるよ」 そいつが言ったのは、それだけだった。
「イエメンに」 あたしが言えたのは、それだけだった。
理由? 愛? はははは! そんな訳ないだろ! 渇いてるんだ。潤してくれるのは、それを持っているのは、彼しか。 ああ、でも、それは愛だよ。アレさえあれば、あたしは母さんになれるもの。だから呼んで。お願い。早く。
そいつは、小さな窓からあたしの顔を覗き込むと、満足げに笑った。 「分かった。任せときな、坊やはちゃんと連れて来てやるさ」
窓から手が伸びる。手が開かれて、何かがことんと床に落ちる。 握られていたのは、『口紅』だった。真っ赤な色の。
『口紅』を握っていた手は、指が3本しかなかった。 声にも確かに聞き覚えがあった。 でも、その事を気にするより先に、手が伸びた。
些細な事だよ。ささいなこと。ささいな、あは、あっは、ははははははは! |
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| "あたし達” の黄金 |
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| ピルカ [ 2002/06/09 1:54:07 ] |
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| | 「壁の無い家は二つ、ブギーマンも二人…。」 手に持った薬瓶を片手で弄びながら、ドゥーバが誰にともなく言う。 あたし達は『壁の無い家』に集まっていながら、決め手が無い事にイライラしてたの。 「……っつー事は、だ。錆びちまった金も二つなんじゃねえかと俺は睨んでんだ。」 皆が黙ってドゥーバの方を見る。 「…いや、正確に言やぁ、俺達が追ってる以外の“錆びてねぇ金”が、どっかにあるんじゃねえかってな。俺が今まで会ってきたモールドレの中毒者はな、みんなイッちまってたんだ。……だがよ、あいつだけは…イエメンだけは違ってたんだぁな。」
イエメン……。ドゥーバが泳がせておいたって言う重度のモールドレ中毒の人の名前だった。そして、カーナが呟いた名前。ドゥーバの話だと、他のモールドレの中毒者はほとんどマトモに話も出来ない状態だったんだって。でも、イエメンは違ってた……。その人の症状は、むしろ『ブラウンケーキ』のそれに近かったらしいの。 同じだ…ジェーコフと同じ。戦いになると人が変わったみたいになるって、ドゥーバも危ないところだったって…。
「他の奴らはモールドレに喰われちまった。でも奴はまだ喰われてねぇ…。どうしてだろうな?」 肩を竦めてドゥーバがみんなに問い掛ける。あたしは、はっとして答える。
ブラウンケーキ…。 「そう、ブラウンケーキだ。あいつぁそれをやってた。俺が知る限りじゃ、あの薬で生き残ったのはあいつだけだ。その辺りに関係があるんじゃねえかってな…。」 まだ確信が持てないみたいで、そう言うとドゥーバは頭を掻きながら続けざまにみんなに言ったの。 「……よぉ、おめぇらの、おめぇらにとっての黄金ってのは何だ?」 考えた事もなかった。あたしにとっての黄金…。みんなも同じ事を考えてたみたいで、急に黙ってしまう。
「あたしは……」 最初に口を開いたのはクーナだった。 「あたしにとっての黄金は、何よりも大切なのは、契りを交わした姉と妹だ。それから…」 ぽん、とあたしの肩に手をかけてクーナが続ける。 「ここにいるトモダチ、さ。」
なんだか泣きそうになった。そんなあたしの顔を見てにこりと笑うとクーナは続ける。 「エルウッド、あんたさっき猫がどうとか言っていただろ?」 話し掛けられたのがすごく意外みたいな顔で、エルウッドが答える。 「ええ。思い出したのですよ。トーマスは魔術師だという話をね。当然、使い魔を操る術も心得ているはず……。ただし、それが必ずしも猫だとは限りませんがね…可能性はある。」
少し考えてから、クーナは窓の外を見ながら言ったの。 「猫は、あたしが探す。今はそれしか手掛かりが無いらしいし。」 待って、クーナが行くならあたしも行く。 「へっ…いいんじゃねえのかい、エルウッドよう?こっちも動かなきゃなんねえんだ。迷子の仔猫ちゃん探しにゃチビ共が適任だ。俺達よりもな。」 ドゥーバが促すと、クーナはあたしの方を向いて頷いて『壁の無い家』から出て行く。あたしも急いでクーナを追いかける。後ろから、エルウッドの声がした。 「私が見たのは、ハハッ、焼け跡と同じような色の真っ黒な猫ですよ。」 黒い猫…か。分かった!ありがとうエルウッド。
「なんか……さ。」 『鈎爪通り』を並んで走りながら、クーナがあたしに言った。 「あたし達も、なんだかドゥーバの使い魔みたいだな。」 やだ、こんな時に笑わせないでよ。
「ピルカ。」 うん?今度はなに? 「カーナは…あんたのトモダチは必ず助かる。あの医者がなんとかしてくれるよ。あたしと兄弟の名にかけてもいい。」 …クーナ、ありがと。あたしを元気付けてくれてるんだね。そうだよね。今は猫を探さなきゃ。 それで必ず、カーナを、大事な友達…「あたしにとっての黄金」を悲しい目に会わせた薬を作ったヤツを見つけて、思いっきり蹴っ飛ばしてやるんだから。 あたしは前を向くと、走る速さを上げた。 |
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| 医者か賢者か…それとも |
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| クォーツ [ 2002/06/09 4:05:44 ] |
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| | …ずっと、昨日の昼から引っかかってた事がある。市場で会ったじぃさんのことだ。 つい市場の方に足が向いた。…今日はいねぇ、か。別に出会ってどうしたい、とかはねぇけど。つーか、むしろ出会いたくねぇけど。 何かがひっかかってる。それは、あの嬢ちゃん(シオン)がらしくもなく怖がってたとか、じぃさんが嬢ちゃんに薬を渡したとか…。あんな風に誰にでも薬渡すじぃさんなら、受け取った奴の内何人かは飲むかもしれねぇ、とか。
別に、心配してるとか、んなんじゃねぇ。…ねぇ筈だ。
ただ気になってるだけだ。
あのじぃさんは学院か、神殿かそれとも開業医でもやってる奴か。まぁ、暫くしたらオランから出てく、つってたから此処数日過ぎたらもう会う事もねぇんだろうけどよ…。 …元々、俺は医者が好きじゃねぇ。ガキみたいに薬が苦いとか怖いとか、んな理由じゃなくてよ。まぁ、そんな先入観を差し引いてもアイツは異常だったと思う。 あの嗤い方、話す内容。何より知り合ったばっかの奴にドリームランナー程度とはいえ、薬を渡すその感性。言ってみれば嫌な感じがする…、と。具体的に言えっつわれると困るけどな。 大体、この薬が本当にあのじぃさんが言った通りのモンか怪しいしな…。
顔は簡単に思い出せた。…そう簡単に忘れられるもんじゃねぇ、あのじぃさんは。 別に悩む程の事でもなかった。この嫌な感覚を落ち着けるために俺は巣穴に向かった。昨日会ったじぃさん――結局名前も何も聞いてねぇ――の似顔絵を持って。 医者だか賢者だか知らねぇけど、兎に角、じぃさんの裏さえ取れりゃこの嫌な感じも消えるだろう。そうすりゃ、こんな風にらしくもなくぐるぐる考えてんのも無くなる筈だ。 それには巣穴で情報買うのが手っ取り早い。薬の中身から辿るのは、俺には金も手間も数段上になる。
けど、話はそこで終わらなかった。 何故って、似顔絵見たおやじが答えをくれなかったからだ。見た瞬間、明らかに何かを知ってる、っつー風な反応したにも関わらず、な。
…はぁ?人に会え?…俺はこのじぃさんが何者かって聞いただけだぜ、アンタが知ってるなら教えてくれれば済むじゃ―― そこまで言った所で、目だけで制された。 …すげぇ嫌な予感がした。関わりたくねぇと思ってた事にここに来て当たっちまったような。ちなみに、俺の場合悪い予感に限ってよく当たりやがる、嬉しくねぇことに…。
分かってる、行くさ、此処で引いたら――引けたら楽そうだけどよ、寝覚め悪そうだしな…。 |
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| 寄生虫 |
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| バリオネス [ 2002/06/09 7:38:03 ] |
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| | 「ん〜、よく寝た♪」 起きてからしばらくボ〜っとした後に気がついたことは、杖とフランベルジュが無いこと、そしてドアに鍵がかかっていることだった。 私はポケットから予備の発動体を取り出し、扉を開ける。 部屋の外に見張りはいない事から考えて、私の質問は触れられたくないことだが、さしたる痛みもない程度の事だったと推測される。 ギルド内で知り合いの盗賊を片っ端に捜し、イエメンの事と赤い色の麻薬について調べてきて欲しいと依頼する。そして、ついでに置き忘れた杖と武器を探してきてくれとも願う。 報酬は私とのコネ、つまり魔術師に恩を売れると言うこと。 情報を待つため、なにもない殺風景なあの部屋に机と椅子を運び、ついでに花のささった花瓶とティーセットを拝借してくる。 調べがつくまでおとなしく軟禁されながら魔導書の写本にいそしんだ。
どれだけの時間がたっただろうか、私の元には同じ様な情報が集まってくる。 赤い麻薬はモールドレと言う名のギルドに無認可で流通している麻薬で、“手長”ドゥーバヤジットが販売ルートの究明に動いている。 イエメンというのはその麻薬のお得意さまで現在行方不明。何者かが探しているらしい。 私は今”手長”と呼ばれる人物を待っているはずだが、彼は一向に姿を現す気配がない。 これ以上待っても無駄と判断し、杖と武器の到着をまって一度戻ることに決めた。 マーファ神殿にいると書き置きを残し、情報収集をしてくれた盗賊にイエメンはマーファ神殿にいるという情報を広めるように指示する。 これでギルド側と売人側の人間が餌に集まってくるだろう。 私は取り急ぎ神殿に戻り、イエメンの守りを固めた。 |
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| 盗賊と医者 |
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| トレル [ 2002/06/09 15:46:57 ] |
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| | さて、"手長"。言いたい事があるようだが、こちらの用件だけ先に言わせてもらうぞ。 まず、麻薬中毒の患者、たしか、イエメンといったな。その男は今、マーファ神殿にいる。 "助手"が顔色変えていたからあんたに関係あるヤツだと思うのだが? 次に、カーナという娘だが、急性中毒ではないな。すでに慢性中毒と考えられる症状が出ている。 ミニアスは薬が抜ければたいした事はないが、こっちは禁断症状が出てくると思う。治療の為に、モールドレが必要だ。 それから、ここに来てから増えた用事なんだがね。ミニアスの手から採取したモールドレのサンプルだ。 これをウチで分析させてもらう。そうそう、ギルドの"薬師"を"助手"呼びに行かせたんだ。あんたもウチに来るか?(笑)
* * *
"手長"は部下を呼びつけマーファ神殿に走らせる。そして、しかめっ面のまま、治療院までついてきた。 ギルドへのご招待と、多少中和したとはいえしびれ薬とで、そろそろ限界に近い。かといって薬の分析を任せ、治療だけをしていては何の情報も入ってこなくなるはずだ。"手長"と会った時の顔でわかる。あんたは家で大人しくしていてくれ。と・・・ それともう一つ、古い愛剣を引っ張り出してきてから徐々に強くなっていく感情もあった。『面倒に巻き込んでくれやがったヤツの顔拝んで、そのツラ張り倒してやらないと気が済まない』というところだろうか。
家についたとたん、けたたましい笑い声がする。目を覚ましたか・・・ 診察のために部屋にはいる。そこには不自然に赤い唇をした、カーナが狂ったように笑っていた。 「センセ。センセも愛が欲しい? と〜っても甘くてと〜っても幸せな気分はいらない?」 これは多分摂取時の症状だな・・・起きた時には多少抜けているかと思ったが・・・ そして、ふと赤い唇に目が向く。皮膚からの吸収も可能と、モールドレの作用調査に書いてなかったか? さっと指で唇をぬぐうと、真っ赤な口紅が指先を彩る。三瞬ほど後、くらりと世界が歪む。これがモールドレか・・・ 外に出ようと暴れるカーナに薬を嗅がせ眠らせる・・・麻薬が詳しく判るまで薬は出来るだけ使いたくない。患者の自由を奪うような事も。だから今は仕方がない・・・・・・ どがっと拳を壁に打ち付ける。仕方がない。それではダメなんだ・・・ カーナの唇から口紅を綺麗に拭いさり、机の上に置かれている口紅を掴んで部屋を出る。 ・・・カーナ、すまない。少しだけ待っていてくれ。必ず治す。
拳を打ち付けた音とそれから出てきた私の真っ青な顔を見て"手長"が近寄ってくる。 部屋から持ち出した口紅を渡し、小声で囁く。 「モールドレだ。これをカーナに差し入れたヤツを探せ。」 "手長"はかすかに表情を変えると、すぐさま去っていった。 さて、"薬師"が来るまで少し休もう。まだまだ先はある。休める時に休んでおくのが鉄則だ、冒険者も、医者も・・・ 自室に戻り、扉を開け放したままベッドに横になる。モールドレが効き始めた時間よりも早く・・・一瞬で眠りに落ちた。
だが、休んでいる間にも問題は持ち上がっていた。 "手長"がマーファ神殿に向かわせた部下からの報告が入ってきたのだ。 『イエメンが消えた』 |
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| 灰色だらけ |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/09 23:35:02 ] |
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| | この家ん中にはないはずのものを、カーナが手に入れてた。 ってぇことは、だ。誰かがそれを「差し入れ」しやがったんだぁな。ちぃっ。ふざけんじゃねぇや。 トレルの治療院の周りにゃ、見張りを置いといたはずだぁ。 ここにだって組織の手は伸びてんだからよぉ? ……それとも、アレかい? 医者センセイよぉ。あんたがギルドの奥でこづき回されるハメになったネタ。アレぁやっぱマジだったってぇのかい?
カーナを治療するってぇ名目で自宅に閉じこめて、こっそりとクスリ入りの口紅を渡す。 ああ、もちろん、手渡しじゃなくたって構いやしねえ。何もねぇと思わせたこの部屋のどこかに隠してあったんじゃあねぇのかい? ………ふふん、医者センセイよぉ。あんたに貼り付けた灰色の紙。ちぃとばかり色が濃ぉくなったようだぜぇ?(にや)
おい。そこの見張り。何か見てねえのかい? カーナに聞けだぁ? ふざけんな。ヤク中の証言なんざアテになるかい。 3本の指が…だってぇ? カーナがそう言ったって? ヒャッハァ! これぁいいや! おう、三つ指。てめぇいつの間に?(にか) ……ああ、そう。そうだよなぁ。おめぇはずぅっとオレと一緒に居た。“壁のない家”に行く前も、行った後も、そして今も。 命拾いしたなぁ? んん? オレと一緒だったってぇのがなきゃ、おめぇは今頃残りの指も全部なくしてたとこだぁ。
指のねぇヤツが組織側にもいるか…それとも、カーナがヤク切れで見たのが幻覚か。じゃなきゃ……そう、指がないように偽装するか…だな。指の関節をはずして皮手袋ん中に押し込めりゃ、ぱっと見た目にゃわかんねぇ。物乞いに化ける“鼠”どもがよぉく使う手だ。 んじゃあ、なんでそいつらは三本指に見せる必要があったか、だ。
はっはぁん、読めてきたぜぇ? ヤツらぁ、こっちの布陣を知ってやがる。 “絡繰り”リッチィや“路傍の”ガフが向こう岸をうろついてたんだ。布陣を読まれてても仕方ねぇやな。 そして、それを利用して、こっちの仲間割れを誘ってやがんのか。 ……そうだな。灰色の奴らが増えてきて…そんでもって、灰色を使わずに済ませようと思ったら、布陣の組み直しになる。新たに手勢加えたって、そいつがそれを呑み込むまでの時間のロス。……イヤな手ぇ使ってきやがるぜ。向こうさんもよ。へっ。
…よっしゃ! 繊細で神経質なオレ様だけどよ。今回はンなこと言ってらんねぇみてぇだ。 今回に限り。そう、今回に限り、だ。灰色だって構いやしねぇ。トーマス・ブギーマンの首根っこ押さえてくれるヤツなら、真っ黒じゃねぇ限り構いやしねえさ! だから、あんたもだよ、医者センセイ?(にっ) そのミニアスってぇ女。モールドレは指先にちょいとついただけだろ? そのっくらいじゃせいぜいが拒絶反応だ。中毒になんぞなる量じゃねえ。1〜2日ありゃ動けるはずだな? 支障がなくなりゃ、そこの“雑用”に話聞かせる。協力してくれや。もちろん、あんたを見張る“雑用”…っと、あんたぁ“助手”って呼んでたっけか(笑) そいつぁ、まだあんたにくっついてるぜぇ。忘れんなよ。
そしてまぁ…次から次へと、よくもまぁ(うんざりげに) 「あのデカブツが消えただぁ? ふざけんじゃねぇ。いいか、人間は普通、消えたりなんざぁしねえんだよ。逃げられたんはてめえの不手際だろうが! 海の底で石抱かされたくなきゃとっとと探し出しやがれっっ!!」 イエメンを追うのに何人か、“壁のない家”と“錆びた黄金”の跡地にも何人か。そんでもって、この医者センセイんちにも何人か。 ……ちぃ。どんどん人手が足りなくなりやがる。とりあえず…マーファ神殿に行ってみるか。イエメンがどう逃げ出したかってのを聞いといても悪くねえだろ。
んでもって、神殿に行きゃ、妙な男(バリオネス)がお出迎え…とくらぁ。……おい、オランの盗賊ギルドは間抜け揃いか? なんで、こんなうさんくせぇ男に好きなようにやらせてんだよ。っていうか、誰だてめぇ。 「リッフィルと名乗っておこう。カーナの知り合いでね。……全部とは言わないが、カーナやエルメスに聞いた範囲内で麻薬のことは知っている。あんたが今回の事件の責任者だと聞いた。カーナの居所がわかるなら教えて欲しい」
………おい、なんだこの横柄な男は。ああ? 魔術師ぃ? ンだ、てめぇ知り合いかい。>そこらに居た盗賊 参ったね、こりゃ。……あんたも真っ白たぁ言えねえやな。灰色だ。なんせ、魔術師! そう、魔術師だ。 オレらが追ってるヤツらと同業だってんだから……まぁ、真っ黒でさえなきゃどうでもいいと腹ぁくくったばっかだしな。これ以上悪いこともそうそうねえだろ。 教えてやるよ。カーナは、トレルってぇ医者の治療院にいる。行きたきゃ行きな。あそこの医者センセイと一緒にあんたも見張れるってぇんなら、人手不足の解消にはならぁな。 ただし。行く前に、あんたの知ってることは洗いざらい吐いてもらおうか。 |
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| それが俺の仕事だから |
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| 甘味屋 [ 2002/06/10 2:23:41 ] |
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| | (足元の黒猫をひょいと抱き上げ) …おっとと。何だ。リュミエじゃねえか。 トーマス? 今は覗いていないのかい? ……ああ、あんたぁ今は別のモンに夢中だっけな。くくっ(笑)
まったく…イエメン坊を探してるはずなのに、トーマスの使い魔を先に見つけっちまうとはね。 トーマスも、接続とやらをしたままなら、好きに呼び戻せるだろうに。 まぁいい。猫を抱いて街をうろつくってのもいいカモフラージュになるかもな。
さぁて…イエメン坊は…何をやってるんだか。 だから俺は麻薬中毒者なんてのはあまり好きじゃないんだ。 こんなこと言うと、トーマスやガデュリンは怒ったけどね。 ガデュリン…あんたは、麻薬で愛を得ようとした。心を癒そうとした。 それを止めたはずのトーマスも……結局使った手段は麻薬だ。 どうしてなんだろうな。麻薬は人に夢を見せる。黄金色に縁取られた夢を。なのに、その黄金は…きっと錆び付いちまってる。
所詮まやかしなのに…どうして、誰も彼も…麻薬にすがるんだ。 なぁ。リュミエ?(笑) くくっ(笑) あんたのご主人も面白い。濡れた闇のような黒猫に“光”なんて名前を付けるんだから。 トーマスが見ていた光はいつも黄金の色だった。多分それはガデュリンが探し求めていた黄金と同じ色だ。 俺には、あの人たちの見てるモンなんかわかんねえな。 トーマスもガデュリンも…そして、死んだジェイコブも。少なくとも3人は同じ黄金を夢見ている。…いや、見ていた、というべきか。 生き残ってるのはトーマスだけだ。
子供の頃にね、と。……トーマスがそう笑ったことがある。けど、それきりだった。何も話さなかった。 なぁ。トーマス。ガデュリン。……ジェイコブでもいい。いつか教えてくれよ。あんたたちが見ていた黄金をさ。 俺が考えたって答えなんか出やしない。答えを知ってるのは、今やトーマスだけなんだから。 いや…違う、そうだ。イエメン。あの坊主がガデュリンからそれを受け取った。……なのに、イエメン坊の頭の中はモールドレで赤く染まってる。 染めたのは…ガデュリンとトーマスだ。 俺は…そうだな。俺もそれを手伝った。自分では麻薬をやらないくせに、俺は売人なんだから。トーマスの片腕なんだから。 俺の女だって、目玉をくりぬいて宝石をはめ込む時には、麻薬をたっぷり使った。けど、俺は使わない。俺の仕事は使うことじゃなくて売ることなんだから。
その時、俺は猫を撫でながらそんなことを考えていた。 だから、気が付かなかった。猫を追いかけていた草原妖精たちが、俺の後ろにぴったりくっついていることを。 もう1つ別のことには、すぐに気が付いた。手下からの情報通りだったからだし、それはとても目立つことだったから。
……イエメン坊。そんなに息を切らして、どうしたんだい?(笑) おいで。イエメン。トーマスのところに連れていってやるよ。おまえのパパのところにね。 心配しなくてもいい。モールドレが欲しいなら、今すぐにでもあげるよ。それが俺の仕事だから。 大丈夫。俺のポケットにはいつだって、トマトの粉は入っているさ。 |
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| やり直せないから |
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| イエメン [ 2002/06/10 14:55:44 ] |
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| | ずいぶん前に意識は戻っていたが、まだ混濁しているふりをして寝転んだまま、神殿の部屋から逃げ出せる隙をうかがっていた。でも、なかなか機会がない。 なぜなら、カーナさんをさらったあの野郎が、向こうの壁にもたれ、じっとこちらを監視してるからだ。ただの強盗じゃなくて、モールドレを売ってる奴らか、盗賊ギルドの一員なんだろう。厄介なことになった。 それにしても、野郎、眠りもしないで、ずっとこっちを見張ってやがる…。 しばらくして、ハッと気付いた。閉じた両瞼の上に目が描かれている。 寝台から出て距離を詰めると、かすかに寝息が聞こえ出す。 まさか、ずっとこうしてやがったんじゃねえだろうな……。
忌々しい奴。 こいつのせいでカーナさんを連れて行かれて──。 野郎の首元に手を伸ばしたが、ぐっと押し止める。仕返ししてやりたいが、より安全に逃げ出すためには、このままやり過ごすのがいいだろう。 なんだか、初めて物心ついた時みたいに、頭が冷静で仕方なかった。色んなことを受け容れられる。
外に出ると、昼間だというのに、空が随分薄暗い。 ふと気付いて、肩に引っ掛けていた毛布と、下着をめくって、肩口の肌を見る。 小さく薄暗い斑点が現れている。だ、大丈夫だって聞いてたのに、なんで今になって出て来るんだよ。こんな時んなって。
カーナさんに…会いたい。どこにいるんだ。 今のおれは、トマト、モールドレを、あまり欲しいと思わなくなっていた。 確か、ガデリュンのパパを何度も尋ねて来ていた、あの女の人も同じような事を言いだしたっけ…。 「本当の愛情を知らなかったからこその、美味だった…済まない…アデン」 パパのそんな声を聞いたのは、それが最初で最後だった。
ハハァ、今さら、どうすればいいかなんて、わかんねえなあ。だって…カーナさんは薬を欲しがっているはずだ。もうそれを持っていかないと、おれとは口も聞いてもらえないだろう。今さら全てやり直すなんて、思いもよらねえ。 だ、だから、やっぱりトマトは要んだよう。あれがねえと!
小雨が振りだした。 路地の向こうから、黒猫を抱いた親父が現れる。 にやりと歯茎を見せて笑うと、おれの名を呼んだ。
トマトをくれ……。 ああ…トーマスの所へ行けばいいんだな、”甘味屋”。 なんでもするよ、おれに協力できることなら。 |
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| おじさんの家に行こうね |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/10 15:18:31 ] |
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| | そんなに嫌がるものじゃない、誰でも通る道さ。楽しいことだよ。 君のパパもママも、眠ってしまって、君のお出かけには気付かないさ。 怒られないんだから、構わないだろう? 楽しいよ。 しかし、本当にカナリアのように小さくて、可愛い。私の影の中にすっぽり収まってしまうね。この髪も綺麗だ、黄金と呼んで差し支えないじゃないか。 早くその羽根を切って、本当の愛を教えて上げたいな。
ガデュリンもさ…この子があのまま、あそこにいれば、イエメンより興味を示したろうにな、くつくつ。アデンが逃がしてしまった小鳥を、今、この私が独り占めできるというわけだ。奴もあの世で悔しがるだろうよ。
さあ、手を繋いで、こっちにおいで。毛深いはないだろう…おじさんは怒ってしまうよ。済んだ後にまた、このお家に帰りたいなら、大人しくしているがいいよ。ぐつくつ。 |
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| ハッタリ |
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| バリオネス [ 2002/06/11 7:28:49 ] |
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| | 頭の中にけたたましい声が鳴り響いている。 使い魔が頭の中に直接呼びかけ、イエメンが逃げたと騒いでいる。 馬鹿な、見張りは私だけではないのに・・・トイレ?<知り合いの盗賊 幸い使い魔がイエメンの逃走を察知し、現在尾行中なので問題ない。 私がイエメンの後を追おうとしたとき、ギルド側の人間が訪ねてきた。
”手長”はこの事件にかんすることを話してくれた。 私にも情報を提供するようにと言われたので、ミニアスが関わっているかも知れないと言うことはふせ、ここに至るまでのけいいを手短に話す。 オランの地図を広げ、イエメンの行方をリアルタイムで示してやる。 カーナが治療院に居るなら、そっちは後回しでもいい。 私が今やらなければいけないことはイエメンの捕獲。 私の最終目的は、カーナとイエメンを更生させること。と”手長”に宣言をする。
魔法の中に嘘を見破る魔法があることはご存じだろう。 私は魔術師だからその魔法が使える。(大嘘) そこの彼が黒か白か判断してやろう。 私はセンス・ライの詠唱をする。 もちろんかかるわけないが、同じ動作をすれば私の実力を知っている者以外はダマされるであろう。 全ての質問に『はい』で答えるように指示して、”三つ指”にカーナに口紅を渡したのはお前かと聞いた。 そして”手長”にカーナに口紅を渡したのはコイツだ、と告げ、おもちゃのナイフを渡す。 少し離れたところから見れば本物に見えるが、持つと異様に軽く中でタプタプ言っている感触がある。 刃の部分を押さえると血のりが出てくるおもちゃである。 私は”手長”に微笑みかけた。(ニヤリ) |
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| 路地裏の猫とじぃさんと |
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| クォーツ [ 2002/06/11 19:29:43 ] |
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| | 巣穴のおやじに会えって言われた相手は”手長”だ。しかも、こんな言葉が付いてやがった。 「多分マーファ神殿だと思うが」 多分?…そりゃ、”手長”は最近あるヤマを追ってて、今そのシメに入ってるらしいしな。場所が特定できねぇのは仕方ねぇよ。 っつか、そのヤマに関わりあるかもしれねぇって事かよ…?冗談じゃねぇぜ。 そう毒づきたいのを押さえて、俺は取りあえずマーファ神殿に向かう事にした。
神殿に着いてみると、予想通り、っつか”手長”は居なかった。代わりに巣穴の奴――確かエルウッド、だっけか…に会った。この間の”火事”で部下を死なせた、とか噂になってたのを覚えてる。 少し考えて、似顔絵を見せる。此処で会った以上、”手長”と無関係じゃねぇだろ。
…その時まで、俺は”手長”が何の事件に関わってるか知らなかった。っつか、”手長”があるヤマを追ってるのも知ってたし、今オランで厄介なネタがある、ってのも知ってた。けど、”手長”のヤマがそれだとは知らなかった。 …ついでに言うなら、出来るならそのネタには関わりたくねぇと思ってたんだけどな…。 理由?厄介だって分かってる事にわざわざ首突っ込む程、好奇心が余ってる訳でもねぇし。正義感とか、んな言葉で動ける性格じゃねぇ、ってのは自分でもよく分かってる。
"トーマス…ブギーマン?!"似顔絵を見たエルウッドの口がそう動いたのを見た。 トーマス?…何処かで聞いた名だ。トーマス…の、トマト…?うわ、巣穴が今潰そうとしてる麻薬ルートの、それに関わるネタじゃねぇか…?まさか。”手長”が追ってたのって、そのネタだったのかよ!? …いや、そうじゃねぇ。問題は、俺が会った奴がその重要な相手さんかもしれねぇっつー事だ。何せ、名前一緒だしな…。 案の定、エルウッドは聞いてきやがった。いつものあの笑いを浮かべたままで。 「それで、彼の居場所は押さえているんでしょうね」 …あのなぁ、俺はこのじぃさんが何者か、それが聞きたかっただけなんだぜ? 「何者か?そんな疑問を持つということは、疑わしいことがあったからでしょう?…ハハッ!これは傑作ですね。そこまで怪しい人物をみすみす見逃すなんて!」 …悪かったな。せいぜいが裏通りに店構えてるヤブ医者だと思ったんだよ。
…そういや、いったんはそれで片づけた筈だ。何か引っかかったんは確かだ。けど、ここまで突っ込んでみようとは…。 …何だっけな…あー、そういやあれか。 あの日、嬢ちゃんの買い物に付き合った帰り。夕刻の路地裏で、猫を見たんだ。 煤みたいに真っ黒な猫だった。その中で、そいつの目だけが鮮やかな色を持ってやがった。 金、つまり黄金の色…。 そいつは俺を見て、鳴かずに――嗤った気がした。 馬鹿みたいな錯覚。猫が笑う訳ねぇ。もし笑うとしても、俺は草原妖精でもねぇから、分かる筈もねぇし。 …んな事を思った。けど、ふと。…本当にふと、じぃさんの嗤いを思い出して…いつの間にかそれが頭の隅から抜けなくなってやがった。 だから、か。 …理由にもなんねぇし、言い訳にしても馬鹿みてぇだから、その事は言わねぇで、他の、じぃさんが言ってた事だけ伝えた。 ついでに、じぃさんがくれた薬も。
で、どーするよ?じぃさん――トーマスの話信じるならもう時間がねぇ。 今頃、脱出に備えて足跡消してっか…祭りのシメの準備でもしてるかもな。 祭り?あー、いやなんとなく。祭りの後には派手に噴水が上がったりするんだったよな、って。別に深い意味はねぇよ、ただ思い出しただけだって…それに、じぃさんが魔術師ってんなら、案外派手好きかもしれねぇだろ。 …何だ、んな顔して? |
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| 琥珀の行方 |
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| 甘味屋 [ 2002/06/12 0:28:24 ] |
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| | イエメン坊…ああ、そうだな。トマトならやるよ。 ただし、まだ「ジュース」になっちゃいない。炙ってないからね。 火で炙って溶かしたほうが、甘くて美味しいのはわかるけど、ほら、粉のままのほうが保管も運搬も…。 ああ、そうだね。おまえには関係ないことだった。わかってる。やるよ、ほら。トマトだ。
イエメンは、受け取ったトマトの袋からひとつまみとりだして、それを鼻で深く吸い込んだ。 荒かった呼吸が少しだけ落ち着く。
………坊? おまえ、その首の痣はどうした? その…黒い痣は。 …そう…か、ああ…………そうだな。そういうこともあるな。 わかったよ。トーマスに会え。 そら、リュミエを抱かせてやる。あったかいだろ? 猫の毛は触っていると気持ちがいいだろ? そう。その黒猫がおまえをトーマスのところまで導いてくれるから。 道に迷ったら、リュミエの金色の瞳に聞いてみろ。きっとリュミエは答えてくれる。
そうだな、俺はもう少ししてから戻るよ。 おまえを探すためにばらまいた手下たちを回収しなくちゃならない。 カーナに口紅を渡させた男も。マーファ神殿の盗賊たちを見張らせていた男も。 他にもたくさんいる。みんなみんな回収しなくちゃ。もちろん、連絡が半日途切れればアジトに戻るようには言い含めてあるけれどね。 イエメン。おまえがカーナを気に入っているなら、手下どもに言って、カーナも回収させようか?
そう言えば…“琥珀”は。 俺が、濁って役に立たなくなった目玉の代わりに綺麗な琥珀を埋め込んでやったあいつは…もう逃げただろうか。 俺について来る気があるなら、一緒にオランをぬけるから、待ち合わせ場所に来いと言った。 そうじゃないなら、クスリをやめる覚悟で俺から逃げろと言った。 ……どっちに行ったかな。用事を済ませて待ち合わせ場所に行けば、あいつが待っててくれるだろうか。 俺は……待ってて欲しいんだろうか。
イエメン坊と別れた直後に、初めて俺は気が付いた。 俺の気配を窺ってる小さな影の存在に。 |
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| マーファ神殿にて |
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| エルウッド [ 2002/06/12 2:51:59 ] |
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| | イエメンがどうして誰にも見咎められることなく逃げることができたのか分かりました。 怪しいところがなかったからです。 中毒者のように麻薬を求めることも、禁断症状により暴れることもなく・・・、 ただ、静かに堂々と出て行った。だから誰も咎めることなく出て行けたようです。
さて、”手長”の旦那はイエメンの元へ行ってしまいましたが・・・、 そのご自分の服を染めた血糊は洗って落ちるのですか、魔術師殿・・・リッフィル殿でしたかな? せっかくの一張羅が台無しですね。着替えてきてはどうですか?
・・・ただでさえ虫の居所の悪いあの人に、意味のない遊びなどを持ちかけるからだ。 いや、意味のないこともない、か。時間があるのであれば。 だが今はイエメンの居場所が知れた。そちらの事の方が重要・・・。
トーマス・ブギーマン
と言っても、私の記憶にある顔は”錆びた黄金”と共に灰になった、影の男のもの。 今、我々が追っているトーマス・ブギーマンのものではないはずだ。
”手長”の旦那を訪ねてきた男、クォーツと名乗った男が持ってきたのは、 その私の記憶とほとんど違わない男の顔の絵・・・。
ハハッハハハッ!
そうだ! ”錆びた黄金”にいたあの男はトーマス・ブギーマンの正確な影だったのだ! そして影が灰になった今も、この顔を持つ男が生きているという! この男こそが、本物のトーマス・ブギーマン!
クォーツと言いましたか? 気になるというのなら、あなたの好奇心の赴く方へ行けばいい。 この絵の男に関わりの深いイエメンという男がいます。 ”手長”の旦那を追って、その男の元へ行きますか? それとも・・・直接、この絵の男に会いに行きますか? |
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| 盗賊ギルド |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/12 2:53:08 ] |
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| | 確かに…向こうが打ってきたのぁ、ケチな策だ。あの魔術師のやろうとした小細工もだけどな。 こっちに裏切り者の可能性をちらつかせたところで、稼げるのは細けぇ時間だ。 本気で混乱させようと思うなら、オレをどうにかするか、オレの上にいるヤツをどうにかするほうが早ぇわな。 なのに。この通りだ。オレは無事。オレの上の旦那も無事。三つ指程度の下っ端が5人や6人入れ替わったところで、せいぜいが学のねぇオレにも数えられる程度の時間だぁな。
じゃあ何故、そんな「細けぇ時間」が欲しいか。答えは知れてらぁ。向こうさんは畳みにかかってんだ。 “壁のない家”の引き払いかた、“錆びた黄金”のぶち壊しかた。見りゃわかる。 モールドレの全てを畳んでオランを引き払う、それをすれっすれのタイミングでやろうとしてるから、細けぇ時間が必要なんだ。 向こうが畳みたくて細けぇ時間を稼ぐなら、畳ませて…いや、畳んでやるさ。ただし時間は与えねぇ。あいつらを畳むのはオレらだ。
……それにしてもあの魔術師…リッフィルとか名乗ったか。わかんねぇ男だな。 あいつぁ、カーナとかいう小娘が大事だったんじゃねえのかい。 あの小娘も、うちのギルドの一員だ。それを大事に思ってると…そう思ったからこそ、オレぁあいつを地下牢に入れなかった。 ギルドの一員じゃねえヤツが、誰の紹介もナシにギルドん中うろつきまわりゃ、牢に招待されても不思議はねえのに、だ。 なのに…なんであいつぁイエメンを気にする。
(肩すくめ)…ま、イエメンってぇデカブツは殺すつもりはねえがな。リッフィルってぇ野郎に言われるまでもねぇ。 ヤツにゃいろいろと聞きてぇことがある。……組織の上と接触があるかと思って今まで泳がしといたがな。
(周りの盗賊たちに)おう。いつまで薄汚ぇツラぁ並べてやがる。とっとと出かけるぞ。リッフィルってぇ野郎は気にくわねえが、ヤツの使い魔でイエメンの居所は知れたんだ。利用してやるさ。 ……てめぇらは、ギルドに属してる。それがどういうことだかわかってんだろぉ? 脅しなんかじゃねえさ。抜けてぇなら勝手に抜けな。裏切りてぇなら裏切っても構わねぇ。 何も知らねぇ下っ端なら、抜けさせてやらぁ。 ただし、裏切りは許さねぇ。どんな下っ端だろうとどんな幹部だろうと、裏切ったヤツの行き先は水の底だ。死んだほうがマシだってぇ目に遭わせてから、その望みを叶えてやる。それがギルドのやり方だ。それでも賭けに出たいなら…チップは命だ。勝手に賭けな。 それを厳しいと思うなら今のうちに抜けろよ。そうまでして守らなきゃならねぇモンを背負ってんだってのがわかんねぇヤツはな!
見張ってるなか、のこのこと脱走される。聞き込みすりゃぁ肝心なコトは隠される。あげくが仲間うちから裏切り者だ。 これ以上、てめぇら自身が属してる組織をコケにされたくなきゃ、とっとと走れ! ……ああ、もうひとつ、言っとくぜ。次に誰かが裏切ったら……オレが直々に躾てやらぁ。忘れんな。 |
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| いつものことだけど面倒な仕事ね |
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| “風上の”ネイ [ 2002/06/12 4:12:17 ] |
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| | ……正直、オランのギルドを舐めてかかっていたわ。屋根へと消える男の影を見ながら、冷や汗と共に私はそれを痛感させられた。 ただの道案内役だと思っていた男は、ギルドの正規メンバーだった。あれでは『部下が見張っている』という私のハッタリも通用していないかもしれない。 でも、確かに危ない橋を知らずに渡っていたわけだけど、逆にこれで良かったかもしれない。私は、あの男に偽の情報を流すように頼み、奴は金を受け取った。ただの路上生活者なら、約束を反故する可能性も充分考えられたが、あの男が正規メンバーだというのなら、これは一つの契約。偽情報は、クレンツ男爵の元へ流されると思っていいでしょう。これで、クレンツ男爵の動きを牽制できるわ。あとで大柄の冒険者を見つけて、『カゾフへ急ぎの手紙を届けてくれ』とか適当な仕事をでっち上げて、朝一番で南に旅立ってもらわないとね。もちろん、馬車で。 クレンツ男爵がこの餌に飛びついてくれれば、ブーレイの仕事も少しはやりやすくなるでしょう。
白蝋の館の主人、ヘクターとの情報交換も、予想以上に上手くいったわ。クレンツ男爵の秘書が先に訪れていたようだったから、口止めされて情報交換には応じないかもと思っていたけど、ヘクターの生き別れの弟の情報は効果絶大だったようね。すんなりと私の欲しい情報を教えてくれたわ。ヘクターの弟の情報を提供してくれた“三文”フィドラーには、あとで改めてお礼をしに行くとしましょう。あと、フィドラーの居場所を教えてくれた“猿(ましら)”にも、ね。
『煮詰まったなら、金の流れと女を追えばいい。どんなに自然に振る舞っていようと、この二つを追えば、かならず不自然な所が見つかるはずです』。そう私に語ったのは、誰よりも『自然さ』を心がけている“路傍の”ガフだった。 そう。私がヘクターに求めた情報。それはオランに住む貴族達の金の流れだった。ヘクターは、その商売がら、貴族達の金の流れを詳細に掴んでおり、それを資料としてまとめていたのだ。 私はクレンツ男爵のここ1年の金の流れを調べてみた。クレンツ男爵は慈善事業として、孤児院や幾つかの施設に定期的な寄付を行っている。それ自体は、別に珍しいことではない。どこの貴族でも、イメージアップをはかるため、多かれ少なかれやっていることですもの。でも、クレンツ男爵の場合、明らかに不自然な金の流れがあった。まさしく、ガフの言うとおりだった。真夜中の海に潜った代償に、私は得難い人材を得ることができたようね。
オランとレックスを直線的に結ぶ街道がある。街道と言っても、ちゃんと舗装されているわけではないし、普通、オランからレックスに向かうときは、一度パダに立ち寄るものだ。よほどのことがない限り、オランから直接レックスに向かうような者はいないわ。そのため、この街道はほとんど使われることはなく、地図にも載っていない。 だけど、こんな寂れた街道沿いにも、ちょうどオランとレックスの中間あたりに、小さな宿場町が存在していた。宿屋と酒場がそれぞれ一件ずつと、幾つかの家が建っている程度の、町と呼ぶのもはばかれるような所だ。 クレンツ男爵は、この宿場町に多大な寄付をしていたわ。『この街道を使う者は少ないとはいえ、皆無ではない。そう言った少数の者達にこそ目を向け、援助していくことが大事なのだ』という理由で。まぁ、間違った意見ではないわね。でも、辺境の村なら丸ごと買えそうなほどの額を、数度に渡って寄付するのは、あきらかに不自然だわ。 ついでに言うと、この宿場町に寄付をしている貴族は他にもいた。アインゼル子爵、ヴェラード子爵、フェニール男爵……どれも今年になってから、メキメキと力を付けてきている貴族達だ。 クレンツ男爵も含め、これらの貴族がこの街に寄付をし始めたのは、ほぼ同時期。そのすぐ直後……例の麻薬の中毒患者がオランの街に現れ始め、そして、それに比例するかのように、寄付をしていた貴族達が力を付け始めた。 もう、間違いないだろう。その宿場町こそが、麻薬組織の根城であり、おそらく、麻薬の精製工場でもあるはずだ。
仮にこの街を潰せたとしても、貴族との繋がりは掴めないかも知れない。でも、それは私の知ったことではないわ。私がブーレイから頼まれた仕事は麻薬組織の情報を“手長”という盗賊に伝えることだもの。 敵の黒幕が最後に駆け込むとしたらここでしょうし、どっちにせよ組織を完全に潰す気なら精製工場は絶対に押さえる必要があるものね。遅かれ早かれ“手長”には必要になってくる情報のはず。これさえ届ければ、これで私はブーレイから押しつけられたやっかいな仕事を終わらすことができる。 ……そういえば、カーナという若い盗賊の友人達にも教えてやれって言ってたわね。連中は、中毒患者にされたカーナの仕返しをしたいはずだからって。……まったく、いつからこんなお節介になったのかしら、あいつは。
とりあえず、ギルドの方に顔を出してみましょうか。“手長”がいれば良し。いなくても、カーナの友人の盗賊が見つかるかもしれないしね。 |
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| Wake Up Hurry!! |
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| トレル [ 2002/06/12 21:48:38 ] |
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| | 「うぉ〜い。“ドク”? 生きてる?」 能天気な声が眠りを妨げる。・・・・・・“薬師”か? もう少し寝かせろ。 「ねぇ、早く起きないと終っちゃうよ?」 ・・・終る? 何がだ?? 「ったく! ドゥーバがイエメンを追ってる。巻き込んだドクター・トーマス、ぶん殴るんでしょ?」 ああ・・・ 「モールドレ持って来ないと患者助けられないでしょうが!」 患者・・・・急速に目が覚める。そうだ、行かなくては・・・ 目を開けるとベッドの前に“薬師”が面白そうな顔をして見つめている。 「“ドク”ってば患者って言うと起きるんだねぇ」 放っておけ(苦笑) それで、場所は・・・
装備を整え、治療院を飛び出す。調子は・・・悪くない。 |
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| そういえば知らないなぁ・・・ |
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| ミニアス [ 2002/06/12 22:34:28 ] |
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| | 頭痛い。吐き気はさっき大量に吐いたら、どっかいった。寒気がちょっとだけれど、まあ問題ない。
だもんでか、お医者サマ付きのギルドの人間が色々と状況を教えてくれた。 まあ、これは風邪じゃなくて麻薬の拒否反応なのね(悲) じゃあまあ、こっちが知っている事も話さなきゃ・・・ってあんまりないけれどさ。 『トーマス・ブギーマン』は、闇神官だっていう噂があったんだ。 最初は不思議だったが調べていくうちに、それっぽいと感じるようになったんだ。なぜって・・・性格と言うか、行動に裏と表があると、はっきりと感じたからだよ。 まあ、尾行は簡単だったよ。魔法使いで、ネコがいるってわかってからだけれど。 隠れ家?私が知っている範囲だと・・・(場所を羊皮紙に簡単に書く)・・・の、4つかな。あ、郊外にも1つあった(隅っこに書く)
(聞かれて)へ?あ。いや、その闇神官ってのはガセネタだったんだよ。
たしかこの場所の時かな?(一カ所を指さして) 『トーマス・ブギーマン』ともう一人が話して、別れた後だった。 もう一人の方が誰なのか気になって付けて行ったんだ。その途中で一人の男に会っていたんだ。 ・・・三つの指だったから、よく覚えている。ギルドの関係者と手を結んでいるようならば、これは確認した方がいいと思ってさ。 案の定、これがガセネタだって事が判明したんだ。
その三つ指の名前? そこまで気は回らなかったよ。ガセネタ掴まされていた事の方がショックだったし。 ただ、右手の指が3本だったってのは、目印になる?
あのさ、一つ聞いていい?いや、難しい事じゃないと思うよ。簡単な事だよ。 ・・・・・・・私が倒れていたそばに、同じように倒れていた大男はどうなったか、知っている? いなかったって・・・・いや、相手の名前とか聞かれても困るんだけれど。 大男は『カーナ』とか『エルメス』とか言っていたくらいかな。
あ?カーナがいるの?ふ〜ん。(内心:じゃあ後で様子だけ見てこよう) |
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| 予想外の出会い |
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| クォーツ [ 2002/06/14 0:18:46 ] |
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| | 好きなように、っつわれてもなぁ…(頭をかいて)じぃさんとこ行きたいんは山々なんだけど、闇雲に歩き回って見つかるようなトコなら、今頃アンタらも苦労してねぇだろ。 …確実な線は、そのイエメンっつーのか?を追う事、だろうな、やっぱ。 俺も”手長”と同じ道を辿ってみるよ。囲むのに、人手は多すぎるってことはねぇだろうし。
不自然じゃねぇ位に急ぎながら、状況を整理してみる。…つっても、俺が知ってる事は本当に少ねぇんだけど。 ふと、思考がずれる。 …医者は好きじゃねぇ――どっちかっつと、嫌いと言えるかもしれねぇ。あいつを助けられなかった医者は…。 それでも、「医者」ってもんには誰でも安心して診てもらえる、そういうトコであって欲しいと…そう思う。実際、我が儘かもしれねぇけど。 それをあのじぃさんは…トーマスは医者と名乗りやがった。(PL注:PCの勘違いです) 医者を騙ってヤバい麻薬を渡すような奴は、オランから出しやしねぇ。押さえねぇと…絶対。
んな事を考えながら急いでたせいなのか、いけねぇ(汗)ちょいと道間違っちまったみたいだな…一本手前で曲がったか…? 裏路地、と言える位の狭い道。ちょうど一本向こうに出る枝道があったから、そっからあっちを覗く。…誰もいねぇ、か。 … …少しそれを進んだ所で、広くなった視界の端に人影が見えた。小柄なその影の、頭に付いた羽根飾りに見覚えがあった。”鶺鴒”の二つ名を持つ嬢ちゃん、か? ピルカもイエメンを追ってるんだろうか。っつーことは追いついた、かな。そう思って声掛けようとして…なんか雰囲気が緊迫してる事に気付いた。 …こっちからはまだ見えねぇけど、嬢ちゃんの視線の先…誰かヤバい奴がいるのか…? |
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| せつなさ |
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| イエメン [ 2002/06/14 0:27:02 ] |
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| | あのとき目の前に差し出された、透明なグラスと白い指。それが恋のはじまりだった。 思えば彼女に会うまでは、自分の記憶に蓋をして、絡繰りの奴の持ってくるトマトを囓りながら、毎日抜け殻のままで生きていた。ドゥーバの野郎に、過去に対する恐れを重ねてみたり、要するにおれはいかれてた。 ガデュリンのパパのことだって、最初は裏切られたという気分ばかり、想い出すのも辛かった。 後には楽しい記憶も掘り出されたけど、それもみんな、彼女の仕事というべきだ。彼女が前を向かせてくれた。 な、なぜ、あの最初の晩に、おれはトマトを使ってしまったんだろうなあ。勇気を備えてなかったおれ。椅子に縛られて身体が身動きできないまま、後悔ばかり頭を巡る……。
カーナさんを連れてきてくれ……。 生命の精霊が一度消えかけたせいか、今おれの身体は、メッキが剥がれたみたいになってる。揺り戻しが現れてんだ。あの時パパが施した治療も、結局はお、追っつかなかったってことだな。……ハハッ。 トーマス、カーナさんを連れてきてくれ。それが望みだ。そうしてくれたらおれの知っていること、全部話す。 |
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| 予定通り |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/14 0:40:59 ] |
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| | ふむ……。クレンツ卿の部下たちめ、大挙して警備まで、ご苦労なことだな。必要ないというのに。 この廃屋の周りには、迷い犬ぐらいしか通らぬよ。 まあ、私の身に何かあれば、モールドレの作り方も、実際に製造を行う設備と人員……あの宿場町も、約束したようには手に入らぬから、心配なのだろうな。他の貴族達を出し抜ける美味しい話、潰されたくないだろうさ。まあ、首尾良くいっても、暫くオランでの売買は難しくなるであろうし、これから他の貴族達との麻薬を巡って、丁々発止のやり取りは避けられないだろうから、その辺りも覚悟しておくべきだろうな。 まあ、我々にとっては。ちゃんと亡命させてくれれば、その後のことは興味ないことだがね。
イエメンめ、やはり”黄金”を知っているようだ。トマトを捨てた甲斐もあったわ。しぶといが、要求さえ満たせば喋るだろう。警戒も必要ないようだ、扱いやすくなっていて驚いた。今になって愛情が届いたのだろうか、それとも死期を悟ったのだろうか…。シトロフォリアを投入したが…まあ、私はガデュリンの技術を知らない。結果は神のみぞ知るだな。 カーナという女は、今はロックフィールドという治療院にいる。すでに人手を寄越しているし、連絡がつき次第”のっぺら坊”も向かったはずだ。奴の魔術をもってすれば、身柄をさらうのもたやすいだろう。あいつめ、まだ盗賊ギルドに潜入したままか…それとも、最近抜けてきたのだったかな?
さて、カナリアだが、やはりトマトを使うことするか。くつくつ、この細身ではきつそうだが。 極上のラリータに仕上げて、愛の世界を垣間見させてくれる。 |
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| 心と原動力 |
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| バリオネス [ 2002/06/14 2:21:36 ] |
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| | ”手長”に殴られて、ようやく自分の策が駄作であることに気がついた。 時間があろうと無かろうと、この策はばくち以外の何物でもない。 そんな物を策と言えようか。いや、言えない。
冷静になれ。
いままで常に後手に回り続けている、それが度重なる失態の原因。 ここで私がカーナの元に行ってもおそらくは無駄。 二度あることは三度あると言う言葉どおり、再びカーナは逃げだすであろう。 ならばこのままイエメンを追うのが得策。 二兎追う者は一兎も得ず、ならば一石二鳥を狙うのみ。
私が考え事をしてると”手長”は部下を連れてでていった。 そして、エルウッドがとぼけた質問をしてくる。 着替えがないから一張羅なんだろ。 顔に付いた血糊だけとれれば、私の服は黒っぽいから目立たないよ。 そう言えばこの血糊、モールドレの色に似てると思わないか? 私の質問も十分とぼけた物だ。思わず笑みがこぼれる。 何かの役に立つかも知れないから、詰め替えずにしまっておこう。
私はイエメンを追うことに決め、使い魔の視線を接続する。 イエメンにネコを渡した男(甘味屋)と目があった。 気づかれたかも知れないが、まあ仕方ない。 使い魔のカラスに、警戒しつつイエメンを追うように命令し、私は走って現場に向かった。 走っている間、私は今回の事を振り返ってみた。
カーナを助けるつもりで踏み込んだはずが、イエメンと幸せそうに戯れるカーナをみて困惑した。 王子様気取りでいたのが実はうぬぼれで、やっていることは悪の魔王そのもの。 カーナの心を射止めたのは、私ではなくイエメンだった。 そしてカーナは麻薬におぼれながらイエメンを愛している・・・。 麻薬に手を出し誇りを失ったカーナを、冒険者として軽蔑する自分と、カーナを愛する者として、彼女に幸せになって欲しいと願う自分。 愛するが故に自らは手を引き、二人には幸せになってもらいたい。それと同時に、厄介者は厄介者同士くっつけて、やっかい払いをしてしまおうという気持ち。 相反する気持ちが複雑に絡み合って、今の私が形成されている。それはもはや自分でも理解不能な領域に達している。 今の私を突き動かしているもの、それは”鉄拳愛”からの依頼。 『二人を更生させるから連れてこい。』 この一言に冒険者としての・・・プロフェッショナルとしての誇りが、麻薬におぼれた冒険者とは違うのだと、怒りにも近い感情が原動力となりて私を動かしている。
イエメンが廃屋に入っていく。空から使い魔に周辺を偵察させる。 とりあえず”手長”と合流して、イエメンとカーナを連れていくことに同意してもらおう。 それが私を手足として使うための報酬と言えば彼も納得するだろう。 そして、確実を期すために、最初から下手に出よう。 |
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| 好機 |
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| ピルカ [ 2002/06/14 2:44:07 ] |
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| | あたしが言うのも何だけど、クーナの勘は良く当たるの。この間だって、カップにコインを入れるゲームでね…… って、今はそんな話どうでも良かったね。とにかくクーナの勘は良く当たるの。
「ピルカ、あの猫……。」 目抜き通りを横切ったところで、後ろを歩いてたクーナがあたしの服を引っ張りながらそう言ったのは一刻くらい前、黒い猫を探しても探しても見つからなくって、うんざりしてた時だった。
クーナ、あの猫って、あそこにいる尻尾の長い黒猫のこと?でも…さっきも別の黒猫がいたよね…? 「ああ、そうだね。そりゃ、黒い猫なんていうのはたくさんいるし、本当にトーマスの使い魔なのかは分かんない。けど、あの猫はどっか違う感じがするんだよ。」
あの猫は黒すぎるんだ、って、視線だけで追いかけながら、クーナが答える。 ……そう言えば、あっちのお屋敷から出て来たみたいだけど……。 「うん。それも少しある。それにあたし、使い魔の黒猫ってのは見慣れてるんだ。」 悪戯っぽく笑ってからクーナが目配せする。あたし達は右と左に分かれて、つかず離れずの距離を保ちながら猫を追いかけた。
それからしばらくして、そのチャンスはやってきたの。 黒猫を抱き上げる男の人。ちょっと遠くからだったから、良くは分からなかったけど、猫に話しかけてる。 ……ううん。まるで猫じゃなくて、“別の誰か”に話し掛けてるみたい…。 クーナもその人に何か感じたらしくて、あたしの方に近寄ってくる。 男の人はまだ気がつかないみたいで、今度は走ってきた大きな男の人と何か話してる……。
「……あたし、あいつに会った事ある。」 後から来た大きな男の人を見ながらクーナが言った。あれがイエメンだって。 イエメン……じゃあ、あいつが、カーナを『あっち側』に連れて行ったの……?あいつが…!それ以外何も考えられなかった…。そんなとき、不意に肩に手が乗せられるのを感じた。
「…ピルカ、あの小さい方の男は必ず何か知ってる。今はイエメンよりあいつを押さえなくちゃ。」 そうして無意識に飛び出しそうになるあたしをクーナは抑えてくれた。 しばらくしてイエメンが猫を抱えていなくなると、肩の手を離してクーナが言った。 「あたしがあいつを見張ってるから、あんたは戻ってこの事を誰かに…」 ダメ、ダメだよ。だってクーナの方が足速いでしょ?あたしが残るから、クーナが行って。 「え…?でも。」 いいから早く行って!
……大声を出した事に気付いたのはすぐ後だったの。…あたし、こんな大事な時に……。 ああ、そう言えば黒猫って不吉のしるしだったなって、場違いだけど思わずにはいられなかった。
「ん……?お嬢ちゃん達、おいたはいかんな…。」 ……どうしよう、やっぱり気付かれた。でも考えてる時間なんてない。 あたしはとっさに前に出る。それと同時にクーナが後ろに走っていく。
腰のベルトからダークを抜いて、すばやく投げつける。足元に投げたのはとりあえず動けないようにするため。 避けないでよ、って思ったけど、それは無理な注文だったみたい。
最小の動作であたしのダークを避けると、男の人がゆっくりと近付いてくる。得物も抜かずに。 どうして……?見くびられてるの?それとも…………。
クーナ…早く誰か連れてきて。あたしだけじゃ、きっと手に負えないよ。 でも……。
この人だけは……ううん、こいつだけは絶対に逃がしちゃいけない。そう思ってあたしは2本目のダークを構えた。 |
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| 最後の夢 |
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| 甘味屋 [ 2002/06/14 2:53:06 ] |
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| | ひとつ向こうの路地を駆け抜ける足音。あれは……そうか、盗賊ギルドだな。イエメン坊を追っていったか。 とすると……急がなきゃならねえな。 イエメン坊はトーマスのところに走った。トーマスはイエメンを逃がしやしないだろうから、イエメン坊が気に入ってる女の子を…せめて連れて行ってあげないと。
イエメンの体に現れてる痣はブラウンケーキの後遺症だ。 ……痣が出始めると早い。そろそろ目もかなりやられる頃だな。 体に黒い痣が出て…そして、ブラウンケーキは内臓を溶かしていく。ひでぇモンさ。腹ん中がたぷたぷになるんだ。尻の穴からひり出すもんが、自分の腸が溶けたものだなんて……想像もしたくねえよな。 ……ま、大抵はそうなる前に、血が足りなくなっちまって…んで、死ぬけどな。
……なぁ。嬢ちゃん。俺は急いでカーナをイエメンのとこに連れてってやりたい。 坊はもう長くないから……せめて、坊が見つけた本当の愛とやらをさ。 ……ち。なんでぃ。人が増えやがったか。イエメン坊を追ってったヤツらだけじゃねえってことかい(クォーツを見て)
手下を呼ぶ…のは、無理か。時間がねぇ。 1人で切り抜けるか? 草原妖精と……あの男。ふん、どっちもシロートじゃねえよな。 んで、俺は? 幾つかの追いかけあいなら経験はある。けど、武器なんてなぁ…持っててはいても、俺はあまり得意じゃない。 ……しょうがないだろ。俺はただの売人なんだから。……なぁ。“琥珀”。
捕まれば…どうなる? 洗いざらい吐かされて、最後には縛り首か。……ふん、ろくなモンじゃねえよな。 草原妖精だけならなんとか、ぶちのめせるかもしれなかった。そのチャンスももうねぇ…か。 はは……ははっははははっっ(笑) どうせケチな売人さ。ろくな人生じゃなかった。 路地裏でヤクを売ってて、ガデュリンたちと知り合って、作る側にまわって…いい夢見たさ。 売人風情じゃ、一生見ることも出来なかった宝石も金貨の山も俺は手にした。……十分だ。 だとしたら、せめて、それだけの夢を見せてくれたトーマスにこれ以上不利になることはしない。それが売人のプライドだ。 カーナのことは、“のっぺら坊”に任せようか。ディスガイズを使える魔術師が手下にいるってのは便利でいい。いつでも好きなときに、ギルド員の振りが出来たからな。きっと、“のっぺら坊”が、カーナをイエメンのもとに届けてくれる。他の手下は俺からの連絡がなければ夕刻にはアジトに帰るはずだ。
“琥珀”が俺と離れることを選んだか、死ぬまで付き合うことを選んだか……どっちを選んだのか知りたいような気もする。 けど、知らないままってのも………そうだな、それも悪くないな。 俺のポケットには、トマトがある。粉のまま。……イエメンに渡した分の残り…これは普通に使えば5〜6回分はあるだろうな。 ……俺は今まで…そう、今の今まで、麻薬を自分に使ったことはなかった。それがどんな夢を見せてくれるのか知らなかった。興味なかったんだ。俺には、手に掴める夢のほうが良かったから。それに売人がヤク中になっちまっちゃ、おしまいだろう? 売る側はあくまでも売る側なんだ。買う側の真似をして自分まで、あいつらみたいに……そうさ、てめぇのガキ売ってまでヤクの代金作るような人間にはなりたくなかった。……俺から薬を買った人間はみんな堕ちていった。いっそ気持ちいいほどに堕落していった。
トーマス。今までありがとうよ。俺はあんたのことは嫌いだった。だけど、あんたと飲む酒は不思議と美味かった。
……そうら、嬢ちゃんたち。見えるかい? これがトマトだ。そう、生粋のモールドレさ(笑)
俺は袋の中に残っていたモールドレを、全部口の中に放り込んだ。幾らかは口の周りに散らばったが、鼻で息を吸い込むと、鼻ん中に吸い込まれてそのまま溶けていくのがわかった。 腰にさげていたダガーを抜く。どう使うかって?(笑) ははははっっ!! あははははっっ! ダガーの使い方かい? そう、教えてあげるよ、お嬢ちゃん(笑) ああ……いい気持ちだ。あれだけの量のトマトを使えば無事になんか済まない。そんなことはわかってる。 でも…ずっと売り続けてきたこの薬を、最後の最後に自分で使うんなら、これっくらい豪勢に使ったっていいだろう?(笑)
頭のなかでいろんなモンが弾けて…それが目の裏で真っ赤な星になってきらめいている。耳の下にあてたダガーの刃が冷たい。…気持ちがいいよ。 草原妖精の小さな影が走り寄ってくるのが見える。もう1人の男(クォーツ)も同じだ。……遅いな(笑) 一気に力を込めてダガーを引く。ああ……飛び散るのは俺の血か。それともモールドレか。 どっちでもいい。俺はモールドレで生きてきた。なら、俺の血の中にはモールドレが流れている。
───黄金なんかなくていい。俺には琥珀色で十分だったんだ。 |
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| ロックフィールド治療院にて |
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| エルウッド [ 2002/06/14 4:00:51 ] |
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| | 医者はどうしましたか?
ああ、もういいです。何人か付けたのなら。 あの男は我々の一員ではない。縛ることはできないのですから。
これだけ軽んじられれば、忌々しくはありますが・・・。
中毒患者の方はどうですか? カーナという名でしたかな。 あの女にまた接触を計るような輩は・・・
・・・は?
今、何を言いましたか? 連れ出した? 女を? 私が?
・・・ハッ・・・ハハッ・・・ハハハッ!
私は連れ出してなんかいない! やられたのですよ! まんまと出し抜かれたのです!
ハハッ! これだけの数がいて、誰も変装だと見抜けなかったのか!
・・・何をしてるのですか? ここで何をするつもりですか? この治療院には、もう見張るべきものは何一つ残っていない! |
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| 再会 |
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| カーナ [ 2002/06/14 15:16:36 ] |
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| | ねえ、何処へ行くの? アンタが巣穴の人間じゃないってのは分かった。口紅を、『トマト』をくれたんがアンタだってことも。 だけどそれだけだ。おまけに今夜はトマトもくれない……。イエメンだって連れてきてないじゃないか。 あ、やめてよ、酷い事はやめて。む、虫だけは嫌だ、嫌なんだ。逃げ出したりしない。腕の縛めは窮屈だけど、我慢する。外に出られただけでも嬉しいさ。あの中は狭くて、ひとりぼっちで。
イエメンのところに? そうか……彼は無事なんだね。 最後の夕日が見えなくなってから、考えていたよ。結局、何がしたかったんだろうって。 ああ、彼のことなんて、アンタには関係ないのか。ゴメンよ。もう言わない。
え? 何だって……
黒い痣だって。そんな馬鹿な。前に見た彼の身体にはそんなものなかった。 一体何が起こってるんだよ。アンタは知ってるんじゃないのか。ねえ、ねえったら。
うぐっ。
……げふ。わ…分かったよ。黙ってる。 良い子にしていれば、『トマト』をくれるって約束だもんね。
あれ。何か聞こえなかったかな。 何だか悲鳴のような、喝采のような叫び声。 ほら、向こうの路地で……
ひっ。ご…ごめんなさいぃ…。
……う? ああ、着いたのか。 痛ッ! そんな、強く引っ張らなくても。階段を上がれば良いんでしょ。
………。
イエメン? 彼が? まさか?
その一時だけ、あたしの心の歪みは治った、そんな気がした。 だけどやっぱり歪んだままだったのだろう。 すぐ向こうに見える少女の、酷い姿を見ても……あたしは何も感じなかったのだから。 |
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| 夢の終わりに |
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| ピルカ [ 2002/06/14 20:55:10 ] |
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| | 「やめてぇぇぇッ!!」 気がついたら、そう叫んでた。
あたしが近付くより先に、『彼』の首から、たくさんの血が飛び散る。 間に合わなかった、あたしはその事から顔を背けるのが精一杯だった。 隣にいたクォーツがとっさ前に出て、「見るな」って言うみたいにすっとあたしの顔に手を覆い被せる。 それからしゃがみ込んで、倒れてる『彼』の腕を掴んでから、悔しそうな、悲しそうな声で言ったの。 「………ダメだ。もう助からねぇ……。」
クォーツの指の隙間から『彼』の顔を覗いてみて、ドキッとした。 だって、死ぬ間際の人間にあんなに楽しそうな顔ができるものなの? 分かんないし、分かりたくもなかった。でも…… 一つだけ分かった事があるの。麻薬は絶対に人を幸せにはしないって事が。
少ししてから、クーナが何人かの盗賊を連れて戻ってきた。 だけど倒れてる『彼』を見ると、顔を背けて悲しそうに目を瞑る。
クーナと一緒に来た盗賊たちが集まってくる。 それを確認すると、動かなくなった『彼』から手を放してクォーツが誰にともなく呟いた。 「…後の事はこいつらに任せて、俺達は、今の俺達に出来る事をしねぇか……?」
今のあたし達に出来る事……その言葉に、うつむいて目を背けてたあたしは改めて『彼』を振り返る。
あんた、言ってたよね。 「イエメンはもう長くない、だからしてやりたい事がある」って。 もし、それがあんたの本当の気持ちなら……
「ピルカ?」 ふいに声を掛けられて、我に帰る。隣には心配そうにあたしの顔を覗き込むクーナ。 後ろの方で盗賊たちと二言三言話してたクォーツも、腕を組んでちらっとあたしの方を気にする。
…ごめんね、何でもないの、気にしないで。クーナ、クォーツ、ありがとう。 あたし達も早くイエメンを追いかけよう。 早くしないと、手遅れになっちゃうから……。
不思議だったんだけど、すごく不思議だったんだけど、その時にはさっきよりイエメンが憎くなくなってた。
トーマス…許さないよ。絶対に見つけ出してやる。 |
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| パーティー |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/15 0:17:29 ] |
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| | ……ふん、まぁよくもこんだけ集まったもんだなぁ? ヒャッハァ! パーティーの招待状でも貰ったみてぇだな? ああ? そうさ、モールドレのパーティーのなっ!
カナリアを追っかけてきた“恋人”チェリオ。 んで、イエメンを追っかけてきたオレたち。そしてそのオレを追っかけてきた魔術師(リッフィル)と医者(トレル)。
…トーマスがいるのはあのあばらやの中かい? ミニアスとかいう女が言ってたなかの1軒だなぁ? 突入のタイミングを計ってると、エルウッドがカーナを連れてやってきた。 ………エルウッド? なんでおめぇが。 物陰から見てる前でエルウッドは、のっぺりした顔の貧相な男に変わった。
「ディスガイズ、か。さほど難しい魔術ではないな」
ふん、なるほどね。解説ありがとよ、魔術師。 なんで、カーナにヤクを差し入れすることが出来たのか……厳重に警戒したはずの場所からなんで抜け出せたのか。 ハッハァ! あたりめぇだよな。三つ指のふり、エルウッドのふり……ああ、魔術ってのぁ便利でいい。
少し遅れて、エルウッドとピルカ、クーナ、クォーツが走ってくる。 カーナを追いかけてきたのか、ミニアスとエルメスも。 エルウッドが、ひとつ教えてくれた。ああ、もちろんカーナのこともだが、それに関しちゃ、オレもこの目で見たんでね。 ギルドに立ち寄ったエルウッドに、風上のネイって女がネタを寄越したらしい。
貴族。ああ、貴族! ハッハァ! “兎”のアデンが出入りしていた屋敷からのつながりで、クレンツ男爵ってぇ名前は出ていたよ、すでにな。 だから、オレぁそのことを“黒爪”の旦那に言ってある。 オレごときが、貴族にゃ手出しできねぇ。だから、手出しするなら、ギルドの上層部で頼むってことでな。 けど、貴族どもが、トーマスたちの逃げる場所を確保してあるってぇんなら話は別だぁな。
……寂れた街道の宿場町、か。オランを出るにも普通にゃ出られねぇ…ってぇことは、貴族の力は借りるだろう。そして、とりあえずの行き先がその宿場町。そこでしばらくほとぼりを冷ましてから、別の国へ…か。 ちぃ。これだからイヤなんだ。貴族なんていう、金と権力と欲とをひっくるめて持ってるヤツらにゃいつだって出し抜かれる。 そして、そんな奴らを利用してる麻薬組織の奴らにも…か? ふざけんな。 ……ふん、わかってらぁ、エルウッド。帰ったら、そのネイって女に会うさ。 今ここで、トーマスたちを潰しても、モールドレの精製工場がその宿場町にあるなら、潰しにいかにゃならねぇ。
ふん…ぐだぐだ考えてねぇで、そろそろ行くかい?(にひゃ) おう、医者センセイも魔術師も、その覚悟で来てんだろ? 今更引っ込めなんて言わねぇよ。そのかわり、きっちり働いてもらうぜぇ? アジトの周囲を傭兵が警護してんのが見えるよな? ありゃぁ…おそらく、トーマスたちの背後にいる貴族どもが雇った奴らだろ。トーマスに幾ら金があったって、あんな胡散臭ぇ爺ぃが傭兵なんざ雇ったら真っ先に街の噂にならぁな。それがなかったってこたぁ、あれはトーマスじゃねぇ奴らが雇ったってことになるからな。
……ま、ンなこたぁどうでもいいんだ。邪魔なら叩きつぶす。それだけだ。 いいな? てめぇらは、クソ衛視どもみてぇに『違法だから潰す』ってぇ理由で動いてるんじゃねぇ。 それぞれがそれぞれの理由でここにいる。……だろぉ? だったら十分だ。生きて帰る理由にならぁな。 よっしゃ。野郎ども! 覚悟はいいかっ!?
そして、傭兵どもを手下たちに任せて、あばらやの扉にどうにか手をかけた瞬間だ。あばらやの中から、女の悲鳴が聞こえた。 「カーナっ!?」 そう叫んだのが、ピルカだったかエルメスだったかリッフィルだったか。 よくわかんねぇまま、オレは扉を引き開けていた。 |
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| 独白 |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/15 21:32:55 ] |
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| | 美味いな…何がって、この林檎パイが。しかし、物事に熱中している時というのは、食事にゆっくり時間を割く気もなくなるものだ。今の絶景からは眼を話すのも惜しまれるから、このまま行儀悪くやらせてもらうとしよう。 ん、なんだね…お前も食べるのか、イエメンよ。 いや、見えていないのか、こちらが? 哀れなイエメン……。
あのな……私はお前を愛していたよ。お前を、”黄金”のためだけに召喚したとは思わないでくれ。んぐ。……ここではっきり言っておこうかな。
確かに、多くの者に愛を向けたが、分け隔てはなかったはずさ。まことに、愛こそ、人が生きるのに必要なものだな。 だが、私が真摯な愛を向けるのとは裏腹に、それに答えてくれた者達は、ほとんど居なかった。自然に心が触れあえたのは、ガデュリンと甘味屋ぐらいのものさ。だから思ったよ。人間という奴は、本当に詰まらない、些細なことが気に懸かって、相手を遠ざけるものだと。 本来、私自身に問題があるはずはない。気持ち悪い…私が? 馬鹿な、私の良さを何も知らない癖して! 愛の深さも折り紙つきだというのに。ほんとう、無用な警戒が原因なんだ…。人は、本能的に、自分の心と身体が傷つかないために、過剰な防衛の構えを取るものだ、寂しいことだがね。でも私だってこれ以上傷つきたくないのは、同じだったんだよ。
そこでトマトの出番なんだ。本来、愛する人にそれを使う目的は、快楽で、全てをどうでもよくさせることじゃない。忘れさせたいのは警戒、抵抗の心だけ。そんな愛の成就に無用なものを、なくすためにやる。それを持たなくなったとき、人は初めて素直に、相手がどんなに自分のことを思っているか、受け止められるのさ。
そこにどれだけ幸せな関係が成立するか……想像できるだろう。そういう完璧な信頼の世界では、痛みを与えることや辱めですら、気にならない。それはむしろ愛を確かめあって楽しむためにさえ、行われる。 このカナリアは、もう眼の色が怪しくなっている。服を破いても反応がないのはいい塩梅だ。もうこれで、お互い傷つく心配はないね。
いよいよこれからさ、ぐつくつ。このパイよりもずっと甘美な体験をさせてやる。私の愛情の真摯さを、味わってもらうんだ。 イエメン、おまえも、ガデュリンや私と過ごした、腰もくだけるような、陶酔の時間を思いだしてみなよ。たとえこのまま命がなくなるようなことがあっても、麻薬を使わないよりは、ずっといい人生だったろう? 幸せだったと、そう思っていて欲しいなぁ。 ……ふん、だんまりか。
おや、どうやらご到着だぞイエメン、お前の姫様がな。 ご苦労だったな、”ぬっぺら坊”。 なに、途中で、ギルドの連中がうろついてるのを見たって? 甘味屋はどうしてる? なに……死んだ。あの男が死んだって、本当なのかね。 それは……弱ったな。 待てよ、もう奴がいなくても、差し障りはないんじゃないか。 …いやそうじゃない。ふうーむ、私にとっちゃ。 ……あれ? おかしいな、出ないなぁ……涙。 |
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| 勃発 |
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| トーマス・ブギーマン [ 2002/06/15 22:47:23 ] |
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| | 痛いな…血がとまらん…イエメンめ、いきなり噛みついてくるとはどういうことだ。この女に触ろうとした途端に。 そんな余力が残っていたことにまず驚きだ。今は仕置きの一撃を食らって床に倒れているが…。あまり私を嘆かせないでくれ、イエメン。
それにしても、一度起きると混乱は連続するものなのか。なんだろうね、こいつらは。楽しみのところに、騒々しくも踏み込んでくるとは、腹立たしい。ギルドの手の者…か。モールドレの効用を知ろうともしない愚か者どもめが。 ぬっぺら坊に目配せすると、奴は心得たもので呪文の詠唱に入った。「眠りの雲」。次いで、部屋の中に残っていた数人に号令をかけ、組み伏せにかからせる。 外にいた見張りは破られたのか? まだ人数は残ってるはずだが…。 万が一の時は……。盗賊たちとクレンツ伯爵の寄越した護衛者たちがにらみ合っている間に、窓の位置を確認した。 |
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| 待ち伏せ。 |
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| ミニアス [ 2002/06/15 23:43:01 ] |
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| | あ〜頭痛。
いや、そんな事言っている場合じゃないか。 カーナの様子を見に行くと、見た事のあるの(エルウッド)がカーナを連れて歩いていた。その光景自体に不自然があったわけではない。 ただ、本人独特のその雰囲気がなかったのと・・・手袋をしていたが、一瞬見えた指輪らしき膨らみ。 指輪を何かあるたびにしたり、はずしたりする人間はまずいない・・・・魔術師を除いては。 魔法を使うために必要な杖の代わりにコインや指輪という話を、リッフィルに聞いた覚えもある。
ハズレだったらそれなりの『おしおき』とやらが来る。
・・・・・・覚悟を決めよう。
意を決して後を付ける事にした。でも、自分の調子がイマイチ良くなかったせいで1度見失った。 が、近くから聞こえた女の声・・・カンだが、それが当たりだった。その後は見失わず、気づかれずになんとか上手くいった。 途中で、私が以前調べあげた隠れ家の一つの方に歩いている事に気がついた。そして後ろから他のヤツがつけ始めている事にも。 そのため違う道から、隠れ家へと向かった。 私についてきているのはいない・・・多分ギルドの方々がどっかで待機して状況をうかがっているんじゃないかと考える。 踏み込むのは時間の問題・・・と、なれば正面とかはそっちがやってくれるだろう。
裏口ってあるかな?いや、そっちはギルド側がやっているだろう。そうなると他には・・・あ、窓。逃げ道をふさいでやるのが私の今のやるべき事かな。 以前に調べた時の様子をなるたけ頭の中に思いだし描く。 一番よくいた部屋は・・・よし、この辺りの窓付近に行こう。
どこかで小競り合いが始まった。おかげでこんなに隠れ家に近づく事が出来た。 その直後に、壁の向こうからの何かが倒れる音と、女性の高い悲鳴・・・ ギリっと唇を噛む。そして手は腰にあるソードブレイカーの柄にかけた。 一度目をつぶり、すぐに開く。 私はここで待ち伏せする。今飛び込むのは無謀とか、ヤケだ。 私はここで待ち伏せする。
なるたけ耳を澄まして、中の様子を感じ取ろう。 なにかあれば、私は私としての行動を取るだけだ。 |
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| 7年前。“壁のない家”にて。 |
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| ガデュリン [ 2002/06/16 0:43:46 ] |
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| | トーマス。おまえはあの時のことを覚えているだろうか。 もちろん、忘れたことなどないだろう。私も、そしておまえの兄・ジェイコブもな。
村が焼けた原因など今はもう忘れた。戦か妖魔か。どうでもいい。 3人で逃げ出した私たちは……ああ、もう何十年前だろうね。 …そう、今ここにいるイエメンよりも小さな子供だったろう。
あの時の“黄金”。私は忘れない。 あれを追いかけてここまできたんだ。あれを求めて私はブラウンケーキを作り出したんだ。 “黄金”は私たちを満たしてくれた。愛で。炎に炙られて乾いた私たちの心に、愛は染み通ったね。
ねぇ。トーマス。 おまえと一緒に、魔術の勉強をしているときも。医術の勉強をしているときも。 私は常に求めていたんだ。愛を。黄金色の愛を。 可哀想なジェイコブは、愛を追い求めるべき強さを持たなかったけれど。 でも、私たちなら、あの“黄金”を……私たち2人になら、“黄金”を手に出来ると。私は確信していたよ。
私は愛していたんだ。いつだって。 おまえも、ジェイコブも。そしてこの可愛いイエメンも。私の愛はいつだって、注がれるだけだ。誰も私に愛を返してくれない。そう、神でさえ。 ……何故だい? ねぇ、トーマス。どうして、私には、自らの種を残すという権利が与えられない?
イエメン…許しておくれ。私は確かにおまえのパパだ。 だけど、本当におまえをこの世に送り出したのは、ジェイコブだよ。そう、トーマスの兄。 ……愛していた。 愛していた愛していた愛していた。 だから私は、彼女の子供が欲しかった。自分にそれが与えられないと知って、私はジェイコブにそれを頼んだ。 甘い甘いブラウンケーキをたっぷりと口に含んで、彼女はジェイコブに抱かれにいった。 そしておまえを生む寸前に死んだ。こと切れた彼女の身体から、私はおまえを引きずり出した。 羊水の海で溺れるおまえを、私が救い上げた。 おまえのママの名前はローズだ。……ローズ。覚えておきなさい、イエメン。
………ねぇ、トーマス。 私は“黄金”を見つけたんだよ。あの日の“黄金”と同じものを。すでに私は手に入れている。 それはイエメンに託した。イエメンにならきっとわかる。“黄金”の在処がね。 私がローズと出会うまで知らなかった…気づかなかったものだ。 トーマス、君はまだ知らない。
だけど、私はもう……甘いお菓子を欲しがる子供ではなくなってしまったんだよ。 君はまだ、滴る血のような甘さを欲しがっているのかもしれない。でも…私はもう要らない。 あの日、炎を背にして生まれた感情を、私はもう一度炎に返す。 “畑”も“台所”ももうすぐ燃え落ちるよ。 “黄金”を手にするその時まで……君たちはもう少し生きてみるといい。きっと見つかるから。
ああ…ギルドがもうすぐそこまで来ているね。 ブラウンケーキもおしまいだ。お菓子の時間はおしまいだ。 さよなら、トーマス。ジェイコブによろしく。……彼に伝えてくれ。私にイエメンを与えてくれてありがとうと。 そして、イエメン。…………生きなさい。 |
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| そして現在 |
|---|
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/16 1:18:51 ] |
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| | 部屋ん中に飛び込んで、周りのものをいろいろと確認した直後だ。 “眠りの雲”が飛んできやがった。一緒に飛び込んだヤツらの何人かは眠り込む。 ……ふん、ンな若造の魔法なんざぁ効いてたまるかよ。
カーナに、イエメンに、小さなガキ(カナリア)に…一緒にいた奴らがそれぞれ駆け寄るのが見えた。 なら、そっちゃぁ任せたぜ。オレぁ、あの爺ぃを……てめぇがトーマスか! トーマス・ブギーマン!!
ようやっとお目見えだ。覚悟しろやぁ? どうやら怪我ぁしてるようだなぁ? んん? イエメンにでもやられたかい。 おいぼれた身体引きずって、どこまで逃げられるか……試してみるかい?
直後。
イエメンの身体が跳ね上がったのが、オレの視界の片隅に映った。 そして次の瞬間にはオレの身体は宙に舞っていやがった。
………なんだってんでぇっっ!!? おめぇだって、このクソ爺ぃをヤろうとしてたんじゃなかったのかよっ! その目ぇ…見えちゃいねぇんだろぉ? なんだって、そんなんなってまで、この爺ぃを守ろうとするんだよっ!? …ぐっ…!
床に思い切り叩きつけられて、起きあがるのに難儀しているオレを見下ろして、ヤツぁ言いやがった。
「ドゥーバ…お、俺はあんたをいろいろと誤解してた。ごめんよ、痛くして。でも邪魔…しないでくれないか。大丈夫…ぼんやりとだけど見えてる」
魔法を使った若造(のっぺら坊)も、他の手下らしきヤツらも、こっち側の人間たちが押さえてる。 邪魔する者は誰もいない。 そう、オレも……だな。 オレは起きあがるのぁ諦めた。どうも自力じゃ無理そうだ。鑑賞させてもらうさ。……最後の一幕とやらをな。
いつの間にかっぱらいやがったのか、オレのダガーを握りしめたイエメンが、トーマスに近づく。 トーマスの皺首を片手で捕まえて、イエメンがダガーを振り上げる。 |
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| 黄金の… |
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| イエメン [ 2002/06/17 12:25:49 ] |
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| | 激情に身を任せてやった試みは、失敗に終わった。トーマスの仲間が、邪魔に入ったんだ。おれは床に転がる。腹の辺りを刺されていた。 カーナさんが駆け寄ってくる。 ハハ……これで良かったのかもしれない。自分の手を汚してから会うよりは…ずっと心穏やかに、こうして彼女の胸に抱かれることができんだ…。
首を動かして周りを見ると、混乱は大体収まっていた。ドゥーバとその仲間の何人かは腕に覚えがあるみたいで、ここにいた連中を早くもねじ伏せてしまった。あの憎たらしい頬に傷の男もいる。アトリエで会った浅黒い肌の男が、囚われていた子供を助けに駆け寄っていた。
トーマスは窓の外に逃げようとしてたけど、どうやら、それが無理だとわかったらしい。 「一発が限度だが…。今こそ、わが奥義を使う時!」振り向いて、そう叫んだ声は錯乱していた。しかしクーナともう一人の、眠りをまぬがれた草原妖精たちが、彼の身振り手振りが終わるまえに、それぞれ別々の角度から蹴りを食らわせていた。 …終わったんだ。
腹からどんどん血が流れ出すのがわかる。意識が消えてゆく。でも、カーナさんが側にいてくれるから、ほ、本当に安心なんだ。……そうだ…彼女に渡したいものがある。最後に伝えたいことが。 おれは、そっと自分の服の腹の裾をめくって、傷口に刃をあてた。もともとそこには、縫い合わされた醜い痕があったが、ハハ、血溜まりで、わからねえ。見られなくてすみそうだ。 おれはそこに再びダガーの刃を立てて、腹に穴を開けていた。 悲鳴を上げるカーナさんに、可能な限り余裕を見せて、笑いかけた。そして…当たりをつけて、腸の間から、小さな巾着を取り出す。防腐の魔法がかけてある巾着だ…。それを、カーナさんに渡す。
血塗れの袋から、黄金色の花をつけた小枝が姿を現した。
カーナさん、それはね。 ガデュリンのパパが、彼のいいひとと一緒に、薬草の収集に出かけた時にみつけた、花なんだよ。 小さな花が寄り添って集まって、き、綺麗な黄金色だろう? パパと、恋人の人は、採集の足を止めてずっと眺めていたらしい…。 いや、花の名前なんて知らないからね。ば、薔薇、じゃないのかな。そう、ローズ、ローズ・アデン…ああ、思いだした。それがおれのママ…だった。
聞いたんだけど、むかしカストゥールの詩人たちは、花に言葉を見いだしていたそうだよ。「耐えることと、続くこと」彼らのつけた、この黄金の花の意味はそんならしい。 袋の中に種も入っているよ。パパの遺産の全部がそれだ。 これを貰ってやってくれ、カーナさん。 そしてできれば、いつか誰かと結ばれた後も、忘れないでくれ……この花と、おれのこと。 |
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| 愛のことば |
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| カーナ [ 2002/06/17 23:55:21 ] |
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| | 耐えることと、続くこと。終わりない悪夢のような。
血溜まりの中、ゆっくりと呼吸を止めた彼に、口付ける。 イエメンは、とてもとても穏やかな顔で眠った――まるで幸せな夢を見ているかのように。 それはトマトの見せる夢とは違うものだった、のだと思う。きっと。
周りに集う、仲間や、同業者を手で制し、立ちあがる。 ローズ・アデン。その名が一番響いた人に、あたしは黄金色の花を渡した。
花は“恋人”に。 けれど、種はあたしが持っていくよ。それくらい良いでしょう?
床に転がる小瓶に躓きそうになり、拾い上げる。 中には――真紅の液体。
あたしと父さんにはいつも笑顔だった母さん。 朝は誰よりも早く起きて、おはようと言ってくれた。 夜は誰よりも遅くまで眠らずに、おやすみと言ってくれた。 ……それだけで、怖いものはなくなるような気がした。
母さんの愛は、皆に向けられていた訳じゃないと。 守るものは、愛は、多くなくていいんだと。 気付いた。
―――だけど。 あたしは知ってしまった。 『欲』の味を。
ごめん、エルメス、ピルカ。それに、リッフィル。 せめて…今は、君たちに、醜態を見せたくないから。
僅かなトマトと、一握りの種を手に。 あたしは窓から身を躍らせた。
さよなら、イエメン。 悪い夢は、あたしがみんな、連れて行くから。 だから、ゆっくり
『おやすみなさい』 |
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| 待ってみて |
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| ミニアス [ 2002/06/18 10:47:27 ] |
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| | 少し離れた窓から飛びだしてきたカーナ。 話はある程度だけれど、聞こえていた。けれど、なぜ逃げ出すかまではわからなかった。 彼女と目があった。私の存在にかなり驚いてはいたけれど・・・驚いたのはこっちも同じかな。
とは言え身構えていた分、こっちの方が早く動けた。
体勢を整え走り出す方向へと体を向けたカーナに、体当たりして足止めする。 その時にカーナの手からこぼれ落ちた小瓶の色には、見覚えがあった。他にもなにか細かい物が落ちた。 すばやく小瓶を拾うと、カーナからちょっと離れる。 それを見て飛びかかってきたカーナだが、私に触れるよりも窓から飛び出て来たピルカ&クーナに取り押さえる方が早かった。
赤い小瓶・・・叩き割りたいが、まあいいや。
外にでてきた方々に押さえつけているカーナを引き渡す。ついでにトレルに小瓶を手渡す。これが麻薬じゃなかったらなんだろね。 気がつくと、リッフィルが地面にはいつくばって何かを拾っていた。 話を聞くと何かの種だと言った。ふ〜ん・・・ そう言っている間に、種ひろいにクーナも参加していた。
私も種を拾っている理由? 感情で行動している時に、理屈はいらないんじゃないの。わかりやすく言うと、そうしたいからそうしている。そんだけ。
もとがどれだけあったのかは私は知らない。ただ、拾い集めた種は多くは無かった。 それを丁寧に布で包んで懐に入れるリッフィル。 その辺りでまた気分が悪くなったので、ちょっと離れた。
戻ってくる頃には、なにごともなかった・・・そんな空気が流れていた。 |
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| 起死回生 |
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| バリオネス [ 2002/06/19 23:19:05 ] |
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| | 己の欲を満たすのに、魔術以上の物はない。 だが、人の死に直面したとき、魔術とはあまりにも無力である。 癒しの奇跡を使えない者は、ただ見ているしか方法がないのである。 愛する者を失ったのだから、駆け出したくなるカーナの気持ちもわからないでもない。 使い魔から見守ってやろう。今は気の済むまで走るがよい、疲れたら迎えに行く。 あ、捕まった・・・ 大切な形見だから拾い集め、懐に入れる。
「約束どおり、イエメンとカーナはもらっていく。」 ”長手”にそう告げ、なきがらとなったイエメンを抱きかかえる。 カーナの事は医者とその他大勢にまかせることにする。 カーナには彼女を心配してくれる仲間が大勢いる。 私には仕事の続きがある・・・。 イエメンはマーファ神殿で弔ってもらうよ。
マーファ神殿に向かう我々は、愛する者を泣かせるダメ男二人。 と、言っても一人はもう生きてはいない。 改めて魔術の限界を思い知る。 こんな時は神と言うやつに頼りたくなる。 信仰するとするならやはりマーファか、魔術を志した時から私の近くには常にマーファの神官が神のすばらしさを語っていた。 魔術は神以上に素晴らしいと考えていたが、今なら神の良さがわかる気がする。 癒しの奇跡が使えてたなら、彼を救うことが出来たであろうに・・・マーファはこうなることを望んでいたのだろうか。 複雑な思いでイエメンの傷口をにらみつける。 ぱっくりと開いた傷口からでる不自然な細いヒモ。 手にとってヒモをたどると、小さな容器に突き当たる。 そして、その容器を取り出し、血をふき取り小さな文字を見つけた。 それは『デスライク・スリープ』と読めた。
もし、この手術をしたのがガデュリンなら・・・・ もし、ガデュリンがイエメンを愛しているのなら・・・ もし、この中身がデスライク・スリープで、形見の入った袋を取り出したときに上手く服用できるようになっていたのなら・・・ もし、死ぬよりも早く、仮死状態になれたのなら・・・
イエメンは死んではいない。
そんな希望的仮説をたて、マーファ神殿にいる”鉄拳愛”を説得する言葉を考える。 傷さえ癒せば毒の効果が切れた時に死ぬことは無いはず。 今度は逃げられないようにハードロックで固めてしまおう。 私は足取りを速め、マーファ神殿に急いだ。 |
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| 鍵のかかった箱 |
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| カナリア [ 2002/06/21 2:11:59 ] |
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| | 気が付いたら…見たことのない場所にいた。薬の匂いがする場所。 顔を出した男の人が、トレルって名乗った。そしてここは治療院だと教えてくれた。 怖いおじさんのことも……真っ赤な気持ち悪い薬のことも、全部終わったんだと教えてくれた。 まだ頭の中はぐるぐるするし、身体は全然動かないけど。 それに、こうやって、頭の中がすっきりしているのは、1日の中でもほんの少しだけど。 でも…終わったんならいい。
チェリオっていうお兄さんが、家から少し荷物を運んできてくれた。 おかあさんの知り合いだって言ってた。おかあさん……アデンおかあさん。 アデンおかあさんは、あたしの本当のおかあさんじゃないけど、 薬を買うためにあたしを怖いところに売り払った本当のおかあさんよりも、よほど優しかった。 だって、アデンおかあさんの手は温かかった。怖いところからあたしを連れて逃げてくれた。 あたしを、おじいちゃんとおばあちゃんの所に預けて、それきりアデンおかあさんはいなくなったけど……。
小さな箱がある。アデンおかあさんが、いなくなる前にあたしの手に預けた箱。 ……でも、鍵がなくて開かないの。ねぇ…全部全部、終わったんなら…この箱を開けてもいいかなぁ。 チェリオお兄さん、開けてくれる? |
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| 手紙 |
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| ローズ・アデン [ 2002/06/21 2:13:16 ] |
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| | カナリア。あなたがこれを読む頃には、何もかもが終わっているのかもしれません。 だとしたら、あなたはもう、これ以上怖い思いをすることはないの。安心してね。 これを読んでも、あなたには意味がわからないかもしれない。 でも、あなたの周りに、本当のことを知りたがっている人たちがいるなら、あなたからこれを伝えてあげて。
私が愛していたのは、ガデュリン。彼だけ。 私はガデュリンが望むから…だからジェイコブに抱かれに行ったけれど。そうして子供を産んだけれど。 でも、愛していたのはガデュリンだけだった。 子供が産めない身体かもしれない…って、そう言われたこともあった。でも、私はガデュリンのために子供を残してあげることが出来た。それだけで幸せだった。
なのに、私を眠りから呼び戻した人がいた。トーマス……トーマス・ブギーマン。 ジェイコブに抱かれに行く時に、自分の気持ちを誤魔化そうとして私はブラウンケーキを飲んだから…あの薬のせいで、私の身体はぼろぼろだった。だから、出産には耐えられなかった。でも…それでも良かった。私が命を落としても、ガデュリンのもとに、彼が望んだ子供が残るなら。 血が止まらなくなって…意識は闇に呑まれていった。これで私の全ては終わるんだと思った。 なのに、目が覚めた。身体は上手く動かなかったけれど。
トーマスが、青い目と黒い目で私を見つめながら笑った。自分が貴族とどんな取引をしたのか、笑いながら話した。 モールドレを開発するからと貴族に持ちかけて、ガデュリンのもとから盗んだ私の死体に、防腐の魔法を手付け代わりにかけてもらったと。 そしてモールドレ開発の目処が立った時に、蘇生の魔法をかけたと。 「私はガデュリンの全てを手に入れたかったんだよ。麻薬も、そして女もね」と…そうトーマスは笑った。
ああ……だとしたら。トーマスは最初からガデュリンを裏切っていた。私が死んだ時はまだブラウンケーキが全盛だったはず。なのに…その頃からすでにモールドレを考えていたなんて。 そうして…トーマスはにっこりと笑いながら、もう1つ教えてくれた。 防腐の魔法がかかっている間に……私が、魔法で…トーマスの我が儘で再び命を得るまでに、もう何年も経っていると。 もう………もう、ガデュリンはとっくに死んでいると。
…ガデュリンは私を愛した。幼い頃に自分たちを救ってくれた女性に似ていると呟いて私を抱いた。 そしてジェイコブも、ベッドの中ではそう囁いた。ガデュリン以外の人間に抱かれるのは嫌で薬を飲んでいたけれど、その言葉は私の耳に届いた。 そして…トーマスも同じことを言う。 でも、私が愛したのはガデュリンだけだった。ガデュリンのいない世界に意味などない。だからなのかもしれない。私が、トーマスの差し出す麻薬を受け取ったのは。彼の言うがままに娼婦としての生活をして、彼の差し出す麻薬を飲み続けて。彼の言葉の全てに従った。だけど私は、彼を愛さなかった。
カナリア。私があなたをあそこから…トーマスが作り直した“壁のない家”から連れ出したのは、ただの代償行為だったのかもしれない。 私はガデュリンの望みで子供を産んだけれど、トーマスが私を蘇生させてからは、私は自分の子供に会っていないの。 産み落とす前に私の意識はなかったから、男の子だったのか女の子だったのか、それすら私は知らない。トーマスは教えてくれない。 防腐の魔法で“眠って”いる間、どれだけの時が過ぎたのか、私は正確には知らない。だから、私の子供が幾つになっているのかも知らない。 ………だから、せめてあなただけは…と。そう思ったの。ごめんね。私はあなたが自分の子供だったらいいと…そう思っていたの。 あなたの金の巻き毛は、あの日、ガデュリンと一緒に摘んだ花の輝きに似ていた。2人で過ごせる、こんな瞬間こそが黄金なのかもしれないとガデュリンは笑った。
トーマスが私を蘇生させたのだから、トーマスが私の命を再び奪おうとするなら好きにすればいい。 私は……ガデュリンのもとに行くだけ。 ああ……でも、叶うなら…。カナリア、あなたをもう一度抱きたかった。そして、私が生んだ子供を…ひと目、見たかった。 ごめんなさい、カナリア。あなたを最後まで守れなくて本当にごめんなさい。 でも、あなたから「おかあさん」と呼ばれるのは、くすぐったくて…甘酸っぱくて……忘れていた幸せの香りがした。 ありがとう、カナリア。あなたが…幸せであるように。 |
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| 神殿働きの辛ぇ所だよ |
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| ”鉄拳愛” [ 2002/06/21 15:23:00 ] |
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| | …………おい、リッフィル。いやバリオネス! いつまでそこに座ってるのさ。もう、丸一日以上経ってるよ。
デスライク・スリープとやらは、半日経てば効果が切れるんだろ。 駄目だ…この身体にゃ、もう生命の精霊は居ないんだ。 死んでるよ…この旦那。
このイエメンには、カーナって思い人がいるんだってねぇ…。 小瓶の中身は無かったことからも…この人、最後まで迷いはあったんだろうね。でも蓋まで開けておきながら、飲まないで、自分の腹の中に戻したんだ。 あたしは医療師の心得あるけど…。診察してみたら、この身体、ぼろぼろだったよ。今、蘇生の魔法があったって、助けるのは難しいぐらいだ。 だから、出来なかった理由はわかるさ。往生際を間違えたくなかったんだ。…後悔はなかったと思うよ。
初めから予感がしてた。この満ち足りた仏の表情、まだ生きようとする人間の見せるもんじゃないからさ。
──癒しの魔法をかけて、奴さんの身体、外見は綺麗になったじゃないか。誰だか、いかれた医者のつけた、傷や縫い痕もなくなってさ。本人は喜んでいると思うよ。肩凝ったけどね、あたしも無駄だとは思ってないさ。だから、あんたが謝る必要はないよ。 ああ、やっと立ったね。落ち込んでる様子じゃないけど、やれやれ。……向こうで休みな。 |
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| NO TITLE |
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| トレル [ 2002/06/21 17:17:18 ] |
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| | カナリアは治療をしてすぐに目を覚ました。薬が抜ければ、元気になるだろう。 カーナはまだ眠っている。
自室に行き、戸棚を開ける。皮鎧、マント、荷袋 etc. etc. etc. 腰から剣をはずして戻す。それから、ゆっくりと戸棚を閉める・・・ イエメンの赤い液体。“手長”に断り持ち帰った、モールドレ。机の上に置いたそれに目を向ける。さて・・・
脱ぎ捨ててあった、白衣に袖を通した。 |
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| エールを飲みに |
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| “手長”ドゥーバヤジット [ 2002/06/22 3:47:21 ] |
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| | あの事件が終わった日。
“風上の”ネイとか言う女盗賊が、ギルドでオレを待っていやがった。 貴族が援助しているという宿場町の情報をもう一度詳しく聞く。 捕らえたトーマス・ブギーマンとその手下はギルドの地下に放り込んだ。 イエメンは…そう、リッフィルとかいう魔術師が運んでったっけ。死体をな。……ただでさえ、死んだ人間ってのぁ生きてるヤツよっか重い。さらにイエメンはデカブツだ。……ご苦労なこった。 カーナは逃げようとしたところをとっ捕まって、医者が背負ってった。
ネイから聞いたネタ……その幾つかは、オレも掴んでいたことだ。 モールドレのルートの裏で、クレンツ男爵が関わってる…とな。 貴族相手なら、オレごときじゃ手出しできねぇ…できねえが、その宿場町とやらは別だ。なにせその街がモールドレの“畑”だってぇんだからな。 もともと、オレに今回の仕事を持ってきた、“黒爪”の旦那に報告する。旦那もどうやらオレと同意見だ。
「その宿場町の“畑”はぶっ潰す。上には俺から話を通しておくさ。貴族だろうと何だろうと知ったこっちゃねぇ。衛視どもだって、麻薬に絡んでるとなりゃ、貴族に手出しくれぇすんだろ。貴族方面は、こっちの“上”と衛視どもがどうにかするだろな。……明日にでもその宿場町に出かけるぞ。これで終わりだな。………モールドレもよ」
そう。ってぇことは、オレの仕事もようやく終わりだ。
「おう、“手長”。そういや、イエメンとかいうデカブツにぶん投げられてあばらぁ折ったとか言ってたな。その宿場町のアジトにゃまだ手下や幹部も何人かいるだろ。荒事になる。……おめぇは来なくていい。その代わり、部下ぁ貸せや」 「へい。んじゃ……そう………今回の件で、部下を3人ほど死なせっちまった男がいますんで、そいつを。こき使ってやってください。なに、そいつにゃ報酬はいりませんや。左遷の代わりってぇことでイカガです?」
さてと。これで…もう終わりだぁな。オレの手は離れた。 しばらくはのんびりするとすっかい。
………なぁ、イエメン。最初におまえと会ったのぁ、常闇の屋台だったなぁ。不味いエール飲んだっけ。 確かにおまえは、いろいろと……そう、頭ん中までヤクに漬かってた。 オレぁ天涯孤独だし、独り身だが……そうさな。おめぇくらいの年の息子がいてもおかしかぁねんだな。 おめぇがヤク漬けにさえなってなきゃぁ…もっと……………。 ああ、くだらねぇ。やめとくか。
よし。決めた。不味いエールでも飲みに行くか。あの屋台に。 |
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| 訂正とお詫び |
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| (アデンPL) [ 2002/06/24 0:53:48 ] |
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| | 下記宿帳(アデン/手紙)の中で、痛恨のルールミスを発見しました(爆) 今から削除&訂正というのもアレなので…EPにて修正します。 魔法の適用を変えるだけなので、話の流れそのものに変更はありません。 |
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| モールドレを生み出すもの |
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| エルウッド [ 2002/06/24 5:36:51 ] |
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| | 灰にしてしまいましょう。全て。この”畑”を全て! そうすれば、もうトマトは・・・モールドレは生まれない。
あなたは、彼らが何を求めていたか知っていますか? 彼らは”黄金”を求めていたのですよ。 ”黄金”とは何か? ハハッ・・・説明することすらばかばかしい。
イエメンが体の中に隠し持っていた薔薇ですか? あれは”黄金”そのものではありませんが、それを象徴したものでした。 しかし、トーマスはそれすらも自らの手で錆びつかせていたとは・・・。 ハハッ! やつはこれが欲しかったのではなかったのか!
地位を失う私が命令できる立場にいられるのはこれが最後です。 だから命令させてもらいます。
”畑”に火を放ちましょう。
私の地位と部下の命を飲み込んだ炎で、今度は彼らの”黄金”を灰にしてやるのです。 私のささやかな復讐ですよ! 一本残らず! 全てを! 灰に!
ハハッハハハッ! 彼らが求めた”黄金”! そのために作り出されたモールドレ! そしてその原材料! それが一面に咲き乱れるこの畑を全て灰に!
この黄金色の薔薇たちを! |
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| 経過報告 |
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| トレル [ 2002/06/30 19:46:35 ] |
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| | カーナは順調に回復向かっている。中毒症状も禁断症状もほぼなくなったと言って良いだろう。大事をとってもう少し入院させたままにしておく。
さて、持ち帰ったモールドレを分析してみたのだが・・・ 材料から精製されたものは薄紅色の粉末状になっており、これを炎で熱することにより赤い液体状に変化する。この液体になったものを冷やしても粉状に戻る事はない。どうやら、炙る事によって組成が変化してしまうのだろう。 粉末状、液体状どちらとも症状に変わりはないが、液体状のもののほうが若干、毒性が低いように思われる。
それから、イエメンの体内から出てきた、赤い液体だが、これはモールドレとは全く違うものであった。モールドレは麻薬であるが、この液体は薬として使用できる。中毒性は皆無に等しく、理想的な麻酔薬となる。しかし、精製方法がわからない事、水晶の小さな小瓶程度の量しかない事から、同じ物を作成するのは無理であろう。この幻の薬の名前はカーナが回復したらつけてもらう事にしよう。
追記: イエメンの遺した種を植木鉢に植えた。モールドレの原料ではあるが、精製方法を知らなければただの黄金色の薔薇だ。 花に罪はない。 診察室に飾れば患者の心を和ませることだろう。 |
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| 夕日色の種 |
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| ピルカ [ 2002/06/30 22:08:09 ] |
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| | ブラウンケーキ、モールドレ、それに関わるもの…… 全部が終わって、みんなそれぞれの日常に戻っていった。
トレル先生の治療院にいるカーナには、エルメスがつきっきりだから、あたしは2日にいっぺんくらい行く事にしてる。 散歩に付き合ったり、良くカーナの病室に来るカナリアに歌を教えてあげたり…。 カーナは相変わらず表情があんまりないけど、少しずつ良くなってるって。
でも、3日空けた今日は治療院には行かなかった。 なんとなく心の整理ができなかったんだ。
今いる場所は、市街からちょっと離れた高台にある見晴し塔。港が一望できる、あたしが見つけた秘密の場所。 時間は夕方。ここから見る夕日はとってもきれいで、まるで黄金みたいな色をしてるの。 海を見ながら、いろんな事を考える。
ドゥーバに教えてもらった、あたし達の前で自分の首を切った人が「甘味屋」って呼ばれてたこと。 トーマスは結局ギルドの上の方の人に引き渡されて、その後どうなったかは分からないってこと。 この出来事は、ギルドにとってはたくさんある事件のうちの一つに過ぎないってこと。 でも、あたし達にとっては忘れる事ができない事件だったってこと。 それでも、時間が経つと忘れられてしまうってこと…。
そして、あたしにできること。 この事件に関わった人達より、ちょっとだけ長く生きられるあたしにできること。
この出来事と、イエメンのことを歌にしようと思うの。 そして、忘れられることが無いようにみんなに聞かせてあげるんだ。
それがきっと、あたしにできること……。
クーナが拾ってあたしにくれた種は、小さな、小さな布袋に詰めてカーナの首から下げてあげた。 …ねぇイエメン、これでずっとカーナと一緒にいられるね。
あの人の最後の言葉だもん。…これで良かったかな、「甘味屋」?
さ、ちょっと遅くなっちゃったけど、治療院に顔出してくるかな。カーナ達が寂しがってるといけないもんね。 |
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| 終了。 |
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| (イベンター) [ 2002/07/11 5:11:04 ] |
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| | (最後の書き込みから10日を経て新規書き込みがないようですので、こちらは終了ということにさせていただきます。 これ以降、この件に関する宿帳がもしもあれば、こちらやEPへリンクを張ることで関連性を持たせてください) |
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