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戸惑いと決意と
リグベイル [ 2002/08/01 19:57:10 ]
 ここオランに来て半月が過ぎようとしている。
そして、その半月の間にさまざまな種族、職種の人々と知り合いになる機会を得た。
だが、私がオランに来たそもそもの目的は、『レックス』で逝ってしまった彼等への哀悼と、何か形見となる様な物が
あれば、それを引き取るためだけ、ただそれだけであり、また直エレミアに帰るつもりだった。
なのに、何故か私はその事に戸惑いを感じていた。
ここでこなした軽い仕事で、『レックス』に行くための路銀はすぐに貯まった。明日にでも出立出来るのに何故かそれ
を躊躇している私がいる。それは、ここで出会った人々が大きく関わっていると思う。
ここで出会った彼等と語り合っている内に、私の中にある『想い』が生まれて来た。
『…冒険とは?そして、冒険者とは?』
今までその冒険者の様な稼業で生きて来ていながら、そう思っている自分に気づいた。
実のところ私は、今まで一度も自分を冒険者だとは思った事がない。建前上そう名乗る事もあるが、心からそう思う事
は、一度もなかった。私にとってこの稼業は生きるための単なる術に過ぎず、それ以上でも以下でもなかった。
だから『レックス』で逝ってしまった彼等が、何故そこまで冒険を求めるのか理解出来なかった。
こう言う稼業に就く私が言うのも変だが、今日と同じ明日を迎える事、それが私にとっては一番であったからである。
だが、その今日と同じ明日を生きている自分自身に最近は苛立ちを覚える。
私も冒険と言うものに惹かれ始めているのだろうか?と自問してみても今の私にその答えは出て来そうにない。
だから、近々あるチャ・ザ大祭が終わったら、その足で今度こそ『レックス』に行こうと思う。
そして、その間に自分の気持ちを少し整理してみようと思う。私自身どうしたいのかと言う事を…。
 
決意と約束と
リグベイル [ 2002/08/08 2:33:54 ]
 『レックス』へ向かう前日の夜、露店で手に入れた珍しい酒を手に私は、きま
まに亭を訪れた。
中を覗くと丁度ここのマスターとロスがなにやら話し込んでいた。
ロスに話しかけると、友のために酒を捧げるトコロだと言う。それならばと私
の持って来た酒も彼等のために捧げる事にした。
その後、ロスと他愛無い話をしているとフイニスのおやっさんが現れた。
入れ替わりにロスは帰ったが、おやっさんが残ったのでそのまま話し続ける事
にした。
暫く話す内、私はおやっさんに何気なく何で冒険をしているのか聞いてみた。
おやっさんは多少困惑した様子だったが、自分にとっての『可能性』だと答え
てくれた。
『可能性』、今の私には縁のない言葉の様にに思える。
私の『可能性』は、あの『事件』を境に永久に失われたと思っていたから…。
だが、もし冒険と言うものに『希望』を見出せたなら、私は変われるかも知れ
ない…とそう思った。
だから私は、『レックス』に行く事を決意した。とりあえずここに来た目的を
果たさなければ、その先に進めないと思ったから。

そして祭りが終わった翌日の朝、私は目的地に向けオランを後にした。
ただ、オランを出る前に出会ったミーナにまたここに帰って来る事を約束させ
られてしまった。
自分の気持ち次第では、そのままエレミアに帰る事も考えていた私は、かなり
軽率な約束を交わしてしまったと少し後悔したが、その後でとても穏やかな気
持ちになっている自分に気づいた。
私がここへ帰って来る事を望む人間がいてくれる、そう思った瞬間、何故か心
がほんの少し、軽くなった様な気がした…。
 
約束と少女と
リグベイル [ 2002/08/09 2:18:45 ]
 オランを出立して2日目の夜、『パダ』まで後1日の行程に位置する森の中で野宿していた私は、それ程遠くない距離で女性の悲鳴と数人の男達の下品な笑い声が聞こえて来た。
何事かと思い、声のした方へ視線を向けると川の縁で手に様々な武器を手にした男達が、少女を囲んでにじり寄っているところだった。
少女は、恐怖のあまり男達から離れようと、後ろに川がある事も失念した様に後ろに歩を進めていった。
(まずいな…、このままでは川に落ちてしまうぞ、あの娘…)
私は、男達に気取られない様に焚き火を手早く消すと、音を立てない様に鎖帷子と腰の長剣を外すと、闇に紛れて彼等に近づいた。
だが、私が近づく間もなく少女は縁から足を踏み外し川へ落ちる音がした。
(クッ、間に合うか)
この川は、川幅もそこそこ広く、流れも速い。しかもこの暗闇だ。少女は無闇にもがくだけで溺れそうになっていた。
私は、戸惑う事なくその川に飛び込んだ。水の中で精霊使いの能力である熱感知を使い、少女を探し当てると彼女の元へ泳いで近づいていった。
彼女を仰向けに抱え、何とか川辺まで辿り着いた私は、そこで彼女が息をしていない事に気づいた。
(水を飲んだのか!?)
私は、人口呼吸と心臓への刺激を続けながら彼女の呼吸が戻る事を懸命に願った。そして私の願いが通じたのか、数分後には彼女の呼吸は正常に戻った。
とりあえず一息ついた私は、周りを警戒しながらその場に暫し留まった。
やがて数刻が過ぎ、周りに静寂が戻って来た事を確認した私は、少女を抱きかかえ、私が野宿していた場所へ歩き始めた。
その場所が、ある程度肉眼で確認出来る場所まで来た私は、少女を近くの草むらに寝かせ、気配を押し殺しながら慎重に近づいた。
ある程度男達の待ち伏せも予想したが、その気配は感じられなかった。だが、私の鎖帷子や長剣、背負い袋などその全てが持ち去られていた。
「…ふむ、参ったな、これは…」
私は少女のところへ帰りながらこの先どうしたものかと思案した。
私が、少女のところへ帰ると彼女は気がついていて周りに不安げな視線を向けいた。
「気がついた様だな…」
私は、出来る限り穏やかに少女に話しかけたが、彼女は私の声に一瞬肩を強ばれた。
「安心しろ、お嬢に危害を加えるつもりはない。その場に居合わせた者としてり行き上、見過ごせず助けただけだ。私はリグベイル、ところでお嬢の名は…?」
私の問いかけにやや戸惑った様子の少女であったが、か細い声でリルと名乗ってくれた。
私はその少女、リルに何故男達に追われていたのかを聞いた。リルは、震える肩を懸命に抱きながら、その訳を話してくれた。
リルの話によると、彼女は狩人の父と薬草師の母との三人暮らしでここの森に住んでいるとの事だった。そして今日の夜中、寝ているところへ突然数人の男が侵入して来たと言う。
リルは、父親の機転により、窓から逃げ出す事が出来たが、それを男達に気づかれ、あの川の縁まで追われて来たのだと言う。
私は、リルが話している間、彼女の一挙手一投足を逃さず見ていたが、どうにも彼女が嘘をついている様には思えなかった。
「なるほど、分かった。では、お嬢の家まで案内してくれるかい?」
私の申し出にリルは、驚きの表情を見せた。
「いや、私の荷物も奴等が持って行ってしまった様でな、取り返さなければななくなったんだよ、奴等を倒してな…」
私が苦笑いを浮かべながらそう言うと、リルはその瞳に涙を一杯に浮かべながら私に抱きついて来た。そして何回もありがとうと私に告げた。
私は、またしても軽率な事を口にしたかと後悔したが、肩を震わせ泣きじゃくるリルの肩に手をおきながら、その少女に昔の自分を重ねていた。
この少女を自分と同じにしてはいけないと、私は心の中で固く誓っていた…。
 
少女と形見と
リグベイル [ 2002/08/10 2:40:34 ]
 私が成り行き上助けた少女、リルの家を襲った男達とはその夜の内に決着がついた。
男達のそのほとんどは、私が野外に仕掛けた罠で捕える事が出来た。男達が傭兵崩れでその手の罠には素人同然だった事とこの月のない夜の闇が私に勝機をもたらしてくれた様に思えた。
だが、首領格の男とは剣を交える事となり、勝利を収めはしたが、その戦闘で右肩に傷を負いそして、長年愛用していた鎖帷子を失う事となった。
父の形見である鎖帷子を失ったのは、私の心に重くのしかかったが、リル達家族の安寧を守る事が出来たのだから、あの世の父も許してくれるだろうと、そう思う事にした。
肩の傷の治療をするため、リルの家に1日程滞在した翌朝、私がリルの家を後にしようとした時、あの鎖帷子が父の形見だった事を知ったリルの父親が、自分が使った物で良ければと硬革の鎧を譲ってくれた。
私はその申し出を快く受け入れ、その硬革の鎧を譲り受けた。
私はリル達に別れを告げ、再び『レックス』を目指すべく、旅立とうとしたが、私を見送るリルの顔が暗い表情をしていたので、どうしたのかと尋ねた。
リルは、形見の鎖帷子を失わせたのは自分のせいたど、落ち込んでいる様であった。
それからリルは、涙目に私に何度もごめんなさいと謝った。
私は、リルの目元を流れる涙を指でそっと拭ってやりながら、彼女にこう諭した。
「人に助けてもらった時は、謝るより先に言わなければいけない言葉があるんだよ」
「……言葉?」
「そう、誰かに助けてもらった時は何よりもまず先に心から『ありがとう』って言わないとね」
「あ、えっとその…助けてくれて…、あ、ありがとう、リグベイルさん」
リルは頬を紅潮させながら、でもとても可愛らしい笑みと共に私にそう言ってくれた。
私の顔にもリルの笑顔に合わせる様に自然と笑みが浮かんでいた…。
 
形見と想いと
リグベイル [ 2002/08/14 15:42:07 ]
 リルの家を後にして約1日、私は当面の目的地であった『パダ』に辿り着いた。この街の北にはかの有名な『レックス』がその巨大な姿を横たえている。
私は、心の奥でざわめく高揚感の様なものに戸惑いながら、一軒の宿、「運命の天秤亭」に立ち寄った。
やはり『レックス』のお膝元である。『パダ』に着いた時から、周りにはそれらしい連中がよく視界に入って来た。
(…『穴熊』と呼ばれてる連中かな?)
私は、乏しい冒険者の知識から、遺跡探索を主な仕事としている冒険者がそう呼ばれている事を思い出した。
私は、取り合えずと言う事でここから彼等の足取りを探す事にした。だが、彼等が消息を絶って既に1年が経とうとしている。正直、どれだけの情報が集まるか分からなかったが、やれるだけの事はしようと思った。
そして、その想いが通じたのかどうかは分からないが、運良くこの宿で彼等の挑んだ遺跡の入り口が分かった。彼等がパーティーの証として身に着けていたリボンが大きな決め手となった。
私は、その宿で夜を過ごし、翌朝、彼等の挑んだ遺跡へ大きな酒瓶を抱え赴いた。
私は、たぶん彼等の唯一の形見となった同じリボンを見つめながら彼等が何故この遺跡に挑んだのか、その事に想いをはせていた。
二刻程歩いたところにその遺跡が大きな口を開けて待っていた。私は、手ごろな岩に座り、酒瓶の口を開けるとそれを一口含んで飲み干した後、残りを地面へと捧げた。
「バルト、ハイナン、ロベル、フェイド…、来たよ。」
私は、それだけ言うと口を閉じた。
(…みんな、私、今迷ってんだ…。どうしたら良いと思う…?)
私は、暫くの間、心の中で彼等と言葉を交わした。
「…さて、私は行くよ。今日はみんなと話が出来て良かったと思う」
私は、またな、と小さく呟くとそこを後にした…。
 
想いと戸惑いと
リグベイル [ 2002/09/18 23:03:10 ]
 「運命の天秤亭」で痛飲した翌朝、私はけだるい気持ちを何とかはねのけ、再び旅支度を始めていた。
理由は一つ、オランに戻るためである。
私は、『パダ』で過ごした数日間で、冒険者としての目的を見つける事が出来た。
目的と言うのは他でもない、その目的を探すための目的、冒険者としての自分を探すために冒険者になる、と言う事である。
何とも矛盾した考えであるが、どことなしに私は満足していた。
冒険をする目的がないのならそれを探す事をこそ冒険の目的とすれば良いのである。
だが、こんな安易な答えで良いのだろうか?と言う戸惑いも私の心の中にわだかまっている事は、否定出来ない。
しかし、例え幼稚な答えでも、私自身が導き出した答えである。その事に関してだけは、誰の引け目も感じる必要はないと思った。
「…じゃ、また。今度はちゃんとした冒険者として来るかもしれないが、その時はよろしくな」
私は、宿の店員にそう別れを告げると、『パダ』を後にした。
(…何とも言えない高揚感が、身体の内から湧いて来る様だ)
私は、はやる気持ちを押さえながら、だがそんな自分を楽しむ様に、軽快な足取りでオランへ至る街道を歩み出していた…。