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店長の憂鬱
マックス [ 2002/12/15 4:38:19 ]
  客と信仰について少し話した。
 大した話題でもない。が、ちょっと昔を思い出した。

 オレは知識神ラーダを信仰している。
 昔の仲間がラーダ信者というのがそもそものきっかけだ。
 もちろんそれまでにも信仰していたものはあった。ただ、タイデルという街というのもあり、祭りのすごさと楽しさからどの神も等しく信仰していたと言うべきか、いや、親父たちが信仰をしていたファリスの影響が強かったか。

 冒険の中で、知識の重要性を解き、知らないことを罪と罵倒する彼女の影響でオレは少しずつ、ラーダを信じるようになった。
 実際、知識を得る。知ることを積み重ねていくと思った以上にことが巧く運んだりした。そうした恩恵もあり、迷いが出ても導いてくれる安心からオレ以外も彼女の話を聞くようになった。

 信仰を絶対的なものにしたのは、彼女を失ってからだ。
 そのとき仲間もほとんど死んだ。
 苦境に立たされる度に彼女の言葉が思い出された。

 結局、オレの信仰ってのはラーダではありつつも、彼女の言葉を信じているに過ぎないのかも知れない。だから、神の声は聞こえはしない。
 神の声が聞こえずとも、オレは今の信仰心に満足している。ラーダの教えを守ろうと思う。それが彼女との約束でもあり、手向けであるとも思うからだ。

 何度繰り返したか判らない“あのとき”の言葉。
 既に遠い昔のこと。
 悔やんでも悔やみきれない。遺跡を“知らない”ために招いた悲劇。

 その教訓を胸に刻むためにも、ラーダの教えを守る。

 神を信じるに「なんとなく」と答えた青年。落ち着くだのなんとか言っていたが、信じることになった理由はあるはずだ。それがまだよく見えていないだけで。どういう道を経るかそれぞれだが、自分のような経験はしてほしくはないと思う一日でもあった。
 
枯れた遺跡
マックス [ 2002/12/21 13:41:24 ]
  まったく、リグベイルは枯れた遺跡を甘く見過ぎている。まぁ、まだまだこれからということか。無事であっただけ誉めるべきか。

 “枯れ遺跡”に何もないと誰が決めた?
 古代の秘宝はそりゃなかろう。
 そうじゃなく、宝を隠しておきたい連中。持ち歩いたり預けることができない奴は? モンスターの巣になることもあれば、邪教徒の隠れ家になることだってある。

 そんな可能性も秘めているから、駆け出し連中にはいい練習の場になる。松明を用意し、ロープやら楔を揃え、隊列を決め、潜り込む。閉鎖的環境、手元の灯りを失う恐怖・・・。そういったものを教えてくれる場所でもある。
 そこで「枯れた遺跡」と早々に諦めて引き返す程度の駆け出し連中なら、この道に入るのを諦めさすことも可能ってものだ。冒険者は渋とくどん欲でなければな。

 この分じゃ、リグベイルには大きなヤマは回せぬな。
 
思い出したくもない
マックス [ 2002/12/21 14:07:51 ]
  巣穴・・・ギルドからの手紙をラスが持ってきた。
 そーか、こんな遣いをさせられるようになったか。

 内容は単に報告だ。オレの店に忍び込んだモグリの始末。
 そう、ギルドには高い納め金を支払っている。まぁ、払わずにおいてもいいんだが、そうしておいた方が客が調べごとするのに、ちょいと面倒をみてくれもする。トラブルにも巻き込まれにくい。巻き込まれたとしても大きな顔ができるしな。第一に客の財産を守ることができる。

 つまり、納め金を支払う代わりに、特別扱いを受けるわけだ。ギルドの手の者はいっさいオレの店では“仕事”はしない。これを破ればギルドの仕置きが待っている。ただ、例外がモグリだ。こいつばかりはギルドに金を払ったところで関係なしだ。
 先月それにやられた。
 だから文句言ってやったのさ。
「よそ者にいい顔して仕事されるとは大した管理だな」
 高い金を払うからできるでかい態度。ギルドといえ、義は通してもらわんとな。お互い信用しないと。

 ・・・信用。そう信用しないとね。
 それも場合によりけりだな。

 モグリが狩られる賭があるとか・・・。前回、それに一枚乗って手痛い目にあった。
 オレだって賭くらいはする。そんな大金じゃない。しかも引き際を心得ているつもりだ。損するのは嫌いだでな。それに大元が儲かるようになっている賭で、本気でのめり込むもんでもない。理性的に考えれば誰でも判ることだ。

 言葉に乗せられて、奴を信用して、半年貯めていた小遣いを注ぎ込んだ。安目だが、確実というもんだ。元金に僅かにプラスになるかどうかというものだ。誰もが同じ予想をした。大穴なんて考えられなかった。賭自体成立しないとさえ言われていた。大元だって、「こりゃ儲けにならねぇ、サービスだな」と諦めていた。それを信用したのが馬鹿だった。

 大金をかければちょっとした金にはなる。“娘の服でも”と脳裏に過ぎったのがまずかった。

 別に店の金に手をつけたわけでも、家の金でもない。純粋に小遣いだ。それが消えただけのこと。

 ったく、腹が立つやら情けないやら。まぁ、こういう痛手があるからこそ、賭ってのは面白いもんだがな。リスクのない報酬などありえねぇ。冒険者ってのがまさしくそれだ。

 あーあ、早く春にでもならねぇかなぁ。
 スカーっと山にでも駆け回りたいぜっ。
 
熾き
マックス [ 2002/12/29 11:41:43 ]
  この時季にもなると、火鉢を出す。
 店には暖炉という物がない。必要ないからなかったのか、建てた本人になにか思惑があったかも知れない。それを知る術がないため、暖炉代わりの火鉢を置く。今のところそれで問題は起きてない。

 火鉢に赤く燃えた炭を置く。
 熾きとなったそれは、見た目以上の熱を周りに放射する。

 野営の時など薪が燃えたあとに、炭のような熾きになる。炎は立たないが、この柔らかな赤い光を見ているとどこか落ち着く。それを枝でかき混ぜ、火の粉が舞う。そんな火いじりがオレは好きだ。

 ユーニスが「火鉢の火でお湯を沸かしてても、お魚あぶってても何故か楽しいですよね。親しみ深い火、というのか」と言っていた。
 確かに、薪の炎と違い、熾きは何かと使い勝手がいい。明るさこそないが、熱の調節や調理などにも具合がいい。
「炭火の中の火蜥蜴さんって、何となく楽しそうに見えます」と言う彼女の言葉に、同じ火でも精霊の見え方も違うのかと思う。

 確かに、そよ風と突風じゃ、風精霊の見え方は違うだろうからな。薪の炎と熾き、違いは十分にある。精霊を見ることはできないが、火蜥蜴が楽しそうにしているというのはなんとなく判る。なんせ炎より熾きの方が、遙かに熱いからな。余波と言うべきか、体を突き抜けるような熱を放射しているようにさえ思う。

 火鉢に炭を入れ終わると、店内がほんのりと温かくなるのが判る。
 この暖を求め来る客の顔を見るのも楽しみの一つだ。

 冬場はなにかと仕事が乏しくなる。自然と酒場にいる時間が増える。
 その熱い語らいに熱を添えているのが、こんな熾きなのかもしれない。

 オレはおもむろに火ばしで熾きをかき混ぜる。舞い上がった火の粉の向こうに客が入ってくるのが見えた。
 
懐かしき顔
マックス [ 2002/12/29 13:04:54 ]
  こういう仕事をしていると、常連であった客がふいに見なくなることがある。律儀に出立の知らせをしてくる奴もいれば、そうでないのも多い。

 どこでどう過ごしているのか、とっくにくたばりこの世にはいないのか分かりはしない。見なくなった冒険者たちのことを考えてもはじまらない。毎日、入れ替わり立ち替わり、新顔が現れては、消えていく。

 寂しい限りだが、生きていく上では当たり前のこと。ましてや冒険者の店なんだからな。いちいち感傷に浸っていては仕事にならん。戻ってこなければ、そいつに実力がなかっただけのこと。

 それでも久しく見なかった顔を見ると、嬉しくなる。感傷に浸りはしないが、心を枯らしたわけではない。

 二年か三年か・・・そのくらい空けていた奴がふいに顔を見せた。
 ナヴァルという馬好きの男。歳はオレと同じかそこらか。
 愛馬、イヲマンテを駆りあちこち放浪している奴だ。
 前も独特の話し方で、いろんな事を聞かせてくれた。
 少々、からかいが混じるようになった分、どこぞでの影響があったと見えるが、相変わらずな調子であった。

 また、しばらくは奴の旅話でも聞けそうだな。

 戻らぬ冒険者になにも思うことはないが、戻った奴には期待させてもらうぞ。
 奴の好きな馬乳酒でも仕入れてくるか。
 
斡旋
マックス [ 2003/01/27 1:00:55 ]
  冒険者の店の仕事の一つに、「斡旋」がある。まぁ、これが主な仕事と言っても差し障りはなかろう。
 この斡旋を求めて、奴らは集まり、酒を飲み食事をしていく。

 生憎と、オレの店じゃ古代王国の品は楽器しか扱っちゃいない。それ以外は、他の店を紹介している。古代の品を扱わぬというのは収入として大きな損失と言える。だが、元手もなければ手が出せぬ分野であるのも間違いじゃない。
 魔法の品なぞ、幾らすると思っている。目利きの確かさも必要だが、資金調達の方が難しい。あれは、老舗の扉亭にでも運んでもらえればいいさ。

 それ故、斡旋での紹介料は収入として大事だ。酒や食事の方が遙かに額としては大きいんだが、この実入りも軽視できない。時として赤字もあるんだがな。

 報酬の一割ってのが斡旋料の相場だ。高い報酬なら、店に入る分も多い。それだけ難解な仕事が入れば入るほどありがたいもんだが、そうなると引き受ける冒険者がいないときたもんだ。なかなか巧くはいかんさ。

 今日みたいに、噂先行できた話を「仕事」として成立させるために投資を行う必要もある。
 海岸沿いの畑が怪物に荒らされている。領民が冒険者に依頼してくるのをじっと待つのも手だが、それでは通りがけの冒険者が引き受けて片づけてしまうかもしれん。領主たるベイターが従者を従えて討伐に出かけるかもしれん。そうなっては店には一ガメルも入らん。

 そこで、冒険者を使って、仕事として成立できるよう動いてもらうのだ。退治に行くのと違い腕っ節は重要じゃない。むしろ口が達者な方がいい。今日来た奴(ケヴィン)はまだまだ未熟だが、実直さはあろう。
 今回はそれに賭けてみることにした。奴に支払う報酬は、仕事が入ると仮定しての先行投資だ。奴が失敗すれば損害となる。

 それでも、ここでパーティ組んでいる連中に話を持ちかけ、行き当たりばったりで退治が可能か向かわせるよりはいい。

 怪物は、おそらくクラブだ。とんでもないでかさのな。雑食性であり、野菜だろうが家畜だろうが食う。奴の甲羅はプレート並に堅い。下手な戦士じゃ歯も立たんだろう。
 ベイターが負担の大きさを認知してくれりゃあ、こっちにも見込みがあるんだが、真面目な貴族というものはいてありがたいが、商売敵になるのが難点だな。

 さて、あいつ(ケヴィン)が帰ってくるのが楽しみだな。
 
犠牲
マックス [ 2003/02/06 23:58:21 ]
  仕事にしろ、冒険にしろ、犠牲は出るときは出る。
 市民でもあれば、子供でもある。仲間でもあれば師であることもある。

 例え自分の責任でなくとも、痛烈に痛みを感じる。
「ああしていれば、こうしていれば」なんてことを繰り返し考えてしまう。けれど、失った者は戻らない。
 次ぎ、犠牲を出さないためにどう動けるか。そのくらいしか対処のしようがない。そう思っても出てしまうことがある。

 結局、オレたちのできることは祈るのみ。頭を下げて祈るのみ。

 ダルスとの話で、幾つかの苦い経験を思い出した。
 自分を慕ってくれた若者。宿を貸してくれた婆さん。共に遺跡に潜った仲間たち。
 エールをいっぱいに注ぎ飲み干す。冥福を祈って。

 そして一人でも少なくするべく、全力を尽くす。それだけだ。
 
雪山
マックス [ 2003/03/01 0:58:46 ]
  ヴァントーザが「雪山に行くのか?」と訪ねてきた。
 最近は出かけぬことを伝えると「理由もなく行くことはないか」と洩らした。

 雪山は普通の山と違い、別の魅力がある。
 狩りや採取などの理由がなくとも行きたくなるときがある。それが雪山だ。

 あの真っ白な世界。雪の季節以外では下生えが邪魔をして歩けぬ場所をなんなく行くことができる。思い通りに歩き回れるのだ。これはすごい。

 雪に埋もれ踏み込んだ足が抜けないこともままある。体温が上昇し、半袖になったところで平気でもある。
 誰も通らぬ場所、誰も来ない場所、自分だけの世界が得られるのだ。
 理由なくして行くだけの価値がそこにある。

 ただ、そこに行くまでの距離が近ければだ。
 オランから雪山まではそれなりにある。ただ自然を満喫するだけでは赴けない。春先や秋はまだ収穫を土産に帰れるからいいものの、冬じゃそうはいかない。

 雪山かぁ。
 
保証金
マックス [ 2003/03/07 0:02:47 ]
  冒険者の仕事にもいろいろある。
 その中でも「保証金」を必要とするものがある。仕事を受ける側がまず金を払わなければならないものだ。

 荷運びや、護衛など品物が高価であったり、失せたり、傷付けられては大変な損害が出る場合に求められる。冒険者にも責任を負わせるためだ。自分で金を支払ってまで請け負う仕事であるから、保証金は無事返してもらいたい。となれば仕事にも真剣味が入り、つまらぬ失敗が避けられるという寸法だ。
 もちろんそうした物の報酬は、他の物より見入りがいいというのもある。

 また冒険者ギルドが信用した相手ではないと、依頼を受け付けないため冒険者としても安心して受けられるメリットがある。ただ、金銭に困る者には手のでない仕事ではあるが。

 今日、そんな仕事を請け負った二人がいる(ザッシュ、ソラリス)。
 ザッシュは手持ちがないということで、使い慣れた剣を担保にしてきた。真っ直ぐな目を持つ、好青年だ。
 なんでも剣以外でも道を開きたいというようなことを言っていた。戦士としていい心がけだ。

 その場に居合わせたソラリスが、荷運びの手伝いを買って出てくれたから、結果的には保証金は彼女が支払い、剣は担保にならなかった。

 使い慣れた剣があるとないとでは、槌を慣れるためということでも安心感に差が出るからな。
 トラブルもなく終えるとは思うが、奴らが帰ってくるのが楽しみだ。
 
神官のあるべき姿
マックス [ 2003/03/08 1:35:33 ]
  今日は、マイリー神官のミルドレッドと話をしたな。
 神殿から出るか、留まるか、そんな話だ。

 オレは神官じゃないから、彼女らの考えがどこにあるのかは判らない。
 フリーで動くこと、神殿内で働くことで救う人々は大きく変わるだろう。神殿にいては、神殿の範囲でしか人々を導けぬし、人が多すぎるために個人一人一人の悩み、相談などが希薄になる。個人で動いては資金面、範囲において神殿に遠く及ばない。自分の対応できないことを司祭に頼むようなこともできない。

 短所を挙げればどちらも似たようなものだ。どちらも信者のため頑張ってくれているわけだしな。あとは神官の思うようにすればいい。
「出会ったものしか導けぬ」
 誰の言葉だったか覚えていないが、そんな言葉がある。
 導いた数の多さを誇る神官なんて聞いたこともない。少ないからそれが悪いことでもないしな。僻地に赴ける神官ってのもすげーと思うし、ありがたい。

 彼女は借金も抱えているようだから、金を稼がなければと思うならフリーを薦める。ただ信仰ってのは金だけの問題でもないからな。
 今後の彼女の動向を楽しみにするとしよう。
 
道一筋に生きる
マックス [ 2003/03/12 0:19:45 ]
  今日話した客の中で、知り合い(ザッシュ)が剣以外の武器に手を出しはじめている事に懸念の色を示している奴(ヴァントーザ)がいた。

 そいつも昔、同じようなことをして結局は一つの武器に落ち着くことになったため、知り合いのすることが理解できない様子であった。

 何があって、あいつが剣以外に手を出したかは判らぬが、剣以外に手を出すというのは大事な経験をしたからではないかと思う。
 冒険者が突如、銀製の武器に買い換える場合は、大抵いままでの武器がまったく効果を現さないときだ。斬りつけているのに素通りする。幻でも見ているかのような感触。だが敵からは攻撃が当たる。

 そんな恐ろしい体験をして命があるならば、銀製の武器に変えるのはごく当然のことである。

 もしかしたらそれに通じるものをあいつ(ザッシュ)は感じたのではないかと思う。だからこそ槌を買ったのだろうし。

 それでも奴(ヴァントーザ)は、それでも単一に一つの武器をマスターすることを望んでいるようだったな。

 冒険なんてものはいくら注意したところで注意しきれるものではない。石橋をいつまでも叩いては歩けない。どこかで腹をくくらねばならん。
 剣が通じにくい敵が出たら「覚悟する」。それで十分だとでも言いたげだ。
 魔法や銀の武器のように、攻撃そのものが効かなくなる相手では、武器の種類を問うたところでそれ以前の問題だ。だが剣であれ効く相手なら、その武器の最大の利点を心得て振る舞える方が総合的にはよい場合がある。

 この辺りは性格の問題と言える。

 覚悟で片づけられるかなんてのも、実際その状況に陥らぬことには判断しようもないんだがな。

 さて、あの二人はどう議論づけるのやら。
 
遺跡潜りの心構え
マックス [ 2003/03/23 1:26:49 ]
  ユーニスの奴がアルファーンズたちと遺跡に潜ることになったらしい。枯れてない遺跡だとか言っていたが、ちょいと心配でもある。
 アルファーンズのことだからさらえる資料は全部目を通しているとは思うがな。

 とはいえ、遺跡ってのは資料で得られる情報ってのは知れている。特に今時分まで荒らされていない遺跡となれば資料がないのは当然とも。関連する資料から、その遺跡の規模なり価値なり、脅威の度合を計るんだが当てになるやらならんやら。

 一番確実なのは、下見に行かせることだ。時間も労力もかかるが、下見の段階で、遺跡の感触は資料以上に掴める。自分たちの手に負える代物かどうかってのを見極めぬとな。これができりゃあ、大方の心配は拭えるが、なかなかできないってのが実状だ。それだけに未発掘の遺跡の生還率は芳しくない。

 大事に発展することがなればいいが。
 ユーニスは、「弓にできることはないか?」と訪ねてきたが、遺跡相手じゃ、野伏の役割なんてなきに等しい。自然洞窟でもあればまだしもだが、それでも屋外で培った感は活かし切れぬ。

 野伏は、遺跡にたどり着くまでがその役目だ。自然の驚異、要らぬ遭遇戦を避け、披露少なく現地に到着することが弓としての役割だ。
 ただもう一つ、遺跡内で「引き返すタイミング」を進言してやる役目も担えると言えばそうだろう。
 とかく慣れる山、森では己の体力を過信し過ぎる帰来がある。冒険者たれば自分の体調管理はできるものだが、遺跡内での緊張の連続や、宝を見つけて舞い上がるなど、感情の起伏が多いと安心していはいられない。そういう場合でも、冷静に「引き返し」や「休息」の進言を果たすのが野伏の役目とオレは考える。

 遺跡ってのは時間に迫られない限りはゆっくり後略できる楽なところだ。その時間をいかに短縮できるかが冒険者としての技量ってもんだが、慣れぬ遺跡に時間を気にしてもはじまらん。

 ともあれ、奴らが満面の笑みを浮かべて戻ってくる日を心待ちにするとしよう。
 
気のいい草原妖精
マックス [ 2003/03/23 2:59:32 ]
  コパという草原妖精が流れてきた。
 ミラルゴ出身の気持ちいい奴だ。

 歌の話、楽器の話をし、仕事を一つ斡旋してやった。

 なんでもメニューを見るのが面倒なようで、薦められるのが一番いいとか言う。通い詰める前からそれってのも珍しい気もするが、まぁ、任せてくれれば適当に出してやる。

 オレの語る冒険譚を歌にしてくれるとも言っていたか。リーフというそこいらでは見かけないハープに似た楽器を持っていたが、腕前は聴けなかったな。次ぎ来たときは一曲頼むとしようか。
 オレの話から歌ができるってのもいいもんだでな。

 とりあえずゼイレム爺さんところの倉庫整理をしっかりやってきてもらおう。草原妖精の器用さなら、あの几帳面爺さんでも文句は出んだろ。ただ気がかりなのは、草原妖精故の好奇心の多さだな。

 冒険者としてやっていくならそこいらは大丈夫と思いたいが、奴ら意識せずに問題を巻き起こすでな。何もなければいいんだが。
 
森妖精の好み
マックス [ 2003/03/26 22:27:43 ]
  久し振りに森妖精(ルーファス)と長々と話した。
 森妖精とは割と気が合う。何故かと問われると森妖精の生き方というか、生活や自然への接し方が好きだからかもしれない。

 ディアルバクレにロエティシア、親しくなるのは少ないが今日来た彼も似た雰囲気を持つ。味付けは薄めで、ハーブなどの香草が好み。肉より魚を求めるあたりも同じだ。

 鼻が大層利くようで、鱒のムニエルに使ったハーブを言い当ててきた。それもそのはず薬草師の技術があるとのこと。これはまた貴重な知識を持つ森妖精が訪れたものだ。

 知り合い(レディアース)を待つというらしいが、その間が2、3年というのだから彼らの時間に関する感じ方の違いは知っていても驚いてしまう。とはいえ、木の根元に座して五日もいられる感覚など持ち合わせたいとも思わぬが。

 それでもその感覚のお陰で、ここしばらくは通ってくれるそうなので店としても、オレとしても嬉しい限りだ。
 さて、今度会ったら何の話題を話そうか。
 
情緒不安定な半妖精
マックス [ 2003/03/30 18:37:38 ]
  ヴァリサスという半妖精と久しぶりに話をした。
 酒も大分入り、弱気な発言が目立った。
 
 半妖精であることを一切気にしていない奴は果たしているのだろうか?
 誰であれ、生まれの不幸を痛感し、乗り越えて今があるんではないだろうか。彼はまだそれが乗り越えられていないだけ。面構えも若そうだったしな。

 自分の不幸を乗り越えられぬ者など、頼りになるはずもない。図体ばかり大人であったところでメンタル面が弱ければ子供と同じだ。
 よくこれまで生き残ってこれたと思う。運が味方にあるのかもしれん。それは重要な要素だが、運がいいからといって仲間になってくれる奴などそうはいない。現に居合わせたミーナを仲間に誘っていたが、きっぱり断られている。
 もっとも断った理由はデリカシーの欠片もない話題を彼女に振ったというのが元々にあるし、彼女は独り身ではない(リグベイルと組んでいる)。ひいき目に見てもオレでも組むのは遠慮したい奴だ。

 今まで生き残っていることからも剣の腕前はそこそこあるのかもしれん。森妖精の血を受け継ぎ器用なところもあるだろうからな。とはいえ、仲間となってヴァリサスの暗い話題につき合わされるのはご免だ。オレは神官や司祭じゃない。救済を望むなら神殿の門戸を叩くべきだ。今、奴に必要なのはそれでないかと思う。

 奴(ヴァリサス)は「過去を整理する」とか言っていたか。それだけ多くの事情があったんだろう。オレには想像もできんことだ。

 生憎とオレは両親健在、兄姉にも恵まれ、貧乏でもなくタイデルの町中で温々と育った。冒険者ってのも兄の影響を受けて飛び出したくちで、食うに困るとか、それしか道がないというもんじゃなかった。だから不幸過ぎる連中の奥底にある感情は判らない。

 判ってやったところでどうすることもできんからだ。慰めたり、励ますことくらいはしてやれる。しかし、それで過去は清算されるもんじゃない。オレとて冒険している最中じゃ、不幸はいくらでも体験した。でもそれは他人の手で癒されるものでない。きっかけはあったとしてもな。自分でどうにかするしかないんだ。

 ヴァリサスにはそれがまだできてないと思える。
 ちょっと厳しい扱いをしているが、冒険者は常に上を向いていなきゃならん。肩を落とし無闇に誰かにすがろうとしては、死に神にもろとも引きずられかねん。そうなってからじゃ遅い。

「自分のパーティーを作ってみようと思うんだ」
 こういう言葉も出てくるからまだまだイケる。店としてはまだ手伝う段階になってないと判断し断ったが、自分で仲間を集め切れれば大丈夫だろう。奴の言ったとおり時間はかかるかもしれんがな。

 ちょいと気にかかる奴が出てきて、お節介を焼いてしまいそうでかなわんな。
 
駆け出した娘
マックス [ 2003/03/30 20:00:38 ]
  ヴァリサスと一緒にいたのがミーナだ。まだまだ駆け出しの域を出ない危なっかしい娘だが何かと手を掛けてやりたい雰囲気が彼女にはある。彼とは正反対だな。

 先日、仕事がないかと頼ってきたから届け物の仕事を回してやった。賃金は安く手間の割には面倒もあったりするから、彼女には向いていないとも思ったが、一人でできる仕事が他に明いてなかったから仕方ない。

 彼女はいつもリグベイルと組んで仕事をこなしている。そのリグが、別の仕事に出かけたまま戻らない。うちの店から回した仕事じゃないから、万が一を考え様子見を向かわせるわけにもいかん。約束の期日を過ぎて戻らぬ場合は、冒険者ギルドが負担して救助、手助けに向かったりするものだが、そうでないものまで面倒は見きれない。

 冷たい扱いになるかもしれんが、ギルドを通さぬ仕事、通しても「保証無し」の仕事はそれなりのリスクを背負うということだ。店に入れるマージンを浮かす為、依頼者と冒険者がダイレクトにやり取りすることは頷けることだ。冒険者としてそれが得になるか損になるかは自分たちだけでなく、回りの冒険者のことや長期的視野を持って行動してもらいたい。

 ミーナが心配するのは当然だ。彼女も頼りになる仲間がいたら、駆けつけて無事かどうかを確認したいのではなかろうか?
 それができない彼女はリグを信じて待つことにした。ただ待つだけでは身銭は減るだけだ。彼女なりに一人でできる仕事を探していたからオレも回す気になった。安くてもなにもせぬよりは金になる。駆け出し時分はそうして食いつなぐしかないんだ。

 しかしどうだ。報告を聞けばカリネス爺さんから次の仕事をもらったとか言うじゃないか。まったく大した娘だ。あの堅物親父が一度会った娘を次の仕事を頼むとは気に入られた証拠だ。本人は自覚ないようだが、安い仕事でも嫌な顔見せず頑張ったから、汲み取ってくれたんだろう。相変わらず怒鳴る毎日のようだが。

 駆け出しの冒険者が駆け出せば直ぐに前の奴に追いつける。彼女の頑張りを改めてみて、今後の成長がより楽しみとなった一日だった。
 
年の瀬
マックス [ 2003/12/27 1:18:40 ]
 この時季は、仕事も少なくなる。
あるといえば、値の釣り上げられそうにない仕事ばかりだ。
新しい年を迎える前に、妖魔やらの怪物などを掃討しておこうという腹だ。大体は実害が出ておらず、取り急ぎ危険な状況でないもの。
それでも排除できればしておきたいもの。
自警団や騎士や神官に怪我は負わせたくなく、それでいてできるだけ安く済ませたい村や地方領主、各神殿が依頼主となる。
まったく、冒険者にとってはかなわん依頼ばかりだ。

仕事が少なくなると、取り合いということになるはずだが、どの冒険者も冬場はあまり稼がなくてもいいように貯めておくため、そうでもない。
だいたいはオフとしてのんびり過ごしたりしている。
もちろん仕事をする奴はしているんだが、ほとんど町の中で済ませられるものや、過酷でないものが大半だ。
冒険者といえ、冬の寒さは堪えるってことだ。郊外や、より寒い山村まで出かけることは勘弁したいってところが本音である。

ただ、そう思っても現実の懐事情が問題となり、温かくなるまでどうこうできるって奴らばかりでないことも確かなこと。
そういう背景もあって、この時季、足下を見られる依頼が増えるのだ。単に初心者や駆け出しだから安いってものとはまた違った安さとなるから質が悪い。

交渉しようにも、相手は端から「受けなくてもいい」という心積もりであるため、値の釣り上げようがない。

気の毒だが、引き受ける冒険者には「来年はしっかり貯めておけ」と言うしかない。中にはなんとも思っていない面々もいるにはいるが。

さて、寒いこの時季、うちの常連たちはどう過ごすかな。

 
冬の冒険者
マックス [ 2004/01/11 13:41:18 ]
  ギグスが仕事を求めてきた。この時季に仕事をとなると、気の毒と感じてしまう。割のいい話があればと思うが、なかなかそういうわけにはいかない。前回の森での仕事が堪えたのか、森関係は外してくれという。残って彼ができそうなものを探すと、沼地の怪物退治と海岸脇にある洞窟に棲みついた何かを排除することであった。
 この寒い時季に水回りの仕事とは酷だと思うが、森関係を外すとなるとそういうものしか残らなくなる。彼は海岸のものを選んだ。

 詳しい情報はほとんどなく、春先の祭り前までに排除できればいいと考えているためか、報酬は芳しくない。情報が不明瞭であれば報酬は引き上げられるものだが、依頼者は春先までにいなくなる可能性も視野にいれているようで応じてくれない。このくらいの安い額でも引き受けざる得ない冒険者の存在を期待しているようだ。
 
 こういう悪条件の依頼は、冒険者ギルドでも信用の保証の対象などはならない。春先まで受け手がいなくても依頼者は落胆することはない。そうなったとき改めて考えるとのこと。まったくやりにくい依頼者である。この時季の仕事は大半がこういうものとなる。希に緊急の仕事で割がいいものが出るが、競争が激しくありつけるかどうか難しい。
 
 棲みついたものの調査のみで半額という条件を取り付けた甲斐もあり、ギグスは乗り気となった。調査だけなら少人数でもできる。丁度居合わせたルクスに声をかけた。確かに二人なら半額の報酬でも安めの報酬ぐらいで済む。これが5、6人のパーティだととても引き受けられたものじゃない。それでも引き受けていくしかないのがこの時季の哀しいところ。
 
「入り込んだモンがヤバイ奴のときは上乗せがあんだろ?」

 この時季の仕事にそういう普通の対応を求めてはいけない。足下を見られているのだ。オレはその可能性がないことを説明し、調査のみで逃げ帰ればいいと話した。彼も少し思案したのち、引き受けることにした。

 大したことのない仕事であればと思う。どうせなら排除も済ませ、満額報酬を貰えることを期待したい。
 どんな安い仕事も、そこから次ぎに繋がる何かがあることは否定できない。
 
「洞穴の奥になんたらっていう英雄が残した宝でもあるのか?」

 そんな噂は一度も耳にしたことはないが、何もない確証もあるわけじゃない。村人の信用を勝ち取り、他の仕事が舞い込むことも考えられるし、道中にいい仕事が舞い込むかもしれない。酒場で懐の寂しさを嘆いたところで、状況は好転しないのだから。
 安い仕事も何かのきっかけとなればと思う。
 
 さて、ルクスがクルシナの実を採ってきてくれたお陰で、あの食感を楽しめられそうだな。
 こうして常連たちがあちこちで食材を持ち帰ってくれるお陰で思いもよらぬメニューが用意できるのはありがたい。
 形や質や量などバラバラで、ときには使えないものもあるが市場を通すよりは安く買える。採取してくる過程の話を聞くのも楽しい。あまり還元してやれないのが申し訳ないところだが、多くの者は一食おごられるのを最もの楽しみにしているようだ。自分の採ってきたものは格別ってことらしい。
 今晩の一品はクルシナのスープで決まりだ。数が少ないだけに大した量は作れぬがな。ルクス以外は早い者勝ちだ。