| MENU | HOME |

無頼風録
リグベイルPL [ 2002/12/21 4:25:40 ]
 【オラン来訪:514年夏】

レックスで命を落としたと思われる、恩人の冒険者達の弔いをする為、オランを訪れる。(#{144}参照)

【相棒:514年夏】

レックスからオランへ戻った直後、精霊使いの少女ミーナと組んで細々と冒険者稼業を始める。(雑記帳0014「厄介な夜番」参照)

【遺跡探索:514年秋】

酒場で知り合ったアルファーンズ等と共に再びレックスへ。枯れた遺跡”マーニャの鏡”を探索する。

【遺跡探索:514年冬】

偶然見つけた遺跡をもとに、ミーナ、ロビン、アルファーンズ、ノースクリフ、フォルティナート等と共に枯れた遺跡”ナズゥ”を探索する。(雑記帳0017「”ナズゥの枯れ遺跡”探索記」参照)


【普段の行動】

日課として傭兵ギルドかマイリー神殿の修練場にて、剣の稽古をしている事はままある。
 
未熟
リグベイル [ 2002/12/21 4:48:55 ]
 ”ナズゥ”から戻って久々に”きままに亭”を訪れた。

中に入ると丁度マスターと目が合い、早速行って来た遺跡の話に。

そして、マスターと言葉を交わす度に思い知らされる自分の未熟さ。

だが、それでも満足感が無いわけではない、少しずつではあるが、冒険者として生きている自分を実感する。

…望むべき高みはまだ遥か遠くにあるが、何時か絶対に辿り着いてやる…
 
再戦の決意
リグベイル [ 2002/12/22 5:05:24 ]
 定宿である”軍鶏の檻亭”のマスターに最近行って来た遺跡の事で話し込む、すると”きままに亭”のマスターとほぼ同じ様な反応が返って来た。

二晩続けて同じ事を言われると、ちょっとムカッと来た。

だって私達が行った時は何もなかったんだ、仕方がない、そう言う時もある…

マスターはそんな私を見て鼻先でかすかに笑った様に見えた”何も分かっちゃいねぇな、こいつは”と言いたげな表情と共に…

何かその顔を見たらますますムカッと来た…よぉ〜し、こうなったら何か見つけるまでとことん付き合ってやる”ナズゥ”にな!

そう心の内で思っていたら、”ナズゥ”を調べた張本人のロビンとこれまた珍しいカレンが寄って来た。

ロビンは”あの遺跡には何もなかった!!”と自分の腕の確かさを主張し、カレンは”そんなにマスター達の言葉が気になるんなら再挑戦すれば?”と何気なく言う。

あぁ言われるまでもない、もうこっちはその気になっていたんだから…

でも今度はもっとしっかりと調べをつけてからにしようとも思った。前回の事で調査不足は痛感したしなぁ。

とりあえずは他の仕事と併行してやって行こうと思う。何かロビンも”剣ではなく鍵のロビンを見せる!”ってカレンに意気込んでいたし…まぁそっちは置いといて、とりあえずは地道な調査、これから始めよう。今度はちゃんと自分自身に納得が出来るように…
 
寿命
リグベイル [ 2002/12/24 4:10:12 ]
 日々の日課として剣の鍛錬は欠かさずこなして来たが、ここ最近、どうも剣閃がぶれがちになる。

今朝もマイリー神殿の鍛錬場で、剣の鍛錬を行っていたが、やはり剣閃がぶれる。

どうしたものかと思案していると、そんな私を見てか、片手半剣の扱いを主にするマクマーソン司祭が私に声をかけてくれた。

私が、剣を振るう際の違和感を司祭に相談すると、司祭は私の長剣を手に取って見たいと言われた。

司祭は、私の長剣をしばし見つめ、軽くため息をつくとほろ苦い笑みと共に長剣を私に返し、続けてこう告げた。

”この剣は天寿を全うしようとしている”と…

私はそう告げられ一瞬戸惑ったが、良く考えれば20年余り父や私と共に死線を越えて来た剣だ、その間の激戦を思えば、寿命が来てもおかしくはあるまいとも思った。

司祭の話によると、後1、2回研げば中の芯鉄が出て来るところまで来ていると言う。

それと並行して私の筋力との釣り合いも取れていないと言われた、司祭が言うには、もう少し重量がある剣の方が、私の腕には合うと言う事らしい。

しかし、これ以上重い剣と言えばもう両手剣くらいしかない…そんな私の表情を読み取ってか、司祭は私に両手剣で先ほどの基礎の形をやってみろと言う。

私は言われるままに形を振るって見た、すると、思ったより両手剣が腕に馴染んだ。

以前はとても扱えなかった両手剣が、今はそうでもなくなっていた。

父の長剣の寿命と、私の筋力との釣り合い…普通に考えれば剣の替え時なのであろうが、父の形見を肌身離さず過ごして来た私に、この剣と離れてやって行けるのだろうかと言う不安が頭をよぎる。

だがこのまま使い続ければ、そう遠くない内に折れてしまうのは、目に見えていた。

…両手剣か…

私は複雑な思いのまま、そう独り言を呟いていた…
 
神と神官
リグベイル [ 2003/01/02 3:38:59 ]
 早朝、ハザード河の川原で朝の礼拝をしていたファリスの神官戦士、イシュメルと出会う。

2、3言世間話を交えると、彼の仕事の同行を求められた。敵は暗黒神の信者である可能性が高いと言う事も含めて。

私は詳しい情報が手に入るのであればと言う条件と引き換えでその仕事を請け負う事にした。

私は個人的な思いで、神官からの依頼は宗派を問わず、出来る限り請ける事にしている、宗派が暗黒神でない事と、依頼料が余程の安価でない限りは。

私が神官の依頼を請ける最もな理由としては、その存在理由にあると思う。

神官とは本来、神の声を代弁し、人々の悩みや不安を聞き届け、その人の人生をより良き方へと導く役割を担っていると、私は思っている。

それを最も顕すのに適しているのが”神聖魔法”と言われる魔法であり、神の声を聞く事の出来ない庶民が、神を感じるに一番分かり易いのではないかとも思う。

無論、神の奇跡を起こせない神官も多くいるとは聞いているが、それでも神の存在を信じ、奉仕の念を抱き続ける事の出来る彼等には、畏敬の念を抱かずにはいられない。

何故なら、私には到底、神と言われるものに奉仕の念を抱く事など出来そうにないからである。

遥か幼い頃、私の父のキャラバンが山賊に襲われた夜、私は幼いながらも神と言われる存在に必死に祈ったのを覚えている。だが、両親や家族同然であったキャラバンの人々は、救われる事はなかった。

山賊に捕らえられ、彼等と過すしかなかった数年間、その間も私は事ある事に神の名を口にして祈ったが、結局私を救い出してくれたのは、”冒険者”と呼ばれる人々であった。

神官が行う”癒しの奇跡”が現実にある以上、神の存在を認めぬ訳にはいかない、それは理解出来る。だが、神そのものに対し、私は憎悪に近い感情を抱く事もしばしばであった。

”神なんてクソ食らえ!”と言うのが正直な私の思いではないかと…

だが、その神を信仰する神官達との交流の中で癒されている自分がいる事に気付く時もある。

神を信じる事は出来ないが、神を信じる神官を信じる事は出来る。だから私は、神官達の依頼は、出来る限り請ける様にしたいと思ったのかもしれない。

それは、神と言う存在に対し、頑なに心を閉じてしまった私の慙悔の念も多分に含んでの事だと思えてならなかった…
 
相棒
リグベイル [ 2003/01/02 4:25:02 ]
 ここしばらくミーナの顔を見ていない。彼女の立ち寄りそうなところを回って見るが、どうもすれ違いが続き、出会う事が出来ない。

どこかで会う約束をすれば、直ぐにでも会えるのであろうが、以前はそんな事をしなくても、お互いが会いたいと思った時に出会える事の方が多かった。

だが、今はそれがままならないでいる。

……ミーナ、何か別の仕事でもやっているのかな?

仮にそうであったとしても別段おかしい事ではない。私とミーナは相棒として幾つもの仕事をこなして来たが、組まずにこなした仕事もあるにはあった。

だが、そんな時でも数日と間を置かず会っていたためにしばらく顔を合わせていないと、少し調子が狂う。

だが、今回はそれで良かった様にも思えた。

今日、神官戦士のイシュメルから以前に聞いた暗黒神の信者の件で改めて依頼された。私にも断る理由がなかったので請けたが普段ならここでミーナにも声をかける。

それが今回は出来なかった。ミーナと会う機会がほとんどなかったからだ。

…今回の件は、ミーナを連れて行かない方が良いって事なのかな?

大した理由もなくそう思ったが、私の野伏としての”感”がそれを肯定している様にも思えた。

”過ぎ越しの祭り”をミーナと迎えたかったと言う想いもあったが、これも冒険者としての”性”かも知れない。

私はそんな事を考えながら、仕事のための旅支度を済ませて行った…
 
拒絶、そして…
リグベイル [ 2003/01/04 2:31:22 ]
 夜、イシュメル達との仕事を終え、その疲れを癒すために”きままに亭”を訪れた私に”フェイ”と名乗る戦神の神官の少女が話しかけて来た。

挨拶がてらに他愛のない話をした私にその少女は”なぜ他者を拒むのか?”と問いかけて来た。

私はその言葉に一瞬、心の奥で”何か”が凍りつくのを感じた。

それは、周囲との交流を拒み、独りで生きて行けると頑なになっていた頃の私自身を思い出してしまっていたからかも知れない。

…ここオランを訪れ、ミーナを始めとする”冒険者”達との交流の中で、他者との触れ合いを”尊いもの”と感じ始めた私であったが、もしかしたら”独りで生きられる”と言う想いは未だ拭い切れていないのだろうか?

…私は、また以前の様な”ただ死んでいないだけ”と言う生き方に無意識に戻ろうとしているのであろうか?

そんな想いが私の脳裏に霞の様に漂い始めていた……
 
名酒探し
リグベイル [ 2003/01/07 3:11:00 ]
 ”きままに亭”で得物を替えようか迷っていたところへ、アルが気分転換の散歩と称してやって来た。

アルと他愛のない世間話をしていたところへ不意にアルが、私の得物が片手半剣であるかどうか訪ねられた。

何故そんな事を聞くのかと問うと、マイリー神殿の修練場で大剣を振るう、私に似た剣士を見たと言う。

私は、それが自分である事を告げ、父の形見の長剣がもう永くない事と得物を替えようか迷っていると言う事を話した。

アルは、自分の手に合った得物を使うのが一番良いと言う。私もアルの言う通りだと頭では思う。

だが、今手放そうとしている長剣が父の形見だと言う事が、それを躊躇させていた。

頭では得物を替える事が最良であると思う、しかし、心のどこかで手放したくないと言う気持ちがわだかまる。

アルは、それなら打ち直せば良いと彼の銀の槍を打ち直した武器屋”岩見の箒亭”を教えてくれた。

そこの主であるガーダルドと言う岩妖精は、腕は確かだが自分の気に入った依頼しか請けないと言うのがもっぱらの噂であった。

アルにその事を訪ねると事実そうらしい。

それでアルに何か秘策はないかと聞くと美味い酒を持参すれば請けてもらえる可能性は高くなると言う。

…武器屋探しの次は美味い酒探しか…

私は苦笑交じりにそう思うと、街の何処へ行けばその美味い酒が手に入るのかと言う事を考えて始めていた…
 
変わる時変わった時、そして変える時
リグベイル [ 2003/01/07 4:00:50 ]
 昼間、”岩見の箒亭”に持参する美味い酒を市場に探しに訪れた。

目当ての酒屋を見つけ、早速その美味い酒を探していると、肩越しに私の選んだ酒を覗き見する人物が一人、その”軽そうな”口調から誰であるかは顔を見ずとも判断出来た。

私はその人物、つまりラスに多少引きつった笑みで答えた。

そのラスの隣には利発そうな少年が一人、名をファントーと言いラスの弟子であると自己紹介された。

私はラス達と軽い世間話をしながら、自分が探していた”古酒”と言われる銘柄の酒がないかを酒屋の人間に訪ねた。

その問いにラスが”ここになければ手に入れるのは難しい”と答え、酒屋の人間も同様の返答をした。

どうしたものかと思案していた私にラスは“リ・トラ・メルト”と言う銘柄のウォッカを勧めてくれた。

目当ての酒が手に入らないのであれば仕方あるまいと私は、そのウォッカで手を打つ事にし、店を後にしようとした時にラスの表情を見てある事を思い出した。

以前”きままに亭”で”精神の精霊”について語った時、ラスはそれらの精霊と必要以上に感応してひどい頭痛がすると言っていた。特に人の多いところでは最悪だとも。

だが、今のラスの表情を見るとそれ程でもない様に見えた。

私は、良い解決法でも見つけたのか?と何気なく聞いてみるとラスは”そうかもしれない”と何時もの様にしれっと言ってのけた。

私は、何時もと変わりないラスに不意に違和感を感じた。その態度は本当に何時もと変わりなかったが、何故かその態度が空虚に感じられた。

まるで心ここにあらずと言った感じだった。

だが、その違和感があまりにも微弱だったので、私の勘違いだろうと考えていたところにラスが変な事を聞いて来た。

”私の立っている位置は生涯変わらないと思った事はあるのか?”と。

その問いをラスは、途中で言い含んだが私はそれにこう答えた。

”人生は変化の連続、変わらないなんて事はあり得ない”と。

ラスは私の返答に何時もの様に悪戯っぽく笑むと、寄るところがあると言ってそのまま雑踏の中へ姿を消した。

ラスが今どう言った事になっているのか、私にはいまいち把握出来なかったが、ラスの身に何か大きな変化が起きた、もしくは起きようとしているのは何となしに理解出来た。

”人は変わる、それを望もうが望まないがそれは必ず訪れるもの”

私は自分が今、その岐路に立っている事を改めて自覚していた…
 
邂逅
リグベイル [ 2003/01/21 6:51:08 ]
 ”冒険者”と言う稼業を形なりにも始めて、季節が一巡りを過ぎた頃、ある名を私はよく耳にする様になった。

その名は”レト・メフィス”

下位古代語で”五金”を意味する名を冠するこの冒険者達は、まだ新参であるにも関わらず、幾つもの遺跡探索を成功させ、周囲にその名を轟かせていた。

生きるだけのために”冒険者”と同じ様な事をし、周囲の喧騒を避けるために”冒険者”と便宜上名乗っていた私には、彼等が語る”浪漫”と言うヤツにはいまいち馴染めずにいた。だが、そんな私でも”レト・メフィス”には一目おく理由があった。

”レト・メフィス”を構成するメンバーの一人”鉄の”スカイアーと言う剣士がその中にいたためである。

その名を初めて聞いたのは、私の養父を買って出てくれた宿屋のマスターからだった。

傭兵として名を馳せ、また秀でた剣の使い手としても知られていた彼は、何時しか私の心の一部を占める存在となっていた。

その彼が冒険者としてエレミアに現れたと知った時、心が高ぶるのを私は抑える事が出来ずにいた。

”もしかしたら”と言う僅かな期待を込め、冒険者稼業の合間をぬっては養父の手伝いをしていた私にその僅かな期待が実現する時がついに訪れた。

養父の店に現れた彼等は、まるで別世界の住人の様に私の目に映っていた。そして、その幸運は翌朝も続いた。

朝早く、宿の裏庭で剣の形を稽古していた私の耳に響く静かで落ち着いた声、振り向くと、彼が私の稽古をする姿に静かな眼差しを向けていた。

その後の四半刻の時間は、あまりにも浮かれ過ぎてあまり細かく覚えていない。ただ、私の振るう剣の形に的確に師事してくれた事だけは明確に私の脳裏に今でも残っている。

その彼と再び出会う事が叶った。あの時よりも更に腕を上げ、名を広めた彼と。

”憧れ”と言って良いほど焦がれた存在が更なる高みにいると言う歓喜の想い。

”何時かは私も、彼と肩を並べる様な剣士になる”

…彼と再会したその日、そんな途方もない”想い”を私は、再び心の奥で決意した…
 
徒然なる一時〜私が”ここ”にいる理由〜
リグベイル [ 2003/01/25 3:06:04 ]
 夜、酒場で憩う時、それはしばしの安らぎであり、そして少しだけ退屈な時間。

そんな一時に交わされる他愛のない会話は、微妙に心地良い。

”岩見の箒亭”の主に仕事を請けてもらうため”リ・トラ・メルト”と言う銘のウォッカを持参したとイシュメルに話したら”よくもあんな高い酒を”と呆れた様な顔をされたり。

クーナと言う草妖精に”これだけ女らしく見えないのも珍しい”と初対面にもかかわらず核心をつかれ、改めて草妖精の人となり?を思い知ったり。

年齢も性別も、ましてや種族さえ違う者同士が、時には笑い、時には本気で語り合う。

ここで繰り広げられる、そんな一つ一つの記憶は、本当に他愛のないものであるかも知れないが、そんな一時が積み重なって、やがて、かけがえのないものに変わって行く。

だから私は、今日も”ここ”にこうしているのかも知れない…
 
私は大丈夫
リグベイル [ 2003/01/27 14:17:04 ]
 昼、知人の所用でラーダ神殿のある太陽丘に足を運んだ時、偶然にもアルと出会った。アルも調べ事があってここに赴いた様だった。

アルと髪の毛の長さで色々と話していたら、不意にこんな事を言われた。

”伸ばせば女っ気も倍増して男も寄り付くかもよ?”

一瞬、頭の中で混乱の精霊がざわめき、心の底から闇の精霊がそのかま首をもたげようとする。

”髪の毛を伸ばしたくらいでそんな訳あるか”

私は必死に平静を装い、そう切り返した。

今でもこの手の”女”を意識させる話が出ると、多少なりとも心がざわつく、ただ今は”ある言葉”を自分に言い聞かせる事により、以前ほど酷くはなくなったが。

”私は大丈夫”

心がざわついた時に、私が心の中で呟くおまじないの言葉。

この言葉を呟き、私は心の平衡を保つ事が出来る様になった。少なくとも、心が昏い領域に陥る頻度は少なくなって来ている。

”私は大丈夫”

それが、今の私を繋ぎ止めている唯一無二の言葉…
 
上を向いて歩こう
リグベイル [ 2003/01/28 2:45:37 ]
 船上刀を腰に佩いた戦士ギグスと冒険者としての”初仕事”を終えた時の事で話し込んだ。

私はギグスと話しながら、視線の先のテーブル席で、初仕事を無事に終えはしゃぐ彼等を見て、今の私と重ねていた。

冒険稼業を始めて早5年、多少なりともこの稼業の機微を分かって来たつもりではいるが、忘れ去って来たものも多くある様な気がしてならない。

得物を両手剣に変えた事をユーニスに話した時、彼女は”賢い選択”と評してくれたが、自分はそれすらも定められないと逡巡している様であった。隣で聞いていたマスターの養女、ミニアも思うところがある様な表情をしていた。

相棒のミーナは、遺跡に潜る時の知識をもっと深めたいと悔しそうに言った。

パダから荷の護衛で訪れたと言う”穴熊”を目指す戦士ザッシュとは”レックス”を始めとする遺跡に対する浪漫と怖さを語り合った。

イヴンと言う名の壮年の商人は、自分の村を助けるために”水”を生み出すものが必要だと私に話し、それを手にする難しさを教えたが、あきらめるわけには行かないと語った。

些細な事がきっかけで知り合ったアンと言う名の少女は、私が今まで得て来た経験からなる話を聞かせると、自分もそうありたいと目を輝かせて私を見つめた。

様々な立場におかれている人々の様々な想い、そのどれを取っても同じものなどないが、その想いは一つの言葉で言い表せる事が出来そうな気がする。

”あきらめない”

その想いがなければ、どれ一つとして叶う事はないだろう。特に自分の生きる道に足を踏み入れ始めた”駆け出し”達には。

歩き始めた道は、最初は歩き辛いかもしれない、”挫折”と言う小石につまづいたり”絶望”と言う落とし穴にはまったり。

だが、そこでうつむき、歩く事をやめてしまったら、進む事は出来ない。例えその先に道が続いていようとも。

そんな時私は思う”ならば上を向いて歩こう”と。

挫折に落ち込みうつむく事は決してないとは言えない、だが、そこで止まったままではやがて朽ち果てるしかない、ならば、カラ元気でも何でも良い、とりあえず進むしかないのだ、”現実”と言う地面から一時目を離し上を向こうとも、その先にあるものを信じて…
 
認める勇気
リグベイル [ 2003/01/29 3:54:30 ]
 ”その失敗を糧に次で頑張れば済む”

口元にいつもの笑みを浮かべながら私に言ったマスターの、その一言がそもそもの始まりだった。

”ナズゥはまだ失敗と決まった訳じゃない、これからだよ”

私は、マスターに何を言われたのか理解出来ずにそう言い返した。

マスターはその太い眉をひそめながら、口調を変えてこう続けた。

”そうかも知れんが、”枯れた遺跡”だから何もなかったと早々に諦めて引き返したのは失敗だったな、納得いくまでやったのか?”

私は、マスターのその言葉に息を詰まらせた。

…私は、何が目的であの遺跡に挑んだのか?そして、その目的を達せられるほどの執着を持っていただろうか?と…

言葉を失って黙っている私にマスターは、淡々とこう告げた。

”おまえには失敗を認めるだけの勇気がないな”

その一言で私の頭の芯に物凄い勢いで血が流れ込んだところまでは覚えている。多分その後、マスターに当り散らし、銀貨をカウンターに叩き置いて飛び出す様に”きままに亭”を後にした事もおぼろげながら記憶にはあるのだが、実は定かでない。

どれくらいたったのだろうか、気がつくと私は、何時ものお気に入りの雑木林でひざを抱えて大声で泣いていた。

やがて頭も冷えて、冷静さを取り戻せる様になると、今度は何でこんな事になったのかを私は考えた。

多分、私はショックだったのだろう。一番つつかれたくない事を一番言われたくない人に言われたから。だが何故そんなにショックだったのか?それも考えるうちに何となしには思い当たった。

オランに来て半年、何かと厳しい事を言いつつも面倒を見てくれるマスターに私は”父親”と言うものを重ね見ていたのだ。幼い頃に両親を失った私が自分の中で勝手に作り出した父親像にマスターが、ぴったりと重なったのかも知れない。

その事に考えが至った時、私は羞恥と情けなさで頬が熱くなるのを感じた。

何て言う事はない、親の言う事に確たる反論が出来ず、駄々をこねて地団駄を踏む子供とまるで一緒ではないか、と。

成人の儀から5年の齢を重ね、親の温もりを必要とする歳ではない事は充分に自覚しているつもりだった。

だがそれは”つもり”だけだったらしい。本当の私は、心の底から”親”と言うものを渇望していた様だ。

私は、何とも甘ったれた考えの自分に呆れ果て大きく溜息をついた。そして、夜空を見上げながらマスターの言葉を思い返す。

”認める勇気”

それが足りないばかりに私は、色々な事を取り繕って来た様な気がする。失敗を認めたくなくて、一人先走った事も今に思えば決して少なくはない。

そしておぼろげながらに私は気づいていたのだと思う。こんな事を続けていれば何時かは行き詰るだろうと言う事に。

マスターに図星をつかれる様な形にならなければ、あそこまで逆上はしなかったかも知れないと思いつつも、自分の至らなさに改めて溜息をついた。

”認める勇気”かぁ…それこそ認めない訳には行かないよなぁ…

そう素直に思うもあれだけ暴れて飛び出して来た手前”きままに亭”に何事もなかった様に直ぐ顔を出す事は私を大いに躊躇わせた。それにこんな状態でマスターの顔を見たら、また逆上するとも限らない。

ここは自分の頭が充分冷えるまで、しばらく顔を出すのは止めようと、私は草むらに寝そべりながら一人そう考えていた…
 
武縁
リグベイル [ 2003/03/10 22:00:18 ]
 そもそものきっかけは、ハザード河での出会いからだった。

剣の鍛錬を終え、帰途についた私の耳に重厚で荘厳な祝詞が聞こえて来た。

その祝詞に引き寄せられる様に赴いた私の前に現れたのが、大地の妖精にして戦神の神官であるダルス・ドームその人であった。

その容貌は、大地の妖精に相応しい体躯と豪胆な雰囲気をまとった堂々たるものであり、相対する者に少なからず畏敬の念を抱かせるに充分であった。

また、彼のずっしりと重みのある声で語られる言葉は、聞く者の心の奥底にまで響き、永くそこに留まった。

その場に居合わせたセオルナード、ヴァリサスの両剣士も同様の感銘を受けたらしく、彼の語る言葉に真摯に耳を傾けていた。

彼とは、その後も私の定宿”軍鶏の檻亭”や”マイリー神殿の鍛錬場”等で語り合った。時には言葉で、また時には己が拳で。

彼と様々な形で語り合い、その度に私の心に淀んでいた昏い感情が、少しずつ解放されて行く。

”武”を通じて交わる縁の事を”武縁”と言う。彼との出会いは正にそれであったと思う。

私はその”武縁”をもたらしてくれた”何か”に感謝しつつ、彼から学べるその全てをこの身に刻み込もうと、そう思った…
 
彼の矜持
リグベイル [ 2003/04/05 6:08:39 ]
 夜の酒場で良く見る出来事の一つ”喧嘩”

私の傍らで唐突に始まった喧嘩を、成り行きからなだめつつ私は、以前”きままに亭”で出会った半妖精の魔術師の事を思い出していた。

彼を初めて目にしたのもやはり”きままに亭”であった。

彼の傍らには私の知己である女戦士のユーニスが、同じく腰を下ろし二人で仕事の話をしている様であった。

私は、ユーニスに軽く挨拶した後で彼にも挨拶を交わそうとしたが、彼が私に向けた第一声が「欲しい人材ってわけじゃねーな」だった。

私は、彼の横柄な態度に釈然としないものを感じながらユーニスの隣に座り、それとなしに二人の会話に耳を傾けていた。

そこへ”隠し牙”のベイターと名乗る練達の”穴熊”風の男が入って来た。

彼は、遺跡帰りと思われるベイターの身なりを見ると当然の如く罵り始めた。
ベイターは、彼の不躾な暴言に凄みのある笑みを湛えながら警告を発して来る。
だが、彼は怯む事なくベイターに暴言を吐き続けた。

…いざと言う時には、魔法の力を行使するつもりでこれほどの暴言を吐いているのだろうか?…

私は、二人の暴言のぶつけ合いとそれを止めに入って更に悪化させているユーニスを気遣いながら彼に対し、少なからず不快さを感じていた。

それから少しして、私は再び彼と再会した。
彼は、酷く傷ついた無様な姿で長椅子に横たわっていた。
店員に事の次第を聞くと、どうやら彼をこんな姿にしたのは、この間のベイターと名乗った穴熊である事が分かった。

…あの様な立ち振る舞いをしているからだ、自業自得だな…

私は、彼のその姿に大して驚きもせず眺めていたが、彼が余りにも苦しそうにしているのを見過ごす訳にも行かず、噴出す汗を拭いながら彼の意識が戻るのを待った。

やがて、彼が意識を取り戻し状況を把握しかねた様に辺りを窺う。
私は、彼が何故ここにいるのかをかいつまんで話してやった。
彼は、私の説明に釈然としない表情をしながら大きく溜息をついた。

私は、負けるのが分かり切った相手にどうして挑んだのかと言う興味を彼に抱き、その辺りを聞いて見た。
すると彼は、私にこう聞き返して来た。

”冒険と喧嘩の差は判るか?”

私は、彼が何を言いたいのか咄嗟に判断出来ず沈黙を守った。
彼は、そんな私に淡々とこう告げた。

”無謀な賭けに出られるってことだ”

私は、彼の言葉に我が耳を疑った。
そして、喧嘩だから無謀な賭けを打てると考える彼の思考に呆れ果てた。

…喧嘩で生命を落とす事など幾らでもある事、それを理解出来ない訳でもなかろうに…

私は、よろけながらも気丈に立ち上がる彼を前にし”その賭けに何の意味がある?”と再度問いただした。

”…アホか。んなこと言えるかっ”

彼は、数瞬何かに躊躇した後、私にそう吐き捨てると足を引きずりながら二階へ上がって行った。

私は、彼の中に渦巻く思いを理解するに至らなかったが、そうする事が彼”バウマー・ハルマン”が”バウマー・ハルマン”である事の矜持であったのではないのかと、そう思わずにはいられなかった…
 
春〜新たな出会いの季節〜
リグベイル [ 2003/04/05 7:09:59 ]
 …春は、新たな出会いの季節…

ここオランの街で春を迎えた私にも多くの新たな出会いがあった。

私とあまり変わらない背丈の女性に会った。
彼女の名はソラリス。
そのしなやかな身のこなしから、なかなかの”腕”を持つ冒険者である事は一目瞭然であり、彼女の語る言葉の端々からもそれは窺えた。
腕の立つ先達と知り合えたのは僥倖と言えよう。
ただ、一緒に女物の服を買いに行くと言う約束は、私の頭を悩ませるには充分であったが…

筋肉質で変な女言葉を使う珍妙な男にも出会った。
そいつはニーゴと名乗っていた様な気がする。
その変な言葉使いと軽い雰囲気に道化のそれを思わせずにはいられないが、彼の身体を包む筋肉の鎧は、自慢するだけあって無駄がなく洗練されたものになっていた。
彼の立ち振る舞いからも、一筋縄ではいかない不気味さを感じた。
あの言葉使いさえなければ、手合わせを願いたいところなのだが…

コンフターティスと名乗った青年は、精霊とのかかわりを強く求めていた。
私も”精霊遣い”の端くれとして彼に助力出来る事は極力そうしようと思った。
私が人にモノを教えられるのだろうか?と、いささか自問自答したくはなったが…

サファネと言う名の女顔の青年は、その快活な口調で色々な事を語ってくれた。
その容姿からは思いもよらないほどの達者な言葉使いは、彼が平凡な人生を歩んで来てはいない事を端的に表していた…

シタールの古い知り合いらしいレイシアと言う名の女性には、女の強かさを教わった様な気がした。
だが、私がやっても無駄だろうと言う事もまた分かっていた。
女の武器を用いるにはまず女らしくあらねばならないから…

春は、新たな出会いの季節。
この春に出会った人々が、私の人生にどう係わって来るのであろうか?
今はまだ分からないが、この出会いが良き出会いである事を祈ろう…
 
細剣使い
リグベイル [ 2003/04/09 21:07:29 ]
 ”成人の儀”を経て直ぐに冒険者となり、数年が経つ。

その間、私の傍らには父の形見である片手半剣が常にあり、私の生命を守ってくれた。

だが、私が本格的に剣技を習い始めた頃、私の手には細剣が握られていた。

それは、私に剣技を教えてくれた人物の影響が大きかった。
彼女は軽戦士であり”成人の儀”の前の私は、今ほどに背丈も大きくはなく極普通の子供の背丈であったからだと思う。

私は、女の細腕でも戦える様にと、この軽戦士からその閃光の様な技の数々を受け継いだ。

しかし、”成人の儀”を迎えた後の私の背丈は、急激に成長し、結果、今の私があるのである。
その間に、身体に合わせて戦い方も軽戦士のそれから重戦士のそれへと変えるしかなかった。

今日、マイリー神殿の修練場でアルを相手に久々に軽戦士の技を試して見る。

その結果、思っていたよりかは身体が動いていた様に思う。

…やはり、一度身に染みた事って忘れないモノなのだな…

私は、訓練用の細剣に目を落としながら、その軽戦士から剣の技の数々を教わっていた日々に想いを馳せていた…
 
一流を目指して
リグベイル [ 2003/04/25 1:22:32 ]
 今日は散々だった。

パダに移ったシタールから“弓”としての仕事をやらせてもらう事になり、彼以外の面子を訪ねると、エルメスとラスが決まっていると言われた。

ラスの名を聞いて一瞬、表情が強張ったのが己でも分かった。

普段は飄々とした雰囲気のラスであるが、“冒険者”としての腕はまず一流とみて間違いない、彼が紡ぐ言葉の一つ一つがそれを端的に物語っている。

何時にない緊張が、私を包む。

無論、ラスと幾度も共に冒険をこなして来たシタールは言うに及ばず、エルメスもその歳に似合わず時として練達を思わせる言葉を語る事がある。

私から見れば、羨望を禁じえない存在である。

そんな想いもあってか、私は仕事の前にラスのところに出向いて彼と共に行動する旨を伝え、色々と助言を乞おうと思った。

だが……案の定、思いっきりからかわれた。

ラスから見れば、私はまだその程度の扱いなのだろうとは後で思った事だが。

私も何れラスの様な一流の“冒険者”と肩を並べる事が出来る様になるのだろうか?

だが、私をからかったラスに対し、これだけは“はっきり”と決めた。

“あいつだけは絶対、追い越してやる…”と(怒)
 
痛い涙
リグベイル [ 2003/04/27 3:10:26 ]
 …………参った、あの様な姿を人前に曝したのは、何時以来だろう。

何時もの様に“きままに亭”へ赴き、酒を嗜もうとしていた私の目に入って来たのは、黒い硬革鎧に黒い外套と言う、黒一色の格好の“鍵”風の男(ルケ)と半妖精の剣士、ヴァリサスだった。

私が酒場に入った時、彼等は酒場に来る事の意義について話していた。
辛い事を紛らす為に酒を選んでしまうと言うヴァリサスに、“鍵”風の男は酒は日々の疲れを癒す為に飲むものだと語っていた。
私も、その男の言葉に同意しながら、酒は楽しく飲もうとヴァリサスに言ったが、それでも彼の表情から翳りは取れなかった。

ヴァリサスは、次第に己の生い立ちを語り出し、半妖精に生れた事を深く嘆いている様な素振りを見せ始めた、そして…

“やっぱり、自分だけか…くらい過去をもっているのは……”

自虐的な勢いで酒を呷りながらヴァリサスが呟いたその一言が、私の内に秘めていた“何か”をブツリと断ち切った。

次の瞬間、私はヴァリサスの胸倉を掴み上げ彼の顔を間近に引き寄せて睨みつけていた。
だが、私の心はその表情とは裏腹にやり切れない想いではちきれそうになっていた。

以前、この酒場でヴァリサスに出会った時、やはり彼は今と同じ様な事を嘆いていた。
私は“種族云々ではなく、己がどうあるかに己の矜持を見出せ”とヴァリサスを叱咤激励したのを覚えている。
ヴァリサスは、今一度己を見つめ直すと前向きな意思を私に示してくれた。
その言葉は私にも大いに喜ばしい事だった。

何故なら、私も幼少期に起きたある出来事により、己の存在を消し去りたくなる衝動にかられる事が少なからずあったからである。

…悩みの本質は違えど憂う想いは同じだと、そう信じていた私の、その想いこそが高慢な思い上がりだった様だ…

私は、ヴァリサスの言葉でその事を思い知らされた。

そして、その想いが心の堰を切った時、私の瞳から涙が溢れていた。

己の高慢な想いに…
その想いを良かれと考えて他者に押し付けていた事に…
そして、それに気づかずにいた己の不甲斐なさに…

その日流した涙は、とても痛々しくて惨めな涙だった…
 
喰えぬ老人
リグベイル [ 2003/04/27 3:57:48 ]
 タトゥス老の依頼を何とか無事に終え、その後に起きた護衛の追加依頼をこなした私達に老は、各々に一枚ずつ、地図を手渡した。

この地図を読み解いた者だけに追加の報酬を手渡すと付け加えて。

ずい分偏屈な…もとい、一筋縄では行かぬ御老体だと思いつつ、私はその地図の解読を始めた。

だが、どうにもこの手の事に頭を使うのは向かない様だ、私の推理は直ぐに袋小路に追い込まれ、知恵熱が出そうな気配を引きずりながら私は、きままに亭に一時の憩いを求めてその扉をくぐった。

すると、そこには私と同じ様に地図を片手に渋い顔をしているラスと、それにつき合わされているリックが目に入った。

私は、ラスと共に地図の読解に挑んだが、どうにも成果は上がらぬ雰囲気であり段々と頭が重くなって来た頃、不意に地図へこぼしてしまった酒が、意外なきっかけを作った。

地図を台無しにしては意味がないと、急いで地図を拭っていた私の脇からラスが何やら暢気な事を呟いた。

何を言っているのだ?とラスに多少きつく当たりながら地図に目を向けると、今までそこに描かれていた複雑な路地は姿を変え、大雑把な道があからさまに書かれていた。

…………何と天邪鬼な(嘆息)

何処までも底の見えぬタトゥス老に私は、ある種の畏敬の念を抱かずにはいられなかった…
 
新参と練達
リグベイル [ 2003/04/28 20:29:57 ]
 今日また、興味を抱かせる一人の練達の冒険者に出会った。

名はシャリオル、目立つ模様が刻まれた手斧を携帯する彼は、親しみを感じさせる笑顔を湛えながら私の隣に腰を下ろした。

だが、シャリオルのその笑顔から微かに漏れる気配は、幾つもの死線を越えて来た者が醸す独特の雰囲気に酷似していた。

こう言う“冒険者”こそ最も警戒し、尚且つ最も見習うべき“練達”と呼ばれる立場の人間である事は、一目瞭然であった。

そして、それと対照的だったのがディーナと名乗った“杖”の女性だった。

まだ自分の田舎から出て来たばかりと言うディーナは、私やシャリオルが語る言葉を一字一句聞き漏らさない様にと、一生懸命に羊皮紙へ書き留めている姿がとても印象的で好感を持てた。

…数年前の私と、もしかしたら数年後にいるかも知れない私…

シャリオルとディーナを比べ見ながら私は、そんな過去と未来を垣間見た気がした…
 
結成!オランお笑い三人娘!?
リグベイル [ 2003/04/30 0:51:49 ]
 至高神の神官の知己へ会う為にファリス神殿を訪れた。

ファリス神殿内を知己を求め歩いていると、中庭で尋常でない行動を取っている神官風の女性が一人、目に入った。

何かの気配に気付いた様に鋭い眼光と共にこちらを振り向くその女性に多少気圧されながらもその場に佇んでいると、近くの木陰から飛び出した人影が一つ、よく見るときままに亭で何度か話した事のあるコロムと言う名の女戦士だった。

二人の女性、至高神神官のアルダシルとコロムは、どうやら知り合いらしく和やかに歓談していたが、その場に佇む私に気付いた様で、近くに来る様に誘われた(やや強引にではあるが)

そして、唐突に始まった“喜劇人”としての試練。

私は、訳の分からぬままボケと乗りツッコミを伝授され、その一団に加わる事になってしまった。

その名も“オランお笑い三人娘”

ハイテンションで進められるボケとツッコミの応酬に、剣の鍛錬と同等の体力を消耗しつつも、どうにか私は彼女等の試練に耐え抜く事が出来た。
これも日頃の鍛錬がモノを言ったのだろうと、私は己を賞賛せずにはいられなかった。

だが、彼女等の方がその筋では一枚も二枚も上手であった。

彼女等は、立ち去る際に己の持つ最大級の“芸”を披露し、私との力量を歴然と示して行った。

…如何なる事でも上を目指すのは、はかり知れない試練を要するモノなのだな…

…“オランお笑い三人娘”の結成を夢見つつも、その実現にはまだまだ程遠い己の力量に嘆かずにいられない、そんな想いを馳せた一時であった…
 
遥けし草原の国
リグベイル [ 2003/04/30 2:19:29 ]
 何処となく懐かしい酒の香りに釣られ、カウンターを窺った私の目に入って来たのは白乳色の酒だった。

そして、その馬乳酒を手にした女性が一人穏やかに微笑みながら私を迎えてくれた。

彼女の名はスピカ、ミラルゴ出身のチャ・ザ神官だと言う。

“ミラルゴ”と言う言葉に私は、淡い郷愁の念にとらわれた。

私の生れはエレミアだが、ミラルゴは私の母の故国である。
そして私が今最も訪れたい国。

己の事についてほとんど話す事のなかった母、だから私の中での母は、儚げに揺らめく陽炎の様にはっきりとしない。

だからこそ私は知りたいと思った、母の事を。

母はあの草原の国でどの様に時を過ごし、そして、父とどの様な馴れ初めを果たしたのだろうか、無論それ以外にも知りたい事は幾つもあった。

私の祖父や祖母、母がいた部族、そして何よりも母の故国であるミラルゴの事…

私は彼女に母の部族“緋の風”の事を聞いて見た。

だが彼女は、どうやらその部族の名はほとんど聞いた事がなかったらしく、わずかにまだ存続しているかも知れないと言う事だけを告げてくれた。

だが、私にはそれだけでも充分な情報となった。

緑萌ゆ草原の国ミラルゴ…私は彼の国に淡い想いを寄せながら、訪れるその日を夢見た…
 
勇者の定義
リグベイル [ 2003/05/20 0:54:21 ]
 酒場で知り合ったアイシャと言う名の戦神に仕える神官が語った“勇者の定義”

彼女は己の内にその答えを見出せぬまま、それでも己の仕えるべき勇者を捜し求めていると言う。
同席したリティスと言う名の女剣士は、己の父親を“勇者”として尊敬している様であった、多少恥ずかしそうではあったが。
勇者としての資質を問われていたラスは、最初からそんなものには関係ないと言わんばかりの態度を示していた、ただ、それでも彼の語る言葉の端々には歴戦の“勇者”を思わせるものが幾つもあった様には感じていたが。

そして私はどうなのだろうと考えた“勇者の定義”について。

彼の“竜殺し”のリジャールや“剣匠”ルーファスの様に、勇名を馳せた者をそれと宛てる者も多いだろうが、リティスが勇者と認めた父親や、剣を扱う者以外でも勇者と認めるべき者は多くいるだろうと思う。

“勇”を心に秘めていれば誰しも“勇者”になれる資質はあるのだと、そして“勇”とは、己の為ではなく他者の為に振るうべきものであると言うのが私の至った考えである。

“勇者”と呼ばれ様とは微塵も思った事などなかったが、そう呼ばれるにはどうあるべきか?そんな事を考えさせられた一日であった…
 
女である事
リグベイル [ 2003/05/20 1:51:00 ]
 …女って面倒臭い…

そんな思いを抱いたのは、ソラリスやユーニスとの語り合いからであった。

エレミア方面へ向かう商隊の護衛の仕事を請け、里帰りをするユーニスに便乗する形で同じく里帰りする事になった私は、その道中に起こる様々な危険について話す事になった。

普通に考えて思い当たるのは、盗賊団や妖魔共の襲撃などが考えられるが“女の”と言う言葉がつくと事情は少し変わって来る。
女だてらに“冒険者”を名乗る者は少なくはないだろうが、それでも荒事を常とする世界では男に比べその数は少ないだろう。
また、護衛と言う仕事は、短いもので数日から長いものでは数ヶ月に及ぶものもざらにある。
そして“商隊”と言う閉鎖空間状態が長ければ長くなる程、人の欲求と言うものは積もるものであり、それ故に絶対的多数を誇る男を相手にした時、女の身は厄介な代物となる。

中には、男達の欲求に応える“娼婦”の様な女冒険者もいると聞いた事はあるが、私には耐え難い事この上ない。

幼い頃に両親を失った事件で負った心の傷が未だ癒えていない事が最たる理由であるが、その所為で“恋愛”と言うものに対し、私はひどく臆病になっていると思う。
無論、恋愛感情が私の心に一片も存在しないと言う事はなく、むしろそう言った過去が返って私の恋愛に対する興味をかき立てずにはいられない。
だが、男に心を委ねる事自体、私には非常な恐怖を伴うのである。

ソラリスや最近知り合ったアイシャにはそこら辺で要らぬ邪推をされた様であるが、私の内にそれに対する答えは未だ見出せていない。

私が“女の身”である事を何時か受け入れなければならぬ時が来るかも知れない、だが、今の私にしてみればそれは遠い他人事の様にしか感じる事が出来なかった…
 
向日葵の少女
リグベイル [ 2003/05/20 6:39:36 ]
 里帰りをする事をミーナに伝えようと“きままに亭”に顔を出すと、そこにはミーナとそしてラスがいて精霊との在り方について話し合っていた。

その二人の間に顔を出すとラスが私にこう尋ねて来た。
“ウィスプは俺たちの中で何を司ってると思う?”と。

私の中での光霊は“希望”とか“未来”とか、そう言った単語が思い浮かぶ存在である。
故に今の私にはあまり馴染みが薄い存在となっている。

ラスも最初は光霊より闇霊の方が馴染みがあったと言っていた、私もそうだった。
だが、ミーナは光霊の方が馴染む様な気がすると言う。

それは、それだけミーナの心が光に向いているからだと、そう思った。

どんな時でも、決して闇に心捕らわれる事なく光へ向けその心を開こうとするミーナを間近で見ていて私は、何時もこう思っていた。

常に陽の光にその身を向け続ける“向日葵”の様な少女だと。

ミーナのそんな陽だまりの様な暖かさに幾度安らぎと憧れを抱いた事かと思う。

出来るなら、その暖かな心を抱き続けて欲しい…頭を捻らせ悩みながらも時たま見せるミーナの暖かな笑顔を見ながら私は、そう願わずにはいられなかった…
 
油断大敵
リグベイル [ 2003/05/20 7:11:06 ]
 妖魔通りと言う名の裏通りにある“精選香草堂本舗”と言う薬屋に出向いた時の事であるが、私はそこで危うい目にあった。

その日、何気なく覘いたその店先から如何にも怪しそうな女性が一人、まとわりつく様な視線と共に私に近づいて来た。

そして私に近づくなり前後のつながりが全く見出せない様な会話を切り出して来た。

私はその言動に、一瞬呆気に囚われたが、直ぐに気を取り直し辺りを窺った。

…彼女を囮に気を逸らせている隙をついて窃盗なりを働く新手の盗賊団の類か…

私は咄嗟にその様な考えを巡らせながら、どう言った対応が一番良いかを模索した。

…しばらくは目の前の女性の話に付き合う振りをして、彼女を捕らえられる間合いに入った瞬間に仕掛けるか…

私はそう考えて、異様に熱い視線を送りながら迫って来る彼女に怖気立つ気持ちを必死に抑えながら耐えていた。
そして、私の間合いに飛び込んで来た彼女を捕縛しようとした瞬間、彼女は巧みな体捌きで私の手をすり抜け、私にまたしても理解不能な文面の羊皮紙と不敵な笑みを残し去って行った。

“今晩、海洋亭の一室で待ってます”

………………………………“海洋亭”と言うと、あの連れ込み宿屋の事か?

私は、その羊皮紙の内容と去り際に残して行ったあの不敵な笑みを思い出し、到底私には手の負えぬ相手である事を覚らずにはいられなかった。

…匿名で衛視にでも通報するか…

私はそんな事を考えながら、本来の目的を果たすべくその薬屋の戸口をくぐった…
 
今、思う事
リグベイル [ 2003/05/20 7:59:46 ]
 エレミアにいる養父から手紙が届いた。
内容は極簡素に“元気か?”の一言しか書かれていなかったが、私にはその一言で養父がどれだけオランに出向いた私を心配しているかが手に取る様に理解出来た。

オランに出向いた際に幾度か養父へ手紙を書いた事はあったが、ここしばらくはそれも途絶え勝ちであった。

養父からの手紙がきっかけとなり、エレミアへ里帰りしようかと考え始めていた私にはユーニスからのエレミアへ向かう商隊の護衛話は“渡りに船”であった。

そして今、私はここにこうして同じ商隊の護衛役に就いたユーニスと夜の見張り番をする為に、焚き火を挟んで彼女の淹れてくれた香草茶を愉しんでいる。

最初は何気ない世間話であったが、何時しかお互いに何故オランへ赴いたのか言う事へ話は移って行った。

その話の成り行き上、私は己の過去の暗い部分をユーニスに明かす事となった。
何時になく蒼ざめた表情のユーニスを前に私は、己の過去を不用意に明かした事に対する後悔の念に囚われはしたが、親しく付き合えば何れは分かる事である、私は思い直して彼女に信頼をおいているからこそ話したのだと言う事を伝えた。

私は話の話題を転じようと、ユーニスが御執心の様である“追い抜きたい人”について問い詰めて見た。
ユーニスは、動揺しながらも己が恋をしている事を明かしてくれた、それはとても素敵な事だと素直にそう思った。
それは、今の私には到底縁のない様な話だったからかも知れない。

だが、その後からユーニスの反撃が始まった。
私にも、そう言った相手がいないのか?と問い返して来たのである。
私は一瞬躊躇した。
それは、私の“女”の部分でそう言った感情が芽生えつつある自覚があったからかも知れない。

そんな私の動揺が見て取れたのか、ユーニスは更なる攻撃を仕掛けて来る。
私は、無理にその話題を終了させながら、己の心に問い掛けた。

…私の心がこんなにも乱れるのは“あいつ”を想っての事なのか?それとも…

だが、私の内に答えは見出せなかった様で、私の心は何も答えてはくれなかった。

そこら辺の事も整理するにも今回の里帰りは良い機会かも知れない…私は、執拗に私を見つめるユーニスに苦笑しつつもそんな事を考えていた…。
 
再びオランへ
リグベイル [ 2003/08/12 2:54:05 ]
 数ヶ月ぶりに私は、オランの門をくぐった。

そのまま以前定宿にしていた“軍鶏の檻亭”に足を向ける。
道すがら目にする街並みは、幾度となくこの道を往来した私には、馴染んだ風景であったが、それでもどことなく懐かしい感じがした。
それは、帰郷したエレミアで己の過去を含めた様々なモノを清算して来た事による心境の変化と言うやつかも知れないと、そんな事を思ってみたりもした。

翌日私は、このオランの街で馴染みになった仕事の仲介屋連中へ挨拶がてらに顔を出し、近況などを含めた世間話を二言三言交わした後その足で“きままに亭”へ向かった。

きままに亭は、相も変らないたたずまいでそこに存在していた。
私は、懐かしむ気持ちにはやされながら、その扉をくぐった。扉の向こうも数ヶ月前と変わらぬ雰囲気で、妙に私を落ち着かせた。だが、その夜出会った連中は、どれも初めて見る顔だった。

私と同じ様な風貌のウィトと名乗る女戦士、中性的で見目だけでは男と判じかねるロルルと言う名の戦士、そして、一癖も二癖もありそうなおっちゃん衛視、ワーレン。

初めて言葉を交わす者ばかりであったが、そんな事は関係なく酒は美味かった。

だが、新たな顔ぶれを目にし、時の止まった様なこの店のわずかな時間の流れに私は、何とも言えぬ機微の様なものを感じずにはいられなかった…
 
天高く伸び行く向日葵
リグベイル [ 2003/08/15 7:18:56 ]
 オランへ帰参した翌日、私は馴染みになった仕事の仲介屋連中のところへ再び顔つなぎをする為に訪れた。

久方振りに会う彼等と世間話を二言三言交わしていると、不意に私の“相棒”ミーナの事が話に上った。
何でも、私がエレミアに帰郷していた数ヶ月の間色々と模索しながらも自分一人で仕事を請け、拙いながらもちゃんとこなして来たと言う。

この後でミーナの定宿を訪ねようとしていた私は、彼女が今請け負っている仕事場を教えてもらい、その足でその仕事場へと向かった。

しばらくして見えて来たミーナの仕事場で彼女の事を訪ねると、今は配達の為に出ていると言う。私は、彼女の持ち受け場所を聞き出し、そこへと向かった。

ミーナは、仕事場からそう遠くない場所で見つける事が出来た。丁度配達に向かった家の前で、その家主に配達物を渡そうとしているところだった。だが、そのやり取りがどうにもおかしかったので様子を見ていると、どうやらその家主に要らぬ難癖をつけられている様であった。

家主の理不尽な物言いに辟易としているミーナに溜まらず飛び出そうとした時、今まで押し黙っていたミーナがはっきりと意思のこもった口調で、己の言い分を主張し始めた。家主は、その様な反撃を予想していなかった様でやや怯んでいる感じであった、そして、最後には彼女の主張に押し負かされる様に家の中へと消えて行った。

ミーナは、受領書の様なものを満足げな笑顔で見つめ、大事そうにそれを背負い鞄にしまい込むと、地図を片手に次の目的地へと駆け出して行った。

そんなミーナの後姿を目にしながら私は、彼女と相棒を組んで仕事を始めた頃の事をふと思い出していた。
あの頃、ミーナは私の後ろをいつも小走りについて来ていた、その屈託のない笑顔を私に向けながら。

今のミーナの笑顔には、それに冒険者としての“自信”の様なものが含まれていた感じがした。

夏の盛りを向かえ、太陽を目差し天高く伸び行く“向日葵”…

緩やかな、だけど確実に冒険者として成長しているミーナにそんな思いを重ねながら私は、彼女が走り去って行った路地の向こうを見つめていた…