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知識人、勉強する
アルファーンズ [ 2002/12/22 2:28:29 ]
 「すみませんねぇ、いくらアルファーンズさんが知識人でも苦手なものを教えることはできませんよねぇ・・・残念です」
「わざわざ足を運んで頂いたのに・・・申し訳ありません」
ほにゃほにゃしたグレアムおっちゃんとごついレズナーさんに見送られ、俺はラーダ神殿を後にした。
「くくく。俺に知識面で負けるってのはそりゃあ悔しいだろ」
きままに亭でギグスに言われて、俺の知識人のプライドに火がついた。プライド云々が無くても、オランで暮らす以上覚えておいてソンは無い。

宿に戻り、カウンターの一角に座って考え込む。
「誰か心優しい地元人はいねーかな・・・」
ちらりと視線が、せっせと料理を運ぶセシルちゃんに。・・・ダメだ。
最近流星亭も割りとにぎわうようになってきた。多忙なセシルちゃんをこれ以上多忙にするのは良心が痛む。
となると他には・・・。
つつつっと視線がたどり着いた先には、知り合いの女の子3人と喋ってるミトゥ。・・・暇そうだな(断定)
思い立ったら即行動。つかつかと歩み寄り、がしっと肩を掴む。
「ミトゥ、すげー大事な話があるからちょっと来い」
有無を言わさずずるずると二階に連れて行く。残された女の子がなんかキャーキャー言ってるけど、無視。
「なぁミトゥ・・・」
・・・赤くなるな。ヘンな誤解してんじゃねーだろーな・・・。
「俺に・・・東方語を教えてくれ!」
 
知識人の先生になる
ミトゥ [ 2002/12/23 14:46:40 ]
 最近護衛の仕事をしていて、ロクにノンビリした日がなかったけど、ここ最近やっと一息つけた。
気がつけば19の誕生日も駆け足で過ぎていった、これだから12の月って嫌いなんだよっ(むぅ)

昨日、そんなぼやきをつい零してたら、セシルったら忙しいのに関わらず、今日遅い誕生日祝いを軽くしてくれた。
仲のいい女友達たちと一緒にマスターの手作りケーキも頂いて、仕事に戻ったセシル以外の残りの面々で、久々になんのとりとめもない世間話を楽しんでいた時のこと。

「ミトゥ、すげー大事な話があるからちょっと来い」

肩を掴まれ、頭の斜め上からそんな声が聞こえて、振り向くとアルファがそこに突っ立っていたり。

「大事な話って、なんだろう…」
「もしかして…キャーっ!!」

なんて、なんか想像して盛りあがってる友人一同をじろりと見てみたり。

そしてこっちがなにかを言う前に、奴らのキャーって声を聞きながら2階のアルファの部屋につれ込まれてみたり……ん?つれ込まれ………!?
な、な、な、いや、ちょっと、ちょっとまって!!!………いや、君の事きらいじゃないけど、なんて言うか…

「……アホ、なに誤解してるんだよ」

誤解?…そうだよねぇ……あーびっくりした。んじゃ、一体ボクになんのようなの?
赤くなっててもわからないって、え?声小さすぎて聞こえない。

「俺に・・・東方語を教えてくれ!」

………は?東方語!?
あれ?使えなかったっけ?知識人だって威張ってるから、それぐらいてっきりマスター済みかと……あー、怒らない怒らない、いいよ、教えてあげる。

え?大丈夫なのかって?何分”ボク”だから不安だとぉ!?








教えないぞ?(怒)
 
アルファーンズ [ 2002/12/24 2:37:35 ]
 まに亭でたまたま一緒になったエレイン・・・エルと話していて、久しぶりに先生を思い出した。
クラレンス師。“言の葉歌う”とも呼ばれる、女賢者にして魔術師。元冒険者でもあり、茶目っ気もある、俺が尊敬する数少ない人のうちの一人だ。
俺がやさぐれ初め、学院をサボるようになったころに出会って、出会い頭にいきなり驚かせてくれた。
ゴブリン語で話しかけてきたな。意味は理解できなかったが、俺は街中に妖魔が出たのかとマジでビビった記憶がある。
それから何かと縁があり、講義を受けるようになった。
『知っていて損をする言葉は無い』『言葉の本質は意思疎通のもの。異種族の言葉を知れば意思疎通は可能のはず』が口癖だった。特に前者は、何かと理屈づけたり難しい言い回しをする連中とは違い、明快に言い切るあたりに好感を抱いていた。
感銘を受けた俺は、最初にあったときのインパクトも相成ってゴブリン語を習い始めていた。口伝えでしか教えられないこの言語、習得は死ぬほど難しかった。実践だとゴブリンの群れの討伐に連れて行かれたともあったし、興味本位で習うんじゃなかったと後悔した時もあった。
それでも習い続け、習得できたときには今まで感じたことのないような達成感があったな。実用性は置いといて、あの達成感は嬉しかった。
・・・ああ、そうか。最近、忘れてたな。冒険じゃ得られない達成感って奴を。新しい言葉を覚える、達成感。先生もこれが好きだったのかもしれない。
クラレンス師、俺はまた頑張りますよ。あの時みたいに。

ノックもなしに、ばたんと部屋の扉が開く。こんな無遠慮ことする奴は、今の俺の先生しかない。
「ごめーん、遅れちゃった」
「遅いぞー。っしゃあっ、今日も頑張るかな!」
 
知ることの楽しさ
アルファーンズ [ 2002/12/26 0:33:43 ]
  今日は東方語の勉強の前に、知り合いから古代語の仕事を少しだけ任された。たった二行だが、古代語なだけあって難解で夜までかかった。
どうやら歌の歌詞の一節らしい。どうりで難解なはずだ・・・表現の訳し方の違いひとつで全然違ってくる。
報酬は、労力には見合ってないけど、軽い飯を奢ってもらった。

夜、ラミアさんという神官にも言ったけど、俺って文献調査とかであんま金取ってない。金あるに越したことは無いけど、それ以上に知識も欲しい。
知識は金で買えない、というのは先生の受け売りだが、実際そうだと思ってるから、良心的な値段で賢者としての仕事を受ける。
確かに、正則な知識なら金を払って学院で学べる。しかし外部、特に遺跡なんかから持ち込まれた変則な知識は学院に篭りきりじゃ得られる機会はあまり無い。
それらを訳したり調査すれば、知らなかったことを知ったり、新しい文法や表現技法に出会えるかもしれない。土産話を聞くのも、同じこと。
知識人である俺にとっては、相場の手間賃同等、時にはそれ以上に嬉しい収入だ。

もしかしたら、学院で習ったことを覆すような遺跡の話を聞けるかもしれない。調べてみたら、高名な魔術師の遺跡が見つかるかもしれない。報酬と同じように、探索に行けるなら行けることに越したことは無いが、やはり知識を得るだけでも俺は十分ありがたいし、嬉しい。
俺はそれが楽しくて、解読や調査を受けているのかもしれねーな。

「だから何週間も調べてるのに、すぐに金欠になるだね」
・・・・・・・・・うるさい。
 
度忘れ
アルファーンズ [ 2002/12/31 2:57:05 ]
  今日、久しぶりに見る知り合い冒険者が、流星亭に来た。
どうやら、グロザムルまで行って一山当ててきたらしい。
一昔前の怪盗の隠れ家から頂いてきた品物は、かなりの金になったらしく、俺も含めた合計7人で飲めや食えやの大宴会。
最初は流星亭で騒いでたけど、昼を食いに来たラーダ神官たちが迷惑そうにしているので、古代亭、山猫軒、その他諸々を渡り歩く、まさに食い倒れのバカ騒ぎ。

 さすがに、当事者じゃねーから、夜からは遠慮して途中で抜ける(←十分無遠慮)
きままに亭へ向かい、ホットミルクで軽く暖を取る。懐には、魅力に負けて連中から買った遺跡の地図。これも今回の冒険で手に入れたものらしい。未発掘なら、春になれば潜ってみてーな・・・
そんなことをぼーっと考えると、何かを忘れてるような気が。

・・・なんだっけ。
必死に思い出す。

 『遊びに行くのも良いけどさ、今日東方語教える日でしょ?時間までには戻ってきなよ』

「やべぇ!」
ダッシュで帰るが、時すでに遅し。
先生様は一頻り文句を言って、部屋に戻って寝てしまった。

 いかん。非常にいかん。
俺の経験上、女の子は一度怒らすと謝ってもなかなか許してくれない。許してくれないと、東方語の勉強も進まない。進まなければ例の地図を解読する時間に当てられるけど、さすがにそんな無神経なことはできねー。

 翌日。黒目通りライディース商会にて。
俺は物品の力に頼ることに決めた(←贈り物で媚を売る作戦・滅)
・・・そういえば、誕生日も過ぎてたんだっけ。

「贈り物ですか?」
・・・一応、誕生日の贈りモンかな。そーゆーことにしとく。
「恋人さんですか?」
断じて違います!

残っていた金、ほぼ全額をつぎ込んで購入したマフラーを手に、流星亭への帰路についた。
 
紅い夢
アルファーンズ [ 2003/01/11 1:26:51 ]
  飛び散る鮮血。
紅く染まる視界。赤い世界に、弱い笑みを浮かべる少女の顔。
それは、一番安心できたはずの笑顔。
しかし、一番恐怖と悲しみを覚える笑顔。

『あたい、死んでもアルファのこと・・・好き・・・だから・・・』

「・・・ッ!うああッ!!」
飛び起きる。ここは・・・机に座ったまま居眠りしちまったか・・・。インクの瓶はかろうじて倒れていない。
衣服は冬だというのに寝汗でぐっしょりとぬれている。
またこの夢だ。あの日から、決まって悪夢はこの夢。

 メリルが俺を庇って死んだ日から、死んだ瞬間の悪夢。

ここ最近、この悪夢にうなされることはなかったが、昨日まに亭でどっかの村のボンボン・・・確かマーファ神官だったっけ(オズウィン)と話したせいか・・・?
 極悪な、よわっちい奴だったら良いのに。
その台詞が引き金を引いた。脳裏をよぎるメリルの最期。
気が付いたときには、睨みつけるような目になっていた。

 冒険者一般では、ゴブリンは下級の妖魔、いわゆる魔物のなかでも「よわっちい」やつら。数がそれなりでも、冒険者になれるくらいの力ならば5,6人もいれば事足りる相手。
だが、少しの過信が油断を招いた。数も多かったが、何より俺の過信が、最愛の人を失うきっかけになった。
どうしようもなく体が震える。

 「・・・痛ぇ」

 額のサークレットが、ぎしりと頭を締め付けるような感覚。
あの日から譲り受けたサークレット。墓標になっている剣を除けば、唯一の遺品。
填め続けるのも・・・もう限界かもしれねーな。
そういえば、リグの使っている、親父の形見の剣も寿命だとか。
 思い出の品は、手放す必要はない。お守りにするなりなんなりして、近くにおいておけばそれでいい。
自分で言っておきながら、自分が実行できてねーじゃん・・・。
 ゆっくりと、サークレットを外す。銀の煌きはまだ健在だが、大きさには少々不安が残る。
しばらく見つめ続けると、メリルの眼の色と同じ色の宝石に、一瞬あいつの笑顔がよぎったような気がした。
笑顔を思い出し、そして大事なことも思い出す。

・・・そうだよな。忘れる必要はねーんだ、忘れたら、お前はホントに死んじまうもんな。ただ、依存し続ける必要もねーんだ。心のどっかで、ずっとお前に縋ってたのか、俺。

 サークレットを磨き、机の上にことりと置く。その時、ばたんと扉が開く。こうまで無遠慮なのは、ミトゥしかいない。
「あー、アルファ居眠りしてたでしょ。インクの跡ついてるよ、おっかしー」
慌てて頬を拭うと、手にもインクがこびりついた。その様子を見て、さらに笑い転げるミトゥ。
・・・そっか。今、一番安心できる笑顔って、こいつのかもしんない。


 「それで、新しい恋の始まりか?」
 「それはない・・・多分」
流星亭のマスターと、少し遅めの昼食。

 俺の額にあったサークレットは、懐の中で眠りについていた。
 
初心忘れぬべからず
アルファーンズ [ 2003/01/19 3:52:27 ]
  冬は寒い。だから遺跡にも行かない。
正確には手が悴んで武器を持つ手が震えたり、“鍵”だって細かい作業をしにくくなるだろうという理由。本領が発揮できないからだ。
 だから仕事は街中で出来るものばかり。

 でかいお屋敷の書庫を整理したり。ついでに犬の散歩も頼まれたり。犬に長い時間街中を引っ張りまわされて、逆に散歩されてるみたいだったり。

 そして貰った多めの報酬を手に、次の軽い仕事がないか探しにまに亭に顔だしたり。ホットミルクで一息、カレンさんと他愛もない雑談。そこへコロムが突っ込んできたり。
 仕事がないかという話題のなか、ふとした一言でカレンさんの持っていた羊皮紙の解読を受けたり。

 ……急ぎすぎている。

宿に戻り、ふと思う。最近、知識や仕事を得ることを急ぎすぎているような気がする。
いや、気がするんじゃない。事実だ。
 東方語の勉強、買った文献の解読、書庫整理など日雇いでの仕事、そしてカレンさんから預かった羊皮紙。
一度に3つも4つも抱え込むなんてこと、今までなかった。

 昔はひとつのことで手一杯だった。しかしその分、ひとつのことに全力を出し尽くせた。無理していくつもの知識を得ようとして、クラレンス師に諭されたこともあった。
 「千里の道も一歩から」「二兎を追うもの一兎をも得ず」「全てに手を出さずともよい。順序立て、ひとつずつ得ることが大切だ」と。
 クラレンス師の豊富な言語能力も、これらをモットーにひとつずつ時間をかけて覚えたものらしい。時間をかけたからこそ、今の私がある、と。

 少し落ち着こう。
 それに、依頼を受けておきながら他のことと両立させてどっちもやろうなんて考え方事態がおかしいな。依頼人に失礼だ。
 じっくりカレンさんの依頼をこなそう。自分の文献は後回し。東方語の勉強もしばらく休憩かな。
 
赤いリボン
アルファーンズ [ 2003/01/29 18:54:47 ]
  太陽丘で偶然会ったリグと髪の話。
ついこの間までリグより短かった気がするが、気付けばリグよりも少し長くなっていた。リグはどーやら伸ばす気はないらしい。
俺はどちらかというと長い方が気に入ってる。
カッコだけの問題じゃない。

 三つ編みを結んでいた赤いリボン。アレは母さんから貰ったもの。
親から貰ったものを後生大事にしてるってのもなんだけど、お守りみたいなものだからと短くなったときでも懐に入れてあった。
赤いリボンには、銀糸で古代語と奇怪な魔方陣が刺繍してある。よく、アミュレットなどで見かける魔法陣に煮ている。だが魔法の護符というわけではなく、旅の安全祈願をこめて織った手製のものらしい。
 それを人の命の憑代になると昔から言われてる髪に結びつける。
魔力的な力を持つ髪に、より魔力を与えるという子供のころから教えられてた一種のまじないみたいなもの。

 信憑性も、理由もないけど、俺は結構信じてたりする。
冒険者たちに生きて帰れるというジンクスがある品物があったりするように、これが俺のジンクスみたいなもんだから。

 いや。

失ったものは多いけど、これからそんなことが絶対ないように、このリボンと・・・サークレットをジンクスにしたいからかもしれねーな。
 
帰還のルーン
アルファーンズ [ 2003/02/02 4:39:38 ]
  唐突にミトゥは言った。
あまりにも唐突すぎて、最初は言ってる意味が分からなかった。
「旅に出る」と。

 会いたい人に会いに行くらしい。誰と会おうがミトゥの勝手だが・・・
妙に心寂しくなる。喧嘩する相手がいなくなるからだと言い聞かせる。
エレミアまでだから一月半もあれば、大した危険も無く帰ってくるだろう。
でもまぁ・・・一応な。

 そんなことを考えながらギグスが息抜きにと誘ってきた賭博場へ付き添う。でもやっぱり安全な賭けは儲からない・・・。
まぁいいや。もとより息抜きに来たんだ、変に儲かって癖になってらたまらない。
帰りに羊皮紙とインクを補充。すると面白そうな店を見つけた。
流行の装飾品、珍しい柄のスカーフ、古い指輪、古代王国期の魔法の品・・・。
多種多様の品揃えの露店。
 
 あの手この手の売り文句で俺とギグスに買わせようと頑張る店主。
しかし、申し訳ないことにパッと見、良さそうなものはない。何より、高い。俺の手持ちではターコイズの首飾りすら買えない。
 ふと隅っこで銀色に光るペンダントトップ。
「帰還」の意味をもつ古代語を象った銀の安物だった。しかし俺の目には一番いいものに映った。ジンクスとしては、三流だけど・・・

 帰り道。
銀貨140枚で手に入れたペンダントトップの汚れを磨きながら帰路に着く。磨いてみれば、それはなかなかいいものだった。
 
新しい仕事
アルファーンズ [ 2003/02/08 23:21:04 ]
  今日でやっとカレンさんから依頼された仕事が完了した。
魔法装置に違いはなかった。室内に対して魔法がかかるらしく、起動用の石の並びによって、魔法的な力場を数種類発生させるものらしい。
サプ・・・なんたらエレメンタル(←サプレス・エレメンタル)に似た効果のある力場も発生させることが出来るらしいから、ラスも行くならきついかもな。
 最も、現在もちゃんと起動しているかはわかんねーけど。

 とにかく終わりだ。あとは神殿のカレンさんに届けるだけ。朝まで時間潰すか。
きままに亭に立ち寄ると、グレアムおっちゃんの姿。
 ちょうどいい。例の文献の建物のことを聞いてみるか。参考になるだろ。
グレアムおっちゃんを捕まえて、いつぞやに買った文献の建物のデザインを見せる。

 ・・・・・・それはもの凄い知識量だった。

 様々な建築様式を例にあげ、推測を述べていく。
俺も一応、歴史は得意だ。でも、歴史は歴史でも建築の歴史はさっぱりだ。それが駄目な分、魔法の品物に関してならグレアムおっちゃんよりは自身あると自負しているつもり。
 でも、前の冒険でグレアムおっちゃんは魔法の品物相手にも溢れる知識を発揮させていた。

 狭く深い知識の俺。広く、深めの知識のグレアムおっちゃん。
ちょっちだけ、くやしかった。
 
聖恋日
アルファーンズ [ 2003/02/15 1:15:12 ]
  時は古代王国期。ヴァレンシュタインというマーファを信じる男が居た。
彼は貴族の出ならが、蛮族の娘に恋をした。勿論、結ばれぬ恋。
人目を忍ぶ逢引を続け、やがて二人の間には確かな愛情が芽生えた。
決して結ばれることのない愛だが、愛し合うもの同士一緒になるのが自然な考えだという思念の元、二人だけの結婚式をあげる。
 そこへ、男の家族がなだれ込んできた。一族の面汚しだと男を放し、そしてこの世からの抹消を図った。
 もてるだけの力を尽くして逃避行を続けるが、ついに男と女は窮地に立たされる。が、ふたりの愛がマーファに届いたのか、二人の姿が忽然と消えた。
 男はその後、歴史の表舞台から姿を消したが後世、愛と自由の元に認められざる愛情を育むもの達の結婚を執り行っていった聖人の名が蛮族の間で密かに語り続けれれて来た。
 それ以来、2の月14日は「結ばれぬ二人が結ばれた日」、「愛の力で奇跡が起こった日」として伝えられるようになった。

 それが、俺が学院に居た頃習った「今日」の歴史。最も、この伝承はいくつもの説があって、どれが正しいかなんて誰にもわからない。

 いやつまり俺が言いたいのは、この日は「愛」というもの重要さ、素晴らしさを伝えるための日であって、贈り物なんて二の次なんだ!
 いくつもらえたか、とかは問題じゃないんだ!

「誰かからもらった?」
「もらったことはもらったけど・・・」

 いやだから、重要なのは贈り物を貰うことじゃないだって。贈り物は良いけど、肝心の愛がねーじゃねーか。
歴史を学んでいた俺としては、ちょっと違った解釈で現在に伝わっているのが気にかかるが・・・

「アルくーん、アップルパイどうだった?」
「すっげー美味かった。ありがとー」



 愛があろうとなかろうと、貰えるモンはやっぱり嬉しいもんである。
 
調子
アルファーンズ [ 2003/02/27 21:05:42 ]
  ・・・・・・最近――2の月の頭あたりからどうも調子が悪い。日常生活のいろいろトコで。
マイリー神殿に出かければ、いつも持ってるダガーを忘れたり。
遊戯盤でじーさんの相手をすれば、初心者でもやらないミスを連発したり。人の名前を度忘れしたり。久しぶりに料理したらくろこげ。
羊皮紙を買えば、獣脂が残りまくってたり。仕上がりが悪くてペン先が引っかかるのが多いし。
あげく、インクをぶちまけたり。

 ・・・なんでだ。集中力が低下してる気がする。
病気?いや違う。調子は悪いが、体調なら万全。
いろいろ理由を考えてみるけど、ピンと来ない。
昨日会った剣士――ザッシュだっけ?の言葉を頭の中で反芻される。

 アルも壁にぶつかる時は・・・

 ・・・・・・これが壁か?
壁にぶつかった経験は、一度ある。自分が賢者という職に疑問を持ったとき。でも、その時とは感覚が違う。

 流星亭に戻る。
普段愚痴る相手のミトゥが旅に出て不在だから、代わりにマスターとセシルちゃんを捕まえて愚痴る。
「これが俺にとっての、新しい壁なのかーっ」
がしゃん。
「あ」
エールのカップを倒してしまった。いそいそと拭く。
「・・・・・・これは病気なんじゃないのか」
流星亭のマスターの呟き。
「なんの?」
「・・・自覚、ないんだね」
セシルちゃんの呟き。

 ・・・・・・さっぱり意味がわからん。
 
相棒の帰還
アルファーンズ [ 2003/03/22 3:23:11 ]
  やっとミトゥが帰ってきた。
しかも、怪我付きで。帰りはキャラバンの護衛で馬車に便乗してきたらしいが、見事にドンパチに巻き込まれたとは本人の弁。にしてはやけに傷口がでかいような気がするが、まぁ流星亭の客の神官いわく大したことないらしいので一安心。
 が、これで遺跡へ行く“剣”に欠員。大したことはないが、剣を振るなんてもっての他だ。
杖同様早急に探さなければ。

 思案しつつまに亭へ足を運ぶと、ちょうど良くユーニスを発見。
顔見知りだし何度か手合わせしたこともある。霊も使える。まったく良い人材を発見した。
 同席した男――サファネが呼ばれて席をはずした間にしばらく話し込めば、遺跡に同行してくれることに。
 これで後は杖だけだ。サファネは杖かと期待したが、鍵兼霊らしく、どっちも足りている。またの機会に頼むとしよう。

 帰り際、土産にラキスのボトルを買って歩きながら考える。
他に声をかけてない奴の顔を思い浮かべる。その中で割と親しいのは一人。それほど親しくはないが同行を頼めそうなのも一人。
 よし。明日からユクナルとセインあたりを探して頼んでみよう。