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しずくの旅路
ユーニス [ 2002/12/25 1:01:50 ]
  水のように、全てを抱いて。
 水のように、仲間を集めて。
 水のように、路を切り開いて。

 お前のこころは水の性(さが)に近いようだから、
きっと水に愛されるだろう。

 師匠の言葉が正しいならば、わたしはきっと今、旅だって間もない
小さな水の一滴なのだろう。
 私はどこへ行くのか、どうなっていくのか……
 
女の子同士
ユーニス [ 2002/12/25 1:03:10 ]
  「女の子同士って、いいなぁ(ほわーん)」
 朝ご飯のときにぼそっと呟いたら、食卓が凍った。氷乙女さんなんてまだ呼べないのに。
何か誤解しているらしいので、師匠夫妻に、昨日の夜出会ったミニアさんのことを話して、
女同士の会話……おしゃれ心について盛り上がったことを告げると、師匠の顔がほころんだ。
 「それでいい、すこしずつ、判ってきたようだな」
 それだけ言って、満足そうに笑った。
 ……よくわからない。

 けれど、何となく感じることがある。
 胸の中に生まれてきた小さなあたたかいもの。育み、愛で、慈しむ気持ち。
母の腕の中のぬくもりを思い出させるような、不思議な何か。
 これって、なんだろう、な?
……昨日飲み過ぎて、胃もたれしてるだけ、とか……
 
神官さんがいっぱい
ユーニス [ 2002/12/25 1:07:50 ]
 今日は至高神の神官さんお二人と、交流神の神官さんにお会いした。
カウンターが神官さんで一杯って、珍しい気がする。
 何だか不思議な気持ちのまま、なりゆきで神官さんの苦労話を聞かされていたような
なんとも面白い時間をすごすことが出来た。
 オランにきてすぐに知り合えたシルフィーさん、今日も元気そうだった。
いつもゆっくりお話する機会が無いから、今度こそはじっくりお話を聞かせてもらおうっと。
 イシュメルさんは相変わらず荒事で忙しいようだ。この間も話題になった抜刀術を
いつか披露してほしいなぁ。というより、手合わせしていただけると良いな。
もっと。もっともっと、強くなりたいから。いろいろな人と知り合いたい。
 初めて出会ったケイさんは、きれいで元気なひとだった。
エストンの山中でお勤めかぁ、大変だったんだろうな。いい鍛錬になるだろうな……(おい)
 お祭りに行ったら会えるかな? またいろいろお話を聞きたいな。
交流神さまの神殿は、何となく優しい感じがして好きだし、ね。

 とりあえず、年越しは師匠夫妻と交流神の神殿にお参りに行く予定だったので
いろいろお話が聞けてよかった。
 ……どうやら朝ご飯が出るらしいし(嬉)。

 精霊と心を交わす私が、神様の声を聞く日はきっとないだろう。
けれど、あの交流神の神殿の暖かい空気は、そんな私にも優しい。
 いつか、またケイさんにあったら尋ねてみよう。
「神様って、どんな風に感じる?」と。
 
二人目の「危なくて変でえらそうな魔術師さん」
ユーニス [ 2002/12/25 22:41:28 ]
  エストンの方角にある雪に埋もれた小さな村から、風邪薬と生活用品の配達依頼があった。
寒いところに行きたがる人が少ない為なのか、店員さんが掲示板に張り出すときに
偶然店に居合わせた為なのか、あっさり行くメンバーに決定。
 これでまた少し懐が暖かくなると思うと嬉しかった。
 来年の初夏にはエレミアに里帰りする予定なので、冬のうちは貯金に励み、
春になったら今まで以上に仕事を探して頑張らなければならないのだ。
 小さな仕事でも、まめに受けていないと予算が厳しくなる。
「誰かと一緒に仕事したほうが効率いいかなぁ……」
そんなことを考えてみてはいるものの、都合よく相手が見つかるわけではない。
来年のために剣の腕を磨き、精霊使役の力をつける事しか、さしあたってできることは無かった。

 寒い村から帰ってきて一息ついた昨日、師匠のお使いを頼まれた帰り道でヘンな人に出会った。
 いきなり石が飛んできたので思わず避けたら、投げてきたのは見るからに怪我を負った魔術師。
袋叩きに有ったんだろうな、と容易に想像できる姿だった。
 口は悪いし、痛みのせいなのか、こちらの言っていることが上手く通じない。
挙句の果てに勘違いして魔法を使ってくれた。灯火の魔法。
……宿まで護衛すると申し出たのに、私が護衛を頼んだのだと勘違いしたようだ。
 関わってしまった以上、怪我人を放っておくのも寝覚めが悪いので、
交換条件の形で彼を宿まで送る申し出をしたら、何か一人で納得して「契約成立だ」と言った。
 灯火の魔法を使ってくれるだけで、もう充分報酬に値すると思ったから、
宿まで送って終わりだと思ったのだけれど、彼は何か勘違いしている様子。
 「様」づけで呼べだの、仲間を集っているところだの、実力を見せろだの。

……もしかして、このひと私が仲間に立候補したと思ってるとか?

そう気付いたのは、このあやしい魔術師、バウマー・ハルマン氏と別れてからだった。

 そういえば、このひと掲示板に仲間募集(とてもそうは読めない)を出してた人みたい。
私は「勇士」でもないし、なんか面倒な人に思えて問い合わせすらしていなかった。
…………もしかして、私はとんでもない人に関わっちゃったのかな?

 どう、しようかな。もしそうなら、断った方がいいのかな……?
 
年のうちに春は来にけり?
ユーニス [ 2003/01/06 23:05:37 ]
  514年12の月、27日。
この日は人生始まって以来の心臓に悪い日だった。
 バウマーさんの誤解を解くべく、またマスターに彼の人柄を尋ねるべく
きままに亭に赴いた私。
 有益な情報をマスターとラスさんに頂いた。
うーん、こういうひとなら、組んでみても良いかな?
むしろ、魔術師さんと組めるのは良い機会だって思えるようになった。
 そうか、じゃ、とりあえず話し合ってみよう。それからよね。
偏見は取り去って(いや、充分見たまんま、という気もするけれど)
ゆっくり話し合って決めればいいんだもの。
 
 ラスさんにいろいろお話を伺っているうちに、ひょんなことから人参の
フォークの奪い合い(正確には食べさせあい)になり、
「はい、あーん」と差し出したら、手にキスされた(汗)。
 絶叫したら、ユーニスは女の子らしいとか言われた。
ええと、どうしよう、言葉は冷静に交わせるんだけれど、
何だか動転していて、頭が混乱してる。レプラコーン、暴れないでよ!
 やっと落ち着いたと思ったら、ナヴァルさんという草原の民? の方に
『花』……春をひさぐ女と間違われた。
 私、女に見えるんだ……どう、しよう、なんだか、どうしたら良いのか
全然判らなくなっちゃった。
 帰ろう。帰って寝よう。ううう。
 あ、バウマーさんに逢ってないけれど……もう、今日はいいや。
(PL:関連EPを近日中に上げます)
 
当たり前のこと
ユーニス [ 2003/01/13 0:44:16 ]
  バウマーさんに逢えた。やっぱり誤解していた。うーむ。
 いい機会なのできちんと自分の考えとスタンスを話して、最低限守って欲しいこと、譲りたくないことを伝えたら、
面倒くさそうに「好きにしろ」だの言う。それでいいのかなあ。
 何だか自分を大切にすることを知らないひとみたいで、少し辛くなった。
「自分を大切にしない人は他人を大切にしない」それは一つの傾向。
でも、あの時そういったのは、ちょっとした意地悪。
 それなのに、この人は結局必要なことへの反応しかせず、私の要求にあっさり当たり前のように頷いた。
 その態度で思った。この人はきちんと仕事をしてきた人なんだ、と。
そして私にとっての「あたりまえのこと」を違和感なく受け止められる生き方をしてきた冒険者なんだ、とも。
 良かった、それならいいんだ。たとえ子供じみた挙動が目立っても、性格が歪んでいたとしても、これからも話し合っていける。
前提条件が違いすぎたらお話にならないもの。
 とにもかくにも、まず彼と組んでいろいろ仕事をしてみよう。
考えるべき時期はまた来るかもしれない。必要ならそのとき見直そう。
 なんだか、気が重かったのが嘘のようで、反動でなのか嬉しくなったから、一度だけのサービスのつもりで「バウマー様」と呼んだら、
酷く喜んでいたのが印象的だった。困った人よね。
 
 さしあたり、どんなところに気をつければ良いかな? 彼は魔術師。背丈は私より高いけれど、体格は半妖精さん特有の細身。
……あ、いけない、半妖精さんって事は精霊の声も聞けるのかな?
うわ、自分を守る努力をすべきとか言っておいて、肝心の事聞いてないじゃない。どっちが危なっかしいやら(苦笑)。
 彼は魔術師で賢者、かな?精霊も使えるのかな?
 あはは、今度逢ったら聞いてみよう。

 ”金”のアーヴディアさんとも同席できた。高名な魔術師でスカイアーさんのお仲間。
オランに着てよかったと思えた瞬間だった。”五金”といえばエレミアの冒険者の憧れの的だものね。
 
 もしかしたら、今日は記念すべき一日だったのかもしれない。
 
二兎を追ってみる
ユーニス [ 2003/01/15 23:55:45 ]
  剣と精霊使役、野伏。それが私の持ちうる「ちから」。
でも全て一流になるのは難しい。ラスさんにも、バウマーさんにも言われた。自分でもわかってる……つもり。
 自分が一体何を極めたいのか、そろそろ絞り込む時期がきているのかもしれない。
 剣を持たずに歩くと、腕をもぎ取られたような錯覚に陥る。腕が未熟な証拠だと思う。本当に極めていれば、違うんじゃないかと。
 精霊と話さずに居るなんて、今では考えられない。視野が広く、音が遠く、匂いが細やかに、感じられるようになった分
それが無くなったら視力を失うのと同等の苦しみを覚えるだろう。
 では、野伏の技は?
 ……春の気配に誘われて気もそぞろになる自分に、捨てられる?

 リグベイルさんは、まず剣を極めるといっていた。それはきっと一番賢く正しい方法。
 きっと、現状では私もそうなるだろう。まだ精霊をろくに扱えない駆け出しだから、当分の間は。
 でも、その時期が過ぎたら? 何となく、予感はある。
それが現実になるかどうかは積み重ね次第。今はとにかく、がんばろう。

 ミニアさんが精霊使いだとは、知らなかった。驚きつつ嬉しかった。
「今度お買い物に」って誘ってくれた。きっと楽しいだろうな。

 ミーナさんと貧乏談義(涙)が出来なくて残念。今度はつつましい努力を心行くまで語り合いたいと思う。
 ……嫌がられるか。やめとこ。
 
種は蒔かれた
ユーニス [ 2003/01/19 1:15:27 ]
  森妖精さんとバウマーさんと、三人で話した。
 バウマーさんが相変わらずだったから、森妖精さんは少なからず気分を損ねたようだ。
 でも「種からはその木を知ることが出来ない」とバウマーさんと私の前途を評したので
「種を育てるも枯らすも、伸ばすも条件次第。私がいい土や水なら良いこともあるかもしれませんね」と応えた。
 そう、もう種は蒔かれたんだ。
 今後のかたちは私とバウマーさんと、その他募集中! の仲間で織り成していくのみ。
 まずは、目前のお仕事を片付けよう、二人で一緒に。
「じゃ、明日 9の刻に迎えに来ますね」
 種を育てる水を撒き、土を整えたなら、お互いの芽を伸ばしていくだけ。
さあ、がんばろう。
 
至高神の威光降り注ぐ春
ユーニス [ 2003/01/19 1:23:25 ]
  シルフィーさんに逢った。
 ファリス神殿にはイシュメルさんを訪ねていこうかとは思っていたが、
普段参拝するほどのご縁を感じていなかったので、新年の参拝もしていなかった。
お蔭で少し気まずい。……と思ったら「いつでもいいですよ(にっこり)」と反応され、
余計にプレッシャーを感じてしまった愚かなる私。
 おまけに、最近アノスへ行ったというルビィさんという方とも同席したので、
話題は何となくファリス様一色(自分でそうしたという話もある)。
うーむ居心地悪いような気がするのは、私が邪悪なのでしょうか(涙)。
 一つ感じたのは、誰も皆、自分の人生を一所懸命生きているという当たり前のこと。
 自分の足場を知るものほど強い。今の私には足場が必要で、それは自分で築き上げねばならない。
 そんなことを、二人のやり取りから感じた。
 迷っているより、堅実に出来ることをこなしていこう。
 出来ることを極める、出来ることを求める。
 今の私には、振り返るより前を向くことの方が大切なのだと思うから。
 
新たな仲間
ユーニス [ 2003/01/26 0:32:05 ]
  今日も今日とて、仕事と仲間を探して街中走り回る。
オランに慣れたとは言え、この時期に仕事がすぐ見つかる訳でもなく、
収穫なしできままに亭へやって来た。
 と、バウマーさんのとなりにむさ苦しげな男性。どうやら仕事の話をしている様子。
 隣に座って聞けば、仲間募集中の”鍵”さん。何という巡りあわせ!
チャ・ザ様、心から感謝いたします。
神殿で、ちょっぴり多く寄付を納めたのが良かったんでしょうか?
……というのは冗談として、とにもかくにも、仲間を得たお祝いに
バウマーさんが気前良くお金を出してくれて、三人で飲んだ。
 こういうときのお酒は本当に美味しいな、と痛感した。

 でも、もっと嬉しかったのは、バウマーさんの言葉。
私が”器用貧乏”と自分を評したら、
「何かを削ったから伸びるなんて信じるんじゃねぇ。
生きたいように生きりゃあいいのさ。世間一般なんざ当てはまるかっ!」
そう言ってくれたこと。
 最初は驚いたけれど、すぐバウマーさんらしいなと思った。
うん、そうだね。自分で自分を型にはめ込んでしまったら、
それ以上伸びなくなる。きっとすぐ限界を感じて行き詰まる。
何より後悔ばかりが先立って、真っ直ぐ歩けなくなりそうだ。
 参ったな、ちょっと尊敬しちゃったよ。伊達に”天才”魔術師を
自称するだけの事はあるかもなんて思っちゃったし。
 でも”バウマー様”なんて、呼んであげませんよーだ。
 
カゾフ、悲喜こもごも
ユーニス [ 2003/01/26 0:47:39 ]
  今日は小孔雀街へ足を伸ばしてみた。ここはムディールの人々が住まう街。
したたかで商売上手な彼らのこと、いい加減に対応すればこちらが損をするので
気合を入れていってみたら、以外に早く仕事が見つかった。
まぁ、師匠の古い友人が紹介してくれたのだけれど。
 カゾフまでオランで仕入れた品を売りにいき、ムディールから届いた荷を仕入れて戻る。
 その間の護衛を探していたので早速名乗りをあげ、仲間の了解を取り付けたら
最終的な交渉に入ることで合意。目安のみ提示してもらって店を後にした。
 きままに亭に行くとすでにバウマーさんがいて、若い男の人と話している。
怪訝そうな表情を向けられている相手の顔には何となく見覚えが。
……え? ワルロスさんだったんですか。髭をそったら別人だわ。
 早速仕事の件を知らせると、バウマーさんは気乗りしない様子だったが請けてくれた。
意外なのはワルロスさん。カゾフには良い思い出が無い、
「親に勘当され、惚れた女が殺された」という。
3つめを話すから「仲間から外さないで欲しい」と約束を迫られたが
最大限努力するとしかいえなかった。
 結果は、失礼ながら大爆笑。本人の名誉の為に忘れよ……うがないわ。

 とにかく腕試しを兼ねて、変装して現地に赴くことで全員合意。
明日、ワルロスさんとふたりで依頼主に逢いに行く事になった。
どうかいい仕事が出来ますように。
 
出発前夜
ユーニス [ 2003/01/26 1:02:47 ]
  依頼主との交渉のあと、周辺の聞き込みをしていたら既に夜。
 急いできままに亭へいって、打ち合わせをしなければ。

 打ち合わせの刻限、バウマーさんは既に来ていてワインを飲みながら何かを読んでいた。
 ワルロスさんは変装(依頼主に逢う以上、今日から仕事開始と同等という事で)を解いていた。
 それぞれに情報の交換をした。私は商隊の護衛につく予定のほかの面子についてと、依頼主の周辺。
ワルロスさんは”裏”に関わる情報を。街道についても調べてきてくれた。
 守るものは布地と陶磁器。オラン近辺の製品をカゾフまで運び、
帰り道はムディールから同様の物を運んで帰ってくる。
 しかし、最近どうも荷を傷つける怪しげな輩がいるらしい。
そいつらの雇い主は商売敵らしいけれど、はっきりは判らない。
このごたごたが原因で、今回の以来と相成ったようだ。
 他の面子はチャ・ザの神官さんと、比較的腕のよいと評判の剣士。
どうやら野伏でもあるようだ。あー良かった、一人で索敵はつらいもん。
 
 とにもかくにも三人でとり組む初仕事。
ここでばっちり仕事をこなして今後の足がかりにしたい。
 さ、今日は早く寝ようっと。
 
出発の日
ユーニス [ 2003/01/26 23:40:39 ]
  弓の弦の予備と矢の数OK、剣の手入れは万全。
防寒具のマントに毛布、獣油で手入れした皮鎧。盾、そして裁縫用具。よし、忘れ物なし。
 師匠夫妻に挨拶をして、下宿を後にする。曇天が重く頭上にのしかかる。

 三人で組んでからの初仕事に臨む胸中は、心地よい緊張と昂揚感にみたされている。
うん、やっぱり仕事は好きだわ。ただ歩いていても、血が力強く体内を駆け巡るのが感じられる気がするから。
 生の実感を得る為にしているつもりはないけれど、報酬と共にその感覚を大切に思う。
 さあ、大切な荷物と依頼主を守って、いい仕事を成し遂げよう。

 馬のいななきと共に荷台が揺れて、カゾフへの道程が始まる。
 
野盗の死
ユーニス [ 2003/02/09 16:22:42 ]
  今日、人を殺めた。護衛中のことだった。
 別に人を殺めるのは初めてじゃない。私の手は随分前から
さまざまなモノの血で染められている。
 けれど今日殺した人は、自分を手に掛けた相手を家族と見誤って、
盗んできた財布を手渡し、微笑みながら死んでいった。
 慈愛に満ちた微笑、安らぎ、幸福。家族の生活を支える金を届けられた
喜びが、罪悪感を上回る大きさで心に満ちていたのだろう。
 けれどその財布の重さは、本来の持ち主一家を支えるべき重さだった。

 自分がどうしたら良いのかわからなくなった。
 果たすべき仕事は何をおいても完遂する。が、問題なのはその後だ。
相手は野盗、そのまま放置すればよい。それが行為の代価だから。
けれど、あの慈愛に満ちた笑みが心に突き刺さる。

 彼が所持していた鉈を返し、死を告げに遺族を訪ね、殺害を詫びる。
棘の痛みを癒す手段としては至極簡単だが、その分安易でもあり、
また結局自己満足のための方法でしかない。
 遺族に詰られ、石もて追われたとて、彼らの憤りと嘆きに出会うことで
自責の念を拭う道具にしてしまいかねない。
 失われたものは償えないし、殺害の理由を告げれば、
遺族に喪失の悲しみのみならず、要らぬ苦しみを加えることにもなる。
 痛みを抱き続けるべきなのか、それとも敢えて偽善者になるべきか。
 あらためて、人を殺める重さを思った。

 バウマーさんが、私の顔を見て、近くの村の名と情勢を教えてくれた。
 領主の跡目争いで村は荒廃し、貧苦に喘ぐ民の声は周辺にも
もれ聞こえているという。この事件の元凶は、きっとそれなのだろう。
 けれど、だから何?
 権力が生み出す争いが民を変えてしまうことを忘れてはならないが、
効果的な具体案も、武力も政治力も持たない私が、それを責めるのは
酷くおこがましい。何を言っても力なき戯言に過ぎない。
 今考えるべきは、手を染める血の責任を押し付ける相手を探す事ではない。

 もし、私が村に行くことを選んだら、二人はどうするだろう。
こんな馬鹿にはつきあっていられないと、仲間をやめるかもしれない。
命を最優先にといったのは私だ。その約束を自ら反故にするのは
あきらかに愚かしい。感傷に付き合わせる理由も無ければ義理も無い。
 カゾフの港で出会った少年を助けたときとは訳が違う。私の甘さに
付き合わせるには状況が悪すぎる。
 行くなら一人で。自分の我侭は、自分で処理する。
 そう考えたとき、このわずか数日の間に彼らが”仲間”として
大切な人になっていたのだと、再認識させられた。

 死んだ男の名前は、所持していた鉈で判った。どうやら農夫のようだった。
遺品の鉈を包んで背嚢に納め、オランへの帰路を急ぐ。
 馬車に沿って歩きながら、背中に重みを感じた。
歩むたびに背にかかる重みは、人の命の重さと軽さを、背骨に伝えてくるように感じた。
 
カゾフより帰還
ユーニス [ 2003/02/12 23:59:42 ]
  仕事終了。暖かくなった懐から、今月分の家賃を払って一息ついて。
まだ軽くならない心をもてあましたまま、きままに亭へ。 
 バウマーさんとラスさんの陰険漫才や、レイフさんという剣士兼詩人さんの
未来への意気込みを聞いているうちに、気付けば心は軽くなっていた。
 でもラスさん、私とバウマーさんはどう見ても恋人同士というのは無理。
(想像してみる。お姫様だっこをするユーニス。抱っこされるのはバウマー)
うー。このほうがしっくり来る気がするのは何故だろう(涙)。

 ラスさんが精霊との新たな絆を結んだらしい。
彼はどこまで行くのだろう。精霊使いの端くれとしては尊敬の念に絶えない。
 
果物ナイフと剣
ユーニス [ 2003/02/20 23:25:02 ]
 オランに帰ってきて、悩んだ。ウィルディン村へ行くべきか行かざるべきか。
結局帰途の宿の店員さん……フィルさんに言われたように、「自分勝手」を通す事にした。
 けれど、これは多分に仲間を失う危険性をはらんでいる。
こんな「自分勝手」を二人はどう受け取るだろうか。
 部屋を片付けて、二人に決心を伝える為に「きままに亭」へ向かった。
 
 酒場には二人ともいなかった。バウマーさんは二階に泊まっているけれど
人を訪ねる時間としては遅すぎたので、逢うのを諦め、明日の出発は延期にする。
 フロアには見知った顔が二人。ラスさんとスカイアーさんだった。
スカイアーさんには先日手合わせをしていただいた。
レドさんに言われていた腕前の評価を願う為だった。いい勉強になったと思う。
 スカイアーさんとラスさん……熟練同士の会話は、傍から見ていても心がまえの参考になった。
緊張を覚えながらも、二人と席を同じく出来た事は偶然に感謝しておきたい。

 ラスさんと二人でいろいろな話をした。最初は、魔法もしくは剣で人の命を奪う重さについて。
どちらも重さに違いはないと言う話から、一般人と冒険者の違いの話になった。
 例えて言うなら「果物ナイフ」と「大剣」。両者はそれほどにかけ離れている。
同じ刃物でありながら果物ナイフは繊細で、剣は無骨。「つくるもの」と「ころすもの」。
腕を磨く事は生き残ること、その為には相手より強くあることが要求されることも多い。
置き換えれば商人の競争にも似ているけれど、賭けるのが命だと言うのが大きな違い。
 どんなに言葉を飾っても、私達が手にする「剣」は武器でしかない。
ラスさんの言葉を借りれば「繊細で誰にでも受け入れてもらえる」ものではない。

 冒険者が手にする「武器」は人それぞれだけれど、自分の「武器」を手にしてしまったら、
私達は背負うものの重さ、振るうことの責任から目を逸らしてはならないのだと、再確認した。
 わたしたちは、「繊細なる一般人」ではないのだから。
 
仲間たち
ユーニス [ 2003/02/20 23:39:34 ]
  二人に逢えないまま、時間が過ぎた。もう、待ってはいられない。 
置き手紙を残して出発する事にした。カウンター席で羊皮紙に書置きをしていると
体格の良い剣士がやってきて、隣に座った。剣一筋に生きていると言う。

 話し始めた所でバウマーさんがやって来た。一緒に行ってくれると言う。
「お前の中で護衛の仕事が終わっていないんだろう?」
まさか、そんな風に言ってくれるなんて思わなくて、驚いたし呆然としてしまった。
「命が最優先」と主張していた自分を責めることすらせず、仲間で居てくれて、
そして同行してくれる。ありがたさで胸が熱くなった。

 しばらくしてワルロスさんもやって来た。ウィルディン村行きの話をしたら、
「気をつけて行ってこい」
「儲けにならないことをするのは勝手だが、体は壊すなよ。……あと、壊させもするな」
 ……ああ、私は、二人のことを見くびっていたのだろうか?
 ワルロスさん、貴方は私が帰ってきてまた一緒に仕事をすることを当然のように言うんですね。
私は、いっしょに仕事をする仲間のところへ帰ってくることが出来るんですね。

 私は、なんて幸せ者なんだろう。

 信頼できる仕事をしてくれる二人に出会えた事と、これからも組める事に、私は心から感謝した。
 
罪の行方
ユーニス [ 2003/03/08 23:33:05 ]
 ウィルディン村に着いて、鉈の持ち主の家を訪ねた。
 すると「狼に食われて亡くなり、一昨日埋葬した」と村の人に言われる。
 苦い思いを抱えながら未亡人と話をした。

 なぜ、私を責めないんだろう。私が彼を殺したのは事実で、如何に責められようとも
その思いは受け止めるつもりだったのに。
 夫は狼に食われて死んだ。その誤解を真実にしたい。そうすれば夫は犯罪者ではなく
ただ哀れな死を遂げただけに過ぎなくなるから。
 理由は納得できる。それを否定できるような立場ではない事は確かだし、
責められて村中総出で攻撃されても困る。それを思えば「楽」な話だ。
 でも……。
 閉鎖的な村でこれからも生きていくために必要なことであっても、
夫の死の原因すら「なかったこと」にしてしまえるなんて
私には想像もつかなかった。
 
 彼女は早々に私を送り出した。

 私は、胸がふさがる思いを晴らせないまま村を後にした。
 バウマーさんも釈然としない思いを抱えているようだった。

 私は、この「苦しさ」が、「贖罪を許されない辛さ」が、私の犯した罪の
あがない方なのかと思うと、やりきれなかった。
 
無力
ユーニス [ 2003/03/08 23:34:46 ]
 ウィルディン村からの帰り道、バウマーさんと私は行方不明の姉妹を捜して欲しいと頼まれた。
渋るバウマーさんをとりなして、見つからなくても報酬は貰う、と言う話で合意。
 手分けして山を探した。バウマーさんの梟と、私の野伏の力で早く見つかりますようにと
神に願いながら。
 日が落ちて、気温が下がってきた。早く見つけないと危険な状態になる。
 焦りが心を支配し始めた頃、バウマーさんが子供の足跡を見つけた。

 子供が急な斜面を登るとは誰も想像できず、後回しになっていた場所だった。
 とにかく探した。熱感知の力を最大限活用して、子供達の所在を探す。

 見つけた。でも。
 姉妹の片方は既に事切れていた。絶望感が場を包む。でも、まだだ、まだお姉さんのほうは
生きている。危険な状態だが、生命が体から離れるまでは何とかなる。

 落胆と焦燥を抱いて帰宅し、手当てを施す。
生命の精霊に言葉が届かないことがこれほど苦しく思えるとは。
私にもっと力があったら……そんな詮無きことを考えつつ、呼びかける。
 神官様が来て、癒しの御業を捧げるが、その力は及ばなかった。
 「逝っちゃだめっ!」
 私の呼びかけに、生命の精霊は応えてはくれなかった。

 疲労と無力感が、私とバウマーさんを暗澹たる心地にさせた。
  
 亡くなった姉妹の家を出て、心の痛手が深くなるままに
街道を西に歩いた。二人とも無言だった。
 バウマーさんには、私に付き合ってくださったために、嫌な思いをさせてばかりで
そんな自分が余計腹立たしかった。

 ああ、早く、強くなりたいっ。もっと力が欲しい。
今更もう、間に合わないけれど。
 
交わらぬ主張、譲れぬ心
ユーニス [ 2003/03/08 23:37:41 ]
 オランに戻ってきて、久々に「きままに亭」へ行くと、バウマーさんと
ファリスの神官さんが二人で語り合っていた。
 バウマーさんは是が非でも神官を確保したいらしく、彼に声をかけたようだけれど
主張が平行線を辿ってしまった。私もいけなかったかもしれない。誘うばかりで
あちらの主張をきちんと聞かなかったかもしれないから。
 彼……ヴァイスさんは、きっと今日くつろぐことも出来なかっただろうと思うと申し訳ない。

 ワルロスさんが遺跡探索の仕事を持ってきた。ギルドがらみで片付けねば
成らなくなってしまったのだ。
 あの「1ガメル」の話が発端となり、片付けねば今後仕事が回るかも
危ういらしい。でも逆に、今回の事は汚名返上のチャンスだった。
 
 でも、例によって、バウマーさんは組織嫌い。即、却下。
 ということで、その仕事はワルロスさんと私で臨む事になった。
 しかし、本当に組織が嫌いよね、バウマーさんは。
一体何があったんだろう……?
 
風乙女に導かれて
ユーニス [ 2003/03/08 23:40:43 ]
  雑木林で精霊に呼びかける練習をしていた。相手は光霊。まだ私の技量では追いつかないかも
知れないけれど、すこしでも早く生命の精霊を使えるようになりたくて、焦りながら呼んだ。
けれど、彼らは来てはくれなかった。ほんの少しだけは、手ごたえがあったのに。

 がっかりしていると、人の気配。道に迷った傭兵さん……ディックさんと出逢った。
彼も戦士で、また精霊使いだと言う。
 私は今の自分の抱える問題とその悩みを、何故か初対面の彼に吐露した。彼は静かに聞いてくれた。

 「自分の中の空白を認めて埋めたい」「生命の精霊と早く絆を持ちたい」その思いを打ち明ける。
 無力な自分、怯えに打ちのめされている自分。そんな自分への腹立たしさと不甲斐無さ。
そして、力を得たいがために焦ってばかりいる自分への嘆き。
 このままだと精霊に嫌われてしまうかもしれない、そう思うと居たたまれなかった。

 でも、彼は穏やかに優しく諭してくれる。
 「恐怖を否定しないで下さい。恐怖も…生命と同じく、精霊の力によるものだから」
 「がむしゃらに精霊との絆を深めようとする事ではなく、自分をみつめ、認めようとする事が必要」
 そう言われて、はっとした。そうだった、恐怖も怯えも、精霊の司るこころ。無理に押し込めても
結局は長続きしないし、それらの精霊と絆を結ぶことも叶わなくなる。それではダメなんだ。
 すこし、落ち着いた。
 
 私たち精霊使いには「友達がいつも傍に感じられる。一人じゃない」と彼は励ましてくれた。
その言葉の温かみに、胸が熱くなる。そう、そうだ、私は一人ではないんだ、と。

 彼と別れて帰宅してから、暫く考える。
 精霊使いは自らの心のありようも制御できて、初めて使い手たりうるというなら、
なんと難しい道なのであろうかと。私みたいに雑念や自分の闇への自覚がおぼつかない人間には
とても遠く険しい道のりだと思う。

 でも。それでも極めたい。そんな思いを抱かされた一日だった。
 いつか再びディックさんに会えることがあったら、心からお礼を言おう。

 少し心が軽くなったら、その分前に進むかもしれない。
 
野いちごの花待つ日
ユーニス [ 2003/03/08 23:44:38 ]
  「きままに亭」で愛らしい草原妖精さんにあった。森に狩りに出かけたときに聞こえた声に
似ていたから話し掛けたのだけれど、大当たりだった。彼女は野伏だったのだ。
 サテという彼女は、アーヴディアさんのお店に住んでいて、あの店の香草の採集を
しているという。世間はとっても狭いものだ。
 彼女を見込んで野いちごの群生地を尋ねたら、いい場所を教えてもらえた。
行ったことの無い場所だったが、見当はつく。確かに良さそうな場所だ。
彼女のお気に入りの場所なのだろう。それを果実酒一杯で教えてもらったなんて
ちょっと代価が安すぎただろうか?

 草原妖精さんたちは大抵気安くて明るく、素敵な話し上手ばかりだ。
場を和ませる特技を持っているといってもいい。私も心が軽くなった。

 もう少ししたらエレミアに帰る準備を進めなければならない。早成りの野イチゴが採れたら、
野イチゴのジャムが大好物な師匠に作ってあげよう。私が居ない間、野イチゴを自分で
取りに行かなくても済むように、たくさん作ってあげよう。腰痛もちの師匠だから。

 「またオランに帰って来られるといい」そう思う。

 自分が、すっかりオランの水に馴染んだことを自覚した日でもあった。
 
「お兄ちゃん」
ユーニス [ 2003/03/09 0:00:33 ]
  ワルロスさんが小さな女の子を救う為に奔走した。貴族の館に盗みに入って、出逢った石皮病の子。
 足の自由のきかない彼女の願いをかなえるために”飛翔”の魔法が使えるカードを苦心して
手に入れ、その代価は持ち主から仕事を受ける形で支払って、ようやく望むままに空を飛んだという。

 でも、彼女は夢が叶ったことで希望を失った。

 彼女を再び助ける為に、ワルロスさんはバウマーさんに頭を下げ、へとへとになるまで奔走し、
すくう手立てを見つけることが出来た。

 今はその手段…ヘンルーダを手に入れる為の旅の途中だ。
 私たちはそのニーナという子と、両親とを守って旅をしているのだが、
彼女はとてもワルロスさんに懐いている。本当の兄のように、といっていいかもしれない。
 
 おにいちゃん、かぁ。

 私にも、3つ違いの兄が居た。といっても覚えては居ない。生後半年で亡くなったそうだから。
もし、私の兄が生きていたら、ワルロスさんに甘えるニーナちゃんのように、
私も甘えたんだろうか? 
 ワルロスさんは、私から見ても頼りになるお兄さん、といった印象がある。
まぁ、例の”1ガメル”の件みたいなこともあるから、完全無欠って訳ではないけれど。

 でも、ワルロスさんって……やっぱり「お兄ちゃん」かな?
 
「ワルロス兄」って呼んだら、きっと嫌がるだろうな(笑)
 
荒野から街へ
ユーニス [ 2003/03/19 21:20:35 ]
  ワルロスさんの未来の花嫁候補(笑)一行と別れて、私達が向かった先は街道沿いの町。
お風呂、お風呂〜(上機嫌)。美味しいものを食べて、お湯をつかって、ふかふかの寝台で休む。何て素敵なんだろう。ああ、しあわせ。

 だけど「禍福はあざなえる縄の如し」とは良く言ったもので。
 
 「お前ぇの怪力を見せ付けてやれ」

 バウマーさんの一言で、私は一躍さらし者、もとい、人気者になった。
……いや「珍獣」扱いというのが正しいだろう。あんな大剣振るう身になってくださいよ(涙)。

 まあ、おかげでオランに帰る道程も護衛の仕事にありついたので、差して費用もかからず、
それどころかやたら報酬の多い2週間になったのだった。
帰り道護衛したのは流れの娼婦達。オランで暖かな季節を過ごすらしい。
 ロマールのオルフィアナさんは元気かな。
 ふと母の友人である、娼館のお姐さんたちが気になった。
もっと稼げるようになったらまたロマールを訪ねてみようと思う。

 バウマーさんがある娼婦のお姐さんの動向を気にしていた。
バウマーさん好みの女性なのかなと思ったら、どうも魔法がらみらしい。
あまり教えてはくれなかったけれど、関わらない様に言われた。
そういうもの? まあ、護衛の仕事はこなせたから良いか。

 あー。バウマーさんまだ得意になってる。もう聞き飽きましたよぉ。
はいはい、わかりましたって。御蔭で懐は暖かいですってば。
 
力及ばず
ユーニス [ 2003/03/20 21:46:57 ]
  「非力」いや、「無力」。出逢って言葉を交わす縁に恵まれながら、それを活かせないまま見送ってしまったのが悔しい。
 マージャ、酒場で出逢った少年は、私とは違う焦りを抱いていた。「早く力が欲しい」その望みは私と似ているけれど、最初にまず道を選ばなくてはならないがゆえの迷いが彼にはあった。
 スタートラインに付いて走り出したら、もう止まれないかもしれない。
そんな不安が有るようだった。

 両親が死んだとき、改めて行く道を選べたのは祖父のおかげ。でも私はその経験があるのに彼を導くことが出来なかった。ほんとうに、悔しいくらい未熟だ。せっかく言葉を求めて尋ねてくれたのに
何も返せなかったことが、胸に後悔の痛みを残している。
 
 「力を得る事で生を実践している人」と冒険者を評していた彼。
 「それはちがうよ」あの時そう言っていたら、彼は欲しい言葉を見つけられただろうか?
 ……私達は、生きるための力のひとつを得たに過ぎないんだから。それは、他の生業を選んでも大してかわらないんだってこと、彼は見失っている気がして。
 あとからなら、何とでもいえる。あの時、どうして告げられなかったんだろう。
 自分の大切な人びとの望みであるなら、共にかなえたいと思う。
 例えそれが世間的には誤った道だと知っていても、その望む心をいとおしく思ったなら
きっと私は支えてしまうだろう。こう考えると、私はとても危険な考え方をしている気がする。
 彼にも「望みをかなえる権利はあると思う」と言ってしまった。暗黒神の信者ではないのだけれど。

 彼に必要な手段は、人に疎まれ、嫌われ、蔑まれるものなのかもしれない。
 だとしたら余計に自分をなくしてしまってはいけない。自らの信念を見失ったまま「誤った」道を歩くより、間違いを知ったうえで歩いて欲しい。
 そんな風に、勝手な当て推量で彼の行く道を思った。

 冒険者の生きる道は決して人に褒められるものではない。石もて追われることを覚悟しなければ生きていけない仕事だ。それでも私がこの世界に生きているのは……世界に溢れるちいさな宝物を
守りたいって思ってしまったから。そして、心を揺り動かすものたちを追い求めて居たいから。
 彼が聞いたら、呆れるかもしれない。

 せめて今は、彼の行く道に良い風が吹くよう、風乙女さんに祈ろう。
 
新たなる右腕を求めて
ユーニス [ 2003/03/21 1:51:45 ]
  荒野でコカトリスと戦ったときに肩当と服がダメになってしまったので
新たな肩当と服地を探しに市場へ行く。結構な額が入ったので、ふところは温かだし
ここはひとつ上質な生地でもと思いつつ、結局いつもの質実剛健を織り上げたような
丈夫で長持ちする生地を選んだ。それなら色くらいは洒落てみようかと物色してみたけれど、
結局目立たない濃い葡萄色を選ぶ。肩当も前と同様のものを。
 ……変わらないじゃない。
 でも。お店で素敵なフレイルを発見。そっか、打撃系もいいわよね。

 いろいろ悩んでいると、小剣を取りに来たひとと話が弾んだ。
彼はサファネさんというのだけれど、非常に的確なアドバイスをしてくれた。
大切そうに小剣を使っているところが、とても好感を持てる(←武器好きの心をくすぐるらしい)。
 見ず知らずの私に親身になって細やかな配慮をしてくださったことが、しみじみ嬉しかった。
 彼のアドバイスを聞いて、いろいろ悩んだ挙句、片手用フレイル(鎖の短いタイプ)を
選ぶ事にした。他の店を覗く為に、結局そこでは買わなかったのだけれど(笑)。
 常闇通りのほうに消えていく彼の後姿、歩き方、目配りを見て彼のおしごとがやっと判った。
相変わらず鈍いなぁ、私。
 
 そのあと日が暮れるまで武器屋さんを回り、とうとう私の副武器、連接棍棒フレイルちゃん
(片手用)を手に入れることが出来た。うふふ、活躍の日を待っていてね(嬉しそう)。

 休息ついでに縫い物をして、ゆったりと夕暮れのひとときを過ごす。
2〜3日休んだら、すこし一人で出来る仕事を探そう。バウマーさんは相当疲れたみたいだし、
ワルロスさんも同様。それに、ギルドの方の仕事だってあるだろう。
 エレミアに里帰りする日までにお金を貯めて、できるだけ余裕を持って出かけたいなぁ。

 そういえば、リグベイルさんはエレミアには帰らないのかな?
若葉の季節、野伏同士で一緒に行けたらきっと楽しいだろうな。
たしかミーナさんと組んでるから、彼女の都合も有るだろうけれど、
思い切って二人を誘ってみようかなぁ。
 バウマーさんとワルロスさんはどうするんだろ?
 
遺跡への挑戦
ユーニス [ 2003/03/22 0:46:09 ]
  きままに亭で、アルに久しぶりに会った。彼は気さくで博識なので、
話していてとても楽しい。考えてみたら、私が対等の口調で話す数少ない
相手の一人でもある。どうやら気を許しているらしい。
 ふと、彼が今度行く遺跡の話になり、気付けば同行する運びになっていた。
初めての”枯れてない”遺跡への挑戦! 不安と期待が入り混じる。
 私でも大丈夫かな? ”弓”の知識はあんまり役に立たない気がするけれど
どうなのかな。近々仲間と顔合わせをするから、その時にいろいろ聞こう。
 ……あ、報酬の話忘れた(汗)今度ちゃんと聞かないとね(苦笑)。

 昨日フレイルを買うときに相談に乗ってくださったサファネさんが同席。
助言のお礼にお茶をご馳走出来てよかった。
 驚いたのは、彼も”霊”だったこと。きままに亭にいると結構”霊”に
逢える確率が高い。本当に嬉しいことだ。精霊さんとお話できる喜びを
共有できる相手が多い状況は、望外の幸せだから。

 こういうご縁があると、私には交流神様のご加護があるのかと
思ってしまいそうだ。改めて感謝の祈りを捧げに神殿にお邪魔しよう。
 だんだん戦神様から交流神様へ信仰対象が移りつつあるのを
自覚する今日この頃。できれば今度の遺跡も幸運がありますように。
 交流神様、どうか妖魔との交流は出来れば止めてください(真剣)。
 
私の歌を
ユーニス [ 2003/03/23 1:21:33 ]
  新調したフレイルの練習で一日暮れてしまった。しきりに空腹を訴える響きに負けて、
王城と神殿の間の坂を下り、橋を渡って、きままに亭へ。
 里帰りまでは節約、といいつつフレイル買っちゃった私としては、食費も浮かせたいのだけれど、
マスターに遺跡に赴く際の注意事項や心構えを聞かせてもらえたので、
今日くらいは贅沢してもいいかな、という気になった。外食の利点ってこういう事よね。
 経験者の言葉の重さは、私みたいにいろいろ手を広げるばかりで未熟な人間には
本当にありがたい。やっぱり頼れる先輩がいるってことは安心する。

 マスターが楽器を集めていると聞いたので、尋ねてみたいことがあった。
私にも奏でやすい楽器があるのかと。興味が出てきたので、是非詳しい人に聞きたかったのだ。
 けれど、どうやら「歌」が一番手早いという結論に達する。
 それは、途中から同席した草妖精さんとも意見が一致。
…………胸は歌に関係ないもん。さらし、苦しくなるほど巻いてないもん(涙)。
(胸元が苦しそうといわれたのがかなりショックだったらしい)

 草妖精さん、コパさんとはワインの赤白談義に始まり、楽器の話に歌の話、旅の話と
楽しく話が弾み、つい時間を忘れるほどだった。
 彼らの旅するこころと視点は、きっと私にはないもの。それが少し羨ましくなった。
けれど、彼はこういう。「君には君だけの歌うべき歌がある」と。
 照れてしまうくらい、素敵な言葉だなと思った。歌を生業とするのは伊達ではないらしい。

 私はどんな歌を歌えるのだろう。マスターは「積み重ねた経験」という歌をご所望の様子。
それは是非歌いたい歌だわ。うん、頑張ろう。
 わたしはわたしだけの歌を。長弓の弦が空を揺らす響き、剣戟の音色、精霊の歌声。
ずっとこの仕事を続けたら、どんな歌が歌えるようになるのか、今から楽しみだ。
……声を出す練習しようっと(かなりおだてに弱いらしい)。
 
賢明なれ
ユーニス [ 2003/03/25 22:24:20 ]
 きままに亭のカウンターで、金色のたてがみが揺れていた。何となく心惹かれて隣に行くと、たてがみのような金髪が良く似合う豪胆な印象の女性が、気前良く椅子を引いて勧めてくれた。
 私と相前後して店に来た女性とともに彼女の側に座る。
 金の獅子のような女性はカデリ、背の高くすみれ色の良く映える髪と肌をした女性はソラリスといった。二人とも、そこにいるだけで歩んできた経験を感じさせる。どうやら手錬のようだ。
 私はといえば、背の高い女性二人に囲まれて蛮剣を背負ったままちょこん、と座っているようにみえたに違いない。彼女らから見れば、私は格段に小柄だから。
 カデリさんは近々レックスに赴くらしい。皆で出土品への期待を込めていろいろな話をした。
装飾品の留め金じゃ持っていても意味が無いだの、魔法の剣はいらないだの、経験者だけに言葉一つに裏づけのある重さを感じた。先日マスターと話していて感じたことでも有るけれど、やはり経験者、先達の言葉は身の引き締まる思いがする。
 私がミスリルチェインを欲しいといったら、森妖精か岩妖精向けばかりではといわれ失望。あれさえ手に入れば、金属の鎧であっても精霊を呼び、また野伏の技も存分に使うことが出来る。まさに理想的な憧れの品なのだが、残念だ。
 ソラリスさんと目立つ光沢があるなら金属鎧は嫌だね、と話す。きらきらしているのは装飾的には優れているだろうけれど、きっと実戦向きではない。まぁもっとも、隠密行動しなければいいだけの話なんだろう。自然の中で身を隠すことも多い私の需要には絶対あわないけれど。
 ソラリスさんとカデリさんは、読むだけで腕前の上がる本があればいいなどと笑っていた。もしあれば絶対に読むのに、と。私もそういう本の為ならちょっとくらい古代語を勉強してもいいなと思った。
 ……鍛錬した方が早そうだけれどね。

 矢継ぎ早に楽しい話題が溢れてきて止まらない所に、神官さんがやってきた。
 私は最初、聖印が良く見えなくてラーダ様の神官さんなのにチャ・ザ様の神官さんと勘違いして勝手にそう呼び、話し掛けていたのだけれど、相手の方は怒る様子も無く穏やかに訂正してくださった。
 あああ、やっぱりラーダ様は私には一番縁の無い神様かもしれない。

 本を読んだりして知識を増やし、語彙を得、経験し学べと。対話することで一つ一つ物事を覚え、賢明に生きよと。
 すみません、多分体を張って覚えるのが一番手っ取り早い私には、会話は別として苦手なことばかりのような気がいたします。神様、これが貴方の使徒を取り違えた罰ですか?(そんなことはない)

 がっかりしながら、それでも学ぶことへの心がけだけは捨てないようにしようと、そんなことを考えながら家路を辿ったのだった。
 
いまは遠きふるさと
ユーニス [ 2003/03/25 22:29:18 ]
 雑木林へ新芽を取りに行った。幾つか採集した後、少し奥まで歩を進めてみると風乙女さんが楽しそうに舞っている。誰か精霊使いと遊んでいるのだろうかと思って覗いたら、ファントーが森の声に耳を傾けていた。こちらには気付いていない様子だった。
 あんまりのどかに佇んでいたので、いたずら心をくすぐられた。気配を押し殺して近付き、足元の枯枝をそっと拾って背中に投げつける。同時に近くの大木の陰に身を隠した。
 案の定、ファントーは驚いてきょろきょろと周囲を見回している。もっといたずらしてみたくなって風乙女さんに伝言を頼んだ。「私をみつけてごらん」と。
 結局自分のミスで見つけられてしまったのだけれど、久しぶりに会えてとても嬉しかった。

 彼はお爺さんの後を継ぎ、いずれエストンの主になるが、冬の間は雪に閉ざされたエストンから街に出てきてラスさんの下で修行している。
 今はもう春の陽気が街に満ちている。エストンにはまだ雪解けの気配が訪れ始めた頃なのだろうが、いずれにせよ山に帰る日は近付いているだろう。そう思うとそぞろに寂しさが沸いてきた。私ももうすぐ里帰りをする身、人の事をとやかく言う暇はないし、また逢えるならいいと思うのだが。。
 「また冬には来るんだよね?」と聞いたら、来月に一度帰るけれど、私のために旅路のお守りを作って里帰り前に再び来てくれると言う。
 その優しい心配りに打たれてお礼をしたいと思ったが、彼に上げられるようなものは私には思いつかなかった。考えた末、服の新調を打診すると外套の繕いと裾上げを頼まれる。
 そういえば今日の彼は外套を着るどころか、かなり薄い出で立ちだった。山の気温になれた体には、オランはとても温かいのだろう。
 喜んで引き受け、下宿先のラスさん宅にお邪魔して、その日の内に仕上げた。
 いずれ、ファントーになにか欲しいものがみつかったら、その時にリクエストを改めて聞く事にしようと、針を運びながらそう思った春先の一日だった。
 
《しずくのうた》 op.001
ユーニス [ 2003/03/26 17:22:47 ]
 


<><>  歌を、歌おう。
<>  私だけの、私が歌うべき歌を。

<>


<><> 久しぶりにいつもの3人以外で長期の仕事をする。しかも初めての「枯れてない」遺跡。緊張と不安は大いにあるけれど、それだけに期待するところも大きい。同行するのはアル(アルファーンズ)と数人の予定。アルは求めるものに対しておざなりにしないから好きだ。きっと遺跡の調査も綿密にするだろう。その辺りはマスターも信頼を置いていたようだ。早く他の人と顔合わせがしたい。
<>

<> アルに遺跡に誘われたとき、杖が未定と聞いてバウマーさんを勧めたら、当てがあるからいいと言われた。実は、そのことがちょっと嬉しかったのは内緒だ。
<> 今一緒に組んでいる二人は、どうやら遺跡探索の経験があるようだ。ワルロスさんはギルドが倉庫に使っていた遺跡を、枯れているとは言え確かな目配りで歩いていたし、バウマーさんは会話の端々に遺跡の経験が伺えたから多少なりともあるのだろう。
<> ということは、3人の中で私だけが遺跡探索をまともに経験してないことになる。これでは彼らがいざ遺跡に挑もうとしてもただのお荷物になってしまいかねない。
<>

<> 彼らのレベルに早く追いつきたい。そして、彼らの力として存分に役割を果たしたい。
<> ただ、私が遺跡に頻繁に赴ける力量の持ち主に成長するまで、あの二人とずっと一緒に組めているのかはまた別の話なのだが。
<> 

<> ふと、考える。
<> 安心して背中を任せて戦うことに慣れてきたかもしれないと。
<> 相手の人柄や力量を信用できる幸せに自分だけが浸っていないかと。
<> 彼らの役に立っているのかと。
<>

<> 甘えてばかりじゃ、だめだよね。
<>

<> 野外ならともかく……と気になっていた所だったので、アルの誘いは「渡りに船」だった。少しでも多くのことを身につけたい、学びたいと思っている私には大歓迎の誘い。
<> アル達にはいい迷惑かもしれないが、正直に状況を話しても歓迎してくれたので、今は誠意を持って全力で臨むだけだ。よい仕事ができるよう、遺跡行きに向けて鍛錬と武具の手入れを怠り無く過ごす。
<>
<> 二人にいい土産話を持ち帰れるといい。いずれはもっと遺跡に挑みたい私は、今はまだ誰かの経験談で学ぶ素人とも言えるから、たまには自分の経験を語ってみたい誘惑に駆られるのだろう。
<> 彼らが喜ぶような品の一つでも持ち帰れたら幸せだなと、思った。
<>
<>
 
寄りかからず
ユーニス [ 2003/03/26 22:26:08 ]
  雉猫さんが「きままに亭」に入ってきた。正確には草妖精さんのお供らしい。
隙が無く、知的な草妖精さん。草妖精さんとお話するとつい丁寧語を忘れる癖があるけれど
彼女はごく自然に、丁寧に応じさせる芯の通った何かを感じさせた。ちょっと羨ましいかも。
 それはさておき、「ちび」という名に相応しくないふくよかな雉猫さんは誇り高い野良だそうで、彼女のところに一時的に身を寄せているに過ぎないようだった。
 でも、何とも泰然としている様子はクーナさん……その草妖精さんの名だ……のお供にとても相応しく、お互い気に入って一緒にいるんじゃないかと思わせた。
 
 猫の話からラスさん家のクロシェちゃんの話になり、稼業の話になって、またまた世間が狭いことを思い知らされる。彼女もまた、サテさんと同じ精選香草堂の仕事を請けているのだった。
 
 彼女は星を読む人。ただ、それは自分のためにであって人に請われて披露する性質のものではないという。仕事として請けない分にはそれで充分だと思った。
 だれもが、自分の行き先を決めたいと思ったときに光明を求める。星もまた人を導く光。
 自分で先を読む力を身につけて、自分で歩く。それが出来れば一人で歩ける証拠だ。

 人のために星を読まないひとに、それでも聞いてしまったのは甘えだろうか。

 旅に出たい。
 里帰りの旅にバウマーさんやワルロスさん、それからリグベイルさんを誘うかどうかがまず最初の考えどころ。これは仕事を請けながらの方が効率良いのできっと誘ってみる事になるだろう。
 問題は、一人旅。いつも一緒に組んでくれる二人の実力に、自分が甘えてしまいそうな怖さがある。でもそんなのは絶対嫌だ。頼らずに寄りかからずに一人で立つ人間として彼らに向かい合いたい。
そう思うと、少しの間一人で修行に出ることを検討してしまう。帰ってきたとき彼らが迎え入れてくれるかどうかは別だけれど。
 
 クーナさんと「ちび」を見ていて、今の私はどんな風に見えるのか、知りたくなった。
 
領分を守れ
ユーニス [ 2003/03/28 23:20:08 ]
  きままに亭でバウマーさんとお話した。向こうは食事のあとだった様子。
 面倒な調べ物の報告書を仕上げるために、話しながらも羊皮紙の山に埋もれ、殆ど止めずにペンを走らせ続ける姿が、この人の仕事への姿勢を物語っていた。集中するし、手を抜かないのだわ。
 
 自分の領分、か。
 欲が出始めてる。二人の仲間達に早く追いつきたい。何でもこなしたい。
 そんな思いが焦りを生み、仕事への偏った執着と自省と不安を増大させる。

 彼の返答は明快で「自分の戦士としての領分をこなせば文句は無い」これに尽きていた。
 
 「帰ってきたら戦術でも話し合うか。状況想定もいろいろ試さんと」
 「癒しの魔法なんざ、緊急時のもんだ。当てにしないのが基本だ。だから手前の精霊力がチンケでも気にしやがるな。俺様は戦士として仲間に加えたんだからな」
 貴方が仲間であることが、ほんとうに心強く、嬉しく思えました。
 ……ありがとう、バウマーさん。遺跡探索、頑張って行ってきます。
 
《しずくのうた》 op.002
ユーニス [ 2003/03/28 23:33:24 ]
 
<><>  こころは迷路。
<>  自分の庭なのに、先の見えない果て無き迷路。

<>
<><> わかりにくい優しさ。
<> バウマーさんはああ見えて結構仲間に優しい。
<> 口が悪くて、目つきも悪くて、態度なんてもっと悪くて。一言いったら倍返しは当たり前、時には10倍返しなんて技を披露したりする。困ったひとだ。
<>
<> でも。ワルロスさんにも私にも、文句をいいながら面倒見良く付き合ってくれてる。ヘンルーダを採りに言った荒野でも私達二人は彼のストーンサーバントで戦闘訓練し、持久力や技術を多少なりとも鍛えることが出来た。
<> 私にとっては”鍵”の戦闘方法を間近で見られる事はいい勉強になったし、ワルロスさんにとっても、手加減をせずとも良い相手との戦闘は役立ったことと思う。
<> 彼のことを、私は全然知らない。気付いた事や予想している事はあるけれど。
<>
<> 思えば、このひとの歳を知らない。ワルロスさんも20代だってことしか知らないけれど、バウマーさんの方は見当もつかない。だから聞いてみた。そうしたら、
<> 「森妖精に年齢聞いたところで無意味だろ? 半妖精とて人とは違う寿命で生きているでな」
<> こういう切り返しをされるのは、何だか嫌だった。種族差別とか、そういう事じゃなくて。だから私は少し畳み掛けて聞いた。答えが得られないと知っていても。
<> 「半妖精かどうかなんて関係ないです。バウマーさんが感じてきた時間を知りたいなって思っただけですから。」
<> 私は「彼」の言葉で彼の過ごした時間を聞きたかっただけなのに、かえって「このひとを違う種族と認識せよ」と突きつけられた気がしてどうにも寂しかった。私が人間であるように、彼は半妖精。ただそれだけのことだけれど。バウマーさんはバウマーさんなのに……。
<> 
<> 「この俺様の端々から溢れる知性からもどれほどの時間を経験してきたかなど想像できるだろうが」
<> 私への返答はこれだった。彼の魔術の力や言動から、相当の年月や場数を踏んでいるのは理解できたのだが、それだったら、
<> 勝てない喧嘩をわざわざ売ったり、どうでもいいことにガキっぽい反応をして問題をややこしくしたり、子供みたいに得意気に自慢してみたり。
<> そういう事は、大人はあまりしない気がしますよ、バウマーさん。
<> 
<> 帰宅してから、彼の歳を試算してみた。(謎の計算式展開中。検算無し。)
<> うーん、50歳くらい、かな? そうすると私の父さんくらいかぁ……うわ、子供っぽい。でも男の人ってそういうところあるなぁ。父さんもよく母さんに怒られてた。父さんは子供がそのまま大きくなったみたいな、好奇心旺盛で野原を駆け回るのが好きな野生児っぽい人だったな(しばし回想)。
<> あ、でも……確か半妖精さんの年齢換算ってごく大雑把にするときは人間の2倍でいいって聞いたことがあるから、さっきの計算だと25歳相当? それはちょっと若すぎる気がする。
<> あ、れ? 「判りにくい優しさ」? それって、誰かに似てる。すごく大切な人に。
<> (記憶巣を引っ掻き回して)
<> あ!! 師匠とエレミアのじーちゃんだっ! これって、加齢に伴う傾向なの?
<> 頭は良いくせに要領悪いし、妙に年齢を気にしていたし。それ位時間経過しててもおかしくない気がしてきたわ。ということはバウマーさんって結構おじ(以下自粛)なんでしょうか?
<> 
<> (再度謎の計算式展開中。検算どころか計算式の根拠も不明)
<> えーと、じーちゃんは75歳、師匠は65歳……でも師匠より年上の感じがしないから(おい)、ここはひとつ暫定60歳ってことでどうだろう? そうすると半妖精年齢では30歳。何となくオッケー。
<>
<> そうか、バウマーさんのことを考える時に感じるこの不思議な気持ちは「敬老精神」なのね。
<>
<> 最近感じる不思議な想いに一応の答えを見つけられて、ちょっとすっきりした。
<>
 
素敵な出会い〜知性を求めて
ユーニス [ 2003/03/31 0:50:16 ]
 グレアムさんに雑貨屋で出逢った。ラーダの神官様でありながら親しみやすく、言葉を飾らない素敵な方だ。この方となら遺跡にご一緒しても窮屈な思いをしなくていいなあと安心している。
 そう、数日後の遺跡探索にはこの方とご一緒するのだ。

 お買い物をしていたら、リネッツァさんという方とも知遇を得た。
 グレアムさんとは建築における同好の士らしく(←勘違い)、私には理解できないような専門用語を駆使して知的な会話を繰り広げていらっしゃった。でもどうしてだろう、時々切なげな瞳をしていたのは。きっと悩みがおありなのだろう。それゆえに神殿にも足繁く通っているのだわ。
 リネッツァさんは”鍵”らしく、バウマーさんの情報を求めていた様子だったので、当り障りの無いこと……きままに亭に投宿していることを伝えておいた。噂に聡い様子だったので、今後の仕事に資するところがあればいいと思う。
 そうそう、雑貨店のご主人。どうも体調が悪いようだったので、体を労わって過ごして欲しい。 
(自分達の会話のせいだという事には全く気付いていない)

 それにしても、今日は勉強になりました。
「石の上にも三年」好きなことをしていると時間の立つのを忘れる、という意味なんですね。
ああ、知識を会話によって得る、ラーダの神官エサレイさんが仰っていたのはこういうことか!
やっと判りました。さすが同じラーダの神官様。さりげなく大切なことを教えてくださる。
 チャ・ザ様、それにラーダ様。今日の出会いに感謝いたします。
 
裁きの実
ユーニス [ 2003/03/31 1:00:41 ]
  林で歌っていたら、ファントーが私を探して来てくれた。
 わざわざ、先日の約束してくれた餞別の「お守り」と薬を届けに来てくれたのだ。その気持ちが嬉しくて、感激した。
 野営時に四方に置く護符と、彼が彫ったエントの木彫、それに薬が二種。こんなに素敵な贈り物をたくさん貰ってお返ししないなんてできない。
 お土産の希望を聞いたら、諸刃のナイフというので、エレミアの市場へ行っていいものを選んでこようと思う。彼なら、きっといいナイフも使いこなすだろうから。

 それにしても、この(皮袋をそっとつまんでみる)ゲドの実を使った薬……凄い匂い。
臭いんじゃないの。なんか生理的に危険なイメージの匂いなの。ううう。これ持ってくのかぁ(涙)。
でも良く効くって言ってたし、ファントーの知恵と気持ちがつまってるし……
 「毒を抜く作用があるから、食中りの特効薬なんだよ。それと、こっちが傷薬。潰して、火で炙ってから傷口に塗ると化膿しなくなるんだ」
 そうだよね、エストン山の主に育てられた次代の主の作った薬だもん、信用しよう。
でも、私が聞いたのは「死と生を分かつ木の実」別名 ”裁きの実”だったから、ちょっとやっぱり飲むのに勇気が居るよ(苦笑)。
 まあ、困ったら鼻をつまんで飲もうっと。

 
 とりあえずのお礼にきままに亭でご飯をご馳走した。元気に平らげる姿を見て、誘ってよかったなと嬉しくなった。
 ファントー、ありがとう。5の月になったら、行って来るね。
 
《しずくのうた》 op.003
ユーニス [ 2003/04/06 1:28:04 ]
 
<><> 私の瞳に映るもの
<> それは はるかな淡き光
<> 憧れを乗せて輝く高みの星

<>
<><> 星の光には、心を研ぎ澄ます不思議な力がある。ラーダ様のお膝元が星界だというのも頷ける。
<> 星をみると、様々なことが心によぎる。<>
<> 星の見方を教えてくれた父のこと。家族で飽かず眺めた光の砂場のような星空。まだ家族がみな元気で居た頃の懐かしい思い出。
<>
<> 初めて人を殺した日に見た、紅の夕暮れに輝く宵の明星。血の海のなかで一瞬輝いて消えた生命の精霊のような鮮烈な閃光。
<>
<> そして、しばらく一緒に歩いていたいひとの、遠い星のような夢のこと。
<> 
<> 最後の一つだけは「想い出」ではない。確認すらしていない。
<> まだ想像の域をでない、むしろ妄想と笑われても仕方の無いモノ。けれどどこか確信している自分が居る。
<>
<> これから赴く遺跡は、星を目指したものの住まいであり観測所であったらしい。その場所……「星屑」のアーヴィンの遺跡で、私は何を見つけ、何を得るのだろう。
<> 宝物? 夢? 知識? 経験? それとも……
<>
<> オランに帰ったら、あの人に会いに行こう。そして、感じていたことをありのままに告げよう。
<> 彼と居るときっと楽しい。目の前で輝く星を見つけたような、そんな気持ちにさせられる。
<> もしかしたら、とんだ凶星かもしれないけれど、暫くは見つめていたい。
<>
<>
<> 「ヴェルツォさん、お茶入れましょうか?」
<> 今は、遺跡での仕事を全うすることに専念しよう。とにかく経験を積んで、力を蓄えて。
<> 楽しい仲間たちとともに仕事ができる喜びを味わいながら、出来ることを着実に増やしていこう。
<> うん、頑張ろう。
<>
<>
 
《しずくのうた》 op.004
ユーニス [ 2003/04/11 20:55:03 ]
 
<><>  歌を歌おう
<>  あの人への想いをのせて
<>  今はとどかなくても
<>  いつか届くように

<>

<><> やっと気付いた恋心。
<> 気付くために払った代償は、彼との別れ。
<>
<> どうして、私はいつも、大切なことほど後になって気付くのだろう。
<> ねぇ、どうして? どうして。
<> いくら泣いても涙は尽きない。
<>
<>
<> でも、いつまでも泣いてはいられない。
<> 「縁とお前らが死なんければまた会うこともあろうよ」
<> その言葉を信じるならば、いつかまた会える。
<> そのときまでに、強い剣に、しなやかな弓に、優しき癒しになっておきたい。
<>
<>
<> 覚悟して置いてくださいね、バウマーさん。私を本気にさせたあなたがいけないんですから。
<>
<>
<>
 
「自立を目指す女」2態
ユーニス [ 2003/04/24 22:24:29 ]
  「星屑のアーヴィン」の遺跡から帰った翌日。つまり、バウマーさんとの別れを知って二日目。
ラスさんと、コロムさんに出会った。コロムさんはカレンさんの元・彼女さん。
 「強くなってカレンと一緒に冒険に出て、つねに彼と一緒に居たいの。それがわたしの目標。」
 そう言っていた。どうやらそのために、自ら彼の側を去った様子。目指している事は私とよく似ているのにこれほどの強さを持てる彼女を、心底羨ましいと思った。きっと私も、彼と結ばれていたとしても隣に立つ為に強くなりたいと思うだろう。けれど、今彼にあってしまったらきっとその心も揺らぐ。
 だから、同じオランに居るのにそれが出来る彼女を尊敬にも似た気持ちで見つめた。

 コロムさんは強さを手に入れるため、駆け出していく。けれど一歩一歩に「女」の枷を感じている。
その「枷」を手段として使うことを知っているから、余計にジレンマを起こす。
 美しさ、女性ゆえの心を彼女は苦しみの種にし、またそれが恋を育て、それゆえに強さを求め……。その循環を断つことが本当に彼女を救うのだろうか?

 彼女には余計な事を言ってしまった。私の母も昔”兎”だった。彼女が過去”そう”だったように。
 母は仲間達が自分を「女」として扱わないことに心から感謝していた。強い信頼の絆は子供の私から見ていても羨ましく輝かしいものだった。
 母の仲間たちはもう一人の大切な仲間、私の父を大切にしていたから、余計そうしていたのだと気付いたのはもう少し大人になってからのこと。
 ……コロムさん、元気になってくださいね。あなたを大切に思っている男性と、その最高の相棒さんがあなたを見守っているんですもの。私にも、あなたの勇気と戦いを見守らせてください。

 しかし、まさか……
 「あからさまに視線が追ってたし、懐いてたし、あの馬鹿が何を言っても、”しょうがないなぁ”って目で見てた。男の駄目な部分をそんな風に許容出来るのは、そいつを好いてる女だけだよ。」
 私自身が自分の気持ちに気付いてなかったのに、ラスさんは気付いてたなんてっ!!(泣き笑い)
 でもでも「何故自分とカレンが一緒にいると思う?」と聞かれて「好きだからですよ!」と答えたら火酒吹いてた。ほら! 自分のことには気付かないものなのよ、きっと(謎納得)。

 だって、ね? 技量や人柄への「信頼」は確かにあると思う。でもコロムさんと話してるときの表情や、言葉からはそれだけじゃないものを感じたんですもの。
 きっとカレンさんのこと「大好き」なんですよ、ラスさん? とっても素敵ですね。
 「ま、ある意味、お前がバウマーにとってどういう存在になりたいかってのとは近いかもな。俺は、あいつが調べた扉なら躊躇なく開けられる。……そういうことだろ?」
 ええ、そうですとも。恋愛はさておき(おいといて、いいんだよね<どきどき>)ですけれど。
 元気付けてくださって有難う、ラスさん。

 「強くなるなら、なるべく急げよ。人間は時間が少ない」
 …………ラスさんの、意地悪。
 
女4人で かしましく
ユーニス [ 2003/04/24 22:45:43 ]
  女性の岩妖精の冒険者さんに、はじめてお会いした。イル・マーゴさんと仰る方。頑健な体躯でありながら不思議に女性、いや母性? を感じさせる素敵なひとだった。
 引き締まった筋肉と、岩妖精さんにしてはめずらしい弓使いというのも印象的だった。
 大人の女性ってああいう方をいうのよね、きっと。言葉の一つ一つが深くて刺激的で、それでいて心に染み込む様に細やかで、大らかでもある。含蓄ある言葉が彼女から発せられると違和感無く受け止められた。それだけの人生を歩んできたのだろうと思う。当面見習うべき女性がまた一人だわ。
 いつかまた、ゆっくりお話したいなぁ。

 
 アルのパートナーのミトゥさんにもはじめて会えた。アルから話だけは聞いていたけれど、小柄で快活な笑みが魅力的な女性だった。可愛らしいのに、鋼糸のようにしなやかで涼やかな刃を感じた。
 傭兵ギルドにも出入りしていると聞いたことがあるから、そのあたりの意識が根底にあるのだろう。
 しっかりした考え方と、経験の蓄積が彼女を鍛え上げているのだろう。至高神の神官と話す彼女の言葉はとても平易でありながら核心をついていたと思う。彼女の「正義」を聞いてみたくなった。
 アルが自分を特別視をしてるなら「女として扱ってない」事に尽きるだろうと彼女は言う。
 アル、あなたは幸せものだね。勿論ミトゥさん、あなたもだけれど。あなたたちは信頼に値するパートナーを既に得ている。そしてお互いにそれをよく理解してる。ほんとうに、良かったね。何だか私まで嬉しいよ。恋や愛も大切だけれど、それよりもっと得難いものかもしれないから。


 そして、本日のかしましいカウンター最後の登場者は、ファリス神官戦士のアルダシルさん。ファリスの神官戦士と聞くと、厳格で規律を重んじ……と思うけれど、彼女には驚かされた。
 「(男女は相手が)いなくなると寂しくって死んじゃうんだ。カミサマはお互い求め合えるようにお作りになったからね〜。」
 「正義とダンナと飯の種探して流浪中っ。」
 「もうある秩序のところにいたって面白くない。秩序が必要とされるところが面白いの。」
 規律と法、正義、秩序のあり方を自らの心にきちんと取り入れて、自らの言葉で語る。そしてごく自然に神を語る。この域に到るまでに一体どれほどの経験があったのだろう。想像もつかない。
 イル・マーゴさんと並び、カウンターを名言だらけにした女性。やはり年の功(あわわ)いや、人生って経験するだけでは身に付かない、思考を惜しんではいけないのね。
 胸が大きくなるには「オトコに振られるのが一番よ♪」って言うのでちょっぴり期待したんですが
「しんどい思いをしただけ度量が大きくなる」って意味だったんですね(苦笑)。
 「見られることによって綺麗になるし、綺麗になることで見られるようになる。飾りって魔法よ♪」
 ちょっとはおしゃれしようかな……。でも「勝負用下着」って、何ですか?

 今日のカウンターは女の園だったけれど、こういう話が出来るってやっぱりいいなぁ。
 
旅人の一里塚
ユーニス [ 2003/04/24 22:48:38 ]
  名も知らぬまま出会い、すれ違い様に視線を交わし、ひととき憩い、別れていく。
 今日のカウンターは街道沿いの一里塚のような雰囲気をかもし出していた。

 東からきた剣士と西からきた弓使い。彼らに挟まれてひとときを過ごす。

 事情があるらしい剣士さんは、二つ前の宿場から歩き詰めでオランまで来たと言う。外套の裾が少しほつれたままだったからよほど急いでいたのだろうと思ったけれど、それ以上に切迫したものを感じて、少し差し出がましいことをいった。きままに亭なら安心して泊れるよ、と。
 かえって警戒されるかと思ったけれど、静かに聞き入れてくれたのでほっとした。
 ちょっと気になること(独特の話法)があったけれど、それはまあ「よくあること」だ。立ち入って聞く場合でもなかったし、彼を追い詰める事情に関わりがあるなら余計聞くべきではないし。
 疲れたように二階へあがっていく彼を見送りながら、せめて今夜の眠りが優しいものであるようにと祈らずにはいられなかった。

 西からきた弓使いさんは、私と同じ仕事に目をつけていたらしい。エレミア行きの商隊護衛だ。
(でも募集人員の10倍の応募を勝ち抜くのは厳しく後日選考落ちを言い渡されたのだけれど)
 ブラード行きの仕事もあったけれど、条件(女性冒険者を希望する)があからさまに怪しくて彼女も申し込まなかったようだ。どの道私は里帰りを兼ねて参加するつもりなので請ける気は無かったが。
 山で過ごすことが多い彼女には、町のありようは少し辛いらしい。私も野伏なので理解できる。
 甘い草いきれ、足を受け止める土のぬくもり、小鳥の声、降る様な静寂に身をおくと自然に呼吸が深くなる。胸いっぱいに緑と水と土の香りを吸い込んで、獣のように歩き回る楽しみは、ここにはない。
 だから、彼女に町外れの雑木林を勧めておいた。精霊使いの御用達な場所だから、彼女にも少しは気に入ってもらえるかもしれない。
 彼女の夢に、柔らかな緑乙女の息吹が届くよう、祈った。
 
尊き”しじま”
ユーニス [ 2003/04/24 22:51:25 ]
  イル・マーゴさんに再び出会えた。今日も彼女はしっとりと深い言葉を紡ぐ。古い森の奥で静かに水をたたえる湖のように、潤いと深みのある言葉の重量感。
 「人の美しさは時間と生き様で決まる」その言葉をそっくりあなたに捧げましょう。
 「口先だけなら誰だって、どんなことだって言えるもんなんだよ。同じ口で愛を語ることも、生き様を騙ることだって、ね。ホントに凄い奴ってのは自分の意見を口にはしないのさ。」
 私が彼女との出会いを語るときは、私の言葉で多くを語るよりも、彼女の言葉を羅列した方がシンプルにその感動を伝えられるような気がする。
 「多くを語らず、何事にも向かっていける気概と実力が身につけば、自然そうなれるだろうね。肝心なのは勇猛さと冷静さ、後はなにより判断力だろうね。」
 そう、ありたいものです。

 武器やら、絞首紐やら返り血やらと言う話は、初めて出逢った旅人のネフェルさんには、どうやら刺激の強い話題だったかもしれない。あの時は気付かなかったけれど、ちょっと申し訳なかった。
 剣や霊の力も持たず、西方からここまでたどり着いたと言う。多少は刃を使うものの、それを主とするわけでもなく届け物やら身に付けた芸やらでしのいでいるようだ。
 戦ってばかりの私から見れば、そういう生き方のほうがきっと難しいと思う。
 「技術だけ磨いて強くなればいいってものでもないのよね。結局は自分との対決の探求だったりするわけだし、何事も。」
 ほら、ちゃんとそれが身についてる。一所懸命言葉を捜して、思ったことをすぐ口にする私より、きっと彼女は深い言葉をもっている。
 
 私はまだ、まだまだ、当分、一流には遠いらしい。
 
先輩達のタヌキ狩り
ユーニス [ 2003/04/25 23:26:31 ]
  一人でエレミアに帰ろうと思っていた。
 リグベイルさんを誘わずに、どこかの商隊に護衛で付いて行こうと。

 今日、偶然リグベイルさんとソラリスさんが飲んでいるところに出逢った。二人はここで知り合った飲み仲間らしい。私もお話に混ぜていただいた。
 冒険者同士のこと、自然と仕事の話題になり……気付けばリグベイルさんに私の希望している商隊の事を話していた。
 別にルオニルで「つい」うろうろと彼を探したりしなければ、誰と一緒でもいいんだから、気にすることは無かったのだと少し可笑しくなった。
 でも、リグベイルさんが希望すると私なんか落とされちゃうかな?

 ソラリスさんからは、西の街道に山賊が出ると言う情報を聞いた。それで「できれば魔法が使える人間」がいいという話が出ていたのかと少し合点が行った。
 また、少し調べてみた所、商隊には妊婦さんがいるという話だったから、その人の世話のためにも女性が望ましいと言う話だった。こき使われそうな予感はするけれど、生命の精霊に触れるチャンス(?)だから、まあいいか。
 
 仕事の依頼主の見分け方の話はとても為になった。対処法についても。
 「(タヌキ)商人の尻尾は踏むか掴むかするためにあるのよ(笑)。見つけたら興味を持って観察してみるもよし、仕事を辞めて尻を蹴飛ばすのも良いし。これって、以外とすっきりするわよ?」
 と、にこにこしながらソラリスさんがいえば、リグベイルさんが
 「ははっ、尻を蹴飛ばすか、初めの頃はよくやった」と応じる。
 そして追加で「(蹴った報復に)暫く干された時があった。頭に来たので、酒場とかでそれとなくその悪徳商人の噂を流して、逆にその商人の護衛の仕事を干してやった事もあったかな(にや)」
 な、なるほど。そういう事もするんですね。皆通る道なのね〜(感心)。

 ソラリスさんの船の上の話は新鮮かつ仰天するようなものばかりだった。人間も空(マスト)から落ちてくるのね。痛そう……。
 船には船のメリットとデメリットがあり、それを見極めて商人たちは賢く立ち回っている。頭が良くなければ出来ない仕事なのだわと、改めて彼らを尊敬してしまったかも。

 今回の商隊、いい人たちだといいなぁ。
 
星林逍遥
ユーニス [ 2003/04/25 23:27:47 ]
  天の海に雲の波立ち月の船星の林にこぎ隠る見ゆ(*1)


 噴水広場で一人星を眺めていた。得物(片手半剣)のせいか時間のせいか、誰も近寄っては来ない。
 それをいいことに、この場所でであった「彼」に思いを馳せる。
 初めて出逢ったとき、ここに倒れていた彼。怪我をしているのに強情で、人の話を良く聞かないで、
それでいて何だか間抜けな親切っぷりをみせたひと。思い出すたび胸が詰まる。
 彼のへの恋を自覚してから、闇精霊は少し近くなった。恐怖が全て拭い去られた訳ではないけれど
やはり恋する気持ちが自分を一息に「女性」に近づけた感がある。
 遠い光、遠い闇。光は彼の魔法、闇は彼の色。少しでも近付きたい、早く追いつきたい。

 物思いに耽っていたら、綺麗で物悲しくも甘い声が耳に届いた。吟遊詩人さんが通りがかったのだ。
 彼は私に気付いて話し掛けてくれた。
「唄は独りで歌えば、寂しさが身に沁むもの…。寂しい時には、人とお話するのが一番と思うのです」
 
「こちらを省みない”星”に心を痛めていた、とでも言えばよいのでしょうか」
「星に省みて貰おう、とは、美しい浪漫ですね。手が届かないのが、その定めと思いますれど…」
「私も星になれれば良いのかなって思いますから」
「あははは、そうですね、その通りです!」

 私の恋は見抜かれていた。彼もまた恋に破れ、時折彼女のことを思い出しては頭を悩ますという。
「彼もまた貴方と同じ気持ちではないとは、何故言えるのです?」
「貴方がその人に尋ねない以上、本当のことは判りません」
「結果的に生涯会えないという事になってしまっても…。思い出は希望になります」
「 私も色々自分に対して弁解しているけれど、基本的には、言わなかった事を後悔しているのです」
 あああ、もう、これだから詩人さんって、詩人さんって…………すごい。

 カドリールさん、木の葉の舞のような名前をもつ彼は、きっと言葉達とダンスを踊っているのだ。
 彼の手にかかったら、きっともどかしいさも、あやふやな形なき想いも染み渡るような言葉に生まれ変わって口から飛び出していくのだろう。リュートの旋律に載って踊りながら。

 きょうは、彼の言葉を心のページに書きとめるだけで手一杯だ。
 彼の宝石のような、星の瞬きのような言葉を温かい飲み物で手に入れたのは、私に幸運がある印なのではないかと、きままに亭に移って彼の隣で杯を干しながら思った。

 私が歌う歌は、ただ、愛する人々の為だけに。
 「愛する人々の為に歌う時は、(あなたは)本物の詩人になれるような気がするのですね」
 私の心はいつでも彼を追っている。自らの道を歩きながらも、いつも心に描いている。
 「貴方はまさしく星を追う旅人」

 今日は、幸せな夢を見られそうだ。


*1 『万葉集』巻7 1068番歌。
 
探検家との約束
ユーニス [ 2003/04/25 23:30:07 ]
  エレミアへの出発前に、いつもの雑木林へ挨拶に行った。
 街に住まう精霊使いの憩いの場とも言えるここは、風も緑も土もどことなく元気なように見えて心地よい。擬人化したうえにごく主観的な視野ではあるけれど。

 木立をそぞろ歩きしていたら、草原妖精さんに出会った。お散歩かと思いきや「探検」だという。
 私は精霊に挨拶していたと言うと、私の言葉に説明を求めてきたのだけれど、上手く言えなかったのでよく理解できなかったらしい。もうすこし説明上手にならないといけないと反省する。
 ピッケという名の彼は唄は苦手と言うけれど、楽しいものを見つける目と拾い上げる器用な指先にはどうやら自信が有りそうだ。彼の見つけたものを聞かせてもらえたら、きっと楽しい時間が過ごせるだろう。
 リグベイルさんとも知り合いだったらしく、彼女と私がエレミアに行く(リグベイルさんには確認していないけれど)という話を聞いて残念がってくれた。
 せっかくお友達になれたのに、と。
 
 何だかそれがとても嬉しくて、彼にお土産話をもって帰る約束をした。
 私のことを「ユー姐」と呼ぶ彼が喜ぶような珍しい話を、果たして私は見つけられるだろうか。
 きままに亭で夏に再会を期して、私たちは別れた。こういう別れは幾つあっても、楽しくていい。未来への道標になるから。

 ほんとうに、再会をたのしみにしてるよ、ピッケ。
 
分岐点
ユーニス [ 2003/04/29 8:59:46 ]
  ワルロスさんと話した。3人で組んでいた仲間の、発展的解消とでもいえるような話を。

 これからは常に組むわけではない。今までだってそうだったけれど、私たち3人は3ヶ月の間本当に
いつもいつも一緒にいたから、ある程度きちんとけじめをつけなければならない気がしていたのだ。
 改まって話をしたのは、そんな気持ちに背を押されてのことだった。けれど、お互いに、
例えばワルロスさんが”剣”や”弓”や”霊”を欲するとき、そして私が”鍵”を欲するとき、
お互いに気軽に頼める間柄としてはずっと付き合っていきたい。それだけ信頼できる相手だから。
 ワルロスさんも快く了承してくれた。ああ、良かった。

 バウマーさんにとっては「終わった話」かもしれないけれど、私にとってもワルロスさんにとっても
この3人が「気心知れた仲間」であるという意識は消えていない。一方的に出て行ってしまった
バウマーさんに対しても、それは変わらない。それを確認できて嬉しかった。
 私はたしかにバウマーさんを好きだけれど、信頼できる仲間としても、彼が本当に大切だったから。
 
 そういえば、バウマーさんの出発時の情報は大して入らなかったようだ。
本当に唐突にいなくなった、としかわからない様子。慎重に立ち回った上、迅速に行動したのだろう。
 彼よりも小柄な人間を連れていたというけれど、それが誰なのかもわからないまま。
 でもいいんだ。今は、彼が無事であればそれでいい。

 「我侭を聞いてやるのは少しくらい知れた仲なら当然だ。(去ったバウマーさんの件について)
 まぁ、あれは……とにかく、子供が迷子になったとでも思え。日が沈めば、どうせ戻ってくる。」
 「行って、そして帰ってこい。帰る家は潰さずに残しておいてやろう。」
 えへへ、行ってきます。そして、ここへ帰ってきます。ですからワルロスさんもどうかお元気で。

 ……”3人組”は、それぞれの道へと踏み出していく。いつかまた道が交われば、
共に軽口の一つでもつきながら同道することもあるのだろう。道の途中で相手を見つけたとき、
気軽に走りよって声をかけられる仲でいられるならば、こんな小さな別れはいかほどのこともない。
 
 じゃあね。「またいつか」。
 
しずくの旅立ち
ユーニス [ 2003/04/29 9:19:38 ]
  515年4の月、27の日。早朝。今日はエレミアに向けての出発日だ。

 商隊の馬車の点検と出発前の最終打ち合わせを終えた頃、商隊の回りを歩き回る小さな影。
 「あれ? ピッケ、どうしたの?」
 「あ、ユー姐だー。やっぱりリグ姐と一緒に行くんだねー。」
 先日出逢った”探検家”草原妖精さんだった。リグベイルさんを呼んで、3人でしばし歓談。
 「オランで面白いことがあったら、私たちが帰ってくるまで覚えていて教えてね。」
 「んー、判ったー。」
 「見送りをありがとう。再会を楽しみにしているよ。」
 「僕も楽しみにしてるー、あれ、リグ姐、出発だって。」
 「ああ、そのようだな。では、またな。」
 「いってらっしゃーい」

 馬がいななき、いくつもの足音と金属の軋みを引き連れて、商隊は動き出した。
 
 リグベイルさんと私は、故郷への道を一歩踏み出した。
 
 ひとときさようなら、オラン。故郷へ行ってきます。
 わずか8ヶ月の間に沢山の愛すべき人々に出逢えて幸せだった。必ず帰るね。それじゃ、また。
 
《しずくのうた》 op.005
ユーニス [ 2003/04/29 10:04:01 ]
 <>  夢を見ている
<>  険しくて命がけだけれど
<>  命の重さにみあった夢
<>  しずくは大きな夢を見る
<>

<><> 初夏のオランの風は、爽やかで心地よい。エレミアの砂交じりの風とは随分違う。
<> これからあの熱砂の国、私のふるさとへ行くのだ。
<> 
<> 「一人前になるまで帰ってくるんじゃねぇ」
<> そう言い放った人のところへ戻るのは勇気がいる。自分にも私にも厳しいあの人の目に、
<>今の私はどう映るのだろう? 「半人前もいいところ」だろうか。
<> けれどたとえ半人前であっても、今回ばかりは是非とも帰郷しておきたい。
<> 父さんと母さんに、自分のお金で剣を買ったことと精霊と絆を結んだことを報告する為に。
<> そして爺ちゃんとクロードさんには、ずっと考えていたことを告げよう。
<> 私の選んだ生き方と、大切な人たちの未来の為に。
<>
<> 誰もが皆、自分の生き方を胸に抱いて歩んでいる。
<> わたしという小さなしずくは、どこまでいくのか。
<> いつか夜空に流れる星の河にたどり着けるのだろうか。
<> 
<> 今はただ、前に進むだけ。
 
故郷への道
ユーニス [ 2003/05/07 21:56:09 ]
  エレミアへの道は遠いけれど、街道がしっかりしているので歩きやすい。護衛の仕事でありながら、比較的見晴らしの良い場所を歩くときは少しばかりのどかな気持ちにさせられる。
 季節は初夏。炎天下の移動でないことも、穏やかな心地を与える要因だろう。

 今晩の見張りの最初の当番は、私とリグベイルさん。気心知れた相手だけに、香草茶を飲みながら他愛も無い話で盛り上がったりする。と、思ったら、今夜の話題はリグベイルさんの過去。
 生い立ちも、家族のことも、オランに来た理由も、私は知らなかった。彼女のことは、尊敬すべき目標、そんな気持ちで見ていた。
 けれど今夜知った事実はとても重かった。本人は多くを語らなかったけれどその味わった苦しみは、私の悩まされていた”恐怖”などきっと足元にも及ばないこと、想像したくないようなものだったのだと思う。でも勝手に想像していいことではないよね、失礼だし。それにリグベイルさんが苦しい思いをしたこと自体、あんまり考えたくない。
 リグベイルさんは少し寂しげに微笑んで
「ユーニスには知ってもらっていても一向に構わない、だから話したんだ、分かってもらえるかな」
そう私に言ってくれた。その心、信頼を、嬉しくも辛くも思う。私がもっと大人だったら、リグベイルさんにもっと安らぎを上げられるのだろうか、なんて分を弁えないことを思ってしまうから。

 「で、 追いつきたい人って誰なのだ?」
 「リグベイルさんやラスさんやスカイアーさんですよっ」
 ……何でそこで私に矛先が向くんですか。 
 「随分ご執心の様だが、それほどまでに追いかけたい人なのかな?」
 あのー、リグベイルさん、何か凄く楽しそうに見えますよ。
 「一緒に歩きたい人です。リグベイルさんはそういう人居ないんですか!?」

 その問いに珍しく赤面してはにかむリグベイルさんの姿。うわ、見惚れちゃった。
 どうやらお相手は私の知っている人で、実はまだその人に対して想いが固まっていないらしい。
 ふーん、それなら聞かせて欲しいなぁ、とりあえず相手にはきっちり想いを伝えた方がいいですよ。
 「私のような女に言い寄られて喜ぶ男など……」
 「そんなこと無いですっ!」
 休んでいた仲間から苦情で話は途切れたけれど、何とか道中で相手を聞きだしたいな(にっこり)。
 
 お母さまの故郷ミラルゴへ、自分のルーツを求めて旅立とうとするリグベイルさん。
どうかよき道しるべが見つかりますように。ついでに「お相手」も一緒だといいですね(にこにこ)。
 
もう一度
ユーニス [ 2003/09/15 19:57:58 ]
 旅立ってから一年。
エレミアに帰ってきて、もう一度旅立つ。
自分の行く道に再び迷ったりしたけれど、それでも、もう大丈夫。

オランへの道を辿る。くすんだ灰色の鎖帷子や板金の篭手は、革鎧とは比較にならない重さだ。まして、これは祖父からの贈り物。重量以上の重みがある。

一里塚で体を休めたら、さあ、また歩き出そう。
自分の目指すものに向かって。
 
多分これからも。
ユーニス [ 2004/04/10 23:22:35 ]
  エレミアからオランに帰着後、いろいろなことがありすぎた。その最たるものは傭兵になったことだろう。
 この年の夏と秋は慌しく過ぎ行き、冬の声を聞くとともに、私は傭兵として王都から旅立った。

 偶然カレンさんの苦悩にほんの少し触れた。ラスさんと語りあったことを契機に、自分の剣の意味を知りたくなった。だから傭兵になった。
 傭兵ギルドの人々と出会い、自分の甘さを痛感させられた
 悩み、苦しみ、精霊と絆を深められないまま、プリシスへ旅立った。

 戦場では人を殺めた。敵も、味方さえも。
 なかなか背中を預けてくれなかった人が初めて私に願ってくれたことは、自分のとどめをさすこと。そんな場所で私は運良く生き延びられた。

 結局私が願ったことは、一つだけ。

 帰りたい。みんなの居る場所に。
 多分これからも、私の帰る場所になるその街に。

 そうして、今また、私はオランにいる。