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笑われ種手記
ノースクリフ [ 2002/12/25 5:42:20 ]
 昔から、人に誉められることはだいたい決まっていた。
たとえば、笑窪。たとえば、笑い声。たとえば、笑顔。
きっと、他に誉めるところがなかったんだと思う。
だから、子供のころは笑ってばかりいた。
人に、誉められたかったから。

遺跡に出かける少し前。神殿で、言われたことがある。
その前に何の話をしていたのか、覚えてないんだけど、まるで切り取ったみたいにその一言が強く記憶に残ってる。

「……しかし、その割には、寄進が進んでいませんね……」

ショックだった。何でかって言われると、分からないんだけど。
僕はそのとき持っていた銀貨と宝石をその場に投げ捨てて、逃げ出した。

ナズゥの遺跡から帰ってきた後も、神殿には一回も顔を出していない。
 
混乱している自分のこと
ノースクリフ [ 2002/12/25 6:04:07 ]
 暇に耐えかねて出かけた酒場で、久しぶりにシルフィーに会った。
真面目でまっすぐな、僕とは全然違うファリスの神官。

なんだか頭が混乱してて、まとまってなかった。
人と話すのは大好きだったのに、それさえもうまくできないようになっていた。
平和について、少し話をしたんだ。…けど、とんちんかんな会話になってしまった。聞きたいことはたくさんあったのに。

「疲れてるのかなぁ?」
そう言って下を向いてため息をつくシルフィーはひどく悲しげに見えた。
「駄目だよ。心から笑わないと!」
……とは言ったけど、僕は心から笑っていただろうか?

また、次の日も部屋から出ないで過ごしてしまいそうだ。なんとなく彼に罪悪感を感じながら、そんなことを考えていた。
 
侮辱する魔術師のこと
ノースクリフ [ 2002/12/31 2:37:31 ]
 自分自身、僕が神の教えを説いていても司祭様のような説得力はないって自覚はしている。
からかわれるのは良い。相手は、笑ってくれてるから。

退屈って、苦手なんだよね。やっぱり、夜まで何も変わらない部屋の中にいると外に出たくなる。
で、やってきたのはやっぱりきままに亭。

で、今日は名前も知らないけど魔術師(パウマー)の隣の隣に座った。
世間話でもしながらそれとなく教えを……と思ったけど、失敗。
それどころか、寄進を懐に入れてるとか、悪徳神官だとか、小悪党だとか、さんざん侮辱された。

本当なら、笑って流すべきだったのかもしれないけど、そう考えるほど冷静にはなれなくて……

「仲間と一緒になって」

この一言が許せなかった。僕の仲間とか、友達とか、知り合いとか、そういう人は絶対にそんなことはしない。
で、ついムキになっちゃって……冷静になって話をしようと思ったときには「星の巡りが悪い」とか、わからないことを言われて逃げられた。

くっそぉ。
 
決着のついた1月のこと・1
ノースクリフ [ 2003/02/06 21:17:58 ]
 514年は過去になった。といってももう1月もすぎてしまっているけれど。

年明けの日の出は見られなかったけど、流星の集い亭でアル(アルファーンズ)に会えた。
アルは、優しいよ。とても。僕の話を聞いてくれた。
挫折して、そのままじゃそれで終わり。うん、もっと、ゆっくり考えようと思った。

思って、年が明けたころにはまだ自分の部屋にこもっていた。ラド兄さんに邪魔だと言われて外にけりだされるまでは。

外は寒いことに久しぶりに気づいた。当たり前なんだけど、どうしてか忘れそうになっていた。
僕の聖印を見ると、皆が挨拶してくれた。あっ、皆って言うのは、別に知り合いのことじゃなくて、全然知らない人も。
僕が寒そうにしているのに気づいた人が、服を貸してくれた。名前も聞かなかったけど、顔は覚えてる。絶対に返そうと決めた。

そうやって、一日散歩してて、気づいたことがあるんだ。

僕は、あんなに狭い部屋で何をしてたんだろう。
外は、こんなに広いのに。

迷ったときに、一人で考えていても何も分かるわけないよね。
寒さと同じで、いつの間にか忘れてたんだ。
……もう、忘れない。またこんな気分になるのは嫌だもんね。
 
決着のついた1月のこと・2
ノースクリフ [ 2003/02/06 21:38:45 ]
 久しぶりに行った酒場。看板は「きままに亭」。
その日は大きな斧のお兄さん(ヴァントーザ)に出会った。

お兄さんは自分が死んだら、他の人には泣いて、そのあとに少しだけ笑ってほしいらしい。僕は逆だな。
死んだら、皆には笑って欲しい。
泣かれたら、まだ皆には必要だったのに、死んでほしくなかったのに、死んじゃったてことになるでしょ?
「惜しい人を亡くした」って言われたくない。

そんな話をしてたら、聞かれたんだ。

「幸運は良い笑顔の者にって知ってる?」

知ってる。どこかで聞いた。泣いてる人は、目が曇ってしまって幸運がそばにあっても気づかないんだ。

「そして、無理に笑おうとしてるヤツもな」

分かってる。でも、良いんだ。僕は不幸になってもかまわない。それで、まわりにいる人が一緒に笑ってくれるなら。その人たちに幸運が来るなら。

そういったら、逆に僕が笑わされた。
……人を笑わせるのって、こうやるのか。
僕はいままで、自分が笑うことだけを考えすぎてたのかも。
 
決着のついた1月のこと・3
ノースクリフ [ 2003/02/06 21:58:27 ]
 公園で、これも久しぶりに豆を鳩にあげていた。考え事をしながら。
あの人は、簡単に人を笑わせていた。……僕にはあれほどうまくできない。

一つ、思ったことがある。向いてないんじゃないかってこと。
子供のころは、引っ込み思案で人の顔を見るのも怖かった。

その日の公園では、女の子と、その母親の紫バンダナの人(ジョゼフ)に会った。

その人に神殿にいってない事情とかを話すと、すごく大事なことを聞かれた。

「何がしたくてチャ・ザの神殿にはいったのさ?」

最近、すごく物忘れが激しい。そんなことも忘れてた。そう、最初は……

「お祭りだ!」

そう。昔からお祭りごとが大好きだったんだ。それで、大きなお祭りをしてる神殿に行って……
最初は、難しいことなんか何も考えてなかった。ただ、皆と一緒に騒ぎたかった。

結論!
とりあえず、騒ごうと思う。
神殿にも行ってみよう。家族とも話してみよう。冒険にも行ってみよう。
悩むことがあったら、思い切り悩んでやる。もう一人じゃなくて、皆と一緒に。
そしてそれも、楽しんでやる。