| Never Enough |
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| マージャ [ 2003/01/09 22:43:15 ] |
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| | 陳腐な挑発だと分かっていながらもそれに応じてしまうのは僕が安っぽい人間だからだろうか。 そんな他愛もない思案に耽っても出てくるのは溜め息と腹の鳴る音だけだ。何の足しになりもしない。
厩ってところは馬糞の臭いがキツイし、隙間風は冷たいし、月明りが入ってこなければ真っ暗闇。そんな最低の寝床だけど王都はパダの壁の外と違って野宿をしようものなら衛視の点数稼ぎに利用されるのがオチだから、今晩は毛布に包って朝を待つしかない。
…惨めだ。惨めすぎる。
自分で自分に呆れてしまうけど、ここで妥協に甘えてしまえば僕は僕自身にもっと呆れてしまうに違いない。それはきっと、とても惨めなことだから。今はもう少しこの冷たい闇と付き合っていかなくちゃいけないんだ。どうしようもなく無力な人間にならないために。
一応の結論と明日の予定をたててから瞼を閉じた。それでも意識が睡魔に侵されるのにはもう少し時間がかかりそうだった。
ハァックション。 |
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| Blindness of the Heart |
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| マージャ [ 2003/01/10 19:10:44 ] |
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| | 人は本能的に暗闇を懼れるという。それは人類を創生した神が”光”に属し、”闇”と敵対していたことに由縁するからだと至高神に仕える神官が滔々と説いていたけれど、それはきっと間違いだ。人は”闇”にではなく世界から除外、つまり仲間外れにされることに恐怖するのだと思う。自分の心の内側の世界では常に特別な存在である自分が、心の外側の世界では決して特別ではないことのギャップ。その溝を埋めるべく、人は共有する世界では他者との繋がりによって孤独を振り払おうとしているのだろう。特別な自分でいられる領域を確保するために。
視覚的な暗闇はそれを遮断してしまう。だから人は懼れる。
でも本当にそうなのだろうか。世界には生まれたての赤子や盲た老人のように光を持たない者も存在する。彼らはそれによって他者との繋がりを断絶されているわけでも生きることに対して絶望しているわけでもなさそうだ。
心に光を灯すべきだと語った人がいた。 自分は何が出来るのかを思い知らされたって人がいた。
盲目に陥るのは恐ろしいことだ。けれど、それは体ではなく心のこと。視覚的な暗闇は知らず知らずの内に心をも盲目にさせてしまう。だから人は闇を懼れるのだろうか。そうするとあの神官の説教もあながち的外れじゃないってことになるの…かな。
僕の思考はこんな風にいつも堂々巡り。でも、それはきっと僕が特別ではない不完全な存在だから。そしてそれは僕だけじゃなくて、エルフもグラスランナーもドワーフも、そしてきっと数多の神々も、みんな特別ではいられない、世界を構成する不完全なひとつの存在だからなんだと思う。
僕は誰かにとって特別な存在になれるのだろうか… |
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| Up Tight |
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| マージャ [ 2003/01/26 1:23:44 ] |
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| | 六歳の僕の誕生日。母さんが縫ってくれた真新しいズボンは僕には大きすぎるサイズのものだった。 爪先まで完全に覆っている状態を見かねた母さんが仕立て直しを提案したとき、僕はその申し出を断った。 母も。兄も。妹も。みんな。裾の余ったズボンを着てはしゃぐ僕を見て不思議そうにしていたのを覚えている。
夜の梟亭からの帰り道。”猫”を追いかけて入り込んだ路地で出逢った金髪の半妖精。名は聞きそびれたけれど鋭利な短剣のような印象の。…恐らくはシーフ。 僕に分相応を諭そうとした彼の主張は正論だと思う。今の僕はあのときと同じように、大きすぎるズボンを履いている状態だから。このまま歩き続ければいつかは裾を踏みつけ、転んでしまうだろう。鼻をぶつけて大泣きするかも知れない。
でも、ダガーじゃあ竜の鱗は貫けない。ナイフでは虎の喉を掻き切れないんだ。
今の僕には大剣が必要だから。手に入れるためには少しぐらいの無茶もする。それが僕の手に余るとしても。もがき。振り回していれば。いずれは手に馴染む。必要なものが身についてくる。僕が求めているものとはそういうもの。
だから、彼の忠告は聞けない。世間知らずだからこそ背伸びをするんだ。 大きすぎるズボンを履いていた頃のように。 |
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| No Pain No Gain |
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| マージャ [ 2003/02/10 0:49:56 ] |
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| | 何かを得るために。 何かを失う。
それを代償と言う。
世界は一見複雑に見えて。 その実、根幹にある原理はひどく単純だったりもする。
それを真理と言う……のかも知れない。
頭で解っていても心が拒絶を示す。
得たいものがあるとして。 何かを犠牲にしなければならないとする。
それを得ようとすることは正しいことなのだろうか。
至高神が謳う正義は街の正義にはなり得ない。 神様の創った世界は残酷に溢れているから。
大人になるとは世界に対して残酷になれることなのかも知れない。 |
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| The Beginning of the Beginning |
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| マージャ [ 2003/03/20 20:45:45 ] |
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| | 生きていくことは荷を負いて歩むことだと云う。 そして、人は人それぞれの道を往く。ならば、選んだ道によって背負うべきものも自ずと違ってくる。 だから、いざ、その道に立って、進んでみなければ分からない事も多い。
世に二人として同じ者がいないように。 世に二つとして同じ道程は存在しない。
それを誰かに訊ねることで、自分の荷を軽くしようとしたのは僕の愚挙。
酒場で出会ったユーニスという女性は既に自分の道を切り拓いている人だった。 剣を握ることが目的ではなく、剣を握る手段を選んだ人。
僕が無意識に恐れを抱いていたのは 生きる為に力を得ることじゃなくて 力を得る為に生きること。
だから、今一度、僕は決意しなければならない。 強くなることを。 |
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| Silent noise |
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| マージャ [ 2003/10/08 22:01:24 ] |
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| | 百年の歳月は人のみならず国や街さえも変えてしまう。 それは時間が持つ“力”。
周期を司るフェネスはファリスの弟神とされているけど神々の戦いにおいて中立を保ち続け、争乱を混迷へと導く一助を担ったと言う。ファリスの誤算はそこにこそあったのだろう。神でありながら最も近しい存在である弟の心中を読み切れなかった、その一点に。
だから、フェネスを名もなき狂気の神と同一視して邪神扱いする説もあると言うけど、案外、それは正鵠を射ているのかも知れない。時間とは本来、残酷な性質のものであるという意味において。
だけど、半年程度の歳月には国や街を激変させる程の力はない。 でも、人を変える力なら備わっているはずだ。
僕の半年の成果を、あの男はどう見たろう。 あの青い目で僕の心中を見透かしていたのだろうか。
自然界に天敵が存在するように。 人間界にも存在するとしたなら。 彼こそが僕の天敵なのかも知れない。
“音無し”? 違うね。 僕にとって彼は“ノイズ”だ! |
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