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シャリオル [ 2003/01/21 22:53:03 ]
 懐かしい夢に目を覚まし
疼く古傷に喉の渇きを覚える。

いつもと変らぬ冬の朝は
その日付だけが特別さに彩られていた。

寂れた酒場の扉をくぐれば
愛想の悪い老主人が無言で酒を出す。

大陸最大の都市、王都オランといえど
十余年前に滅びた国の酒を扱っている店は少ない。

失われし故国の酒の味
それは決して郷愁を誘うものではない。

ただ、忘れられぬ女の
記憶を呼び覚ますのみである。


俺が若い頃、初めて口にしたエールの印象はひどく苦いだけの代物だった。
やがて、歳と経験を重ねるに連れ、勢い任せに飲み、酔い痴れる為の物に変わった。
そして、三十も半ばに達すると、余計、苦さを感じるようになった。
ただ、若い頃とは違い、その苦味を楽しみ、味わえるようにはなっていたがね。

酒は有り難いな。
人の業を全て受け止めたまま、咽喉の奥へと流し込んでくれる。


皺の深い手が
空いた酒器に明銅色の液体を注ぐ。


──酒の偉大さに、乾杯。