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数記
ワルロス [ 2003/01/26 0:52:13 ]
 昔々、おれは捕まった。くだらないことだ。

道行く金持ちそうなやつから1ガメルだけを盗む。そのときのおれにとっては、最高にイカした遊びだった。

……しかし、ある日、やはり失敗というのはあるものだ。おれはさんざん逃げ回ったが逃げ切れるものじゃない。
捕まって、長い牢生活。最悪だ、と毎日思い続けた。

牢屋の中は、とにかく暇だった。昼も夜も、ちいっさい窓だけでしか分からない。

昔、知識神の神殿でモノを習ってるときにはおれは数学が得意だった。
それと関係あるのかはわからないが、牢の中でモノを数え続けた。

天井のシミ、誰かが上げる声、自分の髪の本数を数えようとしたこともあった。今思うと、狂気の沙汰でしかない。

ちょうど1000日を数えて、おれは釈放された。
やはり当然のことだが、カゾフでおれに回ってくる仕事なんてもう一つたりとも残ってはいなかった。

……良い機会だ。オランへ行こう。あそこなら仕事も見つかるはずだ……
 
魔術師一人、剣士兼精霊使い兼野伏一人。
ワルロス [ 2003/01/26 19:26:05 ]
 オランのとある木造の酒場で、とりあえず仲間を作った。

ユーニス。女だてらに剣士なんかやっているようだ。そのほかにも精霊は見えるし、野伏せの経験もある、多芸なやつだ。
なかなか悪くないが、思ったことがすぐに口から出てしまうやつらしい。正直は美徳だが愚直は明らかに損だ。

バウマー。魔術師らしい。杖ならば使えそうだ……とも思ったが、こいつは思ったことがとげとげしく頭の中で変えられて口から出るようだ。
……やはり魔術師は人になど会わせずに暗い部屋に閉じ込めておくのが一番良い。

とにかく、一人でできないことも3人ならばなんとかなるかもしれない。
うまくやればもっと良い連中から誘いが来るかもしれんし、まぁ最悪だというほどでもないだろう。
 
拘束期間三週間
ワルロス [ 2003/01/26 19:46:13 ]
 さっそく、ユーニスが仕事を持ってきた。悪くないペースだ。
仕事の内容は、荷物の移送の護衛。……暇そうだが楽もできそうだ。

いいだろう。今はとにかく金が必要だ。わがままを言っている余裕はない。で、詳しい内容は?

…………。

か、カゾフ? 待て、それはまずい……

な、何でかだと? そ、それはだな……(PL注:同宿帳の記事1番参照)

変装? 腕に自信があるならたやすい?……いいだろう。三週間のうち、カゾフにいるのは4日だけなのだろ。それくらいの間、このおれにかかれば簡単なものだ。

……言ってしまったものは仕方がない。こうなったらこの仕事、意地でも無事に成功させてやる。
 
出発1日前
ローランド(ワルロス) [ 2003/01/26 20:02:41 ]
 仕事の依頼主……別の言い方をすれば脂ぎったごうつく親父だが、そいつと小一時間ほど報酬について交渉。
頼りにならなさそうだ、そんな小さい剣では犬も殺せまい、全員で顔も見せないのか……そんなことを遠まわしに言ってはなんとか額をさげようとする。
なんとかかわし、あるいは最小限に抑え、報酬はそれなりのものにすることができた。

情報も一日でかき集めた。街道についても、依頼主本人についても。
街道の方は悪くない。盗賊もいるにはいるらしいがおとなしいものだ。
依頼主の方は……極悪ともいえないが優良でもない、といったところか。

酒場で最後の打ち合わせ。
商売敵については聞かないでもなかったが大それたことはしまい、と踏んでいた。が、話していると無視はできないようにも思える。
……とにかく、油断は大敵、というところだ。明日の朝は早い。
 
馬車1台、護衛は5人
ローランド(ワルロス) [ 2003/01/27 17:06:03 ]
 (関連項目:雑記帳ナンバー21、カゾフ往還道中記)

朝早く、面倒な変装を済ませて集合場所へ。
一番最初の仕事、馬車の点検。問題なし。馬も悪くない。
誰かが何か仕掛けてるかもしれないと考えると思った以上に気を使う。おれが毎朝やらなくてはいけないのだろうか。

同じ馬車に乗り込む連中の観察。
依頼主とその使用人。どっちもあまり見栄えが良いほうではない。この際関係はないが。

幸運神の神官、名はビクター。怪しいところは見当たらない。チャ・ザの神官として普通に商人の護衛をしているだけなのだろう。

御者台に座ってるのが剣士のアルマ。手綱は俺が持つつもりだったが襲われなければ自分は何も仕事をしないことになる、と言って勝手に座り込んだ。
金髪ってだけでなんとなく気に入らないが、神官と組んでいるのなら問題はあるまい。

懐に仕込んである短剣や小剣をいつもより厚い服の上から握る。旅は今のところ順調だ。これを抜くことがなければいいが。
 
一昼夜
ワルロス [ 2003/02/22 0:14:51 ]
 駆け出しのさせられるようなテスト。
荒らされつくした遺跡をギルドが使っているのだ。
その扉と言う扉に鍵をかけ、最も奥の部屋にたどり着ければ合格。
ある程度時間は決められていて、それに間に合わなかったら失格。昔、やらされた。

……が、ここオランでまたやらされるとは思ってなかった。
先に若いやつが見に行っている。もし鍵が開いてたら、そいつがかけなおす。罠も解かれていたら仕掛けておく。
そいつが帰ってきたら、はじめ。酒場に戻ってくるまでが試験だ。

が、見に行った若いのがいつまでたっても帰ってこない。
一晩待った。日が暮れるまで待った。帰ってこなかった。

何があったのか? その場での想像は大体固まってきた。
すなわち、遺跡に妖魔でも住み着いてしまったのではないかと言うことだ。

好機。そう思ったおれは、仕事を一つもらった。
そこの調査、そして危険があるならそれの排除だ。
もし怪物がいるならおれ一人ではどうにもなるまい。被害も報告されてない。
おれは、旅に出ている二人を待つことにした。
 
枯れ遺跡に怪物一体
ワルロス [ 2003/03/31 20:27:37 ]
 思い込みというのは非常に嫌なものだ。

隠し扉の奥に隠し通路などあるわけがない。
落とし穴の近くにたいそうな罠が仕掛けられているはずがない。
罠だらけの遺跡の、扉の一枚が怪物であるはずがない。

それが、今までこの遺跡をギルドからさえも守り続けていたものなのだろう。
そりゃあ、誰だって大掛かりな仕掛けの奥に宝箱がいくつも転がっていればそこからさらに地下に続いてるなどとは思うまい。

ユーニスには、悪いことをした。大したものではないが、本体なら避けられた傷を負わせてしまった。
バウマーは……勝手についてきたのだが、結果的には助けられたことになる。礼を言うべきかどうかは考え中だ。

行方不明者については、一人はまず間違いなく死亡、一人は軽症もなく無事だった。

聞いた話によれば、あの遺跡は結構な儲けが出たのだという。そのさらに下層が、瓦礫に埋まっているとはいえ発見された。
おれがやったのではないのが不本意だが、報酬は多めにもらえたので良し。
本来なら、おれ一人で片付けられる問題だったのだ。仲間の二人にも、多めに分けてやろう。
 
小さな夢、一つ
ワルロス [ 2003/04/01 17:19:35 ]
 髭を剃る。こっちに来てすぐのときは十も老けて見えるぐらいに伸ばしていたが、今では顎に少しあるぐらいだ。
それも、半端な長さで今ひとつ見苦しいもので、あまり良い印象を与えるものではない。

髪を整える。釈放されてすぐに適当に切ったが、それ以来手も入れてないので伸び放題のぼさぼさだ。
油で撫で付けて、後ろで束ねる。まともに見えなくもない。

良し、準備完了。出発だ。
……待て。盗みに行くのではなかったのか?
そのはずだ。そのはずである。しかし、そこの娘、ニーナは髭面をあまり喜ばないのだ。

……おかしい。物を盗みに行くのに何故小娘の機嫌を伺うのだ?
何度も考えたことではあるが、いまだに答えは見つからない。

おそらくは、哀れみだ。彼女は石皮病という厄介な病に冒されている。
すでに足は固まり、放っておけば全身が石となってしまう。それを可哀そうだと、自分は思っているのだろう。

その日、おれはカゾフの家々の屋根の上を走り、危ういところを逃げ出すことができた、と話した。若いころの失敗談は好きではないが、彼女は喜んでいくれた。
ひとしきり笑った後、窓の外の月を見てニーナは悲しげにぽつりともらした。『空が飛べたら、カゾフにもいけるのに』

空を飛ぶ。およそおれには不可能だが、魔術師ならば可能かもしれない。
ふむ……
 
小さな小さな夢、二つ
ワルロス [ 2003/04/02 0:18:03 ]
 朝と昼の間、といった時間だろうか。田舎の安宿の一室。
未だに歩くことはできないため、寝台にいるニーナの頭を軽く撫でてやる。
「行っちゃうの……?」
「あぁ、オランでやらなきゃいけないことがたくさんあるからな」

彼女と両親はこの田舎村で暮らすことにしたらしい。ヘンルーダを三日以内に持ち帰ることのできる場所である。
曰く、「村の仕事を手伝えば、宿代はまけるけてくれるそうです」

「じゃあ、会えなくなっちゃうの?」
「ニーナが、そのまま歩けないならな。オランまで来れば、いつだって会えるさ」

言っては見たが、難しいだろう。ここからオランまでの距離を一人で歩くことは、楽なことではない。

「じゃあ、治ったらまた会えるね!」

しかし、不可能ではない。幸い、彼女は一人ではない。生活も、旅も、両親の支えがあればなんとかなるだろう。
まずは、貴族の考え方を捨てて、ここの暮らしに慣れなければいけないが……

「村長さんが、よく働く良い親御さんだねって」
「あぁ、それも、ニーナのためだ。良いご両親だな」
「うん!」

おれは、なんと言うか、この笑顔には弱い。
おれが普段やっていることとは程遠い、明るい笑顔。逃げ出したくなるような気さえする。

「ワルロスさん! そろそろ出ますよー」
「いつまで待たせりゃ気が済むんだ!?」

逃げるわけではないが、ニーナに背を向ける。

「お兄ちゃん! 次にあったら一緒にお散歩しようね!」
「あぁ……絶対だ」
「じゃあ、またね!」

その声を背に、おれは窓から飛び降りた。
 
11軒めの店
ワルロス [ 2003/04/12 0:17:49 ]
 オランに帰ってからしばらくのことだ。
ギルドに連絡もなしに派手に儲けている野郎がいる、とのこと。当然、魚を売りさばいて稼いでるわけでもあるまい。

人のことを言えたわけではないが、見かけない顔である。
毎晩どこかの酒場だか賭場に現れ、派手に遊んでいるらしい。
さて、そいつが何をして元金を得ているのか調べろ、と言われた。
そいつの手段によっては、手荒い方法をとるのだろう。ギルドの掟は絶対だ。
調べたところによると、命令を下したギルドのエライヒトの気にかけていた息子分と揉めて、それが逆鱗に触れたそうだ。
しかし、俺はそいつの家も知らない。夜毎どこに現れるかも知らない。結果、酒場を巡ることになったわけだ。

本日四軒目。通算で11軒目。きままに亭で、そいつと後ろ姿がそっくりの同業(リック)に会った。
気になることをいくつか言っていた。
もめた相手、つまり幹部の身内だが、そいつが賭場で下手糞なイカサマを繰り返していて、しかも親分の名前を出しては偉そうにしていたとのこと。
……それなら、ちょっとした怪我くらい当然ではないか。

とにかく、調べる必要がある気がする。大したこともしていない……おそらく、スリを数回しただけであろう。
……それで指を折ることもあるまい。おれはそいつに別れを告げ、次の店に向かった。