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紅の血華
マゼンドリス [ 2003/03/22 0:56:30 ]
 幾千万の命が散り逝く戦場で

わたしの手にする戦鎚は、それと同じ数の血の華を咲かせた

一人の命が散る時に、豪奢に咲き誇る血華の紅

それは黄昏の香りを纏った彼岸の華

わたしも何時かは咲かせるであろう、命の紅で彩られる儚い徒花を…
 
明日の笑顔
マゼンドリス [ 2003/03/27 5:34:46 ]
 春を迎え、プリシスとロドーリルの戦も新たな局面を迎えつつあった。昨年の秋に続き、五桁に及ぶ兵力を投入する兆しがロドーリルに見て取れたからである。

わたしは再びプリシスの傭兵として赴く為、憂いの一つを晴らすべく「マーファ東小神殿」に足を運んだ。

何故わたしがこの神殿に足を運ぶに至ったか、それにはある子供達が大きく関わって来る。

今を遡る事数年前、プリシスの傭兵として雇われオランの北に位置する二つの国の戦乱に身を投じていたわたしは、数年ぶりに再開した傭兵としての感覚を取り戻すのに躍起になっていた。
だが、不覚にも本隊と逸れてしまい、そこへロドーリルの斥候隊と出くわしてしまった。

その斥候隊との交戦で追い込まれたわたしは、目前にある森の奥深くに逃げ込んだが、木々の間に隠れていた崖に足を踏み外し転落した。

子供ばかりで構成された一団と出会ったのは、その時であった。

突然の来訪者に対し多少怯えを残す子供達の手に身体を委ねながら、彼等の事をつぶさに観察したわたしは、その立ち振る舞いからどうやらこの近隣の村が襲撃され全滅した際の戦災孤児であると言う事を窺い知った。

わたしは子供達と過した穏やかな数日間の中で幼くして先立った娘とその子供達を重ね見ていた。
そして、唐突に訪れた娘との別れに耐え切れず、再びこの世界に舞い戻ってしまったのだと言う事を、痛切に思い返していた。

だが、己の感傷に浸っている余裕などわたしにはなかった。
ここに来る前に交戦した斥候隊がまだ近くにいるかも知れないと言う懸念がわたしの内にあり、再び戦闘になれば今度はこの子供達を巻き込んでしまうのは明白だった。

わたしは、そうならない様にとここから立ち去ろうとしたが、敵はそれを許してはくれなかった。

斥候隊に発見されてしまったわたしは、彼等と子供達を引き離す為に必死の思いで敵を引き付けた。

だが、その後に本隊との合流に成功し、敵の斥候隊を蹴散らして子供達のところへ舞い戻ったわたしは、運良く難を逃れた数人の子供を保護する事が出来たが、それを上回る数の幼い骸を目にする事となった。

わたしさえこの子達と関わらなければ、あるいは…と言う思いがわたしの中を駆け巡った。

そして、わたしはこの時決意した。

この子達にわたしが出来る唯一の手向け、それはこの世から戦が無くなるまで戦い続ける事、それだけがこの子達に報いるたった一つの方法であると。

こうして、戦場に赴いては戦災孤児となった子供達を孤児院へ送り届けると言う、戦場と孤児院を行き来する人生が始まった。

この「マーファ東小神殿」に足を運ぶ様になったのも、この神殿が他の神殿より率先して孤児院などに救済の手を差し伸べていたからである。少ない運営資金の中での事なので多くは望めない様であったが。

…わたしは今日も戦場に赴き、手にする戦鎚で命の血華を咲かせる。真紅に染まったこの両手が、あの子達の明日の笑顔につながっている事を信じて…
 
彼女の瞳に想いを馳せて
マゼンドリス [ 2003/09/21 1:40:57 ]
 秋の収穫期を機にプリシスから舞い戻ったわたしの目に止まったのは、彼女の名前だった。
彼女が、どの様な想いでオランの傭兵ギルドへ登録したのか、わたしには知る由もなかったが
余程の覚悟があっての事だと言うのは、彼女の人となりから察するに至った。

…でぇ、この名簿に載ってる新米共をミードの“狂い鷲”に預けて一気に即戦力にしようって
腹積もりなのかい?何とも荒行事の大技にでたもんだねぇ…
一端の“剣”に仕上がる前に折れちまったらどうするつもりだい?

わたしは、隣で寝ていた男の背にしなだれかかりながら、そんな皮肉を言ってみた。男は軽く
苦笑いしつつも、ミードがそれほど緊迫した状態である事も付け加え、“狂い鷲”からの要請
だから呑まぬ訳には行くまい、と肩を竦めた。

…じゃぁねぇ、ひとつ言わせてもらうと、この子は外した方がいいねぇ?

わたしは、男の背の向こうからそれとなく彼女の名を指でなぞり、「北」への派兵に彼女を外す
様促した。わたしの指を目で追いながら、何故だ?と男が当然の様に問いただして来た。

…クルドの森でのゴブリン討伐の時にちぃーとばかし、同じ隊でやったけどその時の事を考え
るとねぇ…“剣”を一本、無駄に捨てちまう事になるかもねぇ?

わたしの返事を聞いた男は、如何にも疑わしい目でわたしの顔を見たが数瞬後には、わかった、
と短く応じて名簿に載っている彼女の名前の上に横一文字に線を引いた。

つい安堵の溜息をついてしまったわたしは、それを可笑しそうに見つめた男へ自分のかけ布を
思いっきり被せ、そのまま寝台から降りて窓辺の椅子へ腰を下ろした。

彼女から、何故傭兵ギルドへ来たのかと直接聞いた訳ではないので何とも言えないところだが、
単なる金稼ぎの為にここへ来たわけではないのだろうとも思った。であればこそ、彼女が再び
自分のいるべきところへ戻れる様に、わたしが出来る事はしておかねばと思った。

…“戦争屋”になった以上、その手を他人の血で染める覚悟はあるんだろうけれど、その事が
当たり前にはなってほしくないのさ。あの子の瞳は、あたしみたいに血で濁らせちまうには、
あまりにも惜しいからねぇ……ただ、それだけの事さね…

わたしは、窓の外に浮かぶ眩い月を見つめながら、ふと自分にそんな言い訳を呟いていた。