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新王国暦515年5月20日
ホッパー・ビー [ 2003/05/25 6:26:40 ]
 春らしさもうっすらと、夏らしさもまだ程遠く。
そんな季節に僕は冒険者を目指して旅立った。

『冒険者の店に寄ったら、まず大声で水を注文するのが礼儀だ』

オランに来る途中、出会った冒険者にそう言われた。
僕はその言葉を鵜呑みにして、正直に『大声で水を注文』した。

店員は苦笑いして、コップいっぱいに水を持ってきてくれた。
そして、「苦労しているんだね」と一言付け加えて。
最初はその言葉の意味がわからなかった。

後でその店員が興味半分で事情を聞きに来たので、正直に話した。
笑われた。

僕は今日、一つ教訓を得た。

『少しは疑え』

村を飛び出た、賢者見習の僕。
冒険者として自立できるにはまだ遠い。
少なくとも、今はオランの都市の空気に慣れるよう。

脇に抱えた『アレクラスト博物学』(写本)を大事に枕の下に入れる。
とりあえず明日に備えて寝る。

ホッパー・ビー、15歳の旅立ちであった。
 
新王国暦515年5月21日 「朝」
ホッパー・ビー [ 2003/05/25 7:10:28 ]
 冒険者は朝も昼も夜も無いと誰かが言っていた気がする。

朝も早いうちから寝ぼけ眼で起きる。
見慣れない大部屋。

宿屋の一室と気付くまでに、三回ほど目を瞑った。

村にいた頃は日も昇らぬうちに叩き起こされていた。
しまいには叩き起こされる前に目が覚めていた。

苦笑。

その習慣が身に染みていることを改めて実感。
習慣は服を着替える程簡単ではないと。

窓から外を見る。
村のだだっ広い平野ではない。
石で出来た建物が並ぶ。
そうだ、ここが大都市オラン。

まだ外は日が差し始めて間も無い。
冷えた空気が実に心地よい。

さて、今日はどうしようか…。
 
新王国暦515年5月26日「昼」
ホッパー・ビー [ 2003/05/26 14:50:00 ]
 昨日は初めて夜中まで起きていた。
僕は結構無理したと思った。

まどろみの中、僕は小鳥の鳴き声に気付く。
目が覚めたのは昼も近い頃。
生憎ながら外は雨。

欠伸を一つ。
大部屋に静かに響く。
周囲には誰もいない。

はて、昨日は何を。
半分眠っている頭で思い出す。

あ。

そうだ。
戦士のアレンさんと、コアンさんと話をしたんだっけ。

最初、アレンさんが酒場にいた。
そこに恐る恐る…?

いや。
これは失礼だな。

訂正。

思いきって、声をかけてみた。

気軽に挨拶を返してくれました。
聞くと、まだ冒険者になって日が立っていないと言う。

色々と何を話した。
細かくは覚えていない。

でも、覚えている。
気さくな人だ、と思った。

そうだ。
思い出した。

戦士の方ですか?
そう聞いた。

僕が力が無い、アレンさんが羨ましいと言った。

そしたら。
アレンさんは僕の頭の良さが羨ましいと言ってくれました。

あと、何か冒険をしたかと聞いた。
アレンさんはゴブリン退治をしたことがあると。

妖魔、ですね。確か。
本物は見たこと無いですが。

あ、コボルトだけなら。
村にいた頃に一度だけ。
迷い込んだのを見たことがあったけ。

話が続く。
そしたら、精霊を使役するゴブリンがいるとのこと。
…初耳です。

「生きている知識」とはこのことをいうんでしょう。
僕が言った。

最も、これはお爺さんの受け売り。
僕はまだちゃんと理解してません。

分からないことを曖昧に口に出すこと。
賢者としては軽率過ぎました。

まだまだ修業が必要です。

ああ、この時だ。

コアンさんが、こちらに来たんです。
棍を持っていました。
あと、両手を胸の前で組んで挨拶をして下さいました。

それで、思わず神官戦士の方ですかと聞きました。
理由ははっきりとはありませんでしたが。
何となく。

いいえ、違いますとのこと。
そういうあなたは魔術師ですかと聞かれました。

いいえと、答えました。
私は魔法なんて使えませんから。

ただ、弓が使えると言いました。
兎一匹、当てること出来ませんがと。

するとコアンさんに色々と序言をいただけました。
小動物を捕まえるには、罠がいいと。
なるほど。

ああ、弓と言えば。

アレンさんは、腕を磨けば、冒険者として役立つと言ってました。
そうですね。
知識だけでは冒険者として生きるのには役に立ちませんから。
今日から頑張ろうと思いました。
それと弓を持っていないことを指摘されました。

その後、何か思い出して僕は二人と別れました。
何か…ええと、何だっけ。



全然思い出せずに苦笑。
さて、今日は弓を買いに行くとしよう。
少なからず、僕が特技に出来る様に。

…とりあえず。
 
新王国暦515年6月23日
ホッパー・ビー [ 2003/06/26 10:18:45 ]
 初めて冒険者としての仕事から帰還した。
気分は未だに興奮で収まらない。

仕事とは岩長虫を退治したこと。
アレンさん、コアンさん、アイシャさん、エルスリードさん。
皆さんと僕は初めての冒険に行った。

そして初めての戦い。

アレンさんのハルバードでアレンさんとコアンさんと突撃した。
エルスリードさんは闇霊を使って気絶してまで戦った。
アイシャさんは傷を癒し、精神を気絶したエルスリードさんに分け与えた。
その中僕は怖かったが、弓で何とか皆を援護した。

何とか倒した。

流石にしばらくは怪物退治は御免。
次の仕事は気楽なものにしようっと。
 
新王国暦515年7月1日
ホッパー・ビー [ 2003/07/07 15:05:20 ]
 今日は海岸沿いの枯れた遺跡へ行きました。
学院の特別授業ということで、依頼人で教師の魔術師と初めて郊外に出る魔術師見習一行さん計四名を護衛です。

一緒に依頼を受けたのは戦士のアレンさんとチャ・ザの神官レイチェルさん。
そのレイチェルさんはエレミアで別れた黒髪の半妖精さんをオランで探しているとの事。
そこで、その間の生活費として一緒に仕事をお誘いしました。
あー、そういえば、アレンさん、その人探しに協力するとか言ってたっけ?

遺跡はもうすでに漁り尽くされ、何も残っていない、文字通り枯れています。
唯一、壁に残された古代王国の詩…

それは下位古代語でかかれたもので、それを解読するのが特別授業だということ。
僕も詩を見たいと思ったのですが、今回は仕事ゆえ、残念ながら諦めました。

僕達は、その間周囲で護衛をしていました。
夜は交代で見張りです。

で、そこまでは何事も無く…だったのですが。
キラーオクトパスという普通より大きい蛸が襲ってきました。
僕は気付かず、たまたま目を覚ました見習い魔術師が声を上げていなければ危なかったです。
とほほ、面目無い…

声に慌てて反応して、咄嗟に弓を構えつつアレンさんを蹴り起こし、大声でレイチェルさんを起こしました。
こっちの態勢が整うと同時に、キラーオクトパスは長い足を伸ばして僕達に掴みかかろうとしました。
しかし、アレンさんの攻撃で幾つか足を切られた蛸は、海に向かって逃げていきました。

結局これだけしか大した事も無く、次の日の夕方には無事にオランへ帰る事が出来ました。
報酬は一人百枚でしたが、蛸の襲撃もあったということで特別に百五十枚にしていただきました。
あれで、報酬追加していただけるとは…ちょっと嬉しいですね。

さ、次も頑張るぞ!
 
新王国暦515年7月5日
ホッパー・ビー [ 2003/07/07 15:19:58 ]
 とても複雑な依頼が僕の目の前に張り出されています。

『オランより東三日歩いた所にあるビーラス村。
 近くにゴブリンらしき妖魔七匹ほど住み着いた。
 早めの退治求む。報酬、金貨三枚。』

苦笑。
依頼内容のいい加減さ、報酬の安さもあるが…
苦笑の理由は僕の故郷だからだ。

最初、僕はこの依頼を見て無視を決め込んでいました。
あの村には残念ながら悪い思い出ばかりしかない。
それに、村の人どころか、家族にすら黙って出てきた僕です。
二度と帰らない故郷、そう決めました。

冷たいですが行く理由はありません。

そう思いました…が、不意に亡くなったお爺さんの顔が思い浮かびました。
次に家族の中で優しかったリノ姉さん、弓の技を教えてくれた父…
他にも色々と…少ない良い思い出が思い浮かびました。

その場所を失うかもしれないと。

心を決めました。

ですが、僕は冒険者としてのホッパーで行く。ビー家のホッパーではなく。
決して、誓いを破る訳ではなく、あくまで仕事を受けに。

一人でこの依頼を受けると、酒場で会ったアレンさんに告げました。

「帰ってこいよ」

そう言ってくれました。僕は笑って、頷きました。

そして、旅立ちました。頑張ってきます。
 
新王国暦515年7月23日
ホッパー・ビー [ 2003/07/24 2:31:20 ]
 今日はとても暑い一日だった。

先週の終わり頃、妖魔退治から帰還し、半分死にかけていた僕。
暫くの間ベッドの上で療養に専念し、右腕の傷以外は何とか癒えてきた。
そのおかげで、ようやく一人で歩き回る事が出来た。

暑い日の下、オランの町を歩きながら、自分の包帯に包まれた右腕を見て思う。
かなり無茶をしたな、と。

一人苦笑いしつつ、気ままに亭に足を向ける。

久しぶりに訪れた気ままに亭だったが、雰囲気は大きく変わった様子は無い。
ちょっと安心してカウンター席へ行くと、間延びするような話し声の草原妖精の方が座っていました。
軽い挨拶の後、隣に座ろうとした時に、もう一人の女性がカウンター席に訪れました。
ちょっと聞きなれない言葉使いが印象的な方で、名前はラクティエさんと聞きました。
何でも今の時期だけオランを訪れてウェイトレスをしているとの事。

右手が使えないので、慣れぬ左手、ぎこちない仕草で僕はワインを飲みつつ、お二人と話をしました。

そこで聞いたのはチャ・ザ神殿が主催する八の月に始まる夏祭りの話。
仮装行列で歌に合わせ、踊ったりしながら通りを練り歩くとか。
今年冒険者になったばかりの僕には初めて聞くお祭りです。
新たな知識という事で、楽しみになりました。

あと、草原妖精の方にはロテの実について、品薄だが扱っているお店を教えていただきました。

そうそう、楽しみと言えば。
お祭りが終わらないうちにラクティエさんに話を聞くことです。
ただ、高いメニューを頼むお客にしか話は聞かせられない、とのこと。
今は持ち合わせが無いので、しっかり稼いでおくことにします。

今日は遅いので、家事手伝いをする事で居候させていただく事になったアレンさんの家に帰るとします。
 
新王国暦515年8月14日
ホッパー・ビー [ 2003/08/14 21:39:09 ]
 ふわぁ・・・眠い。だが、洗濯があるので目覚める。
そこはアレンさんの家、空いている一部屋を間借りている。

昨日はアレンさんとエルスリードさんに会いました。
仕事の話しについて、僕は伝言を頼もうと「気ままに」亭に寄った所でした。
カウンターにはお二人がそこにいました。

とりあえず、アレンさんに軽く挨拶。
久しぶりに会ったエルスリードさんにも挨拶。

エルスリードさんに最近姿を見かけなかったと聞く。
最近は森へ修業に行っていたとのこと。

アレンさんと仕事の話しについてナマコ談義に花が咲く。
そして、アレンさんとエルスリードさんでキノコ好き嫌い談義が始まる。

・・・で、エルスリードさんは僕の持ってきた仕事の話しに加わりました。
どうやら、お店の人から僕が仕事を持ってきた事を聞いていたらしいです。

興味があるのと同時にいささか懐が寂しいとのこと。
仕事に一緒に同行するとの事です。
ちょうど同行してくれる方を探していたので丁度良かったと思いました。

ちなみに僕が受けた仕事は”青い三日月”と称するナマコを採ってくる事。

依頼人は魔術師ギルドに所属するリスクさん。
魔術師にして薬効を主に研究する方です。
ナマコが必要なのは最近密かに流行ってる病気の特効薬の材料の為。

オランから南西へ二日ばかり歩き、海岸沿いにある洞窟に向かいます。
その洞窟でナマコを採ってくることになってます。

さて・・・早く厄介な病気が無くなる様、頑張らないと。

そうそう。
エルスリードさんが一足先に帰られた後です。
アレンさんと話していると。
将来、冒険者として売れた時に二つ名があるといいな、って話しになりました。

「俺の二つ名、どんなのがいいか?」
そう聞かれたので、僕はちょっと考えてから答えました。

”超える者”

アレンさんは気にいってくれました。
良かったです、はい。

ちなみに僕が名乗りたい二つ名は。

”知を歩む者”

お爺さんが名乗っていた二つ名・・・

”知を旅する者”

・・・にちなんだものです。
とりあえずは、お爺さんに習って、歩む事から始め様と思い、考えました。

いずれ、堂々と名乗れる日が来れば・・・いいなと思います。
 
新王国暦515年9月8日
ホッパー・ビー [ 2003/09/09 3:53:07 ]
 ”気ままに亭”に訪れた。

久々、という訳ではない。
しかし、色々と有った為に其れぐらいに感じられる。
・・・原因は僕自身のせいだけど。



先週、暇で仕方なかったので部屋の整理をしていた時の事。

ざざざ!

布の包みが破れて羊皮紙を床に散らかしてしまった。
それは下位古代語の手紙の束、ざっと百枚。
僕が冒険者になって初めての仕事。

手紙の解読。

”灰色の塔の娘”

百年前の恋文。
依頼人が金にならないと判断し、僕に全部渡してくれたもの。
多くの謎を残したまま、放っておくのは惜しい。
僕なりに判断して今日までほったらかしにしてしまった。

悪い癖だ。
三ヶ月ぶりに封印を破り、僕は手紙の調査を始めた。

そんな或る日。
ミーナさんにお会いしました。
以前は・・・訳ありで狼の子といた時にお会いしましたっけ。

まぁ、それで、手紙のお話をしたわけで・・・
話の成り行きで、夕焼け通りというところに案内していただく約束です。

ですが。

待ち合わせの場所であるヴェーナー神殿に行く途中で道に迷いました。
そこで会ったロダさんとリディアスさん。
出会うたびに、道をお互いに聞こうと言う希望と絶望。

つまりは全員迷っているという、奇遇。
二度ある事は三度あるという過去の偉人の言葉を身を持って体験しました。

迷った挙句、何とか分かる道に戻れたわけです。
そこまではまだ良かったのですが・・・其の直後、リディアスさんに酒場へ。
すっかり待ち合わせの約束を忘れてしまって、すっぽかしたわけです。

つまり。
ものの見事に約束を破ってしまったわけです。

ミーナさん、怒っているだろうなぁ・・・。
とにかく、謝らないと。

もう一つ。

一ヶ月前に受けた仕事のこと。
青い三日月というナマコ・・・それを取りに行く仕事をしました。
依頼人の話ではある流行り病の特効薬の材料だとのこと。

相棒である”剣”のアレンさん。
同じく”剣”のコアンさん。
久々に再会した”霊””のエルスリードさん。
そしてアレンさんのお父さんのヴェルテさん・・・もちろん”剣”。

皆さんと一緒に夏の海へ向かったわけです。
幸運にも、依頼人の情報通り、海沿いの洞窟にはナマコがたくさん。

「青い三日月はオラン周辺では比較的珍しい種類のナマコ」

話ではそう聞いていましたが、心配無用ですんで良かったです。

一日目はアレンさんと組んで、洞窟の入口周辺にてナマコを採っていました。
コアンさんはエルスリードさんと組んでいました。
ヴェルテさんはキャンプを張った場所で待機していただきました。
夕方前に切り上げてキャンプで楽しく過ごしました。

問題は二日目。

昨日の場所ではナマコが採れないと判断し、ちょっと奥へと行くことに。
洞窟は途中で二又に別れていましたので、松明片手に相談。

アレンさんとエルスリードさんは左奥へ。
コアンさんと僕は右奥へ。

ナマコはそこそこに棲息していましたので、昨日と同じように収穫。
ただ、足元が暗く岩場で入組み、海水で滑りやすい。
其の中、コアンさんが警戒の為に、僕の前を進んでいきました。
コアンさんは流石に身軽なだけあり、僕はおっつくだけで精一杯でした。

ところが・・・

足元ばかりに気をとられていた様です。
吊り下がった岩に気付かず、コアンさんは頭をぶつけてしまいました。
そのまま態勢を崩し、岩場の水溜りに。

慌てて僕は近寄り、松明を岩に置くとコアンさんに手を貸しました。
だ・・・大丈夫ですか、コアンさん?

ちょっと痛そうにはしてましたが、いつも通りの明るさで大丈夫な様子。

僕もつられて笑みつつ、手を引っ張ります。
いや、流石、僕よりちょっと大きい手ながら掴む力はしっかりしています。
”剣”だけに、鍛練は欠かしていないようです。
やはり、こういう点は、同じ男として見習わないと。

どこか怪我していないか確かめるコアンさん。

服がびしょぬれ、大丈夫でしょうか・・・って、あれ?
一瞬、僕は自分の目を疑いました。

はて・・・膨らみ?

微かに男としては有り得るかもしれないけど不自然と言えば良いのか。
つまりは・・・”胸の膨らみ”というもので。

・・・あれ?

しばし、思考停止。
僕は、ナマコ片手に呆然とコアンさんを見るだけしか出来ませんでした。
男だと思っていたコアンさんが・・・!?

女性。

そういや・・・前にキャナルさんがコアンさんの事を女性だとか・・・
冗談と思っていましたが・・・

本当だった。

もちろん、コアンさんも見られてしまった・・・
いや、知られてしまった事に言葉が出ない様子でした。



「み・・・見た?」

長い時間と思われる程の沈黙を破ったのはコアンさん。
其の言葉でやっと僕は我に返りました。

・・・・・・・・・はい(こくり)

馬鹿正直な自分が悲しい。
平手打ちを覚悟しましたが・・・コアンさんは其れどころではない様子。
同時にはっと気付いて、僕は後ろを向きました。
困惑しているのか呆然としているのか混乱していました。
もちろん、其の後はほとんどナマコ採りにならず。

幾ばくかのナマコ抱えて、アレンさんエルスリードさんと無言で合流。
アレンさんは何かあったのかと僕に聞きました。

・・・滑って転んだ、としか言えませんでした。

其の日は物凄く気まずい夜でした。

夕食は、ヴェルテさんが暇潰しに釣った磯の魚。
それと、キャンプに近付いた巨大蟹・・・一刀両断状態で焼きました。

コアンさんはいつも通りに笑ってはいましたが、不自然。
そして、気分が余り良くないと先にテントに寝てしまいました。

僕は・・・表面は取り繕っても、気まずすぎて・・・
其の日は、アレンさんに無理を言って野宿しました。

無事に帰ってからというもの・・・

マイリーの神殿で鍛練しているコアンさんと会うとお互いに気まずく。
”気ままに”亭の酒場で姿を見かけても声をかけづらく。



・・・まぁ、今現在が僕の置かれている現状。
はぁ、どうすればいいのでしょうか。

賢者の知識には流石にあるわけなく、今日もまた頭を抱える・・・。
ワインを飲んで寝る事にした。
 
新王国暦515年9月23日
ホッパー・ビー [ 2003/09/23 3:20:03 ]
 ここ暫くはとても忙しかった。

そして。

今生きて生きた僕の人生に於いて充実した期間となった事。

其れを、ここに記そう。
将来への”僕”がいつでも思い出せる様に。

ちょっと前の出来事が僕を悩ませていた。
コアンさんが男ではなく女であった事。
其れを目の前で僕は知ってしまった。

其れ以後。
何故か気まずくなった。

酒場では姿を見かけても声をかけられず。
鍛練場では気付かれそうになるとコソコソしてしまう。
街中で出くわしても挨拶すら交わせない。

まぁ、何と言うか。
僕自身理由は分からなかった。
しかし、避けるようになっていた。

だが。

二週間前ほど。
戦神の神殿の鍛練場。

アレンさんのお父さん、ヴェルテさんとコアンさんがいた。
僕は声をかける勇気が無かった。
僕は恥ずかしい事に盗み聞きした。

そして聞いた。
ヴェルテさんにコアンさんが。

自ら女であることを話していた。
ヴェルテさんは驚きもせず、話を聞いていた。
そして、強さについて語っていたと思う。

慣れぬ盗み聞き。
周囲の訓練から出る音で聞き取れない。
止めにリディアスさんの出現。

・・・盗み聞きどころではなくなった。

尤も、最初からすでにヴェルテさんに気付かれていた。
すでに盗み聞きとは言えなかった。

コアンさんは気付いていなかった様子でしたが・・・

ちなみに。

ヴェルテさんから盗み聞きの罰を言い渡されました。
其れは一週間の家事を任されたこと。
拍子抜け・・・いえ、これも辛いのです。

毎日、凄まじい量の洗濯、料理、掃きと拭きの掃除・・・

何にせよ。
自らの行為が恥ずべきものであると自覚していた。
だから、もっと厳しい罰があると思ってました。

まぁ・・・其の後です。
話を聞かれていた事に驚いていたコアンさん。
ちょっと、怒ったかもです。
でも、晴れた笑顔をしてました。

其れを見て、僕は気付きました。

自分は何を悩んでいたのか。
何で悩む必要があったのか。
僕が悩んでどうしろと。

ようやく、何か具体的には言えませんが・・・吹っ切れました。

其の後、
リディアスさんに小剣の訓練の相手に。
基本をみっちり最初から仕込まれました。

続いてコアンさんが鍛練の相手に。
容赦無い、いえ、迷いの無い動きでした。

最後はヴェルテさん・・・敢えて省略。

体中の少ない筋肉を使うに使いました。
実に、体と心が清み切った空の如くでした。

次の日。
筋肉痛で動くのがやっとだったのは言うまでもありません。

家事をしつつ。
小声で「痛い」を連発したのも言うまでもありません。

最後に思い出した事一つ。

コアンさんが胸の膨らみを隠す為に捲いていたサラシ布。
其れを目の前で外して、そのまま手渡されました。

「服の接ぎ当てにでもして下さい」

手渡されて、思わず真っ赤になった。
だって、生まれて初めてです。
こんな事、今までありませんでしたし。

それにしても・・・

『服がほつれ始めてきちゃって・・・』

前に僕が言った呟き・・・覚えていたのですね。
だからといって・・・使いにくいでしょう、これでは。

思わず苦笑い。

しかし、折角でしたので、ちょっとだけ使いました。
一番の気に入りの普段着のほつれに。

そうそう。
一つあった。

ミーナさんにまだ謝っていない事。
どうやって謝れば良いか分からなかった。

そんな時に、酒場で久しぶりに会ったルネビスさんに、謝り方を聞いた。

「普通に謝っちまえ」

確かそんな事を言っていました。
なるほど、至極当然です。

駄目ですね、僕は。
知識ばかり追って、普通の事に疎い。

まだまだです。
ひよッこ冒険者です。



今、こうして思い出す。
オランに訪れてようやく四ヶ月。

これまでに体験したこと、出会った人のこと。
そこから学んだ多くのこと、そして気付いたこと。
更に考えたこと、思ったこと。

これからも、また色々とあるでしょうね。

賢者として、ただ知識を歩むだけで無く。
生きている知識をもう少し勉強しよう。

でないと、お爺さんに怒られてしまうかもしれないから。
 
新王国暦515年10月20日
ホッパー・ビー [ 2003/10/20 17:52:02 ]
 最近、賢者の学院にて入り浸り気味。

だけど、本は読んでも内容は頭に半分も入らず。
知識について勉強のつもりが居眠りして司書さんに起こされる始末。
昨日なんて、帰らずに近くの安宿に泊まってしまった。



・・・駄目だなぁ。

最近の僕は何か気が抜けている。
駄目だ。

思い出せ、最近の事・・・



先日の事。
ミーナさんに久しぶりに会った。
約束をすっぽかして、早一ヶ月ぐらい。

気まずかったです。
ですが、謝りました。
それで、許してくれました。

但し、今度こそ、一緒に行く事を約束して。



そうだ、ボーっとしていられない。

知識も大切だけど、小剣の訓練もある。
それに、野山で狩人(野伏ではなく)の勘を鍛えなおさないと。
じゃないと、本当に役立たずに逆戻り。

脇の本、腰の銀の小剣、背中の長弓。
こんな僕では怒ってる気がする。

もう一度、初心に返らないと。

前にした決意を鈍らせないよう。
これからちゃんと生きていけるよう。
 
新王国歴515年11月4日
ホッパー・ビー [ 2003/11/05 1:30:10 ]
 ・・・今日はとても疲れた。
ある依頼で、裏庭に出来た穴の中を調査するとの内容。

で。
穴から覗き込んだ時に・・・

”ぼこっ”

「え?」

穴の周囲が崩れて落ちました。

それ以外に大したことは・・・無く。
そう思いたい(汗)

報酬も頂きましたし。
余計な報酬も・・・この黒い帽子。

”余計だと?”

・・・幻聴だ。たぶん。



さて。
今日もいつものとおり、気ままに亭に。
気を取り直して、やや痛む腕を擦りながらワインを飲む。
そこにフィーナ・ホークアイさんという方が来ました。
弩を持っていました。
傭兵上がりの冒険者とのことで、何でもオランは初めてだとか。
話しているうちに、魔物退治の話を聞きました。
海の半馬半魚の魔物、ヒッポカンポスを退治したとの事。
四方八方から網で捕らえて、なお暴れる。
そこを矢で脳天を射抜いたが、最後の尾の一撃で小船が沈んだ。
そして溺れかけたと言ってました。

凄いな・・・

僕も魔物退治とはいかなくても、そんな体験をしてみたいなと思いました。
その為に、日々の努力は怠らぬ様にしたいと思います。

そんな一日でした。
 
新王国暦515年11月11日
ホッパー・ビー [ 2003/11/13 3:33:12 ]
 乾物屋の御婆さんの店番を終えて僕は気ままに亭に向かう。
一日の疲れを癒すワインを味わう為と、仕事探しを兼ねて。
そこで会ったのは半妖精のラスさんともう一人のおじさん。

「おう。飲め」

どん、と。
いきなり目の前に置かれたなみなみと注がれたエールのジョッキ。
何でも、冒険者に復帰した祝いだとの事だそうです。
ラスさん曰く、「お兄ちゃん」の・・・つまりラスさんより一つ年上だとのこと。
僕は勧められるまま飲みました。

おじさんの名前はリドリーさんと言うそうです。

ラスさんとリドリーさんは遺跡に潜ってきて、帰還してきたとのこと。
聞くと半分巨人半分魔獣の合成された怪物と戦い、魔法の武器を持って帰ってきたとの事。

魔法の品物!巨人!

「なんでそんな興奮してんの?」

ラスさんに聞かれました。
賢者として修業中の身であり。
巨人語を習得中。
その僕に聞いて興奮するなというのが無理な話しです。

そこから色々とお話を聞いているところへ、もう一人訪れました。
フランセスカさん、学者で戦士の女性だとのこと。
知的、それで剣も扱う。文武両道とはこの事でしょうね。
うーん、凄い。

カウンターはリドリーさんの復帰祝いの席に早変わりです。

フランセスカさんはリドリーさんに高価なワインを復帰祝いにと持ってきました。
リドリーさんは喜び、皆で飲もうということで、僕も頂く事に。
ワイン好きの僕には思いもかけぬ事で、美味しく飲まさせて頂きました。

しかも。

噂に美味と名高いホロフォロ鳥を頂ける事に!
お爺さんが人生で二度しか食せなかった・・・ああ、感激!

そのうえ、冒険者の大先輩に話しを聞けて・・・

僕も何時かは、こんな風に、冒険体験を話せるように。
其の為に、努力を怠らぬ様に、しっかり頑張ろう。
 
新王国暦515年11月13日
ホッパー・ビー [ 2003/11/14 18:20:00 ]
 久しぶりにオラン郊外に広がる草原に散歩へ。
最近は調べ物等で屋内に篭りがちだったので良い気分転換。
天気も良くのんびりと歩く。
難を言うならば、北風が寒くなってきたところでしょうか。

「やぁ、寒風の中わざわざ散歩かい?」

のんびりした言葉にのんびりした雰囲気・・・アスリーフさんです。
剣の訓練の後で一休み中だったようです。

「ちょっと空でも見てようかと思ってねぇ」

そう言われて、僕は空を見上げる。
青く高く、澄み切った青空。
そこに浮かぶ雲は風に流され、常に形を変える。

仕事の話をする。
僕は調べ物をしていると言う。
すると、アスリーフさんが。

「頼りにしてるんだよ、あんた達みたいな存在は」

と。
僕は言いました。

「では僕は、アスリーフさんみたいな人に護衛を頼りにさせて頂きます」

と、笑いつつ言いました。

ふと、巨人のような雲を見つける。
ところが、あっという間にのけぞった形になって、崩れていく。

「ああやって風に吹かれる雲を見ていると、急に旅に出たくなる事があるんだよなぁ・・・」

アスリーフさんが言いました。

「オランを離れるのですか?」

僕はそう聞く。

「まだ今はそこまでは考えてはないよ」

空を見上げて言った。

「でも、そういう気分になることがあるんだ、空や海、陸の広さを感じたときにねぇ」

そして。

「あんたも、実際に旅に出てみればいいじゃない」

旅。
僕はオランから三日以上の場所へは行ったことが無い。
それに・・・

「僕は・・・まだ、遠くへ行く自信も無いですし知り合った方々と別れる勇気もありませんから」

オランは良い所だから。
出会った人々も含めて。

其の後、特別に僕はアスリーフさんに小剣の訓練に付き合っていただきました。

其の日の風は北から南へ。
訪れる冬への旅支度を大急ぎでしているかのようだった。
冬は近い。

都に来て、冒険者になって。
僕にとって初めての冬が訪れる。

今年の冬は今までとどう違うか。
楽しみです。
 
新王国暦516年1月18日
ホッパー・ビー [ 2004/01/16 22:55:22 ]
  新たなる年を迎えて。

 今、僕はアムルの実採取の為に、戦士のコアンさん、魔術師のフレアさん、エルフのチックさんとオランから半日離れた森にいます。
 コアンさんはいつもの様に元気良く、初めての依頼を受けたフレアさんですが緊張した様子も無く、チックさんは旅慣れているだけあってのんびりとしています。

 昨年、十二の月に受けた河の調査で、思わぬ敵との遭遇、苦戦の苦戦に負傷した僕。辛うじて、勝利し、オランへ帰還し、即ロッシュ療養所送りに。
 それより暫く一ヶ月・・・その半月は療養の為に安静、半月は療養費を浮かす為、そして薬学への興味から、薬品の管理手伝い。
 そこで知り合ったのは薬剤師のヒリンさん。そのヒリンさんから今回、アムルの実採取の依頼を受けた訳です。アムルの実は、すり潰して湯に溶かして飲むと負傷からくる疲労や後遺症の痛みを和らげてくれるものとのこと。
 但し、物凄く苦いらしいです。指先の量でも。

 久々の野山に僕は心弾ませています。
 寒い風が吹く冬空の下ですが、晴れ渡る空に僕の心も同じく晴れ渡っています。
 寒さに左の腕の傷跡が少し痛みますが、少なくとも大丈夫。どうか何事も無く、無事にアムルの実を採取できれば良いなぁと思います。

 ああ、そうだ・・・気を付けないと、似たようなアルムの実を採取してしまいます。しっかり、見極めないと。
 何と言っても、”アルムとアムル、名似て、花似て、姿似て”・・・紛らわしいの代名詞になるぐらいですからね。

 さぁ、今年初めての依頼、頑張るぞ。
 
新王国歴516年1月21日
ホッパー・ビー [ 2004/01/22 2:46:28 ]
  アムルの実採取の依頼も終えて、少しばかりゆっくりしていた今日この頃。
 薬には使えない小粒のアムルの実を使ったワイン漬けが程よく漬かったので、壷を袋に詰め込む。

「ふわぁー・・・っと」

 そして、朝早く外に出る。
 以前、河の調査で一緒に行動したアルファーンズさんを尋ね様と思ったからだ。
 僕以上に戦闘で怪我をして、暫くは休養をとっていたのだが、最近調子が戻ったと聞いた。
 そこで、快気祝にと、アムルの実のワイン漬けを持っていくことにした。
 小粒ですり潰していないので、苦味は程良く、ワインの甘味を引き立ててくれる。
 これを食べれば、薬のように効能は良くは無いが、それでも体には良いはずだろうと。

 アルファーンズさんが常宿にしている”流星の集い”亭を目指す。
 ・・・と、そこで通りかかった若鷹広場で、毎月一度の古物市の”鷹の市”がやっていました。
 そこで、ついでに何か良いものは無いかと探していたところ・・・

「なぁ、これ、買わん?銀貨十枚で良いよ、ねぇ?」

 紋様が入った金属製の壷で、中身が無いのか意外と軽い。
 聞くと、古代王国期末期の品物であるとの事。
 少々怪しいが、値段が安いのですぐに買う。

「よ、ホッパー」

「あら、こんにちは、ホッパーさん」

 ”流星の集い”亭に入ると、アルファーンズさん、そしてディーナさんがいらっしゃいました。
 久しぶりです。

 早速、持ってきた快気祝のお土産として、アムルの実のワイン漬けをアルファーンズさんに。
 そして、先ほどの鉄の壷を出す。

「へぇ、壺ですか」

 ディーナさん、早速興味を示してくださいました。
 流石です。

 ディーナさんの見立てによると、古代王国の時代の品には見えないとのこと。
 頑丈な蓋で、全く開かないことを告げると、早速何か発見した様です。

「こんなところに、引っかかる部分が・・・・・・外したら・・・・・・外してみて良いですか?」

 アルファーンズさんへのお土産ですので、一応聞いてみる。
 ディーナさんが開けて良いかと迫られ、僕も興味があるので同じく迫ってみる。

「・・・ん、まぁ、いいんじゃない?」

 苦笑いしつつ、良いと言ってくださいました。

「別に特別目を引くほど秀逸な細工がしてあるわけでもないですし、古代語らしきものも見えませんし・・・・・・多分、そんなに危ないものではないですよね」

 最後の方は、何だか自問するような言い方でしたが、僕も其れに同意。
 そもそも、魔法の品物なら、銀貨十枚で買えるわけが無いと思いましたし、僕の知識による鑑定でも危険性は無いと判断。

 ディーナさんが恐る恐る引っ掛かりを外すすと、壺がガチャ、と派手な音と共に縦に真っ二つに分解されました。
 これには僕もアルファーンズさんも一瞬唖然としました。

 が。

 壷の内側だった部分に事細かに字が整然と刻まれていました。
 ディーナさん曰く、共通語でも東方語でも、上位、下位古代語でも無い、エルフ語でもあらずとの事。
 アルファーンズさんも同じく分からない文字と言いました。

 当然、僕にも分かりません。

 ただ、文字の特徴・・・金釘みたいに彫られている所を見て、ドワーフ族の好む文字ではないかと考えました。
 大方、これを作ったドワーフの職人が、意地悪な仕掛けで作った壷を、開けた人に対して誉めているのか、笑っているのか・・・そんな内容が書かれているのでは、とディーナさんが言いました。
 まぁ、細かな文字が並んでいるのを見て、其れだけにはとどまらない、何かを記していると僕は予測しました。
 そこでディーナさんが、学院にドワーフ語を解する人物がいると言うのです。
 渡りに船とはこの事。

 そうそう、もう一つ。
 以前、僕の初めての依頼で受け取った、未だに解明されない謎の手紙がありました。
 ”灰色の塔の娘”(EP「恋文の中で」を参照)の百通の手紙。
 そこには百年は昔の、哀しい恋が書かれていた。
 そして同時に、多くの謎を含んでいました。
 ただ、特別な財宝があるとか、遺跡への道標とか、そういう謎ではないけれども。
 解明したい・・・と、僕の賢者としての欲求が未だ燃え尽きていない。
 ある程度・・・何度か頓挫はしたが、今まで、知り合った冒険者の方々の、様々な協力があって幾らかは解明した。

 だけど。
 どうしても分からない箇所で、僕は再び頓挫していた。

 ディーナさんが実家に帰っていた時、お父さんの蔵書に、伝承の形で其れに関する記述があったというのだ。
 しかも、其の内容はメモに写して来たとの事。

 是で叉一つ、そして大きな謎の解明に繋がると、僕は大喜びしました。
 そして、学院で、壷の文字を調査するのと同時に、その伝承の記述を見せてくれるとの話しになりました。

 ところが・・・お昼ご飯は、と聞かれました。
 それで、僕の腹の虫の音が鳴りました。

「一度始めちゃうと、ご飯のことも忘れてしまいそうになりますからね」

 其の通りです。
 せっかく、”流星の集い”亭に来た事ですし、ここの料理を食しつつ、アルファーンズさんとディーナさんと話しをしつつ、一時の昼食。
 わくわくする謎の解明への高揚感を抑えつつ、僕は楽しい昼食を過ごす事になりました。

 さぁ、待っていろ。
 謎よ、僕が調査して解明してやる!

 ・・・と、意気込む、そんな日でした。
 
新王国暦516年3月6日
ホッパー・ビー [ 2004/03/06 4:29:42 ]
  諸事情、と、大した理由は無いが、この一ヶ月ほどオランの都から離れていた。個人的な調査で、どうしてもパダに赴かなければならなかった為だ。向こうでの滞在中は、月の殆どを街の外での生活を強いられることになったが、その辺の子細は、まぁ、いいとしよう。調査の為とはいえ、個人的なものである以上、滞在中の生活費を稼ぐ事も必要であり、仕事・・・と言えるかどうかは分からないが、オランでは体験できないような仕事が経験できた。

 昨日の夕刻、北門が閉まる前に僕はオランに帰ってきた。オランの都特有の雑多な匂いに、僕は、ああ、オランに帰ってきたのだなと、大して離れていた訳でもないのに、感慨深くなってしまった。これは成長の表れなのだろうかと、自問自答した。まぁ、成長の一片であることには間違いないだろうと。其の日は、近くの宿で充分に休息をとる事にした。パダでの出来事を思い出しつつ。

 久方に、気ままに亭を訪れる。もしかしたら知り合いの人に逢えるだろうと、偶然を期待する。店はあいも変わらず、夜遅くまで人で賑わっており、席はカウンターの僅かな席を残し満席の様相であった。一瞬だが入ってくる客に集う多くの視線、隅から流れてくる慣れない煙草の匂い、鼻を擽り腹を鳴かせる料理の香り、周囲から漂う酒の香り、様々な言語が入り混じり、その喧騒が一つの不協和音ながらも、どこか懐かしい歌の音楽と錯覚する・・・其の様子に、初めてここへ訪れたときの事を重ね、そして帰ってきたことを改めて実感した。もはや、ここが冒険者としての僕の故郷であることを同時に感じて。

 どこに座るべきか迷っていると、見覚えのある長い黒髪を上に纏めている一人の女性、塔(魔術師ギルドを指す)に在籍する魔術師で、賢者でもあるクレアさんの姿が目に飛び込んできた。随分前に、色々とお話を聞かせてもらった記憶が蘇る。その肩には鳩も見えるが、それが意志感覚を共有し、其れは導師級の証ともされるの使い魔であることは、僕は知っている。・・・と、同時に、隣にもう一人の女性の姿が目に飛び込んでくる。銀髪で蒼瞳、ローブを着た女性だ。この人も同僚か知り合いなのか、深刻そうな会話を交わしている。魔術師であるかは分からないが、同じ賢者であろう事は予測できる。後でクレアさんからの紹介でクレフェさんという。精霊使いにして賢者であるとのこと。

 会話中に話しかけるのも悪いが、一応僕なりの礼儀として、二人に着席の許しを請うと、柔らかな笑顔で答えてくれた。いやはや、二人も年上の女性の隣に座れるとは・・・いや、いや、そうじゃない。席に座り、久方のオランのワイン、まぁ、中の下を舌の上で転がし遊ばせ、オラン産特有の心地よい酸味と爽やかな香りを楽しむ。

 と、クレアさんとクレフェさんが何やら僕のことを話しだす。わざわざ、僕のことを紹介してくださっている。其の上、僕が将来有望な賢者であるとか、知識への意欲や吸収は塔でも抜きん出ているとか、以前、大怪我した川上の調査について活躍したらしいだの、それなら色々と話をお伺いしたい、更には研究について協力してもらいたい等々・・・当の本人である僕はとても素直に嬉しく、そして恥ずかしいようなむず痒いような、まぁ、なんとも照れるような会話が二人で交わされている。僕は其の間間に、そんな事は無いです、まだまだ未熟ですと話すが、謙虚な態度が良いと、ますます嬉しい賛辞の言葉を頂く事になった。いやはや、人生において、冒険者において、相当な先輩であろう二人より、その様に言われて嬉しくない人物はいるだろうか?

 否、いない。賢者として、冒険者として、僕としては実に身分不相応ながらも、認めてくれる数々の言葉に素直に受け、謝礼を述べるだけではきっと幾らも足りないだろうが、まずは、ありがとう御座いますと述べる事にした。

 そして、話は二人の会話の内容に移る。どうやら僕に協力して貰いたいというのだ。まだまだ”ひよっこ”冒険者と言われても仕方ない、賢者の知識と狩人の技だけが取り得の僕に。話しの内容を聞くに、資料収集を手伝って欲しい、もちろん、それを得る課程にも、素晴らしい経験という名の知識が貴方を待っている・・・とのことだった。賢者として、これほど二人の年上の魅力的な女性、いや、それもそうだが・・・同じぐらいに魅力的な話があるだろうか?其の上、謝礼として金貨六枚分、三百ガメルが頂けるというのだ。街の中での仕事なので、荒事が無いのは、慣れない地で働き、遠出から帰ってきて、出費の為に困っていて、だけど疲れている僕にとっては申し分ない。二人の、妖艶、いや魅力的な笑顔・・・だけでなく、賢者である二人に協力できるなら、その間に有益な知識などの情報交換も出来る。それは金銀貨を幾ら積もうが、そう容易く得られる機会ではない。

 耳元に口を寄せて囁くように、”受けてくださる?”と、クレアさんから。肩に手を置きながら顔を覗き込むように、”ねえ、どうかしら。やって、みない?”と、クレフェさんから。お二人に両挟みにされて、断る理由はどこにあるのか。無論、お引き受けしました。

 其の後、機密にする事もあって、個室にてその資料についてや、其の過程でお逢いする貴族の女性の話をしました。其の合間合間にも、僕の経験してきた冒険や仕事の話も交えて。・・・いやぁ、幸せな日だなぁ・・・。

 そういえば・・・詳しく聞いたところ、貴族と方と言うのは、サセックス家のメアリ“お嬢様”って聞いたけれども、どんな人なんだろう?多彩な知識や、其れに伴う経験は豊富であるとの事らしいですが・・・聞くと、年上だとのこと。それにしても、年上の女性かぁ・・・指定日時と約束の場所と確認し、僕はまた新たな知識との出逢いに感謝しつつ、ワインを飲み干した。

 さぁ、忙しくなるぞ、と。
 
新王国暦516年5月20日 ”一年”
ホッパー・ビー [ 2004/05/22 11:39:58 ]
  僕は十六歳になり、同時に冒険者になって一年を迎えた。だからどうだと言う訳ではないけれども、不思議な気分で今日を迎えた。一年前、僕は朝霧の中で、一人故郷を旅立った。それから一年の間に、狭い村では考えられないほどの、多くの出来事に遭遇するなど思いもしなかっただろう。それに、なんと多くの人と出会い別れを繰り返し、生死を共にする事になったか。同時に生きるか殺されるかという、人生初めての経験をして、何とか生き残った。数年前の弱気で病弱な僕であったならば、命は無かっただろう。
 それらが、目を瞑るだけで、あまりにも多い出来事が、今すぐ思い出される。古い本、長弓、銀の小剣、革の胸当てがそれらの思い出を何よりも雄弁に語っている。色褪せ、傷付き、汚れ、傷み、ほつれ、補修、修理・・・様々な痕跡。一年で、たった一年で、こんなにも。

「ありがとう」

 物言わぬ、僕の持ち物に、小さく礼を述べる。

「そして、これからもよろしく」

 そう、これから。

 そういえば、この日の夜、僕は変な時間に起きた。昼間から堂々と寝こけて、真夜中も近いと言う頃に。
 ”魔法の釣針”なるものを、隠してある洞窟にとりに行くという依頼の為、自分の好奇心もあり事前の調査を、毎日していたが、其の時間が徐々に夜中に移ってしまった為、昼に寝て夜起きる生活が続くようになっていた。

 昼食も夕食もろくに摂っていなかった為、己へ抗議し空腹を喚き散らす腹をなだめようと階下の酒場へ降りる。トナットサンドと紅茶を眠い声で店員に注文する・・・そこに、見覚えのある半妖精の方がいた。

 ラスさんだ。

 僕が”気ままに”亭を宿にしている事、変な時間に起きてきた事を聞かれ、答える。ただし、変な時間に起きてきた理由が、”真面目に聞こえるがただ単に昼夜逆転になっただけ”とずばり言われてしまいました。
 まぁ、昼夜逆転するほど、ついでに巷の噂(港で女性同士の大喧嘩らしい)も知らないぐらいの調べ物とは何だと聞かれ、マスターからの依頼である事を告げました。すると、その周辺の地理について、前に珍しい蝶を採りに行ったことがあるので知っていると。その範囲で教えて頂きました。

 そこに、傭兵のルクシィさんがやって来ました。

「こんな夜更けだってのに、宵っ張りってのはいるモンだね、わたし以外にも」

 ルクシィさんに名乗り、ラスさんも名乗りました。
 ラスさんと話しを続けると、僕が冒険者になって一年と言う話題になりました。

「へ?あ、まだ1年?この店でよく見かけっからもっと長いかと思ってた。
そうか・・・・・・1年かぁ。どうよ?うんざりしてきたか?それとも面白くなってきたか?」

 そう聞かれました。僕は答えました。

「面白くなってくるに決まっていますよ。でなければ、こうして話しはしてませんよ」

 すると、ラスさんは。

「んじゃ、10年後のおまえは?面白くなってきたっていうこの仕事を続けてるか、それとも学者業に精を出しているか。
 参考までに、この1年の間で一番面白かった仕事は?」

 ちょっと考えて、僕は返答しました。

「十年後・・・賢者として名を馳せているか、それとも飲んだくれ賢者になっているか・・・でしょうかね?
一年間で?そうですねぇ・・・面白かったというなら、結果云々兎も角、河の上流へ調査に行った事でしょうか。大変だったほうが多いですけれども・・・」

 どっちにしろ、賢者か。そして、大変で死ぬ目を見て、なおそれを面白いとは、肝が据わっていると、ラスさんは笑いました。僕の行く先は賢者以外に無いと、思っているから。たとえ、他の可能性があっても、僕は愚かでも賢者の道しか選ばないだろうと思う。それが、死ぬほどの目を見ても。だって、生きて帰れたなら、損得勘定して釣が出る・・・これはお爺さんの言葉。ラスさんに言わせれば「食えねぇジジィだな」とのこと。
 そして、僕の一年から、ラスさんの昔の事を聞きました。遥か西方、故郷の周辺で冒険者稼業をはじめた頃、遺跡に潜る事は少なかったらしく、時には安い仕事を請けて妖魔相手に逃げることもあったと。そして、西にいる事に飽きて、東へ、エレミアへ、やがて近いからとオランへ・・・レックスが近いからという理由とのこと。初めてオランを訪れた時は・・・”でかい”だとのこと。ラスさんの昔の話しを聞いて、ちょっと意外な一面を見たと思う・・・たぶん。

 そう、”魔法の釣針”の依頼について、ルクシィさんが興味を示してくださいました。”剣”の役割なら任せろと、力こぶを作って見せてくれました。頼りになりそうな人で安心します。また、西方諸国を一度訪れてみると良い、新たな知識を手に入れられるよい機会になると、勧められました。僕がもう少し、冒険者として一人前になれたならば、是非とも行こうと思います。
 そういえば、ルクシィさんに言われた一言で、一年前を思い出した事がありました。

「自分との戦いにしろ相手の戦いにしろ、アタシみたいに身体使うのと、アンタみたいにアタマで勝負するのに分かれているだけで、誰しも”戦って”いるのさ、何かしらと」

 去年、アレンさんと始めてあった時に、僕が力がある事を羨ましいと言ったら、アレンさんは僕の賢さが羨ましいと。久しぶりに想いだし、初心を取り戻す切っ掛けになりました。

 其の後、ルクシィさんは宿に泊まり、目が覚めたら依頼の”剣”候補として名前を書いておくよ、と言ってました。今度の仕事、久々に、しかも初めて会った知らない人と同行する事に、嬉しく思いました。よし、頑張るぞ。



 僕は今日、こうしてオランにいる。大変だけれど、一番楽しい冒険者稼業を続けていこうと思った。
 ホッパー・ビー、十六歳の気持ち新たに誓う。
 
新王国暦516年8月14日
ホッパー・ビー [ 2004/08/16 3:01:53 ]
  チャ・ザ大祭も終わり、街にひとまずの落ちつきが見えた頃。

 僕は気ままに亭にて、エルスリードさんと、吟遊詩人であり同じ賢者であるアルさんに会った。エルスリードさんと、大祭での話に興じていた時、丁度アルさんが訪れたのだ。

 アルさんは、今”街で有名な吟遊詩人”であり、ちょっと前に起きた事件を歌にし、同時に事件の体験者でもある事で、同じ冒険者としては羨ましいほど。僕ももっと頑張って活躍して、賢者として有名になりたいなと思う。おっと、話が外れるところだった。それで、エルスリードさんも少しばかり耳に挟んでいた様で、アルさんとすぐに会話に興じていた。

 色々話す。エルスリードさんとは、僕が参加していた弓の大会を見たとか、エルスリードさんが部族伝統の剣舞を踊りの大会で途中まで披露したとか、皆で・・・修業の旅からオランに帰っていた僕の相棒、戦士アレンさんと、同じ戦士のコアンさん、マイリーの神官戦士のアイシャさんで入った”恐怖小屋”について、中で体験した色々な仕掛けで罠に使えそうなものや光粉の話(美男美女コンテストの件もだが恥ずかしくて割愛)、アルさんとは祭りでの事から、仕事の話でエレミアに出かけるとか、旅の日程に関してあれこれ教えてもらったり、其れ以外では人生の先輩としての格言を頂いた。

 とまぁ・・・

 あいも変わらず僕は、まだまだ世間に疎い部分がある。諭される事も多い。だからこそ、ますます頑張って頑張って、やがては賢者として名を馳せるのを目指して・・・色々なことをもっと体験しなきゃいけないな。

 そんな風に思った、そんな日でした。さぁ、明日も頑張るぞ、と。
 
新王国歴517年春
ホッパー・ビー [ 2005/04/14 23:37:05 ]
  去年の新王国歴516年11月後半より今年新王国歴517年1月後半において、山脈に集落を構成する巨人の里へ。様々な経験があったことは別記することにする。ただ、巨人にして終生唯一の我が弟なる存在がいた事だけ示す。それは喜びと哀しき別れにおいて、僅かにして永遠の思い出の一つ、我が人生の大きな杭なる名の、記憶の傷として生涯忘れる事無き事。賢者として我が目標と探索において、巨人の存在は欠かせぬものと認識をせし、一時の冬と締めくくる。

 今年4月上旬。

 厄介なる出来事に遭遇。草原妖精の持つ、謎ばかりの地図を巡る厄介事に巻き込まれる。地図を巡る件において、半妖精にして先輩冒険者、”霊”にして”鍵”なるラスさん、銀髪の年上のお姉さん、”本”にして”霊”なるクレフェさんの御助力があることを記す。同時に、”杖”にして”本”なるライカさんにも文献調査に御助力頂いている事、また、厄介事において男三人組より助けて頂いた、冒険者の女性、ラズベリーさんがいる事も付け加えておくべき。

 ちなみに、一発の拳と厄介事を持ち込んだ草原妖精はリノさんと言う事もついでに付け加える。

 現在、謎にの解決に向けて進行中・・・
 
新王国歴517年春後半
ホッパー・ビー [ 2005/04/29 4:35:12 ]
  ようやく、厄介事(#{0306})であった謎の地図の解明に至り。
 慌しい時間が嘘の様に静かな生活になった。
 少しの間、筆を止めていた、巨人に関する記録を再開させる事にする。

 去年の11月から今年の1月後半まで。
 その期間において巨人との遭遇と体験を中心に綴り始める。

 ふと、思い出す。

 そういえばもう、春も終盤。
 実家のほうはどうなんだろうか。
 オランの都から東へ三日。
 そこにある、ビーラス村。

 あまり良い思い出は少ない故郷。
 だが、それでも忘れる事の出来ない故郷。

 僕が賢者として、冒険者として。
 旅立ちを決意させてくれた、すでに亡き賢者のお爺さんがいた場所。
 旅立ちの朝は霧の中だった。

 一人旅立つ僕は誰にも見送られる事も無く。
 荷物を背負い、お爺さんの形見の本を脇に。
 白い朝霧の中、静かに僕は旅だった。

 それは2年前の新王国歴515年5月21日のことだ。
 僕の誕生日にして、成人、15才になった日。

 オランを目指し、僕は心細くも、旅だった。

 あれからもうすぐ2年。
 あの頃の僕と今の僕は、どこが違ってきているのだろうか?

 もうすぐ5月。
 あの時、世間をあまりに知らなさ過ぎて。
 オランまで同行してくれた冒険者に。

『冒険者の店に寄ったら、まず大声で水を注文するのが礼儀だ』

 それを信じて思いっきり大声で水を注文したあの時の僕。
 思い出して、当時と同じく恥ずかしきくなった、そんな日の午後だった。
 
新王国歴517年6月後半
ホッパー・ビー [ 2005/07/02 23:35:02 ]
  暑い日が続いた六月後半の頃。

汗を流した公衆浴場からの帰り、とある秘密の小さな河原、いつもの涼みの場所でキアさんと会った・・・と、言っても、なんと昼間からずっと昼寝していたと言うから驚きだ。くしゃみが止まらず、「いくら暑くなってきたからて河原で夜までお昼寝はさすがにちとひえひえかもなん」と言っていました。

そして、キアさんと気ままに亭へ。

そこにはラスさんがいました。地図の件でお世話になって以来、久しく会ってなかったのです。挨拶すると、「やっぱ蒸すよな。ってか、暑いよな」と頷いていました。
確かに最近の暑さは、今の季節にしては異常です。暑い事を中心に話題は進みました。暑い事が解決できる研究があれば、何か必要なら格安で引き受けるとか・・・僕もそんな研究があれば、本当に協力したいぐらいです。
「おまえも暑いの苦手?カレンあたりは、夏の暑さは気持ちいいじゃないか、なんて言うんだが」というので、僕は「うーん・・・もしや、冷静な人は暑さに強いのでしょうか?」と言いました。すると、ラスさんはにっこりしつつ、「まぁ俺も毎年夏はキケンだ。いろいろとな。ってか、その言い方だと、俺が冷静な人間じゃないみたいだからやめろ。な?」と。僕も解釈によれば冷静じゃないコトにもなるので、と、言い訳しました。

と、ここまでは話は良かったのですが・・・ラスさんの結婚疑惑から妙な事になりました。それというのも・・・何故かどうしてか、僕の好みの女性とか恋の話とか、とかく、キアさんとラスさんにからかわれ始めました。

「どうせなら、夏の暑さよりも、恋の炎とやらに焼かれてみたらどうだ?」とラスさんはにひひと笑いながら、「日焼けじゃなくって恋の炎でやけどするんね(笑)ひと夏のあばんちゅーる?」とキアさんはにまにま笑いながら。
「やけどのほーだったらラスにーちゃんに紹介してもらうといいんよ」とキアさんが言うと、「おまえ、こないだの『宝探し』でも地元のおばちゃんにモテてたしなぁ。……おまえの好みってどんなん? やっぱ年上?」とラスさんが言う。
それに僕が何だかんだ(赤くなりつつ)「ええ、基本的には年上も好みですが・・・その・・・何と言いますか、可愛くて、元気で、引っ張ってくれる人・・・でしょうか」と答える自分がいたり。しかも、それはキアさんに見抜かれていたりしていたりするのであった・・・

「ワカイモノがセイシュンをおーかするのを見物…じゃなくってぃ、見守っていたい感じなんよ」
「そうそう。若者が右往左往する様を……(こほん)じゃなくて、ひな鳥の巣立ちの時を見守りたい?みたいな?」
お二人ともそっちが目的ですか!?

結局、押されに押されて、やむを得ず撤退した僕ですが・・・恋、か。勉学や冒険以外の事に、思わず考えてしまう・・・のは、初めてかもしれない。そう考えながら、其の日は照れつつ寝たのは秘密です。
 
新王国歴517年冬前半
ホッパー・ビー [ 2005/11/25 1:40:10 ]
  久々の冒険で、二年使っている長弓を壊してしまった。
 獣退治と薬草の収集という、簡単な依頼を受けた。
 そんな簡単な事で、まさか。

 いや、僕自身の失敗のせいだ。

 気が緩んでいたのだろう。
 依頼が早く終わると思っていた。
 同行していた戦士の警告がなかったら、僕は大怪我を負っていただろう。

 咄嗟に身構えて、辛うじて獣の牙を防いだ。
 しかし、持っていた長弓が絶え切れず、あっさりと折れた。
 今まで、僕と過酷な冒険も乗り越えてきた、長弓。

 呆気ない。

 だからこそ、自分に腹が立った。
 無性に。

 ・・・

 オランに帰還して、報酬の半分は修理に注ぎ込むことにする。
 修理の間、替りの武器としてクロスボウを勧められた。
 マイリー神殿にある射撃訓練場にて訓練を開始。

 ・・・

 そこである方とある射撃武器と出会うが、それはまた別の話。
 
新王国暦518年4月
ホッパー・ビー [ 2006/05/09 0:23:01 ]
  先日、ある依頼の為、出掛けました。
 屋敷に謎の地下空間があるから調査してほしいというもの。
 戦士のシスリーさん、草原妖精のグリンさんと一緒に。

 結果から。

 地下の空間には古い小さな神殿があった。
 過去の地殻変動で埋まったものであると判明。
 オランの地殻変動で似たような事例は文献や噂で良く聞く。
 しかし、実物を見ると・・・地殻変動の凄さを思い知る。

 幸い、神殿の形はそれなりに保たれていた。
 周囲の土砂と土砂の狭間にすっぽりとうまく入り込んでいた。
 調査するにはそれなりに安全であり助かったと思う。

 ただ・・・

 なかに祀られていた神とやらが、どうも名も忘れられた神らしい。
 後からの調査で分かったが、どうも暗黒神側の可能性があった。
 紋様が神殿建築関係の文献に微かながら記録されていたのだ。
 また紋様以外にはそれらしい手がかりも無かった。
 故に機会あらばもういちど詳しい調査をしてみようと思う。

 なお。

 危険があったかというと・・・まぁ、あったことはあった。
 ただ、巨大ムカデの襲撃に思わず僕が悲鳴を上げたぐらいか。
 結局シスリーさんとグリンさんが追い払ってくれた。

 僕は囮にもなりませんでした。

 しかし、今回の報酬で、学院生活で必要な費用を捻出できた。
 そう、僕は今年の四月から晴れて賢者の学院に入学できた。
 準特待生扱いとして、入学金と授業料の大幅な免除を認められた。
 去年の受験の失敗から早一年。

 非会員ながら必死に勉強と研究した結果が実った。
 勿論自分ひとりの力ではなく。
 周囲に支えてくれた多くの方々のおかげである。

 これからは自由気ままな冒険者というわけには行かなくなる。
 だが、可能な限り、冒険者を続けつつ、賢者として名を馳せたい。

 もうすぐ五月。

 オランの都を訪れてもう三年。
 ようやくと言う訳でもないが、ひとつ大きな目標に近付いた。
 そう思う今日の五月。

 見ていて下さい、星界の瞬く星のお爺さん。
 もっともっと頑張って、大賢者を目指します。
 だから見守っていてください。

 お爺さんから受け継いだのは本だけではないと証明するため。
 
新王国暦518年5月20日
ホッパー・ビー [ 2006/05/21 2:26:01 ]
  今年も巡って来た。
 記念すべきこの日。
 大袈裟かもしれない。

 僕の誕生日っていうのもある。
 でも、それとは別に大きな意味を持つ日。
 そう、初めて冒険者になると決め手、村を出た日。

 冒険者としての自分の誕生日とも言える日。
 賢者として、そして一人の冒険者として。

 今こうして三年目を終え、僕は今日を迎えた。
 明日より四年目に突入という訳である。

 そんな日に限って、学院での講義や用事が重なった。
 おかげで今日中に、きままに亭に間に合うか心配あった。

 毎年この日は、きままに亭に寄ってワインを飲む。
 それが僕の記念日のささやかな決まり事。
 ここで初めて飲んだワインを今年も飲む。
 そうすることで、一年を思い、また一年を考える。

 日が変わる前には。

 疲れる体を叱咤し、走るに任せて、きままに亭に駆け込む。

 カレンさんがいた。
 以前に一度、お話をさせていただいた方。
 相変わらず落ち着いた雰囲気を漂わせる。

 今日が記念日というと質問された。
 そこで先程のような説明をした。

 すると実りはあったかと問われた。

 僕は答える。
 実り以上のものがそれ以上に沢山だと。
 そして学院に入学できたことも。

 その時にセシーリカさんがやってきた。

 学院に入ったことをすごいね言ってくれた。
 出会ってきた方々のおかげと僕が言えば。
 人から得た経験を活かせたのは僕なんだからと。

 ・・・

 二人からは初めてオランに来た頃を聞かせて貰った。

 カレンさんは言葉に戸惑ったという。
 西方から来た故に、周囲の東方語には苦労したという。
 故に共通語が使われる場所をよく訪れたという。

 場所というのはきままに亭は勿論のことで異論は無い。
 共通語を使う頻度の高さはメニューにも表れている。

 興味深いのは盗賊ギルドもそういう場所のひとつだというのだ。
 普段は共通語を使うことが多いと。

 何にせよ、言葉の壁は心の壁にもなりうる。
 共通語を生み出した人々の機転と苦労には頭が下がる。
 もし余裕さえあれば研究のひとつにもしたい。

 言葉は重い。
 そのとおりだ。

 ・・・

 セシーリカさんは一番最初にやったことは食事だったという。
 目が回るくらいお腹が減っていたからとか。
 その後に神殿、大地母神マーファの、に挨拶に行ったという。
 そこで仕事を頼まれたらしい。

 屋根に登って降りられなくなった子供を助けるという仕事。
 本人は仕事じゃないなと仰ったがそれ以上のことだと思う。

 人を助けること。
 仕事以上に立派な行為だと思う。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 セシーリカさんからちょっとしたアドバイスを頂いた。

 三年前に嘘を教えられて、きままに亭で赤っ恥をかいた僕。
 その原因となった冒険者と再会した時。
 何か知恵を借りにきたら大嘘をもったいぶって教えてあげればと。
 命にかかわらない程度でいいからと。

 あの時のお礼は、きっちりとしますね、と。

 そうなる事があれば是非にでも実践したいと思う。

 ・・・

 長く話した。
 気付けば記念の日は当に過ぎていた。
 三年目の記念の三杯のワインは空になった。
 酔っていた。

 来年もまたここで飲みに来よう。
 そしてまたささやかなる記念の日を迎えよう。
 長き冒険者、そして賢者、それらの僕の人生の区切りとして。

 大賢者。
 僕の目指す先である。
 
新王国暦518年5月28日
ホッパー・ビー [ 2006/06/01 23:23:04 ]
  学院の図書館で授業の宿題をする。
 古代語の基本的な翻訳である。
 今まで仕事などで翻訳はこなしてきた。
 だから特に困難ではない。

 しかし。

 流石は学院の授業で出る宿題。
 基本的な部分以外に引っかかりやすい部分が織り込まれている。
 おかげで一部は古代語の一般的な辞書を借りなければならなかった。
 やはり普通とは違う。

 辞書を本棚に返す際、自分の髪が結構伸びていることに気付く。
 これからのことも考えいっそばっさり切ろうか思案。
 同時にきままに亭で聞いたことも思い出す。
 クレフェさんが旅に出ること。
 ついでに受け持っていた得意先からの仕事をまわしてくれたこと。
 旅立つ前に一度は挨拶すべきだと思っていた。
 日頃、賢者の、冒険者の先輩としてお世話になっているから。
(時として綺麗で頼りになるお姉さんとしても)

 なのに・・・
 だが、自身のことすらしっかりできない自分では・・・。

 そんなところにクレフェさんが来た。

「ん? あら、夏を前にしたイメージチェンジ?」

 内心飛び上がるほど驚いた。
 まさか、考えていた人物が来るとは思いもよらず。

「おお、なんだ、、、たしかホッパーだったよな?」

 同時に来たのはチャーリーさん。
 僕が四月に入学した当初、学院内を案内してくれた先輩。
 講義で疲れた様子だった。

 ・・・

 クレフェさんはミラルゴに行くという。

「戻るとしたらこの町だと思うから、もしかしたらまた合えるかもしれないわ。そのときはまたよろしくお願いするわ。」

 僕は残念だと思った。
 だけど、良い旅になるように思う。
 また会ったら巨人に関する文献が読めるように待ってますと。
 そしたら。

「半年くらいで即帰ってきても、その言葉を曲げずに居られることを期待しているわ。……船でさっさと帰ってこようかしら」

 悪戯めかして笑って言うから僕は大慌て。
 そんな僕に。

「ふふふ、意地悪が過ぎたかしら。でも気概と軽口は違うんだってこと、賢者に連なるあなたなら、肝に銘じておきなさい。
 今は気概として、受け取っておくから。」

 うう、肝に銘じます・・・と思った次に出た言葉が。

「……で、ミルテさんはどうなの? 最近」

 いきなりその話題ですかと僕は真っ赤にならざるを得ないのでした。
 ミルテさんというのは、ある商会で働くお手伝いさん。
 長い亜麻色の髪で年齢は僕よりやや上。
 以前、商会からの仕事を請けた際に顔見知りになった。
 少しだけ賢者の勉強をしていて話が合い、それから時折会っている。
 きままに亭で以前バレて以来、クレフェさん筆頭に聞かれることに。
 ただクレフェさんは何気にアドバイスをしてくれるので助かる。
(例えば「そうそう、出立の挨拶でお訪ねしたら、何だか彼女風邪気味だったみたい。蜂蜜なんか喜ぶかもねぇ……独り言なんだけど。」と、今回もありがたいアドバイスを頂く。曰く、「女の子はちょっとした気配りが嬉しい」とのこと。うーん、メモメモ・・・)

 まぁ、話は戻し。
 お互いに忙しくて・・・と。

 そしてもっともこの日僕が忘れられない言葉が出た。
 ミルテさんでの話の続きからである。

「ああそうそう、それこそ”戻るまでに結果を出しなさい”な」

 訂正、一生の内に忘れられない一言になりました。
 意地悪ですが、なんだか嬉しいような。

 ガンバリマス・・・と真っ赤になりつつ答えれば。

「ああ困ったわ、頑張りますなんて聞かされた日には全速力で往復して帰らなければと思ってしまうわ〜(満面の笑み)。もし戻ったとき子供が生まれてたらご褒美あげなきゃ(←凄く嬉しそう)」

 どこまで話がそこまで光のごとく発展するんですかっ!?

 まぁ、結局からかわれつつではあったが、挨拶ができた。
 言おうかなと思っていた言葉を飲み込んで。
 今言うべき言葉じゃなかったしもういえない言葉だから。

 また会いましょう。
 再会することを願った。

 ・・・

「なんつーかさ、俺も結構長いことここにいるし。まあ、お偉さま方ほどではないにせよな。困ってるときはお互い様さ。」

 チャーリーさんは気さくでとてもいい人だ。
 結構お堅い人が多いかなと思っていたからだろうか。

 入学してから一ヶ月ほどで顔と名前が一致したのは少ない。
 以前から知っている方を除き、チャーリーさんぐらいだろう。

 僕の感想で言えばチャーリーさんは「お兄さん」といった感じだ。
 最近はチャーリーさんを先輩と呼ぶ。

「ま、俺は金と女の相談には乗れないぜ、後輩?むしろ俺の方が相談に乗って欲しいぐらいだが。」

 そんなことを言われて大丈夫ですよと答えたけれど。
 ミルテさんのことがバレる。
 また一人僕の秘密にしたいことを知ってしまった・・・

「なんだよ、既に女居んのかよ。、、にしても、可愛いヤツだな、お前は。」

 うう、笑われて可愛いとまで言われてしまった・・・
 で、クレフェさんの一言で。

「っておいおい、もうガキ作りの予定が立ってるのかよ!?」

 そんな訳ありませんからっ!!

 ・・・

 とまぁ、何だか思い出深い一日でした。