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都会で巡り合う人々と知識
ディーナ [ 2003/06/09 3:09:09 ]
  今日、いつもお邪魔しているきままに亭で、二人の方と一緒にお酒を飲んだ。
 一人は、草妖精の女の子。名前はサテちゃん。とっても可愛い子だったから思わず頭を撫で撫
でしちゃったり……。でも、さすが草妖精だけあって、見た目には可愛くってももう45歳だと
か。草妖精にとっての成人は40歳頃だと聞いたことがあるし、それを考えれば当然なんだけど
……うーーん、妖精さんって奥が深い。
 しかも、さすがにそれだけ生きているだけのことはあって、ク・ユレという古代樹でできた遺
跡の話なんかもしてもらえた。残念ながら、サテちゃんは遺跡には興味があんまりなくって覚え
てなかったようだけど、せめてク・ユレという名前を聞けたから、どうにか調べれることもでき
なくはない、かな。また本を読む楽しみが増えてしまった、うんうん(満足げ)。
 もう一人は、人間の男の人で、戦士さんだった。両手にそれぞれ剣を持って操るというすごい
ことをするそうで、今日も訓練に励んでいたら夜になってしまったとか。私も本を読んでいたら
いつのまにか日が暮れてしまうことはよくあるけど、戦士さんでも同じ心がわかってくれる人が
いるのはとっても嬉しい。
 しかも、その方は知識に関しても深い考察を持ってらしたのがステキだった。何でもメモをす
る私に「知識とは時代とともに移り変わる側面を持つものもある。それを認識せず、腐った知識
に惑わされては危険だ」と言ってくれた(脳内でかなり変換されている)。目から鱗が落ちる思
いとは、まさにこのこと。早速、この言葉もメモしておかないといけない(←天然)。
 えーっと……この言葉を教えてくれたのは……あ、お名前を聞くのを忘れちゃった……失礼な
ことしちゃったなぁ。でも、次にまた今度は私の父の話を聞かせてあげる約束もしたから、また
あのお店に行ってたらいつかは会えるよね。その日までに、私ももっと知識に関して深く考察を
掘り下げておかないといけない。それはそれでまた楽しみ。

 さて、そろそろ寝るとしよう。明日も、ステキな人や知識に出会えますように。
 
身を持って知る知識
ディーナ [ 2003/06/10 23:21:22 ]
  はっ、はっ、はっ、はぁ……はぁ……はぁ〜〜(がっくり)
 人には、向き不向きがあるなんていうこと……今日、今更身をもって思い知らされてしまった……。
 先日、酒場でご一緒したホッパーさんに、鍛錬の中から見出すこともある、体を動かすと頭にも刺激になって良い、と教わったので、早速、実践しようとマイリー神殿に来てみたものの……。

 修練場のほうにやってきてみて、その場の皆さんの白熱した鍛錬の様子を見て……早速尻込みしてしまう有様……。加えて、そこで偶然出会ったケイドさんに、ここでの鍛錬の厳しさを伺って、私はますます自分の覚悟の甘さを知ることになった。
「ちょっと体を動かすぐらいのつもりだったんですけど……」
「そうなんですか? それなら帰ったほうが……あー、でも、もう手後れのようですね」
 言いながら指し示すケイドさんに従いそちらを見ると、私をここに案内してくれた神官さんがこの場の監督と思しき(怖い顔の(汗))司祭さんに何事か話している。司祭さんは、こちらを見ると私の姿を一瞥してから、さっきとは別の若い神官さんに声をかけた。その人、私よりも年下みたいだけど……精悍な顔つきのいかにも真面目そうな神官さんで……厳しそう……(汗)。
 うーん……こうなったら……遅ればせながら覚悟を決めるしかない! これから冒険者をやっていくには、これぐらいのことで一々尻込みしてるわけにはいかないんだから!

 …………。
 ……と、勢いが良かったのも最初のうちだけ……。
「今日はこのぐらいにしておきましょう。無理して体を壊しても仕方ないですからね」
「はぁはぁ……ありが……とうござい……ました……」
 神官さんの言葉にようやく返事だけをする。顔を上げる余裕さえない。
 今日の訓練メニューは、まず柔軟で体を解し、それから基礎体力をつけるために少し走って……それだけで今の有様に。マイリー神殿にやってきたというのに、武器に触れることもないうちに今日の鍛錬は終わり。武器を使った鍛錬なんて、とてもとても考えられない……。
 全く、人には向き不向きなことがあるということを、身をもって……あっ、そうか!(ぽむっと心の中では手を打っている)
 私は今まで人に向き不向きがあるなんて言葉の上だけで知った振りをしてそれをホントに理解していたわけじゃないんだ。それを教えるためにわざわざホッパーさんは……ああ、ありがとうございます。でも、さすがにこれはちょっと……辛すぎるかも……しれません(汗)。

 思うように動かない足を引きずりながら帰途へ……。明日は、もうちょっと疲れない知識に出会えますように。
(次の日、さらに筋肉痛を身を持って知ることをまだ知らない)
 
古代王国に出会って得る知識
ディーナ [ 2003/06/17 16:11:28 ]
  最近、部屋に篭って調べものを続ける日々。
 いや、いつもと変わらないと言うこともできるけど(汗)、実は違う。調べているのは、今度冒険に向かうレックスのとある建築物に関する資料……そう、ついに私もレックスに行くときが来たのだ(←一人で部屋でにやにや)。

 思えば、田舎から街に出てきて2ヶ月ほど、まだまだ経験不足を感じないことはないけど、一緒に行ってくださる皆さん、とても頼りがいがあるから、私でもなんとかなるような気がしてくる。いや、きっと大丈夫。酒場でお会いしたチャ・ザの神官さん、オンさんにもお祈りしてもらったし、お守りだって譲ってもらえた。出発は月末か、来月だってことだけど、今から楽しみで楽しみで(←またにやにや)。
 もちろん、出発までに私にできることは精一杯しないといけない。この本を読むっていうのが、一先ずの私の仕事。他の皆さんは、剣の訓練とかで忙しいから、剣とは縁のない私がこういうお仕事をしないといけない。向かう塔周辺に出てきそうな魔物については、大体調べがついたし、後は、目的地の塔についてもう少し判ることはないかを調べて……塔の中の仕掛けとか護衛の魔物とかが判れば最高なんだけど……。
 それが判ったら、ルクスさん、また頭撫でてくれるかなぁ……(←思い出してちょっと照れ)。

 ルクスさんに撫でられたら、お父さん思い出しちゃったなぁ……。元気にしてるかな? まぁ、お母さんがいるから大丈夫だろうけど(くすくす)。
 お父さん、自慢話で何度も聞かせてくれたレックスに、ついに私も出かけるよ。今度、そっちに帰るときには、私がいっぱいお父さんに自慢話聞かせてあげるからね。

 おっとと……続き続き……。さぁって……お父さんにいっぱい自慢できるような知識に出会えますように。
 
人の役に立つ知識
ディーナ [ 2004/02/03 15:12:35 ]
  久しぶりに顔を見せた酒場でジャニスさんとお会いして、色々と話をする機会があった。
 その時、ジャニスさんが飲んでいたのがテントィースに卵を入れたもの。風邪を引いていると言っていたジャニスさんにお酒なんて、とも思ったのだけど、話を聞いてみると風邪を引いたときにその飲み物が体に良い、ということらしい。
 そういうことは全く知らなかったので、早速その場でメモをして次の日、学院の図書館へ。

 調べてみると、意外と簡単に見つかったその本は、「種々の病の治療法に関する魔法的効果の考察」というものだった。民間療法と呼ぶべきか、それとも地方ごとの習慣と呼ぶべきか、そういったような様々な薬草を使うでもなく、神の奇跡に頼るでもない病気の治療法に関して、それが魔術的な見地からして信憑性が如何ほどなのかというのをまとめた本だった。
 そういうジャンルには今まで興味がなかったので目に止まらなかった本だったけれど、読んでみると意外と面白い。もちろん、考察や検証などの詳しいところまで行くと、改めて勉強し直す必要があるのだろうけど、対象となっている治療法というのが、作者の人が頑張ってあちらこちらから探してきたらしく多岐にわたり、私の田舎でもあったようなものや、簡単なおまじないのようなもの、あるいは、怖い儀式のようなものから明らかに眉唾ものな治療法まで、それらを読んでいるだけでも飽きが来ることがなかった。

 そんな中で、特に目を引いたのが、病気とはちょっと話が違うのだが、船に酔わないようにするための方法、というものである。
 それは、西方の海岸沿いのとある漁業をしている部族に伝わるものだった。その部族では、船に酔う人は、土の精霊に対する依存が強すぎるため水の精霊力の強い海に出たら体内の精霊のバランスがおかしくなってしまうのだと考えられているそうだ。そこで、その部族では船に酔う人は、海岸沿いの砂浜に一昼夜、顔だけ出して埋め、土の精霊との繋がりを強めてから船に乗るそうだ。
 本では信憑性は低い、と書いてあったけども………確か、前にラスさんが、船が苦手なのは、森妖精は、緑と土の精霊とは長く離れられないからだと言っていたような……(メモをチェック、発見)……うん、確かにそう言ってた。ニュアンスはちょっと違うけど、この本に書いてあることと一致してるなぁ……精霊のことでラスさんが言ってるんだから、この本のほうが間違いなのかも。

 ……………そういえば、アルさんが今度の遺跡に行くときに船に乗るのに、船が苦手って言ってたなぁ。
 よし、早速この方法をアルさんに教えてあげて、船酔いを治してあげないと(ぐっ)。それにラスさんにも船酔いを治す方法を見つけたら教えてあげる約束をしたし、ラスさんのところにも行かないと。

 本を読んでいるだけでも楽しいのに、人のためになる知識を見つけれるっていうのは気持ちが良いなぁ。この調子で、どんどん人の役に立つ知識に出会えますように。
 
物を書く楽しさ
ディーナ [ 2005/09/28 0:01:08 ]
  春先から、本を書いている。
 いや、本というほどのものでもないかな。……論文、のほうがしっくりくるかも。
 とにかく、私は、文章を書いている。
 
 メモとも違うし、写本とも違うし、呪文書とも違う。自分でテーマを求め、定め、一つの結論を出すために文字を連ねていく。
 多分、若い頃から正式に学院に所属している賢者ならば、私の歳の頃には、もう何回も繰り返していることなんだろうけど、私にとっては、あいにく学院とは、ほとんど図書館で本を読むだけの存在になっている。
 田舎から出てきたときに、頑張って試験を受けても良かったけど、父以外に師事する気が起きず、結局、学院に所属することはないままである。
 そんなわけで、本を読むことは沢山あっても、それをメモ程度以上のレベルでまとめたり、まして論文のようにして書き上げるなんてことをするとは、しばらく前までは、全然 予想さえしていなかった。

 きっかけは、学院の導師様。学院近くの食堂で昼食をたまたま同席したときに話した私の調べ物の内容に興味を持たれ、せっかく、そこまで調べているなら……と、言うことになった。調べ物は、元々は遺跡に関するものだったはずだったのだが、途中から少し個人的興味に流れはじめ、気づいたらこんな話が出てくるほどのものになっていっていた。
 本当はわき道に逸れるのは、悪い癖なんだけど、今回ばかりは良かったかな。

 導師様は、仕上がりが良いものになれば、その論文を買っても良い、とまで仰ってくれて、それを聞いたとき、私は、かなり舞い上がってしまっていた。だが、今ではすっかり、そんなことは関係なく、論文作成に熱中してしまっている。
 大まかな論文の筋を考えて、そのために必要な本を読み漁り、要点をまとめて、考察して、筋を少し修正して……そんな作業を繰り返していくことで段々と論文が出来上がっていく。その過程そのもの、つまり、文章を書く作業自体も楽しいけど、こうして少しずつ出来上がっていく文章を自分で読み直すのが意外にもさらに楽しい。時に、考察に疑問が湧いて、泣く泣く数ページを書き直すようなことがあっても、それでも楽しい。
 
 この初めての論文の完成がいつのことになるのかは、正直、まだ分からないけど、もし、これができたなら、導師様以外にも色んな人に見せてあげたい。そう、たとえば、田舎の父母にも。

 うん、お父さんたちの顔を思い出したら、またやる気が出てきた。今日も頑張っていこう。
 ……あー、でも古代語だし、お母さんには、「何書いてるかわからない」って言われるかな(汗)。
 
思い出の味(イベント「辻斬りの正体」後日談)
ディーナ [ 2007/09/22 1:34:34 ]
  その日は、朝から体がだるかった。
 先日、初めての牢での一泊後、疲れた体のままに魔法を連打した上に雨にもうたれ、また、桶を引っくり返したような土砂降りの中で慣れない力仕事をしたりもして。
 季節はずれの風邪にも十分すぎる要件を満たしていた。
 今日は、久しぶりに学院に顔を出して、ラスさんのお見舞いに行って、色々迷惑をかけたエリザと今度こそ美味しいものを食べに……と思っていたのに、全部ダメになってしまった。

(大丈夫?)
(うー……今日はさすがにダメかも)
 私は、心配してくれるエリザを宿の女将さんに任せて、一人で今日は安静にしていることにした。ご主人にはまだ慣れてないが、女将さんなら今のエリザでも大丈夫だろう。
「この子の面倒ぐらい大したことじゃないけど……アンタこそ、平気かい?」
「今日、一日寝れば、治ると思います。エリザの食事代とかは、前払い分の宿代を一日引いて充ててください。じゃあ、お願いします」
 ちゃんと頭を下げるのも大変だったので、軽く会釈して、なんとか自室に戻った。

 一人で何をするでもなく横になっていると、ここ数日が目まぐるしく色々あったせいか、余計に時間の流れがゆっくりに感じれた。
 リーブさんに間違えて持っていかれたメモを作り直さなきゃ、とか、モーザの首輪の正体をできたら調べておきたいなぁ、とか、最初は、色々とやらなきゃいけない、ばっかりが浮かんできて落ち着かなかったが、いずれその思考も行き詰まると、今度は昔のことを思い出した。
 オランに出てきたばかりの頃なら、これぐらいのこと全然平気だったのになぁ、と割りと近い昔から、そういえば、風邪を引いたときに決まって母の作った薬草スープは苦かったなぁ、なんて古い話まで、取り留めなく浮かんだ。

 両親や田舎のことが浮かぶと……どうしてもアダルバートさんの悲劇に考えが向いた。
 近しいものが殺されるというのは一体どういうことなんだろう。何人もの人が死んでいくのを見つめるってどういうことなんだろう。
 私には、彼の心の内を思い浮かべることさえできない。
 ただ、どうしようもなく、悲しくて、苦しいことだったんだろうな、とありきたりなことを思うしかできない。

 でも、逆にだからこそ、ドリーを相手に彼が見せた癒しの魔法は、エリザのときよりも、もっともっと意味があったんだろうな、と思う。
 癒しの魔法が、祈りであるならば、あの時、彼は何の迷いも無く、自分の仇敵を癒すことを祈った。私では想像もつかないほどに憎い相手だというのに。
 アダルバートさんは、ドリーを見殺しにすることもできた。止めを刺すこともできた。仮にあの場でそうしても誰も彼を責めはしなかっただろう。だけど、そうしなかった。できるのにしなかった。
 私は、あのとき、とても嬉しかった。
 エリザのことでアダルバートさんを憎めなくなり、私は彼に死んで欲しくない、苦しんで欲しくないと思うと同時に、もう人殺しをしないで欲しいと思っていたからだ。

 でも、これも、単なる私の我が侭だ。
 アダルバートさんが自分自身の復讐でより傷ついているのが明らかだったから、と言うのもあるが、一番大きなところは、私が復讐することを良しと思わないから、それをして欲しくない、ただそれだけ。
 だから、「アダルバートさんには復讐の権利がある」っていう意見も本当は反対だったのだが……ただの我が侭なので、おおっぴらに皆の前で口にしたりはしないままでいた。

 今から思えば言ったほうが良かったかな、と思わなくもない。
 結果的には、私の望むとおりになったが、ならなかったかもしれない。それなら例え我が侭でも口にしておいたほうが良かったんじゃないだろうか?
 ……でも、下手な口出しをしたら、逆に意識して違う決断を取ったかもしれない。ならば、やっぱり言わなくて正解だったんだろうか……?
「……。なんか熱出てきたかも……」
 今更といえば、今更な考え事をしていたら、頭がぐらりと揺らぐような気がして、私は、無理やりに眠ってしまうことにした。

 どれぐらい経ったか判らないが、ノックの音で目を覚ました。
 一眠りして少し楽になっていたので、起き上がって応対すると、女将さんがエリザを足元に引き連れて、スープを持ってきてくれていた。
「宿代一日分がこの子の餌だけじゃあ、さすがに貰いすぎだからね。差し入れだよ」
 そういって、テーブルに置いた皿からは懐かしい匂いがした……正直、あまり良い匂いではない。
「これ……もしかして?」
「ディーナの母さんも作ってくれたろ? 特製薬草スープ。元々は私のオリジナルなんだよ」
 女将さんはニッコリ笑った……が、苦味が口一杯に思い出されて、私はそれに応えられなかった。

 ここの女将さんは、うちの母とは旧知だ。私が街に出てきたときも、それを頼りにして、ここに泊まるようにしたのだ。
 だから、このスープが出てきても不思議ではないのだけども、まさかここでこの味に出会うとは……。何年もお世話になりながら、初めてのことだった。
「薬草ってもね、お医者の使うようなもんじゃないから、別に高くつくわけじゃないよ。遠慮しないで食べな」
 別に、そういう遠慮をしてるわけじゃあ……。もちろん、口には出さないが。
 けど、意を決し、一口啜ってみると、昔に思ったほど苦くなかった。いや、苦いには苦いんだけど、別にそれがそんなに嫌じゃないと言うか……これも歳を取ったっていうことなのかな……?

 思いがけずすんなりと喉を通ったため、朝から何も食べてない空腹もあって、私は差し入れをあっさりと完食した。
「それだけ食べれりゃすぐに元気になれそうだね。じゃあ、お皿の片づけしたら、シーツの交換したげるから、それまでに着替えときな。汗かいたろうから、一緒に洗濯したげるよ」
「え……さすがにそこまでは……」
「遠慮しなくていいって。アンタに何かあったら、アンタの母さんから何て言われるかわかったもんじゃないからね」
 そして、女将さんは、スープの入っていた皿を持って部屋から出て行った。エリザは、部屋に残った。
(素直に言うこと聞いたら?)
(……うん)
 そして、私が着替えを済ませるころにまた女将さんが替えのシーツを持って現れ、私の服と元のシーツを抱えると、あっという間に出て行った。
「あんまり油断しないで、もう一回寝とくんだよ」
 口調は違うけど、言うことが本当の母みたいだなと思った。

 言われたとおり、素直にベッドに入ったが、さすがにすぐには寝付けず、また色々と考えてしまった。
 特にやっぱり、薬草スープのこと。苦い思い出だと思っていたが、新しい発見があって、病床なのに思わず笑みがこぼれた。
 ただ、やっぱり、アダルバートさんのことを思い出すと、素直に喜べない。
 彼は、親兄弟どころか親戚も、飼ってた犬さえも、もうこの世にいない。こういった経験をすることってないんだろうなぁ……。
 まぁ……もうレアル子爵の計らいで新しい人生を歩み始めている彼ならば、これからそういう”味”を作っていくこともできるだろう。変に同情しては、逆に失礼かもしれない、と思い直すことにした。
(私も寝るよ)
 エリザが私の隣で丸くなった。私は手を伸ばしてその背を撫でた。温かい……本当に、無事でいてくれてよかった。

 それにしても、私は、冒険者なんていう生き方をしているのに、本当に幸せ者だなぁとしみじみ思って、知らぬ間にまた眠っていた。
 
誓いと願い
ディーナ [ 2007/10/09 22:53:20 ]
  最初に事件に巻き込まれてから、次に学院に顔を出せたのは、結局一週間経った後のことだった。
 知り合いには、私が衛視に連れて行かれた、というところだけが、しっかりと広まっており、色々と心配されたが、幸いにも私が事件を起こすような人間に思われていなかったことから、そこまで言い訳に振り回されることもなかった。

 一息ついたところで、私は調べ物を始める。
 事件の最初で失ってしまったメモに関しても早々に調べ直したいことではあるが、やはり、モーザの首輪のことが気になって仕方ないので、そちらを先に調べ始めた。

 戦いの結果、バラバラになってしまい、今は手元に現物が無いため、崩れる一瞬前に見た見た記憶の中の姿と、変わり果てたモーザとを頼りに書物を紐解いていく。
 何冊か、思いつく限りの文献を当たっていると、夕暮れになるころに、とある記述を見つけた。

 それは、”服従の首輪”と名づけられていた。
 その首輪をつけられた動物は、つけた人物を主とし、元の知能によらず、例え野性のものであっても何でも命令を聞くようになるという。
 しかも、主が丁寧に面倒を見れば、時間はかかるものの、ある程度言語を理解したり、命令の意図を判断し、自立的に複雑な行動も行うことができるようになるそうだ(ただ、これには元々ある程度知能の高い動物でないと無理なようだが)。
 とすれば、モーザが、アダルバートさんの取り逃がした男を代わりに討ったというのも納得できることだ。例えば、ゴーレムのように何でも命令を聞くというだけでは、そうはいかないだろう。
 しかし、実際に私の目を引いたのは、次の一文だった。

 ただし、逆に主人の虐待など、ぞんざいな扱いを受け、生命の危機に晒されるなどした場合、動物は、たちまち魔獣と化し、主人に襲い掛かる。
 この性質より、”復讐の首輪”とも名を冠する。

 ……聞いた話では、モーザが変異し始めたのは、ユーニスさんと交戦し、その剣に倒れ伏した後だと言う。
 首輪は、これを虐待と受け止めたのだろうか。傷つけたのは、ユーニスさんの剣だが、首輪がそこまでの判断をするかどうかはわからないし、もしかすれば、”そういう状況に追いやった主人に責任がある”という判断をしたのかもしれない。
 とにかく、あの時の、モーザの姿は、まさに復讐の魔獣とも言うべきものだったのだ。

 なんて皮肉な名前なんだろうか。
 あのとき、復讐を果たさんとしていた、そのアダルバートさんこそが、長年の友としたモーザから復讐を受けていたなんて。
 もちろん、この名前はあくまで偶然であり、そこまで深い意味はないのだが、しかし、このことを知れば、彼はなんと言うだろう。あのとき、モーザに噛み殺されたことを願うだろうか。
 ……どちらにせよ、このことは私一人の胸にしまっておこうと思った。

 やはり、復讐なんて空しいことだと思う。何も得られないんじゃない。むしろ、失うばかりだ。
 アダルバートさんは、自責の念に囚われるばかりだったし、無理に魔法の道具に頼ったばかりに友を失った。

 それだけじゃない。例えば、と考える。
 そう、今回、レアル子爵の計らいで最終的にはうまくまとまったような結果になったが……例えば、リーブさんを殺したのがドリーではなく、アダルバートさんだったとしたら、果たして、シタールさんは、それを許せただろうか? リーブさんの奥さんは?
 恐らく無理なんじゃないだろうか。リーブさんの過去の行いに、報復を受けることがあると頭で理解できても、感情が許すことができないだろう。そうなったら、今回のような解決への道も閉ざされるに違いない。
 いや、すでにそういう人が、今までの被害者にもいたかもしれない。それも含めて領地である農村に留まれという処置をレアル子爵は言い渡したのだろう。

 もし、あのまま誰もアダルバートさんを止めなかったとしたら、彼はどこまで失っていただろうか?
 彼の心にある、エリザを癒そうとした心も失っただろうか? 大地母神の恩恵も失っただろうか?
 そうなってしまっては、まるで彼そのものが失われたようではないか。

 私は、アダルバートさんを止めようとしたことを自分の我が侭だと思っていた。いや、今でも思っている。
 けど、それでいいじゃないかと付け加えた。
 復讐に心を囚われたとき、人はすでに正気を失っている。その正気を取り戻してあげるのは、我が侭だと言われても、他人事だからと思われても、周囲の人間にしかできないことだ。
 あの時、私は、自分の思いを口にするのをためらったが、これからはためらわないでいよう。

 固く誓うと共に、読んでいた本を閉じた。
 もちろん、そもそも復讐などという話が出てこないことを、こんな悲しい魔力を持った道具が使われないことを願うばかりではある。