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或る日の出来事
セシーリカ [ 2003/07/20 1:35:58 ]
  二重螺旋の井戸に赴く前に、精霊に関して綴られた本を何冊か、ラスさんに借りていた。<>
 返さなければと思っていたら、自分はもう読んだし、精霊がらみの本ばかりだったから、よければやる、と剛毅なことを言われた。<>
 さらに、「ああ、ついでにうちにある本で欲しいのがあったら言え。やるから」と。<>

 ……本、そんなに安い物じゃないと思うんだけどな…いいのかなぁ。<>
 でも、くれる物はうれしいし、何より本は好きなので、夕方に貰いに行く、と言う約束をした。<>
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 早速、次の日の夕方に、ラスさんの家に約束通りお邪魔して、部屋に通されて……<>

「………ラスさん」<>
「ん? ここのある本ならもう読んだし、どれでも…」<>
「いや、そうじゃなくてね」<>
「……なんだ?」<>
「で、昨夜、本を鍋敷きにしたって、わたしにはたかれたばっかりだったよね」<>
「え、だって、鍋敷きにも枕にもしてねえじゃん。ちゃんとお前が来る前に片づけたんだぜ?」<>
「……積み上げて隅っこに置くのは片づけるって言わないと思うよ」<>

 まぁ、好意で本を譲ってもらえるのだから、怒るのはやめよう。<>
 ついでに、積み上げられた本をきちんと書棚に並べ、あるいは帙に整頓して入れておく。<>
 …小さい頃に、それこそ日課のようにやっていたから、部屋の片づけは苦手でも、これだけはひとさまに笑われない程度には出来る。<>
 こんな所で役に立つとは思わなかったけど。<>

 半刻ほど後、何冊か本を抱えて部屋を出た。<>
「いいの? こんなに貰っちゃって」<>
「ああ。またなんか読みたくなったら遠慮なく来いよ。…んじゃ、ついでに夕飯でも食ってくか?」<>
 ラスさんがそう言うのと同時に、台所からファントーさんが出てきた。<>
「あ、ちょうどよかった。棚の上の壺、ちょっと手が届かなくて」<>
 ………視線が、わたしの抱えてる本に行ってるんですけど。<>
「………どういうことかな?」<>
「あ、いや、ほら、棚の上って何となく手が届きにくいことあるじゃん。あー、あともう少しだなーって。そういうときにその辺にあったりすると、やっぱり使わねえ?」<>
「………使わんわっ!」<>

 ぼかっ☆<>
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 ………帰りに家に立ち寄ってリデル兄さんに話したら、お兄さんはため息をついて頭を振った。<>
「…確かに、踏み台にするのもどうかと思うけど……殴るのもどうかと思うよ」<>
「いや、だってちょうど、手元にあったし」<>
「………『五十歩百歩』って言葉、知ってるよね」<>

 全く持ってなにも言い返せません。ハイ。

 
枕辺に座って思うこと
セシーリカ [ 2003/09/10 1:26:48 ]
  ラスさんは、熱を出している。
 肺に残った血をなかなか吐き出せないでいるせいで、治りが遅い、という話だ。

 んで、何となく心配で看病に入っているんだけど。
 薬を飲んでくれないんだよねぇ……。
 熟睡してる時に、ほとんど匂いのない去痰剤をこっそり投与しているけど、匂いが弱いってことは効き目も弱いって事らしくて、あんまり劇的な効果は望めないみたいだし。

 看病にしても、今はカレンさんやファントーさんもいるから、よく考えたらわたしがここでこうしている必要性、というのはあまりないみたいだし、ラスさんも同性に面倒見てもらう方が心安いだろうし。

 それでも何となく看病を続けているのは、意地なのだろうな、と思う。

 この間ひっぱたいたネオンさんも言っていた言葉。
  「何か役に立ちたい」
 彼のしていることと、わたしのしていることはそうそう違わない……そんな気がしてきている。

 このこっそり飲ませている去痰剤と同じように、わたしのしていることはあまり意味がないことなのかもしれない。


 今日もラスさんはうなされている。
 ラスさんの心を癒すのは、少なくともわたしではないのだろう。
 そんなことを考えたら、ほんの少しだけさびしくなった。

 カレンさんもファントーさんも、シタールさんもいるし。
 ………もうわたしは神殿に戻ろうかな。