二重螺旋の井戸に赴く前に、精霊に関して綴られた本を何冊か、ラスさんに借りていた。<> 返さなければと思っていたら、自分はもう読んだし、精霊がらみの本ばかりだったから、よければやる、と剛毅なことを言われた。<> さらに、「ああ、ついでにうちにある本で欲しいのがあったら言え。やるから」と。<> ……本、そんなに安い物じゃないと思うんだけどな…いいのかなぁ。<> でも、くれる物はうれしいし、何より本は好きなので、夕方に貰いに行く、と言う約束をした。<> <> <> 早速、次の日の夕方に、ラスさんの家に約束通りお邪魔して、部屋に通されて……<> 「………ラスさん」<> 「ん? ここのある本ならもう読んだし、どれでも…」<> 「いや、そうじゃなくてね」<> 「……なんだ?」<> 「で、昨夜、本を鍋敷きにしたって、わたしにはたかれたばっかりだったよね」<> 「え、だって、鍋敷きにも枕にもしてねえじゃん。ちゃんとお前が来る前に片づけたんだぜ?」<> 「……積み上げて隅っこに置くのは片づけるって言わないと思うよ」<> まぁ、好意で本を譲ってもらえるのだから、怒るのはやめよう。<> ついでに、積み上げられた本をきちんと書棚に並べ、あるいは帙に整頓して入れておく。<> …小さい頃に、それこそ日課のようにやっていたから、部屋の片づけは苦手でも、これだけはひとさまに笑われない程度には出来る。<> こんな所で役に立つとは思わなかったけど。<> 半刻ほど後、何冊か本を抱えて部屋を出た。<> 「いいの? こんなに貰っちゃって」<> 「ああ。またなんか読みたくなったら遠慮なく来いよ。…んじゃ、ついでに夕飯でも食ってくか?」<> ラスさんがそう言うのと同時に、台所からファントーさんが出てきた。<> 「あ、ちょうどよかった。棚の上の壺、ちょっと手が届かなくて」<> ………視線が、わたしの抱えてる本に行ってるんですけど。<> 「………どういうことかな?」<> 「あ、いや、ほら、棚の上って何となく手が届きにくいことあるじゃん。あー、あともう少しだなーって。そういうときにその辺にあったりすると、やっぱり使わねえ?」<> 「………使わんわっ!」<> ぼかっ☆<> <> ………帰りに家に立ち寄ってリデル兄さんに話したら、お兄さんはため息をついて頭を振った。<> 「…確かに、踏み台にするのもどうかと思うけど……殴るのもどうかと思うよ」<> 「いや、だってちょうど、手元にあったし」<> 「………『五十歩百歩』って言葉、知ってるよね」<> 全く持ってなにも言い返せません。ハイ。 |