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胡弓来舞
シタール [ 2003/08/04 0:28:24 ]
 好きな楽器を弾き、日銭を稼ぐ。

遺跡に潜り、稼いだり、損扱いたり。

稼いだ金をケチ呼ばわりされねえ程度に使って暮らすそんな日々。

そんな奴の日想。
 
新王国歴515年8の月1日 昼
シタール [ 2003/08/04 1:01:43 ]
 祭りも直前を迎え、1日の忙しさが半端じゃねぇ。
ま、稼ぎ時なんだし・・・しゃあねえっちゃしゃあねえが・・・。

ま、二日ぶりの柔らかい寝床だ。夕方の約束まで寝る!俺は寝るぞ!!

(ドアがノックされる音。)

・・・。

(ドアがノックされる音。)

・・・・・・。

(ドアがノックされる音。)

・・・・・・・・・。

(ドアがノックされる音。)

うるせぇ!!誰だぁ!!

(ドアを勢いよく開ける)

ああ・・ネオンか・・・すまん。

遺跡の話だよな?・・・効かせろよ。

(一刻後、ネオンが帰り一人)

まあ・・・見事までにしらねえ奴ばっかだな。知ってるのは前提参加のセシーリカぐれえか。
となると・・・剣がたりねえよな・・・現状のメンツだと。
むう・・・・そうだな。

とりあえず、寝るか。

(寝床に転がる、そして聞こえてくる寝息)
 
新王国歴515年12の月27日 夜明け前
シタール [ 2003/12/27 22:40:37 ]
 ふう・・・まーさか寸法だけでこんなに時間かかるとはな・・・。
<>こんなんだったら夕方からじゃなくて、昼から言って置くんだったな・・・タク・・・コレで出来が悪かったらただじゃ・・・。
<><>おう。どうしたクレフェ。こんな時間に・・って、お前泣いてんのか!?
<>おいおい。どうしたんだよ。一体よ?
<>
<>ああ。なるほどな・・・確かにそれはむかつくかもなぁ・・・。
<>でも、老竜を倒すのは無理だよなぁ・・・さすがによぉ・・・・。
<>
<>

まあ、気にするな。今のままでもお前は十分綺麗だと俺は思うぜ。

<><>

それにな・・・。

<><>「年取れば。しわの白髪の一つや二つぐらい出てきて当然だろ?」
<>
<>渾身のグーで顔面を2,3度殴られました。
 
新王国歴517年4の月1日 昼過ぎ
シタール [ 2005/04/02 2:58:44 ]
 「…カレンには何も話してなかったのね。」
昼過ぎに起き、朝昼兼の食事を済ませると。ライカはこう切り出してきた。
「話していない。」というのは、レイシアと言うよりもレイシアの姉であるソレイユとのことだ。

15の時、エレミアで俺は冒険者始めた頃の仲間の一人がソレイユだった。
ガキだった俺は憧れた。その凛とした強さや包み込むような包容力に。
だが、その思いを伝えることも出来ずに精霊によって正気を失ったソレイユを俺が殺した。
そして、事実を告げずにレイシアへ恨みをもたれたまま月日は流れた。

「それで。誤解は解けたのね?」
「ああ解けた。完璧にな。何というか…重荷が卸したような心境だぜ。人間って不思議な物だな。死ぬと思うと以外と何でも言える物だなって思ったわ。マジで。」
真剣に聞いてくる質問に対し軽く冗談めいて返す。
今回の仕事でレイシアと組むにあたって、俺はライカに「全てを話してくる。」と言って出た。恐らく不安な気持ちで待っていたんだろうと思う。
だから、その不安を吹き飛ばしたかったのだ。

だが上手くいかず、重い空気が食卓を包む。
何かを言おうと口を開くが、言葉を紡がずに2,3ど開閉するばかり…。

「―すまん。」
「何を謝ってるのか分からないわ。良かったじゃないの誤解が解けて。」
そういうと席を立ち、ライカは出かけ支度を始めた。

「クレフェと会う約束があるの。出かけてくるわ。」

――――扉が閉まった。
 
新王国歴517年4の月5日 夕刻
シタール [ 2005/04/06 1:17:21 ]
 あの日、昼過ぎに出ていったライカが帰ってきたのは明け方近く。
俺には何があったかを問いただすことは出来ず、ただただ寝床で狸寝入りをする他がなかった。

重苦しい空気を抱えたまま4日が過ぎた。

現状は何も変わっちゃいない。そりゃそうだわな。互いに話しもしなければ行動もしなければ現状は打開しない。緩やかな小康状態って奴か。

ライカは毎日朝から晩まで出かけている・・・行き先は良く知らない。
かくいう俺は、財宝探しが予定より長引いたことを考慮して後数日は仕事がない。

結局、俺はどうしたいんだろうか…そんなことを年中考えている。

レイシアに対して負い目があった。

ソレイユを俺が手にかけたという事実。
そして、その真相を話していないという事実。
託された言葉を伝えられいないという事実。

それが全て解き放たれ、更に命を助けられたときに自分の中で変化が生じた。
何故、このような物が生じたのかははっきりとはしない。

レイシアがソレイユに似ているからかもしれねえし。
長く続いたこの関係が憎しみが消えたことでそうなったのかもしれねえし。

とりあえず、レイシアのことをどうしたらいいのかがよく分からない。

そして、ライカのこと。
嫌になったわけではない。そりゃ、長いこと連れ添ってきてるから思うところはたくさんあるが、そんなこと言いだして嫌になるぐらいならとっくのとうに分かれてる。尽くして貰ってると思う…。

だから、ライカとけじめ云々とかそういう気持ちにもなれん。

自分事ながら…だらしがないというとかなんというか嫌になる。

そんなことを考えながら寝っ転がっていると扉が叩く音がした。
 
新王国歴517年4の月13日 昼
シタール [ 2005/04/13 0:13:45 ]
 ゆっくりと町中を歩きながら、数日間のてめえの間抜けさ振りを思い出すと消え去りたくなる。
「どっちも失いたくない。」とか「誰も傷つけたくないとか。」とかそんな事を抜かして動くことやめてたわけだが…。結局はてめえ可愛さに逃げてただけなんだって事に気づいたというか…気づかさせられた。

昨夜、重い腰を上げてライカを探し始めた…いや、探すふりをしたと言った方が良いかもしれねえ。
あいつはそんなに交流範囲が広いわけじゃねえ。こんな状態になったときに駆け込む場所なんてたかがしれてるのは分かってる。
一番、あいつが良そうな場所を無意識とは言え外して探してるって時点で昨日俺は終わってた。

そんなときに偶然クレフェと出会った。

あいつが今どこにいるか確実に知ってる。
そして、何故こうなったかも知っている。
俺の迷いも心の弱さを非難した。

「あなたは、傷つくのを恐れてるだけだわ。自分が悪者になるのも、ね。」

その言葉とともに抱きしめられた。そしてそのあとに紡がれたクレフェの想い。
俺が迷って揺れてたことでここにも傷ついてる人間がいることを知った。
けど、知ったけれでも応えられない想い。心が動かなかった訳じゃねえ。でも、応えてしまうのは違う。それは悪者になりたくない逃げだって思った。

だから…抱きしめた上で「すまん。」と何度も言った。
これが俺に出来る精一杯の傷付け方であり、感謝の気持ちだった。
ホントにいい女だと思う。こんな女に惚れられたって言う死んだ旦那ってのは俺なんか足下にもおよばねえぐれえにいい男なんだろう。

そんな男に少しでも似てる俺がこれ以上だせえことやってられるか…。
揺らぎが無くなった訳じゃねえ。だからといって逃げるのはやめる。傷つくことを恐れるのもやめる。

俺は選ぶことで悪者になる。

ライカにはクレフェを介して言伝た。「話し合いたい。」と。

そして、俺はレイシアの部屋の前に立っていた。
 
新王国歴517年4の月18日 夕刻
シタール [ 2005/04/19 9:41:30 ]
 「二菟追うものは一菟も得ず。」
今の俺にふさわしい言葉はまさにこれじゃねえかと思う。

両方とも追う気はなかったとは思う…。
ただ、迷いながらどっちも視野に入れ、どっちかを選ぼうとずっと悩んだ結果、両方とも居なくなってしまった。

レイシアには身を引くと言われ。
ライカには…まだはっきりと言われていないが…まあ、何となくは分かる。

そうだな。俺もきちっとしなきゃ行けねえな。そう思うと気持ちが楽になった。
どうなってももはや元には戻らないと言う事実を俺は受け入れることが出来た。

…ただ。だな。

楽譜を入れた戸棚を開け、古ぼけた手紙を出す。

もう、あれから5年だ。もし。そうなったとしたら。

俺はこいつを誰に託せばいい?
 
新王国歴517年4の月26日 夕刻
シタール [ 2005/04/26 22:33:45 ]
 ライカがカゾフから戻ってきた。

こうやって向き合うのは何日ぶりだろうか・・・
って言うかしっかりと顔見て話すのなんてどれくらいぶりだっけ・・・
とか場違いなことがちらっと脳裏に浮かんだ。

「別れましょう。」

切り出された言葉には「だから」とか「だけど」もなく一言。それのみ。
目に迷いがない。この旅の中でもう決めていたんだと思う。
覚悟はしていたことだったが、さすがにいきなり切り出されるとは・・・な。
切り出された言葉よりも、その言葉に激しく動揺したてめえ自身に驚いた。

頭を掻き、少し深く息を吸い、そして吐く。…少しは落ち着いたはず。
もてる限りの集中力で動揺を押さえ込んで口を開く。こんなに緊張するのは初舞台以来じゃねえかなって思う。

「理由を聞かせてくれねえか?」

「…理由ね。理由は一番じゃなくなったから。」

そう言うと視線を逸らすように軽く下を向き。そのまま話し出す。

「私は、貴女の中で常に一番ではないってのは分かってたわ。音楽だったり、冒険だったり。そう言う物が一番になってる時もあるのはずっと知ってた。それは仕方ないとも思っていたし、納得していたわ…」
そこでとぎれる言葉。そして、重苦しい空気。

…でもね。と負うとまた顔を上げて、言葉を続けた
「でもね。私、女としてあなたの一番じゃ無くなることだけは我慢できないしm揺らがれたことがショックだったの。そしてね。子供が居れば良かったのにと浅はかなこと考えた自分も嫌になった。…それが別れたい理由。」

言葉一つ一つが俺自身を刻む。そのこと言葉自体よりも、そのようなところまで追い込んでしまった自分の自身がただただ情けなかった。

そう言うとライカはそのまま沈黙する俺に向かって、最後の言葉を紡いだ。

「さようなら。シタール。」


さようならといわれたもののふたりとも家をすぐに出るわけにも行かない。
荷物や身辺の整理が着くまでは、ここでの共同生活はほんのしばらくながらも続く。

カレンや親父用にあてがわれた部屋に入り、寝床に寝っ転がる。
別れることへの、悲しみとかそう言うのはないと言えば嘘になる。
10日ほどの猶予の間に多少の覚悟は出来ていた物かもしれねえし、開き直ってるだけかもしれねえ。
とりあえず、玄奥は比較的冷静だってのは確かだ。

懐から、また手紙を出してぼんやりと見る…。

これを今のライカに渡してよいものやら……。

西方語で書かれた、手紙は俺には何が書いてあるかさっぱり分からない。
ただ、どういう物かは俺は知っている。これを俺に渡したライカの爺さんが教えてくれた。

6年ほど前に届いた、ライカの親父さんがライカに宛てた手紙。

この家を出るまでに、こいつをどうする考えなくちゃいけねえな……。

それと、この家を出た後にどうするか…だな。
 
新王国歴517年4の月28日 昼
シタール [ 2005/04/28 23:33:43 ]
 ライカと別れてから二日。まだ手紙は俺の手元にある。
少しずつだが、身辺整理は始まっている。共有財産の分配や荷物の処分など。
ライカは本の処分を始めた。これから独りで住むのにこれだけの蔵書が邪魔だと判断したようだ。
本は高価だし。引っ越し資金にはなるわ。と朝食の時に話していた。

自分でも驚いてることだが、別れると決まってから逆に気兼ねなく喋るようになった。
まあ、互いに痼りが無くなったから…じゃねえかなと思ってる。
つっても、元鞘には戻れないんだけどな…。そう考えると少し寂しい物がある。

俺は俺でしばらく街を出ることを考え始めてる。
気持ちの整理とかそんなんじゃなくハナが…まあ、他にも色々と。
ぶらぶらと隊商の護衛などの依頼を見て回る。

――その中にあったレイド行き護衛の募集。

詳しく書かれた羊皮紙を貰い。公園のベンチで屋台で買ったサンドイッチをほおばりながら読む。
そうだな…あれから一度も墓参りに行けなかったからな行くのも良いかもしれねえ。

でも、その前にきちっとしないといけないことが二つある。
一つはライカに宛てられた手紙…そして、レイシアへの報告。

羊皮紙を懐にしまい。レイシアの宿へと向かった。
 
新王国歴517年5の月1日 昼前
シタール [ 2005/05/03 0:22:48 ]
 結局、あの日は俺等の間にも何もなかった。
俺も考え無しな質だけど・・・きちんとケリ着くまではどうこうしよう戸はおもわねえよ。
そう思って、レイシアを宥めてから部屋を出たわけだが・・・。

翌朝。家に青ざめた顔のレイシアが飛び込んできて、スピカが忽然と姿を消したことを知った。

それから早4日。俺等は必死になって街中を探した。
街を出て東に向かったと言うことまでは分かったが、それ以上の事は素人二人じゃ調べようもなかった。
ただ、一つだけレイシアが見つけた物がある。

レイシアに宛てたスピカからの手紙。

内容はどんな物かは知らない。ただ、俺等のことについて書かれているというのは分かる。
まあ、俺が詰られるのは良い。不誠実なのはてめえ自身がよく分かってる。

だけど、自分のしたことでどれだけレイシアが傷つくかと言うことを考えたのだろうか。
もっとやり方があったんじゃねえかと思う。年長者として、相棒として、女として。だ。

って、俺は思うだが…。

「なんで、私に相談するのよ。」
ライカが機嫌の悪さを隠そうともせずに睨みながら言ってくる。

いや…。ほら…。その…。そう言うのを話せるおんなってのが居なくてよ。

過去の習慣の所為か、思わず床に正座しながらしどろもどろに応える俺。

「だからって別れたばかりの恋人にする話じゃないと思うの。」

はい。ごもっともです。返す言葉もございません。
まあ、居なくなってしまった人間は連れ戻しようがないとしてだ………。
完全にからに閉じこもってるレイシアだよな…何を話しても上の空だし…。

また、話がそちらに進みそうになったのであわてて口を噤みライカの様子を見る。

何かを考えているような顔。

おい。どうしたんだよ。急に考え込みだして?

「シタール。ため込んだワインはどうするつもりなの?」

………あ。ああ。さすがに持ち出せる量じゃねえし、みんなでばーんと飲んじまおうとか思っているのだけどよ。

「好都合ね。なら。夕方にでもレイシアをフン縛ってでも連れてこれる?」

いや。うん。出来なくはないが………なんでいきなりそうなるんだよ。

「なんとかしてやるのよ。全く、自分のお人好しさに呆れてしまうわ。」

そう言うとライカそっぽを向いて更にぶつぶつと言いだした。
ナント言葉を言って良いのか分からない。言葉に出来ない感謝の気持ち。

とりあえず「助かる。」と一言言って頭を下げた。

「シタール。」

あ。何d(ガスッ

「ワインに良く合う料理も見繕ってね。5人分よ。」

そう言うとライカは何処かへと出かけていった。

――久々に食らったので、身動きも出来ないぐらいに堪えた。
 
新王国歴517年5の月2日 早朝
シタール [ 2005/05/08 20:44:35 ]
 針の筵のような、酒宴を途中で抜け出し、ラスの家で悪夢としか言えないような庭を見て、しょぼくれて帰宅。
そこに待っていたのは…。

―予想以上に転がった空瓶。
―食い散らかされ山積みされた食器。
―そして、酔いつぶれたレイシア。

まあ、潰れるぐらい飲んで嫌なことが忘れられたのならそれで良いかと思う。
思うが…放って帰るってのはどうよ。ライカもライカで寝てるしよ。

しゃーねえなって事でレイシアをおぶって宿を目指す。日が昇ったばかりで、少し霞がかった大通りをのんびりと歩く。

「うう…。」
どうやら目が覚めたらしい。まあ、すがすがしい目覚めとはほど遠いようだが…。そして…。
「…うぷ。」
おい………待て。今降ろすからよ!ホント待て!待てって!!
うぉぉぉーーーい!


――しばらくお待ちください。


「馬鹿。飲み過ぎだっての。ちったぁ限界っての考えろっつーの。」
胃の中の物を全て吐き出してぐったりとしてる。…俺の服もちょっと汚れた。
「だってぇ…だってぇ……。」
…今度は泣き出す。ああ。もう…なんだよ。アレか。スピカのこと思い出したのかよ。
「…違うの。」
鼻をくすんと啜りながらレイシアが話し出す。
「…ライカがね。シタールさんのことをお願いって。」
ライカに気遣われ優しくされたこと。
そのことがくすぐったくなるほど嬉しかったこと。
そして相手の思いを考えると胸が裂けるぐらいにつらかったこと。

レイシアがそのことを訥々と語っていく。
ホントにあいつはいい女だ。俺なんかにはもったいなかったぐらいのいい女だ。

「…寝とけ。後は酔いが醒めてからまた考えようぜ。せっかくの気遣いが無駄になるからよ。」
「…うん。」
幼子にするかのようにぽんぽんと背中を叩いてやり、またゆっくりと宿へと向かう。
こいつを送ったら、ライカとじっくりと話をしよう。そう思った。
 
新王国歴517年5の月2日 夕刻
シタール [ 2005/05/08 22:01:21 ]
 「昨夜は助かった。恩に着る。」
素直に頭を下げる。
本当は言っていけない言葉なんだろうが…。
それ以外にまずは言葉が出てこなかった。

「別に良いわよ。好きでしたことなんだから。」
素っ気なくさらっと俺の礼を流した。照れてる時にこいつの癖だ。
「…いい子よね。こういう出会い方さえしてなければ友達に慣れたと思う…。」
そう言うと俺が入れた紅茶に手をつけ、更に話を続けた。
「そんなことはどうでも良いとして…何か大事な話があるんでしょ?」
「…ああ。話というか渡すべき物って言うべきかな。」
椅子から立ち、戸棚を開ける。そこにあった手紙をライカに指し出す。

「お前の爺さんからの預かり物だ。」
「…お爺さまから?でも、この筆跡は…。」

お爺さまの物じゃないないじゃい。といって差出人の名前を見て顔が凍り付く。

「…嘘。」
「5年前にな爺さんから俺が預かってたんだ。俺の判断でいつか渡してやってくれってな。」
すぐにでも渡すべきだったんだろう…だけど、あの頃の俺はそのことでこいつが出ていってしまうんじゃないかと思った。「そのうち渡そう。」そう何度も思ううちにいつの間にか5年の歳月が経っていた。

そのことをわびるのも、ライカの耳には既に届いていなかったようだ。
手紙をかき抱くように、そのまま部屋へと入っていく。

扉が大きな音を立てて閉まった。
 
新王国歴517年5の月5日 夜更け
シタール [ 2005/05/10 22:50:30 ]
 手紙をライカに渡してから早3日、ライカの荷物の整理は完全に終わったようだ。
これからどうするのかは聞いちゃいねえけど…何となくは分かる。

――親父さんに会いに行く気なんだろう。

それ位は馬鹿な俺だって分かる。俺だってお袋から手紙が来たら会ってみたいと思う。
たとえあいつとは違って捨てられた身だとしてもだ…。

だからホントなら「行ってこいよ。」と背中を押してやりたい。
…けど。今の俺にはそれを言ってやる資格すらない。

だから「何も言わずに黙って見送る。」それが俺に出来ることだと思う。

そんなことをうだうだ考えながらベットに横になっていたんだが…。ライカの奴まだもさもさと何かしてやがる。
何か書き物出もしてるのか…思いつつも眠りの砂に抗せられず目を閉じてしまった。

―翌朝。ライカは旅に出てしまっていた。
 
新王国歴517年5の月6日 早朝〜夜更け
シタール [ 2005/05/12 23:30:13 ]
 ライカが出ていった。

マズ思ったのが相変わらず行動の早さへの呆れとも感心ともナント言えない感情。
そして次に一言ぐらい何か言葉を交わしてから出ていってくれても良いんじゃねえかという理不尽で我が儘な怒り。

ああ。もうワケわからねえよ。と思い、部屋に戻って二度寝をしようとした時に気づいた。
リュートの入れ物がおかしい。俺はこんな閉め方した記憶がねえぞ。

その時に思い出したのは6年前の出来事。
あいつに内緒で、荒事に関わっていた俺は抜き差しならない状況になり、死を覚悟したことがあった。その時にこいつの中に遺書を入れた。


―中にはライカからの手紙があった。


泣いた。泣きに泣いた。なんで最後ぐらいきちんと向き合ってやれなかったのかと悔やんだ。
ただ、幾ら悔やんでも遅いって言う事実が更に悔しさを募らせた。何度か叫んだりもした。

そして、ベットに寝っ転がってぼんやりと考える。

俺はライカのことをどう思っていたんだろう。
あいつの内にこもる部分を劣等感を救ってやりたいと思った。
それが出来るのは俺だけなんだって思ってた。そう思ったからこそ連れ出したんだ。と。

でも、ソレイユのことを忘れようとしただけだった。
ライカと寄り添うことでソレイユの事を忘れた。いや、考えないようにしていた。

レイシアが現れたことによってその感情が再びもたげてきた。気づいた時には自分では押さえられなかった。
そして、ライカは俺から去っていった。

―俺は最低な奴だ。

そのときだった。控えめなノック。開けるとそこには着飾ったレイシア。
そして笑みを浮かべ。食事へと誘われる。
ああ。ライカの奴め…。と思った。最後にレイシアにあっていきやがったんだな。と。
断る理由もなかったし。今の俺にはこういう気遣いに弱かった。
急いで顔を洗い、着替える。高い店に行くつもりようだし、それに…きちっと話をしたかった。

食事しながらレイシアは必死にあれこれ話をしてくる。
出会った頃の話し再開した時の出来事。
でも、最後の最後まで絶対にソレイユの名前は出なかった。

ライカの奴は、最後の最後まで俺とレイシアの今後を気にしてくれた。
ソレイユのことを引きずるな。と言いたいんだろう。私みたいな思いをさせるなと。

もしも、レイシアとそうなるとしてだ。恐らく二人にとってソレイユのことはずっと付きまとってくる。
忘れたり、考えないようにすることはまず出来ない。その存在を認めつつ向かい合って行かなくちゃいけねえんだろう。

「…なあ。レイシア。」
夜もとっぷりと暮れて、レイシアの宿の部屋の前まで来たところで覚悟を決めてこちらから切り出す。

「…ん?なに?」
何かを悟ったのか、少しおびえを見せるも精一杯の笑みを返してくる。覚悟が鈍る。でも、それじゃ駄目だ。後で余計に大きな傷を残す。言わなくちゃいけねえ。

「もし、俺とお前がだ。この一緒にいるとしよう。いや、実際に俺は居たいと思ってる。」
はっとした顔でこちらを見るレイシア。視線が絡み合う。何かの言葉を待っている。

だけど、俺の口から出た言葉は望んだものとは違ったようだ。

「もし、そうなったともしても俺はソレイユのことを…。」
ソレイユの名前が出た途端に言葉を遮る。

「分かってる。シタールさんにとって姉さんのことは消えることのない傷のように残ってることは。」
そう言うと寂しそうに笑って「それは私にとってもね。」と付け加えた。


「あのね。シタールさんを好きなった理由の一つに。姉さんへの対抗心もあるんだ。
 だからレイドに行くと言った時も、姉さんに取られるみたいで嫌だから意地でも止めたんだ。」
―瞳から涙が溢れ。

「―でも、やっぱり勝てなかった。それが悔しい…。」
―涙が頬を伝う。

「それでも、わたしはあなたのそばにいたい。死んだ姉さんに勝てなくてもそれでも良い。」
―ゆっくりと両手を上げ、胸に顔を当て表情を隠し。

「忘れなくてもいい。時々思い出すぐらいなら気にしない。私もそうなるように努力する。」
―声も出さずに静かに泣き出す。

「だから、他の誰のものにもならないで。お願いだから…お願いだから…。」

驚いて動くことすら出来なかった。
もっとレイシアの思いは揺れていると思っていたから。

そうか…それなら俺が言えることは。これしかない。

優しくレイシアを引きはがし、目を見て話す。

「なあ。レイシア。一つだけ俺からお願いがあるんだけど…良いか?」
「…お願い?…何?」

「―さん付け。それだけは止めてくれ。」

――レイシアを抱きしめながら、次の部屋を探さないとなとふっと思った。
 
新王国歴517年5の月14日 昼間
シタール [ 2005/05/15 22:15:41 ]
 「…駄目だ。……眠い。」
―ねえ。昨日は来なかったのに何処に行ってたの?
「ああ。ラスんトコ。」
―飲んでたの?
「うんや。一晩中。扉の前で座り込んでた。」
―…なんで?
「うーん…。なんつうの。俺なりのあいつ等への配慮。」
―何それ。意味がわかんないよ。

まあ、レイシアの言うとおりこれじゃ意味わからねえよな。…うん。
でも、俺には意味があること。

そして、あいつ等にも意味があったのであればそれで良い。

―もー。路上でぼーっとしない!次の部屋を見に行くよ。
 
新王国歴517年5の月15日 夕刻
シタール [ 2005/05/15 23:32:16 ]
 部屋をどうするかという話になって、昨日は二人で色々と見て回った。
…けど、どうもこれといって良いのがない。

そして、今日も見て回ったわけだが。
まあ、なんつうか良いと思った部屋というか家があった。
雑木林が側にある郊外の小さな家で、二人で住んでも2,3人客を呼んでも問題の無い広さ。
んで、郊外といっても、馬を使えば冒険者の店にも不便なく行けるし、何しろ静かだってのは良い。
俺にはどっちでも良いことだが。大家がタイデル出身で西方語が通じたことがレイシアとしては好印象だったらしい。
まあ、東方語が喋れないからな…。俺も西で似たような経験したことあるから気持ちはよく分かる。

そう。こんな良いことづくしみたいに見えるがたった一つだけ問題があった。
それは今借りてる人間がいて、夏頃までは出る予定がないって事。

夏まで待ってもらえるならば、最初の一月はただで貸すし、前の借り主が馬魔で譲ってくれるとか言ってくれた。でも、それまでどうするかってのが問題だよな。
返答はもうちょいだけ待ってくれと言って俺等は街へと戻った。

夕方。客が増え始める頃のきままに亭のカウンター。
ワインで食事をつつきながらそのことを話しているとフランツのおっさんが絡んできた。

「なあ。シタール。」
「なんだよ?」
何を言われるのかと一瞬身構える。このおっさんはガキの頃から知られてるせいか女連れであいたくない相手だったりする。

「まあ。構えるな。話が聞こえてたんでな。」
そう言ってそのまま横の空席に座る。
「…おい。良いのかよ。営業中だぜ。」
しっしと追い払おうとする俺を屁と思わずそのままおっさんは話を続ける
「良いんだよ。俺はマックスみたいに杓子定規じゃないのが売りなんだよ。」
話を終わらせたがろうとする俺を制して、レイシアがおっさんとそのまま話を続ける。
「―良い売りね。それで話に来たって事は有益な情報を持ってきてくれたんでしょ?」

「ああ。とはいってもお嬢ちゃんにではなくて。シタールにだがな。」
そう言うとおっさんはこっちを見た。

「シタール。お前さん。パダの店で働いてたよな?」
「ああ。うん。確かに働いてたけど。それがどうかしたのかよ?」
確かにパダの冒険者の店で2年近く店員もやってた。
専属契約冒険者としていったはずなんだけど。どういうワケか最後は仕入れとかも普通にやってた。
最初は悪夢としか言えなかったが、それはそれで楽しい日々だった。

でもよ。それと今回の件がどう関連してるのかがさっぱりわからん。

「この店な。今人手が足りないんだ。即戦力が必要なんだ。宿無しを三食寝床付きで夏まで雇ってやる。」

その後すったもんだがあったわけだが、俺はエプロンして何故かカウンターに立っている。
…なんか、レイシアとおっさんの二人がかりで丸め込まれた気がする。

さ…。働くか。
 
新王国歴517年5の月19日 昼間
シタール [ 2005/05/18 23:15:07 ]
 ―ケイナの谷。

あそこは俺にとっては忘れがたい場所。
3年前、あそこで大きな傷を負って引き返さざるを得なかったことがあった。
俺の慢心や焦りが招いた結果だと今でも思ってる。

そのことに後悔がないといえば嘘になる。
でも、あの事が俺を更に成長させたのも事実。

―もう一度。あの遺跡に潜りたい。

10日ほど前にそのことをラスとルギーに言ってみた。
そして、日を開けてフォスターとロビンにカレンにもだ。

俺の気持ちも分かってくれたし、自分自身の食いみたいなモンがそれぞれにあるはず。

だけど、帰ってきた返答はそれぞれだった。

ラスとフォスター、それにカレンは快諾。

ルギーは………少し考えさせて欲しいと言ってきた。
「フォスターが来るからか?」と尋ねると「そう言う訳じゃない。」とのこと。
じゃあ、理由はなんだよ。と尋ねてもそのことには口を閉ざす。…何かあいつなりに思うところがあるんだろうとそっとしておくことにした。

で、ロビンは。別件を抱えてるらしいってのを他の奴から聞いた。

本人からはっていうと。ライカの件で色々といわれたあげくにあいつが夜這いかけたこと知ったので橋に逆さ吊りにした。

もしもだ、このままロビンとルギーが来ないとなると剣が足りない。
そして、誰かがライカが抜けた穴を補わないと行けない。
そうでもしねえと、フォスターへの負担が大きすぎる。

杖か本。もしくは…薬か霊。

霊って事でレイシアに頼むか…とも思った。
挑もうとしていることは知っているし。ただ、あいつから何か言ってこねえし…。

どうしたもんだろうな……。
 
新王国歴517年5の月20日 朝
シタール [ 2005/05/20 22:45:31 ]
 レイシアの部屋で目が覚める。
仕事が終わってからここに泊まるのが習慣になってるな…おっさんに小言言われる前にやめねえと。
そう思いながらベットから起きあがろうと思ったが、横からはまだ安らかな寝息が聞こえる。
起きたら目が覚めるだろうな…と思いそのまま天井を見ながらぼんやりと昨日のことを思い出す。

昨夜、酒場でちょっとした出来事があった。
テーブル席で馬鹿騒ぎをする奴らがいた。まあ、最初は冒険に成功したんでどんちゃん騒ぎでもしてんのかと思ってたんだが…どうも雰囲気が妙だった。
そう思って客の一人に話を聞いたんだが…聞いて後悔した。

仲間の一人が化け物と刺し違えて死んだらしい。それもどうやら惚れた女を守るためだとか。

ああ………もう耳の痛い話だ。速攻でその場にいたクレフェのギグスには指摘されたし。
…俺もその死んだ奴と似た行動をしたことがある。正確に言うとかばって死にかけたんだが…しかも二度。猪突とよく言われるが、こういうトコに顕著に出るんだなと。

そして二人からは暗に言われた。「繰り返すな。」と。
分かってる。よーく分かってる。あんなの見た後だからとか、そうやって残されたクレフェにいわれからとか、そう言うのが関係してるワケじゃなく…思えば自分もそうやって残されたってのに気づいたから。…こんな想いを味わせちゃいけねえ。

そのことで話している途中。上から降りてきたレイシア…。
「何をはなしてる?」と言われたが…なんつうか照れくささもあって「後で。」と言ってその場は流した。

そして…仕事が終わって、その「後で。」がやってきた。
一通り話し終わるとレイシアが黙り込んだ。向けてきた瞳には小さな決意。

「ねえ。ケイナに行くのはいつになるの?」
…へ?ああ…そうだな…多分だけど祭りより後は確実だな。
「そう。じゃあ、私も一緒に行く。」
…は?いや、来るのは良いんだが…何でいきなりそうなるんだよ?
「もう二度と庇って死のうとしたりしないんでしょ。それを証明して貰わないと。」
ああ…うん。それはもちろんだけどよ…。
「…それに、やっぱり置いていかれるのは嫌。待つ女なんて柄じゃないしね。」

―私はシタールのパートナーなんだから。

そう言うと照れくさそうに笑って抱きついてきた。


「ううん…。」と言うレイシアの声で現実へと戻る。

今日からレイシアの鍛錬の日々が始まる。ケイナに行くまでの間は霊としても剣としても。
大変なことだと思う。でも、それはレイシアが悩み決めたことだ。
だったら、俺が出来ることはそれが出来る環境を提供してやること。

まずは…。

「おい。起きろ。朝飯食ったら…剣の稽古つけてやる。」
 
新王国歴517年5の月23日 朝
シタール [ 2005/05/24 0:21:37 ]
 寝たのか寝てないのかすら良く分からない最低最悪の朝。
こんな状態が既に3日も続いている。
寝床の中で、頭をずっとぐるぐる回ったのはラスの言葉と…ライカの泣きそうな顔。

ライカという女は頑固で照れ屋だと言うことを理解していたつもりだった。
だけど、最後の最後で一番ライカのことを理解してやっていたのは…ラスだったんじゃねえかと思う。

それなのにのんきに俺がレイシアとくっついりゃ…。な。

最低最悪なのは、朝じゃなくて俺自身だ。

追いかけようかとも思った。ライカはその姿が目立つし、エレミアまで船さえ使えばザインに入る辺りで見つけられるんじゃねえか…とも。

…けど、逢ってどうするんだ?
詫びるのか?それとも幸せを祈るのか?

そんなことを考えていたが…ふっとこう思った。
もし本当にそれをしたらあいつは怒るな。と。

…でもだ。あっちで穏やかに暮らして欲しい。とは思った。
それがてめえの自己満足とか欺瞞だとしてもだ。

ホントに俺はてめえの事しか考えてねえな…そう思った。

自嘲の笑みを浮かべながら部屋を出て店の方へはいる。
仕事を…思ったが、依頼を受けるつもりで数日シフトから外されている。
身体を動せば考えずにも済むかと思ったのだが…こうなると身の置き場に困る。

それでも俺は良い…更に身の置き場のないのはレイシアだろう。
この3日間で今まで塞いでた耳にはいろんな噂が入ってきた…俺が捨てられた云々は良い。
レイシアがライカから俺を寝取った言う話…。

俺等はその事実から目を逸らして、居心地の良い方に良い方にと逃げ続けた。
俺はライカのことを。レイシアはスピカのことを。
…そして、二人してソレイユの事からも逃げていたような気もする。

……逃げたら駄目だよな。これ以上は。

意を決して俺はレイシアの部屋へ足を向けた。
 
新王国歴517年5の月30日 夕刻
シタール [ 2005/07/04 23:44:41 ]
 新王国歴517年5の月30日 夕刻

レックスへと沈んでいく夕日を掘り尽くされ、廃墟と化した飛び地のがれきに腰掛け。からぼんやりと見ている。
何かある度にここでぼんやりと考える。

フランツのおっさんから頼まれた店の用事でパダに来て二日。用事も済ませ少し時間が出来たのでここに来た。

俺にとってここはガキの頃から何かがあると一人で来る場所。
遠くに見える赤く染まったレックスを見ながらぼんやりと考える。

「待つ」と決めてかれこれ数日。

ちなみに待つことは二つ。

一つはレイシアがこの木造の店に戻ってくること。
もう一つは、ライカから誰かに届くであろう便り。

でも、待つって言うことは本当に大変だってことにたった数日だってのに結構辛いと感じる。

まず些細なことで不安になる。「本当に待つのは正しいんだろうか。」とか「今頃は何をして居るんだろう。」とか。
そして、「待たせれば良かった。」という我が儘な思いに駆られる。格好などつけずに「待ってくれ。」と言えば良かったとか。
後は、「両方から捨てられた。」っていう噂話。結構コレが地味に堪える。
そんなことばっかりうだうだ考えていると、どこかにすっ飛んでいって確認したい衝動に駆られる。
思えば、立ち止まったりせずひたすらに前へ前へと自分のペースで突き進んで生きてきたからな。そんな風に考えちまうんだろう。

「お預け。」もできねえ躾のなってない犬と同じじゃねえか。と少し思った。

でも、それでもだ。

格好付けだろうがなんだろうが。そう言うふうに決めて相手に約束させたのだ。
そして、偽善と言われようとも無事に付いたという知らせを待つと決めたのだ。

それに二人とも出会った頃の頼りない少女じゃなく…大人の女だ。

信じて待つ。たとえ何年先になろうとも…だ。

じっとあの店で待ち続ける。腹は括れた。

よし。

気合いの声を入れてから腰を上げ、パダへと戻った。
 
新王国歴517年7の月2日 昼前
シタール [ 2005/07/05 17:07:27 ]
 市場からの買い出しを済ませて店へ戻ってくると、そこには休みのハズのコーデリア。
休みの日に何してんだ?お前は?

「何ってぇ。あんたがぁ帰ってくるのを待っていたって言うの?」

…は?何で?俺を?

そこで端と見るといつもに比べて着飾ってる。それにうっすらと施された化粧。
「おいおい。マジかよ。」と。一瞬変な想像が過ぎる。

「ちょっとぉ。変な期待しない出よね。あたし達はぁ、あんたじゃないとぉ出来ないことを頼みたいわけよ。」

あー。そりゃそうだわな。レイシアやライカとの一件はここら界隈じゃ有名だし、しかもコーデリアだ。まずそれはない。
あんだけ、女扱いされずに小突かれてそんな感情持つ奴は変だ。
って、待て。あたし「達」?どういうことだ?

尋ねようとした時、店の扉が開いて大男が二人は行ってきた。ギグスとラウドの二人だ。

「うーす。お。嬢ちゃん。シタールは捕まえられたな。」
「ふふーん。任せてよぉ。あたしぃ。みんなのシフトだけはぁばっちり覚えてるのよ。」

…何ごと?俺に何かさせたいワケか?

「”巨岩に吹く東風”よ。すまぬが小孔雀街まで付いてきてくれないだろうか。」

いや、別にかまいやしねえが…道すがら説明はしてくれよ。

あそこにいくってのなら着替えた方が良いな。そう思うと俺は部屋へと入っていった。
 
新王国歴517年7の月2日 昼過ぎ
シタール [ 2005/07/05 23:37:41 ]
 小孔雀街の目当ての店で俺が情報を引き出し、そこでラウドとギグスと分かれた。
情報の真贋は、俺は真実だと思ったし、かなり詳しい情報もらーだ辺りで調べれば得られるだろう。
ま、ここからはあの二人がどうするか決めれば良いことだ。俺は手伝える範疇で手伝った。

その後、俺はコーデリアを連れて小孔雀街を軽くぶらつき、今はきままに亭へと戻る途中だ。
俺は胸元ゆるめその部分で中へ風を送り、軽く唸った。

昼過ぎの大通り。どいつもこいつも忙しげに足早に歩いている。チャザの大祭が近くなるとオランの街はどこもかしこもこうなってくる。でも、活気がこの街の特徴だ。活気が熱気となって俺等に伝わる…。暑い。

正直言えば、蒸し暑い日にきちっとしたこの民族衣装はきつい。けど、筋を通すべき場所もあるだろうし、着といて損はねえだろう。実際役に立ったわけだし。

「ムディール人って言うのは同胞意識が強い。」

これはムディールに行った他国の人間や大きな街にあるムディール人が集う区画に入った人間なら一度は感じることじゃねえかと思う。

地理的に、他国と交流しづらいってのもあったし、国自体も古いってので自国の文化に対する妙な誇りもある。それが原因だろうなって俺は思っている。

まあ、でもここは外との交流したい奴らが出てきてる街だから多少はマシだが、気質ってのは相応かわらねえからな。
リックが交渉役を断ったのも分からなくはねえよ。

「ふーん。それでぇ、あんたがその格好で行ったのは分かったけどぉ。あんただってそのムディール人じゃないのぉ?」

あー。俺は親父がムディール人だけど。生まれたのはパダだし、お袋はムディール人じゃねえからな。
ムディールに始めていったのは6つは過ぎてたし、俺がムディールで育った村は開拓村でよそ者が多かったからしよ。生粋の奴らとはちょっと違うんだわ。

「へー。初耳ー。あー。あたしぃ。ここで帰るね〜。バイバイー。」

買ってやったムディールの衣装を抱えながら自分の寝床へ向かうコーデリアを見送った後にふっと考える。

俺は自分自身をパダの穴熊だと思っている。
それでも。小孔雀街の人間にとって、俺は同胞らしいし、それを嬉しいと思ってるし、中でのしきたりに従う自分もいる。

パダの人間だと思う自分と。ムディール人だと思う自分。
どっちも自分だけど、この二つは軽い矛盾だよな。

そう思いながら、どんよりと曇った空を見た。

今夜は雨が強く降りそうだ。
 
新王国歴517年8の月8日 夕刻
シタール [ 2005/08/13 0:28:59 ]
 祭りが終わった翌日。疲れた身体を引きずって部屋にある荷物を片づけ始める。
ここに雇われる時から、祭りが終わった翌日には出ていくってのはフランツのおっさんとの約束だったしな。

未練はないっちゃぁ…嘘になる。
ハリートが俺と同時にしばらく休むってのを聞いて一抹の不安が過ぎったし。
まだまだ、バザードもコーデリアも見ていて危なっかしい所はある。
ま。前みたくだらだらやってるワケじゃねえし、また新しいのを雇うみてえだからなんとかなるだろ。

それに部屋が変わるだけで、この店で暮らすってのは変わらねえし。
よし。祭りが終わった以上は、次のネタを探すために動き出すか。

荷物をまとめて客室の方へ運ぼうと店の中へともどる。

─おーい。バザード!ちゃんとあの二人部屋の掃除は済ませてあるだろうな?

「あ。はい。ばっちりですよ。掃除は任せて置いてくださいよー。」

胸を張って自慢げに言っているが…。さっき、大量の皿を割ったばかりって言う事実がある。
まあ。部屋の掃除に関しては。いつもきちっと出来てるから大丈夫…だと思う。

─わぁーった。んじゃ、荷物運び込むぜ。良いな?

「……あ。でも、シタールさん。その前に女性のお客さんが。」

女性と言われて、慌ててテーブル席の方を見た。一瞬、あいつが戻ってきたのかと思った。
「馬鹿野郎。後一日に早く帰って来いよ。」とか…そう言う言葉が口を出そうになったが。

俺の目に映ったのは燃えるように赤い髪だった。

─…イゾルデ姐さん?

「や。久しぶり。ちょっとシタール君にお願いがあるんだ。」