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霞通りの出来事
ラス [ 2003/08/20 0:56:38 ]
 (PL注:このスレッドは“日記”タイプ宿帳とは別物です。ので、アドリブで思いついたことがあれば、そして、ひっかき回したい人がもしもいてくれるなら、自由に書き込んでくださってかまいません(笑) 逆に、相手にされないと哀しみの涙で枕を濡らしてしまうかも(きゃ))
 
前触れ
ラス [ 2003/08/20 0:58:56 ]
 カレンが体調を崩してる。
それは多分、夏風邪ってよりも知恵熱のような。
……あいつ、余計なこと考えすぎんだよな…………。

そんなことを考えつつ、霞通りに出向いた。最近はやけにこっちのあたりが騒がしい。
西のほうから……具体的に言うなら、ドレックノールのあたりから、いろいろと入り込んできてるらしく、小競り合いが絶えない。
遺跡の調べ物もあるし、何より夏ばて続行中だし……うぜぇの何のって。

“砂漠の薔薇”なんて小洒落た名前を付けている割には、あまり上品とは言い難い娼館。
最近は、そこの裏の部屋を借りることが多い。もちろん、娼婦たちの個室とは別だ。
そして、この店の馴染みは、一昨日、“例の薬草”を俺に持ってきた娼婦、リタ。オランに来てからの馴染みだが、最近は年もとったせいか、どちらかというと若い娼婦たちのまとめ役をしている。
娼婦……というよりも、“兎”だ。
ギルドに顔を出すことはほとんどないが、現場にいて、時々俺にネタを渡してくれる。

今日も、その個室にいた時にリタが顔を出した。
浅黒い肌に緩く波打った長い黒髪。真っ黒な瞳。その色合いは相棒によく似ている。
そういえば、最初に声をかけたのも、それがきっかけだったな、と思いだした。

「最近、西からのお客さんが多いわよね。何度も呼び出して悪いと思ってるわ。……だから、いいこと教えてあげる。あんたの相棒に関すること」

チャ・ザ大祭の準備が始まる前。初夏の頃に、カレンがやった仕事が幾つかある。
その中の1つが、まだ片づいてなかったらしい。
……いや、片づいてなかった、というよりも。
残党がいる、と。
そして、その残党とやらが、最近西から来ている“お客さん”といろいろ通じ合っているらしい。

厄介なことになりそうだな。
とりあえず……完全にくっつく前に、その残党とやらを片づけておくか。

「良かった。そう言ってくれると思ってたわ。……実はこれ、“上”からの仕事だったのよね。アタシがネタを持ってったら、ラスに言えって追い返されたの。そして、ラスとカレンにやらせろ、ってね。あんた、家に戻ったら相棒に言っておいてよ」

カレンに?
…………………。
……あー……いや、今はちょっと。体調崩してるから。
いいよ、西の奴らとくっつく前なら、さほどの人数じゃねえだろ。ちょっと調べて……無理そうなら、別口で応援頼むから。
だから、おまえもカレンに余計なこと言うなよ。とりあえず今は。

ああ、それと。
最近の小競り合い、衛視どもも嗅ぎ回ってるだろ。おまえ、若い奴らに言って、衛視どもの動向探らせろ。
そして、出来るなら、衛視が手を出さないように仕向けろ。無理なら上に言ってでも。
今、衛視に邪魔されるわけにいかねぇんだよ。
西からの奴らが警戒して逃げを打てば……そして、その残党どもがそれに反応すれば厄介なことになるから。

頷くリタを見ながら……ひょっとしたらしばらく帰れねぇかも、と思った。
 
郷愁?
リディアス [ 2003/08/20 3:51:01 ]
  仕事の金も入ったことだし、ちょっとばっかり色町に遊びに行ってみるのもいいかなーなんて、足を向けた霞通り。
 ふと郷愁を感じさせる懐かしい響きが聞こえた。
 それは西方語だった。

 しかし、こんな場所でか? オレにゃ意味のわからねぇ東方語ならここでは良く聞くことがあるが、西方語なんてまず耳にすることはない。この街には、オレみたいに西方から来た奴も少なくないだろうが、少なくともその誰もが、ここで西方語が使えねぇことぐらい判ってるはずだ。
 もし、それを使ってるやつがいるとしたら……それは、酔った勢いとかの全く無意識に出るもの。そうじゃなけりゃ、周りにわからねぇってことを良いことに内緒話でもしてるのかもしれねぇ……。
 まぁ、聞こえてきたその声の質や、チラッとだけ見た声の主たちの雰囲気……そういうことも考えたらまず後者なんだろうな。それは、同時に、できれば、係わり合いになりたくねぇことだって意味でもある。
 オレは全く気が付かないフリのまま歩いていった。後ろに神経を張ってみたが、ついてくるような奴はいなさそうだ。どうやら、オレの”フリ”も捨てたもんじゃねぇみたいだな。

 しっかし、こんな場所で、こんな形で郷愁を感じるなんて思いもよらなかったな。
 ……ま、もちろん、漏れ聞こえた「グラダ」っていう名前には、全く郷愁を感じることはなかったのだが……

 ハァ……気分も萎えちまったな。さっさと宿に帰って酒飲んで寝るとしよう。
 
 
違和感
A.カレン [ 2003/09/04 23:49:11 ]
 だいぶん熱も引いて、だるさが抜けてきたようだ。
何日間か、薬以外のものを、あまり口にしなかった。
多少ふらふらするが、意識ははっきりしている。
外を見ると、朝と昼の中間くらいだとわかる。

「カレン、起きてる?」
ファントーが顔を出した。手にはトレイ。その上に皿。
「少し食べない? スープだけど」
途切れ途切れの記憶しかないが、目を覚ますと傍にいたのは、ラスよりもファントーのほうが多い。その度に、何か話しかけていた。俺にではなく、あれはサラマンダーにだろう。
「よかった。だいぶ大人しくなったみたいだ」
これも、そう。
「上達してるみたいだな。精霊との疎通」
「う〜ん…どうなんだろ。でも、サラマンダーは気性が荒いから、なかなか言うこと聞いてくれないんだよね。この間だってさ……」

自分と精霊との間に起こったことを話すファントーを見ていて、確実に成長していると感じた。強くなっている。語り口調こそ違うけれど、ラスに似てきたみたいだ。


そして、ひとしきり喋った後。
「俺、これから買い物に行くけど、何か欲しいものある?」
「いや、ない。……ああ、出かけるんなら、これを届けてくれないか?」
ギグスとの約束の品を、マックスの店に預けに行ってもらうことにした。1週間と言っておいたのに、もう2週間近く待たせてしまっている。…謝らないとな。

ファントーが出かけてから、違和感に気付いた。
こんな時間にラスがいない。
いつもなら寝ていないことはないから、昨夜は帰ってこなかったのだろう。
また、馴染みの女のところか……。

………面と向かうのは、ちょっと気まずい……かもしれない。
あんな弱いところ…見せたくなかったからな…。
 
(無題)
ワーレン [ 2003/09/04 23:50:44 ]
 霞通りの、ある袋小路にて。

・・・なぁ、アンタ、別に、無理矢理捕まえるとか、理不尽に牢にぶち込むとか、そんなことはしねぇ、よ。
俺だって、アンタの背後を知らないほど馬鹿じゃない。そうだろ、裏の”御同業”さん・・・?

あ?グラダぁ?

いーや、その、グラ何とかの使いでも何でもないって・・・本当に俺知らないの、か?
だから、なんだよ、其の顔・・・まぁ、いい。

ただ、さ。
こんなところで、俺の仕事に対して、”都合の悪い真似”は止めてくれや・・・あ、いや、”頭の悪い真似”だ、な?

今さっきみたいな、さ?

いくらなんでも、アレは”取り返しのつかない事”になるところだったろ?
今日は運が良いよ、アンタ・・・他の衛視じゃなくて俺で。なぁ?良かったよな?

・・・おぃおぃ。

そんな顔して睨むなよ。殴ったのは・・・まぁ、あの一発はさ、所謂”正当防衛”な訳、だ。ん?あー、その、二発目は・・・悪い悪い、やりすぎたわ、うん。

だがよ・・・

”巣穴”からの指令って言っても、ちょいとばかし、乱暴過ぎやしない、か?事情を知ってる俺だから良かったものの、他の衛視達、今結構ピリピリきてるとこに、余計な事したら、今度こそ・・・ん?

おぃ?

なんだ、その短剣は・・・?何処に隠し持って・・・

うッ

・・・てめぇ、まさか・・・そうか、道理で、反応が悪いと思ったぜ。さっきも言ったが、それを俺に向けるってことは、どういうことか・・・其の顔じゃ、分かっている、か。

あ・・・

しかも・・・御丁寧に、気味の悪い色塗ってやがる。
ぐぅっ!?や・・・やべぇ、ちょいとクラクラ、してきや、がった・・・

くそっ

ちっ、俺に止め、刺すのか?ふざけんじゃ、ねぇ!

”ばちーん!!”

・・・今日、俺が振るった三発目は、腰の小剣だった。まぁ、振るったとはいっても、小剣の腹で顔面ぶっ叩いただけ。まぁ、どーやら気絶させるには充分だった、な。証拠に、鼻血流して、間抜けな顔して、倒れてやがる、ぜ・・・

あ・・・

やばい、今度こそ、やばい・・・左手が真っ青、いや、黒い・・・俺の記憶が正しけりゃ・・・黒い何とかってやつで・・・一定の間隔で苦痛が襲うやつ・・・だったけ?
馬鹿、何やってる俺。今は、とにかく、何とかしないと・・・

でも、間に合う、か?

はぁ・・・こんな事になるんだったら、今朝、ツレに、良い顔して・・・ついでに、不器用でも誉めてやりゃぁ良かった、ぜ。

厄介を覚悟で、”巣穴”に飛び込むか、知り合いの薬屋に飛び込むか、それとも神殿・・・馬鹿、コネがねぇよ、俺。詰め所は騒ぎになる・・・

あぐっ・・・

馬鹿野郎、左腕、ちっとは頑張れ。痛いのは分かって、る。
とにかく、一時間のうちに何とかしないと・・・

やべっ・・・

朦朧とする俺は、足がもつれて、地面にすっ転んだ。
其の先に、誰かの影が見えた。
 
(無題)
“イカレ屋”ヴァイル [ 2003/09/04 23:53:33 ]
  最近、霞通りが騒がしいのよねぇ、ドレックノールからの”お客さん”のせいで、最近小競り合いが多い上に、祭り前に片付けられた残党がなにか通じているとか……多分”上”の命令ですでに誰かが動いているだろう、だいたいあれよね?諦めの悪いオトコっていうのは同性としても見てて腹立たしいわ…。

 「う…うぅ……」

 今は自分の部屋、部屋にはお客さん、というより”拾いもの”。
 霞通りの袋小路で倒れているのを見つけた時には驚いたわ、左腕は変色までしているんですもの。
 気絶していた男は…まぁ、夏だから風は引かないでしょ、アタシは一人連れてくるだけで精一杯だったもの。

 「……ここ、どこだ?」

 どこだはないでしょう?昨日肩貸してここまで連れてきて、手当てまでしてあげたっていうのに。

 「……オカマ?」

 オカマじゃねぇよっ!
 だいたいあんた、それが助けてくれた恩人に対する言葉なの?最近の衛視はなってないわねぇ。
 って…あんたどこ行くのよ?病み上がりのような状態のクセして。

 「世話んなったな、動けるようだし、俺は戻るわ」

 だぁめ、ベッドに戻る、一度拾った以上は完全に直るまで面倒見るわよ、途中半端は嫌いなの、アタシ。
 …そんな目でみなくても大丈夫よ、こう見えてアタシはオンナノコの方が俄然だい好きだから。

 さぁ、イイコだから大人しく戻りなさい、またぶっ倒れて運良く拾われるなんて幸運、そうそう続かないわよ。
 
思案どころ
ラス [ 2003/09/04 23:56:10 ]
 「最近、騒がしいわよ。特に一昨日から昨日にかけて」

“砂漠の薔薇”の一室。俺の手元の羊皮紙を詰まらなさそうに覗きこみながら、リタがそう教えてくれた。
うるさいのはどっちだ。例の残党か。それとも西からの?

「ううん。衛視サン」

霞通り近辺の詳細地図に書き込みをしていた手が止まる。
……ちょっと待て。今、衛視に首突っ込まれたらヤバイってのはおまえも知ってるだろ。
今回の件は、ギルド内の身内争いみたいなもんだ。もともとはな。
それがまだ人数が少ないうちに、ってことで夏前にカレンが一旦片づけた。
そして今頃、西からの奴らがその燃えかすに油を注いでる。

ああ、いや、逆だな。奴らが、勝手に油を注がれてるんだ。
おそらく西からの奴らは、たいしたこと考えていやしねぇ。
誰が好きこのんで、ギルド同士でヤり合いたがる。オランと事を構えるつもりなんか毛ほどもないはずだ。
大体、そんなことになったら“上”が黙っちゃいねぇ。俺程度の下っ端に押しつけて終わりなんてことはないからな。

だからまぁ、こっちの仕事は……基本的には燃えかす掃除だ。
奴らが、西からの客たちに余計な真似をしないうちに。
もちろん、燃えかすどもが幾ら自分たちを売り込んだってたかがしれてる。けど、流れちゃ困るネタだってなくはない。

もちろん俺は西からの奴らには積極的に関わらないし……ってか、そもそも西方語わかんねぇし。
別に燃えかすな奴らと、正面からやり合うつもりもねぇ。
そんなことが出来るほど頭数揃えちゃいねぇからな。
ギルド側からの交換条件は引き出してある。あとは口先で、奴らを丸め込んで、どうにか……。

「ねぇ、ラス。ところで知ってる? 一昨日から衛視サンがうるさい理由のひとつ。全部じゃないけど」

……リタ。教えて、って言うから。どうせおまえも足突っ込んでんだから、と思って。だから話したのに。
てめぇ何ひとつ聞いてなかったろ。
………………………で? その理由って?

「なんかね、衛視サンが一人行方不明らしいのよ。それでほら、最近は西方語が飛び交ってるじゃない? だから、そっち絡みでヤバイ目に遭ったんじゃないかっていうのが本筋みたい」

本筋ってことは……そうじゃない筋も?

「うん。なんか、『寝返ったか』とか何とか漏れ聞いた若い娘もいるわよ。でも、アタシは誰が寝返ったのか、そもそも誰がどんな風にいなくなったのか知らないんだけどね。……あ、思いだした。これ、イカレ屋があんたに渡せってさ」

そう言って、リタがチェストの上に無造作に放ってあった羊皮紙を俺に渡してくる。
封蝋を解いて開けてみると、中には俺が頼んでおいた情報。
例の残党どもが、以前根城にしていた店のリストと、最近の目撃情報なんかだ。
…………リタ。こういうものは早く渡せ。ってか、幾ら仕事明けだからって、いつまでも下着姿でうろつくな!

……いや、それより。
なんでイカレ屋の奴、俺に直接渡さないんだ?
 
不在
A.カレン [ 2003/09/04 23:58:51 ]
 昨夜、シタールが来ていたらしい。
今朝方、ファントーがそう言っていた。……起こしてくれればいいものを……。
「寝てるなら、わざわざ起こすことないって言われたから」
そりゃそうなんだけど。
…ってことは、俺に用があったってことか?
ラスじゃなくて?

そういや、ラス…帰ってきてないんだよな。
女のところにしけ込むにしては長い。
……仕事か?
ならいいんだけど。
家にも帰ってこれない仕事って…?


正直言って、これは異様な感じだ。
今までだって、お互い個人で引き受けた仕事に関しては、干渉することはほとんどなかった。
しかし、連絡が途絶えるということもなかったはずだ。
……そろそろ外に出たほうがいいかもしれないな。
熱も完璧にさがったし、体調もそれほど悪くない。

それにしても、だ。
おかしいもんだよな。
なんで、アイツが帰ってこないってだけで、こんなに落ちつかないんだ。
 
矜持の価値
グラナ・ダナ・ラグ [ 2003/09/05 0:01:13 ]
 不愉快だ。
まったくもって不愉快な話だ。

いいか、オレの名はグラナ。
ラクダでもなければ、グラダでもない。
グラナ・ダナ・ラグだ。

チッ、人違いしておきながら詫びの一言もないとはな。
これだから、街の人間はなっちゃいねぇ。

フン、高い金を払ったってのにもうシケてやがるとはな。
これだから、街の煙草はなっちゃいねぇ。

オランに来て以来、自慢のパイプが泣きっぱなしだぜ。

不愉快だ。
まったくもって不愉快な話だ。

よし、ここはひとつ、そのグラダとかいう野郎を探し出してツラでも拝んでやるか。
手がかりは、野郎が口走ってた『残月』だけだが、ま、なんとかなるだろう。

だが、その前に片づけておかなければならない問題がある。
“鍵”であり“弓”でもあるオレの矜持に賭けて

……宿への帰り道を思い出せ。

これだから人間の街は馴染めねぇ。
フゥ、故郷の草原が懐かしいぜ。

シケた葉の紫煙にも馴染めねぇ。
が、煙の揺蕩うままってのも悪くはないな。


ビンゴ。


……行き止まりとは流石だぜ。
 
約束
ネオン [ 2003/09/05 0:03:16 ]
  ”深く眠りにつく遺跡”の探索から帰って……とりあえず、ラスさんに会いに行こうと思った。遺跡のほうは、思った以上の収穫があったし、懐も暖かい。仕事に行く前に交わした「今度は僕が奢る」という約束を果たしにいきたかった。
 約束だから。だけど、それだけじゃなくて……言葉ではうまく言えないが、あえて言うならそうしたいから……。約束を果たすこと自体が大切なのではなくて……そうすることによって遺跡で成功してきた話を聞いてもらいたい。純粋にそう思えた。
 変な話だ。遺跡から帰ったばかりで体は疲れているのに、部屋でノンビリ休むよりもそちらを選んでしまうとは。前の僕ならこんなことはしなかっただろうな。ラスさんと話す前の僕なら……いや、”約束”という部分に拘ってならそうしたかもしれない。しかし、話したい、聞いてもらいたい、と思うことはなかっただろう。

 遺跡に行く前、ラスさんと話をして、僕の態度のことで色々とあった。僕自身、思うところはあったが、どうしたら良いのか判らなかったし、そもそもどうするつもりもなかった。だが、あの時、ラスさんと話すことができて、多少は僕自身に変化があった……と思う。しかも、それは僕にとって有益な変化のはず。
 ラスさんと話をして、僕の変化をどう思ってもらえるのか、それが気になるというのも、僕がラスさんに会いに行きたい理由の一つだった。


 オランに帰ってきた次の日、ギルドに顔を見せて、遺跡から帰ったことの報告や遺跡で得た収入からの上納の手続きなどを済ませ、それからラスさんの家に向かった。まだ日は高かったから、この時間なら家にいるだろうと思ったから。
 しかし、その家でもラスさんに会うことはできなかった。代わりに出てきたのは、ラスさんの相棒のカレンさん……病気でもかかっているのか少しやつれて見える。話を聞くとどうやら熱を出していたとか。ずっと寝ていたおかげで熱のほうは落ち着いているが、まだ本調子ではないらしい。そして、そんな状態であるから、やはり、ラスさんの行方については知らないそうだ。
 ただ、少なくとも寝込んでいるここ数日、ラスさんが家に帰っていないということだけは確からしい。仕事かもしれない、とカレンさんが付け加えたが、それもラスさんから直接聞いたことではないからハッキリとは判らないとか……。

 ラスさんの家を出た僕は、そのままもう一度ギルドのほうへと引き返した。ラスさんが仕事だと言うのなら、何よりギルドで聞くのが手っ取り早い。本来なら僕がそれに興味を持ついわれはないのだが、どうしても気になってしまった。
 ギルドで少し聞いてみると、何でも最近、霞通りに西の人間が流れてきていざこざが起こっているのを抑えるために奔走しているとか。ギルドでは、当初、ラスさんとカレンさんの二人に任せるつもりだったらしいのだが、カレンさんが病気なのでラスさんが一人でそれをこなしているそうだ。しかも、そのために家に帰る暇もないほどに忙しいとか。
 しかし、さっき会ったカレンさんの様子からして、カレンさんは仕事のことを全く知らないようだった。それは、カレンさんの体調を考えてのラスさんの配慮なのだろうか……。

 まぁ、ラスさんがそれをカレンさんに隠しておきたいと言うのなら、それを伝えることはないだろう。しかし、ラスさんが一人で仕事をしていて、そのせいで今、かなり疲れているというのは聞き捨てられない。僕に……何かできないだろうか? 人の仕事に口出しをするのはご法度だということは判っているが、そういう理屈云々をなしにしてそう思った。
 ギルドから出たら、日は傾いているが、まだ高い位置にあった。この時間なら霞通りはまだ目を覚ましていないかもしれない……けど、行ってみよう。ご法度かもしれない、余計な手出しかもしれない。しかし、僕の心がそう思ってしまった以上、そうするのが僕が僕であることなんだろう。
 
予感
ラス [ 2003/09/05 0:04:38 ]
 「ギルドで聞いたら、おそらくこちらだろうと……」

陽がようやく傾き始める頃。尋ねてきたのはネオン。
あー……やべ。ギルドに口止めしてくんの忘れた。
普段なら、隠密行動が基本な仕事では、言うまでもなく箝口令が敷かれるが、今回は別にそうじゃない。
だから、ギルドの人間が聞くなら、向こうも教えるだろう。
……ってことは、カレンが聞きに行っても? うわ、やべ。ああ、でもギルドまで戻ってる時間は……(ふと目を上げるとネオン)

「あー。なんていうか。うん。………頼まれてくんねぇ?(にっこり)」

別に一人で全てをやってるわけでもない。手下だっていることはいるし。兎のねーさん達も手伝ってくれている。
それに、別口で……そう、俺が個人的に手伝いを頼んだ人間もいるしな。
もともとはギルドの仕事だ。手が足りなくなりゃ、そっちに増援要求するだけだし。
カレンもファントーも妙に勘がいいから。だから戻らないだけで。
いや、戻る暇ねぇのも事実だけどさ。ちゃんと寝てるし食ってる。だから、心配してくれんなら、ギルドに使いに行ってくれ。
カレンには絶対言うな、ってな。

少し話して、ネオンと別れたのは陽が沈みきった頃だ。
夜中には、残党の1人とこっそり会う予定だった。
今回、片づけなきゃならねぇ残党は全部で4人だ。その中のリーダー格の奴はどうにもキレる……あ、間違えた……キレてる奴だから、可哀想な小心者の仲間が1人ビビってる。
ビビってるなら、保護してやろうってのが、寛大で優しい俺の作戦だ。ただし、ネタと引き替えだけど。
約束の時間までにはまだ少しある。
今のうちに仮眠しておくか、と寝台に潜り込んだ。

そして、潜り込んだところでなんとなく思いだした。
ネオンには、ギルドへの連絡以外にもちょっとした連絡を頼んだ。イカレ屋へのツナギだ。
イカレ屋のヤサに行く途中には、俺がこのあと行く予定の“待ち合わせ場所”がある。
店の名前は『銀月』。
ここらじゃ珍しく、娼館としての運営はしていない。
そこにいる綺麗なねーさん達の仕事は、夜伽の相手じゃなくて酒の相手だ。
その奥の個室を借りてある。裏口から入れるようにと手はずも整えてある。

ま、そんな偶然はどうでもいい。寝ておこう。

「ラス! 起きてるっ!?」
「…………リタ。ノックぐらいしろ。枕飛ばされたくなきゃな」
「大変よ。グラダが捕まったのよ!」
「──なんだって!?」

思わず跳ね起きた。グラダと言やぁ、ドレックノールの一味の……その中でもそこそこ上のヤツだ。
オランのクソ衛視どもに捕まるヘマなんざ……いや、そもそも何で捕まる?

そこへ、別の兎が駆け寄ってくる。そしてリタに、違うのよ違うのよ、と手を振っている。
きょとんとしたリタと、若い兎とを見比べて、話を促してみる。

捕まったのは、グラダじゃなく、グラダによく似た男だったらしい。
ラクダだとかグラランだとかラグナロクだとか、なんかそんな名前の。
喧嘩だか詐欺だか恐喝だか、なんかそんな容疑で。

なんだ、グラダじゃねえんなら、別に何の関係もねぇ。
予定通り、仮眠してから『銀月』に行こう。可哀想な小心者のレスターが俺を待ってるはずだから。
そう、予定は何も…………………待てよ。
………………………何考えてんだ、衛視の奴ら。
喧嘩? 詐欺? 恐喝?
冗談じゃねえ。霞通りはギルドのシマだ。今まではそんな軽犯罪で衛視が手を出すことはなかった。
手を出すことになっても、ギルドに一報入れてたはずだ。
そしてこの状況なら、ギルドに一報入れば、俺に伝わらないわけもない。
衛視の動きが普通じゃないのは……。

「あら、衛視サンたちもお仲間探してるんじゃないの? ほら、行方不明なのが2人いるって言ってたじゃない」
「待て。おまえ、1人だって言わなかったか?」
「2人になったのよ。だからさすがにおかしいかもって、衛視サンたちも必死みたいね」

…………何かが引っ掛かる。
それぞれはそれぞれで勝手に動いているはずなのに。なのに何かが引っ掛かる。
とりあえず……今から『銀月』に向かってみるか。
 
呼び出し
A.カレン [ 2003/09/05 0:06:26 ]
 ラスを訪ねてきた人物がいた。
まだ若い、ギルドメンバー。
ポーカーフェイスといえば聞こえはいいが、うっすらと笑みを張りつかせたままの顔は、ラスやファントーを見慣れた俺としては、少々不気味だった。
微妙に表情が動いたのは、「家主はいない」と告げた時だけ。
よほど会いたかったんだろう。


その後、俺を訪ねてきた人物もいた。
これもギルドの人間。ジントだ。
どうやら、お呼びがかかったらしい。すごいタイミングだ。
用件を終えても、ジントはその場を去ろうとしなかった。いつもは無邪気に軽口を叩くくせに、今日は妙にだんまりで、これまた不気味。
仕事でヘマをするやつじゃないから、プライベートで何かあったんだろう。
深く詮索しない。
そんな時間もない。


ギルドで待っていたのは、チャザの大祭の前に仕事を回してきたヤツ。
と、もう一人。痩せた男だ。俯いていて、顔が見えない。

「お疲れのところ、悪いんだがね。仕事だ。前回の件の後始末を」

……後始末?

「西の連中がオランに入りこんでいる事は知ってるな? そいつ等を手引きしてるのが、あの一件の残党らしいんだな」

そんなばかな。残党なんているわけない。あの時、完全に潰したはず。ヘマやって捕まったメンバー開放して……。
…あ……まさか……あの人質。

「心当たりがあるようだな。…なぁに、お前さんの鉄面皮は、このギルドでもトップクラスだが、見慣れればなんとかわかるもんだ」

揶揄、だな。

「で、仕事だが……言わなくてもわかるよな?」

残党の始末か。

「消せ。お前さんの良心とやらが許す範囲で構わん、と言いたいところだがね、そうそう特別扱いもできないんだな。そう何度も”からきし”に、このテの仕事を回すと、恨まれかねん。人の尻拭いは、真っ平だというヤツでもあるしな」
「…………」
「じゃ、頼んだぜ。早いとこ片づけてくれよ。”音無し”一人で手間取ってるからな」

…なんだって?
だから帰ってこないのか、アイツ。
だから歯切れが悪かったのか、ジント。

「で、病み上がりのお前さんに、一人助っ人だ」
痩せた男が、顔を上げた。
「ヨロシクな。シェイドの秘蔵っ子さん。……久しぶり」
 
(無題)
ワーレン [ 2003/09/05 0:08:38 ]
 夕暮れ差し込む一室。
粗末ではないベッドで俺は腰掛けている。

・・・ちくしょう

呟きつつ、包帯を捲かれた左腕を見る。
腕に歪な凸凹が包帯を通して姿を晒す。
俺を苦しめた毒は消えても、未だに醜い腫れだけが残る。

衛視仲間からは”頑健”で通っている俺。
それ相応の体格、そして筋肉が俺の自慢でもある。

・・・見た目だけならばいい。

問題は、感覚。
左の掌を握るが、幾分か浮いたような、不安定で、どうも頼りない。
近くに置いてある小剣を鞘から引き抜き、軽く振るう。

ひゅ ひゅっ

念の為に確かめる。
右の手には何ら問題は無い。問題の左に持ちかえる。
もちろん、利き手ではないが、普段であれば問題無く振るう事は出来る。
しかし・・・

ふ ふる ふる

手が微かに震え、少しでも振るおうとすれば、小剣がすっぽ抜けていきそうだ。
こでは・・・俺の得意とする長槍が満足に使えない。

「あら、動かせるの?」

入口の方から声がする。女言葉だが・・・男の声。”イカレ屋”ヴァイルだ。
どうやら、命の恩人・・・らしい。

「でも、其の手の様子だと、まだまだ途中半端ねぇ」

なぁ、ここまで回復したんだ。アンタにゃ、感謝している。
だが、いつまでも世話になるのも心地悪い・・・もう、出ても良いだろ?

「だぁめ。拾った以上、完全に治るまで、そういったでしょ?」

はぁ・・・”捨てるは獣、拾うも獣”・・・故人が遺した言葉、だ。
頭を抱えたい気分、だ。

今の時期に、衛視一人行方知れずになるのは非常にまずい。
せめて、無事だけでも伝えたいところだが、どうもそれも駄目だと言う。

曰く「それは都合が悪い」のだと。

「まぁ、ちょーっと協力してくれると嬉しいのだけど」

そう言うと同時に、もう一人、誰かが入ってきた・・・
 
月を見るたびに思い出せ
グラナ・ダナ・ラグ [ 2003/09/05 0:10:20 ]
 万事、塞翁が馬と云う。
半日近くもアテのないままに彷徨い続けたが、どうやら、結果オーライのようだ。

『残月』

看板にそう刻まれた店を発見できた経緯は二代目道標君グレイトステッキの活躍なくしては語れまい。
フフフ、頼もしい相棒よ。今後も先代に劣らぬ活躍を期待させて貰うぞ。

慎重に店内へと滑り込む。
オレの背丈なら背を屈めれば扉の下を音もなく潜ることも可能だが、それは扉への冒涜に他ならない。
人は扉があるからこそ開けるのだ。鍵がかかっているからこそ外すのだ。罠があるからこそ挑まんとするのだ。
フッ、平穏な人生も悪くないがオレには退屈すぎるのさ。

賑わう店内。人熱れ。酒や化粧が渾然とした匂い。
客層は偏っている。人間の男が殆どで森妖精の姿が僅かに見える程度。
フム、あの男は混血種のようだが、いや、気にしても詮無いか。

しかし、果たしてこの中にグラダとかいう野郎がいるのだろうか。
居たとしてもどうやって本人を見つければよいのか。それが問題だ。

大声で名を叫ぶか?
駄目だ。必要以上に目立ち過ぎる。事は隠密に運ばねばならない。

虱潰しに聞いて回るか?
無理だ。客の数が多い上に仕切られて個室になっている所もある。

店員に頼んで呼び出すか?
危険だ。此処は相手の領域内。一度主導権を手放せばそれまでだ。

眉間に皺を寄せて黙考するオレに声をかけてきた人物がいる。
店員と思わしき、涼しげな着衣から豊満な体を溢れさせんとする人間の女。

「あら、ウチに草原妖精の客だなんて珍しい。でも、払うものさえ払ってくれれば人間だろうと妖精だろうと差別しないわよ。さっ、こっちで飲みましょう」

そう言って、女は身を屈めてオレに躯を密着させてきた。化粧の匂いが鼻腔をくすぐる。

成る程な、此処はその手の店か。
生憎だがオレは人間の女子に劣情を催す程に奇異ではない。折角のお誘いだが遠慮させて貰おう。

しかし! だがしかし!
肘にあたるこの感触!
この弾力! この質量感!

あまりにも捨て難い。離れ難い。忍びない。名残惜しい。

……ムッ!?
いつのまにかテーブル席に連れ込まれているとは……人間の女子には他人の心を惑わす魔性の力が備わっているとでも言うのか!? クッ、侮れん。

「ハーイ、一名様ご案内〜」
「キャア〜、見て見て、草原妖精よ。小さくてチョット可愛い〜」
「ようこそ、『銀月』へ。今後も贔屓にしてね。そしたらサービスしてア・ゲ・ル」

アッという間に他の女子店員たちに囲まれてしまう。
平素であれば嬌声にも似た喚声は苦手なのだが……全く苦にならないとは面妖なものだ。これも魔力の仕業か。

……待て。いま、何か違和感が……なんだ? この不安にも似た感覚は?

よし、ここは冷静に思い出してみるとしよう。そして考えるのだ、この違和感の正体を。

「ハーイ、一名様ご案内〜」
ウム、確かに案内されたぞ。

「キャア〜、見て見て、草原妖精よ。小さくてチョット可愛い〜」
ウム、確かにオレは草原妖精だ。可愛いと呼ばれるのは苦手だが不安ではない。

「ようこそ、『銀月』へ。今後も贔屓にしてね。そしたらサービスしてア・ゲ・ル」
ウム、確かにサービスされるのならば贔屓にしたくもなるが……いや、待て、そこじゃない。

『銀月』
確かに女はそう言った。では、オレが追っていた単語は何だ?

『残月』
確かに奴はそう言った。では、オレがいま居る店の名前は何だ?


………………。


不覚だ。グラナ・ダナ・ラグ、一生の不覚だ。
しかし、何故だ? 何故こんな間違いを犯してしまったのか?

……そうか、そうだったのか。
謎は全て解けたぞ。表の看板には最初から銀月と書かれていたのだ。

そう、オレは東方語の読み書きが苦手なのだ。今更だが実はそうだったのだ。
銀月と残月は酷似している。ならば、間違えたとしても何ら不思議はない。

フフフ、面白い。この街は刺激に満ちている。
 
(無題)
“イカレ屋”ヴァイル [ 2003/09/05 0:12:02 ]
  この前の”拾いもの”は、順調に回復を見せている。
 ゆっくりと休ませてから話しをきくと、グラダのツナギを待っていた男が、馬鹿な真似をしたから取り締まろうとしたとか。
 馬鹿はあの衛視のほうね、あそこはギルドのシマ、普段衛視たちはワーレンが取り締まろうとした軽犯罪程度で首を突っ込んでこない、相手はそれを知っていた…、だから多分あそこまでされたんでしょうねぇ。
 大体普通そんな事言われても信じないわよ、ギルドの人間が雇われ衛視をしているなんて。

 まぁ、聞き出した情報は有益に利用させてもらったけれどね、丁度ラスに頼まれていたところだったから、ラッキーって奴♪

 「…もう、出ても良いだろ?」

 だぁめ。拾った以上、完全に治るまで、そういったでしょ?それに貴方がどんな目にあって今に至るのか、衛視の耳にはいるのは困るのよね。
 だから、その腕で貴方が衛視の詰め所に行くのは、ひょじょーにまずいの。
 まぁ、ついでだからちょーっと協力してくれると嬉しいのだけど。

 コンコン

 「すいません、ヴァイルさんいますか?」

 ん…だぁれ?あまり聞かない声ねぇ

 「ネオンと言います、ラスさんに頼まれて…」

 あぁ、ラスのツナギ?ご苦労様。

 「おい、協力って俺になにをしろっていうんだ」

 それはまた後でのお話し、今はまずその薬草の煎じ薬を飲んで寝ていなさい。

 「あの…彼は?」

 ”拾いもの”、まぁそれはともかく、ラスからの言伝を教えてもらえない?
 
ギルドと衛視
ラス [ 2003/09/05 0:13:54 ]
 昨夜。『銀月』へ一足早く様子を見に行った。衛視の動きがどうにも気に掛かる。
イカレ屋の元へ、ネオンを行かせたのはそのこともあってだ。
兎たちだけでは、集まるネタもたかがしれている。
行方不明になったと言われる衛視2人。その辺りの事情をどうにか調べられないか、と。

『銀月』には、人だかりが出来ていた。
……おかしい。ここまで混むような店じゃない。裏口へまわる。
見ると、人だかりの先では、何人かの衛視が1人の男を押さえ込んだところだった。
──レスター? 俺の“待ち合わせ”相手だ。

あいつに捕まられちゃ困る。
俺が追ってる、残党どもの今の状況を正確に伝えてくれるはずの男。
どうにか救う手はないか、と。そう思った瞬間。
床に俯せに押し倒されて縄をかけられていたレスターが顔を上げた。目が合う。
「てめぇっ! チクりやがったな!? ギルドが衛視に尻尾振んのかよっ!!」


──考えろ。何かが変だ。
レスターとここで会うことを……何故衛視が知ってる? 偶然なんてモンを信じるほどお気楽に出来ちゃいねぇ。
衛視が知っていたとすれば、それはただ1つ。ギルド側の誰かが漏らしたからだ。
そうする利点は?
衛視の動きに必要以上に牽制されて、西の奴らも船を沖合に移した。
霞通りを行き交う奴らは以前より人数が少なくなっている。

そして、何より……レスターが捕まったということは、そしてあの店で叫んでいた世迷い言を周りが聞いていたということは。
残党どもはここから逃げるだろう。西の奴らに拾ってもらえるかどうかは知らねぇが。
ギルド側の情報を衛視側に漏らした奴の思惑はわからない。
けれど、ひとつはっきりしている。
レスターからのネタがない状態でも、早々に片を付けなくちゃならないってことだ。


昨日、『砂漠の薔薇』に戻ってから幾つかの手はずは整えた。
店の斜向かいにある空き家。そこを根城にすることにして、頭数を集める。
一度集めた頭数を、幾つかに絞ったヤサらしきところへと確認に向かわせる。
向かわせた場所は、『猫の瞳』『金の鳥籠』『残月』『胡蝶館』の4カ所。
そうして、地図を前に、報告を待ち始めて一刻あまり。
ドアが、蹴破られた。

──そっちから来てくれるとは助かった。ちょうどおまえらを探していたんだ。

剣を抜いて間合いを計る。同時に周りの気配を探る。こちらは俺を入れて4人。そして向こうは……増えてやがる。全部で7人か。
踏み込んできたと同時に、一番扉に近い場所にいた若い盗賊が血しぶきと共に倒れる。
なるほど、人数不足を補うために傭兵崩れを雇ったか。
おまえらのその金が、どこから出てるのか。それを知りたくて、なるべくなら生け捕りにしたかったんだが。

戦乙女を呼ぶ。目立つ真似は控えたいところだが、人数差を埋めるには一撃で仕留めないと。
「死体でも構わねぇんだろ!?」
誰かが聞いてくる。当然だと頷き返した。そうじゃなきゃ戦乙女なんざ呼ぶものか。
「どんな形でもいい。落とし前でさえありゃな」

盗賊同士、そして傭兵崩れ。たちまち、あたりには血の臭いが満ちた。
まとめて混乱の精霊を飛ばす。その隙を狙って、仲間の2人が飛び出す。
俺の視界に入っていなかったおかげで、それから逃れていたらしい男が、逃げるつもりなのか裏口へと向かう。
衛視の制服。……おまえか。
じゃあ、ギルドのネタを衛視に流したのも。
そしてこのクソどもにそれを信じ込ませたのも。

追おうとした。が、邪魔された。邪魔をしたのが誰なのかはわからない。敵だとしか。
数度斬り結び、そして斬り伏せる。魔法を使える間合いじゃなかった。
あらためて追おうと、足を踏み出した瞬間、背中に強烈な殺気。
咄嗟に身を屈めて、そのまま前方へと転がる。が、間に合わず、右肩と背中に衝撃が走る。
痛みは感じない。まだ。おそらく後ですさまじく痛くなるんだろうな、と思わず舌打ちが漏れる。
体勢を立て直して、相応のお返しをしてやろうと。
そう思った。

すぐ脇から、フィルドが飛び込んでこなければ。
フィルド。残党どもを仕切っている、キレてる野郎。
咄嗟に剣で受けた。が、弾かれる。奴の持ってるのもミスリルだ。俺とは違う黒いミスリル。
材質が同じなら、あとは純粋に使用者の技量と腕力。
弾かれた直後には、右胸にいやな感触。熱いような冷たいような。

……なら、まともに息が出来るのはあと少しだ。間合いも何も関係ねぇ。戦乙女で吹き飛ばしてやる。
血と一緒に囁かれる精霊語を、奴が聞き取ったとは思わない。
目が合った瞬間、に、と笑った俺の目に何かを視たのかもしれない。
扉の外で物音がした。聞き覚えのある声もする。増援か、それともヤサの確認に向かわせた奴らが戻ってきたか。

逃げた3人のうち、少なくとも最後の魔法で1人は仕留めたと思う。もう1人にも手傷は負わせたと思う。
確認する間もなく、視界が霞んでくる。
膝をついて倒れ込む瞬間、誰かの腕に支えられたような気がする。
「……悪い。2人逃がした。……あと頼む」
支えてくれた相手にそう言ったつもりだった。言葉になってたかどうかは自信がない。
 
旧知
A.カレン [ 2003/09/05 0:16:33 ]
 「でかくなったよなぁ。ひょろひょろなのは変わんねーけど」

ちょろちょろすんなよ。ウザってーな。

「初めて俺等ンとこに来た時ぁよ、シェイドのカゲに隠れてオドオドしてたのによぉ、今じゃぁ堂に入ってるってー感じだし? ここでお前の名を聞いたときは、さすがに驚いたね。シェイドが死んでから、足洗ったんだとばっか思ってたからよ。一人でやってく根性なんかねぇって、みんなして笑ってたんだけどなぁ」

うるせぇよ。黙れ。

「シェイドがお前を連れてきた時も、吃驚だったけどなぁ。あの人、女になんか興味ないってぇ、態度だったのにさ、ナヨナヨしたのを連れてんだもんよ。よくよく聞いたら、お前、男じゃん? よりによって、お稚児さn…」

……………………。

「……いって〜な。殴るこたぁねーだろーがよ。冗談だって。じょーだん。10年ぶりの再会じゃねーの。ちょーっと、打ち解けようかってぇ心遣いじゃん。相変わらず、お堅いヤローだぜ。
…………はいはい。連中の居場所ね。わかってるよ。カタぁつけてもらわねーと、俺のほうもうんざりだもんな。
こっからは真面目な話だ。俺としては、もう引き返したいんだ。でもよぉ、モトが取れねぇって、親分が納得しねぇんだ。バカだから。そんで、考えたわけよ。ここのギルドに手引きしてる連中の情報を売っちまって、そっちを潰してもらおうってな。…まぁ、俺がヤっちまってもよかったんだけど? 他所でコトを構えんのは、後々面倒だ。こっちの連中の手前もある」

だからよ。最初に潰した時に出てってくれればよかったんだ。

「それは、あのバカに言えってよ。だいたいよぉ、衛視の動きが早ぇんだよ。他にエサばら撒いて、気ぃ逸らすのも難しくなっててさ。なにしろ早いんだ。時間かせぎにもなりゃしねぇ。ありゃぁ、内通してる奴がいるな。ギルドの情報、筒抜けなんじゃねーの?」

ギルドの情報が筒抜け?
ギルドに衛視のほうから接触を持つのは、本当に手続きの時のみだ。積極的に関わってくるようなヤツはいない。
じゃぁ、逆?
ギルド関係者で、衛視にツテのなりコネなりあるヤツ。
いるか? ……………いる、よな。


「…おい。言ってるそばからこれだよ。ここらあたりは、オラン盗賊ギルドのシマじゃねーのかい?」
視界の先には、衛視の後ろ姿。
……衛視か? それにしちゃ、おかしいじゃないか。何故一人なんだ。捜査の時は、2人1組が基本だろう? それに、後ろに従っている傭兵らしい一団。普通、あんな連中、使わないだろう?

何気なく見送って、視線を外した矢先。
派手にドアを蹴破る音が聞こえた。
…おいおい。いくらなんでもよ…。やり方ってもんがあるだろ。
そして、顔を見合わせた、その瞬間、耳に響いたのは、聞き覚えのある声。
言っている意味はわからない。
しかし、これは、呪文。何度も聞いた呪文だ。
引きとめる手を振り切り、衛視一団が踏みこんだ建物へ駆けこむ。

最初に目に入ったのは、裏口へと走り去る衛視の後姿。俺の後から入って来た数人が、それを追って行った。
そして……血に染まり、崩れていくラス。
どくん、と心臓が鳴った。
周囲では、まだ、小競り合いが続いている。その音も遠く聞こえる。
ラスを支えた手が、奇妙に生暖かい。
また、心臓が鳴る。
やがて、争う音も、罵声も消えた。
傷を何とかしなければ危ない。最悪、コイツは……。

「偉大なる神チャ・ザよ。慈悲をもて彼の者を癒し給え」

紡いだ聖句に、返ってくる暖かみはなかった。
血は流れ続ける。
奇跡は賜れない。
何故。
…………答えはわかっている。今の俺には、神の奇跡は使えない。
息苦しさが襲ってくる。
シェイドを死なせてしまったあの時と、同じ光景を前にして、気が狂うほどの恐怖感が押し寄せる。
……………………。

「おい、何やってんだ? こいつが、その半妖精の怪我治すって言ってんだけど?」
「相棒のことは任せとけ。死なせやしねーよ。”音無し”からは、まだ前金しか貰ってねーんだ」

………そうか…仕事中だった。

「すぐ乗り込むか? つーか、手間取ってる暇はねーけど。連中、焦ってるぜ。逃がしたくなきゃ、その病人みてーなツラ、なんとかしろよ」

ラスが雇ったらしい盗賊に後を任せ、連中が隠れているという場所に向かう。
間に合えばいいが…。

「大丈夫じゃねぇ? アジトに帰るのは、追っ手を振り切ってからだって」

緊張感の欠片も感じさせないくせに、はっきりと言いきるコイツに、妙な苛立ちを覚える。
踊らされてるのかもしれない。
なんの根拠もなく、そう思った。
 
震え
ネオン [ 2003/09/05 0:18:03 ]
  ヴァイルさんにラスさんから受けた伝言を知らせた。その場にワーレンさんがいたことには正直、驚いたが、今は他にするべき仕事がまだあったので、早々に立ち去らせてもらった。

 ラスさんに頼まれたことは二つ。一つは、今、済ませたヴァイルさんへの繋ぎ。そして、もう一つは、カレンさんにラスさんの仕事のことが知られないようにするためのギルドへの口止めの要請。
 ヴァイルさんの住処がラスさんと出会った場所から近かったので伝言を先に済ませ、僕は、それからギルドへと向かったのだった。


「はぁ? なんでカレンにそのことを黙ってる必要がある?」
 用件を告げた僕に対するギルドの対応はコレだった。まぁ、予想の範囲内のことではあった。
 カレンさんはご病気ですから、ラスさんが気遣っているのでしょう、と僕は勝手な推論を述べた。ラスさんは残念ながら詳しい理由は教えてくれなかったからだ。
 しかし、そこにさらに返って来た答えはこうだった。
「それなら大丈夫だ。確かに奴は病み上がりだったが、仕事ができないほどでもない様子だったしな」
 ………え? ちょっと待ってください、その口ぶりはもしや……?
「ああ、カレンには、もうギルドに顔出してもらって仕事の話もしてる。元々、奴とラスに任せるつもりの仕事だったんだ。当然だろう? なぁに、心配することはない。アレぐらい元気だったら問題ないさ」
 ギルドの担当は、そう続けたが、しかし、後半は、ほとんど僕には聞こえていなかった。

 ………考えが甘かった。カレンさんがもうギルドに出てきて仕事の話を聞いているとは、思いもよらなかった。ラスさんの家で出会ったとき、僕は「病気は治っているようだが、まだ本調子ではない」と判断したのだが、ギルドは「本調子ではないようだが、病気は治っている」と判断したのだ。

 とにかく、ギルドは、仕事の話をカレンさんにした。
 僕がラスさんから口止めを頼まれた、その話を。

「どうした? 珍しく顔色が悪いな。それにお前……震えてんのか?
 って、おい! どうしたんだよ!?」

 僕は、ギルド員の言葉も聞かずに部屋を飛び出した。
 どうする? ラスさんに頼まれたことを果たせなかった。
 ラスさんに報告に行くか? それともカレンさんを止めるか? いや、カレンさんがギルドから正式に仕事を言い渡された以上、それを止めることはできない。ラスさんのところに行くしかない。
 とにかく、霞通りに行こう。

 なんで僕は先にヴァイルのところになんて行ったんだ!? ギルドに先に来ていたら、あるいは間に合ったかもしれないのに!
 頭の中に、とめどなく後悔が巡った。その全ては、自虐に満ちているようで、しかし、言い訳にも似ていた。

 嫌だ……頼まれたことを失敗して……ラスさんに殴られたくない………嫌われたくない。
 ……あの時みたいには、もうなりたくない。
 
高すぎる灰色の壁
グラナ・ダナ・ラグ [ 2003/09/05 0:19:12 ]
 人間たちの社会には「捨てる神あれば拾う神あり」なる諺がある。
成る程、納得だ。一寸先は闇が世の常なれば未来を憂いても詮無かろう。
ならば、道は恐れずに進むしかない。真っ直ぐに己が信ずるままに。

だが、それに準じたオレが『銀月』を発った後に見知らぬ路地に迷い込んでしまったのは、やはり、神に見捨てられたということなのだろうか?

フム、信仰とは奥が深いものだな。オレ如きでは聖人の境地に達するは叶わぬか。
と、韜晦に耽っていたところ路地の闇から低く細い話し声が。

──こんな場所で密談か?

であらば些か不用心と言わざるを得まい。
壁に耳あり、鍵穴に目ありと云う。ましてや、密談ともなればその内容が夕飯の献立であったとしても聞き耳をたてたくなるのが人の心理だ。

怨むならば己が迂闊さを呪うがいい。

オレは気配を消して声に近づいた。
忍び足は完璧だったはずだが、直ぐに己が失態に気づかされる。

……声は聞こえど、何を話しているのかサッパリ分からねぇ。

奴等の言語は共通語でも東方語でもなかったってわけだ。
まったく、笑い話にもならねぇ。ヤレヤレだぜ。

だが、拾う神はこんな所に隠れてやがったのさ。
奴等の会話の中にグラダという音が紛れていたのをオレは聞き逃さなかった。
ともなれば、引き下がれねぇ。
喧嘩だの詐欺だの恐喝だのと身に覚えのない冤罪で衛視に引っ張り回され、痛くもない腹を探られた借りはキッチリと返させて貰おう。
それがオレの──“鍵”としての流儀だ。


……しかし、容疑が窃盗だったらと思うと……腹が痛ぇ。
 
絶対安静の怪我人
ラス [ 2003/09/05 0:20:47 ]
 気が付いた時には、薬の匂いの充満する部屋だった。
この薄汚い天井には見覚えがある。
ギルドの専属医者がやってる治療院か。…………うぜぇ。
とっとと逃げ出すか、と思ったものの、ろくに体が動かない。……ち。やっぱヤブ医者か。

「こらこら。なぁにやっとるか、このクソ半妖精が。しばらくは絶対安静と言ったのを聞いとらんかったのか」

聞いてねぇよ(←マジ)。

「いや、儂も久し振りだ。こんな大怪我してきた奴は。それで生きてる奴はもっと久し振りだ。……起きあがろうと無駄な努力しとるようだが。多分、これも聞いとらんかったんだな。骨、折れとるぞ。右肩な。あばらも。
 傷そのものは、あの腐れ神官が現場で癒したようだな。そのおかげで生きてる。そうじゃなきゃ今頃死んどったわ」

呵々と笑うヤブ医者をとりあえず睨みつける。
腐れ神官……カレンか? いや、あの場にはいなかったよな、確か。
だとしたら、ああ、ダリオの野郎か。ってことは、ダリオはあの中で生き残ってたのか。……後金弾まなきゃな。

にしても……気になるんだよな。あの衛視の格好した奴。
あいつは、前にも見かけたことがある。霞通りで。その時には衛視の格好なんざしていなかったが。
そしてその時に耳に挟んだのは、訛りの強い西方語。
西方語はカタコトしかわからねぇから、何を言ってるのかはわからなかった。
ただ、ドレックノール云々という地名だけは聞こえてきた。
だからその時は、「例の客人たちの一部か」と、そう思って見逃していた。

けど……いや……やっぱり何かがおかしい。どこかのボタンを掛け違っているような。

「というわけでだな。肺に入り込んだ血が随分とあるから。それが全部出るまではかなり咳き込むことになるだろうな。血の気が戻ってくれば炎症も起こす。だからこの痛み止めと解熱剤と……」

──飲むわけねぇだろうが。このヤブ医者。
ったく。考え事してたのに……中断されちまった。

「……真面目に考えんか、クソ半妖精。骨折してるとこに咳き込んだらどれほど痛いか。今の体力で熱でも出そうものなら……」

うるせぇ。俺はもともと体力自慢だ。放っとけ。

「飲まんと死ぬかもしれんと言っとるんだぞ、クソ半妖精が!」

飲んだら死ぬ(謎)って言ってんだ、ど腐れヤブ医者が!


その後。扉を開けて顔を覗かせたのはネオン。なんだか妙な顔色をしている。
……いや、俺に言われたくはねぇかもしんねぇけど。

「ラスさん……ごめんなさい、僕……僕、あの……お約束を……せっかく、僕に頼んでくれたのに……果たせなくて……いえ、あの、違うんです。僕、僕は……」

涙目で、途切れがちに語る言葉をよくよく聞くと、カレンに知られてしまったとか、もうカレンは動いてるとか。
そしてそれは自分のせいだと。
いや、別におまえを責める気なんかねぇけど。だって、どうせすぐにバレるだろうなと思ってたから。

「あの……殴らないでください。嫌わないで……」

……それ、やめろ。暴力をふるう旦那についていく健気な嫁みてぇじゃねえか。
けど、そうか……カレンが動いてるのか。
そして、西の連中の中から、カレンに助っ人がついたとか言ってたな。
………………なんだかイヤな符合だ。気になる。

──俺の剣…は、そこにあるな。持ち物は全部、ベッド脇。けど、服がない。
そして目の前には、泣き出しそうな顔でおろおろしてるネオン。

「…………ネオン。怒ってねぇから。だから……ちょっと頼まれてくれるか?(にっこり) そこに財布あるから。適当な服買ってこい。今すぐ」


──1刻後。俺は霞通りにいた。
多少ヤバめだが……ってか、ヤブ医者の言うとおりすさまじく痛ぇが……ま、半日くらいなら保ちそうだ。
よし(ぐ)。
 
荒涼
A.カレン [ 2003/09/05 0:22:09 ]
 「お見事。流石はシェイドの秘蔵っ子だ。サビちゃいねぇよーだな。
…あ〜あ、ひでぇな。自分が死んじまったこともわかんなかったろーぜ、こいつ等はよ。
なぁ、こっちに帰って来いよ。今なら、待遇もいいぜ。10年前みてーなことはねぇと断言してもいい。どぉよ?」

………………。

「そう睨むなって。そりゃ、俺も昔はガキだったから? いろいろエゲツないこともしたけどよ、それだってしかたねぇんだぜ。お前は妬まれるためにドレックノールに現れたようなもんだったんだからな。シェイドに気に入られたのが運の尽きってやつだ」

関係のない話だ。
ここにいたのはふたり。そして、後から現れたひとり。
3人は始末した。
残りひとりは、衛視に捕まったって言ったな。
これは、確かなことなんだな?

「嘘じゃねーよ。仲間の一人が見てたってよ。
おっと、そんな目ぇすんあよ。今ダマシ入れたってよぉ、俺にゃ何の得もねーんだぜ。とっとと引き上げてーだけだけだかんな」

だったらもう用はない。帰れ。

「ツレないねぇ…。そんなとこばっかし、シェイドに似てやがる。敵が多くなるだけだぜ。気ぃつけな。
んじゃ、面倒かけたな。恩に着るぜ」


っち!
今更見たくもねぇツラ晒しやがって。ウザってーんだよ。
いったいなんだってんだ。
思い出したくねーんだよ。クソッタレが。
アイツも、コイツ等も……自分自身にも、ムカついてしょうがない。
いつもいつもいつもっ!
この腹立たしさを、どこにぶつけていいか、どうやって解消すればいいか…わかんねぇ。
だから、慈悲なんてものもなくなっちまう。

奇跡なんか使えなくて当然。


……………。
そうだ、ラスはどうなった?
いるとすれば、ギルドの医者のところだ。
容態みておかねーと、落ちつかない。



「すまねぇ。逃げられちまった。まったくもって、面目ねぇ」

……………。
どういうことだよ、このクソ医者ぁっ!

「服を取り上げてたし、だいいち、あの大怪我じゃ絶対動けねぇだろうと、タカをくくっておったわい。すまねぇ」

…っ!
ってことは、誰かが服を調達したってことだな? そうだな? 誰だ。

「いや、そ、それは……」

………………………いい。連れ戻してくる。


まったく、何やってんだ、アイツはっ。
ちったぁ、大人しくしてろってんだ。
なんで抜け出すんだ、あんな重症で。
…………何かあるのか。無理をしなきゃならねぇ理由が。
いや、いい。理由があるなら聞こうじゃないか。
その上で、どうするか決める。


……………すさんできたな。っけ。
 
罠の罠
ワーレン [ 2003/09/05 0:23:13 ]
 「あの・・・彼は?」

まさか・・・ネオンにここで会うことになろうとは・・・
向こうの察しが良かったおかげか、急いでいたのかは分からないが、早々に立ち去ってくれた。
何事か話していたが・・・

ラス?ああ、あの”王子様”・・・

まぁ・・・一応、感謝しておこう。

(一刻後)

・・・なぁ、さっきも言ったが協力って何をすればいいんだ?

「んー、それはねぇ・・・」

・・・また情報か?悪いがこれ以上無い、ぜ?

「まぁ、そのうち分かるわよ。今は大人しくしてなさいな」

結局そうなるのかよ。まったく頭が痛くなる、ぜ・・・
と、其の時。

不安げな顔した女性・・・まぁ、この辺の女性なら”娼婦”だろう、がやってきた。

「ちょっと・・・ヴァイルさんに用があるって言う方が・・・」

「何かしら?今の時間に・・・ああ、大人しく待ってなさいよ」

分かってる。窓だって確認済み、だ。

「あら、バレてた?」

わざとらしく笑うな・・・怪我人相手に用心が過ぎるんだよ、まったく。俺は犬じゃない、ぜ。

「じゃ、子犬ちゃんね」

うるせぇ。
笑いながらヴァイルが部屋から出ていくのを見て、俺は何気なく窓の外を見る。

今ごろ、衛視詰所も大騒ぎだろうな・・・

まったく。
俺だって忙しいんだ。例えば、最近入ったばかりの衛視・・・名前はグゥラーザだっけ。
どこかの貴族の末っ子だとか・・・
まぁ、その新入りの野郎に教えなきゃならない事もあったのに・・・まったく。

とにかく、始末書何枚ですまないだろうな、こりゃ。
窓際のベッドに再び腰掛ける。こうなったら、任せるしかないってか。

・・・かた・・・

・・・かた・・・

・・・かちり・・・

・・・すー・・・

なんだ?

振り向くと、目が合った。

見覚えのある、嫌な色した細い短剣、そして窓に手をかけている一人の”鍵”。
・・・顔には頭巾しているが、目の周囲に真っ赤な小剣の後が残る。
そう、俺を襲った奴だ。

一瞬の沈黙。

「!!」

動きは向こうが速かった。
窓からあの短剣を突き出した・・・俺の背中めがけて。
流石にこの距離は避けられない。

馬鹿野郎!!

俺は思わず叫んだ。
ただ、油断しすぎていた迂闊な自分にではなく。

ぴーん

窓枠の上に隠されていた留め金が外れる音がした。

「!?」

奴の上に丈夫で錘付きの網が被さった。
奴に逃げる術は無かった。
同時に窓の外から見覚えのある男が走っていくのが見えた。

馬鹿な。自分の目を疑った。

あいつが、おまえが何故ここにいる!?

『グゥラーザッ!!!!』
 
幕間
A.カレン [ 2003/09/05 0:24:44 ]
 「終わったようだな。まぁ、ひとり衛視に捕まったが、それはどうにでもなるだろう。ヤツ等も下っ端ひとり捕まえたところで、面倒なだけだろうしな。ご苦労だった。
ああ、そうそう、アッシュだったよな、あの西のメンバー。感謝してたぜ。これですぐにでも引き返せるってな。奴の親分の馬鹿さ加減は相当なもんらしい。……」

すぐに…?
じゃぁ、既に霞通りにはいないということか。
船は沖合いに出ているはず。時間をかけないで船に戻るには……港からハザードを下るのがいちばん効率がいい。
できればもう会わずに済ませたいが、しかたがない。
衛視に情報を流した人物の正体がわからなければ、本当の終りじゃないだろう。

「そういや、”音無し”が、お前にはこの仕事のことを伝えるなってぇ言ってたようだが? 直接本人から聞いたんじゃねーからな。本当のところはどうなんだ?」

体調が悪かったのは本当だ。それで気を回したんだろう。

「はぁん。ネオンが言ってたのは、嘘じゃなかったってぇことか。
ふん。あの小僧も、なにかっちゃぁ人のケツ追っかけ回して、自分から使いっパシリになりやがる。悪い癖だ」

………………なるほど。確かに悪い癖だ。
それがわかってんなら、叩き直しておけよ。

「あとな、もうひとつ頼みたいことがあるんだ。引きうけてくれ。
衛視のほうに情報が流れてる。その張本人を調べろ。
こっちでは、ワーレンに目を付けてて、引っ張ろうと思ってたんだがな、報告では”イカレ屋”が拘束しているらしい。怪我をしてるのを理由にしてな。
それでも、ちょいと釘を刺すためにも引っ張るつもりだがな」

……そうか。
だからラスのヤツ、核心を持って西のヤツだって言ってたのか。
……やりにくいな。
同じ仕事をしてるのに、情報をひとりで握られるのは。後手に回るじゃないか。
まだ握ってるものがあるかもしれない。
アイリーンの報告を待つか?

いや、時間がない。
アッシュに逃げられては、まずいような気がする。
…とりあえず、港だ。
 
報告
ラス [ 2003/09/05 0:26:14 ]
 ヤブ医者のところを抜け出して、俺が一番最初に行ったのは、霞通りだ。
このあたりの娼館はそのほとんどがギルドの管轄下。
そして、その中でも、ナワバリというのは存在する。
それを仕切っているのは、数人の兎たち。すでに現役は引退して、それでも店同士の横の繋がりや若い兎たちの面倒を見ている女性たちだ。

以前、幾つかあって……そのうちの1人2人は、よほどの無理じゃなければ俺の頼みを聞いてくれる。もちろん、代償は必要だが。
他の人間が間に入ることを好まない彼女たちに会うには、俺が直接出向くしかない。
そして、今の霞通りの状況なら、正確なところを知ってるのは彼女たちだけだろう。

代償、とは言え、今の状態で取引だの駆け引きだのは出来ない。
若い兎が取り次いでくれている間。そのほんの短い時間にも、膝が落ちそうになる。
息苦しい。肺の中にシルフ以外の力が入り込むのがどういうことなのかがわかった。
右胸が、重苦しい熱さで満たされている。乱れたシルフが招いた、他の精霊たちの力の乱れ。
……あのヤブ医者も、嘘は言わなかったらしい。

今は駆け引きなんざ出来ない。だから、事が片づいたら何でもする、と。
嫣然と笑う彼女たちにそう言って、教えてもらったことが幾つか。

俺が見かけた衛視……あの場に踏み込んできた中にいた、偽の衛視。
そいつの名前は、ウルス。ドレックノールから来たらしい。

兎たちの情報源は閨の中だけだが、本人からのものだけとは限らない。
例えば、港で働く奴ら。酒場で働く奴ら。
普段なら、余計なことを言わない奴らも、見かけた客のことを夜伽話に話したりもする。

そして、ウルスは、オランに来てから衛視見習いとして潜り込んだ、と。
ウルスの名が聞かれなくなった頃に、同じ風体の男が違う名前で呼ばれ始めた。
衛視見習いの、グゥラーザ。下級貴族の末子だとか何とか、適当な身分を詐称して。
身分を詐称するに足るものは、黒いミスリル。高価なものを持ってるんだから、イイトコの出だろう、と。
……そうか。あの黒いミスリルはその男の持ち物だったのか。

ウルス……いや、グゥラーザか。どちらにしろ、あの偽衛視が西からの奴なら厄介だ。
カレンには西からの助っ人がついているらしい。
そして、衛視どもが騒ぎ始めた直後に、タイミングを合わせたように沖に引いた船。
…………誰がどんな絵図を描いてるんだ?
どちらにしろ、ひとつ言えることは、カレンにぴったりくっついてるらしい「助っ人」が鍵を握ってる。

その先を調べようとしたところで、そろそろ限界だった。
半日は保つかと思ってたんだが、二刻あまりでもうヤバイ、か。
路地裏でカレンとアイリーンに会って、調べたことを伝える。
そして、ついでに怒られる。なんで出歩いてるのか、と。
怒ったのはアイリーンだ。カレンは……めずらしく怒らなかった。

とりあえずアイリーンに仕事を引き継いで、俺は家に戻った。
アイリーンはしきりに、医者のところへ戻れと言っていたが、無視。
あんな、薬の匂いが充満するところに居られるか。

家の寝台に潜り込むが、痛みと息苦しさで眠れない。
痛み止めを持ってきたファントーを手振りと目つきだけで追い払う。
アイリーンの報告を待ちながら、もう一つ気になっていたことを思いだした。
……イカレ屋の奴、呼び出しかけたはずなのに来なかったな。
そもそも、あいつ、何か俺に言ってないことがあるような……。
 
お見舞い
ユーニス [ 2003/09/05 0:27:45 ]
  傭兵ギルドでの訓練の日々。登録から10日ほどを経て、やっと筋肉のだるさが解消してきた。少し余裕が出てくると、ギルド内での噂や何気ない会話にも耳がついていくようになる。

 「最近、霞通りがどうもきな臭い気がしねぇか?」

 ギルドの廊下ですれ違いざまに聞こえてきた先輩の台詞に、少し驚いた。
 霞通りといえば、以前ラスさんに出会い、ここに来るきっかけになった話をした場所だ。”巣穴”の管轄であり、ラスさんの担当箇所でもある……らしい。
 もともと”そういう場所”だからトラブルの一つや二つは珍しくないはずだけれど、それが外部にも広まる事態というのは、あまり芳しくないはず。

 「ラスさん、大丈夫かな。」
 ふと、心配になった。部外者の自分が心配しても何もならないと知っているけれど。
 先日”きままに亭”でラスさんに偶然出逢った時も、仕事で家に帰れていないと言っていた。もしかしたら、霞通りでそれほど多忙を極めさせるような何かが起きているのかもしれない。 
 そういえば、あの時ラスさんに「家の様子を見に行ってやって欲しい」といわれ、一度お見舞いの果物を届けたきりになっている。多少時間が経ったとは言え、今でも病床のカレンさんをファントー一人でお世話しているのだろうか。
 いくら親しくても、病人を世話するのは結構な労力を費やす。女手があった方が良いだろうか。
 そこまで考えて、ふと思い出した。あれ、もしかして。
 「ファントーって、野菜スープしか作れなかったんじゃ……。」
 
 訓練を早めに切り上げて森へ向かい、病人の体に優しい香草や茸を採集する。市場で新鮮な食材を買い、それらをかかえてラスさんの家を訪ねる事にした。

 数刻後、ラスさん宅を訪ねたまでは良かったのだが、カレンさんが出かけていて、ラスさんが寝込んでいる事態に多少混乱をきたす羽目になったのは、私の頭の回転が遅いからではないと思いたい。
 とりあえずファントーと相談して、今日の夕食は、兎と茸のシチューを作る事にした。
 スープと大して代わり映えしない点には目をつぶってもらえたらいいなと思った。

 ラスさんの傷とカレンさんの不在の嫌な符合が、かつてない不安感を胸に呼び起こさせていた。
 
届かない声
ネオン [ 2003/09/05 0:29:30 ]
  ラスさんに言われたとおり、適当な服を買い、それを届けた後。
 診療所で苦しそうにしながらも僕が買った服に袖を通すラスさんを見ていると、どうしようもない焦りの感情が湧いてきた。
 こんな状態なのに、どうしてラスさんは出かけようとしているのか。やはり、僕がカレンさんを引きとめることができなかったからではないのか。
 そんな思いだった。

 あの……ラスさん、僕……にできることがあったら、もっと……なんでも言ってください。
「そうだな……とりあえず、ズボン履くの手伝ってくれ。屈もうとしたら、痛い……」
 は、はい……判りました。
 あの……これ以外に……まだ何かありますか? 僕……
「後はいいから……帰れ」

 ………え?
「帰れって言ったんだ。もう、お前に頼むことはない」
 そんなっ……待ってください。僕は、確かに、まだ未熟な点もありますし……それにカレンさんのことも……ありましたけど……。
「そういうことじゃねぇ……。お前……そのこと、気にしすぎだ」
 で、でも、それはやっぱり……僕が……引き受けたことなのに……
「俺は怒ってないって言ったはずだ。だが、お前は引きずってる……お前に物事頼めねぇのは、そのせいだ………げほっ……」
 え……あ……だ、大丈夫ですか?
「ああ……だが、キツイんだからあんま喋らすな。
 とにかく……今のお前なら精霊の声も聞こえねぇだろ。せめてそれが聞こえたら、いろいろ頼む……だから、一先ず帰って頭冷やせ」

 …………言い返す言葉がなかった。
 僕は、引きずるように歩くラスさんを見送り、一人、自分の宿に帰った。


 宿に帰るころ、辺りはすっかり暗くなっていた。
 部屋に入り、暗い部屋に灯りもつけず、僕は、ベッドの上に蹲った。
 宙に手を伸ばして、ウィスプに呼びかけようとする……。
 だが……返事はなかった。ラスさんの言うとおりだった。

 暗い暗い部屋に押し潰されそうになりながら、僕は、いつの間にか眠っていた……。
 明日は、またラスさんのところを訪ねてみよう。それだけ思ったことを覚えていた。
 
願い
アイリーン [ 2003/09/05 0:30:40 ]
 「こいつに当たることねぇだろ」
ラスさんは、カレンさんにそうおっしゃってました。

…それを聞いて、あたしは思わず、心の中で謝ってました。
本当は、あたしもラスさんに当たっていたと…分かってたから。

本当は…
巣穴にお仕事の情報、届けに行ってラスさんが施療院を抜け出されたのを知って。
とても、怖かったです。
だから、ラスさんに怒ってしまったのは…、無茶をしているラスさんが心配で、止めても聞いてもらえない事が悔しかったのではなくて…。
ただ、怖かったです。
知っている人が、身近な人がいなくなることが。
おかーさんが死んだとき、あたしは命の精霊さんの声を聞くことができなかったです。できたのは、ただ精霊さんたちが離れていくのを見ていることだけ。
…なにも、できないなら、見えているものを、大切な人を引き留める事ができないなら、もう、本当に大切な人は作りたくないと、思ったです。
人と関わらなくても一人で生きていけるように、強くなりたいと思ったです。
…今は、もうその考えが間違ってたって、分かるけれど。
この街で、たくさんの人と出会って、話して。…仕事をして。
一人で生きていける強さではなくて、人と関わっていける強さ、そして守れる強さが欲しいと思うようになりました。
だから、命の精霊さんの声を聞きたい、と。
それでも、あれからあたしは何も強くなれてはいないです。
失うことは怖くて、でも、それを繋ぎとめるための、力も持ててはいなくて。
強くならなければいけないと、そう思った筈なのに、ちっとも前に進めてはいなくて。
それが悔しくて、でもどうしようもなく失うのが怖くて。
…怒って、しまいました。あたしは…。

同じ事は…起こってほしくないと…。

思わず、言ってしまったあたしを…ラスさんは笑って流してくださったですけど。
…本当は、気付いておられたのかもしれません。
笑ってくださったラスさんを見て。強くなりたい、進みたい。そう思いました。

今のあたしは、精霊さんの力を借りて…治すお手伝いはできませんけど。
精霊使いとしてのあたしも、盗賊としてのあたしも、どっちも自分だから。
今は自分にできる事を、盗賊としてできる事を、精一杯やればいい…ですよね?
いつか、ラスさんは言っておられたです。
「遺跡の中で、自分の精霊魔法が最終手段だったら、どんなに震えてもいい、”任せろ”って言え」と。

だから…あたしは、「任せてください」と、言ったです。


娼館が多く並ぶ通りを、いつかの定期見回りの代役を務めた時と同じく、回りました。
それでも、今回は、前みたいな巡りとは違って…。
随分、前とは違う、もっと上の人たちが巡っておられるお店もありましたけど…失敗したくない、ってびくびくしてる場合じゃないですよね(ぐ)。
懐に隠したダガーに、触れようとしては、思いとどまってましたけど。
…緊張してるからって、怪しい行動を取る訳にはいかないです。ぴしっと、何事も無いように、いつも通りを装って店を訪ねないと、です。

繰り返し、そんな事を考えながら、歩いていた気がします。

カレンさんに付いている助っ人さんの裏取りと…偽衛視さんの事情。
夜…明け方近い時間までで、集められた情報を整理すると、
前の事件の始末を巡っての、ドレックノールのギルド内での勢力争いに、こちらが巻き込まれた形になっていること
助っ人さんは、元々はオランのギルドの構成員で、随分前に西へ行ったこと。お陰で、今、怪しまれずに動けていること

…口封じとか、引き抜きとか、力を削ぎたいとか、攪乱とか…そんなのってあるんでしょうか。
…何か…何か変な感じがしたです。
全体的な目的が、ぼやけているような。2,3個の目的を持って動いているような…

ラスさんにそれらを伝えたら、一つ巣穴の方へと伝言を頼まれたです。
後、カレンさんは…報告はギルドへ、その方が確実に連絡が取れるからと言われてましたけど…。衛視さんの方に、情報が筒抜けとか…大丈夫なんでしょうか。
伝言はしましたし、「そちら」の方々には、偽の情報を流してくださると思いますけど。
 
身代わり
“イカレ屋”ヴァイル [ 2003/09/05 0:32:57 ]
  ギルドにから呼び出しがかかった、ワーレンをつれてすぐに来いと、ついでにアタシの部屋の罠にかかったお間抜けなこそ泥も連れていった、今ごろ情報を絞り出されている頃…あぁ、わかった事はアタシにも教えてね?

 あちらさんは最初ワーレンを身代わりにしようと思った見たい、彼がギルドの人間である事を知ってそれで近づいた、衛視として情報を流して錯乱と同時にね?
 多分、彼に見付かるように騒いだのね、そして動けなくして、事が終わった後ウルスの変わりに…気絶させられた挙句あの子犬ちゃんはアタシが持って帰っちゃったから、計画は頓挫…わざわざ部屋を調べてまで襲ってきた理由は…まぁ、言葉にしなくたってわかってるんでしょ?

 「あぁ、わりと底の浅い奴らだ…ワーレンのほうは一通り話しをきいた後、衛視側に潜らせる、あの野郎に偽の情報をくっつけてな」

 いいんじゃない?どうせ最初からちょっと手伝ってもらおうとは思っていたし、当初の目的とかわってきちゃったけれど♪
 で?ラスは…、刺されたって気いたけれど…病室を抜け出したぁ?
 ああん、カレンの苦悩が目に浮かぶわぁ〜、出、今は家に戻ったのね。

 「所でイカレ屋、てめぇ衛視の動きが最初からおかしい事に気がついてやがったな」

 きゃ☆、そんな怖い顔で見ないでよぉ、確信がなかったから、誰にもいってなかったんだけれどね、あまりに霞通りに衛視の巡回が多いから、引っかかってはいたのよねぇ、まさかこんな事になるなんて…

 あぁ、相手が馬鹿ならワーレンにもう一度追っ手がかかる可能性があるわ、腕が片方まだ満足に動かせない状態だから、お目付けをつけたほうがいいかも、アタシはダメよぉ、ほら、この美貌じゃめだって……なによ、そんな目で見なくたっていいじゃない。

 「てめぇの宿を付き止めて襲ってきたって事は、てめぇの面も割れている可能性があるってころだろ?」

 ご名答♪と、いう訳で、暫く男の格好に戻して動くわ、多少は気休めになるでしょ?出ないとわざわざこんな格好している意味の半分が失われちゃうもの☆
 ワーレンのほうはよろしく、アタシはアタシで動いて、わかった事をこっちに報告するから、カレンに繋いでおいてね♪

 (普段の派手目な服装、薄化粧を取り、長い髪を一つにくくって普通の平服姿にダガーを忍ばせた格好をする)

 んじゃま、まずはラスの所にでも行くか…黙ってた事も呼び出しに間に合わなかったのも、聞かれちまいそうだけど。
 
激闘は哀しみ深く
グラナ・ダナ・ラグ [ 2003/09/05 0:35:40 ]
 睨み合うこと十数分。
固唾を飲み込むこと数十回。
この勝負、先に動いた方が負けだと己に言い聞かせた回数?

──そんなものは数えきれねぇ。


正に死闘と呼ぶに相応しい戦いであった。
それが互いに全力を尽くした結果であるのには一抹の疑念もない。
ならば、称え合おう。互いの全てを。戦士の誇りを。

──アンタの攻撃は一級の破壊力だったぜ。


露店が並ぶ早晩の大通り。
串焼きにした肉を売るを生業とした人間の肩を数度叩く。
その双眸から零れ落ちる涙は己が戦いに満足したが故か、あるいは──立ち込める煙の所為かは分からねぇ。
だが、これだけは確実に言える。

──オレが尾行してた筈の二人組が見当たらねぇ。


どうやら完全に撒かれちまったみたいだな。
チッ、オレともあろう者が香ばしい匂いに心を奪われるとは不覚。
だが、朝から何も口にしてな……イヤ、言い訳はすまい。今日のところは潔く引き退がるさ。

愛用の帽子を脱いで敗北を認める。これが本当の脱帽だ。
 
選択
ラス [ 2003/09/05 0:37:06 ]
 ど腐れヤブ医者の予言通り。熱が出てきたらしく、時折意識が途切れかける。
息苦しさに目を覚まし、胸を焼く痛みにかすかに声が漏れる。
その度に、俺の顔を覗きこむのは、ファントーだったりセシーリカだったりシタールだったり……なぜかユーニスだったり。……ブラウニー、おまえまでか。

癒す力を持てないことが、時折口惜しくなる。
今まではいつも、他人を癒せないことが原因だった。
けれど今は。
もし今、自分の体を癒せるなら、カレンの助けになる。周りの奴らに心配をかけることもなくなる。
その代わり、敵を滅する力があるのだから、嘆くことはないとわかってはいるけれど。
……いや、違う。ひょっとしたら俺はそもそも……。

こここん。

寝室の鎧戸を叩く音がした。
そろそろ真夜中という時刻。それでも、おそらくはシタールかセシーリカか……誰かがいるのだろう。居間のほうに人の気配がある。だから、玄関からまわっても誰かが応対するはずなのに。

「よ。生きてるか」

…………誰だ、おまえ。
一瞬わからなかったのは朦朧としていたからかもしれない。が、俺の反応を見て、にか、と笑った口元。
──ヴァイルか。マトモな格好してるからには、“イカレ屋”とは呼べねぇな。

「御挨拶だな。様子見に来てやったのに。ああ、そうそう。途中で会ったから、このお嬢ちゃんも連れてきたぜ」

アイリーンと一緒に、窓枠を乗り越えるヴァイル。
……ってか、なんで玄関から入ってこねぇ……。

「あ。あの……失礼します、です……」

いや、だから……そこ、窓だから。

…………………………………………………………。
…………………………。

「どうしたです? ……い、痛む…ですか?」

──違う。いや、痛ぇことは痛ぇが……てめぇら、余計なモンまで連れてきたな。

咄嗟に跳ね起きて、寝台の中程まで移動する。
たったこれだけの動きで、全身の力を使い果たすかのような消耗。全ての気力を奪い去るかのような痛み。
──枕元に突き立ったのはダガーが1本。

「へぇ……死にかけの怪我人かと思って甘く見てたな。すまない」

窓枠にいつのまにか腰掛けているのは黒装束を纏った小柄な男。
ヴァイルとアイリーンが咄嗟に武器を抜こうとする。が、それより男の動きのほうが早かった。
同時に投げられた2本のダガーが2人の武器を手から叩き落とす。
その直後には、部屋の中に移動して、アイリーンの喉元に銀の糸を巻き付ける。
アイリーンの口から小さな悲鳴が漏れた。

「ちょっとした楽しみのためなんだが。死んでみてくれないか」

面白がるような口調。聞き覚えのない声だ。訛りはあまりないみたいだが……もしやドレックノールの?

「私の今の雇い主がね。君に死んで貰えば、“彼”をいたぶるのに都合がいいと言うものだから」
「“彼”……カレンさん、ですか…っ!?」
「お嬢ちゃん、あんたには関係ないよ」
「……へぇ、堂々としたモンじゃねえか。俺ら3人を同時にヤれるとでも?」
「馬鹿言わないでくれ。私はそこの死にかけ半妖精さえヤればそれでいい。……どうだい、武器もない。ろくに体も動かない。今のを避けられただけ、奇跡だ」

──理由は。

「さっきも言った。ちょっとした楽しみだ。私にはわからないがね。……妄執、しがらみ、こだわり、妬み。泥のような感情の行く末を知りたいか? ……ああ、大声を出そうとか水差しでも倒して人を呼ぼうとか……無駄だよ。居間からここまで駆けつけるまでの間に、私のダガーは君の喉を捉えるから。それに……このお嬢さんをくびり殺すのもそうそう難しいことではない」

その言葉の間にも、アイリーンの首に巻き付けた銀糸に力がこもる。
アイリーンの額に汗が浮かぶ。絞められまいと、糸と首との間に挟み込んだ指もそろそろ限界か。
ただ、アイリーンを人質にとられている以上、ヴァイルもうかつな動きは出来ない。

「そういえば、君は“音無し”とか呼ばれているそうじゃないか。由来は……そうだね、半妖精だ。身軽さを生かして、音もなく素早く動けるからかい?」

……ヴァルキリー。
こんな時かもしれない。やっぱり俺は、そもそも“癒す”ことと“守る”ことを同一視していないと思い知らされるのは。
いつだって選んでいるのは自分なんだ。

昼間、顔を出したダリオに、詳細を聞いた。
確かに俺の傷を現場で癒したのはダリオだが、咄嗟に俺を抱き留めたのはカレンだと。
あの場にカレンがいたのか。……だとしたら、カレンは何故俺を癒さなかったのか。……いや、癒さなかったんじゃない。
あいつが傍にいたんなら、癒そうとしないはずはない。他の誰でもない、俺なんだから。
……癒さなかったんじゃない。癒せなかった。癒そうとして……駄目だった。
路地裏でカレンに会った時、奴が怒らなかった意味がわかったような気がした。

俺はそれを義務だとは思わない。癒す権利……そしてユーニスが言ったように、癒したいという願い。
けれど、守ることってのはそれだけじゃない。
いつでも俺が選んでいるように。
あの瞬間だって、俺は自分への傷を浅くすることを考えるよりも、目の前の敵を殺すことを優先した。
脅威をなくすこと。それが、俺にとっての守ることだから。
だから……俺はおまえを呼ぶんだ、ヴァルキリー。

あの時、目の前の男に笑ってみせたように。
死の恐怖と隣り合わせに背筋を駆け上がる、陶酔にも似た冷たい感触は、おまえの感触だろう?
今だって、俺は選ぶ。アイリーンの傷を癒すことよりも、アイリーンへの脅威をなくすことを。
この状況で、魔法へと気力を注ぎ込むのはどれほどの苦痛だろうとか。
熱と痛みで朦朧とした中で、どれほどの威力が引き出せるだろうとか。
その全てを切り捨てて、俺は選ぶ。目の前の敵に立ち向かうことだけを。

<……それでこそ。我が選んだ男>

ヴァルキリーが俺の囁きに応える声。それと同時に、俺は目の前の男に笑いかけていた。
──教えてやるよ。2つ名の意味を。
 
完敗
A.カレン [ 2003/09/05 0:39:01 ]
 「よぉ、遅かったじゃねーの。待ちくたびれたぜ。ドレックノールに帰る決心はついたか?」

なんで帰らなきゃならない?
本当のことを聞きに来ただけだ。

「やっぱりな。ここにゃ、まだ未練があるってことか。つーか、あの半妖精のことだろ? ははん。お笑いだ。半妖一匹に振り回されて、雁字搦めで身動きとれね―なんてよ。
お前よぉ、いい加減自分ってもんを認めちまったら? ガラじゃないだろ。ずっと人を憎んでばっかりだったじゃねーか。人だけじゃねぇ。なんもかんも嫌ってたよなぁ。カミサマってヤツもよ」

…………………。

「剣を抜くってかい。いいぜ。やってみなよ。所詮、お前は許すなんてことはできないヤツだ。シェイドはそういうふうに育てたはずだもんな。誰よりも冷酷な暗殺者として…」

黙れよ!
てめぇ、そんなことを言うために、ここにっ…。

青白いミスリルの切っ先がアッシュに届く寸前、身体がはじき返された。
アッシュと俺の間。そこには、黒い刃を手にした衛視がひとり立っていた。

「惜しい。あとちょっと。そいつを殺せば、俺のところにも届くぜ。早くしろよ。長居はしたくないからな」

アッシュの声は、最後まで聞き取れなかった。
相手の剣捌きの、あまりの早さに目が追いつかない。
手引きしていたチンピラとは、格が違い過ぎる。かろうじて、かわすのが精一杯だ。
しかも……ラスのミスリルの剣が折れるんじゃないかと思うほどの鋭さ。
ほんの数回、切り結んだだけで、腕全体が痺れてくる。
更に数合。
そして――
ついに、ラスの剣は、俺の手から離れていった。
咄嗟に、手を突き出す。
そうしたことに、自嘲する。
胸の中には、怒りと憎しみしかない。そうなった今でさえ、神の御名を唱えようとする自分が、無性に可笑しい。
「お笑いだ」
そうだ、アッシュ。お前はいつだって、本当のことしか言わない。

「残念。時間切れだ」

それまで的確に追ってきていた太刀筋が乱れ、くぐもった呻きとともに衛視が倒れこんできた。
何が起こったのか……?

「甘い甘い。がっかりさせんなよな。そんなもんじゃねーだろ、おい。何やってんだか。へっ。どっせ余計なこと考えてたんだろ。興ざめなんだよ。
まぁ、いいや。お前にどうこうしなくたって、お楽しみは他にもあるさ」

お前、コイツは…?

「部下だけどな。いいんだよ。ちょ〜っとしくじりやがったからな。んで、挽回の機会を与えたんだけど? 時間かかりすぎだ。
そいつはプレゼントしてやるよ。オランのギルドの情報を衛視に流した奴だ。そのまま報告でもなんでもしろ。本当のことだからな」

それだけで、殺しちまうのか?
イカレてんじゃねーのか。

「お前に言われたかねーよ。秘蔵っ子。本当ならお前がやんなきゃなんねーことだろ? それを代わりにやってやったんだ。感謝して欲しいくれぇだよ。
ああ、それと、これもやるよ。置き土産ってことで」

手元に投げられたのは、鍵。

「本来の目的のモノが置いてある倉庫の鍵。置いてってやるよ。必要ねぇんだ、俺にはな」

じゃぁ、何のためにオランに来たんだ。

「たまたまさ。どこでもよかったんだよ。グラダさえヘマしてくれれば。うぜぇんだよ。阿呆のくせしてデカい面してんのが気に食わねぇ。……って上層部のお達しでね。
まぁ、そういうこった。……睨むなよ。気づかないほうが馬鹿なんだぜ」

内輪もめのとばっちりってことか…。
じゃぁ、ラスは、とばっちりであんな怪我をしたってことか。
オマエがっ、全部仕組んで!

「…ふざけんなよ。ばっかじゃねーの? あの半妖の怪我のことまで知ったこっちゃねぇんだよ。あいつの怪我はあいつの甘さの結果だ。…いや、手下に魔法を使えるヤツを揃えていただけ、あの半妖は自分を知っている。その点では、お前よりも優秀と言っていい。
けどな、秘蔵っ子。お前はどうなんだよ。ここで怒ってるだけじゃねーか。他にできることなんてあったはずだろ? 俺を疑うなり、そこの偽衛視を追うなり、得意の神聖魔法で半妖を治すこともできたはずだよな。それを、何一つやってねーじゃねーか。
まぁ、所詮お前は半端モンだ。どっちつかずでよ。だから、守れねーんだぜ。人の所為にすんな。
…んじゃ、刻限だ。ちょっとは楽しめたぜ。気が向いたら帰って来いや」



背を向けたアッシュに、俺は何もできなかった。何もできずに、ただ見送った。
弱点という真実を射抜かれ、言葉すらも出なかった。
半端者…。
言われたのはこれが初めてじゃない。
が、これほど痛かったことはない。思い知ったこともない。

石畳に拳を打ち付ける。
その感覚もかき消されるほどの悔しさを噛み締めた。
もしかしたら、一生拭えないかもしれない悔しさを……。
 
悪あがき
ワーレン [ 2003/09/05 0:40:17 ]
 【詰所への道】

・・・巣穴でこってり絞るに絞られた・・・

詰め所への道で、俺は精神的に疲労していた。
話しを聞かせろと、あれこれ聞かれ・・・拷問部屋の隣で。
しかも、俺を襲った奴の悲鳴のオマケ付き。
魂が削られるような気分だった。

今回の事件・・・俺は加害者か被害者か?

答えは”被害者”だ。

自問自答。
虚しさがこみ上げる・・・。

解放されたと思いきや、今度は衛視側に潜って偽の情報とやらを持ち込めと。
あまりこう言う事は嫌いなんだが・・・まぁ、仕方ない。
拷問かけられなかっただけ良しとする。

・・・胃が痛い、ぞ。

「・・・」

苦悩する俺に・・・お目付け、とやらは我関せずの顔。
俺の状態を見て、”巣穴”から一応護衛としてついてきている。
俺の行動を監視しながら。

なぁ、どうせなら話しでもしよう、ぜ?

「・・・」

あー、そうかい。だんまり決め込んでいるって事か。
だったらよ、背後から付いて来るのだけはやめてくれよ?

「・・・」

・・・詰め所についた途端、さっさと帰りやがった。

【詰所】

グゥラーダの奴は消息不明だという。
巣穴で聞かされた事情を知った以上、最早驚かない。
むしろ、腹が立ったが顔には出さない。

生きていたら殴ってやる、死んでいたら笑ってやる。

で、詰め所に言われた通りの”偽の情報”を、上司に報告。
周囲に”情報”が其れらしくなる様演技して。
上司が命令し、すぐさま衛視隊が動く。
何も知らない衛視たちが一斉に”情報”の場所へ向かう。
俺は其の背中を見送る。

まぁ、頑張れ・・・”巣穴”側が用意した”舞台”で、大捕り物を、な。

無断欠勤は情報を得る過程で仕方なかったことを説明。
僅かな減給処分ですんだのは不幸中の幸いと言える。

これで、俺の”衛視”としての役目はこれで終わり。

・・・と思ったら。
詰め所の入口にお目付けがいる。

帰ったんじゃないのか?

「・・・」

俺の役目は終わりだろ?

「”巣穴”から緊急の命令。ついてこい」

言うなり、お目付けが走り出した。
俺はついていくのが精一杯だった。
 
騒ぎの後
セシーリカ [ 2003/09/05 0:41:32 ]
  霞通りの裏路地で、ラスさんを見つけて。
 んで、その次の日に心配になって訪れてみれば、ラスさんは自宅で寝込んでた。
 ファントーさんやユーニスさんがついているならわたしはいる必要がないかな? とも思ったんだけど、とりあえず寝込んでいるラスさんが心配なので、わたしは居間を半ば占拠する形で居着いていた。

 そんなことをぼんやりと思い出しながら、うたた寝をかましていた真夜中。
 何かが割れる音と、人の話し声で目が覚める。慌てて短剣をひっつかんでラスさんの部屋にまろぶように駆け込んだ。

 扉を開けると同時に、視界一杯に溢れる閃光。
 それがおさまった後には、床に倒れているのは二人。あとはしゃがみ込んでいるアイリーンさん。立っているのは……たしかヴァイルさん、とか言ったか。彼一人だ。
 ……って、ラスさんは……?
「な、何が……」
 言いかけた唇が凍り付く。倒れているうちのひとり、寝台のそばの人影は、、ラスさんだったから。

 慌てて駆け寄って、抱き起こす。ラスさんは、真っ青な顔で、虚脱したように伸びている。
「ご、ごめんなさい。わ、わたしがうかつだったから……」
 アイリーンさんが、不安そうにのぞき込んでくる。
「………寝相が悪くて寝台から落ちた、ってわけじゃないよね」
 外傷は特にない。傷があるのに無理したせいか、熱はかなり高いけれど。
 とりあえずラスさんの頭を膝の上に引っ張り上げて、癒しの奇跡と、消耗した精神の賦活を女神に祈る。

 ヴァイルさんは、「少しは手加減してもいいだろうに」などと呟きながら、床に倒れた男の方を検分している。
 …なるほど、だいたいは何が起こったかわかったよ。
 となれば、その男に関しては、わたしが関知する問題じゃない。

 ともあれ、ラスさんは今の一撃でひどく消耗しているし、怪我からくる熱もかなり高い。
 正直な話、よく戦乙女なんか呼び出せたもんだ。
 男を片づけてくる、と部屋を出ていった二人に会釈しながら思わずため息が漏れた。

 また、いらんお客さまが来るんじゃないだろうか。
 そうなったら困るから、あの二人が帰ってくるまで、ここについていよう。そのうち、カレンさんが帰ってくるかもしれないし。
 瀕死の魚のようなラスさんを寝台に戻して、薄い布団をかけ直してあげながら、ふとここにカレンさんがいないことが無性に腹立たしく思えてきた。
 
報告、そして…
A.カレン [ 2003/09/05 1:52:54 ]
 「偽の衛視は始末したんだな? できれば、生きたままのほうがよかったが、ヤっちまったものは仕方ねぇ。
で、奴の正体は?」

今回、オランに来たドレックノールのメンバー、グラダの部下。

「そいつの目的は?」

表向きは、オランギルドを撹乱し、”不正取り引き”の目くらましをすること。
実際は、グラダ配下のメンバーをオランギルド、もしくは衛視に捕らえさせ、グラダの勢力を削ぎ落とす画策をしていたらしい。
具体的には、”取り引き”の現場を押さえさせるために、手引きした連中の方にも接触を持ち、情報を聞き出して衛視側に流していた。同時にそれはギルドに対する牽制にもなる。
それでもギルドが出張ってくれば、部下を放って関係のないところで騒ぎを起こし、目を引きつける。
最終的には、ワーレンを身代わりにしてトンズラ、と考えていたようだ。

「やはり、ドレックノールのいざこざが根っこか。アイリーンの報告と合致する。それと、ワーレンを襲った奴が吐いたこととも、噛み合わないところはない。
ワーレンといやぁ、今度のことではワリを食ったな。ギルドのほうでもそうだが、衛視側のほうでも絞られそうだからな。まぁ、仕方がない。ウチはメンバーの保護はするが、外のことに関しては一切感知しねーし、手心加える気もねぇ。
……お前さんも気を付けろよ」

…………………わかってる。
それと、これを。

「これは? ……どこの鍵だ?」

港湾区域の倉庫。

「中は見たのか? 何があった?」

人間が十数人。

「わかった。
…ご苦労だったな。帰っていいぞ。その格好で衛視なんかに見つかるんじゃねーぞ」

この報告で、事件は幕を下ろす。
霞通りも、いつもの小暗く猥雑な姿に戻るだろう。
衛視側では、まだ問題が残るだろうが…。
なにしろ一人殺されている。その人物が、ドレックノールから入り込んだ者だと知ることはないだろう。
もう、喋るヤツはいない。


「あの男はどうした?」

帰り道、いきなり声をかけてきたヤツがいた。
子供……いや、草原妖精だ。

「その血は何だ? 殺したのか?」

こいつ、何者だ? 何を知ってるんだ。
…まさか、まだウラがある、なんてこと…。今、報告を終えたばっかりだってのに…。

「殺したんだな?」

…………………ちょっと来い。聞きたいことがある。
答えてくれたら、オマエの知りたいことも、教えなくはない。

草原妖精は、警戒するでもなく…いや、じゅうぶん警戒していたのかもしれないが、俺が知っている事実関係への興味のほうが強かったらしく、わりと素直に路地裏に入ってきた。

そして――

わかったことは、今回の件とは全く関係がない、ということ。
一瞬、ひやりとしたが、ヤツの知りたいことが、「グラダの行方」のみだったので、教えてやることにした。

「グラダは、もうこの街にはない。今頃は、船の上だ。会ってみたいのなら、止めはしない。が、会ったところで、なんの得もないぞ」
 
決別の序章
A.カレン [ 2003/09/06 23:36:44 ]
 家の中は、静かだった。
真っ直ぐにラスの部屋に向かう。部屋の前で、躊躇う。
様子が気になるのに、会いたくないような…。
ノブに手をかけたまま、しばらくつっ立ったままでいると、何者かの気配が感じられた。
…それは、背後から…。

「どこ行ってたんだよっ」

振り向くと、機嫌の悪そうなセシーリカがいた。しかも、抜き身の剣を持って。
どういうつもりだ。

「どうもこうもないよっ。ラスさんが…。ってか、何ソレ。カレンさんまで怪我したの?」

これは……返り血…。
ラスがどうしたって?

「賊が入ったんだよ。たぶん、ラスさんを狙って。…撃退したけど、ラスさん、無理したみたいで…。
ねぇ、なんでこんな時に傍にいないんだよ。心配じゃないの?」

…眩暈を感じる。
おそらく、アッシュの差し金だろう。こんなところにまで手を伸ばすとは。
俺が苦しむのが、そんなに楽しいのか。…腹立たしいヤツ。

「それで…その剣は?」
「これは……またラスさんを狙って、誰か来たんじゃないかって思って…。だって、カレンさんはいないし、ラスさんは動けないし。ファントーはいるけど、実戦経験少なそうだから…。
どうして、もっと早く帰ってきてくれなかったんだよ」
「ごめんな。ケリをつけなきゃならない仕事があってね」
「もうっ。仕事仕事って。その間に、ラスさんに何かあったら、どうするつもり?」
「……何も起こらないよ、もう」
「ケリって、そういうこと? 安心していいの? 何もかも終わったって思っていいんだね?」
「…うん」


本当は、まだ終わっていない。
ぐったりとしたラスの姿を見て、息が苦しくなる。
信念にそって行動したつもりが、最後になってそれを後悔する自分がいる。
こうなったのは、何故だ。
体調を崩して、調査が出遅れたから?
奇跡が使えなかったから?
アッシュの思惑に気付かなかったから?

どうすればよかった?

ラスはわかっている。自分がどう行動するべきなのか。断固としてそれを曲げたりしない。後悔もしない。
それに見合う自分でいたいと思っているのに、俺はまだ迷いの中にいて、ずっと抜け出せないままだ。
それでもラスは、それを受け入れてくれる。たぶん、これからも。
だが、そのことでいつまでも安心感に浸っていていいのか。
………できないだろうな、そんなことは。
それでは、”相棒”なんて言えないじゃないか。
だったら……。


どうすれば、いい?


これまで、道はいくつか示されていた。
そして、この日、その中のどれを選ぶのか、心が決まった。
決別、と。
 
終了
ラスPL [ 2003/09/06 23:51:25 ]
 (とりあえず、事件そのものは片づいたようなので、これにてこのスレは終了。
この後の各キャラの心情などは、日記スレでよろしくー★
お付き合いくださったかた、どうもありがとでしたー)