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同じ空の下に
コアン [ 2003/08/20 5:40:22 ]
 新王国歴514年の夏、僕はこのオランの街へやって来た。

パダで別れた武術の師匠の後を追って。
放浪癖のある師匠だが、この大きな街にいれば、また会えるかも知れないと言う期待の様なものもあったのかも知れない。

そして、季節は巡りまた夏がやって来た。
しかし、僕は未だ師匠との再会を果していない。

もしかしたら、師匠と再会する事はもう二度とないのかも知れない…そんな不安に駆られた時、僕は何時も空を見上げる事にしている。

何故なら、どんなに遠くにいてもその上にある空はたった一つで、その事が僕と師匠を繋ぐ唯一の絆だと思ったから。

だから僕は見上げる。何時か師匠と再会する日を待ちわびながら、ずっと、ずっと…
 
青天の霹靂
コアン [ 2003/09/09 0:59:19 ]
 南西に二日ほど行った海岸沿いの洞窟に今、僕は来ている。でも、行楽ではなく仕事で、と言うところがちょっと寂しいけど。

今回のお仕事は“青い三日月”って言う名のナマコを獲って来る事。何でも三角塔に所属しているリスクさんと言う魔術師が、最近密かに流行りつつある奇病の特効薬の材料にするのだとか。

で、この仕事に誘ってくれたホッパーさんやアレン、以前一緒にお仕事をしたエルスリードさんやアレンのお父さんのヴェルテさん達とパーティを組んで僕はこの海岸へ来たと言うわけ。

最初の一日目は、エルスリードさんと組んで件のナマコを探した。
探しながら話したエルスリードさんとのお喋りは、とても有意義で楽しいものだった。夕食の後に、この前見せてくれた剣舞をちょっとだけ教えてくれるとも約束してくれたし。

そして二日目、今度はホッパーさんと組んでナマコ探し。
昨日探した場所のナマコは、粗方獲ってしまったので松明を片手にもう少し洞窟の奥へと進む事にした。

昨日よりやや暗いところを探すので、それだけ危険も多いかも知れないと言う事で僕は、薙刀を慎重に構えながらホッパーさんの前に立って歩き始めた。

昨日と同じく順調にナマコ獲りの方は進んで行った。ただ、足元が結構暗い上に岩場が思ったより入り組んでいて歩くのにやや困難した。気を抜いて、岩にはり付いた苔に足をとらわれない様にしていたけれど、それがかえってあだになった。
洞窟の天井から吊下がった岩に、モノの見事に頭をぶつけてしまったからだ。僕は、そのまま豪快にひっくり返って岩場の間の水溜りに落っこちてしまった。

「だ…大丈夫ですか、コアンさん?」

右手にナマコ、左手に松明を持ったホッパーさんが、慌てた様子で岩場の上から僕の事を覗き込んで来た。

……アィタタタァ〜…あははっ落っこっちゃいました、ちゃんと足元見ていたつもりだったんですけどね…

僕は、その場を誤魔化すようにはにかみながら、ホッパーさんが差し伸べてくれた手を掴んでその岩場の間から這い出た。

…あ〜ぁびっしょり濡れちゃったぁ…

僕は、そんな事を思いながら怪我がないかを確かめる為に自分の身体を見回した。

…ん?何だろう、胸元が妙にスースーする…

何気なく手を伸ばした胸元は、水溜りに落ちた時の勢いで紐が緩んだらしくはだけていた。そして、何時も巻いているサラシの手触りが、そこにはなかった。

僕は、自分が胸元に手を宛がうまでの間一言も言葉を発していなかったホッパーさんへそこで初めて視線を向けた。

僕の目の前のホッパーさんは、僕の胸元へ、信じられないものを見てしまったと言いたげな視線を向けながら石像の様に固まっていた。

ホッパーさんとの間に無限にも感じる沈黙が流れる中、髪の毛から滴り落ちる冷たい水滴が地面の岩肌に染み込んで行く音だけが、その時の僕の耳に響いていた。
 
男でない事の意味
コアン [ 2003/09/23 2:11:02 ]
 僕が“女”である事をアレンのお父さんのヴェルテさんに話した。
ヴェルテさんは、僕が女だと分っていたらしく、然して驚いた様子はなかった。

男でなければ強くなれないと思っていたのは僕だけだったのか、と苦笑いする僕にヴェルテさんは、真の強さを得るのに性は関係ないと、真の強さとは何かを引き換えにして得るものだと、そう諭してくれた。

その後、ヴェルテさんに話した事により男でいるのに拘らなくなった僕は、それを他の親しい人にも伝えようと決めた。

まず最初に出会えたのは精霊遣いのエルスリードさんだった。
僕が男だと偽っていた事を告げて詫びると、どうやらエルスリードさんもその事は分っていたらしく、その事実を極自然に受け止めてくれた。

そして“女”である僕の強さを見せてみろ、と僕にその場で手合わせを挑んで来た。
僕はエルスリードさんの、無骨だけど優しい心遣いに胸が一杯になるのを感じながらその手合わせに応じた。

…ヴェルテさんの、何ものにも揺るがない凛とした強さ、エルスリードさんの、無骨で荒削りだけど心の芯がじんわりと温まる優しさ…

そんな二人の“男らしさ”を垣間見た僕は、改めて男である事への憧れを抱かずにはいられなかった。

………そう言えば、戦神様の神殿の鍛錬場で僕とヴェルテさんの話を隠れて聞いていたホッパーさんに、胸の膨らみを隠すのに使っていたサラシを、もう使わないから服の接ぎ当てにでもして下さい、とその場で解いて手渡した時にすごい真っ赤になってうろたえていたけれど……何でだろ?