日々の糧 |
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クレア・シルヴァスタイン [ 2003/09/09 22:56:08 ] |
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| 最近よく行く酒場には、若くて可愛いオトコノコが多い。 ああ、これはきっと日々真面目に勉学と労働にいそしんでいるあたしに、ラーダ様がくれたご褒美。
<ラーダ様はそういう類のご褒美はくれないと思います>
──うるさいわよ、ククル。 とりあえず、あたしが勉学と労働にいそしんでいるのは事実じゃない。 あなたなんか鳥目だから、夜には役立たずだけれど。 でも、あたしはこんな夜になっても、ちゃぁんと書物を紐解いているわ。
<その代わり、朝、寝坊しがちですけどね>
──あんた、一言多いのよ。 いいから、さっさと寝なさい。あんたが眠くてふらふらしてたら、こっちまで引きずられちゃう。
使い魔のククルを寝室に連れていって、彼女が眠るのを待って、あたしは棚からワインの瓶を取り出した。 昨夜の残りだから、少しばかり香りが逃げてしまっている。
……ああ、そうだ。今日、酒場で話したホッパー君もワインを飲んでいたっけ。
お爺さんが書物を読み聞かせてくれた、と。 小さい頃は病弱な末っ子でしかなかったけれどと微笑んだホッパー君。 それでも、お爺さんの話をする時、そしてそこから抱いた夢の話をする時。彼はとても嬉しそうだった。
あたしが話すことを、何だか嬉しそうに聞くから、受け売りよ、と彼に笑った。 そうしたら、全ての知識はどこかの誰かの受け売りですよ、と笑い返した。 どこかから受け継いで。誰かから伝えられて。自分1人で見つけて生きていくのは、虫か魚くらいのものだ、と。
酒場でホッパー君に話したように、魚にも子育てをする種類はある。 以前知り合いのラーダ神官が教えてくれた。 「君も酔狂に魔術ばかりを追い求めないで、僕のように自然学を嗜んでみたらどうだい」 そんな余計な文句と一緒に。 ともかく、そんな酔狂な自然学者が教えてくれたのは、まるで抱きしめるように愛おしむように、自らの口中で稚魚を守り育てる魚のこと。
人間よりもよほど上等だわ。 自分の子供を利用しようとしかしない、下種な人間よりも。
棚を見ると、もうひと瓶、手を付けていないワインがあった。 そうね。明日はこれをお墓に持っていこうかしら。兄さんは赤ワインが好きだったから。
──誤解しないでね、父さん。 あたしは兄さんを嫌ってなんかいなかった。 あたしが嫌ってたのは……貴方よ。 |
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魔術師と精霊使い |
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クレア・シルヴァスタイン [ 2004/03/04 1:05:08 ] |
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| ふとしたいきさつから……いえ、これは妥当と言えば妥当な展開なのだと思う。 近い将来、導師になったら晴れて個人的な研究を許される。今はまだ、師事する導師の手伝いという立場でしかないけれど。 その合間を縫って進めていた自分の研究が、彼女の登場で、よりいっそう充実したものになるかもしれない。 そのことは出会った時から予感していた。
四大の魔術を研究したいあたしと、理論的に精霊を捉える精霊使いのクレフェ。 あたしは常から、精霊使いの感覚というものを知りたかったし、彼女は精霊のマナによる制御の術を知りたかった。 互いの目的が一致しているのなら、確かに共同で研究することは妥当な展開。
まぁ、お互いに気に入っているラテルを間に挟んで、ちょっとした意志確認はあったけれど。 それに、色褪せてきた髪を気にしているクレフェがあたしの魔術に羨望の眼差しを注いだこともあったけれど。 仕方がないわね。有能で美しいって……罪(ふぅ)。
最近の彼女は、ようやくあたしが年上であること(PL注:1コだけ)を思い出したのか、かいがいしく、あたしの部屋を片づけている。
「どうして!? どうして座る場所さえないのっ!? 貴女が、学院じゃ口さがない連中がどうの、と言うから貴女の部屋に来たのよ!? 資料も揃っているって言うから!」
……資料が揃っているのは嘘じゃないわ。それに、学院の図書室が居心地悪いのも確か。ウィンスレッド師の部屋と言ったらもう……提出間際の書類でさえ見つからない有様なんだから(ほぅ、と溜息)
「貴女の部屋も同じじゃないの! ああもう! 我慢出来ない。ね、片づけるわよ」
あ。クレフェ。そのあたりに手をつけると危n(書類が雪崩れる音。悲鳴。舞い上がる埃)
……だから言ったのに。 (ぱらりと手元の羊皮紙をめくり)ねぇ、クレフェ。ほら、こないだ言っていたことだけれど。 つまり、精霊の存在及びその力の源を、全てマナに帰結してしまうのは早計よね。それを踏まえた上で……。
「ちょっと待って! それどころじゃないわ! ……ああ、ええ、もちろん。だから、精霊使いという存在に目を向けるならば、その人間……いえ、人間とは限らないわね。亜人も含めて、その人物の意識下に及ぶ影響を…………クレア?」
なぁに?
「これ……重要機密なんて書いてあるけれど。そして、提出期限が明日って……。まぁ、私には関係ないわね。そうそう、さっきの続き。つまり生物の意識下へと影響を及ぼすものであるのが大前提なわけだから、それをマナで説明するならばどういった仮説が成り立つのかを……」
ちょっと待って! それどころじゃないわ! その書類、こっちにちょうだい!!(わたわた)
──ほら見たことかというように、白鳩のククルがクレフェの肩に舞い降りた。 肩をすくめて溜息をつくクレフェ。……ククルまで溜息をついたように見えたのはあたしの錯覚? |
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尊い犠牲 |
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クレア [ 2004/03/07 22:59:35 ] |
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| いきつけの木造の酒場は、三角塔からは少し距離がある。 <>けれど、あたしの下宿からは近いし、それにあそこに出入りする冒険者たちには、若くて可愛いオトコノコが多いから。うふ。 <> <>そして、そんな若くて可愛いオトコノコたちの中でも、あたしのお気に入り君が昨夜は現れた。 <>ちょうど、クレフェと難題について議論していたところ。 <>……議論、というのは正確ではないかもしれない。互いの意見は一致していたんだから。 <> <>今、あたしたちが取りかかっている研究に欠かせない資料がある。 <>東方の古書。それは、古代語魔法と精霊魔法の両方を修めた賢者が記したものとされている。 <>是非ともそれを読んでみたい、と2人とも思ったけれど。 <>どうやらそれはかなりの稀書らしく、三角塔にもラーダ神殿の書庫にも見あたらなかった。 <> <>2人で必死に探して、ようやく見つけたのが、ナロー卿という下級貴族のご老体。 <>財力はさほどではないけれど、学識だけはあるというナロー卿。 <>ここで問題なのは、本当に学識『だけ』であるという部分。 <>つまり、性格が……えぇと、何というか……そう、厄介な。 <> <>更に言えば、彼が持っているのは一部を写したものだけ。その原本を持っているのが彼の幼なじみだという。 <>稀書の原本……しかも、聞くところによればそれは初版、つまり本当の意味でのオリジナルらしい。 <>その幼なじみの名前を聞いて、あたしは諦めかけた。……無理よね。そう、無理よ。 <>それを借りるのに莫大な金額がかかるわけじゃない。当人はどうやらお金にはあまり頓着しない人間のようだから。 <>それに、ここから何ヶ月も旅をしなきゃいけない場所にあるわけでもない。オランの街に住んでる人物なんだから。 <>でも……でも、“あの”メアリお嬢様だなんて(天を仰ぐ)。 <> <>クレフェにそれを伝えると、彼女も眉を寄せた。 <>『サセックス家のメアリお嬢様』と言えば、賢者の中ではよく知られている。 <>ナロー卿と同じ意味で……けれど、数段上の人物として。それは学識も勿論だけれど、その性格が。 <>とくに女性相手には……若くて綺麗な女性相手には、執念を燃やすらしいから。 <>ふぅ……この美貌があだになるなんて……(ほふぅ)。 <>50を超えたあの老嬢の相手だけは勘弁していただきたいところ、というのはあたしとクレフェの一致した意見。 <> <>そんなところへ顔を出した、あたしのお気に入り君。彼の名はホッパー。 <>クレフェに目配せをすると、瞬時に彼女はあたしの意図を理解した。 <> <>褒めて煽てて持ち上げて。 <>ついでに軽く色仕掛け。 <> <>今日あたり、ホッパー君は意気揚々とサセックス家に向かっているはず。 <>若くて綺麗な女性には嫉妬心をむき出しにするメアリ老嬢が、若くて可愛いオトコノコにどういう反応をするのかはよくわからない。 <>うまくいけば、ホッパー君は彼女のツバメになれるかもしれないけれど……(思案)。 <> <>ありがとう。ホッパー君。 <>あたしたちの論文に、あなたの犠牲があったことは忘れないわ。しばらくは。 <>
<>あ。そうそう。 <>ラーダ様。ホッパー君の貞操を守ってあげてくださいませ。出来る限り。
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お土産 |
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クレア [ 2005/04/19 1:55:15 ] |
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| 「ただいまぁー」
……って、誰もいないっていうのはどういうことかしら。 仕事(伝言板:マーレイ村村長からの依頼)に出掛ける前に、クレフェがライカを連れてきたわよね。 それで数日はあたしの部屋に、って。 仕事を終えて帰ってきてみると、ライカもいないしクレフェもいない。 …………まぁ、部屋が綺麗に片づいているからよしとしましょう。
ああ、でも誰もいないってことはこのお土産を見せる相手もいないのね。 クレフェとかライカには喜んでもらえるかなぁと思ったのに。ざんねーん。
まぁ、仕事自体は、楽じゃなかったのは確かだけれど、そこまで危険というものでもなかったわね。 巨大毛虫は見ていて気持ちのいいモノじゃないけれど、興味深いわ。 おそらくは、何かの幼虫というよりも、ウォームの亜種と考えるほうがいいと思う。 成長した姿……例えば巨大な蛾なり蝶なり……が目撃されていないことを考えると、なにかの幼生体というのじゃなくて、あれが成長した姿なのだと思うし。 だとするのなら、やはり、おそらくはウォーム類の亜種。
生態と身体構造を研究しようと思って、このお土産を……。 運ぶの大変だったんだから。まぁ、さすがに成体は運べなかったから、それよりも小さいもので我慢するしかなかったのが残念だけれど。
どうしようかしら、このお土産。 学院に持っていって…………ううん、そうだ、よく会う魔術師がもう1人いるじゃない! 彼ならきっと、こういう研究対象は喜ぶに違いないわ。ええ。だって興味深いもの★
「……こういうのを喜ぶ人はあまりいませんよ?」
うるさいわね、ククル(使い魔)。黙っていなさいってば。
さぁて、そうと決まったらこのお土産をルベルトの宿に運ばないと★
(そして、夕刻。ルベルトの宿には、毛虫(中型犬サイズ)のアルコール漬けが入った特注硝子瓶が届く) |
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想像力 |
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クレア [ 2005/10/17 22:17:10 ] |
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| (PL注:ルベルトの宿帳(#{251})-6 「幸運、しかし災厄」に関連。かも。)
想像力。 それは、マナの力に拠らず、精霊の力にも拠らず、そして神の力にも拠らず。 人間──もちろん亜人間も含めて──だけが持ち得るものと言われている。 それを持たない者は、何も見つけられないし、何も探し出せない。 けれど、それを持ったが故に奈落へと堕ちる者もいる。 なぁんてね。 まぁ確かに、研究者にとっては、この上なく大事なもので、なおかつこの上なく厄介なものであることは確か。
よく行く木造の酒場で、ルベルトに会った。彼とは学院で会うよりも、酒場で会うことのほうが多い。 ルベルト自身、学院に通う魔術師ではないのだから当たり前だけれど。
ルベルトが今やっている仕事の話を、肴代わりに聞かせてもらう。 まぁあたしは、その仕事を請けているわけでもないし、ルベルトのいう依頼人の商人とも知り合いなわけじゃない。 だから全くの無関係、無責任という立場で、口を出してみた。 無責任な想像力が、存外に的を射ていることはよくあることで。 結果的に、あたしがワインを飲みながら吐き出していた推論の幾つかは当たっていたらしい。
そのことを今日、知らされた。 ルベルトからではなく、学院の導師から。
『魔術師ギルドは治外法権だ』
なんて言う衛視もいるらしいけれど……それはある意味当たっているのかもしれない。 魔術師ギルド、つまり賢者の学院。通称・三角塔。 ここは、どちらかというと……ああ、いいえ、あからさまに閉鎖的な社会だと思う。 ここに通っている人間の中には、権力者の縁のある者も多いから。 ルベルトが逃がした魔術師もそんな人間の1人だったわけ。
そして、「ギルド内での公正を期すために」なんてもっともらしい理由をくっつけて、そういった「権力者たち」と縁の薄い人間を内々の調査要員にするとか。 ……って、なんであたしなのかしらねぇ…。 事故調査委員会とか、そういうのに任せておけばいいのに。 逃げ込んできた魔術師から話を聞いて、周囲の繋がりを調べて、ルベルト本人からも話を聞いて……。 あー、めんどくさい。
ま、手っ取り早く済むほうから片付けましょうか。じゃあ、早速ルベルトを呼んで……ああ、怪我してるんだったっけ。 頭と口が無事なら、あたしは別に構わないけれど……(←鬼)。 いいわ、3日後で。その間に例の魔術師本人からお話聞いておくから。
んー……イヤな予感するのよねぇ。 例の商人が扱っていた品物のリストがね。この中に、魔術師の興味を惹くものがあるとするなら……ああ、でもこれって、逃げ込んできた魔術師が1人で考えてやったことかしら。 ひょっとしてほら、誰か黒幕がいて、魔術師を唆して……とかだったら。
……やぁね、想像力って本当に厄介。 |
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仏頂面の魔術師 |
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クレア [ 2005/11/17 23:20:08 ] |
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| (PL注:ルベルトの宿帳(#{251})-7 「調査」の続き?)
はぁい、ルベルト。いらっしゃい♪ ……あら、素敵な仏頂面。 調査をして1ヶ月が経つわけだけど。うん、資料はね、ちゃんと届いてるわよ。それにちゃんと読んだわ。今手元に持っていないのは……えーと、重大で不可解なアクシデントが発生して書類が見つからなくなっちゃったのね。部屋のどこかにはあると思うんだけれど。
で。貴方に調べてもらったことだけど……。 んー、残念というか、幸運というか。どちらの解釈をとるかは貴方に任せるわ。 あのね、調査打ち切りになったの。っていうか、背後にいた貴族が失脚して、ついでに実行犯の魔術師も素直に自分の罪を認めて。何もかもを白状して。
あら、ルベルト。素敵な仏頂面に磨きがかかっていてよ?
「……おまえさんはそれで納得したのか」
そうね、難しい質問だわ。 『納得せざるを得ない』というのが一番正しいかしら。
「どういうことだ?」
えーとね、整理してみるわね。 まず貴方が警備を請け負った商会が襲撃された。荷物が狙われたわけよね。 実行犯は、学院に在籍している魔術師。その背後には有力貴族。 どうやら、襲撃を教唆したのがその貴族らしいことまではわかっていたんだけれど。
その貴族には誰が教唆したのかが、そこからが推測だけで証拠がなかったの。 教えてあげるわ。 ロマールの貴族と繋がってるっていう噂があったのよ。 思い出してみて? 狙われたものは魔法の品物だったでしょう? そう、確か……炎の魔法の剣。 あれがね、もともとロマールの、とある人物の持ち物だったんじゃないかっていう噂もあったの。
でもねー。尻尾切られちゃった。 実行犯の魔術師は杖を剥奪されて国外追放。背後にいた貴族は失脚して……追放にはならなかったけれど、オランには居られないでしょうね。 ついでに、別の貴族からも圧力がかかったみたい。これ以上探るな、ってね。丁寧きわまりないわ。
そういうことでルベルト。その仏頂面をどうにかしてちょうだい。 ちゃんと1ヶ月間の調査費は出るわ。
ところで……個人的に費用を出すから、この部屋を整理してくれないかしら?(おねだりポーズ) (調査用に臨時で借りた個室は1ヶ月の間に凄まじい様相になっている) |
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友人 |
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クレア [ 2006/06/21 21:49:55 ] |
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| 「わたし、ミラルゴに行くわ」 クレフェがそう言いだしたのは、5の月の半ばを過ぎた頃だったろうか。 彼女なりにいろいろと踏ん切りをつけたのだろう。 旅立つと決めたのなら、それ以上特に聞くことはない。 けれど。
「じゃあ、あたしの部屋はこれから誰が掃除してくれるの!?」 「ルベルトがいるじゃない」 「だって一応、彼も男性じゃない。まさか寝室にまで入れるわけには……」 「……待って。あそこ、寝室だったの?」 「それ以外の何だって言うの?」
まぁとにかく、私も自分なりに解決策を考えてはいたのだ。 クレフェがオランを発つというのなら、私のその案も実行に移さなければならない。 以前から、もっと広い部屋に引っ越しをすればいいのではないかと思っていた。 部屋が散らかるのも、資料が探せなくなるのも、ククルが室内で遭難するのも、きっとこの部屋が私にとって狭いからに違いない。
宿屋暮らしは確かに便利だろうけれど、室内の面積が逆に今よりも狭くなってしまう。 かといって一軒家を買うなり借りるなりすれば、今度は外回りの手入れも必要になってしまう。 手頃な物件がないだろうかと少し前から探してはいた。 そして、クレフェが旅立つと聞いてから2週間ほどした頃にそれが見つかった。
私が入居している集合住宅は、1軒の家に4世帯が入っているタイプのものだ。 階段を挟んで左右に、それぞれ上下階。 私は2階の東側に住んでいたのだけれど、その真下に住んでいた夫婦が5の月の終わりに引っ越しをしたのだ。 裏に住んでいる大家に事情を聞いてみると、住んでいた若夫婦に子供が出来たらしい。 そしてそれをきっかけにして、実家で親と同居することにしたとか。 ああ、そんなことはどうでもいいの。 そこの新しい借り手はもう決まっているのかしら?
6の月の初め、クレフェが山ほどの荷物を抱えて訪ねてきた。 「売れるものは売ったけれど、貴重な本も何冊かはあったのよ。だからそれと」 あとはこれ、と示したのは何着もの洋服。 「あなたとわたしならサイズは似ているでしょう? 古着屋に売ろうかとも思ったけれど、あなたが着られそうなものがあるなら受け取ってちょうだい」 「でもクレフェ。ドレスは胸がきついわ」 「……きついのはウエストもなんじゃないの?」 「そもそも、あなたの銀髪に合わせて仕立てたドレスじゃない。あたしの黒髪にはあまり似合わないわよ」 「そう? じゃ、やっぱり古着屋に売ろうかしら」 「いいわ。でも受け取ることにする。全部まとめて階下の部屋に運んでちょうだい」 「階下?」 首を傾げ、そういえばいつもより部屋が片づいているわねとクレフェが疑問を口にした。 階下の部屋も借りることにして、資料の類は全てそちらへ移動させた後だと話すと、クレフェは肩をすくめた。 「……部屋を広げることは、整理整頓の解決策にはならないのよ?」
でもいいじゃない、と私は答えた。 「あなた、帰ってくるならこの街だと言ったでしょう? 確かに専業冒険者なら一期一会。けれど、あたしは三角塔の術師よ。あなたの帰りがいつになろうと、あたしがこの街から離れることは多分ないわ。 そのたくさんのお洋服は、あたしが預かっていてあげる。ひょっとしたら時々勝手に何着か借りるかもしれないけれどね。それはまぁ、預かり賃だと思って許してね? だから、せっかく東方に行くなら、若返りの秘術のひとつでも見つけて帰ってきてちょうだい」 そうするわ、と言ってクレフェは出て行った。
とりあえず、クレフェがいない間は……学院の若い女の子で掃除が得意な子がいればいいんだけれど。 |
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