| MENU | HOME |

衛視詰所日誌
ワーレン [ 2003/09/23 3:34:40 ]
 「ワーレン、貴方に衛視詰所の書類管理士として、日誌を書いてもらいます」

元同僚である上司から言われ、手渡された分厚い羊皮紙の束。

「・・・マジ、か?リリエ・・・衛視第参隊長」

うわ・・・実に面倒臭い。
今までつけていなかったような気がする、ぞ。

非常にげんなりとする・・・。

とはいえ、書類管理士という名目で衛視やっている以上は・・・。

はぁ。

流石に・・・断るわけにもいかない。
仮でも書類の管理しているところを見せなきゃ、まずいって訳、だ。

仕方ない、適当に・・・オランで起こる些細な事件でも書く、か。

尤も、些細どころか、クソつまらない事件は書くつもりは無いが、な。

とりあえず、俺は事実上書類などほとんど無い、仕事部屋に行った。
出来るなら、この日誌に書く事が・・・

”今日も異常なし”

これですめばいいんだがなぁ・・・
ま、御仕事しますか、ね。
 
515/11/5 盗難事件
ワーレン [ 2003/11/16 2:10:14 ]
 休日だってのに、雨が降っているってのに、こういう時に限って事件。
ドワーフ族と交流のあるエフェンベルク卿、貴族の屋敷から”紅玉の戦斧”が盗まれたとの事だ。
さっそく、事情を聞きに行くが・・・

これがまた、卿が犯人については”知らぬ存ぜぬ”で。
尤も、態度や言動からは”犯人知ってます”てのがバレバレだった、が。
だからといって、ただの衛視が問い詰める事も出来ず。

結局、ロクに話も聞けず。
雨の中を闇雲に聞き込みに行かなきゃならない羽目に。

たく、家宝ともいえる品が盗まれたってのに、何であんな態度なのか・・・
解決の糸口は見えそうも無い。



と、思ったら、そうでもなかった。
冷えた体を温めようと、通りがかった”気ままに”亭に寄ったらだ。
卿の依頼を受けたことがあるドワーフの旦那、ビアモフがいた。ブラキの神官って話だ。
そうそう、確か、旦那がこの事件の噂を店員に聞いているところだった。

・・・噂ってのは早いねぇ。
ま、ビアモフは知り合いの盗賊から聞いたから、早いはずだわな。
”巣穴”の情報収集には改めて脱帽する、よ・・・尤も、俺も”巣穴”関係者なんだけどな。

おっと、それでだ・・・どうやら卿について知っている様なので、ちょいと聞いてみる。

んで、色々と話をして・・・その最中にサルトン、至高神の神官が来たんだ。
威厳漂うってのが第一印象だ。
右目が潰れていて、それが更に威厳に拍車をかけているってのが俺の正直な感想だ。

それで、話の流れで、二人が明日に卿の所に同行してくれる事になった。
ドワーフと交流のある卿の事だ、少しは態度が変わるかもしれない。
これで解決してくれれば、俺の明後日の休日は確実になる。

・・・でないと、ツレに怒られる。
ま、ビアモフの旦那が言っていたが、怒られるうちが華。
愛想尽かされるよりマシってことか。

ま、なにはともあれ、今日は至高神と鍛冶の神様と、縁の神様に感謝ってことで。

ああ、そういや・・・
今月は”神様のいない月”だったけ?本当なら困った話だ、ぜ。

ま、何にせよ、明日に解決すれば万万歳ってことで。
 
515/12の初め頃? 遺失物と下水の怪物 1
ワーレン [ 2003/12/05 23:03:12 ]
 ・・・今日の俺はついてない。断言する。
下水道の泥の中で、”伸びるモノ”に絡みつかれまいと必死に槍を振るう。
てか、伸びた勢いばかりで絡みつくところはどうも遅い。

「ふ、単純ッ!俺、絶好調!手前、鈍重!」

・・・と、反撃とばかりに一発踏み込む。

めり込む。
手応えが無い。
目の前の怪物はけろりとしている。

何事も無く先と同じ攻撃を繰り出す。
これで十回。

「だーっ!なんで俺の槍で突つかれて平気なんだ、こいつはーッ!!」

虚しい叫びに怪物の嫌な鳴き声、そして俺には理解できぬ雑音が響く。
火が、光が、力として相手に叩き込まれる。



事の起こり。

其の日は雨が降っていた。
午前はそれほど強くなく。
昼を過ぎて柔らかな衣の雨。

俺が午後出勤をあと一刻ほどの頃。
仕事前にツレと軽い食事でも食ってくかと話している所へ。

「ワーレン、リリエ衛視第参隊長から緊急召集ぞ」

同僚のグラコニーが走ってきた。
唐突に呼び出しが来て、不服ながらも俺は一刻早く詰め所へ。
ツレの怖い顔を拝まずにすんで幸い、か?

「娘が行方不明なんだ!」

夫らしい男は事あるごとにまくし立てる。
妻らしい女はおろおろしては泣き出す始末。

「・・・あー、ともかく、諸君、リーミテルトさんである」

商業地区じゃ平均とかいうが、そこそこ裕福な家庭のであると記憶する。
仕事は美術商だとか言っていたが、実績は何一つ無い。

”ディレッタント”

まぁ、先祖の遺産を細々と食い潰しては遣り繰りする羨ましい家と。
趣味や道楽でそこそこに暮らしている、贅沢な人種でもある。

そんな一家の一人娘のセアリが夕刻過ぎても私塾から帰ってこないという。
外の天候は・・・午後から凍えるほど冷たく、そして降頻る”雨”。
冬である以上、夕刻の時間は思う以上に早く夜の帳に譲る。

とにもかくにも、動ける衛視が集められ・・・とは言っても、十名だけ。
何は無くとも情報とばかりにあれこれ喧しい夫婦から情報を聞き出す。

「早く!何をしている!貴様ら衛視はノロマか!?亀か!?蛞蝓か!?」
「私の娘を探して!セアリ、セアリー!」
「この暗い雨の中、もしも川になんぞ落ちたら・・・!」
「いやぁぁ!私の娘を、愛しい一人の娘がー!」

・・・実に喧しいので、一発叩き込みたい気分だが・・・
一応、一般市民に暴力に訴えてまでアレコレするのは衛視として止める。

・・・まぁ、人間として、大人として、でもあるか?

聞いたところ、寄って行きそうな所は聞き出せた。
衛視服に汚いマントを着込み、少しでも雨に濡れぬ様にする。
体力の消耗は動きの迅速さを体温と共にいとも簡単に奪い去る。

その、悪循環にならぬよう、できるだけ迅速に行動を始める。
一刻一刻、僅かな希望が消えていく気がしてならなかった。

私塾、ラーダ神殿、装飾屋、人形屋、娘の友人の家・・・

結果は・・・無駄足だった。
行ったと思われていた私塾には姿を表していなかった。
最悪の事態を予想せずにいられなかった。
だが、報告の為に俺はいかざるを得なかった。
朗報を待つ家族の落胆する顔を覚悟の上で、詰め所に戻る。

「体が重い、ぜ」

雨のせいだと思いたい。
詰め所のがたのきた木の扉が、相変わらず不満そうに音を立てた。
 
516/8/15 色々な面々
ワーレン [ 2004/08/16 3:42:46 ]
  事件とか何とか祭りとか。

 まぁ、そんなこんなで、随分とサボった日誌である。
 色々と面倒臭いのは代わり無い。
 いちいち書類なんて書くのもアレだし。
 そもそも、羊皮紙の節約してんだから逆に良い事だろうに・・・

 なんて愚痴言ってたら、上司のリリエが背後に立っていた。
 一瞬、心臓が止まるのがよぉく分かった、ぜ。

 と、そんなことで、夜遅くまで書類管理士の仕事を倍にされて帰宅。
 ・・・のつもりが、思わず、いつもの気ままに亭へ。
 ちょっと酒と飯を、と思って。

 最初に会ったのが・・・店員を脅迫、いや、ちょっと気まずい雰囲気を作り出していた、其れなりに美人の部類なんだか癖のありそうなお嬢ちゃん、ファリスの神官戦士。なんとも、冗談が度を越えてしまったところに俺が来たモンで、その場を取り繕うと焦っては暑いとか何だとか。あまりにも其の様子が面白かったのでからかった。
 で、次に来たのがアル。以前のヒヨッコを狙った事件では俺の予想を裏切り活躍を見せた新米の冒険者だ。吟遊詩人にして賢者、そして商人の経験もあるとのことで、人との交流は苦手ではない様だ。キャナルの嬢ちゃんとは知り合いとのことだ。どうしてなかなか、歌の題材に出来そうな事件や面白い人物(俺も含むらしい)に出会えるのは奴の才覚なのだろう。
 話が弾むと訪れたのは傭兵稼業で飯を食うサイカという青年。傭兵らしい言動が印象に残る。オランには傷んだ装備の補修とやらで訪れたらしい。マント一つにとっても使い方で色々と話が通じるところは流石は傭兵といえる。俺が知り合いのドワーフが経営する”焔堂”で装備の修繕をすると良い、同時に困り事もあるから聞いてやってくれと教える。上手くいけば、ちょっとした仕事にもなるだろうし、装備の修繕費用も安くなるだろうな。
 キャナルが時間と言う事で退席して少しばかり、陽気な歌を伴いつつ草原妖精のキアがやってきた。直接の面識はなかったものの、どうも俺の事を知っていた・・・まぁ、俺は巣穴で厄介な存在だし、な。衛視で盗賊だなんて、まるで”蝙蝠”と。そこでサイカが巣穴のサインをするので、俺もキアも応える。ここにいるのは裏を知る人物が揃った訳だ。
 アルがエレミアに行くと聞き、あれこれと注意(事件の首謀者である魔法使いとかに狙われているかもしれん等)する。首謀者が残した唯一の証拠品の西方風紋様の入った小袋を見せると、何か分かった様で更なる調査の為に見せて欲しいというので渡す。賢者の奴がいうからには、何か思い当たるフシ・・・ファンドリア関係だというが、まぁ、調べ終わるまでは何とも言えん。事件云々で興味を示したのは傭兵サイカ、流石は何か金になりそうな話は逃さないのが、傭兵らしいと思う。同時に危険である事も判断したことも含め。
 で、そのまま帰っていくアルを見送ると、訪れたのは故郷がロマールとのことであるアルファーンズだ。久方ぶりの登場に・・・いや、実際は大祭で女装している奴を見かけているので久方とは言いにくいのだが・・・俺は笑って、ようチャンプのお出ましだと迎える・・・勿論、女装のチャンプだが。キアとのやり取りを見ると古くからの付き合いであると察する事が出来る。
 アルファーンズから聞いたのはエレミアとザインのあたりで見かけた怪しい傭兵団の存在。魔術師がいる事を聞き、もしやと先日の事件の首謀者かと思わず脳裏によぎる。とはいえ、核心が持てないので早計な判断は止めるとする。もっと考えなければいけないのは、俺達衛視が駆り出される事だ。国境に不穏な動きがある以上、オラン側もそうそう放置はしないだろう。となると、調査や警備の為に衛視も加わる事もあると言う事だ。・・・アルファーンズからの忠告もあり、単独行動が好みな俺も、今回ばかりは集団で動く事にする。魔法もあると厄介だからな。
 キアには思わぬ昔話、俺の今のツレ、リテについてだが、過去に俺が浮気した時に怒りまくって俺が当分自分の小屋に帰れないという悲しい思い出が蘇えった。おかげでますます、尻に敷かれる羽目になったのは言うまでも無いが。
 おっと、もう一つ。リテが巣穴の仕事で動く事になった。そこで彼女の同期であるクエロに連絡を頼むことにした。本当は帰り際に何時もの情報屋に頼むところだったが、配達屋(表裏関わらず)やっているキアに頼むことにした。なにしろ、仕事が早いしな。腕も確実。しばらく、ツレが不在で独身に逆戻りだが、浮気はしないつもりだ。次は確実に刺される・・・そんな確信がある。”双頭鼠”のリテ、其の恐ろしさは一番に俺が知っている。
 ちなみにキアが言ったが、リテが献身的だという。まぁ、俺はそうかなと疑問が残るも、ちょっと納得した。こんな俺でも好きになってくれたと思うと・・・不器用で損な役回りな人生も捨てたもんじゃないと。何をのろけていると思われても構わんぞ。

 ・・・

 まぁ、色々とありすぎて、実に濃い一晩だった。厄介な仕事がそろそろ訪れる予感を残して、明日も仕事に励む事にし様。勿論、橋の下での休憩も含めて、な。明日のオランは平和で、俺の手を煩わせるまでも無い様に祈ってみる。ちなみに、信仰しているのはファリスだったりする。正義とは似合わない俺だが、結構熱心な信者なんだな、俺。声は聞こえなくても、自分の正義を貫きたい気持ちは確かだし、な。

 さぁて、平和なオランを満喫できることを夢見ましょうか?
 
516/10月末
ワーレン [ 2004/11/01 11:53:48 ]
  港湾地区で事件・・・と、言っても、ほとんどはずれ。
 その区域の倉庫街と商家の立ち並ぶ区域の境あたり。
 ギリギリ丁度、俺の担当区域でやがる。

 事件は強盗傷害で、被害者は足に打撲と腕に裂傷を負うが、致命傷には至らない。
 被害者によると、あっという間の事で、襲って来た相手を確認できなかったそうだ。
 ちなみに被害者は、カルコという付近の酒場あたりでたむろっているゴロツキの類。
 自称、酒場の用心棒とかぬかしてやがるが・・・
 とはいえ、全財産の入っていた財布をとられて明日からどうすればいいと喚き散らす・・・マヌケ。
 まぁ、結局は正式に事件として被害届を出すと・・・仕方ない。

 早速周辺で聞き込み。
 たまたま現場にいた人を捉まえては、詳しく聞いて調書をとる。
 すげぇ、面倒臭ぇなぁ・・・これって巣穴が関わってると思うと。

 そこに一人、見覚えのある男が、同僚に調書を取られているのに気付く。
 浅黒い肌で若い男・・・

 幸運と交流の神、チャ・ザの神官にして”巣穴”の関係者、カレンだ。

 (色々と)チャーンス♪

「なんとかなんならねぇの?」

 結局、事件現場の後処理が終わるまで付き合わせて、酒場まで同行してもらい、落ちついての俺の一言だ。

 事件の多さが異常で、調査だけで一日が消費され、肝心の解決までには程遠く。
 次々と起きる事件に、忙殺されること最近。

 それについても合わせて、カレンにちょいとばかり、愚痴っぽく聞いてみた。
 まぁ、カレンの答えの大方は予想、つか、当然と言える。
 で、巣穴の仕事を抑える事は出来ないかと聞いてみたわけだが。

 構成員の下っ端だから、他人に強制させることは出来ない・・・と。

 実際のところ、そういうもんだろうな。
 其の上、偶然居合わせただけなのに、こっちの都合で連れ回した挙句。
 そんなことを言うのは筋違いとは分かっている。
 巣穴が関わっている事が確認できただけでも幸いな事だ。

 しかし、良い奴だ。

 俺の話をツナギぐらいならばしてくれると。
 ありがたいことだ。

 迷惑かけたのになぁ・・・
 だから、あんまりややこしい事に巻き込まない程度にお願いする事にするとして。

 ・・・

 今日、十一の月。
 先月の事件が未だ解決を見ずに山積みになっている現状。

 サイカからの手紙が訴える事件も、ようやく手がつけるところまでだが・・・

 意外と解決できそうかもしれない。
 巣穴側からは、”首謀者の責任を考え、国外追放”ということ。
 サイカへの追っ手は少なくとも居なくなった・・・と、思う。
 つか、あの自称”後始末屋”こと道化師野郎がお節介な事に、残党の情報を寄越しやがる。

「巣穴側の御好意を無視してうろついている輩ですから、遠慮無く」

 ・・・

 余計な事をすんなーっ!!
 そう、詰所の真中で疲労を叫んでみる俺だった。

 そして、積んであった羊皮紙の束が同時に崩れたのは秘密である。
 
517/1月末頃
ワーレン [ 2005/01/30 21:47:39 ]
  久方に「気ままに」亭へ寄った時の事。
 新人という店員があたふたと接客していた。
 あまりにも不慣れな様子にちょっとばかり笑ってしまった。

 其の日。
 俺は衛視の仕事の一つ、見回りをしていた。

 一の月の寒い時期に見回りの仕事は昼間でさえも凍える事この上ない。
 ちょっとした事件でも延長、最悪真夜中まで見回りだってありうる。
 だから幸運にも夕刻過ぎに仕事を終えられたのは幸運だった。

 体の芯が完全に冷え切る前に酒と暖かい飯を直ぐにありつける。
 幸せこの上無し。

 そんな、些細ではあるが嬉しい気分の中。
 冒頭の光景に出くわしたのである。

「エール肉入りとトナットサンドですねっ!?」

 注文を繰返した新人店員の言葉に思わず吹き出しそうになる。
 慌てて訂正をいれて、もう一度確認させた。
 一挙一動がしゅんとなったり、あまり様にならない愛想笑いと忙しい奴だ。

「笑っちゃいますよね、肉入りエールなんて」

「そう言う訳で、しばらくお前さんのあだ名は『肉入りエール』で決定だ、な!」

「えーっ、ひでー・・・いや、ひどすぎますよー。」

 奴の名はバザードという。
 聞けばしばらく前に田舎から出て来たという。
 色々と大変な目にあったり、失敗したりと店員になるまでは苦労したらしい。
 まぁ、そこんとこの子細は聞くのは気の毒で、本人の意向もあって何も聞きはしなかった。

 しかし。

「その後、幸運なことにこの店をとある人に紹介してもらって。」

「紹介してくれた人って誰?」

「ブーテオって人。本名かは知らないっスけどね。」

 ブーテオ・・・よりによって奴かよ。

 巣穴の関係者である。
 表向き、働き手を探している店への若者を紹介をして生計を立てている普通の親父。
 しかし、裏ではそういった若者の中に自分の息のかかった盗賊を混ぜては、その店での秘密などを探らせているとか。
 まさか、そういう類の奴じゃねぇよなぁ・・・と、思いつつ。 

 しかし、バザードの様子を見る限り、その懸念は無駄のようだ。
 本当に田舎から出てきた純朴な青年。

 彼のこれからを見つめるのも面白いか。



 いくつかのやり取り8からかい?)を楽しんだ後、奴が店の奥に引っ込んだ。
 それと同時に俺は店を出る。

”ひゅう”

 せっかく酒と料理で暖まった体が冷えてきた。

 オランの路地裏の寒さは、俺が孤児になってうろついていた頃から大して変わらない。
 なんて、昔の苦い思い出に浸って家路を辿った。
 
517/11月末頃
ワーレン [ 2005/11/27 20:06:08 ]
  ふぅ。

 ため息をつけるというのが、どれほどの幸せと言えるの、か。
 久々の、オランで、住み慣れた、俺の”寝床”、だ。

 些細な幸せではある、が。

 それを何気なく繰返せる場所がある、と。
 普段こそ気付かないが、今、俺は良く分かるつもり、だ。

 まぁ、あれ、だ。

 衛視としちゃぁ、冒険溢れる危険な任務は、いけねぇってもん、だ。
 昔の俺の持っていた、小さな夢と希望、が。
 冒険者を止めた挫折を乗り越えて来ちまうから、な。

 明日からの休暇、ツレに振りまわされるのを覚悟で、今日は寝る、か。

 其の前に軽く、一杯。
 俺の好きなオランに乾杯。
 
518/1月
ワーレン [ 2006/01/06 1:19:09 ]
 ”年末を迎えるにあたり、諸事情で警備の人手が不足している。
 年越しから新年の三日間、腕の立つ冒険者を募集している。

 頼みたいのは定められた場所で一晩警備するという仕事だ。
 場所としては以下の三点。

 市内の指定するコースの見回りなどの巡回。
 ハーザードに架かる橋の上での警備。
 港湾地区にある指定する倉庫の警備。

 報酬は一晩で金貨1枚と銀貨20枚、三日で計銀貨210枚分。
 前金は基本的には無しだが、希望があれば申し出を。
 夕方から仕事開始で、其の時に簡単な弁当と湯を支給する。

 なお、仕事中に危険や手柄をあげた場合、上乗せも考慮する。
 詳しくは衛視局本部、受付へ。

 新王国歴517年12月末 衛視局書記官 ロムザナーク”

(べりべり)←剥がす音

 なんでまた俺が・・・自分で貼って、今度は回収、だ。
 衛視局も年末年始だからといって、上に点数稼ぎに力をいれやがった。
 よりにもよって、街の安全を守るべき存在が。

 去年はそこまではしなかった。
 あくまで、年末年始の馬鹿騒ぎを取り締まるぐらいで充分だった。
 それに、年末年始はどんな奴でも”仕事”は休んでいる。
 よほどの馬鹿か、暗黒神の狂信者か、粋を知らないアホでなければ。

 新年を迎えるにあたり、大方の奴は静かに祝うのだ。
 そう、偉大なる始原の巨人・・・だったか?

 死によって神と生命や精霊、そして世界と大陸を生んだとされる巨人。

 その死を年末に鎮魂の歌で慰める。
 そして新たな年に希望を見出す。

 ・・・

 ま、終わったから、な。
 今更ボヤいても仕方ない、さ。

(くるくる)←丁寧に羊皮紙を丸める音

 結局、大して点数稼ぎにならなかったようだからな。
 ざまぁみやがれ。
 ただ唯一感謝したのは冒険者たちというオチとは、笑える。

 ロムザナークの奴、損な役回りに名前を使われてざまぁねぇ、な。
 直属の上司で提案者の衛視第弐隊長のフォロコートの面目丸潰れだし。
 俺をコキ使った報いだと思いな。

 しっかし。

 リリエ衛視第参隊長も此れを見越したのか・・・
 あえて反対も賛成もしなかった訳か。
 もしや、ライバルの失態狙い?

 ・・・うわ、怖ぇ。

 余計、下手に書けなくなってきた・・・しっかり日誌書きなおす、か。

(ぽんぽん)←丸めた羊皮紙で肩を叩きつつ、次の店へ・・・
 
518/2月 前半
ワーレン [ 2006/02/21 0:41:24 ]
  二月初め、露店の一番賑わう夕刻の大通り。
 そこで薬物混入事件が起きた。

”大通り露天商 パンに薬物混入 危険”

 衛視の詰所に放り込まれたタレコミ。
 非番の日にツレに花を贈ったら怒られて家から逃げてきた。
 で、ちょっと思い出して詰所へ忘れ物をとりに来た俺。
 笑顔のリリエ第三衛視隊長が一言。

「丁度良いわ。ワーレン、コレの調査、頼んだわよ」
「・・・いや、俺非番だし」
「こいうのは貴方向きでなくて?」
「・・・むしろ苦手だ」
「じゃ、お願いね」
「・・・おぃ、待て」
「私、これから本部でジジイと不味い茶でデートなの」
「・・・それって単なる会議じゃ」
「じゃーねー」(すたすた)

 やっぱり、緊急出動の命令が下る。
 んで、結局調査に出る羽目に。


「詰所にもタレコミかよ・・・ま、こっちが早かったがな」

 巣穴のほうがやっぱ上手なのは当たり前だ。
 タレコミよりもずっと前に薬物パンについての情報を握っていた。
 しかも、現物ニ個ほど回収済み。

「で、その現物は?」



「眠り薬の類だな・・・鼠が気持ち良く腹上にして寝とるわぃ」

 巣穴の薬物に詳しい爺さんが鼠にちょっと食わせていた。
 鼠がひたすら寝ている姿はなんとも・・・

「人間だったら、寝ずに済んでも朦朧とするか程度だの」



 大通りの露天は大賑わい。
 そのパンを売っているというあたりを探すのに苦労。
 そこで見つけたのは・・・

 ジャングルラッツの三人組。
 情報収集が仕事のスウェン。
 草原妖精のグリン。

 幸いか不幸か。
 この場で薬物パンを口にしたのは彼ら計五名で済んだ。
 しかも眠り薬であった。

 とはいえ、一体何故このような事が。
 スウェンとのやり取りで考え付いたのは嫌がらせ。
 パンを売った店主のドギーに対する。

「場所取りがうまくいけば、誰が出してもいいのがここの屋台だよね」

 成る程・・・
 とりあえず、寝ちまったグリンは詰所へ保護。
 スウェンに協力を依頼して情報を集めてもらう事に。

 ちなみに余談だが、何故、ツレのリテへ贈った花が原因で怒ったか。
 理由はスウェンから教えてもらった。

「赤くてうつむいたような花だったら「嫉妬」って意味だから」

 そりゃ、まずいよなぁ・・・・・・



(一週間後)

「結局、嫌がらせだった訳か」

 犯人はドギーの露店場所を狙っていた若い男。
 まだ新参者で商売がうまくいかなかったのが原因。
 それで、むしゃくしゃしてやったと捕まったらあっさり吐いた。
 死んだ両親から商売を引き継いだが店は借金でとられた。
 仕方なく露店で仕事に励もうとしていたのだが・・・

 ドギーのほうは人がいい。
 怒るどころかそんな境遇の彼を理解して更生させると。
 身元を引き受けて自分の元で修業させると。
 同じ業者のよしみかドギーの美徳なのか。
 まぁ、詰所の牢が埋まらなかっただけマシだ。

 とはいえ、やったことは危険な事に違いない。
 一般市民が巻き込まれる寸前だった。
 それに巣穴のメンバーに被害者が(一応)出たのだから。

 反省の様子を暫くは見まわりのついでに見ていくとしよう。
 まだやり直せる・・・これから長く罪を背負うだろうが。

 しかし・・・

 薬物の入手先について不可解な点が残った事を報告書にしたためる。

 彼が言うにはこうだ。
 酒場でむしゃくしゃして酒を飲んでいたら不気味な男が尋ねてきた。
 そして言った・・・あいつが憎いのならお手伝いさせてくれ。
 君の努力が実らないのは邪魔する奴がいるから悪いのだ。
 そんなことは許されないのだから私に考えがあるんだよ・・・と。

「そして・・・家に帰るとき、気付いたら薬物を渡されていた」

 それが本当だとは言い切れないが・・・
 この件は引き続き調査される事を上申する。

 上司に書類を出し詰所を出る。
 そこへスウェンが尋ねてきた

「蝙蝠のおっちゃん、約束の(手を出す)」

 ・・・今月は出費が多いこと、だ。
 
518/4/21
ワーレン [ 2006/05/08 2:13:51 ]
  世にも不可解な出来事ってのはあるもんだ。
 しかも食ったモノが原因だとは誰が予想したか?

 食ったモノ?

 口に出すだけ恐ろしい…訳ではないが、単に思い出したくない。
 だからここでだけ、例の物としてしか記さない。

 何の話か?

 世にも珍しい…はず…記憶喪失事件、だ。
 その事件の中心は俺…と、ツレのリテ。

 その日の昼間、まぁ、約半日の時間、覚えがない。
 今頃になってようやく整理できた範囲で記すことにする。

 寝坊し、仕事に遅刻しかけてツレのリテに叩き起こされる。
 朝飯を用意してくれていたリテに、例の物を無理やり持たされる。
 で、慌てて食いながら詰所へ走り…記憶が途切れた。
 その後、ぼんやりと”きままに”亭付近を歩いていた。

 兎角、そこまでがまず事件(?)の発端。

 そして”きままに”亭お中で解決に至った訳だった。
 様々な助言…むしろ突き落とす言葉が多かった気がする。
 ま、とりあえず、原因は例の物の材料の穀物、ライ麦であったこと。

 ちなみにその時、席を同じくしたのは。
 半妖精のラス、セシーリカ。

「ああ、あれか。呆けってやつ。
 いや、早いやつは40代くらいから呆け始めるっていうからさ。
 人間は年くうの早いしな。おっさんもいろいろと大変だな、おい。」

 …いや、ありゃ記憶喪失だったけど、絶対呆けじゃねぇ。

「んー……そうだな。実は、怪しい薬のことを聞いたことがあるんだが(やっぱり真顔)
 液状のその毒を染みこませた布で口元を覆う。すると相手は一定時間、自我を無くす。
 その間はその相手を好き放題操れて、しかも一定時間……
 だいたい半日だが、それが過ぎると相手はその間のことをすっかり忘れてるんだ」
「うっそ★」

 …仕事忘れて何かやっちまったか、俺。って、嘘って!?

「ありゃま。それだとお腹空いてるんじゃないのか?
 エールだけじゃなくてもっと食べた方がいいよ。
 お腹がすいてて喉が渇いてたら、思いつくものも思いつかないからね」

 …まぁ、そりゃそうだが。

 後に来たのが草原妖精のキア。

「おっちゃんを? おっちゃん自分を探しとるの?
 ちなみにー、おっちゃんは見とらんけどリテならみたんよ」

 …後から思うが聞かなきゃ良かったと思う。

 で、セシーリカ曰く。

「……まぁ、世の中には覚えていないことが幸せと言うこともあるよ。うん。」

 …今でも思う。これ、キくわ、この台詞。

 キア曰く。

「あんね、スコーンで思い出したんけど、少し前に作りかた教えてって言われて教えたンよね
 今度朝ごはんに出してやるとかいっとったけど、おっちゃん、今日のごはんなんだったー?」

 …そう、ライ麦のスコーンだった。

 で、核心たる言葉だったのが、ラス曰く。

「……おっさん。いいこと教えてやろうか。いや、これはリテに教えたほうがいいのかもしんねえけど。
 特定の病気にかかったライ麦には、ちょっとした毒の成分が混ざるらしくてさ。
 その毒ってのが……まぁ、一種の幻覚剤なんだな。調合によっては薬にもなるようだが。
 ひょっとして記憶を無くした原因が、ライ麦だとしたら。とりあえず、あんたの家にあるライ麦のストックは捨てたほうがいいかも。」

 …そうなのか…って、一大事じゃないかっ!?

 と、まぁ。

 彼らの意見は的を得ていた(時に辛辣だった)。
 無論、軽い冗談が大半であったはずだ。
 聞きたくない事実も聞いた訳であったが、まぁ、仕方ないと。
 しかも例の物がスコーンって思い出してるし、俺自身。

 はぁ…

 リテが知らぬ男と楽しそうに話していたなんて!!(<字が震えている)

 とてもじゃないが、今でもそれだけが聞けないってのは情けないか?

 まぁ、ここからが後日談ってことだ。
 その日の夜に慌てて帰ればツレはぼやーっとしていた。

「お帰り…今日、何だか疲れてたんだか、覚えていないのか…」

 俺と同じかよ。
 何も覚えていないってことか。
 つまり、昼間のこと、ラスとキア曰く、男と話していた事も。

「気分が良かったのは覚えているのよね…なんでだろ?」

 微妙に頬を染めるリテ。

 ぐはっ!(<それなりにショック)

 ま…まぁ、正直、朝のスコーンが原因とは言い出しにくい。
 しかし、話さねば正直、再び惨事が起きないとは言い切れない。

 覚悟決め、ラスに言われた言葉を思い出しつつ、説得。

 まぁ、よく覚えていないこともあり、渋々リテも応じてくれた。

「あーあ、折角大量で大安売りで仕入れたのに」

 いや、今回そのせいだから、とは口が裂けても言えない。
 次の日の早朝、例の物のライ麦は処分することになった。
 無論、二次被害(?)を防ぐ為、厳重に包んで埋めた。

 場所は…いつもの俺の休憩(昼寝ではないと主張しておく)場所。
 そう、一番気に入っている橋の下、のガラクタ置き場の下の土に。
 これで事件の始まりと終わりはここに封印された…

 ちなみに。

 記憶喪失の俺はクソ真面目に仕事をしていたそうだ(安心)
 つか、俺は何時だって真面目なつもりだ…失礼な。

 で。

 肝心のリテは。
 他の盗賊の知人に聞いたところ、普段とは大差なかったらしい。
 仕事も普段どおりこなしていたとか。

 が。

 仕事帰りに報告がてら、楽しそうにある一言を言い放ったそうだ。
 明らかに仕事の報告では言うはずもない衝撃の一言。
 通り名”双頭鼠”として、冷徹なる顔での報告の中で。
 俺に対してはそれこそ稀なほど聞けない口調で。

「や〜ん、今日イイ男から情報収(そこから聞けずに疾風如く帰る)」

 暫くはリテの周囲に近付く男は要注意人物とする。
 無論、期限は俺が安心するまで。
 つぅか、そのイイ男とやら…近付いた時にゃ…容赦せん!!

 待て、俺、落ち着け。

 兎に角、今、俺は暫く決めたことを実行中。
 勿論、「スコーン、ライ麦のやつは安心できるまで食わない」だ。
 美味いけど。

 しかし、なんだな、こうすると…なんだか、俺って…
 自分でわざわざ苦労をばら撒いているんじゃないか?

 ま、何だかんだリテに心底惚れてる自分に気付いたのは確かだったり、な。
 それがちょっとした事件で得た嬉しい収穫かもしれない。