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従業員ハリートの覚書
ハリート [ 2003/11/14 18:26:53 ]
 ”気ままに”亭に勤めてようやく二ヶ月。
私(わたくし)も店での仕事も身につき、順調で御座います。
これも、店の主、先輩方、御客様方のおかげで御座います。

最近、御客様と話す機会も多く、顔を知って頂ける様になりました。
ふと思い、私なりに記してみようと思う次第。

さて・・・出来るだけ、書くことにせねば。

まずは何から書こうか迷うところで御座いますね。
 
釣りとランチと木彫りの王冠魚
ハリート [ 2003/11/15 1:20:18 ]
 11の月は13の日

本日の午前中は仕事も休み。
夕刻前の仕込まで時間があるので、釣り竿を抱えてハーザード河へ。
空は晴れ、そして冬の訪れを感じる風の冷たさ。

その最中、のんびりと釣り。
成果は・・・枯葉一枚で御座います。

そこへ、気ままに亭にて時折訪れる御客様に声をかけられました。
ベトニー様、大地妖精族の女性で御座います。

魚は釣れず。

話し方は実に軽快かつ言葉にしっかりしたものが感じられる方で御座います。
しばらくの雑談の後、釣り竿がもう一本あるので、お誘い致しました。

そこへ同じ店の従業員のブリジッティーナさん・・・
おっと、ブリジットさんと呼んでくれとの事で御座いましたね。
バスケットを抱え、お昼を届けに来てくださいました。
いやはや、危うく気付かず夕刻まで釣りをするところでした。

魚は釣れず。

ちなみにバスケットの中身。
ポテトサラダと、それに薄切りのベーコンを挟み込んだサンドイッチ。
“クリムゾン・ルビィ”を使ったアップルパイ。
それと“キング・フォレスト”と使った林檎の果実水を一瓶。

林檎が好物であると覚えていてくださった様です。
其の上で美味しく、実に嬉しく頂きました。
林檎の甘味と酸味が己の存在を主張しつつも喧嘩しない程よき調和。
まるで素っ気無くても気の合う恋人・・・と申しましょうか。
つまりは美味しいと言う事で御座います。

ブリジットさんは以前は訛りで悩んでいたの事。
私の指導と申して頂けて嬉しい限りで御座います。
尤も、私もブリジットさんの話し方から習ったものも御座います。
どのように話せば御客様が喜ぶかを学びましたから。

そこへ大物の気配。
釣り上げると・・・

ずた袋。
中から木彫りの王冠魚で御座います。
どうやら、今日は魚を殺すなとのお告げで御座いましょうか?
それとも、ベトニー様の仰った神様からの贈り物で御座いましょうか?

兎にも角にも、今日釣れたのはこれだで御座います。
仕事で、新しい料理の試験の話しも出たところで御座いましょうか。
雲行きの怪しく、そして仕込みの時間が近い事もありました。

ここで釣りは終わり、ブリジットさんと店まで競争で御座います。
もちろん勝者は・・・
幼い頃は田舎の山をよく駆け巡っていたと仰っていたブリジットさん。
どうやら、私は力仕事が向いているようで御座います。

とりあえず、このようなもので御座いましょう。
さて・・・お次はどう致しましょうか。
 
草原妖精と小首傾げとラムルの種
ハリート [ 2003/11/15 22:27:15 ]
 さて、11の月は13の日の夜の事で御座います。

厨房で仕込みも終わり、ほとんどの雑務も終えて一息。
その後、先輩が休憩に入るために、交代に入ったところで御座いました。

「やっぱり、匂い通りに美味しいの〜!」

元気な声に満面の笑み。
カウンター席にいらっしゃったのは一人の草原妖精の御客様で御座います。
ラピエ・リエ・フェル様と申す女性の方で、オランには来たばかりとのこと。
そして、御部屋の空きを確認した後で御座います。

「いいお仕事はない?」

ちょこんと小首傾げつつ、尋ねられました。
うう、これも草原妖精様の武器とも申しましょうか。
内心、可愛い仕草と・・・おっと、私個人の感想はともかく。
お仲間がいるかどうかをお尋ねしたところ、今のところ一人との事。
そこで、昨日舞い込んだ簡単そうな依頼をご紹介致しました。

『オランから東へ半日程の所にあるカルゴ村に行き、
 村長より”ラムル”の種を受け取りに行ってほしい。
 報酬は金貨一枚。 詳しくは植物学者シューミットより』

この仕事の依頼人であるシューミット様。
店の近所に住む、植物の学者様で御座います。
ラピエ様は丁度良さそうと受けてくださる事に。

「明日から出発すればいいのかや?」

それに頷きました。
同時に。
”ラムルの種”が如何様なものか、お聞きになった方が良い、と付け加えて。

さて、無事に終われば良いのですが。
 
紅茶と瓶と水乙女
ハリート [ 2004/01/19 20:01:56 ]
  新たなる年を迎え、私も心新たに仕事に取り組む次第で御座います。どうか、此の店に、御客様に、世界に、新たなる年の祝福あれ、で御座います。

 さて、先日、一の月の十八の日、夜の帳は既に降り、息も凍る如くの寒さで御座いましたか。そんな日の夜番の仕事ゆえ、ほとんどの御客様は暖かい飲み物を御注文なさいました。紅茶を淹れる回数も、普段より増し、実に盛況で御座います。

 そんな仕事の中、半妖精のラス様がいらっしゃいました。丁度、他の御客様の紅茶の注文を受け、紅茶の産地についての修飾台詞を述べていた所で御座いました。

「寒冷なる山脈から吹きし風、温暖なる大海より吹きし風、その狭間に育まれしブラード産の紅茶で御座います」

 この修飾台詞にラス様、一度メニュー板を見て、こう尋ねられました。

「いつも思うんだが・・・・・・そんなこと何処に書いてる?」

 私は、紅茶商人の方よりお聞きしただけ・・・と申し上げました。

「俺はホットラムを。・・・・・・この流れなら紅茶を頼んだほうが良かったか?」

 ラス様が笑い、仰いました。私は御客様の注文に注文などと、妙な事と申し上げました。それも、そうだ、とラス様は笑われました。と・・・そこへ、一人の御客様がテーブル席よりいらっしゃいました。

「では僕が紅茶を注文します」

 そう仰られ、カウンター席に座られました。
 ラス様と軽く話す様子を見て、知り合いの方である事、名はフォルティナート様である事を知りました。会話より、魔術師の御方である事を知り、発動体である杖こそ所持はしておられませんでしたが、左手の黒い宝石の指輪がその発動体と推測致しました。
 注文は、店員さんのお勧めで、との事で御座いましたので、本日の寒い日に適した紅茶を選択させて頂きました。味わいは渋みが控えめで柔かく、香りは深みありながら、けして強くない。冬の長夜の一時、そんな時に似合う紅茶で御座います。

「西より幾多の人と町経て、自由人の街道を旅せし、ザイン産の紅茶で御座います」

 其の香りに、フォルティナート様の感想は。

「うん。流石ザイン産。旅をするほどに香りが増すと言われているだけあります」

 いやはや、流石で御座います。私の述べる言葉を、先に話されてしまいました。
 さて、ラス様の注文したホットラムを御出しすると、この様に聞かれました。

「まぁ、オランくらいの寒さなら別に平気だけど。ただ、今年は去年より寒いような気がするよな」

 そこで、私は、氷乙女達が去年の寒さに不満を持っているのでは、とお答えいたしました。実はこれ、母に冬が何故寒いのか、と尋ねた幼い私に対して、母の答えで御座います。で、其れに対して、ラス様曰く、今年に限って不満を爆発させずとも、と笑っておりました。

 さて、それより暫く、会話を続けますと、私に趣味である釣についての話しに。

「釣りをしてる姿はたまに見かけるんだが、釣り上げた姿を見たことねぇんだけど。 ・・・・・・釣れてるのか?」

 ラス様に尋ねられ、私は、枯葉に木彫りの魚、そして最近は手紙の入った瓶が釣果と申し上げました。苦笑いしつつ。ラス様曰く、こういうものは釣果とは言わない、と仰れて、新たに苦笑いを重ねる事に。手紙は読んだのか、と聞かれ、読んだと。上流から冒険者一行より助けを求める手紙と。

 そこで、ラス様の言葉と手紙入りの手紙に反応を示したのがフォルティナート様で御座います。

 至極当然の反応で御座いましょう。何しろ、手紙を瓶で流したのは他ならぬ、フォルティナート様で御座いましたから。署名にはレア様の名前もあった事を御話し致しました。しかも、流れて来たのは、何とかフォルティナート様や其の他の方々が帰還された後に流れてきたことも。

「先月の半ば過ぎですか・・・・・・・・・僕らの帰りより遅かったとは。不覚でした」

 冬の間は、水量が減り、川の流れも浅く遅くなるもので御座います。其の為か、たった一日の距離であるにも関わらず、予定を大幅に過ぎて、私の釣でやっと人目に触れるという結果となりました。まぁ、オランに流れるのに実に二週間後になろうとは思いもよらなかったようで御座います。まぁ、手紙が役に立たずに、帰られたことを考えれば幸い、と申し上げました。

 そうそう、釣果が無い事で、ラス様にこう仰られました。

「たまには魚釣れよ。そしてメニューに貢献しろ。せっかく俺がハザードの資源を豊かにしてやってんだから」

 おや、ラス様が河の魚に餌を・・・そうとも知らずに・・・いやはや。これはまた、腰を据えて大物を釣らねばなりますまい。そう意気込みました。

 ところが、ラス様、「餌?」と仰り、思案致しておりました。はて?私、何か妙な事を申し上げたのでありましょうか?そして、こう仰りました。

「・・・・・・そうだな。餌になる場合もあるかもしんねぇな。うん。そう。多分。ほら、俺って自然に優しい精霊使いだから」

 真面目な顔で申されるので、私は納得致しました。いやはや、精霊使いの鑑であると思う次第で御座いますよ。

「そうそう。ハザードの水乙女たちとは馴染みでね」

 そう仰られるので、ならばと。

「水乙女様方に私の感謝の意をお伝えできますか?常日頃、御世話になっておりますので」

 と、御願いしたところ、快く、伝えておく、と仰ってくださいました。これで、今年も水乙女様に釣の許しを請うこともできるというもので御座います。

 そう、瓶の手紙の話しで、フォルティナート様仰いました。

「無事に帰れただけで良しとします。しかしかなり大げさに書いてあったはずなんですが手紙を読んで何も行動を起こされなかったのですか?」

 そこで申し上げました。

「読んだ時は大慌てで店に駆け込んで・・・まずは主にすぐ届けました。こう言う事に関しては、私はただの店員で御座いますから」

 すると、フォルティナート様も納得されたようで御座いました。
 其の時、厨房より呼ばれてしまい、ここで失礼させて頂きました。



 さて、今年の釣には、店のメニューに載せる大物が釣れる様、そして御客様から助けを求む手紙が流れて来ない様に、良い年になると願い。

 世の平穏に、曇割の如し光あれ・・・
 
お子様とお届け物と毒薬と
ハリート [ 2004/06/01 4:23:08 ]
  ある日の事。

「ハリート、ラスの家にこれを届けて来い」

 私が出勤してきたところへ、店の主からいつもの買い物篭を渡されました。中身は包みと鉄瓶とワイン。

「特別に注文されてな。仕事はまだいいから、行って来てくれ。それと様子も見て来い」

 そういう訳で、渡された簡単な地図を見ながらラス様の家へ。ところが、ノックしても誰も出てこない。窓から中の様子を伺おうかと考えていると、庭のほうからここの飼われてるという猫が顔を出しましたが・・・

 そこへ、訪れたのは賢者のクレフェ様です。どうやら、ラス様に御用があるとの事です。同じくノックしても誰の返事も無く・・・と、何か声。クレフェ様は庭へ行く猫の後を追い、私も其れについていく事に。

「ああっ!坊や大丈夫?」

 そこには、足を引っ掛けた一人のお子様がいらっしゃいました。話を聞くに、親戚だと。名前を伺っても、どうやら人見知りのようでなかなか言えないようでした。まぁ、これも可愛い子供の仕草で御座いましょうか。

 ・・・ところが。クレフェ様が抱え上げた事から、まさかの真実が発見されることになりました。何か会話を交わし、今度は私に一言。

「口は堅い?」

 お子様の笑顔、でも目は笑っていない表情・・・ようやく気付きました。似ているだけでは説明しきれない・・・そう、ラス様そのままです。つまり、子供に戻ったラス様。

「口止め料は・・・・・・そうだな。今度おまえが精霊使い探してる時は、声かけてくれ。報酬は問わないでのってやる」

 事情を聞くうちに、或る事を思い出しました。

”なぁ、知ってるか?世の中にゃ、若返る薬ってのがあるんだよ。ただ、ちょいと効きすぎて子供に若返るって薬だけどな”

 つい先日、やや薄汚れた身なりで壮年、右頬にまだらの痣があるお客様が、酔った勢いで話始めたので御座います。大金が手に入ったと喜んでは、お酒をご注文して、結構酔ってしまった様子。

”それ、さ。頼まれてよ、すげぇ金額よ。俺さぁ、前の街で真面目に薬剤師やってたんだよ。ところがよ、つまらない事に巻き込まれて・・・そう、揉め事よぉ、揉め事!”

 そういうと、お代わりのワインを注文してきました。

”うう、酒場でちょいと女を引っ掛けたら、たまたまその女を気に入っている権力者の息子が来てよぉ、いちゃもんつけるんだ。クソ生意気な世間知らず、青二才の癖に威張りやがるから、一発殴っちまったんだ・・・ざまぁみろ、と思ったら、次の日、いきなり街から追放だぜ、追放!ちきしょぉ・・・”

 泣き出す御客様。

”だがよ、オランに来て俺はツイてる!俺の腕を見込んで、頼まれたのさ・・・ちょいと難しい薬を調合したんだ。苦労して量は小袋ぐらいだったが、貰った金はすげぇ量。おかげで一年は遊んで暮らしても大丈夫!へへ、もぉ、最高ってヤツ?”

 今度は笑い出す御客様。

 この事があって、ふと思い出したのが或る毒薬。執事の修行の一環で、賢者の知識を身に付けていたときの事。その中で閲覧した薬学の文献。

”・・・其は、子供へと身を変える毒。全てにおいて、体力も技術も子供に戻る。ただ、注意されよ。年までは若返らず、時に老衰し、寿命でそのまま天に召される事ありき。解毒時も、即座には・・・”

「永久なる子供」

 そう称される毒薬。滅多には世に出ぬ、珍しき毒。

 何はともあれ、この毒が更に悪用されれば、困った事になりかねません。それに、飲酒できるお客様が激減されることも困りますから。酒場にとっては一大事で御座います。

「そうさ。この体じゃ酒も飲めやしねぇ。客も減るだろうな」

 笑うラス様に、そのお客様の特徴を教えました。

 そうそう、毒薬について知っていたことで、物知りなんだと驚かれました。

 クレフェ様にも仰られました。

「ハリート、あなた実はとんでもない知識人だったりする?それとも私がエセ賢者の名にふさわしいだけ?」

 たまたま、昔に読んだ、とある文献思い出しただけ、執事たるもの、礼儀だけでなく知恵を、と。下位古代語が読めぬようでは、領主様にお仕えする事も叶いません・・・そう答えました。

「執事の家か、なるほど。どのあたりの領主様だったのか、どんな文献を持っておられたのか、興味は尽きないけれど、そんなあなたが一店員をしている理由にも興味がわいたわ」

 それにはこうお答えしました。

「理由で御座いますか?宜しいですが・・・後で何が起きて、巻き込まれても良いなら、紅茶を淹れつつお話いたしましょうか・・・っと、冗談で御座いますよ。私は、ただ世間を知るためにオランに出てきただけで御座います」

 すると、なかなかいい誘惑の仕方、喰えない男だわねぇと。喰えない・・・クレフェ様に仰られると、実に嬉しいお褒めの言葉で御座います。

「貴方の麗しい言葉は、8割がた差し引いて聞いた方が良さそうね。でもそのまま聞き入れてしまいたくなるのは人柄故なのかしら、それともそれも手管?」

 それには、自然体と答え、目的を果たしたので店へ帰ることに。

 まぁ、これでラス様が元に戻ればよいので御座いますが・・・それにしても、何か良くない動きがあるようで御座います。一刻も早く、解決されることを祈ります。
 
マイリー神殿と川下の河原と御客様受難と
ハリート [ 2004/08/19 23:17:15 ]
 「ハリート、店の客が、マイリー神殿に運び込まれたらしい。様子見と話を聞いてきてくれないか?」

 店の主に言われ、早速赴く。
 行くと、暗黒神官に呪いをかけられ、衰弱している御客様が。
 話を聞くに、暗黒神官を倒す直前、”負傷させるとそれと同じ傷みを感じる呪い”をかけられたとの事。
 幸い、帰りでの戦いは極力避けられ、辛うじて街まで帰りついたところで気を失ったという。
 解呪の神聖魔法をかけてもらい、報酬と店に置いてあった所持品の処分で支払いが出来るので、荷物を持ってきて欲しいとの事。
 とりあえず、無事であった事に私は胸をホット撫で下ろすところで・・・

「でりゃぁぁあ!!」

 ドゴドゴドゴドゴ。ガスガスガスガス。ゲシゲシゲシゲシ。

 聞き覚えのある声に捲き藁をひたすら叩く音。
 振りかえると、アルファーンズ様がいらっしゃいました。
 顔は怪我と痣で少々酷いもので・・・店でも噂になっている話を思い出しました。

”ある方と子供をつくった、二股をかけた・・・”等々。

 其れが原因で、周囲の女性たちに手荒い尋問を受けたとか何とか・・・

 最初、私に気付いた時は何方かの差し金と思ったらしいのですが、話を聞いて安心していただけたようです。
 泊まる場所を探していた様で、難儀している様子。
 ならばと、私の借りている家に来てはと提案致しました。
 どうせ、一人の家、御客様の一人どうとないこと。
 アルファーンズ様も喜んで頂けたようです。

 次の日。
 アルファーンズ様に頼まれ、朝早めに起こす。
 仕事に赴き、夕刻前に仕事を終えて何時もより早く戻る事に。

 ・・・

「あいつぅぅ!!」

 薙刀を持ち凄まじい形相と勢いでオランの街を疾走する、コアン様の姿。
 川沿に走っていく様子を見て何やら嫌な予感がしたので御座います。

 ・・・

 後を追い、正解でした。
 足の速さには負けると言っても、何とか見失わずに来れたのも幸運でした。

「びえぇえぇん!!」

 川の浅瀬に浸かってびしょ濡れになって大泣きするコアン様。
 どうしたものかと困っているアルファーンズ様。

 慌てるものの、アルファーンズ様から事の成り行きを説明され、現場を見てようやく理解。
 コアン様を水辺から出して、何時も使っているタオルを御渡ししました。
 ようやく落ちついたところで、アルファーンズ様が貸したローブをコアン様が草陰で着替えていると、驚いた声が。

 噂の源である、フィミー様と言う、ある貴族のお嬢様が様子を伺っていたとの事。
 アルファーンズ様が追っかけ様として、相手は馬車で逃走。

 なんともはや、ここまでするとは恐るべし。

 ・・・

 とまぁ、その様な事が御座いましたが、コアン様も誤解がとけた様子。
 後は、アルファーンズ様に関わる方々の誤解が解ければ万々歳なので御座いますが・・・
 こればかりは、成り行きに任せるしかないのでしょうか?
 
地図と巨獣と店の最近と
ハリート [ 2005/07/09 19:18:17 ]
  雨が降ったあと、強い日差しがオランの街並みを睨みつける、そんな日のことで御座います・・・

 店の裏庭にて、いつもの薪割をしつつ、一汗を流す。蒸した空気が余計に汗を流すに好都合な事この上ない。
 小一時間ほどで、そこそこに必要分をまとめ、倉庫に放り込む。

 大きく息を吸い込み、深呼吸。そして井戸水を汲み上げ、手足や顔を洗い流す。空を見上げると、太陽が雲に顔を隠し少しばかり暗くなる。ふと、それで思い出す。

 六月の事。

 いつも通りに里帰りし、その帰りに通るからと、店長代理フランツ様より仰せつかった仕事。
 古地図収集家でその道に通じる方々に名高いキャニング卿へ、手紙を届け、そして返事を受け取る事で御座いました。
 卿の館は、古いゆえの時の重みを、壮大に、かつ静かに醸し出しております。

「ふむ・・・」

 高齢とは言え、未だその鋭い視線は衰えぬキャニング卿。その目は手紙の内容を一字一句漏れなき様にする為か、確実に静かに読んでいる。
 其の間、私は静かに返事を待つため、ソファーに座っているだけ。卿の使用人様が淹れてくださった紅茶も、冷めるほどに時が経ち、それでもなお、読みつづける。

「よろしい。カニック、羊皮紙を」

 突然、何の前触れも無く卿が仰りましたので少々驚きました。手紙への視線はそのままに、使用人様を呼ぶと、新しい羊皮紙にペンを走らせました。

「ハリート君と言ったね。これがフランツ殿への返事だ。しっかり届けてくれたまえ」

 鋭い視線とともに、私に蝋を押した羊皮紙と、小袋を私に渡されました。

「流石に私も歳だ。収集した地図も、宝の持ち腐れのまま、墓までと・・・思っていたが、昔の、僅かに残っていた好奇心を突き動かされたよ。面白い手腕を持つ男だよ、フランツ殿は・・・厳し目の返事にしておくが、大方は其方の条件で良しと、それと、よろしく伝えてくれたまえ」

 卿が立ち上がり、ふと見る窓の外が陰り、昼間だと言うのに暗くなる。

「これは・・・雨が降るな」

 卿が呟く。

 そして記憶の場面は次に移り、オランへ向かう街道沿いの宿場町。そこの一つの宿。

「いやぁ、すいませんだねぇ。どこも雨で足止めくらった人人で、休めないかと思ったんだよ」

 相部屋になった、行商の方が豪快に笑いつつ、濡れた衣服を乾かす為に窓辺にかける。

「しかしまぁ、降らないと思えば、思い出したかのように降りやがる。まったく、大変なぁこったぁ。まるで海の天気にそっくりだぁな・・・」

 粗末だが素朴な窓から真っ暗な外の景色を眺めつつ、行商人は呟く。

「そうそう、海といやぁ兄ちゃん、知ってるかい?オラン南の海沿いで、なんともでっけぇ海の巨獣が出たって噂があるんだよ。聞けば、普通の船よりもでけぇ話で、その牙は船の甲板を難なくくり貫いちまうってから大変だぁ」

 まさか、と思いつつも、話に興味を引いた私は、続きに耳を傾けることにした。

「まぁ、実際はどの船も被害を受けたとかは聞かないがぁな。だが、周辺の漁村は不安だってことで、近く、オランに冒険者に調査か退治のどっちかを頼むんじゃねぇかって話だ。もし、退治するんなら、巨獣の牙でも手に入れてみたいもんだぁ。きっと同じ重さの金貨になるんじゃねぇかと踏んでいるんだが・・・」

「・・・あー、あの、ハリートさん?」

 ふと呼ばれて、現実に戻る。店員のバザードさんです。

「どうしたんです?さっきから、ぼーっとしちゃって・・・」

 お恥ずかしい。変なところを見せてしまいましたか。

「い、いえ、そんな。ほら、時にはぼーっとしなきゃ、息抜きなんて出来ないでしょうし。あ、でも、僕なんていっつもぼーっとしてるなぁ・・・」

 それで、名にか用事が御座いましたか?

「あ、はい、そだ。シタールさんが(ぽこーん)痛っ!?」
「遅ぇっ!人を呼ぶのにどんだけ時間かかってんだ!」

 おや、シタールさん・・・ジャガイモ投げるのはあまり・・・

「あ、そっか。よし、今度からは玉葱にする」
「それも痛いですよ・・・」

 いえ、そうでは無いんですが・・・私に用事があるので?

「店長代理が来てくれとさ。じゃ、伝えたぜ。バザード、行くぞ(ぺち)」
「いっ!?は、はぁい」

 厨房へ行く二人を、休憩で入れ替わりに出てきたコーデリアさんがそのやり取りを笑う。

「あ、ハリートさん、マキワリ終わり?ゴクローさまです」

 ええ。今日も良い汗をかきました。

「えー、汗、似合わない。あ、シタールってば、今のでジャガイモ投げたの5回目。食べ物ソマツにすると、イケナイのにねー」

 そうですね。では、私は店長代理の所に・・・

「はーい。いってらっしゃーい」

 最近の店内はいっそう賑やかになってまいりました。
 色々とありますが、これはこれで面白いと思う次第で御座居ます。
 
冬と日々の仕事と今週のお勧めと
ハリート [ 2005/11/27 20:56:12 ]
  ますます冷えてきた今日此の頃で御座います。
 さしものオランもすっかりと冬景色となりました。
 これで雪も降れば、本格的な冬の到来で御座います。

 御客様はますます冷える体にて御来店されることで御座いましょう。
 なればこそ、店員は少しでも温かな雰囲気で迎えねばなりません。
 ただ温かい料理を出すのは誰にも出来ましょう。
 しかし、其れ以外にも温かなものを提供する心が必要で御座います。

 日々の仕事にも一層、気合を入れ、それに努める日々であります。

 さて。

 西方での不穏な空気故に、手に入り辛くなりつつある紅茶が御座います。

 ロマールとザインの山間のある紅茶、”虹の衣”なるもの。

 エア湖特有の、優しき水の潤いと不思議な香りの風。
 ザインの深き山脈からの水と肥沃かつ豊かなる風土。
 それら二つに育まれし紅茶。

 摘んだ僅かな時期の違い。
 そのまま味と香りの違いとなる不思議な紅茶。
 その茶葉は淹れる度に味も香りも違う。
 そして、どれもが美味であり良き香りである。

 いつしか、人はこの紅茶をエア湖の虹の七つの色彩に習い名付けた。
 それが”虹の衣”なる希少な紅茶。

 勿の論、今までも、手に入り辛いものでは御座いました。
 ですが、それでも、紅茶の卸業者間の噂は御座いました。
 スプーン一杯分でも手に入れば、それは類稀なる幸運。

 わたくしが生きていて、二度、僅かに味わっただけ。
 其れ故に、今年こそはと密かに狙っておりました。
 去年の今頃から、卸業者の方に御願いしておりました。

 しかし、そんな私の元に届いたのは・・・

「その紅茶を積んだらしい馬車が、オラン直前で行方が分からなくなった」

 その噂だったので御座いました。
 残念としか申せません。

 ・・・

 気を取りなおし、今週のお勧めに羽根ペンを走らせる。
 さて、どうしたものか・・・と、引き摺るわたくしで御座いました。