ノートと記憶の片隅に |
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ルベルト [ 2004/03/06 2:42:43 ] |
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| (纏めた羊皮紙の片隅に簡潔な文体で書かれている)
3の月、6の日、追加。何となく気になったのでここに記しておくとする。 深夜に星を見に外出したがにわかに雲が起こって目的を果たせず、更に冷え込んできたので”きままに亭”に駆け込んだ。 注文をとってそう時間も経たないうちにヘイズが現れた。
はっきり言って驚いた。 彼に声をかけられて振り向き、見てから認識するまでの反応時間の長さに彼は何か気づいただろうか? 確実に彼だと判ってから、俺の右目の下の筋肉が小さく痙攣したのを彼は気づいただろうか? 驚きのあまり取り繕う事も出来ずに感じたままの意見を言ってしまった事を、彼は気づいただろうか?
どう言い表すのが適切なのかよくわからないが・・・。 以前は彼を見てその童顔と雰囲気に先ず目が行ったものだが、それすら霞むほどにやつれた印象を受けた。
本人は旅の疲れだと主張していたが、原因がそれだけとは思わない。 俺も学生時代は学院に世話になった身だ、多種多様な若い人間の疲れ顔を見ている。 本人がそれ以上言わないので、追求できなかったが。
三ヶ月の放浪生活は、それほどまでに厳しいものだったと言うのだろうか? いや、原因は生活自体のではなく、何か事件出来事に起因するのかもしれない。
その状態ですら他人の事を気にし、助けたいという気持ちを持っているようだ。 あきれたというか、賞賛に値するというか・・・彼はこれからも苦労が絶えないに違いない。 もっと図々しく、無関心な方が楽なのに。
今日はもう元気になっているだろうか? 昨夜の彼の様子は炎の影と俺の気にしすぎが作り出した幻想で、今日の彼が元気に街を歩き回っている事を願う。
(以下は一度書かれた後に線で消されており、かろうじて読み取れる程度) 追記。 下宿の部屋の隅から潰れた虫の死骸が何匹も入った原型をとどめていない靴下を発見。 棚の陰に落ちていたものに暖を求めて虫が入り、落下した荷物に潰されて放置されていた模様。 ・・・とてもヘイズには言えない。 |
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仕事の合間 |
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ルベルト [ 2004/03/13 21:43:14 ] |
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| 3の月、13の日。書類処理の小休憩の間に最近の出来事を記す事にした。 師は故意かどうかは不明だが俺の仕事を増やしていたが、ホッパーが手伝ってくれたので大分はかどった。
師の所の住み込みの助手が帰郷中なので俺が研究データと資料、その他雑多な書類の整理を頼まれた。 冒険の仕事をやっているとは言え、まだこちらは教えを乞う身だ・・・断る事は出来ない。それが数日前の出来事。
思いの外の量と悪質さ(羊皮紙が棚の後ろに落ちていたりする)に流石に疲れた。・・・セス(助手の名前)、恨むぞ。 一応フリーの魔術師だからと言って、三角塔との関係を断ち切らない以上書類を提出しなくても良いということにはならないのだが・・・。 作業は終わっていなかったが、流石に飽き飽きしてきたので夜に”きままに亭”へ飲みに出かけた。
カウンター席で店員相手に会話しているうちに先ずホッパーが現れ、それからそう経たぬうちにリディオンが来た。
ホッパーは・・・なにやら複雑な事情があったらしい。 元気で向学心に富んだ将来の楽しみな少年だが、意味ありげに溜息などついていた。 しかも聞いても言いたがらない。聞くなと忠告までする。資料収集と言う無害な名前の裏でよほど強烈な体験をしてきたのだろうか? 彼の口から出た人名・・・クレアとクレフェ。いろいろと活発に動いていると話には聞いていたが、一体何をさせたのだ・・・本当に大丈夫なのだろうな? その彼は今、少し離れた所で本草学の本を読みふけっている。・・・昨日はふと先日のヘイズを思い出したが・・・まあ、あの様子ならさしあたり問題ないだろう。
初対面の若い魔術師、リディオン。聞けばプリシスの学院の出だと言う。 礼儀正しく、要点を的確に突く物静かな口調が印象的だった。なかなかに底の知れないタイプかもしれない。 しばらくはこの街に滞在するそうだが・・・折角数少ない同業の冒険者に出会えたのだ。これからお互いに良い協力、信頼関係を築ける事を願う。
さてホッパーには悪いが、そろそろ休憩も終わりにしよう。 |
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俺は・・・ |
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ルベルト [ 2005/02/12 21:15:50 ] |
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| 酒場に特待生枠の受験生が二人。 十代半ばの利発そうな少年はホッパー・ビー。 俺とおそらく同年代の男はアル。 アルの質問に答えていたところへホッパーも来合わせ、ライバル同士が予期せず出会う事となった。
持っている情報を開け、互いに討論する二人。 そんな二人からの質問に何とか答えながら、昔を思い出していた。
別に俺は特待生試験で学院に入ったわけではない。 富裕な商家である実家の金で学院に通っていたのだから。
当時実家の内情は、もともと俺とそりの合わなかった継母に子供が生まれたことで破滅一歩手前まで来ていた。 自分は商売に向いていないと思っていた上に、そんな状況だ。俺は親父に提案をした。 相続権、家名の放棄。代償として賢者の学院へ通うための資金を出してもらう事。
いくつか小細工もしたが、結局その提案は受け入れられた。 そして入学。そう、俺が学院に入った理由は、極端に言えば家庭から逃げるためだった。 当時はこれしかないと思っていたのだが、今考えればなんと気楽で恵まれた逃げ道か。
紆余曲折は有ったが、俺だってもちろんサボって遊んでいたわけではない。 むしろその逆で、ひどく熱心に打ち込んだものだ。今の彼らに劣らない、と自負できるくらいには。
学院に居る間は、生活に困る事は無い。 だが、その後は自分で切り開くしかないと身に染みてわかったからだ。 家名も財産もそして今まで名乗っていた名前も、ある意味自分で投げ捨てたのだから。
あれほど家を離れる事を望んでいたのに、今度は怖くなった。 あれほど先を考えて、大丈夫だと結論を出したはずなのに。
もちろん興味はあった。知識が、力が欲しかった。 それでも俺にとって一番の原動力となったのは、訳のわからない恐怖ではなかったか?
・・・そして今、そんな俺がホッパーに多少なりともアドバイスなんてしている。知識を求めて輝く目が俺を見る。 さっきアルの質問にも答えた。インクが完全に乾く時間も無いままに、俺がかいた図式を受け取って熱心に見ていたアル。
俺は特待生枠で入学したのでは無かったし、純粋な興味、知識欲から学院に入ったのでもない。 そんな俺が偉そうに何を言っているのかと。教える資格があるのかとの思いが湧いてくる。
もちろん・・・俺だって自分のしてきたこと、今の立場に対する誇りは大いに持っている。自信だってある。 それに、俺が話した事が彼らにとって全てを変えるほど大きいだなどと自惚れてもいないはずだ。 だがこの気持ちの悪さは何なのだ?
話しているうちに弱気になってしまっていた。 余計な事まで、口走ってしまった。
だが、彼らは大人で冒険者だ。俺が何を言っても、それを自分の役に立てる事はあれ、振り回されることはないだろう。 別れ際に、自分こそが合格すると不敵な、そして気持ちの良い笑みを見せ合う二人を見てそう思った。
俺も、もう少しだけ頑張ろう。 冒険で、この店で得た仲間のために。俺と同じく学究の道を目指そうという仲間のために。
知識神よ。 どうか俺と彼らに正しい導きを。 |
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迷惑な土産 |
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ルベルト [ 2005/04/21 1:44:56 ] |
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| 昼寝・・・いや思索からいつもの巡回路を通って宿に帰ると、蜂の巣を突付いたような大騒ぎとなっていた。 ”悪い予感”などというものがまともに当たった例は無かったのだが、今回は大当たりだった・・・嬉しくも無いが。
俺が泊まらせてもらっている宿は、オランにはよくある普通の宿だ。ここの学院に通っていた頃、ここの主人と偶然知合いになった。 そのおかげで割安で泊まらせてもらっているのだが、主人一家及び数名の従業員は皆魔術や研究とは縁の無い一般の方々だ。なので、ここであまりに非常識な研究関連の品を持ち込まないことは暗黙の了解となっていた。 まぁ、部屋は物置状態なので実は発覚するとまずい物も一つ二つあるかもしれんが・・・今日までは上手くやってきた。
何が起こったのかと言えば、クレアのお土産が原因だった。 本や羊皮紙の受け渡しはあるものの、ここまで大型の物体が俺に届けられたことは無い。ましてや流麗な筆体で書かれた手紙付きの物は。 ・・・好奇心旺盛な宿の主人の娘が、瓶の中身を覗き見してしまったらしい。防腐液に漬けられた・・・巨大な毛虫を・・・。そりゃ、驚くだろうな・・・・・・。
主人からは怒られるし、娘は泣き続けるし、他の客からは好奇の目で見られるし、とにかく最悪だった。 必死で謝罪し、二度としないと何故か俺が宣誓書を書かされ、この後も宿においてもらえるように交渉を続けて・・・。 ある程度、区切りがついたところで俺は出かけた。
他の場所に数件寄った後、クレアを見つけたのはきままに亭においてだった。 ローズティなどを呑気に注文している様子を見て腹が立ったが・・・どうやら本人には悪意は無かった様子・・・信じられんよ、全く。 ハリートが出してくれたハーブティーのおかげもあるのか、何だか怒りも失せてしまった。 店で会ったキュレミアや、ヴァイルとの会話のおかげで少しは気も静まったが・・・済まんな、もっと落ち着いていたときに話したかった。魔術や謎に関する話は好きなのだが・・・。
・・・宿に帰って床に就いたが・・・。 部屋の真ん中(隅には色々と置いてあるので、真ん中に置くしかない)には、毛虫。 寝ようとして、一つ気づいたことがある。
・・・・・・こいつ、闇の中で微妙に光りやがる。
興味はある、興味はある、興味はある・・・だがな・・・不気味で眠れねぇよ! 適当な布などで包めば良いのだが・・・あいにく、ちょうど良いものが無い。俺の布団をくれてやるわけにもいかん。
かくなる上は・・・・・・・・・えい!(効果範囲縮小でダークネス) これで、少しはマシだろう・・・。
気が落ち着くまで、こいつの調査は延期。 今は、遺跡探索の方を気にかけねば・・・。 |
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不死者と魂 |
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ルベルト [ 2005/08/02 23:34:25 ] |
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| ”魂あるものの強い想いはそれだけでもマナを活性化させ、現実を、周りの事物を変える”
とりとめもない事を書き散らした羊皮紙の束が、床の上に置きっぱなしになっている。 いつかは整理して正式に学院に提出する予定のものだ。 そこに書かれた先の一行が、ふと目に留まった。
あの子は、どうなったのだろうか?
身の回りの状況はラスたちと仕事に行った後も大して変わりが無い・・・いや、もっと酷くなったか。 学院の馬鹿が紛失した書類は未だ出てこず、師は師で前の結果も編集していないというのに新しい実験に手を出す。 おまけに俺の他の人間は何故だか暇をもらったまま帰ってこない。仕事は3日分以上余計に増える。
おかげでこの数日、ひどく忙しかった。 いや、正確には今も書類書きの途中なのだが・・・。 床の上の羊皮紙を拾い上げて、もう一度読み直す。 忙しさに追われてあの仕事の時に感じたまま忘れていた事を、ふと思い出した。
仕事自体はシンプルで、しかも上手くいった。 子供の幽霊を、その未練の品を探して成仏させるというものだ。 たまたま公園で会ったオン・フーからの紹介で、キアとラスと共にある商人の別荘に出向いた。
”不死者”とは一体何なのだろうか? 賢者達の間でも明確な結論は出ていない。 負の生命力と呼ばれるものの正体も全くといっていいほど判っていない。
俺は・・・強い思いが自らの魂を変えてしまったその状態が不死者なのだと考えている。 生命の精霊に歪みを付加してしまった結果、ああいった存在が生まれるのだと。 その基本的な仕組みは、古代語魔法と変わらないのではないかと。 古代において今は禁忌とされている”死霊魔術”は大いに隆盛を誇ったと言う。
そして消えて行ったあの子は、どうなったのだろうか? 現在俺が知っている限り、ああいった霊は消滅すると言われている。完全に。 教団の方でも、歪んだ魂については何らかの形で正常な死と来世などから外れてしまうと教えていることが多い。 一部の過激な賢者は死後の世界など存在せず、死後全てはマナの中に拡散してしまうのだと主張している。
だが、それでも。 あまりに幼くして死に、人・・・物ですらないものになってしまったあの子には罪があるのだろうか。 人は、不死者をこの世界から消滅させることをよく”還す”と言う。 どこに? 少なくともあの子は地の底から湧いた何かではない。この世界が生み出した、この世界のものなのだ。 本来居るべき場所とは?
結局その事に関しては、俺にはまだ判らない。 しかし今は、せめて知識神に祈ろう。 あの子の魂が他の魂と同じ場所へ行き着き、孤独でなく、安らかに眠れるように。 もし砕け散ってしまったのなら、より暖かく実り豊かな世界の一部となれるように。 |
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幸運、しかし災厄 |
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ルベルト [ 2005/10/16 23:16:25 ] |
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| 「全くの想像から生まれた産物は、不思議と驚くほど真実に近くなることもある」 何処だかの誰だか、確か昔の賢者の言葉だったと思う。 普通は偶然として扱われるものだが、何かを人が想像するときその根本を成すものは人の頭の中だけにあるのではないのかもしれない。
いや、彼女は違う。俺の話したわずかな事からより真実に近い考えに辿りついたのだ。 そのおかげで俺はどうやらさほどの不名誉を被らずに済み、そしてベッドでしばらく療養することになったと言う訳だ。
そもそもの発端はきままに亭で依頼を受けたことだ。 内容は倉庫の見張り。だが、何から何を見張れば良いのかはっきりしない。 「何かの気配がする、なんとかしてくれ」ではこちらも困った。
夜中の見張り番の際には何も出ず。 だが、依頼人は事あるごとに怪しい気配がすると騒ぎ立てる。
この依頼人というのが商人なのだが。気の毒なほど神経質なのだ。 大方気のせいだろう、そんな事で依頼をするとは余裕のあることだなと軽く見ていた。 単調な見張りと神経質な依頼人に流石に飽き飽きしてきて、きままに亭で酒を飲んでいたときにクレアと会った。
有名な「シヴァ」の著書を手に入れて、ご機嫌ついでに俺をからかおうとでも思ったのだろう。 酒盃片手によく笑う彼女相手に、仕事のことを少々話した。 意外とまともに考えた末に、使い魔の可能性と襲撃のタイミングについて口にした。 好機は、その翌日・・・つまり昨日だった。倉庫から多くの荷物が運び出される日だ。 倉庫の警備自体はいつもと変わらないために、狙うとすれば持ち出される荷物の方だ。
昨日は夜の晩を終えた後、本来昼間は見張りの仕事は無かった。 だが、わずかでも無根拠でも可能性がある以上、 依頼人に簡単に許可を取った上で、少し離れて徒歩で同行した。
何事もなく終わるかと思っていたのだが。 薄曇の空の下、依頼人が直接雇っている用心棒の一人が持ち場を外れたときまでは。
その後はドタバタもいいところだ。 ”眠りの雲”から始まって、街中で好き勝手やりやがって。 幸いなことに、オランで大規模な破壊の魔法を使うような真似は出来なかったのだろう。それとも目当ての品を壊したくなかったのか。 いずれにせよ。”用心棒”に負わされた創傷だけで何とか済ますことが出来た。
対策を考えておいたのが役に立った。
魔術師らしき人間は逃してしまったが(直接は姿さえ見せなかった)、裏切った用心棒は取り押さえた。 こちらにも魔術師が居たのは向こうの計算外だったのだろう。 今頃は、敵の正体や狙っていた品物に関して取調べが進んでいるはずだ。 とりあえずはめでたしめでたし、なのだが・・・。
傷は神殿で治してもらったのだが、魔法の効果が弱かったのか傷が思ったより深かったのか。まだ痛む上に周囲の神経がぴりぴりして動かすのが辛い。 打撲の腫れもまだ引かない。動けない訳ではないが、変にこじらせても困る。ここ数日は布団にこもって療養に専念するほうが良いだろう。 また、事件に関して学院に出頭して事情聴取も受けなくてはならない。俺が使ったのは正等な理由からだから、きついお咎めは無い・・・と思いたい。 事件の顛末も含め書類も書かなければ・・・ああ、まだ定期提出のレポートも仕上がっていないのに。なんてこった!
とにかく、だ。 体が治って、ひと段落ついたら一応クレアに礼にも行かなければなるまい。やれやれ。 |
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調査 |
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ルベルト [ 2005/10/21 23:31:01 ] |
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| (Pl注:クレアの宿帳#{232}-6「想像力」に関連しています)
事情を聞かれるのは当然のことだ。別に文句を言うつもりは無いが・・・なあ、なんでお前さんなんだ? 「好きでやってるわけないでしょ。こんな面倒な仕事を押し付けられてこっちこそいい迷惑よ」
純粋に実用目的の暖炉には季節の変わり目でまだ火が入っていない。少々肌寒く、まだ治りきっていないのか傷跡が痛む。 クレアの部屋でなく、臨時で借りた個室なのは彼女の部屋では調査資料の紛失の恐れがあるからではないかと邪推をしてみた。
「さっさと終わらせるわよ。まずは・・・そうね、あなたが仕事を請けた最初から話して頂戴」 羽ペンを片手に、頬杖をついたクレアが切り出す。
事件の顛末をあらかた話し終わって、一息ついたところで調査の進展を尋ねてみた。 「そうね、満足が行くほど進展していない・・・ってところかしら」 俺が取り逃がした魔術師は有力貴族の後援を受けているらしい。それが随分と問題をややこしくしているようだ。 「成人前は随分な俊才で可愛いコだったみたいね。それが今では大した成果も出せず、酒に女にと落ちぶれて。時って残酷・・・もったいないわね」 ・・・・・・
「個人的な恨みがあったから困らせてやろうと思ってやったらしいわ、本人が言うにはね」 そしてそれは少なくとも嘘ではないのは確実なようだ。 「でも、それだけとは思えないのよね。あの魔術師や後ろの貴族もなんだか不審なのよ」 事を丸くおさめるだけなら、はいはいと終わらせてしまえば良いのだが・・・それでは何にもならない。
「あたしが今考えてることは、ほとんど推測の域を出ないの。でね・・・(にっこり)」 俺にそれを調べろ、と? うう、お前さんの仕事だろうが・・・。
結局押し切られてしまった。クレアと予期せず会うときは何故かこうなってしまうことが多い・・・。 まあそれはいいとしても。 クレアに提出を命じられたレポート、やけに多ずぎるし細かい。正式提出用の書類まで俺に肩代わりさせているのではあるまいな・・・。やれやれ、だ。 仕方ない。まずは商品について、細かいことから調べ始めるか。 |
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また次の年も |
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ルベルト [ 2005/12/31 22:16:52 ] |
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| まいったな、まったく。 机に靴を履いたままの足を乱暴に乗せる。どすん、と音はするもののそこは俺の机。その程度で上のものが落ちるほど散らかしてはいない。
俺の悩みの種となっているのは机の上に乗った『精霊への抵抗』の断簡一編。 クレアの手持ちから拝借・・・いや救出して来たものだ。
先月クレフェに声をかけられたのがそもそもの始まりだった。 ある書物を探していて、その断片がクレアの部屋にあるとの事だった。 掃除にかこつけて探し出して欲しいと。
俺もこんな成り行きになるとは思っていなかったが、何しろ彼女は準導師だ。 あの部屋には貴重な資料は他にもあり、おそらくそういったものも借り出すかその場で読むかすることが出来るだろう。 おまけに貴重な写本を報酬として提示されていたし、自分の手で貴重な資料を整理して役立てることが出来るチャンスとも考えられる。 ・・・まぁ、要するに詳しい話を聞く前に了承してしまって引くに引けなかったのだが、こんな様に考えてやる気を奮い起こし、クレアを訪ねたのがその数日後。
「あら、ルベルト。クレフェから話は聞いているわ。いつもより少し散らかってるんだけど、お願いねっ★」 折角奮い起こしたやる気は、現実の前に崩れ落ちましたとさ。
それからは思い出すのも辛い苦難の日々だった。 物事と言うのは、何もせずとも整然とした状態から混沌とした状態へ自然と移り変わってゆくものだ。 しかし、クレアという存在には乱雑さを加速する何かがあるのではないか? 魔法と言うのはこの世界の基本法則に干渉するものだが、彼女自身がそういう魔法的存在なのではないかと思えるほどだ。
・・・一応、彼女の名誉の為に言っておく。 別に資料をぞんざいに扱っている訳ではない。資料に限って言えばむしろ丁寧であり、保存する環境も思ったほど悪くはない。 問題なのは片づけ整理が全く出来ていないことであり、その一点において常人の理解を遥かに超えている。
・・・・・・で、当初思ったよりもかなりの時間がかかったものの部屋は片付き、探していた資料は見つかった。 俺もクレフェもクレアも満足、万々歳となるはずだったのだが。
『精霊への抵抗』リリエル版。 厳密には禁書ではないものの、それに近い代物である。 人間に限らず生物には精霊力が密接に関わっている。過激な解釈と解説だけならともかく、この書物は実践により学習することを奨励している・・・らしい。 完全本は見た事がないが、もし”古代語が読めるだけ”の愚者の手に渡れば大変なことになるだろう。
だが、今俺が考えているのはそういうことではない。 目の前にあるのはその写本の断簡であり、なにより渡す相手はクレフェだ。問題はない。
俺も当然興味があるので、年内一杯だけ待ってもらって読んでみた。 生命の精霊に関する記述もあり(実践したらオランには居られないだろうが)、彼女も喜ぶだろう。
あることに気付いたのは今日のことだった。 読書に疲れたので、気分転換として”魔力感知”の呪文を使ってみたときだ。 あの写本に魔力の反応があった。
本や書物に魔法がかかっていることは珍しくない。魔術師の持つ本ならばなおさらだ。 だが一応気になったので本を詳しく調べてみた。よく見れば綴じ方がおかしい。 古びた綴じ糸(このことからも保存の魔法でないことはわかる)を解いて入念に調べてみると、一枚だと思っていた羊皮紙が二つに分かれた。 裏にも、文字が書き込まれていた。
・・・読んでみて頭を抱えたくなった。どうやら俺のよく知らない廃れた邪教の経文の一部らしい。 これが通常の資料だったら素直に発見を喜ぶのだが、魔法がかかっているなどという一点だけでも相当不吉な予感がする。 クレアか誰か、持ち主が例えば管理のために魔法をかけておいただけ、というようなことであったのならよいのだが・・・。
・・・・・・目を上げて周りを見渡し、”明かり”の呪文が切れていることに今更気付いた。随分と時間が経ってしまったらしい。 まだ年は明けていないと思うのだが・・・。 とにかく悩みすぎても仕方がない。なるべく早くクレフェに会って相談するのが良いだろう。 今日のところはいつもの店に行って飲み明かすことにしよう。一年の始まりを考え事で迎える必要もあるまい。
外套を着て、街を歩き出す。 厳粛でもあり、華やかでもある大晦日の街の風景。理由はよく判らないが何だかほっとした。 歴史を学んでも、よく知るこの風景がいつまでも繰り返されるような気がしてならない。 こうして一年が終わり、また少し違って大体同じ一年が来るはずだと。
ずっと書物を読んでいたせいか、雲の切れ間の星がぼやけてみえる。 星海から見守るというラーダに、導きを祈ったときに見えた気がした流れ星も本物だったかどうか。 天上から見下ろす無数の目をしばらく見返してから、一つ肩をすくめてまた足早に歩き出した。
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大掃除など |
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ルベルト [ 2006/12/31 22:57:39 ] |
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| ”・・・・・・クレアの大掃除などもう二度と手伝うものか!”
羊皮紙の余りに書いた日記をその一文で締めくくると、ぐったりと疲れを感じて普段着のまま寝床に横になった。何か忘れているような曖昧な気分だが、あまり考える気にならない。 今年一年を締めくくるそれをそんな終わり方にさせるのはどうかとも思ったが、結局それしか思いつかなかった。 学院で彼女が使っている部屋の片づけを手伝った。言葉にすればただの一行も要らず表せる。しかし。
こんな時期に資料を借りに行く方が悪いとは判っている。 行ってしまったのが運の尽き。今考えれば何故行ってしまったのかわからない。 「あらルベルト、丁度良かったわ。人手が足りなくて困ってたの。手伝って頂戴」
無限のバッグの一件で懲りるかと思ったのだが、筋金入りの散らかし癖には微塵ほどもはなかったようだ。 最近学院から割り当てられた塔の一室が、彼女が直接使うことは少ないにもかかわらず数週間で混沌の坩堝と化したのには絶句するしかない。 亜麻色の髪と緑の瞳の、そう、ティールと言ったか、女性がくるくると働いていたが午後からは集合住宅の片付けもするとかでいなくなった。泣き笑いの顔は彼女なりの諦めだろうか。
こんなときにクレフェが居てくれたらと思うのだが、実際居ないものは仕方が無い。 それに居たとしてももう泣きついたくらいでは手伝いに来てくれないだろう。俺も共に災難にあった仲なので何も言えないが。 比較的温暖なオランに比べてミラルゴはどのような冬を迎えるのだろうか。そもそもそういった概念など通用しないほどに過酷な気候なのだろうか。 彼女が健やかであらんことを。
とにかく、今年やることは全て終わった。 そう思うと少し気が楽になったので部屋を出、石造りの廊下の窓を開ける。数日前にはやけに暖かかったものだが、今日は間違いなく冬といえる冷え込みだ。 すでに日が落ちてからも時間が経ち、月の無い夜空の下に街が広がっている。 今日は夜を明かす家や店も多く、いつにも増して明かりが灯されている。
目に見えぬ時間と言うものは確実に過ぎ去り、季節は巡ろうとも時は戻らない。 それでも我々は一年を一年と区切り、その中で生きる。 過ぎ去った一年がどんな年だったか思い返しながら。 次の一年はどんな年になるか不安や期待を持ちながら。
過ぎ越しの祭りには行かずに、今日は酒でも飲んで寝よう。 明日はまずラーダ神殿に行ってくるか。昼近くに出発すれば夕方には着けるだろう。 来年も、まあ頑張るとするか。
・・・・・・。
あ。
畜生、肝心の資料を借りてくるのを忘れていた!
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机と戸棚の片隅に |
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ルベルト [ 2008/10/14 23:50:11 ] |
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| 片隅、そう、そう表現するほかない場所にこのノートは落ちていた。 埃を被って、だが、ノートそのものには何の傷もなく。
ノート、と言うと軽きに過ぎるかもしれない。 もともと装丁された羊皮紙の間にも追加の頁をきちんと収められるという、なかなか凝ったつくりになっている。
買ったときは様々な知識を、記憶を書き込む、と意気込んだものだが・・・。 大きな項目は両手の指の数に満たず、その他のメモ書きすらもほとんどない。
一目見て、苦笑してしまった。 結構高かったのだがな・・・。自分の決意もその程度かと。
しかし。
偶然はさんだだけの走り書き、丁寧に書き込んだ日記、一年のまとめ。 出来事、会話、会った人の顔。
読み始めた途端に、 驚くほど鮮明に、そのときのことを思い出した。
別に今、それらの人々と必ずしも疎遠になったわけではないはずだ。 俺は何を忘れていたのだろうか? そもそも、忘れてすらいなかったのだろうか?
実のところ、よくわからないのだが。 また、このノートを使ってみようと思う。
片隅ではなく、机の真中に置いて。
10の月14の日 深夜 ルベルト シュヴァイツァ |
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(題名なし) |
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ルベルト [ 2008/10/23 23:26:51 ] |
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| 第三段階、などと俗に言われる呪文群をようやく使えるようになったのは今年の夏ごろのことだった。
上達や熟練に関して、その早い遅い自体は問うものでもない、と何時も考えているつもりだが。 それでも今回は長い時間がかかってしまったな・・・と思わざるを得ない。
冒険などに関わると、そのとき自分が何が出来るのかが致命的な問題になる。 無論、呪文を唱えるだけが魔術師の役割とは思っていないが。
もっとも、大変だったのはむしろ呪文を使えるようになってからだった。 一番苦労したのは使い魔に関してだが・・・まさかこんなことになるとは思わなかった。 |
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