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ヒヨッコ冒険者相手の詐欺事件!?
ワーレン [ 2004/07/01 0:19:07 ]
 (ワーレンPL注:このスレッドは“日記”タイプ宿帳とは別物です・・・と、去年あった”霞通りの出来事”(#{0230})を真似させて頂きます(汗)つーわけで関わってみたい人、突ついてみたい人、捲き込まれたい方、敵やってみたい方・・・等々、ともかく、御自由に書き込んでみてくださいませ(ぺこり)。とはいえ、PL自身、このようなことに慣れているかというと・・・まぁ、ともかく、行き当たりばったりでいきまっしょい!!(こら))
 
事の始まり・・・
ワーレン [ 2004/07/01 1:03:15 ]
 ”ヒヨッコ冒険者を狙った詐欺事件が起きている”

 そんな垂れ込みが詰所にあったのがつい先日の・・・六の月の下旬だったか?

 まぁ、事件が起こらない日は無いと言える大陸最大の都市オランで、最初は何の気がね無しに、またどこかの冒険者が騙されて、悔し紛れに垂れ込んだのだろうと思っていた。

「騙される方が悪い」

 と、一言で済ませることも珍しくない。新米の、それこそヒヨッコ冒険者なら、それぐらいは”イイ勉強”になったと。・・・が、真相はそこまで単純かつ簡単・・・ではなかった。次の日くらいに今度は小さな冒険者の店の主人から通報があったのだ。

「うちの店に来ていた新米冒険者が、次々と帰ってこない。何かあったに違いない・・・」

 そして、畳み掛ける様に、さる貴族の御子息が帰ってこない、しかも悪い仲間と冒険者の真似事をしに、繁華街へ遊びに行ったまま・・・と、通報があった。

 んで、気になったモンで、命令もあったからちょっと聞き込みをしてみると、どうも似たような事件が起きているようだ・・・新米冒険者、世間知らずでボンボン、冒険者志望の若者・・・それを中心に狙われているとの事。

 流石に被害届もだされたので、ついに調査に乗り出そうとした矢先、他の事件に人手をとられ、いきなり躓き。仕方ないと、少ない人手で動く事に。

 ・・・ところが、また、躓き。

 若い衛視から提案もあり、探りを入れようと、新米冒険者に変装させて、事件を起こしているであろう存在と接触させることにしたんだが・・・ドジしたんだか、連絡が途絶える。

 頭を抱える。

 まぁ、勿論、無駄ではなかった。連絡が途絶える前に、少し掴んだ情報がいくつかあった。

 詐欺を行っている奴らは・・・ヒヨッコ冒険者相手に、ちょいと簡単な依頼をしてイイ思いさせて、次には悪質な遺跡に放り込んで所持品を根こそぎ奪い取るという手段を用いている。

 最初の依頼は誰でも出来そうな仕事で、なんと金貨五枚という普通では有り得ない仕事。それこそ、中堅とは言わずともそういう類に慣れている冒険者なら、すぐさま気付くハズだが・・・何も分かっていないヒヨッコ冒険者なら、引っ掛かっても可笑しくない。

 そして・・・調子に乗ったところで、遺跡のネタをちらつかせる。他言無用、前の依頼を見事達成させた貴方こそ相応しい・・・とか、世辞でも吹き込んで、詐欺師の仲間が潜む”枯れた”遺跡行かせる。

 で。そこで待ち構える詐欺師の仲間達が、装備品や所持品ひん剥いて、金目のものを巻き上げると言う方法を取っているのだろう。

 まぁ、その枯れた遺跡だが、遺跡に事情通なら大概知っている場所である。
(ちなみに、情報で手に入れた遺跡の候補は”枯れ木””墓場””骨と牙”なる、あまりにもありふれた枯れ遺跡である)

 しかし、ここまでが限界・・・困った。

 人手も少ない。それに、今まで帰ってきたヒヨッコ冒険者が未だにいないのだ。それはつまり、捕らわれたままなのだろう・・・詐欺に引っ掛かったヒヨッコ冒険者の命、俺の変装している部下の命も危ない。

 悩む俺・・・仕方ない、ここは・・・あそこを頼るか。ついでに、裏からも協力を仰ごう。問題は、その裏が関わっていなきゃいいんだが・・・

 気ままに亭に俺は向かった。誰か、協力してくれるような奴はいるだろうか・・・?
 
囮役
アル [ 2004/07/01 3:07:24 ]
 新米を引っ掛ける詐欺がいる。

その事件を解決するためにボクは囮役を買って出た。
ボクの冒険者としての初仕事だ。新米冒険者役をやるのにボクほど適した冒険者はいないだろう。実際に駆け出しなんだから。
報酬は金貨五枚。破格の報酬だった。

「接触のやり口こそ違ったが、どうも共通する話として”金貨五枚”があったのさ」
そう言いながら話しを振ってくれた衛視のワーレンさんは、きままに亭を出て行った。

「え?それってつまり……??」
担がれたと知った時は、正直、悲しくなった。
荒事が駄目でも知識と呪歌だけで、やっていこうと決意をして、そんな自分でも役に立てる仕事だと、喜び勇んで買って出ただけに。
慣れない深酒をして、きままに亭の店員さんに愚痴った。

でも、後から来たリディアスさんと話していて、自分が実家の商いを弟に任せてまで、冒険者の世界に踏み込んだ動機を思い出した。
一回くらい笑い者になったところで、この気持ちは消せない。
それが、ボクの、ボクなりの結論だった。

その翌日、ワーレンさんと再会した。
そして言われた。「あの台詞までがテストだった」と。
いくら囮役として最適の初心者でも、自分で判断を下せないような人間じゃ、いざという時に不安だからと。

つまり、ボクは、あの場での話が、ボクを酒の肴にする為の冗談だと理解できるだけの判断力は持っていると証明できたんだ。
それなら躊躇する理由は何も無い。
自分の出来ることを精一杯する……それが、ボクの考える冒険者なんだから。

「改めて、囮の役をボクにやらせて頂けますか?」
 
これは偶然?
ジャニス [ 2004/07/02 1:36:02 ]
  港湾区域にある倉庫街。その一角を仕切っているアーイオン商会の仕事でアタシは、倉庫の警備をしていた。
警備の主な内容は、庫内に保管されている物品の盗難防止、不審者の侵入阻止、倉庫の不法使用の摘発などなど……要は依頼主の不利益になる事が無いように、目を光らせる番犬のような役割をしていたんだけど。

 時折、見慣れない連中をアタシの警備する倉庫の近くで見かけるようになった。
とりあえずは、アタシの守る倉庫には手を出していないみたいだから、特に何を言うわけでもないんだけど……何だろ、何かすごくイヤな感じのする連中だった。

 そんなある日、アタシは倉庫街の道端で小さな木彫りの髪飾りを見付けた。
何気なく拾い上げたその髪飾りをどこかで見た記憶があったアタシは、どこで見たのだろうと自問しながら暫く考え込んだ。
そして、以前にどこかの酒場で共に酒を飲んだ新米冒険者の女戦士が、その髪に付けていた髪飾りであった事を思い出した。
その女戦士は、この古めかしい木彫りの髪飾りは彼女の父親が彼女のために彫ってくれた物で、今では父親の唯一の形見として大事にしていると話していた。

 …そんな大切な物が、何故こんなところに?と、そう疑問に思うのは極自然な流れであり、その疑問は最近聞いた“ある噂話”をアタシに思い出させた。
その噂話とは、ここ最近、新米冒険者が立て続けに行方をくらませていると言うものだった。

 このまま色々関わったら、ちょっち厄介な事になりそうかな?なんて思いながらも、そうなる事もまんざらでもないかな?などと楽しんでる自分もしっかりいる事を自覚しながらアタシは、この事を話せば食いついて来そうなある衛視の名を思い浮かべながら小さくほくそ笑んだ。
 
動き、訪れ
ワーレン [ 2004/07/02 18:01:38 ]
 「あの台詞までがテストだった」

 あの後、アルに俺は軽く謝罪し、試験であった事を告げた。同時に合格である事も。幸いにも、人柄が良いのか、改めてアルの方から依頼を引き受けたいと申し出てくれた。囮役として、それ相応に判断出来るならば、最適である事を証明された以上、断る理由は無い。彼に声をかけて正解だった。

 囮役をする上で、一応、詐欺師集団に感付かれない様に直接の接触を図ることはしない点を互いに確認した。まぁ、アルからの提案であるのだが、異論は無い。一応、”気ままに”亭を通して連絡し、緊急時・・・身に危険が迫った時、詐欺師集団が感付いた時には直接に俺に連絡する様にしてもらうことにした。冒険者に危険は当たり前とは言え、無理して危険に身をさらすのは得策である訳が無く、新米冒険者ならば尚更である。いざという時の行動方針は大丈夫であるとは思うが、それもまたその時にならなければ分からない。

 まぁ、余程の事が無ければ・・・詐欺師集団はどうも安心しきっているらしく、今の処、どこかへと消える様子も無く、詐欺を続けていると思われる。衛視側の動きも、詐欺事件には他の事件で人手を裂いているという点で消極的に見えているようだ。これも、不幸中の幸い・・・だろう、な。

 そうそう、昨日居合わせたネオンに、アルの支援を依頼した。綺麗こざっぱり髪型な彼に、いざという時ではあるものの、アルの仲間として新米冒険者の真似事を頼んだのだ。彼にとってはあまり得意とは言えない頼みではあるが、それでも俺との縁だからと、引き受けてくれた。まぁ、ネオンにひとつ借りとなるが・・・。

 その時、同席していたソラリスは、裏で”巣穴”の繋がりを懸念したのか、”保留”という形になっている。とはいえ、彼女なりの考えから事件の解決の糸口になると思い、引き受けてくれる事を願っている。

 ・・・と、街の小さな橋の下で、寝転んで今の状況を整理しているところで、前に知り合った冒険者のジャニスがやって来た。彼女は俺がサボっていることを指摘しつつ、昨今の新人ヒヨッコ冒険者が失踪している噂と関連する情報を持ってきてくれた。

 食い付くと思った、と笑いつつ、俺に失踪したという顔見知りの女性の戦士、新人冒険者の持ち物を俺に見せた。木彫りの髪飾りだ。聞くと、父親からの贈り物で唯一の形見として大事にしていたものであるとのこと・・・彼女の名前はミシスと。そして拾ったところはアーイオン商会をはじめとする、そこそこに名を知れた幾つかの商会の倉庫が並ぶ場所。同時に付近に不審な人物が数名見受けられたと言う。事件に巻き込まれちゃうなぁ、と困った顔して、何故か楽しそうな表情を見せたのは気のせいか・・・?

 有力な情報を貰った俺は、ジャニスに礼を述べる・・・と、そこに、俺を探していたという人物が来た。その名は・・・
 
接触!?
アル [ 2004/07/03 4:56:40 ]
 ボクは、その日一人で冒険者の宿へ行った。

ソラリスさんは、まだ支援要請を保留していたし、ネオンさんとは別行動で広く網を張った方が良いと思ったからだ。少なくとも、この時点でボクに危険はない。犯人グループは、一度、新米に良い思いをさせて、自分たちを信用させる必要があるからだ。勿論、衛視が動いている事を知っているなら、犯人たちも慎重になっているだろうが、それでも、ボクのような駆け出しが衛視と気脈を通じているとは、思わないだろう。
ネオンさんのように経験のある冒険者が新米を演じるのと違い、ボクを見て駆け出しであることに疑いを持つ人はいない。それだけは、自信があった。

夕暮れの混雑した店内の奥まった一角にボクは一人でいた。
いつもながらの新品の装備に身を固め、買ったばかりの竪琴の調弦をするでもなく、ただ杯のエールを舐めながら店内を眺めていた。

「相席しても良いですかい?」
ボクと同じくらい軽い革鎧に身を包んだ10代後半の男が酒瓶を片手に尋ねてきた。近づく足音も座る際の鎧の音もボクの耳が拾えるものではない。
「ああ。好きにしな」
ボクは、横柄な口調で答える。戦士の無骨さをだそうという自分なりの演技だ。ベテラン冒険者なら、こんな軽い鎧に身を包んだボクが、歴戦の戦士だとは、思わないだろう。
それが、この口調だ。
どう考えたって自分を実力以上に見せようとしている新米にしか見えないに違いない。

「兄さん、竪琴をひくんですかい?」
酒瓶の酒をボクにそそぎながら、男はそう言った。
「まぁな」
「竪琴をひける戦士なんて、色々とおモテになるでしょ?」
如何にも「それがどうした」というような口調で答えたボクに男が追従するように薄ら笑いを浮かべる。
「それほどでも、ねえよ」
そう答えながらボクの心臓は、早鐘のように高鳴った。なんの魂胆もなく、新人を持ち上げる人はいない。とすると、この男の目的は……。

「兄さん、いま何か仕事をしてますか?」
男が探るように訊いてきた。
「いや、いまは何も」
「今までは、どういった仕事を?」
「そうさなぁ。まぁ、街道沿いでぶらぶらとな」
「ははぁん」
男は、値踏みするようにボクを眺めながら、相槌をうった。
「一つ、兄さんにお薦めしたい仕事があるんですがね」
「仕事?」
「なぁに。そんな難しいもんじゃありませんて。ちゃちゃっと終わらせて金貨5枚が手に入る、ホントに簡単なものでさぁ」
「ふぅん」
ボクは思案するように男から視線を外した。
(犯人か!?どうする?)
「興味がおありでしたら、今晩、深夜に<常闇通り>にある『オーガーの溜め息亭』まで、おいで下せえ」
「深夜に?」
怪訝そうなボクに男は耳打つように続けた。
「こういった儲け話は、他の耳に入っちゃいけねぇ。だから、夜中の方が万事都合が良いんでさぁ」

犯人なら、人目を避ける道理もわかる。
でも、この時点でボクに危険はないだろうし、深夜ならそのまま遺跡へということもない。まずは、ボクだけで、儲け話とやらを聞くのも手だろう。
このまま、ついて来いと言われるより、「きままに亭」に連絡を取れる分だけ、マシか……。

「いいだろう。気が向いたら行ってやるよ」
「では、また今夜」
そう言いながら、席を離れる男は、ボクが今夜来ることを確信しているような笑みを浮かべていた。

「きままに亭」でアスリーフさんとルクスさんに会う。
店員にワーレンさんへの伝言を頼んで、店を出た。
「オーガーの溜め息亭」へハザード川を左手に見ながら北上する。
人通りの少なくなった街路は、まるでボクの前途が死への旅路であるかのように静まりかえっていた。

「やっぱり、来ましたね」
カウンター席から入口のボクを振り返った男が、夕方に見せたのと同じ薄ら笑いを浮かべる。
「で?仕事ってのは?」
男の隣に腰掛けながら、ボクはエールを注文した。
「なぁに。さっきも言った通り、難しいもんじゃありやせん。兄さんが今までにやってこられた仕事と大差ないはずですぁ」
そう言いながら男は、腰に付けた袋から金貨を5枚カウンターに置いた。
「本当にそんな大金が貰えるのか?」
「ええ。ちょっとばっかし、変わった場所で、お願いしたいんで」

変わった場所?
で、お願いしたい?

「どういう事だ?」
「へへっ。わかっていなさるくせに」
と男は、ボクのわき腹を肘でつつっく。
「???」
「ああ。お相手ですねぇ。お相手は、パダへ帰る行商人でさぁ」
「え? いや、ちょっと待って下さい」
ボクは、不意に素の自分で男を制止した。
「えっと……話が良く見えないんですけど……」
豹変したボクに今度は男が怪訝そうな表情を浮かべる。

「兄さん、男娼じゃないんで?」
「えぇぇぇ!」

楽師にして軽戦士という風体、それも綺麗な装備というのは、色事で生業を立てる人々が扮する格好でもあるらしく……。
美形の男性なら女性相手のそれであり、ボクのように平凡な顔立ちの者は、男性のお相手をする事が多いそうで……。
つまりは、男もボクも勘違いで……。

あ〜ぁ。これじゃあ、新米な上に使えない奴だよ。
ボクが一人前の冒険者になれるのは、いつになるやら……。
説明を受けたボクは、場所柄に相応しく、盛大な溜め息をついたのでした。
 
方針変更
ネオン [ 2004/07/03 23:25:56 ]
  ワーレンさんからの仕事を請けることになってから2,3日が過ぎていた。
 今回の仕事はアルと組んで新米冒険者のフリをして、詐欺師をおびき出すというもの。しかし、僕は普段からアルと行動を共にせず、日に一度だけ会って変化があったら報告だけするようにだけしている。
 僕は僕なりに、この事件について調べておきたいと思ったからだ。

 だが、正直、その結果は芳しくない。
 元々、被害者が新米冒険者だということもあって、彼らのことを知る人間が少ないので、情報がうまく集まらない。そこに加え、僕自身、後々、新米冒険者のフリをしてアルのサポートをすることもあるかもしれないと思うと、あまり目立った調査がしづらいというのもある。

 行き詰まりを感じ、他の方法でも考えるべきか、と悩んでいたとき、ワーレンさんが僕の元を訪れた。その表情は、苦々しさに満ちていた。
「ついさっき、悪い……最悪の報告があった。港でホトケがあがった……」
「……もしかして、それは?」
「ああ……詐欺の被害者さ。しかも、囮捜査で先に潜入していて捕まっていた俺の部下だ」

 今まで、どんな形だろうと行方知れずになっていた詐欺の被害者が発見されたことはない。それが一番、最悪の形で、しかも、一番、身近な人間が出てきたとあっては、ワーレンさんの気持ちは察して余りある。
 が、仕事を請けている身としては、それよりも事件に対して考え直す必要がある。

「過激なことはしてこないと思っていた詐欺集団が一変してソレですか……何かあったんですかね」
「さぁな……衛視だってことがバレたのかもしれねぇし、奴らが方針を変えただけかもしれねぇ。
 ただ……そいつ以外には相変わらず、どの被害者も、どんな形でも姿を見せてねぇってのが現状だ。単にまだ死体があがってねぇだけかもしれんがな」

 もし、衛視の囮だとバレたのなら、詐欺集団はまた囮があることを恐れて犯行を控えるようになるだろう。一方、方針を変えたのだとしたら、それは一体どういう方針なのか……もしかしたら、手に余るようになってきた被害者たちを、少しずつ処分するということかもしれない。だとすれば、早々の対応が求められるだろう。そして、ただ死体が見つかっていないだけというのは……今のところは、そうでないことを願うしかないだろう。
 どう考えたところで推測の域を出ない考えしか浮かばない。
 だが、一つだけハッキリ言えることがあるとしたら、これだろう。

「こうも明確に命の危険があることがわかった今、正直なところ、アルさんには荷が重い仕事になると思います。彼には仕事をおりてもらえるよう、話してくれませんか」
「言いにくいことをハッキリ言ってくれるよな、お前は」
「彼のためでもあります。もちろん、僕のためでもありますが」
「……あいつは、思ったより根性のある奴だ。それでもやりたい、って言うかもしれねぇぞ」
「そのときは……もしものことがあっても責任を取れないと、ハッキリと……」
 そこまで言ってふと考える。
「いえ、これは僕から言いましょう。短い間でも”相棒”だったんですから、その礼は尽くします」
 そして、僕は今、どこにいるともしれぬアルを探しに出た。

(PL註:たぶん、男娼仲介屋と会ってるころと思われ(ぉ))
 
受けてみる、か。
ソラリス [ 2004/07/04 0:32:52 ]
  新米を引っかける詐欺かあ…素人にしちゃあ、うまいことを考えたものね。 たしかに、金に困ってるような新米なら大概は引っかかるかもしれない。 その程度でだまされるようじゃあ先が思いやられるけど、ちょっと高い授業料の社会勉強っていうところかしらねえ。
 それにしても、あの衛視(ワーレン)の口ぶりじゃあ、詐欺は1件2件どころじゃなさそうね…そもそも、単に冒険者のごたごたなら、衛視が口を挟んでくるとは思えないし。
 本来なら、話ぐらいは聞いてやる、あとは他に迷惑をかけない程度に勝手にやってろ、って感じなんでしょうねえ。 それがまじめに捜査しようっていうんだから…金に困ることはないでしょうけど、どこかの裕福な子弟がひっかかったのかしら。 それで親が訴え出たものだから本腰を入れざるを得ない、と。 いい迷惑だけど、ありそうな話ねえ。
 さすがにこの件に巣穴の連中が絡んでるとは思えないけど、なにか関連する情報は握ってるのかもしれないし、もう他の連中が動いてるのかもしれない…聞いてみるだけは聞いてみようかしら。 ちょっと高い買い物になるかもしれないケド。 そうだ、とりあえず"片耳"トビィに聞いてみようかしら。 受けるかどうかは、その後に決めることにして。

 …案の定、ギルドの方としては一切関わってはいないらしい。 ほっとしたような、ちょっとつまらないような。 やはり犯人はモグリか。 トビィが言うには、同じような事件は少なくても5件はあり、1〜2人ぐらいがターゲットらしい。 最近は4人組のパーティまでやられたとか。 …これはあくまで噂だけど。
 そいつらを捕まえるか始末するか、どちらかで多少報償を出すぞとまで言ってきた。 もちろん前者の方が高い。 まあ、そればかりはなるようにしかならないケドね。
 犯人は用意もなかなか周到だし、人数が居るパーティも狙えるところを見ると、結構人数がいそうね。 4人か5人か。 こっちは実質2人だから、ちょっと不利…ね。 何かいい手を考えておかなきゃ。 いざとなったら逃げればいいかしら、ね。 人相とかだけでもつかめれば、後は何とかなるでしょうし。
 とりあえず、競合しないようにアタシも参加する、とだけ担当者に伝えて巣穴を後にした。 後はあの衛視にも参加すると伝えるだけ。 詰め所の場所は知らないから、昼ご飯もかねて気ままに亭の方に行ってみましょうか。

余談:そのから3日間、夜はトビィに強引に酒場につきあわされて、さんざんモグリ野郎について悪態をついた後、最後には「おまえ、さっきの話受けるんだってな? 聞いたぜ。 やるなら絶対逃がすなよ、後が面倒だからな。 オレのメンツも丸つぶれになるし…おい、そうなったら、今後いい男が買えなくなるじゃないか。 そのときは責任取れよな。 金髪の小僧がいいな。」とか言われるし。 もう、最悪。 こんなおまけが付いてるんだったら、トビィに聞かなきゃ良かったわ。
 
深夜の追跡
ルクス [ 2004/07/04 2:16:21 ]
  きままに亭を飛び出して、アルの後をつけたオレとアスリー(フ)。先行したオレはぎりぎりのところで追いつき、何食わぬ顔でなじみの店員に軽く挨拶して、他の客にまぎれてアルと依頼主だというらしい男の近くの席を陣取り、耳を澄ませていた。

 ………
 ……
 …

 トボトボと《オーガーのため息亭》から出て行くアルを隠れて見送る。それは事件とはまったく関係のない仕事。どうやら、オレたちの心配は杞憂で終わったようだった。だが、笑ってすむような話で終わらなかった。
 今現在、アルの後ろ姿を見ているのは三人いるのだ。アルはまったく気付いていない。
 二人は言うまでもなく、オレとアスリー。そしてもう一人、ごく普通に夜道を歩く旅人風の男。一般人にはそう見えるだろう。
 その男が、短い間立ち止まり、射るような視線でアルを見ていた。ご丁寧にフードとマントをまとっている。一見部屋の空いている宿を探している旅人に見えないこともないが、そう見せておいて巧みに顔の要所を隠している。
 しばらく後姿を見つめていたかと思うと、フードの口元がかすかに揺れた。にやりと笑っているのだろう。そしてそのまま、何事もなかったかのように、だがアルと一定の距離を保って歩いていく。

 音を立てないように気をつけ、街路樹の葉の陰から顔を出し、小声で囁く。
「アルのあの姿を見て、オマエが犯人だったらどう思う、アスリー?」
「新米が、仕事に振られてガックリきてる。そして、そんな新米にこちらから仕事を持ちかける。カモ決定、ってトコかな?」
 離れたところの路地に乱雑に積んであった木箱から這い出てきたアスリーが同じく小声で答える。
「だろうなぁ。きままに亭からここへ来る途中も、あの男っぽい影を見た。あいつの後をずっと追っていたってことは、考えられなくもないだろう」
 ひょっとしたら、何日か前から狙いを付けていたのかもしれんナ。新品の装備を身に纏っている姿を見れば、一発で新米だとわかる。
 ずっと着けているらしいのは、一人になる瞬間を狙ってか。
 それともやはり、衛視のおとり捜査かそうでないかを探っているのかもしれない。ため息亭で同業者から仕入れた一番新しい情報、それは死体が見つかったこと。噂では、衛視のものだ。
 犯人側は衛視の囮がいることに気付いたのかもしれない。気付いてないなら幸いなのだが、最悪なことにいうなればアルは衛視側の囮のような存在だ。
 バレたら、顔が知られている以上そこで囮としての役目はなくなる、邪魔者と判断され殺されるかもしれない。そして相手も警戒を強めるだろう。今まで以上に対処が厳しくなる。
 いろいろ考える必要はあるのだが、とりあえず今は見失わないことだ。アスリーフに忍び足で一緒に追跡しろというのは無理だろうから、置いていった。

 こちらも顔を隠し、相手の灯りを頼りに闇に潜んで後を追う。そうして結局、宿までついたのだが、男は宿を確認して満足げに(たぶんだが)街外れのほうへ歩いていってしまった。
 だが、バレた様子はなかったから、日を改めてカモを罠にかけにくるのだろうか。。
 言っちゃあなんだが、アルはため息亭のときみたいに下手に演技するより、素でいたほうがよっぽどいい。衛視に雇われていると思われないような、新米然とした様子が相手を囮でない確信させたのだろう。
 初心者然っていうか、そのまんま新米んだがナ。

 一先ず、アスリーにもアルにも悪いが、ここは男の後を追う。
 だが、男の足は思った以上に速い。さすがに速度ではオレの非じゃないが、街外れに近づいた途端、灯りを落としやがった。
 道を完全に覚えているのか、それともそこに隠し通路や扉があったのか。そのあとどうなったのかはわからなかった。
 こっちが気付かれているとは限らないが、さすがに距離をつめて確認するのはリスクがでかすぎる。オレはそこで引き返した。何よりも、我が身が大事。
 掴んだことは0に等しいが、一応明日にでも巣穴とワーレンに知らせてやるとするか……。あとは本人にも、自然に振舞うように言っておくか。
 
 しかし……なんで同じ妖精族で、グラスランナーだけ暗視が利かないんだ!
 早々にその場から走り去りながら、オレは激しくそう思った。
 
急転
アル [ 2004/07/05 2:16:41 ]
 ボクは、多くの人から警告を受けた。
情報交換のために「きままに亭」に顔を出した時のことだ。
衛視の死体が発見された事や尾行者がいた事。
「これ以上は、危険だ。手を引け」
「お前のフォローをしている余裕はなくなった」
「宿でじっとしていろ」
そういった意味の警告だった。

ボクは、他の人の足を引っ張るつもりはない。状況が悪化した以上、自分の身すら守れない状態のボクは、警告通り、宿にいるべきだろう。でも、事件に首を突っ込まない事と考えない事とは、別だ。考えないわけにはいかない。これは、ボクの初めての仕事であり、衛視が、ボクのみたいな新米冒険者たちの為に命まで賭けた事件なんだから。

冷静に状況を整理・分析していると腑に落ちないことがある。
判明している手口は、こうだ。
1.新米に金貨五枚で簡単な仕事を斡旋する。
2.“枯れた”遺跡に誘き出され、行方が分からなくなる。
これは、亡くなった衛視が探った事だから、ほぼ、事実だろう。では犯人の動機は?
関係者の予想では、金品や所持品の強奪が目的とされている。しかし、そこが腑に落ちない。

疑問:目的が所持品なら、冒険者本人たちは何所へ行ったのか?
推測:冒険者たちは、犯人を目撃している証人だ。全員殺されているはずだ。
疑問:その場で、つまり“枯れた”遺跡で殺されたのだとしたら、死体は何処へ?
推測:次の獲物を誘い込む為に犯人たちが始末した。つまり、死体が発見されないような始末方法を犯人は知っているはずだ。
疑問:ならば、何故、衛視の死体だけその方法で始末しなかったのか?
推測:衛視だったから?否。衛視の死体だからこそ、隠さなければならないはずだ。衛視隊が本腰を入れて捜査するような事態を犯人たちが望むはずはない。
疑問:そもそも金貨五枚の先行投資に足る所持品を新米が持っているだろうか?
推測:犯人の目的は別?

そこまで考えて、ボクは先日の失敗を思い出した。
犯人は、冒険者たちの身体が目的なんだ!
ボクの頭の中に数々の物語で得た知識が渦巻く。邪神への生贄、奴隷としての使役、魔獣合成など悪意ある魔術の実験材料、毒や麻薬の試験体……そういった目的のために、人間の身体こそが犯人に必要なのでは、ないだろうか?そして、冒険者という世間のはみ出し者こそ最も手に入れ易い人間では、ないだろうか?
だとすると被害者たちは、遺跡で殺されたのではなく、どこかへ連れ去られ、監禁されているとも思える。まだ、生きているかもしれない、と。囚われた潜入捜査官はどうするだろうか?事態を仲間に伝えるために脱出を試みるのでは?そして口封じの為に追っ手に襲われてと考えるのは、飛躍し過ぎだろうか?
そもそも、その死体を隠すつもりがあるなら、同じ港に捨てるにしても、石を括るくらいは、するはずだ。それすらしなかったという事は、犯人が、偽装する時間を惜しんで、一刻も早く現場を去りたかったということではないだろうか?
港に捨てられた死体……行方不明者の髪飾り……不審者のうろつく倉庫街。

監禁場所は船!?

ボクは、自分の推論が矛盾しないか一晩考えた。
そして、それを伝えるために「きままに亭」へ向かった。
自分の出来ることを精一杯やる。その決意を胸に。
でも……。
 
地図
ワーレン [ 2004/07/05 13:05:57 ]
  詰所の地下、牢の並びに在る検分室。そこに運び込まれた部下の死体。外傷は一つ。刺し傷。打撲傷は無い。傷口は異様なほど黒く染まっている。老人の検分官が言うには、毒を塗った短剣で一刺し、これが致死に至った原因だと言う・・・まぁ、誰の目にも明らかだが。

 履いていた靴の中から羊皮紙の切れ端が見つかった。小さな断片だが、可能な限り薄くの伸ばし、細く丸めたものだ。

 其れは、直線と交差でのみで表現された、簡略な地図である。そして、小さな”レ”点が一つ。誰にも気付かれぬよう、懐に仕舞い込む。

「お前が命を賭けた・・・これは、無駄にはしない」



「こんな場所に心当たりはないナ。あの周辺だとしても、直線通路が多すぎる・・・」

 詰所を出て、直ぐに声をかけてきたルクスが言う。並んで歩きながら、アルを尾行した犯人と思しき人物を見かけて見失った場所周辺には全く該当しないと。

「しかし、いいのか?こんな地図つーか、物証を見せちまって」

「手がかりが欲しいから、なぁ・・・なりふり構ってられんと言うのもあるが。それにしても、アスリーフも協力してくれたとはねぇ。アルの見張りもしてくれたとは、至れり尽くせりで悪いな」

「ま、酒場で出会った縁だナ。新米だから心配つぅのもあったが・・・ま、ついでに警告もナ」

「そうか・・・一応、ネオンから警告をしてもらっているんだが・・・俺からも言う、か」

 折角、信用し依頼したのだが、こうも危険な状況であれば下手は出来ない。・・・と、途中から俺の横に並ぶ影が増える。

「あらら、親子だと思ったわ。えらいことになったわね」

 ソラリスだ。冗談交じりの挨拶だが、表情は複雑そうだ。衛視の件を知っているのだろう・・・と、思うのだが・・・何かあるような気がするのは気のせいか?少しだけの会話の後、数分後にはバラバラに別れる。

 ・・・

 とりあえず、アルに詫びる為にも”気ままに”亭に足を向ける。カウンターにアルがいたので隣に座る。俺が依頼を下げる事を話そうとしたとき、アルは考えていた事を俺に話し始める。

 ・・・

「そこまで考えていたか・・・船、目的は金品は二の次、奴隷使役か実験体等の肉体そのものか。確かに有り得る、な。だが、本当に其処まで考えて、このまま危険に挑める覚悟はあるか?」

 アルは少し黙って、答えに悩んだ。俺が再び声を発しようとしたとき・・・一つの考えが浮かんだ。新人冒険者が落とした髪飾りと倉庫街、部下の死体が発見された港、ルクスとアスリーフが追跡し犯人を見失った場所、候補として挙げられている三つの遺跡のうちの一つ”骨と牙”・・・

 直線のみで構成された地図を取り出し、可能な限りで知っている俺の頭の地図と重ねる。徐々に縮尺を広げる・・・街並みには確かに、あるはずがない直線だけの道が、それぞれの地点で繋がりを見せる。

 下水道。

 最近、街と衛視詰所から依頼があった大掛かりな”掃除”が終わり、それなりに快適となった下水道。少なくとも、徘徊していた獣、妖魔、化け物はかなり激減しているはずだ。そこを根城としていた、初級の邪神の使徒も逮捕された。

 今のところ無警戒な場所。

 では、”レ”点の意味するところは?

 ・・・

 アルが俺を見て、怪訝な表情をしている。

「あの・・・?」

「・・・もしかして、な」

 意外な場所に”レ”点があることに俺は気付いた。 
 
捕らわれ人の光明
ミシス [ 2004/07/06 10:46:25 ]
  ここへ連れて来られて、もう何日経つのだろう。実際にはひと月にも満たない日数であるとは思うのだが、身体の自由を奪われたままに過ごす毎日では、それを確認する手立てはあまりにも少ない。

 ただ、粗末な食事を運んで来る人間が纏う潮の香りと、ゆらゆらと揺れる部屋を思うと、ここが船の上である事はおぼろげながらに察しがついた。

それにしても、何故にこうも簡単に捕まってしまったのだろう。金貨5枚と言う破格の仕事を難無くこなせた事に有頂天になっていたのだろうとは思う、けど、あの枯れた遺跡の中で騙されたと分かった時、急に襲って来た眠気は何だったのだろう?あたしを騙した連中の中の一人が杖を片手に聞き慣れない言葉を呟いていたが、あれが俗に言う“魔法”と言うものなのだろうか?

 そう言えば、つい数日前まで一緒にこの部屋へ押し込められていた、あの男の人…“ルルド”と名乗っていたあの人はどうなったのだろう…新米冒険者を装ってこの事件の捜査をしている衛視だと言っていたのを不意に思い出したあたしは、その事が心のどこかに引っ掛かっていた。
 この部屋に押し込められ、不安に押し潰されそうになっていたあたしに、明るい笑顔を振りまきながら一生懸命励ましてくれたルルド。連中に連れ出された時も“決して諦めるな”と瞳であたしを励まし続けてくれていた。
 そんなルルドの事を思い出すと、如何にも不甲斐無い自分自身が無性に腹立たしく思えてならなかった。そして、その腹立たしさがあたしに、新たな決意を促した。

“何があろうとも、絶対に諦めない”

 そう自分の心に誓ったあたしは、必ず訪れるであろう僅かな好機を狙って息を潜めた。
 
思考整理
ソラリス [ 2004/07/08 1:58:42 ]
  引き受けるとは言っても、どこから手をつけたらいいものか…あの衛視(ワーレン)の持っていた地図は全くもって見当付かないし。 どこの地図なのかと尋ねても分からん、のにべもない返事だけ。んもう、せっかくの遺留品だからってキタイしてたのに。 よけい煮詰まっちゃうじゃない。
 それにしても、いつの間にかルクスとアスリーフも参加してるみたいだけど? まあ、こちら側の人間が増えるのは願ってもないし。 これで少しは不利が埋まるといいんだけど。 あとは相手の数が少ないのを祈るしかないかしら。(そういえば、ルクスも金髪よねえ…ま、さすがに、ねぇ) なにより、アルが無事でいてくれるのは助かるわ。 周りが色々助言とか警告とかしたっていうし。 
 素性は知られてないかもしれないけど、衛視が一人死んで、発見された。 被害者らしい新人の冒険者は1人として見つかっていないのに。 ということは、彼らは今まで通り処理できなかったって言うことよね。 時間が足りなかったのか、人手が足りなかったのか…どちらにせよ、衛視隊も黙っちゃ居ないでしょうから、今は焦ってるはず。 もうしばらく待てばボロも出るかもしれないけど、先に逃げてしまいそうな気もするわねえ。
 …せめて1人ぐらいは確保したいわねえ。 そうしたら面目も立つし、後も今よりは楽そう。 それで儲けもあればいいこと尽くめなんだけどねえ…。 うまくはいかないものね。
 やっぱりあちこち回って足で探してみるしかなさそうね。 それでも見つからないなら、街中には居ないか、街中にいても怪しまれない状態なのか。 実は探してる方が…なんてね。 まさか、衛視がそんなことをしてるとは、ねぇ。 いくら何でも、よねえ。 知らずに匿ってる、ぐらいならありそうだけど。 それなら、地下に潜ってるとでも考えた方がマシよねえ。 この街の地下は広いって言うし。
 さあて、ちょっと気分転換もかねて普段行かない酒場とかに方に顔出してみるのもいいかもしれない…そうだ、久しぶりに賭場の方にでも行ってみようかしら。 最近やってないし、ね。 カモから銀貨の数枚でも巻き上げられれば、ま、いいとしましょ。 ついでにいろいろと聞き出せたらいいわねえ。 ああいうところの連中は、外から来た奴らのことに詳しいし。 あとは、装備を奪って金に換えてるとすれば、武器屋とかも情報収集には良さそうね。 なんだ、結構探してみる場所が思い当たるじゃないの。
 
来訪者二人
ルクス [ 2004/07/09 20:55:34 ]
  オレの定宿にワーレンが押しかけてきた。オレを呼ぶが早いが、早く部屋へ連れて行けとせかされた。
 ちらりと、紙片を見せる。それは確か、例の遺留品だ。頷いて、部屋に通し、ハニーに席をはずしてもらう。

 部屋に入るなり、ワーレンは本題に入った。
「つまりだ、この交差している部分すべてに、下水への入り口があるんだ」
 そして同時に、その交差地点付近で出来事が起こっている、と。
 オレの知っている下水への入り口を思い浮かべ、例の地図を拡大しながら照らし合わせてみると、確かに三箇所が当てはまった。
 倉庫街。そこには、手入れ用の下水に続く小さな円形の入り口があり、普段はフタがしてある。
 遺跡の「骨と牙」。これはオランの地下にある遺跡のひとつの呼び名で、そこに潜るときは下水を使う場合が多い。その下水へ入るための入り口が、その交差しているところにあった。
 最後が、港付近。そこにも、格子を嵌められているがハザードへ流れ込んでいる下水の出口がある。
「おい、オレが追跡したここは?」
 そこだけが、オレの記憶にない。ほかは出入り口から、下水道の繋がり方までぴたりと一致する。
「ここにも、手入れ用の小さな入り口があったんだよ。だけど、封鎖されて何十年も経ってる」
 ワーレンの話によれば、以前その街外れの下水道に巨大な怪物が住み着いた。それを退治するべく派遣された冒険者たちが、勢いあまり強烈な魔法をぶちかました結果、下水道が崩れてしまったらしい。
 原型をギリギリ留めたものの、崩壊の危険性がある理由から封鎖されて長いとのことだ。何十年も前じゃあ、オレが知らないのも無理はないか、と適当に自分で自分に理由をつけておく。
「てことはだ。この印が犯人たちの本拠地ってことか? いや、捕まっていたことからすると、本拠地と考えるよりも監禁場所の可能性が高いか」
 とにかく、下水を示していると思われる地図を紙に大きく書き直し、部屋の片隅に放ってあったオランの地図を重ねる。
 すると、意外なことにそのレ点が地図に記されているある文字にぴったりと重なった。
「金鯱通りだと!?」
「ああ。怪しい場所ではあるが、ノーマークだった」
 金鯱通り。それは港へと続く川沿いに作られた通りで、海賊やらの隠れ蓑があるとか、海賊の怪しい取引現場にされているとか噂される港付近でもっとも危険な通りだ。一般人どころか、真っ当な船乗りなら誰もが近づかない通り。かくいうオレも、あそこへは極力近づきたくないと思っている。
「フツーならマークしねぇだろうナ……」
 名前通り、ほとんど海の悪党連中の巣窟で、以前あそこで好き放題やった「陸の」悪党がスマキにされたとも聞いている。真っ当な船乗りどころか、真っ当でないならず者ですら嫌煙する土地だ。
「ってか、相手は海賊かもしれねぇってことか? あるいは海賊崩れか」
「断定はできん。だが、そこに何かあることは確かだろうな」
 海賊になりすましてか、金を握らせているか。定かではない。行ってみりゃあ何かわかるんだが……。
「人数がいなくても危険。かといって大人数だと目立つ。参ったなこりゃ」
 紙片をしまいこみ、部屋を出る。すると、人の気配。
「感心しねぇナ、愚者。盗み聞きか?」
「ご冗談を」
 すすっと、階段から音も立てずに道化のポールが上がってくる。オレはこいつのことをたまに「愚者」と呼ぶ。
 役に立つときは立つのだが、たまにどうしようもないトラブルメーカーになりやがる。道化というよりも、まさに「愚者」と呼ぶにふさわしいやつだ。
「ルクス様の会話を盗み聞くほど、私は愚かではありませんよ」
 こいつはいつもこうだ。だが、仕事でなければ他人に必要以上に干渉はしない。こいつが来たってことは仕事なのかもしれんが……まぁ信用してやろう。
「よいお話を持ってまいりました。私とご同行願えますか? おっと、そんなに警戒しないで。外にアスリーフさんを待たせてあります」
 アスリーフが?
 なるほど、あいつをオレを呼び出すダシに使ったか。大方、話しやすくなるとでも言ったんだろう。……事実だがナ。
「そちらの衛視さんもご一緒に」
「おい、なんなんだこいつは?」
 ワーレンが至極当たり前の言葉を返してくる。こっちは警戒をいまだに解いていない。当たり前っちゃ当たり前だが。
「安心しろ。今のところ、オレたちにとって害はないはずだ」
「おやおや。これは手厳しい。“トカゲの尻尾を捕まえた”。これなら、私の言葉でもついてきて頂けるでしょうか?」

 白い仮面の口元が、なんとも形容しがたい笑みの形になった。
 
迂闊
アル [ 2004/07/10 6:48:53 ]
 不信な男を捕まえた後、ボク等は裏道を選びながら街中を歩いた。
ボク等っていうのは、ボク、アスリーフさん、ポールさんの三人のこと。

「どうするんですか? これから」
「ルクス様のお力をお借りしようと思っております」

ポールさんが、角の先を窺ったまま答えてくる。

「アルは、このまま『きままに亭』にでも行ってて」

そうアスリーフさんは言った。

「でも……」
「人目を避けながら通りを歩くには、素人が少ない方が良いんだよ。おれは、ルクスと一緒に君を尾行したこともあるから、ある程度慣れてるけどね」
「そうでございますねぇ。やはり、お二方を連れて誰にも見られないというのは、些か難しゅうございますから」

二人にそう言われたら、ついて行く訳には、いかない。足手纏いは、ゴメンだ。

「でしたら、ネオンさんを呼んでおきます。尋問するなら、あの人も一緒の方が良いでしょうし……」

そう言い残して、二人が制止するより早くボクは駆け出していた。

「大丈夫かなぁ?」
「そうですね。アルさんを狙っているのは、組織というより、この男個人のようでございましたから、今のところは、問題ないと存じます」


「手を引けって言ったはずだけど?」

囮として酒を飲んでいた宿から「きままに亭」に向かいながら、ネオンさんが切り出した。
ボクは、剣の稽古の最中に出遭ったポールさんと彼の誘き出した不信な男の話をネオンさんに伝える。街への道でアスリーフさんから説明されたことだ。

「だったら、ここまでだね。宿までは送って行くから、そこから先は、二度とかかわるんじゃない。足手纏いがいるとこっちの身まで危ないから」

突き放した様に言うネオンさん。その言葉の裏にボクへの気遣いがあることをボクは段々と理解していた。
でも……とボクは言った。ここは、引けない。

「なら聞くけど、君に張り込みができるか? 尾行は? 戦闘は? 素人の手におえる相手じゃないって散々説明しただろ。それとも君は、知識で役立ちたいと言っておきながら、こんな事も理解できないほど浅はかなのか?」

その後、ボクとネオンさんは、ボクの宿に着くまで、一言も口を交わさなかった。


事件から遠ざかって数日。
普段通りの仕事(ラスさんに言わせると“使いっ走り”)をしながら日を送る。

「事件はどうなったのかなぁ? 今夜あたり『きままに亭』へ顔を出してみようかな」

師の家からの帰り道にボクはそんな独言を呟いていた。

まさか、この時、ボクを尾行している人物がいるとも思わず。そして、久しぶりの『きままに亭』で、多くの人と楽しいひと時を過ごした後のボクを待ち伏せているとも知らずに。
 
中途半端な気分で
アスリーフ [ 2004/07/11 2:05:26 ]
  ・・・ルクスの宿から少し離れた場所で、可能な限り人気が無く、それでいて緊急には人通りのある場所に出やすい場所・・・「どこ」といっても仕方のない、そんな場所でおれは待った。気絶した男・・・たぶん内臓破裂まではしてないと思うんだけど・・・を見守りながら。
 結局のところ、おれはポールを信頼していなかったから(怪しげな雰囲気を作り出しているのはあいつ自身だ!)あいつが足音もなく最初に現れたときは剣を抜いたが、その後にルクスとワーレンが現れたからやっと安心する事が出来た。剣には実は細工をしてあったから、実際の強い打ち込みには耐えられないで剣の身が外れたと思う。アルに言った「1発殺すつもりで打ち込む」ってのは嘘じゃあなかったから。

 4人での情報交換(ポールとルクスの会話、ワーレンへの紹介は見ものだった。ルクスのあんな表情はそう見られない)が終わらないうちに、ネオンがやってきた。アルは詳しいこの場所を知っているはずもないけど、仕事柄、道にも詳しいんだろう。
 アルが無事に宿に帰りついたとの知らせを聞いて安心した。まだ敵の残りはこの男が捕まったことを知らない可能性が大きくなったと思う。わざわざ人目を避けて街中を進んだのは、それを相手に知らせたくなかったのも大きい。それでも、いくらなんでも数日中には動き出すだろう・・・撤退か、報復か。どう出てくるかはわからないけど、その前に手を打ったほうがよさそうだ。相手が動くとき・・・積極的な行動に出てきた場合、おそらく狙われるのはアルだ。もともと標的の1人だったようだし、アルを狙った男は音信不通だから。

 結局、この男(ポールが言うところの「トカゲの尻尾」)の処理はおれ以外の4人に任せた。ここで尋問を始めても仕方がないし。おれ以外は後ろ盾になりそうな組織に属してるし、秘密にやるならそっちの方がいい。
 善は急げ。全員が早速思い思いの、そしてすべき行動に移った。おれはとりあえず、アルの宿近くの様子を見てくることにした。

 別に異常は無い。もっとも、街中に上手く隠れられてるとおれには見つけられないけど。
 それくらいはわかっていたので無闇に探すような行動は取らず、最後には近くの公園でベンチに腰を下ろして休んでいるフリをしていた。
 近くに居る猫を撫でようとしたら慌てて逃げていった。頭上でカラスがかぁ、と鳴いたので、まるでバカにされたような気分になった。そんな少なくとも見た目に平和な光景は壊されることなく、やがて日が落ちた。

 それから2日後、ワーレンから知らされたところでは、例の尻尾の取調べは微妙なところらしい。
 自分は下っ端で何も知らないと言いはっているようだ。この街の住人でもないらしい。
 今までの推測のある程度の裏づけは取れたが、核心についてはさっぱりとか。冒険者に関しても、引渡し場所はわかったが、詳しい監禁場所は未だ不明だという。それでも、生きたままというのが条件であった事が聞き出せたのは大きい収穫だと思う。おれは全員生きてはいないものだと考えてたし。
 手柄をあせった理由含め、何かを隠しているフシもあるから、もっと絞り上げてみるといっていたけど・・・・・・所詮トカゲの尾には重要器官など入っていない。時間を取られるだけにならなくちゃいいんだけどね。
 
 加え、某所に長期停泊している不審な船の情報も聞いた。なんでも修理を口実に停泊しているが、直っている様子はないという。放置されているかと言うとそうでもなく、ちゃんと人の出入りはあるらしい。
 その中の1人が「縁起が悪い時期で、今は修理に不向きな季節」だと異国訛りの言葉で声をかけた地元の漁師に答えたとか。これはソラリスが賭場かどこだかで銀貨と一緒に仕入れてきた情報だとワーレンは言っていた。

 さてさて、おれがさし当たってすべき事はなんだろう。明確に見えている敵にぶつかるならいざ知らず・・・捜査ってのは得意じゃない。
 あれから数日、まだお呼びがかからないって事は、おれが必要ないのか、まだ手を出しかねているのか・・・。
 まさかアルから目を離すような事はしてないだろうし・・・おれが付きまとっても怪しまれるのが関の山だ。普段なら悩むことなどあまりないのだけど、どうにも中途半端な気持ちでおれは外に出た。

 きままに亭にも数日行ってないし・・・夜も随分ふけたけど立ち寄ってみようかと蒸し暑いうす曇りの夜空の下を歩きだした。
 今持ち歩いている剣はきちんと戦闘準備が調っている。柄の先を握り締めると、澄んだように冷たい感触が心地よかった。
 
思わぬ収穫
ソラリス [ 2004/07/12 0:10:38 ]
 「それからずっと、あいつは”何も知らない”の一点張りさ。」
 詰め所にほど近い酒場で状況を聞くためにワーレンを呼んではみたけど…。この調子じゃ、愚痴だけでそろそろ2本目の火酒を空くわね。
 それでも、幾らか話を聞くことができた。 今回の犯人の1人らしいヤツを捕まえたこと。 冒険者のこととその引渡し場所。 前に見せて貰った地図が指す金鯱通りのこと。 ルクスやアスリーフの手伝いもあってなんでしょうけど、なかなかに仕事が速いわね。 アタシもうかうかしてられないわ。 せめて1人ぐらいは捕まえる予定なんだから。
 それに引き替え、アタシの知ってる情報といえば…たいしてない。 賭場「夜の鉤爪」で3日ほど遊んでた時に仕入れた、沖の錨地にいる怪しげな小型船のことぐらいかしら。 遊び相手だった数人の漁師や水夫から、銀貨と一緒にいただいたものだけど。
 そいつらの話だと、ちょうど詐欺の話が始まった頃に修理の名目で来てるらしいけど、一向に造船場に入らないし、錨を降ろして帆も全部畳んでしまってる。 昼も夜も不気味なほど静かで人影もほとんどないけど、それでも人の出入りは有るらしく、ボートが行ったり来たりしているらしい。
 港の補給担当の奴やら漁師やらがそれとなく聞いてみたところ、西方訛りで「俺たちの故郷じゃ今は一番縁起が悪い時期で、修理なんてとんでもない。海の魔物や邪神に引きずり込まれちまう」といってしばらく待つつもりらしい、とのこと。 習慣でそうしてる連中が多くいることは結構知れてるらしく、それについてはみんなそれなりに納得してるらしい。
 中には陸に上がった連中を見たヤツがいたらしく、真っ当な船乗りならまず近寄らない、川沿いのいかがわしい酒場や宿屋に5人ぐらいで入っていくのを見たとか。 そいつはさすがにあの酒場は怖くて入るのはヤメにしたらしいが。
 アタシはずっと関係ない話かなと思って聞いてたけど、錨地から上って川沿いといえば金鯱通りのことだし、ワーレンの口から金鯱通りの話を聞いたときに、案外無関係じゃないかも知れないと思って、とりあえずこの話を教えた。 とりあえず、関連はないかも知れないケド、とだけ言い添えて。
 アタシもあんな所には行きたくないけど、行ってみないことには分からないし…んー、物売りか娼婦でも装って潜入してみるしかなさそうねえ。 水夫は…ちょっと無理があるかも知れないし。
 ワーレンには潜入してみてなにか見つけたら連絡するとだけ言って先に店を出たけど…大丈夫かしらねえ、アタシ。 ちょっと不安。 ていうか、かなり不安。
 
これも偶然?いいや、絶対必然!
ジャニス [ 2004/07/12 3:01:28 ]
  船舶での長旅には、欠かす事の出来ない物。それが水と食料である事は言うまでも無く、それ等を扱っている店の一つが、今アタシが護衛の仕事を引き受けているアーイオン商会な訳であって。

 深夜、そのアーイオン商会の、アタシが護衛している倉庫に急ぎの仕事が舞い込んだ。その仕事とは、かなりの量の水と食料を今晩中に納めて欲しいとの事、場所は言わずと知れた“金鯱通り”。
 護衛の任に就く事になったアタシと数人の同僚は、互いの顔を見合わせながら怪訝そうな表情を浮かべた。何故なら“金鯱通り”と言えば海賊達の隠れ家的な場所である事は周知の事であり、真っ当な商売人とは縁の無い場所である、が、依頼主からは、港湾区にある衛視局からもお墨付きを貰っているからとの事、であれば納める事もやぶさかではないと言った感じで、アタシ達は荷を馬車に積み、一路目的の場所へと向かった。

 数刻して目的の場所へと辿り着いたアタシ達は、休む間もなく荷を降ろし始めたその時、見覚えのある人相の男達が、アタシの視界に入った。
 何処で見た顔だろうと、作業をしながら考えていたアタシの脳裏に、倉庫街でうろついていた見慣れない連中の人相とその男達の人相が一致した時、アタシは内心でかなりの緊張を覚えた。

 そんなアタシの内心など分かるはずも無い彼等は、何事かを相談しつつ、腰に下げた得物を確かめる様にしながら街の中へと消えて行く。アタシは、その姿に直感に近い“何か”を感じ、適当な理由をつけて作業を他の同僚に押し付けると、適度な距離を保ちながら彼等の後を追った。
 そして、幾許も経たないうちに彼等は、アタシが良く行く酒場の“きままに亭”の前で足を止め、酒場の中へ入る訳でもなく物陰から誰かを待つ様にしていた。

 しばしの時が経ち、酒場の中から新品の革鎧に身を包んだ、如何にも新米と言った感じの男が一人出て来ると、その男の後を追って彼等が動き始めた。

 …これはいよいよ持ってビンゴかしら?と、内心舌なめずりしながら彼等の後を追うアタシの耳に、思った通りの喧騒が聞こえて来た。アタシは、男と彼等が入って行った裏路地に勢い良く飛び込むと、不意を突かれた様な表情で振り向く彼等の手や足に、腰に下げていたサーベルで二、三撃打ち込んだ。そして、その唐突な介入に怯む彼等の間を通り抜け、標的になっていた男の手を強引に鷲掴みに掴んだアタシは、その男と一緒に路地の向こうへと走り出した。だがそれも束の間、一連の出来事に呆気に取られていた彼等が、我に返った様に怒声を上げながらアタシ達の後を追って来た。

 多勢に無勢、しかも、アタシが手を引く男の顔は混乱の局地であるかの様に目を白黒させている有様。

 …これはちょっち先走り過ぎたかしら?と、内心冷汗をかきながらも大きな通りへと続く路地へ躍り出たアタシ達は、一気にそこを駆け抜けようとした、が、そのアタシ達の前に路地の横合いから突如として人影が現れた。

 新手!?と、緊張しながら身構えるアタシ達を一瞥した人影は、いきなり腕を伸ばしてアタシの二の腕を掴むと、アタシ達を路地の更に裏手へと強引に引きずりこみ、その場へ屈む様な体勢にさせた。
 路地の向こうでは、彼等が何事かを話し合いながらアタシ達の周辺をうろついていたが、やがて、半ば諦めた様にその場から姿を消して行った。

 その様子を見て取った人影は、ゆっくりとアタシ達に振り向くと、軽い溜息を吐きながら“何をやってるんだ、こんなところで?”と話しかけて来た。
 
 …もしかして、アスリーフさん?と、アタシはその人影の、聞き覚えのある声に目を見張りながら思い当たった名を呟いた。
 
一起 一転
ワーレン [ 2004/07/12 4:03:33 ]
 「火酒追加ね」

 詰所近くの酒場でソラリスと接触・・・とはいえ、俺は酒を飲んで殆ど愚痴を呟く程度のモンだった。自分で言うのも情けないが、犯人が”蜥蜴の尻尾”であり、心臓等の重要な器官がある訳では無い(と、アスリーフは言っていた。実に尤もな話しである)ので、情報を得るにも限界があったから、だ。

 まぁ、今の現状を把握してもらっただけでも良いだろう。彼女の情報のおかげで、犯人が使用している小型船の事も知る事が出来たのは、今後の捜査に役立つだろう。しかし、修理を名目に停泊させているとは・・・うまい事を考えるもんだ。しかも、造船所にはいる訳でもなく、故郷では時期的に縁起が悪いという理由も、なまじ縁起には五月蝿い船乗り関係者も納得するだろう。

 また、小型船の乗組員が川沿いの、まっとうでない酒場宿屋に出入りしている事も教えてもらった。流石にこればかりは関係無いとは付け加えられたが。しかし、今は少しでも多くの情報が欲しい。その酒場や宿屋で、必ず何かあるはずだ・・・些細な証拠でも、な。しかし、ソラリスが潜入するような事を言っていたが・・・大丈夫か?

 ・・・

 詰所に戻り、再び今の状況について整理する。ヒヨッコ冒険者もかれこれ、十日以上は拘束されているものの、生かされてはいるらしい。そして、生きたまま何かの目的の為に取引されるという。そして、金鯱には犯人の一味が潜伏しており、そこで船の外で様子が見られるのはその周辺ばかり。後は、前にジャニスが教えてくれた倉庫街で見かけた怪しい男達。それぞれが曖昧ではあるものの、上手い事繋がってきた気がする。

 深夜過ぎ、俺に客が来た・・・と、言っても、裏通りによく遊んでいる鼻垂れ小僧なのだが、こんな時間に何だと尋ねる前に、何も言わず羊皮紙の切れ端を渡された。なんだと思い、書かれている文面に目をざっと通す。

 ・・・

”アルが襲われたが ジャニスが助けた 現在は安全な場所 サボり場所にて合流 アスリーフ 追伸 裏を見るべし”

 内容に驚きながらも、そのまま裏を見る。

”小僧に駄賃を!”

 ・・・

 文面通り、小僧に銀貨を三枚握らせて帰らせる。小さく笑って、スキップで去っていきやがった。少しムカつくが、ここで腹を立てても仕方ないし、大人気無いし、な。同僚に小用と伝え、さり気なく備品の長槍を持ち出す。腰の小剣と服装は普段着のままで。

 ・・・

「やぁ、すぐに分かると思ったよ」

 暗い闇からアスリーフが現れ、笑んで俺を迎える。

「あのなぁ・・・嫌味か?」

「いや、近くだったもんでね、つい」

「だからって、俺の昼寝の場所を指定するな」

 そう、ここは何時も俺が休憩(”サボる”ともいうが、俺は認めていない)に訪れる橋の下である。上手い具合に木箱やゴミが放置され、少し隠れるなら都合の言い場所である・・・ちなみに、この前ジャニスと会ったのもここだ。アスリーフの背後の物陰からアルが顔を出す。

「ワーレンさん」

「アル、無事だったか!怪我は無いか?」

「え、ええ。何とか・・・ジャニスさんのおかげで」

「良かった・・・が。なぁ、これで分かったろ?危険だと」

「でも、僕は手を引けません。ここまで関わったから・・・」

「馬鹿野郎、命を失ってからじゃ」

 と、ジャニスが割って入る。

「まぁまぁ、いいじゃない?無事だったし、ね?それよりもワーレン」

 ジャニスから、今しがたの事の話しを聞く。

「・・・向こうもそろそろ痺れを切らしてきた、か?まぁ、ともかく、ここも完全には安全とは言えないな・・・上手い事、どこか酒場か宿屋、安全な場所までアルと一緒に行ってくれないか?俺は、とりあえず周辺を見まわってみる。襲ってきた奴らがまだうろついているかもしれん」

「分かったけど、戦いがあるなら御一緒するよ?戦闘の準備は出来ているからね」

 アスリーフが言って、鞘に入った剣を見せる。

「断言できんぞ?・・・まぁ、俺だけでは不安なのも確かだ。言葉に甘えさせてもらうぜ」

「構わないよ」

「んじゃ、とりあえずアタシはこのアル君と一緒に一時撤退するわね。明け方には場所を詰所にでも伝言しとくわ」

「でも、ボクは・・・」

「頼む。だが、もう関わるなとは言わん。一時的な撤退だ。それと、ネオンと会う事が出来たら状況を伝えてくれ、いいな?」

「え、あ・・・それはつまり・・・ううん、はい、分かりました」

 アルが実に良い顔になる。羨ましいぐらいに、誇らしげに。俺は少し嫉妬・・・遠い昔の冒険者だった頃の俺と比較して、思わず苦笑しつつ、頷く。ここまで来たからには仕方ない。アルが冒険者を名乗ったからには。

「あぁ、そうだ。ついでに、可能だったらルクスに繋ぎをお願いできるかな?さっき言った宿にいると思うんだ」

「おぃ、アスリーフ、妙に手際が良いな」

「別に。先手を打っておいても損は無い、てね。ルクスならそう言うさ」

「成る程、な・・・」



 そして、俺達は二手に別れた。それぞれはそれぞれの武器を持ち、夜の街を走り出した。大きく、事件が動き出した気がするのは、俺だけだろうか・・・?

 ・・・

 明け方頃、金鯱通りで、新たに事件は起ろうとしていた。其れを知るのは後になってだが・・・今は未だ、知る由も無い。
 
末路
名も無き冒険者 [ 2004/07/12 22:07:09 ]
 其処は“金鯱通り”にある酒場だった。
と言っても、その時の俺には状況を把握できていたわけじゃない。場所どころか、時間も、此処にいる理由も、俺自身の事さえ満足に理解できていなかった。思考するという事すら忘れた俺は、後ろに立つ男を守らなければならないという思いに囚われる。

霞掛かった頭の中で、男たちの会話……おそらく、今以前に聞いた記憶だろう……が、とり止めも無く、浮かんでは消えていった。一方は背後の男のものだと分かる。彼は仕え、守るべき存在のはずだ。その事だけが心の中にある。

「……二種類の毒を投与するからには……」
「……10日くらいは、食事に薬を混ぜ、体質を変え……」
「……この実験が成功すれば、忠実な魔物が配下として……」
「……改良すれば女でも……」
「……先ずは一体完成といったところか……」
「……捕獲は失敗か。こんな事ならコヤツを連れていっておれば……」
「……あの酒場に不審な女が……」
「……コヤツを連れて行けば、テストとしても……」

俺は不意に眼前の女を殺すよう命じられている事を認識した。女は油断なく身構えている。以前の俺なら、まったく手出しできないほど経験を積んだ冒険者なのだろう。

以前の俺……?

思い出そうとした事すら次の刹那には忘れる。如何に相手が強大でも“力”を使えば問題はない。それだけは理解できた。

「殺れっ!」

従うべき命令は下された。俺は、自らの体に“力”を込め、人間の姿を捨てる。この帰結が、どうなるのか。そんな事は俺の知ったこっちゃない。俺は命令通り、この女を殺すべく四本の腕と鱗に覆われた尻尾を振るった。白濁した意識の底で救いを求めながら……。
 
終わらない夜
ルクス [ 2004/07/13 0:45:10 ]
  ジャニスがアルを連れてやって来た。アルが襲われたことを初め、とりあえず簡潔に話してくれた。
 そうとなったら……行くっきゃねーだろ、オレも。
「わかった。オレも出よう」
「じゃあ僕はネオンさんに状況を伝えてきます!」
「アタシはそれについていくとするわ。護衛としてね」
「気をつけろよ!」
 わかったと、力強く頷き、また出て行く。なんだ、前に比べて随分オトコの顔になったじゃねーか。
 さて。じゃあ今夜はオレの愛するヤツたちに頑張ってもらうか。
 仕事用のジャケットを素早く着込み、そしてハニーを呼んで耳打ち、軽くキスをして夜の街に飛び出した。


 一人で夜道をひた走っていたはずなのに。
「久しぶりですねぇ。ルクス様と共に闇に忍ぶのも」
「ちょっと静かにしてなさいよ」
 いつの間にか、増えていたんだナこれが。
 道化のヤローは入り口で待ち構えていた。いわくお手伝いしますよ、と。
 ソラリスは途中で鉢合わせした。いわく金鯱へ行く途中だったが、そういうことならそっちのが良いと。ついでに、一人は捕まえる予定なんだと。
 そして。結局三人で闇夜を走っているわけだ。まぁ一人より二人、二人より三人がいい。幸い、オレも道化もそっちの道の戦闘経験はばっちりだし、ソラリスは戦士としても十分やってくれる。
 さらには、裏道にも長けている。そういう連中が三人も集まると……
「おい、あいつらだ。間違いない」
 教えられた人相とぴたり当てはまる連中が裏路地をうろついていた。ご丁寧にマントとフード。腰には各々が武器を携えている。
「どうする? やるの?」
「やるしかねーだろう。ワーレンたちに会えるかもわからんし、あちらさんもアジトに帰るというよりアルたちを探しているようだ」
「フードをしているからとはいえ、彼らには顔を見られてますからね。放っておく訳にも行かないのでしょう」
 片手にカタールを嵌める。もう片方は、いつでもたくさんの恋人たちを投げれるように空手にしておく。
「ルクス様」
 ちょいちょいと道化が肩を叩く。
「なんだ。オレはもう本気モードだゼ、下手にさわんな」
 漆黒のジャケットの中――複数の投擲武器を確認し、マフラーで口元を覆いながら振り向く。道化は何か笛みたいなものを持っていた。
「こんなこともあろうかと、ワーレン様より預かっております」
「あんた、それって衛視の呼子?」
「ええ」
 おいおい……いつのまに。
「てゆーか、あいつらが近くにいるってわけじゃねーゼ。他の衛視が来たらどーすんだ」
 違う連中でも助太刀はしてくれるだろうが……
「下手したらこっちも街中の戦闘行為でしょっぴかれるじゃないの」
 普段なら、どんな理由であれ街中の戦闘行為はご法度である。それくらい、子供でも知ってることだ。
「まぁまぁ。相手が今騒がせている詐欺集団ならば、少々融通が効きましょう」
 ……まぁそうなることを祈るっきゃねぇか。衛視にも被害は出てることだし、可能性は高そうだ。そう難しく考えてもはじまらん。
「オーケー、わかった。ただし、オレが仕掛けてからだぞ。奇襲はキメておかなきゃナ」
 事前に顔料で黒く塗ったカタールをギラつかせ、さらに全身黒尽くめで笑ってみせる。
「……アンタ、本当は“蛇”やってたんじゃないの?」
 ……馬鹿言え。

「背中がガラ開きだナ」
 黒い一陣の風となって、敵に襲い掛かる。カタールをその背に突き立て、一気に離脱する。まだまだ“旋風”の名は捨てたもんじゃないな。
 が、敵はすぐに剣を抜いて身構える。ち、急所に入らなかった。皮鎧すら貫けていないだろう。
「ぐっ、奴らの仲間か!」
 お約束のセリフを吐く。そして一斉の抜刀。
「生かして返すな!」
「何度聞きましたかぁ、そういう台詞は」
 ポールの声と共に、闇夜からナイフが閃いてくる。ついで、高らかな呼子の音。
「チッ、いったん退け!」
「逃がさないわよ」
 さらにさらに、闇夜から飛び出して連中の行く手を遮るソラリス。手には抜き身の長剣。それを立ちふさがると同時に一人に叩きつける。
 体勢が崩れたところに、オレの恋人――投げナイフやら手斧やらを投げつけ、逃げ出すのを妨害する。
 ポールも混じり、幾分もしないうちに。
 駆けつけてきたワーレンとアスリーフを加え、どうにかその連中をふんじばることが出来たのだ。

 だが、そこで終わるほど事件は甘くなかった。連衡して取調べをしようと言っていたところへ。
 金鯱通りにこっそりと探りに行ってもらっていたハニーが血相を変えて走ってきた。
「あかん、金鯱がマジやばいで!」
「どうしたんだ!」
「ああ、もうなんてゆーたらええかわからへんわ! とにかくものごっついバケモンや!」
 騒がしい夜はまだ終わりそうにないナ。
 こんな夜に子猫ちゃんが出歩くのは危険だ。ハニー、ありがとう。ここはおとなしく、宿に戻っててくれ。
 
変貌
ネオン [ 2004/07/13 11:08:49 ]
 

 アルに仕事から手を引くように強く言い放ってから、僕はほとんど一人で行動していた。
 せっかく捕まえた犯人グループの一員からも(ある程度予想していたとはいえ)ほとんど、推測の確認程度のことしか聞けなかったし、結局、判っていることといえば、金鯱通りと、港に停泊している船が怪しいことぐらいのものだ。しかし、金鯱通りに下手な手出しはできないことは、多少ものの判る人間なら誰だって知っていることだし、船に関しても今のところ”怪しい点がある”という以上に犯人と結びつける確固たる証拠は無い。
 そのどちらかにでも、何かハッキリとしたことが言える証拠があれば、事態は進展するであろうに。そう思い、僕は一人でその”証拠”を見つけられないか探してみることにした。選んだのは金鯱通りのほう、正直、普段なら絶対に立ち寄りたくない場所であることは間違いないが、それでも慣れない船の上よりはマシだ。いざというときに逃げやすいのも海の上より陸の上だろう。

 数日かけてようやく、金鯱通りの中でも最近、見慣れぬ人間の出入りが多いという宿を発見することができた。ある酒場で飲みながら周囲の話に耳を澄ませていたときに、ふと漏れ聞こえた話だった。誰もが後ろ暗い部分を持つこの通りの中で、明日は我が身と思えば、簡単には口を滑らさない場所で、酔った勢いとはいえ、そんな話を聞けたのは幸運だった。
 早速、その話で聞いた宿に向かい、一階にある酒場で見合わぬ値段の酒を飲みながら周囲の気配に気を配る。
 しばらく経っても特に目立った人の出入りがなかったので、今日は外れか、と思いかけた頃、急に天井から、つまり二階からガタゴトと何かが暴れるような音がする。

「この店じゃあ、こんな夜中に引越しするの?」
 ちらりと天井を見やって、カウンター越しに店のオヤジに聞く。
「お楽しみなんだろ」
「本当にそれだけ? それにしては、少し音が大きすぎる気がするけど?」
「慣れりゃあ、気にならなくなるさ。それとも、オメェもヤルかい? 何ならオレが相手してやるぜ」
「間に合ってるよ」
「じゃあ、今更、人のこと気にすることもねぇだろ?」
 オヤジの下卑た笑いにあからさまな嫌悪の色を浮かべる席を立つ。
 パッと見た目は単なるアル中にも見えるオヤジだが、どうでもいいような話をしながら、決して話題が深入りしようとしない。ギルドの年寄りにも似たような人間がいることを思い出した。必要以上に質問を並べ立てれば、たちまち怪しまれてしまうだろう。
 店を出た。今日のところは、場所が判っただけでも良しとすべきだろう。

 しかし、とりあえず、次にここに来るときのためにも、店の周囲の状況だけ確認しておきたい。店の両隣には、人が一人なんとか通れる隙間を空けて別の建物がある。そこを通ると店の裏手に出るが、そこには川が家々の並びに沿って流れており、川の手前に細い路地がある。また、裏には通用口があり、川の水を汲んでくるのだろう桶もいくつか並んでいた。窓は、建物の二階部分の表面と裏面にそれぞれ一つずつあった。
 もしものとき、この裏口から逃げられると厄介だが、表裏の両方を固めるのは、今の人手では難しいかもしれない。念のために、カウンターから裏口がどう見えるのか確認しておこうかと店に一度戻ってみた。

 すると、店の真ん中に一人の男が立ち、それに隠れるように深くフードをかぶった男と、店のオヤジがいた。
「この店の周りをかぎまわってるみたいだが、一体どういうつもりだ?」
 フードから問われる。表情はほとんど伺い知れない。が、油断ならない相手、すなわち、人を殺すことに躊躇いのない人種だということが、その冷たい一言だけで伺いしれた。
 ふと店のオヤジに目をやると、先ほどまでの下卑た笑みが消え、焦りを隠しきれない表情になっていた。どうやら、オヤジはフードたちとは仲間ではなかったようだ。と、すれば、店の周囲を見回っていたところを見られていたらしい。
「………」
 フードの言葉に答えずに隠し持っていたダガーに手を当てて身構える。立ち位置からして実際に襲い掛かってくるのは真ん中に立つ男のほうだろう。そう思いながら僕の正面に立つ男に目をやると、彼の目は焦点を失っているように見えた。
 麻薬か何かか?
 一瞬、思うが、それだけではない”危うさ”をどうしても肌で感じてしまう。
「黙り込むならそれでもいい。だが、そのまま永遠に喋らないでいてもらおう。……殺れ」
 フードが言い放つ、すると同時に目の前の男が声を上げながら姿を変える。顔が鱗に覆われ、本来の腕の下からさらにやや小さな腕がさらに二本、よく見れば顔と同じような鱗の尻尾も生えている。
 見たことも聞いたこともない。人間がいきなりこんな化け物に成り果てるなんて。
 僕は、一歩下がり、ダガーに当てていた手を離し、精霊語の詠唱に入る。とても、正面から戦って勝てるような相手ではないように見えた。
「”シェイドよ、来てくれ”」
 意識を集中させて、一度に二体のシェイドを呼び、目の前に置く。闇の目くらましと共に、もし、突っ込んできたとしても恐怖による足止めぐらいできるはずだ。
 僕は早々に店を飛び出した。後ろを振り向く余裕もなく全力で走り抜ける。とにかくワーレンさんを探そう、そして、あの化け物をどうにかしないと……。
 走りながら僕は、被っていたロングヘアのカツラを脱いで懐にしまい、ボロのマントを投げ捨てた。簡単な変装を簡単に解いただけだが、この闇夜ならこれだけでもそうは見つかりはしないだろう。

 金鯱通りを抜けたころに多少は余裕を持ち、息を整えながら、さっきの化け物について考えた。
 改めて考えるが、やはり、人間が化け物になるなんて聞いたこともない。しかも、先程の様子からして、アレはフードの命令に従っていたかのようだった。
 ……もし、さっきのがアルの推測していた薬物実験の成果だとしたら……。
 ゾッとする思いがした。すでに行方不明になっている新米冒険者は十人に近い。その全てがああいった化け物になってしまうとしたら……。
 折角、落ち着き始めた呼吸だが、僕はまた闇夜を走り始めた。
 
失策
- [ 2004/07/13 16:11:49 ]
 「愚か者どもがっ!」

男は怒気も顕に手にした杖を振るった。
眼前の男たちは、皆それぞれに負傷し、中には腕を切断されている者すらいる。
だが、怒り狂う男にとっては名誉の負傷どころか浅慮の帰結としか映っていないのだ。

「主も主じゃ! 実験体を連れ出し“力”を使わせ、あまつさえ目撃者を始末し損ねるなどっ!!」

そう言いつつ男は、横に立つフード姿の男に杖を叩きつける。

「恐れながら……」

と横殴りの杖を頬に受けたフードの男が遠慮気味に口を開いた。

「デイヴィス様、こと此処に至りましては、隠し立ても無用かと……」
「我らも左様考えます」

負傷した無頼の徒からも追従する声があがる。

「だから主らは、阿呆じゃと言うておるのじゃ! 実験が成功したとて、それがどうした! 実用化に至るまでは、まだまだ時がいるであろう!? その矢先にっ!!」

男は、またも杖を振るった。負傷した男たちもフード姿の男もその制裁を甘んじて受ける。確かに許されざる失態だったと、その事を理解したのだ。10日以上、闇に潜み影に紛れて進めていた計画を破綻させて余りある過ちである。その点は如何に弁明したところで取り消せはしない。

「何故、左程までに先走ったのじゃ!? そうまでして小僧っ子一匹に何故固執した!?」

デイヴィスと呼ばれた男は、誰にともなく喚き散らした。
彼にしてみれば、眼前の武装した男たちが付狙った新米冒険者には、実験体候補の一人という以上の執着はない。それだけに自身の部下たちが、固執した理由がわからないのだ。

「それは……」

と襲撃部隊の首魁が話し出す。
訥々と語るその男の言葉を聞きながら、デイヴィスの顔は怒気に赤く染まった。
彼らが執着した理由……それを知っていたなら、デイヴィスとて違った策を講じたであろう事が悔やまれてならない。だが、賽は投げられてしまったのだ。

後は、どのような手段を講じてでも、その冒険者を闇に葬らねばならない。
それだけの理由がある事は間違いなかった。
 
夜が明けて
ソラリス [ 2004/07/15 23:53:10 ]
 
…昨夜の捕り物騒ぎも、怪物騒ぎも嘘のように静かだ。 昼夜を問わずに怪しい雰囲気を醸し出してる金鯱通りとは思えないほどに閑散としており、川縁に屯する酒瓶片手の浮浪者じみた水夫崩れもいない。 ただ、そこにあるのは荒廃と静寂のみ。 調べに来ては見たものの、
 結局何人か逃しはしたものの、捕まえたからには、今後少なからず成果は上がるでしょうね。 アタシとしては捕まえたウチの1人ぐらいほしかったけど…。 小物は衛視たちに譲ってあげる。 アタシは首魁の方をいただくことにするわ。
 それにしても、あの化け物は一晩のウチにどこに消えたのかしら。 逃げたヤツはどこに? そして、未だ見つからない新米の冒険者たちは…どこに? それを探しに来たのはいいけれど、こうも衛視が多いと…やりづらいわねえ。

 今朝方、遅い朝食も兼ねて気ままに亭に集まった面々と軽く意見交換をしながら、今後の行動について話し合った。 中には昨夜初めて会ったヤツもいるけど、なかなか機転が利くらしい。 ただの道化者にしておくのは惜しい限りね。 まあ、ルクスが手放さないでしょうけど。
 先ずは連中がどこに消えたのか、あのあたりを徹底的に探してみる必要があるわね。 地図が指していた地下隧道も含めて。 呼び子で呼び出された衛視たちの目をくぐり抜けて消えたからには、空を飛ぶか地に潜るかしているはず。 鱗や尻尾はあれど羽らしいものはなかったというから、逃げた連中がそこを使っている可能性は高い。 幸いというか何というか、衛視たちが地下を一掃してくれていたみたいだから、そのときの知識を生かして要所を押さえて貰えば追いつめることができるでしょうね。 少しでも時間的余裕を与えると相手は遠くまで逃げてしまうかも知れない。 これはできるだけ早く実行しないといけないね、ということで落ち着いた。
 それにしても、ネオンの見た化け物が冒険者のなれの果てだというアルの大胆な推理は、俄には受け入れがたいわ。 何をすれば人間を怪物に変えられるというの? 命令に従うような怪物に? 意外と核心をついているのかも知れないけれど、そうすると攫われた冒険者たちには救いがないかも知れない。 新米たちとはいえ、同じ冒険者として生きてきた連中に救いがなく、最終的に手をかける必要があるとしたとき…迷いなく慈悲を下せるのかしら? そうでないことを祈るばかりだけど…。
 
夜が明けて〜アルの視点〜
アル [ 2004/07/16 3:41:06 ]
 急転の夜が明けて。
ボクらは、きままに亭で情報交換と状況の整理をしていた。

参加したのは、アスリーフさん・ジャニスさん・ソラリスさん・ネオンさん・ポールさん・ルクスさん・ワーレンさん、そしてボクの総勢8人。

捕らえた襲撃者から聞き出した情報とボクらが昨夜遭遇した事を合わせて考えると事件の全貌は、ほぼ見えて来たように思う。
犯人たちの目的は、毒薬を複合して使用する実験なのだ。
勿論、毒薬の齎す効果によって魔物に変化する人間を使役する。
それが、最終的に目指す成果なのだろう。

捕らえた男は、言った。
「そいつ(ボクの事だ)が、カモにできるか探っていたら、魔術師(文献調査の助手をさせてもらってる師のことらしい)と接触し、毒物の書を抱えて帰宅したので、目的が探られるのを恐れて襲った」
どうやら、そういう事らしい。
確かに師の家から西方語で書かれた毒物に関する書を借り受けた。それを見られて付け狙われていたとは……。ソラリスさんが齎した彼等の拠点らしい船の乗組員が西方訛りで会話していたという事実を思い出す。そして、東方では、あまり知られていないが、師から借り受けた書物に記載されていた西方渡りの二つの毒薬……。

“ゾンビメイカー”と“リビングドール”。

前者はともかく、後者は非常に珍しい毒物だという。ボクが借り受けた書物以外には、その存在を伝える文献は(該当する書物の写本は別として)皆無という程らしい。未だに名前と作用だけしか理解できてない毒薬な上、彼等は、その二つを同時に処方し、“リビングドール”の効果を非検体の意思で、発現させられるよう改良しているのだ。ボクが読み解いたからといって、即時に解毒剤を精製できるといった類の話ではない。しかし、手がかりには違いないのも事実だ。わざわざ、二つの毒物が、あまり知られていない東方で実験を行っているのに、その毒物を知る人間が存在したら、確かに不都合だろう。
ともかく、これらの得た情報を元に今後の捜査方針を話し合った。

「この際、“拙速は巧遅に優る”という言葉通り、一挙に踏み込んでは?」

そういう案も出たが、被害者たちを人質に取られる危険もあるし、万が一、被害者が全員毒薬の餌食となっていた場合、ボクらだけでは手に余る。敵も失策続きで焦っているはずだった。今しばらく情報の裏付けと状況の確認をし、衛視隊なり、騎士団なりの協力を仰げる体制を整える。ただし、逃亡の機会を与えないように早急に。それが、結論だった。

ここまで来れば、ボクの出番はもう無いだろう。
犯人を検挙する場合、戦闘になる事も考えられる。その時、ボクは役立たず以外の何者でもないのだ。あとは、他の人たちに任せ、例の書物を読み進めることに専念しよう。解毒方法や特性などに対する知識を深めれば、救える被害者もいるだろうから。

アスリーフさんに守られながら、ボクは宿に戻った。
 
そして日が暮れて
アスリーフ [ 2004/07/16 22:20:20 ]
  アルに、頼りにしてる、と声を掛けた。
 アルは、がんばります、と答えて、自分の部屋への階段を上がっていった。疲れてはいてもいい顔をしていた。何をすれば良いのかしっかりと判っているからだと思う。でも・・・。

 アルの宿を出て、近くの公園に入ってベンチに腰掛ける。
 一挙に踏み込む案はおれも提案したが、結局却下された。冒険者が人質に取られたところで、ただそれだけのために躊躇して何になるというのだろう。後手に回ると全員殺されて撤退されるかもしれない。それにアルの意見が確かだとして、あの怪物に変貌(まったく毒ってやつは!)させられた元人間が街にばら撒かれたら、それこそ手のつけようが無い。それに比べればずっとマシだろうにと思ったから。結局、おれがそれ以上の主張をしなかったのは、戦力的な面と、それらを既に街中にばら撒く準備が完了している場合を言われて思い当たったからだ。確かに、それは難点だ。
 何にせよ、今までそうしてきたように手加減のきく相手ではないのなら、躊躇はしないし、できない。それしかないと思ったのなら・・・それで被害を最小に抑えられるのなら例え人質ごとでも相手を倒す。そんな事態にならないに越したことは無いけど。だからアルに対する期待は嘘じゃない。

 ベンチから立ち上がり、剣を確かめ、背負った小盾を引き、辺りを見回す仕草をする。
 アルには簡単な警告しかしていないが、捕まえた男の台詞からも判っているはず・・・やつらに今、明確な狙いがあるとすればアルはそのひとつということを。やつらが焦っていようが、冷静だろうが、こちらが衛視やその他と連携を整える前に行動を起こす可能性は大いにあると思う。ここまで状況が進めば、もはや時間経過は相手にとって不利だろうし。
 まぁ捜査も苦手だし、組織とのつながりもないおれにはこの状況ではこのくらいしかすることがないしね。きままに亭を出る前におれがした仕草に気づいたなら、比較的暇な数人もアルを見守るのに協力してくれているはずだ・・・ただし、おれと違ってこっそりと。おれの態度で他の冒険者の存在がバレると嫌なので、回りくどく不確実な手段をとってみた。
 踏み込むのとは別の意味で賭けもいいところだけど・・・さぁ、どう出てくるかな?

 短時間の仮眠もしつつ過ごすうち、午後の日が落ち、沈み、闇の時間がまたやってきた。さすがに昼間襲ってくるほどのバカはしてこなかった。
 そして、こちらに調査や十分な警戒の時間を与えるほどのバカでもなかったようだ。
 地面に置いたランタン(借り物)に火をつけていたとき、話し声が聞こえた。
 近くに居た衛視が駆けつけてきた他の衛視と話し合っている。緊張のせいか大声だ・・・けど、東方語なので部分的にしかわからない。金鯱・・・喧嘩、いや騒動?・・・昨日・・・化け物・・・断片的に聞き取れたのはそんなものだったけど、実を言うとそれも自信が無い。もっと東方語の勉強をしてれば良かったな・・・。

 おおよその意味を考えて眉をしかめる。東方語の解釈が正しいなら予想外の事態。
 ここからあまりに遠すぎる。相手はアルを襲撃する気はなくしたのかな?
 駆け去る衛視二人の後姿を見送りながら考える。怪物を囮にして逃げる気か・・・怪物が出てくれば衛視はそちらに集中するだろうし、騎士団とやらがどの程度の速さで対応してくれるものか、おれにはわからない。そちらに行くべきか少々迷う。

 だが、逃げる以外にも囮の使い道はあることにふと気が付いて、再び眉をしかめた。警備が手薄になる・・・か。
 金鯱方面へ向かうのは、まだ少々待ったほうがいいようだ。おれは改めて辺りを見回した。
 
衛視の御仕事 窮地に困惑
ワーレン [ 2004/07/17 20:03:15 ]
 「うおぉぉぉぉっ!!」

 久々に雄叫びを上げ、思い切り長槍を振り回して、群がり掴みかかる腕、腕、腕、うで、うで、ウデ・・・とにかく、薙ぎ払う。力任せに、全身の筋肉を総動員して。

「いキシャたァァああァッ!!」

 本体こそ人間の形を保つ、元新米ヒヨッコ冒険者が、辛うじて人間らしい苦痛を叫んで表現する・・・んで、両腕から木の枝みたいに生えた、いくつかの腕が、衝撃に耐えきれず、妙な方向・・・まぁ、元からぐにゃりとしているンで、結局は大差無いと思うが、とかく曲がる。多少の手応えがあるところを見ると、骨かそれにあたる何かが折れたらしい。ただでさえ、二本の腕を折られるだけでも相当な苦痛になるのだが、それ以上に八本ぐらいの腕のうち半分以上が砕かれたとすると・・・うわ、想像したくねぇ。つか、そんな暇は無い。

”びしっ、べちっ、がつん”

 ほら、残りの三本くらいは俺の体を強かに殴りつける。出鱈目に殴るので、大抵は痛くない所に当たるが、たまーに、弱い所を思いっきり殴られる。あ、今、顔面に綺麗にクリーンヒットしちまった・・・頭がくらくらする。しかし、体は上手い事動いてくれて、辛うじて、転倒は免れる。

「はぁ、はぁ・・・爪とかじゃなくて良かった。今頃、男前が台無しになるところだった、ぜ」

 冗談をかませる余裕を確認し、穂先を正面に、石突を地面に突き立て、体勢を立て直す。複数を相手に喧嘩の経験はあるが、流石に腕の多い相手に喧嘩はした事も無いので、傷を負わせられるとそれ以上に困惑し、上手い事攻めに出る事が出来ない。うわ、また来やがった。

「わ、ワーレン、駄目だ・・・」

 同じように打撃の連打を受け、よろめく同僚の衛視が言う。顔は蒼ざめて、少しずつ下がる。その後ろには、顔に裂傷で血に染めて、うめき倒れている衛視もいる。息はあるが、このままでは血を流しすぎて、命に危険が及ぶ。だが、こう言う時に限って、応援の衛視は未だ来ない。警戒を強くしようと、広範囲に人員を割いたのが逆にまずかったのか・・・いや、上からの命令なんで仕方ない。相手も必死になっている。相手が移動に使っていた地下水路は、封鎖状態にある。詐欺集団・・・いや、もう、危険集団は、周囲を巻き込んでも逃走することに命懸だ。まぁ、ここにいて、怪物に命令を嗾ける奴は・・・蜥蜴の尻尾とはいかずとも、尻尾の付け根(?)あたりだろう。やはり、見捨てるには、”まだ丁度良い”ところの存在だろう。

「あいつらを殺せぇエッ!あっちも殺すんだぁぁアッ!」

 必死に命令する。だが、あまりにも命令の数が多すぎて、折角の怪物の腕の多さが、定める標的に迷って幾つかは空振りに終わる・・・まぁ、ありがたいことだ。だが、結局のところ、攻撃の回数が減るだけで、全く攻撃が無くなる訳では無い。

「俺が引き付けている間に、そいつを連れて逃げて応援を呼べ!」

 同僚が振るえた小さな声で何かを言って、倒れている衛視を連れて、遥か後方へ逃げていく。その間も、俺は連続攻撃に晒される。怪物は目標が減って、命令をこなしやすくなったのか、攻撃回数が増える。長槍で薙ぎ払うが、やはり、数に押されて防ぎきれない。かなり痛い。

「無駄だ、無駄だ、無駄ダ、むだダ、ムダだ、むダだッ!!」

 ・・・命令する男がおかしい。いや、何て言うか・・・両目が顔を歪んできている?ほら、なんというか・・・おたくも実は実験されていたクチ?

「ムガァ、むがぁ?でぃヴぃすサ、マ、ぼげーっ!!」

 頭をうな垂れて、皮膚の色が現在の夕暮れの様に真っ赤に染まる。なんつーか、礼儀正しくお答えされました。ほら、見事に怪物が増えやがった。そっかー。そーいうことするかー。蜥蜴の尻尾根本切りにしちゃ、捨てる時も上手い事利用しやがる。ほーら、ずらーっと牙が生えていますよ、ンで、見事に乱杭歯。嘘だろ?

”がちん”

 俺に噛みつこうと、一気に間合いを詰めて迫ってきた。僅か指一本の差で空を・・・噛む、だな。こいつ、噛み付き男決定。

”びゅん、ひゅん、ぴゅん”

 直後に複数の腕が襲う。鞭の様だ。可能な限り、致命傷にならない位置で、打撃を受ける。手数こそ多いが、一撃一撃の正確さが伴わないようで、慌てなければそれなりに攻略は出来そうだ。問題は、噛み付き男だ。一度組み付かれたら厄介だ・・・

「さて、と・・・俺が倒れるか、援軍が来るか」

 長槍を構え直し、怪物に立ち向かう。

(他の皆が上手い事動いてくれていると良いんだが・・・なーんて、な)
 
終幕、近し。
デイヴィス [ 2004/07/18 0:30:48 ]
 ワシは、撤退することに決めた。
露見が早すぎたのじゃ。こちらの準備が満足に整わぬ内に先走った愚か者たちのお陰で、事態が大きく成り過ぎておる。研究に関しては、オランほど便利な場所はなかったが、事を起こすには、この街は大き過ぎるのじゃ。少なくとも今の手勢では……。

祖国ファンドリアを後にして半年あまり……。
取るに足らない悪事にこの知性を浪費させながら、部下を増やしてきた。蒙昧なる知性しか宿さない愚鈍の徒たち。彼奴らは、先見の明に乏しく、性急過ぎた。ワシが助手としていた男とて、それは変わらなかったのじゃ。同じ暗黒神の御声を聞けるというだけで、信用してしまった自分に自嘲の思いが浮かぶ。

自分以外の人間の愚かさを失念しておったとは……。
研究の成果に心を奪われていたのじゃとしても、我ながら浅はかな過ちじゃった。

無論、愚か者どもを連れて行く気はない。彼奴らは、追跡をかわす為の囮で十分じゃ。研究成果と最後の検体を連れ、街を出ようと思う。
しかし、ワシの研究の根幹となった物と同じ書物を持つ小僧だけは、殺しておかねばならない。例え、それが粗悪な写本に過ぎないとしても、ワシが駆使する毒を既知の物としてしまうが如き要素は、なんとしても排除しておく必要があるのじゃ。後の再起のためにも……。

「行くぞ、ミシス」
「……はい」

女は、虚ろな表情のままワシの後に続く。この女には、まだ“生き人形”の毒を処方しておらぬ。検体の意思で魔物化する改良は一先ず成功したのじゃが、女を魔物化する改良は、成功に至っておらぬからじゃ。じゃが、“不死者作成”は飲ませてある。ワシの護衛兼荷物持ちとして……。
駆け出しとはいえ、戦士じゃ。小僧っ子一匹始末するくらいの技量はあろう。使えぬ部下どもであったが、小僧の居場所だけは、調べてあった。ワシは、その宿に赴き、ワシの暗黒神から授かりし御技とこの娘の剣をもって小僧を殺す。
そして、書物を始末し、街を出る。

次の目的地はパダと決めていた。オラン以上に冒険者が多く、行方不明となっても“落ちた遺跡”で死亡したと思われる場所。何より、王権の支配がオランとは、比べ物にならぬ。
そこでの再起のためにも、まずは、後顧の憂いを断たねば……。
 
最後の夜、幕開く
ルクス [ 2004/07/18 16:58:35 ]
  オレたちの耳に、例のバケモノが衛視とやりあっているという情報がはいった。
 それは恐らく首領逃亡のための囮。ただの逃げるための、ではないだろう。衛視たちの目をそちらに向けさせると自然、警備が手薄になる。
 その好機を狙い、アルを殺すのだろう。あれほど執拗に追っていたアルに急に見向きもしなくなったのはおかしい。そう考えるのが自然だろう。
 
 そうなると選択肢はふたつ。

 アルを救いに行くか。ワーレンをはじめとする衛視たちの手助けに行くか。

 無論、どちらか片方を切り捨てるわけにはいかない。どちらも手を打たなければ。
 そうすると、手勢を二手に分けるのが最良であるわけで。

 オレと道化は迷うことなくアルを救いに行くと決めた。
 バケモノの暴れている規模からして、ほぼ敵の手勢のすべてをそちらに投入しているのだろう。最も、拷問…いや尋問したヤツが言った人数が正確な場合だが。
 するとアルを討つのは首領一人か、1,2人ほどの手下を連れてだろう。それに忍び込むのに人数は少ないほうがいいし、戦闘経験もない新米を倒すのに大挙して押し寄せてくるとも考えられない。
 そう考えた上で、バケモノの群れとやりあうよりは、オレたちはその人間相手にしたほうがよほど戦えるというもの。まして鱗やらで覆われたバケモノの急所なんかわかったもんじゃないし、わかったところで非力な腕では貫けないだろう。
「ということで、だ。オレたちはアルを殺りに来た奴らを闇討つ」
「あんたもっと言葉選びなさいよ・・・・・・」
 うるせぇよ。
 聞こえは確かに悪いが、闇討ちもオレたちの立派な戦術のひとつ。少ない戦力で相手に痛手を与えるには、闇に隠れて敵を討つ。
 それに、失敗したときのための当てにならない保険が、一応だがある。アスリーがきままに亭を出るときにやっていた、何気ないしぐさ。あれに気付いたヤツが店には何人かいた。知ってる顔でさり気無く席を立ったのは、魔術師と精霊使いと神官が一人ずつ。アルを張っていてくれているとしたら、敵と真っ向勝負する羽目になったとき手を貸してくれるかもしれない。
 まぁそれはあくまで希望的観測だ。もしも、こうだったらいいな、とはなるべく考えないようにする。そこから油断が生まれるものだ。
 かといってやり過ぎて、殺してしまったらそこで終わりだ。闇討ちではなく暗殺になってしまう。巣穴には不殺の掟がある。“蛇”ではないオレたちに、どういう理由であれ敵を殺すことはしてはならない。
「さすがに二人では不安ですからね。自信のある方はお手伝いをお願い致します」
 道化のいう自信。言うまでもなく、忍び、殺さず、かつ相手を無力化できる自信。
「ここは各人の判断に任せるゼ。自分がやりやすいほうへいきな」
 指名するより、己の自信に任せるのが一番だ。

「バケモノ相手はつらいでしょうけど。なぁに、すぐに騎士団が動き出しますよ。それまでの辛抱です、ワーレン様も現状ではつらいでしょうから」
 道化が言いながら仮面の奥でさらに目を細め、遠く王城の方へ――夜中だというのに明々とした騎士団の建物に視線をやった。

「急ぐぞ。騒ぎに乗じてアルを討つつもりなら、ボサボサしてられねぇゼ」
 オレと道化が駆け出す。そしてこちらに来ると判断したヤツの姿を横目で確認して、オレたちは夜の街をひた走った。
 
三者三様
- [ 2004/07/19 0:01:14 ]
 「騎士団は妄りに動けません。陛下の命が無ければ……」
 歳若い男が、鎮痛な表情のまま伝えた。平服に直剣を帯刀しただけといった軽装である。襟に騎士団の紋章が刺繍されている事からみても騎士なのだろうと予想がつく。あるいは、まだ騎士見習かもしれない。年齢的には後者である可能性が高かった。
「し、しかし、お前の弟の目撃も衛視より報告されておるのだぞ」
 騎士見習と対峙した年配の男がうろたえたように問う
「よもや、弟を見捨てるのでは、なかろうな?」
「……父上……」
「如何に妾腹とは言え、我が子と認め育ててきた以上、あれもお前と同じ私の息子なのだぞ」
 実の息子に縋りつかんばかりに男は伝えた。
「……残念ながら、騎士団というのは、国家的危機のために出動するのです。今は未だ王都の一区画での騒ぎでしかありません。そういった事態に対処する為の衛視隊です。それが、私の上司の判断なのです」
 そう告げられ、年嵩のいった男は絶句した。
 確かに冒険者となった自分の息子が行方不明になった時、自分も衛視隊に通報している。
 外聞もあることなので、知人を頼って、あくまでも内密にだが。
「いっそ、父上から陛下に言上して頂くというわけには……」
「馬鹿を申すな。我が家のような下級貴族が、おいそれと御拝謁を賜れるわけもなかろう。お前とて、それくらいの事は分かるであろうが」
 二人は、ともに苦渋に満ちた顔で沈黙する。
 やや沈思黙考を重ねた末に、
「……仕方あるまい。伝を頼って色々と要請を出すしかなかろう……」
「そうですな。私も団に戻り、父上の要請が功を奏するのを待ちます」
 二人は、そんな会話を交わして別れた。それぞれがすべき事のために。

・・・

「増援は、まだ出せないのですか?」
 ある詰め所のことだ。比較的軽症だった衛視が仲間の制止も振り切り、上司に詰め寄る。頭部に巻いた包帯からは、血が滴り、身に付けた鎧にも鋭い鉤爪の痕が、ありありと残っていた。
「連絡は取っている。別区画の詰め所へも救援要請の隊士を走らせた。だが、非番の人間を集め、他の部署に手落ちが出ないよう配置を組み直すには、まだ猶予が必要なのだ」
 そう答える上司の顔にも焦燥と不安が入り混じって浮かんでいた。彼としても痛痒を感じていないわけではない。だが、街に分散する衛視隊の全勢力を“金鯱通り”に回すわけにもいかず、自分が受け持つ区画の部下たちが、大半負傷してしまっている状況では、どうしても動きが鈍る。非番の人間にも招集をかけてはいるものの、遅々として人数が揃わないのだ。
「いっそ、騎士団にも救援要請をしては?」
 召集された非番の一人が言う。
「無論、大隊長には、そう申請してくれるよう伝えてある。だが、どちらにしろ、もう少し時間がいるんだ」
 詰め所に暗澹たる空気が流れる。仲間の揃うのを今か今かと誰もが思っていた。

・・・

「街中で魔物が暴れているらしい」
「そりゃ大事だ」
「例によって騎士団や衛視隊は腰が重いようだがな」
「こういう時こそ、迅速に対応しなきゃならんだろうに……」
「一般人への被害はそれ程出てないようだが、何れ時間の問題だろうな」
「衛視が一人、孤軍奮闘してるとかって聞いたが」
「ああ。ワーレンが同僚数人と何とか被害の拡大を抑えてるようだ」
「あいつか。なら助けにいってやりゃ、恩が売れるかな?」
「どうだろうな。まあ、新米冒険者の詐欺事件から発展した事態みたいだからな」
「そりゃ俺らにも無関係とは言えねぇな。なんせ、あの事件を探るために囮の衛視が一人死んでるって聞いたしな。仲間のために死んでくれた奴には、相応の好意を持って当たるのが俺の心情だ」
「そんな事を言ってると甘チャンと呼ばれるぞ」
「なら、お前らはいかないのか?」
「さ〜て、な」
 言いながら、お互いの武具を確認する複数の冒険者たち。
 突発的な危機に役立てるのは、結局のところ自分たちのような身軽な存在だという自負もある。無論、自分たちの技量にも。

・・・

それぞれの想いを胸に人々が動いている。
 
断末魔 願いへの終結
ワーレン [ 2004/07/23 4:51:15 ]
 「はぁ、はぁ・・・」

 穂先が落ちた長槍を杖代わりに、右に同僚に肩を貸してもらいながら、負傷者たち(俺含む)の列は詰所に戻る。意識は辛うじて繋がっているが、それもあちこちの体の激痛のおかげだ。中には担架で運ばれて、息はあっても気絶している者もいる。後列には布を被せられた荷車も数台ある。

「おぃ、しっかりしろ。もうすぐ休めるぞ」

 同僚が俺に声をかける。それを朧気に聞きながら、周囲に目をやる。遠巻きに街人達が何事があったかと負傷者・・・つまり、俺達の列を見ている。その様子からして、どんな事件であったことかは未だ知られていないようだ。混乱に陥る気配も無い事から安心する。

(良かった・・・俺の好きな街が無事で・・・)

 朝焼けのオランの街並みが眩しく俺の目に映った。そして俺は職務を果たせたと誇らしく思った。そして、頬の十字傷が何よりの勲章となるだろう。

 ・・・

「アルが襲撃された!?」

 詰所に戻り、傷の手当てを受けている最中、俺の所にやってきたのがネオンだった。入り口当たりで話を聞いて、思わず声が大きくなってしまった。俺が怪物化した冒険者(正確には不幸なならず者含める)と、戦っていた頃、アルがいる宿が襲撃されたと言う。

「声が大きいですよ。ええ、まぁ。ただ、彼は無事です。周囲の機転がありましてね」

「そうか・・・すまない、手間を更にかけさせてしまって。で、襲撃者はどうなった?」

「それは・・・すいません、ここではちょっと・・・」

 それもそうだ。後ろじゃ、俺とネオンのヒソヒソ話に怪訝そうな顔した同僚がいるから。仕方ないので、同僚にツレが心配と理由を付けて傷の手当ても半端なまま無理矢理外出した。

 ・・・

「こりゃぁ・・・派手にやったなぁ、おぃ」

 宿の一角は散々たる様相を呈していた。かつては宿の一室であった部屋は残骸と其の中に一本残る柱のみであった。よほどの戦いになったのだろう。負傷し、傷の手当てを受ける者が近くで座り込んでいた。まだ戦闘が終わって数時間しか経っていないことを物語っている。しかし、死者は誰も出ていないと言う・・・思わず安堵し、ついでに足の力と感覚が抜けかかる。

「ちょ、ちょっと、ワーレンさん。しっかりしてください」

「わ、悪い、ネオン・・・つぃ、な」

 力を入れなおし、ふらつく足を叩いて感覚を取り戻す。ふと見回すと、宿の入り口近くに今回の事件で協力してくれた面々が集っていた。疲労困憊しつつ陽気に手を振っている。そして見ない顔を見えるが、襲撃に奮闘した冒険者達だろう。言葉よりも先に、頭を下げる。感謝と謝罪の意味で。

「ワーレンらしくもねぇナ」

 ルクスがやれやれと笑った。ネオンも、ジャニスも、アスリーフも、ソラリスも。もう一度頭を下げる。ありがとうと、心から。

 ・・・

「ワーレンさん!」

 アルが元気な声で来る。しっかりとした足取りで、そして竪琴を大事に抱えて、五体満足で無事な事を告げる。囮で動いてくれと依頼したときよりも、心なしか一回り大きくなった気がする・・・いや、気のせいか?まぁ、どうでも良い、無事なら、な。

 周囲から話を聞くと、襲撃者は手強い相手だったという。それこそ、魔法に精通し、同時に暗黒魔法にも長けたという程。アルが毒薬の秘密を知ったと見て、操り人形と化した戦士、行方不明とされていた新米冒険者のミシスを盾に抹殺せんと必死の襲撃だったと言う。ただ、宿にいた冒険者とアルのちょっとした機転が功を奏し、ミシスを無力化したという。

 ルクスやアスリーフ、例の道化と途中の道で戦ったが、結局は宿まで迫られてしまったという。例の、残っていた怪物化した冒険者をけしかけたという。残念ながら、結局殺さざるを得ない状況であったようで、数名の怪物化した冒険者は死亡してしまった。俺も一人、殺してしまった・・・希望に燃え、オランで名を上げようとやって来た新米冒険者を・・・仕方ないとは片付けられない。だが、そう思うしかない。若いときの俺なら、納得できないだろうが・・・年をとったもんだ。

「そういや、ネオン、事件の犯人つーか、襲撃者はどうなった?」

 見る限り、それに相応しい死体とかが見当たらず、そういった類の跡も無い。

「そのことですが、襲撃者もとい今回の事件の首謀者、名はディヴィスというらしいのですが、奴は・・・」

 一度言葉を切り、言いにくそうに、ネオンは事実を告げようとした。

「おぃ、まさか・・・!」

 俺の頭によぎった言葉と次にネオンの言わんとする言葉が同じであるかと、思わず違ってくれと願った。だが、周囲の顔は否定するかのように暗く見えた・・・。
 
戦闘
ウィーラム [ 2004/07/25 22:40:19 ]
  虚ろな瞳の少女が剣を振るう。
 技量としては瞠目すべきほどではない。
 ただ、殺気がないのだ。
 必殺の斬撃が不意に襲い来る。
 牽制も防御もなく、ただ獲物の血を求めるように。

「厄介だな」

 盾で攻撃を凌ぎながら男は短く舌打つ。
 優れた剣士ほど相手の動作を事前に察知する。
 それが出来ないのだ。
 しかも相手は、知人が探していた少女。
 聞いていた容姿が一致する。

「どうする?」

 男が、そう自分に問い掛けている間にも少女の斬撃は止まらない。
 倒すことは不可能ではないのだ。
 相手に合わせ、こちらも必殺の剣を繰り出せば良い。
 だが、防御を考えない少女が相手なら、確実に剣は文字通りの意味を発するだろう。
 そこに躊躇が生まれる。
 結果、圧されるままに後退を余儀無くされていた。
 見れば、近寄らせまいとしていた宿屋がすぐ背後に迫っている。

「自由にして暗黒を司る偉大なるファラリスよっ!」

 不意に少女を使役していた男が声を発した。
 おそらくは、事件の首謀者なのだろう。
 と同時に視界が消えそうになるのを感じる。

「魔法!?」

 正体を知らぬままに気力を充実させる。
 そうすることで、魔力を退けられる場合があると経験で知っていた。
 どうやら功を奏したらしい。
 視力は失われず、避けられざる斬撃を視界に捉えていた。
 体を貫くであろう衝撃に身構える。
 剣は寸でのところでカタールに弾かれていた。

 緊迫した刹那が、ゆとりある時間に戻るのを感じる。
 もう「どうにかなる」と。

「やっぱり、こっちが当りだったみたいだな」

 カタールで少女の斬撃を受け流した草原妖精が言う。その顔には些かの驚き……。

「彼女は?」
「ああ」
「厄介な」
「だろ」

 それだけで二人の意志は通じた。どうするべきか……。それは、相手方も考えている事だった。止まらなかった斬撃が今は無い。背後の男も渋面のまま選択を迫られているようだった。囮として魔物を放っておいた方角から駆けつけた草原妖精……。おそらく予想外の人員が動いたのだろう。

「ここは、アルさんに頑張って頂くとしましょう」

 剣士たちの背後からである。
 振り向けば言葉を発したであろう道化師と油断なく周囲を警戒する二人の女性……。そして一人の楽師の姿があった。いくらか緊張した面持ちで竪琴を大事そうに抱えている。その姿を捉え、二人の人間が反応した。

「馬鹿なっ。アルを連れ出すなんて!」
「小僧っ!!」

 最初から戦っていた男と首謀者と目される男である。一方は、困惑と叱責であり、他方は狂喜と憎悪だった。その楽師こそ首謀者の目標であり、冒険者たちが守護すべき存在なのである。両者の反応は、至極真っ当だったと言えるだろう。

「巣穴からの情報ですが、ゾンビメーカーは精神に影響を与えれば、その効力を打ち消せるとの事でございます。故にアルさんの呪歌を以て……」

 道化師は、場違いなほど丁寧な言葉で告げた。無論、反論も出る。最初からこの場にいた剣士からだ。効果が疑問であり、他人をも巻き込みかねないと。穴熊たちにとっては、事前に打ち合わせた作戦である。駄目なら犠牲者の命を諦める……そう決めていた。

「アルさんも仲間でございますからね。出来る事はして頂かねば」

 道化師の言葉で剣士は思い出す。もともと道化師は楽師を囮として考えていた事を。

「させると思ってか!」

 不意に首謀者が叫ぶ。背中……ローブにつけられたベルトの辺りであるから高さとしては腰と言った方が正確だろうか……から樫の木で出来た小振りの杖を取り出しながら。

「万物の根源たるマナよ! 灼熱の業火となりて全てを焼き尽くせ!!」

 古代語魔法の詠唱である。凄まじい魔力が冒険者たちの中心に集結するのが誰の目にも理解できた。それは、鮮烈なる赤と凶暴な熱となって感じられる。

「危ない!!」

 複数の声が重なった。楽師はとっさに爆発する火球の影響を受けない場所に突き飛ばされる。無論、最前まで剣士と死闘を繰り広げていた少女も巻き込まれた。

「ミシス!」

 女性の悲痛な叫びが轟く。被害者を庇うには絶望的な距離だったのだ。だが、彼女は手を伸ばさずにはいられない。どうにか少女を突き飛ばしたが、結果として自分が爆発の影響下に飛び込んでしまった。その瞬間である。爆音が周囲に鳴り響いた。咄嗟にかわせた冒険者は僅かに二人。仲間に救われた楽師とすぐ近くにいた女性だけである。

「大丈夫、アル?」
「ええ、なんとか」

 女性が楽師に訪ねた。自分はともかく、この新米冒険者があの魔法に巻き込まれていたら、おそらく命がなかっただろう。女性は、そう思って安堵した。その直後、仲間たちを気遣い身を起す。被害は甚大だった。宿屋の壁すら破壊されている。学院が禁忌の呪文としているのも納得でいる話だった。だが、仲間たちは、冒険者として鳴らした肉体を持っている。辛うじてではあるが、皆生きていた。

「おのれぇ! 万物の根源たるマナよ! 猛き雷鳴となりて……」

 怒りに撃ち震えながら詠唱を再開した首謀者の声が中途で止まる。男は放心したような表情でゆっくりと背後を振り返った。

「それ以上は、やらせない」

 呟きは男の背後からである。そこには、腹部へ剣を突き立てる金髪の男がいた。

「ネオンさん!」

 楽師が喜びの声を挙げる。また一人、頼もしい助っ人が現れたのだ。

「ぐっ……ミシス……この男を殺せ」

 首謀者の声に金髪の男が目を見開き少女へと視線を転じる。

「はい、仰せのままにデイヴィス様」

 少女は機械的の答え、男へと迫った。彼女を庇った冒険者の行動が徒になったのである。男は剣士と同様に防戦一方へと追い込まれていった。

「……アル……は、早く……」

 倒れた仲間から声がかかる。意図するところは明白だ。呪歌を奏でろと。楽師の前に立ち首謀者を牽制していた女性も振り向かないまま告げる。

「現状を打開するためには、あの子を元に戻すのが、一番だって分かるでしょ。大丈夫。私達はちゃんと抵抗してみせるから」
「……わかりました。やってみます」

 それまでの躊躇をかなぐり捨てるように楽師は竪琴を奏で出した。

“風そよぎ 草木萌える 母なる大地 静寂(しじま)に響くは平穏の鐘のみ
 夢果てず 寝息伝える 風乙女(シルフ)の息吹  窓辺に写るは安寧の夜のみ
 花舞いて 心静かな 夕暮れのいま 瞼に及ぶはドライアードの誘惑
 知らずして 剣納めし 夢幻の調べ 汝 今もちて眠りに落ちん”

 楽師の知る呪歌である。
 不意に少女が動きを止め、その場に崩れ落ちた。どうやら眠りの効果は的確に相手に及んだらしい。そうなれば、戦士としての技量を持たない首謀者には反撃の手段がなかった。自身が攻撃的呪文を唱える前に誰かの剣が、その身を貫いているであろう。

「おのれぇぇ!」

 その声を最後に男の姿は忽然と冒険者たちの前から消える。呪文の詠唱は聞き逃した。それが瞬間転移の魔法だったのか、目晦ましだったのかは、わからない。あるいは何らかの失われた道具による離脱であったのか……。

「逃がしたか?」

 金髪の男が多少悔しそうに呟く。それが、あの晩の顛末だった。

「少なくとも当面の脅威は去ったのかにゃ」

 修復された宿屋の裏で、残飯を漁りながら俺は呟く。野良猫にとってみりゃ、この宿の棄てる食べ残しは、一流の飯屋なみに美味い。面倒に巻き込まれて食いっぱぐれるのは、ごめんだ。

「さてっと」

 尻尾を振りながら俺は歩きだす。次は、どの宿の残飯を漁ろうかと考えながら。
 
事件は去り、敵も去る
ワーレン [ 2004/07/27 22:08:15 ]
 「・・・これにて、今回の事件は解決とする。以上」

 詰所にて、今回の詐欺事件、もとい、暗黒司祭がらみの事件は首謀者行方不明のまま、上司のリリエ第三衛視長から解決の処理が為される。窓から射し込む、夕陽を背にリリエは俺に事件についての書類を手渡す。

「あー・・・首謀者のディヴィスって野郎はどうなる?」

「さぁね・・・」

「さぁねって、また奴が同じような事件が起きたら」

「今、私達衛視風情がどう論議し様と、上からのお達しは変わらない」

 溜息ひとつ、机に漏らす。

「分かった。失礼した」

 ・・・

 結局、事件は肝心な部分がうやむやのまま、解決の印を押された。あの首謀者が襲撃してきた夜、騎士団は結局思い腰を上げる事は無かった。衛視側も、応援に駆けつける頃は怪物騒ぎも収まっていた。全ては協力してくれた冒険者の活躍あって。

「真相は明け方の靄の中、か。事件は去り、敵も去る・・・あー、畜生!」

 日も暮れ、一番星が輝き始める空の下、俺はいつもの酒場に向かっていた。

 ・・・

 後日、捕らわれていた新米ヒヨッコ冒険者・・・一部は怪物のまま死亡した者もいるので、全てを救う事は出来なかったが・・・は、それぞれの生活に戻っていった。事件解決直後、オランの神殿という神殿に被害者が運び込まれ、奇跡を施してもらった。研究中だった為か毒の効果が幸い薄かったために、辛うじて元通りになれた者も多く、多少の後遺症も気になるものでもなかった。ただ、此れから一生、痛烈な記憶を背負って冒険者を続けていけるかどうかを考え・・・いや、俺がアレコレ考えたところで、何にもかわらない。そこまでは衛視の仕事でもないし、所詮は他人の人生だ。冒険者になる決意を持った奴らの事、うまい事を願うだけで精一杯だろう、な。

 ・・・

 ・・・

 ・・・

(PL:此れにて終了です。参加してくださった方々、真に感謝です。)