呟きと思い出と |
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アスリーフ [ 2004/10/01 3:21:22 ] |
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| (PL注:これはEP#492『エルメスの不鳴琴』に関連した内容となっています)
「そうですね。でも本当は彼も気が付いてるのかも知れません。それでもあえて尊敬する人物と同じ志を持って楽器を作ってると思っていたいんじゃないでしょうか? なんとなくボクにはそう思えたんです」 遺跡のことを教えてくれたドワーフの所から帰ってきたアルは、その顛末をとりあえずその言葉で締めくくった。
遺跡自体が楽器と聞いたときには驚くと同時に正直、あきれた。 わざわざ音楽を教えるために遺跡一つ作ったって? 他人には他人の価値観があるのはわかっているつもりでも、あまりに壮大な話だから。
そして、遺跡自体の仕掛けを知って・・・・・・更にあきれ返った。 おそらくはただ一人のために、後世まで残るような完璧な形でこんなものを作るなんて。 この遺跡が新王国時代の遺跡であっても、こんな建築物をおれは今まで見たことは無かったし、おそらく今再現するのは至難の業。 アルの見立てが正しいにしても、入り口に下位古代語が使われていたし、内部の照明や苔の照度も見事すぎる。何らかの魔法が建築に使われたんじゃないだろうか。
でも、同時にとても面白く思った。 おれには音楽の素養は無いし、詳しくも無い。だからあれを楽器や音楽と呼んで良いのかわからないけど・・・・・・。 なんて言おうか。 言葉での描写では足りない、表しきれない。複雑に重なり合いそして終われば消え去る。そんなものを指し示すには音楽と言うのが確かに一番かもしれない。リディアスが言ったように。 そしてそれを生み出す装置は、どんな形をしていようと、ネリーが言ったように”楽器”と呼ばれるにふさわしいのだろう。
結局、おれは考えるのを止めてアルの”演奏”をただただ見入り、記憶に刻む事にした。 おれにとって、どんな評論の言葉よりもこの記憶の方が勝る。 光の揺らめきに沿って揺れるこの気分、この感触だけで十分だし、今まで思った以上に言葉にするつもりも無い。
頭の中から現実に帰り、テーブル席に座った仲間たちを見やる。 会話が途切れたしばらくの間、皆それぞれ考え事をしていたようにも見えた。 やがてまた始まった話に加わり・・・・・・またエレミアで過ごす楽しい時間が過ぎていった。 |
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羽 |
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アスリーフ [ 2005/07/09 0:27:57 ] |
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| (Pl注:この宿帳は「氷乙女の護衛」#{324}を受けた内容となっています)
結局報酬は、全て現金で貰うことにした。 ラスやファントーは「勿体無いな」という顔で見ていたが、おれにとってこれが一番のはず。 「氷は・・・その、もらっても手に余るし。ただの貧乏冒険者には、現金のほうが役に立つし」 ・・・それに、もう十分贅沢はしたしね。 あの森で飲んだ清々しい氷水を思い出しながら、口には出さずそっと微笑んだ。
氷本来の価値からすれば随分低いのだろうけれど、仕事に比しては十分な報酬を貰った。 タトゥス老の表情は変わらないが、快く了承してくれた。 ラス達から話は聞いていたけど、本当に食えない人間だと思う。おれが脇に持った帽子に刺っている羽をもう一度見て、かすかに微笑んだ・・・と思う。
夕暮れの街、桶を抱えて家路へと急ぐラスとファントーと別れた。何でも、仲間を呼んで大盤振る舞いをするらしい。 「折角だからな。皆できれいに平らげるさ」 「トゥーシェやクロシェやミェルにもあげるんだ! 楽しみだなぁ」 ・・・ラスの家では今夜、どこの貴族もそうそう及ばない贅沢な宴がひらかれるみたいだ。
実は、酒場・・・きままに亭で大盤振る舞いをするっていうのも考えにはあった。 あくまで、今回の報酬は氷だったんだし。 それでもいろいろ考えて・・・止めた。 一番は、あの森のことを不必要に喋ってしまいそうだったから。
強い夕風に吹かれ、空を見上げる。 昼間日が照ってずいぶんと暑かったせいか、大きな雲が立ち上がって空を覆い始めた。 目深に被った帽子の上の羽が、軽やかに揺れる。
誰にも言っていないけど、羽を集めるのは趣味。 そんなに好きなのか、と言われれば微妙なところだと思う。役に立つ訳でもない。 それでも、それはおれという人間に深く関わる・・・象徴、だと思う。
軽やかな羽。簡単に風に吹き流される。 どこまでも、何度でも、いずことも知らない場所へ飛ばされて・・・いつか、どこかへ落ちてチリと消える。
でもその羽は、翼の一部。 強くしなやかな翼は、風に乗り、風を裂き、風を越し、それを持つものを必要な場所へ、望む場所へと導く。
おれは、ただの無意味な羽だった。 いつかは、風を越える翼となる。強く・・・力が欲しい。
・・・フェザーフォルク。有翼の妖精、あるいは人間。 西にいる頃にも話には聞いたけれど、実際に会うのは初めてだった。 象徴。現実の証。あの翼で、空を飛べるのだという。
おれに手に入る力ではないし、目指すべき力でもないことはわかってる。 それでも。それでもその力のイメージは、おれの心には眩しいものだった。 風を越える、翼。
空を恋うように、羽が揺れるのがわかる。 かつて力の一部だったものは、そこから外れて意味を失った? いや! これは・・・おれの心の中では大きな翼。
馬鹿げているのかもしれない・・・実際、そうだろう。 それでも、この羽を見るたびに思いたい。もっと強く、もっと先へ、もっと遠くへ進めるようになろう、と。
夕闇の中、宿に向かって歩き出した。 |
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帽子と剣 |
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アスリーフ [ 2005/07/22 20:22:21 ] |
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| <517/7/18>
倉庫の張り番の仕事を終えて、夕方の町を急ぎ足で職人街へと向かった。 以前手に入れた羽をきちんと加工して、帽子に据えてくれるように頼んでおいたから。 夕方といっても急ぐ必要は無かったのだけれど、何となく早足になる。
大抵の装飾品にはあまり興味を持てないし、それとしての価値はわからない。 でも、偶然知り合ったその帽子職人の腕はとてもいいと思う。 この職人の作った羽帽子は被ったまま戦闘になっても邪魔にならない。 むしろ、下手な防具よりもよほど信頼できる。
まだ若いこの職人は自身も少し剣を扱う。 膝が弱いっていう致命的な弱点がなければ、結構な使い手になれたと思う。 おれもたまに付き合うけれど、とても楽しそうに、また真剣に剣を握る姿には感心する。
出来ましたよ、と差し出された帽子を受け取ってじっくりと眺める。 布と革の丈夫な帽子に白い羽。少し目深に被ってみる。 申し分ない。
わりと値は張った。 こうやって何か何かにお金を使ってるせいで、銀の武器を買えるだけの資金はなかなか貯まらない。 以前まとまったお金が入ったときに銀の矢を二束ほど買ったけど、これだけじゃ心もとない。 もっとも、無駄遣いしているつもりもないんだけど。
帽子を受け取ったその足できままに亭へ。 倉庫の番で一緒だったラウルが偶然入ってきた。
干物を盗んで逃げるネコを捕まえろと怒鳴る依頼人に追い立てられ、協力して捕まえた。 物陰に隠れたネコをおれが追い出し、ラウルがいとも簡単に掴んだ。 ウサギを捕まえるより簡単だなんて言ってるが、並大抵ではない。
酒を飲みながら話はハーピー退治へ、そして祭りのことへと移り変わっていった。 最後に武術大会の話が出た。
おれも噂に聞いただけだけれど、今年は物好きな貴族が資金を出していくつかの大会を統合するらしい。 腕の冴えを見せれば・・・なんてラウルも言っていたがその通り。注目も集まるってものだ。 それに何より、どんな相手と戦うことが出来るか・・・楽しみだ。
何にせよ、祭りまでもう少し。 もう少し仕事をして懐を暖めておくか、それとものんびりと過ごそうか・・・。 |
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皆それぞれ、好きなように |
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アスリーフ [ 2005/12/31 22:19:08 ] |
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| 積もった雪をゆっくりと踏みしめ、オランの街を眺める。 至る所に明かりがともり、通りを行きかう人々が見える。
その明かりの源、油が値上がりしている。 オンが言うには一部の商会が買占めを行っているらしい。 それを”調査”するために”山賊の真似事”をしたのが半月ほど前。
結果としては決定的な証拠を掴むことができず、一時撤退。当然だが相手も馬鹿ではないってことか。 色々とわかったものの状況だけでは太刀打ちできない。とりあえずこちらの身元が(多分)ばれていないだけでもよくやった方だと思う。
正直な話、この件自体はおれにはどうでもいい。 目端の利く連中が新たな儲けの口を見つけ出した。それだけのことだ。 もちろんおれの買い物にも影響は出るだろうけど、値を吊り上げる方も売る相手がいなくなっては困るから適当なところで手を打つはずだ。 そんな長期の計画では無いだろう。どんなにしっかり手をまわしていてもこのやり方ではいずれ隙を作ってしまう。
面白そうだから。 結局おれは、その一言で適当に動いているだけ。
「なぁに、また計画を立て直すだけさね。必ず尻尾を掴んでやるさぁね」 オンは懲りた様子もなく笑って言っていた。 何をするにも人それぞれ、違った動機がある。 オンには打算ではなく正義感がある。生来のものか、神官としてのものか、とにかく不正を憎んで弱いものを助けようとする心。 おれの動機は、ある意味で買占めを行う商人たちと同じ。
自分を卑下したいわけでもなく、相手を馬鹿にしたいわけでもなく、ただそう思う。 人はみんな違う。他人を理解するのは難しくても、認めることはできる。
月の無い夜空を見上げてふと苦笑した。 今までこんな事は考えたこともなかった。年を取ると理屈っぽくなると言うけれど、おれもそうなったのかもしれない。 ただただ生きてただけの頃に比べて、余裕が出てきたということなんだろう。
剣を抜く。わずかな光に剣身が鈍い光を返してくる。 余裕を、ただ余裕だけで受ける気は無い。余裕があるなら、もっと強くなるために使いたい。
大晦日。皆それぞれ思い思いの夜を過ごす。 家で静かに。酒場で騒いで。神殿で説法を聞きながら。 一年という区切りに意味があるのなら。 皆が特別に過ごす、この夜に意味があるのなら。
おれは剣と共にここで夜を明かす。 |
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ただそれだけの話 |
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アスリーフ [ 2006/03/12 22:54:32 ] |
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| (Pl注:この宿帳はU−1さんのEP「【競作企画】“仲間”というものについて」及び琴美さんのEP「【競作企画】背にふり積もる雪」に関連しています)
楽しければ笑いあって酒を飲む。 真から成功を祝う奴もいるし、笑顔の下に短剣を隠す奴もいる。
気に入らなければ怒って喧嘩する。 頭冷やして和解するかもしれないし、それきりそのままかもしれない。
人はそれぞれ。状況もそれぞれ。 なるようになるし、したいようにする。
ただそれだけの話。
どんな表情からも心の中はわからない。 感情をそのまま態度にだす奴もいるし、気付かれないようにうまく隠す奴もいる。
何が一番大事なのかも人によって違う。 信条を死ぬまで変えないかもしれないし、一瞬で有利なものに乗り換えるかもしれない。
利益はそれぞれ。嫌悪もそれぞれ。 結局、最後の瞬間は予想できない。
ただそれだけの話。
共に仕事する仲間だからと言ってそれは変わらない。 仕事の顛末を語るアルを見ながらそう思った。
皆それぞれの利益にかなうように動く。 それは当然のことで、強制はできないしする気もない。
お互いにしたいことをすればいい。 アルは違うことを考えているようだけど、それがどうだっていい。知ったことじゃない。
剣の練習に付き合うのも、話を聞くのもおれの利益になるからだ。 なんの得にもならなくなったり、損になったら離れるだけ。
アルに限った話じゃないけど。 おれが付き合いを持つ誰にしても同じことだ。
ただそれだけの話。
・・・・・・・・・・・・
雪の降る夜にきままに亭でユーニスと話をした。 彼女が瀕死の仲間を殺した話。
自分の手にかけたくなければ背を向けて逃げ出せばいい。 すぐに見えなくなる。そのうち悲鳴も聞こえなくなる。
でもユーニスは自分で終わらせた。 相手が望んでいたし、彼女もそれを望んだ。なんの問題も無い。
おれが口にした言葉に、いつもそうだけどユーニスはありがとうと言った。 別にどうでもいいことだ。自分自身のために言っただけなのだから。おれもユーニスも。
捨てたいものを捨てていけば楽になる。悩むこともない。 捨てたくないなら持っていけばいい。抱え込んで苦しむのは本人の問題。
ただそれだけの話。
・・・・・・・・・・・・
経験が浅くて剣の扱いもまだまだだけど、ここ一番でも怖気づかず真剣に仕事にうちこむアル。 どこか純真さのようなものを感じさせ、おれより年上でも成長が止まっていない。
戦士としてもなかなか腕がたつ上に魔法も使え、信じる一線からは絶対に引かないユーニス。 失くしてしまいたくないものが多すぎて、悩みも多いようだけど持てる強さは羨ましいほどだ。
彼らに限らない。おれが今でも付き合いを持っている冒険者はみんな、おれに利益を与えてくれる。 今、それを手放す必要はまったくない。
ただ、ただ面白い。 いっしょに酒を飲み、仕事をして、そして剣を交え、そう感じられる人。それがおれにとっての仲間。
違うことを考え、未来にどう変わろうと少なくとも今この瞬間には手を差しのべあう。 悪くない。いや、面白い。
ただ、それだけの話だ。 |
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年の終わり/始まりの出会い |
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アスリーフ [ 2007/01/01 1:34:34 ] |
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| 今夜、この街はいつもより明るい。 天ではなく人が灯す明かり。
路地裏にわずかに届く光の中、辺りに敵の気配が無いことをすばやく確認し、目の前に倒れた人影が動かないことを確かめた。 上腕部に刺さった短剣を引き抜く。
厚着も手伝って傷は浅く、筋も傷ついていないみたいだ。癒しの魔法が無くてもオンから買った軟膏を塗ればすぐにふさがるだろう。 短剣を調べたが、毒なども塗ってはないようだ。特徴も飾りも無い、ただの無個性な量産品。
その短剣を持っていた人物は倒れたまま動かない。 確かに胴を貫いた。致命傷を与えた手ごたえはあった。
灰色のフードをのけて顔を見ようとしたら、強い北風がおれの手からすくい取るようにそれを吹き払った。 成人したかどうかの、まだ少し幼さの残る女の顔。
さっきまであれほどまでに憎悪にきらめいていた目はしっかりと閉じられて。 ただ、苦しみだけが顔に焼きついたように残っている。
女の赤い髪が急に風になびき、どこか遠くの明かりをちらと反射させ、すぐに静かになった。 強盗の一員の女。その横顔は変に無個性で、でも過去にかかわった誰かの面影を少しづつ宿しているように見えた。
昔、あるいは最近も守れなかった誰か。 剣では誰かを守ることなどできないと誰かが言っていた。
今年の秋に剣を折ってしまったときもそうだった。 結局救いたかった人も救えず、怒りと恐怖を目の前の敵にぶつけた。
叩き付けた剣は三度目に、ねじれるように折れた。 何の解決にもならなかったことに気づいた。何も変えられなかった。だからあきらめた。
あるいは以前対峙した新米冒険者。 あの時はアルや仲間がいてくれた。眠りの呪歌という解決策があった。
いや、今回とは状況が違いすぎるか。 相手は倒すべき相手であって、守るべき理由などない。
おれはありえたかもしれないこと、実現しなかったことまでああこうと考えるほどの余裕はない。 捨てて、先へと進むだけ。すべきことをするだけ。
そのとき、横たわった女が少し動いた。
まだ生きていたんだ。
大して変わることなど無い。ほうっておけばそのうちに死ぬだろう。
死ぬだろうが。
膝をつき、警戒しつつ傷を調べる。 神官が仲間にいる。仲間が早く戻ってくれば助かるかもしれない。
女がうめき声をあげる。 心配するなと誰に言うともなくつぶやく。
おれもそろそろ、考えてもいいのかもしれない。 ユーニスのように悩み、苦しんでもいいのかもしれない。
新しい年の訪れを知らせる鐘や、その他の音が鳴り響いた。
おれの名を呼ぶ仲間の声が聞こえた。 生きてさえいれば、神官の奇跡で傷を癒すことが出来るだろう。
この後も生きることが彼女にとって”良い”のかはわからない。 傷を治す奇跡のほかにもう一つ二つ奇跡が必要だろう。
でも、これも人との出会いならば。 たまには神様もお目こぼししてくれるかもしれない。
仲間に応えるために立ち上がる前に、彼女の体を楽な姿勢にして横たえる。 その場を一旦立ち去る前に、もう一言だけ。
新年、おめでとう。
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