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イベント『野菜泥棒』 内偵チーム
イベンター補佐 [ 2004/11/18 3:11:37 ]
 盗賊ギルドから引退した元幹部が、オラン郊外で自給自足の農耕生活を営んでいました。
ところが、食料備蓄が必要な冬が迫った有る時、野菜泥棒が現れたのです。

今までにも野菜泥棒が出なかった訳では有りません。
また元幹部も抜け目無いですから、ある程度盗られる事を見越して作物を作っています。

しかし今回は違いました。明らかに単独犯では不可能な量の野菜が、
ごっそりと盗られていたのです。それが一度ならず何度と無く続きました。
これは由々しき事です。流石に堪忍袋の緒が切れた元幹部は、持てる知識と技術を総動員して罠を張りました。
が、得体の知れぬ泥棒はそれすらも潜り抜け、野菜をまたしても盗んで行ったのです。

困り果てた元幹部は、盗賊ギルドと繋がりがあり、
今や冒険者の店を切り盛りする立場に着いたフランツに頼みます。
「店を使って、不寝番となれる生きの良い冒険者を手配してくれ」と。

事がそう単純では無いだろうと踏んだフランツは、
巣穴の盗賊に事件の背後関係を探る様、不寝番とは別に内偵役も手配する事にしました。

そんなこんなで集った四人の盗賊達。
カレン、ネリー、ハマー、モートは、野菜泥棒事件の裏を探るべく、行動を開始したのでした…。

(イベンター注:このイベントの開始は、11/20からです。それまでは書き込みをしない様にお願いします。)
 
調査開始
カレン [ 2004/11/20 0:01:35 ]
 今年の夏は暑かった。
西のガルガライスほどではないにしろ、例年にはない猛暑だった。
そのくせ、秋には長雨に祟られた。
そのため、不作とまではいかないが、見込んだほどの収穫が得られなかった。
そして、野菜の値が上がってしまった。
オランの台所事情は厳しい。
近郊の村では、泥棒、野盗が増え、獣までが森から出てきてうろつくものだから、夜の間は恐ろしくて様子も見に出られないとか。
市場で聞いた、野菜売りのおやじと客のおばちゃんの言だ。

単純に考えれば、この事件は普通に野菜泥棒だ。
盗賊ギルド元幹部の設置した罠を突破してさえいなければ。
面倒なことになったな、と胸の内で呟く。
恨み、意趣返し、悪戯。
どんな理由にしろ、面倒なことになった、と。

それでもやらないわけにはいかない。
まずは、軽く聞き込みをした俺なりの感想。

この元幹部殿は……イマイチ掴みどころが難しい。
そりゃ、幹部にまでのぼりつめる人物だもの、多少の謎やら秘密やらがあるのはむしろ普通だ。恨みを買う反面、人望もあるというのもいいだろう。
しかし、なんだろう……。この、わからなさは。
異常なほど怯えて名前を聞くのもいやがるヤツがいると思えば、完全になめきって貶める者もいる。あっちでは頑固者で、こっちでは楽天家。向こうでは臆病な鼠みたいだと言うし、こちらでは冷徹な策士だと……。
どれが本物だろう?
どこを取っ掛かりにしたらいいのか…?

そんなちぐはぐな証言の中にも、ひとつ共通項があった。
元幹部殿が、組織とは関係なく個人的に懇意にしていた人物がいる。
これもギルドの一員であるのだが、仕事外の付き合いというものがあったらしい。
お抱え医師のじいさんだ。診療のしかたが荒っぽいので、腕も知識も確かなのに皆からは「ヤブ医者」と呼ばれている。

決めた。
ここから本格的に始めよう。
たぶん、この人以上に元幹部殿を知っている人はいまい。

「…ということで、困ってるそうなんだ。協力してくれるかい?」
「うむ。ヤツのことは裏も表もよく知っている。年を重ねてからは、絵を描くのが好きでな」
「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて…」
「静物なんだか風景なんだか見分けづらい、抽象的な絵をよく描いたもんだ」

頭にウロでもできたか、このヤブ医者。
一応、こっちは仕事で、他のヤツらとも連絡とらなきゃならないんだけど…。
その時間までにちょっとでも役に立つ情報を喋ってくれるんだろうな?
 
様子見の散歩
ネリー [ 2004/11/20 2:45:03 ]
  秋の朝早い頃はまだ薄暗い。
 雨上がりの曇り空ではなおさらのこと。
 冷えた空気の中、霞が未練がましく消え去り、雲の隙間から僅かな朝日が覗く頃。

 ここはオラン郊外。

 普段ならば私は詩の創作や、曲の練習など以外にはあまり訪れない。
 しかも、こんなに朝早くには。
 ただ、今回ばかりは、ある依頼があった為。

(ここが例の場所、ねぇ・・・)

 外套を纏い、とりあえずは単なる散歩がてらの通りすがりのフリで、野菜泥棒にあったという元幹部とやらの郊外の畑を、離れた位置にある付近の丘から見下ろす。
 周囲一帯まばらに、井戸、小さな垣根、掘建て小屋、そして畑などが点在する中、比較的新しい部類に入る、その畑。
 とりあえず、ささやかながらも、木や石などで造った、低めの質素な塀の向こうに、今回問題となっている野菜畑が見える。
 本来ならば作物で赤や茶、枯れかけた緑など秋の豊かな色彩で彩られているはずなのだが、盗まれた影響と今年の不作が手伝って、もの淋しさを感じる。

(もうちょっとで見えそうで・・・見えないかぁ)

 欠伸をするフリして、近くにある、板で覆いのされた枯れ井戸の淵に腰かけ、観察を続ける。
 遠目なので詳しいことは分からないけれども、元幹部だけに泥棒対策の罠は仕掛けてあるらしい。
 通常のちょっとだけの盗みの技しか持たない者ならば、多少罠に対する心得程度では見破れずに引っ掛るのが普通である。
 単なる幸運か偶然で通過したとしても、元幹部が警戒に警戒を重ね、幾重にも張り巡らされた罠を全て突破できるか。

(ありえない)

 腰掛けたまま背中からリュートをおろし、膝の上に載せて弦の調整のフリをする。
 盗みが酷くなったゆえに、元幹部はあらゆる知識と技術を結集させて罠を張ったという。
 そんな罠を苦にせず、まるで平気で無視して、野菜をごっそりと持っていく芸当・・・通常では考えられない手段を用いていると考えてもおかしくは無い。
 やはり最低でも、一つか二つ魔法に頼る方法と思ってもいいかもしれない。
 そして単独では明らかに不可能な犯行の手段。
 地形にしても盗みを助けるような建物などは見当たらない。
 強いて言うならば、ごく僅かに点在して生えている低木と茂み程度。

(歌にするとしたら”謎の野菜怪盗現る”と言ったところかしら)

 適当な弦を軽く鳴らして、こんなところかと調整を終えたフリ。
 ともかく、ひとまず様子見に訪れただけなので、長居は無用。
 さて、これから本格的に情報収集に向かわないと。
 例の畑に、依頼で不寝番の見張りの人達が動き出しているようだし。

(お邪魔にならないように、と)

 ゆっくりとオランの街のほうに歩いてゆく。
 そんなアタシの後を追うように、秋の終わりを告げる冷たい風が吹き抜けていった。

 ・・・

 集まるようにと指定された場所は盗賊ギルド、通称”巣穴”の経営する小さな酒場。
 その屋根の上の風見鶏は錆付き、役目を果たせずに不服そうな金属のきしむ音で鳴いている。
 外観こそ昼間でも薄暗い路地に溶け込むぐらいに薄汚れて、看板の文字は消えているが、中に入ると控えめの照明で演出された意外と小奇麗な室内が出迎える。

「”屋根の風見鶏が北を向く”」

 入り口にたむろっている見張り兼用心棒の大男に、指定された合言葉を告げると、厨房脇の小さな扉へ通された。
 一見、掃除用具入れとも思われる小さな扉ではあるが、開けてみると実は個室に通じている。

「よ、ネリーだっけ? お先に来てた、ぜ」

 既に先客がいた。
 ブレンディ・ハマー、盗賊にして古代語魔法の使い手という人物。
 些かもの淋しい頭髪で三十代、彫が深く、濃い顔が印象に強い。
 飄々とした笑みで出迎えてくれた。

「あ、ハマーさん。どうも。 ・・・あれ、他の人は?」

「ん、そろそろじゃねぇ、か?情報収集もそれぞれだから、な。しっかし、元幹部も・・・おっとっと。 あ、それで、そっちはどうだった?」

「ううん、特に。 見張りの人達に変わった様子はないかったし、畑の様子も・・・」

”コンコン”

 そこで扉をノックする音がした。
 
カメレオンの色
ブレンディ・ハマー [ 2004/11/24 1:51:17 ]
 「カレンは今日は来ねぇとよ。聞き込みが長引いてるとさ。残してったのはこの資料」

入ってきて早々、テーブルの上に紙束を置き、モート・サビックは言った。
その言葉に頷き、俺達は会合を始めることにした。

会合前にそれぞれが集めた情報を突き合わせ、これからのそれぞれの役を決めていく。

だが、俺達はその第一歩で躓いた。

「依頼人の素性は?」

“カメレオン”ペーダー。
オラン盗賊ギルド、体術部の元教師。専門は諜報、情報処理、穴熊……など、と。
現在では幹部を退いてはいるが、在籍はしている。
彼の教室じゃ割と何でも教える自由が認められていたらしい。
教え子何人かに話を聞いた所、教えて貰った技術はそれぞれ別のモンだった。
それどころかそれぞれが抱いている彼の人となりすら別のモンだった。
インタビューをとってきたカレンの報告書は、証言者が皆、全く違う人間について語っていることを告げている。
だが、そこに出る名は確かに“カメレオン”の二つ名。

簡単にゃ掴めない人物であることは百も承知。
同業者に探られることを嫌って痕跡を消していく、ってのは誰でもやるこった。
で、やったコトが漠然となり、気付けば二つ名だけが響く。
そういうことならよくある話だ。噂話はよく広がるし、な。
だが名前を変え、立場を変え、あたかも2人、3人……いや、10人以上もいるように振る舞って“つかみ所がない”ってのは珍しいんじゃないか、ね。

とにかく依頼人の素性を更に洗っていくのは当然必要だろう。
俺らに託された依頼は怨恨や因縁の糸を手繰って、容疑者を捜し出す街の仕事だ。
だが、ここでスタートを切れないようだと……
カレンが持ってくる情報に期待する。


じゃ、依頼人はほっとくとして、犯人をどこから探るか。

モート「芸から探っていくのはどうだい?」

芸。この場合だと罠の設置と罠の解除。
こいつの仕掛けのパターンや癖ってのは人によってある程度決まっている。
そいつが教師の場合、その門下の人間にもそれは伝わっていくモン、だ。
今回、ペーダーが仕掛けた罠は尽く解除、回避されていた。
普通の盗賊なんかにゃ到底出来ることじゃないが、癖を知り尽くしてるなら、可能だ。
それが出来る人物、そっちに的を絞ってみよう、って考えだ。

「ああ。んじゃ、そっちは俺が回ってみる、ぜ」

事前に教え子やらに話を聞いて回っていたのは俺だ。

ネリー「アタシは挨拶がてらペーダーさんの顔でも拝んでこようかしらね」

モート「情報集まったらまたここ、だな。ツナギは……」

コンコン

それぞれの捜査の方向性が決まってきたトコで部屋の扉を叩く音がした。

若い男が1人入ってくる。

「取り込み中すみません。モートさん、これ頼まれてた……」

モートは立ち上がって男から包みを受け取るとすぐに、さっきの言葉を続けた。

モート「ツナギはシャギリの旦那で、“風見鶏”は使わず、“蜥蜴の尻尾”を合い言葉に。集合はここ。定期は明日の夜だ」

解散が告げられ、それぞれが動き始めた。
 
探せ。 足跡・臭い・トカゲの尻尾
モート・サビック [ 2004/11/25 23:30:51 ]
 さぁて。
依頼人に関しちゃ二人に任せりゃいいだろ。
出て行った二人の背を見送り、俺は座り心地のよくねぇ椅子に座りなおした。
急場のパーティで無理に連携を取ろうとすると逆に自壊する。
多少ダブっても、自分の得手を押し進めるのが吉だ。


トグルサの坊主が持ってきた包みを無造作に破り捨てる。
「俺は別ルートから攻めるとするか、ね……と、うげ。」
出てきたのは丸めた羊皮紙の束が三つ、と一枚の羊皮紙。
俺が知り合い連中に予め調べさせておいた結果が早くも出たようだ。
項目は三つ。
まずはここ最近、野菜が大量に卸された店。もしくは普段とは違うルートで卸された店。
コロシとは違って盗みはその盗んだもののその後の扱いから足がつくことが少なくねぇ。
少量なら食って済ますこともできるが……まぁ、こういう調べ物は無駄なことの繰り返しだからな。
二つ目の項目は、量の多少を問わずここ最近野菜が棄てられた場所。
こいつは食いきれなくて棄てた場合を考えて、だ。
最後はここ最近不審な荷車が出入りしている商家ないし金持ちの家。


要は俺は人ではなくモノから攻めようってわけだ。
まぁ、調べてもらったとはいえ、大雑把にリストアップしてもらっただけだ。
下品なうめき声が漏れるほど量があるが、こっからはデリケートな交渉になりかねねぇから人任せにはできねぇ。
デリケートな俺様でなけりゃ……って自分で思って恥かしくなるからやめておこう。


で、もう一枚の半ぺらは、と……今宵の現場の状況、だ。
連中が出て行く前に開ければ良かったな。シャギリの野郎に伝えておくとしよう。

……成果は狐と梟。

盗人野郎本人のお出ましはなかったようだが……梟、ねぇ。
臭う、な。
偶然も必然として考えるべし、ってな。
そっち関係は、ハマーの旦那に頼むのが手っ取り早いかね。


兎にも角にも、こっからは頭よりもまずは足で勝負、だ。
「チキショウ、定例までにどこまでいけるかねぇ」


そして俺は一番最後にその部屋を後にし、結局翌夕の定例会議にも一番最後に登場したのだった。


「よぉ、皆早ぇな」
 
異なる視点の末
リネッツァ [ 2004/11/26 21:39:55 ]
 昨夜に続いて“巣穴”御用達店の隠し部屋を一番最後に訪れる形になったモートは先客たちの姿を一人ずつ確認して、違和感を覚えた。その原因は明快の一語に尽きる。

「おい、椅子が足りない……じゃなくて、一人多いじゃねぇか」

狭い室内には人数分の粗末な椅子しか用意されてないにも関わらず、其処に在る椅子は全て埋まっていた。
入り口手前から順にネリー、ハマー、カレン、そして最後の席を占めているのは──

「……『鼠』の兄ちゃんか。悪りぃが定例の会合は今からでな、まだ何も話せねぇぞ」

──内偵チームの収集した情報を不寝番に密かに伝達する、俗に『鼠』と呼ばれる伝達役を今回、担当しているリネッツァだった。

「や、や、や。お気遣いなくッス。それより、今日、オイラがお邪魔したのは実際に現場を見てきた者として意見を述べさせていただこーかなーなんて思ったりしちゃった次第でヤンして。てへっ」

ネリーが遠目から現場を確認してはいたが、彼らの仕事が事件の背後にある人や物の関係を探る事である以上、現場の検証は不寝番組に一任しているのが現実だ。が、そこには狩人はいても依頼主以外に盗賊の目を持ち合わせている者はいない。確かに、違う視点からの意見も必要だろうとは思える。

「じゃあ、ま、早速聞かせてくれ、よ」
ハマーが促すと、意を得たリネッツァは咳払いの後に手短に現場を観察してきた感想を伝える。

「つまり、現場の荒らされ方が少ないってことです?」

ネリーの言に大きく頷くリネッツァの態度が誇らし気だったのは相手が妙齢の女性だからだ。
それは兎も角、泥棒が存在する以上は現場に何らかの痕跡が残されているはずだが、その材料が不自然なまでに乏しすぎるのだという。となれば、黒幕は兎も角、実行犯として考えられるのは二種のパターンがある。

「盗賊と野伏の技術を併せ持っている筋の者か──」
「──魔法が使える奴。あるいはその混合だ、な」

が、その見解自体は目新しいものではなく、事件当初より疑われていた線でもある。
つまり、再確認の作業というべき質であり、今更の感が強くあるが、一同のその心中を見透かしたようにリネッツァが不敵な笑みを浮かべて語を繋いだ。

「もう一つの可能性があるッスよ、それが今回の話の肝ッス」
得意満面で一同を見渡すリネッツァは、俄かに生じた緊張感めいた空気を楽しみながら、ゆっくりとした口調で自説の続きを語る。

「今回の事件に不可解な点が多いのはオイラたちの盲点を衝かれているからなんッスよ。単純な泥棒説、愛憎に発端した陰謀説、依頼主の自作自演説と、色々考えられるッスけどもどれも断定するには至らない。何故か? それは、そもそも犯人なんていないんでゲスから。……や、依頼主は間違いなく存在すると信じ込んでるはずッス。だって、彼は正真正銘の被害者ッスからね。じゃあ、なして、次々と大量の作物が紛失していくのか。それは──」

固唾を飲む一同。
自らの言葉の余韻を楽しむリネッツァ。
その緊張が頂点に達したとき、驚愕の推理が語られた!

「──犯人は作物自身、そう、ペーダーが栽培してた中にマンドレイクが紛れてて、土から抜け出した野郎が『仲間救出』の名目で無関係な野菜までをも次々と運び出してたんでヤンスよ! 奴らなら精霊にも通じてるんで夜もヘッチャラ、罠だって土に穴を開ければヒョヒョイのヒョイでゲスからね!」

一変した室内の空気を最初に破ったのはハマー。その声は努めて冷静であろうとの色が強い。

「……で、その説を裏付ける証拠は押さえてあるのか、よ?」
「………………まだッス、てへっ」

即座に豪快な鉄拳の音が響き渡った。
制裁とは常に奮う側の者の心を空しくさせる諸刃の剣。
だが、それ以上に一同には無駄な時間を費やした徒労感と怒りの方が強くあった。

「そろそろ本題の方を始めるとすっか」
「その前に、こいつ、どうする?」

無惨にも床に転がったままのリネッツァの処置は、とりあえず放置に決定された。
……が、それに異論を唱える者がいた。紅一点のネリーである。

「……あの、ちょっといいですか?」

遠慮がち切り出したネリーだが、その表情は言葉ほどに遠慮したものではなく明らかな苦渋の色が滲んでいる。

「さっきから気になってたんですけど、リネッツァさんって、その、失礼ですけども……臭くないです?」

「……確かに」
「臭う、な」
「おまえ、ちゃんと風呂に入ってるのか?」

「しょ、しょんな失礼なこと言わないで下さいッス。ちゃんと入ってるッスよ、てか、さっき入ってきたばかりでヤンス」

妙なまでに必死に抗弁するリネッツァの様相を見て何かを隠していると洞察した、誼の深いカレンが更に鋭く、厳しく追及した結果。

「……実は、畑で落とし穴に落ちちゃったんでゲス。でも、それだけッス。本当でヤンスよ」

隠蔽されていた事実を白状したが、それでも不審は残る。

「そいつは難儀だったなぁ。けど、にしちゃあ、この臭いの説明にはなんねぇな?」

モートもリネッツァの扱いかたが解ってきたらしい。その秘訣は、悪戯をした子供に接するのと同じである。

「えと、あの……その落とし穴っつーのが──」
「っつーの、が?」
「──実は………………肥溜めだったんでゲス」



「出て行け!」



異口同音の満場一致でリネッツァに関する処置の変更が決定。
だが、その後も残り香のせいで後々の会合に迷惑を及ぼしたのは言うまでもない。
 
密室の会合
カレン [ 2004/11/28 0:18:46 ]
 「ヤツは、ちょっとした病気持ちでな」
そう言って、ヤブ医者が自分の頭をとんとんと指差した。
「……頭?」
「ああ、いや、違うな。ここか」
そして、胸のあたりを押さえる。
「胸を患っていると? ……それがナニ?」
「そうじゃない。心の病気じゃよ。何かのひょうしに気持ちが昂ぶるとだな、ひどく暴力的になって抑えがきかんのよ。つまらんことでヤツに殺されたモンもいる。その後は、自分のしたことが恐ろしくなって塞ぎ込むやら、怯えるやら。その繰り返しでな」
「よく幹部なんぞに収まったな」
「あの気性の激しいところは、下のモンには恐ろしいじゃろ。逆らおうなんて考える余地を与えん。
逆に、幹部のほうでも脅威さね。いっそ消してしまってもいいくらいだ。だがな…ヤツが策士だというのは本当だ。キレものさね。利用価値はある。だから、幹部に据えたんだ。
……内実は違うがな」
「…どういう?」
「ギルドに飼われてたようなもんだ。わしは、ヤツの診療と監視を任されとった。ヤツが平静な時だけ、表に出すというようにな。
絵というのは、治療の目的じゃったんだがね、そのうち、ヤツの感情を波を探るための手段ともなったな」
「…他には何かないか? 身辺のことのほうが知りたいんだが?」
「おまえさん、もう何か知っているんじゃろ?」
「断片だけだ。何も繋がらない」
「だろうな…。ヤツには息子がいる。
このことを知るモンは少ないが、ヤツの息子は、わしが逃がしたんじゃよ。何がきっかけか知らんが、ヤツは息子を敵視してな、ことあるごとに辛くあたっていたんじゃが、とうとうな……命を奪おうとまでしてな、間に入った母親を殺したもんだから、これはイカンと…。とりあえず、ヤツの手の届かないところに」
「それが、孤児院?」
「ああ。チャ・ザ神殿の経営で、神官なんかもしょっちゅう出入りすから、いくらなんでも手出しはしないだろうと思ってな。実際、息子が目の前からいなくなってからは、ヤツもそれまでのことをすっかり忘れてしまったようなかんじだったな」


哀れなリネッツァを蹴り出してもなお、残り香の漂う狭い部屋で、ヤブ医者の証言を伝える。
内容は重いのに、言っている自分でもそんなふうに感じない。みんな肥溜めの臭いの充満するほうが、よっぽど問題だとでもいう風情だ。

「その息子が疑わしいということ、か?」
「いや、間違いなく犯人の一人だ」
「何故、そう言い切れるんです?」
「別口の調査でね、確定してる」
「じゃぁよ、野菜の行方ってのもわかってんのか?」
「一部は確認済み。最初の犯行後、息子が持ちこんだ場所。孤児院だけだ。二回目以降は持ちこまれていないから、全部じゃない。だから、面が割れたのはそいつだけだな」

俺が面倒なことだと感じる理由はここにある。よりによって孤児院に持ち込み、孤児院の責任者はそれを受け取ってしまった。慣れないことをするものだから、すぐにバレた。どこをどう辿ったのか、ギルドから孤児院に直接通達があり、処理する術を持たない責任者は神殿を頼るしかなかった。
おそらく、犯人の一人が垂れこんだ結果だろうが…。
このあたりの経緯は、神殿の問題でもあるので詳しいことは話していない。

「けど、まだわからないことがある。この息子は、今は冒険者やってるんだが、盗賊ではない。戦士だ。罠は外せない。それなのに、わざわざ狙って犯行を重ねたという点。それと、この息子が父親の元幹部殿に恨みを持っているかどうかはわからない。もし恨んでいたとしても、野菜を狙うっていうやり方がおかしい。犯人だという確信はあっても、指示したとは思えない。
…そっちで得た手がかりと付き合わせてみないと、なんともね…」

そう。”カメレオン”の息子に焦点を絞ると、決定打に欠ける。全体像がぼやける。
他に何か動機があるはず。それがはっきりしなければ、犯人達の姿も次の行動も掴めない。

「手早くいこう。何かわかったことはあるか?」

この時俺は、リネッツァが運んできた情報の「荒され方が少ない」という点を気にしつつも、それ以上にこの臭いが体に染みつく前にここを出たいという欲求にとらわれていた。
 
依頼人を様子見して
ネリー [ 2004/11/30 23:03:36 ]
  哀れとも思われる程、部屋から強制退場されたリネッツァさん。
 その残り臭が少しだけ薄れ、そしてカレンさんが、今回の依頼人の素性を話した時。
 アタシは、それら一通りの情報を聞いたところで、依頼人の顔を拝んだ事を話す。



 真昼でも寒い風の吹きぬける下町。
 そして、些か寂れている小さな酒場。
 そこの隅の小さなテーブル席。
 今回の依頼人こと、ペーダーさんはいた。

 ちなみに私は上手い具合に離れた位置のカウンター席。

「あー・・・おかわり」

 なんだか気の抜ける注文の声。
 あまり目立たない背格好。
 感情が読み取れないほど呆け力の抜けきった表情。
 無精髭
 顔の特徴らしい特徴が無い・・・いや、それが特徴とも言えるか。
 元盗賊でしかも元幹部という感じを微塵にも感じさせない。

(本当にあれがペーダーさんなのかしら?)

 まぁ、それでこそ正しい盗賊といえるのだが。
 いかにも盗賊だと分かる雰囲気では二流どころか三流にも及ばないからだ。

 ぼやーっとエールを、真昼からちびちび飲む。
 たまに近くに飾ってある油絵を懐かしげな眼差しで見る。
 絵が趣味なのかなと思った。

 しかし。

 其の絵は暗めの色彩で大中小三つの白い円以外は奇妙な模様にしか見えない油絵。
 はっきりいうと街にあり溢れた落書きのほうがまだマシに見える。
 絵が表す感情があるとすれば・・・其の絵は、”不安”だと思う。 

 それなのに、何かを思い出すかのように、目元は笑みが浮かぶ。

 だが。

 不意にペーダーさんの眼の色が変わった。
 恐ろしいものを見たかのような怯えの色。
 コップを持つ左手が震えている。
 口には何か小さく呟く様に、僅かにだが動いている。

 そして。

 何かに耐え切れなくなったのか、酒を飲み干し、大慌てで店を出ていく。
 それが複雑な事情を知る前のアタシが見たペーダーさんだった。

「それだけ?」

 カレンさんが言う。

「いえ。まだあるの、続きが」

「へぇ、なんだ?」

 ハマーさんが言う。

「実は・・・今、カレンさんの話しを聞いてね、思い出したの」



 ペーダーさんが出ていった扉を横目で見ていると。

「・・・気付かなかった様だな」

「まぁ、いいさ」

 近くに座っていた二人組が、ぼそっと会話をしていた。
 たまたまというか、直ぐ後ろのテーブル席から小声ではあるが。
 盗賊としてよりも吟遊詩人としての耳が働いたおかげか。
 耳に飛び込んできたのだ。

「・・・最初は邪魔が入ったと・・・」

「・・・かえって注意を逸らしやすく・・・」

「・・・やりやすい・・・で、例の準備・・・」

「狐も梟も調教済み・・・どうせ囮・・・肝心・・・あいつ・・・」

「奴、渋って・・・」

「流石にな。だが、断ることもできねぇよ。あいつには」

「だな。じゃ、今夜か明日にでも」

「よし」

 一体どういう事かはこの時点では分からない。
 でも言えるのは、ペーダーさんに関係ある事であろうと思った。
 そして、”あいつ”という人物も関係する事も。



「・・・と、まぁ、ちょっと話しを耳に挟んだの。参考になるかと、もしかしたら、ね」

 皆は一時の沈黙だ。

「で、えーっと、今の参考になるかしら?」

 自分では意外な情報を仕入れたかなとは思ったけど・・・
 
3人の弟子、絵からの推測
ブレンディ・ハマー [ 2004/12/03 15:22:05 ]
 「そのやりとりから、動機を探れるかも、な」
ネリーの言葉に俺はそう答えた。
そして自分がとってきた情報を開示する。


仕掛けられた罠を掻い潜った手腕。
そっちから追うのが俺の仕事、だ。
だが、実際にこの教師からしっかりと技を教えてもらった、って人間はあきれるほど少なかった。
本当に仕事してたんかねぇ?

で、とれた情報は以下のとおり。
現役時代の“カメレオン”が手塩にかけて育てていたのは3人。
一人はダーヒー。
穴熊として育てられ、主に罠に対する嗅覚を学んでいた。
それと共にその外し方まで念入りに。
それこそカメレオンの仕掛けたトラップハウスに挑戦させる、くらいまでやってたらしい。
一番怪しいが…そのトラップハウスで死んでやがるらしいんだ、な。

お次がバーキル。
諜報、情報処理、情報操作なんかを学んで、ペーダーからそっちの職への斡旋もしてもらったそうだ。
こいつの仕事で特徴的だったのが、絵を扱った暗号書法。
“カメレオン”は自分の治療に使われてたモンを仕事に利用してたようだな。
で、つい最近までこいつは仕事していたが、ペーダーの引退に合わせて足抜けしようとする。
が、就いてた仕事が仕事だけにそう簡単にゃ抜けられねぇ。
派閥争いにも巻き込まれ、ヤク漬け、記憶ふっ飛ばされてお役御免。
今じゃ自分の名前すら覚えてない有様だ。

最後がムティーウ。
ヤツの専門とは離れるが、スリの技を教えていたそうだ。
後々部門を変わったって話も聞いてる。
数年前に嫁さんもらって、けじめつけて足抜け。
その後オランを出たらしいが、金を求めて何度か戻ってきた、って話がある。

そして3人を追う中で共通していた項目がひとつ。
この3人ってのが“カメレオン”から宝の在り処をそれぞれ教えられてたはずだ、って話。
3人の情報を合わせることでそいつは見つかるって話だが……

ま、それを踏まえてほかのと突き合わせてみる。

ネリーが見た絵は、この3人の行方を潜ませたもんだろう。
ひとつ参考に絵をもらったが、この3人について表す時は大、中、小の円で示してもらった。
でまぁ、今までなんだかんだで足抜けしてきた、させてきた弟子連中の足取りを掴んでいた…はいいが。
読み取り進めていくうちに、掴めなくなったことを知り、急遽出て行った。

ま、推測にしかならねぇんだが…
残った二人。顔見せのつもりだったんじゃねぇか?
俺たちもグルだ、ってんで本当の狙いを知らせようとした。
本当の狙い。手に入らなかった宝を出せ、って交渉じゃねぇか?
野菜を採ってんのはそれが目的じゃなくて、採り方で絵を描いている…なんてのは?

「さ、俺はここまで、だ。最後頼むぜ大将」

モートに告げて俺は腕を組んだ。
 
しるし・買い手・芋づる。
モート・サビック [ 2004/12/05 7:22:44 ]
 「あー。よぅ、そんなに緊張させるようなコト言うなよ」
椅子を軋らせて体を揺すると、俺は頭の中のメモ帳から必要なことを引き出した。
「そうだな。とりあえず……」

盗品のその後の足取りを追ったんだがな。
まぁ、孤児院の方は言うまでもねぇ。
他のルートも調べることはできたんだがな。正味の話、こっちはあんまり目ぼしくねぇ。
怪しい影は見えたんだが、間を何回りか介していたんでな。この短い時間では追いきれなかった。すまねぇ。

それよりもいくつか美味しいネタを手に入れてな。


俺はテーブルの上に羊皮紙を広げた。
「なんだこりゃぁ……と。なんだ、ここの地図じゃねぇかよ、旦那」
ハマーが俺も持ってるぜ、と続ける。
「あれ……もしかして」
カレンが何かに気づいたように顎に手をやった。
「そうだ」
俺はにやりと唇に歪める。
「この朱の印。罠の位置だ」
俺たちが把握しているよりもより多く、より正確な、な。
「これ、誰に貰ったんですか?」
ネリーの質問に俺は肩を竦めた。
「チャ・ザからの贈物さ」
俺の写しだけどな。
「原本は依頼人の爺さんんとこで働いてる作男の部屋にある。んで、これの他にも写しがあったりするんだな、これが」
一様に表情を硬くする面子を見回して、俺はさらに追撃した。
「さらに、だ。この作男はここんとこ、妙に羽振りがいい。俺に比べたら使い方は地味の一言に尽きるが、まぁ、こんな田舎じゃな」


で、だ。

俺は昨日最大の収穫を、攻城用カタパルトの砲弾の如く落とした。

肝心なのは作男が罠の情報を売ったことじゃねぇ。
誰に売ったか、ということだ。
それによってこの作男がただの金欲しさの愚行なのか、連中の一味なのかがわかるってもんだしな。
もちろん、そいつも突き止めてある。
アシのつき難い野菜と違って、モロにヤバい品の地図を人を何人も介して買うわけがねぇ。本人か、極めて近しい者が直に買いにくるもんだ。
人の少ない村でもあるし、半月前の犬の事件やらそれに付随する似非っぽい冒険者の話とかで村民の神経が結構ピリピリきてたからな。おまけに不作の年だし。
余所者には敏感になっててくれたのがこっちには幸いしてな。
盗品の行方を追うより簡単だったぜ。

まぁまぁ、落ち着け。俺も焦らすつもりはねぇんだからよ。
十日ほど前、爺さんの留守を狙ったかのように……っつーか狙って作男の家を訪れたのは女、だ。
間は端折って正体いくぞ。
名前はニューム。ハマーの兄さんが調べ上げた死んだダーヒーの連れだ。
ただまぁ、連れとはいえ俺らと同業、ってわけじゃねぇ。
だから見逃したんだろうけどな。
チンケな占い師をやってるんだが……いくらかカストゥールの秘儀にも通じている、って話だ。強欲な女らしいな、どうも。
で。今その女の相方をやっているのが、「テイマー」のあだ名を持ってる男だ。そいつが通り名で、本名まではわからなかったけどな。
ここ最近、この二人が……ここの爺さんの息子とつるんでるのを確認した。どういうつるみ方か、ってのが問題だけどな。
ここはまだ掴みきれてねぇんだが、脅されてた、って話もある。
ネリーの姉さんの聞いた話にも合致する。
これは噂の域を出ねぇんだが、息子の野郎は夏ごろ誤ってどこぞの子供に怪我を負わせちまったらしいんだな。それをネタに強請られてるって噂がちらほらと聞けた。


こいつはハマーの兄さんの話からの推測なんだが、奴らの本当の目的は爺さんの宝だろうな。
強欲で知られている女が野菜程度を、それを目的に盗むわけがねぇ。
野菜は警告じゃねぇかな。
『おめぇの罠はきかねぇぞ』、ってぇな。
それか陽動。屋敷を固められても宝を奪うには支障はねぇ、っつーか好都合なのかもしれねぇ。
あとは地図の信憑性を確かめるための下見を兼ねていたんだろうな。
半月くれぇ前の犬殺しも恐らくは連中の仕業だろう。

もし仮に陽動だとするなら、むやみに家の防備だけを固めるのは得策じゃねぇ。獣や息子野郎を囮に家を襲わせ……こないだみたいにな。
自分らは手薄な宝のありかをじっくり探そう、って腹かもしれねぇ。


と、まぁ俺が探れたのはこの程度だな。


「なぁ、絵は?」
ハマーの疑問に俺は再び肩を竦める。
「そっちに関しては詳しく調べてねぇんだが、依頼人の爺さん自らも犯人を探そうとしてたんじゃねぇのか?で、昔馴染みに符丁を出すのに絵を使っていた、とも考えられるな。怪しい昔の弟子たちの居所を掴んでおくためにもな」
「あの酒場での会話が間違いじゃなかったら、今日明日中くらいに襲ってくる、ってことよね?不寝番組に早く……」
ネリーが焦ったように提案するが、ハマーの兄さんが誰よりも早く辞退した。
「俺は断るぞ。連中とツナギをとる、ってことはあの肥溜め野郎に会う、ってことだろう?丁重に遠慮したい」
「俺も」
「私も」
「いや、俺だって嫌だぞ」

すっかり夜も更けた今の急務はいかにして不寝番組にツナギをとるか、つまりは悪臭漂うリネッツァに伝えるか、ということのようだ。
 
急報
カレン [ 2004/12/06 0:22:35 ]
 リネッツァを走らせたのは、四日目の夜だった。
持たせた情報は、犯人達の人相風体、本当の狙い、罠の地図(写し)。

犯人達の狙いについては、モートからの情報で明らかになったと言ってもいいだろう。ヤツ等が本当に欲しいのは、宝のほうであり、野菜泥棒は副産的に行なわれたものだ。
この事実を確定するに当たって、例の不振な2人組みが現れたという酒場に、面が割れていそうなネリーを除き、三人で交替で張りこんだ。ネリーにはその間、リネッツァと共に付近で待機してもらっていた。
連中はその酒場を溜まり場としているらしく、あっさりと現れた。しかも、人数が五人に増えている。
一人は”カメレオン”の息子。そして、魔術師風の女。身軽な形の男が三人。たぶん、二人は盗賊、もう一人はよくわからないが、モートの情報からすると、野伏といったところか…。もしかしたら精霊魔法を使うのか…。なにしろ丸腰で判然としない。
店内は多少騒がしい。会話を聞き分けるのに、かなり神経をつかった。

「まったくドジ踏んだもんよね」
「だから…もうやめようって言ったじゃないか」
「おめぇの意見なんざぁ聞けねぇよ。やめるかやめねぇかは、こちらの依頼人が決めるこった」
そう言って隣に座る人物の肩を叩く。
「まぁ、どっちにしろ、俺ぁやめる気ねぇけどなぁ」
「あんたは、アタシらとは目的が違うものね」
「金より重要だっていうんだから、まったくイカレてる…」
「気持ちの問題なんだよぉ。ヤツのツラが青くなったり赤くなったりする様ぁ見てんのはサイコーだ。それこそ”カメレオン”…」
「声が大きい…」

どうやら宝目当てではない人物がひとりいる。ひょろ長く痩せぎすで、既に酔っているのか焦点の合わない眼。眉がほとんど無く、上を向いた鼻。
盗賊の一人だ。
この盗賊は、たぶんちょっとイカレてるか、”カメレオン”と余程の確執があるか、あるいは何か一方的なわだかまりがあるのだろう。”カメレオン”の人となりを考えれば、さもありなん。
そして、もう一人の盗賊。これがコソドロたちのおおもとの依頼人になっているらしい。これは、ハマーの言っていたムティーウである可能性が高い。

「まぁ、でもな…次で決着はつけてくれ。できなければ、俺は諦める」
「マジかよ」
「冒険者が張ってるんだろ? 捕まったらマズいんだ」
「っけ。面白くねーの」
「そう言って時間をかけ過ぎなんだよ」
「こっちもアンタからの報酬を見込んでるんだから、それは頂けないわね」
「だが冒険者がマズイ…」
「農夫の親父が言ってたけど、あの広さの場所に5人だってよ? 絶対目が届かないわ」
「だけど…もう…」
「五月蝿いわね。あんた、意見できる立場?」
「………………」
「やるわよ。…今夜。いいわね?」

ここで店を出た。
時間が限られているということがわかったからだ。

リネッツァが飛び出して行った後、忠告するのを忘れていたことに気づいた。不寝番のほうには女性がいる。情報を告げるだけに留まらず、いいところを見せようと何かするかもしれない。下手なことをすれば、肥溜めに落ちるどころか、犯人扱いされてボコられるだろう。そうならないように、と。…ま、逃げ足は速いから大丈夫だろうが。

さて、あとは…一応モグリもいることだし…、この件に関わった盗賊のことをギルドに連絡して、処遇を決めてもらおうか。
 
月光
リネッツァ [ 2004/12/07 6:41:17 ]
 筆者註:本稿はイベント『野菜泥棒』において同時進行にある#{267}の記事19の投稿の序文に該当します。筆者キャラは登場しませんが便宜上、リネッツァの名で投稿してあることを予め御了承ください。


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走り去る背の高い影が消えた方向を不安そうに見つめる肩を握り拳が叩いた。

「心配するな。保険はかけておいた、さ」
「……保険?」

訝しむカレンに、ハマーは微かな苦笑を見せるだけで明瞭な答を返さない。
ただ、渋面のまま首を振って、

「にしても、あの肥溜め野郎は本当に臭うな。こりゃ堪らねぇ、ぜ」

との呟きを残して、自身も夜の闇へと消えていった。
何処へ行くとは言い残さない。互いに何を為すべき段階なのかは承知している。
気がつけばネリーとモートの気配も既にない。作業の詰めに取り掛かっているのだろう。

「……俺も行くか」

歩き出したカレンが不意に夜の空を仰ぐ。

秋の月が沖天に在る。
月を司る神フェネスは神話の時代の争乱において兄神ファリスの要請を断って中立の座を貫いたとされるが、その理由、仔細を語るに足りる定説はない。
故に、人は神々の争が乱れた結果のみから想像の翼を広げ、伝を織り成してきた。

月は心を惑わす象徴にして、その光には魔力が宿ると云う。

──ならば、今夜の月光も誰かの心を惑わすのだろうか。

詮無い思索を振り払うかのように頭を振ったカレンの聴覚を獣の咆哮が震わせた。
近くではない。遠くから──恐らくは何処かの飼い犬が月に向かって吠えているのだろう。別段に珍しい光景ではない。

獣も月光に心を惑わされるのだろうか。
あるいは──

咆哮の残響に新たな咆哮が重なる。

──“テイマー”か。

咆哮の連鎖が響く街をカレンは早足に“巣穴”へと向かう。
いつまでも鳴り止まぬ声は神話の時代、中立を選んだフェネスが叫んだ言葉ならざる声の残滓ではないかと思わせるに足りる、感傷を刺激する性質(もの)だった。
 
足止め、咆哮、嫌な予感
ネリー [ 2004/12/10 18:16:58 ]
  やはり臭いはたまらなく・・・リネッツァさんが去った方を見つめる。
 カレンさん、ハマーさん、モートさんはそれぞれの思う先へと去る。
 私も同じようにそのまま去っていく。

 半月前に冒険者一団が獣を退治したとか。
 依頼人の側に内通者。
 罠の配置図を示した地図。
 それを用いての野菜泥棒・・・もとい、財宝探し。
 畑の何処かに埋めてあるとされる財宝が泥棒の真の狙い。
 今までの野菜畑をことごとく荒した。
 そして不寝番の冒険者のお陰で財宝に近付くのは失敗。
 酒場で見た絵、不振な二人組。
 犯人側とされる五人の酒場でのやりとり。

 それぞれの情報から今夜あたりが決行日とすれば。

 そう、このままでは不寝番が危ない。
 野菜だけを守るはずが、下手すると命を落としかねない危険が増えた。
 リネッツァさんが情報を話したと思うから、迎え撃ちに間に合うとは思うけど。

 ・・・

 さて、ここからは自分の担当する作業の詰。
 ここでヘマをする訳にはいかない。

 犯人側の逃走を助ける存在に釘を刺さねばならない。

 無論、不寝番の仕事の失敗を見据えてではなく。
 誰か犯人側一人でも逃走できた際に利用されると困るということ。
 逃走を図らずとも助けてしまった存在が何も知らなかったではすまない。
 そんな事態を起こさぬ様に先に伝えねばならない。
 本来ならば先に抑えておくべき事柄であるが、確定しない内は避けた。
 犯人が感付く恐れがあるし、利用される存在が情報を漏らす事がありうる。

 しかし。

 事態が起こる事が確定した今、それは重要である。
 しかも相手にモグリがいるとなれば。
 例え犯人と古くからの知り合いでもあっても、手を貸さなくなる。
 むしろそういった者との知り合いならば。
 そういった危険を背負う事がどういうことか分からない事ではない。

 村周辺の地図を見て、オランの街側に近い位置。
 ハーザード河川に繋がるある支流。
 そこに船を貸す渡し守の小屋がある。

 夜間、逃走ルートに使うならここしかない。
 ハーザード河川に出れば街にも南にも対岸にも行けるだろう。

 ・・・

 息を切らせて、ようやく辿りついた小屋。
 何とか息を整えて戸を叩く。

「えっと・・・誰?おねーちゃん?」

 奇遇。
 例の怪我させたという子供が叩いた戸から出てきた。
 怪我した箇所、だいたいの背丈と体格・・・情報通りの子供。

「船?あの、今晩はお客が先に入っているから、あし・・・」

 言いかけて咆哮が聞こえた。

 遠くから・・・いや、近くから聞こえる。
 ただの胸騒ぎだけではない不安が増した。

「えと・・・今のは・・・犬?」

 子供が恐れを隠せぬ表情で呟く。
 それだけではない獣以上の気配を感じずにはいられなかった。
 
リネッツァの始末
ブレンディ・ハマー [ 2004/12/13 23:17:48 ]
 ――ここらでいい、か。

闇に座して意識を一点に向ける。
暗がりに潜み、目だけを光らす下僕。

「感応酔いが嫌いで、普段は呼ばねぇんだが、な」

ぼやきに嘆息する使い魔を叱咤し、俺は意識を乗せた。

視線の先には、リネッツァが入っていった家。
犯人だけじゃなく、こいつの動きによっても“始末”が変わってくる。
余計な欲出されちゃシナリオも変わってまうしな。

1人…
2人……
3人………

4人目にはリネッツァが泣きながら出てきた。
色香が贋物と気付いたか。あいつにしちゃ感心感心。
こうなるとすぐに逃亡する可能性もある、な。
考えてると、案の定リネッツァを追って飛び出してきた。
そりゃ懐柔に失敗した“巣穴”の人間、放ってもおけんだろう。
だがま、リネッツァも伊達に毎日パシらされてるわけじゃない。そう簡単にゃ捕まらんはず、だ。

俺は使い魔に見張らせながら、本来の仕事へと取りかかった。
俺の仕事は連携の切断。
残った2人と先に行った3人との間の連携を切ることが仕事となる。

具体的にゃ、仕掛けた罠をアクティブにする。
先へ行った3人を誤魔化した“暗闇”“幻覚創成”を解いて罠のほうへと誘導する。
これで釣れればいいんだが……
仕掛けの締めとして、落とし穴の上に“幻覚創成”で地面を作り、後は待つのみ。

――来る。

使い魔を万が一の応援に飛ばせ、意識を自分に戻す。
リネッツァを先頭に俺のゾーンへと飛び込んでくる3人。
3人まとめてかかってくれりゃいいが……
ま、どう転んでも足止めにゃなるだろ。

気軽に息を吐き出し、俺は再度短杖を手にした。
 
風見鶏の音
リネッツァ [ 2004/12/15 23:50:54 ]
 ──なっ、馬鹿な!

古代語魔法で誘導して相手を罠に追い込むハマーの策は“杖”兼“鍵”な彼ならではのものである。
だが、どんなに周到に張り巡らされた策にも誤算の魔手は常に潜在するものだ。

第一の誤算はリネッツァを追う二つの人影、その一方がリネッツァはおろか仲間からも引き離されて遅れていること。
このままでは、最後尾の“剣”は確実に罠には掛からないだろう。

が、真に誤算と呼べるのはもう一点の方。

罠の数歩手前で突然、リネッツァがその進行方向を変え、幻影の蓋がされた落とし穴を寸前で回避してしまったのだ。無論、事前に情報を与えて回避するよう指示したということはない。紛れもなくリネッツァ自身の判断で、ハマーの施した“杖”と“鍵”の混成の陥穽を回避したのだ。通常であれば俄かに信じられる話ではない。

だが、穴熊であるハマーには思い当たる節があった。
遺跡は常に未知の危険と隣り合わせの空間である。事前に収集した情報や制作者の癖から一定の傾向を把握したとしても、予想外の事態はまず確実に起こる。そんな遺跡を掻い潜って生き延びるのに求められるのは、罠を感知する第一の感、すなわち、経験によって培われた勘なのだ。自然、身の危険を重ねた者ほどにその嗅覚が鋭敏になっていく。

『本人はあんなのだが、あいつの周囲にいる奴らは“巣穴”でも中堅級揃いだ。そんなのに日頃から追いかけ回されてれば危機察知能力が向上してても不思議はねぇ、な』

しかし、それを称賛してやる気には到底なれない事態にハマーは直面している。
リネッツァが回避したのは構わない。殺傷能力を減らした捕獲用の陥穽とはいえ、まともに掛かれば軽傷では済まない可能性もあれば回避するに越したことはないだろう。だが、それによってその背後を猛追していた“杖”で、元男の女ことニュームまでも逃しては何の意味もなくなってしまう。

──ちっ、失敗か?

内心で舌打ちしたハマーの視界に映る女の影が、下半身から崩れるように斜めに揺らいだ。
見れば、その左足だけが幻影の蓋にかかり、地を踏み外している。完全に引っ掛かったわけではない。だが、体術を修得している“鍵”でもなければ、一度、崩した体勢の均衡を三角塔の賢者たちが言う“地が引く力”に逆らって回復させるのは困難を極める。

──掛かった!

身を乗り出しかけたハマーは数瞬の後、驚愕の光景を目の当たりにする。
姿勢を崩しながら落とし穴に落下していたニュームがその半身を捻ると、懸命に伸ばした片方の腕の先で穴の縁を掴み、ぶら下がる形にとどめたのだ。その動きは訓練された“鍵”の質ではなく、反射神経に近い野生的な色が含まれている。強欲なだけに土壇場に強いのだろうか。正しく、執念と呼ぶに相応しい。

「クッ、なんだい、なんでこんな所に罠があるんだ──! チッ、潜んでた鼠はあの坊や一匹だけじゃなかったってことかい。癪だね、癪に障るよ、全く!」

ニュームの声音と言葉遣いが豹変した。恐らく表情の方は更に変貌していることだろう。
最早、逃げるリネッツァを止める術は彼女らにはない。ならば、この状況を別働隊に連絡するのが次善の策なのだろうが、それでは今夜中に目的を達成するのが困難になる。しかも、それは酒場での会話から察するにムティーウがペーダーの宝から手を引くことを意味するのだ。逃がしたリネッツァ自身は小魚だが、それによって大魚まで逸してしまっては全てが無駄になる。その苛立ちが余計、感情を逆なでるのだろう。

だが、ハマーも決断を迫られていた。
彼の目的は一味を撹乱して足止めすること。完全とは言えなくてもその役は既に果たしている。
しかし、ここで“杖”であるニュームを完全に潰せば不寝番組の労が大幅に減じるのは間違いない。そして、それこそが先日、ユーニスに詰め寄られたフランツが極上の遺跡情報との交換条件でハマーに持ち掛けてきた、もう一つの依頼だった。

──可能なら、相手の戦力を削げ、か。

だが、既にニュームの側には後続の“剣”が到着している。
どうやらニュームは自力では這い上がれないらしいが、今、仕掛ければ最悪の場合はハマー単身で“杖”と“剣”を相手に渡り合わねばならず、それは避けたいのが本音だ。

──どうする、退くか? 仕掛けるか?

仕掛けるのならば“剣”がニュームを引き上げようとする時機を狙うべきだろうと、短杖を握り直したハマーだったが、“剣”の意外な行動によってそれは無駄な行為となった。
男は仲間であるはずのニュームを助けようともせず、二、三の会話を交わすと、そのままリネッツァが去ったのとは別の方向に歩を進めたのである。

「フザけてんじゃないよ、アンタ、後でどうなるか解ってんだろうね!」

響くニュームの怒声からハマーは両者の関係と状況を察した。

──そうか、奴はカメレオンの息子だ。へっ、どうやら、風向きが変わってきたみたいだ、ぜ。

“剣”の気配が完全に消えた後、ハマーは悠然と近づき、

「……よっ、お初だ。ニュームの姐さん」

不敵に笑うと、眼下で苦渋を滲ませる年増女の表情が余計に可笑しく映った。
これで一味の“杖”は無力化した。残る戦力は“鍵”が二人と“テイマー”と呼ばれる人物だが、カレンの推測では“霊”が混じっている可能性もある。

──それはそうと、リネッツァめ。逃げ延びたはいいが、どこへ向かいやがったかだ、な。
 
奥の事情
カレン [ 2004/12/18 2:26:33 ]
 できればどちらにも受けて欲しい仕事ではなかった。

それがギルドの本音であったらしい。
幹部から退いているとはいえ、ギルドの一員であることに変わりない人物に何かしら仕掛けるために構成員が手を貸すことも、それを阻むために同じ構成員が動くことも。
しかし、正直なところ”カメレオン”の存在価値に既に見切りをつける風潮と、彼が持つ宝物に対する非常な興味が、泥棒一味に雇われたと思しき盗賊を止めるに至らしめなかった。
また、フランツが依頼した仕事に関しても、ギルドは一切口出しをしてこなかった。これは、ギルドが”カメレオン”に対する義務を果たしているという体裁を保つためと、チャザ神殿からのとある要求を飲むことで確実に得られる見返りを期待したためだった。

「では、”カメレオン”の息子は、一旦あちらに引き渡すということで構わない?」
「約束は守る。それと、あの孤児院に対してもな」
「今後一切手を出さないと?」
「そういうことだ」

もともと、ギルドはチャ・ザ教団と反目する気は毛頭なかったはずだ、と俺は思ってる。体面を保つための儀式みたいなもので。
”カメレオン”の息子の引渡しに関しても、それほど渋ってはいない。頑として拘っているのはむしろ神殿のほうだ。孤児院の責任者の落ち度はそれとして、そうなった理由を問うために”カメレオン”の息子の証言も必要という結論になっているからだ。
もっとも、証言が得られた後は……どうなるかまだわからない。

「フランツも余計な気を回したもんだな。お前さんには渡りに船だったようだが」
「俺ですか?」
「教団のためにやった仕事なんだろう?」
「俺は冒険者の店で依頼を受けただけなんですが?」

沈黙。
探るような視線を向けた後、「まぁ、いいや」というふうに男は肩をすくめた。

「それで、他の連中については?」
「それは上が決める。知らなくていいことだ」
「……………」
「だが、まぁ、お前さんがやってくれるというなら教えないでもないな」
「遠慮します。すいません」

念押しを含めた経過報告を終え、稲穂の実り亭に出ると、モートが待っていた。
木造の店に行っていたらしい。話では、野菜をどっさり積んでオランからパダに向かう馬車とすれ違った冒険者がいたらしい。それが盗まれたものかどうかはわからないが、どんなに探っても足取りが掴めないのだとしたら、日数からいって、既に売りさばかれて誰かの腹に収まったか、捨てられたか…。どちらにしても、もう探しようもないだろう。孤児院に持ちこまれた分は、買い取ったというかたちにしてある。高い代価ではあったけれども。

「ネリーとハマーは、どうしたかな?」
「さてな。ハマーの兄さんのほうは知らねぇが、ネリーは途中まで一緒だったぜ。連中の逃走経路を塞がなくちゃならねぇって言ってたな」
「ひとりで?」
「まさか。万が一ってこともあるじゃねぇか」
「……どこに行く気か聞いたか?」
「聞いてねぇ。が、見当はつく。行くか?」
「もちろん」

不寝番をしている冒険者達が犯人を取り逃がす可能性はある。なにしろ、報告が急だった。
しかし、あっちの連中もちゃんと心づもりはできてるはず。任務失敗に繋がるような後手は踏まないと思うが…。
とりあえず、犯人一味を確保してくれることを期待しつつ、いつもの会合場所にハマーへの伝言を残し、ネリーに合流することにした。


ネリーが当たりを付けた渡し守の小屋に行き当たった時、彼女は意外な人物と一緒だった。

「よかった。来てくれたのね。ごめんなさい。この子がとても怯えてしまってて、連絡もできなかったの。…あ、この子は…息子さんが連れてたっていう…その、子供だと思うわ」
「…思う?」
「喋ってくれないのよね。マーカスって客が来るのを待ってるって、それだけ」

マーカス…。それは、”カメレオン”の息子のことだ。
今頃、不寝番たちと剣を交えているはず。…いや、もしかしたら…。
「そいつは来ないかもしれない」
そう告げた時、子供は、不安そうな顔にますます不安の色を濃くした。
 
対峙
ネリー [ 2004/12/22 15:13:18 ]
  カレンさん、モートさん。
 来てくれたことに安堵しつつ。

「そいつは来ないかもしれない」

 カレンさんの一言。
 其の一言で、傍らの子の不安の色が濃くなった。

「・・・な、なんで?」

 恐る恐る小さな声で。

「マーカスはなんで来ないの?」

 そして震える声で子供が尋ねる。
 しかし、それには誰も何も答えない。

 私も。

 答えられない訳ではなく。
 子供にとって最悪の結末が容易に想像出来た。
 それを容易く口に出すのも憚れる。

「で、でも、もしかしたら来るかも・・・」

「どうかな」

 カレンさんは冷静に言う。

「まぁ、どっちにしろ・・・っと」

 モートさんが頭を掻きつつ声を発する。

”じゃり”

 どこからか聞こえる足音。
 皆の表情が変わる。

 同時に小屋の松明が照らせぬ暗闇。
 その一点に視線を向ける。

「よぉ、お疲れさん」

 誰かがやって来た。

「マーカス!?」

 子供が抑え切れない衝動のあまり、その人物に駆け寄ろうとする。
 それをカレンさんは咄嗟に手を掴み留める。
 そのまま、その相手に一言。

「来たか」

 子供以外は警戒の態勢を取る。
 暗闇の中から誰かの足が見えた。

「・・・ここも、か」

 諦めの声を発する。

「冒険者は皆、しつこいと見える」

 私達の事を皮肉って言っているのだろうか。
 暗闇の中から一人の男性が姿を表す。

「最後はこういう結末か。俺の人生は?」

 くたびれた様子の”剣”。

「マーカス!」

 子が叫ぶ。
 マーカス・・・つまりは、今回の野菜泥棒の被害者、依頼人の息子。
 同時にその犯人。

「その子は関係無い。いや、怪我はさせたが」

 マーカスが得物を放る。

「それは降伏の意味・・・か?」

 モートさんが尋ねる。

「そう思っていただけても」

 カレンさんは無言のまま、子供を私に任せて前に出た。
 モートさんも距離をとる。
 私は子供が飛び出さない様にするだけ。

「・・・は」

 マーカスが小さく何か呟いた。
 
そして一月。遺跡へ向かうは――
ブレンディ・ハマー [ 2004/12/25 23:36:49 ]
 「ここでいいんだ、な?」
手をこすり合わせながら、同行者の1人に聞く。
「ああ」
剣を携えたそいつが短く応えた。
場所はエストン山脈の麓。
雪の降る中、茂みをかき分けて出た場所には小屋が一つ。
何ともぼろい小屋だが、こいつがただの小屋でないことは石段に仕掛けられた罠が語っている。
そいつを解除した俺は、顎で小屋の扉を示し、促した。
「マーカス。頼む、ぜ」
「ああ」
これまた短く答えて、マーカスと呼ばれた“剣”は懐から鍵を取り出し扉の錠を解いた。
だが、それだけじゃ扉は開かず。
「あとは、あんたが」
「待ってました」
こすり合わせて温めておいた手を開き、短杖を取り出す。
『我が短杖の前に錠は無力』
無音。だが手に残る魔力の手応えが、確かに障害を取り除いたことを物語っていた。
扉を開いていく中、これから手に入る宝への期待と、そいつを手に入れるにあたってのややこしい約定を思って苦笑いをする。
ただの遺跡なら気兼ねなく漁れるんだがなぁ……


一月前。
「取引をしたい」
最後の最後で取引を持ちかけてきたマーカスを、カレンは問答無用で取り押さえた。
「話をするのは俺達じゃない」
そのまま連行したカレンだったが、報告書にはしっかりと取引を記述していた。
その結果が――

「極上の遺跡情報、ってのはこれかい?」
「遺したものには変わらんだろ」
嘆息しながら、仏頂面した隣の男を見る。
マーカスが消されるようなことはなかった。だが、持っていたその情報を吐かされることになった。
ペーダーの宝。その最後の鍵。
つるんでたヤツらにも隠してたモノを吐いて、こいつは自由に……いや、自由じゃないか。
「ついていくことになった。宜しく」
最後の鍵を手にしたギルドは、ペーダーの宝を接収することにした。
今のペーダー自身手を出せずにいたものだ。問題はないだろう。
それに、ギルドに意見するほどの力もヤツにゃない。
そして、当初の予定通りフランツに遺跡の情報を貰おうとした俺にそいつの回収命令が来た、ってわけだ。
ギルドのお抱えとなったマーカスとその他冒険者を引き連れて行け、と。
まぁ、俺の取り分もあるらしいし、宝があるのは確かだから美味しいこた美味しいが。
「……他にも持ってそうだが、今回はこれで手を打つ、か」
俺の返答を聞きもせず、フランツは仕事へと戻っていった。


パシン。
手をうち合わせ、げんなりする気分を持ち直し、気合いを入れる。
開く扉。確実に宝の待つ建物。
「さぁ、新たなイベント、だ」
そして冒険者――“穴熊”達は“カメレオン”ペーダーの遺した遺産へと挑んだ。
 
事件解決
イベンター補佐 [ 2004/12/29 0:57:10 ]