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厄介な夜番
リグベイル [ 2002/08/28 22:56:48 ]
 昼間、チャ・ザ神殿前で精霊使いのミーナと待ち合わせした後、私達は、夜番の依頼人の家を訪れた。
 
 依頼人は商家の主人で、ベン・ダックと名乗った。
 彼の依頼は、ミーナの持って来た羊皮紙の内容の通り、彼の所有する蔵の夜番である。
 だがこの依頼には、少し腑に落ちない事があった。

 例え、蔵の中でどの様な物音がしても、中に入って確かめる必要はない、と言うのである。私達はただ蔵の前で見張っていれば良いと…。

 ミーナは、多少不思議そうな顔をしたが、それよりも初めての仕事とあってか、素直にこの仕事を承諾した。私も、ミーナの嬉しそうな顔につい、この依頼を受けてしまった。

 この依頼は、少々厄介な事になりそうだと言う予感が私の脳裏を横切った。

 このまま、何事も起こらなければ良いのだが……。
 
 
抑えられないのが好奇心
ミーナ [ 2002/08/29 1:23:20 ]
 むー・・・また聞こえてきた!
なんなんだろ、いったい。

リグさーん、この倉庫の中って何が入ってるか・・・う、そうでした。
あたしが事前に調べておかなきゃいけなかったんだよね。
今度から気を付けなきゃね。
・・・はい、気を付けます。

むー・・・気になる・・・。

生物とかは扱ってないって言ってたよね。
こんなに音がするのはおかしくない?
もしかしたら、ドロボウが中に入っちゃってるかもしれないよ。

どうするのかって?
ほら、あそこに窓がついてるでしょ。
リグさんが肩車してくれたら、あたしが届くと思うんだけど。

え、なんだか目が輝いてるって? き、気のせいだよ!
 
好奇心と危険は隣り合わせと言うけれど…
リグベイル [ 2002/08/29 3:00:05 ]
  むぅ、泥棒か…。その可能性は否めんが、そんな事をすれば契約違反になってしまうぞ、ミーナ。

 …そんなに目を輝かせて私を見るな。…ふぅ、分かったよ。正直、私も気になってはいたのだ。それに依頼人の態度が終始落ち着きがなかったのも腑に落ちなかったしな。

 …で、ミーナを肩車すれば良いんだな?じゃあ私の肩に跨って。…っしょっと。

(リグベイルの肩に跨るミーナを仰ぎ見て)

 どうだ、何か見えたか、ミーナ?……ミーナ?どうしたミーナ、おぃ?

 …私は、蔵の中の暗闇を凝視するミーナの返事を、訝る思いと共にただ待つ意外術を持てずにいた…

 
正体見たり
ミーナ [ 2002/09/05 1:58:18 ]
 捕まえた!
・・・あ、こら、暴れるな。じっとしてろ!

リグさーん、何かいるって思ったら猫だったよ。
きっとネズミ捕りなんだね。

・・・?
何か他にも物音? ・・・気のせいだよね?

むー、それにしてもどうやって外に出ようかな?
あ、ここにロープがあるから、向こうをリグさんが持っててくれたら・・・

・・・リグさん? リグさーん!?
 
蔵の中の生命無き住人
リグベイル [ 2002/09/05 23:01:19 ]
 蔵の外で待ちぼうけ状態だった私の耳にミーナの声が聞こえて来た。

私は自分の剣を足場に窓へ飛びつくと、窓枠に手をかけ、蔵の中を覗き込んだ。

暗い蔵の中には、腕の中にどこからか入り込んだらしい猫を抱えたミーナが、ロープを指差して、これで引き上げて欲しいとゼスチャーをしていた。

…物音の正体は猫だったのか。

安堵した私は、ミーナにロープの先を団子にして窓に投げるように言った。そして、投げてよこしたロープを受け取った私は、外の手近な木にくくりつけ、再び窓枠に取り付いた。

…登って来て良いぞ、ミーナ。

私は、ミーナにそう促しつつ、何気なく蔵の中を見回した。蔵の中は、ガランとしていて、倉庫と言うには何もない様に思われた…が、蔵の奥の方に目線を移した時、何かが動く気配がした。

私は最初、熱感知でその奥を見たが特に何も感知出来なかったので、今度は精霊力感知の力を使い、再び目線を向けた。

すると、私の目に負の精霊力をまとった何かが、ゆっくりとした動作で起き上がって来るのが、はっきりと見て取れた。

…まさか、アンデット!いやそれよりもミーナが危ない!!

私は、咄嗟に蔵の中へ飛び込むとミーナとアンデットの間に立ちはだかり、警戒しつつ腰の長剣に手をかけた…が、私の手に長剣の感触が伝わってくる事はなかった。

…しまった!足場に使っていたから、外に置いて来てしまった!!

…私は、己の未熟を叱咤しつつも、服の中に仕込んだ短刀を引き抜いて、アンデットに身構えた。

…短刀を握る手が、何時にも増して汗ばんでいるのを、不思議なくらい冷静に私は感じていた…
 
猫が架ける橋
ミーナ [ 2002/09/07 4:16:13 ]
 あれが負の生命の精霊・・・初めて見た・・・

じゃなくって! あたしも手伝わなきゃ!

ええと、シルフは? ノームは? サラマンダーは!?
リグさん・・・あたし、何の役にも立たない・・・って、こら、猫、暴れるな!
あ、待って、そっちは危な・・・あれ?

ねえ、リグさん。あの猫、平気で抱かれてるみたいだよ?
もしかしたら、悪い人じゃないのかも
話が通じるんじゃないかなぁ・・・

・・・あたし、ちょっと行ってみる!
 
厄介な夜番のその真相
リグベイル [ 2002/09/16 5:24:46 ]
 「あたし、ちょっと行ってみる!」

ミーナは、そんな軽い調子で、猫を抱いたアンデットへ歩み寄ろうとした。

ば、馬鹿!止せ!何があるか分からないだろ!!近寄らない方が…

私が、そう言って引き止めようとしたが、当の本人はアッケラカンとした感じで近づいていった。
そして、そのアンデットとごく普通に言葉を交わし始めた。

………………アンデットと普通に喋ってる……どう言う事だ?

ミーナの問いかけにそのアンデットは、首を振ったり、頷いたりして受け答えている様な素振りを見せた。

私は、ミーナとアンデットの間に何時でも割り込める様な体勢を取りながら、徐々にそのアンデットへと近づいた。

っと、その時である。アンデットの腕の中に抱かれていた猫が、短く一鳴きすると、私の直ぐ足元の場所が突然開いて、中から何者かが、ヒョイッと顔を出したのである。

私は、全身の神経をその人物に集中させながら、相手がどんな行動に出るか、それを見極める為に身構えた。が、暗がりから発せられた声でその人物が直ぐに誰であるかは判明した。

「…またか、どうして冒険者と名乗る輩は、約束事を守れんのかのぅ…」

この仕事の依頼人であるベン・ダックは、やれやれと言った表情で下から上がって来ると、手にした小さな鐘を”ティリ〜ン”と鳴らした。

すると、その鐘の音に反応する様に、ミーナの前にいたアンデットが、のろのろと棺の中に入って行った。

呆然としている私にベン・ダックは、また説明せにゃならんのか、と言った感じで私達に話し始めた。

ベン・ダックが言うには、生前の申し出により、本人が死んだ後、その亡骸を本人の故郷へと運び届ける仕事を請け負っていて、この蔵にある亡骸は、これから各人の故郷へと運び出される事になっていると言う。ただ、中にはアンデット化し、蔵の中を彷徨い歩く亡骸も稀にあり、その物音が周りから不審に思われる事があったので、その疑いを少しでも紛らす為に夜番を雇い始めたと言うのであった。

私は、ベン・ダックにそれならそうと一言説明が欲しかったと抗議したが…

「…なら聞くが、死体の夜番をしろと言って、あんたやる気になるかい?」

…と逆に聞かれ、返答に困る結果となってしまった。

…何はともあれ、この厄介な夜番が何とか無事に終えられそうだと言う安堵感が、今の私を包んでいた…
 
夜明け
ミーナ [ 2002/09/19 0:13:36 ]
 ふわぁ・・・ぁぅ、朝だね、リグさん。
それにしても、見張るのが外じゃなくて中だったなんてね。

知ってた、リグさん?
あたしたちも、この世に強い未練を残したまま死ぬとアンデットになっちゃうんだって。

あの死体のおじいさん?
死ぬ前は病気で動けなくなってて、それでも故郷に帰りたくってああなっちゃったんだって。
もうすぐ望みが叶うからって、嬉しそうにしてたよ・・・
ベン・ダックさんはちょっと迷惑そうな顔してたけどね。

あたしも生まれ故郷を飛び出してきたんだけど、
そのうちあれくらい帰りたいって思うようになっちゃうのかな・・・

・・・ごめん、さっきから酷い臭いだよね。
これ・・・、あの猫を抱いてたせいなんだ。
だってあの猫、死体のおじいさんにも・・・
 
夜明け〜光射すところへ〜
リグベイル [ 2002/09/22 4:26:14 ]
 夜番からの帰り道、可愛らしいあくびをするミーナにつられ、私も大あくびを一つ、背伸びをしながらもらした。

…ぁふ、そうだな、もうしっかり夜が明けてしまった…

ミーナは、帰る道すがら未練を残してこの世を去るとアンデットになってしまうとか、蔵の中で出会ったアンデットの老人が、生まれ故郷に帰る事が出来そうでとても嬉しそうだったとか、手振り身振りを混ぜて、とても楽しげな表情で私に話してくれた。

私はミーナの、猫の目の様にコロコロと変わる表情を楽しみながら、ミーナの話にその都度、頷いていた。すると、何気にミーナが自分の身体に鼻を近づけては顔をしかめて、私に苦笑いを見せた。

……ん、どうした?…あぁ、この臭いか。仕方ないな、あの老人にあれだけ近寄っていた訳だし、あの猫もその後ずっと抱きっぱなしだったからな…

私は、気まずそうに笑うミーナの頭を何時もの様に撫でようと手を伸ばしたが、ある思いがそれを押し止めた。

…この仕事を無事?終える事が出来た、良くも悪くも、これで私達は冒険者になった訳だ。…なら、頭を撫でて子供扱いする訳には、もう行かなくなったな…

私は、今だ臭いが気になるのか、クンクンと嗅いでは、”うぇっ”とした表情をするミーナの肩を抱き寄せて、”にぃ”っと笑って見せた。

…良し!初仕事を無事やり終えたお祝いとして、今日はどこかに旨いものでも食いに行こう!…でもその前にこの臭いを何とかしなければならないからなぁ…チャ・ザ神殿の公衆浴場で、軽く汗と疲れを流しに行こうか…?

私にいきなり抱き寄せられて、その大きな目をパチクリさせていたミーナは、私の提案に両手を上げて嬉しそうに賛成すると、善は急げとばかりにチャ・ザ神殿の方へ走り出した。

…あっ、そんな急に走り出したら危ないぞ…ってもうあんなに遠くへ…お〜い、待ってくれ〜

あっと言う間に見えなくなったミーナを追って私は、目覚め始めた街の中へ走り出して行った…
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 4:20:30 ]
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