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カゾフ往還道中記
ユーニス [ 2003/01/26 23:12:26 ]
  1の月、25の日。今日は曇天。今日は鍛錬を軽く済ませて、出発に控える。
待ち合わせ時刻より少し早めに依頼主……カウロン氏の店の前まで行くと、
既にワルロ、もといローランドさんが物陰でさりげなく周囲を観察していた。
 点検やら荷の積み込みやら力仕事に駆り出され、ケチくて渋いとの評判どおり
報酬以上にこき使おうとの意欲があからさまに見えて、かえって心地よかった。
 あんまり配慮されても裏があるんじゃないかと思うものだ。
 バウマーさんは「力仕事はお前の担当だろうが」といわんばかりに羊皮紙をめくっていた。
 
 薄い日差しの中、幌馬車がオランを出発した。
 御者台で20代後半の戦士、アルマさんが手綱を取る。短く刈った金髪に碧眼の彼は、
使い込んだリングメイルを鈍く光らせながらゆったりと腰掛けて、鼻歌混じりに馬を駆る。
手の届くところに長剣、荷物の脇に矢筒とクロスボウ。野伏でもあるようだ。
 隣にはローランドさんが見張りを兼ねて座っている。やや緊張した面持ちに見えるのは、
変装の所為だろうか。
 幌の中、荷台で高価な陶磁器の箱のそばに座るのが、依頼人カウロン氏。
脂ぎった照りのいい頭の壮年の商人。
その脇でしきりに羊皮紙をめくってはカウロン氏に何事か囁いている細身の中年男性が、
使用人のグリフィス氏。今回の取引について相談しているようだった。
 彼らの向かいの荷物にまぎれておっとりと構えているのは、チャ・ザ神官のビクターさん。
腰にはメイスを帯びている。赤毛に茶色の目、30がらみの骨太な印象の神官というより日焼けした
農夫のような素朴な印象を受ける。快活で笑みを湛えた表情は、場を和ませる効果があるようだ。
 積まれた木箱に寄りかかるようにバウマーさんが座り、眉間に皺を寄せて瞑目している。
梟は……ときどき馬車の外を飛んでは彼の肩に戻ってくる。昼光は不得手ながら、
それなりに見張りを果たしているようだった。
 私は馬車の後ろに座って目配りをしている。高低差があるところや木立の中では
側面の幌を一部巻き上げて、前の二人と連携しながら進むようにした。手元には弓矢。背には剣。
 
 馬車は”雲の上の街道”を一路、カゾフへ向けて進む。天気はさほど悪くなる様子は無い。
このまま好天が続いてくれるといい……そんな風に祈りながら、馬車の振動に身をゆだねていた。
 
敵か味方か、正義か悪か
バウマー [ 2003/01/27 23:21:16 ]
  バウマーは瞑目しながら今日も考えを巡らせていた。
 そもそも今回の護衛は、「商売の妨害や邪魔をされないこと」だ。それでいて、護衛に五人もの冒険者を雇う。往復二週間ともなれば、護衛の費用は馬鹿にならない。そこまで護衛する必要があるのか? と思っても不思議じゃない。
 
 ワルロスの調べでは、依頼主カウロンには取り立てて恨みを買うような話は入ってこなかった。かといって善良な商人というほどでもない。よくいる商人の一人とのこと。商売敵から妨害を受けるというのは頷けるが、こうまで仰々しく護衛すべきものなのか。荷物は衣類と陶器といって、別段狙われるような品でもない。ユーニスの話では、「商売敵にとっては大したものなんですよ」とのことだが、にわかに信じ難いことであった。
 
「気にくわねぇな」
 誰にも聞かれぬほどの声で呟く。
 薄目で辺りの様子を見ると、馬車の後部でユーニスが嬉しそうな笑みを浮かべて辺りを伺っているのが判る。昨日まで湿っぽい空であったのが、今日は日射しが降り注いでいる。気温も上がり、過ごしやすい一日だ。彼女が微笑むのも無理はないのだが。
「ったく、何が嬉しいんだか」
 バウマーにとって理解することは困難のようであった。
 視線を移すと、ビクターと目があった。彼は人なつっこい笑みを浮かべて会釈をした。
 その動作に、バウマーは一つの仮説を思いついた。
 
 ワルロスの調査が概ね間違いでなく、堅固な護衛が必要に迫られているとするなら、商人はどこかで悪事に手を染めている可能性があると言える。彼では調べきれないほど巧妙に事実を隠蔽できるほどの悪玉として。バウマーはそう考えはじめていた。
 
 周囲に気取られない悪事を働く。それがカウロンのやり方だとすれば質が悪い。カウロンと接点のない商人に被害が出る。直接にカウロンの商売敵でなく、間接的であるなら調査は及ばない。例えば、陶器の箱を拵える商人に被害を出させても、商売敵としては見られない。商売敵が仕入れる箱の供給が途絶えて困ることはあってもだ。
 
 それが積もり積もって、さすがにカウロンの仕業と感づかれはじめたとなれば話が繋がる。カウロン自身、幅広く無関係な商人に迷惑をかけたわけであり、その仕返しも同等に存在するといえる。だからこそ、厳重に警戒せねばならないのだ。
 
 不意に視線を感じて、使い魔の目から辺りを伺うと、先ほどのビクターがこちらを見ている。「なんなんだこいつは」とバウマーが思うと、梟の視線に感づいたのか、ビクターはばつの悪そうに視線を泳がせた。
 
「戦士と神官が仲間である保証はない」
 それは、一昨日から思っていることだ。彼らが買収されており、護衛と称して近づいて来たのならば、妨害工作を防ぐことは難しい。
(この俺様を一番の使い手と見て、監視か?)
 そこでもう一つの仮説を思いつく。元々ビクターたちが正義であり、自分たちは悪事に荷担しているのではないかという仮定。
 カウロンがとんでもない悪事を働き、その仕返しとして神官を派遣してきたとなれば、大義名分は彼らにある。傭兵や冒険者が知らずに悪事に荷担することはよくある話だ。依頼主の素性を正確に調べきれなかったのが悪い。
 しかし、今回はワルロスが調べてきており、悪徳商人と言われるほどではないとなっている。バウマーはにわかにその調査を信じる気にはなれなかった。それは神官の態度もあってのことだ。
 バウマーの想像通り、ビクターたちには正義があるとなると、被害を防ごうと働くバウマーたちの存在が邪魔となる。特に魔術師の存在は厄介だ。ビクターがバウマーを監視するのも頷ける。もしくは、敵対するか味方に引き込むのか決め倦ねているのかもしれない。
 
 そう考えている間に、更に別の仮説を思いつく。カウロンが禁制の品、麻薬などを扱っており、ビクターは潜入操作として潜り込んできた捜査官ではないか。
 バウマーの一つの仮説は際限を知らなかった。
 

 昼の休憩時に、ビクターからバウマーに話しかけてきた。
「この仕事はどこで引き受けたか」「仲間のみなさんとはどのくらいの付き合いか」など、こちらの事情を探る行為である。当然のことにバウマーはオウム返しで聞き返す。
 互いの間に妙な空気が流れる。
 
「いよいよ来たか」
 バウマーも彼らとの関係に白黒はっきりつけるべきと考えていた。足並みの揃わない仲間ほど脆いものはない。いつも通りの軽口で、質疑をかもし出す。それに応じるビクター。
 二人の会話は次第に熱くなっていった。
 
「ほぉ、聖印下げてりゃ、聖人に見られるったぁ思うなよっ!」
 いつもの調子で、バウマーは失礼極まりない台詞の数々を吐き続ける。ビクターもそれを適度にかわしながら、攻め返す。
「無闇に人を蔑む言い方はおやめなさい。人の程度が知れます」

 そこへ割って入ったのがユーニスであった。二人の剣幕を知って駆けつけたのだ。慌ててバウマーの腕をむんずと掴み、ビクターの前から引きずっていく。
「イテテテ、離せってのこの馬鹿力めがぁ!」
 馬車の陰間で引っ張られたところで、腕を振り払う。
「なんてことしているんですかっ!」
 チャ・ザ神官相手にまさかやるとは思っておらず、ユーニスの言葉に力が籠もる。二人ともいい人な感じで、協力し合えたら頼もしい二人だと思っていたのにこれだ。
「うるせぇ。判ってんのか筋肉娘」
「き、きんにく……」
「奴らが信用に値するって裏付けはねぇんだよ」
 口をぱくぱくしているユーニスにバウマーは仮説で考えたことをまとめて語った。

「ええぇっ、そうなんですかぁ!」
 自分らが実は悪事に荷担している仮説に驚いたのか、彼らが妨害工作員であるのに驚いたのかは不明だが、ユーニスは目を見開いて馬車の陰からビクターを覗き見た。
「このバカタレ」
 バウマーがユーニスの頭をペシッと叩き、引っ込めさせる。
「んな面で見るんじゃねぇ、怪しまれるだろうが」
「既に手遅れだと思うんですが……」
 そこで休憩時間は終わり、先へ進むこととなった。
 
 バウマーたちとビクターたちとの関係は最悪な状況に来ていた。それでも互いに役目は疎かにすることなく、周囲に気を配っていたが、この日も怪しい気配はなかった。
 
(無題)
ローランド(ワルロス) [ 2003/01/29 20:24:58 ]
 出発して5日目の夜。野宿ではなく街道沿いにある宿場町で一泊。
おれは剣士のアルマと酒を飲み交わしていた。
もともとおれがひとりで飲んでいたところにむこうが絡んできたのであるが。
出発してすぐ後悔したことがある。こいつらのことを調べてなかったことだ。旅の連中と言うのだから調べても大したことは分からなかったかもしれないが、調べないよりはいくらかマシだったろうに。

依頼主について。仲間について。前の仕事について。
最初はお互いに腹のうちを探り合うような話だったが、この男、酒を飲むと頭の回転は悪くなり、口の回りはよくなるようだ。

バウマーの言っていたことを思い出す。神官のビクターともめてから特に、あいつは誰が信用できて誰が悪なのか、見極めようとしているようだ。
……もしかしたら、その対象には依頼主どころかおれまで入ってるのかもしれないが。

とにかく、アルマに酒をすすめ、適当におだててればあっさりと警戒を解いてべらべらと話してくれた。
曰く、所持金が心もとなくなって来たために仕事を請けた。
カウロンの商売については詳しくは調べてはいない。
しかし怪しいところがあれば無視するわけにはいかない。
もし問題があるのならばビクターは黙ってはいないだろう。

そして最後に、
「まだあんたらを信用してるわけじゃないからな、ローランドさんよ」とのこと。
……これだけ話しておいて、いまさらそんなことはどうでも良い。
こちらも話して良いと思われることはある程度話しておいた。警戒を解くためには秘密主義は効果的ではないし、何より意味がない。
おれはぎすぎすした雰囲気が好きではないのだ。

仲間にはアルマが言ったことはそのうち話しておくことにする。バウマーの野郎が気を張っているのもこれでいくらかマシにはなるだろう。
……もっとも、それもこちらを騙すための演技だ、などと言うのかもしれないが。

出発して6日目の朝。馬車の点検。すべりが悪くなっているので少し車輪の間に油をさしておく。
今朝も馬車には特に異常なし。中身も問題は無しだ。
「おはようございます、ワ……ローランドさん」
続いて起きてきたユーニスに適当に挨拶を返して交代する。朝食を取るために宿に戻った。
バウマーひとりだと他の連中に何をするか分からない。

天気は昨日に引き続き快晴。カゾフまではあと少しだ。
 
カゾフ到着
ユーニス [ 2003/01/31 22:43:22 ]
  出発から7日目の夕刻。ようやくカゾフに到着した。狭い車中の緊迫感が、道中を並ならず
窮屈に感じさせていたのだろう。夕闇の中、風乙女の届ける潮の香りが心地よく思えた。
 カウロン氏は、到着後すぐに港近くの宿に旧知と見える商人を訪ね、リスト片手に商談を始める。
長旅が堪えた様子は微塵も見せず、粘り強く交渉する姿は商人の鑑ともいえよう。
 商品の検品と引渡しは明朝以降とした。絹地は日光と灯火では光沢や色彩が異なって見えるためだ。
玄人にはさして障りが無いとはいえ、見極めは仄かな灯火よりも陽光の方が適しているようだ。
かといって、長時間陽光にさらせば絹地は日に焼ける。瞬時の判断を要求される作業でもあった。
 念のため交替で夜間二人ずつ組み、馬車を警備することにした。商品引渡しまでは気を抜けないが、
とにもかくにも行程の半分をこなせたことに安心と肩透かしのような感を抱いた。
 
 翌朝。早くから荷卸と検品が始まった。
 荷卸はバウマーさんも手伝わされ「何で俺様が……」とぶつくさ呟きつつ小物を運んでいる。
しかし、彼がいたずらに肉体労働に従事するはずもなく、相手方の商人が荷解き・検品する横を
さりげなく通っては梱包材と商品、そして手許をそっと観察している。
 傍目には、目つきの悪い魔術師が高級品を品定めする様に見えるのは僥倖というべきだろうか。
 ワルロスさんも同様で、品数の過不足やら、禁制の品を運ぶときにありがちな隠蔽工作を探っている
様であった。記憶術は”鍵”の得意分野でもあるし、裏事情については言うまでもない。
そういう勘所は、やはり本業ならではの働きがあるのだろう。
皆が皆、自分の得意分野で何かを見出そうとしていた。私は力仕事だけだった……かもしれない。
 夕刻前には全て納品が終わり、馬車は空になった。明日からは仕入れでカゾフを回る。
問屋や船を直接回って手数料を少しでも浮かす算段らしい。ワルロスさんは浮かない顔だった。

 今日は夜まで自由時間。私だけはそのまま港で別れた。
 理由は道中皆にも言ったのだが、昔の仲間がここから「呪われた島」へ旅立った可能性があること。
いずれ機会があれば乗船名簿を調べようと思っていたからだ。
「ルーセントのおっちゃん、もしかして本当に行ったのかしら」
 港で尋ね歩き、乗船名簿を見せてもらう事にした。不定期にしか出ないので探すのは簡単だった。
「うわっ、いくら魔術師だからって、興味の赴くままに出掛けるって無謀よ」
名簿には、数人の仲間と共に船に乗り込んだ旨が記されていた。
 私が大きなため息を吐いていると、暇そうにしていた船員達が話を聞いて集まってきた。
形見わけをする筈だった言うと彼らは笑って、どっちが形見になるか判った物ではないと言った。
全くだ。実際渡すはずだったものは彼の妹さんに預かってもらっているからよいのだが。
 そのまま気のいい船員達と談笑する。彼らの中には昼間の船の乗員達も居た。水を向けてみる。
 「そういえば今、護衛で来ているんですけれど、カウロンさんっていつもああいう感じですか? 
商人の鑑というかなんと言うか。」
 「あん人は渋いからな。ムディール人らしいっちゃそうだな。俺らの故郷の連中はあんな感じさ。
それにしても、久しぶりにグリフィスを見たな。ここ数年あいつは留守番らしくて顔を見なかった。
ここのところはあいつの替わりに店の若い衆を引き連れて来てたよ。」
 何となく引っかかるものを感じた。
「へぇ、彼は古株なんですか? 見ていても番頭さんのようでしたけれど」
船員達は笑いながら応えてくれる。
「ああ、あいつは古いよ。カウロンの下で随分苦労したようだ。自分でいうのもなんだが、
ムディール人社会じゃ他所者は苦労するからな。ちょっと見ないうちにやせた気がするよ」
 
 他には大したことも聞けなかったが、明日この船から買う今年の絹はかなり質が良く、オランの
ムディール社会では高値で売り捌けるだろうということだった。
 目端の利くカウロンが各地に商品が流れる前にカゾフで買い付けるのは尤もなことである、とも。

 とりあえずバウマーさんとワルロスさんに、そっと伝えておいた。
帰路の荷物は上質な絹となれば、オランで積んだ絹より高値も予想される。
 どうやら文字通り重荷になりそうだった。
 
根元は何か
バウマー [ 2003/02/02 17:35:58 ]
  2の月も2つ目の日を数えることとなった。護衛の仕事は特に変化はない。
 あれこれと事件の可能性を探っていたバウマーも、予測していた可能性のほぼ全てを白だと考えるようになっていた。ただ一人、グリフィスを除き。
 ユーニスからの情報で、急ぎワルロスに調べてもらう。
「マユっ! 判るまで戻ってくるんじゃねーぞ!」
 ワルロスは変装しており、今はローランドと名乗っている。その変装で、特徴的になった眉毛を指し、バウマーが付けたあだ名である。呼ぶ度にユーニスが吹き出しかける。
 なにか言い返そうと思うワルロスであったが、その言葉を飲み込み調査に足を向けた。些細なことで言い争ったところで益はない。まだ“ワンコイン”と呼ばれぬだけマシとも言える。

 夕刻、変化が起きた。
 馬車に忍び込もうとした子供をバウマーが捕らえたのである。魔術により景色に同化していたため、子供は彼の存在に気がつかなかったのだ。
 ワルロスの情報で、カウロンの荷物を狙っている動きがあると知り人を払って隙を作って見せたのである。そんな単純な作戦に引っかかるとは思えなかったが、こうして子供が網にかかった。

 グリフィスの情報は、カウロンへの愚痴にも似た発言を聞いた者や、罵倒されている現場を目撃したことがあるという話など、今回の件に繋がる動機のようなものは見え隠れしてきた。
 以前まで使われていた若い衆は、どうも商品に手を出し横領していたことが発覚し、酷い罰を与えたとも。ただそれは、濡れ衣という話もあり、確たる証拠もなく処罰したという噂もあった。その若い衆とグリフィスとの関連は調べきれなかったが、もう少し根気よく回れば、何か掴めるかもしれないとワルロスは報告の最後に付け加えた。

 捕らえられた子供は、「何があるか見たかっただけ」「何も盗ろうとしてない」など、自分の無実を証明しようと必至であった。バウマーも馬車に上がり込んですぐではなく、商品に手を掛けたときに捕らえれば言い逃れされずに済んだのだが、そこは魔術師故の詰めの甘さだったのかもしれない。

 暴れ回る子供に、「近づくんじゃねー」とバウマーの一言で解放することにした。全力で駆けていく子供を見ながら、「マユ」と一言発する。「判っている」と、気怠い声でワルロスが応じ、そのあとをつけていく。

 ワルロスの報告では、子供はやはり誰かに命じられたもので、失敗した報告を誰かにしていた。おそらく同業かと思われるが、下手に踏み入ると、こちらの素性がバレる恐れもあり、確認に留めておいた。もちろんバウマーに突っ込まれることになったが、ドジを踏んでから後悔したところではじまらない。慎重になることは悪いことではないはずだ。ワルロスは今後の対応を訪ねた。
「踏み込むのか? それとも出方を待つか?」

 依頼は護衛である。その根元となる原因を究明し、解決することではない。余計なことはしないのがプロである。ワルロスが確認で止めておいたのにもそうした理由があってのことだ。
 ビクターたちも交えて相談したが、結局カウロンの判断に任せることとなった。
 グリフィスの怪しさは伏せたまま、カウロンに夕刻の出来事を話したところ、後日指示を出すと返ってきた。
 当然、護衛とは違うため、根元の原因を断つとなれば別報酬が用意されなければならない。護衛と調査解決とでは仕事の内容もハードルも大きく違うからだ。

 なにもないまま3の日を迎える。
 これといって指示もなく、馬車の警護につく。カウロンは得意先回りをしているとかで朝からいない。
 グリフィスをさりげなく監視するが、昨晩から特にこれといった動きはない。昨日の出来事はグリフィスとは関係ないところで起きていたことなのか、そんな疑問も沸き上がってくる。

 そうこうしている間に昼となり、休憩を入れる。
 三人交替で食事をということになり、先にバウマーたちが荷から離れることになったが、この後別の事件に巻き込まれるが、それはまた別の話である。

 随分長い時間をかけた食事を終え、荷に戻るとちょうどカウロンが戻ってきたところであった。
 結局、仕事は護衛のままということとなった。解決するにも時間が必要であり、万が一、今日明日中に解決しなければ、手間賃を払うだけ無駄となるからだ。何か釈然としないものを感じるが、依頼主が決めた以上従わなければならない。余分な仕事をしてきた三人にはその方がありがたくはあった。

 中途半端な気持ちで護衛を続けなければならなくなったとワルロスは考えていた。
 昨日の子供の後ろにいるのはギルドの者。締め上げれば依頼主を聞き出せるかもしれない。しかし、同時にローランドに変装しているワルロスの正体を見抜かれる恐れもある。バレたら仲間から外される。そういう約束である。ワルロスは一抹の不安を感じていた。
 不安になるほどよくない事態を招く。一つの歯車が狂うと全てが音を立てて崩れていく。
 商隊がいくつか集まる中、ワルロスは最も会いたくない人物を目撃してしまった。
 
太い眉の成果はいかに?
ローランド(ワルロス) [ 2003/02/05 22:28:42 ]
 カゾフ。この街には嫌な思い出がたくさんある。
親には勘当された。おれよりもできの良い弟の方が頼りになるし、使える。いまさら恨んではいない。
ギルドに拾われ、挙句に3年間の獄中生活。その中にはさらに細かく嫌なことがあった。
1000日を数え、シャバに出てくれば、同じ部屋で暮らしていた女は別の男とくっつき、さらにその野郎に首を切られたと言う。

ここにいるとさらに嫌な思い出が増える気がする……その不安をかき消そうと首を振り、馬車の監視を続けた。
おれは馬車から離れ、辺りを見回せる位置にいる。狙うものがいた場合、全員が固まっていては対応できないかもしれないからだ。
馬車の近くにバウマー以上に怪しい影はない。別の場所からなら、怪しい視線を感じる。明らかにカタギ、ついでに言えばこの街のものでもないおれを警戒しているのだろう。
その視線の主は、特にどうと言うこともないふりをしておれに近づいてきた。

「やぁ、兄さん。仕事に精が出るねぇ」
そいつはおれの知った顔だった。少なからず驚きが走るが、顔には出ていないはずだ。
「見れば分かるよ。オランからだろ?」
自分の体のあちこちを触りながら、そいつは続けた。おれたちのようなものが使う符丁の一つ……言いたいことは言葉そのままではない。
すなわち、「よそ者が、この街で何をしている」

「あぁ、これが終わればすぐに向こうに逆戻りさ」
声を普段より若干抑えて言う。
意味は伝わっているはずだ。「ここで盗みなんかするつもりはない」
「さすが、忙しいねぇ。……あんた、名前は?」
じっとおれの目を見据えて言ってくる。まさか、変装に気づかれているだろうか?

「ワル……ローランドさん」
ユーニスが明らかにおれに向けて言ってきた。あの馬鹿……。
「『ワル』のローランド? 変わった名前で呼ばれてるねぇ」
「あ、あぁ、仲間を裏切ったと濡れ衣を着せられたことがあってな。
 それ以来、皮肉で言われてるんだ」
ユーニスがおれの肩を掴んだ。
「あの、ちゃんと仕事しろってバウマーさんが……こちらの方は?」

ユーニスのその言葉を無視して男は言った。
「嬢ちゃん、あんまりお仲間をいじめちゃ駄目だぜ。
 この街にもな、名前は言えないが「1ガメルに泣く」って不名誉な二つなのやつがいてな。
 そいつは耐え切れなくなってここを飛び出しちまったのさ」
「そ、そうですか……」
額に汗を浮かべるユーニスをその場において、さっきからマユマユとうるさいバウマーと馬車の方に行くことにした。
これ以上あいつと話しているとボロが出る気がする。

その夜。夕食中にユーニスが口を開いた。
「昼間の人は、誰だったんですか?」
「『窓際に立つ』ガロン」
「ほう、この街のギルドのものか?」
バウマーが割り込んでいった。
「それだけじゃない。おれが牢に入っていた最後の90日はあいつと一緒だった。
 まさかもう出て着てやがるとはな……」
何がおかしいのか、バウマーがにやりと笑った。
「ほほう、つまり……?」
まねをするわけではないが、不適に笑ってやる。
「つまり、おれの変装は完璧だと言うことだ」
 
襲撃(修正版)
ユーニス [ 2003/02/08 2:10:31 ]
 カゾフを出発して二日目の夜更け。街道を一歩入った広場で野営しているところを襲われた。
空を切る音に剣を取った瞬間、馬車目掛けて火矢が打ち込まれた。慌てて他の面々を起こしながら
剣を抜くが、次々に打ち込まれるので消火に追われがちになる。

 その隙をついて、繋いであった馬に襲いかかろうとする影がひとつ。
 綱を切って馬を放ち、身動きを取れなくする算段だったのだろうが、ワルロスさんが
それを見逃すはずも無かった。
 
静かに相手の背後に回り、ダガーを背に沈ませた。急所は外してある。
薄い皮鎧の男は呻き声を上げて、くず折れた。
 「こいつ……」
 足元にうずくまる男を見て、ワルロスさんが呟く。カゾフで子供を使っていた男だった。

 「マユっ、一人は生かしとけよ!」
 「んなこたぁ判ってる」
 馬車の入り口で中の二人を守るバウマーさんの声に、面倒くさそうに応えるワルロスさんの返事を
後ろに聞きながら、私は剣を構えて索敵に集中する。
 バウマーさんが、”灯火”の呪文を唱えた。木立側の空間に灯された明かりが目を助けるが、
さすがに奥の方までは届かない。
でも、私とアルマさんは野伏。森の気配を読むのはお家芸だ。さらに言えば私は精霊使いでもある。
 私は神経を研ぎ澄ませて相手の気配と”熱”を探る。
 火矢は撹乱と火災の両方の効果を狙ったもの。しかし馬を放てず、仲間は負傷。
それでも”剣”は出てこないというならば……少数精鋭で一気に片をつけるつもりだったか。 
 そのとき、木立を閉ざす闇の中に一瞬何かが見えた。
 「アルマさん、右斜め上っ!」
 過たず、アルマさんが矢を放つ。続く落下音。そして。
 「痛!」
 剣を構える右手が衝撃を受ける。光霊がぶつかった、つまりは”霊”もいる。
しかしどうやらバウマーさんを狙える位置にはいなかったらしい。不幸中の幸いだ、と思った。
 辛うじて取り落とさずにすんだ剣を構えなおして、視線を森に向ける。
 「”霊”がいます、気をつけて」
 馬の近くに回りながら皆に呼びかける。とりあえず”霊”を仕留めないことには。
この上”杖”まで居た日にはたまらないけれど、”暗黒”のとばりを掛けてこない所を見ると
いないのだろうか?
 「油断するなよ」
 ビクターさんと入れ替わり、こちら側へ来たバウマーさんが呟く。馬を守りつつ、
バウマーさんに魔法の援護を掛けてもらう。
 初歩の精霊魔法の届く範囲は、”灯火”の灯りの範囲と殆ど同じだ。
これは、”霊”にとっては結界を張られているのと同様だった。自ら光の中に踏み込む愚行を
犯しはしないだろうし、闇の精霊は打ち消されてしまうからだ。
 つまり、この時点で仕掛けてこないのは、不利を悟ったからとも考えられなくはない。
 
 ふいに、首筋にざらついた感覚が走る。
 感覚の示すまま振り向くと、街道寄りの闇の中で小さく何かが煌くのが見えた。
反射的に、盾を構えて叫んでいた。
 「バウマーさんっ!」
 盾にダガーがぶつかる衝撃と相前後して、バウマーさんの打った”光の矢”が
私のすぐ脇をすり抜けていった。


 逃走を図った”霊”と”野伏”を取り押さえようとしたり、ワルロスさんが刺した男の
応急処置をしたりと、忙しく立ち回って居るうちに空は白み始めていた。
 3人が捕縛されたとき、グリフィス氏はすっかり顔色を失っていた。
小心なのか何なのか、馬車の床にへたり込んで、肩から力が抜け切ってしまっている。
 
「さて、話してもらおうか」
 そんな彼を横目に見ながら凄みを利かせたワルロスさんの言葉に、
身を縛められたままの3人は俯き、あるいは敵意を目にみなぎらせて、口々にこういった。
 
 「俺らに聞くよりも、そこの野郎に聞く方が早いんじゃねぇか?」
 ”そこの野郎”と呼ばれた男……グリフィスは、悄然とした顔をあげた。
 
危機過ぎ去りて
バウマー [ 2003/02/08 23:01:58 ]
  グリフィスは観念して話し出した。
 カウロンの使用人の扱いの酷さや、汚名を着せられて晒し者にさせられた若い衆のことを。それに耐えかねての仕返しが原因であった。だから命を狙う訳ではなく、荷を狙ったのだ。
 その話を聞いたカウロンは、「若い衆は確かに横領していた」と話す。その事実関係は、結局調べきっていないためバウマーたちには口を挟む余地はなかった。扱いの酷さが元で事件を引き起こすまでに至るとはカウロン自身も思っておらず、「待遇は見直そう」と約束した。ただ、カウロンはグリフィスの怪しい動向には気がついており、それで護衛を雇ったことも話した。「馬鹿な真似はするな」との警告の意味での護衛であったのだが、彼の気遣いは無為に終わった。その話を聞いて、がっくりとうなだれるグリフィス。

 グリフィスに雇われた三人は、持ち金を巻き上げてから解放する。当然、護衛を見事果たしたバウマーたちに分配されたが、燃えた帆を張り替えるための値は差し引かれた。
 グリフィスは縄で縛ったままオランまで連れて行くこととなった。衛視に引き渡すかどうかはカウロンは答えなかった。彼にもいろいろ考えがあるようであった。


 翌日、カゾフを離れて五日目、2の月、9の日のことであった。
 朝から深い霧が発生し、辺りの見通しが悪かった。一番の危険性は取り払われたものの、野盗が襲って来ない保証はない。バウマーたちは前と変わらず警戒しながらオランへと進んでいた。

 前方で馬の嘶きが聞こえ、何か倒れるような音が響いた。先ほど、カウロンの馬車を追い抜いていった馬車がある。それだと誰もが思った。
 荷が多く、歩かされている一行は、そのまま走り出した。ユーニスとアルマ、そしてワルロスの三人が駆けていく。手綱を持つビクターとバウマーは辺りを警戒してその場で馬車を止める。いつでも呪文を唱えられる準備をする。

 駆けていくと、馬車が横転して幌が燃えているのが見える。馬も綱に引きずられる形で倒されており、背後で燃え広がる炎から逃れようと必至であった。
 アルマはすぐに手綱を切りに向かう。ユーニスは、逃げていく男の姿を捉えていた。
どうやらその男はこの馬車を狙った野盗と思われた。
「止まりなさい」
 無駄とは知りつつも、警告を与えてみるが、男は丘陵への崖を登っていく。もう一度警告を大声で伝えるが、男の足が止まる気配はない。
 ユーニスは弓矢を放った。霧を割いてそれは男の背中へと突き刺さった。男は倒れたものの崖から落ちはせず、なんとか立ち上がると雑木林へと逃げていった。
 慌てて後を追うユーニス。矢の刺さった位置が気になったのと、横転した馬車の脇で死んでいる御者の姿を見て、追わねばと思ったのだ。男の他に仲間の気配は感じられなかった。

 燃えさかる幌のせいで、荷物を取り出すことが難しかったが、ワルロスはいくつかの荷を外へと持ち出せていた。アノスからの工芸品やら、書物が大半であった。じき近づくこともできぬ火となり、燃えていく馬車を眺めるしかなかった。

 アルマの働きで、荷馬は無事であった。御者の死因は馬に蹴られたためだと思われた。胸部に蹄のあとがくっきりと残っていた。馬車が燃えたのは、ランタンが壊されたからだと。この深い霧の中を照らしていたランタンだ。それを矢で壊され、引火したのではないかと考えられた。事のいきさつは御者が亡くなっているため判らなかったが、どうやらこの御者が商人その人のようである。他に人影はなかった。

 一行は、ユーニスの戻りを待った。しばらくして彼女は戻ってきた。亡くなった商人の懐から抜き取った財布を手にして。矢を射た男は死んだという。どことなく元気のないユーニス。どうやら殺してしまった男の事が気になっているようであった。彼女は財布の他に鉈を持ってきていた。
「判らない。でも伝えなければいけないような気がして」
 鉈には死んだ男の名が刻まれてあった。男は農夫のようだと思われた。それからすると近隣の村人ではないかと推測できたが、確かなことではない。賊に成り下がった男であるなら気に掛けることもなかったが、死ぬ間際、自分を妻と見間違え、財布を手渡す男の笑みを見て遺族に伝える義務を負ってしまったと感じていたのだ。
「勝手にやってろ」
 バウマーは相手などしてやれんと言いながらも、この近くにある村の名を知らせた。“ウィルディン”という村があるが、ここらは貴族の相続争いが起きているとかで、安全とは言い難い土地であった。

 荷の確認に精を出していたワルロスは、商人の顔を見てギョッとした。
「ロン爺……」
 見知った顔だった。追い抜かれるとき気がつかなかったが、確かに「ロン爺」である。オランで日が浅いワルロスであったが、店の手伝いなどで小銭をもらったことがあった。娘さんと孫がいたと思う。商人が死んだならば、その荷や身ぐるみは頂戴できると思っていた彼であったが、知りあいとあってはそうもいかない。おまけにここにはビクターという神官がいる。迂闊に口を滑らせてしまったことを後悔した。

 ロン爺と呼ばた商人は、街道脇に埋葬してビクターが供養の祈りを捧げる。助け出した馬に持ち出した荷をくくり、カウロンの馬車のあとを歩かせる。ロンの遺族に渡さなければいけない。財布とこの荷が、彼の家庭を支える大切なお金であるはずだからだ。

 一行は、遅れを取り戻すべく先へ急いだ。オランまであと二日。

 一方、オランへと向かうのは彼らばかりではなかった。とある噂も流れ出していた。
 それは、「1ガメルに泣く男がオランにいる」との情報である。
 “窓際に立つ”ガロンはワルロスの変装を見抜いていた。正確にはユーニスの言いかけた「ワル」という言葉があってこそ気がついたものだが、一度感づけば変装はあってなきのごとく、見ればみるほどワルロスその人にしか見えなかったのだ。
 彼の名誉を思って声こそかけなかったが、カゾフを逃げ出した先が目と鼻の先のオランであるなら、あちらのお仲間にも「よろしく」と伝えておく義務があろうと思って伝言を頼んだのであった。

(エピソード「野盗」と関連しておりますので、そちらもご一読ください)
http://members.cool.ne.jp/~imamaki/forum/forum.cgi?Work=Part&Forum=episode&No=&Num=288
 
カゾフ往還道中記・最終頁
ワルロス [ 2003/02/11 22:53:24 ]
 オランの街の門をくぐり、カウロンの店まで馬車を運んで、仕事は終わった。
この後カウロンやグリフィスがどうなろうとおれの知ったことではない。
仕事、とりわけおれらのような冒険者の仕事は契約の上で成り立っている。少なくともおれはそう考えている。
依頼主が仕事の後どうなったかなんておれの知ったことではない。
依頼する側と仕事を請ける側の関係なんてそんなものだ。風の噂で聞く程度で十分。

……が、ともに仕事をする仲間ではそうもいかない。
ユーニスは盗賊まがいの農民を手にかけてしまったことをひどく気にしているようだ。
その財布はロン爺のものだ……とは思ったが、言わないでおいた。盗まれた物はその時点で盗んだやつのものになる。
……もっとも、捕まってしまえばその限りではないが、捕まえた本人が家族に渡すつもりならそうさせてやるべきだろう。

バウマーは……問題ないだろう。すぐにでも次の仕事か仲間でも探し始めるに違いない。
ユーニスのことをまったく気にかけていないことはないだろうが……報酬を分けたあとすぐに分かれてしまったのでどうするつもりなのかはさっぱりわからないが。

ロン爺の馬と荷物は、すぐに家族に返しておいた。
どうするつもりなのかと聞くと、娘の夫……婿養子だが、そいつが跡を継ぐという。
ロン爺に比べればずっと頼りない気もするが、家族も協力するというし、いきなり一家そろって夜逃げと言うことはあるまい。

変装をとき、ワルロスに戻る。やはり何もつけないのが一番しっくり来る。当たり前だが。
粗末な椅子に腰掛け、銀貨、そして金貨の枚数を数える。金は数を数えるのが楽しくて良い。
報酬は悪くない。むしろ十分だ。これだけの値段で仕事ができるとなればギルドも俺の実力を認めないわけには行くまい。
後味の良い仕事とはいえなかったが、気分はすこぶる良い。ここでの初仕事であるせいもあるかもしれないが。

眠る気になれない。俺は夜のオランに出ることにした。いまだ慣れない土地ではあるが、それを歩き回るのも悪くない。
 
カゾフ往還道中記〜最終頁の裏側に〜
ユーニス [ 2003/02/12 23:43:06 ]
  オランに帰ってきた。カウロン氏から報酬を受け取り、その場で分配した。
バウマーさんは金銀入り混じった取り分を確かめると、すぐに立ち去った。
きままに亭に帰るのだろう。
 ワルロスさんは亡くなった知り合いのお店に馬と荷を届けに行くという。
私も荷を手伝う為同道した。ロンさんというその方の財布を預かったままだったからだ。
 
 ロンさんの店について、悲しい役割を淡々とこなすワルロスさん。私には真似が出来ない。
でも、この気持ち……野盗の家族に逢いに行きたいと思い続けるなら、出来なければ成らない。

 ワルロスさんは、私がロンさんの財布を野盗の家族に渡すと思っているらしい。
ふと私に視線を向けた後、私を促すことも無くロンさんの跡取りと何やら話し始めた。
”鍵”の感覚で私の行動を捉えようとしたのだろう。
 盗まれたモノは盗んだ者の所有という感覚は、確かにこの世界に存在する。
でも、私はギルドの者ではない。
 涙に咽ぶロンさんの娘さんに、そっと遺品の財布を手渡した。
これで、私の”預かり物”の一つが遺族に戻った。”もうひとつ”をどうするかはこれから考える。
ワルロスさんに特に説明する必要を感じなかったから、その場で軽く挨拶だけして別れた。

 財布は随分重くなった。途中で襲撃してきた盗賊の持ち金も報酬に加算されているからだ。
予定よりは多いその金の重みを懐に感じながら、今後の方策を考えてみた。

 とにかく、預かってしまった鉈は野盗、いや農夫の遺族に返しに行こう。
そして、真実を伝えて帰ってこよう。
 けれど、今すぐに行くのは帰って遺族に迷惑を掛けるかもしれない。
追い詰められていた農夫の様子から、行き先の村が緊迫した情勢であるのは想像に難くない。
その場合、私のような外部の、しかも冒険者が接触する事は、跡目争いに緊張する土地では
要らぬ嫌疑を掛けられるに充分な要素となる。
 とりあえず、調べられるだけ調べたら、状況に納得したら、いこう。
”ウィルディン”という名の村へ。

 今日、オランに帰ってきた。一つの仕事が終わり報酬を得たが、私の仕事はまだ終わっていない。
 
−あらすじ−(カゾフ往還道中記を読む前に)
バウマー [ 2003/02/13 2:56:53 ]
  カゾフ往還道中記を読まれるに辺り、以下の点で進行しています。それを踏まえていただければ、話の転じ方が理解しやすくなると思います。
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<> この雑記帳は三人のPLによってリレーで構成されています。<> ユーニス、バウマー、ワルロスの順で二日単位で進行しています。そのため、話が飛ぶことが多く理解に苦しむかもしれませんが、ざっとの流れをここで紹介しておきます。
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<>最初の日付がフォーセリアの日付。
<>「雑記帳タイトル」>書き込みナンバー、書き込み日付、担当PC<>となっております。把握に役立ててください。
<>
<>
<>1/23〜24
<> チャットプレイ中で仕事が入り、事前調査を行う。
<> ここで、依頼主の設定や仕事の内容が若干決まる。
<>
<>1/25〜26
<>「カゾフ往還道中記>No.1−1/26 ユーニス
<> オラン出発。依頼主の情報、同行する別の護衛の紹介。
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<>1/27〜28
<>「敵か味方か、正義か悪か」>No.2−1/27 バウマー
<> 道中。護衛の内容に疑問を持つバウマーが、危険性を探る。
<>
<>1/29〜30
<>「無題」>No.3−1/29 ワルロス
<> 道中の酒場。白黒はっきりさせるべくワルロスがアルマに探りを入れ疑念を解消していく。
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<>1/31〜2/1
<>「カゾフ到着」>No.4−1/31 ユーニス
<> カゾフ到着。カゾフで昔の仲間を捜すユーニス。その途中で使用人グリフィスの疑念が浮かぶ。
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<>2/2〜2/3
<>「根元は何か」>No.5−2/2 バウマー
<> カゾフ。変装した姿が眉毛に特徴があったワルロスを「マユ」呼ばわりしてこき使うバウマー。荷馬車へ子供が忍び込もうとしたり、グリフィス絡みの情報が集まりだす。
<> その途中、港で別の事件が発生する。>もう一つの仕事
<> その後の小話。>もう一つの仕事(番外編)
<> 真相解明せよと命令されれば、護衛以外の仕事が発生するが、そうはならなかった。
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<>2/4〜2/5
<>「太い眉の成果はいかに?」>No.6−2/5 ワルロス
<> カゾフでの過去。ワルロスはカゾフ出身である。ここには嫌な思い出がたくさんある。腕前をバウマーたちに知らしめるために承諾した変装がここで見破られなければ「仲間」としてパーティに加えられるとの話。共に牢屋に入っていてた“窓際に立つ”ガロンと出会うが……。
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<>2/6〜2/7
<>「襲撃(修正版)」>No.7−2/8 ユーニス
<> 帰路。ついに襲撃を受けることになるが、これを撃退。
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<>2/8〜9
<>「危機過ぎ去りて」>No.8−2/8 バウマー
<> 帰路。犯人はついに観念した。護衛の本来の目的は達成されたが、霧の中、馬の嘶きと激しい音が聞こえる。別の馬車が野盗に襲われたのだった。>野盗
<> 野盗から財布を取り戻したユーニスはどこか元気がない。
<> 襲われた馬車の荷物を拝借しようとしたワルロスが、倒れている商人を見て驚く。知りあいであった。
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<>2/10〜11
<>「カゾフ往還道中記・最終頁」>No.9−2/11 ワルロス
<> オラン到着。カウロンの店まで護衛を果たし仕事は終わる。グリフィスがその後どうなるかは関係のない話だ。
<> ワルロスは知りあいの商人に遺品を運び、事は片づく。抜き取られた財布は、抜き取った者の物。シーフらしい発想であったが……。
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<>2/11
<>「カゾフ往還道中記〜最終頁の裏側に〜」>No.10−2/12 ユーニス
<> オラン。野盗が盗った財布ではあるが、やはりこれは商人のものと、遺族へ返すユーニス。遺品は“もうひとつ”ある。それはこれからのこと。彼女の仕事はまだ終わらない。【了】
<>
<>
<> このような流れになっております。エピソードと連動している箇所もあり、把握のしにくい展開ですが、その助けになれば幸いです。今回のリレーで感じたのは、一番最初にリレーのルールを紹介しておくべきでした。プレイ中、展開が判りづらく申し訳ございませんでした。
<>
<> これとは別に、各キャラの宿帳、日記なども読まれていただけると、後日談など判るかもしれません。
<> 読んでいただき、ありがとうございました。
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 4:29:13 ]
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