| | これはEP版の姉妹の冒険と連動され、そちらを一読されてから読まれることをお薦めします。
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道はコリト村に入る。日は沈みかけており、昨晩泊まった宿まではまだ少し距離がある。扉が閉められる頃までには着ける算段であった。
「ミーシャっ、リーネっ」 村に入って幾程も経たぬうちに、人の名を呼ぶ声があちこちから聞こえてくる。村人総出で誰かを捜している様子だった。辺りは人捜しをする者で溢れ、異様な空気に包まれていた。 一人の老婆が、二人を見つけると近寄ってくる。齢80は越えているのではないかと顔に刻まれた皺から伺えた。 その老婆は、涙目になりながら、「二人の幼子を見ませんでしたか?」と訪ねてきた。 聞けば、数刻前に遊びに出かけたまま戻らないと言う。 「もう心配で心配で……」 布巾でこぼれる涙を拭いながら、老婆は辺りを見回すが、ふと視線を戻すと、バウマーの姿を見て、いきなり彼のローブを掴んだ。 驚くバウマーが声を発するよりも先に、老婆は懇願してきた。 「ま、魔法使いさんですね。お願いです。曾孫を捜してはくださらんか」
老婆は、魔法使いは何でもできる不思議な人という認識でいた。だからこそ、消えた幼い姉妹を捜し出せると考えたのである。 「先を急ぐ」と断ろうとするバウマーを、老婆は食い下がる。 「お礼はできるだけしますから」 それでも渋るバウマーであったが、老婆の必至の説得と、ユーニスの「手伝いましょうよ」の一言で承諾することにした。ユーニスには何かに従事している方が、今は気分的に楽ではないかと思えたからだ。
「見つかる保証はないぞ。それでも礼はもらうからな」 身内が行方知れずになっているのに、酷い物言いであったが冒険者として依頼を受けるのであれば、このくらいのことは言えなければならない。老婆は頭を下げて頷き、「どうかお願いします」と拝むようにして頼んできた。老婆の気持ちががヒシヒシと伝わってくる。
バウマーは、まず状況を整理させた。姉妹がいなくなった時間。姉妹の性格。目撃情報の有無。家の周辺の様子。怪しい人物の有無など。いったん村人を集め、情報を確認していく。既に一刻以上捜索しているにも関わらず、手がかりがないとなると闇雲に捜したところで見つかるものではない。
“神隠し”、“人さらい”、“山で遭難”、“川に流された”、“沼にはまった”、“獣に襲われた”この六つの可能性が考えられた。 神隠しは、過去前例があるかどうかの問いに、「ない」との返答と、妖精を見かけたこともないと判り削除した。 川は溺れるほどの深さはないと言われ、既に下流一帯を捜索済みということで削除した。 獣、化け物に襲われた可能性も低いと思われた。これは山を捜索しないことには結果は導き出せないとし、人さらい、山、沼の三点に絞られた。ただ、沼までは距離があるため、村人に誰一人見られることなく辿り着くのは難しいと思われ、可能性は低かった。
目撃証言など集めてみると、大きな荷を積んだ馬が一頭オランの方角へ駆けていくのを幾人かが目撃している以外、これといって怪しい人物は見ていないと言う。朝方通った二人組みがいるとの声には、「それは私たちです」とユーニスが素直に答えた。 馬に子供積んでさらったと考えられるが、目撃地点を合わせてみると、村を通り過ぎただけとも言えた。人さらいについては、まったく目撃されていない可能性も考えられたが、それに対して対応できることは今はないため、まずできることからやることにする。
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