ゴブリン討伐記 |
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マゼンドリス [ 2002/09/18 22:32:37 ] |
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| …はぁ、クルドの森に入ってもう3日目さね、そろそろ妖魔どものナワバリに入る頃かねぇ…
とすると、『奴等』が動き始めてもおかしくないねぇ…
…まぁ、妖魔どもとの戦が始まった時が、『奴等』の絶好の好機だろうから、それまで動く事はないだろうけどねぇ…
…ハッ!まどろっこしいねぇ、来るなら来るではっきりすりゃ良いんさね、妖魔どもも『奴等』もねぇ…
……ま、良いさね、どの道、向こうからしかけて来るまであたしにゃ出来る事はないんだから、それまでのんびりさせてもらおうかねぇ…
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クルドの森にて |
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ユーニス [ 2002/09/21 19:13:17 ] |
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| ここに来て3日目の夜になる。今朝も霧が深かった。 晩夏とはいえ寒い。冬用マントを持ってきて良かったなぁ。
この濃厚な乳白色の空気が私達とゴブリンとの間に壁を作っている。 どちらのための防壁なのかは判らないけれど、とにかく邪魔。 野伏も鍵も、探索どころではなくなって、すっかり村近くのこの場所に 閉じ込められている格好だ。 今夜は比較的霧が薄いから、仕事がしやすいかもしれないけれど、 いい加減みんなの表情に苛立ちが見え隠れしている。 私は、といえば…… 「そうですか、じゃあ帰ったら騎士見習いとしてしかるべき方に 付くんですね。……それにしても、お父様、回復されると良いですね。 ?どうしたんですか?…ああ、残してきたお母様が心配なんですか。 頑張って早く仕事を終えて安心させて差し上げないといけませんね」 何の因果か、成人したばかりの貴族の少年と一緒に行動している。 綺麗な装備、立派な剣。でも、扱いが決して上手とは言えないし 場慣れしていなくて明らかに浮いている。 襲撃が無い今、私はそんな彼の話し相手を務めているのだ。
(うーん、確かに「嬢ちゃん」扱いだけれど、だからって冒険の経験も ないような子と組まされるほど役立たずかなぁ?それとも体よく お守りを押し付けられたんだろうか?悩むなぁ、はぁぁ) 割り切れずそっとため息をついていると、背後に強い「生命」の気配。 振り返らなくても判る。ああ、マゼンドリスさんだ、って。 案の定、燃えるような命の気配をみなぎらせて彼女がたたずんでいた。 「なぁに黄昏てんだぃ?」 「いえ、何でも。……大したことではないんですけれどね。 私達の班って、どういう理由で組まれたのかな?って。」 今回の作戦は参加人数が多いため、パーティ単位で契約したもの以外は 急ごしらえの班単位で行動している。 「出来高制」の為、誰かが抜け駆けしないようにとの配慮もあるようだ。 私はその中で、「女子供班」の別称をもつ組にいる。 別にいいんだけれどね。一緒にいる他の連中は嫌がっているけれど、 仕事に支障が出なければ蔑まれたって気にならない。 自分の実力で出来る仕事をこなすだけのことだ。 でも、やっぱり面と向かってそういわれると腹が立たないわけではない。 マゼンドリスさんは、そういう私の感情を見て取ったのか、 ぷぷっ、と笑ってまた私の頭を撫でる。 「さぁねぇ。」そう言って、近くにあった薪を火の中に投げ入れると、 「嬢ちゃんは隠し事が下手だねぇ」と呟いて、また笑った。 もういい加減、この人に「嬢ちゃん」というのをやめて欲しいし、 ついでに言うと、頭をぽふぽふ撫でるのもやめて欲しいんだけれど。 今のところ、幸か不幸か彼女の認識を覆せるような活躍をしていない 私には、当面無理のようだ。 ……ため息の理由がもう一つ増えてしまった。 さっきのことと合わせて盛大なため息をつこうとしたその時、 きんっ 凪に近い風が運ぶ、かすかな金属音。 首筋に走るちりちりとした感覚。 そして、見張り役の襲撃を知らせる声。 来たっ!! |
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ゴブリン強襲 |
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マゼンドリス [ 2002/09/24 0:44:03 ] |
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| …今日は思ったより霧が浅いねぇ、フンッ!しかけるにゃ丁度良いくらいの濃さだねぇ…
(焚き火の前で、意気消沈しているユーニスを目にして)
…あぁん?…なぁに黄昏てんだぃ?
(明らかに不満を抱えた顔のユーニスに、どうしてこう言うパーティの組まれ方をされたのか訊かれ)
…フッ、さぁねぇ?……ハッ!嬢ちゃんは隠し事が下手だねぇ(にぃ)…
(その時、虫達の涼しげな鳴き声が、急にピタッと止み)
……さぁて”お仕事”の時間さね(にぃやり)…
(森の奥から金属がぶつかり合う音、そして見張り役から敵襲を知らせる怒鳴り声)
…さぁ、出番だよ!一匹でも多くぶっ倒してみっちり稼ぎな!!
(周りから湯水の様に湧いて来るゴブリン共と対峙しながら)
…ハッ!こりゃ囲まれちまったねぇ…野郎共!円陣を組んでお出迎えしておやり!…っと、嬢ちゃんは内側に入ってそこの坊やの面倒を頼んだよ(にぃ)…
(いきなり飛びかかって来た最初の一匹を重鎚矛の一撃で叩き落し、血に飢えた獣の様に瞳を輝かせながら)
…退くな!怯むな!!奴等だってあたし等が怖いんだ!だから吠えろ!威嚇しろ!怒鳴れ!あたし等の方が強いんだって、思い知らせるんだよ!!
(ゴブリン共の前に立ち塞がる様に仁王立ちし、重鎚矛をかざしながら)
…あたしの相手をしたい奴からかかっておいで!あの世に逝くほど気持ち良い思いさせてあげるさねぇ!!(ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!!) |
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戦闘のさなかに |
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ユーニス [ 2002/09/26 12:02:16 ] |
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| 剣を抜き放ち、盾を構える。ごく自然に繰り返してきた動作が、 あちこちで行われ、すぐに剣戟と怒号が響き渡る。 赤い獅子のようなマゼンドリスさんの雄叫び(女性だけど)がこだまする。 そんな音の洪水の真ん中で、私は少年を背に剣を構えていた。
はい。そうです。 「お守り」ビンゴでした。しくしく。こんなの当たっても嬉しくないよぅっ!
武者震いを繰り返す(という事にしておこう、彼の名誉のために)少年に、 私は声をかけた。 剣を手が白くなるほど握り締める姿は、数年前の私と同じ。 「いい?緊張して動けなくなったら命取りよ。背中は守ってあげるから 貴方は前を向いて、前から来る敵に集中しなさいね。 私の背中も頼むわよ」 そう言って肘で「とんっ」と小突き(板金鎧は痛い)、彼に背を向ける。 背中側で大きく深呼吸する気配に続き、かちりと剣を構えなおす音がした。 ……もう、大丈夫だね。初陣だよ、頑張ろうね。
私達を守る円陣の隙間をくぐる奴らを切り伏せながら、少年に声をかけ、 飛んでくるダガーを叩き落し、森の闇に目を向けてふと思う。
そうか、こうやって「誰かを守る仕事」って初めてかもしれない。 非戦闘員の護衛ではなく、戦える誰かをかばいながらの仕事。 いや、私もかばわれてる気はするけれど、それはそれとして。 ……なんかちょっぴり大人になった気分。 こうやって少しずつ、経験を積んで一人前になるんだろうか。
剣を構えなおす。盾を引き寄せ、円の外にも目をやる。 飛び道具に気をつけながら、ざっと森に目を走らせると 森でグループごとに分散して警戒・駐屯していた場所全てに、 相手が襲撃をかけてきたらしいことがわかる。 広い森中に切り結ぶ音が響いていて、音が渦を巻いている。 敵は本気でこちらに総攻撃をかけてきたのだろう。
少年が1匹、私が3匹ほどしとめたところで、回りに敵が見えなくなった。 無事を確かめ、ゴブリンの返り血を拭いておくよう言ってから、 怪我人がいないか聞いてみる。幸い殆どかすり傷ですんだようで 私の「応急手当」が必要になるような人は居なかった。良かった。 毒物が塗られていそうな刃で切られたひとだけ、念のため傷口を消毒した。 たいまつに火を移し、焚き火を消す。 さあ、他の場所へ応援に行かなきゃ!
「嬢ちゃんはまた、坊やを頼むよ」 ……そーですか。 |
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ゴブリン伏兵 |
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マゼンドリス [ 2002/10/01 2:30:18 ] |
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| …とっ、ほっ、はっ!
(護衛対象に飛んで行く矢や短刀を根こそぎ叩き落しながら)
…何で、こんなに四方八方から飛んで来るんだい!狙撃手でもいるのかぇ、『奴等』の中にゃ!?
(肩越しにユーニスの戦い振りを一瞥し)
…ハッ!ヒヨッコにしちゃぁそこそこの仕事してるじゃないかぇ、あの嬢ちゃんはねぇ(にぃ)…
(攻撃がまばらになって来たのを見て)
…退くにゃ、早過ぎないかぇ?ゴブリン共の数ぁこんなもんじゃないはずなんだけどねぇ…
(突然、昼間の様に明るくなった森の外に視線を移し)
…火の手?たしかあっちにゃ村が一つあったねぇ…ハッ!つまりこっちは囮って事かい?ゴブリン共にしちゃまともな戦、出来るじゃないかぇ(にぃやり)…
(各所で戦闘を続けている各班の戦況を瞬時に把握しながら)
…村の近場にいる班は、あたし達だけの様だねぇ…
(自分の班の負傷状況を視認して)
…ハッ!やるしかないって事かねぇ、あたし等だけでさぁ(にぃ)…
…まぁ、この火の手を見りゃ、その内、他の班の奴等も直ぐに飛んで来るはずさねぇ、何てったって、”抜け駆け”はされたくないだろうからねぇ、他の連中も…ねぇ(にぃやり)…
(自分の班の連中を一瞥して”にぃやり”と笑みを浮かべながら)
…さぁ、もう一稼ぎしに行くよ、気ぃ張ってついて来な!!…
(自分の言葉に表情が引締る、班の仲間を見渡し、ユーニスの前でピタッと止まる、そして、顔に怪しい笑みを浮かべて)
…嬢ちゃんはまた、坊やを頼むよ(にぃやり)…
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村への道程にて |
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ユーニス [ 2002/10/02 13:16:21 ] |
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| 同じ隊(班?)の面々と、依頼主の村へ急行する。 陽動作戦とはね。こちらを駆逐しようとする勢いにだまされていた。 精霊使いが居るかもという情報を、もっと慎重に考えるべきだったのだ。 ……妖魔の狙いはおそらく、食料。これだけ多数の妖魔を養えるほど、 冬の近い森は豊かではないから。 もっとそれを考慮すべきだった。後悔している場合じゃないけれどね。
板金鎧の少年が、こちらに問い掛けてくる。 「森にこれだけ兵力を割いて、尚且つ村を襲えるという事は、 村に居るのは精鋭部隊ということでしょうか。」 頷きながら、少し彼を見直す。そうか、彼は「貴族」だったっけ。 まだ叙勲こそ受けていないものの、戦術とかは教わっていても おかしくないんだよね。ちょっと軽く扱いすぎてたかな。 自分にわかる限りのことで誠意を持って応対しよう。 「村で闘うとなると、乱戦になるかも。さっきみたいに 円陣組んで戦えないから充分注意してね。飛び道具が結構来てたし」 了解の旨を伝えてくる少年。素直で良いなぁ。貴族でもまっすぐ育って いい子になることもあるのねぇ(うーむ、これは偏見かしら?)。 村の入り口が近くなる。少し速度を落として警戒しつつ進んでいると、 ふと、彼が思い出したように話し掛けてきた。 「戦うことって、勇気が要りますね」 うわぁ、可愛いよぅ。素直だよ、この子。思わず微笑みが浮かぶ。 しかし今は進軍中。感激に浸るわけにも行かないので、真面目に応える。 「そうだよ。だからこそ、マイリー様の加護を願ったりするのよ。 もう少し踏み込める、頑張れる勇気を下さい、って。」 少年はやや強張った表情で、口元を引き締める。 「先程は皆さんに守って頂けたけれど、次はそうは行かないのですね」 「うん、多分ね。……不安?」 男の子、いや男性にそういう事聞いてはいけないと思うけれど、 彼があんまり素直だから、つい尋ねてしまった。 予想通りの苦笑を浮かべる彼に、悪いことをしたなと反省したとき、 「正直、不安が無いとはいえないです」 困ったように、ぽつりと呟く声が耳に届いた。 うう、うわーん、やっぱりこの子可愛いようっ! 笑みで崩れてしまいそうな頬を懸命に引き締め、一つ咳払いをする。 彼は彼なりに、必死で自分の責を全うしようとしてるのだから、 茶化すような言い方をしたくない。その誠意に「お嬢ちゃん」なりに精一杯応えよう。 「ねえ、お母様の得意料理とかある?あ、貴族だと自分で料理したりはしないかな?」 突飛な問いかけに目を丸くする少年。これも仕掛けのうちなんだけれどね、実は。 一瞬遅れた「リンゴのタルト」との答えに、 「じゃあね、もし、不安で体が固まったり、恐慌に陥りそうになったら、 『帰ったらお母さんのリンゴのタルトを食べよう』って思うと良いよ。」と、最大級の笑顔で返した。 理解できないような表情の彼。構わずに私は続ける。 「実はね、私、いつも夕食をある酒場で食べてるんだけれど、 そこのお夕飯仲間に『帰ったら夕食おごる』って言われたの。その時とても嬉しかった。 こういうのってね、口約束でいいのよ。そして、本当にならなくてもいい。 自分が命がけの仕事をするとき帰る場所があるって思えること。 それが結構大切だと私は思うの。だからね」 何となく消化不良な顔をする少年に、 「幸いにも、あなたには帰る場所があり、待っている人が居る。 仕事を終えたその先に、続く明日がある。そこに行き着くため、自分への約束をするの。判った?」 |
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狩人の標的 |
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ユーニス [ 2002/10/02 13:25:48 ] |
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| 少しすっきりした表情の彼が、ふと思い出したように言う。 「ゴブリンは随分いい武器をつかってるんですね。もっと錆だらけの ダガーを投げてくるかと思ったから、ちょっと驚きました」 「どういう事?」 少年は先程拾ったと言うダガーをこちらに手渡す。見慣れないダガーを 持ってると思ったら、ゴブリンのだったのか……。 苦笑いながら受け取ったそれを目の当たりにした時、背筋が凍った。 研ぎの入った質の良いダガー。剣ではじかれたのか、傷ついてはいるが 少しも錆や汚れが見えない。手入れを怠っていない証拠だ。 そして刃の部分には、お約束どおりの毒。しかも結構、致死性高そう。 この毒に染まった刃の色は見たことがある。故郷のエレミアでも使われていた。 「刀身を煤や炭で黒く染めたら完璧だわ」 アサシン仕様だよ、これってば。
少年に、ダガーで傷ついたりしていないか確認して、ため息をつく。 どうやら厄介な事になっているようだわ。 こんなもの、ゴブリンが持っているとは考えにくい。 改めて先程の戦闘を思い出してみると、確かに腑に落ちない部分があった。 ダガーの投擲距離を考えたら、私達に投げるより前線に居る マゼンドリスさんを集中して狙ったほうがより有効なんじゃないか? その方が確実に戦力を削げる。 実際そういう事が多かったようだけれど、その中の数本は何故か 正確に円の中心の私達を狙ってきていた。 ……ゴブリンって、そんなに器用だったっけ? どう考えても、繊細さには欠けるよね、あの指は。 ということは。 相手は人間?しかも、暗殺をおしごとになさってるような??
どうしよう、私、なんか恨まれるような事やっちゃった!?(泣)
おちつけ、落ち着け私。私を殺しても何もいいこと無いでしょうよ。 私か彼かがターゲット。良くある暗殺の理由と言えば、 死なせると誰かにメリットあるとか、 殺伐とした世界に身を置いているとか、 暗殺の代償をしっかり払えそうな金づるがライバルに居るとか……
そこまで考えて、はっきり認識してしまった。 首が、かくかくっ、と音を立てながら横を向く。
ターゲットってば、この子じゃないのっ!! |
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アサシン暗躍 |
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マゼンドリス [ 2002/10/03 1:23:19 ] |
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| …よ〜ぅし、止まれぇ、あたしが村の様子を見てくる間、あんた等はここで待機してな…
(身を屈め、村へ偵察に向かう自分の後ろに人の気配を感じ、懐の短刀を握り締めながら振り向く)
…何だい、嬢チャンかぇ、あんたにゃ坊やを頼んどいたはずだよ、勝手に離れちゃダメじゃないかぇ(にぃ)…
(血の気の失せた表情で、貴族の子息に暗殺者がつけ狙っている事を告げられ)
………フッ、嬢ちゃんは余計な事に気をとられないであの坊やを守ってやっておくれ…
(納得のいかない表情で仲間のもとへ戻って行くユーニスを見送りながら)
…あ〜ぁばれちまったねぇ、さて、どうするかねぇ、ふぅむ、まぁ、ここはひとつ派手に警戒してもらって『奴等』の気を十分に引き付けておいてもらおうかねぇ(にぃやり)…
(ぶつぶつと呟きながら、待機していた仲間のもとに戻って来る、そして強張った表情のユーニスへ意味有り気に不敵な笑みを見せる)
…ゴブリン共の数は大した事ないけど、それだけの精鋭がこの村に集まっているって事だからねぇ、乱戦になるのは必至だよ、あんた等も気ぃ入れていきな(にぃ)…
…っと、嬢ちゃんはここで坊やと待機、村から逃げ出す瀕死のゴブリン共の駆逐は任せたからねぇ(にぃやり)… |
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アサシン暗殺 |
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マゼンドリス [ 2002/10/05 0:59:09 ] |
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| …いいかい、ここからがあたし等”傭兵”の見せ場だよ。あんた等”傭兵”が一番力が出せる戦い方は分かってるねぇ?そう、単独(ひとり)で動く時さね。先手必勝、一撃離脱の奇襲戦法、これが一番力が出せて最も生き残れる戦法さね。それを肝に銘じておきな、さぁ、行くよ!!…
(自分の言葉に頷いて、無言で散って行く班の面々を見送った後、ある一人を見定め、その後を追う様に暗闇の中へ身を潜める)
(しばし後、村の外れの茂みから顔半分だけを覗かせる人間が一人、村の入り口にいるユーニス達におもむろに長弓を構え、狙いを定める)
(直後、長弓を構えた人間の背後の暗闇が一瞬揺らぐ。咄嗟に振り向くが、瞬時にその口を塞がれ、左の脇の下から刃物を深々と突き刺される)
………さっきの戦闘の最中、どこ、行ってたんだぇ?あたしが気付いてないとでも、思ったのかぇ?お馬鹿だねぇ(にぃやり)…
(白目をむいて、音もなく崩れるその人間をその場に残し、また暗闇に消える)
…その調子で、『奴等』をおびき出しておくれよ、お嬢ちゃん(にぃやり)…
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(無題) |
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ユーニス [ 2002/10/05 2:21:34 ] |
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| 「嬢ちゃんは余計な事に気をとられないであの坊やを守ってやっておくれ」これが私への反応。 そして、「待機しろ、ここで逃走するゴブリンを殲滅せよ。」 これが私と少年に与えられた役割だった。どうして彼女はそんなことを言うんだろう? 彼女や周囲を暗殺者かと疑ってみたり、ゴブリンのことを考えてみたり。でも答えなんて出ない。 頭の中でレプラコーンが走り回るとこうなるんだろうか? ……いけない。落ち着かなきゃ。深呼吸、深呼吸。
少しずつ、落ち着いて考えたら肝心なことを忘れていたことに気付いた。 私は今、「仕事で」ここにゴブリン退治に来ているのであって、 少年の警護もしくは補佐は、契約外であるという事。最優先なのは妖魔退治なのだ。 ああそうか、と肩の力が抜ける。 白兵戦のとき、魔法使いを最前線に独りで配置するなど、まずありえない。 初心者が居るときもそれに準じるはず。……ただ、それだけのことなんだ。 適材適所、私達がこなせる仕事を出来る場所に、配置されただけ。 まぁ、本音としては私もバリバリ稼ぎたかったけど、今はちょっと置いといて。 たとえ仲間が個人的に狙われている可能性が強いとしても 今のところ推測の範囲でしかないことであり、行動の基本を変えてはいけないのだ。 それに、だ。仲間の中に暗殺者が居たとしたら、ドサクサ紛れに殺される危険がある。 乱戦の中にいるより、私達は離れていたほうがいい。……相手の人数が少なければ、だけど。 こうしているところを狙われたら、と不安にならないでもないけれど。 実際、このとき、私達は自分達に弓を向ける者が居ることに気付かずに過ごしていた。 そして、それを蔭で仕留めたものが居ることにも当然気付かなかった。
今は、暗殺者に気を揉むより、為すべきことがある。そう思った私は行動に出た。 村の入り口から離れ、ざっと周囲を見て歩き、ゴブリンの足跡が最も多い場所を探す。 すると、私達が来た道から少し外側にずれたところに、それらしいものが見えた。 大体同じ大きさの足跡の、深さだけが二種類に分かれるのに気付く。戦闘部隊と運搬部隊だろうか。 十中八九これが村を襲った連中の進入経路。ならば逃走経路もここのはず。 ここから村の入り口まで足跡は続いていた。 村は川に面して細長い。襲いながら通り抜けられれば理想的だけれど、村を挟んで反対側には 灌漑用の池があり、食料を持ったゴブリンたちが集落に戻るためにはこちらへ戻ってくるしかない。 よし、ここに賭けよう。 すぐさま下草を結び、簡単な罠を作る。少年にも方法を教え、手伝わせた。 草むらの中に、上手とはいえないものの、いくつもの結び目が出来上がる。 作り終えてすぐ、村の入り口から10歩ほど離れた大木の陰に身を隠す。 暗殺者対策としては物凄く心もとないが、仕方ない。とりあえず背負っていた弓を軽く構えて待つ。 少年には剣を持たせ、少し私の陰になるように気を配った。 ゴブリンが真っ直ぐに道を来れば確実に私達の目に入るはずだ。そこで仕留められれば良し、 取りこぼしたなら、さっきの仕掛けで少し足止め。 暗殺者には意味が無い罠でも、ゴブリンの足止めには多少有効かもしれない。 短時間で出来る最大限の備えをしておきたかった。 少年には、シャーマンや飛び道具使いが居る可能性だけを伝え、 確定していないことは言わないことにした。 さて、相手はどう出てくるだろう……。 |
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ロード出現 |
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マゼンドリス [ 2002/10/10 0:56:06 ] |
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| …九つっと、これで半分くらいかねぇ、そろそろ手柄首の一つでも現れそうなもんだがねぇ…
(暗殺者より奪った長弓に矢を番え、10匹目のゴブリンを射抜いた後、その長弓を小脇に携え、屋根の上を移動するが、唐突に足元へ炎の衝撃が走る)
…っとぉ、やっと手柄首のご登場かい(にぃ)…
(屋根の上をもんどりうちながらも、地面へ無難に降り立つ)
…逃げるんじゃないよぉ〜良い子だからあたしに手柄を立てさせておくれよねぇ(にぃやり)…
(咄嗟に呪文の詠唱に入るゴブリン・シャーマンとの間合いを一気につめ、重鎚矛を振りかぶる。その動作と同時に放たれる火弾、だが、それに怯む事なく突進し、ゴブリン・シャーマンの頭に重鎚矛を振り下ろし、一撃で砕く)
…手柄首、一つ頂きっと…うぅん?とうとう真打の登場かぇ?…
(ゆっくりとした動作で後ろを振り向く、そこには普通のゴブリンより明らかに大きいゴブリン・ロードが醜悪な顔をさらに歪めて威嚇の唸り声を上げている)
…相手に不足はないねぇ、今回一番の手柄首だ、きっちり稼がせてもらうさねぇ(にぃやり)… |
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潜伏 |
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ユーニス [ 2002/10/14 22:58:44 ] |
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| 悲鳴、剣戟、怒号、咆哮。 村の方から次第にそれらが激しく聞こえてくる。 背後の森からも、それらは聞こえてくるけれど、なかなか終息しない。 (もしかして、私たちの隊って優秀?) ちょっとだけそんなことを思ったあと「優秀な人たちがいる」に訂正。 私は少なくとも優秀な剣士にして野伏、という表現にはまだ遠い。でもいつかなってやるもんね。
「どうやらこちらが優勢なようですね」 少年が余裕の伺える笑顔で言う。 「どうかな?油断できないよ、相手は奇襲をかけるような連中だしね」 一応たしなめては見たものの、優勢をくつがえす否定材料はあまりない。 なんせリーダーがあのマゼンドリスさんだもの。よほどのことが無い限り負けはしないはず。 すると少年は、私の考えを読んだかのようにそっと笑って、 「音が集約されてきましたね。遠くで聞こえる剣戟、最初は結構広範囲でした。 それに、ゴブリンらしき悲鳴が、さっき意外に近くで聞こえたでしょう? 多分ゴブリン側は村に深く侵入しすぎたんです。その分退避が遅れた。非戦闘員も抱えている以上 離脱を優先しなければならないのに、それが今もって出来ていない。 恐らく、半包囲されて脱出の機を逸したんでしょう。」 も、もしもし?なんか私より野伏に向いてるとか言いませんか?難しい言葉使うし。 「えと?つまり、どういう……こと?」 「ここで待機する意味がなくなったという事です。村では今、人手を要していると思いますよ。」 そう言って、すっと立ち上がる。その姿が無防備に思えて 慌てて彼を庇うように立ち、 「安易に動いちゃだめだよっ、マゼンドリスさんの指示は意味のあるものだと思うし」 「どんな意味ですか?あなただって稼ぎたいでしょう?」 少し意地の悪い微笑でこちらを見る少年。足はもう、木陰から踏み出そうとしている。 「え、あのっ、例えば食料持ったゴブリンが全力疾走してくるとか」 「それは楽に退治できそうですね、非戦闘員だし。荷物がある分移動が遅くて隠密行動に不向きだから この道を真っ直ぐやってきそうです。それに掃討すればいいお金になりませんか?」 少年にあっさりかわされ、さらに慌てる。 「他に……そうだ、ゴブリンシャーマンが護衛していて、いきなり私たちを狙ってくるとか?」 「……そうですね。ありえます。」 ほっと安堵のため息をつきかけたとき、 「でも、戦闘区域を離脱されて分散した相手に奇襲をうけるより、ある程度状況を こちらに有利に持っていったほうが良いでしょう?さ、行きましょう」 またあっさり返された。木陰から出ようとした彼の服を引っ張りかねない勢いで引き留める。 このとき、私は余程困ったような顔をしていたらしい。 少し意地悪だった彼の表情が和らいで、優しい瞳になる。 「いいんですよ、暗殺者がいるかもしれないって言っても」
「……気付いてたの?」 思わず息を呑んで、問い掛ける。少年は優しい瞳を苦笑の形に細めて 「嘘がつけない人なんですね、あなたは」 「!!」 あああ、やってしまったっ、私の馬鹿馬鹿馬鹿っ! 私の困惑と後悔と自己嫌悪が入り混じった百面相を穏やかに見守りながら 「貴族と言うのは、常に暗殺を意識して生きてるんですよ。そういうものなんです」 |
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貴族の日常、市民の非日常 |
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貴族の少年 [ 2002/10/14 23:05:03 ] |
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| ユーニスという女剣士と二人で残された。 彼女はなにくれとなく私の面倒を見てくれている。彼女の方がよほど危なっかしいときもあるが やはり戦闘経験は伊達ではないのだろう。切り抜けるのは上手なようだ。 実に判りやすい人柄、行動原理。こういう人は間違っても暗殺者にはなれないだろう。 いや、そう思わせて安心させてから? 可能性がないわけではないが。
戦況は刻一刻と変化している。恐らくもう、この場所で待機する理由は無いだろう。 さて、どうしたものか。『彼ら』が勝負をかけるとしたら、戦闘が終結しそうな今はすでに 行動に移す時機として限界に近いだろう。終わってしまったら狙撃は困難だから。 立ち上がり、村へ移動しようとすると、ユーニスが必死で止めてきた。 顔が赤くなったり青くなったりと忙しい。まったく……これでは暗殺者になどなれないだろう。 心を決めて、彼女に告げる。暗殺者の存在を知っている、と。 「死ぬつもりなど毛頭ありません。ただ、今日殺されなければ明日に延びただけなのかもしれない。 貴族の生活など、そういう側面を切り離して考えられないのです。」 相手がだれであったとしても、臆すればその時点で負けだ。それに、依頼者は複数かもしれない。 恒に心がけを失ってはならないのだ。 「だとしたら決着をつけられるときがあれば、つけておいたほうがいい。相手を諦めさせることは できなくても、暗殺と言う『手段』は諦めさせうるから。私がそれなりに強ければ、ね」 彼女は心配そうに私を見ている。理由を理解したのか余計辛そうな顔をして。 ほんとうに、人が良いと言うか。こちらが心配になる。 「あのダガーを見せたのは、マゼンドリスさんが私たちを隔離することを見越してのことです。 その場合、まずあなたを私につけるでしょう。彼女はどうやら暗殺者に気付いていたようですから。」 そう、あの女傭兵はかなり使える奴のようだから。もし、依頼を受けて私を護衛しているのだと したら、暗殺の依頼主は絞られてくるし、今後ともしばらく付き合ってもらうことにしよう。 状況の判っている手練は一人でも多い方がいい。でも、当面は。 「私はこれから村に向かいます。暗殺者としては、村での戦闘が落ち着きつつある今、仲間と私たちが 合流してしまえば機会を逸する。ですから多分合流するまでに仕掛けてくるでしょう。」 そうでなければ今回は見送って、オランに戻ってから仕掛けてくることだろう。その時には この心配性の優しいひとではなく、あの女傭兵に動いてもらえばいい。 恐らく仕事として請けてくれるだろうし。 「注意を引いて、隙を狙うでしょうから、私に隙が出来たときはお願いしますね。 無事に帰って、リンゴのタルトを食べたいですから」 にこりと笑ってユーニスに告げると、彼女は不承不承、頷いた。 私たち二人は、木陰を出て村の中心部へと向かった。 |
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オラン凱旋 |
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マゼンドリス [ 2002/10/18 3:53:33 ] |
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| …ハッ!ようやくここまで戻って来たさねぇ…
(オラン中心部より北西にある外門を目の前にしながら)
…ま、無事で何よりさ、ここまではねぇ(にぃ)…
(馬の背に跨りながら、同じ様に馬に跨り先を行く貴族の子息に目をやり、そして、自分と平行の位置に馬の背にしがみつく様に跨るユーニスに目線を移す)
…フッ、あの嬢ちゃんも結構役に立ってくれたしねぇ(にぃ)…
(自分の馬の鞍にくくり付けているゴブリン・シャーマン、そしてロードの醜く歪んだ首級を軽く叩いて確認しながら)
…それに、稼ぎについても、まぁ文句はないしねぇ(にぃやり)…
(再び目線を貴族の子息へ、その時その子息と目線が交差する。穏やかながらも意味深な笑みを浮かべる子息、それに対し艶やかでいて怪しい笑みで返す)
…ただどうも気に食わないねぇ、あの坊やの笑みがさぁ…まぁ、貴族の坊やなんて、みんなあんなもんなのかも知れないがねぇ…
(着実に近づいて来る北西の外門を見上げながら)
…さぁ、大勝利の凱旋さねぇ!!野郎共、胸張って勝鬨を挙げな!!…
(自分の合図で、一斉に勝鬨を挙げる討伐隊の面々、ふと視線を向けるとユーニスも彼等に合わせ、嬉しそうに勝鬨を挙げている)
…さぁて、とりあえずは切り抜けたが、もう一波乱ありそうな感じだねぇ、まぁ、それまであたしゃゆっくり休ませてもらおうかねぇ(にぃやり)… |
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のんきな仕立屋 |
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ユーニス [ 2002/10/18 21:18:29 ] |
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| オラン北西の門が見えてきて、みんなが一斉に勝ち鬨を上げた。 やっと実感する。無事にオランに帰れたのだ、と。 あの後、少年が襲撃されることはなく、ほっと胸をなで下ろしている。 村での戦闘では、マゼンドリスさんが大金星をとり、私たち「女子供班」の面目躍如となった。 収入も班単位と言うことで余慶にあずかり、懐が温かくなるのは間違いない。 ここはひとつ「気ままに亭」の特上牛ステーキをオーダーするか!なんてうきうきしてみる。 でも、喜ばしいことばかりではなかった。結局、全体で数人死者が出てしまった。 私たちの班でも、二人亡くなった。見知った人が亡くなるのは心苦しく悲しいものだ。 あれだけの戦闘で皆不意打ちを食らったし、避け得ないことだったのだろうか。 彼らのことを思うと浮かれ気分も色褪せ、ただ瞑目するばかりだ。
オランに戻って2日後、気ままに亭を経由して手紙が届いた。 骨休めを終え、そろそろ精霊使いとして師事する師匠に挨拶に伺おうとしていたときだった。 受け取って驚いた。質の良い紙、家紋の刻まれた封蝋。差出人は明らかに貴族だ。恐る恐る開けてみると、 「今回の遠征参加者を労いたく正餐を以て饗応申し上げます」の文言。つまりは慰労会のお誘いだった。
あ〜、どうしよう。正式な晩餐会というと、これはやっぱりドレスに布靴、さらに髪飾りなんかが 必須かな。ズボンに帯剣で行くわけには……行かないだろうなぁ。 日付は明後日。ええっと、私ドレスなんて持ってないんですが。断っちゃおうかなぁ? 悩んでいると、もう一通手紙が届いた。これは直接宿宛てに。 これも貴族からの手紙だったので、慌てて開いてみると、例の少年からの手紙。 「母が林檎のタルトを貴方に差し上げろと申しますので、是非とも晩餐会にご出席下さい」とある。 ……これは、行かざるを得ないだろうな。 いや、食欲じゃなくて、大事なのは「気持ち」だよね。 仕方がないので装束を整えに商店街へ出掛ける。今回の収入が良くなければ挫折していた所だった。 口では文句を言いつつも、何となく浮かれてくるのが判る。やっぱり私も女性なのだと苦笑しながら 街を見て回った。
数時間後、ドレスの価格に目眩を起こした私は、靴屋で履いたことのない華奢な布靴を注文し、 生地屋で上等な深緑色の生地と金具、リボンなどを買い込んで宿に帰ってきていた。 ふふふ、仕立屋をなめないでよね(注:誰もなめていない) ぼったくり商売を儲けさせる謂われはない!(生活にゆとりがないだけで、無体な値段ではない) 裁断を終えた生地を片手にむむ、と拳を固めて夕暮れの空の一番星に誓う。 今夜は徹夜でドレスを縫いあげる。そして晩餐会には自作ドレスで出席するのさ!
針を運びながら思った。マゼンドリスさんはどうするんだろう? 彼女の正装姿を想像してみる。 ばりばり稼いで居そうだから、ドレスの一枚や二枚は持ってるかも知れない。 ドレープをたっぷりきかせた、彼女の名前のように紅いドレスだと髪の色に合って素敵かも。 大人の女性の雰囲気だわね。あとは漆黒の絹地なんかも、似合うかも知れないなぁ。 紅い髪に合う宝石で髪飾りとか誂えていたりして。金の首飾りも似合いそうだし、持っているかな? いいなぁ、私もいつか稼いで、お洒落してみたいな。 と、ここで重要な事を思い出す。私スカートをはいたのって2〜3回だけだった。……歩けるかな。 不安は残るものの黙々と針を動かしつつ、夜が更けて行くのにも構わずに私は仕立てを続けた。 そのころ隠密裡に不吉な計画や、貴族の子息と紅い髪の傭兵の企みが進められていることなど 知る由もなかった。 |
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狂気の宴〜仕込み〜 |
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マゼンドリス [ 2002/10/22 3:55:48 ] |
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| …妖魔通りで裏取って来たさねぇ、あんたが仕入れたネタ通りだったさねぇ(にぃ)…
(奥にある机の端に腰かけ、無造作に置かれた手紙に手を伸ばす)
…でぇ、これが件の手紙かぇ、まったくして懲りないねぇ、あの男も…
(手紙は開けずにそのまま机の上に放り投げる)
…だが、さすがに自分の館で事を起こす気にはならなかった様だねぇ、まぁ、もしそんな事が起きちまったら、真っ先に疑われるのは自分だからねぇ(にぃやり)…
(邪な笑みを湛えながら、机の上より降りる)
…よしんば疑われなくても、自分の名声が失墜するのは目に見えているからねぇ(にぃ)…
(机の奥に座る男に”大丈夫なのか?”と聞かれ)
…ハッ!あたしを誰だと思ってんのさ?仕込みは万全だよ、任せておきなぇ(にぃやり)…
(苦笑しつつも何も言い返さない男から、もう一通手紙を渡される)
…うぅん、まだ何かあるのかぇ?これは誰からさね…
(怪訝そうな顔をしつつも手紙を開け、手紙にざっと目を通す)
……はぁ?ドレスゥゥ?…あの嬢ちゃん、そんな事まで出来たのかぇ、見た目によらず器用なんだねぇ…
(男から部屋のソファーに目を向ける様に促される)
…へぇ、これは本格的に出来ているねぇ、裏地も縫い目もしっかりしてるし、身体のラインにも寸分違わずしっくりくるよ、良くあたしのサイズなんか分かったねぇ…
(包みから取り出した真紅のドレスを身体に宛がいながら一回転すると、男が可笑しそうに口の端を緩める)
……何だい、あたしがこいつに目を輝かせているのがそんなに可笑しいのかぇ?(にぃ)…
(凄みを含めた声に肩を竦め苦笑する男、そのしぐさに表情を緩める)
…こいつで着飾ったあたしを見て惚れるんじゃないよ(にぃやり)…
(再び湛えた邪な笑みに苦笑で返す男、その顔に射抜く様な視線を向けた後、真紅のドレスを小脇に抱えて出口に向かう)
…まぁ、余興ついでに着てやろうかねぇ、こいつで着飾って男釣るのも悪くないからねぇ(にぃ)…
(男に”仕事、忘れるなよ”と促され、”にぃ”と笑う)
…そいつは抜かりないって、さっきも言ったはずさねぇ、あたしに任せときゃ直ぐにカタつけてやるさねぇ(にぃやり)…
(そう言って部屋を出た後、ぽそりと呟く)
…………でも、コイツを着て何処に”得物”隠しゃ良いのかねぇ… |
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狂気の宴〜奏者打ち合わせ〜 |
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貴族の少年 [ 2002/10/23 23:11:01 ] |
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| 某日、夕刻。 「あなたに折り入ってお話があります」 そう切り出して、赤い髪の女傭兵を見る。さる料理屋の個室で、卓を挟んで私たちは相対していた。 話の前に全て運ばれていた料理が手もつけられずに冷えていくが、互いに気にも留めていない。 「ご承知とは思いますが、明日私の叔父の屋敷で慰労会が開かれます。 私も参加の予定です。しかしどうも風の噂では『何か』がおこるらしいと。 ……で、あなたにお願いすることにしたわけです。あなた、否あなた方はいろいろご存知でしょう?」 意味深な笑みを交し合う。重要な点は口にせず、中身の詰まった革袋を卓上に置く。 「母からの依頼……私の警護、に加えて、私からもお願いします。 叔父の『陰謀』を暴き、公にして頂きたい。本家の次期当主として見逃すわけには行かないのです。 ああ、独身の叔父が失脚しても、累の及ぶ家族はありませんので遠慮なく。」 分家の失態の責は、叔父の兄であり本家当主の我が父が冥土に持っていってくれるだろう。 悲しいことだが、それほどに父の命はもう儚い。 こういう場合、叔父の処刑、及び叔父の禄の没収程度で済む筈だ。 それに恐らく我が家への情状酌量の余地はあるだろう。『陰謀』の中身が私の暗殺なのだから。 上手くいけば分家の財を我が家で管理となるが、あまり旨みばかりを追っては真の目的を見失う。 お家騒動に乗じて他の連中に付け込まれてもつまらない。
紅い髪の傭兵の、鼻で笑うような、こちらを値踏みするような表情が私には心地よい。 百戦錬磨、海千山千といったところか。尋常の道を辿っては居ないのだろう、逆に安心できる。 私も、口の端をわずかにゆがめて笑う。 あの心配性の剣士には見せられない顔だが、こちらの方が自分らしいと気付いて可笑しくなる。 こんな自分でも、たまには気まぐれを起してもいい。彼女のことはそういう扱いだった。 「そうそう、武器類はこのケースに入れてお持ちください。」 取り出したのは大型のリュートを収める楽器ケース。貴族や裕福な家庭の子女が特注して作るもの。 実際このケースには、我が家の家紋が入っている。中には楽器を覆う豪奢な布だけが入っていて、 これでくるんでしまえば中身を探ることは困難だろう。 「あなたの重槌矛や、小型剣くらいは入る構造になっています。私はリュートが出来るので それを持っていても不思議ではありません。あなたは私に荷物を頼まれたと言えばいい。 本家の次期当主の荷物を検分できるほど、叔父の家の者は大胆では有りませんから。 もちろん、荷物を出す手間を省きたいなら、武器をドレスの中に隠してくださっても構いませんが」 さすがに少し興にのりすぎたようだ。彼女の不快そうな感情の波が伝わってきたので冗談ですよと 話を切り上げ、馬車に同乗する場合はこの刻限までに屋敷に来て欲しいと言い置いて、 料理屋を出た。少し離れた場所に待たせた簡素な馬車に乗り込む。 冬の予感をまとう風が、馬車を追いかけるように乾いた路地を撫でていった。 |
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狂気の宴〜決意〜 |
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マゼンドリス [ 2002/10/25 1:15:51 ] |
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| (夕刻、グストフ卿の館へ向かう馬車の中、貴族の子息と向かい合う位置に座りながら何気なく外の風景に目を向けている。その身体にはユーニスが縫上げた真紅のドレスをまとい、両の腕には肘の上まである同色の絹地の手袋、足にも同色、同生地の布靴を履き、獅子の鬣の様な赤毛を豪奢に結い上げ、胸元に金鎖のネックレスにつながれた紅玉のペンダントヘッドをつけている。唇に情熱的な赤の紅をひき、白く浮き立つ顔に何時もの刀傷は一切見当たらない)
…あぁん?ハッ!そんなお世辞は要らないさねぇ、あたしにとっちゃぁ分かり切った事だからねぇ(にぃ)…
(実年齢よりずっと大人びた笑みを湛える貴族の子息、そんな彼に邪な笑みで返す)
…そぅそぅ、坊やの”計画”だけど、ちょっと変えさせてもらったさね(にぃ)…
(大人びた笑みはそのままに、どの様に変えたのか聞いて来る貴族の子息)
…まず、坊やの叔父貴だが、坊やを狙った件を公にするのは頂けないねぇ、いかに”暗殺”とは言え、それは坊やのお父上に、一族を統べる力があるのかって陰口を叩かせる口実になっちまう、どちらにしろ、坊や達には不名誉極まりない事になるだろうねぇ、それは貴族社会じゃ致命的な事さねぇ、何をおいても避けるべき事柄さねぇ…それよりも、首謀者を他に仕立てて、そいつに罪を着せ、坊やがそいつを捕まえるって筋書きにした方が、よっぽど良いさねぇ(にぃ)…
(余裕の笑みが一瞬凍りつくが、直ぐさま元に戻し、話の続きを促す)
…な〜にぃ、その”罪を着せるやつ”ってぇのも決してこの件に無関係なやつじゃねぇのさ、そいつ、名をラーゲンってぇ言うんだが、坊やの叔父貴とつるんでる商人でねぇ、裏じゃあんまり良い噂を聞かねぇヤローなのさ、でぇだ、これを機に害虫を駆除しようって事にしたのさ(にぃ)…
(そこまで話すと、おもむろに自分の胸元に指を差し込み、小さな小瓶を取り出すと、貴族の子息に放ってよこす、一方、その小瓶を受け取りつつも怪訝な表情を浮かべる貴族の子息は、この小瓶が何なのか問いただす)
…こっからが本題さねぇ、その小瓶はある毒の解毒薬さね、坊やの叔父貴は、宴の乾杯の時に、それとは違う毒を自分と坊やの杯に仕込んで、自分は解毒薬をあらかじめ飲む事によって坊やだけを消す算段を立てていたのさ…うぅん?何故両の杯に毒を入れる必要があるのかってぇ?そりゃ、坊やに杯の交換や、ましてや先に安全な方の杯を持って行かれちまった時にゃ、御破算になっちまうからねぇ、坊やの叔父貴の”計画”はさぁ(にぃ)…
(わずかに息をのむ貴族の子息、その態度に微かに口の端を上げて話を続ける)
…だが、その杯に入る毒は既に別の毒に変えてあるのさ、あたしが裏で手ぇ回してねぇ、でぇ坊やの手にある小瓶がその毒の解毒薬って分けさねぇ…さぁ、どうするねぇ?この話、信じるも疑うも坊や次第さねぇ…だけどねぇ、策を弄するのが貴族の日常とは言え、人を猜疑するしか知らないやつには、誰からも”信頼”を得る事ぁ出来ないさねぇ…ねぇ、坊や?(にぃやり)… |
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狂気の宴〜一足早い食前酒〜 |
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貴族の少年 [ 2002/10/29 23:46:12 ] |
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| 子供の頃、騎士になりたかった。 僕の家は過去に優秀な騎士を多く輩出していた。昔話に彼らのことを聞かされて、 僕もいつか騎士になるのだと胸を膨らませていた。 けれど、父はそんな僕の夢を軽く一蹴した。 「あれは庶子のなるもので、嫡男のお前には必要ない。我が家は大臣家にもつらなるのだから」と。
叔父は父の弟。嫡出ながら、断絶しかけていた祖母の家に養子に出て、”グストフ卿”となった。 僕の夢を話すと、楽しそうに笑って、それもいいと、いってくれた。 昔々の暖かな幻のような日々の思い出。 ユーニスに「いずれ騎士になる」といったのは討伐の場に居やすいよう取り繕っただけのこと。 願望を口に出してみたかった、夢を少しだけ見て居たかった。それは否定しないが。
女傭兵の言うとおりだと思う。家を継ぐことは生半な覚悟では無理だ。 僕、いや私の子供じみた、そしてまだ経験不足の策謀を試すには、あまりにも浅はかだろう。 叔父を光のもとで裁くことの害は、益を上回る、か。そうなのかもしれない。
手の中の小瓶を見ながら、考える。叔父の屋敷での「不祥事」が、どう扱われるのか。 ラーゲンは手広く商いをしている。叔父の下に珍しい酒や玻璃の杯を納入しているとも聞いている。 蛇の道とやらがあるとすれば、その辺りも押さえてあるのだろう。 もう一つ気になるのは、女傭兵が私の依頼を勝手に変えたことだ。 本来ならば、契約違反として彼女の言い分など取り合わないところだが、 準備期間が短い割には随分手回しが良かった。どう考えても、私は以前から「策」の中に居るようだ。 さて、これを仕組んだのは、「敵」か?「味方」か? どのみち、目の前の女傭兵、マゼンドリスとその仲間に自分の命運はかかっているようだ。 我ながら迂闊としか言いようがない。未熟な策を弄した結果がこれなのか。
大げさにため息をついて、肩を竦めてみせた。 「困りましたね、あなたって人は。契約を勝手に変えた上、怪しげなものまで飲ませるとは。 ……いいでしょう。傭兵ギルドを信用して、策に乗りますよ。せいぜい派手にやってください。」 マゼンドリスがにやり、と笑みを浮かべたその時、芝居がかった口調で告げる。 「ただし契約内容変更があった以上、後金は成果次第ですよ? 私が支払えたらの話ですが」 そう言って、鼻で笑う彼女の前で、小瓶の中身を呷った。
冒険者の話を聞きに来る貴族たち、慣れぬ正装でぎこちなく歩く冒険者達、 忙しく動き回るメイドたちが行き交う大広間に、私は真紅の「美女」を従えて踏み込んでいった。
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狂気の宴〜閑話休題〜 |
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マゼンドリス [ 2002/11/09 5:44:37 ] |
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| (貴族の子息にエスコートされて、宴が行われる大広間に足を踏み入れる。その途端、自分達集まる視線。貴族の男達からは、奇異とその肢体を値踏みする様な粘質を伴った熱い視線が、貴族の女達からは、侮蔑と嫉妬の冷たい視線が、そして傭兵ギルドの同僚からは、驚愕と恐怖に強張った視線が、それぞれに注がれる。だが、そんな視線はどこ吹く風と受け流し、淑やかな足取りで悠然と大広間の中を歩み行く)
…まったく、そんなに物珍しいのかねぇ、ロードを倒した女戦士がさぁ(にぃ)…
(顔の表情は微笑を湛えたまま、自然な動作を装い、会場内を見渡す)
…ヤバそうなヤツァさすがにいねぇ様だが、油断は出来ないからねぇ…うぅん?あれは、お守り役だった嬢ちゃんがないかぇ、どぉぅれ、このドレスの礼でも言いに行こうかねぇ…それにしても、ずい分ヘッピリな歩き方だねぇ、こんなドレスを作れるのに、自分じゃ着た事ないのかねぇ、あの嬢ちゃんは(にぃ)…
(淑女の様に、スカートを軽く摘み上げ優雅に会釈し、その場から立ち去るとドレスに悪戦苦闘しているユーニスの前に歩み寄る)
…大丈夫かぇ?歩き方がまるでアヒルさねぇ、もちっとマシな歩き方しないとつまづいてばかりになっちまうさねぇ、それにぃその姿は何だぃ、嬢ちゃんは、もとは良いんだからやり様によっちゃぁもっとこう…あぁぁ、まだるっこしいねぇ、ちょっとこっちおいでぇな(にぃ)…
(ユーニスを引張って、化粧部屋の一室に入る。そして、戸惑うユーニスを鏡の前に座らせ備え付けの化粧道具を持ち出す。眉を書き、アイラインを入れ、頬に軽く紅を差し、口紅をひき直すと、髪を梳かし豪奢に結い上げる。部屋に入る前と一変し、大人びた優雅さを醸す鏡の中の自分に驚くユーニス。更にユーニスを立たせ、わずかなドレスのシワを丁寧に直して行く)
…さぁどうさねぇ?どっから見ても良いトコのお嬢様に見えるさねぇ、でも、嬢ちゃんは口を開くと一発で雰囲気ぶっ飛びだからねぇ、もし周りの助平な貴族の男共に言い寄られたら、変にオロオロせず、ゆっくり微笑んだ後、相手をして差し上げなぁ、男共はあんたのその優雅な微笑みに騙されてちょっとやそっとの言い回しの間違いなんざぁ気付かなくなるもんさねぇ(にぃ)…
(言われた通りに精一杯優雅に微笑むユーニス、だが、若干頬がにヒクヒクと痙攣している)
…そんな力一杯微笑んじゃダメさねぇ、もっと自然に出来ないのかい?もっと自然にねぇ(にこりと微笑)…
(自分の微笑み方を真似る様に微笑むユーニス、先程より幾分マシになったユーニスの笑みに何時もの邪な笑みで返す)
…そぅ、そぅさねぇ、その笑みが男の心をとろけさす最高の武器になるのさぁ、覚えておいて損はないさねぇ(にぃ)…
(扉の向こうから宴を始める声が聞こえて来る、その声にユーニスを会場へと促す。多少ふらつきつつも言われた通りに優雅を装い、会場の中に消えて行くユーニス。そんな彼女を見送った後、ユーニスとは逆の暗闇に溶け入る様に消えて行く)
…さぁて、あたしの宴はこれから始まるさねぇ(にぃやり)…
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狂気の宴〜乾杯〜 |
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貴族の少年 [ 2002/11/20 0:16:25 ] |
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| 贅を尽くした広間に満ち溢れる人波の中に、すっ、と道が開ける。 拍手を受けながらしたり顔でその道を歩くのは、私の叔父、グストフ卿。今日の宴の主催者だ。 ゆったりとした足取りで上座に着くと、既にその場に居た私に向かって笑みを向ける。 腹の黒さを巧みに押し隠した余裕のある微笑みに、私も自然な笑みで応える。 これが泥仕合になるか否かは、双方の技量次第といったところか。 招待者でありながらへりくだる風もなく、鷹揚に周囲の祝辞に答えて軽い会話を楽しむ様子は、 まさしく老獪な貴族そのもの。 ……私もこうなっていくのだろうか? 生きて居たらの話だが。
人波を縫って、給仕がグラスを渡していく。貴族の家でも玻璃のグラスは高級品だ。まして このように透明度の高いものは、確かな技術と高級資材なしには作りえない。 グラス一つにも、いやらしいほどにその財力を誇ると言えた。 冒険者の連中には、初めて目にするものも多いようだ。興味深げに眺めつつも、 壊さぬようにと恐る恐るグラスを手にする姿に貴族たちから軽い失笑が漏れた。 叔父のところに、豪奢な作りのグラスを盆に載せた男が近づいた。 叔父は何気なく「これは秘蔵のグラスだ、好きなほうを取れ」という。 とうとう、そのときが来た。これが運命の分かれ道なのか。 私は右のグラスを取った。叔父は残ったグラスを。
乾杯の挨拶が流れる中、ふと、酒の注がれたグラスと美しい女傭兵の顔を見比べた。 私の視線に気付いたのか、遠くから微妙に皮肉の入り混じった優雅な笑みを向けてくる。 その笑みの美しさは、今日の装いにひどく似合っていた。 視界の端に、あのお人好しの剣士もいた。ぎこちないながらも、ゆったりと笑んで見せる彼女は それなりに人々の中に溶け込んでいた。 この風景が、もう数瞬後には暗転するのだろうか?
乾杯の音頭と共にグラスが高々と掲げられ、玻璃の触れ合う硬質な音の後、人々の口元に運ばれる。 私も叔父とグラスを合わせたのち、口元に運ぶ。 笑みを浮かべつつも、焦燥が手のひらに汗を生む。 が、ここでためらっては全てが終わる。 グラスの冷たさを感じながら、私は青いグラスの中の液体を、ゆっくりと飲み干した。 喉を通り、胃の方に落ちていく液体の感触。 と、同時に、視界が暗くなり、足に力が入らなくなる。
だまされたの、か?
複数の玻璃の割れる音と、誰かの悲鳴が聞こえた。 |
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狂気の宴〜暗転〜 |
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ユーニス [ 2002/11/28 23:37:45 ] |
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| 乾杯に続いて賑やかに始まるはずの歓談が、悲鳴にとって替わられた。 最初に響いたのは、高くて繊細な破壊音。それが恐慌の始まる合図だった。
グラスを傾けながらふと少年に目を向けると、グラスを飲み干した彼がふらつくのが見えた。 意外に酒に弱いのだと微笑ましく思っていたら、彼の手からグラスが零れ落ちる。 そして傾いた背中、くず折れる足。何かを求めるように差し伸べられた指が伸びて、落ちる。 一瞬で場を支配した沈黙の中、彼の隣に居た叔父……招待者であるグストフ卿も 苦しげなうめき声をあげてその場にうずくまった。 気がついたらスカートを鷲掴みにして裾を持ち上げ、駆け寄っていた。
貴族の女性が失神し、青年たちが青ざめる中、私は不思議に冷静だった。 いや、「私たち」というべきか。 「念のため、みなさんグラスのものを飲まないで下さいっ! ”霊”は水差しの水に浄水をかけて、 こちらに下さい。それから、『解毒』が使える方か薬に詳しい賢者さん、こちらへ急いでっ!! 他に苦しくなった人が居たら申し出てください、まず少し服を緩めてくださいねっ」 偉そうではあるが、それなりに的確だった……だろうか? 少年の傍らに駆けり抱き起こすと、少し朦朧としているもののこちらの呼びかけに反応する。 脈も乱れているが絶えそうなほどではない。これなら、間に合うかもしれない。 判る範囲で手当てを施していると、道中で顔なじみになった”霊”の青年が 浄化済みの水差しを手渡してくれた。とりあえずそのまま少年に飲ませた。 彼はうつろな瞳のまま、それでも水を飲み込んでくれた。 毒の質がわからないと口移しするわけに行かなかったので、正直安堵する。 ため息をついた私の横で、グストフ卿に駆け寄っていたのは他の野伏と執事らしい年配の男性。 うろたえる執事を尻目に野伏が応急手当をし始めたが、”霊”が彼にも水差しを渡そうとしたとき、 黙って首を横に振った。
大広間に、悲鳴と嘆息が漏れた。
『解毒』が使えるほどの術者は、普通ゴブリン退治になんて来る訳が無い。 彼らの実力では役不足だからだ。だから当然、この場には居るはずが無かった。 グストフ卿は、自分の邸宅の大広間でその生涯を閉じてしまった。 少年が少しずつ意識を取り戻していく。彼の手当てをしながら他の「仲間」に会場の収拾と 参加者を逃がさないよう指示する声が聞こえていた。 |
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狂気の宴〜粛正〜 |
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マゼンドリス [ 2002/12/07 0:40:14 ] |
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| (真紅のドレスをまとい、大股を広げて手近な岩の上に腰を下ろしている。足元には男の屍が一つ、無造作に転がっている)
…おぅ、やっと来たねぇ、遅いさねぇ(にぃ)…
(馬に跨った男がゆったりとした速度で近寄って来る)
…そこに転がってるのが件の男さねぇ…検分の方は頼んだぇ(にぃ)…
(血糊のついた小剣をその男に手渡し、男が跨っていた馬に跨る)
…あぁ?どこって”ネグラ”へ帰る以外に何があるって言うのさねぇ?(にぃ)…
(男に”館の方に帰らなくて良いのか?”と問われ)
…あぁそれは大丈夫さねぇ、館の方にゃ他のヤツ等がいるし、それにあの坊や…見かけによらずなかなか面白い性格してるからねぇ…あれくらいの状況なら自分で何とかするだろうからねぇ(にぃやり)…
(その言葉に苦笑で返す男、その苦笑に口の片端を上げて妖しく笑む)
…まぁちっとは驚いたかも知れないけどねぇ、自分が騙されたかも知れないってねぇ…でも直ぐに気付くだろうさねぇ、グストフと同じもん飲んで自分だけ平気だったら真っ先に疑われちまうからねぇ、あぁ言う場合、多少のリスクは付きもんさねぇ…何、中身は単なる痺れ薬、後遺症も出ない安全仕様(?)だからまず平気さねぇ(ゲラゲラ)…
(その態度に肩を竦め、ため息を漏らす男に一瞥をくれ、そのまま馬の歩を進める)
…あたしゃ久々に真面目に働いて疲れてんだからねぇ、あんたが何と言おうが”ネグラ”へ帰らせてもらうからねぇ(にぃ)…
(男にひらひらと手を振り、そのままゆっくりと馬を進める)
…あぁ”ネグラ”へ帰る前に”あの人”に一言、挨拶して帰らないと、後で何されるか分からないからねぇ…しゃぁない、一旦館に戻るかねぇ(ため息)… |
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狂気の宴〜二日酔いの朝〜 |
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貴族の少年 [ 2002/12/19 7:46:10 ] |
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| 客が去って閑散としたグストフ卿の館。 貴族達は名前を控えた上で帰宅させ、執事を含む使用人は被疑者として拘束、自室に軟禁。 招待された冒険者は派遣した冒険者の店やギルドに身元確認を取った上で解散。 ふらつく体を冒険者に支えられながらも、毅然と問題解決に乗り出す若き次期当主が 全て指示を出せば、それなりの形が整う。
ま、こんなところか。
自宅で「静養中」の私のもとに報告が入る。
ほお、彼の薬と中和剤の配合は仮死状態を起させる、と。その上言語に関わる能力 例えば会話も読み書きも、思考にまでも重篤な後遺症を残し、肉体的にも半身麻痺などのダメージを 残しやすい、と。……それは、大変ですね。早く良くなって頂きたい物ですね(邪笑)。 で、私の薬の方は? ふむ、倦怠感が2〜3日続くくらいで特に後遺症なしですか。 しかし、流石ですね。叔父が倒れたとき素早く駆け寄ったのが息のかかった野伏とは。 執事や使用人は買収されている可能性が強い、として拘束してしまえば、本家の当主が 指示を出すのに何ら障害はない。叔父の体を確保し、「蘇生」に努めたら薬効が切れて 意識を回復したと言う筋書きにすれば思い通りだ。 しかも、時間が稼げる。そして貴族の噂と冒険者の伝聞が、この次に広まるはずの 「叔父の小さなスキャンダル」を振りまくのに十分な下地を作ってくれる。なかなか便利ですね。 あの野伏は駆け出しで、賢者でもなければ魔術師でもないため、判断を誤ったとすれば万事解決。 だいたいあの場に集った連中は基本的には駆け出し程度のはずなのだから。本人も承知だそうです。 しばらく王都を離れ、修行と称した豪遊に出かけるはずですよ。楽しんでくると良いですね。
しかし、「あの方」が私と……知りませんでしたよ。縁は異なもの、というのはこのことですね。 いや最初から仕組まれていたのか(笑)。今回はつくづく女性「達」の怖さを思い知らされました。
ああ、そう。会場から抜け出そうとする不審人物が居て、あとをつけて行くうちに彼と接触する 人物が有り、そのうちの一人と争いになり、防衛上やむなく殺してしまったと。 殺された者がいかなる役割を持っていて、いかなる企みに関わっていたのか、「調査」を お願いいたしますよ。早急に解決すべく、然るべきところに鼻薬……いや心づけまで 撒いてあるのですから。貴族の事は貴族が自力で早急に解決、これが基本ですね。 今日、叔父の「蘇生」は明らかにします。そしてあと2日ほど衛視の動きを抑制しておけば 全ては解決することでしょう。
しかし、あのように危険な薬を誰が手に入れられるんでしょうね? ああ、ロマール辺りと交易をしている新興の商人が裏でそういう禁制のものを商っていると。 名前はラ……ということですね。 ふむ、彼は「叔父の愛人に横恋慕した」と。叔父は子供を作れない体でしたが 欲だけはありましたからね。愛人やら悪所の女やら、それなりに遊んだことでしょう。 で、叔父にすげなく扱われ、逆恨みで商人は叔父とその本家の次期当主である私まで 殺害しようと計画したと。確かに本家が動けば自分の身が危ういことになるでしょうからね。 さて、叔父の蘇生とともに、様々な「事実」が浮き彫りになったということで、 事態の収拾に向けて情報操作も怠りなくお願いいたしますよ。
私はいま少し、静養していることになっていますので、よろしく。 |
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狂気の宴・終焉〜宴の後に残りし一片の想い〜 |
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貴族の少年の母親 [ 2003/03/18 4:44:29 ] |
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| (露台に佇む2人の女性、1人は真紅のドレスを、もう1人は紫紺のドレスを身にまとい、お互い酒杯を手にしている。ごく自然に紫紺のドレスの女性へ視線を向け酒杯を掲げる真紅のドレスの女性。そして、それに答え酒杯を掲げる紫紺のドレスの女性)
…貴女には本当に感謝しています、もし貴女がいなかったらわたくし達親子はあのグストフ男爵にどの様な目にあわされていた事か…幾千の感謝を捧げても貴女には報いる事など出来ないでしょうけれど…
(紫紺のドレスの女性の言葉に頭を振り”当たり前の事をしたまで”と言いたげに微笑む真紅のドレスの女性)
…あの頃は、今と同じ様に穏やかな時が流れていましたね、わたくしと貴女と、貴女のお兄様と3人で…とてもとても楽しくてそして幸せな、そんな一時でしたわ…
(何かを懐かしむ様な表情で夜空を見上げる2人の女性、しばらくして意地悪そうな笑みで何事かを口にする真紅のドレスの女性)
……そうですわね、あの子のあぁ言うところはいったい誰に似たのかしら?(嘆息)でも、あの子にも貴女と同じ血が流れているのですからね、それを分かってそう仰っているのかしら?
(軽く口元に手を当て、コロコロと笑う紫紺のドレスの女性、だが、その女性の顔が真摯な表情に変わりそして、独り言の様に呟き始める)
…わたくしがあの子を身ごもっているとは知らず、旦那様がわたくしに婚姻を申し込まれた時、それこそ死ぬほどの想いであの子をどうしようかと迷いましたが、あの子を御自分の御子として産んでも良いと仰って下さった旦那様のおかげであの子はこの世に生を受ける事が出来ました…そんな旦那様にわたくしが報いる方法があるとすれば、それはどんな手を使ってでも旦那様の”御家”を守り通す事だけ、貴女にあの様な事を強いるに躊躇うを知らない恥知らずな女に成り下がろうとも…ですわ…貴女は、この様なわたくしを卑しい女と蔑むでしょうけれど…
(儚げに微笑む紫紺のドレスの女性へ、酒杯を露台の縁に置き、空いた両の手でその女性の手を優しく包み込む真紅のドレスの女性)
…貴女の存在がわたくしにどれほどの救いをもたらしてくれた事か……
(優しく包み込んでくれた手を握り返しそっと頭を垂れる紫紺のドレスの女性、その女性に優しげな笑みを湛え、握り返された手はそのままに短く言葉を紡ぐ真紅のドレスの女性)
…そうですわね、母親たるわたくしがもっとしっかりしないといけないですものね…
(その言葉に安堵の表情を浮かべ、ゆっくりと両手を離すとそのまま踵を返し立ち去ろうとする真紅のドレスの女性)
…やはり行ってしまうのですね、でも、例え立場が違えどもわたくしの想いはあの頃と全く変わっていません、どうかその事だけは信じて欲しい……
(弱々しくそう呟かれるその言葉に振り返り、ゆっくりと頷くと再び振り返る事なく部屋を後にする真紅のドレスの女性。その後姿を目にしながら紫紺のドレスの女性は、心のうちでそっと呟いた)
”……ありがとう、そしてさようなら、わたくしのたった1人の妹……” |
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(無題) |
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管理代行 [ 2004/11/27 4:36:53 ] |
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