| タトゥス老の依頼 |
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| あらすじ [ 2003/03/03 0:28:42 ] |
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| | 冬も終わりに近づく二の月の終わり。
パダの穴熊シタールの元に同郷であり、恩人である「タトゥス老」から仕事の話が来た。
彼はオランへと赴き。あの依頼に適した人材を集め。 タトゥス老が資金援助し、ムディールー野米を作っている村へと向かった。
果たして、そこで彼らを待つ物は? |
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| 寄せ集めご一行様。 |
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| シタール [ 2003/03/03 0:50:22 ] |
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| | パダで生活(皿洗い、接客等)にも、慣れ始めた二の月の初め。オランから来た奴が俺に手紙を渡しやがった。
送り主は「タトゥス老」 このじいさん。小孔雀外ので恐ろしい程に細密な地図を作ったり、古地図の収集家として有名だが、それ以上に「小孔雀外の顔役の一人」として有名だろう。
何で、俺ごときの若造が知り合いかって言うと。胡弓の師匠が同郷とやらでその縁で何か世話して貰ってる。
俺個人としては、パトロンになって貰いたいんだが・・それには俺の力はまだまだって所か。
「何だ?顔でも見せに来いってか。」 ・・・なんて、何の気なしに手紙を開封するとそこには「仕事頼みたい。」
「よっしゃぁー!!」っとその場で軽く叫び。意気揚々にオランへと向かった。
が・・・仲間集めが思ったよりも難航。
いつも仲間はラス以外は、結局捕まらずじまい。 (主な理由:「神殿が忙しい。」「他の仕事がある。」「寒いから嫌です。」等)
結局、方々を巡ってかき集めたのだが・・・正直これで良かったのかと不安にもなる。
その時は詰めるので必死で、性格や経験とかその辺を考慮してなかった・・・。 特に今回は・・・雪上での活動になり、経験が物を言うしなぁ・・・。 かといって、今更断るワケにも・・・・
だって、待ち合わせ直前だからな。
じゃ、カレン!ライカ!!ちょっくら20日ほど出てくるわ!! |
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| 出発。思惑。 |
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| ラス [ 2003/03/03 1:19:59 ] |
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| | <1日目>
「いや、おまえが暇で良かったよ」 シタールが、俺の肩を叩く。 …………………。 シタール。…俺は別に暇だったわけじゃない。いや、暇と言えば暇だった。 なにしろ、受けるかどうか考えていた仕事への返事をする前だったからな。 ただし。俺がこれを受ける代わりに断った仕事は、今回の仕事の3倍の報酬だった。
(溜息)……ま、しょうがねえか。シタールが持ち込んだ仕事の依頼主、タトゥス老には借りがある。 返しておかねえと、うぜぇ借りが。 それに、ここで仕事を受けて成功すれば、あの爺さんからの覚えもめでたくなって……っていう算段はシタールと同意見だ。
道中は平和……とは言え、出発したばかりだ。まだ街が見えるような位置で何かあるわけもないか。 街から外れて、山のほうへと足を向ける。蛇の街道を北へ。そしてそこから逸れて、西へと。 ここらあたりは、奥にある村の人間たちしか使わない道なんだろう。 収穫の時期になれば、荷馬車くらいは無理矢理通るのかもしれない。そんな道。
順当に行けば、目指す村までは5日ほどの道程だ。 出る可能性があるのは……冬眠明けの熊、餌が無くて腹を減らしてる狼、そうじゃなければゴブリンあたり。 ゴブリンあたりを餌にするもっと…………いや、これは言わないでおこう。
街の中は、すでに春に近い気候だ。もともと温暖なオランには雪もほとんど降らないし。 けど、ここから先は違う。 雪深いエストンの麓へ向かう道だ。吹き付ける風を遮る建物もない。 街道を逸れた時点ですでに足元には、雪が薄く積もっている。
「さすがに寒いなー」
エルメスがマントをかきあわせる。……おい、今からそれでどうするよ。これからもっと雪が深くなるぞ。 そして、俺には楽しみなことがひとつある。 この雪道。これからどんどん深くなっていくだろう雪。そして、冷えた朝には凍っているかもしれない道。 ……一番最初に転ぶのは誰かなー(にひ) |
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| 緊張 |
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| バシリナ [ 2003/03/04 0:50:23 ] |
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| | <1日目>
神殿を出るべきか、迷っていた。 そのような折に、ロビンさんが持ちかけてくれた話が、切っ掛けとなった。 そして私は冒険者として街の外にいる。
もう直、日が暮れる。 野営の準備を済ませ、今、私たちは思い思いにくつろいでいる。
他の方々は、このようなことに慣れているのだろう。談笑しながらも、その身ごなしには隙がない。 私はと言えば、傍らの楯をすぐに手に取れるか、鞘の中の剣はすぐに抜けるか、そのようなことばかりを考えてしまう。 ただの旅なら、ここまで緊張はしないのに。
両手を組み、目を閉じ、神の名を唱える。 息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
先程よりも、回りの音がはっきり聞こえるようになってきた。 視界も開けたように感じる。
少し、回りを見てこようと思った。 |
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| 星空 |
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| フォルティナート [ 2003/03/07 0:31:08 ] |
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| | <1日目>
シタールさんとバシリナさんに起こされて、リグベイルさんと僕の見張りの番が回ってきた。
見張りの順番はあっさりと決まった。ラスさんが「俺は最初に寝る」と言ってさっさとテントに入ってしまい、それなら、と苦笑いしながらシタールさんが最初の見張りを買って出た。緊張して眠れなさそうなバシリナさんも最初に見張りにつき、一度組んだ事のある僕等が二番目の見張りとなった。
バシリナさんの顔からは緊張の色はもう見えなかった。シタールさんと話をした事によって緊張が解れたようだった。
僕等は寝ているラスさんとエルメスさんを起こさないようにしてテントから出て焚火の傍に座った。
「荷馬を連れて来たのは正解でしたね。やはり僕には力仕事は向いていませんから。それにしても寒い。呪文が正確に唱えられるかどうか不安で一杯ですよ」
僕は緊張が解れないかと矢継ぎ早に喋った。野営と言うのは何度しても慣れなかった。
「どうしたフォル。緊張しているのか?まだ旅は始まったばかりだぞ。そんなに緊張していたら最後まで持たないぞ。 知識神を信仰しているのだろ?それなら星でも眺めて見たらどうだ?」
そんな僕の気持ちを読んだのかリグベイルさんが微笑みながら諭すように言う。確かにリグベイルさんの言うとおりだ。頼もしい仲間も居る。
そう思い深呼吸すると僕は空を見上げた。澄んだ夜空には満天の星が輝いていた。 |
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| 楽しい旅。 |
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| エルメス [ 2003/03/10 23:18:10 ] |
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| | <二日目>
……………寒い。
暖かい国出身のアタシは寒さに慣れてなく、どうも駄目だ。 歯をカチカチと鳴らしながら歩いていると、ラスが馬鹿にしやがる。 へっ、うるせーよ。
旅は、緊張してまだ恐いと思う部分もあるけど楽しい。アタシは好きだ。 ラスとシタール、リグベイル以外はほとんど面識もないけど、何かいい奴らだし。 何とか仲良くなれそうで、ちょっと安心。 足手纏いになるのだけが恐いが…大丈夫だよな。アタシ”熊殺し”だもん。
キャンプの準備も何処か楽しい。 ある意味力仕事だから、役に立てるし。
……あ?薪は完全に枯れている木を拾わないと駄目? こういう生木はまだ水分があるから燃えにくい……あ。そか。なるほどな。
うん、こうやって勉強になるしね。
悪いフォル、教えてくれてありがと!あ…フォルって呼んでいいよな?
笑顔で返事を返してくれた。やっぱいいヤツだった。
こうして、また一日無事に終わった。 昨日もなんとかなったし。このままだと何事もなく村に着きそうだな。
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| 夜明け前 |
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| リグベイル [ 2003/03/12 3:46:44 ] |
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| | <3日目>
夜明け前、他の仲間に先だって静かに天幕を出る。
手に大剣を携え木々の開けた場所まで足を運び、そこで大剣を構え無心に振り抜く。
こうして剣を無心に振っている時が、私にとって安寧の一時である事を今更ながらに実感する。
私の耳に響くは、己の呼気と大剣が空を裂く音のみ。
その静寂が、私の内に淀む不安をかき消し新たな活力を生む。
やがて、東より昇る朝日が目の前に荘厳な風景を醸す頃、私は大剣を納め薪に使えそうな枯枝を拾い集めながら、皆のいる天幕へ戻るべく足を向けた。
その戻る間、まだ夜気の残る空を見上げ今日一日の天候を推し測る。
空の様を見る限りでは、今日も良好な一日になりそうだ。
私は、何事もなく無事に今日が終えられる様、朝日にそう願った。 |
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| 道中、特に異常なし。 |
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| シタール [ 2003/03/12 23:30:55 ] |
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| | <5日目>
3日目、4日目と何もなかった、ただ、蛇の街道から伸びた村までの間道を進むだけ。
でも、この時期に餌不足で飢えきって、誰彼構わずにおそってくる野犬や狼にすら出会わないってのはおかしいよな・・・ リグベイルの奴も同じ事を思ったらしく時々「おかしい。」と口に出してたし・・・何かの予兆じゃなければいいが。
とかなんやかんや思いつつも、5日目の夕刻には村に着いた。
何もない村、だけど、数年過ごしたムディールの村によく似ている。 山の隙間を開墾して作った村、ムディールと夕の赤や金で装飾されたの家があれば、そのままといっても良い。
なるほど・・・こういうとこだから米が作れるワケか。
その日の夜に、全員で村の代表者と会い詳しい話を聞くこととな理、そこでさらにわかったことは・・。
1.以前からゴブリンは、何年か一度出没していた。村から半日ほど行った洞窟に小規模ながらも住んでいるらしい。
2.被害もさほどなく、下手に追い立ててしっぺ返しを喰らいたくないので不干渉であった。
3.殺害されたゴブリンの遺体は雪の中に埋めて保存してある。
4.漁師・村娘の死体の噂のことだが・・・確かにそのようなの死体はあった。だが、村のモノではないらしい。そちらの遺体も保存してある。
ってトコだ。
話を聞いて、ラスやフォルティナートはもちろんのこと、俺やエルメスだってこの件が「きな臭い」ってのは感じ始めた。
そして、その中で決まったことは。
1.メンバーを半分ずつに分け、交代で村周辺の探索に回る。 2.ゴブリンと人間の死体を徹底的に調べる。 3.死体を見つけたモノへの質問と発見場所への案内。(これが若干こじれた)
以上、三点。これらのことが決まった時には、夜更け。すべての行動は明日からを決まった。
俺らは、宛われた空き家へと向かい、5日振りの柔らかく暖かい寝床を朝まで堪能した。 |
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| 死体検案調書。 |
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| ラス [ 2003/03/12 23:56:09 ] |
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| | <6日目>
……ちくしょう。まだ腰が痛いぜ。 結局、雪道で最初に転んだのって、俺じゃねえか! しかも、おまえたちに引っ張られて!!>エルメス・バシリナ
(腰をさすりつつ)……ってことで、そっちはよろしくな。 おまえらが村周辺を調べてる間に、こっちで死体調べしとくよ。 ということで、リグベイルとバシリナ、エルメスが探索へ。 俺とシタール、フォルティナートが死体調べ。
場所柄ということもあるだろう。 「ひょっとしたら、イエティということも考えられますね」と言ったのはフォルティナート。 俺もそれは考えていた。実際に見たことはない。タラントで噂だけは聞いた。 毛むくじゃらの巨人がうろつきまわってる姿を想像する。……あまり、気色のいい想像ではない。
お、ここが埋めた場所か。よし、シタール、掘れ(偉そう)。
そして、冷凍状態のゴブリンたちをしばらく調べて…………俺たちは3人で目を見合わせた。 3人とも同じことに気が付いたらしい。 これは……「食い殺された」んじゃない。そう見えるように細工されただけだ。 俺たちには馴染みのある……そう、刃物の跡が幾つか残っている。 フォルティナートが見つけたのは焼け焦げの跡だ。……魔法か?
どうやら、刃物を使って、魔法も使う奴らがいるらしい。 そして、そいつらがゴブリンの死体を細工した。 ……何のために? 細工をする理由は、それを隠したいからというのが常道だ。 つまりは、自分たちの存在を隠したいから? ゴブリンはそれよりも大きな獣か雪男に食い殺されただけだと村人が思っていれば……そうすれば、自分たちの存在には気付かないから…か?
村人から隠れて行動中、出くわしたゴブリンの群れを思わず退治したとすれば……。 そうだな。カムフラージュしたい気持ちはわかる。 けど……そもそも、何の目的でどんな奴らがこの村に?
この村に何があるってんだ。珍しい米の産地だってことがあるくらいで、普通の山奥の村じゃねえか。 しかもやや閉鎖的ときてる。 俺なんか、半妖精が珍しいってんで、じろじろ見られたあげくに、逃げてくガキまでいたぞ。
ただ、この村に何かあるとすれば……急に気になるのは、「村人じゃない人間の死体」だよな。 こっちも、カムフラージュのされ方はゴブリンと同じだ。 ただし、着てる服が確かに村人のものじゃないな。どっちかっていうと俺たちみたいな………。
あー、もう。わかんなくなってきた。 とりあえず、メシ食ってから考えようぜ。探索チームもそろそろ戻ってくるだろうしよ。 腹減ったよ、俺。
「……ラスさん。死体を前にして、食事の話題するのはやめませんか?」 「そうだぞ、だいたい不謹慎じゃねえか。ゴブリンだけじゃなくて、人間の死体もあるってのによ。見ろよ。可哀想に。まだ若い女だ。生きてりゃ、一緒に食事でもしたいような別嬪じゃねえか」 「シタール。おまえも不謹慎な。っていうか、ライカに言うぞコラ」 「……………お2人とも……」
なんだか、フォルティナートが少しだけ困っているように見えたのは気のせいか。 |
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| 影 |
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| バシリナ [ 2003/03/13 0:35:14 ] |
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| | <6日目>
「ん」 リグベイルさんが鋭く視線を投げかけた。 その時にはエルメスさんが風のような身ごなしで、雪上を滑るように駆け出していた。 鞘を払いつつ、後を追う私の目にも、それはハッキリ捕らえられた。
探索を始めてから一時間あまりが過ぎた時のこと。 村の西、急勾配の林の中から、こちらを窺っていた一つの人影。 翻ったのは、銀灰色の外套だったろうか。 私が駆け出して幾つも数えないうちに、影は林の奥へと消え去っていた。
「追うか、それとも」 足跡を吟味しながら、リグベイルさんが呟いた。 影の立っていた場所から斜面を駆け上がっていく一人分の足跡。 「すごい早足だった。ラスでなんとか追いつけるくらいだと思う」 周囲を窺いながらエルメスさん。 足跡は、ごく普通の形で、私のブーツより少し大きい程度。 瞬き一つせず、リグベイルさんはこれを凝視している。 「ラス達を呼んだ方がいいんじゃないの」 「では三人揃って戻るか」 「一人、呼びに遣ろうか」 そこで名乗り出ることにした。
楯を預け、身軽になったところで村まで走る。 血が熱くなるのを感じる。 同時に思った。 次は、足を滑らせても手を伸ばしたりするまいと。 |
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| 追跡 |
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| フォルティナート [ 2003/03/14 0:05:57 ] |
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| | <6日目>
僕等は唯一野伏の経験を積んでいるリグベイルさんを先頭に足跡を辿っていた。
死体の調査の後、食事をし終え寛いでいる所に(結局二人と一緒に食事をした。しかも探索チームが帰って来たら村人に再度話を聞いているという事にしようと言う話をして)息を切らせたバシリナさんが駆け込んできた。 話を聞くとシタールさんとラスさんはあっと言う間に身支度をし終えた。ここら辺は流石に経験を積んだ冒険者だと感心させられる。 そしてリグベイルさんたちと合流すると追跡を開始した。
追跡を開始してから一時間ほど経った所で、小川にぶつかり雪の上にハッキリと残っていた足跡が途切れていた。向こうは此方に気付いていたのだから当然追跡されないように工夫を凝らすだろう。
このまま追うのか、或いは引き返すのか。追うとしたら上流に行くのか下流に行くのか。 このままだと足跡が消えるなとリグベイルさんが空を仰ぎながら言う。つられて見ると、どんよりとした雲が空を覆い始めていた。
結局話し合った結果、もう一時間ほど追跡する事になった。寝泊りする道具は持ってきていない。もしも雪が降り出したら追跡どころか死にかねないという事になったからだ。 追跡する方向はエルメスさんの「ゴブリンが住んでる洞窟の方向にしよう」と言う一言で決まった。
僕等は再び深い雪の中を小川に沿って歩き出した。 |
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| 食事 |
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| ラス(※) [ 2003/03/16 0:54:27 ] |
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| | <7日目>
食事は村の人間が用意してくれた。 どうやら、そのあたりのことも契約になっているらしい。 タトゥスの爺さんから、「メシのことは心配するな」と聞いていた。 食事の支度や材料調達に時間が取られないのは、正直ありがたい。
今日の朝メシは昨日と同じ、フォーだ。 ここらの特産らしいムディール米。それを粉にして練り、乾燥させて作るパスタのような麺。 茹でると半透明になって、鶏でとったスープとよく合う。 山からの風が強いここらなら、この麺を作る作業には適してるんだろうなと思った。
昨日は結局、強くなってきた雪に捜索は中断された。 今日はどうするかという話になる。 あらためて同じ場所を捜索するか、それとも別の調査をするか。 どちらにしろ、向こうも昨日の一件で警戒はしているだろう。目的は何であっても、向こうが隠密行動をとっていることには確かなんだろうから。
「どうした、何か気に掛かることでも?」 シタールが尋ねる先はリグベイル。 「いや、昨日、エルメスが言ったようにゴブリンの洞窟を目指したろう。その時に、雪に紛れて何かが動いたような気はしたんだが」 どちらにしろ、吹雪のようになってきていたし、それ以上追うことも出来なかったろうから、と。 ……ゴブリンがまだ残っているのか、それともそこに誰かいるのか。
ただ、今日は外に出るのは危険かもしれない。 そう言うと、フォルティナートが首を傾げた。 「どうしてですか? 雪はもう晴れたから捜索に不都合は……」 確かに天気はいい。
けど、昨日までは冷え込んでいて、雪の表面は堅くしまっていた。 そこに、昨日の夕方から深夜にかけて降り続いた新しい雪。 新たに積もった雪と、それまであった雪とは明らかに質が違う。そしてここは山間だ。更に言えば、フォルティナートが言ったように、今日は天気がいい。気温も昼間には上がるだろう。
「……雪崩れ、か」 答えたのはリグベイル。さすがに野伏だ。雪深い土地の生まれじゃなくても、知識はあるらしい。
村の人間にあらためて話を聞くのもいいかもな。 ほら、発見した場所について、あいつら……なんか言い淀んでたろ。 他のことには驚くほど協力的なのに、そのことにだけはなんだか渋ってた。どうにもひっかかる。
「……ところでラス」 真顔で口を開いたのはエルメスだ。 「……なんだ?」 「それ………………麺がのびてるんじゃないか?」
──うるせぇな。冷ましてたんだよ(←猫舌)。 |
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| 曇天 |
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| バシリナ(※) [ 2003/03/24 22:41:31 ] |
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| | <8日目>
一度は緩やかになっていた降雪の勢いが、今朝から激しく変じて来ている。 「例年にない豪雪だ」と、タトゥス老翁が案じる様子でシタールさんと話していた。 もう正午を回った頃合の筈だが、空は厚い雲に覆われている。 外は、吹雪とまでは言わないまでも、かなり強い風が吹いている。 私たちは、小屋の中で、シルフとフラウの乱舞を聞く以外にすることもない。
ただ、部屋の空気が重いのは、何も身動きが取れないからだけではない。 椅子に凭れ、私は気まずい思いで、膝の上で重ね合わせた手を眺めていた。 やがて、それにも耐え切れなくなり、ちらりと顔をあげて、皆の様子を窺う。
床に胡座をかき、むっつりとしているシタールさんとラスさん。 卓上で指を鳴らし、物憂げにしているエルメスさん。 杖に寄り掛かりつつ、窓外の景色を見やるフォルティナートさん。 壁に背を預けて瞑目しているリグベイルさん。
「バシリナの言うことが本当なら」 ラスさんが口を開いた。思わず、撃たれたように身体が震える。 「その猟師が、こないだの怪しい人影の正体か、或いはそれと繋がりのある人物と言うことになる」 そこでラスさんは言葉を切り、シタールさんを見た。 口を堅く引き結んだシタールさんの表情には、いつもの快活さがない。 「シタール、なんて言ったっけ、そいつの名前」 「クザク」 「そうだ、クザクだ。お前とは旧知の仲なんだよな」 シタールさんは再び黙り込んでしまった。
そのクザクさんが、何やら大きな布包みを抱えて山道を登って行くのを、たまたま目にしてしまった。 昨晩、中々寝つけなかった私が、夜気に当たるために小屋を出た時に。 あの時、私は声をかけるべきだったのだろうか…。
一際強く吹いた風が窓を撃ち、がたがたと揺らした。 |
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| 灰の中 |
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| リグベイル [ 2003/03/25 0:25:34 ] |
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| | <9日目>
昨日の曇天と打って変り、今日は朝からまずまずの天候に回復した。 だが、気温の上昇に伴う雪崩の危険性は大いに増す事になる、無理は出来ない。 それよりも、一昨日から行なっている村人達からの情報収集を続行させた方が良い様に私には思えた。 特に、昨日バシリナから報告を受けた「クザク」なる人物に聞く事は大いにありそうだ、一昨日聞き回った村人達の中に彼の姿はなかったのだから。
私達は朝食を簡単に済ませると、6人揃ってクザクの家へ足を運んだ。 また何組かに分けて行動した方が効率は良いのかも知れないが、不測の事態を考慮するとここは一緒に行動した方が良い様に私は思ったからである。 皆も私の進言に賛同してくれた。
クザクの家に赴く間シタールは、とうとう一言も口を開く事はなかった。 彼の生気の失せた表情を目にしては、誰もクザクの事を聞こうと言う気にはなれない様であった。 私の横を並んで歩いていたラスが、つまらなそうな顔で鼻を鳴らしながら呟いた。 「会ってみれば分かるさ…最も会えればの話だが」
ラスの懸念は的中した、クザクの家には誰もいなかった。 クザクの家の周りに人の足跡らしきものは見当たらなかったし、扉や窓に降り積もった雪の状態からそれ等が昨日の吹雪から今まで開けられた形跡もない。 私は周囲に気を配りながら、部屋の奥にある暖炉の中の灰に手を触れた。 そして、その灰の温度から鑑みるに少なくとも一日以上使われていない事が窺い知れた。 つまりそれは、一昨日の晩から今朝までこの家に近づいた人間はいないと言う事を示しているのではないかと私は思った。
昨日の天候に山の中で足止めを食って未だ戻れていないのか?そてとも…
肩越しに振り返りシタールの顔へ一瞥を与える。 彼の表情は人形の様に凝り固まっていて、はっきりとした感情を窺う事は出来そうになかった、余程の複雑な思いが彼の胸中を荒れ狂っている様でもあった。
軽く嘆息し、暖炉の灰から手を出そうとした私の指先にふと何かが触れた。 私は意識を集中し、もう一度注意深く灰の中に手を入れた。 そして灰の中を弄る事しばし、暖炉の灰の下から小さな扉を発見するに至った。 思いがけない発見に目を見張る一同。
さて、どうしたものか?
私は、己のうちにある逡巡を思いながら皆に視線を向けた。 |
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| 代金 |
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| ラス(※) [ 2003/03/27 1:05:39 ] |
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| | <9日目>
リグベイルが見つけた隠し扉を調べてみる。 鍵は簡単に開きそうだ。だがこれは……随分と小さな扉だな。 例えば隠し通路の入り口とか、隠し部屋への扉とか、そういったものよりも、むしろ何かの隠し場所のような。 しかも随分と急ごしらえだ。 本来なら、隠し扉の取っ手は外からは見えないように細工されてる。 リグベイルの指先に触れた「これ」のようじゃなくてな。
この地方では暖炉は必須だろう。 その暖炉の中にわざわざ作って、灰で覆い隠してあることからも、いかにも「後先考えずに急いで作った」ってイメージがあるよな。 (かちょかちょ。ぴーん★)……ほら。鍵もちゃちい。
………………。
……シタール。クザクって野郎はこんなに金持ちだったのか? ざっと見ただけでも、2万はあるぞ。薄汚れた銀貨が2万枚なら驚きやしねぇけどな。 ぴかぴかの金貨や、大粒の宝石がごろごろしてるんじゃ、疑わないわけにもいかねえだろ。 ……クザクは、昔、冒険者だったって言ってたな。その時の稼ぎにしても不自然だ。
「エルメスさん? 何を…?」 バシリナの声に振り向くと、エルメスが、隅にあるチェストの前であわてふためいていた。 「え? あ、いや、ち、違うよ、何もしてないってば! ただ、ここにある髪飾りが綺麗だなって……自分に似合うかどうかなんて考えてないってば! ほんとだよ!」 「お似合いですよ(笑)」 フォローしたのはフォルティナート。そのまま、エルメスの手から髪飾りを受け取って眺めている。 「……繊細な銀細工に、月長石ですね。値段にすれば、おそらくは500ガメル程度かと。若い女性向けのデザインです」
──整理しよう。 バシリナが目撃した時の風体から言って、あの日、おまえらを見張ってたのはクザクだろうな。 そして、クザクは一昨日の夜にバシリナが見かけた後、この家には戻っていないらしい。 家の中には、不自然なほどの金。と、どう見ても、野郎の一人暮らしって家にはそぐわない髪飾り。 髪飾りが安物じゃなく、新品だったことも考えれば、それは誰かへの贈り物か。 古今東西、野郎がそんな贈り物をする相手なんざ決まってる。ものにしたい女相手だろう。
じゃあ、この金は。
眉根を寄せてシタールが頷いた。 「……何かの『代金』だ。あいつには分不相応な金だ。好いた相手がいるかどうかは知らねぇが、金持ちじゃなかったことだけは確かだからな。おそらく、あいつは何かを売った。あいつ自身に売れるものなんかねぇ。それに、金額を考えれば、売っちゃいけねぇモンを売ったんだ。……この村の『秘密』とやらを」
「売ったのなら、買い上げた相手が……」 フォルティナートが言いかけた時。窓の外に人の気配を感じた。中の話し声に気付いたか、慌てて立ち去ろうとする気配も。 「追うぞ、エルメス。ついてこい!」 扉を開けて外へ走り出しながら俺は、この仕事を受ける前に蹴った仕事の話を思いだしていた。 |
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| 秘密の正体 |
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| シタール [ 2003/03/27 23:00:17 ] |
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| | <9日目>
追いかけっこは思ったよりも早くけりが付いた。 クザクの野郎は、汚して屋がった、一面白の中に転々と残る赤い染み。 これなら追いかけるだけなら、子供にだって出来る。
右肩を大きく怪我したクザクを、ラスとエルメスが二人がかりで雪原へと押さえつけた。 久しぶりの再会だったが、クザクの奴はずいぶんと窶れていた・・・おそらく大きな病気にかかっているのだろう。 俺が知っている頃の杖とは思えない膂力を出されたら、例え二人がかりでも押さえつけることなど不可能だったはずだ。
とりあえず、俺たちはクザクを小屋まで連れて行くことにした。
「さて。機嫌良く歌って貰うぜ。」 ラスが言ったこの台詞を皮切りにクザクへの尋問は始まった。
少しは抵抗するかと思ったが、観念したかのように奴は色々事を話し出した。
肺を病んだ奴は、タトゥス老の口利きでこの村にて静養をしていた。 そんな時に、奴の元へ明らかに堅気じゃない人間がやってきて、こう言ったそうだ。
「この村の秘密・・・いえ、禁忌なるモノを手に入れたい。」と。
「禁忌なるモノ?それはいったい何なのですか?」 肩口の傷を止血していたバシリナがそう訪ねた。
「・・・混沌さ。神代の時代から残ってしまった禁忌なる力だ。」
「それは一体・・・」 そう訪ねかけた直後、大きな何かはじける音がした。 |
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| 二重の秘密 |
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| ラス [ 2003/03/27 23:47:47 ] |
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| | <9日目>
俺が蹴った仕事の話はこうだった。 「誰でもいいから精霊使いが欲しい。せいぜい、精霊を支配して持ち歩くことが出来ればそれで構わない」 冒険者の店を通さずに、直接来た依頼だ。 依頼料は3000ガメル。それが最低報酬。うまくいけばその倍以上は見込めると。
断った理由は、シタールから今の仕事のことを聞いたからじゃない。 もちろん、報酬には不満はない。が、依頼を持ってきたヤツの目が気に入らなかった。 そして、求めてる腕の割には金額が高い。 更に、奴は言ったんだ。 「手はずは心配ない。行く先に内通者がいるからな」と。 ということで、「他当たりな」と席を立った。 ……もちろん、気にくわなかった理由の最大のものは『誰でもいいから』の台詞だったんだが。
オラン近郊。そして、時期の重なり具合。 俺が席を立った時の、相手の舌打ちを思い出しながら、俺は聞いてみた。クザクに。 「……おまえからネタを買い上げた奴は、右目が白く濁っていなかったか」 頷いたクザクを見て、俺は考えていた。他の奴らがクザクを尋問している間ずっと。 あの時、あの男は他に何か言っていなかったかを。
「火球っ!?」 破裂音にいち早く反応したのはフォルティナート。 家の玄関近くで警戒していたリグベイルが、外を覗いて舌打ちをする。 「奴ら、家ごと狙ってる。家の反対側はもう火の手が上がってるぞ」 「ちっ。外に出るか。立て、クザク! そして答えろ! 混沌の力ってのは何だっ!?」 シタールが、クザクの襟首を掴んで立たせる。
「……っ…! 神々が……残した力だ。ねっとりと黒い……火の泉だよ! 残念ながら俺には精霊の声を聞くことは出来ない。だが、よく知る娘が言っていた。その泉には火蜥蜴の力が満ちているとな! 泉でありながら、水乙女とは相容れない、それが混沌でなくて何だ!?」
青い顔で、額に汗を浮かべながら、それでもクザクは陶酔したような表情で語り出した。
「……研究、したかったんだ。タトゥス老がここに俺を連れてきてくれたのはこのためかとも思った。けど、その泉には守護者がいた。決して俺を認めようとしない守護者。だから、俺はまず守護者に従う巫女を……ああ……エレナだよ、エレナのことさ。 確かに俺は、このネタを奴らに売った。混沌の力のことを。けれど、その守護者とエレナは守るつもりだったんだ。エレナの言うことなら、あいつは聞く。だから、エレナに事情を話して、奴らが来る前にその守護者と共にここを離れようと……ラムリアースにも使いは出した。なのに、なのに、奴らは知ってたんだ! 最初から知っていて、俺に近づいてきた! エレナを助け出そうと俺は……っ!!」
──そして、思い当たった。そうだ、あの時あいつらは……。 この俺に話を持ち込むなんてどうかしてる。……俺が最も嫌われる相手じゃねえか! 俺とよく似た力を持っていて…なのに、まるきり正反対で。
「黙って! 外の音が聞こえない!」 エルメスが裏口を覗く。その横でバシリナも同じように。 「……駄目です。待ち伏せされてます」 「けど、表はもうすぐ火の手がまわる。こっちからは無理だ」 リグベイルが玄関から離れながら言う。その手には長剣が抜き放たれていた。 「待ち伏せ上等。突破してやろうじゃねえか。行くぞ、魔法使い、援護しろ!」 片手に斧、片手にクザクという姿勢で、シタールが言い放った。 |
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| 緒戦、追跡 |
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| バシリナ [ 2003/03/28 1:24:22 ] |
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| | <9日目>
引き抜いた剣に接吻を捧げ、神へ加護を願う。 シタールさんが、エルメスさんが、リグベイルさんが、続けざまに飛び出して行く。 そして私も外へ駆け出した。 身体中の血が沸き立つ。 覚えず、鬨の声が迸った。
「爺さん、後始末は頼む」 「任せておけ。お前こそ、気をつけるんだぞ」 シタールさんとタトゥス老翁が握手を交わす。 小屋を襲撃してきた者のうち、三人を討ち漏らしてしまった。火球を操る魔術師もその中にいる。 葬り去った四人(いずれも屈強な戦士)の遺骸は、騒ぎに駆けつけた老翁達に任せて、私たちは一路、山中の泉を目指す。 先頭に立つのはクザクさん。魔術師ながら野伏の心得があるらしい彼の足取りは巧みで、深雪の山道を物ともせずに駆けあがって行く。 その後をラスさん、リグベイルさん、エルメスさん、シタールさん、フォルティナートさんと続く。 私は殿だ。楯を背負う分、どうしても私の歩みは遅くなる。
足が痛む。先ほど切られた太股の裂傷には、リグベイルさんが止血をしてくれたのみであり、癒しを用いていない。 私だけではなく、誰もが癒しを受けていない。 「みんな、まだ浅手だ。魔法の癒しは最後の手段として取っておいてくれ。これから何があるかわからん」 ラスさんが息を整えつつ、私に言った。 先の切り合いにおいて、ラスさんはかなりの魔法を行使して、私たちを援護してくれた。 そうでなければ、こちらにも死者が出ていたことは間違いない。 それでも、まだ余力を残しているあたりは、練達の術者と言うべきか。
「この林を抜けた先だ」 悲壮な決意を顔に刻み、クザクさんが言った。 「気をつけろ。間違いなく待ち伏せている」 「ここからは散開しましょう」 素早く汗を拭いつつ、フォルティナートさんが提案した。 「古代語魔法の真骨頂は広い範囲に効果を及ぼすことにあります。先の火球然り、眠りの雲然り」 リグベイルさんが頷いた。 「なるほど。固まって突っ込んだら一網打尽にされかねん」 「その通りです。ですから、散ってしまえば、魔法の矢くらいしか相手が使えることはなくなりますね」 「それ、痛そうだなー」 エルメスさんが顔を顰める。 「今から抗魔の術を使います」 フォルティナートさんが杖を構えた。 「この術はあまり長くはもちません。二人ずつ、いきます。受けたから順に突撃してください。まず、シタールさん、リグベイルさん」 「おう」 「いつでもいいぞ」 フォルティナートさんの口から、魔法の言葉が漏れる。 私は林の先を見やった。 まだ見ぬ、混沌の燃える泉。そこから身を焦がす瘴気が噴き上がるのが感じられるようだ。 背筋に、震えが走った。 |
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| 守護者 |
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| フォルティナート [ 2003/03/29 23:50:36 ] |
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| | <9日目>
この戦いはすぐに決着がつく。先に行った仲間達の後に続きながら僕はそう確信していた。 チェスと同じだ。王を獲れば勝ち。魔術師を倒せば残りの連中は降伏するだろう。 先ほどの戦闘で魔術師は相当披露しているはずだ。そして此方には優秀な精霊使いのラスさんがいる。バシリナさんに“精神力賦与”の魔法をかけてもらい精神力も十分だ。 リグベイルさんとシタールさんに最初に行ってもらったのは不意打ちを防ぐのと敵の戦士たちを阻むため。 魔術師を生け捕りにして話を色々と聞くことができる。そう、僕はそう思っていた。しかし、結果は違っていた。
息を切らせながら林を抜けると其処には身構えている仲間達の背中があった。 どうしたのかと問いかけながらエルメスさんの隣りに並ぶ僕の眼には邪悪な笑みを浮かべた妖魔が写った。
「ダーク………エルフ!」
肌の黒い森妖精。暗黒の神々の側に与した種族。彼らは森妖精を極端に嫌うと言う。その逆も言えるが。此処からでは見えないが半妖精であるラスさんは敵意に満ちた目で見ているだろう。 そして至高神神官のバシリナさんは存在自体を許さないはずだ。 その闇妖精と僕等の間には魔術師と戦士二人が倒れていた。此処からでは死んでいるかどうかは判断し難いが、恐らく死んでいるだろう。 幾ら僕等との戦いで傷ついていたとは言え三人も殺す力を持っているとは………
「貴様等もこの泉を狙っているのか?渡す訳にはいかんな。 本当ならばこの泉のことを知ってしまった者は生きて返す訳にはいかんが、いささか疲れた。其処の半妖精と至高神神官以外は生きて返してやらんことも無いぞ」
自分の肌と同じくどす黒い色をした泉を見やりながら闇妖精が言い放つ。 彼女がクザクさんの言っていた守護者……… 村人は知っていたのだろうか。いや、知っていたのだ。恐らく互いに干渉しない事を条件に共存していたのだろう。 これが村人達が隠したがった秘密か……… |
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| 魔狼の咆哮 |
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| リグベイル(※) [ 2003/04/03 21:28:29 ] |
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| | <9日目>
「…それと貴様も生きて帰れるとは思うなよ、クザクとやら。我が巫女をかどわかしあまつさえ彼女を死に至らしめるとは…その罪、万死に値すると知れ!」
冷然とそう語っていた闇妖精ではあったが、最後の言葉を発した時、僅かではあるが怒りとそして嘆きの精霊が彼女の心の中に揺らめいたのを私は感じ取っていた。
「なっ何を言うか、俺は貴様も共に助け出そうとしたのだぞ?そっそれに、エレナが生来の盲目でなければそもそも貴様になぞ仕えるものか!俺は彼女を混沌の呪縛から解き放とうとしただけだ!それを貴様は…」
闇妖精の言葉に憤慨したクザクの口調は、徐々に荒々しく変貌して行く。
私は、闇妖精とクザクが言い争っている間にその闇妖精が如何程の力を有しているだろうかと推測した。 今、闇妖精の足元に転がる三体の死体は、屈強な戦士達と“火球”を駆使する魔術師のものである。 如何に手負いとは言え、私達がここへかけつけるその短い間に易々と倒されるとは思えなかった。 と…すれば、今、私達の目前にいる闇妖精は相当の実力を有していると言う事になる。 その気になれば、目の前にいる私達を一蹴する事も容易いのではないのだろうか?と言う考えが私の頭を過ぎった。
クザクはともかくラスやバシリナを闇妖精の言う通りに差し出す事など私達に出来るはずもない、だが、彼女に挑んで打ち勝つ事も、また逃げ出す事も果たして敵うのだろうか?
私達にとって実に不本意な選択を強いられている事を自覚しながらそれでもどれかを選ばねばならぬのか、と言う思いに不快感をあらわにしていた私の耳元にラスの声が響いて来たのはその時だった。
『…おぃ、ヤツの足元の魔術師、どう見る?』
”風の声”か?と思いつつも私は闇妖精の足元に転がる魔術師の「死体」に目を向けた。 すると、本当に微かではあるが”生命の精霊”がまだ宿っている気配が感じられた。 そして、それと共にある精霊の力も感じられた。 とてつもなく危険な精霊の力が。
闇妖精が足元の魔術師の異変に気づいたのは、その危険な精霊の力が爆発的に顕れた正しくその瞬間であった。 ねっとりとした昏い感情を噴出す”狂気”と言う名の精霊を纏った魔術師は、形容しがたい言葉を発しながら闇妖精に飛びかかった。
闇妖精は咄嗟に体を引いて魔術師の突進を避けようとした、だが、刹那の一瞬とも言えるこの好機を最大限に生かした者がいた。 ラスが、忍ばせていた短刀を闇妖精に目がけ投げつけたのである。 ラスが投げた短刀は闇妖精の太腿に突き刺さり、結果、彼女の動きを一瞬止める事となった。 闇妖精は、魔術師の突進を避けられずに背後に広がる黒い泉の中に諸共身体を躍らせた。
泉の浅瀬で絡み合いながらも闇妖精は、己の太腿に突き刺さった短刀を引き抜いて魔術師の胸を一突きした後、その身体を突き放して浅瀬に片膝をつきながらも身を起こす。 そして闇妖精は、その双眸に怒りの炎を揺らめかせながら私達を見据えると、私達に報復すべく片手に精霊魔法を行使する為の手印を作って精霊語を唱え始めた。
だが、浅瀬に転がる瀕死の魔術師を軽視し私達に気を逸らした事が、闇妖精の命運を大きく分けた。
己の胸に突き刺さった短刀をモノともせず身を起こした魔術師が、古代語魔法を行使すべく両手を高々と掲げた。 闇妖精は、目の前の魔術師が強力な魔法を行使する為の精神の力をもう幾ばくも有していない事を察していた様であり、嘲笑めいた表情でその魔術師に一瞥を与える。 だが、この瀕死の魔術師にとって強力な魔法を行使する為の精神の力は必要としていなかった。 その魔法は魔術師にとって極初歩に覚える魔法であり、”火球”を行使しえる魔術師には、微々たる精神の力で充分だったからである。 瀕死の魔術師はその場には場違いな、晴れ晴れとした笑みを湛えその魔法を行使した。
『発火』
瀕死の魔術師を中心として強烈な爆炎が立ち上った。 その爆炎は苛烈な勢いで闇妖精を瞬く間に呑み込み、彼女の姿を炎の向こうにかき消して行った。
あまりの事の成り行きに呆然としていた私の足元から、不吉な「唸り声」が響いて来た。 私は、己の全身が総毛立つのを感じながら周りにいる仲間に鋭く警告を発した。
「雪崩が来るぞ!下に逃げるな!横へ逃げるんだ!!」
私がそう叫ぶ間にも”魔狼の咆哮”は確実に私達に目がけ近づいていた。 私は咄嗟に大剣を放り出し両手を空けると、横へ駆け抜ける際に、太腿の怪我で動きが鈍くなっていたバシリナを抱え上げ、彼女と共に目の前の茂みの中へ飛び込んだ。 |
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| 下山前夜 |
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| バシリナ(※) [ 2003/04/08 22:18:09 ] |
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| | <12日目>
あの時…。 何故、クザクさんは逃げようとしなかったのか。 シタールさんが掴んだ腕を振り離し、彼はその場に立ち尽くしていた。 彼の目は、何を見ていたのだろう。
辛うじて雪崩に耐えた私たちは、異変を知った村人たちによって数時間後に救い出された。 幸いなことに怪我人はなかった。 ただ一人、濁流に呑まれて消えたクザクさんを除いて。
それから三日が過ぎた。 それが、シタールさんが事実を受け入れるまでに要した時間だった。 何度も現場に赴き、何かしらの痕跡がないかと目を凝らす彼に、誰も言葉を掛けられなかった。
かつて混沌の泉が湧いていた辺り一帯は、雪に埋もれてすっかり地形が変わってしまった。 もはや、これを利しようと図ることは誰にもできないだろう。 クザクさんの葬送を終えた私たちは、明後日に下山することになった。
旅支度を整えながら、脳裏には、まだクザクさんの横顔が思い出される。 彼の、やつれた顔に浮かんだ表情が思い出される。 あれは、愛と憎と、二つの感情だった。 彼と詰り合ったダークエルフの女は、あの時、どんな表情をしていたのだろう。 それは、今となっては詰まらぬ詮索だろうか。 私は、そっと聖印を握り締めた。 |
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| 新たな依頼 |
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| リグベイル [ 2003/04/17 4:14:41 ] |
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| | <12日目>
「…老、少しお耳に入れておきたい事が御座います。お聞き入れ頂けるでしょうか?」
クザクの葬儀が終った即日に私は、そう言ってタトゥス老にある事を切り出した。
〜〜数刻後〜〜
老に呼び集められた他の仲間を前に私は、この仕事の間、私の“弓”としての勘へ常に警鐘を鳴らしていた事柄を皆に話した。
ひとつ、森に獣が少なかったと言う事。
ふたつ、私達を襲った奴等の居留跡を調べたが、その跡地の具合と私達が倒した奴等の人数が合わない、さらに極最近(恐らく1日以内)の間に、巧みな隠蔽工作がされた跡が見られる事。
みっつ、私達が倒した戦士達の太刀筋がほぼ同じで、よく訓練されたものである事。
以上の事を踏まえた上で私は、私見ながら皆に己の推測を話した。
それは、居留地の設置や隠蔽の仕方、奴等の戦い方から猟兵を主とした“軍隊”が展開していて、獣達は奴等が森に侵入して来た際に、危険を避ける為に身を隠したのだと言う事。 このまま私達がこの地を離れる事になれば、奴等はその隙を狙いこの地を強襲して“火の水”を奪取する事はまず間違いないと言う事。 何故なら、奴等の狙いは唯一つ“黒い泉の火の水”であるから。
私はそこまで一気に話し、皆の反応を待った。
「…仮に彼等が何処かの国の軍隊だとして、まずこの“火の水”を最も欲しているのは、この国の北で争っている彼の国々でしょうね。上手く扱えば、この水を兵器利用する事も可能でしょうから…」 「だが、軍隊の力を強化したいのは、その二国だけじゃないだろう?この国を囲む他の国々だって同じ事を考えているはずさ」 シタールが、フォルティナートの意見に他の可能性を提示して見せ更に意見を求める様に皆へ視線を向ける。
「……そうだな、だけど軍隊を強くしたいのはこの国だって同じじゃねぇの?って俺は思うけどな…」 ラスの台詞は、顔の表情は普段のままだったが、何時もよりも辛辣さを増した様に感じた。
「…けどさ?あの泉、今はもう雪の下だぜ?利用する事は出来ないんじゃないの?」 エルメスの最もな問いに、泉は埋まってもそこへ至る水脈はまだ生きている可能性がある事を私は告げた。
「……私には…」 それまで押し黙っていたバシリナが囁く様に、だが力の篭った瞳と共に淡々と話し始めた。 「私には国同士の思惑とか、そう言った事はよく分かりません…ですが、私達がこのままこの村を去る様な事があれば、この村の人々は大変な危険に晒されると言う事です。私は“至高神”の使徒としてその様な事を見過ごす訳にはまいりません!たとえこの村に残る者が私一人だとしてもです!!」 確固たる決意を秘めた瞳で私達を見据えながら、やや蒼白な顔色をしたバシリナがそう断言した。
「…アタシもやるよ!何かこうこそこそしたのって嫌なんだ、どこまで出来るかわかんないけど、アタシは降りないよ」 「……この様な危険な力、兵器に用いられでもしたらそれこそこの世界はどうなる事か…賢者の端くれとして看過する訳にはまいりませんね…」 エルメスとフォルティナートが異口同音にバシリナの言葉へ賛同する。
私とシタールは、無言で頷き合いながら残る一人に視線を向けた。
「……と、言う訳だ、爺さんが何らかの手を打つ間、この村の警護の仕事を格別の配慮で請けても良いぜ?」 ラスが、屈託ない笑みを浮かべながらタトゥス老にそう告げた。 |
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| 勘違い |
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| シタール [ 2003/04/19 0:29:11 ] |
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| | <12日目>
「・・・まあ、待て。勘違いするな・・・」
いきり立つ俺らを前に前にしてじいさん(タトゥス老)は静かにそして単胆を俺たちに対して反論した。
「お主達は国というモノと争うことの怖さを知っておるのか?」
・・・・・・いや、知らない。
「だが、想像が出来るであろう?そしてその力に絶対に勝てるのか?」
・・・それは・・・やってみなくちゃわからねえワケで・・・。
「そのようなことに何も力を持たない村の人間を巻き込むのか?」
・・・それだけは絶対にやっちゃいけねえ事だと思う。
さっきまでの昂揚は嘘のように冷めていき、部屋には重苦しい空気がながれた。
「じゃあ、どうすれば良いのだろう?」 多分、みんなそんなことを考えていただろう・・・。 長いようで、本少しの沈黙が続いた後・・・爺さんが口を開いた。
「儂としてはだな・・・クザクが考えたように学院の関与を求めるべきであろう。ただし、ただしじゃ。ラムリアースではなくオランの学院が良かろう。この国の国王は学院へのてこ入れもせぬ・・・。北の方へ流れていくよりはずっとマシであろう。これが村長と儂が話し合った結論じゃ。」
たしかに・・・現状に置いてそれが一番の安全策だろう。 そのことは理解出来るが・・・
「儂の新しい依頼はな。その学院からの調査隊が来るまでこの村にいて欲しい・・・ただ、それだけじゃ。」
それから数日は、あっという間に過ぎ去っていった。 |
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| 報酬 |
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| ラス [ 2003/04/19 1:02:05 ] |
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| | 「……ま、これで良かったんだよな」
学院からの調査隊が来たのは、あれから20日経ってから。 まぁ、学院の対応としては早いだろうと苦笑しつつ、シタールがそう呟いた。
いいんじゃねえの? 国家やら何やらの、面倒くせぇことに巻き込まれずに済んだわけだし。 にしても、後半はエルメスが大活躍か(笑)
「な、なんでだよぅ。アタシはそんな……(照)」
いやいや。謙遜しなくても。 ……例えば10日前に村に忍んできた盗賊を撃退した時のあの剣技。さすが熊殺しだ。 何が一番良かったって、逃げ帰る盗賊に浴びせたあの罵声。 いや、女にしとくのは惜しい(真顔で肩ぽむ★)
「誉めてねぇよっっ!!」
……誉めたんだが。心外だな。
にしても、もしマジで爺さんが、国家間の陰謀に絡むような仕事を「じゃ頼むわ」なんて言ってきたら、そりゃもう報酬額がすげぇことになってたよな。
「……参考までに具体的な額を聞いてもいいですか」
……フォルティナート、そこでメモを取りだしても、あまり参考にならないと思う。
1人頭200万ガメル。プラス出来高。幾らかは現物の魔晶石で用意してもらいたい。 どんな計算かってそりゃ……だって、国家間の争いとなりゃ、うまく護衛に成功したって謀殺の可能性あるわけだし。そもそも、護衛だってかなり無理くせぇし。 100回くらい死にそうだなーと思って。1回死ぬごとに2万ガメル。だから、蘇生魔法の使える神官も必須……オランから、神官長でも呼んでくっか?(笑)
ま、無理な話さ。どっちにしろな。 だから、俺たちは俺たちに無理のない範囲の仕事をした。 そして、そらっとぼけてる爺さんからも、無理のない範囲の報酬を貰う。ちゃーんと、追加の報酬をな。 だって、追加で仕事したんだ。あたりまえじゃねえか(爽) あ。爺さん、報酬はオランに戻ってからでいいから(にっこり)
さーて。帰るか(伸び)。 随分温かくなった。雪解けの道も歩きにくいぞー?(笑) |
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| これにてイベント終了します。 |
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| 終了 [ 2003/04/19 2:19:11 ] |
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| | (T/O) |
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| (無題) |
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| 管理代行 [ 2004/11/27 4:38:48 ] |
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| | このイベントは既に終了しています。 |
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