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沼地の遺跡
あらすじ [ 2003/05/20 19:02:15 ]
 オランから三日ほど離れた場所にある、とある小さな村。
その村の郊外に、一つの遺跡があるという。
近くには沼が広がり、そこには高い知能を有し、群れを作る怪物がいるらしい…。

レイシアが持ってきたその情報に飛びついたのは、
敬虔なチャ・ザの神官戦士、スピカ。
悩める若き魔術師、ラテル。
強き意志の精霊使い、クレフェ。
自分の道を捜している盗賊、リック。

揃ったのは、遺跡に潜った経験皆無(多分)な面子ばかり。
はてさて、一体どうなる事やら…。
 
遺跡へGo!
レイシア [ 2003/05/20 19:07:56 ]
  んー(背伸び)。今日も良い天気〜。
 遺跡潜りには丁度良い日より…とゆーワケでもないか。遺跡って屋内なんだろうし、潜る分にはあまり天気関係ないだろうしねー。でも雨よりは遙かにいいかな。
 うーん、どんなとこなんだろうなぁ。あー、もうドキドキするっ。
「浮かれすぎですわ、レイシア」
 穏やかに微笑みながら、スピカが窘めてくる。
 そういうスピカだって。人の事言えないと思うんだけどなぁ。

 でも確かに、浮かれてばかりはいられないよね。
 私達が向かってる場所は、一歩間違えれば死ぬかも知れないようなトコなんだから。
 物見遊山じゃなくて、これは仕事。よしっ、気持ち切り替えよっと。


「ねぇ、やっぱり遭遇するのかなぁ」
 振り返り、周囲に目をやりながら歩いていたラテルに尋ねてみる。
 何が? と尋ね返してはこなかったから、ラテルもまた、私と同じような事を考えていたのかな。
「そうだね。村人の話だと、あの一帯は彼らのテリトリーのようだから…。その可能性は、高いと思う」
「嫌よねぇ。出来たらホント会いたくないわ」
「全くだ」
 大げさに肩をすくめるクレフェに、リックも同意する。
 マーシュマンと戦うと、相当に消耗するんだろうなぁ。何せ知能高くて、魔法まで使ってくるらしいし…。
 こっちの目的は遺跡だし、見かけても見逃してくれたらいいなぁ(無理と分かってる淡い期待)。
 もし出会ったら、逃げ出そうか?

「ん?」
「どうなさいました、リック様?」
「様付けはやめろって…。いや、今一瞬何かの影が見えた気が…」
 ……マジ?
 
道中の些事
ラテル [ 2003/05/20 21:25:21 ]
 皆、一様に表情を引き締め、リックの視線の先を見る。
今、僕らは或る荘園の中を歩いている。
よく開発された土地で、道は広くて見晴らしもいい。
つまり往来が豊かで人の目につきやすい。
どんな内容であれ、事を構えるには些か不向きだ。
オランを発って、まだほんの一、二時間。
目指す水郷は遥か彼方だ。
こんなところで一体、何が?
リックは、道からやや離れた茂みを凝視している。
僕らは誰も声をかけられず、彼の次の動作を待った。
「……悪い。俺の気のせいだったようだ。こんなところで何か起こるわけないよな」
その言葉に安堵して、僕は体の力を抜いた。
「もう、驚かさないでよね」
「だから、悪かったって」
軽口を叩き合いながら、レイシアとリックが歩き出す。
スピカが続き、次いでクレフェと僕。
「私も驚いちゃった。オランを出るなり事件だなんて、まるで物語だわね」
「まったくですわ」
スピカとクレフェのやり取りを聞きつつ、もう一度、リックが見ていた方向に視線をやった。
気配も何もない。そのように感じるけれど、やっぱり落ち着かない。
僕は、印を切ってラーダへ祈りを捧げると、四人に追いつくべく歩調を速めて行った。
 
気配の正体
クレフェ [ 2003/05/21 0:36:31 ]
  当初のくつろいだ雰囲気が少し戻ってきて警戒を解いた分、道程は予定より早く進んだ。
 先ほどの荘園の中心部はもはや私達の背後になる。前方には耕作地よりも木立の緑の方が目立つようになってきた。少しずつ路面が悪くなり、雨の名残なのか、ぬかるみが点在していて歩きづらい。
 それでも、木立の中に比較的乾いて開けた場所があったので、そこを野営の場所に定める。まだ近在にまばらに人家があり、木立を透かして灯火が見えるのが心強かった。
 
 鍋の中身をかき回しながら、日中の気配のことを考えていた。
 人だろうか、それとも妖魔の類だろうか。もし人ならば、姿隠しの類を使っているのではないかと。 気配に聡いリックが反応するのだ。それはただ「いる」のではなく何かの意図を持ってこちらを見ていたのではないかと嫌な予感ばかりが胸によぎる。
 
 「昼の件ですけれど、どう思われます?」
 スピカが問い掛けてきた。やはり皆気になっていたらしく、焚火の回りを静かな緊張感が支配する。
 「いや、気のせいだったと思う、悪い。きっと気が高ぶってんだな。」
 「えー? そうかなー。私は良くわかんなかったけど、そういうカンって大事じゃないの?」
 そう言ってレイシアが薪をくべようとしたとき、リックの視線が険しくなった。今度はレイシアも
同じ場所……傍らの草むらに視線を投げる。とうとう、お出ましだろうか?
 緊張が走り、傍らの武器を確かめたり詠唱体制に入ろうと皆が身じろいだとき、草むらががさがさと音を立てて動いた。

 にゃあーん。

 音と気配の主は、ごそごそと茂みを抜けて一声鳴くと、慌てたように民家のある方向へ駆け出し、一瞬のうちに木立の闇に消えた。もしかしたら戦斧を構え一歩踏み込んだスピカの、静かな気迫に押されたのかもしれない。
 「山鳴りて猫一匹……ですかしら」
 踏み込めるような構えを解いたスピカとは対照的に、剣呑な表情でリックが囁く。
 「……もしかして、厄介な状況じゃねえだろうな? ラテル」
 彼には黒猫を使い魔にする女性魔導師と、”真紅の魔導師”という高位の魔導師の知り合いがいる。
その上、昔の相棒だったリスを使い魔と勘違いされた経験もあり、多少なりとも知識があった。
 猫の消えた方向を見ていたラテルが振り向き、ため息をつく。魔法探知の呪文の詠唱が間に合わなかったらしい。
 「あらら、姿隠しじゃなくて使い魔かも知れないわけね。まぁ魔法の”隠形”じゃなくて良かったのかも。」
 「良くねぇよ!」

 もしかしたら、この遺跡、大当たりなのかもしれない。……いろんな意味で。
 私は学院書庫などで誰かに注目されていただろうかと、記憶を手繰ってみる事にした。
 
夜番
リック [ 2003/05/21 5:42:11 ]
 五という数は切りが悪い。
例えば夜番。
三交代だと誰かが一人で就くことになる。

そして、その役を引き受けるのは当然のように俺になる。
しかも一番眠れねえ二順目だ。

こいつを決めたのはレイシアとクレフェの二人だ。
ラテルとスピカは申し訳なさそうな視線を向けてくれた。
・・・それだけで、助け舟は出してくれなかったがな。

けど、この順番が仕方ないことなのは俺だって承知してる。
今回の面子は、俺以外の全員が魔法使い、
しかも魔術師、精霊使い、神官と全部が揃ってやがる。

まさに、恵まれた面子というやつだ。

そして、この連中に存分に力を振るってもらうためには、
十分に寝てもらって、万全の体調になっててもらわなきゃならない。

そんなことは俺だって承知している。
俺たちが万全を期すためには、この順番以外は有り得ねえ。
だから俺自身、最初からこうするつもりだった。


・・・
・・・・・

・・・けど、やっぱ、なんかズルイよな、これ。

「おら、てめえら、起きろ。交代の時間だぞ。俺はまた寝直すんだ」

帰りもずっとなんだよな、この順番!
 
沼地の悪魔
スピカ [ 2003/05/21 11:58:41 ]
  リック様の夜番の不平を聞きつつ、されど順調に道程は進みました。
道中の危険も少なかったため、二日目からは一人の夜番も交代で就くことに。

 不平もなくなり、順調に進んだ結果、予定通り三日目には村に到着。
もうすぐ日も暮れそうですし、村にひとつの宿屋で一晩を明かすことにしましたの。
酒場もかねているらしく、お仕事の終わった村人の皆様や、店主様に沼についての情報収集も出来ました。
といっても、事前から聞いていたこと以上の情報は得られませんでしたけれど。

 翌朝。装備を整えて、出発。しばらく森を歩くと、視界が開けて大きな大きな沼が見えてきましたの。
わたくしの鉄靴がずぶりと少しだけめり込みました。沼の周囲も、足場は不安定なようです。

「こんなところで連中に出会ったら・・・・・・ピンチよねー」

 ええ、地の利は彼らにありますし。足場がこんな状態ではわたくしたちは存分に力を出し切れないでしょうし。

「まったく、難儀ね。それに、こんな水の中に沈められたくないわ」

 普通に沈められるのも嫌なんですけれど・・・・・・確かに同意ですわ。
お世辞にも綺麗とはいえませんものね、この沼の水は。すでに沼というより沼田ですわ。
・・・・・・あら、リック様。何をしてますの?

「松明焚いてんだよ。奴さん、火が苦手なんだろ?」

 あらまぁ。そういえば、火矢を用意しても肝心の火を用意してませんでしたわ。うっかりしてましたわ(頬に手をあてて苦笑)。

「ちょっと遅かったかもしれない」

 ラテル様、それはどういう・・・・・・・・・。
こちらに何か向かってますわね・・・・・・人じゃありませんわね。

「なるほど。今度は気のせいじゃ無さそうだ」
「どうする? まだ遠いけど、明らかにこっちに向かってるよね。戦う?」

 できればここでそれは勘弁願いたいんですけれど・・・・・・。
目的の遺跡は・・・・・・あれでしょうか。まだだいぶ先の沼のほとりに見えてますわね。あそこまで逃げてみましょうか?

「ぼさっと考えてる暇はないようよ。退く、戦う!?」
 
(無題)
レイシア [ 2003/05/21 22:46:14 ]
 「退く、戦う!?」
 そんなの決まってるじゃない。
「逃げるわよ!」
 遺跡の方向を指して、走り出す。他の皆も後に続いた。
 全く、奴らの相手なんてしたくないっ! 相手にするにしても、こちらが多少有利な場所で戦いたいもの。
 ちらりと見えたけど、向こうの方は乾いた土のようだったし、足場は良いと思う。逃げ切れればなお良いし!
 あー、もう。足場悪くて走りにくいよぅ!

「……おい」
 リックが後ろを振り返ったまま足を止めたのは、遺跡まで後少しという時だった。
「やつら、追ってこないぞ」
 ……へ?
 その言葉に、全員が足を止めて振り返る。
 確かに奴らは追ってこない。遠巻きにこちらを窺っているようにも見える。
「本当ですわ。どうしたのでしょうか」
「何かあったのかしら」
「さぁ…? でも好都合よね。さっさと逃げちゃいましょ」
 
予期せぬ潜入
ラテル [ 2003/05/21 23:17:09 ]
 元は実験施設だったと言う。
半ばが崩れ落ちたその廃墟は、沼地が点在するこの一帯にあって、不思議なことに乾いた土壌の上に築かれていた。
僕たちの足元にあるのは、ブーツの裏にしつこく絡みついて来る泥土ではなく、鍬すら容易く受け入れそうにない固く締まった赤土だ。そう、この土は赤い。

「どうですか?」
「うーん、まだ居るわね。数は増えてないみたいだけど」
遠目の利くレイシアが、手を翳して彼方を窺っている。
「連中が賢いってホントね」
どうやら、村への帰路は塞がれているらしい。
この遺跡の周囲は至るところ沼沢になっている。つまり、彼ら…マーシュマンの庭も同然ということだ。
「なるほど、絵に描いたような雪隠詰めね」
クレフェの口調にはさほど懸念がない。
視線が合うと、悪戯めいた笑みを返してきた。
「…これ、要らなくなったな」
松明を片手にしたリックがぼやいた。
「そうねー。ここで自棄になって火矢を射掛けたりしたら」
「押し包まれて一捻りですわね。想像できますわ、その有様」
レイシアとスピカが「あはは」「おほほ」と笑い合うのを見て、リックがため息をついた。
松明の火がそこはかとなく哀しげに揺れた。

「あら、消すことないわよ、その松明。ちょうどいいじゃない」
クレフェの言葉に、僕らはようやく現実を見つめ直した。
誰ともなく、廃墟に目をやる。
この中に入るのは予定通りだ。
だが、このような形での潜入になるとは。
「行くか」
リックが松明を握り直した。
松明の火がそこはかとなく不安げに揺れた。
 
赤い土
クレフェ [ 2003/05/23 0:07:26 ]
  半ば埋没した遺跡の入り口を探しながら、私は周囲の精霊力に意識を向けていた。施設の「実験」内容によっては、場の精霊力は著しく乱されていることがある。いざというときに使えない魔法があるかもしれない。それは生死を分けるかもしれない事柄だった。
 多少神経質に思えても挑む前に少しでも状況把握の一端になればと思ったことは当然だが、何故マーシュマンたちがこの遺跡まで私たちを追いかけてこなかったのかも気になっていた。
 埋没した手がかりが無いか探しながら、地面を見る。ほんとうにこの地面は赤くて固い。
 「赤い」「固い」「乾燥している」……?
 ふと気になって、赤く固い地表を撫でながらそこに意識を集中する。湖沼特有の水霊と地霊のバランスが今まで歩いてきた道程には見られたが、この遺跡の周囲の土壌だけは酷く偏っていた。
 水霊の力が殆ど感じられないのだ。そして土霊の力も、ひどく弱々しい。まさか……。
 
 「鉄を多く含むのか鉄そのものだわ、この地面。赤い色は言ってみれば錆みたいなものなのよ。」
 これじゃあ水の恵みを受けて生きているマーシュマンには厳しいはずだ。ただでも乾燥に弱く沼地を離れずにいるという話だから(本当かどうかは怪しいけれど)この地面を忌避したのかもしれない。
 ただ、他にもこの遺跡に彼らを遠ざける何らかの要因があるのかもしれないけれど。
 どうやら今のところは探索を邪魔されることはなさそうだった。ただ私も魔法が上手く使えない可能性があると認識しておいた方がいい。精霊たちは鉄を嫌うから……ああ、風や光はそれなりに働いてるわね。良かった。松明に宿る火霊の力も正常。まぁ、これならいいか。
 問題はこの精霊力のバランスが本来のものなのか、この遺跡の持ち主が地質を変えたのか、だった。
後者だったらこの上なく厄介な仕掛けの存在を想定した方が良いかもしれない。地表の性質を変えるような魔法装置が生きているとしたら、精霊使いとしては何かとやりにくい。

 「おいクレフェ、何やってんだよ。入り口を見つけたから行くぞ」
 「ちょっと埋まってるけどねー。瓦礫をどければ入れそうだし、中の構造は割としっかりしてそうだからとりあえず入っちゃったほうが良さそうかな……連中がくるかもしれないし。」
 促すリックの声に続いて、レイシアが遠くを見遣りながら言う。野外では野伏の勘に素直に従おう。
 「では、参りましょうか。……ああ、どきどきして参りましたわ」
 スピカが心もち紅潮した頬に手を当てている。
 「……そうだね。いよいよ、か。」
 ラテルも緊張を声音にのせて剣の柄を握りこむ。かちゃり、と音を立てて尾錠が鳴る。
 私は皆に先ほどの発見を告げて、精霊に影響を及ぼすような魔法装置がある場合などは、精霊を暴走させない為にあえて使役しない可能性もあると言い置いた。
 「そーすると、私ってば役立たずなんだけどね。」

 瓦礫を除去するうちに、褐色の遺構が見えてきた。いよいよ遺跡に挑む。
 
扉を前にして
リック [ 2003/05/23 15:44:30 ]
 経験を積んだやつなら、
少し調べれば仕掛けられた罠の種類をある程度限定できるらしい。

だけど、経験の少ない俺がしなくちゃならないことは、
知ってる限りの罠を片っ端から想定して、
それを一つ一つ調べていくことだ・・・

いや、これからこうやって経験を積んでいくんだ!
俺はそのためにここに来たんだからな。

俺は、ギルドで身に付けてきた知識を総動員して扉に挑んだ・・・



「罠が動作しないのですの?」
「ああ、全部とは言わねえけど」

罠までが片っ端から錆び付いちまってるらしく、
いくつかの種類の罠は動作しないか、動作しても恐くないものになっちまってる。
これじゃ俺の覚悟はいったい・・・

ふと気付くと、みんなの顔色が変わっていた。
どうしたか訊ねるより先にラテルが口を開く。

「それならこの遺跡の有様は、主が望んだものではないということに・・・」

動作しなくなるような罠をわざわざ仕掛けるやつはいない。
そして500年程度の時間で古代王国期の罠が錆びつかないことは、
何人もの冒険者の犠牲で証明されている。

つまり・・・
 
罠の真相は?
スピカ [ 2003/05/23 23:54:31 ]
  まさか、マーシュマンが仕掛けた罠だという可能性があるのでしょうか?
罠を仕掛ける知恵は持っているはずでしたわね。

「それはどうか分んないよ。ここは乾いた地面だしね、連中これないんでしょ?」
「一概にそうとはいえないかもしれないわ。精霊に影響を及ぼす魔法装置があったとして、自分たちが生活する空間にはきちんと湿気が保たれているのかもしれないからね」
「問題は、マーシュマンに魔法装置を使うほどの知恵があるか、という疑問が残るけど」

 最初から、水の精霊力を操れる状態だとしたら、それほどの知恵が無くても大丈夫という考え方も出来ますわね。

「もし罠を仕掛けたのがマーシュマンだとしたら、追ってこない理由も説明がつくな」

 ここが乾いているから、ではなくて、罠がある場所へ誘い込んだと?
ですけど、これでは・・・・・・引っかかろうにも、ひっかかることができませんわ。
それとも、マーシュマンでは無いとして、この遺跡の主は罠などに頼らなくてもいいような自信があったというのはどうでしょうか?
古代王国の遺跡には、罠と同様に守護者である魔物も付き物ですわ。
罠に頼らずとも、守護者で十分という絶大な自信を持てる魔物がいるのかもしれませんわ。

「・・・・・・ま、考えててもはじまらないよ。兎も角、罠が大丈夫なら先に進もう」

・・・・・・そうですわね、レイシア。行きましょうか。
(扉に向かい歩き出す前に、ふと足を止める)そういえば実験場といってましたわね。願わくば、嫌な物が無ければよろしいんですが・・・・・・。

 チャ・ザ様。我らに汝の導きあれ。
 
遭遇
レイシア [ 2003/05/25 8:16:36 ]
  扉の向こうは、両脇に幾つかの扉が並ぶ通路となっていた。
 ここは…なんだろ。手掛かりらしき物が無いから分かんないや。多分、居住空間なのかなぁ…。

 リックが手近な扉を調べ始めたが、数分も経たない内に作業を中断する。ここもまた、罠が錆び付いてたみたい。
 それを見やりながら、こっそり溜息をつく。
「なんか、罠が無効化してると拍子抜けするなぁ…。いや、動いてて欲しいワケじゃないんだけど」
 言葉を漏らすと、ラテルが振り返ってこちらを見た。
「油断するのは早計だよ。僕たちはまだ全てを探索し尽くした訳ではないんだ」
「まぁね。でもさ、退屈と言っちゃ退屈よねー。スピカもお姉さんもそう思わない?」
 二人に話を振ると、スピカは困ったように、クレフェは悪戯っぽく笑うだけに留めた。
「おい。開けるぞ」
 その声に会話を止め、気を取り直して視線を扉に向ける。

 扉を開けると、途端に嫌な――負の生命力の臭いがした。同時にすえた臭いが鼻を付く。
 前に居るクレフェも顔をしかめて、警告を飛ばす。
「気を付けて、不死者がいるわ!」
 皆、それぞれ自分の武器を素早く構え、後ろに下がる。
 室内から音がして、それがゆっくりと中から出てきた。腐臭が更に強くなる。
 松明の灯りに照らされて浮かび上がった姿は、腐食してて分かりづらいけれど、緑色の肌。

 え。ちょっと待って、あれってもしかして……。
 マーシュマンの、ゾンビ?
 
佳境
ラテル [ 2003/05/25 23:39:05 ]
 生物実験のために設けられた施設だと、僕らは聞いていた。
そして、その腐食してなお動くマーシュマンを見て、僕らはほぼ同時に、同じことを思ったのだろう。
どのような実験だったのかはわからない。
だけど、その内容が何であれ、目の前にいるマーシュマンのゾンビはその実験の結果なのだ。
学院で調べた資料によれば、マーシュマンは剣の時代以前からこの地方に住み着いていたと言う。
カストゥールの魔術師にしてみれば、貴重な労働力である奴隷よりも、彼らを実験材料に用いる方が好都合だったのだろう…。
マーシュマンはその恐怖と恨みを子孫に伝えてきたのだろう。
彼らが人間と幾度も確執を繰り返して来たのは当然のことなのだ。

魔法を使う力が失われていたのは、僕らにとって幸運だった。
武器を構えたスピカとレイシアが素早く前にたち、見事な連携でゾンビを仕留めた。身ごなしの軽いレイシアがゾンビの動きを誘いだし、隙が生まれたところにスピカの渾身の一撃が入った。ゾンビは胴を薙ぎ払われ、続いて頭部を切り飛ばされると動きを止めた。
スピカが短く祝詞を囁いた。神聖語はわからないが、数百年もの間、歪んだ力に縛られていたマーシュマンの肉体が、やがて大地に還ることができるように…恐らく、そう言う意味なのだろう。

さらに二度、僕らはゾンビと戦った。どちらもマーシュマンだった。
ゾンビとして動いていたのはそれきりで、残りはミイラと化していた。
探索していない部屋はあと二つ。
恐らくそこに、この施設で行われていた実験に関する資料があるのだろう。
「こう言う遺跡ほど、保存状態がよかったりするんだからな…悪い冗談だよな、まったく」
リックが忌々しそうにぼやいた。もっともだと思う。

遺跡の中で食事をするのはどうにも落ち着かない。だが、マーシュマンたちのことを考えると外にはまだ出ないほうがいい。
務めて普通に、水を飲み、固く焼き締めたパンを齧っていたつもりだったが、それでも表情に出ていたのだろう。
「ラテル、気になることがあるなら、話してみてよ」
レイシアに促された。隣でスピカが神妙に頷く。
「悪い知らせは先に済ませた方がいい」
リックが言い、クレフェが−−彼女は恐らく僕と同じことを考えている−−僕の目をじっと見てくる。
僕は話すことにした。
まだ推測に過ぎない。だけど、どうしようもない程、確信的だ。

オランを発ったその日、荘園地帯で聞いた猫の鳴き声。
作動しなかった遺跡の罠。
そして、この施設が作られた目的。
…僕たち以外に、この遺跡を狙っている者たちがいる。
使い魔を使役するほどの実力を備えた魔術師を擁する連中だ。或いはその魔術師が指導者格かも知れない。
そして、彼らは今、この遺跡の付近にいるだろう、と言うことを。
 
先客
クレフェ [ 2003/05/27 0:16:02 ]
  魔術師の存在。出来れば否定したかったその可能性を、再度考えねばならない。
 この遺跡にマーシュマンたちが近寄らなかった理由は理解できたが、
あの複数のゾンビの存在が気がかりだった。
 扉の罠は錆びていた。いや、よくよく考えれば無効化されていただけなのかもしれない。
だとしたら既に”先客”が来ていた事になるが、それにしては荒らされた形跡がほとんど見えない。
 そして、どうしてゾンビは倒されずにそこにいたのか。まるで面倒を回避したと言わんばかりだ。

 面倒……? まさか。

 「”漁夫の利”って奴かな?」
 ラテルが渋面を向けてくる。……予想通りってところ?
 「彼ら、もしその魔術師一行がいると仮定して、この罠が全て以前に彼らによって解除されたものであるなら、多少の説明はつくわね。」
 「どういう風にですの?」
 スピカの問いにリックが答える。
 「遺跡の扉の回りは風化した瓦礫で覆われてただろ? ってことはそれなりの時間が経ってるって訳だ。内部の扉の罠も恐らくそのとき無効化されたままなんだろう。」
 「んでも、ゾンビが何で部屋から出なかったの? 扉は開いてるのに。」
 レイシアの疑問にはラテルが。
 「そう、多分各部屋の守りを命じられていたから。扉を開けて入るものを攻撃することは命じられていても、きちんと締めて逃げるものを追うことまでは命じられてなかったという事だろうな。」
 リックが
 「ああなるほどな。ゾンビのいた部屋の扉、内側から開けるのにはコツがあって、気付かないと中に閉じ込められるような嫌な作りになってたからな。その仕掛けもほとんど壊れてたけどよ。」
 「……マジ? もしかして結構ヤバかったの?」
 「まぁな。扉を開けたときの反動が妙だったから気付いたんだけど。」
 …………よ、良かった。それはさすがに気付かなかったわ。そういう事は早く言ってね、リック。
 「いや、最後の以外は壊れてたから確証が無かった。最後のは”生きて”たけど、足元に落ちてた瓦礫を挟み込んどいただろ? それでとりあえず問題なさそうだったし。」
 
 
 「話を戻すわね。もし、魔術師達一行がいるとしたら、彼らは前回、何らかの理由で探索を中断せざるを得ない状況に追い込まれたんじゃないかと思うのよ。そして今回彼らは再挑戦を試みている。
でも、彼らの再挑戦と私たちの探索が偶然重なるなんて考えにくい。だとしたら、意図的にこの状況を作り出したんじゃないかな、とね。」
 多少剣呑な表情になるレイシアに、軽く手を振って見せてその懸念を否定する。
 「確か、草妖精の情報屋から聞いたって言ってたわよね。わりと信頼できる筋らしいって酒場のマスターからも聞いてるけど、故意に流布された情報を彼が拾った可能性もあるわけよ。」
 「つまり、誰かをこの遺跡に挑ませる為に、わざと情報を流していたということですわね?」
 スピカが嘆息する。
 「そ。で、ゾンビにやられたり、ドアの仕掛けにつぶれるような連中なら要らないし、そうでなければ……」
 「目的のものを手に遺跡を出てきた帰路を襲って横取り、もしくは疲労したところを遺跡に踏み込んできて……ということだろうな」
 「かなぁ、なんてね。……あくまでご一行様がいると仮定しての話よ。」
 全員、深いため息をつく。何故なら私の推測が当たっているとすれば、これから挑む部屋はかなり面倒なモノがいるか、面倒な仕掛けがあるか、そんな状況だからだ。
 残り二つの扉は、少し今までのものより大きい。部屋の規模もそれなりのものに見えた。廊下の突き当りとその右隣。色の違う石組みが縁取る二つの扉の向こうは、もしかしたら続き部屋かもしれない。
 「とりあえず、もう一度ミイラ化したゾンビのいた部屋を詳しく調べてみるのはどうだろう。もしかしたら何かが判るかもしれない。」
 ラテルの言葉に依存は無かった。
 
扉の中には
スピカ [ 2003/05/27 21:18:11 ]
 《ミイラマーシュマンがいた部屋》

「うーん。なにもわからないわね・・・・・・」
ええ、隅まで探したつもりなんですが・・・・・・こちらも変わったところは何もありませんわ。
「こっちは成果ありだぜ。あったぜ、妙な仕掛けがよ」
まぁまぁ。さすがリック様ですわ。遺跡の経験が無くても、さすがは鍵といったところでしょうか。
「よせって。それで、どうする?」
隠してあるということは、罠ではなくて何かを解除したり作動させるしかけでしょうか?
「おそらく、さっきの扉の鍵を開けるのか、隠し通路の仕掛けだと僕は思うんだけれど・・・」
「俺もあんま詳しくないんだが、調べた感じではそんなところだと思うんだが」

「とりあえず、押してみれば? 隠し仕掛けに罠は少ないんでしょ? マイナスにはならないと思うよ、たぶん」
 そうですわね・・・・・・考えていても仕方ありませんわ。兎も角、作動させてみます?
「・・・・・・現状では、そうするしかないのかしら」

 数分の話し合いの結果、結局リック様が作動させてみることに。
(がこん)

「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・なにも起こりませんわね。
「少なくとも、この部屋の仕掛けではないってことだよね。じゃ、やっぱさっきの扉かな?」
「そこまで戻ったら、扉が崩れてたっていうのは勘弁願いたいけれどね」
「ともかく、行ってみよう。変化がないにしろ、もう調べられるようなところはあそこだけだし」

《扉前》

「右の扉が開いてる・・・・・・」
 あらあら。やっぱりこちらの仕掛けでしたか。どうしましょう。ここまであからさまだと、誘われているような気がするんですけれど・・・・・・。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずだよ」
うふふ・・・・・・レイシアのそういう考え、嫌いじゃないですわ。
では、わたくしが前面に立ちますわ。(楯を構えて扉に手をかける)

がちゃり。

かなり広めの部屋ですわね。
「・・・・・・何かいるみたいね」
ええ、部屋の奥から何かこっちに向かってますわ。灯りをお願いしますわ。

改めてランタンの灯りに照らしだされた室内。そこに居たのは・・・・・・。

「・・・・・・ゾンビ?」
・・・・・・ゾンビですわね。マーシュマンのものと人間のもの――奴隷でしょうか?――が混じってますわ。
「ここは、先客の引き返した原因の部屋じゃなさそうだな」
ええ。兎も角、このゾンビたちも在るべき場所に還して上げましょう。
「うん。いくよ、スピカ」
はい。みなさまは、援護をお願いしますわ。

・・・・・・えいっ! ・・・・・・あらあらあら?
「よけたっ!? うわっと! こいつら何か素早いわね・・・・・・攻撃も鋭いしっ」
「何かおかしいぜ、そいつら・・・・・・武器や防具なんか装備してやがる」
確かゾンビは武器の類は使えないはずでしたわね・・・・・・それなのにどうしてかしら?

「・・・・・・しまった、そいつらはゾンビじゃない!」
(楯や鎧でゾンビの攻撃を受けながら)ラテル様、それはどういうことでしょう・・・・・・?
「・・・・・・思い出したわ。それに、こいつらなら“侵入者を攻撃しろ”、そして“瀕死に追い込んだら殺さず捕らえろ”の複雑な命令が聞けるはず」
ですから、このゾンビはいったい・・・・・・

「長い時の流れに失われた魔法で作られた、不死者よ」
「確か・・・・・・ブアウ・ゾンビだ」
 
日記
レイシア [ 2003/05/29 6:48:53 ]
  失われた魔法で作られたって…。もしかしなくても、結構ヤバイ?
<>「ゾンビよりもかなり手強いから、油断しないで!」
<> そう言ったクレフェが火霊に力を求め、スピカに合図を送る。頷いて盾で突き飛ばした不死者を狙って、炎の矢が打ち込まれた。次いでラテルも光の矢を放つ。
<>「少しだけ、耐えてください」
<> スピカはそのまま少し後ろに下がって、神に助力を請う。
<>「皆様、わたくしの方を見ないでくださいね。チャ・ザよ、不浄の者を浄化する光を!
<> 目映い光が放たれ、体を灼かれて怯むブアウゾンビ。その隙にリックが一体を仕留めた。
<> 私も別のヤツに斬撃を叩き込むが、倒れずに攻撃を仕掛けてくる。
<> んー、やっぱゾンビの時みたいに楽勝、ってワケには行かないか。こりゃちょっと長引くかなぁ…。
<>
<>
<>
<>「……見つけた。日記みたいだ」
<> 戦闘が終わって。死骸が転がっている中、私達は部屋の中を探索した。
<> この部屋の奥にもう一室あって、今はそこにいる。どうやらそこは書斎として使われていたようだ。
<> 書斎の方にも扉があったが、魔法の鍵が掛かっているらしく、開けるのは断念した。多分、突き当たりの部屋と繋がってるのだろう。
<> 先程の戦闘で受けた傷の治療をしている間、手の空いた者が書斎を漁る。
<> そしてラテルが見つけたのが、一冊の日記と思わしき本だった。
<>「何て書いてあるんだ?」
<>「少し待ってくれないか。……日記と言うより、覚え書きに等しいようだね」
<> 壊さないように、そっとページを繰る。何度かそれを繰り返し、ふと忙しなく動いていた視線が止まった。
<>「あった。多分これだ」
<> ラテルは軽く息を吸って、その箇所を読み上げた。
<>
<> 『――この近辺に生息する妖魔は蛮族並の高い知能を持つ。
<>  何故、妖魔如きがそれ程の知能を持てるのか、興味がある。
<>  奴らの脳の仕組みを調べてみることにしよう。』
 
選択
ラテル [ 2003/05/29 21:15:31 ]
 なんとも思い上がった話だ。
この日記を記した人物の人間性が推し量られる。
不遜な好奇心からマーシュマンを実験材料にし、それに飽き足らずに同族まで手にかけたのだ。
いや、彼にしてみれば、魔力の乏しい奴隷階級など何程のものでもなかったのだろう。
これ以上は読みたくないが、読まねばならない。

魔術師の浮わついた好奇心は、解剖学から、肉体器官の作用を賦活させる方向へと進んだ。
ゾンビ、ブアウ・ゾンビは、その過程で死霊魔術のアイデアを得て生まれた。
それから間もなく、彼は唐突に施設を放棄してフリーオンへ向かった。フリーオン、もはや知らぬ者のない地底都市だ。
理由は明記されていないが、どうやら権力抗争の一端によるもののようだ。
日記はそこで終わっている。

「気になるのは、肉体を賦活する…と言う部分ね」
説明を終えなり、クレフェが口を開いた。
「どう気になるんだ?」
向かいのリックが尋ねる。
「つまり…」

器官と言っても、対象は骨や筋肉だけではない。
魔術師が最初に興味を抱いたのは、マーシュマンが高度な知能を有し、精霊魔法を操ると言う点だった。
彼は先ず、マーシュマンの脳を取り出して、様々に解析を試みた。彼は脳の構造と魔力の強さに重要な相関関係があると言う考えの持ち主だった。
つまり、脳に特定の刺激を与えることで、後天的に魔力を増強できるのではないか…そのように考えていたのだ。

「それじゃ、あたしたちより先に来た魔術師は…」
「…その研究の結果を狙っていると言うことになりますの?」
レイシアとスピカの問いには、ただ頷くしかない。
この日記の内容は、既に把握しているに違いない。
あとは、彼らが見出せなかった、なにがしかの秘密を僕らが首尾良く見つけ出すことを期待しているのだろう。
「見つけたとして、巧く利用できるかどうか知れたものでもねぇのにな」
リックが言い捨て、腰をあげる。
「どうもきな臭い話になってきたけど、これからどうするんだ?」
リックは、まずクレフェを見た。
 
逡巡
クレフェ [ 2003/05/30 0:44:12 ]
  「何で私に聞くかなぁ?」
 リックの問いに冗談めかして肩をすくめて見せるが、表情は強張っていたかもしれない。
 「仮説をもとに実験と考察、その結果の蓄積で実用段階へ。この施設の持ち主が実用段階まで辿りついていたかは判らないわ。でもこれを狙っている人間は仮説の実用を望んでいるでしょうね。」
 貴重な研究資料には違いない。しかしこれほどの手間と執念を向ける理由としては弱く思える。
 「もし相手が本当に魔術師だと言うなら、最終目的はきっと自身の能力増強でしょう。」
 まるで伝え聞く古代王国の魔術師そのものだ。力を求め、他者の犠牲を意に介さず手段を選ばない非情さ。今もって魔法を使うものが恐れられ忌まれる理由を、再認識させられた。
 でも今の世の中には今なりに、この遺産を最も手にして欲しくない存在がある。古今問わず”ちからあるもの”つまり権力者が望むことは、大抵相場が決まっているから。
 「魔力の増強された集団……軍備としての。そんなものを人工的に作るというのか? 賢者の国で見つけた遺産を元に。」
 ラテルが苦渋に満ちた顔で呟く。最悪の事態を想定している様子。手にするのが現オラン国王やマナ・ライならまだしも……。

 私は敢えて仲間に問う。
 「ねぇ、みんな。それでも欲しい?」
 古い書籍の匂いのする書斎に、澱のような沈黙が漂った。

 「何か持ち出せば付け狙われるのは必至だな。それこそ草の根分けてでも。」
 澱をかき回すようにリックの言葉が部屋に空気の存在を思い出させる。
 「わたくしは……そのように命を弄ぶ行為は許し難く思いますわ。他者の不幸の上に成り立つ幸福などチャ・ザ様のお許しになるところではありません。」
 優しい声音に確かな怒気をはらんでスピカが言い切る。物静かでたおやかな彼女が本気で怒りを抱いているのが見て取れた。柔和でありながら神の意を受ける戦士。こういうとき彼女の両面を垣間見る。
 「いけ好かない奴よね、ここの持ち主も”遺産”を狙ってる奴も。これで”実は狙ってる魔術師なんていませんでした〜”ってことになったら大笑いだけど、よっぽどそのほうがマシだわ。ただの遺跡荒らしの私たちが、尻尾巻いて逃げ出しゃ済むことだし。……でもなんか良いものがでてきたらちょっと惜しいかな。」
 レイシアが挑戦的とも見える笑みを浮かべる。
 ラテルは瞑目したのち、
 「古代の叡智を継ぐものとして、古の遺産を悪用されたくはない。同じ魔術師の手で封じるべきかもしれないとも思う。だが……同時にそのいきついた姿を見極め、見届けたくもある。業が深いとしか言えないな。」
 そう言って困ったように微笑んだ。「クレフェは?」
 私の答えは決まっている。
 「欲しくも無い遺産に振り回されて死ぬのは絶対に嫌だけれど、誰かに利用されたまま影に怯えて全てを放棄するのも業腹だわ。相手を引きずり出せれば話は違うと思うんだけれど……?」

 学院の書庫で感じた不審な視線を思い出しながら、私はそう言った。あの老人……もしかして?
 
道を拓け
リック [ 2003/05/31 4:15:23 ]
 財宝を手に入れようとしたら余計なもんまで付いてきちまう、か。
いや、待てよ。財宝と研究資料は全部がイコールじゃないはずだ。
財宝だけ懐に入れて研究内容の方はここに残していくってのは・・・

「残した研究資料をいつか誰かが持ち出してしまいます。それでは意味がありませんわ!」

わ、わかった! わかったから!
そうだよな。俺たちが狙われなくなるにしても、研究資料が外に出ちゃ意味がねえ。

・・・いっそ、地震か何かで遺跡がぶっ潰れて、資料が地の底に埋もれてくれりゃ楽なんだが。
あんたら、そういう魔法は・・・

「それよ!」

できるのか、クレフェ!?

「違うわよ! でも、いるのよ。この遺跡を壊したがってる人たちが。彼らを引き込めばいいのよ」

・・・そうだ、おあつらえ向きな連中がいるじゃねえか。
やつらに意趣返しさせてやればいいんだ。

「でも、さっき見たでしょ? 彼らはこの乾いた遺跡には近付けないわよ」
「その理由は日記にあった。魔法装置だ」

なるほど、この乾いた遺跡は主人の仕業か。
そんなのでもなけりゃ、連中の住処のこんなすぐ側だ、とっくに壊されてるわな。

遺跡に入る前に、連中が見てたのは俺たちじゃなかったってわけだ。
相当、恨みが深いんだな・・・。きっと今もこっちを伺ってるんだろうさ。

それじゃ、その魔法装置はどこだ?
恨みを晴らすための道を拓いてやろうじゃねえか。マーシュマンたちに。
 
魔法装置
スピカ [ 2003/06/01 10:49:40 ]
  この隠し扉が一番肝心なのですから、お願い致しますわ。

「(床に隠された扉の鍵と格闘中)わかってる! だから話しかけるな・・・・・・気が散る」
「でも、まさかこんなところに隠し扉があるとは思わなかったよね」
「きっと、突き当りの部屋は宝物庫か、まだ見つかってない実験室ってところね」

 実験室なら簡単に入れさせるわけにはいきませんし、宝物庫だとすれば否が応でもそちらに興味が行くでしょうから、隠し扉から注意を背けられますわね。
どちらの場合でも、魔法の鍵がかかっている理由の説明はつきますわね。

「ああ、だからきっと、この隠し扉の先に魔法装置があるんだと思う。ひょっとすると、今の説が逆でこっちが宝物庫かもしれないけれどね」
「そうしたら、少なくてもタダ働きで終わることはなさそうねー」

 ですけど、その場合は魔法の鍵をどうにかしなくてはいけなくなりますわ。

「そうなったら、書斎やらをあさって合言葉のヒントを探すほかないだろうな・・・・・・」

 気の長い作業になりそうですわね・・・・・・。

「宝物庫だった場合、魔晶石でもあればその力を借りて、拡大したラテルの《開錠》を使うって言うのも悪くないわね」
「へぇー。そんなこともできるんだ?」
「・・・・・・無茶を言わないで欲しいな」

「・・・・・・だからおめぇら、本気で静かにしてくれ」


「どんぴしゃだったみたいね」
「・・・・・・こいつが魔法装置か?」

 大きいですわね・・・・・・動いてますの?

「動いてなきゃ、ここは乾いてないって」

 そうでしたわね。それで、これを破壊してマーシュマンに話を付けに行くんでしたね。

「ええ。でもこれだけ本格的なものになると、どこから手をつけていいのやら・・・・・・って!」

 はい? なんでしょう?

「す、スピカ・・・・・・そんな大胆なことをしたら、どうなるか分からないからもう少し穏便に!」

 あらあら、そういうものですの?(振り上げていた戦斧を下ろして)
そういえば聞いたことがありますわ。古代王国のものは、保護用の魔法もかけられているとか。わたくしの斧程度ではおそらく、かすり傷すら付けられるかどうかも定かではありませんわね(苦笑)。

「たぶん、この装置を動かす核のようなものがあるはずだから、それを外せば・・・・・・」
「もしくは、操作盤のようなものがあるのかもしれないわね。なんにしろ、調べてみないことには・・・・・・」

 (部屋の隅々に視線を巡らせ)・・・・・・あらまぁ。

「スピカも気付いた? 調べてるなんて悠長なことやってる暇、無いみたいだよ」
「なんかいるだろうとは想像ついていたが・・・・・・何か嫌がるな。妙な気配がしやがるぜ」

 肝心要の魔法装置を守る守護者といったところですわね。わたくしの奇跡も、もうそう長続きはしませんわ。
願わくば、これが最後の戦いでありますように。

 チャ・ザ様。どうか我らをお守り下さいますよう、お祈り申し上げますわ。
 
事の終わり
レイシア [ 2003/06/02 12:37:40 ]
  魔法装置の守護者は、守護と銘打ってるだけあって厄介な相手だった。
 それでも何とか倒して、魔法装置を止める手段を探し始める。
「多分、これだと思うわ。そこに嵌ってる魔晶石。ほら、琥珀色と薔薇色の水晶があるでしょう?」
 クレフェが、魔法装置の中央の部分を指さした。確かに綺麗な色の水晶が2つ、嵌っている。
「あれは地晶石と炎晶石だ。日記の中にそれらしき記述もあったし、間違いないと思う」
「これを取れば、止まるんだな?」
「そうだね。後は中央部の増幅装置を壊せば、この魔法装置は完全停止する筈だ」
 頷くラテルの言を受けて、リックが慎重に魔晶石を取り外す。途端に、ふっと水の香が薫った気がした。
 これで、この地はいずれ水霊と地霊のバランスが元通りに回復するだろう。
「では、壊しますわよ?」
 斧を掲げてスピカが確認するように言った。
「こういう場合にありがちだよね、魔法装置を停止させたら遺跡ごと崩れるってヤツ」
「何処ぞの英雄譚か…?」
「そう言う事はあり得ないわよ。でも、そうなってしまえば後腐れ無くて良いわね」
「あらあら、そうなったら私たちは生き埋めになるのですか?」
「それは御免被りたいね」
「同感」
 顔を合わせて互いに小さく笑い合う。「では改めて」と何処までも呑気な口調で、スピカが斧を振り下ろした。


 遺跡の外に出ると、見張り役だろうマーシュマン達の姿が見えた。私達が出てきたのに気付いて、身構える様を取る。
「マーシュマン達よ、聞いて欲しい事がある。あの遺跡の破壊に関することだ!」
 声を張り上げて叫ぶラテル。その言葉に、遠目にもマーシュマン達が戸惑った様子で顔を見合わせるのが分かった。
「彼らは、こちらの言う事を聞いてくれるでしょうか」
 不安の色を交ぜながら尋ねるスピカ。
「まぁ、何とかなるわよ。この遺跡には相当な恨みがあるでしょうしねぇ。何せ先祖代々の物だし?」
 言いながら空を見上げる。遺跡に入る前は晴れていた空が、曇天となって重くのし掛かっていた。
 ……雨が振るかも。
 降り始めたら、この地も湿ってマーシュマンも立ち入る事が出来るかしら。
 そうしている間にも、ラテルはマーシュマン達に呼びかける。乾きの原因である魔法装置を止めた事、そしてこの遺跡を壊して欲しい事。
 マーシュマン達は初めは逡巡していたが、リーダー格らしい人物がこちらの要望を受け入れた。
 我々としては異存ない申し出だ、という様な事を述べて、彼らは沼地から撤退するよう言ってくる。
 私達は、後をマーシュマン達に任せて撤退することにした。


 オランへの帰り道。遺跡から無事生還したとの安堵感もあって、談笑しながら道を歩く。
 その途中、心なしか悔しそうに鳴く猫の鳴き声が聞こえた気がした。
 
これにて本イベントは終了です。
終了 [ 2003/06/02 22:29:29 ]
 (T/O)
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 4:50:07 ]
 このイベントは既に終了しています。