| | <> 集中して闇の落し子に呼びかけていても、激しく地面を焼く酸の音、そして皆の気合の声や苦痛の声が聞こえてくる。 これは失敗できんな・・・・・・。
光飲み込む暗き者。人の心を食らう者・・・・・・。
「しまった、抜けたぞ!」 アレンの短い叫び。鋭く地面を削る音が近くなる。 「まだ僕がいるっ!」 それに呼応するかのように響く、コアンの声。
この大いなる闇より出で、この渦巻く恐怖を喰らいてその姿現せ・・・・・・。
酸が地面を焼く音。そして、小さい悲鳴。 「大丈夫か!? 偉大なる戦神よ、我らに癒しの祝福を!」 アイシャがオレには聞き覚えの無い言葉――神聖語とやら――で彼女の神に呼びかけ、癒しの力を請う。 「私も援護くらいっ」 すぐ近くで、空気を裂く鋭い矢音。ホッパーまでもが、戦線に加わっている。 闇の落し子たる汝が名《Shade》よ。汝が友“Ellsreade”の呼び声と誘う手に耳塞ぐこと目逸らすこと能わず。
今までよりも、強い強制力を持っての召喚。巫が、全力を持って部族を、護るべき人を、仲間を護るための時だけに使う、「助力」としてではない「強制」の召喚。 そして、間近に感じる轟音と風。風の歌姫がざわめく。だんだん音が耳に入らなくなる。皆の声が、遠い。集中が乱れる。 闇の落し子の存在がより近くなり、同時にオレの心にも恐怖が、負の感情が満ちてくる。
我が気力、我が心をも喰らいて、果てし無く暗き深い闇の深淵より疾く来たりて――
目を見開く。眼前に迫るのは――すべての囮をくぐり抜けたロック・ウォームの巨体。 “本能”は恐怖の原因をも見定めたということか・・・・・・術者であるオレに狙いを定めるとは、本能とは良く出来ている。 しかし、オレもただではやられんッ。
<>「――我が敵の心に喰らいつきて、其を滅せよッ!」
完全にこの空蝉に姿を現した闇の落し子が、疾る。ロック・ウォームの醜い大口から、酸が吐き出される。 そしてそれらが、同時に弾けた。
肌が焼ける。だが、その感覚すら遠い。思ったよりは傷は軽いらしいが、激しい頭痛に歪む視界。 先に受けるは、アイシャが事前に言っていた《精神融通》だったかもしれんな・・・・・・。 オレの視界に最後に映りこんだのは、かなり疲弊しているものの――まだ逃げようとするわずかな気力が残っているロック・ウォームの姿だった。 |