| | <22の日/下位魔術師居住区> <><>「わたしの名はマルーシカ、ここの管理人のひとりです。…蛮族の方々。あなた方に依頼したいことがあるのです」 <> <> 争うつもりはない、という言葉に驚いていたわたし達に、その女性はそう切り出してきた。 <> 曰く。 <> <> <> 自分たちはここの地下にある魔法装置の管理のためにここに住んでいた。 <> その魔法装置は「水の精霊たちを呼び出し、管理し、水を生成して転送する」事が出来る。 <> だが、レックスが墜ち、「転送した水を受け取る」側の魔法装置がどうやら破壊されてしまった。 <> 転送する側の魔法装置も、この長年管理されなかったせいでどこかに綻びが出ている。 <> このままでは、管理されている水の精霊たちが暴走し、最悪、水没してしまう。 <> なので、装置を停止するため、自分をその管理装置まで連れて行って欲しい。 <> <> <>「生身の人間が扉を開けなければ、霊体のわたしは入れない仕組みになっている場所があるのです。みなさんが受けて下さるのなら、わたしが知りうる範囲で、罠の場所とその回避方法も教えましょう」 <> マルーシカは、そこで言葉を切ってわたし達を見回した。…確かに、外にいると感じる威圧感のような物が、だんだん強くなっている気はする。 <>「…どう思う?」 <> 隣に立ってしかめ面をしていたラスさんをつついて訪ねる。 <>「……報酬次第だな」 <> その言葉に、女性はこくりと頷いた。 <>「最下層の管理人室には、魔晶石と、魔力を付与した物品が多少、あったと思います。あなた方がそれを求めているのなら、それを渡してもかまいません」 <> その言葉に、少し悩んで、ラスさんが頷いた。 <>「連れて行くだけでそれだけもらえて、罠も回避できるなら悪い話じゃない。ならマルーシカ、早速…」 <>「おい、待てよ」 <> カレンさんが、マルーシカとラスさんとの会話に割って入った。 <>「何の話をしてるかさっぱりわからないんだが…俺たちにもわかる言葉で、説明してくれ」 <> その言葉で、わたしは今までの会話がすべて下位古代語だったことに気がついた。 <> ごめん、カレンさん。 <>
<> とりあえず、今までのやりとりをみんなに通訳する。 <>「…だいたいわかった。それで、みんなはどう思うんだ?」 <> カレンさんがみんなにくるりと視線を巡らせる。 <>「…皆がそれでよいと言うのなら、異存はないが」 <> 腕組みしながらスカイアーさん。ターレスさんが頷いている。カールさんも。 <> …みんな一致で、一休みしたあと、マルーシカを加えて下まで降りることになった。 <> <> <> ……部屋で一休みしながら、ふと頭の中に疑問がわいてきた。 <>「あのね、マルーシカさん。あんまり関係ないんだけど、ひとつ聞いていいかな?」 <> わたしの言葉に、マルーシカは頷く。 <>「魔法装置の暴走で一面水浸しになるのが、どうしてそんなに嫌なんだ? …やっぱり、ここが故郷だから?」 <> いいえ、と答えはきっぱりとしていた。 <>「魔法装置の暴走そのものよりも、……暴走によって、帰る“門”を失った水乙女たちが“狂って”しまうのが哀れでならないのです」 <> その言葉に、ラスさんが横から頷いた。 <>「それに、水の精霊力がどんどん強くなってる。かすかに感じてた、氷霊の力も。……ほっとくとほんとに、ヤバいことになりそうだな」 <> 背中に冷たい汗が浮かんだ。 |