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深く眠りにつく遺跡
あらすじ [ 2003/08/17 0:23:14 ]
  オランの北に寝そべる大山脈、エストン。
 その麓に「深く眠りにつく遺跡」と呼ばれる遺跡があった。”深き眠りのラプルーツ”を主とするその遺跡に6人の冒険者が挑まんとしていた。
 知らされた情報のままにエストンに臨むと、そこには、ひっそりと隠れるように暗い洞窟が口を空けていた。冒険者たちは互いに頷きあい、ゆっくりとその洞窟に足を踏み入れていく。
 彼らは、再び、日の光を見ることができるのであろうか……。
 
目覚め
ネオン [ 2003/08/18 2:02:57 ]
  初めて訪れるエストン、その大存在を、登山とも言えぬほどに踏みしめてしばし、調べていたものと凡そ変わることのないその位置に、一見すると自然洞窟にも見える横穴が見つかった。ランタンに火を灯し、その穴に潜るとすぐにそれは、人の手の加わったものへと姿を変え、僕たちを大きな扉が迎えた。
 扉となれば、ソフィさんの仕事だ。誰に言われるまでもなく彼女が扉の前に進み出た。が、扉の前に立った彼女はすぐにこちらを振り返った。
「あかんわ、これは。一応は扉みたいな形してるけど、鍵穴どころか取っ手さえないんやもん。あたしにはどうにもできへんわ」
「では、やはり、文献に載っていた通り、この石で開けるのね」
 ソフィさんの言葉を受けて、ヴェルツォさんが”夢見の石”を取り出す。文献を調べるにあたり、預けていたものだ。
「ここに穴があいとるね。ちょっと貸して」
「どうぞ」
 そして、ソフィさんが石を扉の穴にはめこむと、淡く石が魔法の光を帯び、そこを中心に扉が左右に開いていく。石のみがその場に残されて地面に音を立てて落ちた。
 ”深く眠る”と言われた遺跡が、今、目覚めた。
 扉の奥は、相変わらずの暗い通路が延びている。ソフィさんが、地面に落ちた”夢見の石”を警戒しながら拾う。特に、何も起こる気配はないようだ。
 その様子を見ていて、ふと視界内にヘイズさんの姿が止まった。
 大丈夫ですか、ヘイズさん? 緊張しているみたいですけど。
「う、うん、やっぱり、どうしても……。だけど、もう遺跡の口は開いたんだから覚悟は決めなきゃね」
「ほう、良い顔するようになったじゃねえか、それなら大丈夫だ」
「そ、そうかな?」
「ああ、この遺跡を出る頃には、もっといい顔になってるだろうさ」
 笑いながらシタールさんが、ヘイズさんの肩を叩いていた。
「彼、大丈夫みたいね。確かに目を見てたらよく判るわ」
 その様子を見ていたら、ヴェルツォさんがこっそり耳打ちしてくる。僕はにこりと微笑み頷いて答えた。
「さあ、それじゃ、早速行こうか。ソフィさん、先頭、お願いするよ」
「まかしときー」
 そして、僕たちは、淀んだ空気の待つ遺跡へと、ゆっくりと足を踏み入れていった。


 調べた結果によると、遺跡は2層からなり、1層目は生活のための場、2層目が実験のための場だと言う。2層あるとは言っても、この遺跡自体、ラプルーツが自分の研究のため師に隠れて作ったものとの事らしいのでそこまで広くはないらしいのだが。
 しかし、広くとも狭くとも、とりあえずは、遺跡探索の基本どおり、扉を見つけるたびに開けていくしかない。
 するとそう思う間もなく、すぐに一つめの扉が見つかった。ソフィさんが慎重にその前にかがみ込む。しばし、七つ道具を動かす小さな音が響き……
「罠もないみたいやし、鍵もかかってないわ。ほな、後はシタールにーちゃん、任せるでー」
「ああ」
 そして、ソフィさんに代わり、シタールが一歩、前に出たのだった。
 
はじまりの一呼吸
ヘイズ [ 2003/08/19 0:56:49 ]
 
 近くにあるのは、ノームの力を感じない無機質な壁。だけど、そんな壁や慣れない空気に気圧されてはいない。踏み入れた時点で覚悟を決めたおかげか、丁度いいくらいの緊張感が続いている。ぼくにしては珍しい。
 シタールさんが前にいる。すぐにでも飛び出せるような位置にぼくはいる。いきなり突っ走って自滅じゃあ、ウィトにだって顔向けできない。だからぼくは、シタールさんのサポートに徹しようと思っている。少なくとも、役に立てるくらいにはなると思うから。


 ――ソフィさんの任せるという一言の後、シタールさんが扉に手をかける。
ちょっとした音を立てながら、壁と同じような無機質な扉が開けられる。彼が入ると同時に、ぼくも後を追いかけて、すぐに入った。
 …そこには、何もいなかった。古びた空気の漂う、かつてこの遺跡を作ったラプルーツという人がいたであろう、生活の場の一部だった。
 一度だけシタールさんと目を合わせてから、後ろから入ってきたみんなに場所を明け渡して、入り口から部屋の奥に進んでみた。
 見た限り、別の部屋の入り口なんか無い。もしかしたら、何か無いかな…、とぼくも少し探してみる。そういうのは鍵の人の仕事かもしれないけれど、ソフィさんやネオンの邪魔にならない程度に、好奇心で壁を触ってみる。
 造られてから時間が流れている事をしっかりと解らせる古い匂いが、壁からした。
「むー……何かあった?」
 一応きょろきょろと見てから、近くにいたソフィさんに話し掛けてみる。
「うーん、ないみたいやねー…。」
 次の部屋を探すか、もう少し捜索を続けるか。とりあえず、ぼくは入り口辺りで、意見を待とうと思って、部屋の入り口まで戻った…。
 
最初の脅威
ヴェルツォ [ 2003/08/20 0:15:54 ]
 “深き眠りのラプルーツ”…数多くいた“夢幻のアズマバル”の弟子の中でも特に異彩を放ち、他の弟子達から異端児扱いされていた彼の遺跡に私はいる。

最初に入った部屋には特にめぼしいモノは見当たらなかった。

もともと1層階は彼の生活の為の場、500年以上がたった今、微かに残る当時の生活感以外、私達に訴えかけて来るモノはなかった。
だが、それでも残りの部屋を探索する価値はある、如何に小さいと言っても、ここは間違いなく古代人が残した遺跡の一つなのだから。

再び通路に出た私達は、直ぐ向かいにある次の部屋を目指した。

扉には再びソフィさんが取り掛かり、なんなく開ける。

「ま、これくらいの扉やったら、ちょちょいのちょいや」

ソフィさんは得意げにそう言いながら、扉を押し開けた。それと同時に彼女の頭の上を通り過ぎ、通路の壁に皿が一枚砕け散った。

「下がれっ!」

シタールさんが咄嗟に言い放った一言に突き動かされる様に皆が扉から離れる。その間にも、扉からは食器の類が次々と飛び出しては通路の壁に当たって砕けて行った。

「何っ?魔法人形の護衛とか、そう言った類?」

扉がある側の通路に背を預けながらセシーリカさんが、そんな疑問を口にする。

…古代人の遺跡ですものね、それくらいの事はあって然るべきでしょうけれど、何故直接攻撃に出ないのかしら?

「ま、兎にも角にも、中に入って確かめねぇ事にゃ始まらねぇ…行くぞ、準備は良いな?」

シタールさんが、扉を挟んだ向こう側で長剣を片手に緊張しているヘイズ君にそう話しかける。ヘイズ君は、顔の表情がやや強張っている感じがしたが、それでも力強く頷き返し、長剣を構え直した。

私は、“剣”の二人に何時でも援護出来る様に、幾つかの呪文を頭に思い浮かべながら、樫の杖を握る手へ更なる力を込めた。
 
びっくり家具
ソフィ [ 2003/09/03 23:25:45 ]
 “剣”の二人が飛び込むタイミングを見計らいながらしばらく待っていると、続いていた食器攻撃もようやく途切れた。さすがに古代の遺跡ゆーても、食器も無限やないねんな。
そろそろと扉の影から顔を出して中を確認。食器を投げるゴーレムがいるかと思ったけど、そないな姿は確認できへんかった。
「おかしいな。何もいないぞ?」
「そないなことゆーても、あたしにもわからへんわ」
用心深く部屋に侵入するものの、やっぱり食器を投げる役はおらへんかった。でも、食器棚は開いたまま。まさか勝手に飛び出たわけでもあらへんし・・・・・・・・・。
んにゅ? なーんか嫌な予感がするんよね。
「ここ、キッチンでしょうか?」
「多分、そうなんじゃないかな」
ネオンにーちゃんとヘイズにーちゃんが花瓶の置かれた円卓に近づく。どーでもええんやけど、古代のお花ゆーんは枯れへんのかな。魔法でもかかっとるか、造花なんかな?
そんなことを思いつつ、ふと円卓に視線をやって、あるものを見つけた。そしてよーやく何やったかを思い出したんや。
円卓にさりげなく開いた溝。
「あかんあかんっ、近づいたらあかんでー!」
『え?』
とっさにあたしの声に反応したシタールにーちゃんとセシーリカねーちゃんが、二人の襟首をつかんでぐいっと引き戻す。
遅れて、ガコンと音がして、床の一点が小さく動く。次の瞬間には、ひゅんと空を切る音。
「・・・・・・今のは何かしら?」
どーにかヘイズにーちゃんを引っ張ることが出来たセシーリカねーちゃんが首をかしげる。
「これはなー、テーブルから刃がしゃきんって出てきて、それがあの溝にそって円形にぐるって回って近づいた人をすぱーって斬る罠なんや」
「何か擬音が多い説明だけどよくわかったよ・・・・・・危険な罠だね」
家具に罠ってゆーんは珍しいから、思い出せてよかったで。てことは、さっきの食器も、扉に連動して作動する罠だったんかもしれへんな。
「・・・・・・万物の根源たるマナよ」
念のため、と呟いたヴェルツォねーちゃんが魔法を唱え、とたんにうめき声をあげた。
「どうしたんだ?」
「いえ・・・・・・《魔力感知》をかけたら、そこら中の家具が光って・・・・・・」
つまりこの部屋の中、今みたいな魔法の家具やら罠の家具でひしめいとるっちゅーわけやな。
こら触らぬ神にたたりなしやで。ほっといて次いこーや。
「・・・・・・そ、そうですね」
ま、この先もごっつ性格悪い罠あるかもしれへんし、気ぃつけていこーやー。
 
静かなる嘘と調和
シタール [ 2003/09/03 23:32:12 ]
 おかしい・・・。
俺たちはそれから二つの部屋を見てまわったが・・・何という非常な違和感を感じる。

どこかで聞いたり、見たりしたような仕掛けばかり、出てる守護者も見聞きしたモノばかり。
そう。この遺跡にはこれっと言った何の特徴もないんだ。俺は思いきってそのことを口に出してみた。

「えーと。それって何か問題になるのかな?」
最初にこれが初めての遺跡のヘイズが言い出した。

だが、ネオンがこう返した。

「ええ。非常に問題です。今、思えばこの遺跡主の門に関わるモノを何一つ見かけいません。」

「うちも同意や。幾ら難でもおかしすぎる。なんかすごっくうさんくさい気がするわ。」
「私もそう思うなぁ・・・なんか作り物じみてるというか・・夢を見てるというか・・・。」

さらにソフィが同意し、セシーリカがなんとなく出した意見を聞いた瞬間にヴェルツォがはっとした表情をした・・・。そして・・・

「セシーリカさんの言った事は、本当かもしれません。」

へ?それってどういう意味だよ?

「私たちは今、夢を見ているんです・・・。」
 
夢の狭間
セシーリカ [ 2003/09/03 23:33:50 ]
 「つまりは………俺達は全員同時に眠り込んで、全員同時に夢を見てるってことか?」
「ええ。たとえば……ほら、これを」
 シタールさんの言葉に、ヴェルツォさんが頷く。杖で示した彫刻は、なんだか細部が曖昧だし、彫られている古代語もよく見れば意味のない単語の羅列。
 おそらくは全員同時にどこかの段階で眠らされてしまい、同じ夢を見させられているのだろう、と説明は続いた。
「古代王国時代の精神魔術師ですもの、これくらいは出来ても驚くべきではないでしょうね」


「でも、夢でも、何でもありって訳じゃないみたいだね」
 ヘイズさんの言うことももっともだろう。実際夢だからといって宙を飛べたりするわけがないことを、今目の前でシタールさんが実演して見せている。………ちょっと、間抜けかも。
「…となると、夢の中だからって無茶してもいいわけじゃないですよね。おそらくは、夢の中で死んでしまったら、現実の肉体も死んでしまうと思います」
 ネオンさんが呟くように言い、ヴェルツォさんが頷く。不安そうに口を開いたのはソフィさん。
「でも、そんならどうすればええん? あたしら眠ったまんまやったら、ちょっとヤバいんと違う?」
「ちょっとどころじゃなくやばいよ。ひょっとしたら目覚めない魔法の眠りにとらわれたのかもしれない。そうしたら寝てる間に餓死することはなくても、何かに食べられちゃったりするかもしれないし」
「うっ……」
 言葉を飲み込んでしまったヘイズさんの代わりに、ようやく羽ばたくのをやめたシタールさんが口を開いた。
「ってもよ、目覚める方法がわからねぇわけだし、こうなったらこの夢の遺跡をとことん隅々まで探索してみるほかないんじゃねぇの?」
「………それもそうだね。ひょっとしたらこの夢の遺跡は、“深き眠りのラプルーツ”の試練のようなものなんじゃないか? だとしたら、どこかにこの夢から目覚める“試練”を置いていてるのかもしれないよ」
 わたしの言葉に、ヘイズさんが不安そうな視線を向けてきた。私が励ますより咲きに、シタールさんがいきおいよく頷く。
「まぁ、よくよく考えてもみろや。今まで出てきた罠も、守護者も俺たちの誰かが知識として持ってたもんだったろ。…ってことは、この夢の中では俺たちの知識や経験の範疇を越えるモンは出ねぇってことだ」
「逆を言えば、今までの知識・経験をフルに生かさないと危険だって事……ですね」
 ネオンさんの言葉に、全員が緊張した面もちで頷いた。
 
記憶にある隠し扉
ネオン [ 2003/09/03 23:35:33 ]
 
 さて、一層目の各部屋を調べて、この結論が得られたのは良いとして……問題は、次はどうするかですね。
 おそらく、この眠りの魔法を起こしている装置は、実験区にあるだろうとは思われるのですが、問題は……
「階段らしきものがなかったわね」
 ええ……。
「どーいうことや? 調べた資料には、この洞窟は生活区と実験区の二層あるって書いてあったはずやのに」
「ええ、間違いないわ」
「じゃあ、その資料が間違いだったってこと?」
「もしくは……隠し扉か何かがあるってことだろうな」
 ひとまず、間違いだったとは思いたくありませんね。今のままなら、まだ何も収穫がなかったのと同じようなものですから。
「そうやね。もう一回、隠し扉とかないかゆっくりあちこち調べてみることにしよか」

「ねぇ、ちょっと待って」
 ソフィさんを先頭にまた来た道を戻ろうとしたとき、セシーリカさんがそれを制した。
「あ、いや……隠し扉を調べるのは、それでいいんだけど。
 さっき、この洞窟は今までの私達の経験とかで成り立ってるって言ったじゃないか。それなら、誰か、隠し扉のあった洞窟のこととか思い出せたなら、全部の部屋を調べて回る手間が省けていいんじゃないかって思って」
 なるほど、その通りかもしれませんね。今まで潜った遺跡で隠し扉のあった……僕は一つ心当たりがありますが……
「なら、それを当たってみようじゃねぇか」

 廊下を歩きながら記憶を辿る。さっきまで歩いた道として、ではなく、前に歩いたことのある遺跡の道として。
 そうすると、先程まではそこまで鮮明には感じられなかった記憶との合致がより確かなものへと変わっていく。
 …………そこの右の部屋に入って下さい、確かここで合っているはずです。
「確か、ここは書庫になってた部屋だったな」
「ええ、残念なことに、ほとんどの本は虫食いのせいでダメになっていたけれど……ね」
 シタールさんとヴェルツォさんの言葉を聞きながら、ソフィさんが扉を開けると、しかし、そこには意外な光景が広がっていた。
「あれ……? なんで……」
「部屋の中身が変わってる?」
 先頭のソフィさんに続いて、ヘイズさんがすっ頓狂な声をあげる。しかし、それは声に出さないだけで、他の面々も気持ちは同じだった。
 部屋の中が、先程話した書庫ではなく、全くのがらんどうになっているのだから。
「これって、やっぱり、夢が影響しているせいなのかな?」
 そうかもしれませんね。先程は僕以外の誰かの意識の影響で書庫となり、今度は僕の意識の影響でこんな部屋に……改めて考えると、僕が隠し扉と出会った遺跡も盗掘されつくしたものだったせいか、部屋の大半はこんなふうに空っぽのものでしたよ。
「やれやれ、その時々で見た目まで変わる遺跡かよ」
「ホンマに性格の悪い人やったみたいやね、ここの主も。
 で、ネオンにーちゃん、隠し扉がだいたいどのへんやったか覚えてる?」
 ええ、こちらの左側の壁の面にあったはずです。
 
現実に似たまどろみの中で…
ヘイズ [ 2003/09/03 23:40:33 ]
 
人によってその姿を変える遺跡。それも確かにすごいけれど…。
(やっぱり、みんなすごいな。)
 正直なところ、そう思った。ぼくは遺跡の隠し扉なんて見た事もないし、遺跡自体、今日初めて見たのに。ドアから何か飛び出してこないかと警戒しつつ、自慢――それさえ不安だけど――の足の速さを生かして、いつでも前に飛び出せるように構えている事だけしか今のぼくには出来ない。それで十分だと言われるかもしれないけど、何となく役に立っていないようで、ちょっと情けない。遺跡の事を知らないだけ、ぼくだけじゃ何も出てこないって事なんだろうな…。ひっくり返せば、たくさん冒険している人の方が大変な目に遭うかもしれないって事だけど。
 ああ、悩んでいると止まらなくなる。止めておかないと、いざって時が大変。
「隠し扉、あった?」
「もうちょっと待ってなー。…この辺やんな?」
「ええ、この辺だったはずですけど…。」
 好奇心と沈黙の不安に負けて、ちょっとだけ問い掛けてみるとそんな返事が返ってきた。ネオンとソフィさんが左の壁を探っていたのを見て、返事を待つついでに一つだけ確かめておきたい事が。壁に向き直って、深呼吸。空が飛べるほど何でもありって訳じゃない事は十分解ってるけど…これだけは、一応。
「………えい。」
 ―――――ごん。
「〜〜…!」
「へ、ヘイズさん!何やってるの!?」
 あ、頭がぐらぐらする…。セシーリカの声を聞いて、頭を振りつつそっちに顔を向ける。
「ほら、夢だと思うんだったら痛い事やって、痛かったら現実(ほんとう)だって言うじゃないか〜…!」
「だ、だからって壁に頭ぶつけなくても…。」
 思わずうずくまって「う〜…」とうめく。…目から火花が飛ぶくらい…いたい。痛いけど、これって夢だったよね。よくよく考えてみれば、壁に向かって頭振り下ろさなくても、簡単に頬をつねれば良かった気もする。誰かからか、白い視線を感じる気もしないでもない…。緊張して、突然おかしな事をするのは昔っからだ。全然、ぼくは変わってない。少し、余計な緊張は取れた気はするけど、もう少し考えてから行動するべきだったな。ちょっと、反省。
「むー…。って事は、やっぱり刃物で切られても痛いし、物がぶつかっても痛いって事だよね?」
「多分そうだと思うな。…ネオンさんが言ったみたいに、無茶すれば現実でも死んじゃうだろうし。目が覚めなくても、それはそれで大変だしね。」
 やっと痛みが引いてきて、とりあえず立ち上がりつつセシーリカと話す。こんなところでへこたれていたら、ウィトどころかレミィにまで笑われる。…それは…、それは悔しい…!ぎゅっとソードブレイカーの鞘を握り締めて、もう一度気合いを入れなおす。出来る限りの事を全力でする、それでいいんだ。
「あったで〜、隠し扉。」
 一度だけ入り口を確認しておいてから、ネオンとソフィさんの所へ。その時にシタールさんと一度目を合わせてから、隠し扉の先を覗き込んだ。きちんと、彼のサポートっていう仕事をこなすために。
 …あれ?
 ふとした疑問はすぐ聞く。初心者だったら、なおさら。
「ヴェルツォさん、生活区から実験区への階段らしいものって、今のところ無いんだよね?」
「ええ、今のところは…。」

 …ヴェルツォさんの言う装置があったとして。それをどうすればこのリアルな夢から覚めるんだろう?
 階段が無い。…って事はただ壊すだけだと、実験区から戻れない気がするんだけど…これってぼくの杞憂、だよね?

 
目覚める為に
ヴェルツォ [ 2003/09/05 4:56:44 ]
 「階段が無い。…って事はただ壊すだけだと、実験区から戻れない気がするんだけど…」

私は、シタールさんと共に隠し扉の先を窺うヘイズ君からそんな言葉を投げかけられた。

「…なるほど、確かにそれはそうかも知れませんね。装置を破壊する事により、この夢の世界は無くなるかも知れませんが、それと僕達が現実世界へ戻る事は必ずしも同義ではないかも知れません。最悪、この世界諸共僕達の意識も無に帰する可能性も…ないとは言えません」

慎重な面持ちで言葉を選ぶ様にゆっくりと、ネオン君が私達にそう述べた。

「…ちっ装置ぶっ壊しゃなんとかなるってのは、甘ぇって事か…」

壁に背を預け腕組みしてネオン君の話を聞いていたシタールさんが、渋い顔をしながら溜息混じりにそう悪態をつく。

…えぇ、確かにそれほど甘くは行かせてくれない様ですね、ですが、手立てがないわけではありませんわ。

「何か、当てがありそうな口振りだね?いい考えでもあるの?」

セシーリカさんが、私の言葉に対し、好奇心を全面に押し出した表情で視線を向ける。

…罠を設置する際に当たり、その設置者は自分がその罠に誤ってかかってしまった時の事を考慮して、罠を解除する幾つかの手立てを作って置くもの…その罠が複雑なものになればなるほど、必要不可欠な要素になる事でしょうね。

「つまり、あたし等にこの夢ぇ見させてる装置をぶっ壊さんでも上手く止めさせる方法がどっかに転がっとると、そう言う事なんやな?…でも、それこそどうやって探すんや?そないなもん、あたし等の経験の中にはあらへんで?」

ソフィさんが、大きく肩を竦めながらそんな反論をして来た。

…確かに、その様な経験はこの中で誰一人としてした事がないでしょう。ですが、人と言う生き物は、未知のものに対しても己の有する知識からある程度の推測ないし憶測は出来る様に出来ています…それはこの遺跡やこれを作ったラプルーツをより多く知っていれば、それだけ正確な推測が可能になると言う事でもあります。そして、この遺跡に関して多くの知識を有していると言えば…

私はそこで言葉をくぎり、2人の仲間に静かな視線を向けた。

1人は、言うまでもなくこの遺跡探査の話を持って来たネオン君である。そしてもう1人、私と共にこの遺跡の資料集めをしてくれた人物に私は改めて視線を定めた。

「あはははは……それって、もしかせぇへんでもあたしの事言うてる訳やね」

乾いた笑いと共に多少複雑な表情を垣間見せているソフィさんに、私は満面の笑みで頷いた。
 
愛・覚えていました
ソフィ [ 2003/09/05 22:00:11 ]
  んー。そないなことゆーてもなぁ。
「ソフィさんでも推測は畑違いなの?」
 ま。ヘイズにーちゃんも失礼なことゆーねー、あたしでも考えることくらいできるわ。ただ、ねぇ。
 情報、あんま見つからへんかったんやもん。ヴェルツォねーちゃんだって、情報もっと持っとったらあたしなんかに視線送らへんでも自分でぎょーさん考え付くやろーし。
「・・・・・・・・・」
「図星みたいだな」
「まぁ情報があれば、こんな夢見させる罠に引っかかる前に気付いてたよね」
 シタールにーちゃんもセシーリカねーちゃんもツッコミ厳しいねん。
「ともかく、これは予想外の罠ですから・・・・・・僕にも推測は難しいですね」
 うーん。どないせーっちゅーんじゃー!(頭抱えじたばた)
 あーあ。こないなときカッコいー正義の味方でも現れてぱぱっと解決してくれればえーのになぁ。もちろんヒーローはだーりんやで(にしし←現実逃避)

 ・・・・・・あ。

「どうした?」
 んにゃ。これって自分の経験になくても、知識として頭にあることなら適用されるかもゆーてたよね。
「ええ、そうよ。それで推測しようって話になったんじゃない」
 せやったね。ちゅーことは、ラプルーツ本人の遺跡とか関係なしに知っとることやったらそれが夢の中で具現化するっちゅーことでもOK?
「まぁ・・・・・・それはそうですね。今までの罠や怪物はラプルーツとは関係ない遺跡で経験したものだったことですから」
 なら、ラプルーツのことよーさん知らんでも大丈夫かもしれへんで。
「どういうこった? はっきりしねぇか」
 あたしこれに似たような話聞いたことあるねん。

 昔々あるところに、魔法使いがいました。彼が得意な魔法は、人に夢を見せることです。自在に夢を操ることが出来たため、人々はこぞって彼に楽しい夢を・・・・・・

「あのさ、長くなるから普通にね?」
 ・・・・・・了承や。
 まぁ夢を見せるんやけど、それが実は一度見たら帰って来れないとまで言われた夢なんやて。それは個人にかける魔法やのーて、部屋全体にかける魔法やったみたいんや。そんで、自分や知り合いが迷い込む可能性も無きにしも非ずっちゅーことで、非常用の解除装置作っといたらしいねん。
夢や幻っちゅーんは、普段なら気付かへんよーな些細な異常が付きもんゆーやん。普通それは、幻覚では表現しきれんかったりしたところやねんけど、この魔術師の場合はそれが非常用の装置に偽装してたんやって。
 そのお話では、無限に水が沸いてくる水瓶がそれやってん。古代王国には、そんな魔法装置が稀に実在してたらしいねんけど、その水は止まることもせんかったら零れることもせんかったんや。んで、それに飛び込めば夢から覚めるっちゅーわけや。
「なるほど。つまりラプルーツに詳しくなくても、その話を知っていて、さらに口に出したことで全員の知識として共有されたとすれば、或いはどこかでそれが具現化しているかもしれない、と。そういうことね」
 せやせや。この話聞いたんずいぶん前やったけど、思い出せてよかったで。
「でも、それお話なんでしょ? 今までのは皆の実体験や実在する物の中から出てたから・・・・・・」
 心配せーへんでいいで。これは、実体験者から聞いた話やもん。古代王国が滅んで何百年経った今でも、まだそんな罠が元気に残ってたらしいで。
「よし、じゃあまた探してみよう」
 元気を取り戻したあたしたちは、また遺跡探索に戻るのでした。
「それにしても、よく思い出せたね。どこで誰に聞いたの?」
 ふふーん。それはなー、ベッドの中でだーりんに聞かせてもらったんや。まー、ゆーてまえばあたしとだーりんの愛の力っちゅーわけや。
 ま、ヘイズにーちゃんのおませさんっ(ぽっ)
 
夢の王様
セシーリカ [ 2003/09/07 23:43:57 ]
 「水瓶だ」
「水瓶だね……」

 大広間の真ん中に、ぽつんと水瓶が置かれているその部屋は、不気味なほど静かだった。

「…あの水瓶が、目標の水瓶なのかな?」
「おそらく、そうだと思いますよ。念のために調べてみた方がいいとは思いますが」
「了解ー。なら、あたしが行くわ」
 とことこと歩いて水瓶に近づこうとするソフィさんの首根っこを、シタールさんが慌てて掴んだ。
「わっ、何、何っ!?」
「ちょっと待て! お前等、このあまりにご都合主義的な状況を見て何も感じねぇのか!」
「だって夢だし」
 わたしの言葉で、シタールさんは玉砕したけど、でも確かにちょっとご都合主義がすぎる気もする。

「ああ、こういうときってさ、お話しなんかでは水瓶に近づくと敵がすぽーんっと出て」
 がつ。
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ、このボケ!」
「シタールさん、いくら何でも殴るのは……」
 ネオンさんの言葉が途中で止まる。同時に、水瓶の前に巨大な影が現れる。
 こちらに飛びかかろうと身をかがめているのは、牛の頭に人の体……。
「…………まぁ、こういう経験、誰でもしてるって事ですよね」
 ミノタウロス。
 なるほど、こいつがこの夢の門の門番なんだね。

「ああ、そういえばこの間戦ったよね」
「ああ、そうそう。強かったなぁアレは」
「二人とも! そんなのんきなこと言ってないで! 来ますよ!」
 ネオンさんの叫び声と同時に、ミノタウロスの咆哮が響き渡る。
 シタールさんとヘイズさんがそれぞれの武器を構え、わたしは棒杖を手に後ろに下がる。

 目覚めるための戦いは、今はじまった。
 
 
夢の終わり
ネオン [ 2003/09/08 23:37:47 ]
 「ヘイズ、ソフィ、フォローしろ。まともに戦おうとはするな、こいつはちょっと危険だからな」
「う、うん」
「了解や」
 武器を抜いてミノタウロスに対峙するシタールさんに二人が頷く。ヘイズさんは、やや緊張の色が見えているようだ。無理もない、まだゴブリンとしか戦ったことがないというのなら、この怪物はいささか強敵過ぎる。
 しかし、かくいう僕もこのクラスの怪物と出会うのは初めてのことで、正直、どうすれば良いか判らないでいる。ダガーを手にはしたが、無論、戦える相手だとは思わない。一先ず、他に伏兵がいたときのことを思い、ヴェルツォさんの側に立つ。
 ヴェルツォさんは、すでに呪文の詠唱に入っていた。僕には判らない言葉で魔法が完成したとき、前に立つ、三人に薄く魔法の光が纏わりついたように思える。何度か見たことがある、”盾”の魔法だろう。
「こっちや、化けもん!」
 ソフィさんがダガーをミノタウロスの足に走らせる。ミノタウロスの強靭な筋肉の前にそれが通じたかどうかは甚だ疑問ではあるが、少なくとも意識を向けさせることはできたようだ。
 ゆらりとそちらを向き、巨大な斧を勢いよく振り下ろすミノタウロス、しかし、その軌跡は宙を空振りする。草妖精のソフィさんならではの身のこなしだろう。
「悪いな、本命は、こっちだよ」
 その隙にシタールさんが、戦斧をミノタウロスの脇腹に叩き込んだ。
 ミノタウロスの叫びが響き、続けざまミノタウロスが振り下ろした斧を返すようにシタールさんに向けて横薙ぎにする。それを判っていたかのように盾で往なす。

 強い……。
 知らぬうちに僕は声に出して呟いていた。その声と同時にシタールさんの戦斧に炎が宿る。恐らく、ヴェルツォさんの魔法だろう。
「そうね。彼は、私が今まで見て来た中でもかなりの実力者だわ」
 魔法を唱え終わったヴェルツォさんから、僕の呟きに対する応えがあった。
 シタールさんだけではない、彼をフォローするソフィさんにしてもそうだ。ただ単に素早いというだけでなく、的確にミノタウロスの気を紛らわせ隙を作る動きをして、主戦力であるシタールさんが戦いやすいようにしている。
 ミノタウロスという強敵は、しかし、思っていた以上にあっさりと地に伏すこととなった。

 そして、ミノタウロスの死体を部屋の隅にどけ、僕たち全員で水瓶を取り囲むようにしていた。
「さて、と……さっきの話だったら、確かこの水瓶に飛び込むんだったっけ?」
「そうや。シタールにーちゃんにはちょっと狭いかもしれへんけど、入れへんこともないやろ?」
 水瓶は、津々と水を湛え、水面は揺らぎながらも決して瓶から溢れない。先程のソフィさんの話のとおりだ。
「まぁ、一応、なんかの罠があるかもしれへんし、あたしがよう調べてみてから最初に入ってみるとするわ」
 言って水瓶のあたりを一周、二周と回って罠などを調べるソフィさんだったが、
「なんもないみたいやね。水もほんまもんの水みたいやし。
 んじゃ、みんな、あたしの後に続いてやー」
 そう言ってソフィさんが水瓶の縁に足を上げようとして……
「シタールにーちゃん、手貸して」
 照れ笑いで振り返ってきた。
 そして、シタールさんがソフィさんの手を取り、ソフィさんが水瓶に飛び込んだ。

 水しぶきが上がり、水が溢れ……ということは、無かった。
 ソフィさんが水瓶に飛び込んだと思ったその瞬間、部屋全体の輪郭がぼやけ、次に形をとったときには、先程とはまったく姿を変えていた。
「これは……もしかして、魔法が解けたってことか?」
「そう、かもね」
「魔法を解くためのキッカケがあったら良かったてことかいな?」
 あたりをキョロキョロするが、部屋の見た目が変わったということ以外、遺跡の中であることには変わりは無いし、それをはっきりと断言することはできない。
 新たに姿を見せた部屋は、雰囲気からしたら、実験室なのかもしれない。部屋の真ん中に大きな机が一つあり、上にはメモの類や本などが並んでいる。他には、魔法装置を作るのに利用したのかもしれない、大小様々な鉄の塊。
「ここは……現実と考えて間違いなさそうよ」
 皆で部屋の中を色々見回しているうちに、ふと、ヴェルツォさんが呟いた。
「ここにラプルーツのサインのある手記があるわ。これは誰の記憶の中にもないものでしょう?」
「確かに、そうだな。で、なんて書いてあるんだ?」
「少し待って………。
 さっきの眠りの魔法装置に関して書いてあるわ。今、こうして夢から抜け出したのはいいとして、装置自体、止めてしまわないことには、この遺跡にいる以上、また同じことの繰り返しになる可能性があるみたい」
「結局、夢の中での頑張りってのもそんなに意味の無かったことなのか? ここの主はホントに性格悪い奴だったみてぇだな」
「ま、しょうがないよ。遺跡の主で、性格の良かった人なんて今まであったことないじゃないか」
「そりゃ……そうだよな」
 セシーリカさんの言葉にシタールさんが苦々しく頷いた。
「でも、その魔法装置のことがわかっただけでも、結構、いい感じだよね。後はそれさえ見つけちゃえば、良いんじゃないの?」
 しかし、ヘイズさんが元気そうに言った。
 そうですね。では、早速、その装置を探すとしましょうか。
 
目覚めた後の現実
ヘイズ [ 2003/09/09 19:39:51 ]
 
 夢の世界から出て。
「……むー…。」
 「いい感じ」と軽く言っても、見つからなければそれは「嫌な感じ」なわけで。
 ぼくらは今、実験区を探索している。万が一の罠がないか、ソフィさんに見てもらいつつ、本業じゃないぼくも好奇心で参加している。もちろん、邪魔にならないようには気をつけて。
「どれがどれだか…っと〜!」
 足元を見ていなかったのか、塊につまづく。咄嗟に手をついて、幸いにも顔面直撃だけは回避。いくら性格悪かったとしても片付けくらい、してほしい。改めて立ち上がり、無言で見回している。他の人に声を掛けるより、それがぼくに出来る事だと判断したから。

 古ぼけた部屋。少し前に見た部屋と同じ、古い匂いがする。並んだ本にも、散らかった塊にも、そんな雰囲気がある。ぼくにその文字は解らないけれど、何か一生懸命になっていた気がする。
(『ラプツール』って…どういう考えでここを作ったのかな?)
 もしかしたら、経験が多ければ多いほど、それを再現するあの夢で死んでしまう可能性も大きかったのかもしれない。かといって、経験の浅い人が挑んで大丈夫かといえば、もちろんNO。出口が見当たらなくて、もっと悲惨だったんだと改めて思う。…やっぱり……性格、悪い。さっきの会話が、改めて思い知らされてる気がする。きょろきょろと見回しながら、そう思った。
 
 そうして、ため息を付いた時に。
「……あれ?」
 …ふと、ぼくの目に『何か』が止まった。
 
生還への一歩
ヴェルツォ [ 2003/09/11 2:53:32 ]
 私は、この部屋の中を探索している間中、何とも言えない違和感に襲われていた。特に何処がと言うわけでもないのだが、それだけに妙にその違和感が気になって仕方がなかった。

…この違和感は何?何かとても単純で当たり前なものを見落としている様な気がする…

私の内から沸き起こるその違和感に微かな不快さを感じ始めたその時、床に視線を落としていたヘイズ君が、何かに気付いた様に声を上げた。

「…あれ?…これ、何だろう?」

ヘイズ君はそう言いながらしゃがみ込んで、床のほこりを払おうと手を動かす。皆もヘイズ君の下へ駆け寄り、ほこりが除かれた床に視線を落とした。

「…何かの文字かな?わたしには上位古代語の様にも見えるけど」

セシーリカさんが、そう意見を述べながら私に視線を向ける。

…その様ね、並びからしてこの部屋の床全体に円を描く様な形で配列されている様だけれど…

私は、部屋全体を一周させる様に視線を走らせながら唐突に私の内にわだかまっていた違和感の答えを見つけた。

…この部屋には、出入りすべき『扉』が一つも見当たらないのだわ…そして、この部屋の床全体に円を描く様に配列されている上位古代文字…この事から鑑みるにこの床全体が『扉』の役割を果たしている様ね…だからなのね、この遺跡の中に「階段」と言う概念が存在しなかったのは…

私は、己の推測を皆に述べながら不意に、先程手に入れたラプルーツの手記の中に上位古代語で書かれた意味の成さない一文があった事を思い出した。

私は、ラプルーツの手記を取り出しその一文の冒頭部分を、上位古代語で口に出してみた。

「おぅ!?今床がほのかに光ったぞっ」

シタールさんが、そう言って足元に視線を向けた。

「どうやらヴェルツォねーちゃんの考えた通りみたいやね、あたしも色々とこの部屋調べたけど、隠し扉とかそう言ったもん見つけられへんかったし、ここが例の魔法装置へ繋がる『扉』と見て間違いあらへんのとちゃう?」

ソフィさんが、床をトントンと足で叩きながら皆へ同意を求める様に見上げる。

「…でも、でもさ、この『扉』をくぐった先がまたさっきみたいな夢の中だったら、今度こそどうなるか分らないよ、ぼく達…」

やや血の気が失せた様な面持ちのヘイズ君が、弱々しい口調でそんな不安を口にした。

「そうだとしてもだ、これだけ部屋の中を引っ掻き回して何にも出てこなかった以上、ヴェルツォの言う事に賭けるしかねぇだろ?死ぬ気で飛び込んだ先からでも“生”を勝ち取って来れる、それが“冒険者”ってもんだ、なぁ?」

シタールさんが、不安げな表情のヘイズ君の頭に手を乗せながらそう言って皆に視線を向けた。

「行きましょう、ヘイズさん。“慎重”である事は“冒険者”として重要な要素だと思いますが“臆病”な心のままでは、この遺跡から抜け出す事は一生不可能ですよ?“勇気”を持って一歩踏み出す時は今だと僕は思います」

続けてネオン君が、ヘイズ君の肩に手を添えながらそう勇気付ける。

二人の言葉を受けたヘイズ君は、一瞬躊躇う様な顔をしたが突然両手で自分の頬を叩くと、意を決した様な表情で皆に力強く頷いて見せた。

私は、そんなヘイズ君に微笑みを浮かべながら、皆に部屋の中央に集まる様促すと、ラプルーツの手記を片手に先程の一文を朗々と唱え始めた。

私の唱える上位古代語に呼応する様に、部屋の床全体が光り始め、そして私が最後の言葉を唱え終わると同時に私達の視界を眩い光が包んで行った。
 
扉を抜けるとそこは生きてる床だった
ソフィ [ 2003/09/12 20:50:29 ]
  そして光が晴れると、目の前にあったのは巨大な装置やった。
 と、いいたいトコなんやけどなぁ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
『なんだこの部屋はー!!』
 足場はぐにょっとした感覚。床から生えてくる無数の腕。
「まさかフロア・イミテーター!?」
 ヴェルツォねーちゃん、まさかも何も、こんなんはそれしかおらへんって。
 そうこうしているうちに、それらの腕が一斉に殴りかかってきた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
 本来不意打ちが得意なのがこの魔法生物なんやけど、急にその真上に放り出されたら、不意打ちも何もないやん!
「こんな状況で戦えってか。魔法使いに魔法使わすにも、足元が不安定すぎるじゃねぇか!」
 あ、あそこやあそこ。部屋全体とは言っても、あの段差になっとるとこまではイミテーターちゃうらしいで! その先に魔法装置っぽいのも見えるんやけどなぁ・・・・・・それどろこじゃないで。
「とりあえず魔法使いのみなさんはあちらへ!」
 ヘイズにーちゃんもヤバなったら回避に専念しーや。ちいと一筋縄ではいかへんで、これは。
「ネオンもあっちから精霊魔法で援護頼むぞ!」
「わかりました!」
 セシーリカねーちゃんは、いつでも癒しできるように待機頼んだで。
「任せて」
 さーて。・・・・・・あたしも、ちっと本気になったほうがいいみたいやね。
愛用のダガーとマインゴーシュを鞘走らせる。各所に仕込んだ投擲用ダガーもいつでも抜ける。
「いっちょ一暴れするぜ」
 合点承知の助や!
「万物の根源たるマナよ! 敵を撃つ《光の矢》となれ!」

 ヴェルツォねーちゃんの魔法を合図に、あたしとシタールにーちゃんはなんとも戦いにくい形状をしたフロア・イミテーターに踊りかかった。
 
愚痴。そしてそれに対する各人の感想。
シタール [ 2003/09/13 23:32:09 ]
 「これで片付いた?」

ああ・・・多分な。つうか、なんだこのふざけた罠は!?
ここの主が夢に関して研究してたなんてかけらも思えねえし、たく最後のトラップも自分の得意分野で来いっつーの・・・。

「でもさ、すべてが同じ動きしてのに早く気づいて良かったよね。」

ああ。それに気づいたのは良かった。でもよ。こんだけの腕を魔法の支援無しで倒すこっちの身にもなってくれよなぁ・・・。
(どかっと腰掛ける)

「まあ、誰もたいした怪我もなく済んだわけですから。」

だな。こんなアホな仕掛けで死んだら恥ずかしくて化けて出る事も出来ねえっての。
・・・で、これが遺跡の核となる装置ってワケなんだ?

「ええ。そうよ。これさえ止めてしまえばこの遺跡は無力化したも当然よ。」

よし、そうすりゃ後は家捜しして金目のモン見つけるだけってか。
さ!お宝探しに行きますか!!
 
目的地へ
セシーリカ [ 2003/09/14 23:35:22 ]
 「構造から言うと、この辺に宝の部屋があるはずやねんけど」
 ソフィさんがぶつぶついいながら壁を丁寧に調べている。

「魔剣とか、あるかなぁ」
 ヘイズさんがわくわくしながら言い、その言葉にシタールさんが苦笑して首を振る。
「あるわけねえだろ。よく考えても見ろよ。ここは魔術師の作った魔術師のための遺跡だぜ?」
「ラプルーツの研究資料なら、おそらく断片なりとも出てくるでしょうね」
 シタールさんの言葉を引き継ぐように、ヴェルツォさんが口を開く。ソフィさんとネオンさん以外はすることがない(といっても、もちろん周囲への警戒等は怠らないし、やらなきゃいけない雑事も少しはあるけど)ので、適当に今後の期待と不安について話していた。

「…あった。やっぱり隠し扉だ」
 壁をこつこつ叩いていたソフィさんが呆れたように壁を叩いた。
「隠し扉ぁ? 陰険もいいとこだな、おい」
 シタールさんが毒づく。
「何となくそんな気はしたけどねー」
 だって、夢に関連する魔術師のわりに、罠が姑息かつ陰険すぎるんだもん。
 普通、魔術師って言ったら、自分の専門の“門”の力を誇示するような遺跡作るもんだし。

「さすがに、隠し扉に罠なんか仕掛けるアホな真似はしてないみたいやねんけど? ほな、いこかー」

 ソフィさんが、ゆっくりと扉を押し開いた。
 
次の遺跡に向けて
ネオン [ 2003/09/15 14:14:23 ]
  扉を開けると、中はそこまで広い部屋ではなかった。小さな机と小さなベッドと小さな宝箱らしきものがあった。私室とは違う、仮眠室のような簡単なものだった。
 どうやら、ここが最後の部屋のようですね。
「よっしゃー、ほな、さっさと宝箱開けさせてもらおかー」
「むー……やっぱり、この箱の大きさじゃあ魔剣なんて入ってないよねぇ」
「まだ言ってたのかよ、それは諦めなって」
 そんなことを言いながら、ソフィさんが、宝箱に取り付いてしばし、
「おっけーや」
 立ち上がって笑顔で振り返った。
 宝箱を開けると、中には、大小二つの宝石とネックレスのようなもの、そして、この遺跡の最初の扉を開けるときにつかった”夢見の石”に似た拳ほどの大きさの石が入っていた。
「それは、もしかして、オリジナルの……アズマバルの”夢見の石”?」
 誰に問うよりも、独り言のように、ヴェルツォさんが石を手にする。
「ここでは判断しづらいけど……何か他に資料のようなものはないかしら?」
「それなら、机の上にメモみたいなのがあったよ」
 見ると、片付けられていない机の上にばらまかれたメモのような紙が数枚と本が一冊。
 ヴェルツォさんがそれらに軽く目を走らせて、
「この本は、ラプルーツではなく、アズマバルの著書みたいね」
「それって、師匠だったっけ?」
「ええ、この本は、石のことを調べるのに役に立ちそうだわ。もしかしたら、彼自身の遺跡についても調べられるかもしれない」
「じゃあ、こっちのメモは?」
「メモは、ラプルーツの日記のようなものね。彼があえて師とは違う道を歩いたこと、しかし、それもうまく研究が進まずにいる苦悩のようなことが書かれているわ」
「それでこんなヒネクれた遺跡作ったっていうのか? 迷惑な話だな」
 ところで……この本はどうします? もし、次の遺跡に関することが書いてあるかもしれないと思えば、手放すには惜しいと思いますが。
「そうだよね。でも、だったらヴェルツォさんに預けたらいいんじゃないか?」
「そうやね、うちらが持ってても調べれるもんやないし」
「その代わり、アズマバルとかの遺跡の調べがついたら、絶対に俺らを誘えよな」
「ええ。もちろんよ」

     ●

 オランに戻った僕たちは、手に入れた宝石とネックレス、そして、机の上に置いてあった当時の燭台など骨董品として値打ちのありそうなもの数点、それらを売り払って手にしたお金を分け、祝いの酒を飲んだ。
 深く眠りにつく遺跡、その眠りを覚まし、またこのオランに生還した僕たち……その宴は眠ることも忘れたように夜遅くまで続いたのだった。
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 5:01:36 ]
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