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河の調査(Aグループ)
ロビン [ 2003/12/05 1:37:34 ]
 ある川で畸形の魚が見られはじめたという怪事件。
俺達五人(ロビン、レア、バシリナ、フォルティナート、ミーナ)はその川の調査と原因排除の仕事を受け、問題の川の近くにある村で情報を収集していた。
話では昔、川の上流で魔獣をみたという村人がいるらしいが、今回のこととなにか関係があるのだろうか。


ロビン「俺は魔獣なんて見間違いだと思うけどね」

フォルティナート「そうであって欲しいですね。ああ、それともう一つ興味深いことが――」

レア「村の人から差し入れ貰ったよー。ほら、お芋がこんなに」

ロビン「でかしたッ!よし、ここいらで昼飯にしようぜー!」

フォルティナート「まあ、別に、いいんですけどね・・・」



ロビン「ということで今日の昼飯は焼き芋だーっ!」

バシリナ(嬉しそうに焼き芋の皮を剥いてる)

ミーナ「へへへ・・・・焼き芋大好き!」

レア「でも、焼き芋食べるとどうしてオナラが出るんだろうね?」

バシリナ(ビクッ)

ロビン「ミーナァ、焼き芋食い過ぎてオナラばっかりするなよー?」

ミーナ「そんなに食べないよ!バカ!」

ロビン「知ってるか?焼き芋は皮ごと食べるとオナラが出ないんだぞ!」

ミーナ「え!それって本当!?」

バシリナ(さっき剥いた皮を集めてる)

ロビン「ウーソ!今俺が考えたんだよーん。やっぱり気にしてたんだろー?」

バシリナ「ロビンさんッ!貴方という人はいつもいい加減なことをッ!もう少し真面目になってください!」

ロビン「エッ、あ、ゴメ・・・・え?なんでバシリナ・・・・?」

フォルティナート「(皮ごと食べると本当にオナラがでにくくなるんだけど面白いから黙っていよう)」
 
畸形のさかな
レア [ 2003/12/05 23:53:43 ]
 「ねえねえ、ロビンさん」
 お芋を食べ終わって、後かたづけをしているロビンさんの袖を引っ張ってみた。
「なんだちんちくりん」
「そんな芋の話なんかどうでもいいから、ちょっと聞いて欲しいことがあるのよね」
「いや、元々その話はお前がはじめ……」
「気になる事って、なんですか?」
 ロビンさんを押しのけて、バシリナさんが勢い込んで訪ねてきた。お芋の話の時と言い、この人はいつでも真面目でおもしろいのよね。
「さっき、お芋をもらいに行った時にね、川で変な魚見たって聞いたんだけどね」
「ええ、そうですね。何でも畸形の魚が見つかったとか…」
「でも、ほんとに畸形なのかなぁ」
「……は?」
 ミーナさんがきょとん、と首を傾げる。この人も、いつでも可愛い。ついでにリアクションもおもしろい。
「たとえばさぁ、この村の人にとっては見慣れない魚だから、畸形だと思いこんだのかもしれないわけなのよね」
「なるほど。ここには元々生息していなかった魚かもしれない、と言うわけですね」
 さすがフォルティナートさん。ぶら下げてるものは伊達じゃないのよね。

「まぁ、現物を見てみない限りは、どちらだとも断定しがたいのですが」
「じゃあ、村人にどんなお魚だったか聞いてみるのが一番いいんじゃないかな。今の時点では『畸形の魚』としか聞いてないんでしょ?」
 ミーナさん、偉い。


 数十分後。
「……ちんちくりん」
「何なのよう」
「尾鰭が4つある魚って聞いたことがあるか」
「目が八つあるお魚なら知ってるの。でも、それはさすがに知らなかったのよね」
「目が三つ、と言う魚もいたようですね。いくら何でも目が奇数なのは変です」
「あと、全然関係ない話かもしれないけど、川の水を飲むと体調がおかしくなるって言い出した村人もいたよね」
「気のせいか、はたまた川のせいなのか……」
 ミーナさんとフォルティナートさんが首を傾げてる。バシリナさんも困ったような顔。
 村のみんなが、畸形がひどくなったって言ってる。昔もいなかったわけではないけれど、いくら何でも数が多すぎる、って。


「川に着きましたよ」
 考え事に夢中になっていた(他に何もすることがないと言う意味でもあるけどね)ら、バシリナさんが振り返って言った。ロビンさんが伸びをする。
「うーん、いい景色だなぁ」
 穏やかな景色、って物語では言うんだろうなぁ。そんな景色が、一面に広がっている。
「うん、川も澄んでいて……って、いくらきれいな川でも、こんな速い流れじゃ魚なんていちいち見えませんよ」
 川面をのぞき込みながら、フォルティナートさんが言う。
「釣りでもしてみる?」
「よし、ちんちくりん。お前が餌で」
 どばしゃぁん。

 三回目の「ちんちくりん」発言をしたリーダー(暫定)は、派手な水しぶきを上げて川にダイブした。
 …………こんなに簡単に足払いが決まるなんて(悩)。

「……この川、変だね。なんか………川の規模と水の精霊力が、うまく釣り合ってないみたいな……」
 というミーナさんの冷静な言葉を残して。
 
悪しき水
バシリナ [ 2003/12/06 20:46:39 ]
 「どういう意味ですか、ミーナさん」
「巧く言えないけど、これだけ大きな川なら、ウンディーネの力がもっと強いはずなんだよ」
「水はこれだけあるのに、ウンディーネの数が足りない…そう言うことですか?」
「うーん、そういう風に思ってくれたらいいかな」
「ふむ」
 フォルティナートさんは河辺に屈み込むと、川の中に手を差し入れた。冬の陽射しを受け、川面は綺羅を巻いたように美しい。
 暫く水の中に手を浸していたフォルティナートさんは徐に口を開いた。
「地水火風は何れも精霊力を得て、初めて機能する力だそうですね。合っていますか」
「えーっと、それでいいんじゃないかな」
「精霊なくして、火と風は具現化しない。これは判り易い。これが土、水となると少々込み入ってきますね」
 曰く、土や水のように形を持っているものは、そこから精霊がいなくなるようなことがあっても消えることはなく、その場に残る。但し、急速に本来の性質を失い、悪しきものへと変じていくらしい。
「悪しき土は作物を育てず、また不死者を生み出す温床となります。悪しき水も同様、飲めば人の体を害します」
「ほうほう、言いたいことがわかったのよ」
 レアさんが手を打った。
「つまり、この川の水は今、すごく悪くなっていってるのね。腐ってるみたいな感じ」
「えーっ」
「そう表現すると大変わかりやすいですね」
 ミーナさんが顔をしかめ、フォルティナートさんは涼しげに頷いた。
「例えば毒薬は毒物を水で溶いたものですが、これにもウンディーネは存在しない。それと同じことです」
「じゃあ、この河にも誰かが毒を撒いてるってこと?」
「一つの推測としては、有力でしょうね…これだけ広い河を汚染させるほどの猛毒があるならば、ですが」
「つまりだ!」
「うわっ、びっくりした」
 いつの間に戻ってきていたのか、頭から水を滴らせてロビンさんが立っていた。
「俺はその毒混じりかも知れん水をたらふく飲んじまったわけだよ!なんてこった!」
「ご愁傷様なのよね」
「お前が言うんじゃねえ!」
 ロビンさんとレアさんが追いかけっこを始めるのを尻目に、フォルティナートさんは上流を見据えて呟いた。
「上ってみますか…、水源を確かめるのが手っ取り早い」

「はーっくしょい!」
「うわー、ばっちいのね」
 
烏の餌
フォルティナート [ 2003/12/07 18:44:40 ]
 「なぁ、さっきからビミョーに腹が痛い気がすんだけど…………」
 全員がその声の主を見る。ロビンさんだ。まさか先ほど川の水をたらふく飲んだせいで………?
「お昼の焼芋食べ過ぎたせいじゃないの?」
「な、何言ってる!俺よりもちんちく………レアの方が沢山食べてた…っ!もう限界だ」
 そう言うとロビンさんは茂みの中に消えて行った。


「病は気からと良く言います。そのせいじゃないでしょうか。ロビンさんもそうですが村の人の中で体調が悪いと言い出した人なども」
「それ分かる気するなー。あたしだってあんな魚が居る川の水を飲んだら気分悪くなりそうだもん。ウンディーネの力もおかしいしさ」
「うーん、それを考えるとちょっと軽率な事したかもなー」
「大丈夫だよ。絶対食べすぎだから」
「ひょっとしたらお腹が痛いと言うのも焼芋の皮と一緒で嘘なのでは?」
「あれは、何でしょうか………?」
 女性三人の話が川の事から脱線し始めた時に僕は川上を見ながら問う様に呟いた。


 其処には何羽もの烏に啄ばまれた死体があった。先程見たのはその周りに集っていた烏の群だったのだ。追い払いはしたが僕等の周りを取り囲むように木にとまったり空を旋回してはいるが。

「これは惨いですね………」
 印を結びながらバシリナさんが呟く。その死体は季節がら未だ腐敗は進んでいなかったが烏の餌と化していたせいでボロボロになっていた。
「とりあえず埋めましょう」
「まてまて、未だ埋めちゃ駄目だ」
 遅れてやってきたロビンさんがズボンのベルトを締めながら言う。何故かと問う僕に、
「その死体調べるんだよ。今回の事件に関係あるかもしれねーだろ。人道に反するとか言ってらんねーぜ。俺たちゃ冒険者なんだからよ」
 人差し指を左右に振りながらそう答える。
「関係あると思うのよね。この人、川上から来たみたいだし」
 レアさんは既に周りを調べていたようだった。

「どうやら調べた方が良さそうですね」
「その後に埋葬しましょう」
「じゃあ、あれだけカッコつけて言ったロビンさんよろしくね」
「ん?………………あイタタタタ、また腹が痛くなってきた」
 
道標
ミーナ [ 2003/12/09 4:05:32 ]
 死者を葬った墓にバシリナさんが祈りを捧げている。
あたしたちもバシリナさんの後ろに並んで死者の冥福を祈る。

・・
・・・
・・・・

「・・・ところで、おめでとうございます、ロビンさん」
「なんで?」
「川の水のせいで死んだわけではなかったようですから」
「当たり前だ!」
「でも、川の水が平気って決まったわけでもないのよね」
「うるさいぞ、このちんちくり・・・」
「騒がしいですよ、ロビンさん! まだお祈りの途中です」
「え、なんで俺だけ・・・?」
ロビンさんだけしぶしぶ、他の二人は少し楽しそうな顔で、祈りを続ける。
あたしも祈りを続ける。

・・・でも、大丈夫だと思うけどなあ。
そりゃあ、水の精霊力は変だったけど魚たちは生きてるんだし。
あの変な魚たちにしたって、精霊の異常で生き物がああなるなんて聞いたことないもん。

ん? じゃあ、あの魚の畸形は川の水とは関係ないってこと?

・・
・・・
・・・・

「それでは行きましょうか」
バシリナさんが立ち上がる。
「あたしに任せるのね。こういうのは得意だから」
レアさんはさっそく前に立つ。
死んだ人が残してくれた道標。あたしたちは今からそれを辿って・・・
「待った!」
え、何? どうしたの!? ロビンさん!
「この先は隊列を組んで行く必要があるでしょう」
フォルティナートさんの言葉にロビンさんは大きく頷く。
「全員、武器の用意だ!」

雰囲気が変わったのを感じて、あたしは息を呑んだ。
そうだ。これから辿る道標は死んだ人がここまで残してきた血の跡なんだ。
 
実験結果
ベアトリス★ [ 2003/12/10 1:15:43 ]
 (PL注:名前末尾の★は、敵チームの目印です)

<川の上流。川岸から森を分け入った先にある、とある遺跡内部>

「……ふぅ」
読みふけっていた文献から目をあげて、私は自分の肩を軽く揉みほぐした。
時を経た机と椅子、そして幾つもの書架。
魔法の灯りで照らされた室内には、私のような魔術師であれば、何年ここに籠もっていても退屈しないだろうと思えるだけの資料がある。
もちろん、資料だけではない。

先にこの遺跡に目をつけていた貧乏冒険者どもを始末して、私たちが得た物は、古代の宝。
あのイヤミな神官は、別のことに価値を見出しているようだけれど。
でも、私としては、ここにある薬と、そのレシピ。そして、その薬を使った『結果』に心惹かれる。
『結果』は隣の部屋に保存されていた。使用可能な状態で。

イヤミな神官男が、時折その部屋で、祈りの文句と共に、うっとりとその『結果』に見惚れている。
私も時々はその部屋で、それらを観察することはあるけれど、あの男のような鬱陶しい視線は送らない。
私のは純粋に知的好奇心のため。そして……まぁ、幾らかはお金のため。


「お嬢、休憩かい? 茶でも持ってこようか」
かけられた声には振り向かずに、椅子に座ったまま、軽く伸びをする。
言わなくても、この男は茶を持ってくるだろう。私のために。
知識より色気、という下品な男ではあるけれど、とりあえず私の言うことにはおとなしく従う男だ。
出された茶に礼も言わずに手を伸ばすと、その手を握られた。
なるほど、素早い動きは得意だと豪語するだけはある。
「へへっ、お嬢。礼くらい言ってくれてもいいんじゃねえの?」

お嬢、という呼び方も。この男の下卑た視線も。ローブの胸元に注がれる、舐めるような視線も。
何もかも気に入らない。けれど、とりあえずは必要な男。
手を振り払って、尋ねてみる。
この男がこうやって、『おねだり』をする時には、それと引き替えられる情報が彼の手元にあるということ。
「……で? 何なの? 内容によるわ」
「相変わらず冷たいお人だねぇ。ま、もったいぶる気はないよ。実ぁ……」

川の、ここよりも少しばかり下流に冒険者と思わしき連中がうろついている、と報告された。
川の異常を調べに来たのかも知れない、と。
手近な村に情報収集に行った際にそれを見かけたらしい。

……全く。そういうことはあの男に任せてあるじゃない。あの男に対処させなさいな。

メッティムという名の、傭兵。
目つきが気に入らない。目の前の盗賊とは違って、頭は悪くないだろう。……だから余計に気に入らない。
何かを企んでいるような、底の知れない瞳。
この遺跡に入る時に、先行してた冒険者たちを斬り殺した時も、表情ひとつ変えなかった。
私の実験や、保存されている『結果』に注ぐ目も、人を殺す時と同じ。
それなら、とメッティムに報告へ向かう盗賊の背中を見ながら、私は鼻を鳴らした。
……ふん。
 
黒い影
ロビン [ 2003/12/11 0:55:28 ]
 隊列を組んで進む俺達。辿るはあの死体が残した跡だ。
「あの死体に残されてた傷、まるで尖ったもので抉られたような傷ばかりだったのよね。例えば爪や牙とかでやられたような」
「話に聞いてた魔獣の仕業でしょうか」
フォルティナートの言葉にみなが緊張した面持ちになる。
解らない。でも、あの死体の服装や持ち物は間違いなく村人のものじゃない。まるで冒険者のそれだ。
こいつはパンツの紐を締めてかからないとな。

急に先頭をとっていたレアが立ち止まる。
跡はほぼ河に沿っていたが、ここに来て途絶えてしまったのだ。
「河を、渡ってきたのかな」
「結構川幅がありますね。それに深そうだ」
「ここはあたしじゃ無理なのね。ロビンさん、ロープを持って先に渡って」
「了解した。ちんちくりんはあとで抱っこして渡るとして。どうするミーナ?お前も抱っこいる?うがっ!?」
「バカ!早く渡っちゃえ!」

なんとか渡りきり、皆もそれに続く。
そこで俺は違和感に気づいた。渡りきった対岸に血の跡がない。これは、ちょっと、まずくねー?
皆に警戒を呼びかけようと振り向いたとき、俺は見た。殿を務めて河を渡るバシリナに近づく黒い影を。
次の瞬間、バシリナが河に引き込まれた!それと同時に俺も河に飛び込む。
バシリナ待ってろよ!俺が、俺が、今人工呼吸をしてやるからな!
 
怪魚の悲鳴
魚★ [ 2003/12/12 1:35:17 ]
 泳ぐ。
川を下る。
女が見えた。言われた場所に。
藻に隠れる。
疼く。疼いた。3つの尾鰭と1つの人耳。
震える。近寄る。
気付かれない。
喰らいつく。歓喜のままに。
芽吹く前に。
芽吹く前に。

二つの口で二つの脚の太股に食らいつく。
人の口はあまり食い込まない。魚の口は良く食い込む。
横から男が飛び込んでくる。
飛び込みざまに剣を叩きつけてきた。
人の口が外れる。
「ファリスよ!」
女の両手から目に見えない力が飛ぶ。
魚の口もはずれ、そして人の口から豚の様な悲鳴が上がった。
 
追跡
バシリナ [ 2003/12/16 0:31:27 ]
  それは力を失い、河に押し流されて下流に消えた。
 敵ながら鮮やかな急襲だった。まだ五分と経っていない。
 不意に、太股に痛みが走った。先ほど受けた噛み傷だ。
「またずぶ濡れになっちまったぜ…畜生め」
 ロビンさんが忌々しげに舌打ちした。
「よし、今のうちに向こう岸まで行こう。足は動くか」
 ロビンさんが差し伸べた手を掴み、黙って頷いた。
 今は焚き火とブランデーが必要だ。

 対岸の傍にある雑木林の中で、私たちは先の化生について話し合った。
 流れを物ともせずに水を切り、遡ってきた。
 だが、噂に伝え聞く水棲の民とは全く異質な存在だった。
「思い出すだけでも気持ちが悪いよね」
「流石にあれは食べられそうにないのよう」
「フォルティナート、あれはどう言うものかわかるか?」
「なんとも…僕が知る限り、あんな生き物に言及した資料は見たことがありません」
 確かなのは、今回の事件の核心に関わるものだ。
 川魚に異変をもたらした何かが存在する。あの化生もまた、魚と発端を同じくするものなのだろう。
 だが、あれは元が魚であったものが変化したものなのか。
 それとも…元は人であったのか。
 そのことについては誰も、一言も触れなかった。
 二時間後、私たちはさらに奥地へ向かうことにした。

 獣道を縫うようにして奥へ進む私たちは、昔、野伏や狩人が利用していたと思しき森の中の広場に出た。
 そこには、真新しい数多くの足跡があった。
「何人分かわかるか?」
「えーっと…これはかなり多いわ。十人くらいはいる」
「そんなに大勢ですか」
「足跡が入り乱れてる…これはきっと、ここで大勢が争ったのよね」

「レアさん!この足跡、なんだか変だよ!」
 ミーナさんの驚いた声。
「こ、こいつは…」
「人の足跡…でしょうか?」
 仁王立ちのように、地面を踏み締めていたその足跡は、右足は確かに普通の人間のものだった。
 だが、左足は。
 こんなに大きな水かきのついた足があるだろうか?
 それも、常人より一回りは大きい。
 何より。
「七本指…か」
「いえ、八本でしょう。二本…この、中指にあたる部分は四本あります。そのうち二本がくっついているんですよ」
「どの道、不吉な数字には変わりないぜ…五本で充分なんだ。神はこんな悪戯はしねぇ」 

 その時、茂みの一角――私に近いところで音が立った。
 
水弓矢
フォルティナート [ 2003/12/16 5:40:08 ]
 「危ないのね!!」

 レアさんが叫びながらバシリアさんに飛び掛り共に倒れこむ。直後二人の上を何かがバシュウと言う音と共に走った。その何かは木に当たり木をえぐる。凄まじい威力。
 バシュウ、バシュウと続けざまにそれが二本目、三本目と走る。まるで“電光”の魔法だ。
 それを避けるために全員がその場に伏せる。

 木をえぐったそれは水のように見えた。僕はふと思い出した。魚の中に水を弓矢のように口から吐き出し餌を撃ち捕らえると言うものが居る事を。

「このままじゃラチが明かねぇぜ!!」

 そう叫ぶとロビンさんが茂みに飛び込もうとする。今度は先程のように何をすべきか考えて動かない訳には行かない。唱えるべき呪文は“防護”だ。



 ミーナさんの“火弾”を喰らいどう、とその化け物が倒れる。それも基本は魚だった。だが地上でも活動できるよう鰭が人間の足の様になっていた。それだけでは無い。目が二対あり、口は二つ。この口から水を弓矢のように撃ち出していた。
 これも僕の知っている限りでは聞いたことの無い生物だ。バシリナさんも聞いたことが無いといい、レアさんも知っている魚には居ないと言う。
 恐らく自然には生存していないのだろう。そうだとすると創成魔術で造り出された物、或いは異界から召喚された物だという事か。下流で見つかった奇形の魚は前者ならば失敗作、後者なら召喚が中途半端に成功した物なのだと考えられる。
 その考えを口にする。

「どちらだとしてもファリスの名の下に倒さなければなりません」
「ちっ。面倒な事になってきたな。もっと楽な仕事だと思ってたのによー」
「ねえ、あたし達を狙ってきたのかな?さっきのも。そうだとしたら上流に来て欲しくないって事だよね」
「そうなのね。上流に何かあるって言ってるようなもんなのね」
「こうなるとさらに慎重に慎重を重ねて進まなければなりませんね」

 と、レアさんが目配せをしてくる。そして目線を茂みにやると懐からダガーを取り出す。ロビンさんがそれをみてニヤリと笑い同じく懐からハンドアックスを取り出した。
 二人が同時に武器を茂みに投げつける。直後、舌打ちと同時に茂みから走り出す音が聞こえた。

「逃がさないのね」
「ミーナ、遅れるなよ!」
「分かってるよ!!」

 僕等はそいつを追い始めた。
 
一刀
ゲイリー★ [ 2003/12/17 22:43:20 ]
 っち。感のいいおちびちゃんがいる。天性の才にはかなわないよ。
だけど猪突猛進はよくない。よくないんだよ。
誰を追っているのかわからなくなるからね。
さぁ、間違えるなよ。君達はメッティムの旦那を追って行くんだ。
俺はそろそろ引き上げさせてもらうから。

おっと、その前に、旦那から貰うはずのご褒美を選ばなくちゃ。
野郎達は論外。
おちびちゃん。・・・っは!
となると、残りは二人。
女神官はそそるが、いやな魔法を使う。呪文らしいものを必要としないアレは厄介だ。
気の強そうなあのコにしよう。ミーナ? 可愛い名前だねぇ。囁くのにぴったりだ。イきそうになるアノ瞬間になぁっ!


「うわぁぁっ!」
「ミーナさん!?」
「へ? ミーナ?」

追跡ご苦労。
君達、動くんじゃないよ。可愛いミーナちゃんの顔に傷なんかつけたくないからね。

「てめぇ・・・いつの間に」

おい、動くなよ。

「ミーナを離せ! ぶっとばすぞテm」

動くなって言ってんだっ! 何度も言わせんじゃねぇ!!
・・・ああ、ごめんよ。手が滑っちまったんだ。痛かったかい? 痛かったよなぁ。あの短絡野郎が言うことを聞かないものだから。後でちゃんと手当てはしてあげるからね。へへ。

さ、後は頼んだぜ、旦那。
あんたの好きなようにやりなよ。
俺かい?
ここにいたって手助けはできないな。
だって、目を離したら、ミーナちゃんが逃げちゃうだろう?
くくく。
 
一週
メッティム★ [ 2003/12/18 23:58:19 ]
 ゲイリーが人質を連れて、茂みの中へと消え去るまでどれくらいの時間がかかっただろうのか。
私と4人の冒険者達は膠着状態であった。

手を出さねば、仲間は連れ去られる。だが、手を出せば仲間の命はない。その二つの考えの間で揺れているのが、はっきりと顔に出ている。

「さて、私が何故故ここに残ったかは言わずもがな・・・だな。」
「へっ。分かってるぜ。俺にここで伸されて、その後はアジトまで案内してくれるんだろ?」

そう言って、青年は剣を構えた。ロビンと言ったか一度か二度、オランの酒場で見かけた事がある。その時、鉄の弟子という話と聞き、非常に興味を覚え、いずれは・・・と思い。心が躍った。

・・・だが、今私の心にあるのは落胆だけだ。仲間を攫われたという焦りからかその構えは隙だらけだ。
このように不抜けた彼奴と剣を交えても心は躍らない。ただ、いつものように斬って捨てる。それだけだ。

そう・・・ならば、ここは制止を分かつような戦いをすべきではない。
彼奴の剣に迷いが無くなるまで、お預けとすべきだな。ここで逃がしたところで仲間を連れ戻すまで引こうとはしまい。計画にも支障は無かろう。問題はもう一人の同行者が納得するかだが・・・。
いや、気にすまい。私は、彼奴と剣を交えたい。その為なら何だってする。

そう、覚悟決めると彼奴に向かい冷笑を浴びせた。そして・・・直ぐに襲いかかる斬撃・・・。

数瞬後。

「雑な剣だ。コレではゴブリンにすら辺りもしないぞ。」
彼奴の剣は、大地へと突き刺さり。私の剣は彼奴の喉元でぴたりと止まっている。
周りで見ていた者はおろか、本人すらどうしてこうなったかは朧気にしか分かっていないだろう。
自分に向けられた剣に目をやり、呆然としている。

「メッティムー。ちょっと遊びすぎじゃないかナー。」
樹上から響く、舌っ足らずな女の声・・・。そうだ、こいつの事を忘れていた。
「少しぐらい遊んでも良かろう。計画はすでに8割方進んでいる。彼奴らが逃げ帰ったところで支障はあるまい。」
「うん。ボクもそう思うんだけどサー。ホラ、ボクも遊びたいんだよね。混ぜてヨ。」
そう言ったかと思うと、ふわりと声の主は地上へと降り立った。
華奢な身体。とがった耳。そして漆黒の肌。ダークエルフだ。
「ホラ。そこにファリスの下僕いるジャン。見たからにはやっとかないとサー。」
そう言うと人まりを邪気のない笑顔を見せる。この音は人を殺す事に何の感情を持たない。そう。魚をさばくのと同じぐらいに。
「でも。まあ、メッティムの遊びに乗っても良いかなーなんてボクも思ってるんダ。」
まるで目の前に4人の冒険者など居ないかのような足取りで、私へ近づくとにまぁっと笑った。
「だって、イッつもムスーっとしてるメッティムがこんなに楽しそうなんだモン♪」
そう言うと用件は終わりだとばかりに私の後ろに下がった。

「と言うわけだ。」
そう言って、全員の目を一人一人見ながら私はこう言った。

「私の目的の為に今なら・・・一度だけ見逃す。さてどうする?」
 
話し合い
フォルティナート [ 2003/12/19 17:58:57 ]
  パチパチと木の爆ぜる音。焚火の炎を見つめ額に杖をあて次にすべき事を考えていた。

 結局僕等はメッティムと言う戦士と闇妖精から逃げたのだ。いや、正確には逃がしてもらったという事になる。
 逃げ出してからロビンさんとバシリナさんは一言も発していない。二人とも逃げる事を最後まで反対していた。レアさんの「ミーナさんのためなのね」と言う言葉がなければ逃げなかったかもしれない。
 ロビンさんはメッティムと言う戦士に一瞬で敗れた事、バシリナさんは闇妖精に見逃された事。この事が許せないのだと思う。いや、どちらも違うかもしれない。仲間が攫われて行くのをただ見ていただけなのだから。

「終わったのねー」
 周囲に簡単な罠を仕掛け終えたレアさんが戻ってきた。

 レアさんが焚火の傍に座るのを待ち僕は言った。
「これから如何しますか?僕はオランに一度帰った方が良いと思います。明らかに敵の力量が勝っている。一人か二人なら如何にかなるかもしれませんが確認できているだけでもメッティムと言う戦士、ミーナさんを連れ去った男、闇妖精の三人。そしてこれは推測になりますがあの魚を造ったか召喚した魔術師がいるはずです。僕の手には負えません。ですから…………」
「ざけんな!!ココで尻尾巻いて逃げろってか?アイツを伸すまでは帰れねぇよ」
「そうです!ミーナさんを見捨てて帰る訳には行きません」
 ロビンさんもバシリナさんも立ち上がり僕に詰め寄る。
「やっと二人とも口を利いたのね」
 レアさんが満面の笑みで言う。その顔を見た二人はキョトンとした顔をする。
「勿論、帰ると言ったのは嘘ですよ。でも敵の事は嘘では無いですから。ですからこれから如何するのか話し合いましょう」

 ロビンさんにこの仕事に誘われてからこの河の事を調べた。特に上流のあたりに関しての資料を調べた。その時とある貴族の喰い道楽のような日記を見つけた。
 この辺りの領主に鹿狩りに誘われその際に遺跡を見つけたと言う。そして食事をしながらその遺跡の事について話をするのだ。
 話の中に興味深い物があった。その遺跡には抜け道が存在しており、“拳岩”と呼ばれる――握った拳のような形をしているためそう呼ばれる――大きな岩の近くに出口があるとの事だった。
 その話の他はどれだけの財宝があるとか魔獣が大量に飼われているだとか想像の話しばかりだったが。
 初めは良くある伝説のような話だと思っていた。だが村で話を聞いた際に実際に“拳岩”が在るという事、その岩を探しに来た賢者が居た事、死体が持っていたこの周辺の物だと思われる地図。あの冒険者は遺跡を探しに来たのだろう。或いは遺跡の探索か。そしてあの魚を造りだすか召喚する事が出来る場所。
 在る筈だ。日記に書いてあった遺跡と抜け道が。
 僕はその事を皆に話す。

「しかし、その遺跡を根城にしてると言う確証はありません。それに抜け道が在るかどうかも怪しいです」
「でも、正面から乗り込むのは無理だと思うのね。あたしは“拳岩”を探すのに賛成なのね」
「悪モンは昔からそう言う所をアジトにするって相場が決まってんだ。遺跡にいるのは間違いねぇ」
「そう言う意味の分からない事で決めてしまうのもどうかと思いますが………あ、それと未だ言っていませんでしたがレアさんと僕でしたことも話しておきます」

 僕等の誰かが生き残りオランに帰れる保証は無い。だから僕等の現状を書いた物を酒瓶に詰め河に幾つか流した。万一の場合は僕等に代わりこの事態を収めてくれるよう記した。多少はオーバーに書いたが動いてくれる人は多い方が良い。

 その後話をしたが中々結論は出なかった。抜け道が在ったとしても既に敵に発見されていれば逆に追い詰められてしまう事も考えられると言う意見も出たりもした。

『からからからから…………』

 その話の真っ最中だった。レアさんの仕掛けた鳴子が鳴ったのは。
 
イケニエ?
ミーナ [ 2003/12/22 3:33:33 ]
 あたしが自分をどうするつもりか訊ねたら、
あたしを連れてきた男の人は声を立てて笑った。

「ミーナちゃんは何も心配しなくていいんだよ。
 アレを神様だなんて思ってるのはさっきの陰険野郎だけさ」

ちゃん付けで呼ばれるたびにあたしは全身に寒気を感じる。
だけど、下手に抵抗しても怪我が増えるだけなのは、
途中で試した”デストラクション”で分かった。

あたしじゃこの男の人からは逃げられない。

「アレは神様でも何でもない、大昔の魔術師が創った怪物さ。
 魚を見ただろう?
 あんなぐあいに”混ぜた”んだ。
 もっとも、あれじゃ元が何だったかなんて分かりゃしないがな」

合成獣・・・キマイラの話だったら、あたしも聞いたことがある。
古代王国期の魔術師がいろんな動物を合成して創った、複数の動物の特徴を併せ持った怪物。

だけど・・・アレにはどんな動物の特徴も無かった。
ただあそこには、たくさんの生命の精霊たちが・・・悲鳴を上げてたんだ!

「生け贄が要るなら、あの陰険野郎が真っ先に生け贄になればいいんだ。
 さっさと死ねっていうのがあの野郎の神様の教えらしいからな」

男はまた笑った。
あたしは、怯えを出さないよう気を張るだけで精一杯だった。
 
会戦
バシリナ [ 2003/12/23 20:07:11 ]
  日没が近い。山中の景色は、駆け足の勢いで薄暮に溶け込んでいる。
 私は目を凝らし、廃墟を見下ろす。
 そこに、此度の事件の首魁が揃っているのだ。

 私たちは尾根の中腹に陣取り、下方の廃墟を見張っている。
 ホッパーさんの案内は的確だった。険しい山肌の特徴を読み取り、山中の行軍に不慣れな私たちを一人も落伍させることなく、ここまで導いてくれたのだ。アルファーンズさんの一行では最年少と聞いているが、明晰な頭脳を備えている。そして、強敵を間近に感じながらも、怯惰の気配を微塵も見せない胆力は素晴らしい。今も、私たちより若干、廃墟に近い地点にアレンさんと共に潜み、監視を続けている。先行したラディルさんを除けば、狩人である彼が、最も夜目が利く。
 隣では、アルファーンズさんが手槍を抱え込み、じっと廃墟を見据えている。配置についてからは、彼は一度も口を開いていない。表情には疲労が窺えるものの、目付きの鋭さは些かも衰えていない。時折、柄の具合を確かめるように槍を構え直す。私よりも小柄なその体から、強い闘志が溢れ出ている。
 私たちのすぐ後ろではルベルトさんが杖を握り締め、瞑想を続けている。心身両面において、彼の疲労が最も大きい。独特の呼吸を繰り返し、魔力の充実に努めているようだ。

 日が沈んだ。辺り一帯は完全な闇に沈んだ。
 アルファーンズさんが傍らのランタンのシャッターを僅かに開いて、油の残り具合を確認すると、低く囁いた。
「前進だ」
 私たちは這うように、慎重に尾根を下り始めた。前方の二人と合流し、さらに進む。
 暗闇が不利なのは先方も同様だ。ダークエルフは例外だが、どうやら廃墟の中で他の者たちと共にいるらしく、姿を見せない。ならば、間合を詰めておくに限る。

 その時、廃墟の向こう側から羽音が立った。私たちは凍りついたように動きを止めた。誰かが唾を飲み下した。
「大丈夫…ただの鳥です…梟ですよ」
 ホッパーさんの声に安堵しかけた私たちは、だが即座に、ルベルトさんの言葉に、今度こそ本当に凍りついた。
「いかん…それは敵方の魔術師の手の者…使い魔だ!梟は夜目が利く…恐らく、見つかった!」
 ホッパーさんが咄嗟に矢をつがえ、梟に狙いをつけた。弓を引き絞ろうとした刹那、
「かくれんぼしてるの、見ぃつけた」
 あの、嘲うかのような口調。それも、私のすぐ傍で。
 自分の顔面が、紅潮するのがわかった。腰間に手が伸びる。
 抜き打ちの一閃は、虚しく空を切っていた。そこには誰もいない。
 呆けた私の横面を、石つぶてが殴打した。あまりの衝撃に打ち倒される。
「こんな手に引っ掛かるなんて」
 耳元に響く含み笑い。しかし、そのあからさまな足音は前方…廃墟の中へ駆けこんで行く。
「…突撃だ!」
 いち早く起き上がったアルファーンズさんが声を振り絞った。手槍と楯を翳し、駆け出していく。アレンさんが続く。
 こめかみに手を当てると、ぬめる血の感触。傷は浅くはないが、視覚は損なわれていない。
 ファリスの御名を呟き、私も立ち上がり、走り出す。
 ホッパーさんとルベルトさんは遅れているが、待ってはいられない。

 飛び込んだ先は、広間だった。
 魚人が二匹、それぞれ腹や喉を切られ、或いは貫かれ、息絶えている。
 広間から奥へと廊下が続き、そこで二人がもつれ合うように倒れていた。
「鉄線を張っていやがった…どこまでも周到な奴だぜ!」
 アルファーンズさんが毒づいて奥を睨む。すぐ向こうも、また部屋だ。
 気配が、ある。
「ダークエルフじゃないな」
 だとすれば、ミーナさんを攫った、あの男だろう。下卑た表情が脳裏に浮かんだ。
「俺たちは進むしかない。このままじゃロビンたちが危ないからな」
 アルファーンズさんは手槍を置き、小剣を抜いた。
「一、二の三で俺が踊りこむ。一拍置いてアレン、バシリナだ。押し包んで奴を斬る」
 一瞬の目配せ。
「一」
 剣を持つ手に力を込め、
「二の」
 全身にばねを溜め、
「三!」
 アルファーンズさんが部屋の中に飛び込んだ。同時に鋭い手裏剣打ちの音と、それが打ち落とされる金属音。
 アレンさんが続いた。アルファーンズさんが叫ぶ。剣戟の響き。
 そして私。

 果たして、そこに男はいた。両手に剣を構え、隙のない動き。
 アレンさんがさらに奥へ続く通路の前に立ち、男の退路を塞いでいた。
 私の姿を見るなり、アルファーンズさんが男へ突き込みをかけた。
 男が右に体を開いて躱す。
 その首筋目掛けて、私は剣を振るった。
 
迎撃
ベアトリス★ [ 2003/12/24 0:08:17 ]
  ……風を裂くものよ。水に染みるものよ。炎の力もて、大地を目指すものよ。
<> 光の輝きをもて、闇を打ち砕かん。マナよ放て、大いなる霹靂を!!

<>
<>ファリス神官の剣がゲイリーの首筋に届く前に、私の詠唱が終わる。
<>目の前にかざした、短い棒杖からほとばしる雷光がファリス神官を貫き、その後ろにいた戦士も巻き込んでいく。
<>金髪の小柄な少年はその射線上にはいなかった。……あら、残念。
<>睨みつける少年に向けて、私は微笑んだ。
<>
<>
<>──あら、なぁに? そんなに驚いた顔をして。
<>わかっていたことじゃない。貴方達は、私たちの本拠地に乗り込んできた。
<>私たちが居て、何の不都合が?(くすくす)
<>
<>「わ……かってるわ! それでも……負ける、わけには……いかない!」
<>
<>立ち上がる女神官。……あら、よく見ると綺麗な顔しているじゃない。
<>そうね、貴女を裸にして、その白い肌に銀色の鎖が食い込む様はとても美しいかもしれない。
<>そして私は、苦痛に歪む貴女の顔を見ながら、柔肌に一筋ずつ真紅の線を描いていくの。
<>今は立っているのもやっとのようだけれど。大丈夫。癒してもらいましょう、あの闇の娘に。
<>光の神の神官が、闇の娘に癒されるのよ、素敵でしょう?
<>それともミルリーフ司祭に癒してもらう? 貴女に選択させてあげる。
<>
<>「てめぇら……やっぱり、さっきの梟はてめぇの使い魔か!?」
<>
<>金髪の少年が叫ぶ。その手には槍。
<>梟? ……あら、ゲイリーのペットがどうかして?(笑)
<>
<>そう。確かに私は使い魔から情報を得ていた。だから、彼ら二組の冒険者たちが合流したことも知っていたし、二手に分かれてこちらを襲うと同時に人質の奪還まで企んだ事も知っている。
<>だって、一度は手元まで迷い込んできた冒険者たちですもの。使い魔に行方を追わせるのは当然のことでしょう?
<>馬鹿よね、貴方たち。『いるはずのない場所にいるモノ』を甘く見ていたなんて。
<>陽当たりの良い水場にしかいないモノが、地下に居たのは何故?
<>あの魔法で、“それ”が傷ひとつ負ってなかったのは何故?
<>あの爆煙の中から逃げ出す時に何を見たの?
<>暢気に釣りをしている時に何を見たの?
<>
<>私の使い魔、ララッカはとても可愛らしい、蛙よ。彼女の視界は私にとっては少し慣れないものだけれど……でも、水場にアレがいても、誰1人警戒しない。見ていたわ、貴方達を。
<>そして今も見ているわ。貴方達の仲間が、人質奪還に来ているところをね。
<>
<>ねぇ。抜け道があったなんて、私も知らなかったわ。貴方達、意外と物知りなのねぇ?
<>でもね。……だから何?
<>どこを通ってこようが、辿り着くのはここでしょう? だから、私たちはここで待ってた。
<>通る道に意味なんかないわ。目指す場所が同じなら。
<>私たちを狙う貴方達を出迎えるのに、ここで待ったように。
<>メッティムは、人質奪還を企んでる彼らを、人質の傍で待っている。
<>
<>……それにしても。
<>重ねて言うけれど、馬鹿よね、貴方達。ただでさえ劣っている戦力を、どうしてそれ以上分散させようとするの?
<>二手に分かれたことで、貴方達の戦力は絶望的なくらい劣ってる。……気付かない?
<>半分対全部。……全部の勝ちよね? 勝ってから、残り半分を迎えにいっても、何の不都合もないの。単純な計算だわ。
<>
<>「うわぁぁっっ!!」
<>
<>あら。広間のほうから……若い男の子の声ね。サリサったらせっかちなんだから。
<>……どうしたの、また驚いた顔をして。私たちが、貴方達と同じように、戦力を分散させて待ちかまえるとでも思ったの?
<>人質を守っているのは1人だけよ。……ええ、少なくとも人間は1人だけ。
<>残念ね。精霊使いがいれば気付いたかもしれなかったわね。広間に1人隠れていることに。
<>
<>さぁ、ゲイリー。いつまでそんなちゃちな短剣使ってるつもり?
<>
<>万物の根源、万能なる力、マナよ。もたらせ、躍動する筋肉を。始源の巨人のたくましき腕を。
<>マナよ、強き力となりて、ゲイリーの体に宿れ!

<>
<>
<>“筋力強化”の呪文を得て、ゲイリーが剣を持ち変える。にしゃりと笑うその瞳は狂った歓喜に歪んでいる。
<>「お嬢。この女神官はあんたにやるよ。欲しいんだろ? タクシル。あんたは誰が欲しい。早く言わないと、ヤっちゃうぜぇ?」
<>その声に応えるように、暗闇の中からタクシルが姿を現した。
<>こいつが誰かを欲しがることなどあるだろうか。すみやかなる死を最も喜ぶミルリーフに仕える男が。
<>
<>ゲイリーが進み出たと同時。金髪の少年が槍を構えて突撃してくる。
<>女神官もまだ戦う気だ。構える剣先は揺れているけれど。
<>数歩下がりながら、私は、使い魔の感覚を探った。
<>……どうやら、向こうでも始まったようだ。珍しい。メッティムが……笑っているなんて。
 
暗緑の罠
サリサ★ [ 2003/12/24 5:56:19 ]
 奥の部屋の中から、稲妻の光と轟音がボクの隠れている広間にまで響いてくる。
<>
<>ふっふーん、お嬢っては派手にやってるじゃん。
<>ちゃんと殺さないでボクの分もとっといてくれるかなあ。
<>ま、向こうには三人居るんだし、手加減する余裕はあると考えて、今の自分の役目に集中する。
<>
<>“電光”の音を聞きつけたのか、ようやく広間に到着した二人の冒険者が、
<>慌てて奥の部屋を目指し、駆けて来る。
<>戦力を半々にして奇襲をかけようとしたアイデアはいい。
<>でも、それを実行する力と計画性に欠けていたんだよ、君たちは。
<>その上、行動を焦って、半分の戦力をさらに半分にしちゃうなんて。
<>……ボクに美味しくいただいてくれって言ってるのと同じじゃん☆
<>
<>背中を駆け上る快感を解き放つようにして、“姿隠し”を解除。
<>杖を持った魔術師と、弓を携えた少年たちの前に立ち塞がる。
<>
<>「え!?」
<>「! しまった……分散が仇になったか!?」
<>
<>ふふ、可愛い叫び声☆
<>
<>土に咲くもの、水に育まれるもの、風に舞い、火に焼かれ種を残す汝よ!
<>心にありては愛と魅惑を司る汝、ドライアード! 彼のコらに柔らかなる束縛を!
<>
<>目標数拡大。小さめの魔晶石が一つ、綺麗に砕け散る。
<>ドライアードの精霊力が、ひび割れた床の隙間から生えるつる草と連動し、二人の冒険者を瞬く間に縛り上げてゆく。
<>
<>「うわぁぁっっ!!」
<>
<>少年が再び叫ぶ。うーん、可愛すぎ。こういうひたむきな子を挫折させるのってホント、そそる。
<>魔術師の方は……へえ、抵抗したんだ。ちょっと舐めすぎてたかな。
<>咄嗟の精神対応はさすがのものだと褒めとくよ。でも……ちょっと遅いな。
<>
<>即座に一挙動で間合いを詰め、黒い毒にぬめるダガーを、縛り取られた少年に突きつける。
<>そして、このボクの幼い美貌☆で魔術師に向かって微笑んでみせる。
<>途端に彼の呪文詠唱は止まった。
<>うーん、楽しいねえ。結果より過程重視のボクとしては、こういう展開もアリアリだよん。
<>ま、これは麻痺毒なんだけど。この状況でそこまで判別できる訳もないよね。
<>
<>ねえ少年? 今のキミの叫び声、奥の仲間たちに届いたかな?
<>あ、もう聞こえてないかもしれないねー。さっきの電光、派手に光ったから。
<>聞こえてたとしても、君達まで窮地に陥ったことを知って余計に絶望したかな?

<>少年の眼を見る。
<>うんうん、いい感じ。無力なくせに性根だけは一人前。
<>縛り上げられて動けないくせに、その瞳は絶対に負けないと叫んでいる。
<>でも、今の君たちは何もできない。そう思うでしょ、魔術師くんも☆
<>戦略的な不利と被我の実力の差を埋めるには、まだまだ足りない。
<>
<>廊下の奥からは、剣戟の響きと魔法の光が漏れてくる。向こうもそろそろ終わりかな?
<>あのファリス神官は結局お嬢のモノになりそうだし、こっちはボクが頂いちゃってもOKだよね。
<>“樹木縛り”も効果時間が大して長くないし。さくっとやっちゃいましょうか☆<>

<>再度、微笑みかけた私に対して魔術師が構えを取る。<>ふふっ、少年、ちょっと待っててねー。
<>後であの魔術師と一緒に、ボクがちゃんと気持ちよくしてあげるから。
<>だから、少しの間おねんねしててね☆

<>そして、ボクはダガーを振り上げた。
 
乾坤一擲
バシリナ [ 2003/12/24 11:39:08 ]
  ホッパーさんの悲鳴を最後に、手前の広間から一切の音が絶えた。
 確かめたい衝動に駆られる。

 先を取るつもりが、先の先を取られる格好になった。
 それを悔やむ余裕すらない。

 再度試みた上手切りを、容易く撥ね上げられて、よろめく。
 ゲイリーと呼ばれた男は、両手の長剣を曲芸のように軽々と操る。
 私とアルファーンズさんは手もなく捻られるばかり。
 傍から見れば、大人が子供の遊びに付き合っているように見えるだろう。

 通路の真中で不敵に構え、成り行きを眺める女。
 茫洋と佇む神官。
 実際に動いているのは、眼前の二刀流の男ただ一人。
 同数でありながら、差は歴然だ。
 アレンさんは、どうしたのだろう?
 彼は、まだ倒れていた。
 さきほど受けた電撃の傷が深いのか。

「よそ見はいけねぇやな」
 軽口とともに繰り出される突きを、辛うじて楯で受け止める。
 左腕も痺れてきた。
 私は、相手にされていない。まるで遊ばれている。
 彼らの間で、私たちの身柄の取り分が決められているのだろう。
 私は、この男の獲物ではないのだ。
 一方で、アルファーンズさんへの攻撃は苛烈を極める。
 鎖帷子と楯のお蔭で致命傷こそないものの、容赦のない撃ち込みが彼を襲っている。
 おそらく彼の傷は打ち身どころではない。骨も折れているだろう。
 さらに数合、一方的な撃ち合いが続いた。

「飽きた」
 唐突に、男が云った。両手の剣を下げ、無防備を装う。
「お嬢、そろそろキめるぜ。タクシル、あんたには新鮮な死体をプレゼントしてやる。存分に弄り回すがいい」
 男の構えが変わった。軽く腰を落とし、両刀を脇に構える。
 狙いはアルファーンズさんだ。私には目もくれない。
 私が横から撃ち込んだところで、何の障りもないのだろう。
 男の新たな構えに間合を計りかね、アルファーンズさんが後退りする。だが、部屋の中では幾らも退くことはできない。
 男が、余裕の足取りで進み出る。程なく撃尺の間合。
 焦燥。阻まなければ。
 二人の刃が煌いた。

 背後で雄叫びがあがった。私たちの視線が一斉にそちらを向く。
 アレンさんが、やおら起き上がり、突進を始めたのだ。
 こちらにではない。走り出した先には、女がいる。
 敵に油断はない。距離も充分すぎるほどにあった。
 女が突き出したワンドから、光の矢が走った。
 アレンさんがうめいて片膝を突く。
 だが、それでは終わらなかった。
 女の舌打ち。肩に、短刀が刺さっていた。アレンさんの手から放たれていたのだ。
 大した傷ではない。状況は変わらないはずだった。
「てめえええぇぇぇっ」
 思いがけない方向からの怒号。
 男が吼えていた。先刻までの、人を食った余裕の表情はない。悪鬼の如き憤怒の形相。
 男が両刀を振り翳してアレンさんに踊りかかった。
 咄嗟に突き出されたアルファーンズさんの槍の穂先が叩き折られた。剣圧のあまりの激しさに、アルファーンズさんの上体が仰け反る。
 男が、がら空きの背後を晒した。

(コノ虚ヲ突カネバ、私タチニ勝機ハナイ)

 脳裏に、その思念が、稲妻のように走るなり。
 私は全力で男にぶつかっていった。
 腰溜めに構えた剣の切っ先を、男のわき腹へ向けて。
 
一閃
ゲイリー★ [ 2003/12/24 14:54:04 ]
 冷たい・・・。
体の中で軋む音がする。
腹から突き出た剣の切っ先。滴る血。
荒い息遣いが聞こえる。
すぐ隣には、剣の柄を握り締めた女の顔。

お前は、お嬢の前に跪けばいい。
お嬢を喜ばせるだけの人形になっていろ。
俺の邪魔をするなっ。


熱い・・・。
肉の裂ける音が、耳の内側から聞こえた。
ごめんよ、お嬢。
女神官の顔、思いっきり殴っちまった。
お詫びにそいつを・・・お嬢を傷つけたクソガキ、コろして、やル。


俺の手がクソガキの首を捕らえる。
誰かが組み付いてくる。
長い金色の髪が踊った。
・・・うるせぇ・・・かまうものか。
振り上げた剣を叩きつける。
霞む視界に、銀色の一閃。


寒い・・・。
血の色が、暗黒にのまれて、いく・・・。
 
憤り
ベアトリス★ [ 2003/12/24 23:34:36 ]
 メッティム。あの男。
……許さないわ。ええ、許すもんですか。

ぎり、と噛みしめた唇から鉄の味がする。顎を伝う生暖かい液体。
息を荒げて長剣を握りしめている女神官から見れば、私は、ゲイリーの死に憤っているように見えたかもしれない。
そうではない。そんなわけが、あるはずもない。
ゲイリーが死んだ? ……だから何? そうね、私を守る盾が減ってしまったのは少し残念。
けれど、盾が欲しければ、ゲイリーの骨や肉を使ってまた新たな下僕を作ればいいだけのこと。

使い魔の感覚がもたらしてくれた情報は、メッティムの裏切り。
人質の拘束を解き、魔晶石を与え、そして、相手の戦士にまで魔剣を与える始末。
あの魔剣……“灼熱の”ラフレールが鍛えた炎の魔剣。それを与えて尚勝てると言うの?
いいえ、違う。メッティムはそんなつもりで渡したんじゃない。
彼我の実力差を埋めるため。そして、自身がより手強い敵と戦うため。
そんな、くだらない矜持のために、私たちの“あれ”を差し出すと言うのね。
メッティムが負ければ守るものは居なくなるのに。

……許さない。

タクシルっ! 何をぼうっと突っ立っているの!?
貴方の“神”を解き放ちなさい! メッティムが裏切ったわ!
“あれ”を……貴方の神を! 冒険者どもを全て、死の淵に引きずり込みなさい!

くちゃくちゃと……タクシルの口元から音がする。
さっきからだ。あの男は、そぎ落とした自分の耳を食べている。
けれど、どうやら私の声は聞こえていたらしい。“神”と聞いて、残った片方の耳がかすかに動いた。
「あんなもの。……神などであるものか」
涎と血と肉と……そういったものを、口の端から零しながら、タクシルが呟く。

金髪の少年が、ふらつきながら立ち上がる。……まだ立ち上がるのね。
「これ以上……っ……何もさせねぇっ!!」
無駄なことを。あの体で何が出来ると言うの。穂先の折れた槍など、ただの棒。馬鹿げてる。
案の上、短い棒がタクシルの体に届く前に、タクシルにかわされる。す、と腕を伸ばして、つんのめる少年の体に触れ、ぼそりとタクシルが何事かを呟く。
少年はその場にくずおれた。その手に、タクシルが雷晶石を握らせる。
……何のつもりだか。どうせお得意の魔法を使って、それを仲間に使えとか何とか囁いたに違いない。

どうにでもすればいい。メッティムが裏切った以上、遠からず“あれ”は……あの“神”もどきは冒険者どもの手に渡る。
けれど……だからといって、目の前の奴らを見逃す理由にはならない。
私は、ローブの隠しに入れてある細い巻物の感触を、ローブの上から確認した。
これさえあれば。私は。……私だけは。

「アレンさんっ!? アレンさんっ!!」
女神官は、倒れた戦士に呼びかけている。視線は私からは外さずに。
だが……戦士から返事はない。ゲイリーが命をかけて、私の仇をとった。
ぐい、と肩に刺さった短剣を抜く。吹き出す血にローブが濡れる。
「……許さない」
噛みしめた唇から漏れる声は、女神官のもの。……おかしなものね。同じ事を思っていたなんて。
──ええ。許さないわ。メッティムも。おまえたちも。

「こっちは麻痺させちゃったよん☆ ね、このボウヤ貰ってもいいかナ? だぁって、可愛いんだよ、叫び声がね」
……サリサ。ええ。あげるわ。好きになさい。
そのかわり、私がこの女神官を傷つけたら、それを後で癒してちょうだい。そうじゃないと、お仕置きが楽しくないもの。
「おっけー。交渉成立♪ 楽しみだねぇ」

サリサの背後で、麻痺した体をもてあます若い男が2人。そのうちの1人は確か魔術師。
──魔術師。見ていなさい。古代語魔法というのは、こう使うのよ。
女神官には、もう突撃する気力は残っていない。体力も。
からり、と。
自分の肩から抜いた短剣をその場に投げ捨て、私は魔晶石を握りしめた。

さぁ。
どの魔法で死にたい?
 
足掻き
ホッパー・ビー [ 2003/12/25 1:56:56 ]
 「アレンさんっ!?アレンさんっ!?」

 バシリナさんの、悲鳴に似た叫びが聞こえる。それにアレンさんが答える様子は無い。

「こっちは麻痺させちゃったよん☆ ね、このボウヤ貰ってもいいかナ? だぁって、可愛いんだよ、叫び声がね」

 闇妖精が無邪気な笑みで僕を見下ろして、奥の誰かと話している。

 僕は無力だ。体に力が入らない、ただそれだけの理由ではない。

 ここまで来て、僕の所為で。隣に倒れてるルベルトさんまでもが麻痺している。
 結局、僕は足手纏いにしかならなかった。

 奥の方で、”神官”と呼ばれた男に触れられたアルファーンズさんが、ゆらりと、こちらを振り返る。

 其の目は真直ぐで虚ろ、ただ僕たちを見る繊細な硝子細工の如し。
 其の手は紫色の宝石、何か内部に激しい力が封じられている。

 奥の方の人物・・・女性。僕達に”火球”をぶつけた、古代語魔法の使い手だろうと思われる。今は何かに怒り、また一つの魔法を紡ごうとしている。

 その前にいるバシリナさんは、気力も体力も限界寸前であることは容易に判断できた。其れだけ、消耗しているのだ。
 アレンさんは・・・ぴくり、ともしない。前に、岩長虫退治をした時が重なる。あの時は、倒れても、最後まで戦っていた。

 今回も。立ち上がるのではないか、と。でも、指先一つ、動かさない。ただ、傷口から血が流れ、血溜りだけが少しずつ大きくなっていく。
 隣でバシリナさんが完全に膝をつく。頬がやや腫れて、体中に傷を負い、それでも尚、視線は魔法使いからはずさない。
 だが、魔術師は怒りの表情を崩さない。

「おー、どっちも、怖い、怖い、ねぇ?」

 成り行きをそのまま見ようとしている闇妖精が茶化す。向こうの部屋の中を見ようと今は無防備に背中を向けている。

 魔術師の口から、詠唱が紡ぎだされる。僕にはひどくゆっくりに聞こえた。そして身振りは何倍もの遅さに見えた。
 駄目だ。あの魔法使いの、次の魔法で、全てが決してしまう。

 僕は足掻く。
 体が麻痺毒に犯され、四肢が思い通りに動かず、かろうじて入る僅かな力すら空回りする。

 無力だ。でも、助けたい。
 非力だ。でも、止めたい。

 無茶苦茶に、体に必死に命令する。動け、動け、動け!呟く程度の声で、叱咤する。
 ふと、右手の、僅かに動く指先が、床に落とした弓、そして鏃に触れ、痺れかけた指先に鋭い痛みが走る。
 悲鳴を上げそうになる。思いっきり、噛み殺す。今、気付かれたら、御終いだ。よし、動く・・・無理やりにでも、一矢、放てば。

「ボウヤ、おいたはだぁーめだヨ?」

 小さな子供に諭すような言葉。しかし、言葉の調子とは裏腹に闇妖精が僕の左手を踏みつける。毒の塗られた短剣を片手で弄びながら。

「う、ぐぅぅ」

 凄まじい痛みに悲鳴が出る。少なからず麻痺しているのに、とてつもなく痛い。
 闇妖精は僕の悲鳴に喜びの笑みを浮かべる。

「う〜ん、いい響きぃ〜。やっぱり、可愛いねぇ?」

 ところが、もう一つ、甲高い悲鳴があがる。
 その悲鳴の主は、あの魔法使いだった。詠唱は中断され、背中を仰け反らせ、床に倒れる。肩で荒く息をして、次には叫びだす。

「ララッカが!あいつら、私の、私の、私の、ララッカをっ!」

 魔術師が言っていた、蛙の使い魔の名前だ。其の表情は、痛みに歪んでいる。

「ど、どうしたのー?ベアトリ、すっ!?」

 動揺した闇妖精が魔法使いに声をかける瞬間、僕は動いた。闇妖精に踏みにじられた手の痛みが、幸いにも痺れる体に喝を入れる。
 闇妖精の体に、可能な限りの渾身の力でぶつかる。不意の体当たりに、闇妖精は避けられず、もつれ、同時に倒れこむ。

「うわぁぁ!」

 僕は叫びながら無我夢中で何かを右手に何かを掴んだ。そして、手ごろだったので、狩人の勘に任せて投げた。

「あっ」

 投げてから気付く。其れが闇妖精の持っていた短剣だということ。そして、投げた先が魔術師の顔で、思わず咄嗟に庇った右手に突き刺さって、手の甲を貫いたことを。悲鳴は聞こえなかった。聞けなかった。

 アルファーンズさんが、紫の宝石を割り、僕に電光を放った。闇妖精もろとも、凄まじい音と共に電光に僕は”食われる”。

 体中が何千何万の針に貫かれたように思った程の痛みの感覚。内部で血が熱湯の如く沸きあがったかのように熱い。眼の中に閃光が奔り、耳には轟音、鼻の中が血の臭いで溢れかえる。

 次に僕は意識が吹っ飛んだ。誰かの叫びと共に、深い意識の下へと、落ちた。
 
目覚めの合図
タクシル★ [ 2003/12/25 22:23:31 ]
 金髪の少年がこちらを向く。ター
ああ、そうか。次はこちらか。ター
ター
閃光が走り、彼に渡した二つ目の雷晶石が砕け散った。タタター
我が身に走る痛みの甘美さに、口元から血が溢れた。タカタカ
声も漏れる。くぐもった悲鳴。ぐげ、ぐげげ。タカタカ
ターターターター
凄い。凄いよ。何ということだ。タカタカ
出鱈目に攻撃している。出鱈目だ。タカタカ
出鱈目であるということは、彼の意志が介在していないということだ。タカタカター
それが何と、平等であるか分かるか。分かるか私よ。ターターターター
滅茶苦茶に選ぶということは大変なんだ。タカタカ人の身一つでは出来ないことなんだ。ターそれをしている。
そのことが何と新鮮であるか。痛い。この身が痛い。ピーーーヒャラあと五月蠅い。誰だ、音楽を鳴らすのは。
プチ。切った。
私が種を植え付けた少年がこちらを向いている。次の指示を欲してる。
嗚呼、石が手元にないのか。2回しか試行出来なかった寂しさに胸が打ち震えているうちに、私は彼の支配を手放すという指示を送ろうとすることに疑問を感じる。

そうだ、私は神の使徒だった。5年前に我が神に言われたではないか。
「ミルリーフを信仰しろ」
そうだ。私は今、完璧にミルリーフ神官を体現しているわけだから、種を植え付けた場合でも、全てがそのための布石でなければどやされる。またパパがどやす。僕をどやす。絵描いて何が悪い。くそ、こんな糸捨ててやる。

あ。

結果として種が取り除かれてしまった少年がこちらを見ている。
瞳に意志を取り戻して、こちらを睨む。それを見て思い出す。
「そうだ、私は殺さなければいけないんだった」
そう。ミルリーフって何ぞや、と調べた本に書いてあったではないか。私はミルリーフの神官だから見敵必殺。というか、敵とか味方とかない。
とりあえず生きていてはいけないわけであり、死んでるものが動いていなければ自分の手駒にはなりえないわけである。
だから、魔神の金切り声を上げる。手に持った魔晶石を握りつぶしながら唱える。
「神よ、神よ、聞こえますか。私に必要な手駒になりえるのは、何人いますか。どれだけの死に損ないがずっと死に損ないとして私と共に働いてくれますか。働かせるために、動かせて下さい。嗚呼神よ神よ嗚呼神よ」
“動死体創造”を倒れている者達全てに拡大する。何人が私の手となり足となるのか。楽しみだ。愉しみだ。
 
肉斬骨断
アルファーンズ [ 2003/12/25 23:55:47 ]
  不意に、体の自由が戻った。指が動く。頭も動く。だが、全身が悲鳴をあげているのは変わりない。
 記憶も鮮明だ。妙な呪文・・・・・・体の自由を奪う呪文か? よく分からない・・・・・・をかけられて、ホッパーに手をかけた。不甲斐ない。情けなさと同時に怒りが込み上げる。闇司祭を睨みつける。
「そうだ、私は殺さなければいけないんだった」
 !? また妙な暗黒魔法を使う気なのか・・・・・・握り締めた魔晶石の大きさ。かなりでかい。体中が痛いが、それでも根性いれて抵抗力を高める。師匠によく、気合で耐えろと言われた。この腕の高い連中の魔法に気合で耐えれるかわかったもんじゃないが、魔法の支援が無い今、耐える術はそれしかない。
「神よ、神よ、聞こえますか。私に必要な手駒になりえるのは、何人いますか・・・・・・・・」
 暗黒語のまがまがしい響きが浸透する。衝撃波か、生命力奪取か・・・・・・!
 一向に痛みは襲ってこない。俺の気合が勝ったかと思ったそのとき。

 うぞ。

 さっきバシリナが仕留めた男の死体が動き出した。マズい、ゾンビを作る魔法だったのか!
「私の手駒よ! 目に付く全てのものを殺せ!」
 ゾンビが起き上がり、手近なバシリナに殴りかかる。武器を使うことが出来ないのが、唯一の救いか。武器を使えるゾンビは、暗黒魔法では作れないようだ。
 拳が、バシリナの顔を目掛けて振り下ろされた。慌てて避けるも、掠って口を切ったらしい。鼻血と口から流れる血を拭い、バシリナはゾンビの体を蹴っ飛ばして距離をとる。
 吹っ飛ばされたゾンビは、何を思ったか次に女魔術師に向かって歩みを進めた。
 奴の言葉から判断するに使い魔を潰されたらしく、激痛に苛まれ、さらには毒付きダガーを右手に食らい激痛がさらに耐えがたいものになっていた女魔術師。激痛に歪む顔で、ゾンビを睨みつける。
「この・・・・・・! なにをしているの!」
 血をだらだらと流しながら、それを押しのける女魔術師。だが、ゾンビは容赦なく女魔術師の腹を殴りつけた。ダメージ自体は大したことはないのだろうが、体を襲っている激痛が半端ではない。そのわずかなパンチが、痛みを何倍にもしているらしい。
「どうなってる・・・・・・魔法は不完全だったのか?」
 女魔術師を殴り倒したゾンビは、次は再びこちらに向かってくる。と思いきや、進路上にいた闇司祭を殴り飛ばす。
「・・・・・・・・・狂ってるわ、あの闇司祭も、ゾンビも」
 ともかく、これはチャンスかもしれない。たが、ここぞというときに体が言うことを効かない。槍を持つ力も弱く、楯も取り落とす。そのまま楯を捨て置き、槍を杖にしてどうにか立ち上がるも、立ち上がってそれ以上は動けなかった。体中の骨がきしむ。
「ぐっ・・・・・・」
 思わずのけぞった。
 
 カツーン。

 甲高い音。俺の懐からサークレットが転がり落ちた。いつも大切にもっていたサークレット。メリルの形見のサークレット。銀に輝くそれは、真ん中から真っ二つに折れていた。
 途端にこみ上げる悲しみ。憎しみ。怒り。だが同時に、こみ上げる別のもの。
 ここで死んでどうする。何もできなくてどうする。
 腰にあるマン=ゴーシュに手を添える。そういえばこれを貰ったときに、約束した。どんな仕事でも、ちゃんと帰るって。
 思い出した。俺には、「二人」の「戦乙女」がついている。気合、根性、持てる全ての力で、体勢を立て直す。
「おい、魔術師さんよ。さっきは散々、「棒」だ「棒」だ言ってくれたな」
 確かに、槍は刃があってこその槍だ。折れれば、ただの棒に過ぎない。
「まだあがくつもり・・・・・・?」
「あがくんじゃない。やれるだけのことやる。それだけだ・・・・・・ッ」
 激痛に歪んだ顔で、こちらを睨みつける。まだいくらでも魔法は使えるような、怒りに燃えた瞳。それに打ち勝つように、気合をいれて槍を両手で握る。
「たしかにもうコレは「棒」だ。だけどな・・・・・・鋼鉄製をなめんじゃねぇ!!」
 全身全霊を込めた、投擲。風を切って、鋼鉄の柄が回りながら女魔術師に向かう。本来、刃を突き刺す目的であれば、回転させるわけにはいかない。ただ、槍としてはもう使えない鋼鉄の塊をブチ当てるのなら、回転しようが直進しようがどうでもいい。打ち所が悪ければ、骨の一本は持っていける。

 ゴキン。

 女魔術師に槍が当たる前に、俺の腕から音が鳴った。
 思わず崩れる俺を、「狂っている、狂っている・・・・・・」と呟き続けるバシリナが受け止めた。
 
転機
サリサ★ [ 2003/12/26 23:07:35 ]
 「――サリサ。ここは任せたわよ」
<>「了解了解。後はボクに任せてよ」
<>ボクが癒したベアトリスが乱戦状態と化した部屋を飛び出ていく。
<>
<>任せたわよ、か。ふふ、うれしい事言ってくれるねえ、ベティったら。
<>でも、もう少し冷静だったら絶対にしないよね。
<>ボクをベッドの中以外の場所で“信用”するなんてさ☆
<>
<>出鱈目に殴りかかって来た魚人のゾンビを適当にかわしてから
<>改めて部屋の状況を見渡し、現状と、ここまでの経緯を確認する。
<>
<>黒髪の少年の頑張りのせいで雷晶石を喰らった時は、死ぬかと思ったよー。
<>ホント、少年ってば頑張ってくれるんだから☆
<>廊下に放っといたけど、ま、すぐには死なないだろうし、彼の相手はまた後でだねー。
<>そして、雷で焼かれた自分の傷を癒してから、ベティたちの居る部屋に来て。
<>ベティの傷を癒して送り出した訳だけど。
<>
<>ベティに棒を投げつけた金髪の少年は、タクシルの“気弾”を腕に受けてよろめいてたけど、
<>何とかゲイリーが持っていた長剣を拾って、目の前に来た魚人のゾンビと相対している。
<>ファリス神官の女は、ボクを警戒しながら金髪の少年を援護している。
<>うみゅ、この二人の消耗具合は相当なもんだね。
<>
<>そして、もう一人の戦士は倒れたままで。
<>黒髪少年と魔術師は、まだ廊下から出てくる気配はない。
<>そしてタクシルはゲイリーのゾンビと殴り合ってる。……なんかホントーに愉しそうだねー。
<>自分で作ったゾンビのくせに。また変な命令でも出したんだろう。完全に飛んでるし、アレ。
<>
<>いまなら“光の精霊”でも拡大して飛ばせば、冒険者たちはほぼ全滅する。
<>でも……それじゃツマンナイよね☆
<>ファラリスさまを敬愛するボクとしては、こんな神殿邪魔だし。
<>目標とするブツは手に入れてるし。双方潰しあって全滅☆ってのが理想。
<>それに、まだちょっーと楽しみ足りてないしー☆
<>
<>再度、殴りかかって来た魚人ゾンビを蹴り飛ばす。
<>そして、懐に入れておいた石の一つを、床を滑らせてファリス神官の方へ投げてやる。
<>
<>ふふん、そう怪訝かつめちゃめちゃ疑わしい顔しなくてもいいじゃん☆
<>少し大きめの、正真正銘魔晶石だよん。もう気力も限界なんでしょ?
<>やだなあ、睨まないでよ。罠じゃないってばー。我らがファラリスさまはねー、とっても寛大なの。
<>ほらほら、そこで倒れてる戦士クンとか。片腕だけで必死に戦ってる金髪くんとか。
<>ホントに……死んじゃうよ? つまらないプライドに拘ってる間に。
<>
<>あははは、イイ顔。ゾクゾクするよ。苦痛と憎悪の入り混じる。人間ってだからスキ☆
<>キミのその顔を見れただけで、ここに来た甲斐はあったなあ。
<>本当はベティと一緒に、ベッドの中でも遊んであげたかったんだけどねー。
<>
<>躊躇いながら足元の魔晶石に手を延ばす神官。金髪の少年も何とか善戦してる。
<>廊下の方からは、部屋へと向かってくる何者かの足音が聞こえてくる。
<>黒髪少年かな? 魔術師くんかな?
<>ま、少年を刺した後、魔術師くんには毒を塗り直さないで斬りつけたね。彼か、それとも二人カナ?
<>
<>けど、タクシルとゲイリーゾンビもようやく不毛な殴り合いを止めている。
<>さあ、第二ラウンドを始めようか。ボクはいつでも逃げられるようにしておくけど☆
<>
<>怒号と剣戟。神聖語と暗黒語の響く中、ボクは闇の精霊へ呼びかけた。
 
出来ること すること
ルベルト [ 2003/12/27 2:42:34 ]
 毒を塗られたダガーで斬られた時に、俺は少々”細工”をした。
ダークエルフの動きをよく見、杖を脇に挟んで血を止め、よく研いである使い慣れたダガーを抜いた。
抵抗するふりをして狙った場所を切らせ、倒れこみながらその傷口の近くを自分で切り裂き、そして倒れこんだ。

「ほらぁ、無駄に暴れるから傷が大きくなったでしょお」
楽しげな嘲りを含んで頭上から降ってきた声が聞こえてきたが、当然無視だ・・・。

そして、効果があったのだろう。それにホッパーを斬ったときに毒がふき取られていたかもしれないな。
手足に痺れを感じる・・・が、支障は出るだろうが行動はできる。

とは言うものの・・・。

動く機を見計らって居たといえば聞こえは良いが、実際は情けない。
魔法の使いすぎと切った部位の出血で意識がかすむ。機会を掴むにも、素早い行動どころか何も出来ずに倒れていただけだ。

奥の部屋でアルファーンズ、バシリナ、アレン、そして敵の男が戦っているときも。
女魔術師がとどめの魔法をゆっくりと唱え始めたときも。
その魔術師が急にのけぞり、ホッパーが驚異的な動きでダークエルフを突き飛ばしたときも。
ダガーが閃き、俺の目の前を紫電が走り、ホッパーが完全に倒れたときも。
アルファーンズが操られでもしたのか、雷を撒き散らしているときも。

ははは・・・はは・・・畜生、何が賢者だ魔術師だ。やっていることは自殺行為ばかりではないかっ。

転がって奥の部屋からの死角に、身を隠さなくては。・・・いててて・・・上手くいったか?

奥の部屋から奇妙な叫び声が聞こえてくる。
!!
視界の端で、何か動いたな・・・。

先に突入した戦士たちにやられたと思しき魚人の死体が、歩いている。そういう呪文か・・・。
濁った目は何を映しているのか・・・何とかやり過ごせないだろうか。

よし・・・俺たちよりも、奥の喧騒の方が気になるのかもしれないな・・・上手く中に入っていった。
奥の部屋は、更に混沌とした状況になっているらしい。
苦鳴と叫び声が入り乱れ、聞き取り辛い・・・。
どうすれば・・・いいんだ?

立ち上がる・・・ふらつく・・・だが、俺はまだ動ける。ならば、何かできるはずだ。そう、今までの失敗を取り戻したい。
だが先ずは、無事を確かめなくては・・・ホッパーの体を引き込むとき、部屋の中をのぞくことが出来た。
あの女魔術師が立ち去りかけ、アルファーンズが片手を押さえてバシリナの傍に立っている・・・。

「ホッパー、おい!」
体を揺する。出血、やけど、打ち身。俺も”電光”に巻き込まれていたらどうなっていた事やら。
・・・良かった、生きている・・・数瞬後、薄く目を開いた・・・。
「うう・・・」
「お前さんのタフさと根性には驚かされるよ。よくやった・・・」

なおも体を動かそうとするホッパーを壁に持たせかける。
・・・暗黒神官の男の叫び声、争う音。

ホッパーはあれだけの事をやってのけた・・・皆も、戦っている・・・俺はどうだ?
失策以外に何かやらかしたか?
・・・・・・。

あと良くて二回、あるいは一回魔法を使うのが限界だろう。そして俺は倒れる。
それまでに何ができる?・・・そうだな。

脇を見ると、ホッパーが立ち上がろうとしている。
「まだ、無理はするな。お前さんには助けられた・・・全くな。だからここで少し、待っていてくれ」
声をかけ、荷物は全て置いて行く。
足を踏みしめて奥の部屋へと向かう。
・・・ふん、どうせ忍び足をしたところで上手く行くまいよ。

奥の部屋に入るなり、魚人ゾンビが立ちふさがる・・・邪魔だ。
学院生時代、酒場で覚えた体当たりをくらわす。
鰭状の器官が俺の肩に突き刺さったが、相手は横転した。俺もよろめく・・・部屋の中は?

アルファーンズに”闇霊”がぶつかり、バシリナの神聖語が一際高く響き、それに同調するかのような暗黒神の叫び。
相反する力を一身に受けたアルファーンズは、攻撃の機を失ってなんとか槍で相手のつめをやり過ごした。
アレンは・・・まだ動かない・・・。

「ふぅん、魔術師くんの方かぁ。まぁいいや、早く参加してねー」
邪気の無い・・・本当に無邪気な笑み。無論、笑い返す義理もない。
わざわざ魔法を使わないアルファーンズに、”闇霊”を打ち込んで、明らかに遊んでいる。
「ねぇねぇ、少年の方は?」
馴れ馴れしい。黙って俺は杖を構える・・・どうとでも取れ。

「しゃぁあ!来い!」
魚人ゾンビのもともと切り裂かれていた喉笛を更に大きく裂き、アルファーンズが気合を入れなおした。
今度は人間のゾンビが迫る・・・。

呪文を紡ぐ・・・”抗魔”をアルファーンズとバシリナに・・・。
ぼろぼろとなった手と杖に魔力が集中し、それが・・・外に向かう。多分・・・成功した。
・・・倒れる?
いや、まだ・・・・・・もう少しなら!

・・・だが・・・本当に疲れた・・・あと・・・俺にできる事は?
失敗の・・・埋め合わせを・・・。

「バシリナ。・・・こっちの方はもういい。アルファーンズの方を」
俺の近くの魚人ゾンビの相手をしていたバシリナに話しかける。
「でも・・・」
「あの神官をさっさと倒せ・・・俺が行っても役に立たん・・・」
ゾンビを倒すならともかく、”相手をする”だけなら今の俺にも、かろうじて出来る・・・だろう。
更にあのダークエルフは、自分の楽しみを優先している節がある・・・それならば・・・。

バシリナがためらいがちに頷いて後退し、間髪居れずに俺が前に割り込む。
カゾフで鍛えてもらった技を・・・実戦で使うのは初めてか・・・。

「へぇ。魔術師くん偉いねぇ。もうぼろぼろなのにさー」
ゾンビの爪を杖で受け流す・・・視界の端で、大げさな身振りと口調でまたダークエルフが話しかけてくる。
さぁ・・・乗ってくるか?
「ふん・・・これくらいの化け物など。・・・くっ・・・お前さんらは、本当は何をたくらんで・・・いるの・・・だ?」
避けながら、話しかける。息が、切れる。
「ああ、時間稼ぎなんだねー。魔術師くんの努力が無駄になる様を見るのもいいかな(にこ)」
・・・・・・・・・・・・。

バシリナの剣撃で出来た傷に、杖を突きこみえぐる。
相手の爪が、爆風によって弱まっていた鎧一部ごと皮膚を切り裂く。
取り留めのない話の維持も、もう限界に・・・近い。
頭が・・・流石にぼうっとしてきた。

アルファーンズの剣が人間のゾンビの右ひざを捉える。
バシリナの長剣の切っ先が暗黒神官の肩をかすめ、続けての一撃は胸に向かう。
その神官は、また何かを叫び始める。

そんな光景が、意識の隅に映り。
今はゾンビの向こう側に見える小柄な黒い影が、そちらを見て何かを呟くのが・・・聞こえた。
内容は・・・・・・聞き取れない。
・・・暗黒神官を手助けする気か?
させない・・・失敗は・・・取り返さなくては。

ゾンビを杖で押しのけ、前方に向かって走る。
背中を、大きく切り裂かれた。それでも、止まる事は出来ない・・・あのダークエルフを、阻止する。
 
出来ない
ホッパー・ビー [ 2003/12/27 8:43:24 ]
  さっき、何か恐ろしく冷たい感覚が僕を襲って、結局諦めて消えた。

 天空に遍く星が道を作る。
 そこを多くの人達が行列をつくり、道を辿って天を目指す。
 僕はその行列に加わっていた。

 どこにいくのだろう。知識の神”ラーダ”のおわす”星界”だろうか?
 結局は分からなかった。しかし、足が重くてなかなか前に行けない。
 周囲に遅れ、行列からついに置いていかれる。ああ、待ってください。
 気付くと亡くなったお爺さんが目の前にいた。

 お爺さん、迎えに来たの?
 お爺さんは無言で首を振る。

 皆さんはどこに行くのですか?
 お爺さんが哀しい顔で僕を突き飛ばす。
 そして僕の脇の本を指差す。

 体が下に落ちていく。

 行列から虚空へ放り出される。
 不意に名前を呼ばれた。

”ホッパー!”

 肺に空気が一気に流れ込む。
 僕は現実世界に舞い戻った。生きていた。
 火傷や切り傷全身の痛みが生を実感させる。
 信じられない。あの雷を受けて、僕は生きている。
 脇にある本がやけに重く感じる。

 ルベルトさん?

 立ち上がろうとして、ルベルトさんに止められる。
 ルベルトさんの助けを借りて壁にもたれかける。

 「まだ、無理はするな。お前さんには助けられた・・・全くな。だからここで少し、待っていてくれ」

 荷物を置いて、奥の部屋に入っていく。

 何かをするというのか?
 何か秘策があるのだろうか?

 言い方が悪いけど、ボロボロの状態で、何かを為せるのか。
 先の僕の行動だって、偶然が重なっただけの結果。

 いや・・・僕は批判するべきではない。考えろ。
 今、何が起きていて、何をすべきか。考えろ。
 僕が戦いに加わって、役に立てるか。考えろ。
 考えが纏まらない。焦る。

”戦いにに加わらずとも、取り乱したり、冷静さを失っては駄目だ”

 いつか、誰かに酒場で言われた言葉が思い出される。
 脇の本を開き、裏表紙に書かれた走り書きを見る。

 賢者で、戦う術を持たぬなら、尚更焦ってはいけない。
 賢者は、相手を見て判断し、的確な指示で導くべきだ。
 賢者が、冷静に考えねば、ただの役立たず。

 そうだ。
 何とか動く体で、弓矢を手繰り寄せ、出来るだけ見つからない様、隣を見る。

 アレンさんは倒れたまま。でも、指先が何かを探している。生きている。
 アルファーンズさんは動く死体からの攻撃に耐え、反撃し何とか立っている。
 バシリナさんも同じように、”神官”へ長剣を振るう。
 ルベルトさんは背中を裂かれてなお、闇妖精のほうに走る。

 今、僕が為さねばならない事。
 選択肢が頭に十並び、一瞬で三つに減る。
 一本の矢に液体の入った小袋を括りつける。
 長弓構えを解き、そして、僕は腰の銀の小剣に手をやる。

「賭けてみる・・・僕の考えが間違っていなければ」

 判断が間違ったならば、僕は今度こそ本当に”死ぬ”だろう・・・だけど走り出す。

「ホッパー!?」

 誰かが叫んだ。答えないまま、銀の小剣を鞘ごと放る。
 そして言った。

「寝坊は駄目ですよ、相棒」

”からんからん”

 放り出された小剣は円を何度も描き、真っ直ぐに吸い込まれていく。
 何かを探るアレンさんの手へ。

 長弓を構えなおす。
 相手を探していた”魚”の動く死体が僕を見て近付いてくる。
 矢を番えるまでの間に、僕が生きている確率は限りなく低い。
 不思議と恐怖無い。

「あら、ボウヤ。おねんねしてれば良かったのに、馬鹿ねぇ。出来もしない頑張りすぎは良くないネー」

 ルベルトさんの突撃に詠唱が中断されてなお、戦いを楽しんでいる闇妖精が僕を嘲笑う。

「僕の本に”出来ない”って文字は無いですよ」

 精一杯に笑い返す。
 闇妖精は笑う。

 液体の詰まった小袋を括りつけた矢を弓に番える。
 死体があと四歩の所で爪を振りあげようとする。
 舷を引き絞る。

 闇妖精の背後、その奥の方から”爆発音”が響いたのは同時だった。

 機は訪れ、死も訪れようとしていた。
 賭けに負けたら、命が持っていかれる。
 賭けに勝ったら、勝利が待っている。

「さぁ、どうなるか?」

 強張った笑みで結果を待った。
 
恐怖に克て
アレン [ 2003/12/27 12:18:35 ]
 真っ暗だ。なんだか、もう、どうでもいい気がした。
冷たい地面が熱を持った体には妙に気持ちよかった。
このままだと、どうなるのかな?まぁ………きっとさよならって事なのかな?
悔しいけど、体が動かないんじゃなぁ。

なんだか、眠くなる。痛みも感じない。本当にこれって危ないよな。
気持ちよく感じていた地面が急に、ただ冷たいだけに変わった。寒い。もう、奥歯がカチカチ鳴ってる。
……これは寒くて鳴ってるんじゃないな。怖くて鳴ってるんだ。岩長虫の時よりももっと怖い。
相手が人だから、こっちの考えが見透かされている気がした。

急に逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。初めて親父と手合わせした時もこんな感じだった。
絶対に勝てないって言葉が頭の中を埋め尽くす。体が言うことを聞かなくなるのも同時。
なぁ………ここで逃げ出しちゃダメなのかな?あの時は逃げ出しちゃったしさ………っていいわけないよ、俺。
怖いと思ったのは俺だけじゃない……はずだ。それに、まだ、みんなが戦ってるじゃないか。俺だけ逃げる?冗談も程々に、だ。

あれ………まだ戦っている?聞こえるじゃないか、剣戟とか笑い声とか爆発音(これは聞きたくないけど)とか、いっぱい聞こえてくる。
同時に忘れていた傷の痛みが甦った。あぁ〜………痛いけどここは我慢だ。うん、ガマンガマン。
指先が動いた。だったら、探すのはもちろん剣だ。近くに落ちてるといいんだけど……すぐには見つからない。

ふと、何か落ちる音がした。すごく近いところで。それが武器である事を願いながら手を伸ばせば……柄っぽいところを握れた。
それを握り引き寄せる。そして、真っ暗にしていた目を開けた。飛び込んできたのは見慣れた鞘。これって確かも何も……ホッパーの小剣!
ありがとう、ホッパー!いつか家事手伝いでこの借りは返す!!

剣は手にある。そして、立てるぐらいの力もまだある。
逃げ出したい気持ちは足枷になるけど、少しぐらいのそれは気合と根性で吹き飛ばせばよし……のはずだ。
立って剣を構える。なんだか、日に焼けたエルフ?と怪しげな男。
ルベルトとエルフ、バリジナと怪しげな男、アルとなんだかまだ動いてる魚とか。ホッパーは後ろの方、かな?今は振り向いている余裕はないだろうな。

エルフが笑った。ひどく嬉しそうに。楽しみが増えたらしい。………ヤな性格してるなぁ。
まぁ、いいや。今は誰かを助けないと。ずいぶん長く倒れてた気がするもんなぁ……ほんとに。

「ごめん!休みすぎた!」

出来るだけ元気な声を出してそう言った。
 
狂戦士と絶望の踊り
タクシル★ [ 2003/12/28 4:08:59 ]
 1.狂っていると繰り返す金髪の女神官戦士。
2.ケタケタニマニマと変えつつも笑いを絶やさない女闇妖精。
3.私の気弾を気力で押し返した金髪の少年戦士。
4.元は二刀流だった男。のゾンビ。今倒れた。
5.雷を喰らって倒れながらも矢を放った少年。
6.その矢についていた袋の液体を浴びて溶けていった魚人。のゾンビ。
7.口元に苦々しい笑いを浮かべながら杖を持つ男。
8.神への祈りを捧げながら金髪の神官戦士に囁きを続ける男。
9.立ち上がってきた狸寝入り男。

私はどれだ?
逡巡の後に答えを出す。8だ。
根拠として、私の腕の中にいる、私に剣を突き立てている金髪の女神官戦士の耳元で私が私の神への祈りを捧げたことをあげよう。頭の中の籤で選んでも8だった。
私と思われる8番の視点からの話をすると、狂っていると呟く彼女の剣には力が入っているとは言い難く、私にとっては歯痒いものであった。血が流れる。痛い。けれど。けれど足りない。
何が足りないのか。それは我が神が教えてくれる。
ミルリーフは死が足りないと告げるけれど、決定的にそれに遠いものが足りない。
死に損ないを増やすことで、身近に死を感じられるけれど、それだk
「ここは、海じゃないじゃないか!」
しまった。そうだ、ここは海じゃない。
「我が神にどやされる!ここで死者を増やしても、ミルリーフの教義とのズレがあるじゃないかと」
そうだ。私は徹底的に倒錯的でなおかつ自己中心的なミルリーフ信者でいろ、との啓示を受けたじゃないか。
「我が神にどやされる!」
だが、思う。思ってもいい。
「だが、それなんだ!」

私に突き立てられた剣に、力が籠もる。
ずぶ。血。
身を引く。更に押し込まれる。
ずぶ。口から溢れる。
押しのけて、倒れるように身を引く。
ずばしゃ。傷口から血。
「我に、癒しを」
すぐに傷は塞がる。それ以外の傷も塞がる。だが、血は足りない。
目眩。倒れているから、これ以上倒れることはない。
私を倒したのは、私の腕の中にいた女。
その瞳が放つのは激しい色の輝き。
「タクシルー、流石にそれは不味いんじゃないかナー?」
タクシル。そうだ、それが私の名前だった。金髪の神官戦士から溢れ出る精霊力に怯えを隠せない女闇妖精が思い出させてくれた。
石の床へ、腹が串刺しにされる。しゃかしゃか。しゃかしゃか。手足を動かす。
「我に、癒しを」
癒しても、傷口に剣は刺さったままで。開く。
しゃかしゃか。しゃかしゃか。
「助けてくれ。我が神よ!我が――!」
しゃかしゃか。
神の名を叫ぼうとして、無理だと知った。私は、神の名を、知らない。
最後に私は踊ることにした。神への言葉で祈りを捧げながら。
しゃかしゃか。くねくね。ぐねぐね。
 
中枢へ
バシリナ [ 2003/12/28 16:27:44 ]
  精根尽き果てた私をひたすらに突き動かしていたのは、眼前の敵を葬るべしと言う、我が教団の、我が神の教えであった。
 敵は、神官。暗黒の神に仕える者。風貌は平凡ながら、奇妙に歪な印象を与える男。
 彼の背後にいるのは、ミルリーフではなかった。
 それを表す言葉は、私たち人間の世界には存在しない。
 いや、いかなる種族も、それを言い表すことはできないのではないだろうか。
 名状し難き狂気。
 果たして、それは神と呼ぶべきものなのか。
 確かに、それは人の祈りに応え、力を与える。
 忌まわしき神々と源を同じくする力。
 しかし…。
 それ以上、思惟を伸ばすことは躊躇われた。
 触れてしまえば、私の心もまた、物狂おしき渦に溺れそうだったから。

 ただ一心に剣を振るった。
 刃毀れだらけの剣が、男の肩を割った。
 まだ生きている。踏み込みが足りない。
 ならば次の一撃で仕留める。
 我が敵を討て。

「汝の敵を討て
 即ち、世界が汝の敵である
 動くものすべてが汝の敵である
 討てよ、殺せよ
 心は、燃えているか?」

 そして、私の視界が真紅に染まった。

 ……
 ………
 …………
 ……………
 ………………

「バシリナ…おい、バシリナ!」
 揺すられ、頬を軽く叩かれる。
 目を開けると、そこにはロビンさんがいた。
 部屋の隅に、私は横たえられていた。まだ視界が定まらない。
「もう大丈夫ッス…彼女に施された術は解けてるッスよ」
 ラディルさんが、私の顔を覗き込んで、一つ頷いた。
 身じろぎすると、脾腹がひどく痛んだ。思わず声をあげる。
「すまん。手加減し損ねた」
 ロビンさんが表情を曇らせた。
 私は顔を横に振り、上体を起こした。

 ……
 ………
 …………

 私は神官の術中に陥り、狂乱の気に襲われたのだそうだ。
 先ず、神官を手にかけた。
 今わの際、彼は異なる術を使おうとして、結局果たせなかったらしい。
「多分、合っていると思うんだが…狂の舞と呼ばれる呪術を使おうとしたんだな。こいつは」
 部屋の片隅に寄せられた、敵方の屍。その中で、神官は奇妙な体勢で息絶えていた。
 彼の衣装の中から不可思議な紋様の護符を取りだし、ルベルトさんは言った。
「高度な術だよ。こいつ、かなりの大物だったんだろう。術が完成していたら危なかった…いや、俺たちがこうして転がる羽目になっていただろうな」
 その後、駆けつけたロビンさんたちに、私は取り押さえられ、当て身を受けたのだそうだ。
「それまで、アレンがよく働いてくれた。最初からああやってくれていたらな」
 疲労の滲んだ顔に、ルベルトさんは笑みを浮かべた。

 ……
 ………
 …………

「とにかく、無事でよかったよ」
 私と同様、寝かし付けられていたホッパーさんの隣で、アレンさんは傅くようにしていた。
「俺がもっと巧く立ちまわっていたら、こいつにこんな無茶はさせなかったのに」
 アレンさんは言葉を詰まらせた。
「終わり良ければすべて良し、ですよ。相棒」
 ホッパーさんは、アレンさんの手を取った。
「怪我は大したことないんですが、打ち身がひどくて。ちょっと起き上がれないんです。参りました」
「俺が背負うから、気にするな」
「じゃあ、お言葉に甘えましょうか」

 ……
 ………
 …………

 ダークエルフは逃れたそうだ。
 ホッパーさんの機転で手傷を負わせられながらも、身ごなしは恐ろしく敏捷だったと言う。
 惜しむらくは、ダークエルフを追う余裕のある者が、居なかったことだ。
「槍が残ってたらなあ。背中に投げ付けてやったんだ」
 アルファーンズさんは口惜しそうに、棒の切れ端を握り締めた。
「こっちが押されてたのは事実だけどな。次、見つけたら、ただじゃおかねえ」
 アルファーンズさんが棒切れを構え、大きく振り回すと、ラディルさんが声をかけた。
「アルファーンズさん、病み上がりが無茶しちゃダメっすよー」
「なんだよ、もう骨はくっついたんだろうが…あいててて!」
「あー、やっぱり。さっきの治癒は不完全だったッス」
「なんだよ、それ!」
 うずくまるアルファーンズさんの隣に屈み、私は、ファリスに治癒を祈った。
 それを最後に、手中の魔晶石−−あのダークエルフに渡されたもの−−がボロボロと砕け散った。

 ……
 ………
 …………

「ちんちくりん、これをどう見る」
「そうねえ」
 廊下の夥しい血痕を見て、レアさんは腕組みした。
 今回の件の首魁である、魔術師のものだそうだ。
「あたしたちなら、もうダメなのよね」
「人間でも、これだけ血が流れてりゃ、先ずダメだよな」
 魔術師は消え失せた。転移の術だ。
 しかし、彼女がその身に負った傷は深いという。
「何処に逃げたか、見当もつかん。だが」
 ロビンさんは、一瞬言いよどんだようだった。
「…だが、性根はともかく、体の方は頑強とは言いがたい魔術師…それも女だ。先ず、助からんだろうぜ」

 ……
 ………
 …………

 ミーナさんと、フォルティナートさんが戻って来た。
 二人が、何を確認しにいっていたのか、私は聞かされていない。
「愉快なものではありませんよ」
 私の表情を見て、フォルティナートさんが先に行った。
「ですが、皆、見ておく必要はあるでしょう。そこに、今回の事件の元凶があります」
「そんな言い方したら、あの子が可哀相だよ」
 ミーナさんの反駁に、フォルティナートさんは素直に頷いた。
「そうですね。適切ではないかも知れません。ともかく…行きましょう、皆さん」
 そして、私たちは総出で、遺跡の中枢へと向かって行った。
 
選択肢
レア [ 2003/12/29 23:29:32 ]
 「…アイツ……メッティムの部屋の奥に、アレがいるんだっけ?」
「うん。…私が監禁されてた部屋のすぐ近くだよ。……そこが中枢に近い位置だったんだね」
 ロビンさんとミーナさんの会話を後ろに聞きながら、あたしはフォルティナートさんと並んで歩いていた。…並んでと言っても、フォルティナートさんの怪我は相当酷くて、治癒魔法でも全快はしていない。…あたしの肩に食い込むフォルティナートさんの指の力と重さを考えると、あたしが杖代わりになってるモンだよ。
 ………でも、見渡せばみんな、似たようなモンなのよね。ホッパーさんはアレンさんにおんぶされてるし、癒し手さんたちは気力の限界が近いらしくて足下がしっかりしてない。
「しかし、元気だなちんちくりんは。グラランが魔法に強いってのはほんとなんだなー」
 うるさいのよね、ロビンさん。ロビンさんだって無駄なおしゃべりできる元気があるだけましなのよね。
 ……と、女魔術師が残した血だまりの中に、何か光るモノが落ちていた。…小さな笛。
 意外な忘れ物だな。そう思って、胸元のポケットに滑り込ませた。


 *****


 メッティムさんが待ちかまえていた部屋に戻った。
 折れた剣と、剣士の亡骸が床に転がっている。
「あのときは急いでたけど、さすがにこのままじゃな」
 ロビンさんが遺体の居住まいを正して、剣の柄を手に持たせてやる。
「こっち。……このあたりにたしか扉が……」
 ミーナさんが示した位置を、あたしとフォルティナートさんで探る。…途中からロビンさんも手伝ってくれて、すぐに扉は見つかった。

 ………手が、止まる。


 この先に“アレ”がいる。
 その“アレ”を動かすことが出来る鍵も、ここにある。
 だけど……その“アレ”を今更動かしたところでどうなるの?
 万一、その“アレ”があたしたちに襲いかかってくるようなことがあれば……今のあたしたちにどうにか出来るの?


 ……ねえ。
「……どうしたんだよ、ちんちくりん」
「………この先に“アレ”があることは、ほぼ間違いないんだわよね、ミーナさん?」
「え? う、うん」
 了解。
「ん……で、これからどうする?」
 本当にどうするのかわからなかったから、あたしはそういってフォルティナートさんを見上げて、次にみんなをぐるりと見渡した。
「………どうするって?」
「その“アレ”をどうするのかって聞いてるのよね」
 
“アレ”
ロビン [ 2003/12/31 22:31:48 ]
 扉の向こうに“アレ”はいた。
俺達が部屋に入ってきても反応はないが、それは確実に生きていた。まるで眠っているように。

“アレ”をどうするのか。

きっと俺達が制御できるようなもんじゃない。しかし放って帰るわけにも行かない。だったら決まってる。
うっすら透けて脈打つ塊が見てとれる。ゆっくりと、魔剣を鞘から引き抜く。反応はない。

・・・・思えば“アレ”は大昔の魔術師がいろんな生き物を切ったり、繋いだり、剥がしたり、混ぜたり、溶かしたりして創ったんだよな。

こいつは何も悪くない。まだ何もしちゃいない。現に刃を向けられても何もしてこない。

お前は全然悪くない。でも、ごめんな。

俺は魔剣を振り降ろした。


村に戻ってたまった疲れを取りながら考える。アレはなんだったのだろうと。みんなから色々な説が出たが、最後まで推論の域を出ることはなかった。
例の小さな笛はまだ手元にある。
魔剣と一緒にオッさんの墓に置いてこようかと思ったけど、オッさんの迷惑そうな顔が浮かんでやめた。
一度だけ、吹いてみたい衝動にかられて音を出したことがある。その後はずっとしまったっきりだ。
そうだよ、“アレ”はもういないんだし、吹いたのはオランだし、大丈夫、だよ、な?
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 5:02:16 ]
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