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河の調査(Bグループ)
アルファーンズ [ 2003/12/05 11:48:07 ]
  河で妙ちきりんな魚が捕れたらしい。
 そうなると調査の依頼が出てくるわけで、もろもろの事情で賢者の学院から依頼を受けた。手頃な面子も揃ったところで出発したわけが。

「よし、噂の上流部に到着」
 妙な噂があるわりに、なんつーかこう穏やかな景色だ。
「見た感じでは変わったところはないよな」
 ・・・・・・清流だな。
「アレンさん、そんな川面をぱっと見て分かるほどなら苦労はしませんよ」
 そのために調査しに来たんだからな。
「ん? 何を用意してるんだ、ラディル?」
 さっそく調査開始か?
「釣竿ッス。昼食の費用を削減ッス」
 ・・・・・・・・・腹が減ってはなんとやら。

「っていうか、ヘンな魚がとれるのに釣りしようってのか?」
 釣り針にミミズをくっ付けながら、アレンが問う。
「いや、違うぞアレン。とれるからこそ、釣るんだ」
 ルベルトが指摘する。
「どういうことッスか?」
 ラディルも首をかしげる。
「ヘンな魚がとれるとは聞いてますけど、どのようにヘンかは聞いていませんよね? ですから、実際に釣れて実物を見れれば、何かわかることがあるかもしれないってことですよ」
 ナイスタイミングでホッパーの説明が入る。
『な、なるほど・・・・・・』
 どーでもいいけど同時に頷くなよ・・・。
「それに、フツーの魚が取れればラディルのゆーよーに昼飯にしちまえばいいしな」
 ・・・・・・なんだ、その目は。

 数十分後。
「うおぉぉぉ! マントが、俺のマントが釣れたぞ!」
 相変わらず、俺に釣りのセンスはないようだった。
 
兆候、そして現実
ホッパー・ビー [ 2003/12/06 3:14:57 ]
 ”ちゃぽーん”

浅めの川辺に蛙が飛び込む。
緩やかな流れに波紋が掻き消される。
其の先に数名の釣糸が垂れている。

”ちょぽ”

蛙がぴょこっと水面から控えめに目玉だけを出す。
其の姿に僕は。

「可愛いなぁ・・・」

思わずにへら、とする。

「そうッスね」

・・・ラディルさん、何時の間に僕の横に?苦笑い。
さて、冬にも関わらず、少し暖かな昼下がり。

ラディルさんとルベルトさん、そしてアルファーンズさんがが仰る様に。
皆さんの意見の結果、川魚の調査ついでに食料確保と相成りました。

『一矢二羽』

まぁ、一つの行為で二つを得る・・・と言う訳です。
何事もまずは実物を見ない事には、調査も何も始まりませんからね。

暫くはゆっくりとした時間が流れます。

「・・・釣れないぞー」
アルファーンズさんが不満げに呟く。

「慌てない慌てない。アルファーンズさん、釣りは気長に、きながーに待つッス!」
小岩の上でどーんと構えるラディルさん・・・その足元にはすでに参匹目の魚が。
今のところ、奇形な魚は釣れていない様子です。

「ふむ、どこをどう見ても、普通の魚だな。特に異常も見られない」
ルベルトさんがラディルさんの釣り上げた魚を一匹一匹見やる。

「ええ・・・ここまで来るの間、村人の話しからすると、上流に行けば行くほど、奇形も多くなるとの事でしたが・・・」
僕は木の碗で川の水を掬い上げる。
清み切って、透き通った水にしか見えない。

「けどよ、ホッパー。こんなに水が綺麗なのに、奇形が出るなんて信じられないな・・・っと」
隣で釣をしていたアレンさんが呟く。
そこそこに大きい川魚が一匹釣れて機嫌が良い。

確かに、水自体は特に異変らしい兆候は見せていない。
色があるわけで無し、油が浮いているような膜も、変な匂いもしない。

「だが、実際に奇形の魚は出ている・・・原因があればこその兆候。現に付近の村の中に、水を飲んで健康を害しつつある者もいる」
ルベルトさんが新たにラディルさんが釣り上げた川魚を観察する。
しばしの沈黙の後、軽く首を振る。それも異常は見られないようだ。

「”種植えずして花咲かず”・・・ですね」
僕がお爺さんから習った受け売りのひとつを呟く。

直後。

「よーっしゃぁ!!」
唐突にアルファーンズさんが叫ぶ。
誇らしげに持ち上げた釣竿の針先を指差す、そして皆の視線が集中する。

ぴちゅっ、ぺちゃっ。

「見たか!俺の実力!マントを釣るが、本命も釣る!」
岩場の上にその”本命”の魚が奇妙な体動で身をよじる。

頭と尻尾はなんら異常は無い・・・ただ、胴体は。
川魚の部位、特に鰭が幾重にも生え、身は普通の倍もある。
その長い身からは、ところどころに小さな尾鰭も生えている。
それが、力無く動くところが、おぞましさを増幅する。

「うぅ・・・」
ラディルさんがうめき、直後短く祈りらしい言葉を紡ぐ。
普段は見せない、嫌悪の表情が一瞬浮かぶ。

「へぇ・・・これが・・・気味悪いな」
アレンさんの顔が無表情になる。

「噂通り、いやそれ以上に、ここまで酷いものとは、な・・・」
ルベルトさんも流石に実物を前にして動揺している。

「い、一体・・・この川に・・・何が起きているのだろう?
あまりにも僕の想像を超えた”奇形”に、衝撃を受けた。

「幸先良い・・・とは言わねーが、これで本当である事を認識できたよな」
アルファーンズさんが皆を見る。
表情は・・・多少皮肉った笑みはあるが、真剣な顔だ。
アレンさんも、ルベルトさんも、ラディルさんも、僕も、黙って頷いた。

”ちゃぽん”

蛙だけが、何事も無いように水面を泳いでいった。
 
新たな謎?
アレン [ 2003/12/07 12:36:14 ]
 とりあえずこの川に変わった魚がいる事はわかった。
そんで、川に異常があるから調べるってんだろ?………俺は何をすればいいだよ。

「変な魚がいる事はわかった。それで、川の何を調べるんだ?」
遅い昼飯を食べながら前々からの疑問を口にした。引き受けたはいいけど、俺は護衛役ぐらいのつもりできたらかなぁ。
ちなみに、メニューはさっき釣った普通の魚とそれぞれが持ってきた保存食。
「考えられるところから調べるしかないだろ」
そりゃそうだ。あ、アル、それ二本目だろ。まだ俺一本しか食べてないのに。
「まずは川の水源でしょうか?他には……」
うんうん、確かにそうだよな、ホッパー。そう言えば、普通の魚って言ってもここで獲れたのなんて食べて大丈夫なのかなぁ?
「大丈夫だろう。川の水を飲んで害した者はいたが、それ以外は特に聞いてはいないからな」
さすがに俺とは頭のデキが違うなぁ、ルベルトは。で、食べても大丈夫なんだな。じゃ、これもらっちゃお。
「アレンさん、それオイラのっすよ〜」
んあ?……(モグモグゴックン)……ゴメン、ラディル。もう食べちゃった。代わりにこれやるよ。
「あ、いいんスか?それじゃ、遠慮なく頂くっス」
「お前等遊びに来てるんじゃねぇんだから少し静かにしてろよな」
そうだった。みんなで釣りをしに来たんじゃないもんなぁ。まぁ、でも、食事の時ぐら……あ、怒った。

とりあえず、昼飯が終わってこれからの事を考える事になった。
んで、さっき釣った魚から何かわかった事ってあったのか?
「魚を見ただけじゃなぁ………何かの魚と魚をくっつけて感じもしないでもないけどな」
まぁ、そうだよなぁ。頭と尻尾と胴体その他、別々に見えないことはないし。
「自然にああ言った形にはならないだろう。するとどこかに原因が必ずある。そして、その原因があるところはホッパーの言った水源が一番有力だろうな」
じゃ、これから水源まで行くのか?
「水源でなかったとしても、ここより上流部であることは確かですね。ここは流れが速いので上って来ることは恐らくできませんし」
りょーかい。それじゃ、荷物背負ってさっさと行こうぜ。

火を消して、それぞれが自分の荷物を持ってさらに上を目指して歩き始める。
その間も川面に変わったところは見られなかったし、ホッパー、アル、ルベルトの三人は考えたり話し合ったり。
とりあえず俺も少しだけ考えてみる。
川の水が変になったから魚が変になったんだよな。それで、その水を人が飲むと体調を崩すと。
………あれ?
「この川って魚しかいないなんてことないよな?」
我ながら馬鹿げた事だと思ったけど、口に出てしまった。
「そんな訳あるまい。魚だけの川など聞いたことも無いぞ?」
「でしょうね。僕は釣りをしている時に蛙を見ましたし」
「アホなこと言ってんじゃねぇよ」
「それがどうかしたんスか?」
うぅ………ラディル、いい奴だなぁ、ほんとに。

「えっと、だったら変な蛙だって見つかってもおかしくないよなぁって思ってさ」
………あれ?なんで俺のこと見てんの?
 
結局
ルベルト [ 2003/12/09 0:39:54 ]
 アレンの言葉を聞いて、思わず草を踏む足を止めた。そうか・・・その点については考えが及んでいなかった。
「なあ、魚以外に目に見える形で異常が出てるってゆー話、誰か知ってるか?」
「知らないっス、ホッパーさんは?」
「いえ・・・僕が調べた限りでは聞きませんでした」
アルファーンズの問いにラディルとホッパーが答え、俺も首を横に振る。ふむ・・・。

「ええと、それってつまりどういうことっスか?」
「ああ、原因を考える上で一つのヒントになるって事だ。つまりだ・・・」
「川の水を使っているのは魚と人間だけではないでしょう?」
ラディルに答えた俺の言葉を引き取るようにホッパーの説明が入る。
聡いのは大変良いが、俺の台詞を取らないでくれ。少々苦笑。
更にアルファーンズが続ける。
「蛙だけじゃねー。ここの草も、おそらく付近の村の作物なんかも水源は大雑把に言ってこの川のハズだ」

少し傾きかけた太陽の下、やや置いてアレンが口を開く。
「じゃ、この事件の原因は魚と人間にしか効果が無いって事か?」
「その可能性もあるが、俺が考えてるのは別の事だ」
「へー、何か思い当たったのか?」
「それはお前さんもらしいな、アルファーンズ。それにホッパーも。ここは一つ、同時に言ってみないか?」
ふふふ、賢者三人の意見が一致したらさぞ格好良いだろう。
せーの。
「誰かが実験の失敗作を川に捨てている」
「魚の産卵場所付近が特に汚染されている」
「まだ魚以外に影響が出るほど汚染が濃くなっていない」
・・・・・・・・・・・・ははは。ふと、寒風が流れた。

「・・・要するに、確かな事はまだわからないって事っスね」
そうだ。上手くまとめてくれたな、ラディル。
アルファーンズが手を頭の後ろで組む。
「まー、この他にも幾らでも考えられっからな。可能性なんてモンは」
ホッパーが改めて腕組みをする。
「ええ。それに、人間に影響が出たと言うのは気になりますね。普通の毒物等では考えにくい現象です」
アレンが肩をすくめる。
「結局このまま進むしかないんだな。ここより前には原因らしき物は見当たらなかったんだろ」
再び、俺たちは歩き出す。
改めて川を見る・・・川面が太陽の光をかき乱して底を見せまいとしているようにも思える。

実は先ほど気づいたが言わなかった事がある。
魚に奇形が出る場合、外見的な変化だけでは無いというのも可能性の一つだ。
・・・さっきの魚、大丈夫だよな。火を通した動物の肉は大抵食えるって話しだし・・・。
うーむ、少々安請け合いだったか?
「ん、ルベルトどうした?」
「いや、なんでもない。はっはっは」
寒風に乗って、烏が飛んで行くのが見えた。

「ん・・・ちょっと止まって下さい!」
しばらくの後、ホッパーが声を上げた。
素早くしゃがみ込み、枯れ草を丁寧に調べているようだ。
「あ、足跡っスね?オイラも手伝うっスよ」
そういった心得の無い俺たちは、少し離れてその様子を見守る。
「こんな場所にも人が来るんだな。盗賊だったりして」
「さぁ、わからんぞ。ま、そのときはお前さんたちよろしくな」

・・・ようやくホッパーが顔を上げる。
「足跡は複数。古すぎはしませんね・・・具体的にはちょっとわかりませんけど」
「どうやらあっちから来て、また戻って行ったみたいっス」
ラディルが指差した方向は、上流方面、ほぼ川沿い。その先にあるのは・・・森だろうか?
これが何かの手がかりになってくれれば良いのだが・・・。
 
眠る森、潜む牙
ラディル [ 2003/12/10 15:14:30 ]
 ありゃ?
変ッスねぇ……。
「どうしたと言うのでしょう、一体……」
オイラのすぐ横に居るホッパーさんも顔を顰めて落ち葉の上に目を凝らす。
「なぁ、変って何がなんだ?」
少し、ほんの少しだけ焦れたようなアルファーンズさんの声。
振り向くとアレンさんもルベルトさんも、怪訝な表情でオイラ達を見てる。
えー……っと……。
「足跡が途中から急に途切れているんです」
説明しようと言葉を捜していたオイラに代わって、ホッパーさんが口を開く。
大分進んだ森の中、少し開けた場所にオイラ達は居る。
「引き返したとか、別の道に入ったとか、考えられないか?」
落ち葉と枯れた下草の積み重なった地面の上に目を遣りながらルベルトさんが言う。
「そうかもしれないッス。でも……」
落ち葉をかき回して跡を消さないように気をつけながら、下草を掻き分けてルベルトさん達にも足跡が見えるようにする。
「ここです。ここまで、僕達が森に入って来てからここまではこう……、
足跡が、動物の足跡じゃない、靴を履いた人間の足跡が点々と、はっきり見えていたんです」
歩いてきた道を指差して、オイラの言葉を引き継いだホッパーさんが説明する。
森の腐植の上には、オイラ達が通ったときに付いた真新しい足跡の他に、少し崩れて分かり難くなってはいるけれども
目を凝らせばはっきりと判る靴の跡がいくつも残されている。
「でも、ここから先はふっつりと、引き換えした跡も方向を変えた痕跡もなくただ、言葉通りに途切れて無くなっているんです」
言って、ホッパーさんはオイラ達の少し前の地面を指で指し示す。
それまで点々と続いていた足跡は、言葉通りに途切れて見当たらなくなっていた。
「ねぇ、この足跡ってさ、この近くを狩場にしてる狩人か誰かが残したとか、そういう事は無いかな?
……あっ、ゴメン」
しまった、とばかりに慌てて口をふさぐアレンさん。
んー、その可能性も否定は出来ないッス。けど……
「確かにそれもあるかもしれないッス。ここまでシカか何かを追ってきて、仕留めたか、逃がしたかして、戻ったってコトも有り得るッス。
でもそれなら、戻るときの足跡や方向を変えたときの足跡が残っていてもおかしくは無いッスよね?」
「確かに、足跡を消すこと自体、出来ねぇコトじゃ無いしな」
頷き、アルファーンズさんが相槌を打つ。
「それにしても……」
後ろを振り返りつつアレンさんが呟く。
「思ったより深いね。もう何処から来たのか判んないや」
気付いたらかなり奥まで来ていたらしい。
オイラ達の居る、この少し開けた場所以外は、木々や蔦葛が幾重にも生い茂っている。
今は冬。葉をつけている草木は殆ど無いこともあってか、夏ほどには視界が妨げられない。
とは言え、鳥や獣、それに人間や妖精の姿を覆い隠すにはそれほど苦労はしないだろう。
「ねぇ」
再び、アレンさんが口を開く。
「この場所って……開けてるよね。見通しが良いよね。
こういう開けた場所って、獲物を狙うには丁度良い筈だよね?
邪魔な木は無いし。
そうだよね?ホッパー?」
あ……
「ええ。こちら側は身を隠せませんし、
こちら側、僕達は相手の姿を捉えることは難しいです、から」
心なしか張り詰めたような口調のアレンさんの言わんとしていることを察したのか、
答えるホッパーさんの口調もブリキが軋むようにぎこちないものになっていた。
「それにだ。ここはかなり深い場所だからな」
手にした杖を軽く振りながら、ルベルトさんも辺りの木々を見回す。
「喩え俺達がここで死んでも、そうそうは見つからないだろうさ。
ここに来るのは狩人か、そうでなきゃ俺達みたいな酔狂な冒険者どもくらいなものだろうからな。
それに……今回の事件が人の手によるものならば、調査する俺達の口を封じたく思う奴もいるだろうしな……」
「おい、武器を――、取ってるな」
声をひそめ、抑揚を抑えたアルファーンズさんの科白を合図に、背中合わせに円陣を組んで辺りの木々に目を凝らす。
木々が天に伸ばした枝の間から日の光が差し込む小春日和の森。
風が時折木々の裸の枝を揺らす他にはさして音の無い、静かな森。
平和で、静かだけれども、何か違和感のようなものが漂っている気がした。
ごくり。
誰かが生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。
 
偵察・小手調べ
メッティム★ [ 2003/12/10 23:20:24 ]
 「へへへ。旦那。見事にあいつ等ひっかりやがったぜ。」
共に偵察に出た男は、横で潜んでいる私に声をかけてきた。
「たしかに・・・な。」
「け。女連れじゃねえし・・・どれも金とか持って無さそうだ。旦那。殺っちまうか?」
顔合わせの時から思ったが、欲望に忠実な男だ。好む・好まざるで言えば、好まざるの部類にはいる輩だが、それでもあの高慢な女魔術師や陰険な司祭に比べればずっとマシだ。
共に行動する人間に大いに不満はある。だが、受けた仕事である以上は傭兵としてその職務を忠実に果たす。それが私の信念だ。

しかし・・・5対2か。思わず舌打ちしそうになる自分を押さえる。
確かに相手に魔法を心得た者が居なければ、こちらの人数は少ないが不利は感じない。
だが・・・首からマーファの聖印を下げたドワーフ。ローブを羽織り杖を持った男。
神官と魔術師と考えて問題はあるまい。
この二人がどれほどの技量か分からぬ以上は、二人で仕掛けるのは避けたいところだ。

仕方がないが・・・コレに頼らざるを得ないようだ。コレで最低でも戦力が見極める。運が良ければ、戦力を削る事も出来るかもしれない。

私はそう思い、隣の男に合図を出す。男は懐から小さな笛を取り出し軽く二度吹いた。

数瞬後、それらは一斉に彼らへと躍りかかった。
 
一矢
ゲイリー★ [ 2003/12/11 2:21:34 ]
 ん〜、派手に暴れてくれるね。
さすがはお嬢が目をつけたモノだけはある。
欠点を強いて言うなら、もとが普通の魚だけに、水辺からあまり離れられないことか。見た目もよくない。グロテスクだ。
あぁ・・・可哀想に。それでも怪我はするんだ。こんなことなら、いっそひとおもいに切り裂いてやったほうが慈悲というものだよ。
そうだろう?
ま、女がいないだけ救いだったよ。
女の悲鳴なんてのは、生身の付き合いででもなければ、聞くに耐えない。くくく。

あぁ、ヤツらの技量?
不意打ちであんな気味の悪いモノが襲ってきたんだ。計るもなにも、あったもんじゃない。
それに、あいつ等はもともと、そんなに強くないだろうな。
ここであんたが出て行けば、簡単に潰れる。そう思ってていいんだろう?
まぁ、後ろから矢を射掛けてやらないでもないけど。くくく。


メッティムってぇ、この男。
気に入らないねぇ。
何を言っても、何をしても、顔色ひとつ変えるでもない。何を考えているのかも読めない。
何が一番気に入らないって、馴れ馴れしく俺のお嬢に声をかけてきたことだ。
それでも、あの陰険な神官よりはマシか。何かというと、お嬢の研究に興味を示す。口を挟む。
まったく、お嬢と同じ空気を吸ってんじゃねーや。


今頃、陰険野郎はお嬢とあの場所に二人きりだ。早いと戻らないといけないな。だいたい、雰囲気が悪くていけないよ。野郎ばっかりひとっ所に集まるなんて。
そうそう、旦那。ちょっと頼みがあるんだけどな。旦那の損にはならないことだから聞いてくれよ。入り込んで来ている冒険者は、こいつ等だけじゃないんだ。いーぃ女が混ざってる別の一隊もいる。だから、そっちは前みたいに皆殺しにしないでくれよ。
お〜け〜。わかった。あのドワーフに矢が当たれば、その女は俺にくれるんだな?
約束だぞ。


弓を引き絞る。
狙いは、ドワーフ神官の背中だ。
 
ファーストコンタクト
アルファーンズ [ 2003/12/13 2:41:27 ]
 「だー、くそ、気持ち悪ぃ!」
 槍を突き出す。「それ」の皮膚は想像以上のぬめりで、穂先が滑ってしまう。
「くそっ、ほんとに魚か、こいつ!」
 アレンの振るうハルバードは、陸上の「魚」を相手にしている割に、空振りが多い。てゆーか、これを魚と形容してもいいものだろうか。
 さっき吊り上げたのよりも、ゲテモノ然とした「魚」。足の生えたのが、地面を蹴って噛み付いてきたり。どこぞの海にいる、泥の上を這いまわるとかゆー魚がそのままでかくなったみたいな奴とか。ウツボみたいなのがそのまま巨大化したのとか。トゲトゲの生えた鱗の奴とか。
「魚というより、あれですね。なんと言いましたっけ・・・・・・文献で読んだ記憶があるんですが」
「そんなことよりも、まずはこいつを撃退するべきだろう」
 ルベルトの《光の矢》の魔法が炸裂する。すでに《不可視の楯》の魔法を使っているし、これ以上使いすぎるのも何だが、これがまたヘタに殴るより結構有効なわけだ。槍を受け流したぬるぬる魚を一匹どうにかしとめられた。
「一匹片付いたなら、こっちもよろしくッスよ!」
 上手く魚の突進を回避しながらラディルが叫ぶ。回避に専念しているだけあって無傷でいてはくれるが、囲まれると厄介だな。
「任せろ!」
 突進を回避されてびちびちと地面を跳ね回る魚に槍を突き立てる。硬い鱗が何枚か剥がれ、どうにかダメージが通ったって感じだ。

 そのとき、かすかに聞こえた風切り音。これは・・・・・・矢だ。
「しまった、伏兵かッ!」
 気付いたときにはすでに遅し。警告する間もなく、それはラディルの背中に突き刺さった。
「ラディルさん!」
「まずいぞ、癒し手が・・・・・・!」
 ホッパーとルベルトが慌てて駆け寄るが・・・・・・。
「・・・・・・あー、ちょびっと痛かったッス」
「・・・・・・大丈夫なのか?」
「はいッス。でも、ちょっと血が出てるかも知れないッスね」
 いや、矢っつーのはヘタすりゃ板金鎧も打ち抜くもんだがな・・・・・・。
「あー。背負い袋に付けておいたほうの聖印が割れてるッス・・・・・・」
 ・・・・・・つまりそのおかげか。さらに、鎧と防御魔法の相乗効果、ってか。

「ま。ともかくだ。隠れてねーでさっさと出てきな!」
 楯を前面に、油断なく構えて大声で言い放った。
「それよりこっちも手伝ってくれー!」
 アレンはまだ魚と格闘していた。
 
嘲笑うモノ 真相近くを遠く
ホッパー・ビー [ 2003/12/15 0:30:15 ]
 「つぅっ!」

 アレンさんが左腕に”魚”に噛みつかれて小さく悲鳴を上げつつも、必死に振り落とそうと、”魚”の頭部を地面に叩きつける。

「びゅほっ」

 地面に叩きつけられた勢いで口が開き、アレンさんの腕から離れる。不気味で湿った、表現し難き奇声を発して頭部が歪む、そして無表情な眼が半分はみ出す。
 だが、それでも起き上がろうと、足をぎこちない動きで地面を強く蹴る。

”ざしゅ”

 間髪入れずアルファーンズさんが鰓の部分に槍を突き立てる。

「させるかよっ!」

 力の限りで槍の穂先を捻り、逃れ様と暴れる”魚”を自由な足で抑えつける。

「どこだ・・・」

「背中からとは卑怯っす」

 僕とラディルさんは、伏兵と思われる存在を探そうと周囲を警戒しつつ、それぞれの武器を構えなおす。

・・・しかし、時既に遅し。

「逃げられたか」

 魔法の使い過ぎで一度に疲労したルベルトさんが小さく呟く。顔の表情はかなり辛そうだが、それでも杖を構えていつでも魔法を使えるようにしている。

”び、びゅ、ぜひゅ、ぐひゅっ・・・ぴきぃぃ”

 最後の一匹の、虚しい鳴き声での断末魔が晴れ渡った空に吸い込まれていく。



「痛てて・・・」

「我慢してくださいッス。幸い、傷は浅くて良かったッス」

 ラディルさんがアレンさんの手当てを手際良くこなす。少し強めの酒で傷口を洗い、持ってきた傷の薬を塗布し、さらし布を強めに巻きつける。

「はい、終わりッス。これぐらいしておけば化膿する事は無いと思うッス」

 ラディルさんが笑顔で自信満々に言う。野伏の基本的な技とはいえ、僅かな間に応急処置をこなす手際に僕は感心した。

「ん、ありがと。でも、癒しの魔法を使えばあんまり痛くないし早いだろうに・・・」

 アレンさんが苦笑する。

「癒しの魔法は確かに便利ッス・・・けど、いくら便利だからってオイラが何度も使える訳では無いッスから」

 ちょっと申し訳なさそうな顔になってラディルさんが答える。

「うん、そーだな。ま、こっから先、予想外の事態で本当にラディルの”癒し”が必要になるかもしれねーだろ。其の時に気力の使い過ぎで”もー使えません”じゃ、本当に困るからな」

 アルファーンズさんがアレンさんの後ろで頷く。僕の下手な応急手当で手に巻いた包帯代わりのさらし布がヒラヒラとなびく。

「・・・ま、ホッパー、だからもうちょい上手くやってくれ」

 僕も思わず苦笑い。皆が少し笑う。

「よし、ちょいとボロボロになっちまったが・・・」

「反撃、だな」

 ルベルトさんが、疲れた顔を笑顔にして言う。ラディルさんが、アレンさんが、アルファーンズさんが・・・そして僕も、其の言葉に頷く。

「その反撃の糸口の為にも・・・二人とも、本腰入れて、しっかり頼む」

 ルベルトさんが僕とラディルさんの肩を軽く叩く。僕とラディルさんはお互いに顔を見て頷く。

「任せてくださいッス。聖印壊されて、不意打ちされた事もあるッス・・・流石にオイラも気合入ったッス!」

「ええ、もちろん。逃げた相手の足跡、絶対に探し出してやりますよ」

 矢が飛んできた方角の森へと、僕達は分け入っていった。



 一刻ほどして・・・僕は相手の実力が一枚格上であると認識せずにはいられなかった。相手の痕跡を探すのに思った以上に苦労したからだ。時にわざと痕跡を残したと思えば、簡単な罠、例えば枯草の陰に盛り土や石を使った”転ばし”や、落ち葉の下に隠した木を鋭く尖らせた”足刺し”に誘い込まれそうになった。
 僕だけであったら確実に避ける自信は無かった。ラディルさんの的確な野伏の勘と観察力が無かったら、今ごろ不要な怪我でさらに僕達は足止めを食らうところだった。

「・・・手強いッス。どの罠も、即席の材料で・・・しかも、短い期間なら下手な人工の物よりも有効かつ効果的、そして上手く自然に溶け込ませてあるッス」

 ラディルさんが慎重に罠を露呈させる。追跡の為とはいえ、痕跡に予想外に振り回され、森の中を歩き回った僕達。明らかに相手は、この手の行為に通じている。

「戦争に慣れて、そして小人数で大勢の相手を難なく翻弄するほどの技量の持ち主・・・か・・・」

 長い期間ではないが一時期傭兵だったアレンさんが罠を見て呟く。言葉尻が小さいのは、相手がそれほど手強いと傭兵としての本能で感じ取った所為だろうか。

「そう。そして、同時に今の我々は遊ばれている」

 ルベルトさんが悔しそうに、だが冷静に言う。

「舐められたもんだぜ・・・くそっ」

 アルファーンズさんが露呈した罠を睨んで拳を振るわせる。散々歩き回されたのが余程悔しい様だった。

「・・・ですが、即席とは言え、これほど罠があると言う事は・・・僕達に近付いて欲しくない場所が・・・」

 僕は罠の先にある、枯れかけた茂みと蔦の先を見る。痕跡は右へ下っているが、心の底ではそれが誤導させるものだと確信が沸いてきていた。

「肉薄してる・・・って、ことッス」

 僕の考えと同じなのか、ラディルさんが僕を見て軽く頷く。

「じゃぁ、後は・・・さっさと、近付いて欲しくない場所に行ってやろうじゃねーか」

 アルファーンズさんが槍を構えなおす。

「ああ。緊張してきたけど・・・こう言う時は、相手に不足無しって言うのかな?」

 アレンさんも同じように構えなおす。

「よし。だが、気は抜くな」

 ルベルトさんが皆を見て笑む。

「このまま真っ直ぐです。蔦は踏まない様にして・・・」

 皆の気合が高まった所で、僕が張りきって先導し様と一歩踏み込む・・・体が、浮いた。

「あっ!」

 ラディルさんが僕に手を伸ばす。しかし、間に合わない。僕の足元から地面が消え、獣のように口を開けた。皆の顔が見えて、見えなくなった。

”どすん”

 ・・・思いっきり打った体が悲鳴を上げ、しばらく僕は声が出なかった。そして思った。

(後ろに!後ろに何かが!)

 直後、嫌な奇声、金属と堅いものがぶつかる音が、そして金属を力任せに削る様な音が聞こえ出した。

”ぐぇ、ぐぇ、ぐぇ”

 痛くて立ち上がれない無様な僕の前に、蛙がいた。そしてその後ろに・・・人のような影が横たわっていた。

(人?)

 アルファーンズさんとアレンさんの雄叫びと、ルベルトさんの魔法を紡ぐ言葉と、ラディルさんが必死に僕に呼びかける声、あの奇声・・・全てが耳に入ってきた。

 しかし、僕には目の前の”モノ”に恐怖を感じた。そして悲鳴を上げた。
 
チャンスか、それとも
ルベルト [ 2003/12/17 0:58:38 ]
 ホッパーが目の前から消失するとほぼ同時に、茂みから飛び出してきた”魚”が襲ってきた。
俺たちが追ってくるのを想定してここに配置をしていたのか・・・それとも、”敵”の本拠地近くならば警備をさせていた可能性もある


いずれにせよ、相手の戦力は予想以上に豊富なのだろう・・・まずいな。

ラディルはホッパーの名を呼び続けている。どうやら生きてはいるようだが、まだ動けないらしい。
「二回も同じ手を食うかよッ!」
アレンが噛み付こうとした”魚”を素早く後退してかわした。開いた口にハルバードを突き込み、雄叫びとともにそのまま振り抜く。
鋼が、強烈な摩擦音を立てる。さらにアルファーンズの一撃が鱗を弾き飛ばす。
俺も前衛を援護しなくては・・・めい一杯意識を集中し、杖を掲げる。世界が目の前に集約されるような感覚・・・。
その時、誰かの悲鳴が、聞こえて、きた。

誰か?・・・ホッパーの悲鳴じゃないか!
集中が乱れ、足がふらついた。畜生・・・詠唱を中断する。こんな事なら研究室の魔晶石を一つ二つでもかっぱらってくれば良かった。
「どうしたんだ!」
「下に何かあるみたいっス。ここからじゃ良く見えない!」
「さっさとこいつらを片付けるのが先決だ。急ぐぞ!」
その通りだな、アルファーンズ。俺は魔力を矢にして、相手に叩きつける準備を始めた・・・惜しんではいられないだろう。
ラディルは穴の中・・・おそらくホッパーに向かって詠唱を始め、戦士たちの攻撃はよりいっそう鋭い物になったように見えた。

午後の太陽の下、もともと枯れ草だらけで飛び出してきた”魚”は、今はその身に更に自らの血を纏わせて横たわっている。
木にもたれかかりながら見るその光景が、あまりにも非日常的に見える・・・冒険者としてこんな事を思うのは妙だろうが、そう言うの

が今の気持ちに合っている。
穴のそばに座ったアルファーンズが、ホッパーに呼びかけている。
「おーい、大丈夫かー?何があった?」
「ええ、ラディルさんの魔法のおかげで大分楽になりました。来てみればわかりますけど・・・これは」
ホッパーの声は幾分か揺れているようだ。台詞の最後の方は、幾分か嫌悪が混じっているように思える。
要するに、下にはどうやら遺跡があるらしい・・・そして、そこで今回の事件の原因に関係ありそうな”もの”を見つけたと言うのだ。
今のところ周囲に気配は無いようだ。一度降りて”それ”をみてみる事にした。
ロープを使えば、時間はかかるがそれなりに安全には降りる事は出来るだろう。

ラディルとアレンにとりあえず上に残ってもらう事にした。
木の根にロープをしっかりと結わえ、アルファーンズが先ず慎重に降りていく。
「楽勝、楽勝。ルベルト、落ちたって受け止めてやらねーからな(に)」
くっ・・・誰が。と意気込んだものの、着地に失敗してしりもちをついてしまった。うう、俺って情けない。
ホッパー、お前さんまでまで笑うことは無いだろ。

中は部屋状で湿っぽく、通路に繋がっているようだが風が吹かないせいか妙に暖かく感じた。
床には何かの残骸らしき物が散らばっている・・・石や土、あとガラスのように見える。
「どうやら、古代王国期のもののようですね」
まだ体を動かすと痛むのだろう。ホッパーの動きはやや硬い。
「そーだな。そしてこれが・・・」
アルファーンズはそこで台詞を切って、腕を組んだ。
薄暗い中で、こんなものを見つけたら俺だって冷静ではいられないだろう・・・。
松明とランタンの火明かりに照らされた”それ”は・・・腐りかけたミイラとでも言えば良いのだろうか?
気分は良くなかったが、俺はもっと良く確かめるために近くに寄った。

長い年月で乾いたものが、最近穴が開いて湿気が流れ込み腐ってしまったのだろう。
だが・・・問題はそこではない。
目の前にある”モノ”は人間と魚を無理にくっ付けたもののようだ。
干からびて溶けかけたその顔は、人間と魚のパーツをめちゃくちゃに貼り付けたように見える。
揺らめく炎の光を受けて、俺にはその顔が絶望に歪んでいるように見えた。

部屋にはその他にも、俺たちがさっき戦ったのと同じくらいの大きさの魚の大昔の死骸があった。
どうやら”敵”はこの遺跡を利用しているのだろう。
落とし穴としてこの穴を使ったのが偶然だとしたら・・・これは思いがけない反撃のチャンスになりうるかもしれない。
俺たちは、このままこの地下を進んでみる事にした。

アレンを下ろし、ラディルに地上のロープをカモフラージュしてもらい、”落下制御”で下りてこさせる。
部屋を抜け、通路に入ったその先には・・・。
 
準備
ベアトリス★ [ 2003/12/17 22:33:49 ]
 さて、と。どうしようかしらね。少々……ええ、ほんの少しだけ。鬱陶しくなってきたわね。
ここに近づいている冒険者どもは、どうやら2組。

ゲイリーがにやついた顔で報告してきたのは夕方。
「“穴”に落としてきたぜ。その後、その仲間らも入ったようだ。付き合いのいいこって。……手間ぁ省けていいだろ? な、どうよ、オレの仕事は」
……そうね。まぁ、悪くはないわね。

彼が落とし穴に使った場所は、処分場。
それは私達が入る前……いえ、私達が殺した冒険者たちも入る前。
ずっとずっと昔、この遺跡がまだ神殿の付属施設として役立っていた時からの、処分場。
兵隊を作るために、繰り返された試行錯誤。
失敗したものは処分場へ。生きているモノも生きていないモノも。

こちらから、処分場へと放り込むことは出来る。けれど、向こうから、この施設へは入れない。
完全に一方通行の扉。……ふふん、そうでなければ、処分場としてなど使うわけないわよねぇ。
落とし穴として使った、地上への穴がひとつあるけれど……そうね、そこから火球の魔法なんか飛ばしてみたら、どうなるかしら? うふふ。

あの、目つきの危ない神官が、ミルリーフ様の兵隊を……と呟きながら、私達が殺した冒険者の死体をゾンビにしていた。全部ゾンビというのも、ちょっとつまらない。だから、私はそれを使って骨従者を作ってみた。
それらが、あの処分場には居るはず。入ってきたモノを殺せ、と命令してある。

「ナオンがいねぇんだ。ヤっちまっていいじゃねえか。もうひと組はいい女が紛れてっけどよ」
ゲイリーの言葉は、単純で正直で。
……そうね、異論はないわね。

この遺跡にあった薬を使って川の魚を変化させたのも面白かったけれど……レシピから私が作ったものはまだ不完全。
……ああ、そうだ。どうせなら、次に死体が手に入ったら、変化した魚と合成してみるのはどうかしら。確か、そんなレシピもあったはず。
正義を気取った冒険者どもは鬱陶しいけれど、でも、そうね……ちょっと楽しくなってきたかも。

もうひと組のほうも、そろそろ追い込まれてくるかしら。ゲイリーが様子を見に行ったけれど。
先に迎えに行っているのはメッティムだから……1人2人減っているかもねぇ。
それに……ひょっとしたら、メッティムよりもたちの悪い女が先に行ってるし。


がらがら、と、無造作に大粒の魔晶石を幾つか掴み上げて、私はそれをポーチへと入れた。
同じものを、神官にも渡す。似たようなものは他の3人にも持たせてある。

──そろそろ行くわよ。ミルリーフ様への礼拝とやらはまた後になさいな。
 
肉塊をこね回す邪神官の使い魔が女魔術師について行くこと。
インプ★ [ 2003/12/18 20:22:03 ]
 ダメですよ姐さん。
高慢な女魔術師の首に尾を巻き付けて、俺は言った。
女が呼び掛けた先には主人がいる。主人は気が狂ったようにぶつぶつと言っている。

「そんなモノが私に効くと思ってるの?」
尾の先についた毒針を見て鼻を鳴らした女に視線を戻して、尾をその首から外した。

いえね、主人は今大事なトコだから邪魔しない方がいい。
姐さんも種を植え付けられたくはないでしょ。
こんな距離、主人はすぐに詰めてくる。

「……主人に似て嫌な使い魔」

ま、僕がついていきますから。
大丈夫。苦痛など与えずに終わります。
そうせねばならない教義ですからね。ミルリーフ、様は。ぷぷ。
姐さんが終わらせてくれるンでしょう。
と、好みがいれば、丸焦げにせずに連れ帰りましょう。私なら出来ます。役に立ちます。

と、突然主人が立ち上がって、笑い始めた。
笑いながら自分の耳をナイフで削ぎ落とし始める。
そして削ぎ落とした耳を、目の前の肉塊に放り入れた。

「ちょっと?何を――」

放っておきましょうよ。インスピレーションに従ってるのを邪魔しちゃ悪い。
さぁ、行きましょう。ゾンビ、骨、それにあっしが姐さんの従者。
ゾンビと骨は先に行っちゃってますけどね。例の処理場。
しかし、骨作ったら、肉が残っちゃいましたねぇ。ここに持ってきてありますが。
まぁ、この肉は丸めて団子にしちゃいましょう。食ってもよし、使ってもよし。
使うって、ほら、こうべろべろーん、と。皮着たら人に見えます?あ、羽根が邪魔。
ま、何にしても文字通り骨抜きにされちゃってまぁ可哀相。

「軽口はやめなさい」

はいへいはいほ〜い。あ、見えてきましたよ、穴が。
中見ます?え?いい?
ああ、そんな。いきなりですか。
ああ、もう、せっかちなんだから。
ああ、好きですね、それ。
ああ、見てるだけでもう、火照っちゃいます。
ああ、火が。
ああ、球が。

轟音。

ンン〜〜。イい。
倒れる人影。1つ?2つ?煙で見えない。
確認しに降りましょう。吾輩、羽根ありますし。
 
炸裂する天 崩壊する地 暗転する空
ホッパー・ビー [ 2003/12/19 22:34:11 ]
  爆発。

「火球!?」

 ルベルトさんが短くも其れを正確に判断した。

 凄まじい轟音、灼熱に焦げる空気、膨れ上がる衝撃波。僕は、いや皆は、唐突に其れに巻き込まれた。

「な・・・」

 誰かの発した疑問の言葉は強制的に、否応無く中断した。いや、聞けなかった。
 前にいたアルファーンズさんが、ルベルトさんが、隣にいたアレンさんが、ラディルさんが視界から消える。いや、僕は吹っ飛んだのだ。

 声が出ない。熱い、体中が灼熱に焼かれる。同時に壁に叩きつけられ、呼吸が出来なくなった。目の前が暗くなる。

 暗転する。

”からから”

 天井から崩れたのか破片が僕の上に降り注ぐ。周囲は煙と舞い上がった塵芥で視界は塞がれていた。

(あ、れ?)

 喉から血が昇って咳き込む。ほんの僅かな間だけ、自分が気を失っていた事に気付いた。次に体中が一斉に痛みを訴える。悲鳴が喉まで出かける。

(み、なさ、ん・・・は?)

 辛うじて体が動く事を確認し上体だけを起こす。未だ燻り燃える炎が煙に邪魔されつつ、斑に室内を照らす。遺跡だった室内は半壊し、ほぼ原型を留めていなかった。

 僕の視界からでは充分に見えない。皆の無事を確認しようと、もっと身を起こそうとした其のとき。

”ばさ、ばさ、ばさ”

 煙を掻き分けて、小柄で尻尾と羽根のある何かが舞い降りてきた。崩れ落ちてきた岩の上に立ち、実に愉快そうに鼻歌を鳴らす。周囲の小石などを蹴って、遊びのように何か・・・たぶん、僕らを探している。

「インプ・・・だ」

 小悪魔、魔界の子、邪悪の使い魔、狡猾な闇子・・・呼び名は数あれど、全ては的確に其れを示している。
 比較的弱い悪魔とされているものの、初歩の妖術を使うとか、時には誰かの使い魔として使役されていたりすると記憶している。また自身の尾には毒針があると油断ならない。

「けけけっ」

 見つけたとばかりに、嬉しそうな声で何かの焦げた塊にたどり着く。尻尾を振りかざして先端の針で軽く突付きはじめる。全く反応がないと判断したのか、今度は蹴りだす。それでも何も動かない。

(まさか!)

 嫌な想像が頭をよぎる。しかし、だったら・・・許せない、そう思った次に僕は弓に矢を番えて、インプに放っていた。自分でいつ、弓を手に持ち、矢を矢筒から引き抜いたかは分からなかった。

”ぎゃひぃ!?”

 塊の上からインプが矢を受け転げ落ちた。だが、致命傷ではなかったようだ。すぐさま、僕に飛び掛ってきた。小柄なわりに僕一人をいとも簡単に押し倒す。同時に長弓が尾に弾かれ、隅に飛ばされる。

”しゅひぃ、ずーしゃ”

 矢で受けた傷に怒り、僕を見つけた事に喜び、表情は歪んだ笑みだった。だが、目の前に玩具を見つけた無邪気な子供のように無邪気でもあった。

「この距離なら!」

 腰の小剣を慌てて振りぬくも、読まれていたか、また尾に弾かれる。愉快そうに嘲笑う。手の爪で僕の頬をなぞり、首につん、とする。もう、持てる武器は無い・・・と言わんばかりに勝ち誇った笑み。

(殺される)

 そう思った。
 そして誰かが叫んだ、インプが振り返った、何かが空を切った。
 
脱出!
ルベルト [ 2003/12/21 16:04:08 ]
 「ホッパー、左に転がれッ!」
誰の声・・・アルファーンズか。俺は・・・・・・まだ生きてるようだな。体のあちこち、いや・・・「どこ」が痛むのかわからないく

らい痛みが全身に広がっている。これが”火球”か・・・。ひとつ、頭を振る。
目を開くと、爆煙の向こうに骨の怪物がホッパー、あるいはその近くに居る「何か」に向かって腕を振り回している光景が目に入る。
激しい痛みと共に、一気に意識が鮮明になる。あいつらッ!
「その化け物がそいつに構ってるうちに、ルベルト達も早くこっちに来るっス!」
俺は必死で立ち上がり、意識が遠のいても手放さなかったらしい杖を確かめ、既に起きている仲間の方へ向かった。

「骨」(俺も正体は知らない。もしや、話に聞くゴーレムの一種ではないかと考えている)とゾンビ(こっちは判った)は派手に動くイ

ンプに気を取られている。仲間も全員・・・焼け焦げ、火傷だらけとは言え何とか生きている。だが・・・。
「で、これからどうするっスか?」
ラディルが口を開いた。”負傷治療”を俺たちにかけおわり、相当消耗していると思われるがその様子は表からは伺えない。

ラディルの言葉は、俺たち全員の思いを表していると思う。
弓と槍、持っているものは異なるがアルファーンズとホッパーは似た格好で腕を組んでいる。

下にはあの「骨」とゾンビ。通路らしき先に居たのはそいつらだった。
撤退しながらゾンビを一体倒す事に成功したが、あの「骨」の強さはかなりのものだ。で、この部屋にまで後退したところで”火球”を食らったわけだが・・・。
はっきり言って、今の状態で戦って勝てるかどうかはかなり疑わしい。
おまけに、上には魔術師が居る。つまり・・・戦っても勝ち目は、ない。

敵がこれ以上の魔法を撃ち込んでこないのは、単に爆煙が邪魔で正確な位置特定が出来ないからだろう。
暗黒神官でもあるのなら、あのインプが使い魔だという可能性はあるものの・・・賢い魔術師ならこの状況で自分の使い魔を危険な場所に送ったりはしないだろう。結局どうなろうと、この爆煙が晴れた時点で俺たちの死亡はほぼ決定だ。更に悪い状況もありうる。

多分、この点についても皆大体考えは同じだろう。下からの火の明かりに照らされ、全員が不吉な予想をしている事をまるで強調しているようだ。

全力での回避の努力も空しく、インプは小剣を持った「骨」に腕を切り裂かれたようだ。そっちももう長くない。
奇妙なものだ・・・あんなものが、俺たちの命をつなぐとは。派手に動き回るのが、よほど奴らの気を引いたらしい。
だが、後列のゾンビが俺たちの方に向かって来ている。

くそっ。魔術師の名を汚すようなヤツを前(上?)にして・・・打つ手なしとは。むしゃくしゃして、考えるのを止めた。
 
そのとき、視界の下で小さな灰色の何かが跳んだ。
ああ、蛙か・・・どうやって生き残ったやら。灰だらけで・・・早く洗い流さないと、お前さんももう長くは無いな・・・。時間が、ひどくゆっくり流れているように感じる。
ぴょんと一飛び、壁の方へ飛んでいった。俺たちが”火球”の攻撃を受けた辺りだろう、崩壊がひどい一角の方へ。自殺行為だぞ・・・。
・・・・・・蛙に話しかけるとは何をやってるやら、俺は。

その時。

「あの蛙、多分さっきのです・・・・・・あ。もしかしたら!」
ホッパーが急に呟き、叫び、走り出した。俺たちも後を追う・・・一体どうしたんだ?

「あの種類の蛙は、日当たりの良い水場のすぐそばじゃないと見つからないんです!」
「え、ここは川から離れた場所ッス。そんな水場もなかったし・・・」
「そっか。てー事は、少なくとも蛙が入り込める入り口があるってゆーワケだ!」

有った。

あの魔術師の”火球”は確かにすばらしい威力だった。小さな割れ目しか見つからなかった壁には、いまやおおよそ三角形の穴が空いて

いる。
残念な事に人間(及びドワーフ)が入るには少々小さいが、何とか広げることは出来そうだ。

「水がゆるやかに流れてるッス。静かに、下流へ向かって。進むには水に入るしかないッスけど」
「ああ、でも俺たちが逃げるにはそこしかねーな。時間もねー」

インプの断末魔が響く。魔術師が何か言ったのが聞こえる・・・インプ語だろうか?
そして近づく、骨のなる音。

「俺達で食い止める。お前ら、早く穴を拡げろよっ!」
言うと同時にアルファーンズが、槍でゾンビを押し返す。

叩き壊す。砂礫を放る。またひびの入ったふちを叩く。

避ける。はじき返す。今度は力一杯押し返す。

そして、実際には短くとも、俺には途轍もなく長く感じた必死の時間の後。

「みんな、早く入るッス!」
小さいが鋭い声で最初に入ったラディルが呼ぶ。その手を借りて俺とホッパーも急いで駆け込む。
残りは戦士だ。俺たちを隠してくれていた煙も、もう心許無い。ならば・・・。
「ラディル、俺が魔法を使ったらすぐに前衛を引っ張り込め!前衛、暗くなったら後ろに手を出せ」
それだけ素早く言ってから、俺はすぐさま詠唱に入った。正体はわからずとも、人型の怪物には効く事が多いはずだ。
さほどの間をおかずして、穴を中心に”暗闇”の球体が完成した。

「動きが止まったッス!・・・こっち・・・えいっ」
暗闇の中からラディルの声が聞こえる・・・ほどなくしてラディルと共にアルファーンズとアレン、両名の姿が現れた。
鎧にはひどく傷が付き、血を流していたが、何とか大丈夫そうだ。
「今回はしゃーねー、急いで撤退するぞ!」
奮戦に息を弾ませたアルファーンズの声を合図に、俺たちは水を跳ね飛ばしながら下流へ向かって駆け出す。
背後から聞こえてきた軽い衝撃音は、石が落ちた音だろうか、それとも・・・頭をひとつ振って、希望的な観測を振り払う。
「骨」たちが追ってこなかったのは幸運か・・・あるいは・・・。

しばらく後・・・。

「あいつ、今に見てろ。戻ったらコテンパンに・・・」
「死体をあんなふうに扱うなんて、酷すぎるッス・・・。絶対にやめさせるッス」
「ただ戻ってもダメです。何かいい方法を考えないと。それに敵は一人ではないですし」
「少なくとも罠を仕掛けた者、魔術師、暗黒神官。・・・全て実力があの魔術師に匹敵するとすれば・・・」

流れは依然遅いものの、水深は深くなっていく。
もうしばらく後・・・。

「風は・・・吹き抜けてませんね」」
「そうッスね・・・これはもしかして」
「それ以上ゆーな」
「・・・とにかく進むしかあるまい」
「そうだな」

その更に少し後・・・。
「・・・」(以下同じ)

俺たちの目の前には岩壁。済んだ川の水はその岩壁の下をくぐって行く。だが音からすると急な流れは近い・・・おそらく、外だ。
「さぁ・・・潜ろうか」
「その前に、水袋と布を使って火口箱を包んでおきましょう・・・他の可燃物も」

幸いな事に、外までの距離はそう長くはなかった。これなら大荷物も、何とか取り出す事が出来るだろう。

川底に開いた穴から出て、ふちを蹴り、一気に水面へ出る。
近くの岸に取り付き、もうすっかり明るさをなくした空を見上げたびしょ濡れの俺は・・・とりあえずため息をつこうとした。とんでも

ないことになったものだ、と。
「へいっっくしょん!」
・・・実際に出たのは、くしゃみと鼻水だったが。
 
めぐり会い
アルファーンズ [ 2003/12/22 17:20:05 ]
  どうにか逃げ出せた。今、ここに立って太陽の光を浴びていられることが不思議なくらいの有様だ。全員が火球により立っていられるのがやっとの傷。地下水脈の冷水が、少ない体力を更に消耗させている。ルベルトの気力ももう持たないだろう。
 武装も同じだ。槍は帰えれたなら、打ち直さなきゃ使えないだろうくらいに刃が疲労している。帰りまでもつかも分からない。楯は強烈な炎をまともに浴びて、歪んでいる。馬鹿でかいアレンのハルバードは、置いてきた。
 ひとまずは、川を離れて火を焚いて温まらなきゃ、確実に冬の気温に体力根こそぎ奪われちまう。

 言葉少なく、川を離れようとざくざく歩く。いや、喋ろうにもその気力が無い。地面に足を下ろして日の光を浴びていても、生きた心地がしない。
 火球の威力を知らないわけではない。が、身に染みて知らされるのは初めてだった。学院が禁忌にするのもよく分かる。

 しかしどうにか逃げられたが、これで反撃できるかと問われれば、明らかに答えは否だろう。一人でこの様なのに、さらに仲間がいるだろう本拠地に乗り込むなんざ、飛んで火に入るなんとやら。
 実力が向こうとは天と地の差。数でも勝てない。少なくとも、腕の立つ奴やまだぴんぴん戦える奴、相手の本拠地は遺跡だろうから「鍵」も欲しい。オランに戻って、仲間をそろえるべきだろうか。しかしボヤボヤしてて事態が更に悪化する可能性もある。
「うおっ!」
 考え事をしながら歩いていると、不意にルベルトが荒れた地面の窪みに足を取られてこけた。咄嗟のことで俺の巻き込まれて倒れる。
「いてて・・・・・・」
「すまん・・・・・・」
 疲れは足にも相当きてるらしい。傍のでかい岩に手をついてどうにか起き上がる。よくよく見ればルベルトの足取りはかなりおぼつかない。いや。ルベルトだけじゃない、俺も含め、全員が。早いトコやすまないと、敵にやられる前に消耗でぶっ倒れる。
「大丈夫ッスか? 本当はここらで休みたいところなんッスけど、万が一ということがあるッスから。もう少し頑張るッスよ」
 さすがにこんな苦境でも気丈だな。見習わなきゃいけねーぜ。
「ラディルさん、すみません。手伝ってください。僕一人では・・・・・・」
「あ。わかったッス」
 ホッパーにもラディルにも苦労をかける。賢明に足跡をどうにか消してくれているのを見て、拳を握る。俺もみんなを誘った張本人としてもっとしっかりしなければ。前衛として、知識人として。相手の圧倒的な力を見せ付けられてくじけてる場合じゃない。改めて気合を入れなおさないと。
 痕跡を隠し隠し、気を配りながら俺たちは歩みを進めた。

 歩きながらも、ひとつ確信したことがあった。あの魚。予測していたのは、突然変異、異界から召喚、合成魔獣の三つ。それを一つに絞り込むことが出来た、おそらく、いや確実に合成魔獣の類だと。
 ルベルトやホッパーとも話したが、まず突然変異は、人間の足が生えている奴が出た時点で消去した。いくら突然変異でも、あそこまで奇妙な変化を起こす例など後にも先にも無いだろう。そうなると、召喚か創造かになるわけだが。あんな地下の廃棄所を見たら、召喚したというよりも明らかに実験して造ったものだと容易に想像がつく。
 となると、自然と弱点も予想が出来る。多種のものを魔術で無理矢理つなぎ合わせたとしても、自然と繋ぎ目は弱くなるものだ。すなわち、接合部が弱いはずだ。まだ想像の域を出ないが、キマイラを倒すには接合部と習った覚えもある。無意味に硬い表皮を叩くよりは効果はあると思う。

 そんなことを思いながらふらつく足に鞭打って、黙々と歩く。だが、不意にその静寂が失われた。
『からんからんからん・・・・・・』
「げっ、しまった! 罠かっ!?」
 精巧に隠されて張り巡らしてあった縄に、まんまと躓いてしまった。その途端に鳴子が鳴り響く。迂闊だった。俺はおろか、野山を歩きなれたラディルやホッパーすら気付かないとは。
「まずいッスよ、早くこの場から逃げなくちゃ!」
「くそっ、この縄、オマケまで付いてやがる! なんだこのベタベタしたの!」
 その縄には、ご丁寧に妙ちきりんなべとつく液体がついていた。それが足にくっ付き、さらに縄が絡まる。
「これは・・・クロミエの樹液です! かなり粘着質な厄介な樹液ですよ、早く縄を切って・・・・・・」
「わかってる、せかすな!」
 慌てて小剣に手を伸ばすが、向こうからの足音はどんどん迫ってくる。ヤバイ、ヤバイ。焦るあまり、手が上手く動かない。
 そして、ブッシュを掻き分け、人影は飛び出してきた。
「・・・・・・アルファーンズ!?」
「・・・・・・ロビン!?」

 思わず我が目を疑った。飛び出してきた男は紛れもなくロビン。そして、フォルティナート。さらにファリスの銀十字のサーコートを纏った女性(ひと)と、グララン。
「・・・・・・地獄でファリスに会った! 力を貸してくれ、ロビン!」
 思わず、ロビンとファリス神官らしき女性目掛けて飛びついた。
 
作戦開始
ロビン [ 2003/12/23 18:18:32 ]
 「そろそろ拳岩につきます」
フォルティナートが声を潜めて皆に知らせる。
「ここからは声も足音も消していくのよね」
「知らせたいことがあれば手話でするッス」
レアとラディルがやや緊張した声で指示する。
今、俺達四人は拳岩にまで来ていた。


アルファーンズと遭遇した俺達は満身創痍の彼らを手当て、暖をとらせお互いの状況を語った。
火球のこと、インプのこと、ミーナが攫われたこと、ダークエルフととんでもない剣豪の存在。先が暗くなる情報ばかりだったが、遺跡と拳岩の話になったときアルファーンズが少し、明るくなる情報を話した。
「その遺跡と岩のことなら解るかもしれない・・・・」
「本当か!?」
「その遺跡の調査を頼まれてたんだよ。そのときに少し資料を貰ってさ。ただ、調査前だから抜け道があるかどうか解らないぞ。」

それで十分だった。これで遺跡と抜け道の正確な位置がわかる。
フォルティナートとアルファーンズの情報を合わせて検討し、チームを再編成、2つに分かれることにした。

「作戦の確認をします」
フォルティナートが地面に書かれた図を指しながら説明を始める。
「レアさん、ロビンさん、ラディルさん、私がミーナさんを救出するチーム。
 残り六名の皆さんが遺跡入り口から突入するチーム。
 まずは救出チームが先行し、拳岩付近にある抜け道から遺跡へ潜入、ミーナを救出。
 突入チームは遺跡付近で敵の警戒網に引っ掛からないぎりぎりのラインで待機。救出チームの合図後突入。挟撃という形になります。
 奇襲・挟撃のアドバンテージを活かしてください」
 
探索中
レア [ 2003/12/23 23:55:42 ]
  拳岩の周りを、全員で丹念に調べる。
 この抜け道を使うことが出来るなら、わたしたちは不意をつける。うまくいけば出し抜けるかもしれない。
 ………でも、それは“あいつらが抜け道の存在を知らない”という前提で成り立っている話なわけで。
 相手その存在を知っていたら、まず間違いなく二手に分かれて急襲、と言う作戦にわたしたちが出てくることを…うんや、出ざるを得ないことを考えると思うのよ。
 それくらいの頭が回らない奴らなら、わたしたちやアルファーンズさんたちをここまで追いつめることなんか出来そうにないし。
 …だとしたら、抜け道を入ったところで火急を飛ばされることも考えられるのよね。んー。そう思って、普通はこんな作戦、取らないのかもね。

 ………だったら、あえてその手に乗るって言うのも、作戦としては悪くないのよね……っと、何なのかなこれは?

 すぐ隣にいたフォルティナートさんに合図を送る。足下に残されたかすかに不自然な形跡を指さすと、二人で同時に肩をすくめた。……考えてることは、微妙に同じっぽい。
 振り返って残りの二人にも合図をしようとして………なんか、引っかかった。
 
侵入
ラディル [ 2003/12/24 3:55:06 ]
 不意にレアさんが立ち止まり、進もうとしたロビンさんを手で制した。
チラリと視線を下げ、シャッターを光が僅かに漏れる程度まで下げたランタンを下に向けて、
床に何かがあることを示す。
レアさんの合図に従い、床の一点を避けるようにして通る。

拳岩の影に隠れるようにして存在していた抜け道の入り口から下り、歩くこと暫し。

この抜け道にはまだ、罠が解除されることなく残っているようだった。
拳岩の入り口からここまで、見つけ出されて解除されることなく残っているらしかった。
要所要所でレアさんが立ち止まり、壁や床に仕掛けられた罠を見つけて教えてくれたお陰で、ここまでの道程で、誰にも被害はなかった。

抜け道は一本道だった。
人間(と妖精)が一人通ることの出来る程度の狭く曲がりくねった道には、分かれ道の類は無いらしかった。
天井も然程高くない。
オイラやレアさんにしてみれば、それほど低い訳ではないけれども、側を歩くロビンさんやフォルティナートさんの二人は少し前に屈んで歩いている。

ところどころに仕掛けられた罠をレアさんが見つけ、オイラが通路の向こうや天井に、敵が居ないかどうかを探りながら進む。
更に暫く進むと行き止まりに出た。
レアさんとフォルティナートさんが壁や床を調べるも、仕掛けの類は何も無い。
ふと、天井を見上げる。
ん?
……何かあの部分、ちょっと……。

抜け道の天井にあったのは遺跡への入り口だった。
まずロビンさんが穴から抜け、その次にレアさんが、その後オイラが出て、最後にフォルティナートさんが穴から出る。
さして広くは無い部屋のようだった。
通路を抜けて、部屋を抜け、更に先の通路を抜けた先には――
 
決戦前
メッティム★ [ 2003/12/24 16:43:26 ]
 ――― 来たか。

部屋へと近づく足音に気づき、私は体制を整え始めた。
鎧の留め具を確認し、ベアトリスに与えられた剣を抜く。燃えるように赤い刀身。古代王国期に魔法が賦与された剣だ。軽く二度ほど振る。
確かに軽く扱いやすい・・・だが、自分と剣の間に異物感を感じる。それがあって昔から魔法の剣は扱ってこなかった。

そして魔晶石にも似た赤い宝玉。炎晶石と言い魔術師の火球と同じほどの威力があるらしい。
おそらく使う事はないだろうが・・・念のためにと無理矢理渡された。念の入れようだ。

どう考えてもこの状況で彼らに勝つ手だては無かろう。彼らの作戦はベアトリスの使い魔によって露呈されていたのだ。

「ねえ・・・。あたしは人質なんだよ。拘束を解いちゃって良いの?」
ああ。ミーナと言ったな・・・安心しろ。奴のようにおぬしを人質に取ってまで有利を持とうとはせぬ。
彼奴ら来たら直ぐに仲間と共に戦うが良い。それに・・・そうせずに・・・こやつに勝てると思うか?
コレはな。遺跡の奥で眠っていたものだ。おそらく今までのものよりも格段に強いと聞いているぞ。

「・・・ううん。正直、あたし達で勝てる相手じゃないよ。・・・死にたくないよ。」
――正直だな。では、逃げるか?

「それはもっと嫌だっ!死にたくはないけど、あたしだけ生き残るのはもっと嫌だ。」
――そうか。ならば与えられた機会を生かす事だ。渡した魔晶石は魔法使い達で分ける事だ。


「うん・・・でも、どうして、どうしてそこまでするの?」
――理由か・・・。そうだな・・・彼奴、ロビンと何の気兼ねもなく全力で剣を交えたい。

「・・・それだけなの?」
――ああ。それだけだ。それ以上に望む事はない。

さて、お喋りはお終いだ。ロビン達がやってきたようだ。

「オッさん!ミーナを返して貰うぜ!!」
そう言って、飛び込んできた奴の顔を見る。・・・良い目だ。
私は、手に持ったままだった魔法の剣を鞘ごとロビンに放り投げた。

「・・・何だよ?」
――我が儘につき合って貰った。礼だ。受け取れ。

「・・・オッさん。馬鹿だろ?」
――はは。確かにそうかもな。確かに馬鹿げている。だが、命をかけて馬鹿をやるのは楽しいものだぞ。

さあ!始めようか!!
 
”あの子”
ミーナ [ 2003/12/25 1:08:33 ]
 大丈夫・・・”アレ”は大丈夫だよ。
”アレ”にはたくさんの生命の精霊が押し込まれてるのが見えるけど、
代わりに精神の精霊はぜんぜん見当たらない・・・
きっと、たくさんの生物が”混ざった”せいで、ひとつの生き物としての心を保てなくなってるんだよ。
だから、こっちから何もしなければアレも何もしてこない、
ううん、”あの子”は自分から何かしようなんて意思は持ってないんだ。

大丈夫、あの人たちもまだ”あの子”の操り方は分かってないから。
あたし、見たもん。
あの人たちの中の邪神の神官が”あの子”に拒否されたのを。

自分が”あの子”に”混ざる”ことで”あの子”の意思になろうとして、拒否されたのを。

だから逆に、もしあたしたちの方が”あの子”に言う事を聞かせることができたら・・・


そこであたしたちの相談は中断した。
最初の、剣と剣がぶつかる激しい金属音に身が竦んだ。
 
フォルティナート [ 2003/12/25 1:14:11 ]
  剣と剣のぶつかり合う音。ロビンさんとメッティムという戦士の戦いを僕らはただ見守っていた。
 メッティムがロビンさんに渡した燃えるように赤い剣はおそらく魔剣だろう。その魔剣を使うことによりロビンさんの剣技はより一層鋭さを増していた。今のロビンさんに勝てるのはオランでもそうは居ないだろう。
 だがメッティムはそのロビンさんと互角に戦っていた。いや、それ以上かもしれない。
 ロビンさんは魔法の援護を拒んだ。敵から剣を渡されこれ以上の助けは要らないといったのだ。
 しかし…………此処で負ける訳にはいかない。正面から突入した仲間の命もかかっているのだ。それだけではないミーナさんがたと言う異形の物。いざと言う時にいつでも援護できるようミーナさんから渡された魔晶石を握り締める。
 ラディルさんにも何時でもロビンさんを回復出来るよう準備を頼んである。

「あの人楽しんでるみたいなのね」
「戦いを楽しむなんて考えられないッス。許せないッス。負けられないッス」
「でもあの人が居なかったらあたし今此処に居なかったと思う。だからって負けられないけど」

 僕は三人の会話を聞きながら魔法を使うべく集中していた。
 ふと僕の視界の隅にある生き物が映った。何かと目を凝らす………………蛙だ。
 その時アルファーンズさんホッパーさんそしてルベルトさんが言っていた違和感の話を思い出した。冬なのに活動している蛙。火球爆発”が炸裂した中で無傷でいた蛙。見かるはずのない場所に居た蛙。
 あの蛙もこんな場所では見つかるはずがない。まして遺跡の中だ。いや、普通に遺跡の中で発見したならどこかから迷い込んだ思っただろう。だが今は違う。あれが普通の蛙だと思うには不自然な所が多すぎる。使い魔の可能性は高い。
 横の三人を見やる。戦士二人の戦いに集中している。気づいていない。此処は僕がやるしかない。

 この距離では少し不安がある。僕は懐の中を確かめるとゆっくりと蛙に近づく。
 後数歩で確実に仕留められると言う距離で蛙と目が合った。気付かれたか?最早迷っている時間はなかった。全ての神経を右手集中させるとその蛙目掛けダガーを二本投擲する。ほぼ同時に蛙が背を向けたがその背中にダガーが一本命中した。
 その蛙の動きは完全に止まった。

『切り札は先に見せるな』
 盗賊である父が口癖のように言っていた言葉だ。嫌いだったが少しだけ感謝した。

 直後、戦士二人の雄叫びが聞こえた。
 
繰り糸
ラディル [ 2003/12/25 18:58:37 ]
 

雄叫び。
<>鋭い金属音。
<>ロビンさんの繰り出した一撃を、届く寸でのところでメッティムの剣が受け止める。
<>憤怒にも似た表情で剣を握る手に力を込めるロビンさん。
<>対するメッティムは――どこか楽しげにも見える表情を浮かべている。
<>
<>剣の応酬は終わる様子を見せない。
<>オイラはフォルティナートさんに言われたように、いつでもロビンさんに”治癒”を施せるように、
<>目の前の二人に意識を集中させる。
<>
<>思考の端で、さっきのミーナさんの言葉を反芻する。
<>(――だから逆に、もしあたし達が言うことを聞かせることが出来たら……)
<>
<>言うことを聞かせる……
<>
<>どうやって?
<>
<>言葉が通じるようには見えない。
<>魔法で言うことを聞かせていたのかもしれないけれども……
<>
<>あのとき。
<>森の中で”魚”達が襲いかかってくる間際、小さく笛の音が聞こえた。
<>
<>短く何度か繰り返された笛の音が鳴って止んで、それから”魚”達が襲ってきた。
<>
<>それじゃあ2度目。
<>ホッパーさんが穴に落ちた直後、襲ってきた”魚”達は……
<>
<>もしかしたら、落下する音、穴を覆い隠した小枝や枯れ草を踏み抜く音を聞きつけたのかも知れない。
<>
<>もう一度、ミーナさんの言葉が頭を過ぎる
<>(――ううん、”あの子”は自分から何かしようなんて意思は持ってないんだ)
<>
<>『魚』達は音を頼りにオイラ達を襲っていたのかもしれない。
<>
<>ならばその音を上手くコントロール出来ればミーナさんが言う通りに、あの『魚』達に言うことを聞かせられるかも知れない。
<>
<>けれども、何の音を鳴らせば『魚』達に言うことを聞かせられるのか、今のオイラには知る術はないし、
<>ましてその音を鳴らす方法も判らない。
<>
<>フォルティナートさんかミーナさんの魔法ならば何とかなるのかも知れない。
<>あのとき森の中で鳴った笛は、目の前の男、メッティムが持っているのかも知れないけれど。
<>
<>全て、憶測でしかない。
<>
<>一際激しく金属音が響く。
<>目の前で、ロビンさんはほんの少しずつではあるけれども、メッティムに押されているように見えた。
<>戦いの前、援護は要らないとロビンさんは言った。
<>今、オイラがやろうとしている事は、剣士としてのロビンさんへの冒涜にもなりかねない。
<>けれども、ここで負ける訳には行かない。
<>
<>視界の端で、フォルティナートさんが目配せするのが見えた。
<>オイラは一つ頷いて、神聖語の言葉を紡ぎ始める。
<>”大地の母、慈悲深き癒しのマーファよ。彼の者の傷を取り去り給え――”
<>

 
意地っ張り
ロビン [ 2003/12/25 19:59:29 ]
 交錯する白い刃と紅い刃が剣光の綾目を編んで迸る。
太腿が抉られた。だが代わりにオっさんの腕を斬ってやった。肉が焼ける臭いが漂う。
しかしオッさんは腕の傷を意に介さず剣を構える。こっちは膝が笑い始めたってのに。
「どうした。私の剣を叩き折って、魔剣を突き返すのではないのか?」
「うるせえ。こちとら北国生まれなんだよ。こんな剣じゃ調子が出ねえぜ」
とそのとき、身体に違和感を感じた。これは・・・・

「あ」
「どうしました?」
「癒しの魔法が、拒絶されったッス・・・・」
その返事にフォルティナートが困惑した顔になる。
「お前ら、さっさとどこへにでも行っちまえ!今度手ぇ出したら叩き斬るぞ!」
「しかしロビンさん・・・・」
「フォルティナートさん、行こう。本当にロビンさん斬りかかってくるよ」
よし、さすがミーナ。よく解ってるじゃねえか。
「これじゃあ力になれないッス。突入組も状況も気になるし・・・・」
「もしロビンさんがやられても時間稼ぎにはなるのよね」
聞こえてるぞ、ちんちくりん。

「いいのか、ロビン。意地を張るのはいいが、時と場所を間違えると後悔して死ぬことになる」
「死ぬのはテメーだ、オッさん。さあ続きをやろうぜ」
 
選択肢
レア [ 2003/12/26 0:44:21 ]
  ロビンさんと気障剣士(注:メッティム)を残して、わたしたちは奥へと進むことにした。
 念のために、ではあるけれど、しんがりで短弓に矢をつがえて、いつでも撃てるようにしておく。まぁ、あの剣士が仮にロビンさんに勝ったとして、足止めくらいは出来るだろうし、最初の一発の遠距離攻撃はでかいのよ。

「先に行こうと言ったのは言ったけれど、これからどうするべきなのかな」
 ミーナさんが不安そうに呟いている。
 …ああ、どの道を進めば、何処に出るのか。それも、ちょっと問題。アルファーンズさんたちから得た情報もあることはあるけど……ミーナさん、わかる?
「…そんなにいろんな所連れ回されたわけじゃないけど、だいたいなら」
「だいたいでも、わかるだけましッスよ」
「ええ。今は時間も、そして情報の一片ですら惜しいですからね」


 …つまり、今わたしたちが取れる行動はおおざっぱに分けて三つくらいだね。
 一つは「尻尾を巻いて逃げ帰る」。これは……
「………」
 …うう、そんな目で見なくてもわかるのよ。問答無用で却下なのよね?

 二つめは、「速攻合流、あんど粉砕」。
「そうですね。人質の監視に一人しかいなかったことを見ると、あとの人間はバラバラにどこかに配置されているか、もしくは一極に集中してアルファーンズさんたちを待ち受けていると思われますね」
「……あいつらの強さ考えると、それってかなりまずくない?」
 問題は、そのアルファーンズさんたちが今どこにいるかなのよね。

 三つめは「このまま“アレ”のいる場所に向かって、それをどうにかする」こと。
 ただ、現段階ではどうにか出来るほうほうってのがさぱーり見つかってないのよ。それが問題なのよね。
「それに関してですけど、心当たりはあるッス。でも、憶測の域を超えないッスけどね」
 ほうほう。それは是非じっくり説明して欲しいところなのよね、ラディルさん。


 と。
 音がした。振り返る。いつでも撃てるように準備しておいた弓は、反射的に音の方に向いた。
 
代償
ベアトリス★ [ 2003/12/26 0:51:49 ]
 「ベアトリスー。貸し、ひとぉつ☆」

金髪の少年が投げた“棒”は、私の腹にめり込んだ。
無防備だった腹に、鋼鉄の“棒”が突き刺さる。こみ上げる血の味。
どの痛みがどこの痛みなのか。そんなことすらわからなくなっていた私の耳に唐突に飛び込んできたサリサの声。
私には分からない言葉……精霊語でサリサが何事かを呟き、私の体にそっと手を触れる。
内側から溢れる活力。痛みが消える。傷が塞がる。

「ね。ヤっちゃったね。タクシルったら。あのコはキレやすいから嫌いなんだよなー」
目の前の凄惨な状況に、サリサが苦笑する。
タクシルにとって少し計算外だったのは、死体が思ったより少なかったことだろうか。
ああ、でも、魚人の死体も動き回っている。

魚人……そうだ、あれは。“神”は。
私には信仰心などない。強いて言えば、サリサが好むファラリスを私も好んでいるけれど。
タクシルがどの神を信仰していようが構わなかった。
アレを神と呼ぼうが、贄と呼ぼうが。私にとって、アレは強大な戦力でしかない。
古代の遺産。
私が作り出した魚人よりも、もっともっと完全な。

完全で。でも不完全で。
コントロールの効かないアレは、メッティムがいる部屋に安置されたままだ。
そうだ。まだ、私たちにはアレがいる。
タクシルが狂ってしまっても。
ゲイリーが肉塊になってしまっても。
メッティムが裏切っても。

──サリサ。ここは任せたわよ。

……魔晶石はまだある。棒杖も手元にある。血は少し足りないけれど、サリサに癒してもらった今、行動するのに何の支障もない。
もしも間に合わなければ……メッティムが既にあの戦士に負けていれば。
私は、懐にある巻物を使って逃げればいいだけの話。
研究のための資料は、冒険者どもを待ち受けるまでの間に、既に幾つか送ってある。ロマールの私の研究室に。
全てを揃えることはかなわなかったけれど、あれだけでもとりあえず不自由はないだろう。
あとは私自身がロマールに戻ればいいだけのこと。
ただ……出来るなら、アレを。
それに……あの部屋にいけば、私のララッカがいるから。ゲイリーの死体など、ゾンビにでも何でもなっていればいい。けれど、ララッカは……。

……落ち着くのよ、ベアトリス。
正気を保ちなさい。大丈夫。私はまだ負けていない。

私は立ち上がって、闇に包まれた通路を進み始める。
背後では、人と人でないモノたちが争う声が聞こえてくる。合間に、闇の娘の楽しそうな嬌声も。
その声が遠ざかる頃、通路に差し込む光も少なくなった。
足元に落ちていた何かの骨を拾い、従者を作る。どうやら、魚人の骨だったらしい。従者の姿になって初めてそれが知れた。
同じ場所に落ちていた、別の骨を拾ってそれにも魔法をかける。灯りの魔法だ。
それを従者に持たせて、前を歩かせる。

通路を進み始めて間もなく。
向こう側から、何者かの気配を感じた。
誰何しようとして……飛んできた矢が私の頬をかすめた。

この期に及んで、誰何しようだなんて……私は何を考えていたのかしら。
……この遺跡の中、私の味方と言えるものはララッカだけだった。サリサでさえも、『とりあえず敵ではない』というだけ。
それなら、気配が何であってもいい。細い通路に最適の魔法を私は知っている。
気配がメッティムであれば、それは裏切りの代償。
メッティム以外であれば、それは私のララッカを殺した代償。

棒杖と魔晶石を握り、私は呪文を詠唱した。
 
決着
メッティム★ [ 2003/12/26 23:30:00 ]
 「さあ続きをやろうぜ」
ロビンがそう言ってから斬り結ぶこと数合。最早、彼奴の体力は限界に達していた。

「オッさん。」
「どうした。よもや。命乞いではあるまいな?」
「・・・っけ。寝言は寝てから言いやがれ。俺が言いたいのはだな・・・。」
そう言うとロビンは少しまじめな顔をしたふっと笑った。

「楽しいよな。」
「ああ。楽しい・・・愉快すぎて仕方がない。」
この言葉に嘘はない。こんなに愉快な気分になったのは久方ぶりだ。
何もかも擲って、この場を得れたことへ私は生まれて初めて神に感謝した。

「・・・だが、そろそろ終いせねばな。」
私はそう言うと互いに距離を取った。次の一撃が最後になる。それは私も彼奴もそう感じたからだろう。

───そして、白と紅の閃光が交わった。

「・・・どうした。お前の・・・勝ちだぞ。もっと嬉しそうな顔をせぬか・・・」
奴の一撃は私の剣を折り、肩から肺へと達した。長く斬り結んだ結果、剣が疲弊しきっていたのだった。

──最早、助からないことは自分でも分かる。

「オッさん・・・さっき言い忘れた。ミーナ、返してくれてありがとな。」
「・・・はは。殊勝なことだな・・・。さ、早く行け。仲間が待っている。」
「ああ。分かってる。オッさん。後でこいつ返しに来るからな・・・それまで・・・絶対生きてろよ。」

ああ。返事をしたかったが口腔内に血が上ってきて返事が出来ない。
私の返答を待たずにロビンは奥へと消えた・・・直ぐに世界は暗く静かになった。

そう、私は死んだのだ。
 
炎と炎
フォルティナート [ 2003/12/27 0:10:29 ]
  体中が痺れる様な感覚にとらわれる。“電光”の魔法。何と言う魔力だ。杖で体を支え立っているのがやっと。気を失っていないのが不思議なくらいだ。
 レアさんが矢を放った直後に見えた微かな明りは敵の持っている明りだったようだ。明りが見えた瞬間、反射的に“防護”の魔法を唱えたのは正解だった。全員生きている。生きていればラディルさんの魔法がある。
 しかし、この距離と場所がまずい。このままで居たら確実に死を迎える事になる。
 レアさんがそれを察したのか明りの方へ駆け出す。僕は次の呪文を唱え始める。

 明りの中から浮かび上がったのは骨の怪物だった。あの魚の怪物の形をした骨。スケルトンでないのは分かる。だがそれ以上の事は分からない。

「レアさん気を付けて!」

 ミーナさんの声が飛ぶ。骨の怪物の後ろから現れたのは棒杖を持った女性だった。その女性と目が合う。怒りに満ち溢れた瞳だ。その瞳を一瞬だが美しいと思ってしまった。

「貴様か。私のララッカを殺したのは。私の唯一の味方を。代償を受けろ!」

 彼女が呪文の詠唱に入る………まずい。魔術師の間では禁忌とされている魔法。炎の破壊の魔法。レアさんは骨の怪物に阻まれ魔術師までは到達できていない。

「二人とも離れて!!」

 そう叫ぶのがやっとだった。直後彼女の呪文が完成した。
 目をつぶっているのに世界が深紅に染まる。耳に凄まじい轟音が鳴り響く。体が炎に焼かれる。
 だがそれでも僕は生きていた。

「何故だ!何故死なぬ!!それならば何度も何度も何度も何度も何度も何度も焼かれるがいいぃぃぃぃぃ!!!」

 次は恐らく耐えられない。あの死んだ冒険者――盗賊だった――が持っていた水晶石はもう無い。
 だが僕の炎の呪文も完成した。そして彼女の次の呪文の先手を取れるはず。僕の前に居るのがレアさんとラディルさんで良かった。骨の怪物が人より魚に近い形をしていて良かった。射線は通る。

「ミーナさんこれで倒せなかった時は“火弾”の魔法をお願いします!」

 そう叫びながら懐からダガーを魔術師めがけ投擲する。その刀身は“火炎附与”の魔法で炎に包まれていた。
 燃えるダガーは寸分狂わず魔術師に命中した。しかし命中しただけだった。彼女は痛みに耐え呪文を完成させる。

 世界が再び朱に染まった。
 
反撃の炎
ミーナ [ 2003/12/27 4:22:27 ]
 あたしはとっさに両腕で顔を庇った。
<>吹きつける熱気があたしの髪を焦がす。
<>それが通り過ぎた後には・・・フォルティナートさん!
<>
<>フォルティナートさんが倒れた向こうで、あの女の人は満足そうに笑っていた。
<>さっきまでフォルティナートさんしか見えていなかったあの人の目が、
<>あたしたちの方を向こうとしている。
<>フォルティナートさんばかりを狙っていた魔法が、今度はあたしたちに・・・
<>
<>そうだ! フォルティナートさんに後を託されたのはあたしなんだ。
<>あたしがなんとかしないと!
<>
<>足元には落した松明が燃えている。
<>この炎の中からサラマンダーを・・・だめ! こんなんじゃだめだ!
<>あたしの弱い魔法じゃあの人を止められない!
<>
<>もっと他に何か、あたしにできること・・・
<>フォルティナートさんは”火弾”を使えって言った。
<>あたしの魔法が弱いことを知ってるはずなのに! なんで・・・
<>
<>「・・・・”原初の巨人”・・・!」
<>
<>女の人があたしたちに向かって何かを言ったけど、あたしの耳には入らなかった。
<>その時のあたしは、もっと別のものを見つけていたから。
<>フォルティナートさんが言ったのは、きっとあれのことだ!
<>
<>あたしは精神を集中する。
<>必死で精霊に呼びかける。
<>
<>遠すぎる・・・だめ・・・じゃない!
<>
<>あたしがここでがんばらないと、みんなに魔法が飛んでくるんだ!
<>フォルティナートさんの仕掛けたことが無駄になっちゃう!
<>
<>お願い! 応えて!
<>
<>炎の中に、彼があたしに向かってその燃える舌を出したのが見えた気がした。
<>
<>届いた!
<>
<>暴れて! サラマンダー!
<>
<>炎が弾けた。
<>女の人に突き刺さった短剣を被う、魔法の炎が。
 
選択肢
ベアトリス★ [ 2003/12/28 5:02:22 ]
 脇腹に突き刺さった剣は、燃えていた。
私がメッティムに渡した魔剣ではない。ただの……そう、簡単な魔法。火炎が付与されているだけの短剣。
そしてさっきまでの人質が、精霊語を紡ぐ。剣からの炎がローブに燃え移る。

素手でそれを掴んで、引き抜いた。焼けただれたはずの傷口から、それでも血が迸る。せっかく、サリサに癒してもらったのにね。
……からん、と足もとで音がした。
それは、首から提げていた鎖が切れた音。剣を引き抜いた時に、一緒に引っ張ってしまったらしい。
鎖の先には……『目覚めの笛』。

アレを箱から出すことが出来るのは、これだけ。
いざとなったら、アレを呼び出しなさい、と……メッティムに言ってあったけれど、メッティムに渡したのは贋物だもの。
この笛か……そうでなくば、ミルリーフ司祭の祈り。けれど、タクシルは。

私の大事なララッカを殺した男は今、目の前で黒こげになっている。命があるかどうか、そんなもの私の知ったことじゃない。
「おーい、おまえら無事かぁっ!!」
駆けてくる足音。そして声。……あれは、あの若い戦士。
ならばメッティムももう居ない。
裏切りの代償をこの手でと思ったけれど、もう居ないのならば仕方がない。

引き時ね。
私は私の身を大事にすることにするわ。ここにはもう執着すべきものは何一つないから。
そもそも……それまで間に合うかどうか。
膝をつき、血の色に霞む視界の中で、懐から取り出した巻物を見る。

でも……そうね。少しだけ、愉しみがあってもいいかもしれない。
サリサの悪癖がうつったかしら。
サリサとタクシルがいれば、向こうの広間はさぞや凄惨な状況になっていることでしょう。
目の前の彼らがそれを助けたくとも、手段はあまりない。
そこへこの『目覚めの笛』があれば……どうなるかしらね。一度、彼らはゲイリーによって別の笛が使われたことを知っているはず。だとしたら、アレを呼び起こすものだと推測しているかもしれない。

──私が求めたのは古代の叡智。それは、もう手に入れた。全てではないのが心残りだけれど。
でも、アレは持ち帰るには大きすぎる。そして、厄介すぎる。
ならば……押しつけるだけ。
偶然を装って、足もとに転がった笛を冒険者たちのほうへ軽く蹴る。

サリサ。貴女はまた笑うのかもしれない。厄介なもの残していかないで、と。
でも、厄介な相手のほうが楽しめる、と……そう言ったのは貴女だわ。ベッドの中でね。
貴女の神の導きがあれば、また会えるかもしれない。そうしたら、また2人で、綺麗な女の子を攫ってきて愉しみましょう。
貴女の肌は割と気に入っていたから、出来ればあまり傷がついてないと嬉しいわ。

目の前の冒険者たちは、次の魔法が来るかと怯えつつ、それでも膝をついた私のところに近づこうとしている。
あの若い戦士が追いついたことも、彼らの励みになっているのだろう。
距離はまだある。呪文を紡ぐくらいの時間はあるはず。……ただ、私自身にその時間が残されているかどうかはわからないけれどど。

巻物を開く。
こみ上げてきた血の塊を吐き出して、呪文を紡ぐ。
私をロマールへと連れ去るための呪文を。

……その鍵はあげるわ、冒険者たち。
アレが実際にどんな動きをするのか、私は知らない。もしも私が生きていたら、しばらくしてから痕跡だけを覗きにくることにするわ。
そこで見るのは、人間の死体かもしれない。アレの死骸かもしれない。
その鍵と、上位古代語の知識があればアレは動く。
あなたたちが箱を開けて、中に入っているものは絶望だけかもしれない。開ける開けないは自由よ。
けれど、仲間を助けたいと願うなら。
その非力な腕で、それでも願うなら。その愚かな知恵で、それでも足掻くなら。
選択肢は多いほうがいいでしょう……?


──呪文の詠唱が間に合ったかどうか、私は知らない。
 
生きているというコト
アルファーンズ [ 2004/01/02 1:40:35 ]
 一晩ゆっくり眠ったら、疲れも取れた。怪我は酷いまんまだが、オランの街まで帰れないことはない。
アレの正体も、結局分からずじまい。調べてみれば何かわかるかもしれないが、さすがにアレを調べようと言い出す奴はいなかった。笛も、魔術師ギルドの禁断の宝物庫送りにでもしようという案が出たが、まぁそれはゆっくり話し合えばいい。さすがにロビンが軽く音を出してみたときは冷や汗物だったが、特に異変もなかった。
報酬を貰ったときも、軽く揉めた。ロビンたちは村から。俺達は魔術師ギルドから。わずかな報酬の差額を埋めようと、二つ足した額を皆で分けるとか分けないとか。

帰った夜も、軽く騒いだ。なじみの店に全員集合し、まだ痛む怪我を引きずりながらも打ち上げの飲み会。
死ぬような思いをしてきたのが嘘のように、それらを吹き飛ばすかのように騒いだ。

もっとも、その翌日は地獄だったが。二日酔いに、骨の痛み。どーやら癒しの奇跡では骨折やらは直ってくれないようだった。
あの戦いで骨が逝った奴は、きっと今ごろ俺と同じ思いしてんだろうな、としみじみ思う。
無理して起き上がって、カーテンを開く。
まぶしい朝日が差し込む。

思えば、よく生きて帰れたと思う。
師匠と同じかそれ以上の腕前で、よりクレイジーな魔術師や戦士たちとやりあって、この場にいられることが不思議なくらいだ。
多分、全員が同じ思いだろう。

「生きてるってすばらしい」

朝日を身に浴びて、呟く。

「おーい、アルファ。栄養のあるもの作ってあげたぞ」
下から、声が聞こえてくる。そーいや、怪我は酷くても二日酔いが酷くても腹がへるもんはへるもんだ。我ながら単純だと思う。
一階へ降りると、いい香り。いい香りなんだが・・・・・・。
「どーしたのさ? 朝から魚は嫌だっていうの? ボクの村では朝は焼き魚って決まってたんだぞ」
・・・・・・・・・。

もうひとつ、全員が同じ思いだと確信したいことがある。

しばらく、魚は食べたくない。
 
(無題)
管理代行 [ 2004/11/27 5:02:29 ]
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