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石橋を叩いて渡る日々
フォルティナート [ 2005/06/13 23:44:46 ]
  慎重に慎重を重ねる。用心に用心を重ねる。
 常に最悪の事態を念頭に置く。
 己を過大評価しない。敵を過小評価しない。

 そうやって僕は生きてきた。今までも、そしてこれからも…………。
 
強引な男
フォルティナート [ 2005/06/13 23:45:52 ]
  まさか、雪山での仕事を受ける事になるとは………
 お酒で酔っていたこともあるとは思う。恐らく普段なら話を聞いたあとに考えるために一度は保留と言う形にするだろう。

 それでもやはりシタールさんの強引さにヤラレタ気がした。
 一度も雪山に入った事は無いし、寒い場所で呪文を唱えた事が殆んど無いと言ってもシタールさんはは良いと言った。その時は知識に頼る、と。
 そもそも、ミーナさんに仕事の話をしだした時から僕が仕事に参加する方向で話が進んでいた気がする。
 それを考えるとミーナさんにもヤラレタという事か………

 リグベイルさんも受けるようだし、初めて遺跡に行った時に比べれば知り合いがいると言うだけでも心強い。
 すでに参加する事が決まっているエルメスさんとラスさんと言う方とも上手くやれれば良いと思うが………

 それにしても雪山とは。これから仕事を受ける日まで寒空の元で呪文の詠唱の練習をしなければならないな………

 シタールさん………強引と言うか無謀な人かもしれないな。そう言えば何時も勘で動いて仲間に怒られると言っていたな。大丈夫だろうか………
 
追加の報酬
フォルティナート [ 2005/06/13 23:47:23 ]
  もう一度右手中指のどす黒い指輪を見る。これが魔法の発動体で、しかもミスリル銀で出来ているとは。
 ミスリルは加工する事によって様々な色彩を奏でる。だが、加工時に魔法を付与しなければどす黒いままなのだ。
 この指輪は偶然見つけられたミスリルを指輪の形にしただけで、それに“発動体作成”の呪文をかけただけのものだ。

 この指輪を渡してくれながら酒場“竜牙兵の巣”の店主であるベルバトフさんは言った。

「これがあれば、今度は“仕事の時”に苦労しないだろ」

 ラスさんの話しでは彼は元盗賊であり、元魔術師だったと言う。いや、だったと言うのはおかしいかも知れない。今でも古代語魔法を操れるはずだし、盗賊としても現役の若者には負けないと言っていた。

 確かに、今回の仕事(雑記帳:タトゥス老の依頼)では杖を持っていたせいで村人には警戒された。
 しかし………彼の言う“仕事の時”と言うのはその話の事だけなのだろうか。彼は僕が盗賊でもあるという事を知っているのかもしれない。

 だが、それでも良いかも知れない。今度飲みに行くとも約束した。彼には色々と教えてもらえそうだ。

 それにしても………確かにこれなら誰も盗もうとはしないだろうな………
 
春に
フォルティナート [ 2005/06/13 23:48:26 ]
  呪文を唱えるべく集中する。杖の先に明りが灯る。
 呪文を唱えるのはもう問題無いようだ。
 杖を眺める。今回の仕事で自分の力の無さを実感した。自分の魔術、知識がどれほど役に立ったのか。自分では切り札として隠していた盗賊の技は切り札足り得なかった。
 オランに辿り着いた時は生還できただけで良かった。だが日が経つにつれ自分の不甲斐無さに憤りを感じるようになった。

 あの魔術師。彼女の魔法は賞賛に値する物があった。敵として出会った事が悔やまれる。
 全員ボロボロで遺跡を調べる事が出来なかったがあの魚を造り出したのも異形の物の事を調べたのも彼女だろう。知識の豊富さも伺える。

“越えたい”そう思う。今は無理でも何時か必ず。
 その為にもっと勉強しなければ。

 春が訪れたら再びあの遺跡に行こう。ロビンさんの吹いた笛も気になるし彼女に会えるかも知れない。
 
オランの師
フォルティナート [ 2005/06/13 23:49:33 ]
  ロビンさんと人探し、遺跡探しの賭けをしてから数日が経っていた。

「人の心配するより、自分の心配したほうが良いぜ。
 飲み会の面子を集めるのとはワケが違うことを解ってもらうぞ! 」

 と言うロビンさんの言葉が思い出される。確かに甘く見ていた。ここ数日で全く成果が無い。
 
 ふと気づくと、僕は常闇通りにある酒場“竜牙兵の巣”に足を運んでいた。
 現場を退いた、盗賊であり魔術師でもあるベルバトフさんが店主をしている店だ。以前、雪山で受けた仕事で知った。それ以来、よく訪れるようになっていた。
 
 ベルバトフさんの話はとても面白い上に勉強になる。実力の差はあれ、同じ職業の僕にとってはオランでの師匠と言えるかもしれない。
 悩み事も聞いてもらったりしている。仕事で“火球爆発”を二度まともに喰らってから、“発火”や“火炎賦与”の魔法が使えなくなった時も相談に乗ってもらった。

 気付いたのは、一年程前だろうか。遺跡に潜った時に仲間に使おうとして使えなかった。呪文を詠唱し、炎のイメージを頭の中で浮かべると、自分が焼かれた時の記憶が鮮明に甦り、吐気がして失敗した。
 初めは、遺跡と炎と言う二つの事が重なった事により、失敗したと思った。いや、そう思いたかった。だが違っていた。遺跡から出た後、薪に火を着けるために“発火”の魔法を使おうとしたが、それも失敗した。

「余程強い意志があれば、その焼かれた時のイメージを捩じ伏せる事もできる。だが、簡単には行かんだろう。後は、時が解決してくれるのを待つしかないかもな。
 それか、何か切っ掛けがあれば変わるかも知れん。例えば……………いや、これは止しておこう。参考にはならん」

 相談した時、ベルバトフさんはそう言った。僕はまだ今も使えない。時が解決してくれるのは何時になるんだろう。或いは切っ掛け、か…………


 木製の扉を押し開けるとカウンターの奥で作業をしているベルバトフさんが見えた。

「お客さん、悪いがまだ開店前だ。後一時間ほどしてからまた来て……………なんだお前か。今日は何の悩みだ?
 取りあえず座れ。今言ったように開店まで暫くある。どうせ、その時間を見計らって来たんだろうがな」

 店には数体の竜牙兵が配置してある。“竜牙兵の巣”と言う名前は伊達ではないと言う事だ。僕はベルバトフさんの正面の席に着いた。カウンターの向こうにも一体の竜牙兵が居る。ベルバトフさんの命令を待っているんだろう。
 深い皺の刻まれた精悍な顔が角灯の淡い灯りで浮び上る。彼の顔で一番目に付く部分は左目を縦に走っている刀傷だ。隻眼となってしまった事で現役から退いたと聞いた。

 出された果実酒を一口飲むと、僕は盗賊を探している事、またその事でロビンさんと賭けをしている事、期限が今月いっぱいだと言う事、これまで探そうとしたが、全く上手く行かなかった事を話した。

「それで、お前は私に盗賊の心当たりが無いか聞きに来たのか?それとも私を雇いにでも来たか?…………それも悪くないな」
「それはとても有難いです。しかし、それでは勝負に勝ったとは言えません。それで、先ほど言った条件に合いそうな方が居そうな店を教えていただけないでしょうか」
「ふむ。心当たりが無いわけじゃない。まだ半月残っているしな。幾つか店を教えてやる。其処でどんな奴を見つけるか、どうやって誘うかはお前次第だ。
 タダで教えてやっても良いが、ギルドが良い顔しないだろう。そうだな、今度遺跡に潜った時に手に入れた品物を真っ先に見せてくれ。気に入ったものがあれば引き取ろう」

 暫く考えた後、僕はその条件を飲んだ。独断で決めてしまったことは不味いが、遺跡に行く前に仲間に話せば良いだろう。そもそも盗賊が見つからなければ遺跡に行く事すら出来ない。

 僕は数軒の店を教えてもらうと、“竜牙兵の巣”を後にした。