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見たこと聞いたこと、少し考えたこと
バザード [ 2005/07/09 22:32:44 ]
 ・・・もっと考えろって、言われた。
・・・冒険者に向いてないって、言われた。

故郷の村を出てから何年か。結局何も見つけられていない僕。
掃除や料理の手伝いなら上手く出来ても、その他はまるでダメ。何にも変わってない気がする。

どうすれば良いのか、どうすべきだったのか。全然わからないけれど。
今はとにかく周りを見てみよう。見て考えてみよう。
 
勿体無いお化け
バザード [ 2005/07/09 22:36:00 ]
 <7の日 9の日>
フォステンと呼ばれていた人に、自分で考えろ、失敗から学べ、と言われた。
黒髪の女の人・・・クレアさんに、鵜呑みにするな、疑って調べろと言われた。
ホッパーさんは、丁寧にも何と遺跡へ行くのに誘ってくれた。
冒険者になりたいと思う事が資質だって言ってくれた。

はー。なんだか今日は、いろいろあって・・・イテッ(タマネギが飛んできた)

「厨房の真ん中で何ぼぅっとしてるんだ」
フランツさん帰ってきてたんですね・・・いつものこととは言えヒドイです。それに、食べ物をあんまり粗末にすると勿体無いお化けが出ますよー?
「は? 何を言ってる。それにそのタマネギはお前のまかないになるんだからな、全く粗末になどしていない」
・・・そーですか。そーそー、ちょっと聞きたいことが・・・調べるって、どうすれば良いんですか?
「・・・自分で考えろ。学院の図書館にでも行け。俺は処理しなければならん事柄があるからな、今お前に構ってる暇はない。さっさと下がって寝ろ」

忙しげに、ちょっと疲れたようにフランツさんはドアの向こうへ消えた。
きっと、ネズミ退治に行った冒険者が酷い事になったっていう事件のことだろうな。

「そんなん居るのかよ?・・・ああ、この前のアレか。 お前な、本気で信じてるのか?」
「さぁー? いてもオカシクはないけどさぁ、バザード、それ騙されてんじゃないのぉ?」
「私にはわかりかねますが、居てもおかしくはありませんしそういう伝承があることは確かですね。ですが、それが人を襲うのは考えにくいのでは」

他の店員たちにも聞いてみたけど、どうやらマトモに信じていたのは僕だけらしい。
うーん、やっぱり騙されたのかな、僕?
 
オバケ、犬、それからおまんじゅう
バザード [ 2005/07/19 20:40:11 ]
 もったいないオバケについてはまだ調べている途中。
店に来るお客さんや、ギルドの人に機会を見てさりげなく聞いてみる。

今までのところ・・・おおよそ半分くらいの人は、悩むことなく否定したり、聞いたことも無いって答えてくれた。
思ったよりは有名な話じゃないらしいし、ほっと胸を撫で下ろすことも多い。

残りの半分は話を聞くと笑いながら、あるいは真面目な顔でその怖さを話してくれたり、居るかもしれないと示唆したり。
傾向としては、お酒をよく飲む人がそんな話をよくしてくれることが多い。
・・・やっぱり、お酒を飲むと思っていなくとも食べ物を粗末にしてしまう人が多いから・・・もったいないオバケに遭い易いのかも。

どんな外見で、どんなバケモノなのかは誰に聞くかでバラバラの答えが返ってきた。
共通してるのは、(少なくとも僕にとって)すっごく怖いって事だけ。
ある人は・・・真面目な人だと思うんだけど、肯定も否定もしないでこう言っていた。
「其は人の心に住み、人の心を食んで生き、人の心を律する」


居るとも、居ないともわからないもったいないオバケ。
でも、僕は居るんじゃないかと思っている。だから、納得が出来るまで調べてみるつもり。
あとはもったいないオバケが出ないように、なるべく失敗も減らさないと・・・・・・。
目の前に出てきたらって考えると・・・うわー、ご勘弁。


もったいないけれど、僕が食べられないようなものは厩で見つけた子犬にあげてる。
すごくよく食べる犬で、僕のまかないを少し残しただけじゃ足りないらしい。
最初に見たときは具合が悪そうだった。折れてはいないけれど前足を引きずっていて・・・随分と無理をしたらしい。
僕の応急措置が良かったのかどうか・・・今でも、その前足の調子は悪いらしいけれど、大分良くなったみたい。

ふさふさとした白と黒の長めの毛。黒目がちのよく動く目。少なくとも僕の村では見かけなかった種類の犬だ。
どこかの飼い犬なら、もう戻ってこなくても不思議じゃないけど。いつもの時間に呼べば出てくるから行くところも無いんだろう。

厩の中でこの犬の背中を撫でているときは幸せだけれど、どうしようか困ってる。
だって、どー考えても中型か大型犬だもんなー。今は良くても、そのうち隠してはおけなくなる・・・どうしよ?


そんなある日、犬と別れて厩から出てきて手を洗っているところでコーデリアと会った。
まずいなー、見られたかなー、ってもじもじしてたんだけど・・・。
「なに青くなってんだか。これあげる」
それだけ言って、おまんじゅうを僕に押し付けて行ってしまった。

普段の調子があれだから、とつぜん食べ物を分けてもらってもちょっと怖かったけど・・・。
あたふたしててすぐには気付かなかったけど、よく見れば変わったデザインだけどすごくかわいい服を着てて・・・午後の風に長い黒髪がふわーって揺れてて。
・・・何となくぼーっと立ってたら、いつの間にかあの子犬が足元に来てて、「わうぅ」って鳴いて。

おまんじゅうは食べたこと無い味だった。きっとオランの料理ではないんだと思う。
子犬とちょっと分けて食べて。後が少し怖いなーなんて考えながらも、割と幸せな気分で過ごせた。
 
フォステンさんからの伝言
バザード [ 2005/10/01 23:27:07 ]
 フォステンさんが、死んだって。
ヘクセンって人が彼の伝言を伝えに来た。・・・わざわざ、僕宛ての伝言。

『冒険者のイロハを教えてやるといったが、果たせなくなった。済まん。そこで修行していい男になれ。先にあの世で待ってる』

フォステンさんとは、長い付き合いじゃなかった。
7の月にお客として店に来ていた、厳しい感じの人。実際、色々と言われた。

その後、彼がストラザーン要塞へ出かける前にもう一度話す機会があった。
きままに亭の方に頼んでおいた品を取りに来たらしい。

すぐだ、と言っていた。時間が過ぎるのなどあっという間だと。
半年後に来て、お前を品定めしてやる。冒険者について教えてやっても良い。そう言っていた。

嬉しかった。結局のところその場の勢いで言ってしまっただけじゃないかとも思ったけど、そういうように言ってくれる人はあまりいなかった。
本当に短い付き合いだったし、別に彼が忘れてしまっていても恨む気も無かった。結局・・・いつも期待と言うのはそういうものだったから。

僕に、わざわざ伝言を遺して・・・約束というのにも少し弱いのに、どうしても気になったんだろうか?
凄く驚いたから、自分でも何をいってるかわからない状態で質問ばかりしてヘクセンさんを混乱させてしまったみたいだ。
驚きが冷めてくると、今度は涙が浮かんできた。止まらなくなった。
その後は仕事にならなくて・・・奥で休んでた。

ほんの数日話しただけの、立場も力も違う人間。
ヘクセンさんに聞くまでフルネームはもちろん、フォステンがどっちの名前なのかさえ知らなかった。

フォステンさんを殺した怪物の名前を聞いた。死んだ場所も聞いた。
・・・だからと言って、僕に出来ることは・・・。


あの夜、一生懸命に考えた。
冒険者になる、冒険者として生きてみる。フォステンさんの思い出を約束だと思って、いつかはあの要塞にも行ってみよう。
そのためにも、全力で今もがんばること。よーし、やるぞー、って。

・・・まー、今僕の前にあるのは床の上にひっくり返って散らばってる皿で。その中の陶器のやつはふちが欠けてて。
小言で済めばいいんだけどなー・・・とほほ。
”立派な冒険者”になれるのはいつのことやら・・・。
 
冒険の後、いろいろ
バザード [ 2005/11/19 22:30:44 ]
 金貨二十枚!
冗談だと思ってた。
そういうところで嘘をつくような人たちじゃないってわかっているけど、それでもそう思った。

何にも出来なかったし、そもそも見学ってことで付いていったのに。
先輩の気紛れで連れて行ってもらっただけなのに。
僕がいなくても結果は多分同じだったし。

言葉ではうまく表せないけど・・・うーん、冒険者の働く現場で、みんなの活躍を見られたのが一番の収入で。
それだけで、よかった。

収入は頭割り。僕も含めて。
これは少なくともそういうところでは仲間と見てくれたってことかなー?

有頂天になるべきなんだろうか?
もっと現実的なことなら僕も大喜びでそうするんだけどなー、なんだか気後れしちゃって。
逆に怖い。


非現実的ってコトでは、今手元にある金貨もそう。
村に居たときはコイン自体あんまり見かけなかったし、村を出てからはその日の銀貨にも事欠く生活だったからなー。

ラスさんやスカイアーさんのような冒険者なら気にも留めない額なのかもしれない。
ましてやカレンさんやベカスさんみたいな神官なら特に騒ぐこともないだろうけど。

もらって数日は、すっごく悩んだ。
何処に隠そうか、何に使おうか、持ってていいのか・・・。
眠れなかった。

3日ぐらい悩んで、深呼吸を一つ。
結局、ありきたりな使い方をして後はしまっておくことにした。

冒険で傷んだ道具や服をきちんと買いなおして、あとは小物入れの櫃の中に入れてある。
ちょっと枚数が多くなっただけ、いつも使っているお金とかわりないんだから。

あー、あとコーデリアにちょっと食事代持たされたっけ。
ほんのササイな失敗を店長代理に言わないでもらえるんなら安いもんだし・・・。


もう肉も食べられるようになった。完全にではないけど大丈夫。
死人で一杯の墓で追い掛け回されるなんて経験をしたときにはもう二度と食べたくないって思ったけど。

帰ってきた当日から肉料理とかを運ばせられた。
ここをクビになったら行くところがないから、必死でやったんだけど。
フランツさんなりに僕を鍛えるつもりだったんだろうけど・・・いろいろで減給されてほとんどただ働きだった。
ちょっとお客さんの前で・・・いや、僕じゃなくても僕の立場だったらおんなじだろうにさー。

まかないには店の残り物が出るから、僕が選べるものじゃない。
カク(厩でこっそり飼っている犬)にあげてもいいんだけど、沢山あげても大抵好きなものしか食べないし。
なんだかもったいなくて無理に食べてるうちに平気になった。
そりゃもう一度行ったら食べる気失くすだろうけど・・・こんな調子で慣れてくのかなー。
流石に帰ったばかりで生肉を平気な顔して食べてたラスさんみたいにはなれない気がする・・・。う。
 
年末の空
バザード [ 2005/12/31 22:20:27 ]
 年末の酒場は忙しい。
いやもう本当に。

慣れた先輩の店員は込み合うお客さんの中を楽々と移動してるけど、僕はどうもダメで・・・。
まー、その。外の掃除(何を掃除しているのかは想像に任せます)にまわされちゃって・・・。

そ、そりゃ色々とイケナイものにつまずいたのは僕のせいだけど。
お客さんとか避けきれないもん。なんで僕の行くところにわざわざ寝っころがってるかなー。

つまみ食いしても僕だけ見咎められるし。
でも、周りの人って何であんなに自然な動作で”味見”できるのかなー?

で、夕飯なんて食べる余裕もなく。
きままに亭にて過ごす初めての年末。まー、去年までよりはマシ・・・かな。

今年はホントにいろんなことがあった。
僕も今年で15歳。
冒険者になりたいって言って、結局なんにも出来なかったけど。

ラスさんたちと冒険へ行ってから、確かに何か変わった気がする。実際の仕事を見るって、それをしないで色々言うのとは全然違う。
上手く言えないけれど、きっと頭のどこかに焼きつくんだと思う。

あの後は冒険には行っていないけど、訓練は頑張ってる。上手く行ってるかはあんまり聞かないでほしいケド。
来年になったら、ちょっとお休みもらって適当な仕事に・・・。

そうそう、あの金貨はいつの間にかなくなってた。全部使ったわけじゃないんだけど。
友達に貸したりしたから、少なくとも手元には無い。
だって、親が病気で、とかじゃ仕方ないもんね。友達にそういう人が多くなって。
ただ貯めておくより、いい使い道に使われるほうが多分、いい事だと思う。

強い夜風に上着を押さえて、ふと夜空を見上げた。
オランで冒険者の店にいれば妹・・・ケストレルに会えるかと思っていたけど、そんな都合よくはいかなかった。
今頃どうしているやら・・・こうやって夜空を見上げているのかな。
無事・・・・・・だと良いんだけど。

「あー、またサボってるー!」
コーデリアが様子を見に来たらしい。必死に正当な弁解をする僕に、揚げじゃがを押し付けてさっさと店の中に戻っていった。
残りものだろうけど、まだ暖かい。

フランツさん、ハリートさん、それから冒険者の皆さん。
僕がいろんな人と出会えたように、ケストレルもきっといろんな出会いをして、いろんな仲間を持てたに違いない。
コーデリアの後姿を見おくりながら、とりあえず僕はそう考えることにした。

月のない夜はどこまでも同じように広がって。
僕たち一人一人にその全部は見えないけど、見える空はどこにでもつながってる。
ケストレルにもきっとまた会えるし、この空を見ている誰かとも新しく会うことが出来る。
頑張れば、この空で続いているどこにでも行ける。そんな気がした。

「バザード! いつまでだらだらと掃除している気だ。早く手ぇ洗って、こっちを手伝え!」
怒鳴り声に首をすくめつつ、戸口へと急いだ。

・・・・・・もうすぐ、年明けの鐘が鳴る。
 
初日の出
バザード [ 2007/01/01 1:38:25 ]
 「カーク、ここから初日の出が見えるんだよ」
「ワゥ・・・」

少し眠そうなカークを連れて歩くこと十数分。
この場所からならはるかグロザムル山脈の間から上る朝日を最初に見ることができる。

「着いたよー。たぶんもうすぐだからさ」
「・・・ワン」

カークが地面の上に座り、こちらと東の空を交互に見ている。
もう白みかけてるしもうすぐだと思ったんだけどなー、ずっと見てるとなかなか時間が経たない気がする。

「・・・でさ、妹らしい人を見かけたってお客さんが言っててさ。店にお休みもらって行ってきたんだよねー」
「・・・・・・」(耳だけ立てて地面に伏せている)

気がつくと少し前にあったことをカークに話していた。
んー、こういうのは独り言になるのかな。

結局行った先のブラードには妹・・・ケストレルはいなかった。
数ヶ月前に見かけたというだけの話なのだから、仕方ないんだろうけど。

旅の途中とか向こうでいろいろなことがあった。
冒険者の店でたまたま居合わせた人に賭けの対象にされてゴブリン退治に行く羽目になったり。

でも、この店で覚えたことや、ちょっとしかないけど冒険の知識がいつも僕をささえてくれた。
この店でであったいろいろな人から聞いた話も。

「・・・見つからなかったけど、いいんだ。ケストレルが元気で頑張ってるって、わかってるから」
(さっと立ち上がり、遠吠え)「ウォーン!」

そのとき、まぶしい太陽の明かりが目に飛び込んできた。
よく晴れて、澄んだ空に暖かい新年の光。

どこかで妹もこんな朝日をみてるのかなー。
場所によって正確には日の出る早さが違うって話もどこかで聞いた気もするけど、それでも同じおひさまだもんね。

生きていれば、またいつか会える日が来る。
僕もがんばるよー。

「明けましておめでとう、カーク」
「ワン!」

尻尾を振って立ち上がるカークについて歩き出す。
帰ったらフランツさんに怒られるだろうなー。お皿と水汲みほっぽって来ちゃったし。

まずフランツさんやコーデリア、ハリートさん、それにみんなはもう働いてるんだろう。
急いで戻らなきゃ。

きままに亭へ。
 
近況:カークはどこへ?
バザード [ 2008/02/14 0:46:30 ]
 去年の秋だったかなー。
きままに亭で僕が世話をしていた犬・・・カークがいなくなったの。

もともと子犬だったときにここにふらりとあらわれて、
飼い犬と言っていいのかどうかは実際のところよくわかんない。

たいてい鎖もつけずにいたし、
どこへか出かけて数日後にまたあらわれたりすることもあった。

あの時もまたいつもの”おでかけ”だと思ったんだけどー・・・。
カークは帰ってきてない。

そのまま、いつのまにか半年近く過ぎてしまって。

最近になってなぜか、お客さんとかから「カークを見かけた」って事を聞くようになった。
カークの顔にはなんか変なぶちがあるし、見てわかった・・・らしい。

で、そんなことを聞いたらほうってはおけない。
なんだかはずかしいんだけど、自分の名前で店に張り紙をすることにした。

(完成した張り紙を見直して)
うん、張り紙はこんな感じでいいハズ。われながらよーく出来てると思う!
カーク、元気かな。
 
近況:カークはどこに? 2
バザード [ 2008/02/14 22:55:24 ]
 張り紙を張ったけど、それだっていう情報はない・・・。
どこそこの神殿近くにいた、とかそういうおおざっぱなことは聞くんだけど。

伝言板にわざわざメモしてくれたハリートさんには、
休日をほとんど一日つぶして探すのを手伝ってもらった。本当に感謝。

それでもカークは見つからなかった。
まさかスラムで食料にされていないか・・・うわー考えるとすっごく不安。


そんなこんなで何日かたったある日の朝、張り紙に新しい書き込みを発見。
でも共通語で書かれてた・・・。

そのときはひどく忙しかった(あんな通り道に満杯の水がめが置いてあるのが悪い)ので、
カークを探すどころじゃなかった。

で、さっきハリートさんに共通語を読んでもらったわけで・・・。

・・・。
ラースーさーん。なんでこんな大事なことを共通語なんかで書いたんですかー!

読めませんって!
返事をできるだけきれいに書いて、上着も着ずに店をとび出した。
 
近況:カークはどこに? 3
バザード [ 2008/02/20 21:58:50 ]
 2の月12の日 夕方〜夜

カークにまた会えるかもしれないってときに!
よりによってこんなときに野良犬の駆除なんて。衛視とかの人は何を考えてるんだー!

ラスさんの書込みを見て、何にも考えないで日暮れの街にとびだした。

人に聞いてもどこに野良犬を集めているのかよくわからなかったから、
多分こちらだという方へ進んでみた。

途中のどの路地、どの茂みにも、すぐそこにカークがいる気がして、
つい覗いたりして時間がかかっちゃった。

常闇通りのへりの道を通って、
以前ハリートさんとも一応探した橋の上下を見てまわって、
麗しの我が家亭からガネード神殿の方へ向かって、
ヴェーナー神殿の前で散らばった帽子を集めている草原妖精に道を聞きいて、
三角塔のそばの広場を抜けたその先は。

エイトサークル城だった。
あれ、郊外へ行くつもりがなんで中心部に・・・。

後で考えたら、これは運がよかったってことなんだろう。
衛視の人たちは、このあたりにまで入り込んだ野良犬を重点的に捕まえていたらしい。

顔見知りのガタイのいい衛視のおじさんがまだいたので、犬のことについて聞いてみた。
今日最後の野良犬を仮設の犬小屋に連れて行くから、心配なら一緒に来ないかと言われた。

ここで初めて自分が店の服とエプロンをつけたままだっていうことに気づいた。
・・・ほこりまみれ汗まみれ。あーあ、後始末が大変だー。

・・・・・・というか、店ほっぽって来ちゃった。後が怖い・・・。
無事に帰れるのか、僕。
 
近況:カークはどこに? 4
バザード [ 2008/02/21 1:43:46 ]
 2の月13の日 昼

けっきょく、郊外の仮設犬小屋にはカークはいなかった。
僕がその犬小屋に向かったときには、十何匹(もう少し多かったかな)くらいの犬がいた。

これまでに、もう何匹かマーファ神殿とかが引き取ってくれたらしい。
聞いたその話のかぎりでは、カークらしき犬はいなかったみたいだ。

ちなみに野良犬の駆除は昨日一日が最後で、
今日はマーファ神殿に紹介された、犬をもらってくれるって人たちが来るらしい。

でも、みんなが引き取られるわけじゃないんだよね。
残ったら殺されちゃうんだよね。
わかってる。だけどこれって、人間の勝手ってのもあるんだよね。

お互いに生きたくて、欲しいものがあって、
でもその道がぶつかると、戦うしかなくて、
勝ち負け決めて、負けたほうを消しちゃうんだよね。

昨日から、できる限りで犬たちを見栄えが良くなるようにしてみた。

余計な毛を落とすときに、目を閉じてじっとしていたあの犬は、
昔のことを思い出していたのかな。

出すなり逃げ出すために噛み付こうとしてきたあの犬は、
最後に衛視の鎚を受けたときに、何を考えていたのかな。


ごめんね、ごめんね。


ここにいても、もう僕にできることが無くなった。
帰り際にその場にいた衛視が小遣いをくれた。

渡された数枚の銀貨を見て、最後にもう一度だけふりかえって、遠くに犬小屋に祈った。
また人とうまく生きていけるように。
次に生まれ変わるときには、幸せになれるように。

カーク、僕は・・・。
 
近況:カークはどこに? 5
バザード [ 2008/02/21 21:55:04 ]
 2の月13の日 夜

もう日も落ちて、おどおどしながらきままに亭に戻った僕をむかえてくれたのは、
フランツさんその他(っていうかハリートさん以外)のゲンコツだった。

で、一通りカンゲイされた後、何があったかをフランツさんたちに簡単に説明した。
フランツさんは汚い格好でうろつかれても迷惑だし、さっさと下がれとだけ言って仕事に戻っていった。

ハリートさんは、みんな心配していたのですよと言っていたけど・・・。

あのラスさんも気にしてた、とは他の店員の言葉。
えー?

「で、とっ捕まった犬のうち何匹かは慈善家や神官が引き取ったようだって伝えてってさ」
「あーはい、そうみたいですね」
「そういえば、スラムの方は捕まってない犬が多いとか」
「ほ、本当ですか!? さっそく明日・・・」

「バザード、しばらく休みも給金も無しだからな」
フランツさんが思い出したように戻ってきて言った。

お、鬼ですかー?
 
近況:カークはどこに? 6
バザード [ 2008/02/22 2:08:17 ]
 2の月16日

そんなわけでこの三日間はどこにも行けず働きづめだった。
そりゃー、急にカークを探しに行った僕が悪いけどさー。

たいていの人は、ほとんどおんなじことを言う。
「カークよりお前の方がよほど危ないんだよ、バカ」

犬以下ですか、僕?

でも、探しに行く候補はスラム街だけ、うーん。
ちょっと危なそうだけど、お客さんが来ない時間帯に抜け出せないかなー。

そうそう、伝言版の僕の書込みの下にラスさんがまた何か書いていったのを見つけた。
ま た 共 通 語 か。

いいもん、ハリートさんの書いた内容から想像つくから。
 
寝る前のお祈り
バザード [ 2008/02/22 23:33:02 ]
 ・・・今日はずっと働きづめでした。
注意力が落ちているのに落としたお皿は3枚で済みました。
木の大皿だったので割れずにすみました。

(略)

カークを、探しに行けませんでした。

今日が終わることに感謝を。
明日がよい日であるように祈りを。

ファリス様、
秩序を守り良き友であるものたちに祝福を。

マイリー様、
各々が誇りにふさわしい戦いに挑めますように慈悲を。

ラーダ様、
求めるときに知ることを重ね望むものを見つけられますように光を。

チャ・ザ様、
各々の知恵と知識と思いが集いその輪が喜びと幸運に満たされますように導きを。

マーファ様、
これから己が道を生きゆくもの死んで次の生を享けるもの皆がより良き未来を築けますように加護を。

えーと、それから。
明日こそはカークが見つかるといいなって。ううん、元気だってわかるだけでいいんですけどー。

あと、最近ものすごくハードワーク気味なんで、
お店は儲かって欲しいけどちょっと楽になりませんかねー?

えーとそれから、
(略)

あー明日も早起きしなきゃ。
おやすみなさーい。
 
近況:カークはどこに? 7
バザード [ 2008/02/22 23:35:53 ]
 2の月19の日

僕はあいかわらずお休みももらえずに働かされていた。
カークを探し出しても、ここをクビになったら会いづらいしなー。

17の日にユーニスさんの書込みを見て早速行ってみようとしたら、フランツさんに襟首つかまれた。
そのときはずいぶん恨んだんだけど。こんなのひどいって。

でも、この数日でわかったことがあった。
ううん。僕が気づけなかったこと、って言うほうがいいかもしれない。

お店の人たち。冒険者の人。料理を食べに来る常連さん。
実はけっこうな人数がカークのことを探してくれていた。

もちろん、どのくらい一生懸命かは人によるんだけど。
こんなに大勢の人たちが心配してくれたんだなーって。

少し前は気が気でなくて、一人で探してる気になって焦ってた。
嬉しいような恥ずかしいようなー。

それからそう、考えるんだバザード。

スラム街までは衛視さんも追いかけなかったから、駆除はできなかった。
確証がないけど見かけたって地域は川沿い、麗しの我が家亭からヴェーナー神殿のあたり。
スラム街で犬探したって話してくれた人はいなかった。

つまり。
カークはスラム街いるってこと。

ふふふ、少しでも休みを早くもらって探しにいくぞー!

追記1:
「カーク探したぞ」ってお客さんけっこういて、
ちょっとサービスってエールくらいなら出すんだけど。

カークが見つかる前に僕のポケットマネーが底をつきそうです。

給金なしってツライ・・・。

追記2:
ユーニスさんと直接会うことができた。
やっぱりユーニスさんもカークらしき犬を見かけた場所をもう一度探してきてくれたらしい。

「多分もう出ないでしょうけど、あのあたりを探すときは気をつけてくださいね」
そのときは、にっこりとやさしげに微笑むユーニスさんの笑顔に見とれていたけどー。

後で考えると「出ない」のはカークのことじゃないみたい。
な、なにが出たんだろ・・・。
 
近況:カークはどこに? 8
バザード [ 2008/02/24 0:00:40 ]
 2の月21の日

今日のお昼ごろ、バルボンさんっていう人・・・いやドワーフさんが店に来た。
きままに亭の掲示板に書いておいた件がどうなったか見に来たんだって。

なんでもいくつか他の店にもお願いしたんだけど、
一生懸命探そうって人もいなくてあんまり進展がないらしい。

うちのにもたいした情報はなかったみたいで、
少し落ち込んだ様子で帰っていった。

バルボンと書かれた羊皮紙は僕の貼り紙の近くにあった。
そう言えばカークのことが気になって他の人の貼り紙をあまり読んでいなかったことを思い出した。

読もうとした。
共通語だった。

ごめんなさいあきらめました。
それで忙しくて忘れていてのいつものパターン。

すっごく悔やんでも、なぜか何回も同じような失敗をしちゃうんだよなー。
 
近況:カークはどこに? 9
バザード [ 2008/02/26 0:36:02 ]
 2の月23の日 朝

朝の掃除が終わって、お客さんもそろそろ来るかなって時刻。
カウンターの後ろの棚を片付けているとフランツさんが話しかけてきた。

「休み無し給料無しでもう10日も経つか、バザード?」
「そうですねー。っていうかそろそろきついです」
「ま、ここのところの働きは上出来だ。お前にしてはだがな。反省もしているようだし」
「え。じゃー・・・」
「ただし片方だけだがな。休みと給料とどっちがいいんだ?」
「・・・ケチ(ぼそ)」
「ん、まだタダ働きがしたいのか? 変わった奴だ」
「あーあー! 違いますってごめんなさいっ!」

しばらく考えて、お休みをもらう方に決めた。
たしかにおサイフは空っぽに近いけれど、カークを探しに街を歩けるから。

ただうかつにお弁当も買うことができないし、
前に比べると一回に探せる範囲は限られるだろうなー。

「バザード、出歩くばかりがカークを探すことではないからな」
フランツさんはそう言って、考え込む僕を置いて厨房の方へ行った。

たしかに・・・と、言うか休み無しで直接に探すことができないから、
お客さんから話を聞いたり、地図を見ながらカークはどこに居そうか考えるようになった。

前はがっかりしてた「見たことない」や「居なかった」っていうのも情報だしね。
それから、カークのことを知っているひと、好いてくれている人が思ったより多かった。

見つかったかい? って聞いてくれる人も増えた。
えへー。自分のことじゃないけど、ちょっとうれしいんだ。

フランツさんも何も言わないけど、できる範囲でカークを探しているらしかった。
カークなついてたもんねー。あれ、僕以上に・・・?
 
近況:カークはどこに? 10
バザード [ 2008/02/26 1:18:19 ]
 2の月23の日 夜

お休みをもらえるようになったといっても、
いきなり今日からってわけにはいかなかったのでお店で接客依頼に掃除ちょっと料理。

かといって収穫が無かったわけじゃなくて。バルボンさんの貼り紙に、
黒ぶちのある犬に会ったって書いてたグリンさんってグラスランナーの人から話を聞けた。

実はあの貼り紙への書込み以降に、店に来たグリンさんの相手をしていたんだけど。
あのときは、確か水がお湯でホットミルクの話・・・あれ?

他の宿の評判だったかも。歳を取らないとか怪異が出るとか? んー。
働きづめで眠かったしよく覚えていないけどまーそれはいいと。

で、今日は(多分)珍しく昼ごろにお店に来たので話しかけてみたんだけど。
タダでは語れんなー、って言ってた。まーそれはそうだよね。

だけどお金も何も十分にはないから困った。
で、怒られるのを覚悟して半分冗談のつもりで、

「えーと、残り物とかまかないで良ければ僕もお昼まだなんで、一緒に食べましょうか? 量はありますよ」
「うむ、良かろう。俺もただ高いだけの食事には飽きたところだ」

いいんだ。
態度はともかく、ホントはやさしい人なんだなーって。

聞いた話に絵も描いてもらって、カークだって確信できた。
もしかしたら野良犬の駆除のとき・・・って心配してたんだけど、その後に見かけたって。

でも、なんで逃げ出したんだろう。
それに、なんでスラムなんかに。

厄介なことにならなければいいんだけど。
 
近況:カークはどこに? 11
バザード [ 2008/02/27 21:52:12 ]
 2の月24の日 昼

とりあえず今日の午前中はお休みをもらえた。
ホントは一日全部くらいは欲しかったんだけど。

みんな僕がもうしばらく休み無しで働くことを前提にしてシフト組んでたんだって。
さすがにそれはひどいよー。

で、この時間だけじゃスラムのへりを調べるのも無理だろうと思って、
掲示板に書いてあったリュノさんのお家に行ってみた。

なんでもぶちの子犬が産まれたとか。
もしかしてカークが・・・って思ったんだけど。

リュノさんは引退した冒険者で、パートナーに先立たれた後に犬を飼いはじめたらしい。
昔のつてでいくつかの冒険者の店にも貼り紙をしてもらったとか。

結局子犬の親がカークということはなさそうだった。

子犬を見守って近くに親犬がいた。
血統書こそついていなくても、一目で猟犬の血を引く純血種だってわかった。

馬に乗ってオラン付近の草原をこの犬たちと駆けるのがリュノさんの夏のもっぱらの楽しみだとか。
カークにもその犬たちと同じ血は流れているだろうけど、雑種なんだよね。

リュノさんもちょっと気をつけて見てくれると言ってくれたし、
またいつでもおいで、だって。えへ。

収穫はまー、無かったと言うか思ったよりは有ったと言うか。
そんなこんなで午前はあっという間に過ぎちゃった。
 
カークはどこに? 12
バザード [ 2008/02/28 23:33:53 ]
 2の月24の日 夕方

店番をしながら、家がオランにある冒険者の人とかに子犬の話をしたら、
さっそく見に行ってくれた人がいた。

みんなで3匹だったっけ。
いい飼い主に恵まれますように。

ちょっとした空き時間はカークの行方を考えるのに使った。
以前のラスさんの書込みからは、ハリートさんが東方語の添え書きをしてくれているのでわかりやすい。

ハリートさんにお礼を言ったら、
多くのお客様にも読んでもらうことが出来ますから、って言って笑ってた。

共通語をしゃべるのは問題ないんだけどね。
メニューとか単語くらいならそりゃ読めるけどさー。

あー、でも冒険者とかお店の人とかになるにはいずれにせよ必要なんだろうなー。
しゃべりとか東方語の読み書きと一緒で、自然にいつかは身につくのかな。

それはともかく、こうしてみると新しく発見もあるもので。
思ったより雑多なことに使われているんだなって。

何故か多い犬やその他の動物関連の貼り紙、かなり個人的なメモ、神殿や貴族の主義主張。
添え書きが無くて僕に読めないのはその他の言葉なんだろう。流麗、剛健、金釘、落書。

明らかに必要の無いものはハリートさんが整理したのに、
いろいろなものがあるんだなー。

目新しいことは書いていなかったけど、僕の貼り紙の横に貼ってあったのも、
カークを見ましたってことだったってはじめて知った。店に来てくれたらお礼言わなくちゃ。

そういえば最近、去年カークが居なくなったころの話を聞いた。
なんでも、カークが冒険者風の女の人と一緒にいたとか。

西側の門の近くで。
犬連れの冒険者は珍しいから覚えていたんだって。

うーん、どういうことなんだろ?
 
カークはどこに? 13
バザード [ 2008/03/01 0:48:25 ]
 2の月25日

大忙しだった。
一つ一つはいつもしてることでも、まとめてやってくるとエライことに。

値上がりのある食材の仕入れの交渉、盗賊ギルドからの照会、一山当てたパーティーの宴会。
依頼の詳細の確認、仕事から帰ってこない冒険者の家族の相手、冒険者の店同士の調整。

もちろんそんな仕事は僕にはまわってこない。
それでも店の人手は変わらないから、給仕や料理の仕事は多くなるんだよなー。

そんな中で掲示板、それも僕の貼り紙に何か書き加えてあったのは確かに見た。
で、まず書いた人の名前を読んだ。

”ラス”

はい、後回し。
昨日今日はハリートさんが東方語の訳をつける暇も無かったもんね。

少ししてからちょっと心配になった。
前回は空振り(無駄だったワケじゃないけど)だったけど、緊急だし重要なことだったから。

そう思って掲示板を見るとその文章の最後のところが目に入った。

”かゆうま”
・・・・・・。

その言葉自体は僕も知ってはいる。
ずいぶん前、アレクラスト全域で人気(というフレコミの)劇の一節の言葉だ。

生きる死体に変えられてしまった犠牲者の日記を勇者が朗々と読み上げて。
その最後の叫びか何かだった気がする。まじめな演技との落差がおもしろかったのかな?

なんかため息一つ、気が抜けたところでお客さんから呼ばれて、
今度はラスさんの書込みのことが抜けちゃった。


後から考えてみればおかしいところはあった。
気がつかなきゃいけなかった。

すらっと読めた時点で東方語だと気づくべきだった。
見落としで今まで散々機会を逃してきたことを思い出すべきだった。


そのときは。
それができなかった。
 
カークはどこに? 14
バザード [ 2008/03/03 0:28:19 ]
 2の月26の日 夜

今日これまでのダイジェスト。

ラスさんの書込みを読む(すごい、東方語だ!)

わけがわからなくて悩む

返事を書こうとして、カークが食べられたって書いてあるのに気づく

後先考えずに店を飛び出そうとする

コーデリアに足をひっかけられて派手にころぶ(たんこぶ1つ)

大声でコーデリアに突っかかる

フランツさんに怒られる(たんこぶ2つ)

部屋で頭を冷やして来いって言われる

店の裏で小石を蹴飛ばそうとしてこける(たんこぶ3つ)

痛い。いろいろと痛い。

今行ってどうなるの、
どこに行けばいいのかわかってるの、ってコーデリアが言ってた。

そんなの、わかるはずない。

それでも、それでも行かないよりはいいと思った。
昨日気づけなかったことが悔しかった。


空を見上げた。大都市オランは夜も動き続ける。
その光のせいか、星空はくすんで見えた。

いいさ。ここで店を飛び出したんじゃ”所詮それまで”、だもん。
コーデリアにこれ以上言い負かされるのもイヤだし。

・・・それにしても、痛い。
 
カークはどこに? 15
バザード [ 2008/03/14 23:46:35 ]
 3の月7の日

またタダ働き休み無しかと思ったけど、
フランツさんは特になんにも言わなかった。不思議。

それどころか、昨日から前の半分だけどお給金が出るようになった。
フランツさんはそれだけ言って、銀貨の入った袋を渡してくれた。

理由、聞いても教えてくれない雰囲気だってことは僕にもわかる。
うーん、これはどういうことなんだろ。

コーデリアは当然じゃん?って感じで肩をすくめるし、
ハリートさんも苦笑しつつ、「考えている通りで御座いますよ」だって。えー?

ラスさんには会おうとしてるんだけど、こういうときほどなかなか会えないのはなんでだろ。
店に来ていないわけじゃないんだよねー。

カークが食べられちゃったって事自体は違うにしても、
どこで見たのかわかんないしね。

暗号かも・・・って考えてもよくわからなかった。
一人前の冒険者なら、文章に暗号を隠すことや隠された暗号を読み取ることができるのは当たり前だとか。

わざわざ暗号で?
この貼り紙に?

あー、僕。もしかして試されてたりする?

カークのことなら一生懸命になれるから?

・・・そんなことないよね、多分。うん。
 
カークはどこに? 16
バザード [ 2008/03/19 21:21:36 ]
 3の月12の日

おさんぽ。

最近は休み無しだったり休みでもきままに亭で考え事してたりで、
出かけるのはけっこう久しぶりな気がした。

コーデリアにどこに行くのか聞かれたけど、
自分でも決めてなかったから「さあ?」って答えたらそっぽ向かれた。

スラムのほうじゃないよねって念押しされたし。
なんでー?

カークを探しに行く、って言ったら嘘になるかもしれない。
でも、カークを探すつもりがないと言ったらそれもたぶんまちがいで。

ただ、おさんぽに出たかっただけなんだけどなー。


それでもなんとなく、カークを見たって聞いた場所へ来てしまって。
ハリートさんとここを探してからもうひと月以上になるんだなーって橋のしたでぼーっとしてた。

そうそう、野良犬として駆除されそうだった犬にまた会えたんだった。
マーファ神殿のひとが引き取ってくれたって言うのは聞いたけど。

ファリス神殿の神官さまがおさんぽをさせてた。
ちっちゃい犬なのに、前見たときと違ってなんか堂々と誇らしげに見えた。

今のカークも、店の前で日向ぼっこしてたあのころとは違ってしまっているのかもしれない。
満足して、幸せに過ごせていればいいのだけど。

ファリスさま。
カークのいる場所にも、きままに亭の店先のように暖かい春の光がさしていますように。
 
カークはどこに? Another Side
バザード [ 2008/03/25 22:53:47 ]
 (筆者注:この宿帳はバザードのものではありませんが、便宜上ここにまとめさせていただきます)


そう、確かに日の光は差し込んでいた。でも、それは、
以前は当たり前のように浴びていた暖かい春の光とはまるで違うもののように感じる。

いくらスラムの奥部、入り組んだ通りの中とは言え太陽の光は届く。
光が変わっていないのなら、変わったのは私だということか。


隣に座っている”パートナー”に目を向ける。
いや、お互いに積極的に助け合う関係とは言えないから、その表現は正確ではないかもしれない。

ただお互いにそこに”居る”。私にとってはそれで良かった。


もう、半年以上になるか。
このオランという街、その西門で偶然出合ったのは。

別に、お互いに会話をしたわけでもない。
それでも出合ったときに私は心の欠けている部分に、”パートナー”がごく自然に入り込むのを感じた。

アイツも未だに私と一緒に居るのだから、多分私と同じなのだろう。

あの時は、もうオランを離れて帰ってくるつもりはなかった。
それがどういうわけか今はこの街に、それもスラムの奥に隠れ住むことになろうとは思いもしなかった。


でも、私は今していることを止めて立ち去ることは出来ない。
どういうわけだか、あの人は私と”パートナー”だけを本当に信頼している。


”パートナー”もあくびをしながら、周囲をそれとなく警戒している。
変わったのは私だけではない。そういうことだろう。

少しの後、アイツが私に向かってにやっと笑った。
いや、そう見えるというだけだが、私にとってこれは確信だった。

相手が違う生き物だということは大変だが、それだからこそいいこともある。
そろそろ食事の時間だ。戻るとしよう。
 
カークはどこに? 17
バザード [ 2008/04/05 23:17:12 ]
 4の月某の日

こんなに忙しいと、ゆっくりと食事の時間もとれない。
それでもそんな時間に外に出ると、なぜかうきうきした気持ちに。

それに、明日からはしばらくここから出ることになるんだし。
今日ぐらいはしっかり働いておこうって思うし。うん、僕えらいねー。

すっかり春らしくなって、最近は風も強くて、いい匂いがする。
野営もすっかり楽になって、冬の間は閉ざされていた山道も緑と一緒に顔を出す。

ここ”きままに亭”でも情報を求める人、仕事の景気づけに一杯やる人、
そして冒険の成功にカンパイをする人が増えてきた。

そう、これからが冒険の季節、冒険者の季節。


前の月の終わりごろに、カークの居場所はわかった。
スラムのすっごく奥のほうだって。

そりゃ聞いたすぐ後には駆け出そうとしたけど、
結局前回のように止められたというかそうでもなかったと言うか。

前と違って僕をつまづかせたのは心配そうなコーデリアの表情であって足じゃなかったし、
フランツさんもすぐにゲンコツじゃなくて、少し話があると言った。

個室に入ると、カウンターに居たラスさんもつい、っと入ってきて。
持ってきたマグからなにやら飲みつつフランツさんをうながした。

で、この件を知った、カークを知ってる人みんなが情報を持ち寄ってくれたおかげで、
それなりに位置の見当はついてたらしい。

「スラムの端でただ待っているよりは、そこに行けばまあ確実にカークに会えるだろうな」
だが、とフランツさんは続けた。

ちょいと厄介なことが起こっている、と。

ラスさんが続けて言うには、
スラムの中心部に居るものはいわゆる貧民街のそれとはまったく違う、ということだった。

具体的なことはほとんど教えてもらえなかったし、それが当然のことだってことくらいは分かるつもり。
じゃあ、諦めるしかないのってがっかりしかけたんだけど。

「実は方法は無いことは、ない」
あっさり言ってた。手段も可能性も十分にあるんだとか。

「ただ、それを今のお前に教えることはできない。理由は判ってるな?」
「状況はそうそう変わりそうにねえし。その前に2つ3つ、冒険にでも行ってみな」


そんな話をしてからしばらくたった。
ハリートさんが一緒に探してくれた仕事。そのために明日からちょっと出かけてくる。

冒険に行くなんてけっこう久しぶりなことだし、
自分から声をかけて仲間を探すって新鮮だった。

今日はよく晴れているけど、明日もそうだといいな。
ずっとその先も。

でも、雨が降らないと作物はできない。だから雨の日も越えなくちゃいけない。
それにどうしたって凶作の年もある。以前は、それから逃げ出すことしかできなかった。

今かそれとも、今は無理でも、歩き続ければもう少しマシなことができるかもしれない。
村を僕より先に出た妹のケストレルが、よくそんなことを言っていたのを思い出す。

僕も歩き続ければ、またカークやケストレルに出会えるのかな?
そうだと信じたい。ちょっと怖いけど。

さーて、仕事にもどろうかな。
 
カークはどこに? Another Side 2
もう一人とそのパートナー [ 2008/04/19 22:32:59 ]
 (筆者注:この宿帳は以前のものと同じくバザードのものではありませんが、ここにまとめさせていただきます)

仕事に戻るぞと”パートナー”に手振りを交えて合図する。
まだ寒い、などと思っているうちにいつの間にこんなにも春になったのだろうか。

以前は常に季節を感じ、大切にしたものだが。それもすっかり鈍ってしまったか。
いや、オランという大都会のスラムの奥などからしばらく出なかったからだと思いたい。

あの場所は、寒い。
辺縁部や商業地域の一部のような貧民街とはまるで違う。

貧民街がオランの影だとしたら、あちらは闇というべきだろうか。
そこに”人”は”住まない”。”何者”かが”棲む”場所だと。

”パートナー”もさすがにあの場所では日向ぼっこをしない。
私も同じだ。

スラム辺縁に久しぶりに出てきて、久しぶりの散歩だった。
アイツも去りがたそうにしているし、私も同じ気分なのだが。

もう二月近く前になるか。
別の護衛が”パートナー”にちょっかいを出してちょっとした騒ぎになった。

半妖精がその現場を意味ありげな目で見ていったのだ。
私はそのとき少し離れたところに居たのだが、どうもそう見えた。

どうも上手く言えないのだが、今までになく精霊が安らいでいるような感覚をちらと感じた。
あれは只者ではないと思っていたが、実際そうだったことが後でわかった。

調べた結果、あの男は盗賊ギルドのメンバーで、
担当や経歴を考えると憂慮する必要は無しとのことだった。

ただ、念のためこちらも動きを潜めることにした。
居場所を把握しているとは思えないが、何故か最近はここら辺で何かを探している者が複数居るらしいのだ。

政治や戦争、国のごたごたは私にはよくわからない。
だが、私を助けてくれた人をみすみすそういうものの犠牲にするのは嫌だ。

自分の力不足は理解していても、だ。

隣のアイツも、ずいぶんと難しい顔をしているように見える。
なんでま、気楽な種族かと思っていたがそうでもないようだ。

いつまでこんなことをしているのか、とも思うが。
自分から何を動かせるものでもない。

今しばらくは、このままか。
 
カークはどこへ?
バザード [ 2008/10/29 21:52:36 ]
 カークがふらりと戻ってきたのは、前の月のことだった。
何の前触れもなく、突然に。

帰ってきたときは、怪我はなさそうなのに元気がなくて、すっごく心配した。
うん、嬉しかったけど、それより不安になったくらい。

犬って、そういうの一番わかりやすいよねー。

それから、ひどく汚れてた。
外の臭いではなくて、街の中でついた臭い。

お決まりの臭いに混じって、人の血の臭いもしたことに他の人は気づいたんだろうか。
それとも僕の気のせい?

よく洗って、洗って、洗って。
それでも鼻先について取れない、そんな気がした。


戻ってきたカークはどんどん元気になった。
普通に見る限り、なんであんなに心配に感じたのかよくわからないくらいに。

でも、よく見ているといつもと違う感じでどこかへ出かけるときが時たま、ある。
今日もなんとなくそんな感じ。

今度は、カークについていくことにしよう。
なんとなく・・・だけど、気になって仕方がないもん。

なんだか好評のリゾット、多めに仕込んでおいたし。
他の食材にも使えるキノコもそろえておいたし。

ごめんねー、コーデリア。ちょっと出かけてくる。
 
カミさま?
バザード [ 2008/11/25 0:46:34 ]
  前の月にちょっと休みすぎたのもあって、最近はなかなか忙しい。
 オススメ料理もちょっと任されるようになったりして、冒険どころかあんまり店の外にも出られなかった。

 最近はカークの散歩にも行ってないほど。
 フランツさんとか、あと犬好きでヒマな常連さんとかがしてくれているらしい。

 で、そんな状況だったわけでー。
 シタールさんに伝言を頼まれて、やっと料理や接客以外の用事ができた。

 「セシーリカに、カレンが泊まるかもしれねぇって伝えてくれ」
 「あー、メシは作らなくていいってのも頼む、念のため」

 上着を引っ掛けて出かけようとしたところで、レイシアさんとすれ違った。
 「あ、少年、元気してたー?」
 「元気してたー」

 ラスさんが瞬時に返事したせいで、挨拶しそこねてそのまま店外へ。
 ごめんなさい、レイシアさん。多分僕のせいじゃないですー。


 このところ急に冷えこんで、もしかしたらもうすぐ雪が降るんじゃないかと思うくらい。
 でも、ほとんど満月のお月さまが照らしてくれるから道は明るい。
 
 お月さまやお星さま、もちろんお日さまも。
 神さまが見守っていてくれるって、感じられるから好き。感謝してまーす。


 そういえば、さっきは違う感じの「カミサマ」って言い方を聞いたような・・・。
 店のカウンターで。

 不機嫌そうに酒を呑んでたカレンさんに・・・そー、アリュンカさんが尋ねてた?
 スラムにカミサマ・・・。
 

 僕も、オランに来たばかりのころスラムに居て・・・いろいろと見てきたし。
 特に今年は、カークを探して結構スラムやその近辺を出入りしてて。

 あの、スラムに?
 スラムにカミサマねー・・・。
 
 最近カークの様子がおかしかったし。
 散歩に出ると、スラムの方を気にしている感じだったのに。

 少し前から、まるでおびえた様にスラムの方へはよりつきもしなくて・・・。

 まさか、ヤクビョウガミさまとかじゃないかな・・・。

 ・・・ 
 なんか寒くなってきた気がする・・・さっさと用事を済まして、今日は帰ろう。