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【イベント】黒き墓所再び
イベンター [ 2006/06/01 23:44:48 ]
 <今回のシステム>

えー。前回の『黒き墓所』を踏襲します。ので、システムはそれと同じです。
つまり、後付けで遺跡(?)の内部を作れ、ということです。
回想の形でもいいし、会話の中でそれを表現してもいいし。
いわゆる「後日談」とはちょっと違いますよ? そこんとこ間違えないように。
各々、投稿出来るチャンスは1度きりです。

6/2(オラン発)− 6/4(現地到着及び探索)− 6/7(現地発)− 6/9(オラン着)

上記の日程で決行しますので、宿帳投稿期間は 6/2 20:00 〜 6/9 22:00 とします。
もちろん最終日より早く全員の分が揃えばそこで解決マークはつけますが、あくまで6/9夜までが拘束期間です。

前回と同様に順序は特に定めません。
後出しのほうが書きやすいといえば書きやすいですが、先に書くほうが好きに決められる部分もあります。お好みにあわせてどうぞ。
開催期間中の憩いでもおしゃべり、他キャラを使ってのキャラチャ等は自由です。

今回も、参加キャラクターの中にNPCが1人入ります。
前回使ったのと同じNPCですので、参加者は前回と矛盾しないように前回のものを読み返してから書くようにしてください。


<参加キャラ>
ラス(PL:松川/イベンター)
カレン(PL:振一朗)
スカイアー(PL:Ken-K)
アル(PL:U-1)
ベカス(NPC/人間・男):壮年の神官戦士。マイリー修練場でのスカイアーの知己。
 
黒き墓所(前文)
イベンター [ 2006/06/02 0:50:19 ]
  ラウヒェンの墓所。そこに眠っている人物には様々な口伝が残っている。その殆どが彼の残虐性を示したものだ。しかし、やや趣の違う話もある。それは、彼が屈強な武人を厚遇したという話だ。彼は自分専用の近衛連隊を作り、その人員を全て練達の武人で固めていたという。彼らは全て、忠実な臣下だった。
 ラウヒェン自身、たしなみとして剣は学んだものの、才能は無かったという。そのために彼は文人としての道を選んだ。貪欲に、そして冷酷に、彼はあらゆる知識を蓄えていった。他人の命を犠牲にすることを厭わずに。
 自分の知識欲のために、無数の魔術師や賢者を虐殺したラウヒェンに対し、近衛兵たちがどう思ったか、それらは伝わっていない。ただ、実際にその虐殺を実行したのは近衛兵たちである。その指揮を執ったのが、近衛連隊長にして宰相を兼ねていたヴァルテル・グアッツォだと言われている。

 517年秋、冒険者の一行がラウヒェンの墓所に挑んだ。近隣の村に伝わる「黒き塔、黒き棺。来たれ、英雄よ。その者のみが我が生涯の宝たる黒き宝石を手に出来るであろう」という、ラウヒェンからの挑戦を受けるべく。
 峻厳な岩壁に張り付くようにして建てられている漆黒の墓所。それがラウヒェンの墓だ。遙か昔、サーダインの時代には、その崖の上に領主ラウヒェンの居城があったのだという。ラウヒェンの治世、その崖はいつでも血に染まっていたとも言われている。首を跳ねとばした死体を、そうでなければ体中に針を刺して、それでも生きている賢者を、その崖から放り投げていたのだ。崖の下には無数の死体があった。血臭がうずまき、腐敗臭を日々増していく恐るべき場所。ラウヒェンは、自身の死後、そこに墓所を作るようにとグアッツォに指示していた。

 冒険者が訪れたのは、怨嗟の声が今もって響きそうなそんな場所である。半球の屋根がある中央部。その入り口の両脇に小さな尖塔が1つずつ。中央部の奥には、崖と同化するように一層高い尖塔が1つ。
 正面の扉から入ったその場所は、円形の部屋だった。床の敷石は、黒い大理石がその大半を占める。ただ、入り口から正面の奥へ、そしてそれに中央で交わるようにして左右に、もしも天井から見下ろしたならば、正十字の形に白い大理石が敷かれていた。
 白い大理石の通路が交わる中央部分には、黒い棺が安置されていた。そこから、梯子を伝って地下へ下りる仕組みになっている。それ以外に、その部屋に扉と言えるものはない。
 両脇の小さな尖塔は、通風口ともいえるようなもので、施工時の小さな足がかりが内部に螺旋状に残されていたが、部屋と呼べるべきものは何もなかった。

 棺の梯子から地下へ下りた地点の床には、魔方陣らしきものが描かれていた。文様が、淡い黄色の光を放っている。だが、それを調べようとするよりも前に、冒険者たちは彼らを迎えた者たちと戦わざるを得なかった。その部屋には、ラウヒェンが虐殺した人間たちが、不死者となって蘇っていたのだ。死してまで彼らを縛ったラウヒェン本人の棺は、その部屋の奥にあった。
 地下の部屋もまた、地上と同じように円形をしている。奥に安置されているのは、上階にあったものと同じような、けれどそれよりは幾分豪奢な彫刻がなされた黒い棺。刻まれた名は間違いなく、ヘクター・ド・ラウヒェンとあった。
 冒険者たちは、棺を守る武人の不死者たちと戦い、そして棺の中にある木乃伊の眼窩から、宝石を刳りぬいた。

 だが、未調査の部分が幾つもある。地下の部屋は上階と違い、幾つかの扉があった。そのうちの3つほどは内部を調べ、副葬品と思われる財宝も奪ってきたが、どの部屋にも怨霊がいる。ラウヒェンに怨みを持つ者と、ラウヒェンに忠誠を誓った者たちの怨霊が。
 必要以上の消耗を避け、冒険者たちは調査の中途でその墓所を後にした。

 そして518年初夏。冬枯れていた木々が新緑に溢れる今、冒険者たちは再びラウヒェンの墓所にいた。
 未調査の部分を踏破するためである。調べていないものの中には、幾分不可解なものがある。まずは地下中央の魔方陣だ。周辺の不死者を一掃した後には、その魔方陣は光を失っていた。
 更に不可解なのが、中央部の背後に聳える一際高い尖塔だ。その塔への入り口と思われるものは、地下にあった。ラウヒェンの棺と思われたものの背後に。そこには一際大きな扉があった。月星紋の刻まれたその扉には罠や仕掛けなどは見あたらず、そして鍵も鍵穴も、把手すら無かった。物理的に開けることの適わないその扉の奥は未調査のままだ。尖塔に内部が存在するからこそ、そこには扉がある。そしてそれに意味があるからこそ、棺はその扉の前にある。

 幾つかの文献調査を経て、冒険者たちは墓所の前に立っている。オラン市内で調べた中には、重要な文献が幾つも見つかった。
 最大の収穫はグアッツォの手記が見つかったことだ。
 そこに曰く。
 ──我、永遠に主の盾なり。

 ラウヒェンの名が刻まれた黒き棺。その中に収まっていた完全な形の木乃伊。調査の中で、それがグアッツォのものである可能性が出てきた。だとすれば、彼が守っていた一際大きな扉。月星紋の刻まれたその奥が、グアッツォが永遠に守ろうとしたものかもしれない。
 カストゥールの生き残りとも言われていた魔術師たちを虐殺し、賢者たちを拷問の果てに嬲り殺した主に仕えた忠臣。主の死後、主の遺言通りに墓所を建築し、全ての作業が終わった後で自身もラウヒェンの命に従うべく、自ら棺の中に入った男。その男に護られて、今もまだラウヒェンの遺体は無傷で最奥にある。尽きることのない、自分への怨嗟の声に心地よく身を委ねて。その怨みの力を自身の墓所を護る不死者を生み出す力へと変えて。

 黒き領主は今、塔の上から冒険者たちを見下ろしているのかもしれない。
 
冒険者の笑顔
アル [ 2006/06/07 23:08:02 ]
 「実入りとしては、まずまずってとこかな」
 墓所から持ち帰った様々な品を確認しながらカレンさんが言う。貴石や副葬品だけでなく、大扉の先で得た数冊の書物は、然るべき筋に流せば、それなりに懐を潤してくれるだろう。
「惜しむらくは、刀剣の類が、まったく無かったことか」
 部屋の入り口付近に座ったスカイアーさんが、杯を傾けながら呟く。卓越した技量の近衛隊の存在を知った頃から、そういった類の財宝を多少は期待していたような口ぶりである。だが、実際に対面した死を知らぬ彼らは、大した業物でもない品しか使わなかった。
「カストゥールの遺跡にいる番人なら、また違うんでしょうけどね」
 ボクは、持ち帰った書物を捲る手を休めて言う。
「どうせ、在ったところで、それを手放す気はないのだろうに」
 寝台に横たわったまま、そう言ってスカイアーさんの帯刀に視線を送ったのは、べカスさんだった。ボクは知らないが、なにか謂れのある品なのだろう。スカイアーさんは、反論するでもなく微笑し、軽く愛剣に手を添えた。
「そう言や、お前、アレはどうなったよ? なんか、別件とのつながりを気にしてたろ」
 窓際からラスさんが言ってくる。
「ああ……ええ、まあ……」
 なんとなく言葉を濁すボクの様子から、全員がそれぞれに事情を察したようだった。

 ボクは“ジェドの牙”とラウヒェンとの関連を探っていた。
 入り口の両脇に建てられた尖塔。それは、さながら牙のように見えるのではないか……とボクは思っていたのだ。そして、中央にある尖塔は“ジェド柱”であり、内部には伝説が言うところの『魂を聖別する回廊』である螺旋状の階段か何か(入り口の尖塔にあったような足場に過ぎないかもしれないが)があるのではないか……そうも疑っていた。
 魔術を求めながら新王国人の魔術師や賢者を虐殺し続けた裏には、古代王国人の末裔としての単純ならざる心の屈折があったのではないか……と見るのは穿ち過ぎだろうか。
 オランから北へ二日半という場所は、レックスに遠過ぎるということもない。
 地上階。敷き詰められた大理石。その白と黒の図柄は、ファリスの聖印である光十字を模したように見えないだろうか。その中央に柩を置き、そこから地下へと降っていく構造には何の意図もないのだろうか……。大扉の月星紋もそうだ。星は言うまでもなくラーダの教義によると死者たちである。そして、月は“名もなき狂気の神”の真の姿とも言われるフェネスの象徴だ。“死者”と“繰り返す周期”が並立する図案には何かを暗示する意図があるのではないか……。
 或いは、伝承はどうだろうか。『黒き塔、黒き棺。来たれ、英雄よ』という例の奴だ。宝をちらつかせ、墓所という祭壇に生贄を集めるために広められたという可能性はないだろうか……。

 ジェド。牙。神。邪神。棺。螺旋。墓所。祭壇。死者。サーダイン王国期。魔術。古代王国。ボクは、言ってみれば断片でしかないそれらの情報を寄せ集め、推論と言うのもおこがましいような連想をしていたのである。実際に自分で現場を観察し、あわよくば、なんらかの証拠を見つけたいというのが、ボクが同行を申し込んだ理由だった。

「とすると、ソッチの方は、まったくの無駄骨か?」
「……いえ、ボクの説をその場で裏付けてくれるような証拠は、ありませんでしたが、完全に否定する材料もなかったんで……」
「そうすると……今後の分析次第ということなのかな?」
「う〜ん、どうでしょう。矛盾する箇所もありましたし……。例えば、ほら、例の魔法陣です」
 今回の調査で、それは召喚に関連した物だということが確かとなった。
 “形なき神ザタタ”の下僕を召喚しているのだろうというのが、街での調査と実物の検討とで判ったことだ。

「ザタタは形あるものすべてを憎むと言われるマイナーな暗黒神です。その手にかかった者は木乃伊化するのも珍しくないとか……。墓所の新たな番人となる不死者を作る為にラウヒェンが、それを利用したと考えられなくもないんですが……とすると、ラウヒェンが信仰していたかもしれないと考えた神とは矛盾するんですよね。ザタタは、祭壇としての墓所どころか、すべての形あるものを憎んでいるはずですから。そもそも信仰を持った人間だと解釈しようとするとあの墓所にある他神の聖印らしきものは、逆に在ってはいけないものなのではないか……と、色々と実物を見る内に思うようになりまして……」
「つまりは、アレか? お前の思い込みだった、と?」
「………それは、これから再検討してみてです。性急に結論付けようとすることが、如何に危うい行為かというのをボクは、今回のことで学んだつもりですから」
 精一杯、冷静な声を作りながら答える。負け惜しみに聞こえないように努めはしたけれど、皆の様子をみると効果の程は疑問だが。
「どちらにしろ、もう一つの目的は果たせたんで、ボクとしては無駄骨だったとは思ってませんしね」
 そう続けた言葉の方は、間違いなく負け惜しみに聞こえたのだろう。皆が、どっと笑った。
 
魂へ贈る歌
ラス [ 2006/06/08 1:08:02 ]
 墓所に潜ったのが4の日の昼。そこから出てきたのは5の日の夜。
墓所の周辺で半日ほど休んで、一番近い村に下りてきたのは6の日の夜だった。
宿で真っ先に頼んだのは、酒でもメシでもなく、風呂だった。

「……考えてみれば、ある意味、一番簡単な入り口が崖の上にあったんだよな」
カレンがそう呟いたのは、メシも風呂も済ませて、数本の酒瓶を手にして部屋に引き上げた後だ。
「でも、あそこから入るとなると、かなりの距離を垂直におりなきゃいけないですから……ボクは無理ですよ」
アルが困ったように笑った。

++++++++++++++++++++++++

例の魔方陣の、更に下の部屋のことだった。
淡い黄色の光を放つ魔方陣。出発前にアルが調べたのは、“形なき神ザタタ”の下僕を召喚するための魔方陣だろうということ。そしてそれは、実物を再調査して、おそらく事実だろうと確認された。

──魔方陣が描かれた場所へと、梯子を下りる前。
下方の気配を窺うと、負の生命の精霊の臭いで鼻が曲がりそうだった。
以前来た時に片付けたはずの不死者が復活しているらしい。
いや、復活というのは正確じゃない。おそらくは、再生産されている。
そこで、梯子の上でまずアルが鎮魂歌を歌った。
しばらくしてから、ベカスを先頭に俺たちが梯子を下りていく。そして、床に降り立つ寸前にベカスが聖光を放つ。
アルの歌の効果でもともと動きをかなり鈍らせていた不死者の大半は、それで片づいたも同然だった。
その後に下りていったカレンやスカイアーが、残った不死者たちを次々と片付けていった。

出発前に調べたことをもとに、以前俺たちがラウヒェンのものと誤認していた──おそらくはグアッツォの──棺をもう一度調べる。
棺の中に入っていた木乃伊を外に出すと、棺の底には小さな魔方陣に囲まれた鍵穴があった。
別の部屋で見つけた鍵をそこに差し込む。
と、以前はどうやっても開かなかった月星紋の大扉はすんなりと開いた。
そこには幾つかの副葬品らしきものや数冊の書物はあったが、ラウヒェンの棺はなかった。
カレンがその代わりに、更に地下へと下りる隠し階段を見つけた。

その先が、真の“ラウヒェンの墓所”だった。
床は全て漆黒の大理石で覆われ、中央には白大理石で台座が組まれており、更にその上に漆黒の棺があった。
上にあった棺よりも二回りは大きい。施された彫刻も、上にあったものとは比べものにならない。
そして何より、それがラウヒェン本人のものだと確信させるのは、その棺から、ひどく強い不死者の臭いが漂ってきていることだ。
それを感知した俺の表情を見て、スカイアーとベカスが一歩前に出た。
「あれが本物か」
スカイアーが抜いた剣に、ベカスが“聖なる武器”の奇跡を施す。

カレンはスカイアーの背後で、棺の周囲に目を走らせていた。まず構造を把握しようというのだろう。
俺も同じように周囲に目を走らせて……そして、カレンよりも先にそれを見つけてしまったのは、構造を見ようとするより先に負の生命の精霊力に視線が引っ張られたからに過ぎない。
カレン、と声を掛けて注意をひく。声を掛けるのとほぼ同時にカレンも気付いていた。
綺麗に整えられた墓所内部にはそぐわない……それは、半ば風化した白骨の山だった。そこに漂う濃密な精霊力で、俺には骨の細部が見分けられないほどだ。
そこには、わずかながら陽の光が差している。地下の、更に下に潜ってきたはずなのに。
遙か上方から差す黄昏色の陽光は、この陰湿な墓所にはひどく場違いに見えた。

「ど、どうしましょう。歌いましょうか」
「いや、まだ不死者そのものにはなってない……だな、ラス?」
「ああ。そこにあるのはまだ“要素”だけだ。あれならまだ少し時間の猶予は……」
「そうも言ってられんぞ、ラス。気付かぬか、棺から聞こえる不死者の声に」

スカイアーの指摘通り、中央の棺からは断続的にぶつぶつと低い声が聞こえる。
そして、それに呼び出されたかのように、隅にある白骨の山から、“気配”が棺の傍に移動して……。
死霊魔術か、と吐き捨てるように言ったのはベカスだ。
以前一掃したはずの不死者が再生されていたのはこういう仕組みだったのだろう。

「歌……歌を……」
アルの声が少し震えていた。どうやら震えていたのは声だけではなかったようで、その直後に一際高い音が響いた。
「弦が……っ!」
「張り替えてる暇はない。元凶を潰すのが先だ!」
スカイアーが剣を構える。そして、ベカスが棺の蓋を蹴り開ける。
「アル、下がれ!」
カレンが叫んで、スカイアーとは反対の側へと走る。同時に俺は連れてきていたシルフを解放して、ベカスが開けた棺から出てきたモノに“沈黙”の魔法を放った。

++++++++++++++++++++++++

「あれは、つまり崖の上から死者を落とす穴だったのだな。主が死して後までも、そこに材料として死者を届けていたか」
瓶から杯へと酒を注ぎながらスカイアーが言う。
「文献によると息子だったか、跡を継いだのは?」
「ええ。息子も父親とほぼ同じやり方で殺戮を重ねたらしいんですが、ラウヒェンが近衛連隊の主立った者達に殉死を命じていたせいで、息子の代では武力が揃わず、反乱が起き……というわけらしいです」
カレンの問いにはアルが答えた。
「……息子が父親の望みを叶えるために、死後も父親の命令に従って……か。ことがことじゃなけりゃ、いい話なのにな」
カレンが肩をすくめる。
「崖の上の古い城址にあった穴も塞いだ。今回こそはラウヒェン本人も滅した。それでよかろう。……だがカレン、あの縦穴を下りていくのは、アルばかりではなく私もごめんだぞ」
「わしなぞは、鎧が引っかかって下りられぬ」
スカイアーとベカスが笑う。

スカイアーの手から酒瓶を受け取って、俺は自分の杯に酒を満たした。
それを口に運びながら、ふと気になっていたことを思い出した。
「そういえばアル。おまえ、ラウヒェンを片付けた後、しばらくあの白骨の山のところで歌ってたな。わざわざ切れた弦を張り替えて。しかもかなり長く」
「ああ、あれは……」
戦利品の書物を膝の上に開いたまま、アルが少しだけ照れくさそうに頭を掻く。
「……鎮魂の歌というのは、冒険の中で使うには、例えば不死者の動きを鈍らせたり、ごく稀には歌の力だけで消滅させたりも出来ますが、本来は本当に魂を鎮める歌なんです。つまり、まだ不死者となっていない……ほら、ラスさんが“要素”だと言ってらっしゃいましたよね? 本当はその要素すら生まれる前のほうがいいんですが、死んだ人に歌を長く聴かせることで、その魂が救われるように……死霊魔術が彼の魂と身体に影響を与えないように、予防することが出来るんです。だから……今回のは、間に合ってないのかもしれないけど……」

「……魂に歌を届ける、か」
カレンが手元の杯を干した。
「我らには出来ぬ仕事だな」
スカイアーが笑ってその杯に酒を注いだ。

そして俺たちは再び戦利品の仕分けを始めた。
 
黒い遺品
カレン [ 2006/06/10 6:00:12 ]
 ラウヒェンの墓所の埋葬品のほとんどは書物と宝石の類だった。
書物は、年を経てボロボロになったものに混ざって、まったく傷んでいないものが数冊。
おそらく、それ自体に魔力が働いているのだろう。
宝石類の中には、人の頭ほどの大きさの水晶球。
これは、ラウヒェンの棺の中にあったものだ。
よく磨かれ、うっすらと光を放っている。効果のほどは知れないが、これも魔法の品だ。
仕分けをしていって、最後にテーブルの中央に一本の杖が残された。
奇妙にねじくれ、杖の先には装飾が施され、黒曜石のような石が嵌っている。

「持ってきたはいいが、あまり気持ちのいいものではないな。あの御仁と一緒にあの場所に葬ったほうがよかったかもしれん」
「確かに、そうもいえる。けど、スカイアー。滅したとはいえ、ラウヒェンの墓の中にこれを残してくれば、たぶん今後も気掛かりなことのひとつになったかもしれないじゃないか」

杖は、ラウヒェン本人が持っていたものだ。
持ち主の手の中で、酷い仕打ちを呪う死者の怨嗟のように低く唸りを発し、黒い焔を纏っていた。
全ての元凶が、ラウヒェンではなく、この杖のほうにあるのではないかと疑うほどに、その存在感は禍々しく強烈なものだった。

「使う奴がいなければ、どうってことない物なんだろうけどな。実際、シルフがヤツを黙らせた途端に、こいつは大人しくなったぜ」
「それに、ここまで持ってきたボク達には、何の影響もないですしね」
「しかし、我々に影響がなかったからといって、人の多いオランの街、しかも魔術を研究、研鑽する三角塔にこれを鑑定に出すことは、少なからず危険を孕んでいるのではないか?」

この杖を持っていくべきか、置いていくべきか。
スカイアーは墓所の中にいる時から、人の目に触れさせる危険を訴えていた。
もちろん、杖について彼が何か知っていたということはない。その効力も使用方法も。
過去、魔術師ギルドにおいて、そこに所属する者が何も問題を起こしていなかったのなら、そして、二度の墓所の探索で、あれほどの怨念が蠢く様を見ていなければ、このような懸念を抱くことはなかったに違いない。
これまでの多くの経験から、スカイアーは察したのだろう。

―――これは危険な品だ―――

人の心の中には、底知れない暗黒がある。
何か些細なきっかけで、闇の中に小さな火が灯る。
小さな光は闇を照らし、更に真っ黒な影を落とす。
影の中から立ち昇るのは、魔物の邪悪な気配。
しかし、その魔物は、まぎれもなく人間だ。

あの墓所の主が、どんなに変わり果てた姿で、欲望のままに人に仇為す存在になろうとも、ラウヒェンという一人の地方領主であったのと同じこと。

「まぁ……気持ちはわかるけど、さ。危険なものであるという前提で事情を説明して、魔術師ギルドに管理を頼むことは、もう決定しただろう? それに、あの場所は杖の安置場所には向いてない」

難しい顔をして唸るスカイアーの杯に酒を満たし、俺達が最後に訪れた崖の上の城の様子を思い返した。
辺りには、白い骨がむき出しのまま、無造作にころがり、あるいは半ば土に埋もれ、野ざらしになっていた。触れれば崩れてしまうものもあった。
分厚い城門は蝶番が外れ用をなさない。城壁も崩れ落ち、その下にはやはり白いものが砕けて散っていた。
あれは、反乱の名残だったのだ。
あの中に、おそらくラウヒェンの息子の成れの果てがある。
どんなふうに命を落としたのだろう。
剣で刺されたか、捕えられて拷問を受けたか、餓えて死んだか……。
いずれにしても、息子は反乱を起こした者達に恨みを抱いただろう。
自業自得だったとしても、だ。

「そうだな。反乱でラウヒェンの息子が命を落としたのなら、この杖を墓所に捨て置くわけにもいかぬか…」

アルは、あの場所でも鎮魂の歌を歌っていた。全ての死者たちに届けようと、場所を移しながら時間をかけて弔っていた。
それを見ながら、俺達は祈った。
二度と死者たちが起き上がることのないように、と。
 
夢に死す
スカイアー [ 2006/06/13 1:59:49 ]
  ――――――――――
<>
<> その言葉は古く、禍々しさに満ちていた。
<>
<><>"Die, maggot!"
<>"Your blood will boil!"
<>"And...I shall make my throne from your bones...!"
<>
<>
<> その体は不死属特有の発気体を纏い、
<> その髑髏と見分けの付かぬ相貌は瘴気を放ち、
<> その眼窩は瞋恚の焔を噴き上げていた。
<>
<> 元は贅の限りを尽くしたと思しき、(そして今や見る影もなくなった)襤褸に身を包み、杖に寄りかかるようにして起き上がった木乃伊こそ、ヘクター・ド・ラウヒェンに違いなかった。
<> ラウヒェンが、生前の望み通りの力を手に入れていたのかは分からない。ラスが、渾身の力で放った術が、ラウヒェンの周囲の音を奪ったことによって、一切の魔術は封じられたからだ。
<> 効いた! とラスが叫ぶのを聞くなり、我が体は一足飛びにラウヒェンに迫り、骨と皮ばかりの体に袈裟を浴びせていた。降魔の光を放つ刃は、薄紙を裂くようにラウヒェンの肉体を分断していた。
<>
<> ――――――――――
<>
<> 卓上は空き皿が積み重ねられて手の置き場所もなく、卓の下は足を動かせば空き瓶を蹴るような有様だった。
<>「皆さん、ご健啖ですね……」
<> そういうアルは、手元の野菜をまだ食べ終えてはいなかった。
<>「どんなときでも必要な分は腹に詰めておかないとな。俺たちは体が資本だから」
<> 色とりどりの宝石を品定めしながら、カレンが答えた。傍らの杯には、酒が並々と満たされている。
<>「今のうちに何でも食えるようにしておくことだ。そうでないと、三十路を過ぎてから苦労するぞ」
<> ベカスが食後の果物を咀嚼しつつ、付け加えた(最初に出された分は既に食べ終え、さらに頼んだ分である)
<>「じゃあ、俺も気をつけなくちゃな。三十路が近いし」
<>「措け、ラス。おぬしが年を語るか。肉もよく食ろうていたではないか」
<> ラスの軽口にベカスが身を揺すって笑い、カレンが深く頷く。アルも静かに笑みを浮かべた。
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<> ――――――――――
<>
<><>"You,Ruffian!"
<>"I will sacrifice your soul to my master."
<>
<>
<> ラウヒェンの肉体が真の躯と化した瞬間、上階から滑り降りる、鋭い剣気があった。
<> 咄嗟に反応したカレンとベカスが掌を突き出した。ラスか、アルか、ともかくラウヒェンに対して後衛の位置にいた二人へ踊りかかろうとした、深紅の発気体を纏う濃密な化生は、「神の拳」とも呼ばれる気弾に打ち据えられ、おぞましい悲鳴をあげた。さらに、ラスの呼び出した光霊が勢いもすさまじく打ち当たり、電撃でそれを焼き尽くした。
<>「驚いたな。今のは、ラウヒェンが呼んだのか、それとも……」
<>「自ら冥府の縁から飛び出してきたか。敵ながら見事であった」
<>「もしかして、あれはラウヒェンの側近だったヴァルテル・グアッツォの……?」
<>「多分な。主に忠義立てして自らも化け物となった、ってところか」
<> ことがことじゃなけりゃ、これも美談なんだろうけどな。
<> ラスはそういって、こちらに肩を竦めて見せた。
<>
<> ――――――――――
<>
<> アルが、手にしたラウヒェンの杖を、隅から隅まで眺め回している。
<>「『来たれ、英雄よ。その者のみが我が生涯の宝たる黒き宝石を手に出来るであろう』……」
<>「それが生涯の宝であるところの、黒き宝石だろうな」
<> ラスが指差す杖の先端には、黒光りする石が嵌めこまれている。
<>「どの道、オランに戻ったら三角塔行きの代物だ。今のうちにじっくり見ておくといいさ」
<>「ええ。でも、本当に危なくはないんでしょうか。これにも禍々しい力が働いていたりは……」
<>「俺とベカスが見た限りじゃ、邪神の力は感じられないよ。チャ・ザの秤に誓って」
<>「神官二人のお見立てがあるんだから、とりあえずは大丈夫だろうさ。だが、肌身離さず持ち歩いてたりしたら、どうなるかわからんぜ」
<>「ボクはそんなことしませんよ。道中はベカスさんが持っててください。武神に仕える方なら、怖くないですよね」
<>「ほう。このわしに杖を突いて老人の真似をせよとな」
<> 再び、卓が笑いに湧く。
<> 私は黙って己の杯に酒を満たした。
<>
<> ――――――――――
<>
<> 辺り一面が、渺渺たる無明の荒野であった。
<> 草木の一片もなく、空気はどことなく淀んでいる。
<> 遮るものもない地平を、風が轟々と吹いている。
<> その風に乗って、伝わる気配があった。
<> それは、追う者と、追われる者の、すなわち狩人と獣の気配であった。
<>
<> 追う者は、あまりに巨大な猟犬だった。
<> いや、それは犬と呼ぶには奇怪な生き物だった。しなやかな四肢と、その唸り声が犬を連想させたに過ぎない。その口元から垂れる舌は太く曲がりくねり、鋭く伸びた針のようであり、毛の一切ない黝い体からは、泡立つ脳漿のようなものを滴らせていた。
<> それは、ときに走り、ときに緩やかに歩み、獲物との距離を保っていた。
<>
<> 追われる者は、醜く太った男だった。
<> 贅の限りを尽くした衣服は汚れ、靴はどこかで脱げたのか、素足は泥にまみれていた。
<> そして、その顔は、元々は倣岸と不遜で塗り固められていたであろう、その悪相は、恐怖にひきつり、脅かされていた。いかなる尊厳も見出されない。
<> こけつまろびつ、背後に迫る猟犬から逃れようと、男は走っていた。
<>
<> やがて、足がもつれて、男は倒れ付した。もはや足が動かないのか、男は立ち上がらない。
<> それでもなお、這ったまま先へ進もうとする。
<> 猟犬が跳躍し、男の眼前へ回り込んだ。
<> 不条理な歪みで形作られた顔を男に近づけ、猟犬は人のように嘲り笑う声をあげた。
<> まるで数百人、数千人が、一斉に囃し立てたように、猟犬の笑い声は響き渡り、荒野の風を押しのけた。
<> 四つん這いのまま、男が猟犬を見上げる。男の顔は、ほとんど物狂いに冒されていた。
<> 「猟犬」の舌が、男の背を突いた。舌は男の背から胸へ突き抜け、地面へ刺さった。
<> 標本にされた虫のように、男は地面に縫い付けられた。
<> 苦痛からいささかの正気を取り戻した男が悲鳴をあげる。許しを請う。
<> だが、男の懇願の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
<>
<> 男が、生きながらに食らわれる様を、「私たち」は余さず見届けた。
<>
<> ――――――――――
<>
<> 朝。階下の食堂で顔を合わせた私たちは、お互いの表情から、すべてを察した。
<>「……昨夜さ、見た?」
<> 私たちの顔を順に見てから、そういったラスに、私たちは同時に頷いた。
<>「ひどい夢でしたね……」
<> アルの顔は、病をえたかのように青白い。
<>「今朝は食欲がないよ」
<> カレンが力なく水を煽る。
<>「あれの意味するところは……やはり、そうなのか」
<> ベカスが誰にともなく、問いかける。
<>「具体的に頼む」
<> ラスが、不機嫌そうに椅子にもたれかかる。
<>「ああ、気分が……」
<> アルが卓の肘を突き、額に掌を押し当てて目を閉じる。
<>「追われていた男がラウヒェンで、追う獣が……ラウヒェンと、その息子に殺された者たちの化身、かな」
<> カレンは、水差しから二杯目の水を煽っている。
<>
<>「アルの歌でも、鎮めようがなかったってことなのか」
<>「そういう風には考えたくないですね……」
<>「それだけ、恨みが深かったのかもしれないな」
<>「うむ……ラウヒェンを食らいつくさねば、死者たちの魂は慰められなかったのであろう」
<>「……それとさ。もう一つあるんだよ」
<>「え?」
<>「なんですか?」
<>「むぅ」
<>
<>「起きたら、これが外れて床に転がっててさ……」
<> ラスが、懐から取り出したのは、あの杖に嵌めこまれた黒い石だった。
<> 石の中心は、堅い錐で貫いたような穴が空いており、深い罅割れで今にも砕けそうな有様だった。
 
終了
イベンター [ 2006/06/13 2:06:14 ]
 これにて、当イベントは終了いたします。
みなさまお疲れ様でしたー。

メインの黒い宝石は完全な形で入手できなかったようですが、
その他の副葬品や書籍の類で、懐は少々潤うと思います。
みなさん、どうぞぱーっと使ってください(笑)

今回の冒険を経て、それぞれが何を感じたか、それは各自の宿帳に続きを書くもよし、キャラチャで表現するもよし。さらりと流してもよし。
自由です。

おつき合いありがとうございました。