| 戒めと糧 |
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| ミキアス [ 2006/09/26 2:21:04 ] |
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| | 日記を書くようになったのは、司祭様の言葉がきっかけだった。
「過去の過ちを繰り返さぬように。そしてそれを糧に、次なる戦いに立ち向かえるように。過去を記しておくのも悪くはないのですよ」
ならば、僕も書いてみようと思った。毎日ではないけれど、印象に残った事や、書いておこうと思った出来事を。
これが、僕の生という戦いにおける戒めになるように。そして糧となるように。 |
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| 温もりの一言 |
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| ミキアス [ 2006/09/26 2:23:43 ] |
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| | 4年ぶりの故郷、それは当然のように懐かしさを思い起こさせた。それと同時に、寂しさと新鮮さを。
4年前、司祭様に同行をしてオランを発ち、エレミアへと赴いた。そして今年、初夏に差し掛かる頃にオランへと帰還する事が決まり、僕と司祭様は再びオランに帰ってきた。 エレミアを発つ時、馬車の中からエレミアの街並みを振り返り眺めた。その時は4年という時間は意外にも早く流れた、短いものだったと感じたけれど……でも、それは確かに長い時間だったのだ。
昔借りていた宿には、知っている顔をほとんど見かけなくなっていた。訓練場の顔ぶれも、ずいぶんと変わっていた。 神殿内はさすがに、覚えてくれている人達の方が多かったが……それでも、僕を知っている人が、僕が知っている人が、少なくなっていたのは確かで。
それが懐かしさと同時に新鮮で、そして少しだけ、寂しかった。
常連とは言えないまでも、時折足を運んでいたあの木造建築の店でカレンさんと再会したのは、オランに戻って来てから3日ほど経った日の事。 相棒のラスさんもカレンさんも宿を引き払ったと聞いていたので、てっきり相棒のラスさんと共に違う街へと渡ったたのだと思っていた、だから思わず「こんな所で会えるとは思わなかった」と言葉を発したら、こっちの台詞だと言われてしまった。
そしてふと思い返す、確かに知っている人は減ったが、忘れ去られていた訳ではなかった事を。
定宿の亭主が、僕の顔を見て「おかえり」と言ってくれた。神殿で親しくしていた年の近い神官の友達が「おかえり」と駆け寄ってきてくれた。訓練場でまた一段と腕を上げた、よく手合わせをしていた青年が「お帰り」と背中を叩いてくれた。 神殿へと向かう道、偶然再会したリィン君も「おかえりなさい」と笑ってくれて。
そして、カレンさんも「おかえり」と右手を差し出してくれた。
その手をとりながら、皆が……そしてカレンさんが僕を覚えていてくれたのが、そして「おかえり」と言ってくれたのが、くすぐったくて……でも、嬉しかった。 あぁ、帰ってきたのだと、帰って来れて良かったと。
そして、この言葉を聴くために、そしてこの言葉を与えてくれる者たちを守る為に、また戦いへ出られる勇気が沸くのだろうと。
4年を過ぎた故郷は、懐かしさと新鮮さ、少しの寂しさと、沢山の温もりで迎えてくれた。 僕はまた明日も、この生という戦いに立ち向かえるだろう。 |
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| リベンジ |
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| ミキアス [ 2006/09/28 0:09:26 ] |
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さて、僕の記憶が確かならば”リベンジ”とは西方の言葉で”復讐”を意味する。 復讐……つまり、酷い仕打ちをした相手に対し、やり返すことを意味する言葉だ。故に、今回の件に対しては本来、この言葉は当てはまらない。
だが、僕の目の前をリィン君は「リベンジですっ」と言いながら、握りこぶしで歩いている。 リィン君は張り切っているが、別にそこまでの事じゃない。単に……そう、単に間が悪かっただけの話なのだが。
オランに戻って来て次の日、偶然会ったリィン君と、お互いに少しなら時間があるからと彼女のお勧めの店に入った。タルトが美味しいと言うので、二人でタルトと紅茶を注文たまでは良かった。 だがその……出てきたタルトは、色も生っぽく、歯ごたえも生っぽく……つまり、完全に生焼けだった。
原因は何のことはない、店主が食べ物に当たって腹痛中で、ウェイトレスとして店は手伝っているものの、その辺にはほとんど触った事のない娘がまだ早い時点でオーブンからあげてしまったというだけの事。 しかしどうにも、リィン君としてはタイミングが悪すぎると落ち込んでしまった。
「折角の再会だったのに、久々の一緒のお茶の時間だったのに、これは酷いのです!」
という訳で、今度改めてお互いの時間が空いた時にこの店へと来る事にした。
僕としては来月まで忙しい事を覚悟していたのだが、今日はたまたま昼過ぎには用事も仕事も終え、ならばとリィン君の宿に赴いた。 急な訪問だったのでいないかも知れないと思っていたが、リィン君は丁度帰ってきたところで、今日はこの後は何も用事がないという。それならと、約束を果たしにこの前の店へと向かった。
「やっぱり、おじさんのタルトは美味しいです。来てよかったですね〜」
出てきた洋梨のタルトはこの前の物とは比べるまでもない出来栄え。
「折角のお帰りなさいのお祝いなんですから、やっぱり美味しい物でしないと、嘘です」
にっこり笑うリィン君に、思わず僕も頷く。彼女が僕の帰還を喜んで、祝いのお茶をといって此処に連れて来てくれた気持がわかるぐらいに、それは美味しかったから。 リベンジとは違うけど、やり直しをしたのは良かった……。
「ところでおじさん、あの時は腹痛で大変だったと伺いました。これ、ささやかなものだけど、お見舞いです」
いきなり立ち上がり、店主にそう言ってリィン君が差し出したものは紙包。
「頑張って作ったんです。あまり上手じゃないかもしれませんけど」
中に入っていたのは、程よく焦げたクッキーが10枚ほど。
……………あぁ、リベンジ……その言葉は間違ってなかったかもしれない。 そんなことを、何の邪気もない笑顔のリィン君と、引きつった店主の顔を見ながら考えて、僕は紅茶をすすった。 |
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